(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002633
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】原料液濃縮方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20231228BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20231228BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20231228BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20231228BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20231228BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20231228BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20231228BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20231228BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B01D61/00
B01D69/08
B01D69/12
B01D71/26
B01D71/32
B01D71/36
B01D71/68
B01D61/36
B01D63/02
B01D61/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101958
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】河合 理恵
(72)【発明者】
【氏名】藤田 充
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA27
4D006HA01
4D006KA01
4D006KA63
4D006KA67
4D006KA72
4D006KB30
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB10
4D006MB16
4D006MB20
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC30
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA03
4D006PB14
4D006PB59
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】凍結乾燥法を用いる原料液の濃縮方法において、原料液を凍結乾燥に適した溶媒組成に制御しながら高い濃縮倍率で予備濃縮することによって、凍結乾燥工程における凍結乾燥時間を短縮し、かつ、有効成分を高い回収率で得るための、原料液濃縮方法を提供すること。
【解決手段】溶質及び溶媒を含有する原料液から前記溶媒を除去して、前記原料液の濃縮物を得る、原料液濃縮方法であって、前記溶媒が水及び有機溶媒を含有し、前記濃縮方法が正浸透法によって前記原料液中の前記溶媒を除去する、第一の処理、及び膜蒸留法によって前記原料液中の溶媒を除去する第二の処理を組み合わせて行って、前記原料液の予備濃縮液を得る、第一の工程と、凍結乾燥によって前記予備濃縮液から前記溶媒を更に除去して、生成物を得る、第二の工程とを含む、原料液濃縮方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質及び溶媒を含有する原料液から前記溶媒を除去して、前記原料液の濃縮物を得る、原料液濃縮方法であって、
前記溶媒が水及び有機溶媒を含有し、
前記濃縮方法が
正浸透法によって前記原料液中の前記溶媒を除去する、第一の処理、及び膜蒸留法によって前記原料液中の溶媒を除去する第二の処理を組み合わせて行って、前記原料液の予備濃縮液を得る、第一の工程と、
凍結乾燥によって前記予備濃縮液から前記溶媒を更に除去して、生成物を得る、第二の工程と
を含む、原料液濃縮方法。
【請求項2】
前記第二の処理が、前記原料液及び冷却水を、疎水性多孔質膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、前記疎水性多孔質膜を通過させて前記冷却水中に移動させることにより、前記原料液中の前記溶媒を除く処理である、請求項1に記載の原料液濃縮方法。
【請求項3】
前記第二の処理に用いる疎水性多孔質膜が、中空糸状疎水性多孔質膜であり、
前記中空糸状疎水性多孔質膜は、複数の前記中空糸状疎水性多孔質膜によって構成される中空糸糸束を有する膜モジュールの形態で使用される、
請求項2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項4】
前記中空糸状疎水性多孔質膜の少なくとも一部に疎水性ポリマーが付着している、請求項3に記載の原料液濃縮方法。
【請求項5】
前記疎水性ポリマーが、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、及びフルオロシリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の側鎖を有するポリマーである、請求項4に記載の原料液濃縮方法。
【請求項6】
前記疎水性多孔質膜を構成する材料が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンから成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【請求項7】
前記第一の工程において、前記第一の処理と前記第二の処理とを並列に行い、各処理後の原料液を混合することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【請求項8】
前記第一の工程において、前記第一の処理を行った後に、前記第二の処理を行うことを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【請求項9】
前記第一の工程において、前記第二の処理を行った後に、前記第一の処理を行うことを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【請求項10】
前記原料液の前記溶媒が、水と、アセトニトリル及びイソプロパノールからなる群から選ばれる1種又は2種とを含有する混合溶媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【請求項11】
前記原料液の前記溶質が、医薬品原料であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原料液濃縮システムに関する。詳しくは、正浸透法及び膜蒸留法により原料液の組成を制御しながら溶媒の一部を分離して原料液を濃縮する第一の工程を行った後に、凍結乾燥法によって更に原料液を濃縮する第二の工程を行う、原料液濃縮方法に関する。
第一の工程において、原料液中の成分の変質、減少等を抑え、かつ凍結乾燥に適した溶媒組成に制御しながら濃縮した後に、第二の工程を行うことによって、原料液中の有効成分(溶質)を高い回収率で得ることができ、更に第二の工程における凍結乾燥時間を短縮することが可能な、原料液濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途において、原料液中に存在する特定の成分(溶質)を濃縮することが必要となる場合が多い。
代表的な濃縮方法として、減圧蒸留法、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)法、正浸透(FO:Forward Osmosis)法、膜蒸留法(MD:Membren Distillation)法、凍結乾燥法等が知られている。
【0003】
減圧蒸留法では、原料液を減圧して溶媒を除去する。しかし、減圧蒸留法によると、原料液を50℃程度に加熱することが必要であるため、原料液中の有効成分の品質が変化する等の不具合が懸念される。
RO法は、溶媒を分子レベルで透過させる膜を用いる方法である。RO法は、原料液を、所定の高い圧力に昇圧したうえで、逆浸透(RO)膜モジュールに供給し、RO膜を透過させて、原料液中の溶媒(典型的には水)を除去することにより、原料液を濃縮する方法である。しかし、このRO法は,原料液を加圧することが必要なため、高分子量体等を多く含有する原料液に適用すると、RO膜の目詰まりが発生し易い。そのためRO法は、例えば、医薬品、食品、飲料等の原料液への適用には不適切な場合がある。また、RO法では、濃縮された原料液における溶媒(ろ過された溶媒)の浸透圧が、加圧に用いる高圧ポンプの圧力を超えることはない。そのため、RO法による原料液の濃縮率には、ポンプの能力に応じた限界がある。
