(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026362
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】制御装置、電動圧縮機、リップル電圧の検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240220BHJP
F04B 49/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H02P29/024
F04B49/10 331K
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210252
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2019193693の分割
【原出願日】2019-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 誠
(72)【発明者】
【氏名】川島 豊久
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 恭平
(57)【要約】
【課題】リップル電圧を検出する方法を提供する。
【解決手段】制御装置は、バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングする取得部と、前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する波形演算部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングする取得部と、
前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する波形演算部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記波形演算部は、前記サンプリングに係る前記時刻tにおける前記正弦波を表す式y=a+b×sin(t)の前記yの値が前記時刻tにおける前記サンプリングされた前記電圧値に近似するように前記a、前記bを調整することにより前記波形を演算する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、所定の単位時間ごとに、該単位時間を不等間隔に分割する複数の時点をランダムに設定して該時点ごとに前記サンプリングを行い、
前記波形演算部は、前記単位時間ごとに前記波形を演算する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記波形が示すリップル電圧の値が所定の閾値以上かどうかを判定する判定部と、
前記リップル電圧の値が前記閾値以上の場合、前記電動圧縮機のモータの回転数を低下させる制御部と、
をさらに備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の制御装置を備える、電動圧縮機。
【請求項6】
バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングし、
前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する、
リップル電圧の検出方法。
【請求項7】
コンピュータに、
バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングし、
前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、電動圧縮機、リップル電圧の検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカーエアコンの構成要素の1つに電動圧縮機がある。電動圧縮機を駆動する駆動回路では、リップル電圧が発生することがある。リップル電圧が大きくなると共振が生じ、過大な電流が流れる。
【0003】
特許文献1には、車両用交流発電機のリップル電圧を検出し、リップル電圧の最大値と最小値の差が所定値を超えると、交流発電機が故障していると判断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リップル電圧の共振による過大な電流から電動圧縮機を保護するためには、リップル電圧の振動状態を検出できる必要がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる制御装置、電動圧縮機、リップル電圧の検出方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の制御装置は、バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングする取得部と、前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する波形演算部と、を備える。
【0008】
また、本開示の電動圧縮機は、上記の制御装置を備える。
【0009】
また、本開示のリップル電圧の検出方法では、バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングし、前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する。
