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特開2024-26398太陽電池モジュール用の透明保護シート、及び、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026398
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール用の透明保護シート、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20240220BHJP
【FI】
H01L31/04 560
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213184
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2022031637の分割
【原出願日】2018-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】古吉 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中原 敦
(72)【発明者】
【氏名】石井 康弘
(57)【要約】
【課題】基材樹脂層の表面に耐光接着剤層を形成してなる透明保護シートにおいて、ロール・トウ・ロール方式の製造ラインにおけるシート表面の斑状のむらの発生を回避すること。
【解決手段】基材樹脂層11の一方の表面に耐光接着剤層12を介して耐候樹脂層13が積層されていて、基材樹脂層11の他方の表面に易接着層14が形成されている、太陽電池モジュール用の透明保護シート1であって、基材樹脂層11は、JIS G 0202によるロックウェル硬度がR120以上の樹脂フィルムであって、耐候樹脂層13は、基材樹脂層11を形成する樹脂フィルムよりもロックウェル硬度が小さい樹脂フィルムであって、耐光接着剤層12には、紫外線吸収剤が含有されていて、易接着層14には、ワックスが含有されている、透明保護シート1とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂層の一方の表面に耐光接着剤層を介して耐候樹脂層が積層されていて、
該基材樹脂層の他方の表面に易接着層が形成されている、太陽電池モジュール用の透明保護シートであって、
前記基材樹脂層は、JIS G 0202によるロックウェル硬度がR120以上の樹脂フィルムであって、
前記耐候樹脂層は、前記基材樹脂層を形成する樹脂フィルムよりも前記ロックウェル硬度が小さい樹脂フィルムであって、
前記耐光接着剤層には、紫外線吸収剤が含有されていて、
前記易接着層には、ワックスが含有されている、透明保護シート。
【請求項2】
前記耐候樹脂層は、ロックウェル硬度がR50以下である、
請求項1に記載の透明保護シート。
【請求項3】
前記耐候樹脂層は、ロックウェル硬度がR50を超えている、
請求項1に記載の透明保護シート。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤の分子量が600以下である、
請求項1から3の何れかに記載の透明保護シート。
【請求項5】
前記基材樹脂層が、ポリエステル系樹脂フィルムであって、
前記耐候樹脂層が、フッ素系樹脂フィルムである、
請求項1又は2に記載の透明保護シート。
【請求項6】
波長400nm以上1200nm以下における光線透過率が70%以上である、
請求項1から5の何れかに記載の透明保護シート。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の透明保護シートが、ロール状に巻き取られてなる、透明保護シートロール体。
【請求項8】
請求項7に記載の透明保護シートロール体を養生に付す工程を含んでなる、ロール・トゥ・ロール方式による太陽電池用の透明保護シートの製造方法。
【請求項9】
太陽電池モジュールの最表面側及び/又は最裏面側に、請求項1から6の何れかに記載の透明保護シートが配置されている太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用の透明保護シート、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。一般に、太陽電池を構成する太陽電池モジュールは、受光面側から、透明前面基板、表面側封止材シート、太陽電池素子、裏面側封止材シート、裏面保護シートが順に積層された構成であり、太陽光が太陽電池素子に入射することにより発電する機能を有している。尚、透明前面基板としては、透明ガラス基板が多く用いられるが、裏面側と同様の保護シートを用いることもできる。
【0003】
太陽電池モジュールは、長期間にわたって屋外で使用されるため、太陽電池モジュールを構成する上記の各部材には長期間にわたって屋外における過酷な環境に耐え得る耐久性が求められる。中でも太陽電池モジュールの再表面に配置される保護シートには特に高い耐候性が要求される。このように高い耐候性を要求される太陽電池モジュール用の保護シートとしては、従来、フッ素系フィルムが広く用いられてきた。しかし、製造コスト削減や軽量化の要請への対応として、ポリエチレンテフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂を基材シートとして、耐候性を高めたコーティングタイプの保護シートが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方で、近年、所謂シースルータイプや両面採光タイプの太陽電池モジュール用の保護シートとして、上記のような耐候性を保持した上で、更に高い透明性を有する透明保護シートが求められている(特許文献2参照)。
【0005】
太陽電池モジュール用の透明保護シートには、耐候性と透明性が高い水準で求められる。このような要求に応えるために、透明性を有する基材樹脂層に、紫外線吸収剤を含有する耐光接着剤層を介して透明なフッ素系樹脂からなる耐候樹脂層を積層した透明保護シートが開発されている(特許文献3参照)。尚、太陽光線の大部分を透過させる透明保護シートにおいては、紫外線から基材樹脂層を保護するために、上記のように、耐候樹脂層側に紫外線吸収剤を添加することは必須となる。
【0006】
ここで、太陽電池モジュール用の透明保護シートは、通常、生産性の面で有利なロール・トゥ・ロール方式の製造ラインにおいて製造される。この方式の製造ラインにおいては、透明保護シートは、一時的に巻芯に巻き取られた形のロール体の状態となる(図3参照)。そして、特許文献3に開示されている保護シートのような層構成の透明保護シートを、このロール・トゥ・ロール方式の製造ラインにおいて製造する場合、透明保護シートをロール体の状態で養生に付した後に、その表面に、図4(写真上側参照)に示すような斑状のむらが頻繁に発生することが、透明保護シートの製造において、解決すべき問題として認識されるに至った。