【0004】
FO法は、浸透圧差を駆動力として、原料液から溶媒を分離して濃縮する技術である。FO法では、原料液と、原料液よりも浸透圧の高い誘導溶液とを、正浸透(FO)膜を介して接触させることにより、原料液から誘導溶液へと溶媒を拡散させて、原料液を濃縮する方法である。FO法は、加温及び加圧を必要としないため、高分子量体等を多く含有する原料液であっても、長時間にわたって所望の濃縮効果を持続できると期待される。
【0005】
MD法は、蒸気圧差を駆動力として、原料液から溶媒を分離して濃縮する技術である。MD法では、疎水性の膜の面で蒸発した原料液中の溶媒の蒸気が、膜内を拡散・透過し、もう一方の膜表面で凝縮することにより、原料液から溶媒を分離して濃縮する技術である。MD法としては、例えば、原料液と、原料液よりも温度の低い冷却水とを膜を介して接触させ、原料液から冷却水へ原料液中の溶媒蒸気が移動することにより、原料液が濃縮されるDCMD法(Direct Contact MD)がよく知られている。
MD法は、FO法同様、加温及び加圧を必要としないため、高分子量体等を多く含有する原料液であっても、長時間にわたって所望の濃縮効果を持続できると期待される。
【0006】
凍結乾燥法は、原料液を凍結させた後に、原料液中の溶媒を昇華させることにより、原料液から溶媒を分離して濃縮する技術である。凍結乾燥法は、細胞や組織、タンパク質等に損傷を与えずに水分を除去することができるため、医薬品等の製造工程でも用いられている。一方で、凍結乾燥法は、実施コストが高い、乾燥時間が長い,エネルギー効率が低いなどの欠点がある。
凍結乾燥法には、高真空とするための真空ポンプ、昇華のための熱源、原料液から発生する溶媒蒸気を液体又は固体として回収するための冷却ユニット等が必要であり、そのエネルギーコストは大きい。また、事前に原料液を完全に凍結させなければならず、未凍結部分が存在する場合、コラプス(凍結不足が原因で発生する蒸発乾燥による発泡収縮現象)が発生し、製品として使用できなくなる場合がある。
【0007】
原料液の乾燥を凍結乾燥法による場合、凍結体の容量、厚み等が増すと凍結乾燥時間は著しく増加する。また、原料液中に残存する有機溶媒の割合が高くなるほど、凍結温度は低くなり、凍結時間も長くなる。一方で、原料液中の有機溶媒をすべて除去すると、溶質が析出して濃縮ができなくなる場合がある。
このような事情を踏まえて、原料液の濃縮に凍結乾燥法を適用するには、凍結乾燥に供する前の原料液を、凍結乾燥に適した組成で、可能な限り濃縮しておくことが求められている。
【0008】
医薬品の製造工程では、製造プロセスで水分を多く含む中間生成物を経るため、最終製品を得るには、原料液の濃縮乾燥が必要である。
この点、非特許文献1には、ほとんどのバイオ医薬品は水分を多く含む中間生成物を経るため、最終製品の取り扱い易さ、運送コスト低減,保存安定性向上等の観点から、医薬品の生産工程における乾燥としては、凍結乾燥法が主に実施されていることが開示されている。一方で、凍結乾燥法の欠点として、実施コストが高い、乾燥時間が長い,エネルギー効率が低いことなどが挙げられている。
【0009】
このような凍結乾燥工程の乾燥時間を短縮するために、特許文献1には、凍結乾燥に先立って、RO法による予備濃縮を行うことが提案されている。また、特許文献2には、凍結乾燥前に先だって、FO法による予備濃縮を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2020/158456号
【特許文献2】国際公開第2020/241795号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Japan Journal of Food Engineering,Vol.19, No1, pp15~24, March,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載されたRO法は、原料液の加熱が必須ではないため、熱による有効成分の変質が少ない利点がある。しかしながら、RO法は、原料液の加圧を要するため、原料液中に圧力に敏感な物質が含まれる場合には、それらが変質する可能性がある。また、RO法の濃縮率には、ポンプの加圧能力による限界があるため、凍結乾燥前の原料液をさほど濃縮できない場合がある。
そのため、RO法は、凍結乾燥法に先立って行う予備濃縮法としては、適切ではない場合がある。
【0013】
特許文献2に記載されたFO法は、原料液を濃縮する際に、溶媒組成の制御ができない。そのため、FO法により得られた予備濃縮液中の有機溶媒の割合が多い場合、凍結乾燥に時間がかかる、又は、予備濃縮液が十分に凍結せず、コラプスが発生し、製品として使用できなくなる場合がある。
また、FO法は、誘導溶液中の誘導物質が原料液側に移動する逆拡散が起こり得るため、原料濃縮液中に誘導溶液中の溶質が混入する場合がある。この場合、予備乾燥物の凍結乾燥時間が長くなる、又は生成物中に凍結乾燥では除去できない成分が残存し、有効成分の回収率が低下する場合がある。
そのため、FO法は、凍結乾燥法に先立って行う予備濃縮法としては、適切ではない場合がある。
【0014】
以上のように、凍結乾燥に先立って行われる原料液の予備濃縮方法は、原料液中の有効成分の変質、変形、及び流出を可能な限り抑えつつ、凍結乾燥に適した溶媒組成に制御しながら、高い濃縮倍率で濃縮物を得る濃縮方法が求められている。そのような特徴を有する凍結乾燥に先立って行う予備乾燥方法と、凍結乾燥法とを組み合わせて原料液を濃縮するための効果的な方法は、未だ確立されていない。
したがって本発明の目的は、凍結乾燥法を用いる原料液の濃縮方法において、原料液を凍結乾燥に適した溶媒組成に制御しながら高い濃縮倍率で予備濃縮することによって、凍結乾燥工程における凍結乾燥時間を短縮し、かつ、有効成分を高い回収率で得るための、原料液濃縮方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下のとおりである。
《態様1》溶質及び溶媒を含有する原料液から前記溶媒を除去して、前記原料液の濃縮物を得る、原料液濃縮方法であって、
前記溶媒が水及び有機溶媒を含有し、
前記濃縮方法が
正浸透法によって前記原料液中の前記溶媒を除去する、第一の処理、及び膜蒸留法によって前記原料液中の溶媒を除去する第二の処理を組み合わせて行って、前記原料液の予備濃縮液を得る、第一の工程と、
凍結乾燥によって前記予備濃縮液から前記溶媒を更に除去して、生成物を得る、第二の工程と
を含む、原料液濃縮方法。
《態様2》前記第二の処理が、前記原料液及び冷却水を、疎水性多孔質膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、前記疎水性多孔質膜を通過させて前記冷却水中に移動させることにより、前記原料液中の前記溶媒を除く処理である、態様1に記載の原料液濃縮方法。
《態様3》前記第二の処理に用いる疎水性多孔質膜が、中空糸状疎水性多孔質膜であり、
前記中空糸状疎水性多孔質膜は、複数の前記中空糸状疎水性多孔質膜によって構成される中空糸糸束を有する膜モジュールの形態で使用される、
態様2に記載の原料液濃縮方法。
《態様4》前記中空糸状疎水性多孔質膜の少なくとも一部に疎水性ポリマーが付着している、態様3に記載の原料液濃縮方法。
《態様5》前記疎水性ポリマーが、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、及びフルオロシリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の側鎖を有するポリマーである、態様4に記載の原料液濃縮方法。
《態様6》前記疎水性多孔質膜を構成する材料が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンから成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、態様2~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
《態様7》前記第一の工程において、前記第一の処理と前記第二の処理とを並列に行い、各処理後の原料液を混合することを含む、態様1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
《態様8》前記第一の工程において、前記第一の処理を行った後に、前記第二の処理を行うことを含む、態様1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
