(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026386
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240220BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240220BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20240220BHJP
C21D 9/50 20060101ALN20240220BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D6/00 102A
C21D9/50 101B
C21D9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】45
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211936
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2021147742の分割
【原出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】201103887-4
(32)【優先日】2011-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(71)【出願人】
【識別番号】513296903
【氏名又は名称】ユナイテッド・パイプラインズ・アジア・パシフィック・プライベイト・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】United Pipelines Asia Pacific Pte Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】セシル・バーノン・ロスコー
(57)【要約】
【課題】本発明はオーステナイト系ステンレス鋼に関する。先行技術の欠点の少なくとも1つを軽減するオーステナイト系ステンレス鋼を提供することおよび/または有益な選択を公衆に提供する。
【解決手段】記載する実施形態において、オーステナイト系ステンレス鋼は、16.00重量%から30.00重量%のクロムと;8.00重量%から27.00重量%のニッケルと;7.00重量%以下のモリブデンと;0.40重量%から0.70重量%の窒素と、1.0重量%から4.00重量%のマンガンと、0.10重量%未満の炭素とを含み、窒素に対するマンガン)の比率が10.0以下に制御されている。最小のPREN(耐孔食指数)値に基づいたオーステナイト系ステンレス鋼も開示されている。(1)0.40~0.70の範囲のNでは、PRE=重量%Cr+3.3×重量%Mo+16×重量%N≧25で、(2)Wが存在する0.40~0.70の範囲のNでは、PRE=重量%Cr+3.3×重量%(Mo+W)+16×重量%N≧27である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
0.40重量%から0.70重量%の窒素(N)と、
1.0重量%以上4.00重量%未満のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、を含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択され;
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に従って決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に従って決定および制御され、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
0.030重量%以下の炭素を含む、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
0.020重量%~0.030重量%の炭素を含む、請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
2.0重量%以下のマンガンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
1.0重量%から2.0重量%のマンガンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項6】
1.20重量%以上1.50重量%以下のマンガンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項7】
窒素に対するマンガンの比率が3.75以下に制御されている、請求項4~6のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項8】
0.030重量%以下のリンをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項9】
0.010重量%以下の硫黄をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項10】
0.001重量%未満の硫黄をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項11】
酸素含有量が0.050重量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項12】
0.75重量%以下のケイ素を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項13】
0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項14】
0.010重量%以下のホウ素をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項15】
0.001重量%以上0.010重量%以下のホウ素をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項16】
0.050重量%以下のアルミニウムをさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項17】
0.005重量%以上0.050重量%以下のアルミニウムをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項18】
0.010重量%以下のカルシウムをさらに含む、請求項1~17のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項19】
0.001重量%以上0.010重量%以下のカルシウムをさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項20】
0.010重量%以下のマグネシウムをさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項21】
0.001重量%以上0.010重量%以下のマグネシウムをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項22】
1.50重量%以下の銅をさらに含む、請求項1~21のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項23】
1.50重量%以上3.50重量%以下の銅をさらに含む、請求項1~22のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項24】
2.00重量%以下のタングステンをさらに含む、請求項1~23のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項25】
0.50重量%以上1.00重量%以下のタングステンをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項26】
0.50重量%以下のバナジウムをさらに含む、請求項1~25のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項27】
0.10重量%以上0.50重量%以下のバナジウムをさらに含む、請求項1~26のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項28】
0.040重量%以上0.10重量%未満の炭素を含む、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項29】
炭素含有量が0.030重量%より多く0.08重量%以下である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項30】
0.70重量%以下のチタンをさらに含む、請求項28または29に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項31】
炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%以下である場合に、チタン含有量がTi(min)より多く;
Ti(min)が4×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
請求項30に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項32】
炭素含有量が0.030重量%以上0.08重量%以下である場合に、チタン含有量がTi(min)より多く;
Ti(min)が5×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
請求項30に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項33】
ニオブ含有量がNb(min)より多く;
Nb(min)が8×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
請求項31に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項34】
ニオブ含有量がNb(min)より多く;
Nb(min)が10×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
請求項32に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項35】
炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%以下である場合に、ニオブとタンタルの合計含有量がNb+Ta(min)より多く;
Nb+Ta(min)が8×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である(最大で0.10重量%のTaを含む、)
請求項33または34に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項36】
炭素含有量が0.030重量%以上0.08重量%以下である場合に、ニオブとタンタルの合計含有量がNb+Ta(min)より多く;
Nb+Ta(min)が10×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である(最大で0.10重量%のTaを含む、)
請求項33または34に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項37】
0.40~0.70重量%の窒素と、25以上の耐孔食指数(PREN)を有する合金組成とを含み;
PREN=重量%クロム+(3.3×重量%モリブデン)+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
1.0重量%以上4.00重量%未満のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、をさらに含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択され;
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に従って決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に従って決定および制御され、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、
非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項38】
0.40~0.60重量%の窒素と、25以上の耐孔食指数(PREN)を有する合金組成とを含み;
PREN=重量%クロム+(3.3×重量%モリブデン)+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
1.0重量%以上4.00重量%未満のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、をさらに含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択され;
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に従って決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に従って決定および制御され、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、
非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項39】
0.50重量%~1.00重量%のタングステンと、0.40~0.70重量%の窒素と、27以上の耐孔食指数(PRENW)を有する合金組成とを含み;
PRENW=重量%クロム+[3.3×重量%(モリブデン+タングステン)]+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、をさらに含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択され;
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に従って決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に従って決定および制御され、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、
非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項40】
0.40~0.60重量%の窒素と、0.50重量%~1.00重量%のタングステンと、27以上の耐孔食指数(PRENW)を有する合金組成とを含み;
PRENW=重量%クロム+[3.3×重量%(モリブデン+タングステン)]+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
1.0重量%以上4.00重量%未満のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、をさらに含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択され;
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に決定および制御され、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、
非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項41】
前記ニッケル当量に対する前記クロム当量の比率が0.45より大きく0.95未満である、請求項1~40のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項42】
請求項1~41のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼を含む、鍛鋼。
【請求項43】
請求項1~41のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼を含む、鋳鋼。
【請求項44】
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)+(0.72×重量%W)+(2.27×重量%V)+(2.20×重量%Ti)+(0.21×重量%Ta)+(2.48×重量%Al)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+(0.44%×重量%Cu)+2.77であり、
Nb、W、V、Ti、Ta、AlおよびCuの全てが0重量%ではなく;
Nb=ニオブ;
W=タングステン;
V=バナジウム;
Ti=チタン;
Ta=タンタル;
Al=アルミニウム;
Cu=銅;
である、請求項1~43のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項45】
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;
8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;
7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;
0.40重量%から0.70重量%の窒素(N)と、
1.0重量%以上4.00重量%未満のマンガン(Mn)と、
1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、
0.10重量%未満の炭素(C)と、
0.070重量%以下の酸素と、
2.00重量%以下のケイ素と、
0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウムと、をさらに含み、
残部が鉄および不可避的不純物であり、NおよびMnの含有量は、Nに対するMnの比率が2.85以上7.50以下になるように選択される、非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、
前記方法が、
(1)溶融段階において、合金組成物を加熱する工程と、
(2)非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼の微細組織を形成するように、前記合金組成物を処理する工程と、
を含み、前記溶融段階において、
オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびNとフェライト形成元素であるCr、Si、MoおよびNbの含有量は、ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満に決定および制御されるように選択され;
クロム当量が、第1式:
[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99
に従って決定および制御され;
ニッケル当量が、第2式:
[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77
に従って決定および制御され、
前記ステンレス鋼は、1100℃~1250℃の温度で溶体化処理され、次いで水焼入れされて、非磁性のオーステナイト組織を形成し、
[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率を溶融段階で最適化し、非磁性のオーステナイト組織を得る、
非磁性のオーステナイト系の微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、UNS S30403(304L)およびUNS S30453(304LN)のような300系のオーステナイト系ステンレス鋼は、表1に示すような重量パーセントの特定の化学組成を有する。
(表1)
【0003】
上述した従来のオーステナイト系ステンレス鋼にはそれらの特有の規定の範囲に付随する多数の欠点がある。これは、溶融段階において化学分析の正確な制御(これは機械的強度特性と良好な耐食性の優れた組み合わせを与えるため、合金の特性を最適化するのに必要であるが)の欠如をもたらす可能性がある。
【0004】
UNS S30403およびUNS S30453のような合金について、得られる機械的特性は最適化されず、かつ22Cr系二相ステンレス鋼および25Cr系二相ステンレス鋼、ならびに25Cr系スーパー二相ステンレス鋼のような他の一般的なステンレス鋼群と比べて相対的に低い。このことは、これら従来のオーステナイト系ステンレス鋼の特性と、標準的なグレードの22Cr系二相ステンレス鋼、25Cr系二相ステンレス鋼および25Cr系スーパー二相ステンレス鋼とを比較した表2に示される。
(表2)
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを軽減するオーステナイト系ステンレス鋼を提供することおよび/または有益な選択を公衆に提供することである。
【0006】
本発明の第1の態様に従って、請求項1に従うオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0007】
さらに好ましい特徴は、従属請求項に見出しうるだろう。
【0008】
記載された実施形態から分かるように、オーステナイト系ステンレス鋼(Cr-Ni-Mo-N)合金は高濃度の窒素を含み、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有する。特に、記載された実施形態は、22Cr系二相ステンレス鋼、25Cr系二相ステンレス鋼および25Cr系スーパー二相ステンレス鋼と比較して、UNS S30403およびUNS S30453のような従来の300系のオーステナイト系ステンレス鋼の機械強度特性が相対的に低いという問題に対処している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[304LM4N]
説明を簡単にするために、本発明の第1の実施形態を304LM4Nと呼ぶ。概して、304LM4Nは高濃度の窒素を含む高強度のオーステナイト系ステンレス鋼(Cr-Ni-Mo-N)合金であり、またPREN≧25、好ましくはPREN≧30の最小の耐孔食指数(Pitting Resistance Equivalent)を得るように成分調整される。PRENは公式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。
【0010】
304LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有する。
【0011】
304LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、選択的(selective)であり、次のような重量パーセントの化学元素、すなわち最大で0.030重量%のC(炭素)、最大で2.00重量%のMn(マンガン)、最大で0.030重量%のP(リン)、最大で0.010重量%のS(硫黄)、最大で0.75重量%のSi(ケイ素)、17.50重量%-20.00重量%のCr(クロム)、8.00重量%-12.00重量%のNi(ニッケル)、最大で2.00重量%のMo(モリブデン)、および0.40重量%-0.70重量%のN(窒素)の合金によって特徴付けられる。
【0012】
304LM4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFe(鉄)を含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のB(ホウ素)、最大で0.10重量%のCe(セリウム)、最大で0.050重量%のAl(アルミニウム)、最大で0.01重量%のCa(カルシウム)、および/または最大で0.01重量%のMg(マグネシウム)、ならびに残部に通常存在する他の不純物、を含んでもよい。
【0013】
その後に水焼入れ(または水中急冷、water quenching)が続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織(またはミクロ組織、microstructure)を得るために、304LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、304LM4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を達成する。304LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼の化学組成が、PREN≧25、好ましくはPREN≧30を達成するように調整される事実を考慮すると、これは材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。304LM4Nステンレス鋼はまた、UNS S30403およびUNS S30453のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0014】
304LM4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第1の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されている。
【0015】
・炭素(C)
304LM4Nステンレス鋼の炭素含有量は、0.030重量%以下(すなわち、最大で0.030重量%)である。好ましくは、炭素の量は、0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0016】
・マンガン(Mn)
第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼は、2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンがあってもよい。
【0017】
低マンガン合金では、304LM4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。好ましくは、範囲は1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0018】
高マンガン合金では、304LM4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限値が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限値は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金のNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0019】
・リン(P)
304LM4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、304LM4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。合金は、さらに好ましくは0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0020】
・硫黄(S)
第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼の硫黄含有量は、0.010重量%以下である。好ましくは、304LM4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0021】
・酸素(O)
304LM4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第1の実施形態において、304LM4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、304LM4N合金は0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0022】
・ケイ素(Si)
304LM4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求される特定の高温用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0023】
・クロム(Cr)
第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼のクロム含有量は、17.50重量%以上20.00重量%以下である。好ましくは、合金は18.25重量%以上を有する。
【0024】
・ニッケル(Ni)
304LM4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、8.00重量%以上12.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は11重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0025】
・モリブデン(Mo)
304LM4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上2.00重量%以下である。より好ましくは、Moの下限は1.0重量%以上である
【0026】
・窒素(N)
304LM4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、304LM4N合金は0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0027】
・PREN
耐孔食指数(PREN)は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。304LM4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)17.50重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは18.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上2.00重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0028】
高濃度の窒素を伴って、304LM4Nステンレス鋼はPREN≧25を達成し、好ましくはPREN≧30を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。304LM4Nステンレス鋼はまた、UNS S30403およびUNS S30453のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子(microstructural factor)の影響を無視していることを強調しておく。
【0029】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材内にオーステナイト系の微細組織を得るために、304LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0030】
304LM4Nステンレス鋼はまた、残部として鉄(Fe)を主に有し、また、以下の重量パーセントのホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのような、ごく少量の他の元素を含んでもよい。
【0031】
・ホウ素(B)
304LM4Nステンレス鋼は、意図的に合金に添加されるホウ素を有しなくてもよく、結果としてホウ素を意図的に溶融材(heats)に加えることを好まない圧延(mills)のためにホウ素の濃度は一般的に0.0001重量%以上0.0006重量%以下である。あるいは、304LM4Nステンレス鋼は、特に0.010重量%以下のホウ素を含むように作られてもよい。好ましくは、ホウ素の範囲は0.001重量%以上0.010重量%以下であり、より好ましくは0.0015重量%以上0.0035重量%以下である。言い換えれば、ホウ素はステンレス鋼の製造中に特に添加されるが、このような濃度を達成するように制御されている。
【0032】
・セリウム(Ce)
第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼は0.10重量%以下のCeも含んでもよく、好ましくは0.01重量%以上0.10重量%以下のCeを含んでもよい。より好ましくは、セリウムの量は0.03重量%以上0.08重量%以下である。希土類金属(REM)はミッシュメタルとしてステンレス鋼の製造者に頻繁に供給されるので、ステンレス鋼がセリウムを含む場合、もしかするとランタンのような他のREMを含むかもしれない。希土類金属の総量が本明細書に規定されるCeの濃度に適合するような条件で、希土類金属はミッシュメタルとして個々にまたは一緒に利用されてもよいことに留意すべきである。
【0033】
・アルミニウム(Al)
第1実施形態の304LM4Nステンレス鋼は0.050重量%以下のAlを含んでもよく、好ましくは0.005重量%以上0.050重量%以下、より好ましくは0.010重量%以上0.030重量%以下のAlを含んでもよい。
【0034】
・カルシウム(Ca)/マグネシウム(Mg)
304LM4Nステンレス鋼は、0.010重量%以下のCaおよび/またはMgを含んでもよい。好ましくは、ステンレス鋼は0.001重量%以上0.010重量%以下のCaおよび/またはMgを含んでもよく、より好ましくは0.001重量%以上0.005重量%以下のCaおよび/またはMgおよび残留濃度に通常存在する他の不純物を有しもよい。
【0035】
上述の特徴に基づいて、304LM4Nステンレス鋼は、鍛鋼(または錬鋼、鍛造、wrought version)では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼(または鋳造、cast version)は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、304LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、表2におけるUNS S30403の機械的強度特性との比較は、304LM4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S30403の仕様の降伏強さよりも2.5倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、新規かつ革新的な304LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、表2におけるUNS S30453の機械的強度特性との比較は、304LM4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S30453の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。
【0036】
第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、新規かつ革新的な304LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、表2におけるUNS S30403の機械的強度特性との比較は、304LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S30403の規定の降伏強さよりも1.5倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、新規かつ革新的な304LM4Nオーステナイト系ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、表2におけるUNS S30453の機械的強度特性との比較は、304LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S30453の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、新規かつ革新的な304LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性が、表2における22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較されると、304LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ていることが示される。そのため、304LM4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S30403およびUNS S30453のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ている。
【0037】
これは、鍛鋼の304LM4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、304LM4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S30403およびS30453のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の304LM4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力と似ている。