【0007】
本発明者らは、上記の斑状のむらの主たる発生要因が、耐光接着剤層中の低分子成分である紫外線吸収剤の過剰なブリーディングにあることを突きとめた。しかしながら、上記の通り、透明保護シートにおいては、一定量以上の紫外線吸収剤の添加は必須であり、紫外線吸収剤の添加量を一定量よりも少なくすることはできず、上記の斑状のむらの発生の回避することができる他の解決手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010-519742号公報
【特許文献2】特開2012-040842号公報
【特許文献3】特開2011-181732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、基材樹脂層の表面に紫外線吸収剤を含有する耐光接着剤層が形成されている透明保護シートにおいて、基剤樹脂層を紫外線から保護する性能を維持したまま、ロール・トウ・ロール方式の製造ラインにおいて頻発していた、透明保護シート表面の斑状のむらの発生を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記の斑状の斑の要因となる紫外線吸収剤の過剰なブリーディングについて、更に研究を進め、上述の多層構成からなる透明保護シートが上記のロール状態であるときに、比較的硬度の大きな基材樹脂層が、フッ素系樹脂等の相対的に硬度の小さい樹脂で形成されている耐候樹脂層に非均一な圧力で押しつけられることが、低分子成分たる紫外線吸収剤の樹脂層表面へのブリーディングを局所的に過剰に促進してしまい、これこそが、斑状のむらの発生斑を発生させるより根源的な要因であることを突きとめた。
【0011】
そして、上記構成の透明保護シートにおいて、紫外線吸収剤を含有する耐光接着剤層と反対側の面に形成される易接着層に適量のワックスを含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 基材樹脂層の一方の表面に耐光接着剤層を介して耐候樹脂層が積層されていて、該基材樹脂層の他方の表面に易接着層が形成されている、太陽電池モジュール用の透明保護シートであって、前記基材樹脂層は、JIS G 0202によるロックウェル硬度がR80以上の樹脂フィルムであって、前記耐候樹脂層は、JIS G 0202によるロックウェル硬度が、前記基材樹脂層を形成するより樹脂フィルムよりも小さい樹脂フィルムであって、前記耐光接着剤層には、単位面積当り0.3g/m以上1.3g/m以下の紫外線吸収剤が含有されていて、前記易接着層には、単位面積当り0.07g/m以上0.25g/m以下のワックスが含有されている、透明保護シート。
【0013】
(2) 前記紫外線吸収剤の分子量が600以下である、(1)に記載の透明保護シート。
【0014】
(3) 前記基材樹脂層が、ポリエステル系樹脂フィルムであって、
前記耐候樹脂層が、フッ素系樹脂フィルムである、(1)又は(2)に記載の透明保護シート。
【0015】
(4) 波長400nm以上1200nm以下における光線透過率が70%以上である、(1)から(3)の何れかに記載の透明保護シート。
【0016】
(5) (1)から(4)の何れかに記載の透明保護シートが、ロール状に巻き取られてなる、透明保護シートロール体。
【0017】
(6) (5)に記載の透明保護シートロール体を養生に付す工程を含んでなる、ロール・トゥ・ロール方式による太陽電池用の透明保護シートの製造方法。
【0018】
(7) 太陽電池モジュールの最表面側及び/又は最裏面側に、(1)から(4)の何れかに記載の透明保護シートが配置されている太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基材樹脂層の表面に紫外線吸収剤を含有する耐光接着剤層が形成されている透明保護シートにおいて、基剤樹脂層を紫外線から保護する性能を維持したまま、ロール・トウ・ロール方式の製造ラインにおいて頻発していた、透明保護シート表面の斑状のむらの発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の太陽電池モジュール用の透明保護シートを用いた太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面図である。
図2】本発明の太陽電池モジュール用の透明保護シートの層構成を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の透明保護シートロール体の層構成を模式的に示す断面図である。
図4】従来の透明保護シート(ワックスの添加なし:上)と、本発明の透明保護シート(適量のワックスを添加:下)とにおける、ロール体での養生後における斑状のむらの発生の有無の対比を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の太陽電池モジュール用の透明保護シート及び、その製造方法について説明する。尚、本発明は、以下に記載される実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<太陽電池モジュール>
先ず、本発明の太陽電池モジュール用の透明保護シート1を用いてなる太陽電池モジュール100の全体構成について説明する。太陽電池モジュール100は、図1に示すように透明前面基板4、表面側封止材シート3、太陽電池素子5、裏面側封止材シート2、透明保護シート1が順に積層された構成からなる。又、この積層体の側周面には、通常、アルミニウム等からなる金属フレーム6が設置される。尚、本発明の透明保護シート1の用途は、必ずしも上述のように太陽電池モジュールの裏面側への配置には限定されず、透明前面基板として太陽電池モジュール100の表面側に配置して用いることもできる。
【0023】
ここで、本発明の太陽電池モジュール100は、シースルータイプ、或いは、両面採光タイプの太陽電池モジュールであることが想定されている。よって、透明保護シート1にも当然に高度の透明性が要求される。ここで、本明細書において、「透明」とは「可視光域及び近赤外線領域の光線を透過」可能であることを言い、より詳しくは、「波長400nm以上1200nm以下における光線透過率が、上記波長領域全体において70%以上、好ましくは80%以上」であることを意味するものとする。又、本明細書における「光線透過率」とは、特段の断りがない場合、JIS-K-7105又はJIS-K-7136に準拠して測定された光線透過率のことを言うものとする。
【0024】
図2に示す通り、透明保護シート1は、一方の表面に耐候樹脂層13が、又、他方の表面に易接着層14が形成されている。太陽電池モジュール100において、透明保護シート1は、裏面側封止材シート2との接合面側に易接着層14を向けて配置される。