《態様9》前記第一の工程において、前記第二の処理を行った後に、前記第一の処理を行うことを含む、態様1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
《態様10》前記原料液の前記溶媒が、水と、アセトニトリル及びイソプロパノールからなる群から選ばれる1種又は2種とを含有する混合溶媒である、態様1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
《態様11》前記原料液の前記溶質が、医薬品原料であることを特徴とする、態様1~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の原料液濃縮システムでは、正浸透法及び膜蒸留法を組み合わせた第一の工程により、原料液の溶媒組成を、凍結乾燥に適した組成に制御しながら高い濃縮倍率で濃縮することができる。そのため、第二の工程の凍結乾燥における、凍結乾燥時間を短縮しながら、高品位の製品を得ることができる。
本発明は、例えば、医薬品原料の濃縮、化学種合成の前駆体溶液の処理、経口液体(液状食品、飲料等)の濃縮、ガス田(シェールガス田を含む)・油田から排出される随伴水の処理、等の用途に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の原料液濃縮方法の実施態様の一例を説明するための概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の原料液濃縮方法の実施態様の別の一例を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、実施例1~4で実施した原料液濃縮方法における、第一の工程の構成の概要を説明するための概念図である。
【
図4】
図4は、比較例1及び2で実施した原料液濃縮方法における、第一の工程の構成の概要を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を、非限定的な例として具体的に詳細に説明する。
【0019】
<原料液濃縮方法>
本発明の原料液濃縮方法は、
溶媒及び溶質を含有する原料液から前記溶媒を除去して、前記原料液の濃縮物を得る、原料液濃縮方法であって、
前記溶媒が水及び有機溶媒を含有し、
前記濃縮方法が、
正浸透法によって前記原料液中の前記溶媒を第一の処理、及び膜蒸留法によって前記原料液中の溶媒を除去する第二の処理を組み合わせて行って、前記原料液の予備濃縮液を得る、第一の工程と、
凍結乾燥によって前記予備濃縮液から前記溶媒を更に除去して、生成物を得る、第二の工程と
を含む、
原料液濃縮方法である。
【0020】
第一の工程において、第1の処理及び第2の処理を行う順番は任意である。例えば、
第1の処理を行った後に、第2の処理を行ってもよいし;
第2の処理を行った後に、第1の処理を行ってもよいし;
第1処理及び第2の処理を同時に行ってもよい。
第1の処理及び第2の処理を同時に行うとは、例えば、第1の処理と第2の処理とを並列に行って、各処理後の原料液を混合する場合をいう。
【0021】
第1の処理及び第2の処理は、循環的に行うことが好ましい。例えば、
原料液を原料液タンク中に貯留し、原料液タンク中の原料液の一部を取り出して、第1の処理及び第2の処理に、この順に供し、第1の処理及び第2の処理後の原料液を、原料液タンクに戻す操作を繰り返すこと;
原料液を原料液タンク中に貯留し、原料液タンク中の原料液の一部を取り出して、第2の処理及び第1の処理に、この順に供し、第2の処理及び第1の処理後の原料液を、原料液タンクに戻す操作を繰り返すこと;
原料液を原料液タンク中に貯留し、
原料液タンク中の原料液の一部を取り出して、第1の処理に供し、第1の処理後の原料液を、原料液タンクに戻す操作を繰り返すこと、及び
原料液タンク中の原料液の一部を取り出して、第2の処理に供し、第2の処理後の原料液を、原料液タンクに戻す操作を繰り返すこと
を並列に(同時に)行う操作を繰り返すこと;
等の方法が好ましい。
【0022】
本発明の原料液濃縮方法の概要について、必要に応じて
図1を参照しつつ、以下に説明する。
【0023】
図1に、本発明の原料液濃縮方法の実施態様の一例を説明するための概念図を示す。
本発明の原料液濃縮方法の第一の工程は、正浸透法による第一の処理、及び膜蒸留法による第二の処理が組み合わせて行われる。
第一の処理では、原料液(a)と、誘導溶液(d)とを、正浸透膜(o)を介して接触させ、原料液中の溶媒を誘導溶液に移動させることによって、原料液の濃縮を行うとともに、誘導溶液(d)が希釈され、予備濃縮液及び希釈誘導溶液を得る。
図1の原料液濃縮システムの第一の工程における第一の処理では、正浸透プロセスを行う正浸透膜ユニット(200)を用いている。この正浸透膜ユニット(200)の内部空間は、正浸透膜(o)によって、原料液側空間(R)及び誘導溶液側空間(D)の2つに分割されている。原料液タンク(100)に収納した原料液(a)を、正浸透膜ユニット(200)の原料液側空間(R)に導入する。一方、誘導溶液タンク(400)に収納した誘導溶液(d)を、正浸透膜ユニット(200)の誘導溶液側空間(D)に導入する。
【0024】
原料液(a)は、溶質及び溶媒を含有する。誘導溶液(d)は、誘導物質及び溶媒を含有する。誘導溶液(d)の浸透圧は原料液(a)よりも高くなるように設定されている。
そして、原料液(a)と、誘導溶液(d)とが、正浸透膜(o)を介して接触すると、両液間の浸透圧差を駆動力として、原料液(a)中の溶媒が、正浸透膜(o)を通過して誘導溶液(d)側に移動する。
本発明では、原料液(a)の溶媒は、水及び有機溶媒を含有している。この場合、原料液(a)中の溶媒のうち、水及び有機溶媒双方が正浸透膜(o)を通過して誘導溶液(d)側に移動する。このとき、正浸透膜(o)を通過して誘導溶液(d)側に移動する水と有機溶媒との割合は、原料液(a)及び誘導溶液(d)に含まれる有機溶媒の割合に依存する。
以上のことにより、原料液(a)から、溶媒のうちの、水、及び一定割合の有機溶媒が除去されて、濃縮された原料液である予備濃縮液(c)と、希釈された誘導溶液である希釈誘導溶液(e)とが得られる。
図1の方法では、予備濃縮液(c)は原料液タンク(100)に戻され、希釈誘導溶液(e)は誘導溶液タンク(400)に戻され、それぞれ循環利用される。
【0025】
第一の処理において、原料液(a)と誘導溶液(d)とを流す向きは特に限定されず、向流でも並流でもよい。
第一の処理における正浸透処理は、全量ろ過方式によってもクロスフローろ過方式によってもよい。第一の処理における正浸透処理は、クロスフローろ過方式によることが、ろ過流速及び膜汚染抑制の観点から好ましい。
【0026】
第二の濃縮処理では、原料液(a)と、冷却水(f)とを、疎水性多孔質膜(p)を介して接触させ、原料液中の溶媒を冷却水(f)側に移動させることによって、原料液の濃縮を行うとともに、疎水性多孔質膜(p)を介して冷却水(f)側に移動した溶媒が冷却水(f)によって希釈され、予備濃縮液及び希釈溶媒液を得る。
【0027】
図1の原料液濃縮方法の第一の工程において、第二の処理では、膜蒸留プロセスを行う膜蒸留用膜ユニット(300)を用いる。この膜蒸留用膜ユニット(300)の内部空間は、疎水性多孔質膜(p)によって、原料液側空間(R)及び冷却水側空間(F)の2つに分割されている。原料液タンク(100)に収納した原料液(a)を、膜蒸留用膜ユニット(300)の原料液側空間(R)に導入する。一方、冷却水タンク(500)に収納された冷却水(f)を、膜蒸留用膜ユニット(300)の冷却水側空間(F)に導入する。
原料液(a)は、溶質及び溶媒(b)を含有する。冷却水(f)は、冷却水及び溶媒(b)を含有する。溶媒(b)の割合は、冷却水(f)に対して0~50wt%である。
【0028】
そして、原料液(a)と、冷却水(f)とが、疎水性多孔質膜(p)を介して接触すると、両液間の蒸気圧差を駆動力として、原料液(a)中の溶媒が、疎水性多孔質膜(p)を通過して冷却水(f)側に移動する。
本発明では、原料液(a)の溶媒は、水及び有機溶媒を含有している。この場合、原料液(a)中の溶媒のうち、主として有機溶媒が疎水性多孔質膜(p)を通過して冷却水(f)側に移動する。一方、有機溶剤に比べて蒸気圧が低い水が冷却水(f)側に移動する割合は、有機溶媒よりも少ない。このとき、疎水性多孔質膜(p)を通過して冷却水(f)側に移動する水と有機溶媒との割合は、原料液(a)、冷却水間の、水及び有機溶媒それぞれの蒸気圧差によって定まる。
以上のことにより、原料液(a)から、溶媒のうちの、有機溶媒、及び少量の水が除去されて、濃縮された原料液である予備濃縮液(c)と、希釈された溶媒を含有する水溶液(g)とが得られる。また、冷却水(f)中の溶媒(b)の割合を適切に設定して、原料液(a)、冷却水(f)間の蒸気圧差を調節することにより、濃縮後の原料液(a)の溶媒濃度を制御することが可能となる。
図1の方法では、予備濃縮液(c)は原料液タンク(100)に戻され、水溶液(g)は冷却水タンク(500)に戻され、それぞれ循環利用される。