【0038】
ある用途に対して、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、304LM4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。304LM4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、次のような重量パーセントの化学組成の合金により特徴付けられることが決まっている。
【0039】
・銅(Cu)
304LM4Nステンレス鋼の銅含有量は、低銅域合金では1.50重量%以下であり、好ましくは0.50重量%以上1.50重量%以下であり、より好ましくは1.00重量%以下である。高銅域の合金では、銅含有量は3.50重量%以下を含んでもよく、好ましくは1.50重量%以上3.50重量%以下であり、より好ましくは2.50重量%以下である。
【0040】
銅は、個々に、またはタングステン、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル(またはニオブとプラスの合計、Niobium plus Tantalum)のこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な(overall)耐食性能をさらに向上させる。銅は高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0041】
・タングステン(W)
304LM4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。タングステンを含む304LM4Nステンレス鋼の変形に関して、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。このタングステンを含有する304LM4Nステンレス鋼の変形は次の組成:
(i)17.50重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは18.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以下であり、好ましくは0.50重量%以上2.00重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整される。
【0042】
304LM4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有し、また27以上であるが、好ましくは32以上のPRENWを有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは非常に高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0043】
・バナジウム
304LM4Nステンレス鋼のバナジウム含有量は0.50重量%以下であるが、好ましくは0.10重量%以上0.50重量%以下であり、より好ましくは0.30重量%以下である。バナジウムは個々に、または銅、タングステン、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。バナジウムは高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0044】
・炭素(C)
ある用途に対して、304LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、304LM4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。304LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼のこれらの特定の変形は、それぞれが304HM4N型または304M4N型と見なされてもよい。
【0045】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、304HM4Nまたは304M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、これらは高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、これらは一般的な304LM4Nステンレス鋼型と対比するように304HM4NTiまたは304M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された304HM4NNb型または304M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、304HM4NNbTa型または304M4NNbTa型を含んで合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0046】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理(stabilization heat treatment)を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0047】
本明細書で述べられる他の変形および実施形態と同様に、鍛鋼および鋳鋼の304LM4Nステンレス鋼は、溶体化処理した状態(solution annealed condition)で一般的に提供される。しかし、規格および仕様に従って適切な溶接施工法承認(Weld Procedure Qualifications)が事前承認されているならば、組み立てられた部品、組み立てられたモジュール、二次加工品の溶接物は一般的に溶接された状態で提供される。特定の用途に対して、鍛鋼はまた冷間加工された状態で提供されてもよい。
【0048】
・提案された合金元素およびそれらの組成物の効果
多くの場合ステンレス鋼の機械的性質は安価な材料により適合することが出来るので、ステンレス鋼の最も重要な特性の1つは通常はその耐食性であり、耐食性が無くては工業用途はほとんど無いであろう。
【0049】
魅力的な耐食性を確立するのに望ましい合金元素の含有量の変化は、ステンレス鋼の冶金術への著しい効果をもたらすことが出来る。その結果、これは実用的に用いることが出来る物理的特性および機械的特性に影響を及ぼすことができる。高い強度、延性および靱性のような、ある望ましい特性の確立は微細組織の制御に依存し、これは耐食性を達成可能な範囲に治めることが出来る。固溶体中の合金元素、硫化マンガン介在物、および析出物の周りにクロム欠乏層とモリブデン欠乏層を生じて析出することが出来る様々な相の全ては、微細組織、合金の機械的特性および不動態の維持または破壊に重大な影響を有することが出来る。
【0050】
従って、合金が優れた機械的強度特性、優れた延性および靱性、ならびに優れた溶接性および全面腐食と局部腐食に対する耐食性を有するために、合金の元素の最適な組成を導き出すことは極めて興味深いものである。合金組成を作り上げる複雑に入り組んだ冶金変数(metallurgical variables)を考慮すると、また各変数が不動態、微細組織および機械的特性にどのように影響を及ぼすかを考慮すると、これは特に当てはまる。またこれらの知見を新合金開発プログラム、成形加工および熱処理スケジュールに取り入れることも必要である。以下の文で、合金の各元素がどのように最適化されて上述の特性を達成するかを記載する。
【0051】
・クロムの効果
ステンレス鋼はその不動態特性をクロムとの合金化から得る。鉄のクロムとの合金化は主要な不動態化電位を卑の方向(active direction)に動かす。これは順に、不動態電位域を拡大し、不動態電流密度ipassを低減する。塩化物溶液において、ステンレス鋼のクロム含有量の増加は孔食電位Epを上昇させ、それにより不動態電位域を拡大する。従って、クロムは、全面腐食と同様に局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する耐食性を増加させる。フェライト生成元素であるクロムの増加は、ニッケルや、窒素、炭素およびマンガンのような他のオーステナイト生成元素の増加により調和されてもよく、主としてオーステナイトの微細組織を維持する。しかし、モリブデンおよびケイ素と併せられたクロムは、中間相の析出物および有害な析出物に向かう傾向を増加させるかもしれないことがわかっている。従って、実際には、合金の延性、靱性および耐食性能の減少を次々にもたらす可能性がある肉厚部(in thick sections)における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるクロム濃度の最大限度がある。この304LM4Nステンレス鋼は、17.50重量%以上20.00重量%以下のクロム含有量を有するように明示的に成分調整され、最適な結果を達成する。好ましくは、クロム含有量は18.25重量%以上である。
【0052】
・ニッケルの効果
ニッケルが孔食電位Epを貴の方向に移動し、それにより不動態電位域を拡大し、また不動態電流密度ipassを減少することがわかっている。従ってニッケルはオーステナイト系ステンレス鋼内の局部腐食および全面腐食に対する耐食性を増加する。ニッケルはオーステナイト生成元素であり、ニッケル、マンガン、炭素および窒素の濃度は、第1の実施形態において、クロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイトの微細組織を維持する。ニッケルは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。この304LM4Nステンレス鋼は、8.00重量%以上12.00重量%以下のニッケル含有量を有するように明示的に成分調整されているが、好ましくは11.00重量%以下であり、より好ましくは10.00重量%以下である。
【0053】
・モリブデンの効果
特定の濃度のクロム含有量では、モリブデンがオーステナイト系ステンレス鋼の不動態に強い有益な影響を有することが分かっている。モリブデンの添加は孔食電位をより貴の方向に移動させ、それにより不動態電位域を拡大する。モリブデン含有量の増加はまたimaxを下げ、それによりモリブデンは塩化物環境における全面腐食および局部腐食(孔食と隙間腐食)に対する耐食性を向上する。モリブデンはまた、塩化物を含む環境における塩化物応力腐食割れに対する耐食性も向上させる。モリブデンはフェライト生成元素であり、クロムおよびケイ素と同様にモリブデンの濃度は、ニッケル、マンガン、炭素および窒素のようなオーステナイト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイトの微細組織を維持する。しかし、クロムおよびケイ素と併せられたモリブデンは、中間相の析出物および有害な析出物に向かう傾向を増加させるかもしれないことがわかっている。高濃度のモリブデンにおいて、マクロ偏析を起こる可能性があり、特に鋳鋼製品や第一次製品において、このような中間相および有害な析出物の反応速度をさらに増加するかもしれない。時々、タングステンのような他の元素が、合金に要求されるモリブデンの相対量を下げるために、熱中に取り入れられてもよい。そのため、実際には合金の延性、靱性および耐食性能の減少を次々にもたらす可能性がある肉厚部における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるモリブデンの濃度には最大限度がある。この304LM4Nステンレス鋼は、2.00重量%以下のモリブデン含有量を有するように明示的に成分調整されているが、好ましくは0.50重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上である。
【0054】
・窒素の効果
第1の実施形態(およびそれに続く実施形態)において、オーステナイト系ステンレス鋼の耐局部腐食性の最も重要な改良点の1つは、窒素濃度を増加することにより得られる。窒素は孔食電位Epを上昇し、それにより不動態電位域を拡大する。窒素は、不動態保護被膜を修正し、不動態の破壊に対する保護性能を向上する。オージェ電子分光法を用いて、金属-不動態被膜界面の金属側において高い窒素濃度が観察されていることが報告されている1。窒素は炭素と同様に、極めて強いオーステナイト生成元素である。同様に、マンガンおよびニッケルもまた、それほどではないがオーステナイト生成元素である。マンガンやニッケルと同様に、窒素や炭素のようなオーステナイト生成元素の濃度は、これらの実施形態においてクロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素を調和するように最適化され、主としてオーステナイト微細組織を維持する。その結果、オーステナイトにおける拡散率はより小さいので、窒素は間接的に中間相を形成する傾向を制限する。それにより、中間相形成の反応速度は低減される。同様に、オーステナイトが窒素に対して優れた溶解性を有する点を考慮すると、これは、溶接部の溶接金属および熱影響部において、溶接の繰り返しの間、M2X(炭窒化物、窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)やM23C6炭化物のような、有害な析出物を形成する可能性が減少することを意味する。固溶体中の窒素は、304LM4Nステンレス鋼の機械的強度特性の増加の主たる原因であり、一方オーステナイト微細組織が合金の延性、靱性および耐食性能を最適化することを確実にする。しかし窒素は、溶融段階および固溶体中の両方において制限された溶解性を有している。この304LM4Nステンレス鋼は、0.70重量%以下の窒素含有量を有するように明示的に成分調整されているが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらに好ましくは0.45t%以上0.55重量%以下である。
【0055】
・マンガンの効果
マンガンはオーステナイト生成元素であり、当該実施形態において、クロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素と調和するように、マンガン、ニッケル、炭素および窒素の濃度は最適化され、主としてオーステナイト微細組織を維持する。それにより、より高い濃度のマンガンは、溶融段階および固溶体中の両方において、炭素および窒素のより高い溶解性を間接的に可能とし、M2X(炭窒化物、窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)やM23C6炭化物のような、有害な析出物の危険を最小限にする。そのため、窒素の固溶解度を向上させるように特定の濃度までマンガン濃度を増加することは、結果としてオーステナイト系ステンレス鋼の耐局部腐食性能の向上となる。マンガンはまた、ニッケルより費用対効果が高い元素であり、また合金において利用されているニッケルの量が制限されるある濃度まで使用することが可能である。しかし、これは孔食発生に好都合なサイトである硫化マンガン介在物の形成をもたらし、その結果オーステナイト系ステンレス鋼の耐局部孔食性能に悪影響を及ぼすかもしれないのでので、うまく用いることが出来るマンガンのレベルの限度がある。マンガンはまた、有害な析出物と同様に、中間相の析出物に向かう傾向を増加する。従って、実際には合金の延性、靱性および耐食性能の減少を次々にもたらす可能性がある肉厚部における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるマンガンの濃度には最大限度がある。この304LM4Nステンレス鋼は、1.00重量%以上2.00重量%以下、好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下のマンガン含有量を有するように明示的に成分調整されている。マンガン含有量は、窒素に対するマンガンの比率が確実に5.0以下となるように、好ましくは1.42以上5.0以下となるように制御されてもよい。より好ましくは、低マンガン合金ではその比率は1.42以上3.75以下である。2.0重量%以上4.0重量%以下の、好ましくは3.0重量%以下の、より好ましくは2.50重量%以下のマンガンを含み、Nに対するMnの比率が10.0以下であるが、好ましくは2.85以上10.0以下である合金によって、マンガン含有量が特徴付けられてもよい。より好ましくは、高マンガン合金では、その比率は2.85以上7.50以下であり、さらに好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0056】
・硫黄、酸素およびリンの効果
硫黄、酸素およびリンのような不純物は、オーステナイト系ステンレス鋼において、機械的特性ならびに局部腐食(孔食と隙間腐食)および全面腐食に対する耐食性への悪影響をもたらすかもしれない。これは、特定の濃度のマンガンと併せた硫黄が、硫化マンガン介在物の形成を促進するためである。さらに、特定の濃度のアルミニウムまたはケイ素と併せた酸素は、Al2O3またはSi2のような酸化物介在物の形成を促進する。これらの介在物は孔食発生に好都合な部位であり、その結果オーステナイト系ステンレス鋼の耐局部孔食性能、延性および靱性に悪影響を及ぼす。同様にリンは、合金の孔食および隙間腐食に対する耐食性に悪影響を及ぼし、同様にその延性および靱性を低下させる孔食の発生に好都合である、有害な析出物の形成を促進する。さらに硫黄、酸素およびリンは鍛鋼オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性への悪影響、ならびに、特にオーステナイト系ステンレス鋼における鋳鋼物や溶接部の溶接金属の、高温割れおよび低温割れに対する感受性を有する。特定濃度の酸素はまた、オーステナイト系ステンレス鋼鋳鋼物に孔を引き起こすかもしれない。これは、高サイクルの負荷を受ける鋳鋼部品内に潜在的な割れ発生部位を生じるかもしれない。従って、エレクトロスラグ再溶解または真空アーク再溶解やおよび他の製錬技術のような、他の補助的な再溶解技術と併せて行われる電気アーク溶解、誘導融解および真空酸素脱炭またはアルゴン酸素脱炭のような最新の溶融技術が利用され、極めて低い硫黄、酸素およびリン含有量が確実に得られるようにし、鍛鋼ステンレス鋼の熱間加工性を向上し、特に鋳鋼物や溶接部の溶接金属における高温割れおよび低温割れに対する感受性、ならびに孔を低減する。最新の溶融技術はまた、介在物のレベルの減少をもたらす。これは、オーステナイト系ステンレス鋼の清浄度を向上し、従って全体的な耐食性能だけでなく延性および靱性を向上する。この304LM4Nステンレス鋼は、0.010重量%以下の硫黄含有量を有するように明示的に成分調整されているが、好ましくは0.005重量%以下であり、より好ましくは0.003重量%以下であり、さらにより好ましくは0.001重量%以下である。酸素含有量は可能な限り低く、0.070重量%以下に、好ましくは0.050重量%以下に、より好ましくは0.030重量%以下に、さらに好ましくは0.010重量%以下に、さらにより好ましくは0.005重量%以下に制御されている。リン含有量は0.030重量%以下に、好ましくは0.025重量%以下に、より好ましくは0.020重量%以下に、さらに好ましくは0.015重量%以下に、さらにより好ましくは0.010重量%以下に制御されている。
【0057】
・ケイ素の効果
ケイ素は孔食電位を貴の方向に移動し、それにより不動態電位域を拡大する。ケイ素はまた、ステンレス鋼を製造している間のメルトの流動性を向上する。同様に、ケイ素は溶接サイクル中の高温の溶接金属の流動性を向上する。ケイ素はフェライト生成元素であり、クロムやモリブデンと同様にケイ素のレベルは、ニッケル、マンガン、炭素および窒素のようなオーステナイト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイトの微細組織を維持する。0.75重量%から2.00重量%の範囲のケイ素含有量は、高温用途での耐酸化性を向上することができる。しかし、クロムやモリブデンを伴った約1.0重量%より多いケイ素含有量は、中間相の析出物および有害な析出物に向かう傾向を増加するかもしれない。従って、実際には、合金の延性、靱性および耐食性能の減少を次々にもたらす可能性がある肉厚部における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるケイ素の濃度には最大限度がある。この304LM4Nステンレス鋼は、0.75重量%以下の、好ましくは0.25重量%以上0.75重量%以下の、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下のケイ素含有量を有するように明示的に成分調整されている。ケイ素含有量は、改善された耐酸化特性が要求される特定の高温用途に対して、0.75重量%以上2.00重量%以下のケイ素を含む合金によって特徴付けられてもよい。
【0058】
・炭素の効果
炭素は、窒素と同様に極めて強いオーステナイト生成元素である。同様に、マンガンおよびニッケルもそれほどではないがオーステナイト生成元素である。マンガンやニッケルと同様に、炭素および窒素のようなオーステナイト生成元素の濃度は、クロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイト微細組織を維持する。その結果、オーステナイトにおける拡散率がより小さいので、炭素は間接的に中間相を形成する傾向を制限する。それにより、中間相形成の反応速度は低減される。同様に、オーステナイトが炭素に対して優れた溶解性を有する点を考慮すると、これは、溶接部の溶接金属および熱影響部において、溶接の繰り返しの間、M2X(炭窒化物、窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)やM23C6炭化物のような有害な析出物を形成する可能性が減少することを意味する。固溶体中の炭素および窒素は、304LM4Nステンレス鋼の機械的強度特性の増加の主たる原因であり、一方オーステナイト微細組織が合金の延性、靱性および耐食性能を最適化することを確実にする。特性を最適化し、また鍛鋼オーステナイト系ステンレス鋼の優れた熱間加工性を保証するように、炭素含有量は通常は最大で0.030重量%までに制限される。この304LM4Nステンレス鋼は、最大で0.030重量%以下の炭素含有量を有するように明示的に成分調整されているが、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。高炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%以下であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より多く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304LM4Nステンレス鋼の特定の変形、すなわち304HM4Nまたは304M4Nのそれぞれが、意図的に成分調整されている。
【0059】
・ホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよびマグネシウムの効果
ステンレス鋼の熱間加工性は、ホウ素またはセリウムのような他の元素を、離散的な(discrete)量取り入れることによって改良された。ステンレス鋼がセリウムを含む場合、希土類金属(REM)がミッシュメタルとして頻繁にステンレス鋼製造者に供給されるため、ランタンのような他のREMも含むかもしれない。一般的に、ステンレス鋼に存在するホウ素の典型的な残留レベルは、ホウ素を意図的に溶融材に加えることを好まない圧延のために0.0001重量%以上0.0006重量%以下である。304LM4Nステンレス鋼はホウ素を添加せずに作られてもよい。あるいは、304LM4Nステンレス鋼は、具体的には0.001重量%以上0.010重量%以下、好ましくは0.0015重量%以上0.0035重量%以下のホウ素含有量を有して作られてもよい。熱間加工性へのホウ素の有益な効果は、ホウ素が固溶体中に確実に保有されることに起因する。従って、製造と熱処理のサイクルの間に母材の粒界に、または溶接サイクルの間に溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部に、M2X(ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)のような有害な析出物が、微細組織内に確実に析出しないようにすることが必要である。
【0060】
304LM4Nステンレス鋼は、明確に0.10重量%以下の、好ましくは0.01重量%以上0.10重量%以下の、より好ましくは0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウム含有量を有するように作られてもよい。セリウムは、ステンレス鋼内にセリウム酸硫化物を形成して熱間加工性を向上するが、特定のレベルでは材料の耐食性に悪影響を及ぼさない。高炭素の含有量が0.04重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304LM4Nステンレス鋼の変形はまた、0.010重量%以下であるが、好ましくは0.001重量%以上0.010重量%以下であり、より好ましくは0.0015重量%以上0.0035重量%以下のホウ素含有量を有するように、または0.10重量%以下であるが、好ましくは0.01重量%以上0.10重量%以下であり、より好ましくは0.03重量%以上0.08重量%以下のセリウム含有量を明確に有するように作られてもよい。REMの総量が本明細書で規定されるCeの濃度を満たすならば、複数の希土類金属は、個々にまたは併せて、ミッシュメタルとして利用されてもよいことを留意すべきである。304LM4Nステンレス鋼は、特にアルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含むように作られてもよい。これらの元素は、ステンレス鋼を脱酸素および/または脱硫黄するように添加されてもよく、材料の熱間加工性だけでなくその清浄度を向上する。適切な場合、窒化物の析出を抑制するように、アルミニウム含有量は一般的に、0.050重量%以下の、好ましくは0.005重量%以上0.050重量%以下の、より好ましくは0.010重量%以上0.030重量%以下のアルミニウム含有量を有するように制御されている。同様に、カルシウムおよび/またはマグネシウム含有量は一般的には、0.010重量%以下の、好ましくは0.001重量%以上0.010重量%以下の、より好ましくは0.001重量%以上0.005重量%以下のCaおよび/またはMg含有量を有するように制御され、メルト内のスラグの形成の量を制限する。
【0061】
・他の変形
ある用途では、304LM4Nステンレス鋼の他の変形が、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定濃度含んで作られるように成分調整されてもよい。同様に、高炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304LM4Nステンレス鋼の特定の変形、すなわち304HM4Nまたは304M4Nのそれぞれは、意図的に成分調整されている。さらに、高炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304HM4Nまたは304M4Nステンレス鋼の特定の変形、すなわちチタンが安定化された304HM4NTiまたは304M4NTi、ニオブが安定化された304HM4NNbまたは304M4NNb、およびニオブプラスタンタルが安定化された304HM4NNbTaまたは304M4NNbTa合金も意図的に成分調整されている。チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、より高い炭素含有量が要求されるある用途に対して合金を最適化させる。これらの合金元素は、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作るように、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させるように、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよい。
【0062】
・銅の効果
非酸化性媒質における、ステンレス鋼の耐食性におよぼす銅の添加の有益な効果は、周知である。約0.50重量%の銅が添加されると、沸騰する塩酸における活発な溶解速度と、塩化物溶液における隙間腐食損失はともに減少する。1.50重量%以下の銅の添加に伴って、硫酸における耐全面腐食性も向上することが分かっている2。ニッケル、マンガン、炭素および窒素とともに、銅はオーステナイト生成元素である。従って、銅はステンレス鋼の耐局部腐食性能および耐全面腐食性能を向上することが出来る。銅および他のオーステナイト生成元素の濃度は、クロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイトの微細組織を維持する。従って、低銅域の合金では、304LM4Nステンレス鋼の変形は1.50重量%以下の、好ましくは0.50重量%以上1.50重量%以下の、より好ましくは1.00重量%以下の銅含有量を有するように、明示的に選択されている。304LM4Nの銅含有量は、高銅域の合金では3.50重量%以下であるが、好ましくは1.50重量%以上3.50重量%以下の、より好ましくは2.50重量%以下の銅を含む合金によって特徴付けられてもよい。
【0063】
銅は個々に、またはタングステン、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上する。銅は高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0064】
・タングステンの効果
タングステンおよびモリブデンは周期表上でよく似た位置を占有しており、局部腐食(孔食や隙間腐食)に対する耐食性によく似た効力および影響を有する。特定のレベルのクロムおよびモリブデン含有量において、タングステンはオーステナイト系ステンレス鋼の不動態に強力な好影響を有する。タングステンの添加は、孔食電位をより貴の方向に移動し、それにより不動態電位域を拡大する。タングステン含有量の増加はまた、不動態電流密度ipassを低下させる。タングステンは不動態層に存在し、酸化物状態を変更することなく吸着される3。酸塩化物溶液においてタングステンは、溶解してそれから吸着する過程を介するよりむしろ、水との相互作用と不溶性のWO3の形成により、おそらく直接的に金属から不動態被膜内に入る。中性の塩化物溶液において、タングステンの有益な効果はWO3の他の酸化物との相互作用により説明され、結果的に母材への酸化物層の向上した安定性と付着性をもたらす。タングステンは、塩化物環境における全面腐食および局部腐食(孔食と隙間腐食)に対する耐食性を向上する。タングステンはまた、塩化物を含む環境における塩化物応力腐食割れに対する耐食性も向上させる。タングステンはフェライト生成元素であり、クロム、モリブデンおよびケイ素と同様にタングステンの濃度は、ニッケル、マンガン、炭素および窒素のようなオーステナイト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイト微細組織を維持する。しかし、クロム、モリブデンおよびケイ素と併せられたタングステンは、中間相の析出物および有害な析出物に向かう傾向を増加させるかもしれない。そのため、実際には、合金の延性、靱性および耐食性能の減少を次々にもたらす可能性がある肉厚部における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるタングステンの濃度には最大限度がある。従って、この304LM4Nステンレス鋼の変形は、2.00重量%以下の、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下の、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量を有するように、明示的に成分調整されている。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上する。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0065】
・バナジウムの効果
特定のレベルのクロムおよびモリブデン含有量において、バナジウムはオーステナイト系ステンレス鋼の不動態に強力な好影響を有する。バナジウムの添加は、孔食電位をより貴の方向に移動し、それにより不動態電位域を拡大する。バナジウム含有量の増加はまた、imaxを低下させ、それによりモリブデンと併せたバナジウムは、塩化物環境における全面腐食および局部腐食(孔食と隙間腐食)に対する耐食性を向上する。モリブデンと併せたバナジウムはまた、塩化物を含む環境における塩化物応力腐食割れに対する耐食性も向上させる。しかし、クロム、モリブデンおよびケイ素と併せられたバナジウムは、中間相の析出物および有害な析出物に向かう傾向を増加させる可能性がある。バナジウムは、M2X(炭窒化物、窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)やM23C6炭化物のような、有害な析出物を形成する強い傾向を有する。従って、実際には、肉厚部における中間相の形成率を促進することなく、上昇することができるバナジウムのレベルには最大限度がある。バナジウムはまた溶接サイクルの間に、溶接部の溶接金属内および熱影響部にこのような有害な析出物を形成する傾向を増加させる。これらの中間相および有害な相は、次々に合金の延性、靱性および耐食性能の低下をもたらす可能性がある。従って、この304LM4Nステンレス鋼の変形は、0.50重量%以下の、好ましくは0.10重量%以上0.50重量%以下の、より好ましくは0.30重量%以下のバナジウム含有量を有するように、明示的に成分調整されている。バナジウムは個々に、または銅、タングステン、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上する。バナジウムは高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0066】
・チタン、ニオブおよびニオブプラスタンタルの効果
高炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304HM4Nまたは304M4Nステンレス鋼の特定の変形、すなわち304HM4NTiまたは304M4NTiは、チタンが安定化された合金の派生物を有するように、次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
にそれぞれが従うチタン含有量を有するように意図的に成分調整される。チタンが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンは個々に、または銅、タングステン、バナジウムおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の延性、靱性および耐食性能を最適化する。
【0067】
同様に、高炭素含有量が0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満であることが望ましいある用途では、304HM4Nまたは304M4Nステンレス鋼の特定の変形、すなわち304HM4NNbまたは304M4NNbは、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
にそれぞれが従うニオブ含有量を有するように意図的に成分調整される。さらに、合金の他の変形が、ニオブプラスタンタルが安定化された304HM4NNbTaまたは304M4NNbTa型を含むように作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量が次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。ニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは、個々に、または銅、タングステン、バナジウムおよび/またはチタンのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、合金の延性、靱性および耐食性能を最適化する。
【0068】
・耐孔食指数
ステンレス鋼の多数の合金元素が孔食電位を貴の方向に移すことは、前述から明らかである。これらの有益な効果は複雑で相互作用的であり、組成的に生成された孔食抵抗の指標についての経験的関係を利用する試みがされている。最も一般に認められる耐孔食指数の計算に用いられる式は:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
である。本明細書に記載される、40未満のPREN値を有する合金が、“オーステナイト”ステンレス鋼として分類されてよいことは、一般的に認識されている。一方、本明細書に記載される、40より大きく、または40に等しいPREN値を有する合金が、全面腐食および局部腐食に対するその優れた耐食性を示す“スーパーオーステナイト”ステンレス鋼として分類されてもよい。この304LM4Nステンレス鋼は、次の組成:
(i)17.50重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは18.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。304LM4Nステンレス鋼は高い規定の濃度の窒素を有し、25以上のPREN、好ましくは30以上のPRENを有する。結果として、304LM4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有する。このような式の利用に関して、完全に分離している条件がある。式は、耐食性能を向上するタングステンのような他の元素の有益な効果を考慮しない。304LM4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。本明細書に記載される、40未満のPRENW値を有する合金が、“オーステナイト”ステンレス鋼として分類されてよいことは、一般的に認識されている。一方、本明細書に記載される、40より大きく、または40に等しいPRENW値を有する合金が、全面腐食および局部腐食に対するその優れた耐食性を示す“スーパーオーステナイト”ステンレス鋼として分類されてもよい。この304LM4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形は、次の組成:
(i)17.50重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは18.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以下であり、好ましくは0.50重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。304LM4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形は、高い規定の濃度の窒素を有し、かつ27以上、好ましくは32以上のPRENWを有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊に対する微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0069】
・オーステナイトの微細組織
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、第1の実施形態の304LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。
【0070】
溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における304LM4Nの母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、上述のように、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。
【0071】
フェライト相とオーステナイト相を安定化させる元素の相対的な有効性は、[Cr]当量および[Ni]当量の観点から示すことができる。[Cr]当量および[Ni]当量を利用する共同効果(conjoint effect)は、Schaeffler4によって提案された溶接金属の組織を予測する手法を用いて実証されている。Schaeffler4図は、溶接物やチル鋳鋼物のような急速に鋳鋼され、かつ急冷された合金にのみ正確に適用される。しかし、Schaeffler4組織図は、‘母’材の位相バランスの目安を与えることもできる。Schaeffler4は、[Cr]当量および[Ni]当量の観点から示された化学組成に従って、急冷によって作られたステンレス鋼の溶接金属の組織を予測した。Schaeffler4組織図は、次の式:
(1)[Cr]当量=重量%Cr+重量%Mo+1.5×重量%Si+0.5×重量%Nb
(2)[Ni]当量=重量%Ni+30×重量%C+0.5×重量%Mn
に従って、[Cr]当量および[Ni]当量を利用した。
【0072】
しかし、Schaeffler4組織図は、オーステナイトの安定化への窒素の重要な影響を考慮しなかった。従って、Schaeffler4組織図はDeLong5によって修正されており、オーステナイト生成元素としての窒素の重要な影響を取り入れている。DeLong5組織図は、Schaeffler4で利用された式(1)と同じ[Cr]当量の式を利用した。しかし、[Ni]当量は、次の式:
(3)[Ni]当量=重量%Ni+30×重量%(C+N)+0.5×重量%Mn
に従って修正されている。
【0073】
DeLong5組織図は、磁気的に測定されたフェライト含有量と溶接研究評議会(WRC)のフェライト番号の観点からフェライト含有量を示す。フェライト番号とフェライトパーセント(すなわち、6%より大きい値のフェライトパーセント)の違いは、磁気測定を用いたWRCの校正手順および校正曲線に関連している。Schaeffler4組織図と、Schaeffler4組織図を修正したDeLong5組織図との比較をすると、与えられる[Cr]当量と[Ni]当量に対して、DeLong5組織図はより高い(すなわち、約5%高い)フェライト含有量を予測することが明らかになる。
【0074】
Schaeffler4組織図とDeLong5組織図は両方とも、主に溶接部向けに開発されており、従って厳密には‘母’材には当てはまらない。しかしこれらは、存在しそうな相のよい目安となり、異なる合金元素の相対的影響の有益な情報を与える。
【0075】
鋳鋼物のフェライト番号を示すのにSchaeffler4組織図の修正版を利用することが出来ることを、Schoefer6は明らかにしている。これは、Schaeffler4組織図の座標を、ASTM A800/A800M-107を適用して、横軸上にフェライト番号またはフェライトの体積パーセントに変換することにより達成されている。縦軸は、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比として表される。Schoefer6はまた、[Cr]当量と[Ni]当量の因子を、次の式:
(4)[Cr]当量=重量%Cr+1.5×重量%Si+1.4×重量%Mo+重量%Nb-4.99
(5)[Ni]当量=重量%Ni+30×重量%C+0.5×重量%Mn+26×重量%(N-0.02)+2.77
に従って変更した。
【0076】
フェライトを安定させる他の元素が、[Cr]当量の因子に影響を及ぼすようであり、Schoefer
6により採用される式に変形を与えることも示唆される。これらは、本明細書に含まれる合金の変形に関する各[Cr]当量因子を有して指定されている次の元素を含む。
【0077】
同様に、オーステナイトを安定させる他の元素が、[Ni]当量の因子に影響を及ぼすようであり、Schoefer
6により採用される式に変形を与えることも示唆される。これらは、本明細書に含まれる合金の変形に関する各[Ni]当量因子を有して指定されている次の元素を含む。
【0078】
しかし、ASTM A800/A800M-10
7には、Schoefer
6組織図は、次の規定の範囲に従う重量パーセントの合金元素を含むステンレス鋼合金にのみ適用されると記載される。
【0079】
前述から、304LM4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であり、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらに好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下であると推定することが出来る。これは、ASTM A800/A800M-107により採用されるSchoefer6組織図の最大限度を超える。これにもかかわらず、必要に応じてSchoefer6組織図は、高窒素濃度のオーステナイト系ステンレス鋼に存在するフェライト番号またはフェライトの体積パーセントの相対比較を与える。
【0080】
炭素と同様に、窒素は極めて強いオーステナイト生成元素である。同様に、マンガンおよびニッケルもまた、それほどではないがオーステナイト生成元素である。マンガンやニッケルと同様に、窒素および炭素のようなオーステナイト生成元素の濃度は、クロム、モリブデンおよびケイ素のようなフェライト生成元素と調和するように最適化され、主としてオーステナイト微細組織を維持する。その結果、オーステナイトにおける拡散率がより小さいので、窒素は間接的に中間相を形成する傾向を制限する。それにより、中間相形成の反応速度は低減される。同様に、オーステナイトが窒素に対して優れた溶解性を有する点を考慮すると、これは、溶接部の溶接金属および熱影響部において、溶接の繰り返しの間、M2X(炭窒化物、窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物またはホウ炭化物)やM23C6炭化物のような有害な析出物を形成する可能性が減少することを意味する。既に上述したとおり、ステンレス鋼の他の変形は、タングステン、バナジウム、チタン、タンタル、アルミニウムおよび銅のような元素を含んでもよい。
【0081】
従って、溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織が主としてオーステナイト系であることを確実にするように、304LM4Nステンレス鋼は特に開発されている。これは、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素のバランスを最適化することにより制御されている。従って、304LM4Nステンレス鋼の化学分析は、Schoefer6により、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比が確実に、0.40より大きく1.05未満の範囲、好ましくは0.45より大きく0.95未満の範囲となるように、溶融段階で最適化される。
【0082】
その結果、304LM4Nステンレス鋼は、室温で高い強度と延性の特異な組み合わせを示し、一方同時に室温および極低温で優れた靱性を保証する。さらに、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0083】
・最適な化学組成
上述の結果、304LM4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は選択的であり、次のような重量パーセントで含むことが決まっている。
(i)最大で0.030重量%以下であるが、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である炭素含有量;
(ii)低マンガン合金で、5.0以下であり、好ましくは1.42以上5.0以下であるが、より好ましくは1.42以上3.75以下であるNに対するMnの比を有し、2.0重量%以下であるが、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下であるマンガン含有量;
(iii)0.030重量%以下であるが、好ましくは0.025重量%以下であり、より好ましくは0.020重量%以下であり、さらに好ましくは0.015重量%以下であり、さらにより好ましくは、0.010重量%以下であるリン含有量;
(iv)0.010重量%以下であるが、好ましくは0.005重量%以下であり、より好ましくは0.003重量%以下であり、さらにより好ましくは0.001重量%以下である硫黄含有量;
(v)0.070重量%以下であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、より好ましくは0.030重量%以下であり、さらに好ましくは0.010重量%以下であり、さらにより好ましくは0.005重量%以下である酸素含有量;
(vi)0.75重量%以下であるが、好ましくは0.25重量%以上0.75重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であるケイ素含有量;
(vii)17.50重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは18.25重量%以上のクロム含有量;
(viii)8.00重量%以上12.00重量%以下であるが、好ましくは11重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下であるニッケル含有量;
(ix)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上2.00重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以上であるモリブデン含有量;
(x)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量。
【0084】
304LM4Nステンレス鋼は高い規定の濃度の窒素を有し、25以上のPREN、好ましくは30以上のPRENを有する。304LM4Nステンレス鋼の化学分析は、Schoefer6により、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比が確実に、0.40より大きく1.05未満の範囲、好ましくは0.45より大きく0.95未満の範囲となるように、溶融段階で最適化される。
【0085】
304LM4Nステンレス鋼はまた、残部として鉄(Fe)を主に有し、また、残留濃度に存在してもよい他の不純物と同様に、ホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の他の元素を含んでもよい。304LM4Nステンレス鋼はホウ素を添加することなく作られてもよく、ホウ素の残留濃度は一般的にホウ素を意図的に溶融材に加えることを好まない圧延のために0.0001重量%以上0.0006重量%以下である。あるいは、304LM4Nステンレス鋼は、特に0.001重量%以上0.010重量%以下のホウ素を含むように作られてもよく、好ましくは0.0015重量%以上0.0035重量%以下である。セリウムは0.10重量%以下の含有量で添加されてもよく、好ましくは0.01重量%以上0.10重量%以下、より好ましくは0.03重量%以上0.08重量%以下の含有量で添加されてもよい。希土類金属(REM)はミッシュメタルとしてステンレス鋼の製造者に頻繁に供給されるので、ステンレス鋼がセリウムを含む場合、もしかするとランタンのような他のREMを含むかもしれない。希土類金属の総量が本明細書に規定されるCeの濃度に適合するような条件で、希土類金属はミッシュメタルとして個々に、または併せて利用されてもよいことに留意すべきである。アルミニウムは0.050重量%以下の含有量で添加されてもよく、好ましくは0.005重量%以上0.050重量%以下、より好ましくは0.010重量%以上0.030重量%以下の含有量で添加されてもよい。カルシウムおよび/またはマグネシウムは、0.001重量%以上0.01重量%以下の含有量で添加されてもよくいが、好ましくは0.005重量%以下の含有量で添加されてもよい。
【0086】
上述から、鍛鋼の304LM4Nステンレス鋼を用いる用途は、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、304LM4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S30403およびS30453のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことができる。実際に、鍛鋼の304LM4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力と似ている。
【0087】
当然のことながら、鍛鋼304LM4Nステンレス鋼が仕様とされ、かつ利用される場合、より扱いやすく、また製作時間がより必要とされないより薄壁の部品が設計されてもよいので、これは全体の製作および建設費用の節約をもたらすことが出来る。従って、304LM4Nステンレス鋼は、構造的一体性および耐食性が要求される広範囲の工業用途において利用されてもよく、とりわけ海上および陸上の石油およびガス用途に適している。
【0088】
鍛鋼の304LM4Nステンレス鋼は、達成される大幅な減量化および製作時間の短縮に起因して、様々な業界や業種において、天然ガス洋上液化設備(FLNG)の容器に利用される上側の配管系や組み立てられたモジュールのような、広範囲の用途での使用に適しており、大幅な費用の節約を次々にもたらす。304LM4Nステンレス鋼はまた、室温および極低温での優れた靱性を有するだけでなく、高い機械的強度特性および延性を考慮して、洋上FLNGの容器や陸上のLNGプラントに用いられる配管系のような、海上および陸上の両方の用途で利用される配管系として仕様とすることができ、用いられてもよい。
【0089】
304LM4Nオーステナイト系ステンレス鋼に加えて、この明細書において316LM4Nと適宜称される第2の実施形態も提案する。
【0090】
[316LM4N]
316LM4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧30、好ましくはPREN≧35の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。316LM4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。316LM4Nステンレス鋼の化学組成は、選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、16.00重量%-18.00重量%のクロム、10.00重量%-14.00重量%のニッケル、2.00重量%-4.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0091】
316LM4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物、を含んでもよい。その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、316LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、316LM4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。316LM4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧30、好ましくはPREN≧35を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。316LM4Nステンレス鋼はまた、UNS S31603およびUNS S31653のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0092】
316LM4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第2の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められた。
【0093】
・炭素(C)
316LM4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下であるが、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0094】
・マンガン(Mn)
第2の実施形態の316LM4Nステンレス鋼は、2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0095】
低マンガン合金では、316LM4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下であるが、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0096】
高マンガン合金では、316LM4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限値が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限値は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0097】
・リン(P)
316LM4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、316LM4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0098】
・硫黄(S)
316LM4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、316LM4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0099】
・酸素(O)
316LM4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第2の実施形態において、316LM4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、316LM4N合金は0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0100】
・ケイ素(Si)
316LM4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0101】
・クロム(Cr)
316LM4Nステンレス鋼のクロム含有量は、16.00重量%以上18.00重量%以下である。好ましくは、合金は17.25重量%以上のクロム含む。
【0102】
・ニッケル(Ni)
316LM4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、10.00重量%以上14.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は13.00重量%以下であり、より好ましくは12.00重量%以下である。
【0103】
・モリブデン(Mo)
316LM4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は、2.00重量%以上4.00重量%以下である。好ましくは、モリブデン含有量の下限は3.0重量%以上である。
【0104】
・窒素(N)
316LM4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、316LM4N合金は0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0105】
・PREN
耐孔食指数(PREN)は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。316LM4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)16.00重量%以上18.00重量%以下であるが、好ましくは17.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以上4.00重量%以下であるが、好ましくは3.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0106】
高濃度の窒素を伴って、316LM4Nステンレス鋼はPREN≧30を達成し、好ましくはPREN≧35を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。316LM4Nステンレス鋼はまた、UNS S31603およびUNS S31653のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0107】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、316LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0108】
316LM4Nステンレス鋼はまた、残部として鉄(Fe)を主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0109】
第2の実施形態に従う316LM4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31603の機械的強度特性との比較は、316LM4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31603の規定の降伏強さよりも2.5倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、新規かつ革新的な316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31653の機械的強度特性との比較は、316LM4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31653の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。
【0110】
第2の実施形態に従う316LM4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31603の機械的強度特性との比較は、316LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31603の規定の降伏強さよりも1.5倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31653の機械的強度特性との比較は、316LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31653の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、新規かつ革新的な316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、316LM4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ている。そのため、316LM4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31603およびUNS S31653のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ている。
【0111】
これは、鍛鋼の316LM4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、316LM4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31603およびS31653のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の316LM4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力と似ている。
【0112】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、316LM4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。316LM4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、316LM4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0113】
・タングステン(W)
316LM4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。316LM4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この316LM4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)16.00重量%以上18.00重量%以下であるが、好ましくは17.25重量%以上のクロム含有量;
(ii)2.00重量%以上4.00重量%以下であるが、好ましくは3.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整される。316LM4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧32であるが、好ましくはPRENW≧37である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0114】
・炭素(C)
ある用途に対しては、316LM4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、316LM4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。316LM4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが316HM4N型または316M4N型と見なされてもよい。
【0115】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、316HM4Nまたは316M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な316LM4Nステンレス鋼型と対比するように316HM4NTiまたは316M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された316HM4NNb型または316M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、316HM4NNbTa型または316M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0116】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0117】
本明細書で述べられる他の変形や実施形態と同様に、316LM4Nステンレス鋼の鍛鋼および鋳鋼は、溶体化処理した状態の溶体で一般的に供給される。しかし、次のそれぞれが規格および仕様に従って適切な溶接施工法承認が事前承認されているならば、組み立てられた部品、組み立てられたモジュール、二次加工品の溶接物は一般的に溶接したままの状態で供給される。特定の用途に対して、鍛鋼はまた冷間加工状態で供給されてもよい。
【0118】
当然のことながら、304LM4Nに関して上述した様々な元素およびそれらの組成物の効果は、316LM4N(および、後述する他の実施形態)にも適用することができ、316LM4Nステンレス鋼(および後の実施形態)についてどのように最適な化学組成が得られるかが理解される。
【0119】
304LM4Nオーステナイト系ステンレス鋼や316LM4Nオーステナイト系ステンレス鋼に加えて、この明細書において317L57M4Nと適宜称される第3の実施形態も提案する。
【0120】
[317L57M4N]
317L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧40、好ましくはPREN≧45の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。317L57M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。317L57M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、18.00重量%-20.00重量%のクロム、11.00重量%-15.00重量%のニッケル、5.00重量%-7.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0121】
317L57M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0122】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、317L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、317L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。317L57M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧40、好ましくはPREN≧45を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。317L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0123】
317L57M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第3の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0124】
・炭素(C)
317L57M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0125】
・マンガン(Mn)
第3の実施形態の317L57M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0126】
低マンガン合金では、317L57M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0127】
高マンガン合金では、317L57M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0128】
・リン(P)
317L57M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、317L57M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0129】
・硫黄(S)
第3の実施形態の317L57M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、317L57M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0130】
・酸素(O)
317L57M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第3の実施形態において、317L57M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、317L57M4N合金は0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0131】
・ケイ素(Si)
317L57M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0132】
・クロム(Cr)
317L57M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、18.00重量%以上20.00重量%以下である。好ましくは、合金は19.00重量%以上のクロム含む。
【0133】
・ニッケル(Ni)
317L57M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、11.00重量%以上15.00重量%以下である。低ニッケル域合金では、好ましくは、合金のNiの上限は14.00重量%以下であり、より好ましくは13.00重量%以下である。
【0134】
高ニッケル域合金では、317L57M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、13.50重量%以上17.50重量%以下であってもよい。好ましくは、Niの上限は16.50重量%以下であり、より好ましくは15.50重量%以下である。
【0135】
・モリブデン(Mo)
317L57M4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、6.00重量%以上である。言い換えれば、モリブデンは最大で7.00重量%である。
【0136】
・窒素(N)
317L57M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、317L57M4N合金は0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0137】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。317L57M4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)18.00重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは19.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは6.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0138】
高濃度の窒素を伴って、317L57M4Nステンレス鋼はPREN≧40を達成し、好ましくはPREN≧45を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。317L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0139】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、317L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0140】