【0025】
裏面側封止材シート2及び表面側封止材シート3は、従来、太陽電池モジュールの封止材として用いられている各種の樹脂からなるものを適宜選択して用いることができる。各封止材シートの好ましい具体例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、或いは、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートを挙げることができる。
【0026】
透明前面基板4としては、通常、透明ガラス基板が用いられる。但し、本発明の透明保護シートを含め、耐候性を有する各種の透明樹脂フィルムを、透明前面基板4として用いることもできる。
【0027】
[太陽電池モジュールの製造方法]
太陽電池モジュール100は、上記の各構成部材を、例えば、真空熱ラミネート加工により加熱圧着して一体化することにより製造することができる。この際のラミネート温度は、110℃以上190℃以下の範囲内とすることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。又、ラミネート時間は、5分~60分の範囲内が好ましい。このラミネート加工は、透明保護シート1の易接着層14と、裏面側封止材シート2とを対面させて加熱圧着する態様で行う。これにより、透明保護シート1と裏面側封止材シート2の界面における易接着層14の高い接着性を十分に発現させることができる。
【0028】
<透明保護シート>
シースルータイプ、或いは、両面採光タイプの太陽電池モジュールに好ましく用いることができる透明保護シート1は、図2に示す通り、基材樹脂層11、耐光接着剤層12、耐候樹脂層13、及び、易接着層14を備えてなる、多層構成の樹脂フィルムである。上述の通り、基材樹脂層11の一方の面には、耐光接着剤層12を介して耐候樹脂層13が積層されており、基材樹脂層11の他方の面には、易接着層14が形成されている。
【0029】
透明保護シート1の透明性について、具体的には、波長400nm以上1200nm以下における光線透過率が、上記波長領域全体において70%以上、好ましくは80%以上であるという要求を満たすことが求められる。透明保護シート1の製造においては、この要求を満たすことができる範囲で、以下に詳細を説明する各層を形成するための材料が選択される。又、これに伴い基材樹脂層11を紫外線から保護するための耐光性を担保するための層の配置が必須となり、透明保護シート1においては、それは、紫外線吸収剤を含有してなる耐光接着剤層12によって担保されている。
【0030】
[基材樹脂層]
基材樹脂層11としては、従来、太陽電池モジュール用保護シートにおいて基材樹脂層を構成するために従来用いられている各種の樹脂フィルムを適宜用いることができる。但し、本発明においては、それらの各種の樹脂フィルムのうち、特にJIS G 0202によるロックウェル硬度(以下、単に「ロックウェル硬度」とも言う)R80以上の樹脂フィルムを選択するものとする。このように、多層シートたる透明保護シート1の支持基板である基材樹脂層11を、上記の通り、一定以上の剛性を有する樹脂フィルムで構成することにより、基材樹脂層11への接着剤等の塗工後の乾燥時に伸びが発生する等の不具合も生じにくく、又、透明保護シート1を太陽電池モジュール100に組込む作業を行う際の取り扱い性が良好になる。尚、ロックウェル硬度がL又はM等、その他のスケールで80以上である樹脂フィルムも、当然に、本明細書における、上記の「JIS G 0202によるロックウェル硬度がR80以上の樹脂フィルム」に含まれるものとする。
【0031】
基材樹脂層11を構成することができるこのような樹脂として、具体的には、ポリプロピレン(ロックウェル硬度:R85~110)、ポリアミド(同:R100程度)、ポリエチレンテレフタレート(同:M94~101)、ポリエチレンナフタレート(同:M107)、等の樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性及び成形性が良好であることから、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂フィルムが好ましく、より具体的にはPETシート、中でも耐加水分解透明PET(例えば、「ルミラー」(東レ株式会社製))が極めて好ましい。
【0032】
基材樹脂層11の厚さは、特に限定されないが、厚さ150μm以上300μm以下であることが好ましく、厚さ200μm以上であることがより好ましい。基材樹脂層11の厚さが150μm未満であると、絶縁性が低下するという点で好ましくない。又、この厚さが、300μmを超えると加工適性の点で好ましくない。
【0033】
尚、基材樹脂層11の厚さを200μm以上とする場合には、厚さ200μm以上の単層の樹脂フィルムでこれを構成することもできる。但し、この場合は、厚さ100μm以上の複数の樹脂フィルムを積層した多層フィルムにより、基材樹脂層11を構成することがより好ましい。一般的に、PETをベース樹脂とする樹脂フィルムは、厚さが150μm程度以上の厚さが大きいシートとなった場合には、製膜時に延伸倍率が低下することにより、分子の配向性が低下して、耐加水分解性が十分に発現しないリスクが高まる。又、この場合、樹脂フィルムの表層と中心部で配向性に差が生じることに起因して製造途中でのカールが生じやすくなる場合もある。基材樹脂層11を、厚さ100μm以上150μm以下のPETをベース樹脂とする複数の樹脂フィルムを積層した多層フィルムとすることにより、このようなリスクを回避することもできる。
【0034】
基材樹脂層11は、本発明の効果を害さない範囲内で、上記樹脂以外の成分を含有していてもよい。又、例えば、加工性、耐熱性、耐光性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、その他等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤、その他の樹脂等を添加することができる。これら添加剤等の添加量としては、特に限定されず、その目的に応じて、任意に添加することができる。一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、光安定化剤、充填剤、滑剤、強化繊維、補強剤、帯電防止剤、難燃剤、耐炎剤、発泡剤、防カビ剤、改質用樹脂等を挙げることができる。
【0035】
[耐光接着剤層]