第二の処理において、原料液(a)と冷却水(f)との流す向きは、特に限定されず、向流でも並流でもよい。
【0029】
図1の例では、第一の工程において、上記の第一の処理及び第二の処理を、並列に実施することにより、原料液(a)の濃縮を行い、予備濃縮液(c)を得る。
第二の工程では、凍結乾燥ユニット(600)において、上記第一の工程で得られた予備濃縮液(c)を凍結乾燥法によって更に濃縮し、水分量が好ましくは3質量%以下にまで減少された生成物(h)を得る。
凍結乾燥は、典型的には、凍結乾燥ユニット(600)のチャンバー内における以下の3つの段階を含む:
(A)凍結段階;
(B)一次乾燥段階;及び
(C)二次乾燥段階。
段階(A)は、第一の工程によって得られた予備濃縮液中の溶媒を凍結する段階である。段階(B)においては、チャンバー圧力を低下させ(例えば、13.3Pa以下まで低下させ)、凍結物に熱を加えて、溶媒を昇華させる。段階(C)において、温度を増加させて、結晶水等の結合溶媒も含めた水分を取り除き、予備濃縮液中の残留溶媒含有量が所望のレベルに下がるまで乾燥する。
以上のようにして、予備濃縮液(c)が更に濃縮された、生成物(h)を得る。ここで、脱溶媒を促進する方法として、前記チャンバー圧力の低下以外の方法として、チャンバー内に乾燥された気体を流入させる方法を用いてもよい。
【0030】
第一の工程と第二の工程との間に、凍結乾燥法の前段階を行う工程が存在してもよい。
凍結乾燥法の前段階工程としては、例えば、予備凍結工程、殺菌工程等が挙げられる。
第一の工程と第二の工程とは、時間間隔を置かずに連続して行ってもよいし、所定の時間間隔を開けて行ってもよい。例えば、第一の工程で得られた予備濃縮液を一時的に貯蔵し、所定の時間が経過した後に第二の工程を行ってもよい。しかしながら、第一の工程と第二の工程とを連結させ、時間間隔を置かずに連続して濃縮を行うことが、時間的な効率の点でより好ましい。
【0031】
第一の工程と第二の工程の間に、第一の工程で得られた予備濃縮液が所定の溶媒組成で濃縮されていることを確認するための溶媒組成分析工程が含まれていてもよい。溶媒組成分析工程における測定は、第一の工程を行う装置内で行ってもよいし、第一の工程の後に予備濃縮液の一部を抜き取って行ってもよい。
【0032】
図2に、本発明の原料液濃縮方法の実施態様の別の一例を説明するための概略図を示した。
図2の原料液濃縮方法は、第一の工程において、正浸透膜ユニット(200)により第一の処理を行うこと、膜蒸留用膜ユニット(300)を用いて第2の処理を行うこと、及び第二の工程において凍結乾燥ユニット(600)を用いて凍結乾燥を行うことは、
図1の原料液濃縮方法と同様である。なお、
図2では、原料液タンク、誘導溶液タンク、及び冷却水タンクの記載は省略されている。
図1の原料液濃縮方法では、第一の工程において、第一の処理の正浸透膜ユニット(200)から得られた予備濃縮液(c)、及び第二の処理の膜蒸留用膜ユニット(300)から得られた予備濃縮液(c)は、原料液タンクに戻され、循環使用されたうえで、第二工程の凍結乾燥ユニット(600)に供される。
しかしながら、
図2の原料液濃縮方法では、第一の処理の正浸透膜ユニット(200)から得られた予備濃縮液(c)、及び第二の処理の膜蒸留用膜ユニット(300)から得られた予備濃縮液(c)は、それぞれ、ワンパスで各ユニットを通過し、好ましくは両者混合されたうえで、第二工程の凍結乾燥ユニット(600)に供される点が異なる。
【0033】
《原料液濃縮システムの各要素》
以上、本発明の原料液濃縮方法による原料液の濃縮の概要を説明した。引き続き、本発明の原料液濃縮方法を構成する各要素について、以下に詳説する。
【0034】
〈原料液(a)〉
原料液(a)とは、溶質及び溶媒を含有する流体であり、本発明のシステムによって濃縮されることが予定されている。この原料液(a)は、流体である限りにおいて、乳化物であってもよい。
【0035】
本発明に適用される原料液(a)を例示すると、例えば、医薬品原料、食品、海水、ガス田・油田から排出される随伴水等を挙げることができる。本発明の原料液濃縮システムでは、原料液(a)中の溶媒組成を任意に制御しながら、溶媒が除去された濃縮物を得ることができる。しかしながら、加熱を要さずに濃縮可能である利点を考慮すると、本発明の原料液濃縮システムを、加熱により分解が懸念される、医薬品又はその原料の濃縮に適用すると、医薬品成分の効能を維持した状態で濃縮することができ、更に溶質の析出を抑制しながら濃縮することできる。その結果、有価物をほとんどロスすることなく濃縮することが可能となる。
【0036】
本発明に適用される原料液(a)としては、医薬品原料が好ましい。
濃縮される医薬品原料としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、及びビタミン類から成る群から選ばれる有用物質を溶質とし、この溶質が溶媒中に溶解又は分散されたものであることが好ましい。
【0037】
アミノ酸は、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、及び非天然アミノ酸を包含する。必須アミノ酸としては、例えば、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。非必須アミノ酸としては、例えば、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0038】
非天然アミノ酸とは、同一分子内にアミノ酸骨格を有する、天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指し、種々の標識化合物をアミノ酸骨格に結合させることにより合成することができる。「アミノ酸骨格」は、アミノ酸中のカルボキシル基、アミノ基、及びこれらを連結している部分を含有する。「標識化合物」は、当業者には公知の色素化合物、蛍光物質、化学/生物発光物質、酵素基質、補酵素、抗原性物質、及びタンパク質結合性物質を指す。
非天然アミノ酸の一例として、例えば、標識化合物と結合したアミノ酸である「標識化アミノ酸」が挙げられる。標識化アミノ酸としては、例えば、側鎖にベンゼン環等の芳香環を含むアミノ酸骨格を有するアミノ酸に標識化合物を結合させたアミノ酸等が挙げられる。また、特定の機能が付与された非天然アミノ酸の例として、例えば、光応答性アミノ酸、光スイッチアミノ酸、蛍光プローブアミノ酸、蛍光標識アミノ酸等が挙げられる。
【0039】
ペプチドは、2残基以上70残基未満のアミノ酸残基が結合した化合物を指し、鎖状であっても環状であってもよい。濃縮されるペプチドとしては、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、β-アラニル-L-ヒスチジンシクロスポリン、グルタチオン等が挙げられる。
【0040】
タンパク質は、一般的にはアミノ酸残基が結合した化合物のうち、ペプチドよりも長鎖のものを指す。タンパク質としては、例えば、タンパク製剤として適用されるものが好ましい。タンパク製剤としては、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
【0041】
糖としては、例えば、単糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、デオキシリボース等)、二糖類(例えば、マルトース、スクロース、ラクトース等)、糖鎖(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸等の他;N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸等の、糖類誘導体等)等を挙げることができる。
【0042】
ワクチンとしては、例えば、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン、新型コロナワクチン等が;
核酸としては、例えば、オリゴヌクレオチド、RNA、アプタマー、デコイ等が;
抗生物質としては、例えば、ストレプトマイシン、バンコマイシン等が;
それぞれ挙げられる。
【0043】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類が挙げられ、これらの誘導体、塩等も含む概念である。ビタミンB類には、例えば、ビタミンB6、ビタミンB12等が包含される。
【0044】
原料液に含まれる溶質の数平均分子量は、100~50,000程度であってよく、好ましくは100~30,000程度、より好ましくは100~10,000程度であり、100~6,000であることが特に好ましい。
溶質の分子量が過度に小さいと、正浸透膜、および膜蒸留時の半透膜を透過する場合があり、分子量が過度に大きいと、膜表面への溶質の付着が起こる場合があり、好ましくない。