【0010】
また、本開示のプログラムは、コンピュータに、バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングし、前記入力電圧のリップル成分の波形として正弦波を仮定し、前記不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に対応する時刻における前記正弦波の値が、それぞれの前記時刻における前記電圧値に近似するように前記正弦波をフィッティングすることにより、前記波形を演算する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
上述の制御装置、電動圧縮機、リップル電圧の検出方法及びプログラムによれば、リップル電圧の異常を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態における電動圧縮機の一例を示す図である。
【
図2】一実施形態におけるリップル電圧の検出処理を説明する図である。
【
図3】一実施形態における共振保護制御の一例について説明する図である。
【
図4】一実施形態における制御の一例を示すフローチャートである。
【
図5】一実施形態における制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下、一実施形態に係る電動圧縮機について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
(構成)
図1に、車両空調機30が備える電動圧縮機20の概略構成の一例を示す。図示するバッテリ1と、車両空調機30と、車両機器40と、これらを駆動する電気回路は、車両に搭載される。インダクタ5a、5bは、バッテリ1と車両空調機30および車両機器40を含む電気回路のインダクタ成分を示す。
バッテリ1は、車両(車両空調機30の外部)に搭載された電源ユニットである。バッテリ1は、車両空調機30と車両機器40に高圧の直流電力を供給する。車両機器40は、コンデンサ2およびインバータ3、インバータ3に接続された負荷4を備える。車両機器40では、バッテリ1から供給される高電圧の直流電力をインバータ3が三相交流電力に変換し、それを負荷4に供給する。インバータ3のキャリア周波数をf1とすると、電気回路には、車両機器40を発生源とする周波数f1のリップル電圧(後述)が発生する場合がある。
【0014】
車両空調機30は、電動圧縮機20を備えている。電動圧縮機20は、インバータ7が一体に組み込まれたインバータ一体型電動圧縮機である。電動圧縮機20は、コンデンサ6およびインバータ7を含む電源回路8と、モータ9と、制御装置10と、電圧計11と、圧縮部12と、を備える。電動圧縮機20は、バッテリ1から供給される高電圧の直流電力をインバータ7が三相交流電力に変換し、それをモータ9に印加することによって駆動される。インバータ7とモータ9は電力線で接続される。インバータ7は、バッテリ1から供給された直流電力を三相交流に変換し、モータ9へ供給する。インバータ7は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、マイコンを備え、図示しないECU(Electric Control Unit)等から取得した制御信号に基づいて、インバータ7を介してモータ9を所望の動作に制御する。例えば、制御装置10は、モータ9の回転数を制御する。モータ9がインバータ7からの指示によって回転駆動することにより、圧縮部12が冷媒を圧縮し、車両空調機30が備える冷媒回路(図示せず)へ冷媒を供給する。インバータ7および電圧計11と制御装置10とは信号線で接続されている。電圧計11は、インバータ7に入力される直流電圧を計測し、計測した電圧値を制御装置10へ出力する。電圧計11が計測する電圧を入力電圧と呼ぶ。電圧計11が計測する入力電圧には、リップル成分が含まれる場合がある。電圧計11が計測する電圧値から、バッテリ1由来の直流電圧値を差し引いた値をリップル電圧と呼ぶ。インバータ7のキャリア周波数をf0とすると、電気回路には、電動圧縮機20を発生源とする周波数f0のリップル電圧が発生する場合がある。周波数f0又はf1のリップル電圧が大きくなると、コンデンサ2、6およびインダクタ5a、5bで形成される共振回路で共振が生じ、
図1の電気回路中に過大な電流が流れる。そこで、制御装置10は、電圧計11が計測した電圧値の変動を監視し、リップル電圧の値Wが所定の閾値α以上となると、リップル電圧の異常と判定し、モータ9を停止又は減速させ、リップル電圧の値Wを抑制する共振保護制御を行う。これにより、電動圧縮機20を発生源とするリップル電圧が抑制される。
【0015】
制御装置10は、取得部101と、波形演算部102と、判定部103と、制御部104と、を備える。
取得部101は、電圧計11が計測した電圧値を不等間隔にサンプリングする。
波形演算部102は、取得部101が不等間隔にサンプリングした電圧値から波形を演算する。波形演算部102が演算した波形は、入力電圧のリップル成分、つまり、リップル電圧である。リップル電圧には、電動圧縮機20(インバータ7)を発生源とするもののほか、車両機器40(インバータ3)を発生源とするものが含まれ得る。
【0016】
判定部103は、波形演算部102が演算した波形に基づいて、所定の微小時間における電圧値の最大値と最小値の差を演算する。この値をリップル電圧の値Wと呼ぶ。判定部103は、リップル電圧の値Wと所定の閾値αとを比較する。リップル電圧の値Wが閾値α以上の場合、判定部103は、共振から回路を保護する共振保護制御を行うことを決定する。共振保護制御とは、モータ9の回転数を低下させて、リップル電圧の値Wを閾値未満に抑制する制御である。