耐光接着剤層12は、耐候樹脂層13を基材樹脂層11の表面に接着する機能を有する層である。この層にも透明保護シート1を構成する他の層と同様の透明性が求められる。又、透明保護シート1においては、この耐光接着剤層12に、透明性に加えて、基材樹脂層11を紫外線から保護するための紫外線遮断性が要求される。そのために、耐光接着剤層12には、所定量以上の紫外線吸収剤が含有される。具体的には、耐光接着剤層12には、単位面積当り0.3g/m以上1.3g以下の紫外線吸収剤が含有されていればよく、単位面積当り0.5g/m以上1.0g/m以下の紫外線吸収剤が含有されていることが好ましい。単位面積当りの紫外線吸収剤の含有量が0.3g/m以上であることによって、必要な紫外線遮断率を担保することができる。一方、単位面積当りの紫外線吸収剤の含有量が1.3g/mを超えると、本発明の構成をもってしても、上述した斑状のむらの発生を十分に回避することが難しく、又、その範囲では、紫外線遮断性能の増加率も低減して増量分のコストと見合わなくなることによる経済的損失のリスクが高まる。
【0036】
耐光接着剤層12の厚さは、透明保護シート1に必要な透明性及び接着強度等に応じて適宜変更すれば良く、1.0μm以上10μm以下の範囲を好ましい厚さの範囲として挙げることができる。この範囲内において、例えば、耐光接着剤層12の厚さを5.0μmとする場合には、同層中の紫外線吸収剤の含有量比(質量比)が7.5質量%となるように耐光接着剤層12を形成するための接着剤を調合することにより、即ち、接着剤の主剤樹脂に対して7.5質量%の配合比で紫外線吸収剤を添加することにより、耐光接着剤層12中の紫外線吸収剤の含有量を、上記の好ましい範囲内である、0.38g/mと、することができる。
【0037】
耐光接着剤層12を形成するための接着剤の主たる材量とする接着剤としては、上記の透明性に係る要求を満たしうるものであれば、ウレタン系接着剤やアクリル系接着剤他、従来公知の各種の透明な接着剤を適宜選択することができる。そして、これらの接着剤に、適量の紫外線吸収剤を添加した接着剤組成物を、耐光接着剤層12を形成するための接着剤といて用いることができる。
【0038】
耐光接着剤層12の主たる材量とする透明な接着剤として、例えば、ポリウレタンジオールと脂肪族ポリカーボネートジオールとの混合物を含む主剤と、硬化剤からなる2液タイプの接着剤を用いることができる。この場合、主剤を構成するポリウレタンジオール及び脂肪族ポリカーボネートジオールは、ともに水酸基を有するポリオールであってイソシアネート基を有する硬化剤と反応する接着剤を好ましく用いることができる。
【0039】
上記主剤成分のポリウレタンジオールは、ウレタン構造をその繰り返し単位とし、その両末端に水酸基を有するポリウレタンである。ポリウレタンジオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。ポリウレタンジオールは、接着剤の主剤成分として、その接着性及び耐候性を向上させるため、脂肪族ポリカーボネートジオールと、1,6へキサンジオールとイソホロンジイソシアネートを反応させて得られる。
【0040】
上記脂肪族ポリカーボネートジオールは、市販のものを使用することもできる。耐久性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性に優れた接着剤を得るため、例えば、数平均分子量1000の脂肪族ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラノールT5651」)、数平均分子量2000の脂肪族ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラノールT5662」)を好適に使用することができる。
【0041】
尚、脂肪族ポリカーボネートジオールと、1,6へキサンジオールとイソホロンジイソシアネートを反応させる場合に使用することができる溶剤としては、これらの化合物を溶解させることができ、溶剤と反応しないものであれば、特に制限されるものではないが、相溶性とラミネート時の加工性の観点から酢酸エチル等のカルボン酸エステル系の溶剤を挙げることができる。
【0042】
耐光接着剤層12を形成するための接着剤中に含有させる紫外線吸収剤としては、波長340nmから400nmの間に吸収極大を有する各種の紫外線吸収剤であれば、従来公知の有機系の各種紫外線吸収剤を適宜用いることができる。これにより、400nmを超える光線を有効に取り込めるので、太陽電池モジュール100の発電量を低下させることなく、基材樹脂層11の紫外線吸収による劣化(黄変)を抑制することができる。
【0043】
但し、これらの紫外線吸収剤は、分子量が600以下の紫外線吸収剤であることが好ましい。紫外線吸収剤をこのような低分子量のものに特定することにより、同剤の耐光接着剤層12中での耐候樹脂層13側への表面への移動がより高い確度で促進されて、太陽電池モジュール100の裏面側より入射する紫外線から、基材樹脂層11をより確実に保護することができる。
【0044】
以上の要求に応えうる紫外線吸収剤として、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤や、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等を挙げることができる。トリアジン系紫外線吸収剤としては、具体的に、2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-[1-(イソオクチルオキシカルボニル)エトキシ]フェニル]-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-(イソオクチルオキシカルボニル)エトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニュルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。市場で入手可能なトリアジン系紫外線吸収剤の好ましい具体例としては、「TINUVIN405(BASF社製)」(分子量583.76)が挙げられる。又、同様に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、「アデカスタブLA-29(アデカ社製)」(分子量323)等が挙げられる。尚、上記の紫外線吸収剤は、必要に応じて2種以上を混合して用いても良い。
【0045】
[耐候樹脂層]
耐候樹脂層13は、透明保護シート1の最外層に積層されて基材樹脂層11を保護するために配置される層である。耐候樹脂層13は、基材樹脂層11の一方の表面に、耐光接着剤層12を介して耐候性を有する樹脂フィルムを積層することによって形成する。透明保護シート1の透明性を維持するために、耐候樹脂層13にも基材樹脂層11と同等の透明性が求められる。耐候樹脂層13を構成する樹脂フィルムとしては、従来、太陽電池モジュール用保護シートにおいて耐候性を担保するための最外層用として用いられている各種の樹脂フィルムであって、上記の透明性に係る要求を満たしうる各種の樹脂フィルムとして、透明性と優れた耐候性を兼ね備え、柔軟性の高いフッ素系樹脂フィルムを好ましく用いることができる。
【0046】