溶質の数平均分子量は、分子量が比較的小さい場合(例えば分子量500以下の場合)には、溶質の化学式からの計算により、求めることができる。一方、溶質の分子量が比較的大きい場合(例えば分子量500超の場合)の数平均分子量は、GPCによって測定されたポリエチレングリコール換算の数平均分子量として、求めることができる。
【0045】
〈誘導溶液(d)〉
誘導溶液(d)は、誘導物質と、溶媒とを含有し、原料液(a)よりも高い浸透圧を持ち、かつ、正浸透膜(o)を著しく変性させない流体である。
【0046】
〈誘導物質〉
本発明で使用可能な誘導物質としては、例えばアルコール、無機塩、糖、重合体等を挙げることができる。したがって本発明における誘導溶液は、アルコール、無機塩、糖、重合体等から選択される1種以上を含む溶液であってよい。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール等のモノアルコール;エチレングルコール、プロピレングリコール等のグリコール等を挙げることができる。
無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等を;
糖としては、例えば、ショ糖,果糖,ブドウ糖等の一般的な糖類、及びオリゴ糖,希少糖等の特殊な糖類を;
重合体としては、例えば、ポリエチレンオキシド,プロピレンオキシド等の重合体、及びこれらの共重合体等を挙げることができる。
【0047】
誘導溶液(d)における誘導物質の濃度は、誘導溶液(d)の浸透圧が原料液(a)の浸透圧よりも高くなるように設定される。誘導溶液(d)の浸透圧は、原料液(a)の浸透圧より高ければ、その範囲内で変動しても構わない。
二つの液体間の浸透圧差を判断するには、例えば、以下のいずれかの方法によることができる。
(1)二つの液体を混合後、二相分離する場合:二相分離後に、体積が増えた方の液体の浸透圧が高いと判断する、又は、
(2)二つの液体を混合後、二相分離しない場合:正浸透膜(o)を介して二つの液体を接触させ、一定時間の経過後に体積が大きくなった液体の浸透圧が高いと判断する。このときの一定時間とは、その浸透圧差に依存するが、一般的には数分から数時間の範囲である。
【0048】
誘導溶液(d)における誘導物質は、原料液(a)の溶媒に含まれる有機溶媒と同種とすることが好ましい。
【0049】
〈冷却水(f)〉
冷却水(f)は、水でもよいし、水と有機溶媒の混合溶液であってもよい。冷却水(f)は、原料液(a)よりも低い蒸気圧を持ち、かつ、疎水性膜(p)をウェッティングさせない流体である。温度が低いほど、蒸気圧は低くなることから、冷却水(f)の温度は原料液(a)よりも低いことが好ましい。
【0050】
〈原料液(a)の溶媒〉
原料液(a)の溶媒は、水及び有機溶媒を含有する。
原料液(a)の溶媒は、水及び有機溶媒を含有する液体であり、原料液(a)中の溶質を溶解又は分散できるものである限り、制限はない。溶媒に含まれる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低分子アルコール類;アセトニトリル、トルエン、キシレン、酢酸エチル等のVOC(Volatile organic compaunds;揮発性有機化合物)と称される化合物;酢酸、葉酸、プロピオン酸、ブチル酸等のVA(Volatile acid;揮発酸)と称される酸等が挙げられる。
本発明においては、特に、溶質の安定性の観点から、水と、アセトニトリル及びイソプロパノールから成る群から選択される1種又は2種とを含有する混合液体を、原料液(a)の溶媒として用いることが好ましい。
【0051】
〈予備濃縮液(c)〉
原料液(a)が第一の工程を経て濃縮されて得られる予備濃縮液(c)は、原料液(a)中の成分を維持し、かつ、溶媒が分離されることにより得られる。本発明の原料液濃縮システムでは、原料液(a)から分離される溶媒の量を任意に制御することができる。また、第一の処理と、第二の処理の運転方法を制御することにより、溶媒の組成も任意に制御することができる。
【0052】
本発明の第一の工程によると、第一の処理では溶媒中の水が優先的に分離され、第二の処理では溶媒中の有機溶媒が優先的に分離される。そのため、第一の処理と第二の処理とを併用して運転し、それぞれの寄与の程度を調節することにより、予備濃縮液の溶媒組成を任意に制御することができる。
【0053】
本発明における第一の処理によると、原料液(a)の浸透圧が誘導溶液(
d)の浸透圧を超えない限り、原料液(a)を、その飽和濃度付近まで濃縮することが可能である。また、第二の処理によると、膜蒸留用膜が原料液(a)の溶媒によってウェッティングせず、かつ、蒸気圧が冷却水(f)の蒸気圧以下にならない限り、原料液(a)から溶媒を除去することが可能である。
本発明では、第一の工程により、原料液(a)を凍結乾燥に適した溶媒組成に制御して濃縮できるため、後述の第二の工程の凍結乾燥時間を短縮することができ、時間的及びエネルギー的に負荷の大きい凍結乾燥工程を効率化することができる。
【0054】
凍結乾燥に適した溶媒組成とは、原料液(a)中の有機溶媒の割合が適切に制御された組成である。適切な組成は、原料液(a)の溶媒及び溶質の種類、並びに凍結乾燥条件によって異なる。
一般的には、原料液(a)中の有機溶媒濃度が高すぎると、凍結乾燥時の凍結工程に時間がかかり、場合によっては凍結できないことがある。一方で、有機溶媒濃度が過度に低い場合、原料液(a)中の溶質が析出してしまい、十分な濃縮を達成できないことがある。そのため、原料液(a)は、有機溶媒の濃度を適度の範囲に保ちながら濃縮することが望ましい。
具体的には、第一の工程によって得られる予備濃縮液(c)中の有機溶媒の質量の、予備濃縮液(c)中の溶媒の全質量に対する割合が、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。一方で、溶質の析出を避け、所望の品質の生成物(h)を得るために、予備濃縮液(c)の溶媒中の有機溶媒の質量割合は、1質量%以上であることが好ましい。
また、予備濃縮液(c)は、溶媒ができるだけ除去された状態であることが好ましい。具体的には、第一の工程によって得られる予備濃縮液(c)中の溶媒の質量の、予備濃縮液(c)の全質量に対する割合が、11.0質量%以下であることが好ましく、10.5質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以下であることが更に好ましい。一方で、凍結乾燥の工程を効果的に実施して、所望の品質の生成物(h)を得るために、予備濃縮液(c)中の溶媒の質量割合は、1質量%以上であることが好ましい。
【0055】
本発明の第一の工程では、正浸透及び膜蒸留を組み合わせた濃縮が行われる。したがって、この第一の工程により、原料液(a)の溶媒組成を、第二の工程の凍結乾燥に適した組成に制御しつつ、高い濃縮倍率を得ることが可能である。本方法を適用可能な原料液(a)の種類は多様であり、実質的にあらゆる液体の濃縮が可能である。したがって本発明によると、従来技術を適用することが不可能な又は困難な場合でも、高品質の濃縮物を高効率に得ることができる。
【0056】
〈第一の工程〉
本発明の原料液濃縮方法における第一の工程では、正浸透法による濃縮が行われる。
本発明における正浸透法による濃縮は、例えば、正浸透膜(o)によって内部空間が原料液側空間(R)及び誘導溶液側空間(D)の2つに分割された正浸透膜ユニットを用いて実施されてよい。
【0057】
〈正浸透膜ユニットの正浸透膜(o)〉
正浸透膜ユニットの正浸透膜(o)とは、原料液(a)中の溶媒は透過させるが、溶質は透過させない、又は透過させ難い機能を有する膜である。
本発明の原料液濃縮方法の第一の工程における第一の処理で用いられる正浸透膜(o)は、逆浸透膜の機能を有する膜であってもよい。しかしながら、圧力によって溶媒を除去する逆浸透プロセスと、原料液と誘導溶液との浸透圧の差を利用する正浸透プロセスとは、溶媒除去に活用される駆動力の違いに起因して、適切な膜構造が異なる。
したがって、本発明の原料液濃縮方法では、正浸透膜(o)として、正浸透膜としての機能が高い膜を使用することが好ましい。
【0058】
正浸透膜(o)の形状としては、例えば、中空糸状、平膜状等が挙げられる。
正浸透膜(o)としては、支持層(支持膜)上に分離活性層を有する複合型の膜が好ましい。支持膜は、所望の正浸透膜の形状に応じて、適宜の形状であってよく、例えば、平膜であっても中空糸膜であってもよい。
平膜を支持膜とする場合、支持膜の片面又は両面に分離活性層を有するものであってよい。
中空糸膜を支持膜とする場合、中空糸膜の外表面若しくは内表面、又はこれらの双方の面上に分離活性層を有するものであってよい。
【0059】
本実施形態における支持膜とは、分離活性層を支持するための膜であり、これ自体は分離対象物に対して実質的に分離性能を示さないことが好ましい。この支持膜としては、公知の微細孔性支持膜、不織布等を含むどのようなものでも使用できる。
