(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026424
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ゾーン毎ステップ高制御を有する眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214512
(22)【出願日】2023-12-20
(62)【分割の表示】P 2022014904の分割
【原出願日】2017-11-09
(31)【優先権主張番号】62/427,241
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(72)【発明者】
【氏名】シンウク リ
(72)【発明者】
【氏名】シン ホン
(57)【要約】
【課題】ゾーンステップ高制御によるゾーンを有する眼内レンズを提供する。
【解決手段】本方法およびシステムは眼科用装置を提供する。本眼科用装置は、前面、後面、および複数のゾーンを含む少なくとも1つの回折構造を有する眼科用レンズを含む。少なくとも1つの回折構造は前面および後面の少なくとも1つの面用である。各ゾーンは、少なくとも1つのステップ高を有する少なくとも1つのエシェレットを含む。ステップ高はゾーン毎に個々に最適化される。遠方からある視野までの眼の色収差を補償するために、2π位相ステップ高より大きい位相ステップ高が、採用され、2πの整数倍である位相だけ折り返され得る。したがって、眼の色収差は遠方視から近方視までを改善するように補償され得る。
【選択図】
図1A-1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折構造を有する眼科用レンズであって、
前記回折構造は、第1エシェレット及び第2エシェレットを含んでおり、前記第1エシェレット及び前記第2エシェレットは、最適化されたステップ高を有する最適化されたエシェレットのステップ高が2nπ(nは正の整数)を超える場合に、前記最適化されたエシェレットを、2nπの位相だけ折り返すことによって設計され、
前記第1エシェレットは2πの第1ステップ高を有し、前記第2エシェレットは、前記最適化されたステップ高と2nπとの差分の第2ステップ高を有する、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記回折構造は、さらに複数のゾーンを含み、
前記第1エシェレット及び前記第2エシェレットは、前記複数のゾーンの第1ゾーンに取り込まれる、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記眼科用レンズは、該眼科用レンズが多焦点レンズとなるように、複数の焦点長をさらに含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記回折構造は、さらに複数のゾーンを含み、
前記第1エシェレット及び前記第2エシェレットは、前記複数のゾーンの第1ゾーンに取り込まれ、かつ、前記複数のゾーンの各ゾーンは、前記複数の焦点長に関し個々に最適化される、請求項3に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記複数のゾーンの各ゾーンは、前記複数の焦点長に関し個々に最適化される、請求項4に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記回折構造は、前記眼科用レンズの前面に取り込まれる、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記回折構造は、前記眼科用レンズの後面に取り込まれる、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
2πを超える前記最適化されたステップ高は、2πの整数倍である位相だけ折り返される、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記最適化されたステップ高が位相だけ折り返された後、前記回折構造は、2πを超えるステップ高を有するエシェレットを含まない、請求項8に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
多焦点眼科装置であって、
請求項1に記載された眼科用レンズと、
前記眼科用レンズと結合された複数の触覚と、を含む多焦点眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には眼内レンズに関し、より具体的にはゾーンステップ高制御によるゾーンを有する眼内レンズに関する。
