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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026483
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】作業車両の自動走行システム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240220BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A01B69/00 303T
A01B69/00 303M
A01B63/10 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217165
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2022094597の分割
【原出願日】2019-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸 英浩
(72)【発明者】
【氏名】西野 光哉
(72)【発明者】
【氏名】新帶 俊信
(72)【発明者】
【氏名】岩村 圭将
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔一
(57)【要約】
【課題】作業車両の自動走行時に作業部の昇降及び作業クラッチの断接を適切に実行可能な作業車両の自動走行システムを提供する。
【解決手段】田植機1(作業車両)の自動走行システムは、植付部14(作業部)を備える田植機1(作業車両)を自動走行させることができる。田植機1(作業車両)の自動走行を開始する前に田植機1(作業車両)の旋回時における植付部14(作業部)の昇降制御又は作業クラッチの断接制御を自動的に行う作業部自動制御の実行又は非実行の何れが設定されているかにかかわらず、田植機1(作業車両)が自動走行している場合においては、作業部自動制御を実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業部を備える作業車両を自動走行させることが可能な作業車両の自動走行システムであって、
前記作業車両の自動走行を開始する前に前記作業車両の旋回時における前記作業部の昇降制御又は作業クラッチの断接制御を自動的に行う作業部自動制御の実行又は非実行の何れが設定されているかにかかわらず、前記作業車両が自動走行している場合においては、前記作業部自動制御を実行することを特徴とする作業車両の自動走行システム。
【請求項2】
前記作業部自動制御の実行又は非実行を選択可能な操作部を備え、
前記作業車両の自動走行が解除され手動走行に移行した場合は、前記操作部の選択状態に応じて前記作業部自動制御が実行状態又は非実行状態となることを特徴とする請求項1に記載の作業車両の自動走行システム。
【請求項3】
自動走行の開始条件が成立している場合に前記作業車両の自動走行を開始することが可能であり、
前記開始条件は、前記作業部自動制御が正常に実行される状態であることを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両の自動走行システム。
【請求項4】
作業部を備える作業車両を自動走行させることが可能な作業車両の自動走行システムであって、
前記作業車両の自動走行を開始する前に前記作業車両の旋回時における前記作業部の上昇制御又は作業クラッチの切断制御を自動的に行う作業部自動制御の実行又は非実行の何れが設定されているかにかかわらず、前記作業車両が自動走行している場合においては、前記作業部自動制御を実行することを特徴とする自動走行システム。
【請求項5】
作業部を備える作業車両を自動走行させることが可能な作業車両の自動走行システムであって、
前記作業車両の自動走行を開始する前に前記作業車両の旋回時における前記作業部の下降制御又は作業クラッチの接続制御を自動的に行う作業部自動制御の実行又は非実行の何れが設定されているかにかかわらず、前記作業車両が自動走行している場合においては、前記作業部自動制御を実行することを特徴とする自動走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の自動走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業を行うための作業部と、この作業部への駆動力の伝達/遮断を切り換える作業クラッチと、を備え、作業部が昇降可能に構成された作業車両が知られている。このような作業車両の中には、ユーザの操作の手間を軽減するために、旋回時に前記作業部の昇降や前記作業クラッチの断接を自動的に制御するものがある。特許文献1は、この種の作業車両である田植機を開示する。
【0003】
特許文献1の田植機は、植付部と、植付クラッチと、制御部と、を備える。前記制御部は、以下に示すような制御(旋回時自動昇降制御)を実行することができる。即ち、前記田植機が旋回を開始する際には、前記植付部による苗の植付作業の停止等のために、前記植付部の上昇及び植付クラッチの切断を行う。前記田植機が旋回を終了する際には、前記植付部による苗の植付作業の開始のために、前記植付部の下降及び植付クラッチの接続を行う。
【0004】
特許文献1の田植機は、旋回時の前記植付部の昇降及び前記植付クラッチの断接を手動で行うこともできる。この田植機において、旋回時の前記植付部の昇降及び前記植付クラッチの断接をユーザが手動で行うか、自動で行うかは、ユーザが選択することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-235702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、所定の走行経路に沿って自動走行を行うことができる作業車両が開発されている。しかし、前記特許文献1の構成は、田植機を所定の走行経路に沿って自動走行させる場合における植付部の昇降及び植付クラッチの断接の取扱いについては何ら考慮していない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、作業車両の自動走行時に作業部の昇降及び作業クラッチの断接を適切に実行可能な作業車両の自動走行システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、作業車両の自動走行システムは、作業部により作業が行われる複数の作業経路と、前記複数の作業経路のうち隣り合う作業経路を接続する旋回経路と、を有する走行経路に沿って作業車両を自動走行させることが可能なものである。この作業車両の自動走行システムは、操作部を備える。この操作部は、作業部自動制御の実行又は非実行を選択可能なものである。この作業部自動制御は、前記作業車両の旋回開始を検出して、前記作業部の上昇及び前記作業部の作業クラッチの切断を自動的に行うとともに、前記作業車両の旋回終了を検出して、前記作業部の下降及び前記作業クラッチの接続を自動的に行うものである。前記作業車両が前記旋回経路を自動走行している場合に前記旋回開始が検出されたときは、前記操作部により前記作業部自動制御の実行及び非実行の何れが選択されているかにかかわらず、前記作業部自動制御が実行される。
【0010】
これにより、作業車両の自動走行中は、前記操作部により前記作業部自動制御の実行及び非実行の何れが選択されているかにかかわらず、前記作業部自動制御を実行することになるので、ユーザの負担を軽減することができる。
【0011】
前記の作業車両の自動走行システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この作業車両の自動走行システムは、前記作業車両による前記旋回経路の自動走行中に自動走行が解除された場合において、前記操作部により前記作業部自動制御の非実行が選択されているときは前記作業部自動制御を終了する一方、前記操作部により前記作業部自動制御の実行が選択されているときは、前記作業部自動制御を継続する。
【0012】
これにより、作業車両の自動走行が解除され当該作業車両が手動走行に移行した場合は、操作部の選択状態に応じて作業部自動制御が実行状態又は非実行状態となる。従って、例えば、旋回経路での旋回途中にユーザが手動操作による旋回を望んだ場合に、作業部の昇降制御等を実行するか否かについてユーザの希望を適切に反映させることができる。
【0013】
前記の作業車両の自動走行システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記作業車両は、当該作業車両の車速を操作する車速操作部を備える。前記作業車両は、前記車速操作部の操作に応じて自動走行時における当該作業車両の車速を設定するように構成される。そして、この作業車両の自動走行システムは、前記作業経路においては前記車速操作部の所定の操作位置に対応する前記作業車両の車速を維持する車速維持制御を実行可能である一方、前記旋回経路においては前記車速維持制御を実行不可能に構成される。前記車速維持制御及び前記作業部自動制御が実行されている場合に、前記作業経路の終点より所定距離手前の所定地点に到達したときは、前記車速維持制御が終了する一方、前記作業部自動制御は維持される。
【0014】
これにより、車速維持制御は、旋回経路では禁止され、当該旋回経路に至る前で終了するが、作業部自動制御は終了しない。従って、車速維持制御の終了後、作業車両が旋回経路において旋回するのに伴って、作業部の昇降制御等が自動的に行われる。よって、旋回の慎重さを確保しつつ、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る作業車両の自動走行システムに使用される田植機の側面図。
図2】田植機の平面図。
図3】田植機の動力伝達構成を示すスケルトン図。
図4】田植機及び無線通信端末の機能ブロック図。
図5】無線通信端末の経路生成部により生成される自動走行経路の一例を示す図。
図6】作業部自動制御の実行の有無を決定する処理を示すフローチャート。
図7】作業部自動制御のフローチャート。
図8】自動走行経路の一部を示す図。
図9】オートクルーズ制御の実行の有無を決定する処理を示すフローチャート。
図10】オートクルーズ制御を含む車速制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、田植機1の側面図である。図2は、田植機1の平面図である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る作業車両の自動走行システムは、自動走行可能な作業車両として、図1に示す田植機1を備える。なお、本実施形態では作業車両として田植機が用いられているが、これに限られるものではなく、例えばトラクタ、コンバインを用いることができる。
【0018】
自動走行システムは、田植機1を遠隔操作可能な無線通信端末3を備える。本実施形態において、無線通信端末3は、ユーザが田植機1に乗った状態で操作できるように、田植機1の適宜の位置に取り付けられている。ただし、無線通信端末3は、田植機1から取り外してユーザが携帯することもできる。
【0019】
田植機1は、圃場において苗の植付作業を行うことができる。図1及び2に示すように、田植機1は、車体部11と、前輪12と、後輪13と、植付部(作業部)14と、を備えている。前輪12及び後輪13は、それぞれ、車体部11に対して左右1対で設けられている。
【0020】
車体部11は、田植機1の走行機体として構成されている。車体部11には、エンジン22と、ミッションケース23と、が設けられている。エンジン22は、車体部11の前部に支持されている。ミッションケース23は、車体部11の下部に取り付けられている。
【0021】
エンジン22の駆動力は、ミッションケース23により変速されて、前輪12及び後輪13に伝達される。また、エンジン22の駆動力は、ミッションケース23と、車体部11の後部に配置されたPTO軸24と、を介して、植付部14に伝達される。
【0022】
車体部11は、エンジン22の駆動力が前輪12及び後輪13に伝達されることによって、圃場等を走行することができる。植付部14は、エンジン22の駆動が伝達されることによって、苗を圃場に植え付ける作業を行うことができる。
【0023】
車体部11には、運転座席25と、複数の操作部材と、が設けられている。運転座席25は、車体部11の前後方向において前輪12と後輪13の間に配置されている。運転座席25には、ユーザが座ることができる。
【0024】
複数の操作部材は、ステアリングハンドル26と、変速ペダル(車速操作部)27と、植付昇降レバー28と、後述の作業部自動制御入切スイッチ(操作部)69と、オートクルーズレバー(車速維持操作部)68と、を有している。
【0025】
ステアリングハンドル26は、運転座席25の前方に配置されたステアリングコラムに取り付けられている。田植機1のユーザがステアリングハンドル26を手で握って回すことで、車体部11(田植機1)の直進/旋回を指示することができる。
【0026】
変速ペダル27は、運転座席25の前側の床から上方に突出するように設けられている。変速ペダル27は、車体部11の適宜の箇所に回転可能に支持されている。ユーザは、変速ペダル27を足で踏み込んで操作することができる。変速ペダル27には、ユーザが踏込みを解除したときに当該変速ペダル27を戻すための図略の戻しバネが取り付けられている。
【0027】
ユーザが変速ペダル27を踏み込むことで、車体部11(田植機1)の走行を指示することができる。ユーザが変速ペダル27を足で踏み込む深さを変更することで、車体部11の加速/減速を指示する(車速を指示する)ことができる。一方、ユーザが変速ペダル
27から足を離すことで、田植機1の走行停止を指示することができる。
【0028】
車体部11においては、変速ペダル27に対する適宜の場所に、変速ペダル27の操作位置を検出可能なペダルセンサ29が設けられている。ペダルセンサ29は、例えばポテンショメータとして構成することができる。
【0029】
植付部14は、図1等に示すように、車体部11の後方に配置されている。植付部14は、苗を圃場に植え付けることができる。植付部14は、昇降リンク機構31を介して車体部11に連結されている。
【0030】
車体部11と植付部14との間には、昇降シリンダ32が設けられている。昇降シリンダ32が伸縮駆動することにより、植付部14を車体部11に対して上下に昇降させることができる。なお、シリンダ以外のアクチュエータにより植付部14を昇降させてもよい。
【0031】
植付部14は、植付作業を行うための下降位置と、植付作業を行わない上昇位置と、の間で昇降することができる。下降位置とは、後述の植付爪43が苗を圃場に植え付けることができる状態になる位置である。上昇位置とは、昇降シリンダ32が植付部14を車体部11に対して十分に上昇させた位置である。
【0032】
植付部14は、植付入力ケース部33と、複数の植付ユニット34と、苗載台35と、複数のフロート36と、を備える。植付部14は、各植付ユニット34に対して苗を苗載台35から順次供給し、苗の植付けを連続的に行うことができる。
【0033】
各植付ユニット34は、植付伝動ケース部41と、回転ケース部42と、を有している。植付伝動ケース部41には、PTO軸24及び植付入力ケース部33を介して動力が伝達される。
【0034】
回転ケース部42は、植付伝動ケース部41に回転可能に取り付けられている。回転ケース部42は、植付伝動ケース部41の車幅方向の両側に配置されている。各回転ケース部42の一側には、2つの植付爪43が取り付けられている。
【0035】
2つの植付爪43は、回転ケース部42の回転に伴い変位する。2つの植付爪43が変位することにより、1条分の苗の植付が行われる。
【0036】
苗載台35は、複数の植付ユニット34の前上方に配置されている。苗載台35には、苗マットを載置することができる。苗載台35は、当該苗載台35に載置された苗マットの苗を各植付ユニット34に対して供給することができる。
【0037】
具体的には、苗載台35は、車幅方向に往復するように横送り移動可能(横方向にスライド可能)に構成されている。また、苗載台35は、当該苗載台35の往復移動端で苗マットを間欠的に下方に縦送り搬送することができるように構成されている。
【0038】
フロート36は、植付部14の下部に揺動可能に設けられている。フロート36は、植付部14の植付姿勢を圃場表面に対して安定させるために、当該フロート36の下面を圃場表面に接触させることができる。
【0039】
フロート36には、フロート36の姿勢を検出するフロートセンサ37が設けられている。フロートセンサ37は、例えばポテンショメータとして構成することができる。
【0040】
予備苗台38は、車体部11に対して左右1対で設けられている。予備苗台38は、ボンネット21の車幅方向外側に配置されている。予備苗台38は、予備のマット苗を収容した苗箱を搭載することができる。
【0041】
左右の予備苗台38の上部同士は、上下方向及び車幅方向に延びる連結フレーム48によって連結されている。連結フレーム48の車幅方向の中央に、通信筐体49が設けられている。通信筐体49の内部には、後述の測位用アンテナ91と、無線通信用アンテナ92と、が設けられている。
【0042】
続いて、田植機1における駆動伝達経路について、図3を参照して説明する。図3は、田植機1の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【0043】
図3に示すように、エンジン22の駆動力は、駆動伝達ベルト50を介して、ミッションケース23に入力される。ミッションケース23の内部には油圧機械式無段変速機(HMT)51が設けられており、この油圧機械式無段変速機51によってエンジン22の駆動力が無段変速される。油圧機械式無段変速機51の変速比は、ユーザが変速ペダル27を操作することにより変更することができる。
【0044】
油圧機械式無段変速機51の出力は、メインクラッチ52を介してミッションケース23から取り出される。油圧機械式無段変速機51の出力は、前輪12に伝達される。また、油圧機械式無段変速機51の出力は、プロペラシャフト53を介して後輪13に伝達される。これにより、前輪12及び後輪13が駆動される。
【0045】
プロペラシャフト53から左の後車軸54Lまでの駆動伝達経路には、左のサイドクラッチ55Lが設けられている。また、プロペラシャフト53から右の後車軸54Rまでの駆動伝達経路には、右のサイドクラッチ55Rが設けられている。
【0046】
左右のサイドクラッチ55L,55Rは、それぞれ制御部30によって独立して接続/切断を切り換えることができるように構成されている。即ち、本実施形態において、田植機1は、左右の後輪13,13に対する駆動力の伝達の有無を、個別に切り換えることができる。
【0047】
左右のサイドクラッチ55L,55Rには、それぞれ、左右のサイドクラッチセンサが設けられている。左右のサイドクラッチセンサの検出結果は左右のサイドクラッチ55L,55Rの接続/切断を検出するために用いることができる。
【0048】
油圧機械式無段変速機51の出力は、ミッションケース23から取り出され、植付駆動伝動軸61、植付変速部62を介して、PTO軸24に伝達される。このPTO軸24の駆動力によって、植付部14が駆動される。
【0049】
PTO軸24の動力は、植付部14の植付入力ケース部33に入力される。植付入力ケース部33に入力された駆動力は、複数の伝動シャフト及び複数の伝動ギア等を介して、回転ケース部42の駆動軸まで伝達される。
【0050】
以上により、エンジン22の動力によって回転ケース部42を回転駆動することができる。そのため、ロータリ式植付装置として構成された植付ユニット34による苗の植付けを行うことができる。
【0051】
図3に示すように、植付変速部62には、複数のギアからなる変速装置が設けられている。この変速装置により、植付部14の回転ケース部42が回転駆動する速度を変速することができる。これにより、植付部14が圃場に苗を植え付ける間隔(苗と苗との間の距離)を変更することができる。
【0052】
植付変速部62には、植付クラッチ(作業クラッチ)63が設けられている。植付クラッチ63を接続することにより、植付部14を駆動させることができる。植付クラッチ63を切断することにより、植付部14を駆動停止させることができる。
【0053】
植付クラッチ63は、制御部30によって接続/切断を切り換えることができる。また、植付クラッチ63は、ユーザが図略の操作部材(植付クラッチ操作レバー)を操作することによって、接続/切断を切り換えることもできる。
【0054】
植付クラッチ63には、植付クラッチセンサ64が設けられている。植付クラッチセンサ64の検出結果は、植付クラッチ63の接続/切断を検出するために用いることができる。
【0055】
次に、本実施形態の田植機1が備える制御部30について、図4を参照して説明する。図4は、田植機1及び無線通信端末3の機能ブロック図である。
【0056】
制御部30は、公知のコンピュータとして構成されており、図略のCPU、ROM、RAM、入出力部等を備えている。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。制御部30は、図4に示すように、自動走行制御部71を含んでおり、前記のハードウェアとソフトウェアの協働により、自動走行制御部71として動作することができる。
【0057】
制御部30は、センサ群72と電気的に接続されている。センサ群72には、ペダルセンサ29、フロートセンサ37、左右のサイドクラッチセンサ及び植付クラッチセンサ64が含まれる。また、センサ群72には、後述の車速センサ73、作業部自動制御入切スイッチ69、オートクルーズレバー68の操作検出スイッチ等が含まれる。
【0058】
制御部30は、ペダルセンサ29の検出結果により、変速ペダル27の操作位置(踏込量)を検出することができる。制御部30は、変速ペダル27の操作位置に応じて油圧機械式無段変速機51の変速比を設定することができる。
【0059】
制御部30は、フロートセンサ37の検出結果により、植付部14の昇降位置を検出することができる。例えば、制御部30は、植付部14の前記下降位置から前記上昇位置への変更、及び、前記上昇位置から前記下降位置への変更を検出することができる。
【0060】
制御部30は、左右のサイドクラッチセンサの検出結果により、左右のサイドクラッチ55L,55Rの接続状態/切断状態を取得することができる。これにより、制御部30は、車体部11(田植機1)の旋回開始/終了を検出することができる。
【0061】
制御部30は、植付クラッチセンサ64の検出結果により、植付クラッチ63の接続状態/切断状態を取得することができる。これにより、制御部30は、駆動状態/駆動停止状態を検出することができる。
【0062】
制御部30は、車速センサ73の検出結果により、田植機1の車速及び走行距離を取得することができる。車速センサ73は、車軸の回転を検出することができるように、前輪12の車軸に設けられている。なお、車速センサ73は、田植機1の他の適宜の位置に設けることもできる。
【0063】
制御部30は、田植機1が備える各構成(例えば、エンジン22等)を制御するための複数のコントローラと電気的に接続されている。本実施形態において、複数のコントローラは、エンジンコントローラ81と、車速コントローラ(車速制御部)82と、作業部コントローラ83と、ステアリングコントローラ84と、を有している。
【0064】
エンジンコントローラ81は、エンジン22の回転数を制御する。エンジン22には、当該エンジン22の回転数を変更させる図略のアクチュエータを備えたガバナ装置86が設けられている。エンジンコントローラ81は、制御部30から入力された制御信号に基づいてガバナ装置86を制御して、エンジン22の回転数を制御することができる。
【0065】
車速コントローラ82は、田植機1の車速を制御する。車速コントローラ82は、制御部30から入力された制御信号に基づいて油圧機械式無段変速機51の可動斜板の角度を図略のアクチュエータにより変更して、油圧機械式無段変速機51の変速比を変更し、ユーザが所望する車速を実現することができる。
【0066】
車速コントローラ82による車速の制御には、オートクルーズ制御(車速維持制御)が含まれる。オートクルーズ制御は、変速ペダル27から足を離しても、所定の車速で田植機1を走行させる制御である。
【0067】
オートクルーズ制御は、田植機1の走行中に、図2に示すオートクルーズレバー68が操作されることで開始される。オートクルーズレバー68は、ON側と、OFF側と、に操作することができる。オートクルーズレバー68には図略の戻しバネが設けられており、オートクルーズレバー68に操作力が加えられていないときは、オートクルーズレバー68はON側でもOFF側でもない中間位置となっている。
【0068】
オートクルーズ制御時の車速は、オートクルーズレバー68をON側に操作した時点での変速ペダル27の操作位置に基づいて設定される。オートクルーズ制御は、オートクルーズレバー68をOFF側に操作することで終了することができる。また、オートクルーズ制御は、変速ペダル27を踏み込むことにより自動的に終了する。
【0069】
作業部コントローラ83は、植付部14の昇降を制御する。作業部コントローラ83は、制御部30から入力された制御信号に基づいて昇降シリンダ32を伸縮駆動させて、植付部14を適宜に昇降動作させる。作業部コントローラ83は、植付部14の昇降位置(高さ位置)を、前記下降位置又は前記上昇位置等に変更することができる。
【0070】
また、作業部コントローラ83は、植付部14の左右傾斜姿勢を制御する。作業部コントローラ83は、制御部30から入力された制御信号に基づいて傾斜アクチュエータ88を動作させて、植付部14を水平に制御することができる。
【0071】
ステアリングコントローラ84は、前輪12のステアリング角度を制御することができる。本実施形態において、ステアリングコントローラ84は、制御部30から入力された制御信号に基づいてステアリングアクチュエータ87を駆動させて、ステアリングハンドル26の回動角度、ひいては前輪12のステアリング角度を制御する。
【0072】
詳しくは、ステアリングハンドル26のステアリングシャフトの中途部に、ステアリングアクチュエータ87が設けられている。この構成で、予め定められた経路を田植機1が走行する場合、制御部30が、当該経路に沿って田植機1が走行するようにステアリングハンドル26の適切な回動角度を計算し、ステアリングコントローラ84に制御信号を出力する。そして、ステアリングコントローラ84が、ステアリングハンドル26の回動角度をステアリングアクチュエータ87により変更して、前輪12のステアリング角度を制御する。
【0073】
また、ステアリングコントローラ84は、PTO軸24の回転を制御することができるように構成されている。ステアリングコントローラ84は、制御部30から入力された制御信号に基づいて植付変速部62の植付クラッチ63の接続状態/切断状態を切り換える。この結果、PTO軸24への動力の伝達/遮断を制御し、植付部14を駆動させたり停止させたりすることができる。
【0074】
なお、前述したエンジンコントローラ81等の複数のコントローラは、制御部30から入力される信号に基づいてエンジン22等の各部を制御している。従って、制御部30が、実質的に、田植機1が備える各構成を制御しているということができる。
【0075】
制御部30は、作業部自動制御入切スイッチ69の操作により、植付部14に関する作業部自動制御を実行するか否かを選択することができるように構成されている。作業部自動制御とは、田植機1の旋回開始(左右のサイドクラッチ55L又は55Rの切断状態)を検出して、植付部14の上昇及び植付クラッチ63の切断を自動的に行うとともに、田植機1の旋回終了(切断状態であったサイドクラッチ55L又は55Rの接続状態への移行)を検出して、植付部14の下降及び植付クラッチ63の接続を自動的に行うものである。これにより、作業と作業の間に車両を旋回させるときの一連の操作を省略できるので、ユーザの利便性が高められている。
【0076】
作業部自動制御入切スイッチ69は、ユーザが指で押す操作により、ON状態とOFF状態との間で交互に切り換えることができる。本実施形態において、作業部自動制御入切スイッチ69は、図2に示すように、ステアリングハンドル26付近に設けられている。
【0077】
制御部30は、作業部自動制御入切スイッチ69がON状態となっている場合は、作業部自動制御を実行する。制御部30は、作業部自動制御入切スイッチ69がOFF状態となっている場合には、作業部自動制御を実行しない。
【0078】
こうして、前述のような制御部30を備える田植機1は、ユーザが車体部11に搭乗して各種操作をすることにより、制御部30により田植機1の各部(植付部14等)を制御して、圃場内を走行しながら植付部14を用いて植付作業を行うことができる。加えて、田植機1は、無線通信端末3により出力される所定の制御信号に基づいて自動走行及び自動作業することができる。
【0079】
具体的には、図4に示すように、田植機1は、自動走行を可能とするための各種の構成を備えている。例えば、田植機1は、制御部30の自動走行制御部71のほか、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得するために必要なアンテナ等の構成を備えている。このような構成により、田植機1は、測位システムを利用して自らの位置情報を取得しつつ、圃場を自動走行することが可能となっている。
【0080】
次に、田植機1の自動走行を可能とするための構成について詳細に説明する。図2及び図4に示すように、田植機1は、測位用アンテナ91、無線通信用アンテナ92、及び記憶部93を備えている。なお、これらに加えて、田植機1は、車体部11の姿勢(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を取得することが可能な慣性計測ユニット(IMU)を備えてもよい。
【0081】
測位用アンテナ91は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信することができる。測位用アンテナ91で受信された測位信号は、図4に示す位置情報算出部95に入力される。位置情報算出部95は、田植機1の位置情報を、例えば緯度・経度情報として算出する。位置情報算出部95で算出された位置情報は、制御部30に入力されて、自動走行制御部71による田植機1の自動走行に利用される。
【0082】
なお、本実施形態では測位システムとしてGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムが用いられているが、これに限られるものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。例えば、測位システムとして相対測位方式(DGPS)、又は静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS)を使用することが考えられる。
【0083】
無線通信用アンテナ92は、ユーザが操作する無線通信端末3からの信号を受信したり、無線通信端末3への信号を送信したりすることができる。無線通信用アンテナ92で受信した無線通信端末3からの信号は、図4に示す無線通信部96で信号処理された後、制御部30に入力される。また、制御部30から無線通信端末3に送信される信号は、無線通信部96で信号処理された後、無線通信用アンテナ92から送信されて無線通信端末3で受信される。
【0084】
記憶部93は、田植機1が走行する経路のうち、当該田植機1の自動走行が行われる走行経路(パス)を記憶したり、走行中の田植機1の位置の推移(走行軌跡)を記憶したりすることができる。その他にも、記憶部93は、田植機1を自動走行及び自動作業させるために必要な様々な情報を記憶している。記憶部93は、例えば、フラッシュメモリ又はハードディスク等の不揮発性メモリからなる。
【0085】
無線通信端末3は、ユーザが携帯可能なコンピュータ、例えばタブレット型のパーソナルコンピュータとして構成されている。ユーザは、無線通信端末3の表示部(ディスプレイ)101に表示された情報を参照して、田植機1に関する情報等を確認することができる。また、ユーザは、無線通信端末3の操作部(例えば、表示部101に設けられたタッチパネル)を操作して、田植機1の制御部30に、田植機1を制御するための制御信号を送信することができる。この制御信号としては、例えば、田植機1の自動走行の開始又は終了を指示する信号等が考えられる。
【0086】
このように構成された田植機1は、無線通信端末3を使用するユーザの指示に基づいて制御され、圃場の走行経路に沿って自動的に走行しつつ植付部14を用いた植付作業を行うことができる。
【0087】
次に、無線通信端末3の構成について、図4を参照して説明する。
【0088】
図4に示すように、無線通信端末3は、前述の表示部101のほか、通信部122と、自動走行操作部123と、制御部124と、経路生成部125と、を備えている。
【0089】
通信部122は、例えば無線通信モジュールとして構成されている。通信部122は、通信用アンテナ127と電気的に接続されている。通信用アンテナ127は、田植機1と無線通信を行うための近距離通信用のアンテナと、携帯電話回線及びインターネットを利用した通信を行うための携帯通信用アンテナと、を有している。通信部122は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、田植機1又は他の機器との間でデータの送受信を行うことができる。
【0090】
自動走行操作部123は、例えばタッチパネルとして構成されており、前述の無線通信端末3の操作部に含まれている。自動走行操作部123は、田植機1における自動走行制御部71(制御部30)に対して自動走行の開始及び終了を指示することができる。
【0091】
無線通信端末3は、公知のコンピュータとして構成されており、図略のCPU、ROM、RAM、入出力部等を備えている。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。また、前記ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。そして、前記したソフトウェアとハードウェアの協働により、無線通信端末3を、制御部124及び経路生成部125等として動作させることができる。
【0092】
制御部124は、通信部122により田植機1の制御部30と通信することで、経路生成部125が生成した自動走行経路の情報を田植機1に送信することができる。また、制御部124は、自動走行操作部123からの指令を、通信部122を介して、田植機1における自動走行制御部71に送信することができる。更に、田植機1が自動走行している場合、制御部124は、当該田植機1の状態(位置、車速等)を田植機1から受信して表示部101に表示することができる。
【0093】
経路生成部125は、田植機1が自動走行を行う走行経路(自動走行経路)を、圃場情報、機体情報等に基づいて生成することができる。圃場情報には圃場の形状の情報、自動走行開始位置の情報、自動走行方位の情報が含まれる。圃場の形状の情報は、例えば田植機1が自動走行を開始する前に、ユーザが手動で田植機1を操作して圃場の外周に沿って走行し、そのときの移動軌跡に基づいて特定される。以下では、上記の走行を圃場形状特定走行と呼ぶことがある。自動走行開始位置の情報及び自動走行方位の情報は、無線通信端末3を用いて自動走行経路が生成される際に、ユーザにより指定される。指定の方法は特に限られないが、自動走行開始位置としては、例えば、表示部101に圃場形状特定走行の移動軌跡を表示させた状態で、当該軌跡における任意の位置をユーザが指定することができる。また、自動走行方位としては、表示部101に表示された圃場形状特定走行の移動軌跡における任意の2点をユーザが指定することで、2点を結ぶ直線の方位として指定することができる。
【0094】
機体情報には、例えば、車体部11及び植付部14を含む田植機1全体の前後車長や左右車幅、測位システムにおける測位用アンテナ91から植付部14の作業中心までの距離、田植機1の旋回半径等の情報、植付部14による最大植付条数を示す情報が含まれる。そして、無線通信端末3の経路生成部125により生成された自動走行経路が、田植機1の記憶部93に入力(転送)される。このとき、測位用アンテナ91と植付部14の作業中心との位置関係の情報も、無線通信端末3から田植機1へ送信される。これにより、田植機1の制御部30(自動走行制御部71)は、植付部14の作業中心位置を把握することができる。
【0095】
図5には、経路生成部125により生成される自動走行経路の一例が示されている。図5に示すように、圃場130は、中心領域131と、中心領域131の周囲を囲む外周領域132と、に分けて考えることができる。外周領域132の幅は、上述の圃場情報及び機体情報に基づいて定められる。
【0096】
圃場130の中心領域131には、植付部14により植付作業が行われる往復経路が生成される。往復経路は、複数の作業経路136を有している。それぞれの作業経路136は、田植機1が直進走行を行うように直線状に延びている。
【0097】
圃場130の外周領域132には、複数の作業経路136のうち隣り合う作業経路136の一方の終点(終端部)E1と、他方の始点(始端部)S1と、を接続する旋回経路137が生成される。
【0098】
このように、経路生成部125により生成される自動走行経路は、複数の作業経路136と複数の旋回経路137とを有し、適宜の作業経路136と旋回経路137とを交互に接続したものとなっている。
【0099】
次に、田植機1が自動走行を行うときの処理について、図6から図10を参照して説明する。図6は、作業部自動制御の実行の有無を決定する処理を示すフローチャートである。図7は、作業部自動制御のフローチャートである。図8は、自動走行経路の一部を示す図である。図9は、オートクルーズ制御の実行の有無を決定する処理を示すフローチャートである。図10は、オートクルーズ制御を含む車速制御のフローチャートである。
【0100】
本実施形態では、無線通信端末3により田植機1に対して自動走行の開始が指示されることによって、田植機1が自動走行を開始する。
【0101】
ただし、自動走行制御部71は、自動走行を実際に開始する前に、所定の自動走行開始条件が成立しているか否を判定する。この自動走行開始条件は、以下の条件が全て成り立つ場合に満たされる。
(1)パスサーチが完了していること
(2)ステアリング角度が田植機1の作業方向に対して所定範囲内であること
(3)田植機1の走行部が中立(ニュートラル)であること
(4)田植機1のパーキングブレーキがOFFであること
(5)ステアリング操作フラグがOFFであること
(6)速度固定フラグがOFFであること
(7)自動植付に関する異常が発生していないこと
ただし、これは例示であり、一部の条件が省略されたり、他の条件が付加されたりしてもよい。
【0102】
ここで、「パスサーチが完了していること」とは、田植機1が、複数の作業経路136のうち何れかの作業経路136を自動走行開始対象経路として特定していることを意味する。例えば、田植機1は、各作業経路136の始点S1のうち、当該田植機1の位置から最も近い始点S1が属する作業経路136を、自動走行開始対象経路として特定する。
【0103】
「田植機1の走行部が中立(ニュートラル)であること」とは、図3に示すメインクラッチ52が切断されていることを意味する。例えば、田植機1においては、図略の主変速レバーがユーザにより中立位置に操作されることによって、メインクラッチ52が切断され、田植機1の走行部が中立となる。
【0104】
「ステアリング操作フラグがOFFであること」とは、ステアリングハンドル26がユーザの手動により操作されていないことを意味する。ステアリング操作フラグは、制御部30に記憶されるデータであり、ステアリングハンドル26が人為操作されているか否かを表す。ステアリング操作フラグがONのときは、ステアリングハンドル26が人為操作されていることを意味し、ステアリング操作フラグがOFFのときは、人為操作されていないことを意味する。ステアリング操作フラグの状態は随時更新される。
【0105】
「速度固定フラグがOFFであること」とは、前述のオートクルーズ制御が実行されていないことを意味する。速度固定フラグは、制御部30に記憶されるデータであり、オートクルーズ制御の実行の有無を表す。速度固定フラグがONのときは、オートクルーズ制御が実行されていることを意味し、速度固定フラグがOFFのときは、オートクルーズ制御が実行されていないことを意味する。速度固定フラグの状態は、後述するように随時変更される。
【0106】
「自動植付に関する異常が発生していないこと」とは、植付部14の昇降や植付変速部62の植付クラッチ63の接続/切断を行うのに支障となる異常が発生していないことを意味する。昇降シリンダ32の故障や、植付クラッチ63の故障等が発生している場合、田植機1の自動走行は許可されない。なお、作業部コントローラ83による植付部14の水平制御関連の異常が発生していても、田植機1に設けられたバネ機構により植付部14の水平をとることができるため、この場合は、田植機1の自動走行は許可される(自動植付に関する異常が発生していないものとして取り扱われる)。
【0107】
自動走行制御部71は、以上の自動走行開始条件が成立していると判断した場合には、田植機1に自動走行を開始させる。自動走行制御部71は、田植機1の自動走行の開始後、経路生成部125により生成された走行経路に沿って田植機1に自動走行を行わせる。
【0108】
自動走行制御部71は、田植機1に自動走行を開始させるとき、自動走行フラグをONにする。自動走行フラグは、制御部30に記憶されるデータであり、田植機1が自動走行中であるか否かを表す。自動走行フラグがONの場合は、田植機1が自動走行中であることを意味し、OFFの場合は、自動走行中でないことを意味する。
【0109】
自動走行制御部71による自動走行制御は、田植機1が自動走行経路135に沿って走行するように自動走行制御部71がステアリングコントローラ84に制御信号を出力し、ステアリングコントローラ84が当該制御信号に基づいてステアリング角度を制御することで実行される。
【0110】
自動走行制御が実行されている間、田植機1の車速は、原則として、ユーザの手動操作によって指示される。具体的には、田植機1の自動走行中の車速は、変速ペダル27の操作に基づいて車速コントローラ82が制御する。
【0111】
自動走行制御部71は、自動走行中において、所定の自動走行終了条件が成立しているか否かを監視する。自動走行終了条件は様々に考えられるが、例えば、無線通信端末3により田植機1に対して自動走行の終了が指示されたことが考えられる。また、ステアリング操作フラグがONになった場合、田植機1が自動走行経路135から所定偏差以上逸脱した場合等、自動走行を継続させることが望ましくない状況になった場合も、自動走行終了条件が成立する。
【0112】
自動走行制御部71は、上述の自動走行終了条件が成立していると判断した場合には、田植機1の自動走行を終了させる。自動走行を終了させる方法は、状況に応じて異なる。例えば、無線通信端末3の通信遮断、図略の障害物センサによる障害物の検出等、田植機1の走行を即時に停止させるべき場合は、自動走行制御部71は、エンジン22を直ちに停止させるように制御した上で、自動走行を終了する。一方、ユーザによる自動走行の終了の指示等があった場合は、自動走行制御部71は、車速がゼロとなるように滑らかに減速させる減速制御を車速コントローラ82により行った後、自動走行を終了する。自動走行制御部71は、田植機1の自動走行を終了させた後、自動走行フラグをOFFにする。
【0113】
次に、作業部自動制御について説明する。
【0114】
作業部自動制御は、上述のとおり、作業と作業の間で田植機1を旋回走行させるときの、植付部14に関する一連の制御である。この作業部自動制御を行うか否かは、制御部30に記憶されるデータである作業部自動制御フラグの状態に応じて定められる。作業部自動制御フラグがONであれば作業部自動制御が行われ、OFFであれば作業部自動制御は行われない。
【0115】
作業部自動制御フラグの状態は、原則として、作業部自動制御入切スイッチ69をユーザが操作してON状態又はOFF状態とすることにより切り換えることができる。ただし、自動走行制御部71は、作業部自動制御入切スイッチ69がOFF状態であっても、田植機1の自動走行中には、作業部自動制御フラグを強制的にONに変更する。即ち、田植機1の自動走行中には、作業部自動制御入切スイッチ69がON状態及びOFF状態の何れとなっているかにかかわらず、作業部自動制御が実行されるようになっている。
【0116】
また、作業部自動制御入切スイッチ69がON状態になっており、田植機1の自動走行が開始された後に、作業部自動制御入切スイッチ69がOFF状態に切り換えられても、作業部自動制御フラグはONのままに維持される。
【0117】
具体的な処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。図6の処理が開始されると、自動走行制御部71は、田植機1が現在自動走行中であるか否かを判定する(ステップS101)。この判定は、前述の自動走行フラグに基づいて行うことができる。田植機1が自動走行中である場合は、自動走行制御部71は、作業部自動制御フラグをONに設定する(ステップS102)。その後、処理はステップS101に戻る。
【0118】
ステップS101の判断で、自動走行中でない場合は、自動走行制御部71は、作業部自動制御入切スイッチがON状態か否かを判定する(ステップS103)。ON状態であれば、自動走行制御部71は、作業部自動制御フラグをONに設定する(ステップS102)。そうでなければ、自動走行制御部71は、作業部自動制御フラグをOFFに設定する(ステップS104)。何れの場合も、処理はステップS101に戻る。
【0119】
次に、実際の作業部自動制御について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0120】
図7の処理は、図6の処理と並行して実行される。図7の処理が開始されると、制御部30は、作業部自動制御フラグがONであるか否かを判定する(ステップS201)。作業部自動制御フラグがOFFである場合は、ステップS201に戻る(従って、ステップS202~S205の処理は行われない)。
【0121】
ステップS201の判断で、作業部自動制御フラグがONである場合、制御部30は、田植機1が旋回を開始したか否かを判定する(ステップS202)。この判定方法としては様々であるが、例えば、左右の後輪13,13に備えられたサイドクラッチ55L,55Rのうち一方が切断された場合に、旋回を開始したと判定することが考えられる。この判定手法によれば、旋回開始が検出される地点は、概ね、図8の地点Q1となる。
【0122】
ステップS202の判断で、田植機1が旋回を開始した場合は、制御部30は、作業部コントローラ83により植付部14を前記上昇位置まで上昇させるとともに、ステアリングコントローラ84により植付クラッチ63を切断状態にする(ステップS203)。植付部14の上昇と植付クラッチ63の切断とのタイミングの先後は、適宜変更することができる。ステップS202の判断で、田植機1が旋回を開始していない場合は、ステップS203の処理はスキップされる。
【0123】
続いて、制御部30は、田植機1が旋回を終了したか否かを判定する(ステップS204)。この判定方法としては様々であるが、例えば、旋回中の走行距離が所定距離を超え、かつ、サイドクラッチ55L,55Rのうち切断されていた一方が再び接続されたときに、旋回を終了したと判定することが考えられる。この判定手法によれば、旋回終了が検出される地点は、概ね、図8の地点Q2となる。
【0124】
ステップS204の判断で、田植機1が旋回を終了した場合は、制御部30は、作業部コントローラ83により植付部14を前記下降位置まで下降させるとともに、ステアリングコントローラ84により植付クラッチ63を接続状態にする(ステップS204)。植付部14の下降と植付クラッチ63の接続とのタイミングの先後は、適宜変更することができる。ステップS204の判断で、田植機1が旋回を終了していない場合は、ステップS205の処理はスキップされる。その後、処理はステップS201に戻る。
【0125】
次に、オートクルーズ制御を含む車速制御について説明する。
【0126】
オートクルーズ制御は、上述のとおり、変速ペダル27に操作力が加えられていなくても、過去にオートクルーズレバー68をON側に操作したときの変速ペダル27の操作位置に対応する速度で、車速コントローラ82が田植機1の走行を維持する制御である。このオートクルーズ制御を行うか否かは、制御部30の記憶内容である速度固定フラグの状態に応じて定められる。速度固定フラグがONであればオートクルーズ制御が行われ、OFFであればオートクルーズ制御は行われない。
【0127】
速度固定フラグのON/OFFは、原則として、ユーザがオートクルーズレバー68をON側又はOFF側に操作することにより切り換えることができる。ただし、自動走行制御部71は、速度固定フラグがONであっても、田植機1の自動走行中には、例えば旋回経路137を走行している場合等の所定の条件で、速度固定フラグを強制的にOFFに変更する。従って、図8に示す旋回経路137を田植機1が自動走行している場合には、オートクルーズ制御が禁止される。田植機1が自動走行している場合において、オートクルーズ制御が許可されるのは、実質的に、作業経路136を走行している場合だけとなる。
【0128】
厳密に言えば、図8の左側の作業経路136を田植機1が自動走行している場合を考えると、自動走行制御部71がオートクルーズ制御の実行を許可する区間は、当該作業経路136の始点S1から終点E1までの全区間ではない。オートクルーズ制御が許可される区間は、作業経路136の始点S1から、終点E1に近い途中の地点(終点E1よりも所定距離手前の所定地点)P1までの間となる。この途中の地点P1と、終点E1と、の間は、所定の距離(第1所定距離L1)だけ離れている。
【0129】
作業経路136において、途中の地点P1から終点E1までの区間では、オートクルーズ制御の実行が禁止される。また、旋回経路137の全区間でも、オートクルーズ制御の実行が禁止される。このように、旋回直前の区間、及び、旋回が行われる区間では、変速ペダル27の操作位置に応じて車速が制御されることになる。従って、ユーザの判断による機動的かつ慎重な変速操作が可能になる。
【0130】
ただし、自動走行経路135を構成する作業経路136と旋回経路137のうち、旋回経路137での自動走行時には、自動走行中の変速ペダル27の操作量に基づく車速に関して所定の上限値が設定されている。従って、田植機1は、変速ペダル27の操作量にかかわらず、当該上限車速を超える車速にて旋回経路137を自動走行することはできない。この結果、田植機1の車速は上限車速以下に制限されるので、旋回時の安定した乗り心地を実現できる。
【0131】
また、自動走行中に田植機1が旋回経路137から作業経路136へ移行したときの車速に関し、本実施形態においては牽制制御を行っている。
【0132】
例えば、旋回経路137を田植機1が走行している状態で、ユーザが変速ペダル27を最大限まで踏み込んだ場合を考える。上述の制御により、旋回経路137を走行する田植機1の車速は、所定の上限値となる。その後、ユーザが変速ペダル27の操作位置を維持したまま田植機1が作業経路136に移行した場合を考える。このとき、車速の上限が仮に解除されると、ユーザの意図に反して田植機1が加速するおそれがある。
【0133】
上記を考慮して、本実施形態では、自動走行中の田植機1が旋回経路137の走行を終えて作業経路136の走行を開始しても、ユーザが変速ペダル27の操作量を所定量減速側に操作しない限り、旋回経路137で行われた車速の上限の制御を維持している(牽制制御)。これにより、ユーザが変速ペダル27の踏込みを解除して再度踏み込むという明示的な操作に基づいて加速が行われるので、ユーザの安心感を高めることができる。
【0134】
具体的な処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。図9の処理が開始されると、制御部30は、田植機1が現在自動走行中であるか否かを判定する(ステップS301)。
【0135】
田植機1が自動走行中でない場合は、制御部30は、オートクルーズレバー68がOFF側に操作されたか否かを判定する(ステップS302)。オートクルーズレバー68がOFF側に操作された場合は、制御部30は、速度固定フラグがONの場合はOFFに変更する(ステップS303)。その後、処理はステップS301に戻る。
【0136】
上記のステップS302では、実際には、オートクルーズレバー68のOFF側への操作だけでなく、オートクルーズ制御を自動的に終了すべき他の操作(具体的には、変速ペダル27の踏込み)がされたか否かも判定される。オートクルーズレバー68がOFF側へ操作されなくても、変速ペダル27が踏み込まれた場合には、ステップS303で速度固定フラグがONからOFFに変更される。
【0137】
上記のステップS302では、実際には、オートクルーズレバー68のOFF側への操作だけでなく、オートクルーズ制御を自動的に終了すべき他の操作(具体的には、変速ペダル27の踏込み)がされたか否かも判定される。
【0138】
ステップS302の判断で、オートクルーズレバー68がOFF側に操作されていない場合は、制御部30は、オートクルーズレバー68が逆にON側に操作されたか否かを判定する(ステップS304)。オートクルーズレバー68がON側に操作された場合は、制御部30は、速度固定フラグがOFFの場合はONに変更する(ステップS305)。オートクルーズレバー68がON側に操作されていない場合は、ステップS305の処理はスキップされる。その後、処理はステップS301に戻る。
【0139】
ステップS301の判断で、田植機1が自動走行中である場合は、自動走行制御部71は、田植機1が作業経路136にあるか否かを判定する(ステップS306)。この判定は、田植機1の現在位置から計算される植付部14の作業中心位置に基づいて行うことができる。田植機1が作業経路136にない(即ち、旋回経路137にある)場合は、自動走行制御部71は、速度固定フラグがONであればOFFにする(ステップS303)。その後、処理はステップS301に戻る。
【0140】
ステップS306の判断で、田植機1が作業経路136にある場合には、自動走行制御部71は、田植機1が、作業経路136における上述の途中の地点P1より手前にあるか否かを判定する(ステップS307)。この判定は、上記と同様に、植付部14の作業中心位置に基づいて行うことができる。田植機1が途中の地点P1より手前にない(即ち、当該地点P1を超えて走行している)場合は、自動走行制御部71は、速度固定フラグがONであればOFFにする(ステップS303)。その後、処理はステップS301に戻る。
【0141】
図9のフローチャートで示すように、田植機1が旋回経路137を自動走行中である場合、又は、作業経路136の途中の地点P1よりも終点に近い側を自動走行中である場合は、速度固定フラグがOFFとなる。また、上記の場合は、オートクルーズレバー68のON側への操作が無効化される。これにより、オートクルーズ制御の禁止が実現されている。
【0142】
なお、図9では省略されているが、ユーザが無線通信端末3を操作して自動走行の終了を指示した場合も、速度固定フラグがONである場合にはOFFに変更される。これにより、オートクルーズ制御が自動的に解除されることになる。
【0143】
次に、実際の車速制御について、図10のフローチャートを参照して説明する。
【0144】
図10の処理は、図9の処理と並行して実行される。図10の処理が開始されると、制御部30は、速度固定フラグがONであるか否かを判定する(ステップS401)。
【0145】
速度固定フラグがONである場合は、制御部30は、オートクルーズレバー68がON側に操作された時点での変速ペダル27の操作量に基づいて、目標車速を設定する(ステップS402)。続いて、制御部30(車速コントローラ82)は、目標車速に近づくように田植機1の車速を制御する(ステップS403)。その後、処理はステップS401に戻る。
【0146】
ステップS401の判断で、速度固定フラグがOFFである場合は、制御部30は、現在の変速ペダル27の操作量に基づいて、目標車速を設定する(ステップS404)。
【0147】
その後、制御部30は、田植機1が現在自動走行中であるか否かを判定する(ステップS405)。自動走行中である場合は、自動走行制御部71は、田植機1が旋回経路137にあり、かつ、ステップS404で設定した目標車速が上限値を超えているときは、目標車速が上限値となるように変更する(ステップS406)。これにより、自動走行中の過大な速度での旋回を防止できる。また、自動走行制御部71は、田植機1が旋回経路137から作業経路136に移行した後、変速ペダル27の踏込みの解除を行っておらず、かつ、ステップS404で設定した目標車速が上限値を超えているときは、目標車速が上限値となるように変更する(ステップS407)。これにより、上述の牽制制御が実現される。ステップS405の判断で、田植機1が現在自動走行中でない場合には、上記のステップS406及びステップS407の処理はスキップされる。
【0148】
続いて、制御部30は、目標車速に近づくように田植機1の車速を制御する(ステップS403)。その後、処理はステップS401に戻る。
【0149】
次に、報知制御について説明する。
【0150】
本実施形態では、自動走行時において、田植機1の位置(植付部14の作業中心位置)が、作業経路136の終点E1よりも少し手前の地点R1に到達したとき、旋回経路137での走行への移行直前である旨を予告する報知が行われる。報知は、例えば、ランプでの表示又は音等により行うことができる。ユーザへの報知は、田植機1側で行っても良いし、無線通信端末3側で行っても良い。これにより、ユーザは、田植機1の進行方向が間もなく変更されることを知ることができるので、田植機1の旋回に伴う揺れ等に対して、運転座席25に深く座る等して準備しておくことができる。この報知制御は、田植機1の現在位置を監視する簡単な処理で実現できるため、フローチャートは省略する。
【0151】
次に、上記の制御によって、自動走行時に田植機1がどのように動作するかについて、例を示して説明する。
【0152】
ユーザは、停止している田植機1に乗った後、無線通信端末3を操作して自動走行の開始を指示する。今回の説明では、自動走行の開始が指示された時点で、田植機1の作業部自動制御入切スイッチ69がOFF状態となっている。また、変速ペダル27の踏込みは解除されており、オートクルーズレバー68によるオートクルーズ制御のON操作も行われていない。
【0153】
上記の指示に基づいて、田植機1の自動走行が開始される。最初は速度固定フラグがOFFになっているので、田植機1の実質的な移動は、ユーザが変速ペダル27を踏み込むことで開始される。
【0154】
ところで、自動走行の開始をユーザが指示したときの田植機1の位置(厳密には、植付部14の作業中心の位置)と、上述の自動走行開始対象経路の始点の位置と、が一致しているとは限らない。従って、上述の自動走行経路135に沿った走行が行われる前に、自動走行制御部71は、植付部14の作業中心の位置が、自動走行経路135に沿って自動走行を開始する予定の地点と一致するように、自動操舵により田植機1を走行させる(事前走行)。
【0155】
ここで、仮にオートクルーズ制御で走行している状態で自動走行を開始できるとすると、例えば、ユーザが自動走行の開始を指示した瞬間に、田植機1が高速で旋回して進路を変更するおそれがある。しかし、本実施形態では、上述したように、車速コントローラ82によるオートクルーズ制御が解除されていなければ自動走行制御部71による自動走行は開始されない。従って、上述の事前走行における田植機1の車速は、必ず、ユーザの変速ペダル27の操作に従うことになる。この結果、ユーザは、安心して自動走行の開始を指示することができる。
【0156】
事前走行により田植機1が所定の位置まで移動した後、田植機1は、図5に示す自動走行経路135に従って走行する。具体的には、自動走行経路135に沿った走行を実現するように、自動走行制御部71が自動操舵を行う。このときの田植機1の車速は、ユーザが変速ペダル27を踏み込んでいる量に応じた車速となるように制御される。田植機1が作業経路136を走行しているときは、植付部14が下降位置にあり、植付クラッチ63が接続されるので、苗の植付作業が行われる。
【0157】
田植機1が例えば図8に示す位置にあるときに、ユーザが変速ペダル27を所望の量だけ踏み込んだ状態で、オートクルーズレバー68をON側に操作した場合を考える。この場合、速度固定フラグがOFFからONに変更される。その後は、ユーザが変速ペダル27に対する操作力を解除しても、車速コントローラ82は、オートクルーズレバー68をON側に操作した時点での車速を維持するように、田植機1の走行速度を制御する(オートクルーズ制御)。
【0158】
その後、作業経路136を走行する田植機1が所定の途中の地点P1に差し掛かると、オートクルーズ制御が禁止されるため、速度固定フラグがONからOFFに自動的に変更される。これにより、田植機1の車速は、現在の変速ペダル27の踏込量に応じた車速となるように制御される。オートクルーズ制御中は、ユーザは変速ペダル27を踏み込んでいない。従って、速度固定フラグがONからOFFに変更されることで、車速コントローラ82は、田植機1が上記の地点P1から減速を開始するように制御する。変速ペダル27が踏み込まれていない状態が維持される場合は、田植機1は、地点P1から少し進んだ地点(例えば、地点R1)で停止する。停止する地点の位置はオートクルーズ制御時の車速に応じて変化するが、最高車速でオートクルーズ制御が行われていても停止地点が作業経路136の終点E1より手前となるように、オートクルーズ制御が禁止される地点P1の位置が設定されている。
【0159】
その後、ユーザが変速ペダル27を所望の量だけ踏み込む。これにより、田植機1は、再び走行を開始する。直ちに、田植機1は、作業経路136から旋回経路137へ移行する。
【0160】
作業部自動制御入切スイッチ69は上述のとおりOFF状態になっているが、自動走行中は、作業部自動制御フラグが強制的にONになっている。従って、旋回経路137においては、作業部自動制御が行われる。具体的には、旋回内側のサイドクラッチ55Rが切断状態になる地点Q1に田植機1が至ると、植付部14が前記上昇位置まで上昇するとともに植付クラッチ63が切断状態になる。その後、旋回内側のサイドクラッチ(図8の場合は、サイドクラッチ55R)が接続状態になる地点Q2に田植機1が至ると、植付部14が前記下降位置まで下降するとともに植付クラッチ63が接続状態になる。
【0161】
自動走行経路135に沿った田植機1の自動走行をユーザが希望する場合、通常は、作業と作業の間の旋回時における植付部14の昇降制御、及び、植付クラッチ63の断接制御を併せて希望していると考えられる。従って、作業部自動制御入切スイッチ69がOFF状態であっても作業部自動制御を行うことで、ユーザの手間を軽減することができる。
【0162】
ただし、何らかの理由で、途中で自動走行から手動走行へ切り換えたいとユーザが希望することも考えられる。この場合は、例えばユーザがステアリングハンドル26を手で操作することで、自動走行が自動的に解除される。これに伴って作業部自動制御フラグのONの強制が解除されるので、その後は、作業部自動制御フラグの状態は、ユーザが操作した作業部自動制御入切スイッチ69の状態に従う。従って、自動走行が解除された後は、作業部自動制御を実行するか否かに関して、ユーザの意思を確実に反映させることができる。
【0163】
田植機1が旋回経路137を走行しているときは、オートクルーズ制御が禁止されている。従って、仮にユーザがオートクルーズレバー68をON側に操作しても、旋回経路137においてオートクルーズ制御が行われることはない。この結果、旋回経路137での自動走行中、田植機1の車速は、ユーザが変速ペダル27を実際に踏み込んでいる量に基づいて制御される。また、ユーザが変速ペダル27を大きく踏み込んでも、上述の車速の上限制御により、田植機1が過大な速度で旋回走行することはない。
【0164】
その後、田植機1は、作業経路136に移行する。田植機1が所定以上の速度で旋回経路137から作業経路136に進入した場合は、ユーザが変速ペダル27の踏込みを少なくともある程度戻さないと、作業経路136においても車速の上限制御が解除されない(上述の牽制制御)。牽制制御を解除するために、ユーザは、変速ペダル27の踏込みをいったん緩めた後、再び踏み込む。これにより、作業経路136において、上述の上限速度より大きな速度で田植機1を走行させることができる。作業経路136ではオートクルーズ制御が再び許可されるので、ユーザは、上述の説明と同様に、オートクルーズレバー68によってオートクルーズ制御を開始させることができる。
【0165】
なお、上述の途中の地点P1でオートクルーズ制御を終了するよりも前の地点P2において、オートクルーズ制御が終了されることを予告する報知制御が行われてもよい。オートクルーズ制御が終了する地点P1と、その予告が行われる地点P2と、の間は、適宜の距離(第2所定距離L2)だけ離れている。この予告を受けてユーザが素早くオートクルーズ制御を終了させる(具体的には、変速ペダル27を踏み込む)ことにより、田植機1を停止させることなく作業経路136から旋回経路137に移行させることができる。この結果、自動走行による作業を円滑に行うことができる。田植機1が停止せず作業経路136から旋回経路137に進入する場合は、旋回経路137への移行直前にその旨を予告する前述の報知制御がより好適である。
【0166】
以上に説明したように、本実施形態の作業車両の自動走行システムは、植付部14により植付作業が行われる複数の作業経路136と、複数の作業経路136のうち隣り合う作業経路136を接続する旋回経路137と、を有する自動走行経路135に沿って田植機1を自動走行させることが可能なものである。この作業車両の自動走行システムは、作業部自動制御入切スイッチ69を備えている。作業部自動制御入切スイッチ69は、作業部自動制御の実行又は非実行を選択可能である。この作業部自動制御は、田植機1の旋回開始を検出して、植付部14の上昇及び植付部14の植付クラッチ63の切断を自動的に行うとともに、田植機1の旋回終了を検出して、植付部14の下降及び植付クラッチ63の接続を自動的に行う制御である。田植機1が旋回経路137を自動走行している場合に前記旋回開始が検出されたときは、作業部自動制御入切スイッチ69により作業部自動制御の実行及び非実行の何れが選択されているかにかかわらず、作業部自動制御が実行される。
【0167】
これにより、田植機1の自動走行中は、作業部自動制御入切スイッチ69により作業部自動制御の実行及び非実行の何れが選択されているかにかかわらず、作業部自動制御を実行することになるので、ユーザの負担を軽減することができる。この結果、田植機1の自動走行時に植付部14の昇降及び植付クラッチ63の断接を適切に実行することができる。
【0168】
また、本実施形態の作業車両の自動走行システムは、田植機1による旋回経路137の自動走行中に自動走行が解除された(終了させられた)場合において、作業部自動制御入切スイッチ69により作業部自動制御の非実行が選択されているときは、作業部自動制御を終了する一方、作業部自動制御入切スイッチ69により作業部自動制御の実行が選択されているときは、作業部自動制御を継続する。
【0169】
これにより、田植機1の自動走行が解除されて当該田植機1が手動走行に移行した場合は、作業部自動制御の有無が、作業部自動制御入切スイッチ69の選択状態に応じて定まる。従って、例えば、自動走行において旋回経路での旋回が行われている途中にユーザが手動操作による旋回を望んだ場合に、植付部14の昇降制御等を実行するか否かについて、ユーザの希望を適切に反映させることができる。
【0170】
また、本実施形態の作業車両の自動走行システムにおいて、田植機1は、その車速を設定操作する変速ペダル27を備えている。田植機1は、変速ペダル27の操作に応じて自動走行時における田植機1の車速を設定するように構成されている。この作業車両の自動走行システムは、作業経路136においては変速ペダル27の所定の操作位置に対応する田植機1の車速を維持するオートクルーズ制御を実行可能である一方、旋回経路137においてはオートクルーズ制御を実行不可能に構成されている。オートクルーズ制御及び作業部自動制御が実行されている場合に、田植機1が作業経路136の終点E1より第1所定距離L1手前の地点P1に到達したときは、オートクルーズ制御が終了する一方、作業部自動制御は維持される。
【0171】
これにより、オートクルーズ制御は、旋回経路137では禁止され、旋回経路137に至る前(作業経路136の終点E1より第1所定距離L1手前)で終了するが、作業部自動制御は終了しない。従って、オートクルーズ制御の終了後、変速ペダル27の手動操作で指示された車速で田植機1が旋回経路137において旋回するのに伴って、植付部14の昇降制御及び植付クラッチ63の断接制御が自動的に行われる。よって、旋回の慎重さを確保しつつ、作業性を向上させることができる。
【0172】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、前記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0173】
上記の実施形態では、作業経路136における自動走行中にオートクルーズ制御が実行されているときに、作業経路136の終点E1から第1所定距離L1手前の地点P1でオートクルーズ制御が終了する。また、旋回経路137では、オートクルーズ制御が禁止されている。しかし、旋回経路137での自動走行中のオートクルーズ制御が許可されてもよい。例えば、作業経路136に沿って自動走行中の田植機1の車速(変速ペダル27の操作量に基づく車速)が旋回経路137に対応付けられた上限車速を超えるときは当該上限車速まで自動的に減速して、オートクルーズ制御を維持しながら、旋回経路137における自動走行を継続することが考えられる。また、現在の車速が旋回経路137に対応付けられた上限車速未満である場合は、そのままの車速で、又は、所定割合を乗じた車速に変更してオートクルーズ制御を維持しながら旋回経路137における自動走行を継続することが考えられる。そして、旋回経路137から作業経路136へ移行した後は、前の作業経路136において行われていたオートクルーズ制御での車速と同じ車速で、新しい作業経路136でオートクルーズ制御を行い、自動走行を継続することもできる。
【0174】
田植機1の車速に関して、作業経路136におけるオートクルーズ制御時の第1車速と、旋回経路におけるオートクルーズ制御時の第2車速とをそれぞれ予め設定し、作業経路136から旋回経路137への移行時には第1車速から第2車速に減速し、旋回経路137から作業経路136への移行時には第2車速から第1車速に加速することとしてもよい。この場合、第1車速は、第2車速よりも大きい。このとき、作業経路136から旋回経路137への移行時の車速の減速は、植付部14の作業中心が作業経路136の終点E1に至った後に開始することが考えられる。また、旋回経路137から作業経路136への移行時の加速は、植付部14の作業中心が作業経路136の始点S1に至る前に開始され、当該始点S1に至るタイミングでは加速が完了しているようにすることが考えられる。
【0175】
田植機1の旋回の開始/終了は、田植機1の位置情報に基づいて検出されても良い。
【0176】
本実施形態では、田植機1の旋回のために左のサイドクラッチ55L又は右のサイドクラッチ55Rの接続状態/切断状態が切り換えられるが、このような切換は、ステアリングハンドル26の操作に連動して行われても良いし、田植機1に設けられるステアリング角度センサの検出結果に基づいて行われても良い。
【0177】
田植機1から無線通信端末3を取り外し、オペレータが田植機1に乗らない状態で無線通信端末3を操作して、無人の田植機1に自動走行を行わせても良い。
【0178】
無線通信端末3に相当する機能を、田植機1が有しても良い。この場合、無線通信端末3がなくても、作業車両の自動走行システムを田植機1によって実現できることになる。
【0179】
前述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態及び変形形態をとり得ることは明らかである。従って、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0180】
1 田植機(作業車両)
14 植付部(作業部)
27 変速ペダル(車速操作部)
63 植付クラッチ(作業クラッチ)
69 作業部自動制御入切スイッチ(操作部)
135 走行経路
136 作業経路
137 旋回経路
E1 終点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10