317L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0141】
第3の実施形態に従う317L57M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、新規で革新的な317L57M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、317L57M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。
【0142】
第3の実施形態に従う317L57M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、317L57M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、新規で革新的な317L57M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、317L57M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、表2における22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ている。そのため、317L57M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さと似ている。
【0143】
これは、鍛鋼の317L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、317L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703およびS31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の317L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0144】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、317L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。317L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、317L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0145】
・タングステン(W)
317L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。317L57M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この317L57M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)18.00重量%以上20.00重量%以下であるが、好ましくは19.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは6.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整される。
【0146】
317L57M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧42であるが、好ましくはPRENW≧47である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0147】
・炭素(C)
ある用途に対しては、317L57M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、317L57M4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。317L57M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが317H57M4N型または31757M4N型である。
【0148】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、317H57M4Nまたは31757M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な317L57M4Nステンレス鋼型と対比するように317H57M4NTiまたは31757M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された317H57M4NNb型または31757M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、317H57M4NNbTa型または31757M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0149】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0150】
鍛鋼および鋳鋼の317L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0151】
さらに、317L35M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第4の実施形態である。317L35M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に317L57M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみ記載する。
【0152】
[317L35M4N]
上述のとおり、317L35M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第3の実施形態である317L57M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。317L57M4Nステンレス鋼では、モリブデン含有量は5.00重量%から7.00重量%の範囲である。その一方、317L35M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、3.00重量%から5.00重量%の範囲である。言い換えると、317L35M4Nは、317L57M4Nステンレス鋼の低モリブデン型と見なしてもよい。
【0153】
当然のことながら317L57M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0154】
・モリブデン(Mo)
317L35M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。言い換えると、317L35M4Nのモリブデン含有量は最大で5.00重量%である。
【0155】
・PREN
317L35M4Nの耐孔食指数は317L57M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは35以上であり、好ましくは40以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。317L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0156】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、317L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、317L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0157】
317L57M4Nのように、317L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は317L57M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0158】
第4の実施形態の317L35M4Nステンレス鋼は、317L57M4Nステンレス鋼と同等の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼317L35M4Nの強度特性も、317L57M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の317L57M4Nの文章に記載する。317L35M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および317L35M4NとUNS S31753との鍛鋼機械的強度特性との比較は、317L57M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、317L35M4Nの引張特性の比較は、317L57M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0159】
これは、鍛鋼の317L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、317L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703およびS31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の317L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0160】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、317L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。317L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は317L57M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、317L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0161】
・タングステン(W)
317L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は317L57M4Nのタングステン含有量と同様であり、317L57M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された317L35M4Nの耐孔食指数、PRENWは37以上であり、好ましくは42以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。317L57M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、317L35M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0162】
さらに、317L35M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、317H35M4Nおよび31735M4Nと呼ばれ、上述の317H57M4Nおよび31757M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は317H35M4Nよび31735M4Nについても適用することが出来る。
【0163】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、317H35M4Nまたは31735M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な317L35M4Nステンレス鋼型と対比するように317H35M4NTiまたは31735M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された317H35M4NNb型または31735M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、317H35M4NNbTa型または31735M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0164】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0165】
鍛鋼および鋳鋼の317L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0166】
さらに、本明細書で312L35M4Nと適宜称されるさらなる変形が提案され、これは本発明の第5の実施形態である。
【0167】
[312L35M4N]
312L35M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧37、好ましくはPREN≧42の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。312L35M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性に加えて優れた延性と靱性とを備える高い機械的強度特性と、全面腐食と局部腐食に対する良好な耐食性との特異な組み合わせを有するように成分調整されている。312L35M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、20.00重量%-22.00重量%のクロム、15.00重量%-19.00重量%のニッケル、3.00重量%-5.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0168】
312L35M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0169】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、312L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、312L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。312L35M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧37、好ましくはPREN≧42を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。312L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0170】
312L35M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第5の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0171】
・炭素(C)
312L35M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0172】
・マンガン(Mn)
第5の実施形態の312L35M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0173】
低マンガン合金では、312L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0174】
高マンガン合金では、312L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0175】
・リン(P)
312L35M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、312L35M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0176】
・硫黄(S)
第5の実施形態の312L35M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、312L35M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0177】
・酸素(O)
312L35M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第5の実施形態において、312L35M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、312L35M4Nは0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0178】
・ケイ素(Si)
312L35M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0179】
・クロム(Cr)
312L35M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、20.00重量%以上22.00重量%以下である。好ましくは、合金は21.00重量%以上のクロム含む。
【0180】
・ニッケル(Ni)
312L35M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、15.00重量%以上19.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は18.00重量%以下であり、より好ましくは17.00重量%以下である。
【0181】
・モリブデン(Mo)
312L35M4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。言い換えれば、モリブデンは最大で5.00重量%である。
【0182】
・窒素(N)
312L35M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、312L35M4N合金は0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0183】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。312L35M4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)20.00重量%以上22.00重量%以下であるが、好ましくは21.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0184】
高濃度の窒素を伴って、312L35M4Nステンレス鋼はPREN≧37を達成し、好ましくはPREN≧42を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。312L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0185】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、312L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0186】
312L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0187】
第5の実施形態に従う312L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、新規で革新的な312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753との機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31254との機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31254の規定の降伏強さよりも1.38倍高いかもしれないことを示唆する。
【0188】
第5の実施形態に従う312L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31254の機械的強度特性との比較は、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31254の規定の降伏強さよりも1.14倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、312L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。そのため、312L35M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703、UNS S31753およびUNS S31254のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。
【0189】
これは、鍛鋼の312L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、312L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS31254のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の312L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0190】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、312L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。312L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、312L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0191】
・タングステン(W)
312L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。312L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この312L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)20.00重量%以上22.00重量%以下であるが、好ましくは21.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整される。
【0192】
312L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧39であるが、好ましくはPRENW≧44である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0193】
・炭素(C)
ある用途に対しては、312L35M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、312L35M4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。312L35M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが312H35M4N型または31235M4N型である。
【0194】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、312H35M4Nまたは31235M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な312L35M4Nステンレス鋼型と対比するように312H35M4NTiまたは31235M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された312H35M4NNb型または31235M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、312H35M4NNbTa型または31235M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0195】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0196】
鍛鋼および鋳鋼の312L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0197】
さらに、312L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第6の実施形態である。312L57M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に312L35M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみを記載する。
【0198】
[312L57M4N]
上述のとおり、312L57M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第5の実施形態である312L35M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。312L35M4Nでは、モリブデン含有量は3.00重量%から5.00重量%の範囲である。その一方、312L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%から7.00重量%の範囲である。言い換えると、312L57M4Nは、312L35M4Nステンレス鋼の高モリブデン型と見なしてもよい。
【0199】
当然のことながら312L35M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0200】
・モリブデン(Mo)
312L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは6.00重量%以上である。言い換えると、312L57M4Nのモリブデン含有量は最大で7.00重量%である。
【0201】
・PREN
312L57M4Nの耐孔食指数は312L35M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは43以上であり、好ましくは48以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。312L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0202】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、312L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、312L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0203】
312L35M4Nの実施形態のように、312L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は312L35M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0204】
第6の実施形態の312L57M4Nステンレス鋼は、312L35M4Nステンレス鋼と同等または類似の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼312L57M4Nの強度特性も、312L35M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の312L35M4Nの文章に記載する。312L57M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および312L57M4NとUNS S31753/UNS S31254との鍛鋼の機械的強度特性との比較は、312L35M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、312L57M4Nの引張特性の比較は、312L35M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0205】
これは、鍛鋼の312L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、312L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31254およびS31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の312L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0206】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、312L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。312L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は312L35M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、312L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0207】
・タングステン(W)
312L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は312L35M4Nのタングステン含有量と同様であり、312L35M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された312L57M4Nの耐孔食指数、PRENWは45以上であり、好ましくは50以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。312L35M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、312L57M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0208】
さらに、312L57M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、312H57M4Nおよび31257M4Nと呼ばれ、上述の312H35M4Nおよび31235M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は312H57M4Nよび31257M4Nについても適用することが出来る。
【0209】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、312H57M4Nまたは31257M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な312L57M4Nステンレス鋼型と対比するように312H57M4NTiまたは31257M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された312H57M4NNb型または31257M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、312H57M4NNbTa型または31257M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0210】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0211】
鍛鋼および鋳鋼の312L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0212】
さらに、本明細書で320L35M4Nと適宜称されるさらなる変形が提案され、これは本発明の第7の実施形態である。
【0213】
[320L35M4N]
320L35M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧39、好ましくはPREN≧44の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。320L35M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。320L35M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、22.00重量%-24.00重量%のクロム、17.00重量%-21.00重量%のニッケル、3.00重量%-5.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0214】
320L35M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0215】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、320L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、320L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。320L35M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧39、好ましくはPREN≧44を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。320L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0216】
320L35M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第7の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0217】
・炭素(C)
320L35M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0218】
・マンガン(Mn)
第7の実施形態の320L35M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0219】
低マンガン合金では、320L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0220】
高マンガン合金では、320L35M4Nのマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0221】
・リン(P)
320L35M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、320L35M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0222】
・硫黄(S)
第7の実施形態の320L35M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、320L35M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0223】
・酸素(O)
320L35M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第7の実施形態において、320L35M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、320L35M4Nは0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0224】
・ケイ素(Si)
320L35M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0225】
・クロム(Cr)
320L35M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、22.00重量%以上24.00重量%以下である。好ましくは、合金は23.00重量%以上のクロム含む。
【0226】
・ニッケル(Ni)
320L35M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、17.00重量%以上21.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は20.00重量%以下であり、より好ましくは19.00重量%以下である。
【0227】
・モリブデン(Mo)
320L35M4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。
【0228】
・窒素(N)