耐候樹脂層13を構成することができるこのような樹脂として、具体的には、四フッ化エチレン・エチレン共重合体(ETFE):(ロックウェル硬度:R50)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニル・エステル共重合体(PFA):(同:R50)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):(同:R20)等を例示することができる。これらの中でも、透明性や生産性が良好であることから、四フッ化エチレン・エチレン共重合体(ETFE)をベース樹脂とするフィルム(例えば、(「アフレックス25ND」旭硝子社製))を、耐候樹脂層13を構成する樹脂フィルムとして特に好ましく用いることができる。
【0047】
尚、上記に示した通り、フッ素系フィルムのロックウェル硬度は、何れもR50程度以下である。よって、耐候樹脂層13として、上記の各フッ素系フィルムを用いたものは、組合せの対象となる基材樹脂層11よりも必然的に硬度が小さいことになる。このように、耐候樹脂層13としてフッ素系フィルムを用いたものが、本発明の代表的な層構成例となる。
【0048】
但し、耐候樹脂層13のロックウェル硬度が相対的に基材樹脂層11の同硬度よりも小さい構成であれば、耐候樹脂層13のロックウェル硬度がR50を超えていたとしても、本発明の課題解決において有効であり、そのような層構成からなる透明保護シートも当然に本発明の技術的範囲内である。例えば、ロックウェル硬度が、M94~101のPETを基材樹脂層とし、同硬度がR93~116のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を耐候樹脂層とする組合せ等がこれに相当する。
【0049】
耐候樹脂層13の厚さは、特に限定されないが、厚さ5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上50μm以下の範囲が最も好ましい。基材樹脂層11の厚さが5μm未満であると、耐候性が不足する畏れがあり、又、製膜も困難でありその結果として経済性の面でも不利となる。一方で、この厚さが、200μmを超えると、光線透過率が不足することとなる怖れがあり、加工適性や経済性の点でも好ましくない。
【0050】
耐候樹脂層13中には、その他、例えば、シートの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離型性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を必要に応じて添加することができる。その他の添加剤としては、分散剤、消泡剤、光安定化剤、熱安定剤、酸化防止剤等が例示される。これらは、公知のものを特に制限なく使用することができ、耐候樹脂層13に求められる性能に応じて、適宜選択される。
【0051】
[易接着層]
易接着層14は、所謂プライマー層であり、太陽電池モジュール100において、オレフィン系樹脂等からなる裏面側封止材シート2に対する透明保護シート1の接着性を向上させる機能を有する層である。図2に示す通り、透明保護シート1の基材樹脂層11における、耐候樹脂層13が積層されている面とは反対側となる他の表面に形成される。この易接着層14にも、透明保護シート1の透明性を維持するために、基材樹脂層11と同等の透明性が求められる。
【0052】
そして、透明保護シート1においては、この易接着層14に、通常有する接着性向上効果に加えて、更に、透明保護シート1がロール体の状態になった場合におけるシート表面の滑り性を高める役割も果たさせるものとした。これにより、透明保護シートがロール状態にある場合に、基材樹脂層11から耐光接着剤層12及び耐候樹脂層13に向けてかかる圧力が均等に分散せずに、耐光接着剤層12に、部分的に過剰な圧力がかかることを防止できる構成とした。この滑り性を高めるために、易接着層14には、以下に詳細を示す通り、適量のワックスが含有されている。
【0053】
易接着層14を形成するために用いるプライマー組成物としては、従来公知の各種のプライマーコーティング液のうち、透明性に係る上記要求を満たしうるものを選択し、これに、上記の通り、適量のワックスを更に添加して得ることができるプライマー組成物を、用いることができる。
【0054】
易接着層14を形成するプライマー組成物は特に限定されない。例えば、オレフィン系樹脂を含有し水性媒体を主溶剤とするプライマー組成物、或いは、架橋性主剤樹脂と、架橋剤等を、含有し、有機系媒体を主溶剤とするプライマー組成物の何れもが選択可能であって、これらの各組成物に、更に適量のワックスを添加したものを適宜用いることができる。中でも、透明保護シート1においては、上記の水性媒体を主溶剤とするプライマー組成物を、易接着層14を形成するプライマー組成物として好ましく用いることができる。以下、プライマー組成物として、水性媒体を主溶剤とするプライマーコーティング液(以下、単に「水性プライマーコーティング液」とも言う)を用いる場合について、その詳細を説明する。
【0055】
易接着層14は、「水性プライマーコーティング液」を、基材樹脂層11の一方の表面に塗布し、塗布されたコーティング液からなる被膜を固化させることにより形成することができる。易接着層14を形成するために用いる水性プライマーコーティング液に含まれる易接着層組成物は、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含んでなる、酸変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とするものであることが好ましい。
【0056】
上記の酸変性ポリオレフィン樹脂は、JIS K7210に準拠して測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.01g/10min以上100g/10min未満であることが好ましい。このような酸変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とすることにより、易接着層14を形成するために用いる水性プライマーコーティング液において、易接着層組成物の水性媒体への良好な分散性を保持しやすくすることができる。
【0057】
又、酸変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とすることにより、裏面側封止材シート2を形成するオレフィン系樹脂への接着性に優れる易接着層14を形成することもできる。尚、本発明の易接着層14が、例えば、ポリエステル系樹脂からなる基材樹脂層11と、オレフィン系樹脂からなる裏面側封止材シート2との間の接着性を顕著に向上させることができることは、例えば、特開2013-74172号公報の記載からも明らかである。