本実施形態において好ましい支持膜は、多孔質中空糸支持膜である。この多孔質中空糸支持膜は、その内表面に、孔径が好ましくは0.001μm以上0.1μm以下、より好ましくは0.005μm以上0.05μm以下の細孔を有する。一方、多孔質中空糸支持膜の内表面から膜の深さ方向に外表面までの構造については、透過する流体の透過抵抗を小さくするために、強度を保ち得る限りでできるだけ疎な構造であることが好ましい。この部分の疎な構造は、例えば網状、指状ボイド等、又はそれらの混合構造のいずれかであることが好ましい。
【0060】
平膜状又は中空糸状の正浸透膜(o)における分離活性層としては、誘導物質の阻止率が高いことから、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、酢酸セルロース等から選ばれる少なくとも1種を主成分とする薄膜層であることが好ましい。より好ましくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、及びポリアミドから選ばれる少なくとも1種を主成分とすることであり、特に好ましくはポリアミドの層である。
【0061】
本実施形態においては、中空糸状の正浸透膜(o)を用いることが好ましく、特に中空糸状の多孔質支持膜の内表面に重合体薄膜から成る分離活性層を有する複合型中空糸を用いることが好ましい。
正浸透膜ユニットとしては、複数の正浸透膜の糸束が好ましくは適当なハウジング内に収納されて構成される、正浸透膜モジュールの形態にあるものを使用することが好ましい。
【0062】
中空糸状の正浸透膜を用いる場合、中空糸膜の外径は、好ましくは300μm以上5,000μm以下、より好ましくは350μm以上4,000μm以下であり、中空糸膜の内径は、好ましくは200μm以上4,000μm以下、より好ましくは250μm以上1,500μm以下である。中空糸の内径が200μm未満であると、中空糸膜内側に流体を流した際の圧力損失が大きくなり、中空糸における圧力が大きくなる。また、単位体積当たりの原料液と膜表面との接触面積が大きくなり、その結果、原料液に含まれる溶質の膜表面への固着が起こり易くなる。中空糸の内径が4,000μmを超えると、原料液と膜表面の接触面積が過度に小さくなり、溶媒と溶質との分離効率が損なわれる場合がある。
【0063】
〈第二の処理〉
本発明の原料液濃縮システムの第一の工程における第二の処理では、膜蒸留法による濃縮が行われる。
本発明における膜蒸留法による濃縮は、例えば、疎水性多孔質膜(p)によって内部空間が原料液側空間(R)及び冷却水側空間(F)の2つに分割された、直接接触型の膜蒸留ユニット(DCMDユニット)を用いて実施されてよい。
【0064】
〈DCMDユニットの疎水性多孔質膜(p)〉
膜蒸留用膜である疎水性多孔質膜(p)は原料液に含まれる溶媒中の、有機溶剤の蒸気及び水蒸気のみを通し、原料液そのものは通さないことが必要である。
原料液(a)の溶媒中の有機溶媒の比率が高い場合には、原料液(a)の表面張力は低い。そのため、この場合、原料液(a)が、液体の状態で組成性多孔質膜の細孔内に入り込み、疎水性多孔質膜(p)を通過して、冷却水(f)側に流れる、いわゆる「ウェッティング」が生じる場合がある。ウェッティングが生じると、原料液(a)中の溶質が冷却水(f)に流出してしまうため、濃縮液の回収率が低下する。これを避けるため、疎水性多孔質膜(p)としては、疎水性の高い膜が好ましい。
【0065】
疎水性多孔質膜(p)の疎水性を表す指標として、水接触角が用いられる。この方法では、膜の表面に置いた水滴と膜との接触角により、膜の疎水性を評価する。膜のウェッティングを回避する観点から、本発明の原料液濃縮方法の第一の工程における第二の処理で用いられる疎水性多孔質膜(p)は、表面の水接触角が、90°以上であることが好ましく、より好ましくは100°であり、更に好ましくは110°以上である。
本発明における第二の処理において、中空糸膜状の疎水性多孔質膜(p)を用いる場合、原料液(a)は、中空糸膜の内側空間内に流通させることが好ましい。したがって、中空糸膜状の疎水性多孔質膜(p)は、少なくとも中空糸膜の内側の表面が、上記の水接触角を示すことが好ましい。
また、この場合、冷却水(f)と接する中空糸膜の外側表面も、上記の水接触角を示すことが好ましい。
【0066】
本実施形態において好ましい疎水性多孔質膜は、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲の細孔を有し、かつ、空隙率が60%以上90%以下であることが好ましい。
疎水性多孔質膜(p)の空隙率は、高い蒸気透過性を得る観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。一方、膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題を発生し難くする点で、疎水性多孔質膜(p)の空隙率は、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下である。
【0067】
疎水性多孔質膜(p)を構成する材料は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等から成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。このような材料を用いると、所望の多孔性を有する膜が容易に得られる。
また、膜の疎水性を高めるために、疎水性多孔質膜(p)は、疎水性ポリマーを付着させたものを用いていてもよい。疎水性ポリマーは、膜表面の一部に付着していてもよいし、膜全体に付着していてもよい。
【0068】
疎水性ポリマーは、側鎖にフッ素原子含有基を有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとしては、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基から選ばれる少なくとも1種の側鎖をもつポリマーであることが好ましい。上記の疎水性ポリマーを疎水性多孔質膜(p)に付着させることによって、疎水性多孔質膜(p)の疎水性をより向上させることができる。その結果、有機溶媒濃度の高い原料液を使用した場合も、疎水性多孔質膜(p)がウェッティングせずに、長時間安定して運転することができる。
【0069】
本実施形態においては、疎水性多孔質膜(p)として、中空糸膜状、チューブラー状、及び平膜状の膜のいずれも適用することができる。
【0070】
中空糸状の疎水性多孔質膜(p)を用いる場合には、蒸気の透過性と膜の機械的強度との両立の観点から、疎水性多孔質膜(p)の膜厚は、10μm以上1,000μm以下であることが好ましく、20μm以上500μm以下であることがより好ましい。膜厚が1,000μm以下であれば、高い蒸気透過性を得ることができ、膜厚が10μm以上であれば、膜が変形することなく長期間使用することができる。
中空糸状の疎水性多孔質膜(p)の外径は、好ましくは300μm以上5,000μm以下、より好ましくは350μm以上4,000μm以下であり、内径は、好ましくは200μm以上4,000μm以下であり、より好ましくは250μm以上1,500μm以下である。
疎水性多孔質膜(p)をこの範囲のサイズの中空糸膜とすると、膜強度と膜の有効面積とのバランスが良好となる。
【0071】
第二の処理に用いられる膜蒸留膜ユニットとしては、複数の疎水性多孔質膜(p)の糸束が、好ましくは適当なハウジング内に収納されて構成される、膜蒸留膜モジュールの形態にあるものを使用することが好ましい。
【0072】
〈原料液(a)、誘導溶液(d)、及び冷却水(f)の温度〉
第一の工程の第一の処理において、正浸透膜ユニットの原料液側空間(R)に導入される原料液(a)の温度は、特に制限されないが、好ましくは3℃以上60℃以下であり、より好ましくは5℃以上50℃以下である。原料液(a)の温度が3℃未満では、原料液の溶媒中に含まれる有機溶剤又は水の蒸気圧が小さくなりすぎて、透過流速が遅くなる場合があり、60℃以上では、原料液(a)中の溶質の一部が変性する場合がある。
正浸透膜ユニットの誘導溶液側空間(D)に導入される誘導溶液(d)の温度は、特に限定されないが,好ましくは5℃以上60℃以下であり、より好ましくは10℃以上50℃以下である。誘導溶液(d)の温度が5℃未満では、原料液中の溶質の溶解度が下がり、濃縮操作中に溶質が析出し易くなる場合があり、60℃を超える温度のときは、原料液(a)中の溶質の一部が変性する場合がある。
冷却水(f)の温度は、特に限定されない。しかしながら、原料液(a)と冷却水(f)との間に適切な蒸気圧差を設ける観点から、冷却水(f)の温度は、原料液(a)の温度より低いことが好ましい。そのため、冷却水(f)の温度は、好ましくは3℃以上60℃以下であり、より好ましくは3℃以上50℃以下である。冷却水(f)の温度が3℃未満の場合は、大部分が水で構成される冷却水が凍結するリスクが高まり、安定な運転が難しくなる。一方、冷却水(f)の温度が60℃を超えると、冷却水(f)から原料液(a)へ水蒸気が移動する場合がある。