【0017】
制御部104は、インバータ7にモータ9の回転数を指示する。判定部103が、共振保護制御を行うことを決定すると、制御部104は、モータ9を停止させる。あるいは、制御部104は、モータ9の回転数を所定の回転数X(rpm)へ低下させる。モータ9を停止または回転数を低下させると、電動圧縮機20を発生源とするリップル電圧の値Wを小さくすることができる。
【0018】
(リップル電圧の検出処理)
図2は、一実施形態におけるリップル電圧の検出処理を説明する図である。
図2の縦軸は入力電圧、横軸は時間である。
図2にプロットした菱形の点は、取得部101が不等間隔にサンプリングした入力電圧の電圧値である。点P1~P11は、ある単位時間Tp(時間幅T1)に連続してサンプリングされた電圧値、点Q1~Q11は、別の単位時間Tq(時間幅T1)に連続してサンプリングされた電圧値である。波形演算部102は、時間幅T1の間に連続してサンプリングされた電圧値に基づいて、リップル電圧の波形を演算する。点P1~P11を例とすると、波形演算部102は、ある正弦波を仮定して(例えば、y=a+b×sin(c))、点P1~P11の各々に対応する時刻における仮定した正弦波の値が、点P1~P11の電圧値に近似するように、仮定した正弦波の式のパラメータa~cを調整することによりフィッティングを行う。近似する正弦波が演算できると、波形演算部102は、その正弦波を、時間Tpにおけるリップル電圧の波形とする。波形C1は、点P1~P11に基づいて、波形演算部102が演算したリップル電圧の波形である。同様に、波形C2は、点Q1~Q11に基づいて波形演算部102が演算した時間Tqにおけるリップル電圧の波形である。Wpは波形C1が示すリップル電圧の値Wp、Wqは波形C2が示すリップル電圧の値Wqである。
【0019】
ここで、仮に一定の間隔T0で電圧計11が計測した電圧値をサンプリングすると仮定する。そしてその値が、点R1~R11に示すように全て0であるとする。このような場合、計測された電圧値からは、リップル電圧の振幅が常に0であるように思える。しかし、実際には、波形C1または波形C2のようなリップル電圧が発生している可能性がある。もし、波形C2に示すリップル電圧が発生しており、そのリップル電圧の値Wが閾値αを超える場合、
図1の電気回路には共振が発生する。このように等間隔で入力電圧をサンプリングすると、例えば、入力電圧のサンプリング間隔と正弦波の周期が一致するような場合、リップル電圧の振動状態を観測できない可能性がある。従って、本実施形態では、取得部101が、不等間隔に入力電圧をサンプリングし、波形演算部102が、それらの値に基づいて波形を演算する。このようにすると、どのような周波数のリップル電圧が発生しても、その振動を見逃すということは起こりにくくなる。
【0020】
なお、時間幅T1における電圧値を不等間隔にサンプリングするタイミングは、予め定められていてもよいし、時間幅T1を経過するごとに取得部101がランダムに設定してもよい。単位時間の長さT1や、その間のサンプリング数は、波形の演算に必要な数のサンプルが得られ、且つ、異常なリップル電圧の検出遅れが生じないように定められる。例えば、単位時間ごとにサンプリング間隔をランダムに変化させることで、リップル電圧の周期とサンプリング周期が重なることによるリップル電圧の検出漏れのリスクをさらに低減できると考えられる。
【0021】
単位時間Tpが経過すると、波形演算部102は、単位時間Tpにおけるリップル電圧の波形C1を演算する。判定部103は、波形C1のリップル電圧の値Wpと閾値αを比較して、リップル電圧の値Wpが閾値α以上であれば、共振保護制御を実行すると判定する。同様に、単位時間Tqについて波形演算部102が波形C2を演算すると、判定部103は、リップル電圧の値Wqと閾値αを比較する。リップル電圧の値Wqが閾値α以上であれば、判定部103は、共振保護制御を実行すると判定する。このように、制御装置10は、単位時間Tpごとに、入力電圧を不等間隔にサンプリングし、この間のリップル電圧の波形を演算し、リップル電圧の挙動を監視する。リップル電圧の値Wに異常が発見された場合、制御装置10は、リップル電圧の監視を継続しつつ、共振保護制御を行う。次に共振保護制御について
図3を参照して説明する。
【0022】
図3は、一実施形態における共振保護制御の一例について説明する図である。
図3上図の縦軸は、電動圧縮機20を発生源とするリップル電圧の値Wを示し、横軸は時間を示す。
図3下図の縦軸はモータ9の回転数を示し、横軸は時間を示す。
図3上図および
図3下図の横軸の同じ位置は、同じ時刻を示す。
【0023】
図3上図を参照すると、時刻t0におけるリップル電圧の値Wは0である。
図3下図を参照すると、時刻t0のモータ9の回転数はY(rpm)である。Y(rpm)は、ユーザが設定した冷暖房の設定温度に基づき車両のECUが決定した要求回転数である。
【0024】
時刻t1では、リップル電圧の値Wは閾値α以上となっている。判定部103は、値Wが閾値α以上となったことに基づいて、共振保護制御の実行を制御部104に指示する。すると、制御部104は、回転数0(ゼロ)をインバータ7に指示する。モータ9を停止させる場合のモータ9の回転数の推移をグラフL1、リップル電圧の値Wの推移をグラフA1に示す。モータ9を停止すると、グラフA1に示すようにリップル電圧の値Wも低下する。これにより、共振の発生を防ぐことができる。