【0058】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分とするオレフィン成分は、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンであることが好ましく、これらの混合物であってもよい。
【0059】
上記のオレフィン成分を酸変性する不飽和カルボン酸成分は、アクリル酸、メタクリル酸等であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂におけるこれらの不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上8質量%以下である。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、水性分散体への分散性が不十分となる傾向がある。一方、含有量が10質量%を超える場合は、裏面側封止材シート2を形成するオレフィン系樹脂との接着性や、耐水性が低下する傾向がある。
【0060】
又、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体のpHは、分散安定性の観点から、pH7~12の範囲であることが好ましく、pH8~11の範囲であることがより好ましい。
【0061】
酸変性ポリオレフィン樹脂として、より具体的には、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体、又はエチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体、或いは、それらの混合樹脂を好ましく用いることができる。その他、エチレン-アクリル酸ブチル-(無水)マレイン酸共重合体等のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体等を用いることができる。
【0062】
上記の酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体中に分散させることで水性分散体に加工することが可能である。分散させる方法としては、自己乳化法や強制乳化法等公知の分散方法を採用すればよい。酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体としては、水性媒体中で酸変性ポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸成分を塩基性化合物によって中和することで得られるアニオン性の水性分散体とすることが、接着性の観点から好ましい。
【0063】
透明保護シート1は、易接着層14の表面の滑り性を高めるための添加剤として、ワックスを含有する。このワックスの添加により、同様の基本層構成からなる従来の透明保護シートにおいて、頻発していたロール・トウ・ロール方式の製造ラインにおけるシート表面の斑状のむらの発生を回避することができる。
【0064】
易接着層14に含有させるワックスは、特に限定されない。例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう等の植物ワックス、セラックワックス、ラノリンワックス等の動物ワックス、モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油ワックス等を適宜用いることができる。但し、これらの中でも、特には、パラフィンワックスであることが好ましい。パラフィンワックスを適量範囲で易接着層14内に含有させることにより、水性のプライマーコーティング液を用いて形成されるものでありながら、接着性を良好に保持したまま、上記の斑状のむらの発生を回避することができ、更には、易接着層14の耐ブロッキング性も向上させることができる。尚、パラフィンワックスとは、常温で固体、加熱すると液体となる有機系のワックスのうち、炭素数20~30の直鎖状のパラフィン系炭化水素を主成分とするワックス全般のことを言い、例えば、「パラフィンワックス水性分散体(日本精鑞社製、EMUSTAR-0135)」を、好ましく用いることができるワックスの具体例として挙げることができる。
【0065】
易接着層14の表面の滑り性を高めるために、易接着層14には、所定量範囲内で上記のワックスが含有される。具体的には、易接着層14には、単位面積当り0.07g/m以上0.25g/m以下のワックスが含有されていればよく、単位面積当り0.10g/m以上0.18g/m以下のワックスが含有されていることが好ましい。易接着層14内のワックスの含有量が単位面積当り0.07g/m以上であることによって、上記の滑り性を高める効果とそれに伴う斑状のムラの発生の回避という効果を十分に享受することができる。一方、ワックスの含有量が単位面積当り0.25g/mを超えると、易接着層14の接着性向上効果の発現を阻害する畏れが高まるため、好ましくない。
【0066】
易接着層14の厚さは、透明保護シート1に必要な透明性及び接着強度等に応じて適宜変更すれば良く、0.2μm以上3.0μm以下の範囲であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下の厚さであることがより好ましい。易接着層14の厚さが0.2μm以上であれば、透明保護シート1に十分な接着性を付与することができる。易接着層14の厚さが3.0μm以下であれば、透明保護シート1に、良好な耐ブロッキング性を付与することができ、製造コストも抑えることがきる。水性プライマーコーティング液の塗布量は、乾燥後の塗布量として、易接着層14の厚さが上記範囲となるように適宜調整すればよい。水性分散体である水性プライマーコーティング液の固形分濃度は、調製時の仕込み組成により調節することができ、又、一旦調製した水性分散体を、希釈又は濃縮することによって調節してもよい。
【0067】
例えば、上記の厚さ範囲内において、易接着層14の厚さを1.0μmとする場合には、水性プライマーコーティング液中における固形分対比で、ワックスの含有量が15質量%となるような配合比で同液中にワックスを添加することにより、易接着層14中のワックスの含有量を、上記の好ましい範囲内である、0.15g/mと、することができる。
【0068】
易接着層14を形成するために用いる水性プライマーコーティング液において酸変性ポリオレフィン樹脂等を水性分散化させる際に主溶剤として用いる水性媒体は、水又は、水を含む液体からなる媒体である。具体的には、主溶剤として水性媒体を用い、当該水性媒体の当該溶剤100質量部に対する含有量は、50質量部を超えて100質量部以下、好ましくは、70質量部以上100質量部以下である。
【0069】
又、水性プライマーコーティング液には、本発明の上記効果の発現を阻害しない範囲で、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体中に、更に補助溶剤としてSP値が特定範囲にある有機溶剤を含ませることができる。具体的には、易接着層組成物の溶剤は、補助溶剤として有機溶剤が含まれている場合には、当該有機溶剤の当該溶剤100質量部に対する含有量は0質量部以上50質量部未満、好ましくは、0質量部以上30質量部未満である。