【0073】
溶質の回収率は、以下の数式により算出した。
回収率(%)=(予備濃縮液(c)に含まれる溶質の質量)/(原料液(a)中に含まれる溶質の質量)×100
【0074】
〈第二の工程〉
本発明の原料液濃縮方法における第二の工程では、第一の工程で得られた予備濃縮液(c)を凍結乾燥させ、更に濃縮された生成物(h)を得る。
本システムにおける凍結乾燥には、公知の凍結乾燥法のうちのいずれの技術を使用してもよく、その典型的なプロセスに関しては、前述したとおりである。
【0075】
〈本発明の原料液濃縮方法の溶質維持性〉
上記のような本発明の原料液濃縮方法によると、原料液(a)中の溶媒組成が任意に制御された高濃度の濃縮物を効率的に得ることができる。
得られた濃縮物中の成分の分析は、原料液及びその濃縮物に含まれる成分の種類に応じて適宜に選択されてよい。例えば、ICP-OES(誘導結合高周波プラズマ発光分光分析装置)、イオンクロマトグラフィー(IC)法、ガスクロマトグラフィー(GC)法、等の各種の公知の分析方法を用いることができる。
【0076】
《原料液濃縮システム》
本発明の別の観点によると、原料液濃縮システムが提供される。
本発明の原料液濃縮システムは、
溶質及び溶媒を含有する原料液から前記溶媒を除去して、前記原料液の濃縮物を得るための、原料液濃縮システムであって、
前記溶媒が水及び有機溶媒を含有し、
前記濃縮システムが
正浸透法によって前記原料液中の前記溶媒を除去する、第一の処理、及び膜蒸留法によって前記原料液中の溶媒を除去する第二の処理を組み合わせて行って、前記原料液の予備濃縮液を得る、第一の工程と、
凍結乾燥によって前記予備濃縮液から前記溶媒を更に除去して、生成物を得る、第二の工程と
を含む、原料液濃縮システムである。
【0077】
本発明の原料液濃縮システムの各要素の詳細については、本発明の原料液濃縮方法に関する上記の説明を援用できる。
【実施例0078】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0079】
《原料液濃縮システムの作製》
〈正浸透膜ユニットの作製〉
内径0.7mm、外径1.0mmのポリスルホン製の中空糸膜限外ろ過膜を基材層として使用した。上記ポリスルホン膜を15cm長に切り出し、その130本を2cm径、10cm長の円筒状プラスチックハウジングに充填し、両端部を接着剤で固定して、膜の有効内表面積約0.02m2の中空糸支持膜支持層モジュールを作製した。
0.5L容器に、m-フェニレンジアミン10g及びラウリル硫酸ナトリウム0.8gを入れ、更に純水489.2gを加えて溶解し、界面重合に用いる第1溶液を0.5kg調製した。
別の0.5L容器に、トリメシン酸クロリド0.8gを入れ、n-ヘキサン399.2gを加えて溶解し、界面重合に用いる第2溶液を0.4kg調製した。
これらの液を、中空糸膜の内側を通過するように、第1溶液、第2溶液の順で上記の中空糸支持層モジュールに通液して、中空糸の内側面上で界面重合を行い、中空糸支持層上に分離活性層を形成した。その後、中空糸内側を純水で洗浄を行うことにより、正浸透膜モジュールを作製し、これを正浸透膜ユニットとして用いた。
【0080】
この正浸透膜ユニットの透水量を、原料液として純水を用い、誘導溶液として3.5質量%食塩水を用いて測定したところ、10.12kg/(m2×hr)であった。
【0081】
〈膜蒸留用膜ユニットの作製〉
内径0.7mm、外径1.3mm、ASTM-F316-86に準拠して求めた平均孔径、最大孔径、及び空隙率が、それぞれ、0.21μm、0.29μm、及び72%のPVDF膜の多孔質中空糸膜を長さ15cmに切り出した。その130本を2cm径、10cm長の円筒状プラスチックハウジングに充填し、両端部を接着剤で固定して、中空糸膜モジュールを作製した。
実施例3及び4では、この中空糸膜モジュールを、そのまま膜蒸留用膜ユニットとして用いた。
実施例1及び2では、この中空糸膜モジュールに、以下のように撥水剤を塗布したものを、膜蒸留用膜ユニットとして用いた。
(株)フロロテクノロジー製の撥水剤「FS-1610TH-1.0」を、中空糸膜の内側を通過するように上記の中空糸膜モジュールに通液して、中空糸膜の内側の膜表面及び該膜表面近傍の膜壁部に塗布した。中空糸膜モジュールから撥水剤を抜いた後、乾燥させることにより、撥水剤を塗布した中空糸膜が収納された膜蒸留用膜モジュールを作成し、これを、実施例1及び2における膜蒸留用膜ユニットとして用いた。
得られた膜モジュール中の中空糸膜の有効内表面積は、撥水剤の塗布あり、塗布なし双方とも、0.02m2であった。
【0082】
膜蒸留用ユニットの中空糸膜内側に原料液として65℃に加温した3.5質量%食塩水を300mL/分の流量で流し、中空糸膜外側に冷却水として20℃に冷却した純水を300mL/分の流量で流し、一定時間当たりの冷却水の重量増加からこの膜蒸留用膜ユニットの透水量を算出したところ、20.02kg/(m2×hr)であった。
【0083】
〈凍結乾燥〉
第二の工程における凍結乾燥では、SPIndustries社製の凍結乾燥機用フリーザー(品名「SP VirTisフリーズモービルシェルバスフリーザー」)を用いて試料を凍結した後、及び「SP VirTisフリーズモバイル凍結乾燥機」を用いて凍結乾燥を行った。
【0084】
《GC測定条件》
以下の実施例及び比較例の予備濃縮液中の有機溶媒濃度を算出するためのガスクロマトグラフィー(GC)の測定は、以下の条件で行った。
GC装置:Agilent Technologies社製、型番「7890A」
カラム:Agilent社製、品名「J&W DB-5」、30m×0.25mmI.D.×液相厚0.25μm)
カラム昇温条件 :40℃にて2分保持した後、10℃/分で190℃まで昇温、その後30℃/分で250℃まで昇温し、250℃にて6分保持して終了
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:1mL/min
注入口温度:250℃
インターフェース温度:280℃
スプリット比:スプリットレス
イオン源温度:230℃
イオン化法:電子イオン化法
イオン化電圧:70eV
測定質量範囲:10~500
【0085】
《ICP-OES測定条件》
以下の実施例及び比較例の溶質の回収率を算出するためのICP分析の測定は、以下の条件で行った。
ICP-OES装置:日立ハイテクサイエンス社製、型番「SPS6100」
キャリアガス:アルゴン
繰り返し測定時間:30秒
安定化遅延時間:20秒
ポンプ速度:8rpm
【0086】
<濃縮装置1>
実施例1~6では、
図3に示した構成の濃縮装置1で濃縮を行った。
ステンレス製の原料液タンク(100)に原料液(a)2,000gを入れた。原料液タンク(100)の底部から、正浸透膜ユニット(200)及び膜蒸留用膜ユニット(300)に、それぞれ、原料液(a)が供給でき、かつ、それぞれのユニットによって濃縮された原料液(a)を原料液タンク(100)の底部に戻すように、配管を組んだ。原料液タンク(100)は、密閉状態であるが、原料液(a)が減少しても、タンク内部の圧力が常圧に維持される構造とした。また、原料液タンク(100)から正浸透膜ユニット(200)までの配管には、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、流量を調整するバルブ(図示せず)を配置し、流量を適宜コントロールできるようにした。
正浸透膜ユニット(200)の側管には、誘導溶液(d)が流通できるように、入側配管及び出側配管を連結した。誘導溶液(d)は、誘導溶液タンク(400)内に貯留され、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、及び流量を調整するバルブ(図示せず)を介して正浸透膜ユニット(200)に供給される。
正浸透膜ユニット(200)において、原料液(a)から誘導溶液(d)に、溶媒(b)(水及び有機溶媒)が移動する。したがって、濃縮運転の継続に伴って、誘導溶液(d)の容積が増える。そのため、誘導溶液タンク(400)には、オーバーフロー口を設け、増えた分の誘導溶液(d)の一部を誘導溶液タンク(400)外に排出する構造とした。
【0087】
原料液タンク(100)から膜蒸留用膜ユニット(300)までの配管には、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、及び流量を調整するバルブ(図示せず)を配置した。原料液(a)は、原料液(a)を一定温度に調整するための恒温装置(図示せず)及び熱交換器(図示せず)を介して、膜蒸留用膜ユニット(300)に供給され、濃縮された原料液(a)は、膜蒸留用膜ユニット(300)の出側から原料液タンク(100)に戻る。