【0025】
制御部104は、モータ9を停止させる代わりにモータ9の回転数を低下させてもよい。モータ9の回転数を低下させる場合の回転数の推移をグラフL2、リップル電圧の値Wの推移をグラフA2に示す。制御部104は、Yより小さな値であるX(rpm)を目標回転数に設定して、回転数Xをインバータ7に指示する。あるいは、制御部104は、要求回転数Y(rpm)から回転数X(rpm)までの間で段階的に設定された回転数を順次目標回転数に設定して、所定時間ごとにインバータ7へ指示し、モータ9の回転数を段階的に回転数Xまで低下させてもよい。時刻t1に回転数の低下を指示すると、モータ9の回転数は徐々に低下し、時刻t1-1にX(rpm)まで低下する。これにより、共振の発生を防ぐことができる。また、共振保護制御において、モータ9を停止することなく回転数Xで運転することにより、微弱であっても車両空調機30による空調を継続し、ユーザの快適性の低下を抑制することができる。
【0026】
リップル電圧の異常は、過渡的な現象が要因となって発生する場合がある。そこで、制御部104は、モータ9の停止、モータ9の回転数を低下に関わらず、リップル電圧の値Wが閾値α未満に低下してから所定時間が経過すると、リップル電圧の異常を生じさせる過渡的な要因が取り除かれた可能性があると判断し、モータ9の回転数を、再び、車両空調機30が要求する要求回転数Yへ向けて上昇させる制御を行ってもよい。これにより、車両空調機30の運転状態を、負荷に応じた運転状態へ近づけることができるので、ユーザの快適性を回復することができる。モータ9の回転数を上昇させても、リップル電圧の異常が発生しない場合、制御部104は、モータ9の回転数Y(rpm)を維持する。リップル電圧の異常が再び発生した場合、制御部104は、モータ9の停止又はモータ9の回転数の低下を行って、リップル電圧の値Wが閾値α未満に低下してから所定時間が経過すると、モータ9の回転数を要求回転数Yに向けて上昇させるという制御を、リップル電圧の異常が発生しなくなるか、モータ9の回転数を上昇させる回数が所定の上限回数に達するまで繰り返し行う。何度、上昇させても、リップル電圧の異常が発生する場合には、制御部104は、モータ9を停止させたままとする。これにより、リップル電圧による共振を防ぎつつ、可能であれば、車両空調機30による空調を行い、ユーザの快適性の低下を抑制することができる。また、制御部104は、一度にモータ9の回転数をY(rpm)まで上昇させるのではなく、要求回転数Yに向けて、段階的に回転数を上昇させてもよい。この場合、制御部104は、モータ9の回転数をYまで上昇させることができなくても、リップル電圧の異常が発生しない最大の回転数まで上昇させて、そのまま運転を継続するようにしてもよい。
【0027】
図3に示すように、リップル電圧の発生源が電動圧縮機20の場合、制御部104が、モータ9の回転数を低下させることによって、リップル電圧の値Wを低下させることができる。しかし、リップル電圧の発生源が車両機器40の場合、制御装置10の制御によって、リップル電圧の異常を取り除くことはできない。例えば、モータ9の回転数を低下させても値Wが閾値α以上であれば、リップル電圧の発生源が車両機器40である可能性がある。リップル電圧の発生源が車両機器40の場合、制御装置10は、モータ9を停止させたまま、リップル電圧の値Wが閾値α未満となるまで待機してもよい。また、制御装置10は、車両機器40を発生源とするリップル電圧の異常が発生したことを記述したログを、図示しない記憶部に記録してもよい。例えば、車両機器40のメーカへ、そのログを提供することにより、異常なリップル電圧の発生を抑止するよう求めることができる。
【0028】
次に本実施形態のリップル電圧の検出処理および共振保護制御の流れについて説明する。
図4は、一実施形態における制御の一例を示すフローチャートである。
電動圧縮機20では、モータ9が車両空調機30の空調負荷に応じた要求回転数Yで駆動している。取得部101は、不等間隔で電圧計11が計測した最新の電圧値をサンプリングする(ステップS10)。取得部101は、サンプリングした電圧値を波形演算部102へ出力する。波形演算部102は、所定の単位時間(時間幅T1)におけるリップル電圧の波形を演算する(ステップS11)。例えば、波形演算部102は、取得部101が単位時間内に不等間隔に取得した複数の電圧値に対して、正弦波フィッティングを行って、リップル電圧の波形を演算する。波形演算部102は、演算した波形について、リップル電圧の値W(例えば、
図2のWp、Wq)を算出する。波形演算部102は、リップル電圧の値Wを判定部103へ出力する。判定部103は、リップル電圧の値Wと閾値αとを比較する(ステップS12)。値Wが閾値α未満の場合(ステップS12;No)、判定部103は、リップル電圧による共振の可能性が低いと判断し、ステップS10からの処理を繰り返す。
【0029】
リップル電圧の値Wが閾値α以上の場合(ステップS12;Yes)、判定部103は、リップル電圧による共振が生じる可能性があると判断し、共振保護制御の開始を制御部104へ指示する。制御部104は、モータ9を停止、又は、モータ9の回転数を所定の回転数X(rpm)まで低下させる(ステップS13)。モータ9を停止等させた後もステップS10からの処理を繰り返す。共振保護制御を行った場合、例えば、リップル電圧の値Wが閾値α未満に低下してから所定時間が経過した後に、再び、モータ9の回転数を上昇させてもよい。また、共振保護制御を行っても、リップル電圧の値Wが閾値α以上のままであれば、車両機器40を発信源とするリップル電圧の異常であると考えられる。このような場合には、リップル電圧の異常の発生をログへ記録したり、車両機器40側へアラームを通知したりしてもよい。