320L35M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、320L35M4Nは0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0229】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。320L35M4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)22.00重量%以上24.00重量%以下であるが、好ましくは23.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0230】
高濃度の窒素を伴って、320L35M4Nステンレス鋼はPREN≧39を達成し、好ましくはPREN≧44を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。320L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0231】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、320L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0232】
320L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0233】
第7の実施形態に従う320L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753との機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S32053との機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S32053の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。
【0234】
第7の実施形態に従う320L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S32053の機械的強度特性との比較は、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S32053の規定の降伏強さよりも1.17倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、320L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、320L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。そのため、新規で革新的な320L35M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703、UNS S31753およびUNS S32053のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。
【0235】
これは、鍛鋼の320L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、320L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS32053のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の320L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0236】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、320L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。320L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、320L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0237】
・タングステン(W)
320L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。320L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この320L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)22.00重量%以上24.00重量%以下であるが、好ましくは23.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0238】
320L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧41であるが、好ましくはPRENW≧46である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0239】
・炭素(C)
ある用途に対しては、320L35M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、320L35M4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。320L35M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが320H35M4N型または32035M4N型である。
【0240】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、320H35M4Nまたは32035M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な320L35M4N型と対比するように320H35M4NTiまたは32035M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された320H35M4NNb型または32035M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、320H35M4NNbTa型または32035M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0241】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0242】
鍛鋼および鋳鋼の320L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0243】
さらに、320L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第8の実施形態である。320L57M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に320L35M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみ記載する。
【0244】
[320L57M4N]
上述のとおり、320L57M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第7の実施形態である320L35M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。320L35M4Nでは、モリブデン含有量は3.00重量%から5.00重量%の範囲である。その一方、320L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%から7.00重量%の範囲である。言い換えると、320L57M4Nは、320L35M4Nステンレス鋼の高モリブデン型と見なしてもよい。
【0245】
当然のことながら320L35M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0246】
・モリブデン(Mo)
320L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは6.00重量%以上である。言い換えると、320L57M4Nのモリブデン含有量は最大で7.00重量%である。
【0247】
・PREN
320L57M4Nの耐孔食指数は320L35M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは45以上であり、好ましくは50以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。320L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0248】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、320L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、320L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0249】
320L35M4Nの実施形態のように、320L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は320L35M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0250】
第8の実施形態の320L57M4Nステンレス鋼は、320L35M4Nステンレス鋼と同等の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼320L57M4Nの強度特性も、320L35M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の320L35M4Nの文章に記載する。320L57M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および320L57M4NとUNS S31753/UNS S32053との鍛鋼の機械的強度特性との比較は、320L35M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、320L57M4Nの引張特性の比較は、320L35M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0251】
これは、鍛鋼の320L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、320L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S32053およびS31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の320L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0252】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、320L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。320L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は320L35M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、320L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0253】
・タングステン(W)
320L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は320L35M4Nのタングステン含有量と同様であり、320L35M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された320L57M4Nの耐孔食指数、PRENWは47以上であり、好ましくは52以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。320L35M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、320L57M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0254】
さらに、320L57M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、320H57M4Nおよび32057M4Nと呼ばれ、上述の320H35M4Nおよび32035M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は320H57M4Nよび32057M4Nについても適用することが出来る。
【0255】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、320H57M4Nまたは32057M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な320L57M4Nと対比するように320H57M4NTiまたは32057M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された320H57M4NNb型または32057M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、320H57M4NNbTa型または32057M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0256】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0257】
鍛鋼および鋳鋼の320L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0258】
さらに、本明細書で326L35M4Nと適宜称されるさらなる変形が提案され、これは本発明の第9の実施形態である。
【0259】
[326L35M4N]
326L35M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧42、好ましくはPREN≧47の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。326L35M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。326L35M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、24.00重量%-26.00重量%のクロム、19.00重量%-23.00重量%のニッケル、3.00重量%-5.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0260】
326L35M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0261】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、326L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、326L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。326L35M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧42、好ましくはPREN≧47を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。326L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0262】
326L35M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第9の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0263】
・炭素(C)
326L35M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0264】
・マンガン(Mn)
第9の実施形態の326L35M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0265】
低マンガン合金では、326L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0266】
高マンガン合金では、326L35M4Nのマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくはより高いマンガン域の合金で2.85以上6.25以下である。
【0267】
・リン(P)
326L35M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、326L35M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0268】
・硫黄(S)
第9の実施形態の326L35M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、326L35M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0269】
・酸素(O)
326L35M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第9の実施形態において、326L35M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、326L35M4Nは0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0270】
・ケイ素(Si)
326L35M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0271】
・クロム(Cr)
326L35M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、24.00重量%以上26.00重量%以下である。好ましくは、合金は25.00重量%以上のクロム含む。
【0272】
・ニッケル(Ni)
326L35M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、19.00重量%以上23.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は22.00重量%以下であり、より好ましくは21.00重量%以下である。
【0273】
・モリブデン(Mo)
326L35M4Nステンレス鋼合金のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。
【0274】
・窒素(N)
326L35M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、326L35M4Nは0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0275】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。326L35M4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)24.00重量%以上26.00重量%以下であるが、好ましくは25.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0276】
高濃度の窒素を伴って、326L35M4Nステンレス鋼はPREN≧42を達成し、好ましくはPREN≧47を達成する。これは、広範囲の処理環境において、合金が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。326L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0277】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、326L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0278】
326L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0279】
第9の実施形態に従う326L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753との機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S32615との機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S32615の規定の降伏強さよりも1.95倍高いかもしれないことを示唆する。
【0280】
第9の実施形態に従う326L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S32615の機械的強度特性との比較は、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S32615の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、326L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。そのため、326L35M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703、UNS S31753およびUNS S32615のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。
【0281】
これは、鍛鋼の326L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、326L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS32615のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の326L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0282】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、326L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。326L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、326L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0283】
・タングステン(W)
326L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。326L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この326L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)24.00重量%以上26.00重量%以下であるが、好ましくは25.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0284】
326L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧44であるが、好ましくはPRENW≧49である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0285】
・炭素(C)
ある用途に対しては、326L35M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、326L35M4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。326L35M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが326H35M4N型または32635M4N型である。
【0286】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、326H35M4Nまたは32635M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な326L35M4N型と対比するように326H35M4NTiまたは32635M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された326H35M4NNb型または32635M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、326H35M4NNbTa型または32635M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0287】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0288】
鍛鋼および鋳鋼の326L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0289】
さらに、326L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第10の実施形態である。326L57M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に326L35M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみ記載する。
【0290】
[326L57M4N]
上述のとおり、326L57M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第9の実施形態である326L35M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。326L35M4Nでは、モリブデン含有量は3.00重量%から5.00重量%の範囲である。その一方、326L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%から7.00重量%の範囲である。言い換えると、326L57M4Nは、326L35M4Nステンレス鋼の高モリブデン型と見なしてもよい。
【0291】
当然のことながら326L35M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0292】
・モリブデン(Mo)
326L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは6.00重量%以上7.00重量%以下であり、より好ましくは6.50重量%以上である。言い換えると、326L57M4Nのモリブデン含有量は最大で7.00重量%である。
【0293】
・PREN
326L57M4Nの耐孔食指数は326L35M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは48.5以上であり、好ましくは53.5以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。326L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0294】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、326L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、326L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0295】
326L35M4Nの実施形態のように、326L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は326L35M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0296】
第10の実施形態の326L57M4Nステンレス鋼は、326L35M4Nステンレス鋼と同等の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼326L57M4Nの強度特性も、326L35M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の326L35M4Nの文章に記載する。326L57M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および326L57M4NとUNS S31753/UNS S32615との鍛鋼の機械的強度特性との比較は、326L35M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、326L57M4Nの引張特性の比較は、326L35M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0297】
これは、鍛鋼の326L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、326L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS32615のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の326L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0298】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、326L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。326L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は326L35M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、326L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0299】
・タングステン(W)
326L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は326L35M4Nのタングステン含有量と同様であり、326L35M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された326L57M4Nの耐孔食指数、PRENWは50.5以上であり、好ましくは55.5以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。326L35M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、326L57M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0300】
さらに、326L57M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、326H57M4Nおよび32657M4Nと呼ばれ、上述の326H35M4Nおよび32635M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は326H57M4Nよび32657M4Nについても適用することが出来る。
【0301】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、326H57M4Nまたは32657M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な326L57M4Nと対比するように326H57M4NTiまたは32657M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された326H57M4NNb型または32657M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、326H57M4NNbTa型または32657M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0302】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0303】
鍛鋼および鋳鋼の326L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0304】
さらに、本明細書で351L35M4Nと適宜称されるさらなる変形が提案され、これは本発明の第11の実施形態である。
【0305】
[351L35M4N]
351L35M4Nステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧44、好ましくはPREN≧49の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。351L35M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。351L35M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、最大ですなわち0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、26.00重量%-28.00重量%のクロム、21.00重量%-25.00重量%のニッケル、3.00重量%-5.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0306】
351L35M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0307】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、351L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、351L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。351L35M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧44、好ましくはPREN≧49を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。351L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0308】
351L35M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第11の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0309】
・炭素(C)
351L35M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0310】
・マンガン(Mn)
第11の実施形態の351L35M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0311】
低マンガン合金では、351L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0312】
高マンガン合金では、351L35M4Nのマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0313】
・リン(P)
351L35M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、351L35M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0314】
・硫黄(S)
第11の実施形態の351L35M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、351L35M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0315】
・酸素(O)
351L35M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第11の実施形態において、351L35M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、351L35M4Nは0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0316】
・ケイ素(Si)
351L35M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0317】
・クロム(Cr)