【0070】
<透明保護シートの製造方法>
透明保護シート1は、基材樹脂層11を構成する樹脂フィルムの表面に耐候樹脂層13を構成する樹脂フィルムを接合してなる積層体を先ず製造し、次に、この積層体の耐候樹脂層と反対側の面に易接着層14を形成することにより製造することができる。
【0071】
[基材樹脂層と耐候樹脂層との接合]
基材樹脂層11及び耐候樹脂層13を構成する各樹脂フィルムを、耐光接着剤層12を介したドライラミネーション法により接合し、基材樹脂層11と耐候樹脂層13とが一体化されている積層体を得る。耐光接着剤層12を介したドライラミネーションによる接合は、紫外線吸収剤を含有する上述の接着剤を、基材樹脂層11を構成する樹脂フィルムの一方の表面に適切な膜厚さで塗布し、塗布された接着剤の表面に、耐候樹脂層13を構成する樹脂フィルムを積層することにより行うことができる。
【0072】
[易接着層の形成]
上記工程によって得た積層体における、基材樹脂層11及び耐候樹脂層13が一体化されている積層体に対し、耐候樹脂層13が表面に露出している側の面とは反対側の表面に、上記の水性プライマーコーティング液等のプライマーコーティング液を、塗布し、これを塗膜形成することによって易接着層14を形成する。塗膜形成方法としては、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、スクリーン印刷、はけ塗り法等が挙げられる。
【0073】
[ロール体の状態における養生]
本発明の製造方法は、塗布されたコーティング塗膜に含まれる溶剤の乾燥を促進させる養生処理は、透明保護シートの原反となる樹脂フィルムがロール体の状態(透明保護シートロール体)において行われることを想定する方法である。本発明の透明保護シートロール体によれば、従来の同様の構成のロール体において、このようなロール体を養生に付す工程後に頻発していた斑状のムラの発生を回避又は著しく低減させることができる。
【0074】
<透明保護シートロール体>
図3は、本発明の透明保護シート1をロール状に巻き取ってなる透明保護シートロール体10の層構成の説明に供する、ロール体妻面の部分拡大図である。透明保護シートロール体10においては、内周側の透明保護シート1Aの易接着層14と、これに接触する外周側の透明保護シートの耐候樹脂層13が圧着されている状態で、長時間の養生に付されることが想定される。この時、仮に、透明保護シート1Aの易接着層14の表面の滑り性が不十分であると、相対的に硬度が小さい透明保護シート1Bの耐候樹脂層13に対してかかる圧力が不均一になり、耐光接着剤層12からの紫外線吸収剤のブリーディングが局所的に過剰に進んでしまう。これに対して、透明保護シートロール体10においては、透明保護シート1Aの易接着層14の表面の滑り性をワックスの添加により十分に引き上げているので、相対的に硬度が小さい透明保護シート1Bの耐候樹脂層13を適切に滑らせて、この面にかかる圧力を均等に分散させて、図5の上の写真に示すような、斑状のむらの発生を防ぐことができる。尚、透明保護シート1Aの易接着層14と、透明保護シートの耐候樹脂層13の何れを巻芯側にしたものであっても、これらの両面が圧着されている状態にあるロール体である限り、当然に本発明の技術的範囲内である。
【実施例0075】
以下、実施例によって、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0076】
<透明保護シートの製造>
実施例及び比較例の透明保護シートを、下記の樹脂シート、材料組成物、及び、接着剤等を用いて製造した。各透明保護シートの層構成は、何れも図2に記載の構成、即ち、基材樹脂層の一方の表面に耐光接着剤層を介して耐候樹脂層が接合されていて、他方の表面に易接着層が形成されている層構成とした。
【0077】
(基材樹脂層)
実施例及び比較例の透明保護シートの基材樹脂層を構成する樹脂フィルムとして、厚さ300μmの耐加水分解ポリエチレンテレフタレート(HR-PET)フィルム(AP(帝人デュポンフィルム社製))を用いた。尚、このHR-PETフィルムの、ロックウェル硬度は、R125である。
【0078】
(耐候樹脂層)
実施例及び比較例の透明保護シートの耐候樹脂層を構成する樹脂フィルムとして、厚さ25μmのETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合体)フィルム(アフレックス25ND(旭硝子社製))を用いた。尚、このフッ素系フィルムの、ロックウェル硬度は、R50である。
【0079】
(耐光接着剤層)
各実施例及び比較例の透明保護シートの耐光接着剤層を形成する接着剤を、以下の方法(a)~(c)の工程により製造した。製造した接着剤による各樹脂フィルムの接合は、ロール・トゥ・ロール方式の製造ラインにおいて行った。上記接着剤を溶剤酢酸エチルに溶解して、基材樹脂層を構成する上記樹脂フィルムの表面にグラビアコートした。塗布量は、硬化後の膜厚がそれぞれ表1に記載の厚さ(μm)となるような塗布量とした。
(a) 主剤の製造
窒素雰囲気下、撹拌機を備えたフラスコに数平均分子量1000の脂肪族ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラノールT5651」)100質量部、1、6-ヘキサンジオール(5質量部)、イソホロンジイソシアネート(27.5質量部)、酢酸エチル(132.5質量部)を加え、赤外線吸収スペクトルにて、2270cm-1のイソシアネートの吸収が消失するまで加熱還流させ、ポリウレタンジオールの50%溶液を得た。
主剤成分である脂肪族ポリカーボネートジオールとして、脂肪族ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラノールT5651」)を準備した。
上記で製造した主剤成分であるポリウレタンジオールと脂肪族ポリカーボネートジオールを使用して、主剤を調製した。この調製は、ポリウレタンジオール100質量部に対して、脂肪族ポリカーボネートジオールを15質量部配合することにより行った。
(b) 紫外線吸収剤の添加
:トリアジン系紫外線吸収剤「TINUVIN405(商品名、BASF社製)」(分子量583.76)を、接着剤の上記主剤中における含有量が、固形分換算比で、表1に記載の通りの各含有量となるように上記主剤に添加した。
(c) 硬化剤の製造