膜蒸留用膜ユニット(300)の側管には、冷却水(f)を流通できるように、入側配管及び出側配管を連結した。冷却水(f)は、冷却水タンク(500)内に貯留され、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、及び流量を調整するバルブ(図示せず)を介して、膜蒸留用膜ユニット(300)に供給される。冷却水(f)は、冷却水(f)を一定温度に調整するための恒温装置(図示せず)及び熱交換器(図示せず)を介して、膜蒸留用膜ユニット(300)に供給される。
冷却水(f)には、膜蒸留用膜ユニット(300)において、原料液(a)から溶媒(b)(水及び有機溶媒)が移動するので、濃縮運転の継続に伴って容積が増える。そのため、冷却水タンク(500)には、オーバーフロー口が設けられ、増えた分の冷却水(f)の一部を系外に排出する構造とした。
【0088】
<濃縮装置2>
比較例1、2、及び6では、
図4に示した構成の濃縮装置2で濃縮を行った。
ステンレス製の原料液タンク(100)に原料液(a)2,000gを入れた。原料液タンク(100)の底部から、正浸透膜ユニット(200)に、原料液(a)が供給でき、かつ、正浸透膜ユニット(200)によって濃縮された原料液(a)を原料液タンク(100)の底部に戻すように、配管を組んだ。正浸透膜ユニット(200)では、原料液(a)中の溶媒(b)(水及び有機溶媒)が、誘導溶液(d)に移動して、原料液(a)の濃縮が行われる。
また、原料液タンク(100)は、密閉状態であるが、原料液(a)が減少してもタンク内部の圧力が常圧に維持される構造とした。
【0089】
原料液タンク(100)から正浸透膜ユニット(200)までの配管系には、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、及び流量を調整するバルブ(図示せず)を配置し、流量を適宜コントロールできるようにした。
正浸透膜ユニット(200)の側管には、誘導溶液(d)を流通できるように、入側配管及び出側配管を連結した。誘導溶液(d)は、誘導溶液タンク(400)内に貯留され、ポンプ(P)、流量計(図示せず)、及び流量を調整するバルブ(図示せず)を介して、正浸透膜ユニット(200)に供給される。
【0090】
[実施例1]
〈第一の工程〉
実施例1では、濃縮装置1を用いて、正浸透膜モジュールを正浸透膜ユニットとして用いる正浸透処理と、撥水剤を塗布した中空糸膜モジュールを膜蒸留用膜ユニットとして用いる膜蒸留処理との組合せによる、第一の工程を行った。
水1,760g及びアセトニトリル(MeCN)240gから成る混合溶媒に、溶質として酸化型グルタチオン(以下、GSSG)を6.0g(0.3質量%)添加した溶液を、原料液(a)の模擬液として原料液タンク(100)に充填した。
誘導溶液タンク(400)に50質量%イソプロピルアルコール水溶液2,000gを充填した。
冷却水タンク(500)に水2,000gを充填した。
正浸透膜ユニット(200)に、この原料液(a)と、誘導溶液(d)とを流した。原料液(a)の向きと誘導溶液(d)の向きとは並流とした。
一方、膜蒸留用膜ユニット(300)には、原料液(a)と、冷却水(f)と、を流した。原料液(a)の向きと冷却水(f)の向きとは並流とした。
第一の工程では、上記の構成により、正浸透膜法及び膜蒸留法の組合せによる濃縮を行い、予備濃縮液を得た。
8時間の濃縮運転の結果、濃縮倍率が10.3倍の予備濃縮液(c)が得られた。この予備濃縮液(c)の溶媒中の有機溶媒の質量割合を測定したところ、7質量%であった。
第一の濃縮工程の実施中の原料液の温度は20~25℃、冷却水の温度は15℃であった。
また、予備濃縮液(c)の分析により、GSSGの回収率が99.9%であり、かつ、GSSGの変性が起きていないことを確認した。
【0091】
〈第二の工程〉
第二の工程では、第一の工程で得られた予備濃縮液(c)を、前記の凍結乾燥機用フリーザーを用いて予備凍結した後、前記凍結乾燥機にて、庫内圧力を10Pa以下に減圧して凍結乾燥を行った。
第一の工程終了後、予備濃縮液(c)をマニホールドに移し、第二の工程の凍結工程を開始した時点を始点とし、凍結乾燥後の生成物(h)の水分量が3質量%以下になった時点を終点としたときの時間を、凍結乾燥時間とした。水分量の測定は、カールフィッシャー水分測定システム(Metrohm A.G.社製の自動滴定装置「MATi10」)を用いて行った。
実施例1の予備濃縮液(c)の凍結乾燥時間は28時間であった。
また、凍結乾燥後の生成物(h)の分析により、GSSGの変性が起きていないことを確認した。
【0092】
[実施例2~4]
実施例2では、原料液(a)の溶媒組成を表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、それぞれ、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
実施例3及び4では、原料液(a)の溶媒組成を表1に記載のとおりに変更し、撥水剤を塗布していない中空糸膜モジュールを膜蒸留用膜ユニットとして用いた他は、実施例1と同様にして、それぞれ、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
結果を表2に示す。
【0093】
[実施例5及び6]
実施例5及び6では、原料液(a)の溶媒組成を表1に記載のとおりに変更し、かつ、第一の工程において、濃縮装置1を用いる正浸透処理のみを4時間行い、正浸透処理を停止した後、更に膜蒸留処理のみを4時間行った。第二の工程は、実施例1と同様にして、予備濃縮液(c)の凍結乾燥を行った。
結果を表2に示す。
【0094】
[比較例1及び2]
比較例1及び2では、原料液(a)の溶媒組成を表1に記載のとおりに変更し、かつ、第一の工程を、濃縮装置2を用いる正浸透処理のみによった他は、実施例1と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
結果を表2に示す。
【0095】
〈比較例3〉
比較例3では、第一の工程を、逆浸透膜法によった他は、実施例1と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
逆浸透膜には、日東電工(株)製の低圧タイプ逆浸透膜、品番「NTR-759HR」)を用い、3.0MPaの操作圧力にて原料液(a)の濃縮を行った。
結果を表2に示す。
比較例3の第一の工程では、逆浸透膜の目詰まりが頻繁に見られ、透水量の経時低下が著しかった。濃縮初期の透水量は 3.2kg/(m2×hr)であったが、8時間後には、0.1kg/(m2×hr)まで減少した。
【0096】
〈比較例4〉
比較例4では、第一の工程において、正浸透法の代わりに逆浸透法を採用し、逆浸透膜法及び膜蒸留法を並列で行った他は、実施例1と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
結果を表2に示す。
【0097】
〈比較例5〉
比較例5では、第一の工程を、減圧蒸留によった他は、実施例1と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
減圧蒸留は、減圧システムを組み込んだ蒸留塔を用い、50℃、10.0~15.0kPaにて行った。
結果を表2に示す。
【0098】
〈比較例6〉
比較例6では、第一の工程において、減圧蒸留法を4時間行った後、正浸透膜法にて更に4時間行った他は、実施例1と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
結果を表2に示す。
【0099】
〈比較例7〉
比較例7では、実施例1と同様にして行った第一の工程で得られた予備濃縮液(c)を真空乾燥した。真空乾燥は、真空乾燥機を用いて、庫内温度を40℃に設定し、庫内圧力を10Pa以下に減圧した条件にて行った。
結果を表2に示す。
【0100】
〈比較例8〉
比較例8では、原料液(a)の溶媒組成を表1に記載のとおりに変更した他は、実施例7と同様にして、第一の工程及び第二の工程から成る濃縮運転を行った。
結果を表2に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
表1及び表2中、「FO」は正浸透法を示し、「MD」は膜蒸留法を示し、「RO」は逆浸透法を示す。
【0104】
以上の結果から、本発明所定の第一及び第二の工程を採用した実施例1~6では、第一の工程において、高濃度濃縮が可能であり、溶質の回収率は99.0%以上であり、また、第二の工程の凍結乾燥に適した溶媒組成に制御された濃縮が可能である。
したがって、これらの実施例では、第二の工程の凍結乾燥の所要時間を、比較例に比べて短縮できることが検証された。
更に、第二の工程に凍結乾燥を採用したことにより、第二の工程後の最終生成物の変性を抑制できることが検証された。