351L35M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、26.00重量%以上28.00重量%以下である。好ましくは、合金は27.00重量%以上のクロム含む。
【0318】
・ニッケル(Ni)
351L35M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、21.00重量%以上25.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は24.00重量%以下であり、より好ましくは23.00重量%以下である。
【0319】
・モリブデン(Mo)
351L35M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。
【0320】
・窒素(N)
351L35M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、351L35M4Nは0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0321】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。351L35M4Nステンレス鋼は次の組成:
(i)26.00重量%以上28.00重量%以下であるが、好ましくは27.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0322】
高濃度の窒素を伴って、351L35M4Nステンレス鋼はPREN≧44を達成し、好ましくはPREN≧49を達成する。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。351L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0323】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、351L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0324】
351L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0325】
第11の実施形態に従う351L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753との機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S35115との機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S35115の規定の降伏強さよりも1.56倍高いかもしれないことを示唆する。
【0326】
第11の実施形態に従う351L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S35115の機械的強度特性との比較は、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S35115の規定の降伏強さよりも1.28倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、351L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。そのため、351L35M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703、UNS S31753およびUNS S35115のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。
【0327】
これは、鍛鋼の351L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、351L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS35115のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の351L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0328】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、351L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。351L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、351L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0329】
・タングステン(W)
351L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。351L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この351L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)26.00重量%以上28.00重量%以下であるが、好ましくは27.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0330】
351L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧46であるが、好ましくはPRENW≧51である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0331】
・炭素(C)
ある用途に対しては、351L35M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、351L35M4Nステンレス鋼の炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。351L35M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが351H35M4N型または35135M4N型である。
【0332】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、351H35M4Nまたは35135M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な351L35M4Nと対比するように351H35M4NTiまたは35135M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された351H35M4NNb型または35135M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、351H35M4NNbTa型または35135M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0333】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0334】
鍛鋼および鋳鋼の351L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0335】
さらに、351L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第12の実施形態である。351L57M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に351L35M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみ記載する。
【0336】
[351L57M4N]
上述のとおり、351L57M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第11の実施形態である351L35M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。351L35M4Nでは、モリブデン含有量は3.00重量%から5.00重量%の範囲である。その一方、351L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%から7.00重量%の範囲である。言い換えると、351L57M4Nは、351L35M4Nステンレス鋼の高モリブデン型と見なしてもよい。
【0337】
当然のことながら351L35M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0338】
・モリブデン(Mo)
351L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは5.50重量%以上6.50重量%以下であり、より好ましくは6.00重量%以上である。言い換えると、351L57M4Nのモリブデン含有量は最大で7.00重量%である。
【0339】
・PREN
351L57M4Nの耐孔食指数は351L35M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは50.5以上であり、好ましくは55.5以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。351L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0340】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、351L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、351L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0341】
351L35M4Nの実施形態のように、351L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は351L35M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0342】
第12の実施形態の351L57M4Nステンレス鋼は、351L35M4Nステンレス鋼と同等の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼351L57M4Nの強度特性も、351L35M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の351L35M4Nの文章に記載する。351L57M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および351L57M4NとUNS S31753/UNS S35115との鍛鋼の機械的強度特性との比較は、351L35M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、351L57M4Nの引張特性の比較は、351L35M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0343】
これは、鍛鋼の351L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、351L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS35115のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の351L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0344】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、351L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。351L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は351L35M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、351L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0345】
・タングステン(W)
351L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は351L35M4Nのタングステン含有量と同様であり、351L35M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された351L57M4Nの耐孔食指数、PRENWは52.5以上であり、好ましくは57.5以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。351L35M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、351L57M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0346】
さらに、351L57M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、351H57M4Nおよび35157M4Nと呼ばれ、上述の351H35M4Nおよび35135M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は351H57M4Nよび35157M4Nについても適用することが出来る。
【0347】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、351H57M4Nまたは35157M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な351L57M4Nと対比するように351H57M4NTiまたは35157M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された351H57M4NNb型または35157M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、351H57M4NNbTa型または35157M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0348】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0349】
鍛鋼および鋳鋼の351L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0350】
さらに、本明細書で353L35M4Nと適宜称されるさらなる変形が提案され、これは本発明の第13の実施形態である。
【0351】
[353L35M4N]
353L35M4Nステンレス鋼は、高レベルの窒素を含み、またPREN≧46、好ましくはPREN≧51の耐孔食指数を含む。PRENによって表される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
に従って計算される。353L35M4Nステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。353L35M4Nステンレス鋼の化学組成は選択的であり、次のような重量パーセント、すなわち最大で0.030重量%の炭素、最大で2.00重量%のマンガン、最大で0.030重量%のリン、最大で0.010重量%の硫黄、最大で0.75重量%のケイ素、28.00重量%-30.00重量%のクロム、23.00重量%-27.00重量%のニッケル、3.00重量%-5.00重量%のモリブデン、および0.40重量%-0.70重量%の窒素、の化学元素の合金によって特徴付けられる。
【0352】
353L35M4Nステンレス鋼はまた、残部として主にFeを含み、またごく少量の他の元素、例えば最大で0.010重量%のホウ素、最大で0.10重量%のセリウム、最大で0.050重量%のアルミニウム、最大で0.01重量%のカルシウム、および/または最大で0.01重量%のマグネシウム、ならびに残部に通常存在する他の不純物を含んでもよい。
【0353】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内のオーステナイトの微細組織を主に保証するように、353L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として合金がオーステナイト系であることを確実にする。結果として、353L35M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。353L35M4Nステンレス鋼の化学分析が、PREN≧46、好ましくはPREN≧51を保証するように調整される事実を考慮すると、これはこの材料が、広範囲の処理環境において全面腐食および局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する良好な耐食性も有することを保証する。353L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。
【0354】
353L35M4Nステンレス鋼の最適な化学組成範囲は、第13の実施形態に基づいて以下の化学元素を以下のとおりの重量パーセントで含むように注意深く選択されることが決められている。
【0355】
・炭素(C)
353L35M4Nステンレス鋼の炭素含有量は、最大で0.030重量%以下である。炭素の含有量は、好ましくは0.020重量%以上0.030重量%以下であり、より好ましくは0.025重量%以下である。
【0356】
・マンガン(Mn)
第13の実施形態の353L35M4Nステンレス鋼は2つのバリエーション、すなわち低マンガンと高マンガンの形式があってもよい。
【0357】
低マンガン合金では、353L35M4Nステンレス鋼のマンガン含有量は、2.0重量%以下である。マンガン含有量は、好ましくは1.0重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましくは1.20重量%以上1.50重量%以下である。このような組成では、Nに対するMnの最適な比率である5.0以下を達成し、好ましくは1.42以上5.0以下である。より好ましくは、この比率は1.42以上3.75以下である。
【0358】
高マンガン合金では、353L35M4Nのマンガン含有量は、4.0重量%以下である。好ましくは、マンガン含有量は2.0重量%以上4.0重量%以下であり、より好ましくは上限が3.0重量%以下である。さらにより好ましくは、上限は2.50重量%以下である。このような選択範囲では、Nに対するMnの比率は10.0以下を達成し、好ましくは2.85以上10.0以下である。より好ましくは、高マンガン合金でのNに対するMnの比率は2.85以上7.50以下であり、さらにより好ましくは2.85以上6.25以下である。
【0359】
・リン(P)
353L35M4Nステンレス鋼のリン含有量は0.030重量%以下に制御されている。好ましくは、353L35M4N合金は0.025重量%以下のリンを含み、より好ましくは0.020重量%以下のリンを含む。さらに好ましくは、合金は0.015重量%以下のリンを含み、さらにより好ましくは0.010重量%以下のリンを含む。
【0360】
・硫黄(S)
第13の実施形態の353L35M4Nステンレス鋼の硫黄含有量は0.010重量%以下である。好ましくは、353L35M4Nは0.005重量%以下の硫黄を含み、より好ましくは0.003重量%以下の硫黄、さらに好ましくは0.001重量%以下の硫黄を含む。
【0361】
・酸素(O)
353L35M4Nステンレス鋼の酸素含有量は可能な限り低く制御され、第13の実施形態において、353L35M4Nは0.070重量%以下の酸素を含む。好ましくは、353L35M4Nは0.050重量%以下の酸素、より好ましくは0.030重量%以下の酸素を含む。さらに好ましくは、合金は0.010重量%以下の酸素を含み、さらにより好ましくは0.005重量%以下の酸素を含む。
【0362】
・ケイ素(Si)
353L35M4Nステンレス鋼のケイ素含有量は、0.75重量%以下である。好ましくは、合金は0.25重量%以上0.75重量%以下のケイ素を含む。より好ましくは、ケイ素含有量の範囲は0.40重量%以上0.60重量%以下である。しかし、向上した耐酸化性が要求されるより高い温度の用途のためには、ケイ素含有量は0.75重量%以上2.00重量%以下であってもよい。
【0363】
・クロム(Cr)
353L35M4Nステンレス鋼のクロム含有量は、28.00重量%以上30.00重量%以下である。好ましくは、合金は29.00重量%以上のクロム含む。
【0364】
・ニッケル(Ni)
353L35M4Nステンレス鋼のニッケル含有量は、23.00重量%以上27.00重量%以下である。好ましくは、合金のNiの上限は26.00重量%以下であり、より好ましくは25.00重量%以下である。
【0365】
・モリブデン(Mo)
353L35M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上である。
【0366】
・窒素(N)
353L35M4Nステンレス鋼の窒素含有量は、0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下である。より好ましくは、353L35M4Nは0.40重量%以上0.60重量%以下の窒素を有し、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素を有する。
【0367】
・PREN
耐孔食指数は式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N)
を用いて計算される。353L35M4Nステンレス鋼は:
(i)28.00重量%以上30.00重量%以下であるが、好ましくは29.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.00重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0368】
高濃度の窒素を伴って、353L35M4Nステンレス鋼はPREN≧46を達成し、好ましくはPREN≧51を達成する。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性を有することを確実にする。353L35M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性を有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0369】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、353L35M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0370】
353L35M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は304LM4Nのそれらの元素の組成と同一である。言い換えると、304LM4Nのこれらの元素に関する文章は、ここでも適用することができる。
【0371】
第13の実施形態に従う353L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では55ksiまたは380MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鍛鋼では62ksiまたは430MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。鋳鋼は、41ksiまたは280MPaの最小限の降伏強さを有する。より好ましくは、鋳鋼では48ksiまたは330MPaの最小限の降伏強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも2.1倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753との機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.79倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S35315との機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の降伏強さが、UNS S35315の規定の降伏強さよりも1.59倍高いかもしれないことを示唆する。
【0372】
第13の実施形態に従う353L35M4Nステンレス鋼は、鍛鋼では102ksiまたは700MPa最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鍛鋼で109ksiまたは750MPa最小限の引張強さを達成してもよい。鋳鋼は95ksiまたは650MPaの最小限の引張強さを有する。より好ましくは、鋳鋼で102ksiまたは700MPaの最小限の引張強さが達成されてもよい。好ましい強度値に基づくと、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31703の機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31703の規定の降伏強さよりも1.45倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S31753の機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S31753の規定の降伏強さよりも1.36倍高いかもしれないことを示唆する。同様に、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と、UNS S35315の機械的強度特性との比較は、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さが、UNS S35315の規定の降伏強さよりも1.15倍高いかもしれないことを示唆する。実際に、353L35M4Nステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性を、22Cr系二相ステンレス鋼の鍛鋼の機械的強度特性と比較すると、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の引張強さは、S31803の規定の引張強さより約1.2倍高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。そのため、353L35M4Nステンレス鋼の最小限の機械的強度特性は、UNS S31703、UNS S31753およびUNS S35315のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しく向上しており、引張強さ特性は22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張強さよりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の引張強さに似ている。
【0373】
これは、鍛鋼の353L35M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、353L35M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS35315のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の353L35M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼よりも高くてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0374】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、353L35M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。請求項1に従う353L35M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、353L35M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0375】
・タングステン(W)
353L35M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上である。353L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含む変形では、耐孔食指数は式:
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
を用いて計算される。この353L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は次の組成:
(i)28.00重量%以上30.00重量%以下であるが、好ましくは29.00重量%以上のクロム含有量;
(ii)3.00重量%以上5.00重量%以下であるが、好ましくは4.0重量%以上のモリブデン含有量;
(iii)0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%以上0.70重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以上0.60重量%以下であり、さらにより好ましくは0.45重量%以上0.55重量%以下の窒素含有量;および
(iv)2.00重量%以下であるが、好ましくは0.50重量%以上1.00重量%以下であり、より好ましくは0.75重量%以上のタングステン含有量;
を有するように明示的に成分調整されている。
【0376】
353L35M4Nステンレス鋼のタングステンを含有する変形は、高い規定の濃度の窒素を有しかつPRENW≧48であるが、好ましくはPRENW≧53である。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。タングステンは個々に、または銅、バナジウム、チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタル、これらの元素の全ての様々な組み合わせ併せて添加されてもよく、合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。タングステンは極めて高価であり、そのため合金の経済面を最適化し、同時に合金の延性、靱性および耐食性能を最適化するように意図的に制限される。
【0377】
・炭素(C)
ある用途に対しては、353L35M4Nステンレス鋼の他の変形が望ましく、高濃度の炭素を含んで作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、353L35M4Nの炭素濃度は、0.040重量%以上0.10重量%未満であってもよいが、好ましくは0.050重量%以下であってもよく、または0.030重量%より高く0.08重量%以下であってもよいが、好ましくは0.040重量%未満であってもよい。353L35M4Nステンレス鋼のこれらの規定の変形は、それぞれが353H35M4N型または35335M4N型である。
【0378】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、353H35M4Nまたは35335M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な353L35M4Nと対比するように353H35M4NTiまたは35335M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された353H35M4NNb型または35335M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、353H35M4NNbTa型または35335M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0379】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0380】
鍛鋼および鋳鋼の353L35M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0381】
さらに、353L57M4N高強度オーステナイト系ステンレス鋼と適宜称される、さらなる変形が提案され、これは本発明の第14の実施形態である。353L57M4Nステンレス鋼は、モリブデン含有量を除いて実質的に353L35M4Nステンレス鋼と同じ化学組成を有する。従って、様々な化学組成を繰り返す代わりに、相違点のみ記載する。
【0382】
[353L57M4N]
上述のとおり、353L57M4Nは、モリブデン含有量を除いて、第13の実施形態である353L35M4Nステンレス鋼と、全く同じ重量パーセントの炭素、マンガン、リン、硫黄、酸素、ケイ素、クロム、ニッケルおよび窒素の含有量を有する。353L35M4Nでは、モリブデン含有量は3.00重量%から5.00重量%の範囲である。その一方、353L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%から7.00重量%の範囲である。言い換えると、353L57M4Nは、353L35M4Nステンレス鋼の高モリブデン型と見なしてもよい。
【0383】
当然のことながら353L35M4Nに関する文章は、モリブデン含有量を除いて、ここでも適用することが出来る。
【0384】
・モリブデン(Mo)
353L57M4Nステンレス鋼のモリブデン含有量は、5.00重量%以上7.00重量%以下であるが、好ましくは5.50重量%以上6.50重量%以下であり、より好ましくは6.00重量%以上である。言い換えると、353L57M4Nのモリブデン含有量は最大で7.00重量%である。
【0385】
・PREN
353L57M4Nの耐孔食指数は353L35M4Nと同じ式を用いて計算されるが、モリブデン含有量の違いのためにPRENは52.5以上であり、好ましくは57.5以上である。これは、広範囲の処理環境において、この材料が全面腐食と局部腐食(孔食および隙間腐食)に対する優れた耐食性も有することを確実にする。353L57M4Nステンレス鋼はまた、UNS S31703およびUNS S31753のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、塩化物を含む環境における応力腐食割れに対する向上した耐食性も有する。これらの式は、孔食または隙間腐食による不動態の破壊への、微細組織因子の影響を無視していることを強調しておく。
【0386】
その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、主として母材にオーステナイト系の微細組織を得るために、353L57M4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階において、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化される。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織は、オーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。結果として、353L57M4Nステンレス鋼は、室温において高い強度と延性との特異な組み合わせを示し、一方同時に室温と極低温において優れた靱性を保証する。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ提供されることができる。
【0387】
353L35M4Nのように、353L57M4Nステンレス鋼はまた、残部としてFeを主に有し、またホウ素、セリウム、アルミニウム、カルシウムおよび/またはマグネシウムのようなごく少量の重量パーセントの他の元素を含んでもよく、これらの元素の組成は353L35M4Nの組成と同一であり、従って304LM4Nの組成と同一である。
【0388】
第14の実施形態の353L57M4Nステンレス鋼は、353L35M4Nステンレス鋼と同等の最小限の降伏強さと最小限の引張強さを有する。同様に、鍛鋼および鋳鋼353L57M4Nの強度特性も、353L35M4Nの強度特性と同等である。従って、規定の強度値は繰り返さず、上述の353L35M4Nの文章に記載する。353L57M4Nと従来のオーステナイト系ステンレス鋼であるUNS S31703との鍛鋼機械的強度特性との比較、および353L57M4NとUNS S31753/UNS S35315との鍛鋼の機械的強度特性との比較は、353L35M4Nに似ているより強い降伏強さおよび引張強さの大きさを示す。同様に、353L57M4Nの引張特性の比較は、353L35M4Nのように、22Cr系二相ステンレス鋼の規定の引張特性より優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の引張特性と似ていることを実証する。