【0002】
眼内レンズ(IOL:intraocular lens)は、患者の水晶体を交換するため、または患者の水晶体を補完するためのいずれかで患者の眼に埋め込まれる。IOLは白内障手術中に患者の水晶体の代わりに埋め込まれ得る。代替的に、IOLは患者自身の水晶体の屈折力を強化するために患者の眼に埋め込まれ得る。
【0003】
いくつかの従来のIOLは単一焦点長IOLであり、一方、他のものは多焦点IOLである。単一焦点長IOLは単一焦点長すなわち単一度数を有する。眼/IOLからの焦点長における対象物は焦点が合い、一方、より近くの対象物またはより離れた対象物は焦点が合わないことがある。対象物は焦点長においてだけ完全に焦点が合うが、焦点深度内(焦点長の特定距離内)の対象物は依然として、患者が対象物の焦点が合っていると考える得る程度に焦点が合う。多焦点IOLは少なくとも2つの焦点長を有する。例えば、二焦点IOLは、2つの領域内の焦点を改善するために2つの焦点長(すなわち、長い焦点長に対応する遠焦点および短い焦点長に対応する近焦点)を有する。このようにして、患者の遠方視および近方視が改善され得る。従来の回折二焦点IOLは通常、遠焦点/遠方視用に第0の回折次数をそして近焦点/近方視用に第1の回折次数を使用する。三焦点IOLは3つの焦点(すなわち遠方視のための遠焦点、近方視のための近焦点、および近焦点の焦点長と遠焦点の焦点長との間の中間焦点長を有する中間視のための中間焦点)を有する。従来の回折三焦点IOLは通常、遠方視のための第0の回折次数、中間視のための第1の回折次数、および近方視のための第2の回折次数を使用する。多焦点IOLは、遠方対象物およびすぐ近くの対象物に合焦する患者の能力を改善し得る。別の言い方をすると、患者の焦点深度が強化され得る。三焦点IOLは3つの焦点(すなわち遠方視用の遠焦点、近方視用の近焦点、および中間視用の中間焦点)を有する。中間焦点は近焦点の焦点長と遠焦点の焦点長との間の中間焦点長を有する。多焦点IOLは、遠方対象物およびすぐ近くの対象物に合焦する患者の能力を改善し得る。
【0004】
従来のIOLを製作するために、光学設計ソフトウェアが通常採用される。レンズ表面上のゾーンの所望の焦点長および位置が提供される。これらの入力が与えられると、レンズ全体が、光学ソフトウェアを使用することにより解析的に最適化される。別の言い方をすると、複数ゾーンの回折構造が、解析ツールを使用することにより同時に最適化される。その結果、IOLが提供され得る。
【0005】
光学条件に対処するのに有用であるが、IOLは縦色収差および/または制限された焦点深度などの様々な欠点に悩まされ得る。光の様々な色は様々な波長としたがって様々な周波数とを有する。その結果、IOLは様々な色の光を水晶体からの様々な距離に合焦する。IOLは様々な色の光を患者の網膜に合焦することができない可能性がある。IOLの多色像コントラストが悪影響を受け得る。加えて、IOLの焦点深度は望むほど大きくない可能性がある。焦点長からさらに遠い範囲の患者の視力が悪影響を受け得る。結局、拡張焦点深度(EDOF:extended depth of focus)が望ましい可能性がある。
【0006】
したがって、必要とされるものはIOLを改善するためのシステムおよび方法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本方法およびシステムは眼科用装置を提供する。眼科用装置は、前面、後面、および複数のゾーンを含む少なくとも1つの回折構造を有する眼科用レンズを含む。少なくとも1つの回折構造は、前面および後面の少なくとも1つの面用である。各ゾーンは、少なくとも1つのステップ高を有する少なくとも1つのエシェレットを含む。ステップ高はゾーン毎に個々に提供される。少なくとも1つのステップ高はまた、2πの整数倍である位相だけ折り返される。
【0008】
レンズは、上述の回折構造を有し、低減された色収差とより大きなEDOFとを有し得る。その結果、性能が改善し得る。
【0009】
本開示およびその利点をより完全に理解するために、添付図面と併せて以下の説明が次に参照される。同様な参照符号は同様な特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A-1B】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む多焦点眼科装置の例示的実施形態の平面図および側面図を描写する。
【
図2】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む多焦点眼科用レンズの回折構造のサグ(sag)プロファイルの例示的実施形態を描写する。