硬化剤の材料としては、イソホロンジイソシアネートのヌレート体と、ヘキサメチレンジイソシアネート系2官能ポリウレタンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ社製「デュラネートD101」)を用いた。その配合割合(質量)は、イソホロンジイソシアネートのヌレート体:ヘキサメチレンジイソシアネート系2官能ポリウレタンジイソシアネートを40:60とした。尚、上記配合割合(質量)は、溶剤を含まない固形質量比であるが、製造に際しては固形分50%に調製をした。
(d) 主剤と硬化剤の配合
上記で製造した主剤と硬化剤を使用し、接着剤を製造した。又、主剤と硬化剤の配合は、主剤、硬化剤を溶剤に溶解させて、それぞれ50質量%(酢酸エチル溶液)とし行った。尚、上記硬化剤には、シランカップリング剤として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを接着剤全体に対して1.2%の割合で添加した。
【0080】
(易接着層)
上記の通り、耐候樹脂層が接合されている基材樹脂層の表面(耐候樹脂層とは反対側の面)に、易接着層を形成する工程を、ロール・トゥ・ロール方式の製造ラインにおいて行った。下記の水性プライマーコーティング液をグラビアコートにて塗工し、塗工されたコーティング液を、乾燥処理温度110℃で2分間乾燥させた後、上記同様のロール体の状態で、40℃で5日間養生して、耐光接着剤層の硬化と易接着層の形成を促進して、各実施例及び各比較例の透明保護シートとした。各コーティング液の塗工量については、それぞれ表1に記載の通りとした。尚、ロール体の状態とは、詳しくは、幅1000mm、長さ1000mの透明保護シートを、直径160mmの巻芯に巻き取った状態である。
【0081】
水性プライマーコーティング液の材料としては下記の各材料からなる易接着層組成物及び溶媒を撹拌混合してなる水性分散体を用いた。
酸変性ポリオフィン樹脂
:ベース樹脂として、既成の酸変性ポリオフィン樹脂粉末材料(「ボンダイン(登録商標)」)、東京材料株式会社製を、それぞれの実施例、比較例に用いた。
パラフィンワックス
:「パラフィンワックス水性分散体(日本精鑞社製、EMUSTAR-0135)」を、易接着層組成物中の樹脂成分中における含有量が、固形分換算比で、表1に記載の通りの各含有量となるように配合した。
その他の樹脂
:「エポクロスWS700 日本触媒社製」。ベース樹脂100質量部に対して5質量部の割合で添加した。
溶媒
:蒸留水(76質量部)、イソプロパノール(23質量部)、トリエチルアミン(1質量部)の混合液を溶媒として用いた。
【0082】
<透明保護シートの評価>
[試験例1:(透明性評価)]
(試験方法)
各透明保護シートの透明性を評価するために、日本分光製V670を使用し、JIS K7361-1:1997に準じて、波長400nm以上1200nm以下における光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
(評価基準)
○:波長400nm以上1200nm以下の波長領域全体において光線透過率が70%以上
×:波長400nm以上1200nm以下の波長領域全体において光線透過率が70%未満の波長領域がある。
【0083】
[試験例2:(意匠性評価)]
各透明保護シートの意匠性(斑状ムラの発生の有無)を評価するための試験を下記の通り行った。
(試験方法)
実施例、比較例の各透明保護シートの意匠性を評価するために、上記の易接着層形成作業時のロール体での養生後、巻芯から開放してフラットな状態に戻した各シート表面を目視により観察し、斑状のムラの発生の有無を確認した。
(評価基準)
○:目視で視認可能な斑状のムラは全く発生していなかった。
△:1000mm×1000mmの試料シートの全表面中において、巻外50m以下(ロール体からの引き出し時における最初の50m以下の範囲のこと、以下同じ)に、目視で視認可能な斑状のムラが発生していた。
×:1000mm×1000mmの試料シートの全表面中において、巻外50m以上に、目視で視認可能な斑状のムラが発生していた。
【0084】
[試験例3:(耐光性評価)]
本発明の透明保護シートの耐光性(耐紫外線性)を評価するための試験を下記の通り行った。
(試験方法)
各透明保護シートを、Super UV試験装置(岩崎電気 EYESUPER UV TESTER SUV-W151)に、1000W/mの条件で、48時間投入し、その後の、各シート表面の状態を目視により観察することにより行った。
(評価基準)
○:目視で視認可能な、フィルムの黄変が発生していなかった。
×:目視で視認可能な、フィルムの黄変が発生していた。
【0085】
[試験例4:(接着性評価)]
各透明保護シートの接着性を評価するための試験を下記の通り行った。
(試験方法)
各実施例及び各比較例、それぞれの透明保護シートについて、易接着層の形成面に、下記の封止材シートを下記のラミネート条件で太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータを用いてラミネートし、接着性評価用試料とした。
(封止材シート)
EVA(酢酸ビニル含量28%、製品名「EVAFLEX/EV250グレード」、三井デュポンポリケミカル製)100質量部に対して、架橋剤(製品名「Lupersol101」)1.5質量部、架橋助剤(TAIC)0.5質量部、酸化防止剤(製品名「NAUGARD-P」)0.2質量部、UV吸収剤((製品名「Tinuvin7709」)0.1質量部と(製品名「Cyasorb UV-531」)0.3質量部とを配合したもの)を、成膜温度90℃のTダイ法により厚さ400μmに製膜した。
(ラミネート条件)
真空ラミネータにて圧力100kPaにて150℃で15分間圧着した後、高温層にて150℃30分間静置するスタンダードキュア条件でラミネートを行った。
各々の接着性評価用試料について、剥離強度(N)を15mm幅の180度ピールにて接着性について初期値及び各耐久試験実施後の値を測定した。測定には、剥離試験装置(「株式会社エー・アンド・デイ」社製、製品名「TENSILON RTA-1150-H」)を用いて、180度ピールにて剥離条件50mm/minで23℃にて測定を行い、3回の測定の平均値を採用した。
(評価基準)
○:9N/15mm以上
△:6N/15mm以上、9N/15mm未満
×:6N/15mm未満
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、本発明の透明保護シートは、適切な耐光接着剤層及び易接着層を備えることにより、耐光性及び接着層が優れた水準に維持されており、尚且つ、易接着層に適量のワックスが含有されていることにより、特に、製造過程において、ロール体の状態を経た後における意匠性の劣化を防ぐことができるものであることが確認された。
【符号の説明】
【0088】
1 透明保護シート
11 基材樹脂層
12 耐光接着剤層
13 耐候樹脂層
14 易接着層
2 裏面側封止材
3 表面側封止材
4 透明前面基板
5 太陽電池素子
6 金属フレーム
10 透明保護シートロール体
100 太陽電池モジュール
図1
図2
図3
図4