【0389】
これは、鍛鋼の353L57M4Nステンレス鋼を用いる用途を、低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、353L57M4Nステンレス鋼を仕様とする時に、UNS S31703、S31753およびS35315のような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことを意味する。実際に、鍛鋼の353L57M4Nステンレス鋼の最小限の許容設計応力は22Cr系二相ステンレス鋼より高く、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0390】
ある用途について、銅、タングステンおよびバナジウムのような他の合金元素を特定の濃度を含んで作られるように、353L57M4Nステンレス鋼の他の変形が意図的に成分調整されている。353L57M4Nステンレス鋼の他の変形の最適な化学組成範囲は選択的であり、銅およびバナジウムの組成は353L35M4Nでのそれらの元素の化学組成および304LM4Nでのそれらの元素の化学組成と同様であることが決まっている。言い換えれば、304LM4Nについてのこれらの元素に関する文章は、353L57M4Nについてのこれらの元素にも適用することができる。
【0391】
・タングステン(W)
353L57M4Nステンレス鋼のタングステン含有量は353L35M4Nのタングステン含有量と同様であり、353L35M4Nに関して上述した同じ式を用いて計算された353L57M4Nの耐孔食指数、PRENWは54.5以上であり、好ましくは59.5以上であるが、これはモリブデン含有量の違いに起因する。353L35M4Nについてのタングステンの利用および効果に関する文章が、353L57M4Nについても適用可能であることは明らかである。
【0392】
さらに、353L57M4Nは高濃度の炭素を有してもよく、353H57M4Nおよび35357M4Nと呼ばれ、上述の353H35M4Nおよび35335M4Nにそれぞれ相当し、上述の炭素の重量%の範囲は353H57M4Nよび35357M4Nについても適用することが出来る。
【0393】
・チタン(T)/ニオブ(Nb)/ニオブ(Nb)プラスタンタル(Ta)
さらに、ある用途に対して、353H57M4Nまたは35357M4Nステンレス鋼の他の安定化された変形が望ましく、高濃度の炭素を含むように作られるように明示的に成分調整されている。具体的には、炭素の量は0.040重量%以上0.10重量%未満であるが、好ましくは0.050重量%以下であり、または0.030重量%より高く上0.08重量%以下であるが、好ましくは0.040重量%未満である。
(i)これらは、チタンが安定化された型を含み、一般的な353L57M4Nと対比するように353H57M4NTiまたは35357M4NTiと呼ばれる。チタンが安定化された合金の派生物を有するように、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
に従って、それぞれ制御されている。
(ii)また、ニオブが安定化された353H57M4NNb型または35357M4NNb型があり、ニオブが安定化された合金の派生物を有するように、ニオブ含有量が次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
に従って、それぞれ制御されている。
(iii)さらに、ニオブプラスタンタルが安定化された、353H57M4NNbTa型または35357M4NNbTa型を含むように合金の他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。
【0394】
チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
【0395】
鍛鋼および鋳鋼の353L57M4Nステンレス鋼は他の変形と同様に、一般的に前述の実施形態と同じ方法で与えられる。
【0396】
上述した実施形態は、限定的に解釈されるべきではなく、本明細書に記載された実施形態に加えて、他の実施形態が策定されてもよい。例えば、前述の実施形態または合金組成の異なる型の全ての一連のオーステナイト系ステンレス鋼、およびそれらの変形は、特定の用途に対して化学組成を調整して作られてもよい。このような1つの例は、ニッケルの含有量を、Schoefer6により提案された式に従って比例する量低下させるための、2.00重量%より多く4.00重量%以下のより高いマンガン含有量の使用である。ニッケルは極めて効果であるので、これは合金の全体的な費用を削減するであろう。従って、ニッケル含有量は、合金の経済性を最適化するように意図的に制限される。
【0397】
上述の実施形態はまた、本明細書で既に規定された1つへの他の基準を満足するように制御されてもよい。例えば、窒素に対するマンガンの比率に加えて、実施形態はまた炭素と窒素の和に対するマンガンの特定の比率を有するように制御されてもよい。
【0398】
低マンガン域の合金の“LM4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、4.76以下、好ましくは1.37以上4.76以下の比率を得る。より好ましくは、C+Nに対するMnの最適な比率は1.37以上3.57以下である。高マンガン域の合金の“LM4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、9.52以下、好ましくは2.74以上9.52以下の比率を得る。より好ましくは、高マンガン合金のこれらの“LM4N”型について、C+Nに対するMnの比率は2.74以上7.14以下であり、さらにより好ましくはC+Nに対するMnの比率は2.74以上5.95以下である。現在の実施形態は、304LM4N、316LM4N、317L35M4N、317L57M4N、312L35M4N、312L57M4N、320L35M4N、320L57M4N、326L35M4Nおよび326L57M4N、351L35M4N、351L57M4N、353L35M4N、353L57M4N型の合金、ならびに最大で0.030重量%以下の炭素を含んでもよいそれらの変形を含む。
【0399】
低マンガン域の合金の“HM4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、4.55以下、好ましくは1.25以上4.55以下の比率を得る。より好ましくは、C+Nに対するMnの最適な比率は1.25以上3.41以下である。高マンガン域の合金の“HM4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、9.10以下、好ましくは2.50以上9.10以下の比率を得る。より好ましくは、高マンガン合金のこれらの“HM4N”型について、C+Nに対するMnの比率は2.50以上6.82以下であり、さらにより好ましくはC+Nに対するMnの比率は2.50以上5.68以下である。現在の実施形態は、304HM4N、316HM4N、317H35M4N、317H57M4N、312H35M4N、312H57M4N、320H35M4N、320H57M4N、326H35M4N、326H57M4N、351H35M4N、351H57M4N、353H35M4N、353H57M4N型の合金、ならびに0.040重量%から最大で0.10重量%までの炭素を含んでもよいそれらの変形を含む。
【0400】
低マンガン域の合金の“M4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、4.64以下、好ましくは1.28以上4.64以下の比率を得る。より好ましくは、C+Nに対するMnの最適な比率は1.28以上3.48以下である。高マンガン域の合金の“M4N”型について、これはC+Nに対するMnの最適な比率である、9.28以下、好ましくは2.56以上9.28以下の比率を得る。より好ましくは、高マンガン合金のこれらの“M4N”型について、C+Nに対するMnの比率は2.56以上6.96以下であり、さらにより好ましくはC+Nに対するMnの比率は2.56以上5.80以下である。現在の実施形態は、304M4N、316M4N、31757M4N、31735M4N、31235M4N、31257M4N、32035M4N、32057M4N、32635M4N、32657M4N、35135M4N、35157M4N、35335M4Nおよび35357M4N型の合金、ならびに0.030重量%を上回り0.080重量%以下の炭素を含んでもよいそれらの変形を含む。
【0401】
“LM4N”、“HM4N”および“M4N”型の合金を含む、N’GENIUSTM高強度オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の系は、本明細書に記載される他の変形同様に、完全系に対する様々な範囲の製品および製品パッケージとして規定され利用されてもよい。
【0402】
特定の合金組成型およびそれらの変形についての、1つの元素(例えば、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素および窒素など)に対して規定された化学組成範囲は、他の合金組成型およびそれらの変形において適用してもよいことは明らかである。
【0403】
・製品、業界、業種および用途
提案されたN’GENIUSTM高強度オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の系は、国際標準および国際規格に定められてもよく、その優れた溶接性および全面腐食と局部腐食に対する優れた耐食性に加えて、その高い機械的強度、室温と極低温における優れた延性および靱性の点から、海上用途および陸上用途の両方で利用される様々な製品に利用されてもよい。
【0404】
・製品
製品は、インゴット、連続鋳鋼スラブ、圧延されたスケルプ、ブルーム、ビレット、バー、フラットバー、形鋼、ロッド、ワイヤー、溶接ワイヤー、溶接材料、プレート、シート、帯板および渦状の帯板、鍛鋼品、静的鋳鋼、ダイカスト鋳鋼、遠心鋳鋼法、粉末冶金製品、高温静水圧プレス、シームレスラインパイプ、シームレスパイプおよびチューブ、ドリルパイプ、産油国の管状商品、ケーシング、コンデンサーおよび熱交換管、溶接ラインパイプ、溶接パイプおよびチューブ、管状の製品、誘導継手、突き合わせ溶接された管継ぎ手、シームレス管継ぎ手、締め金具、ボルト、ねじおよび植え込みボルト、冷間引き抜きおよび冷間抽伸されたバー、ロッドおよびワイヤー、冷間引き抜きおよび冷間抽伸されたパイプおよびチューブ、フランジ、小型のフランジ、クランプで固定されたコネクター、鍛鋼管継ぎ手、ポンプ、弁、分離器、容器および補助的製品のような一次産品および二次製品を含むが、これに限定されるものではない。上述の一次産品および二次製品は、冶金的クラッド製品(例えば、熱機械的接着、熱間圧延された接着、爆発的な接着(explosively bonded)等)、溶接肉盛りされたクラッド製品、機械的ライニングされた製品または油圧でライニングされた製品またはCRAでライニングされた製品にも関連する。
【0405】
上述の数多くの合金組成の選択肢からわかるように、提案されたN’GENIUSTM高強度オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、広範囲な用途で様々な業界および業種で規定され、使用されてもよい。大幅な減量化および製作時間の短縮はこれらの合金を利用したときに達成されてもよく、これは全体の建設費における大幅なコスト節約をもたらすかもしれない。
【0406】
・業界、業種および用途
・上流および下流の石油およびガス産業(陸上、ならびに浅海、深海および超深海技術を含む海上)
最終製品の用途は次のものを含んでもよいが、これに限定されるものではない。すなわち、フィールド間のパイプラインおよびフローライン、インフィールドのパイプラインおよびフローライン、バックルアレスター、多相流体(例えば石油、ガスならびにクロム、CO2およびH2Sを含む濃縮物、他の成分)のための高圧高温(HPHT)パイプライン、海水圧入および地層水圧入パイプライン、をふくむ陸上および海上のパイプライン、海中の生産システム設備、分岐管、ジャンパー、連結、スプール、ピギングループ、管状、OCTGおよび鋳鋼、スチールカテナリライザー、ライザーパイプ、構造上飛沫帯のライザーパイプ、川および河川の横断、弁、ポンプ、分離器、容器、濾過システム、鍛鋼品、締め具および全ての関連する補助的製品、設備。
【0407】
パイプパッケージシステム:例えば、全ての種類の陸上および海上用途に使用することができる、プロセスシステムおよびユーティリティシステム、ならびに海水冷却システム、および消火システム。海上用途は、固定式プラットフォーム、浮体式プラットフォーム、プロセスプラットフォームのようなSPAおよび船体、ユーティリティプラットフォーム、ウェルヘッドプラットフォーム、ライザープラットフォーム、コンプレッションプラットフォーム、FPSO、FSO、SPAおよび船体のインフラ、二次加工品、二次加工されたモジュールならびに全ての関連する補助的製品および設備を含むが、これに限定されるものではない。
【0408】
管類パッケージシステム:例えば、アンビリカル、コンデンサー、熱交換、脱塩、脱硫酸、ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0409】
・LNG産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、海上の浮体式液化天然ガス(FLNG)容器、FSRUまたは陸上の液化天然ガス(LNG)プラント、船および容器、端末装置、極低温での液化天然ガス(LNG)の貯蔵および輸送に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0410】
・化学プロセス、石油化学、GTLおよび精製産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわちパイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備であり、減圧塔、大気塔、水素化処理装置で典型的に見られる化学物質を含む酸、アルカリおよび他の腐食性流体はもちろんのこと、化学プロセス、石油化学、GTLおよび精製産業からの腐食性流体の加工および輸送に用いられる陸上のケミカルタンカーを含む。
【0411】
・環境保全産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、化学プロセスおよび精製産業、例えば蒸気回収システム、CO2封入、および排煙脱硫のような汚染規制からの廃棄物、湿性有毒ガスに用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0412】
・鉄および鉄鋼産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、鉄および鉄鋼の製造および加工に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0413】
・採鉱および鉱物産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、採鉱および浸食性-腐食性スラリーの輸送、坑内排水に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0414】
・電力産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、発電ならびに化石燃料、ガス燃料、原子燃料、地熱、水力発電および他の発電形態に伴う発電に伴う腐食性媒体の輸送に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0415】
・パルプおよび紙産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、パルプおよび紙産業、ならびにパルプ漂白プラントにおける浸食性流体の輸送に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0416】
・淡水化産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、淡水化産業ならびに淡水化プラントで用いられる海水および塩水で用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0417】
・海事、海軍および防衛産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、海事および海軍および防衛産業ならびに浸食性媒体の輸送、ケミカルタンカーのためのユーティリティパイプシステム、造船および潜水艦に用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0418】
・水および廃水産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、井戸、公共分配ネットワーク、下水道ネットワークおよび用水系統で用いられるケーシングパイプを含む水および廃水産業で用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0419】
・建築、工学および建設産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、建築、土木工学および機械工学ならびに建設業において、構造的一体性および装飾用途で利用される、パイプおよび集合パイプ、インフラ、二次加工品、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0420】
・食物および醸造産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、食物および飲料産業や関連する消費者製品において使用される、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0421】
・薬剤、生化学、保険および医療産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、薬剤、生化学、保険および医療産業や消費者製品において用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0422】
・自動車産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、地上および地下の大量輸送システムや陸上用途の車両の製造を含む自動車産業で用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具、部品ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0423】
・専門調査および開発産業
最終製品用途は次のものを含んでもよいが、限定するものではない。すなわち、専門調査および開発産業で用いられる、パイプラインおよびパイプパッケージシステム、インフラ、二次加工品、二次加工されたモジュール、弁、容器、ポンプ、濾過システム、鍛鋼品、締め具、部品ならびに全ての関連する補助的製品および設備。
【0424】
この発明はオーステナイト系ステンレス鋼に関し、指定された合金の類型のそれぞれに対して高濃度の窒素および最小限の規定の耐孔食指数を含む。PRENで示される耐孔食指数は、式:
PREN=%Cr+(3.3×%Mo)+(16×%N);および/または
PRENW=%Cr+[3.3×%(Mo+W)]+(16×%N)
に従って計算され、上述のように指定された合金の類型のそれぞれに適用することが出来る。
【0425】
異なる実施形態またはオーステナイト系ステンレス鋼および/またはスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の異なる類型について、低炭素域の合金は304LM4N316LM4N、317L35M4N、317L57M4N、312L35M4N、312L57M4N、320L35M4N、320L57M4N、326L35M4N、326L57M4N、351L35M4N、351L57M4N、351L35M4Nおよび353L57M4Nとして呼ばれ、数ある他の変形の中でもこれらが開示されている。記載した実施形態において、オーステナイト系ステンレス鋼および/またはスーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、16.00重量%から30.00重量%のクロム;8.00重量%から27.00重量%のニッケル;7.00重量%以下のモリブデン;0.70重量%以下であるが、好ましくは0.40重量%から0.70重量%の窒素を含む。低炭素域の合金では、これらは0.030重量%以下の炭素を含む。低マンガン域合金では、これらは、窒素に対するマンガンの比率が5.0以下に制御された、好ましくは1.42以上5.0以下に制御された、またはより好ましくは1.42以上3.75以下に制御された、2.00重量%以下のマンガンを含む。高マンガン域合金では、これらは、窒素に対するマンガンの比率が10.0以下に制御された、好ましくは2.85以上10.0以下に制御された、またはより好ましくは2.85以上7.50以下に制御された、またはさらに好ましくは2.85以上6.25以下に制御された、またはよりさらに好ましくは2.85以上5.0以下に制御された、またはよりさらになお一層好ましくは2.85以上3.75以下に制御された、4.0重量%以下のマンガンを含む。リンの濃度は0.030重量%以下であり、0.010重量%以下となるように出来る限り低く制御されている。硫黄の濃度は0.010重量%以下であり、0.001重量%以下となるように出来る限り低く制御されている。合金中の酸素の濃度は0.070重量%以下であり、0.005重量%以下となるように出来る限り低く決定的に制御されている。ケイ素含有量が0.75重量%から2.00重量%であってもよい、向上した耐酸化性が要求される特定の高温用途を除けば、合金中のケイ素の濃度は0.75重量%以下である。ある用途に対して、ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の他の変形は、低銅域合金で1.50重量%以下の銅、高銅域合金で3.50重量%以下の銅、2.00重量%以下のタングステンおよび0.50重量%以下のバナジウム、のような特定の濃度の他の合金元素を含んで製造されるように意図的に成分調整されている。オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、残部として主にFe(鉄)を含み、また0.01重量%以下のホウ素、0.10重量%以下のセリウム、0.050重量%以下のアルミニウムならびに0.010重量%以下のカルシウムおよびマグネシウムのようなごく少量の他の元素を含んでもよい。オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、良好な溶接性と全面腐食および局部腐食に対する良好な耐食性とに加えて、優れた延性と靱性との、高い機械的強度特性の特異な組み合わせを有するように成分調整されている。その後に水焼入れが続き、一般的に1100°C~1250°Cの温度範囲で行われる溶体化熱処理の後、母材内にオーステナイト系の微細組織を主として得るために、304LM4Nステンレス鋼の化学組成は溶融段階で、Schoefer6による、[Cr]当量を[Ni]当量で割った比率が、0.40より大きく1.05より小さい範囲、好ましくは0.45より大きく0.95より小さい範囲に確実になるように最適化されることを、ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の化学分析は特徴とする。溶接された溶接金属および溶接部の熱影響部と同様に、溶体化熱処理状態における母材の微細組織はオーステナイト生成元素とフェライト生成元素とのバランスを最適化することにより制御され、主として確実に合金がオーステナイト系となるようにする。そのため、合金は非磁性の状態で作られ、かつ供給されることができる。新規で革新的なステンレス鋼はおよびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の最小規定の機械強度特性は、UNS S30403、UNS S30453、UNS S31603、UNS S31703、UNS S31753、UNS S31254、UNS S32053、UNS S32615、UNS S35115およびUNS S35315のようなオーステナイト系ステンレス鋼を含むそれぞれの対応するものと比べて、著しく向上した。さらに、最小規定の引張強さ特性は、22Cr系二相ステンレス鋼(UNS S31803)の仕様よりも優れており、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼(UNS S32760)に対しても同様である。これは、最小限の許容設計応力を著しく高くすることができるので、合金が低減した壁厚によりしばしば設計することができ、それにより、ステンレス鋼を仕様とした時に本明細書で上述したような従来のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて著しい軽量化をもたらすことができることを、鍛鋼ステンレス鋼を使用する異なる用途についての系統構成要素が特徴とすることを意味する。実際に、鍛鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の最小の許容設計応力は、22Cr系二相ステンレス鋼の仕様よりも優れていてもよく、25Cr系スーパー二相ステンレス鋼の規定の許容設計応力に似ている。
【0426】
ある用途に対して、オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の他の変形が、本明細書で規定したものより高濃度の炭素を含んで製造されるように明示的に成分調整されている。オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の異なる類型についての高炭素域の合金は、304HM4N、316HM4N、317H35M4N、317H57M4N、312H35M4N、312H57M4N、320H35M4N、320H57M4N、326H35M4N、326H57M4N、351H35M4N、351H57M4N、353H35M4N、および353H57M4Nと呼ばれており、これら型の合金は、0.040重量%から0.10重量%未満までの炭素を含む。一方、304M4N、316M4N、31735M4N、31757M4N、31235M4N、31257M4N、32035M4N、32057M4N、32635M4N、32657M4N、35135M4N、35157M4N、35335M4N、および35357M4N型の合金は、0.030重量%より高く0.080重量%以下の炭素を含む。
【0427】
さらに、ある用途に対して、オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼についての高炭素域の合金の他の変形が望ましく、これらは安定化型として製造されるように明示的に成分調整されている。オーステナイト系ステンレス鋼およびスーパーオーステナイト系ステンレス鋼のこれらの特定の変形は、チタンが安定化された、“HM4NTi”または“M4NTi”型の合金であり、チタン含有量は次の式:
Ti=4×C(min)、最大で0.70重量%Ti、または
Ti=5×C(min)、最大で0.70重量%Ti
にそれぞれが従うように制御され、チタンが安定化された合金の派生物を有する。同様に、ニオブが安定化された、“HM4NNb”または“M4NNb”型の合金があり、ニオブ含有量は次の式:
Nb=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb、または
Nb=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb
にそれぞれが従うように制御され、ニオブが安定化された合金の派生物を有する。加えて、ニオブプラスタンタルが安定化された、“HM4NNbTa”または“M4NNbTa”型の合金を含むように合金の、他の変形が作られてもよく、ニオブプラスタンタル含有量は次の式:
Nb+Ta=8×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta、または
Nb+Ta=10×C(min)、最大で1.0重量%Nb+Ta、最大で0.10重量%Ta
に従って制御されている。チタンが安定化された、ニオブが安定化された、およびニオブプラスタンタルが安定化された合金の変形は、最初の溶体化熱処理温度より低い温度で安定化熱処理を受けてもよい。チタンおよび/またはニオブおよび/またはニオブプラスタンタルは個々に、または銅、タングステンおよびバナジウムのこれらの元素の全ての様々な組み合わせと併せて添加されてもよく、高い炭素濃度が望ましいある用途に対して合金を最適化する。これらの合金元素は、個々に、またはこれらの元素の全ての様々な組み合わせで利用されてもよく、特定の用途に合わせてステンレス鋼を作り、かつ合金の全体的な耐食性能をさらに向上させる。
なお、本明細書の開示は、以下の態様を含むことを確認的に付言しておく。
・態様1:
16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;0.40重量%から0.70重量%の窒素(N)と、1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、0.10重量%未満の炭素(C)とを含む、
窒素(N)に対するマンガン(Mn)の比率が10.0以下に制御され;
ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満であり;
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77である、
オーステナイト系ステンレス鋼。
・態様2:
クロム含有量が17.50重量%から20.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様3:
クロム含有量が18.25重量%以上である、態様1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様4:
ニッケル含有量が8.00重量%から12.00重量%である、態様1から3のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様5:
ニッケル含有量が11.00重量%以下である、態様4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様6:
ニッケル含有量が10.00重量%以下である、態様4または5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様7:
モリブデン含有量が2.00重量%以下である、態様1から6のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様8:
モリブデン含有量が0.50重量%以上2.00重量%以下である、態様1から7のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様9:
モリブデン含有量が1.00重量%以上である、態様1から8のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様10:
クロム含有量が16.00重量%から18.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様11:
クロム含有量が17.25重量%以上である、態様1または10に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様12:
ニッケル含有量が10.00重量%から14.00重量%である、態様1、10または11に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様13:
ニッケル含有量が13重量%以下である、態様1および10~12のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様14:
ニッケル含有量が12重量%以下である、態様1および10~13のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様15:
モリブデン含有量が2.00重量%以上4.00重量%以下である、態様1および10~14のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様16:
モリブデン含有量が3.00重量%以上である、態様1および10~15のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様17:
クロム含有量が18.00重量%から20.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様18:
クロム含有量が19.00重量%以上である、態様1または17に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様19:
ニッケル含有量が11.00重量%から15.00重量%である、態様1、17および18のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様20:
ニッケル含有量が14.00重量%以下である、態様1および17~19のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様21:
ニッケル含有量が13.00重量%以下である、態様18または19に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様22:
ニッケル含有量が13.50重量%から17.50重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様23:
ニッケル含有量が16.50重量%以下である、態様22に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様24:
ニッケル含有量が15.50重量%以下である、態様22または23に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様25:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および17~24のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様26:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様1および17~25のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様27:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および17~26のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様28:
モリブデン含有量が6.00重量%以上である、態様1および17~27のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様29:
クロム含有量が20.00重量%から22.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様30:
クロム含有量が21.00重量%以上である、態様1または29に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様31:
ニッケル含有量が15.00重量%から19.00重量%である、態様1、29および30のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様32:
ニッケル含有量が18.00重量%以下である、態様1および29~31のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様33:
ニッケル含有量が17.00重量%以下である、態様1および29~32のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様34:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および29~33のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様35:
モリブデン含有量が6.00重量%以上である、態様1および29~34のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様36:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および29~33のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様37:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様36に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様38:
クロム含有量が22.00重量%以上24.00重量%以下である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様39:
クロム含有量が23.00重量%以上である、態様38に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様40:
ニッケル含有量が17.00重量%以上21重量%以下である、態様1、38および39のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様41:
ニッケル含有量が20.00重量%以下である、態様1および38~40のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様42:
ニッケル含有量が19.00重量%以下である、態様1および38~41のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様43:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および38~42のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様44:
モリブデン含有量が6.00重量%以上である、態様43に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様45:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および38~42のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様46:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様45に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様47:
クロム含有量が24.00重量%から26.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様48:
クロム含有量が25.00重量%以上である、態様47に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様49:
ニッケル含有量が19.00重量%以上23.00重量%以下である、態様1、47および48のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様50:
ニッケル含有量が22.00重量%以下である、態様1および47~49のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様51:
ニッケル含有量が21.00重量%以下である、態様1および47~50のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様52:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および47~51のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様53:
モリブデン含有量が6.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および47~52のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様54:
モリブデン含有量が6.50重量%以上である、態様1および47~53のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様55:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および47~51のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様56:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様55に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様57:
クロム含有量が26.00重量%以上28.00重量%以下である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様58:
クロム含有量が27.00重量%以上である、態様57に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様59:
ニッケル含有量が21.00重量%から25.00重量%である、態様1、57および58のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様60:
ニッケル含有量が24.00重量%以下である、態様1および57~59のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様61:
ニッケル含有量が23.00重量%以下である、態様1および57~60のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様62:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および57~61のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様63:
モリブデン含有量が5.50重量%以上6.50重量%以下である、態様1および57~62のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様64:
モリブデン含有量が6.00重量%以上である、態様63に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様65:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および57~61のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様66:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様65に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様67:
クロム含有量が28.00重量%から30.00重量%である、態様1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様68:
クロム含有量が29.00重量%以上である、態様67に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様69:
ニッケル含有量が23.00重量%以上27.00重量%以下である、態様1、67および68のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様70:
ニッケル含有量が26.00重量%以下である、態様1および67~69のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様71:
ニッケル含有量が25.00重量%以下である、態様1および67~70のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様72:
モリブデン含有量が5.00重量%以上7.00重量%以下である、態様1および67~71のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様73:
モリブデン含有量が5.50重量%以上6.50重量%以下である、態様1および67~72のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様74:
モリブデン含有量が6.00重量%以上である、態様1および67~73のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様75:
モリブデン含有量が3.00重量%以上5.00重量%以下である、態様1および67~71のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様76:
モリブデン含有量が4.00重量%以上である、態様75に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様77:
窒素含有量が0.40重量%以上0.60重量%以下である、態様1~76のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様78:
窒素含有量が0.45重量%以上0.55重量%以下である、態様1~77のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様79:
0.030重量%以下の炭素をさらに含む、態様1~78のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様80:
0.020重量%から0.030重量%の炭素をさらに含む、態様1~79のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様81:
炭素の含有量が0.025重量%以下である、態様1~80のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様82:
4.0重量%以下のマンガンをさらに含む、態様1~81のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様83:
2.0重量%以下のマンガンをさらに含む、態様1~82のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様84:
1.0重量%から2.0重量%のマンガンをさらに含む、態様1~83のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様85:
マンガン含有量が1.20重量%以上1.50重量%以下である、態様1~84のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様86:
窒素に対するマンガンの比率が5.0以下に制御されている、態様82~85のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様87:
窒素に対するマンガンの比率が3.75以下に制御されている、態様82~86のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様88:
2.0重量%から4.00重量%のマンガンをさらに含む、態様1~82のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様89:
マンガン含有量が3.0重量%以下である、態様88に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様90:
マンガン含有量が2.50重量%以下である、態様88または89に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様91:
窒素に対するマンガンの比率が7.50以下に制御されている、態様82および88~90のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様92:
窒素に対するマンガンの比率が6.25以下に制御されている、態様82および88~91のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様93:
0.030重量%以下のリンをさらに含む、態様1~92のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様94:
0.025重量%以下のリンをさらに含む、態様1~93のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様95:
0.020重量%以下のリンをさらに含む、態様1~94のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様96:
0.015重量%以下のリンをさらに含む、態様1~95のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様97:
0.010重量%以下のリンをさらに含む、態様1~96のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様98:
0.010重量%以下の硫黄をさらに含む、態様1~97のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様99:
0.005重量%以下の硫黄をさらに含む、態様1~98のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様100:
0.003重量%以下の硫黄をさらに含む、態様1~99のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様101:
0.001重量%以下の硫黄をさらに含む、態様1~100のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様102:
0.070重量%以下の酸素をさらに含む、態様1~101のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様103:
酸素含有量が0.050重量%以下である、態様102に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様104:
酸素含有量が0.030重量%以下である、態様102または103に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様105:
酸素含有量が0.010重量%以下である、態様102~104のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様106:
酸素含有量が0.005重量%以下である、態様102~105のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様107:
0.75重量%以下のケイ素をさらに含む、態様1~106のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様108:
ケイ素含有量が0.25重量%以上0.75重量%以下である、態様1~107のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様109:
ケイ素含有量が0.40重量%以上0.60重量%以下である、態様1~108のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様110:
2.00重量%以下のケイ素を含む、態様1~106のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様111:
ケイ素含有量が0.75重量%以上2.00重量%以下である、態様110に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様112:
鉄、ホウ素、セリウム(REM)、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、銅、タングステン、バナジウム、チタンおよび/またはニオブプラスタンタルから選択された少なくとも1つの元素をさらに含む、態様1~111のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様113:
0.010重量%以下のホウ素をさらに含む、態様1~112のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様114:
0.001重量%以上0.010重量%以下のホウ素をさらに含む、態様1~113のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様115:
0.0015重量%以上0.0035重量%以下のホウ素をさらに含む、態様1~114のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様116:
0.0001重量%以上0.0006重量%以下のホウ素をさらに含む、態様1~115のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様117:
0.10重量%以下のセリウムをさらに含む、態様1~116のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様118:
0.01重量%以上0.10重量%以下のセリウムをさらに含む、態様1~117のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様119:
さらに、セリウム含有量が0.03重量%以上0.08重量%以下である、態様118または119に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様120:
さらに0.050重量%以下のアルミニウムを含む、態様1~119のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様121:
さらに0.005重量%以上0.050重量%以下のアルミニウムを含む、態様1~120のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様122:
さらに0.010重量%以上0.030重量%以下のアルミニウムを含む、態様1~121のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様123:
さらに0.010重量%以下のカルシウムを含む、態様1~122のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様124:
さらに0.001重量%以上0.010重量%以下のカルシウムを含む、態様1~123のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様125:
カルシウム含有量が0.001重量%以上0.005重量%以下である、態様124に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様126:
0.010重量%以下のマグネシウムをさらに含む、態様1~125のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様127:
0.001重量%以上0.010重量%以下のマグネシウムをさらに含む、態様126に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様128:
マグネシウム含有量が0.001重量%以上0.005重量%以下である、態様127に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様129:
1.50重量%以下の銅をさらに含む、態様1~128のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様130:
0.50重量%以上1.50重量%以下の銅をさらに含む、態様1~129のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様131:
銅含有量が1.00重量%以下である、態様130に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様132:
3.50重量%以下の銅をさらに含む、態様1~128のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様133:
1.50重量%以上3.50重量%以下の銅をさらに含む、態様132に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様134:
銅含有量が2.50重量%以下である、態様133に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様135:
2.00重量%以下のタングステンをさらに含む、態様1~134のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様136:
0.50重量%以上1.00重量%以下のタングステンをさらに含む、態様1~135のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様137:
タングステン含有量が0.75重量%以上である、態様136に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様138:
0.50重量%以下のバナジウムをさらに含む、態様1~137のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様139:
0.10重量%以上0.50重量%以下のバナジウムをさらに含む、態様1~138のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様140:
バナジウム含有量が0.30重量%以下である、態様141に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様141:
0.040重量%から0.10重量%の炭素をさらに含む、態様1~140のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様142:
0.040重量%から0.050重量%の炭素をさらに含む、態様1~141のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様143:
炭素含有量が0.030重量%より多く0.08重量%以下である、態様141に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様144:
炭素含有量が0.030重量%より多く0.040重量%未満である、態様143に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様145:
0.70重量%以下のチタンをさらに含む、態様141~144のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様146:
チタン含有量がTi(min)より多く;
Ti(min)が4×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
態様141または142を引用する態様145に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様147:
チタン含有量がTi(min)より多く;
Ti(min)が5×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
態様143または144を引用する態様145に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様148:
ニオブ含有量がNb(min)より多く;
Nb(min)が8×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
態様141または142を引用する態様1~147のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様149:
ニオブ含有量がNb(min)より多く;
Nb(min)が10×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量である、
態様143または144を引用する態様1~148のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様150:
1.0重量%以下のニオブプラスタンタルおよび最大で0.10重量%のタンタルをさらに含む、態様148~149のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様151:
ニオブおよびタンタル含有量がNb+Ta(min)より多く;
Nb+Ta(min)が8×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量であり、(最大で0.10重量%のTaを含む、)
態様141または142を引用する態様150に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様152:
ニオブおよびタンタル含有量がNb+Ta(min)より多く;
Nb+Ta(min)が10×C(min)から計算され;
C(min)が炭素の最小量であり、(最大で0.10重量%のTaを含む、)
態様143または144を引用する態様150に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様153:
0.40~0.70重量%の窒素と、25以上の耐孔食指数(PREN)を有する合金組成とを含み;
PREN=重量%クロム+(3.3×重量%モリブデン)+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、0.10重量%未満の炭素(C)とをさらに含み、
ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満であり;
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77である、
非磁性のオーステナイト微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様154:
0.40~0.60重量%の窒素と、25以上の耐孔食指数(PREN)を有する合金組成とを含み;
PREN=重量%クロム+(3.3×重量%モリブデン)+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、0.10重量%未満の炭素(C)とをさらに含み、
ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満であり;
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77である、
非磁性のオーステナイト微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様155:
前記PRENが30以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様156:
前記PRENが35以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様157:
前記PRENが40以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様158:
前記PRENが45以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様159:
前記PRENが37以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様160:
前記PRENが42以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様161:
前記PRENが43以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様162:
前記PRENが48以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様163:
前記PRENが39以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様164:
前記PRENが44以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様165:
前記PRENが50以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様166:
前記PRENが47以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様167:
前記PRENが48.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様168:
前記PRENが53.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様169:
前記PRENが49以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様170:
前記PRENが50.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様171:
前記PRENが55.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様172:
前記PRENが46以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様173:
前記PRENが51以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様174:
前記PRENが52.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様175:
前記PRENが57.5以上である、態様153または154に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様176:
0.50重量%~1.00重量%のタングステンと、0.40~0.70重量%の窒素と、27以上の耐孔食指数(PRENW)を有する合金組成とを含み;
PRENW=重量%クロム+[3.3×重量%(モリブデン+タングステン)]+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、0.10重量%未満の炭素(C)とをさらに含み、
ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満であり;
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77である、
非磁性のオーステナイト微細組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様177:
0.40~0.60重量%の窒素と、0.50重量%~1.00重量%のタングステンと、27以上の耐孔食指数(PRENW)を有する合金組成とを含み;
PRENW=重量%クロム+[3.3×重量%(モリブデン+タングステン)]+(16×重量%窒素)、であって、
当該合金組成が、16.00重量%から30.00重量%のクロム(Cr)と;8.00重量%から27.00重量%のニッケル(Ni)と;7.00重量%以下のモリブデン(Mo)と;1.0重量%から4.00重量%のマンガン(Mn)と、1.0重量%以下のニオブ(Nb)と、0.10重量%未満の炭素(C)とをさらに含み、
ニッケル当量[Ni]に対するクロム当量[Cr]の比率が0.40より大きく1.05未満であり;
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+2.77である、
非磁性のオーステナイト微細組織を有する
オーステナイト系ステンレス鋼。
・態様178:
前記PRENWが32以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様179:
前記PRENWが37以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様180:
前記PRENWが42以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様181:
前記PRENWが47以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様182:
前記PRENWが39以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様183:
前記PRENWが44以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様184:
前記PRENWが45以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様185:
前記PRENWが50以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様186:
前記PRENWが41以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様187:
前記PRENWが46以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様188:
前記PRENWが52以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様189:
前記PRENWが49以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様190:
前記PRENWが50.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様191:
前記PRENWが55.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様192:
前記PRENWが51以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様193:
前記PRENWが52.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様194:
前記PRENWが57.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様195:
前記PRENWが48以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様196:
前記PRENWが53以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様197:
前記PRENWが54.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様198:
前記PRENWが59.5以上である、態様176または177に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様199:
前記ニッケル当量に対する前記クロム当量の比率が0.45より大きく0.95より小さい範囲である、態様1~198のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
・態様200:
態様1~199のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼を含む、鍛鋼。
・態様201:
態様1~200のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼を含む、鋳鋼。
・態様202:
クロム当量[Cr]=(重量%Cr)+(1.5×重量%Si)+(1.4×重量%Mo)+(重量%Nb)+(0.72×重量%W)+(2.27×重量%V)+(2.20×重量%Ti)+(0.21×重量%Ta)+(2.48×重量%Al)-4.99であり;
ニッケル当量[Ni]=(重量%Ni)+(30×重量%C)+(0.5×重量%Mn)+(26×重量%(N-0.02))+(0.44%×重量%Cu)+2.77であり、
Nb、W、V、Ti、Ta、AlおよびCuの重量%が0ではなく;
Nb=ニオブ;
W=タングステン;
V=バナジウム;
Ti=チタン;
Ta=タンタル;
Al=アルミニウム;
Cu銅;
である、態様1、153または154、176または177のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【0428】
(参考文献)
1.A.J.Sedriks, Stainless Steels’84,Proceedings of Goteborg Conference,Book No320.The Institude of Metals, 1 Carlton House Terrace,London SW1Y 5DB,p.125,1985。
2.P.Guha and C.A.Clark, Duplex Stainless Steel Conference Proceedings,ASM Metals/Materials Technology Series,Paper(8201-018)p.355,1982。
3.N.Bui,A.Irhzo,F.Daboshi and Y.Limouzin-Maire,Corrosion NACE,vol39,p.491,1983。
4.A.L.Schaeffler,Metal Progress,Vol.56,P.680,1949。
5.C.L.Long and W.T.Delong,Welding Journal,Vol.52,p.281s,1973。
6.E.A.Schoefer,Welding Journal,Vol.53,p.10s,1974。
7.ASTM A800/A800M-10。