【
図3A-3B】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む多焦点眼科用レンズの強度対焦点シフトの例示的実施形態を描写する。
【
図4】拡張焦点深度を有するとともに個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む眼科用レンズの回折構造のサグプロファイルの例示的実施形態を描写する。
【
図5A-5B】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含むレンズの強度対焦点シフトの例示的実施形態を描写する。
【
図6】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む眼科用装置を製作する方法の例示的実施形態を描写するフローチャートである。
【
図7】個々に最適化されたゾーンを含む設計中の回折構造のサグプロファイルの例示的実施形態を描写する。
【
図8】個々に最適化されたゾーンおよび位相折り返しを含む設計中の回折構造のサグプロファイルの例示的実施形態を描写する。
【
図9】低減された色収差を有し得る多焦点レンズを含む眼科用装置を利用する方法の例示的実施形態を描写するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
例示的実施形態は、IOLおよびコンタクトレンズなどの眼科用装置に関係する。以下の説明は、当業者が本発明をなし得るようにそして使用できるようにするために提示され、特許出願とその要件に関連して提供される。本明細書で説明される例示的実施形態および一般的原理および特徴に対する様々な修正は容易に明らかになる。例示的実施形態は、特定実施形態において提供される特定方法およびシステムの観点で主として説明される。しかし、本方法およびシステムは、他の実施形態において効果的に動作することになる。例えば、本方法およびシステムは主としてIOLの観点で説明される。しかし、本方法およびシステムはコンタクトレンズと共に使用され得る。「例示的実施形態」、「一実施形態」、および「別の実施形態」などの語句は複数の実施形態だけでなく同じまたは異なる実施形態も指し得る。本実施形態は、いくつかの部品を有するシステムおよび/または装置に関して説明されることになる。しかし、本システムおよび/または装置は示されたものより多いまたは少ない部品を含み得、部品の配置およびタイプの変形は本発明の範囲から逸脱することなくなされ得る。例示的実施形態はまた、いくつかの工程を有する特定方法に関連して説明されることになる。しかし、本方法およびシステムは、異なるおよび/または追加の工程、および例示的実施形態と矛盾しない異なる順番の工程を有する他の方法に関し効果的に動作する。したがって、本発明は、示された実施形態に限定されるように意図されていないが、本明細書に記載の原理および特徴に整合する最も広い範囲を与えられるようになっている。
【0012】
本方法およびシステムは眼科用装置を提供する。眼科用装置は、前面、後面、および複数のゾーンを含む少なくとも1つの回折構造を有する眼科用レンズを含む。回折構造は、前面および後面の少なくとも1つの面用のものである。各ゾーンは、少なくとも1つのステップ高を有する少なくとも1つのエシェレットを含む。ステップ高はゾーン毎に個々に判断される。ステップ高はまた、2πの整数倍である位相だけ折り返される。
【0013】
図1A~1BはIOLとして使用され得る眼科用装置100の例示的実施形態を描写する。
図1Aは眼科用装置100の平面図を描写し、一方、
図1Bは眼科用レンズ110の側面図を描写する。明確にするために、
図1A、1Bは原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものであり、一部特徴だけが示される。眼科用装置100は眼科用レンズ110(以下「レンズ」)および触覚102、104を含む。レンズ110は、限定しないが1つまたは複数のシリコーン、ヒドロゲル、アクリル樹脂、AcrySof(登録商標)を含む多様な光学物質で作られ得る。触覚102、104は眼科用装置100を患者の眼(明示せず)内の適所に保持するために使用される。他の実施形態では、他の機構が眼科用装置を眼内の適切な位置に保持するために使用される可能性がある。したがって、触覚102および/または104は省略され得る。明確にするために、触覚は残りの添付図面では描写されない。レンズ110は
図1Aの平面図では円形断面を有するものとして描写されるが、他の実施形態では他の形状が使用され得る。IOLに関連して説明されるが、レンズ110はコンタクトレンズであり得る。このような場合、触覚102は省略され、レンズ110は寸法決めされ、そうでなければ眼の表面上に留まるように構成されるであろう。
【0014】
レンズ110は多焦点レンズであってもよいがそうである必要はない。レンズ110は前面112、後面114、および光軸116を有する。レンズはまた、回折構造120およびベース曲面121により特徴付けられる。レンズ110は、ベース度数、非点収差矯正、および/または他の視力矯正を提供し得る。レンズ110は、非球面および/または環状体であり、表面112、114上の同じまたは異なるベース曲面、および/または簡単のために図示しないまたは詳細に論述されない他の特徴を有する。1つの回折構造120が前面112上に示されるが、回折構造120は後面114上に配置される可能性がある。さらに他の実施形態では、回折構造は前面112および後面114上に配置され得る。このような回折構造は同じであってもよいし異なってもよい。回折構造120は部分的開口回折構造であってもよいがそうである必要はない。さらに、物理的回折構造として示されるが、他の実施形態では、回折構造120はレンズ110の屈折率の変更により形成され得る。
【0015】
回折構造120は単一焦点長または複数焦点長を提供し得る。いくつかの実施形態では、回折構造120は二焦点(近方視および遠方視のための2つの焦点長)レンズ110を提供するために使用される。他の実施形態では、回折構造120は三焦点(近方視、中間視および遠方視のための3つの焦点長)レンズ110を提供し得る。四焦点または他の多焦点レンズも提供される可能性がある。回折構造120は特定波長用に構成され得る。例えば、回折構造120の異なるゾーン111は異なる波長の光用に構成され得る。代替的に、回折構造120は単一波長の光用に設計され得る。
【0016】
回折構造120は、光軸116に垂直な距離における様々な範囲(すなわち様々な半径)に対応する複数ゾーン122A、122B、122C(一括してゾーン122)を含む。3つのゾーン122が示されるが、レンズ110は別の数のゾーンを有し得る。ゾーン122A、122Bおよび/または122Cは、光軸116からの最小半径から最大半径までの表面に沿った円または環状リングである。例えば、いくつかの実施形態では、回折構造120はフレネル回折レンズ判断基準により設定されるゾーン122のリング径を有し得る。代替的に、他の判断基準が、ゾーン122の各ゾーンのサイズおよび位置を判断するために使用され得る。
【0017】
ゾーン122のそれぞれはステップまたはエシェレット124を含む。エシェレット124は位相差に対応するステップ高を有する。エシェレット124のステップ高はレンズ110と周囲媒体との屈折率の差(Δn)を乗じた物理的ステップ高(h)である。換言すれば、ステップ高=h・Δnである。エシェレット124の位相差φは波長λにより除算されたステップ高に比例する。より具体的にはφ=(2・π・h・Δn)/λである。したがって、2πの位相差はステップ高における1波長に対応する。したがって、用語ステップ高および位相は本明細書では実効的に同意語であると考えられる。
【0018】
ゾーン122のうちの1つまたは複数のゾーンのエシェレット124は個々に最適化される。別の言い方をすると、ゾーン122A、122Bおよび/または122Cのエシェレット124の1つまたは複数の特徴は、別のゾーン内のエシェレット124の特徴とは無関係にそれぞれ当該ゾーン122A、122Bおよび/または122Cに関し判断される。いくつかの実施形態では、ゾーン122内のエシェレット124のステップ高(位相)はゾーン毎ベースで別々に判断される。したがって、各ゾーン122A、122Bおよび/または122Cのステップ高は、別のゾーンのステップ高とは独立に判断される。他の実施形態では、エシェレット124の追加または他の特徴はゾーン毎ベースで別々に構成され得る。例えば、エシェレット124間の間隔もまたゾーン122毎に独立に制御され得る。
【0019】
ゾーン122A、122B、122Cの各ゾーンのエシェレット124の特徴は、選択された判断基準に基づき独立に最適化され得る。例えば、レンズ110の特定焦点長、標的焦点位置、建設的干渉の位置および量、標的位相、および/または他の判断基準は、ゾーン122毎にステップ高を別々に判断するために使用され得る。これらの判断基準はゾーン122間で変化し得る。他の実施形態では、これらの判断基準はゾーン122毎に同じであり得る。ゾーン122の位置は互いに異なるので、判断基準が同じままであっても、異なるステップ高が異なるゾーン122に関し判断され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、各ゾーン内のエシェレット124の位相(すなわちステップ高)は、ゾーン122のそれぞれが様々な標的位置において積極的に干渉するように、個々に最適化され得る。この結果、レンズ110の焦点深度が改善され得る。いくつかの例では、比較的一様なスルーフォーカスが実現され得る。ゾーン122のそれぞれは、多焦点レンズ110の焦点長のうちの1つまたは複数の焦点長に関し別々に最適化され得る。例えば、ゾーン122のそれぞれは様々な中間焦点長を提供するために最適化され得る。したがって、焦点深度は改善され得る。
【0021】
エシェレット124をゾーン122毎に独立に構成することに関連して論述されたが、当業者は、ゾーン122のすべてがそのように構成されなければならないことはないということを認識することになる。例えば、いくつかの実施形態では、ゾーン122A、122Bだけのエシェレット124が別々に判断され得る。他の実施形態では、ゾーン122A、122Cだけのエシェレット124が別々に構成され得る。さらに他の実施形態では、ゾーン122B、122Cだけのエシェレット124の特徴が独立に判断される可能性がある。他の実施形態では、レンズ110のゾーン122のすべてが別々に操作される可能性がある。したがって、独立に操作されるエシェレット124を有する特定ゾーン122は実施形態間で変わり得る。
【0022】
ゾーン122は、ステップ高の別々のゾーン毎最適化に加えて、位相折り返しを受け得る。ゾーン122の1つまたは複数のゾーンの個々に判断されたステップ高は大きい可能性がある。対応する位相は2・πを越え得る。いくつかのケースでは、最適化されたステップ高は、少なくとも3・π、4・π、またはそれ以上の位相に対応し得る。したがって、ステップ高が十分に大きければ、ステップ高は2・π・nの位相だけ折り返され、nは正の整数である。いくつかの実施形態では、エシェレット124のステップ高は2・πの最大位相を提供するように低減され得る。したがって、別々に制御されることに加えて、各ゾーン122A、122B、および/または122Cのエシェレット124のステップ高は折り返される。ステップ高のこの低減は、光軸116から遠い光からの光干渉を低減し得る。位相折り返しはまた、レンズ110が形成される材料の正分散を部分的にまたは全体的に補償し得る負分散を提供し得る。
【0023】
眼科用レンズ110は改善された性能を有し得る。眼科用レンズ110は多焦点レンズであり得る。眼科用装置100は老眼などの状態を治療するために使用され得る。非点収差などの他の状態が治療され得る。レンズ110の性能は、ベース曲面121、レンズ110の非球面、レンズ110の円環、エシェレット122のアポダイゼーション、およびレンズの他の特徴の使用により改善され得る。加えて、レンズ110は低減された色収差だけでなく改善されたEDOFも有し得る。各ゾーン122内のエシェレット124のステップ高を別々に制御することで、像がより大きな範囲の距離にわたって十分に焦点が合うようにし得る。したがって、焦点深度は改善され得る。エシェレットもまた折り返された位相であるので、レンズ110により導入される色収差が補償され得る。スーパーゾーンおよび位相ラッピングのこの使用は、回折レンズの強い負分散により眼の色収差を補償し、遠方からある視野まで色収差を補正し得る。したがって、焦点深度が増加され得、一方、よりアクロマートなレンズ110が提供され得る。結局、性能が改善され得る。
【0024】
眼科用レンズ110の利点はいくつかの実施形態に関してより良く理解され得る。
図2は、個々に制御されたゾーンおよび位相折り返しを含む回折構造の別の例示的実施形態のサグプロファイル130を描写する。したがって、サグプロファイル130と回折構造130は交換可能に参照される。回折構造130はレンズ110内の回折構造120に代わり得る。サグプロファイル130は、それぞれが1つまたは複数のエシェレット132を含むゾーン134、136、138が存在するということを示す。
図3A、3Bは、回折構造130により作られた三焦点レンズ110の単色および明所視強度それぞれ対焦点シフトの例示的実施形態をそれぞれ描写するグラフ140、150である。曲線142、152は一組の線ペアのものであり、一方、曲線144、154は2倍周波数を有する別の一組の線ペアのものである。
図2~3Bは、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。
【0025】
グラフ140、150から分かるように、スルーフォーカス変調伝達関数(MTF:modulation transfer function)曲線142/152および144/154は、サグプロファイル130内のエシェレット132のステップ高の別個のゾーン毎制御のおかげでシフトされる。このシフトは、MTF曲線内の谷を補償する。したがって、サグプロファイル130を取り込んだレンズの焦点深度が改善された。回折構造130の位相折り返しの理由で、色収差も補償され得る。この結果、MTFは、グラフ140、150において拡張距離全体にわたり少量だけ低下して示される。したがって、サグプロファイル130を有するレンズ110の焦点深度および色収差補正が改善され得る。サグプロファイル130を有する回折構造を採用するレンズ110の性能が強化され得る。
【0026】
図4は、個々に制御されたゾーンおよび位相折り返しを含む回折の別の例示的実施形態のサグプロファイル130’を描写する。したがって、サグプロファイル130’と回折構造130’は交換可能に参照される。回折構造130’はレンズ110内の回折構造120に代わり得る。サグプロファイル130’は、それぞれが1つまたは複数のエシェレット132’を含むゾーン134’、136’、138’が存在するということを示す。
図5A、5Bは、回折構造130’により作られた三焦点レンズ110のMTF対焦点シフトの例示的実施形態をそれぞれ描写するグラフ140’、150’である。曲線142’は単色MTFを描写し、一方、曲線152’は明所視MTFのものである。
図4~5Bは、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。図示の実施形態では、近方度数は度数をレンズ110へ加えることにより設定され得、一方、中間度数はサグプロファイル130’のステップ高の別個のゾーン毎最適化により提供され得る。加えて、エシェレット132’のステップ高は2・πの整数倍だけ折り返され得る。例えば、エシェレット132’に対応する最大位相は2・πであり得る。
【0027】
グラフ140’、150’から分かるように、曲線142’、152’は中間焦点を提供する。これは、サグプロファイル130’に示すようにゾーン134’、136’、138’のエシェレットステップ高の別個の制御による。したがって、焦点深度が改善された。回折構造130’の位相折り返しの理由で、色収差もまた補償され得、サグプロファイル130’を有するレンズ110の焦点深度および色収差補正が改善され得る。したがって、サグプロファイル130を有する回折構造を採用するレンズ110の性能が強化され得る。
【0028】
図6は、低減された色収差を有する多焦点回折レンズを提供する方法200の例示的実施形態である。簡単のために、いくつかの工程は省略され得る、交互配置され得る、および/または組み合わせられ得る。
図7、8は、方法200を使用して設計されたレンズのサグプロファイル170、170’を描写する。サグプロファイル170、170’は、説明の目的のためだけのものであり、特定装置を表すようには意図されていない。
図6~8を参照すると、方法200は眼科用装置100、レンズ110、および回折構造120を提供するために使用され得る。しかし、方法200は、1つまたは複数の他の回折構造130および/または130’’および/または類似眼科用装置と共に使用され得る。
【0029】
方法200は、1つまたは複数のプロセッサとメモリとを含むシステムを使用して実行され得る。1つまたは複数のプロセッサは、添付図面に記載され以下に説明されるプロセスのいくつかまたはすべてを生成し制御するために、メモリ内に格納された命令を実行するように構成され得る。本明細書で使用されるように、プロセッサは1つまたは複数のマイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field-programmable gate array)、コントローラ、または任意の他の好適なコンピュータ装置またはリソースを含み得、メモリは、限定しないが磁気媒体、光媒体、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、読み取り専用メモリ(ROM:read-only memory)、着脱可能媒体、または任意の他の好適なメモリ部品を含む揮発性または不揮発性メモリの形式を取り得る。メモリは、プロセッサにより実行されると、機能を処理する工程を含む任意のこのようなプロセッサ、メモリまたは部品に関して本明細書で説明される機能を実施するプログラムおよびアルゴリズムのための命令を格納し得る。さらに、本方法およびシステムの態様は、完全ハードウェア実施形態、完全ソフトウェア実施形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)、またはソフトウェア態様とハードウェア態様とを組み合わせた実施形態の形式を取り得る。さらに、本方法およびシステムの態様は、少なくとも1つのプロセッサ上で実行されるソフトウェア部品であって、その上で具現化されるコンピュータ可読プログラムコードを有する1つまたは複数のコンピュータ可読媒体内で具現化され得るソフトウェア部品の形式を取り得る。
【0030】
レンズ110の回折構造は工程202、204を使用して設計される。エシェレットのステップ高は工程202を介しゾーンのそれぞれを個々に構成することにより判断される。工程202は、命令を実行するプロセッサを使用することにより解析的に行われ得る。例えば、望ましい標的焦点位置、焦点長、ゾーン位置、および/または他の判断基準が、光学格子および行われる最適化を設計するためのソフトウェアに対する入力として提供され得る。この結果、最適化された位相に対応する最適化されたステップ高が、形成される回折構造の一部またはすべてのゾーン毎に独立に判断される。最適化プロセスと称されるが、当業者は、判断されるステップ高は使用されるできる限りの組の判断基準には最適ではない可能性があるということを認識することになる。その代りに、最適化プロセスは、ユーザにより提供される判断基準に基づきステップ高を判断する解析ツールを使用し得るものである。
図7は、工程202から生じる単純化スーパーゾーンサグプロファイル172を描写するグラフ170である。プロファイル172は、線形プロファイルとして単純化されるが、より一般的には湾曲されるであろう。したがって、サグプロファイル172は3つのゾーンを有する。最適化プロセスは、大きな最適化されたステップ高を有するサグプロファイル172のエシェレットを生じた。サグプロファイル172は、主次数として第1および第2次数を含む。比較のために、単焦点フレネルレンズのサグプロファイル174と二重焦点回折レンズのサグプロファイル176とが示される。サグプロファイル174は第1次数を利用し、一方、サグプロファイル176は第零次数と第1次数とを利用する。サグプロファイル172のエシェレットに対応する位相は2・πより大きい最適化された位相を有する。
【0031】
最適化されたステップ高は、最適化された位相が2・πを越えれば工程204を介し折り返される。折り返す際に使用される位相は2・πを乗じた正の整数である。示された実施形態では、ゾーンのすべては大きな最適化されたステップ高を有する。結局、すべてのゾーンの最適化されたステップ高が折り返される。別の実施形態では、いくつかのゾーンだけの最適化されたステップ高が折り返され得る。
図8は、折り返しが行われた後の結果の単純化サグプロファイル172’を描写するグラフ170’である。プロファイル172’は、線形プロファイルとして単純化されるが、より一般的には湾曲されるであろう。したがって、サグプロファイル172’のエシェレットはすべて、低減された位相を有する。また破線により示されるものは、元の曲線172と、サグプロファイル172が最終曲線172’を形成するために移動される方向とである。
【0032】
レンズ110は工程206を介し製作される。こうして、サグプロファイル170’を有する所望の回折構造120が形成され得る。回折構造120、130、130’および/または類似回折構造が提供され、その利点が実現され得る。
【0033】
図9は、患者の眼状態を治療するための方法210の例示的実施形態である。簡単のために、いくつかの工程は省略され得る、交互配置され得る、および/または組み合わせられ得る。方法210はまた、眼科用装置100および眼科用レンズ110を使用することに関連して説明される。しかし、方法210は、1つまたは複数の回折構造130、130’、170’および/または類似回折構造と共に使用され得る。
【0034】
患者の眼内への埋め込みのための眼科用装置100が工程212を介し選択される。眼科用装置100は、個々に最適化され、また折り返されたゾーン122を有する回折構造120を有する眼科用レンズ110を含む。したがって、回折構造120、130、130’、170’および/または類似回折構造を有するレンズが使用のために選択され得る。
【0035】
眼科用装置100は工程204を介し患者の眼内に埋め込まれる。工程204は、患者自身の水晶体を眼科用装置100で置換する工程または患者の水晶体を眼科用装置で強化する工程を含み得る。次に、患者の治療が完了され得る。いくつかの実施形態では、別の類似眼科用装置の患者の他の眼内への埋め込みが行われ得る。
【0036】
方法200を使用することにより、回折構造120、130、130’、170’および/または類似回折構造は使用され得る。こうして、1つまたは複数の眼科用レンズ110の利点が実現され得る。
【0037】
眼科用装置を提供するための方法およびシステムが説明された。本方法およびシステムは示された例示的実施形態に従って説明された。当業者は、実施形態に対する変形形態があり得るということと、いかなる変形形態も本方法およびシステムの精神、範囲内に入るであろうということとを容易に認識することになる。したがって、添付された請求項の精神および範囲から逸脱することなく多くの修正が当業者によりなされ得る。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの焦点長を有する眼科用レンズであって、
前面と;
後面と;
複数のゾーンを含む少なくとも1つの回折構造であって、前記複数のゾーンのそれぞれは少なくとも1つのステップ高を有する少なくとも1つのエシェレットを含み、前記少なくとも1つの回折構造は前記前面および前記後面の少なくとも1つの面にあり、前記少なくとも1つのステップ高は前記複数のゾーンのゾーン毎に個々に判断される、少なくとも1つの回折構造と、を含んでおり、
前記複数のゾーンの特定の1つにおける特定のエシェレットは、2πを超える最適化されたステップ高を有し、前記回折構造は、前記特定のエシェレットを表すための第1エシェレット及び第2エシェレットを含んでおり、前記第1エシェレットは2πのステップ高を有し、前記第2エシェレットは、前記最適化されたステップ高と2πとの差分のステップ高を有する、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの焦点長は前記眼科用レンズが多焦点レンズとなるように複数の焦点長を含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記各ゾーンは前記複数の焦点長の一部に関し個々に最適化される、請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記各ゾーンは前記複数の焦点長に関し個々に最適化される、請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記少なくとも1つのステップ高は複数のステップ高を含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記少なくとも1つのステップ高は2π以下である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの回折構造は前記前面内に取り込まれる、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記各ゾーンは複数の標的位置に関して個々に最適化される、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
それぞれが1つ又は複数のプロセッサ及びメモリを含む1つ又は複数のシステムを使用して実行する、少なくとも1つの焦点長を有する眼科用レンズを製作するための方法であって、方法は、
複数のゾーンを含む少なくとも1つの回折構造を設計することであって、前記複数のゾーンの各ゾーンは、少なくとも1つのステップ高を有する少なくとも1つのエシェレットを個々に含み、前記少なくとも1つの回折構造を設計することは、さらに、
少なくとも1つの最適化された位相を有する少なくとも1つの最適化されたステップ高を提供するために、前記複数のゾーンの各ゾーンを個々に最適化することと、
最適化された位相が2πを超える場合、最適化されたステップ高の少なくとも1つは、少なくとも1つのステップ高を提供するために、2πの整数倍である位相だけ折り返されることと、
前記少なくとも1つの回折構造の少なくとも1つのステップ高を使用して、眼科用レンズを製作すること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの焦点長は、複数の焦点長であり、
前記各ゾーンを個々に最適化することは、さらに、前記複数の焦点長の少なくとも一部に関し各ゾーンを個々に最適化することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのステップ高は、2πを超えない、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの回折構造は、前記眼科用レンズの前面に取り込まれる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの回折構造は、前記眼科用レンズの後面に取り込まれる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記各ゾーンを個々に最適化することは、複数の標的位置に対して各ゾーンを個々に最適化することをさらに含む、請求項9に記載の方法。