【0030】
本実施形態によれば、電動圧縮機20の入力電圧の値を不等間隔でサンプリングし、そのサンプリング結果に基づいて、リップル電圧の波形を演算する。これにより、どのような周波数のリップル電圧が発生した場合でもその振動を逃さず検出し、リップル電圧の振動状態を把握することができる。また、リップル電圧の値Wが閾値α以上となることを漏れなく検出し、共振保護制御を実行することで、共振を防ぎ、電動圧縮機20等の破損を防止することができる。
【0031】
図5は、一実施形態における制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の制御装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0032】
なお、制御装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0033】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0034】
<付記>
各実施形態に記載の制御装置10、電動圧縮機20、リップル電圧の検出方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0035】
(1)第1の態様に係る制御装置10は、バッテリ1で駆動する電動圧縮機20の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングする取得部101と、不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に基づいて、前記入力電圧のリップル成分の波形を演算する波形演算部102と、を備える。
【0036】
制御装置10によれば、リップル電圧の周波数に関わらず、リップル電圧の振動状況を検出することができる。これにより、リップル電圧の異常を漏れなく検出し、リップル電圧の異常による共振の発生を回避することができる。
【0037】
(2)第2の態様に係る制御装置10は、(1)の制御装置10であって、前記取得部101は、所定の単位時間(Tp、Tq)を不等間隔に分割するよう定められた複数の時点(点P1~P11、点Q1~Q11)で前記サンプリングを行い、前記波形演算部102は、前記単位時間ごとに前記波形を演算する。
波形の演算に必要な数の電圧値のサンプルが得られる時間を単位時間と定め、その単位時間内で不等間隔に電圧値をサンプリングできるように定めることで、漏れの無いリップル電圧の検出を実現することができる。
【0038】
(3)第3の態様に係る制御装置10は、(1)の制御装置10であって、前記取得部101は、所定の単位時間(Tp、Tq)ごとに、該単位時間を不等間隔に分割する複数の時点を定めて該時点(点P1~P11、点Q1~Q11)ごとに前記サンプリングを行い、前記波形演算部102は、前記単位時間ごとに前記波形を演算する。
サンプリング間隔を様々に変化させることで、リップル電圧の周期とサンプリング周期が重なることによるリップル電圧の検出漏れのリスクを低減することができる。
【0039】
(4)第4の態様に係る制御装置10は、(1)~(3)の制御装置10であって、前記波形が示すリップル電圧の値Wが所定の閾値α以上かどうかを判定する判定部103と、前記リップル電圧の値Wが前記閾値α以上の場合、前記電動圧縮機20のモータ9の回転数を低下させる制御部104と、をさらに備える。
異常なリップル電圧が検出された場合、モータ9の回転数を低下(停止を含む)させることで、共振の発生を回避することができる。
【0040】
(5)第5の態様に係る電動圧縮機20は、(1)~(4)の制御装置10を備える。
【0041】
(6)第6の態様に係るリップル電圧の検出方法は、バッテリ1で駆動する電動圧縮機20の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングし、不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に基づいて、前記入力電圧のリップル成分の波形を演算する。
【0042】
(7)第7の態様に係るプログラムは、コンピュータを、バッテリで駆動する電動圧縮機の入力電圧の電圧値を不等間隔にサンプリングする手段、不等間隔にサンプリングされた前記電圧値に基づいて、前記入力電圧のリップル成分の波形を演算する手段、として機能させる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・バッテリ
2・・・コンデンサ
3・・・インバータ
4・・・負荷
5a、5b・・・インダクタ
6・・・コンデンサ
7・・・インバータ
8・・・電源回路
9・・・モータ
10・・・制御装置
101・・・取得部
102・・・波形演算部
103・・・判定部
104・・・制御部
11・・・電圧計
12・・・圧縮部
13・・・記憶装置
20・・・電動圧縮機
30・・・車両空調機
40・・・車両機器
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース