(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026531
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】多重特異性分子
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240220BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240220BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240220BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240220BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C07K16/00
C07K19/00 ZNA
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/16
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023219531
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2022078237の分割
【原出願日】2017-02-27
(31)【優先権主張番号】2016900708
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2016900709
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】521268082
【氏名又は名称】イミュネクサス・セラピューティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・サイモン・ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・コプシダス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ロス・ルーク
(72)【発明者】
【氏名】フィル・アンソニー・ジェニングス
(57)【要約】
【課題】本開示は、少なくとも2つの異なる標的抗原または標的エピトープと同時に結合することができる多重特異性分子に関する。
【解決手段】分子は、第1の標的抗原または標的エピトープに結合する少なくとも1つの結合ドメイン分子(BDM)を含み、かかるBDMは異種標的に選択的に結合するよう修飾され、かつ、第2の標的抗原または標的エピトープに結合する、抗体もしくはその抗原結合性断片または非抗体タンパク質もしくはペプチドである、薬理的に活性なタンパク質またはペプチドと結合されており、これらBDMは、その薬理的に活性なタンパク質またはペプチド内に存在するポリペプチドのC末端と結合されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープに結合することができる多重特異性分子であって、
(i)内部に含有される3つの露出した結合ループ(BL)を有するV様ドメイン(VLD)足場を含み、前記3つのBLのうち少なくとも2つが異種の標的抗原または標的エピトープに選択的に結合するよう、前記足場内のそれらの対応天然配列に対して修飾または置換されている、第1の標的抗原または標的エピトープに結合する少なくとも1つの結合ドメイン分子(BDM)と、
(ii)第2の標的抗原または標的エピトープに結合する、抗体もしくはその抗原結合断片または非抗体タンパク質もしくはペプチドである薬理的に活性なタンパク質またはペプチドと
を含み、
ここで、少なくとも1つのBDMは、前記薬理的に活性なタンパク質またはペプチド内に存在するポリペプチドのC末端に結合されている、前記分子。
【請求項2】
抗体重鎖ポリペプチドのC末端に少なくとも1つのBDMが結合されている、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
抗体軽鎖ポリペプチドのC末端に少なくとも1つのBDMが結合されている、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
すべての抗体重鎖ポリペプチド及び抗体軽鎖ポリペプチドのC末端に少なくとも1つのBDMが結合されている、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項5】
前記薬理的に活性なタンパク質は完全長抗体である、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項6】
抗体鎖とBDMの比は4:2nであり、ここで、nは1~5の数である、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項7】
前記薬理的に活性なタンパク質は、Fab、Fab’、F(ab’)2または化学的に結合しているF(ab’)2からなる群から選択される抗原結合性断片である、請求項1~5のいずれか1項に記載の分子。
【請求項8】
抗原結合性断片鎖とBDMの比が2:nであり、ここで、nは1~16の数である、請求項7に記載の分子。
【請求項9】
前記重鎖ポリペプチドのCH1ドメイン、CH2ドメインまたはCH3ドメインのC末端に少なくとも1つのBDMが結合されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の分子。
【請求項10】
前記非抗体タンパク質またはポリペプチドの各ポリペプチド鎖のC末端に少なくとも1つのBDMが結合されている、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項11】
前記VLD足場はヒトCTLA4、ICOSまたはCD28の細胞外部分を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項12】
前記薬理的に活性なタンパク質は、その本来の標的抗原または標的エピトープに結合する、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項13】
前記第1の標的抗原及び前記第2の標的抗原は異なる、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項14】
前記第1の標的エピトープ及び前記第2の標的エピトープは、同一抗原または異なる抗原上にある、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項15】
前記分子は二重特異性または三重特異性である、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項16】
前記分子は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのBDMを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項17】
前記分子は、1対または2対のBDMを含み、ここで、前記対の前記BDMは同一である、請求項1~6のいずれか1項に記載の分子。
【請求項18】
前記少なくとも1つのBDMは1つ以上のさらなるBDMに連結されている、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項19】
前記分子は、少なくとも2つのBDM、または少なくとも1対のBDMを含み、ここで、各BDM(またはBDM対)は異なる標的抗原または標的エピトープに結合する、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項20】
各BDMは、前記薬理的に活性なタンパク質またはポリペプチドが結合する前記標的抗原エピトープとは異なる標的抗原または標的エピトープに結合する、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項21】
前記非抗体タンパク質またはペプチドは、血液凝固因子、アンチカリン、トキソイド、コラーゲン結合タンパク質、ヒト血清アルブミン(HSA)、TNF-α受容体結合タンパク質、インテグリン結合タンパク質、VEGFもしくはその擬似物質、EPOもしくはその擬似物質、C4結合タンパク質、ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト、リンホカイン、サイトカイン、オステオプロテゲリン(OPG)、または、プログラム細胞死1タンパク質(PD1)、プログラム死リガンド1(PD-L1)、NKG2D、MHCクラスIポリペプチド関連配列A(MICA)、MHCクラスIポリペプチド関連配列B(MICB)、UL16結合タンパク質(ULBP)から選択されるタンパク質の細胞外ドメインからなる群から選択される、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項22】
前記VLD足場は、ヒトCTLA4、CD28またはICOSの細胞外ドメインからなる群から選択される、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項23】
前記VLD足場は、
【表1】
に記載の配列番号1の残基1~25、34~54、60~97及び106~126に相当するフレームワーク配列で構成される、請求項22に記載の分子。
【請求項24】
前記VLD足場は、配列番号1の残基1~25、34~54、60~97及び106~126に対する少なくとも約70%の配列同一性を有する配列を含む、請求項23に記載の分子。
【請求項25】
配列番号1の26~33位、及び/または55~59位及び/または98~105位におけるアミノ酸残基は、異種配列で修飾されるかまたは置き換えられる、請求項23または24に記載の分子。
【請求項26】
前記BDMは、
【表2】
(配列番号5)
に記載の配列を含むかまたは構成要素とし、
ここで、Xn
1、Xn
2及びXn
3は任意のアミノ酸残基であり、nは5~15の数であり、1、2、3はそれぞれ、BL1、BL2及びBL3を指す、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項27】
Xn1は5~8アミノ酸であり、Xn2は5~8アミノ酸であり、Xn3は10~15アミノ酸である、請求項26に記載の分子。
【請求項28】
Xn1は8アミノ酸である、請求項26または27に記載の分子。
【請求項29】
Xn2は5アミノ酸である、請求項26または27に記載の分子。
【請求項30】
Xn3は10~15アミノ酸である、請求項26または27に記載の分子。
【請求項31】
前記少なくとも1つのBDMは、単量体、二量体、または互いに連結されている一連のBDM単量体として存在する、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項32】
前記少なくとも1つのBDMと前記薬理的に活性なタンパク質もしくはペプチドとの結合は、リンカー手段、直接融合、複合体化、または共有結合もしくは非共有結合によるものである、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項33】
前記リンカーは、Gly-Serペプチドリンカーである、請求項32に記載の分子。
【請求項34】
前記標的抗原は、タンパク質、糖タンパク質、グリカン、脂質、リポタンパク質または核酸である、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項35】
前記分子は、前記個々のBDM及び前記分子の薬理学的に活性なタンパク質部分によって認識される2つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープを発現する細胞に選択的に結合し、前記標的抗原または標的エピトープの1つのみを発現する細胞には結合しない、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項36】
ポリペプチドである、先行請求項のいずれか1項に記載の分子。
【請求項37】
前記ポリペプチドは、配列番号5、6、13、14、19、21、22、23、24、25、27、28または29からなる群から選択される、請求項34に記載の分子。
【請求項38】
核酸である、請求項1~37のいずれか1項に記載の分子。
【請求項39】
請求項38に記載の核酸で形質転換される、宿主細胞。
【請求項40】
請求項1~37のいずれか1項に記載の分子を、薬理学的に許容される担体及び/または添加物と共に含む、医薬組成物。
【請求項41】
医薬品の製造において使用するための、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記分子は検出を容易にする薬剤で標識化される、請求項1~37のいずれか1項に記載の分子。
【請求項43】
前記分子が結合する1つ以上の標的抗原を検出するための、請求項1~37のいずれか1項に記載の分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも2つの異なる標的抗原または標的エピトープと同時に結合することができる多重特異性分子に関する。分子は、第1の標的抗原または標的エピトープに結合する少なくとも1つの結合ドメイン分子(BDM)を含み、かかるBDMは異種標的に選択的に結合するよう修飾され、かつ、第2の標的抗原または標的エピトープに結合する、抗体もしくはその抗原結合性断片または非抗体タンパク質もしくはペプチドである、薬理的に活性なタンパク質またはペプチドと結合されており、これらBDMは、その薬理的に活性なタンパク質またはペプチド内に存在するポリペプチドのC末端と結合されている。
【0002】
参照による組み込み
本明細書において引用または参照されている全資料、及び本明細書で引用した資料において引用または参照されている全資料は、本明細書または参照により本明細書に組み込まれるあらゆる文献で言及されるあらゆる製品についてのあらゆる製造者による説明書、記載事項、製品仕様書、及び製品シートと併せて、その全体が本明細書によって参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本出願は、オーストラリア特許出願第2016900708号及びオーストラリア特許出願第2016900709号の優先権を主張するものであり、その全記載内容は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0004】
配列表の参照
電子的に提出された配列表の全記載内容はあらゆる目的のために参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0005】
治療剤として数多くの組換えタンパク質が開発されている。しかしながら、非修飾形態にあるタンパク質は、腎臓のろ過作用、細網内皮系での細胞クリアランス機序、またはタンパク質分解によって生体内で急速に除去されることが知られている(Francis(1992)Focus on Growth Factors 3:4-11)。治療用タンパク質の安定性、循環時間及び生物学的活性を高めるためにタンパク質及びペプチドのさまざまな修飾が開発されている(Francis(1992)Focus on Growth Factors 3:4-10を参照のこと)。しかしながら、そのような治療用タンパク質が生体内でより長く存在し続けられるようにする機序が当該技術分野で求められている。
【0006】
抗体-融合タンパク質、抗体断片、及び抗体-薬物複合体(以後、まとめて抗体製品という)といった治療用モノクローナル抗体及び抗体関連製品は、バイオ医薬品市場内部で主要製品クラスとなるまでに成長した。今日、抗体製品は、いくつかを挙げると、一部のがん、多発性硬化症、喘息及び関節リウマチなどさまざまな疾患の治療用に承認されている。
【0007】
抗体薬物開発分野の近年のこうした比類なき成功にもかかわらず、特定の標的疾患に対する有効性が欠如していることから、さらに有効な抗体薬物を開発する新戦略の探索が求められている。抗体の有効性改善に使用される一つの方法は、同時に2つの標的に結合する、すなわち、二重特異性の抗体様タンパク質構造を作製することである。通常の抗体は1つの特定の標的にしか結合できない(すなわち、1つの特異性を有する)。二重特異性抗体は一般に、かかる二重特異性抗体が同時に2種類の異なる標的に結合することができるよう(すなわち、2つの特異性)互いに融合された、2つの異なる抗体または抗体様断片(抗体様足場として知られる)で構成される工学的に操作されたタンパク質である。大部分の抗体様足場は、一般に、抗体の断片から構築されるか、または抗体のように特定の標的に結合することができる抗体様タンパク質で作製される。二重特異性抗体により、T細胞などの免疫エフェクター細胞を誘導及び活性化させて腫瘍を特異的に死滅させること、複数の標的に結合して複数の病原性経路に作用すること、1つの標的細胞または標的タンパク質上の複数部位に結合して特異性を高めるかまたは相乗的誘導を誘導すること、及び不均一な性質の腫瘍を標的とすることを目指して設計され得る、より強力な抗体薬物が可能になる。
【0008】
現在のところ、二重特異性抗体製品を作製するために実施されている既存技術を区別する重要な要素は、さまざまな抗体様足場を共に融合させて二重特異性抗体製品を作製する一般方法である。この種の二重特異性抗体製品には多数の重要な欠点があり、第一は、2つ以上の抗体様足場を共に融合させて創製された小サイズの二重特異性抗体製品は、一般に腎閾値を大幅に下回り、典型的に血液循環半減期が数分~数時間の範囲と非常に短いことである。半減期がこのように短いため、投与間隔を連日にするかまたは常時注入が必要となり、これにより薬物の毒性閾値超えをもたらし得る。第二は、多くの抗体様足場は、それらの標的に対する親和性が一価である性質上、不十分である(すなわち、それらには、抗原結合部位が2つある抗体と比べ抗原結合部位が1つしかない)ことである。完全抗体はいずれの抗原結合部位とも結合して全体的な結合強度(アビディティ効果として知られる)を改善させ、一価抗体様足場と比較してある種の利点を提供する。
【0009】
現在、二重特異性抗体製品を全IgGフォーマットで作製できる方法は数えるほどしかない。一般にこれらの方法では、特異性の異なる2つの異なる親抗体を共に合わせて、異なる標的と結合する腕をもつ単一IgG(すなわち、カツマキソマブ)を形成させることができる抗体骨格を人工的に作り出す。この全抗体法には、より小さな断片を融合させる方法に対してある種の利点はあるものの、この種の全IgG型二重特異性による方法では小断片二重特異性抗体に見られる半減期の問題は回避されるが、それぞれの標的に対して二重特異性抗体の腕は1本しか結合しないのでアビディティの損失には対処していない。
【0010】
したがって、既存の治療用タンパク質及び抗原結合性分子の治療有効性及び/または半減期を改善する一助となる、そのような分子を改善する方法が当該技術分野では必要とされている。さらに、現在の二重特異性抗体による方法及びそれらの使用に伴う欠点を克服する方法が当該技術分野では必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片など、タンパク質またはペプチドの1つ以上の特徴を改善する方法に基づいている。より詳細には、本開示は、治療効果の不十分なタンパク質(例えば、治療用抗体)を、多重特異性フォーマットに変換することによって改善する方法に基づいている。タンパク質またはペプチドを本明細書に記載する少なくとも1つの結合ドメイン分子(BDM)と結合させることにより二重特異性または多重特異性の分子を提供し、それにより、かかる分子を、タンパク質及びBDMの結合標的(すなわち、抗原またはエピトープ)が異なる点を利用して異なる複数の標的に結合させる。したがって、治療有効性、半減期、免疫による会合、アビディティ、細胞内移行及び/または忍容性など、タンパク質またはペプチドの1つ以上の特徴を改善することができる。したがって、かかる分子は、従来の二重特異性抗体に対する代替法を提供する。
【0012】
好ましくは、BDMにより結合される標的抗原または標的エピトープは、タンパク質またはペプチドにより結合される標的抗原または標的エピトープとは異なる。例えば、タンパク質は、細胞または組織上に存在する標的抗原または標的エピトープに結合してよく、またBDMは、細胞死滅を促進する細胞傷害性T細胞もしくはタンパク質などの免疫調節細胞上に存在する標的抗原または標的エピトープ、またはタンパク質もしくはペプチドの半減期が延長されるようヒト血清アルブミン(HSA)上の標的抗原に結合してよい。
【0013】
タンパク質またはペプチド及びBDMが各自の標的と同時に結合することを利用して、タンパク質またはペプチドの治療有効性は、BDMが結合する標的の機能性を利用することにより促進され得る。さらなるBDMをタンパク質またはペプチドと結合させることによって、タンパク質またはペプチドを二重特異性、三重特異性、さらには多重特異性のものに変換することができる。特に、BDMの小ささ、結合親和性特性及び溶解度から、これらBDMは、治療効果の不十分なタンパク質またはペプチドの有効性を改善する、例えば、腫瘍細胞を破壊する体の自然免疫機構を促進する、理想的な薬剤となる。
【0014】
したがって、本開示は、2つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープに結合できる多重特異性分子を提供し、かかる分子は、
(i)第1の標的抗原または標的エピトープに結合する少なくとも1つの結合ドメイン分子(BDM)であり、かかるBDMは、内部に含有される3つの露出した結合ループ(BL)を有するV様ドメイン(VLD)足場を含むかまたは構成要素とし、ここで、かかる3つのBLのうち少なくとも2つは、異種の標的抗原または標的エピトープに選択的に結合するよう、足場内のそれらの対応天然配列に関して修飾または置換されていること、かつ
(ii)第2の標的抗原または標的エピトープに結合する、抗体もしくはその抗原結合断片または非抗体タンパク質もしくはペプチドである薬理的に活性なタンパク質またはペプチドを含み、
ここで、少なくとも1つのBDMは、その薬理的に活性なタンパク質またはペプチド内に存在するポリペプチドのC末端に結合されていることを含む。
【0015】
一例では、薬理的に活性なタンパク質は、その本来の標的抗原または標的エピトープに結合する。
【0016】
好ましくは、エピトープは別々の抗原上にある。
【0017】
一例では、第1及び第2の標的抗原は異なる。一例では、第1及び第2の標的抗原は同一であるが、分子は、その標的抗原上の異なるエピトープに結合する。一例では、第1及び第2の標的エピトープは異なる。
【0018】
一例では、分子は二重特異性分子である。一例では、分子は三重特異性分子である。
【0019】
一例では、分子は、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つのBDM(またはその倍数、例えば、BDM二量体)を含む。別の例では、分子は、1対または2対のBDMを含み、ここで、かかる対のBDMは同一である。一例では、1つ、2つまたは3つのBDM(またはその倍数、例えば、二量体)を、非抗体タンパク質またはペプチドと結合させる。
【0020】
一例では、分子は、少なくとも2つのBDM、または少なくとも1対のBDMを含み、ここで、各BDM(またはBDM対)は異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。さらなる例では、各BDM(またはBDM対)は、薬理的に活性なタンパク質またはペプチドが結合する標的抗原または標的エピトープとは異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。
【0021】
別の例では、2つ、4つ、6つ、または8つのBDMを完全長抗体と結合させ、ここで、分子は、少なくとも2つの異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。一例では、分子は、2つの異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。別の例では、分子は、3つの異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。別の例では、分子は、4つの異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。
【0022】
一例では、薬理学的に活性なタンパク質は、完全長抗体またはその免疫グロブリン抗原結合性断片である。別の例では、タンパク質は、非抗体タンパク質またはペプチドである。
【0023】
一例では、非抗体タンパク質またはペプチドは、血液凝固因子、アンチカリン、トキソイド、コラーゲン結合タンパク質、ヒト血清結合タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン、HSA)、腫瘍壊死因子(TNF)-α受容体結合タンパク質、インテグリン結合タンパク質、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)もしくはその擬似物質、エリスロポエチン(EPO)もしくはその擬似物質、C4結合タンパク質、ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト、リンホカイン、サイトカイン、オステオプロテゲリン(OPG)、またはプログラム細胞死1タンパク質(PD1)、プログラム死リガンド1(PD-L1)、NKG2D、MHCクラスIポリペプチド関連配列A(MICA)、MHCクラスIポリペプチド関連配列B(MICB)、UL16結合タンパク質(ULBP)から選択されるタンパク質の細胞外ドメインからなる群から選択される。
【0024】
一例では、血液凝固因子は第VIII因子または第IX因子である。
【0025】
一例では、トキソイドはボツリヌストキソイドである。
【0026】
一例では、リンホカインはIL-2もしくはその擬似物質またはGM-CSFもしくはその擬似物質である。
【0027】
一例では、サイトカインはG-CSFもしくはその擬似物質または幹細胞因子(SCF)もしくはその擬似物質である。
【0028】
一例では、分子は、非抗体タンパク質と結合させたBDMを1つ含む。一例では、BDMと非抗体タンパク質の比は1:1である。
【0029】
一例では、少なくとも1つのBDMを抗体重鎖ポリペプチドのC末端に結合させる。一例では、少なくとも1つのBDMを両方の抗体重鎖ポリペプチドのC末端に結合させる。
【0030】
一例では、少なくとも1つのBDMを抗体軽鎖ポリペプチドのC末端に結合させる。一例では、少なくとも1つのBDMを両方の抗体軽鎖ポリペプチドのC末端に結合させる。
【0031】
一例では、少なくとも1つのBDMをすべての抗体重鎖ポリペプチド及び抗体軽鎖ポリペプチドのC末端に結合させる。
【0032】
一例では、少なくとも1つのBDMを抗体重鎖ポリペプチドのCH1ドメイン、CH2ドメインまたはCH3ドメインのC末端に結合させる。
【0033】
一例では、少なくとも1つのBDMを抗体FcのC末端に結合させる。
【0034】
一例では、少なくとも1つのBDMを、
(i)抗体軽鎖ポリペプチドのC末端、
(ii)各抗体軽鎖ポリペプチドのC末端、
(iii)抗体重鎖ポリペプチドのC末端、
(iv)各抗体重鎖ポリペプチドのC末端
に結合させる。
【0035】
本開示による完全長抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は、それ自身が単一特異性または二重特異性であってよい。単一特異性抗体の場合、その抗体が、ある単一の標的抗原または標的エピトープに対して同一の特異性を共有する重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメイン(すなわち、1対のVH/VL)の相補性を介して、かかる標的またはエピトープに結合することを意味する。二重特異性抗体は、Y字形抗体分子の各腕にVH/VL対を1対ずつ含み、ここで、各VH/VLは異なる標的抗原または標的エピトープに結合する。
【0036】
完全長抗体は2本の重鎖及び2本の軽鎖を含み、各々が対を形成している。したがって、一例では、抗体鎖とBDMの比は4:2である。一例では、分子は、抗体と結合させたBDMを4つ(すなわち、各軽鎖にBDMが1つずつ、及び各重鎖にBDMが1つずつ)を含む。一例では、抗体鎖とBDMの比は4:4である。一例では、分子は、抗体と結合させた6つのBDMを含む。一例では、抗体鎖とBDMの比は4:6である。別の例では、分子は、抗体と結合させた8つのBDMを含む。別の例では、抗体鎖とBDMの比は4:8である。別の例では、抗体鎖とBDMの比は4:2nであり、ここで、nは1及び5を含む1~5の数である。
【0037】
一例では、免疫グロブリン抗原結合性断片は、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、di-scFv、または化学的に結合しているF(ab’)2からなる群から選択される。
【0038】
一例では、分子は、免疫グロブリン抗原結合性断片と結合させた単一BDMを含む。一例では、免疫グロブリン抗原結合断片鎖とBDMの比は2:1である。一例では、免疫グロブリン抗原結合性断片鎖とBDMの比は2:2である。別の例では、BDMの鎖を抗原結合性断片と結合させてよく、その場合、免疫グロブリン抗原結合断片鎖とBDMの比は2:nであり、nは1~16の数である。別の例では、nは1~14、1~12、1~10、1~8、1~4、または2、または1の数である。
【0039】
本開示は、少なくとも1つのBDMが完全長抗体に結合され得る多数の異なる構成を意図しており、例えば、以下がある。
(i)少なくとも1つのBDMを抗体の重鎖ポリペプチドのCH3ドメインのC末端に結合させる、
(ii)少なくとも1つのBDMを軽鎖ポリペプチドのCH1ドメインのC末端に結合させる、
(iii)少なくとも1つのBDMを重鎖ポリペプチドのCH3ドメインのC末端及び軽鎖ポリペプチドのCH1ドメインのC末端に結合させる、
(iv)少なくとも1つのBDMを両方の重鎖ポリペプチドのCH3ドメインのC末端に結合させる、または
(v)少なくとも1つのBDMを両方軽鎖ポリペプチドのCH1ドメインのC末端に結合させる。
【0040】
免疫グロブリン抗原結合性断片に関しては、BDMを免疫グロブリン断片の重鎖または軽鎖のいずれのC末端に結合させてもよい。別の例では、BDMを免疫グロブリン断片の重鎖及び軽鎖の両方のC末端に結合させてよい。別の例では、BDMを、免疫グロブリン断片の軽鎖及び/または重鎖のいずれの定常ドメイン(例えば、CH1)と結合させてもよい(例えば、Fab)。
【0041】
例えば、
(i)少なくとも1つのBDMをFabの軽鎖ポリペプチドの定常領域のC末端に結合させる、
(ii)少なくとも1つのBDMをFabの重鎖ポリペプチドのCH1のC末端に結合させる、または
(iii)少なくとも1つのBDMをFabの軽鎖ポリペプチドの定常領域のC末端及び重鎖ポリペプチドのCH1のC末端に結合させる。
【0042】
本開示によるBDMは、好ましくは、内部に含有される3つの露出した結合ループ(BL)を有する足場を含むかまたは構成要素とする。足場は、免疫グロブリン様(Ig様)ドメインを含有しているスーパーファミリーメンバー、V様ドメイン、i-body、VNARまたはVHHからなる群から選択されてよい。
【0043】
一例では、露出したBLの配列は、天然BL配列から修飾または置換が行われており、異種の標的抗原または標的エピトープに対して選択的に結合する改変型結合ループを提供する。これらの結合ループを、
図1Aに例示するようにそれぞれBL1、BL2及びBL3とする。BLは、抗体可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3各領域に類似している。
【0044】
一例では、BL1及びBL3は、天然BL配列から修飾または置換が行われている。別の例では、BL1、BL2及びBL3は、天然BL配列から修飾または置換が行われている。
【0045】
別の例では、BDM足場は、ヒト免疫グロブリン可変領域ドメインに対する配列同一性が約20%未満であり、前記足場は、2つ以上の改変型BLを有し、かつ異種の標的抗原または標的エピトープに対し選択的結合性を示す。
【0046】
Ig様ドメイン含有スーパーファミリーメンバーは、V様ドメイン(VLD)、Cセットドメイン、ThyOxファミリーメンバーポリペプチド、T細胞受容体、CD2、CD4、CD8、クラスI MHC、クラスII MHC、CD1、サイトカイン受容体、G-CSF受容体、GM-CSF受容体、ホルモン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、プロラクチン受容体、NCAM、VCAM、ICAM、N-カドヘリン、E-カドヘリン、フィブロネクチン、テネイシン、及びIセット含有ドメインのポリペプチドまたはその機能性断片からなる群から選択されてよい。
【0047】
本開示によるBDM足場は、V様ドメイン(VLD)、C1セットドメインまたはC2セットドメインからなる群から選択されてよい。タンパク質またはペプチドと結合させたBDMの組み合わせもまた意図される。例として、1つのBDMはVLDであってよく、別のBDMはCセットドメインであってよい。
【0048】
一例では、BDM足場は、天然VLDの細胞外部分、または天然VLDに関する改変型結合ループ(すなわち、修飾BDM)を有するVLDを含むかまたは構成要素とし、ここで、VLDは、ACAN、ADORA3、ALCAM、JAML、AMIGO1、AXL、ベイシジン、BCAM、BTNL2、3、8、9もしくは10、ブチロフィリン(BTN)、細胞接着分子(CAM)、CD2、CD4、CD7、CD8、CD28、CD33、CD48、CD79、CD80、CD83、CD86、CD101、CD112、CD226、CD274、CD276、CD300、がん胎児性抗原関連細胞接着分子(CEACAM)、CRTAM、CTLA4、CXADR、C10orf54、ERMAP、ESAM、FAM187A、FCAMR、F11R、GPA33、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質(HAPLN)、HAVCR1、HEPACAM、HHLA2、HSPG2、ICOS、IGHA、IGSF、JAM2、JAM3、KDR、KIRREL、LY6G6F、MCAM、MOG、MPZ、MXRA8、NCA、NCR2、NCR3、NPHS1、PD1、PDCD1、PIGR、PILR、PSG、PTGFRN、PVR、ナトリウムチャネルサブユニットタンパク質(SCN)、SEMA3D、シアロアドヘシンタンパク質(SIGLEC)、シグナル制御タンパク質(SIRP)、SLAMF6、SLAMF7、TIGIT、TIMD4、TREM、TREML、VCAN、VPREB、VSIG、VSTM、及びVTCN1からなる群から選択されるタンパク質に由来する。
【0049】
一例では、BDM足場は、天然Cセットドメイン(C1セットドメインまたはC2セットドメイン)の細胞外部分、または天然Cセットドメインに関する改変型結合ループを有するCセットドメイン(すなわち、修飾Cセットドメイン)を含むかまたは構成要素とし、ここで、Cセットドメインは、AZGP1;ベイシジン、B2M;CEACAM1、3、4、5、6、7、8;CD1A;CD1B;CD1C;CD1D;CD1E;DMA;DQB2;DRB1;ELK2P1;FCGRT;HFE;HHLA2;HLA-A;HLA-B;HLA-B35;HLA-B57;HLA-C;HLA-CW;HLA-Cw;HLA-D;HLA-DMA;HLA-DMB;HLA-DOA;HLA-DOB;HLA-DP;HLA-DPA1;HLA-DPB1;HLA-DQA1;HLA-DQA2;HLA-DQB1;HLA-DQB2;HLA-DRA;HLA-DRB1;HLA-DRB2;HLA-DRB3;HLA-DRB4;HLA-DRw12;HLA-Dw12;HLA-E;HLA-F;HLA-G;HLA-G2.2;HLA-H;HLAC;IGHA1;IGHA2;IGHD;IGHE;IGHG1;IGHG2;IGHG3;IGHG4;IGHM;IGHV4-31;IGKC;IGKV1-5;IGKV2-24;IGL;IGLC1;IGLC3;IGLL1;IGLV2-14;IGLV3-21;IGLV3-25;IGLV4-3;MICA;MICB;MR1;SIRPA;SIRPB1;SIRPG;SNC73;TAPBP;TAPBPL;TRBC1;TRBV19;TRBV21-1;TRBV3-1;TRBV5-4;TRBV7-2;micB、CD2、CD4、CD80、VCAM及びICAMからなる群から選択されるタンパク質に由来する。
【0050】
一例では、BDM足場は、天然Ig様ドメインの全部もしくはその一部または天然Ig様ドメインに関する改変型結合ループ(すなわち、修飾Ig様ドメイン)をもつIg様ドメインを含むかまたは構成要素とし、ここで、Ig様ドメインは、ThyOxファミリーメンバーポリペプチド、T細胞受容体、CD2、CD4、CD8、クラスI MHC、クラスII MHC、CD1、サイトカイン受容体、G-CSF受容体、GM-CSF受容体、ホルモン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、プロラクチン受容体、NCAM、VCAM、ICAM、N-カドヘリン、E-カドヘリン、フィブロネクチン、テネイシン、及びIセット含有ドメインポリペプチドまたはその機能性断片からなる群から選択される。
【0051】
本明細書において用語「修飾VLD」、「修飾Cセットドメイン」などは、異種の標的抗原または標的エピトープに対する結合が得られるよう、露出した結合ループの少なくとも2つ、好ましくは3つすべてが改変されているBDMを指す。改変は、アミノ酸置換または個々の結合ループの全部もしくはその一部の置き換えによって達成されてよい。結合ループ内の改変アミノ酸配列により、改変されていないIg様ドメイン含有足場が結合する標的抗原以外の標的抗原に対する選択的結合活性が付与される。アミノ酸改変は、当該技術分野で公知の方法を使用して核酸またはポリペプチドレベルで行うことができる。
【0052】
VLDまたはCセットドメインは、異種の標的抗原または標的エピトープに結合するBDMを包含し得る。修飾されたVLDまたはCセットドメインはまた、BDMの天然の標的に対するその親和性を改変する1つ以上の修飾も含み得る。天然の標的に対する親和性は、天然のVLDもしくはCセットドメインと比較して高まっていても低下していてもよい。
【0053】
一例では、修飾BDMは、天然のVLDもしくはCセットドメインの配列に対して少なくとも約60%、70%、75%、80%、85%、87%、90%、または95%同一な配列を含むかまたは構成要素とする。
【0054】
当業者は、BDMを所望の標的抗原に結合させる適切な異種結合ループ配列の選択に精通しているであろう。そのような例には、US7,166,697に記載のものが挙げられ、その記載内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0055】
別の例では、BDMは、対応する天然のVLDタンパク質またはCセットドメインタンパク質と比較して5~30のアミノ酸置換、5~20のアミノ酸置換、5~15のアミノ酸置換、5~10のアミノ酸置換、または最高で5のアミノ酸置換を含む、VLDタンパク質もしくはCセットドメインタンパク質の全部またはその一部を含むかまたは構成要素とする。別の例では、BDMは、US7,094,874に記載のCLTA-4 VLD変異分子L104EA29YまたはL104Eではない。
【0056】
特定の例では、修飾BDMは、異種のBL配列を1つ含む。別の例では、修飾BDMは、異種のBL配列を2つ含む。さらに別の例では、BDMは、異種のBL配列を3つ含む。
【0057】
特定の例では、BDMは、CTLA4、CD28またはICOSの細胞外部分を含むかまたは構成要素とするVLD足場である。さらなる例では、VLD足場は、ヒトCTLA4の細胞外部分である。別の例では、BDM VLDは、
【表1】
(配列番号1)
に記載の配列を含むかまたは構成要素とする。
【0058】
一例では、31位のアラニン(A)をチロシン(Y)で置換する。一例では、56位のメチオニン(M)をスレオニン(T)で置き換える。
【0059】
別の例では、BDM VLD足場は、配列番号1の残基1~25、34~54、60~96及び106~126に相当するフレームワーク配列で構成される。
【0060】
別の例では、BDM足場は、それに対する配列同一性が少なくとも約70%である配列、または配列番号1もしくは配列番号1の残基1~25、34~54及び60~107及び116~136に対する同一性が少なくとも75%、80%、85%、87%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%である配列を含むかまたは構成要素とする。
【0061】
別の例では、天然BDM足場の1つの露出した結合ループ、2つの露出した結合ループまたは3つのすべての露出した結合ループを、アミノ酸の置換、付加もしくは欠失、及び/または1つ以上の物理的特性(例えば、大きさ、形状、電荷、疎水性など)を任意で変化させることによって修飾してよい。
【0062】
さらなる例では、天然型ヒトCTLA-4 VLD配列の露出した結合ループ(BL1)配列ASPGKATE(配列番号2)もしくはASPGKYTE(配列番号7)、及び/または露出したループ(BL2)配列MMGNE(配列番号3)及び/または露出した結合ループ(BL3)配列ELMYPPPYY(配列番号4)を、アミノ酸の置換、付加もしくは欠失または異種配列での置き換えによって修飾する。
【0063】
一例では、配列番号1の26~33位、及び/または55~59位及び/または98~105位のアミノ酸残基を修飾するかまたは置き換える。
【0064】
別の例では、配列番号1の27~33位、及び/または54~62位及び/または98~106位のアミノ酸残基を異種配列で修飾するかまたは置き換える。
【0065】
別の例では、天然型ヒトCTLA-4 VLDの修飾による効果は、CD80及びCD86に対するVLDの天然の親和性を消失させることである。
【0066】
一例では、BDM VLD足場は、配列
【表2】
(配列番号5)
を含むかまたは構成要素とし、
ここで、Xn
1、Xn
2及びXn
3は任意のアミノ酸残基であり、nは5~15の数であり、数字の1、2及び3は結合ループ領域を指す。より詳細には、1、2及び3はそれぞれ、BDMのBL-1、BL-2及びBL-3に対応する。
【0067】
一例では、BDM VLD足場は、配列
【表3】
(配列番号6)
を含むかまたは構成要素とし、
ここで、Xn
1、Xn
2及びXn
3は任意のアミノ酸残基であり、nは5~15の数であり、数字の1、2、及び3は結合ループ領域を指す。より詳細には、1、2及び3はそれぞれ、BDMのBL-1、BL-2及びBL-3に対応する。
【0068】
一例では、BDMのBL-1、BL-2及びBL-3はそれぞれ、ASPGKATE(配列番号2)またはASPGKYTE(配列番号7)、MMGNE(配列番号3)及びELMYPPPYYL(配列番号9)を含むかまたは構成要素とし、ここで、BDMはB7-1に結合する。
【0069】
一例では、分子のBDMのBL-1、BL-2及びBL-3はそれぞれ、TVSWVDME(配列番号10)、WNGRW(配列番号11)及びQLDPSWGYYWQGYE(配列番号12)を含むかまたは構成要素とし、ここで、BDMは、スクレロスチンに結合する。
【0070】
一例では、BDM VLDは、配列
【表4】
(配列番号13)を含むかまたは構成要素とし、ここで、BDMはB7-1に結合する。
【0071】
別の例では、BDM VLDは、配列
【表5】
(配列番号14)を含むかまたは構成要素とし、ここで、BDMは、スクレロスチンに結合する。
【0072】
さらなる例では、BDMのBL-1、BL-2及びBL-3それぞれを、抗体のCDR1配列、CDR2配列及びCDR3配列で置き換える。CDR配列が由来する抗体は、任意の種に由来してよい。一例では、抗体はヒトに由来する。別の例では、抗体は、飼育動物、例えば、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモットまたはウマに由来する。
【0073】
一例では、少なくとも1つのBDMは、分子中に単量体形態または二量体形態で存在してよい。別の例では、少なくとも1つのBDMは、互いに連結されている一連のBDM単量体で構成されてよい。
【0074】
したがって、本明細書で使用する用語「BDM」には、単量体形態のBDMが含まれるものする。一例では、BDMは二量体である。二量体は、各CTLA4単量体の茎内のシステイン残基(Cys120)同士のジスルフィド結合を介して形成されてよい(各茎は、VLDと膜貫通領域をつなぐ約10残基に相当する)。別法として、二量体は、単量体単位の連結によって形成されてよい。一例では、一連(またはデイジーチェーン)の単量体BDMが互いに連結され得る。例えば、2~16のBDM単量体を頭-尾でつなぎ合わせてデイジーチェーン様の配置にしてよい。別の例では、2~14、2~12、2~10、2~8、または2~4のBDMを頭-尾でつなぎ合わせる。
【0075】
BDM単量体の連結は、例えば、共有結合もしくは非共有結合の利用によって、または本明細書に詳述されるような短いペプチドリンカーの使用によって達成され得る。本明細書で言及する連結方法のいずれを用いてもBDM単量体を互いに連結することができる。別の方法では、隣接するBDM単量体を直接互いに融合させてよい。
【0076】
一例では、BDMは可溶性である。本開示のBDM足場の「溶解度」は、正しく折り畳まれた、単量体ドメインの生成と相関する。溶解度は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって評価してよい。例えば、可溶性の単量体BDMでは、HPLCクロマトグラフで単一ピークが生じる一方、不溶性の(例えば、多量体または凝集した)BDMでは、複数のピークが生じるであろう。
【0077】
少なくとも1つのBDMと薬理的に活性なタンパク質の結合は、当業者に公知の方法によって達成してよい。結合を、例えば、リンカーの使用、直接融合、複合体化または共有結合もしくは非共有結合によって達成してよい。
【0078】
一例では、薬理的に活性なタンパク質と少なくとも1つのBDMの結合を、ペプチドリンカーを利用して達成する。当該技術分野で公知の好適なペプチドリンカーはいずれも本開示で利用することができる。一例では、リンカーは、配列(SGGGG)nS、(配列番号15)を含み、ここで、nは2~8、または3~6もしくは3~4の任意の数である。一例では、リンカーは、配列SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)またはSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号17)を含むかまたは構成要素とする。
【0079】
別の例では、薬理的に活性なタンパク質と少なくとも1つのBDMの結合を、リンカーを使用せずに達成する。
【0080】
一例では、分子は、第1の標的抗原、第2の標的抗原及び/または任意選択で第3の標的抗原に同時に結合することができる。
【0081】
別の例では、分子は、B7-1-Fc及びスクレロスチンに同時に結合することができる。
【0082】
さらなる例では、薬理的に活性なタンパク質もしくはペプチド及び少なくとも1つのBDMは、これらの標的抗原それぞれに特異的に結合する。別の例では、分子は、その分子の個々のBDM及び薬理学的に活性なタンパク質部分によって認識される2つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープを発現する細胞に選択的に結合するが、標的抗原または標的エピトープの1つしか発現しない細胞には選択的に結合しない。
【0083】
本開示は、薬理的に活性なタンパク質またはペプチドと結合させたBDM足場を含むポリペプチドも提供する。一例では、ポリペプチドはリンカーをさらに含む。一例では、リンカーは、配列(SGGGG)nSを含み、ここで、nは2~8、または3~6もしくは3~4の任意の数である。一例では、リンカーは、配列SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)またはSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号17)を含むかまたは構成要素とする。
【0084】
本開示は、配列番号5、6、13、14、19、21、22、23、24、25、27、28または29のいずれか1つの配列を含むかまたは構成要素とする群から選択されるポリペプチドも提供する。好ましくは、ポリペプチドは単離される。一例では、本開示のポリペプチドにはポリペプチドタグが含まれる。好適なタグの例には、p97分子、myc、ヘキサ-hisタグ、flag、E7が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0085】
一実施形態では、本開示による分子は核酸である。本開示は、本開示のポリペプチド、特に配列番号5、6、13、19、21、22、23、24、25、27、28または29のいずれか1つのポリペプチドをコードする核酸も提供する。核酸は、DNAまたはRNAまたはその両方を含むことができる。
【0086】
一例では、分子は、
【表6】
(配列番号30)
に記載のBDM VLD核酸配列を含むかまたは構成要素とし、ここで、N1は第1の結合ループをコードするヌクレオチドの長さ、N2は第2の結合ループをコードするヌクレオチドの長さ及びN3は第3の結合ループをコードするヌクレオチドの長さである。一例では、N1、N2及びN3は、15~45ヌクレオチドである。一例では、N1は15~24ヌクレオチドである。N2は15ヌクレオチドであり、N3は30~45ヌクレオチドである。Nは任意のヌクレオチド(A、C、T、G)である。
【0087】
一例では、核酸を発現構成体にして提供し、その場合、かかる核酸はプロモーターに機能的に連結されている。そのような発現構成体は、ベクター、例えば、プラスミドであり得る。一例では、発現構成体は、バイシストロン性発現構成体であってよい。本開示ではまた、抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片の重鎖及び軽鎖に対する別々の発現構成体も意図される。例えば、一方のベクターは、免疫グロブリン軽鎖及びBDM VLDをコードする核酸を含んでよく、もう一方は、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸を含む、またはその逆であってよい。
【0088】
核酸には、部分、例えば、精製及び同定を容易にするFLAGがさらに含まれてよい。さまざまな異なる宿主細胞におけるポリペプチドのクローニング及び発現用の系が公知であり、本明細書に詳述されるとおりである。
【0089】
本開示は、本明細書に記載する核酸で形質転換された宿主細胞も提供する。好適な宿主細胞には、細菌、哺乳類細胞、酵母、コケ(コケ植物)、及びバキュロウイルス系が含まれる。
【0090】
本開示は、ポリペプチドの発現を可能にする条件下で本開示の宿主細胞を培養すること、及び任意選択で、そのポリペプチドを回収することを含む、本開示のポリペプチド分子を作製する方法も提供する。選択する宿主細胞に応じて、ポリペプチドはグリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい。
【0091】
本開示は、薬理的に活性なタンパク質と結合させた少なくとも1つのBDM VLDを含む多重特異性分子を作製する方法も提供し、かかる方法は、
(i)BDM VLD配列をコードする核酸であり、ここで、VLDの3つのBLのうち少なくとも2つが異種配列で修飾または置き換られている核酸を提供すること、
(ii)薬理的に活性なタンパク質またはペプチドをコードする核酸を提供すること、及び
(iii)任意選択で、リンカー配列をコードする核酸を提供すること、
(iv)上述核酸配列を好適なベクターに発現させること、
(v)発現したタンパク質を回収すること
を含む。
【0092】
本開示は、抗体と結合させた少なくとも1つのBDM VLDを含む多重特異性分子を作製する方法も提供し、かかる方法は、
(i)抗体軽鎖配列またはその一部をコードする核酸を提供すること、
(ii)抗体重鎖配列またはその一部をコードする核酸を提供すること、
(iii)BDM VLD配列をコードする核酸であり、ここで、VLDの3つのBLのうち少なくとも2つが異種配列で修飾または置き換られている核酸を提供すること、
(iv)上述核酸配列を好適なベクター(複数可)に発現させること、及び
(v)発現したタンパク質を回収すること
を含む。
【0093】
方法に従った一例では、抗体重鎖は完全長配列で構成される。方法に従った別の例では、抗体重鎖は可変領域及び少なくともCH1領域で構成される。別の例では、抗体重鎖は可変領域ならびに少なくともCH1及びCH2の領域で構成される。
【0094】
方法に従った一例では、リンカー配列は存在せず、薬理的に活性なタンパク質またはペプチドの核酸配列とBDM VLDの核酸配列は連続している。別の例では、リンカー配列は存在せず、抗体の重鎖及び/または軽鎖をコードする核酸配列とBDM配列は連続している。
【0095】
抗体の核酸配列は、ヒンジ領域をさらに含んでよい。
【0096】
本開示は、本明細書に記載する核酸配列1つ以上を含むベクター(複数可)も提供する。一例では、ベクターは、本明細書に記載する薬理的に活性なタンパク質及びBDM VLDをコードする核酸配列ならびに任意選択でリンカーをコードする核酸配列を含む。一例では、ベクター(複数可)は、本明細書に記載する抗体軽鎖または抗体重鎖をコードする核酸配列及びBDM VLDをコードする核酸配列及び任意選択でリンカーをコードする核酸配列を含む。別の例では、ベクター(複数可)は、本明細書に記載する抗体重鎖と抗体軽鎖の両方をコードする核酸配列及びBDM VLDをコードする核酸配列及び任意選択でリンカーをコードする核酸配列を含む。
【0097】
本開示は、ベクターを含有している宿主細胞、または本明細書に記載する核酸配列1つ以上を含有している宿主細胞も提供する。
【0098】
本開示は、本明細書に記載する方法によって作製される多重特異性分子も提供する。
【0099】
本開示の分子を組成物で提供してよい。したがって、別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載する多重特異性分子を含む医薬組成物を、薬理学的に許容される担体及び/または添加物と共に提供する。組成物を医薬品として提供してよい。一例では、組成物は障害の治療で使用するためのものである。別の例では、組成物はアンチエイジング用または化粧品である。
【0100】
別の例では、分子を、検出を容易にする薬剤で標識化してよい。
【0101】
本開示の組成物を、特定の治療適応に従って使用するための説明書を備えたキットという形態で提供してもよい。
【0102】
本開示は、分子の1つ以上の部分が結合する1つ以上の標的抗原を検出するための、本明細書に記載の多重特異性分子の使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【
図1】Aは、フレームワーク配列ならびに結合ループ1、2及び3の各配列(BL1、BL2及びBL3と表す)が位置する場所を示す、天然型ヒトCTLA4 VLD足場の配列の概略図を表す。Bは、CTLA4 VLDにおける結合ループの置き換えの位置を示し、ここで、BL1はXn
1で表され、BL2はXn
2で表され、BL3はXn
3で表されており、Xは任意のアミノ酸であり、nは5~15の数である。Cは、スクレロスチンヒトVLD足場の配列を示し、ここで、結合ループ領域の配列には下線が引かれている。
【
図2】本開示の一例に従った抗体-VLD二重特異性分子の概略図を示す。抗体は、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。抗体重鎖のCH3定常ドメインC末端に結合されているVLDは、標的Bに結合する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【
図3】本開示の一例に従った抗体-VLD二重特異性分子の概略図を示す。抗体は、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。VLDは軽鎖の定常ドメイン(軽鎖定常領域、CL)それぞれのC末端で結合されており、標的Bに結合する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【
図4】本開示の一例に従った抗体-VLD三重特異性分子の概略図を示す。抗体は、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。VLDは、軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン(CH3)のそれぞれのC末端に結合されている。三重特異性分子は、標的A及び標的B及び標的Cに対し、個々別々または同時または標的3つの組み合わせで(例えば、標的AとBまたは標的AとCまたは標的BとC)結合することができる。
【
図5】本開示の一例に従ったFab-VLD二重特異性分子の概略図を示す。Fabは、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。VLDは、重鎖定常ドメイン(CH1)のC末端に結合されており、標的Bに結合する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【
図6】本開示の一例に従ったFab-VLD二重特異性分子の概略図を示す。Fabは、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。VLDは、軽鎖定常ドメイン(CL)のC末端に結合されており、標的Bに結合する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【
図7】本開示の一例に従ったFab-VLD三重特異性分子の概略図を示す。Fabは、その重鎖及び軽鎖のVドメインを介して標的Aに結合する。VLDは、軽鎖定常ドメイン(CL)のC末端に結合されて標的Bに結合し、また、VLDは重鎖定常ドメイン(CH1)のC末端に結合されて標的Cに結合する。三重特異性分子は、標的A及び標的B及び標的Cに対し、個々別々または同時または標的3つの組み合わせで(例えば、標的AとBまたは標的AとCまたは標的BとC)結合することができる。
【
図8】親D1.3 Fab、ならびに二重特異性変異型及び三重特異性変異型の非還元条件下での発現(SDS PAGE)を示す。D1.3 Fabは抗リゾチームFabであり、D1.3 Fab-VLD×1(HC)は重鎖のCH1ドメインと融合させたVLDを有する抗リゾチームFabであり、D1.3 Fab-VLD×1(LC)は軽鎖のCLドメインと融合させたVLDを有する抗リゾチームFabであり、D1.3 Fab-VLD×2(HC+LC)は重鎖のCH1ドメインと融合させたVLDと軽鎖のCLドメインと融合させたVLDとを有する抗リゾチームFabである。
【
図9】親D1.3 Fab、二重特異性変異型及び三重特異性変異型の還元条件下でのSDS PAGE発現分析を示す。D1.3 Fabは抗リゾチームFabであり、D1.3 Fab-VLD×1(HC)は重鎖のCH1ドメインと融合させたVLDを有する抗リゾチームFabであり、D1.3 VLD×1(LC)は軽鎖のCLドメインと融合させたVLDを有する抗リゾチームFabであり、D1.3 VLD×2(HC+LC)は重鎖のCH1ドメインと融合させたVLDと軽鎖のCLドメインと融合させたVLDとを有する抗リゾチームFabである。
【
図10】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する二重特異性分子[IgG VLD×2(HC)]の初期結合、続くB7.1-Fcに対する二次結合のBLitz(登録商標)分析を示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]重鎖と融合させた各B7-1結合VLDを有する。トレース1は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてバッファーを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。トレース2は、リゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた、二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(HC)である。トレース4は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(HC)である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示されている。
【
図11】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する二重特異性分子[IgG VLD×2(LC)]の初期結合、続くB7-1-Fcに対する二次結合のBLitz(登録商標)分析を示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。トレース1は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてバッファーを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。トレース2は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた、二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)である。トレース4は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示されている。
【
図12】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する三重特異性[IgG VLD×4(HCLC)]の初期結合、続くB7-1-Fcに対する二次結合のBLitz(登録商標)分析を示す。三重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。トレース1は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてバッファーを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。トレース2は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、D1.3抗リゾチーム抗体である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた、三重特異性D1.3 IgG-VLD×4(HCLC)である。トレース4は、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた、三重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×4(HCLC)である。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示されている。
【
図13】B7-1-Fcについて、三重特異性分子が二重特異性分子より高い結合を示す、BLitz(登録商標)分析を示す。抗体数が同等の二重特異性分子及び三重特異性分子を、バイオセンサー表面に結合させたビオチン標識化リゾチームに捕捉した後、バッファーまたはB7-1-Fcを加えた(ポイント1)ところ、三重特異性分子は二重特異性分子より高い結合能を示した。トレース1は、二重特異性分子及び三重特異性分子の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]である。ポイント1にてバッファーのみを注入し、結合した抗体が示されている。トレース2はD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]であり、ポイント1にてB7-1-Fcを注入した場合が示されている。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、抗体CL鎖と融合させた各VLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)]である。捕捉された二重特異性分子が、ポイント1にて注入したB7-1-Fcに結合したことを示している。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース4は、抗体のCH鎖及びCL鎖と融合させた各VLDを有する三重特異性D1.3抗リゾチーム抗体である[三重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×4(HC+LC)]。捕捉された二重特異性分子が、ポイント1にて注入したB7-1-Fcに結合したことを示している。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。
【
図14】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する二重特異性分子[IgG VLD×2(HC)]の初期結合、続くある濃度系列のB7-1-Fc(50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml及び0μg/ml)に対する二次結合を示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]重鎖と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
【
図15】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する二重特異性分子[IgG VLD×2(LC)]の初期結合、続くある濃度系列のB7-1-Fc(50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml及び0μg/ml)に対する二次結合を示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
【
図16】ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに対する三重特異性[IgG VLD×4(HC+LC)]の初期結合、続くある濃度系列のB7-1-Fc(50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml及び0μg/ml)に対する二次結合を示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。三重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
【
図17】リゾチームに結合し、その後ある濃度系列のB7-1-Fc(25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml)に同時結合する二重特異性[Fab-VLD×1(HC)]を示す、結合についての重なり合うSPRセンサーグラムを示す。二重特異性分子は、D1.3 Fab[D1.3 Fab]重鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
【
図18】リゾチームに結合し、その後ある濃度系列のB7-1-Fc(25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml)に同時結合する二重特異性[Fab-VLD×1(LC)]を示す、結合についての重なり合うSPRセンサーグラムを示す。二重特異性分子は、D1.3 Fab[D1.3 Fab]軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
【
図19】リゾチームに結合し、その後ある濃度系列のB7-1-Fc(25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml、1.56μg/ml)に同時結合する三重特異性[Fab-VLD×2(HC+LC)]を示す、結合についての重なり合うSPRセンサーグラムを示す。三重特異性分子は、D1.3 Fab[D1.3 Fab]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
【
図20】B7-1-Fcに結合する二重特異性及び三重特異性の抗体-VLD分子についてのSPR分析によって求めたR
MAX(最大量)の割合として決定した結合化学量論を示す。
【
図21】B7-1-Fcに結合する二重特異性及び三重特異性のFab-VLD分子についてのSPR分析によって求めたR
MAXの割合として決定した結合化学量論を示す。
【
図22】三重特異性[IgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、その後B7-1-Fc及びスクレロスチンに対して順に同時結合することを示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。三重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]重鎖と融合させたスクレロスチン(Scl)結合VLD及び軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。B7-1-Fcのみのトレースは、三重特異性分子がバイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてB7-1-Fcを加えられた場合を示すセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示されている。スクレロスチンのみのトレースは、三重特異性分子がバイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてスクレロスチンを加えられた場合を示すセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びスクレロスチンに対する二重標的同時結合が示される。B7-1-Fc及びスクレロスチンのトレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームへの結合、その後のB7-1-Fcの添加、それに続くスクレロスチンの添加を示す、三重特異性分子のセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fc及びスクレロスチンに対する三重標的同時結合が示されている。 三重特異性分子の注入:センサー表面にIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)の結合を示す。 バッファーの注入1:IgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)の解離を示す。 B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。 バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合しているIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)からのB7-1-Fcの解離を示す。 スクレロスチンの注入:第3の分析対象物スクレロスチンを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合しつつ同時にB7-1-Fcとまだ結合しているIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)に対して結合するスクレロスチンを示す。 バッファーの注入3:スクレロスチンの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合しているIgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)からのスクレロスチンの解離を示す。
【
図23】三重特異性[Fab VLD×2(B7-HC)(Scl-LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、その後B7-1-Fc及びスクレロスチンに対して順に同時結合することを示す、BLitz(登録商標)結合分析を示す。三重特異性分子は、D1.3 Fab[D1.3 Fab]の軽鎖と融合させたスクレロスチン結合VLD及び重鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対する三重特異的結合、それに続くB7-1-Fcの添加を示す。結合トレースより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示される。スクレロスチンを加え、リゾチーム及びB7-1-Fc及びスクレロスチンに対する三重標的同時結合が示される。 三重特異性分子の添加:センサー表面にFab VLD×2(B7-l-HC)(Scl-LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するFab VLD×2(B7-l-HC)(Scl-LC)の結合を示す。 B7-1-Fcの添加:B7-1-Fcを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのFab VLD×2(B7l-HC)(Scl-LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。 スクレロスチンの添加:スクレロスチンを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合しつつ同時にB7-1-Fcとまだ結合しているFab VLD×2(B7l-HC)(Scl-LC)に対して結合するスクレロスチンを示す。 バッファーの添加:スクレロスチンをバッファーで置き換えるポイント。
【
図24】三重特異性[Fab VLD×2(Scl-HC)(B7-LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、その後B7-1-Fc及びスクレロスチンに対して順に同時結合することを示す、BLitz(登録商標)結合分析を示す。三重特異性分子は、D1.3 Fab[D1.3 Fab]の重鎖と融合させたスクレロスチン結合VLD及び軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対する三重特異的結合、それに続くB7-1-Fcの添加を示す。結合トレースより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示される。スクレロスチンを加え、リゾチーム及びB7-1-Fc及びスクレロスチンに対する三重標的同時結合が示される。 三重特異性分子の添加:センサー表面にFab VLD×2(Scl-HC)(B7-LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するFab VLD×2(Scl-HC)(B7-LC)の結合を示す。 B7-1-Fcの添加:B7-1-Fcを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのFab VLD×2(Scl-HC)(B7-LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。 スクレロスチンの添加:スクレロスチンを加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合しつつ同時にB7-1-Fcとまだ結合しているFab VLD×2(Scl-HC)(B7-LC)に対して結合するスクレロスチンを示す。 バッファーの添加:スクレロスチンをバッファーで置き換えるポイント。
【
図25】本開示の一例に従ったVLDと結合させたタンパク質(一般的描写)の概略図を示す。タンパク質は標的Aに結合する。VLDは、タンパク質ポリペプチドのC末端に結合され、標的Bに結合する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【
図26】精製ヒト血清アルブミン(HAS)-VLD融合タンパク質の、抗Hisホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を用いたウエスタンブロット法による解析及び検出を示す。レーン1はC末端と融合させたVLDを有するHSAであり、レーン2はN末端と融合させたVLDを有するHSAであり、レーン3はN末端及びC末端の両方と融合させた各VLDを有するHSAである。
【
図27】ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、B7-2-Fcに対するHSA-VLD融合タンパク質の結合を実証している。トレース1は、HSAのC末端に結合させたB7-2結合VLDとしてのHSA-VLD融合タンパク質と一致する。トレース2は、HSAのN末端及びC末端の両方に結合させたB7-2結合VLDを有するVDL-HSA-VLD構成体と一致する。ポイント1はバッファーの添加に対応する。
【
図28】ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、CD3に対するHSA-VLDの結合を実証している。図示トレースは、CD3deに対する分子の結合と一致する。ポイント1はバッファーの添加に対応する。
【
図29】ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、抗HSAアフィボディー及びB7-2-Fcに対するHSA-VLD融合タンパク質の結合を実証している。図示トレースは、抗HSAアフィボディーに対する分子の結合と一致する。ポイント1、2及び3はバッファーの添加と一致する。配列表の鍵配列番号1 ヒト天然型CTLA4足場(細胞外ドメイン)の配列配列番号2 CTLA4の露出結合ループ1の配列配列番号3 CTLA4の露出結合ループ2の配列配列番号4 CTLA4の露出結合ループ3の配列配列番号5 BDM VLD足場の配列配列番号6 BDM VLD足場の配列配列番号7 結合ループ1の配列配列番号8 シグナルペプチド配列配列番号9 結合ループ3の配列配列番号10 結合ループ1の配列配列番号11 結合ループ2の配列配列番号12 結合ループ3の配列配列番号13 B7-1結合VLD足場の配列配列番号14 スクレロスチン結合VLD足場の配列配列番号15 リンカー配列配列番号16 リンカー配列配列番号17 リンカー配列配列番号18 抗リゾチームIgG1重鎖の配列配列番号19 リンカーによってB7-1結合VLDと結合させた抗リゾチームIgG1重鎖の配列配列番号20 抗リゾチームIgGカッパ軽鎖の配列配列番号21 リンカーによってB7-1結合VLDと結合させた抗リゾチームIgGカッパ軽鎖の配列配列番号22 リンカーによってB7-1結合VLDに結合させた抗リゾチームFabカッパ軽鎖の配列配列番号23 リンカーによってB7-1結合VLDに結合させた抗リゾチームFab重鎖の配列配列番号24 C末端のヒスチジンタグとmycタグを有する抗リゾチームFab重鎖の配列配列番号25 抗スクレロスチンVLDと融合させた抗リゾチームIgG1重鎖の配列配列番号26 ヒト血清アルブミンのC末端と融合させたB7-2結合VLDの配列配列番号27 ヒト血清アルブミンのN末端と融合させたB7-2結合VLDの配列配列番号28 ヒト血清アルブミンのN末端及びC末端の両方と融合させたB7-2結合VLDの配列配列番号29 ヒト血清アルブミンのC末端と融合させたCD3結合VLDの配列配列番号30 BDM VLD足場の塩基配列。
【発明を実施するための形態】
【0104】
概要
本明細書全体を通して、特に具体的な断りがある、または文脈において特に指定がある場合を除いては、単一のステップ、組成物、ステップ群または組成物群への言及には、かかるステップ、組成物、ステップ群または組成物群を1つ及び複数(すなわち1つ以上)包含すると解釈されるべきである。
【0105】
本開示は、具体的に記載されているもの以外の変更及び修正が可能であることは、当業者には理解されるであろう。本開示には、そのような変更及び修正すべてが含まれることを理解されるべきである。また、本開示には、本明細書において個別または集合的に言及または指示されるステップ、特徴、組成物及び化合物のすべて、ならびに前記ステップもしくは特徴の任意の2つ以上のあらゆる組み合わせも含まれる。
【0106】
本明細書の開示のいかなる例または実施形態も、特に具体的に断らない限り、本開示のいかなる他の例にも準用すると理解されるべきである。
【0107】
特に具体的に明記しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、当該技術分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を有すると理解されるべきである。
【0108】
特に明記しない限り、本開示で利用する組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的手技である。そのような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984),J.Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989),T.A.Brown(編集者)、Essential Molecular Biology:A Practical Approach、Volumes 1 and 2、IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(編集者ら)、DNA Cloning:A Practical Approach、Volumes 1-4、IRL Press(1995及び1996)、及びF.M.Ausubel et al.(編集者ら)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane(編集者ら)Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(編集者ら)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までのすべての更新を含む)などの原文献に十分な記載及び説明がある。
【0109】
本明細書の可変領域とその部分、免疫グロブリン、抗体とその断片についての記載及び定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987及び1991、Bork et al.,J Mol.Biol.242,309-320,1994,Chothia and Lesk J.Mol Biol.196:901 -917,1987,Chothia et al.Nature 342,877-883,1989 及び/またはまたはAl-Lazikani et al.,J Mol Biol 273,927-948,1997における考察によってさらに明確となり得る。
【0110】
「及び/または」、例えば、「X及び/またはY」という用語は、「X及びY」または「XまたはY」を意味すると理解されるべきであり、両方の意味またはいずれかの意味を明白に支持するものと理解されるべきである。
【0111】
本明細書で使用する場合、「a」または「an」は、文脈により特に示唆されない限り、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味する。
【0112】
本明細書全体を通して語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」のような変形は、記述されている要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むが、他の任意の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。
【0113】
選択定義
本明細書においてアミノ酸配列で使用される文字「x」は、特に明記しない限り、標準アミノ酸20個のうちいずれをこの位置に置いてもよいことを示すものとする。
【0114】
本明細書で使用する場合、「同一性」は、2つ以上の配列を、配列一致が最大になるよう、すなわち、ギャップ及び挿入を考慮に入れてアラインメントを行った場合に、かかる配列内の対応する位置において同一なヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合を意味する。同一性は、公知の方法によって容易に計算することができ、それらには、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;及びSequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991;及びCarillo,H.,and Lipman,D.,SIAM J.Applied Math.,48:1073(1988)に記載のものが含まれるが、これに限定されるものではない。同一性を決定する方法は、被験配列間の一致が最大になるよう設計される。さらに、同一性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムの形で体系的にまとめられている。2配列間の同一性を決定するコンピュータプログラムによる方法には、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,et al.,Nucleic Acids Research 12(1):387(1984))、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Altschul,S.F.et al.,J.Molec.Biol.215:403-410(1990)及びAltschul et al.Nuc.Acids Res.25:3389- 3402(1997))が挙げられるが、これに限定されるものではない。BLAST X プログラムはNCBI及び他の情報源(BLAST Manual,Altschul,S.,et al.、NCBI NLM NIH Bethesda、Md.20894;Altschul,S.,et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))から公的に入手可能である。
【0115】
本明細書で使用する用語「配列同一性」は、本開示のポリペプチドの配列と対象配列とのアラインメントを、これらの2配列のより長い配列の残基数について行った際に、対で同一な残基の割合を意味する。同一性は、同一残基数を総残基数で除して得たものに100を乗じて求められる。したがって、2配列間の同一性は典型的にパーセンテージとして表されることになる。
【0116】
用語「免疫グロブリン」は、抗体分子の免疫グロブリン折り畳み特性を保持しているポリペプチドのファミリーを指し、2つのベータシート及び、通常は、保存されたジスルフィド結合を含有する。Igスーパーファミリーのメンバーには、抗体、T細胞受容体分子等、ICAM分子(細胞接着に関与)、細胞内シグナル伝達に関与するPDGF受容体のような受容体分子が含まれる。好ましくは、本発明は抗体に関する。
【0117】
「免疫グロブリン様ドメイン」は、機能の異なる各種タンパク質、例えば、細胞外マトリックスタンパク質、筋タンパク質、免疫タンパク質、細胞表面受容体及び酵素などに見られるベータ-サンドイッチ構造のモチーフを指す。Ig様ドメインのメンバーは、さまざまなスーパーファミリーに分けられており、それらには、例えば、免疫グロブリン、フィブロネクチンIII型及びカドヘリンといったスーパーファミリーが挙げられる。Ig様ドメイン構造のモチーフを含有する他のスーパーファミリーとしては、例えば、PKDドメインの各メンバー、β-ガラクトシダーゼ/グルコシダーゼドメイン、トランスグルタミナーゼ2のC末端ドメイン、アクチノキサンチン様、CuZnスーパーオキシドディスムターゼ様、CBD9様、ラミンA/C球状尾部ドメイン、クラスリンアダプター付属ドメイン、インテグリンドメイン、PapD様、紫色酸性ホスファターゼN末端ドメイン、スーパーオキシドレダクターゼ様、チオール:ジスルフィド交換タンパク質DsbDのN末端ドメイン、及びインバシン/インチミン細胞接着断片の各スーパーファミリーが挙げられる。Ig様ドメイン構造の類似性は、有意な配列同一性に関係なく異なるスーパーファミリーメンバー間で維持されている。当該用語には、各スーパーファミリー内及び各スーパーファミリー間のIg様ドメインメンバーが含まれるものとする。したがって、用語「免疫グロブリン様(Ig様)ドメイン含有スーパーファミリー」は、これらのスーパーファミリーならびに当該技術分野で公知の他のスーパーファミリーの任意のものに入るIg様ドメイン含有メンバーのポリペプチドを指すものとする。各種Ig様ドメイン含有スーパーファミリーの記載は、例えば、Clarke et al.,Structure Fold.Des.7:1145-53(1999)及びpdb.weizmann.ac.il/scop/data/scop.b.c.b.htmlのURLなどの構造データベース内に見出すことができる。
【0118】
用語「抗体」には、すべてのクラス、例えば、IgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgEまたはサブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2が含まれ得、自然界で抗体を産生する任意の種に由来するものであるか、または組換えDNA技術によって創製されたものであるかを問わず、また血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクトーマ、酵母もしくは細菌からから単離されたものであるか、または合成により作製されたものであるかを問わない。用語「抗体」は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、霊長類化抗体またはsynヒト化抗体を包含する。用語「ヒト抗体」は、考えられる非ヒトCDR領域を除く、ヒト由来配列を含有する抗体を指し、ヒトにおける免疫原性が最小限のものを指す。
【0119】
本明細書で使用する用語「完全長抗体」は、抗体の抗原結合断片とは異なり、実質的に無傷の形態にある抗体を指すものとする。完全長抗体は、単離されたものでも組換え型であってもよい。具体的には、全抗体には、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものが含まれる。定常ドメインは、野生型配列の定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)であっても、そのアミノ酸配列変異型であってもよい。抗体タンパク質は、複数のポリペプチド鎖、例えば、軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチド及び重鎖可変領域(VH)を含むポリペプチドで構成される可変領域を含む。抗体は定常ドメインも含み、その一部は定常領域内に配置され得、それには、定常断片または重鎖の場合は結晶化可能断片(Fc)が含まれる。VH及びVLは相互作用して、1つまたは少数の密接に関連する抗原に特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。抗体と抗原との結合相互作用は、相補性決定領域(CDR)の1つ以上のアミノ酸残基との分子間接触として現われうる。一般に、哺乳類の軽鎖はκ軽鎖またはλ軽鎖のいずれかであり、哺乳類の重鎖はα、δ、ε、γ、またはμである。抗体は、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)またはサブクラスであり得る。抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であってよい。さらに別の例では、抗体はサメ、ラクダ科、ネコ科またはイヌ科の抗体である。
【0120】
本明細書で使用する用語「免疫グロブリン抗原結合性断片」は、抗体の断片を指すものとし、その断片には、相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域が含まれる。かかる用語は、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、di-scFv、または化学的に結合しているF(ab’)2を包含する。
【0121】
用語「Fab」は、抗原と結合し、重鎖及び軽鎖のそれぞれの定常ドメイン1つと可変ドメイン1つで構成される、抗体の領域を指すものと理解される。
【0122】
用語「相補的」は、対応する対を形成する免疫グロブリンドメインを指す。例えば、抗体のVHドメインとVLドメインは相補的であり、2つのVHドメインは相補的ではなく、2つのVLドメインは相補的ではない。
【0123】
用語「ドメイン」は、折り畳まれているタンパク質構造であり、そのタンパク質の他の部分とは独立して自身の三次構造を保持しているものを指す。
【0124】
用語「CDR」または「相補性決定領域」は、抗体または抗体断片(抗原に結合)内の重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見られる非連続的な抗原結合部位を意味するものとする。これらの特定領域は、Kabat et al.,J.Biol.Chem.252:6609-6616(1977);Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequences of proteins of immunological interest”(1991);Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987);及びMacCallum et al.,J.Mol.Biol.262:732-745(1996)によって記載されており、そこでの定義には、アミノ酸残基同士を互いに比較した場合のアミノ酸残基の重複またはサブセットが含まれている。上述したものの、いずれかの定義を適用して抗体または移植抗体またはその変異型のCDRに言及する場合、その適用は本明細書で定義し使用する用語の範囲内であるものとする。
【0125】
「結合ドメイン分子(BDM)」は、抗体の重鎖可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)と類似した構造的特徴を有する単量体ドメインを指す。これらの類似した構造的特徴としては、特定抗原に結合する抗体可変ドメインの相補性決定領域(CDR)と同様の方法で機能する、表面ポリペプチドのループ状の構造または領域であるBL(結合ループ)配列が挙げられる。BDM足場は、フレームワーク配列及びその間に含有される3つのBL配列で構成される。本明細書のBDMは抗体の可変ドメインではない。BDM足場は本明細書に記載されており、それには、例えば、CTLA-4、リポカリン、フィブロネクチン、ICOS及びCD28などがある。
【0126】
「BL配列」は、特定抗原に結合する抗体可変ドメインの相補性決定領域(CDR)と同様の方法で機能する、表面ポリペプチドのループ状の構造または領域である。3つの抗原結合ループ配列(本明細書ではそれぞれBL-1、BL-2及びBL-3とする)はBDMに存在し、かかるループ配列の所望の三次元コンホメーションを提供する足場配列内にある。天然BL配列は、足場上に移植可能な、対応する1つ以上の抗体CDRで置き換えることができる。BDMのBL部位に多様性を導入することができ、これは、足場の特定ループのアミノ酸配列を無作為化する、例えば、NNKコドンを導入した後、所望の結合特性について、例えば、ディスプレイ技術を使用して選択を行うことによって可能である。この機構は、高親和性の抗原特異的抗体による自然選択と類似している。
【0127】
タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドにおいて用語「結合特異性」は、標的抗原または標的エピトープ上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存して、タンパク質またはペプチド及び/またはBDMが各自の標的抗原または標的エピトープと結合する能力を指す。例えば、タンパク質及び/またはBDMは、タンパク質全般に結合するのではなく、特定のタンパク質構造を認識して結合する。例を挙げると、あるタンパク質がエピトープ「A」に結合する場合、標識化「A」と該タンパク質が含まれている反応では、エピトープ「A」(すなわち遊離の非標識「A」)を含有する分子が存在することにより、該タンパク質と結合した標識化「A」の量は減少することになる。また、かかる用語には、薬理的に活性なタンパク質もしくはペプチド及び/またはBDMは標的抗原に「特異的に結合する」ことが含まれることも理解されるべきである。用語「特異的に結合する(specifically binds)」または「特異的に結合する(binds specifically)」は、薬理的に活性なタンパク質(または、抗体の場合はその抗原結合ドメイン)もしくはペプチド及び/または本開示のBDMが、代替的な標的抗原の場合よりも特定の標的抗原と、より高頻度、より短時間で反応または会合し、持続時間がより長いこと、及び/または親和性がより高いことを意味するものと理解されるべきである。「結合」への言及により、用語「特異的結合(specific binding)」または「特異的結合(binding specific)」を明確に支持するものである。典型的に、かかる用語は、ある部分(すなわち、本明細書のタンパク質またはBDM)の所与の標的抗原に対する親和性を述べるために使用される。一部の状況では、毒性が問題となり得る場合には親和性の低い結合が望ましいことがある。別の状況では、他の標的抗原に対する交差反応性を最小限にするために親和性の高い結合が望ましいことがある。一例では、結合は、本明細書で定義するような特異的結合である。
【0128】
用語「選択的結合」は本明細書の他の箇所に詳述されている。
【0129】
選択標的に対する分子(すなわち、タンパク質またはBDM)の部分の「結合親和性」または「親和性」は測定することができる。用語「親和性」は、2つの物質の可逆的結合の平衡定数を指し、解離定数(Kd)または平衡解離定数(KD)として表される。
【0130】
本明細書で使用する場合、用語「アビディティ」は、2つ以上の物質からなる複合体の希釈後の解離に対する抵抗性を指す。
【0131】
本発明において用語「抗原」は、薬理的に活性なタンパク質もしくはペプチドまたはBDMが結合する物質を意味する。抗原は、典型的に、BDMまたはタンパク質もしくはペプチドよって認識される1つ以上の抗原エピトープを含むであろう。タンパク質抗原は、可溶性タンパク質または膜結合型タンパク質であってよい。可溶性タンパク質の例には、転写因子、抗体、増殖因子、血液タンパク質(例えば、アルブミン)、または薬物(例えば、ステロイド、医薬品など)が挙げられるが、これに限定されるものではない。膜結合型タンパク質の種類には、増殖因子受容体、腫瘍マーカー、細胞表面マーカー、または細胞内への輸送を媒介するマーカー(例えば、トランスフェリン)、またはFc受容体が含まれる。抗原は典型的に、生体内で免疫応答を引き起こすことのできる物質を指す。抗原は、ポリペプチド、タンパク質、核酸(例えば、DNA、RNAまたはDNAとRNAの組み合わせ)または他の分子であってよい。
【0132】
本明細書で使用する場合、用語「エピトープ「(同義語「抗原決定基」)は、タンパク質(または抗体の抗原結合性ドメインまたは免疫グロブリン抗原結合性断片)が結合する領域または本開示のBDMが結合する領域を意味すると理解されるべきである。従来より、かかる用語は、免疫グロブリンのVH/VL対により結合される構造を指す。エピトープにより、抗体または抗体様ドメイン(例えば、BDM)の最小結合部位が定義される。この用語は、必ずしも分子のタンパク質及び/またはBDMが接触を行う特定の残基もしくは構造に限定されるわけではない。例えば、この用語には、抗体のCDRまたは免疫グロブリン抗原結合性断片またはBDMのBL配列それぞれによって接触されるアミノ酸が広がる領域、及びこの領域の外側の5~10個(またはそれ以上)または2~5個または1~3個のアミノ酸が含まれる。いくつかの例では、エピトープは、ポリペプチドが折り畳まれた際に互いに近くに位置し、例えば、別のポリペプチドと会合する、一連の不連続アミノ酸、すなわち、「立体構造エピトープ」を含む。かかる用語には、線状ペプチド配列(すなわち、「連続している」)で構成されるエピトープまたは非連続的なアミノ酸配列(すなわち、「立体構造的」または「不連続」である)で構成されるエピトープが含まれる。
【0133】
本明細書で使用する用語「標的」は、抗原またはエピトープを指す。特定の例では、標的は、細胞表面タンパク質、例えば、受容体またはウイルスコートタンパク質を指す。他の例では、標的は分泌タンパク質である。
【0134】
本明細書で使用する場合、抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片における「抗原結合ドメイン」という用語は、ある抗原、より詳しくは、抗原上に存在するエピトープに特異的に結合することができる抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片の領域を意味するものと理解されるべきである。抗体では、抗原結合ドメインはVH及びVLと対応する。VH及びVL領域内には、エピトープと接触するCDRがある。
【0135】
本明細書で使用する用語「位置(position)」または「位置(positions)」は、本明細書に示すアミノ酸配列内のアミノ酸の位置を意味し、典型的には配列の左側または5’末端から数える。本明細書で使用する、BDMのアミノ酸配列の位置における用語「対応する」は、天然または「野生型」のBDM配列を参照したアミノ酸の位置を指す。好ましくは、かかる位置は、天然BDM配列においてBLS1、及び/またはBLS2及び/またはBLS3それぞれに相当するアミノ酸となるであろう。
【0136】
本明細書で使用する場合、用語「天然配列」は、対応する天然由来ポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有する配列を指すものとする。したがって、「天然BDM」は、対応する天然由来ポリペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。そのような天然配列ポリペプチドは、組換えまたは合成という手段によって作製することができる。
【0137】
用語「タンパク質」には、1本の連続する非分岐ポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合により連結されている一連の連続アミノ酸、または共有結合もしくは非共有結合で互いに連結されている一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)が含まれると理解されるべきである。例えば、一連のポリペプチド鎖は、好適な化学的結合またはジスルフィド結合を使用して共有結合で連結され得る。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び疎水性相互作用が挙げられる。
【0138】
本明細書で使用する用語「ペプチド」は、ペプチド(アミド)結合によって連結されているアミノ酸単量体からなる短い鎖(典型的には約50個またはそれ以下のアミノ酸)を指すものと理解される。
【0139】
本明細書で使用する用語「単離された」は、その天然の環境またはそれが作製された環境の構成成分から同定、分離、及び/または回収が行われたポリペプチド、抗体、タンパク質などを指す。その天然環境の汚染成分とは、治療へのポリペプチドの使用を妨げると考えられる物質であり、例えば、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含めることができる。一例では、ポリペプチドは、(1)ローリー法で決定した場合に80%、85%、90%、95%、または99重量%超まで、(2)スピニングカップシークエネーターの使用によりN末端または内部のアミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、及び/または(3)クマシーブルーもしくは銀染色を使用する還元条件または非還元条件下でSDS-PAGEで均一になるまで精製されるであろう。用語「単離されたポリペプチド」には、組換え型細胞内部のインサイチュのポリペプチドがその範囲内に含まれるが、これは、組換え型細胞にはポリペプチドの天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないことになるためである。一般に、ポリペプチドの単離には、少なくとも1つの精製ステップが含まれるであろう。
【0140】
「組換え型」という用語は、人工的な遺伝子組換え産物を意味するものと理解されるべきである。組換え型ポリペプチドには、細胞、組織または対象の内部にある、例えば、内部で発現している場合、人工的組換え手法により発現させたポリペプチドも包含される。
【0141】
本明細書で使用する用語「検出する(detect)」または「検出する(detecting)」は、定量的及び定性的な両レベル、ならびにそれらを組み合わせたレベルで理解される。したがって、それには、対象分子の定量的測定、半定量的測定及び定性的測定が含まれる。
【0142】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒトを含めた任意の動物、例えば哺乳類を意味するものと理解されるべきである。例示的対象としては、ヒト及び非ヒト霊長類が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えば、対象はヒトである。用語「対象」には、例えば、ハムスター、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ及びウマなどのような非ヒト対象も含まれるものとする。
【0143】
結合ドメイン分子(BDM)
本開示の結合ドメイン分子(BDM)は、好ましくは、3つの露出結合ループ(BL)を有するタンパク質足場を含有する。BLを改変して、すなわち、アミノ酸置換により置き換えまたは修飾を行って、BDMに所与の標的抗原に対する結合特異性を付与することができる。本開示のBDM足場は、免疫グロブリン様(Ig様)ドメイン含有スーパーファミリーメンバー、i-body、VNARまたはVHHからなる群から選択されてよい。
【0144】
Ig様ドメイン含有スーパーファミリーメンバーは、CTLA-4などのV様ドメイン(例えば、VLD)、Cセットドメイン、ThyOxファミリーメンバーポリペプチド、T細胞受容体、CD2、CD4、CD8、クラスI MHC、クラスII MHC、CD1、サイトカイン受容体、G-CSF受容体、GM-CSF受容体、ホルモン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、プロラクチン受容体、NCAM、VCAM、ICAM、N-カドヘリン、E-カドヘリン、フィブロネクチン、テネイシン、及びIセット含有ドメインポリペプチドまたはその機能性断片からなる群から選択されてよい。
【0145】
本開示にしたがったBDMの例としては、リポカリン、タンパク質AのZ-ドメインなどのタンパク質A由来分子(アフィボディー、SpA)、アフィボディー、アドネクチン(例えば、フィブロネクチン)またはアンキリンリピートタンパク質(DARPin)が挙げられる。
【0146】
本開示のBDMは、足場ドメイン構造ならびに広範な異種の結合ループ配列に対する受入れ能力の両方において、安定かつ調整可能であるという利点を有する。その上、BDM足場は、ヒトの治療薬として使用した場合にその免疫原性がごくわずかであるようヒト材料から容易に入手可能である。BDM足場は、天然に生じる多糖鎖を含有または除外するよう容易に構築することもできる。
【0147】
BDM足場内への異種の結合ループ配列の結合は、例えば、化学的、生化学的または組換えによる手法で実施することができる。
【0148】
好ましくは、本開示のBDMは、B細胞により産生されるようなヒト抗体以外の分子を指す。本開示のBDM分子はまた、相補性決定領域(CDR)より大きい抗体断片を除外するものとする。したがって、約50アミノ酸、75アミノ酸、100アミノ酸または110アミノ酸より大きいヒト抗体可変領域断片はBDMという用語には包含されない。さらに、BDMには、dAb構造、VH-VH構造またはVL-VL構造などの抗体可変領域は含まれない。
【0149】
用語「足場」は、所与の標的に対する結合特異性を付与する異種の結合ループまたは改変アミノ酸配列を組織する、配向させる、及び保持させるために使用するポリペプチド支持フレームワークを意味するものとする。足場は、結合特異性を付与するアミノ酸配列から構造的に分離可能である。足場の構造的に分離可能な部分には、多種多様な異なる構造モチーフが含まれ得、例えば、ベータ-サンドイッチ、ベータシート、アルファ-ヘリックス、ベータ-バレル、コイルドコイルならびに当該技術分野で公知の他のポリペプチド二次構造及び三次構造などがある。本開示の足場はまた、支持フレームワーク構造の安定性を実質的に低下させることなくアミノ酸配列を変えることができる1つ以上の領域も含有するであろう。変えることができる例示的領域には、ベータ-サンドイッチまたはベータシートの2本の鎖をつなぐ結合ループセグメントが含まれる。
【0150】
本開示のBDM足場は、好ましくは、ヒト免疫グロブリンの可変重鎖配列または可変軽鎖配列に対し、約50%未満のアミノ酸同一性を示す。一般に、足場は、例えば、ヒト免疫グロブリンの可変重鎖または可変軽鎖のアミノ酸配列と比較して約45%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、または約10%未満のアミノ酸配列同一性を示すであろう。
【0151】
変えることができる足場残基は、本明細書では、外部結合ループまたは結合ループ配列(本明細書ではそれぞれBL-1、BL-2及びBL-3とする)という。二次構造または三次構造の特性を付与する残基は、足場の全体構造が維持される限り、保持、修飾または保存が可能である。当業者は、ポリペプチド足場の構造安定性において機能する残基、ならびにそのような残基の可能な修飾の程度について知識があるか、または決定することができる。
【0152】
一例では、BDM足場はV様ドメイン(VLD)タンパク質である。
【0153】
VLDは、典型的に、それらが互いに結合してFv-型分子になる傾向がないため、抗体またはT細胞受容体のそれとは区別される。VLDは、The Leucocyte Antigen Facts Book 1993,Eds Barclay et al.,Academic Press,London;及びCD Antigens 1996(1997)Immunology Today 18,100-101、及びArlene H Sharpe and Gordon J Freeman,(2002)Nature Reviews Immunology 2,116-126で考察されており、その記載内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0154】
本開示の対象の技術分野の当業者は、本開示での使用に好適な、適切なVLD含有タンパク質を、例えば、Uniprotデータベース(www.uniprot.org)の検索を行うことによって容易に決定することができる。
【0155】
CTLA-4などのVLD含有タンパク質により、標的分子に対する親和性の高い新規な結合部分を開発するための代替的フレームワークが提供され得る。これらの結合部分に由来する単一ドメインV様結合分子は可溶性であるため、望ましい。VLDを含有する好適な結合部分の例は、CTLA-4、CD28及びICOS(Hutloff A et al,(1999)Nature 397(6716):263-6)である。
【0156】
細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)ならびに相同な細胞表面タンパク質CD28及びICOSは、免疫応答時のT細胞による制御に関与している。CTLA-4は44kDaのホモ二量体であり、活性化T細胞の表面に一過性に主に発現し、そこで、抗原提示細胞上の表面抗原CD80及びCD86と相互作用して免疫応答の制御を行う(Waterhouse et al.(1996)Immunol Rev 153:183-207,van der Merwe et al.(1997)J Exp Med 185(3):393-403)。
【0157】
CD28は44kDaのホモ二量体であり、CTLA-4同様、主としてT細胞に発現し、抗原提示細胞上の表面抗原CD80及びCD86と相互作用して免疫応答の制御を行う(Linsley et al.(1990)J Immunol 182(5):2559-63)。現在の理論では、CTLA-4とCD28間で利用可能なリガンドを競合することにより免疫応答レベルを制御することが示唆されており、例えば、CTLA-4遺伝子欠損のノックアウトマウスでは活性化T細胞の大量の過剰増殖がもたらされる(Waterhouse et al.(1995)Science 270(5238):985-8)。
【0158】
各CTLA-4単量体サブユニットは、N末端細胞外ドメイン、膜貫通領域及びC末端細胞内ドメインで構成される。細胞外ドメインは、N末端V様ドメイン(VLD;免疫グロブリンスーパーファミリーに対する相同性により分子量約14kDaと予測)及びVLDと膜貫通領域をつなぐ約10残基の茎を含む。VLDは、BL-1、BL-2及びBL-3それぞれに相当する表面ループを含み(Metzler WJ et al(1997)Nat Struct Biol 4(7):527-31)、CD80及び/またはCD86に結合する。ヒトCTLA-4の配列はこれまでに決定されている(US5,434,131;US5,844,095;US5,851,795)。
【0159】
CTLA-4に関する構造及び変異研究から、CD80及びCD86に対する結合は、A’GFCC’のV様ベータ鎖により形成されるほか、BL-3において高度に保存されたMYPPPYY配列により形成されるVLD表面を介して生じることが示唆される。CTLA-4単量体同士の二量体化は2つの茎のシステイン残基(Cys120)同士のジスルフィド結合を介して生じ、これにより2つの細胞外ドメインが繋ぎ止められるが、V様ドメイン同士の明らかな直接的会合はない(Metzler WJ et al(1997)Nat Struct Biol 4(7):527-31)。二量体化は、リガンドに対する高いアビディティにのみ寄与すると思われる。
【0160】
CD278またはICOS(誘導性T細胞共刺激分子)はICOS遺伝子によってコードされる免疫チェックポイントタンパク質である。これは活性化T細胞に発現する。かかるタンパク質は、CD28及びCTLA-4細胞表面受容体ファミリーに属する。このタンパク質はホモ二量体を形成し、シグナル伝達、免疫応答及び細胞増殖制御における役割を果たす。
【0161】
ヒトのCTLA4、CD28及びICOSの各配列は公的にアクセス可能なデータベースにて利用可能である。
【0162】
ヒトのCTLA-4配列はUniProt参照番号P16410として利用可能である。CTLA-4の細胞外ドメインは、かかる配列の36位~161位に対応する(ここで、CTLA-4は全長126アミノ酸長である)。アミノ酸残基1~35はシグナルペプチドに対応する。
【0163】
ヒトのCD28配列は、UniProt参照番号P10747として利用可能である。細胞外ドメインは、配列の19位~152位に対応する。
【0164】
ヒトのICOS配列は、UniProt参照番号Q9Y6W8として利用可能である。Ig様VLDは、配列の30位~132位に対応する。
【0165】
一例では、BDMは免疫グロブリンCセットドメインタンパク質であり、より好ましくはC1セットドメインタンパク質である。Cセットドメインは、抗体の定常ドメインに類似した古典的Ig様ドメインであり、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI及びIIの複合体分子ならびにさまざまなT細胞受容体など、免疫系に関与する分子にほぼ排他的に見られる。
【0166】
本開示の対象の技術分野の当業者は、本明細書での使用に好適なCセットドメイン含有タンパク質を容易に決定することができる。例えば、uniprotデータベース(www.uniprot.org)検索では300を超えるヒトタンパク質が明らかにされている。
【0167】
ベイシジンのようなタンパク質はCセットドメインを含有する(Xiao-Ling Yu et al.(2008)JBC vol 283(26):18056-18065)。Cセットドメインのさらなる例としては、ROR1細胞外ドメイン、CEACAM1~CEACAM8などのCEAファミリーメンバーが挙げられる。
【0168】
BDMは、公知の選択方法及び/または変異誘発方法を使用して親和性を成熟させることができる。親和性が成熟したBDMは、開始時BDMより2倍、5倍、10倍、20倍、30倍またはそれ以上の親和性を有し得る。見かけの親和性は、ELISAのような方法または当業者に馴染みのある他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴法によって決定することができる。
【0169】
i-bodyは、ヒト由来の単一ドメイン抗体様分子である。i-bodyのフレームワークはサメ由来の単一ドメイン抗体と類似しており、そのため、サメ抗体の好ましい生物物理学的特性と標的指向特性が共有されている。これらについては、例えば、US7,977,071に記載されている。
【0170】
VNAR(variable new antigen receptor:可変新規抗原受容体)は、サメ免疫グロブリン新規抗原受容体抗体(IgNAR)由来の単一可変領域ドメイン断片を指す。これらについては、例えば、Griffiths K et al(2013)Antibodies 2(1):66-81に記載されている。
【0171】
VHH(重鎖の可変ドメイン)ドメインまたはナノボディは、ラクダ科抗体由来の単一単量体可変抗体ドメインを指す。それらについては、例えば、Harmsen MM and HJ De Haard(2007)Appl Microbiol Biotechnol.77(1):13-22に記載されている。
【0172】
BDMの結合特異性及び分子の薬理的に活性なタンパク質部分を利用して、分子が、1つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープ、好ましくは、少なくとも2つの異なる標的抗原または標的エピトープに結合できるようにすることができる。一例では、タンパク質は第1の標的抗原に対する結合特異性を有し、少なくとも1つのBDMは第2の標的抗原に対する結合特異性を有する。
【0173】
複数のBDMをタンパク質と結合させる例では、タンパク質は第1の標的抗原に対する結合特異性を有し得、BDMは第2の標的抗原に対する結合特異性を有し得、さらなるBDM(存在する場合)は第3の標的抗原に対する結合特異性を有し得る。タンパク質が抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片である他の例では、抗体または抗原結合性断片は第1の標的抗原に対する結合特異性を有し得、BDM(または、BDMが、例えば、各重鎖または各軽鎖に存在する場合はそのBDM対)は、第2の標的抗原に対する結合特異性を有し得、さらなるBDM(またはその対)は、第3の標的抗原に対する結合特異性を有し得る。
【0174】
本開示の分子は、少なくとも1つの標的抗原、少なくとも2つの異なる標的抗原、少なくとも3つの異なる標的抗原、少なくとも4つの異なる標的抗原または少なくとも5つの異なる標的抗原に結合してよい。
【0175】
好ましくは、分子は、1つの標的抗原、2つの異なる標的抗原または3つの異なる標的抗原に結合する。非限定的なさまざまな例が意図され、
(i)タンパク質またはペプチドは、BDMが結合している第2の標的抗原と同一であるかまたは異なる第1の標的抗原に結合する、
(ii)抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は、BDMが結合している第2の標的抗原と同一である第1の標的抗原に結合する、
(iii)抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は、BDMが結合している第2の標的抗原とは異なる第1の標的抗原に結合する、
(iv)抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は第1の標的抗原に結合し、BDMは第1の標的抗原と同一の第2の標的抗原に結合し、さらなるBDMは第1及び第2の標的抗原とは異なる第3の標的抗原に結合する、
(v)抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は第1の標的抗原に結合し、BDMとさらなるBDMはそれぞれ第2及び第3の標的抗原に結合し、ここで、第2及び第3の標的抗原は同一であっても異なっていてもよいが、第2及び第3の標的抗原は第1の標的抗原とは異なる、
(vi)抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片は第1の標的抗原に結合し、BDMは第2の標的抗原に結合し、さらなるBDMは第3の標的抗原に結合し、ここで、第1、第2、及び第3の標的抗原は異なる
ことが含まれる。
【0176】
2つ以上のBDMが互いに連結される場合、分子が結合可能な考えられる標的の数は増加し得ることは認識されよう。
【0177】
BDMの生成
本明細書で示されるように、細菌の発現系を使用して、BDMドメイン(例えば、CTLA-4)の1つ以上の結合ループ構造をスクレロスチンまたはCD3の異種の結合ループ配列で置き換えると、可溶性の非グリコシル化単量体結合分子が生成された。したがって、V様ドメインにより、結合ループ構造を修飾して分子の結合特異性を工学的に操作できる、可溶性単一ドメイン分子構築用の基本的フレームワークが提供される。
【0178】
BDMのフレームワーク残基は、ラクダ科抗体に存在する構造的特徴に従って修飾してよい。ラクダの重鎖免疫グロブリンは、1つのVHドメインで構成されている点で従来の抗体構造とは異なる。
【0179】
従来にはない幾つかの置換(主に疎水性から極性にする)を露出したフレームワーク残基にて行うと、疎水性表面は減少するが、内部のベータシートフレームワーク構造は維持される(Desmyter et al.(1996)Nat Struct Biol 3:803-811)。3つの結合ループ内部では、通常はVLドメインにより提供される抗原結合表面の欠如を幾つかの構造的特徴により補償している。BL2ループは他のVHドメインと大きく異なってはいないが、BL1及びBL3は、長さが極めて異種な非標準的なコンフォメーションをとっている。例えば、Ig分子では通常5残基であるのに対し、H1ループは2~8個の何個の残基を含有してもよい。しかしながら、大きな変動が示されるのはBL3であり、報告されている17のラクダ抗体配列では、この領域の長さは7~21残基の間でばらついている(Muyldermans et al.(1994)Protein Eng 7:1129-1135)。第三に、多くのラクダ科VHドメインはジスルフィド結合を有するが、ラクダの場合はBL1とBL3を相互に連結するジスルフィド結合、またラマの場合はCDRの1と2を相互に連結するジスルフィド結合を有する(Vu et al.1997)。この構造的特徴の機能は、ループの安定性を維持すること、及び平面とは異なる、より曲線的なループコンホメーションを提供することであると考えられ、この双方の点により、抗原内部のポケットへの結合を可能にし、大きい表面積を与えている。ただし、すべてのラクダ科抗体がこのジスルフィド結合を有するわけではないことから、これが構造上の絶対要件ではないことが示唆される。
【0180】
これら上述の特徴により、ラクダ科Vドメインを、可溶性分子として生体内で、しかも多種多様な標的抗原に対して効果的な免疫応答を生じさせるのに十分に高い親和性で提示させることができた。
【0181】
標的分子に対する新規な結合親和性を有する単一VLD分子を作製し選択する方法は、US7,166,697に記載されており、その記載内容全体は参照により組み込まれる。かかる方法は、免疫グロブリンスーパーファミリーメンバー由来のV様ドメインに対し周知の分子進化技術を適用するものである。方法では、大量の変異V様ドメインのスクリーニングを行うための、ファージまたはリボソームのディスプレイライブラリーの作製を行ってよい。
【0182】
繊維状fdバクテリオファージがその表面に、ファージ内部に含有されるDNAによってコードされるIg様タンパク質(Fab)などのタンパク質を提示するよう、かかるファージのゲノムを工学的に操作する(Smith,1985;Huse et al.,1989;McCafferty et al.,1990;Hoogenboom et al.,1991)。タンパク質分子は、Fdバクテリオファージの表面に提示させることができ、遺伝子III、または頻度は低いが遺伝子VIIIによってコードされるファージコートタンパク質と共有結合されている。遺伝子IIIコートタンパク質を抗体遺伝子に挿入すると、ファージあたり3~5個の、末端に位置する組換えタンパク質分子が発現する。対照的に、遺伝子VIIIへの抗体遺伝子挿入では、ファージ粒子あたり約2000コピーの組換えタンパク質が提示される可能性があるが、この場合、多価系になり、1個の提示タンパク質の親和性が覆い隠されてしまう可能性がある。Fdバクテリオファージ表面への機能性Ig様断片の提示から、E.coliへの可溶性Ig様断片の分泌へと容易にスイッチが可能であることから、Fdファージミドベクターも使用される。ファージに提示させた、遺伝子IIIコートタンパク質のN末端との組換えタンパク質融合体は、アンバーコドンを2つのタンパク質遺伝子の間に戦略的に位置させることによって可能となる。E.coliのアンバーサプレッサー株では、得られるIgドメイン-遺伝子III融合体はファージコートに固定される。
【0183】
タンパク質親和性に基づく選択方法は、抗体、抗原、受容体及びリガンドなど、どのような高親和性結合試薬にも適用可能である(例えば、その記載内容全体が参照により本明細書に組み込まれるWinter and Milstein,(1991) Nature 349:293-299を参照のこと)。したがって、バクテリオファージに提示される最も親和性の高い結合タンパク質の選択と、かかるタンパク質をコードする遺伝子の回収とを組み合わせる。Igを提示するファージは、ELISAまたは固相ラジオイムノアッセイと類似の方法でビーズに共有結合しているかまたは可塑性表面に吸着している、対応する結合相手に結合させることによって親和性選択することができる。ほとんどすべての可塑性表面がタンパク質抗原を吸着するが、Nunc Immunotubeのようにこの目的に特化して作製されている市販製品もある。
【0184】
リボソームディスプレイライブラリーでは、選択を行うために、無細胞翻訳系でデノボ合成され、リボソーム表面に提示されるポリペプチドを使用する(Hanes and Pluckthun,(1997)Proc Natl Acad Sci USA 94:4937-4942;He and Taussig,(1997)Nucl Acids Res 25:5132-5134)。「無細胞翻訳系」は、リボソーム、タンパク質合成に必要とされる可溶性酵素(通常、リボソームと同一細胞に由来)、トランスファーRNA、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、リボヌクレオシド三リン酸再生系(ホスホエノールピルビン酸及びピルビン酸キナーゼなど)、ならびに外来mRNAによってコードされるタンパク質の合成に必要とされる塩及びバッファーを含む。ポリペプチドの翻訳は、無傷ポリソームが維持される、すなわち、リボソーム、mRNA分子及び翻訳されたポリペプチドが会合して単一複合体になっている条件下で実施させることができる。これにより、翻訳されたポリペプチドの「リボソームディスプレイ」が効果的に行われる。
【0185】
選択では、対応するリボソーム複合体と会合している翻訳されたポリペプチドを、マトリックス(例えば、Dynabeads)に結合した標的分子と混合する。標的分子は、任意の対象化合物(またはその部分)、例えば、DNA分子、タンパク質、受容体、細胞表面分子、代謝物、抗体、ホルモンまたはウイルスであってよい。翻訳されたポリペプチドを提示しているリボソームは標的分子と結合することとなるので、これらの複合体を選択し、RT-PCRを使用してmRNAを再増幅させることができる。
【0186】
結合分子を修飾する代替方法は幾つかあるが、どの提示タンパク質についても一般的方法は、ある様式、すなわち、個々の結合試薬を、それらの対応受容体に対する親和性によりディスプレイライブラリーから選択するという方法に従っている。これらの試薬をコードする遺伝子は、多数あるインビボ及びインビトロでの変異戦略のいずれか1つまたは組み合わせによって修飾され、親和性の最も高い結合分子を提示させ選択するための新遺伝子プールとして構築される。
【0187】
BDM二量体
一例では、分子のBDM部分はBDM単量体の二量体である。二量体形成は、天然に生じても、またはリンカーを使用して促進してもよい。例えば、BDMがCTLA-4 VLDである場合、二量体化は、2つの茎の配列が保持されている場合、それらのシステイン残基(Cys120)同士のジスルフィド結合を介して生じてよい。
【0188】
別法として、リンカーを使用してBDM単量体(例えば、CTLA-4単量体)を互いに結合させることができる。これと同じ原理を使用して、多数のBDM単量体を互いに縦列に連結させてストリングを形成させることもできる。リンカーにより、高い柔軟性の促進、及び/または任意の2つの単量体同士の立体障害の低減が可能である。リンカーは天然由来であり得る。
【0189】
使用可能な他の種類のリンカーは、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)nリンカーを含め、以下に詳述する。
【0190】
CTLA-4の可溶性形態のインビトロ発現
ヒトCTLA-4分子の細胞外ドメインもV様ドメイン(VLD)も、細菌細胞で可溶性単量体としての発現に成功しておらず、これは恐らく発現タンパク質の凝集によるものと思われる(Linsley PS et al,(1995)J.Biol.Chem 270:15417-24)。E.coliで細胞外N末端ドメイン(Met1~Asp124、Cys120を含む)を発現させると、分子量28kDaの二量体タンパク質が精製され、2つのCTLA-4 V様ドメインがCys120にてジスルフィド結合により繋がれている。Val114で切断するとこれらのシステインは除去されるが、この切断は、14kDaのVLDを可溶性の単量体形態で発現させることを意図したものであった。しかしながら、生成物は凝集し、これは、通常グリコシル化によって隠れている疎水性部位が露出したため、凝集が引き起こされたと結論づけられた(Linsley PS et al,(1995)J.Biol.Chem 270:15417-24)。
【0191】
単量体グリコシル化CTLA-4細胞外ドメインを真核生物発現系(すなわち、CHO細胞及び酵母Pichia pastoris;Linsley PS et al,(1995)J.Biol.Chem 270:15417-24;Metzler WJ et al(1997)Nat Struct Biol 4(7):527-31;Gerstmayer B et al.(1997)FEBS Lett 407(1):63-8)で発現させたという幾つかの成功事例が報告されている。これらの真核生物発現系でのグリコシル化は、VLDの2つのN-結合型グリコシル化部位(Asn76及びAsn108)で生じると推定される。しかし、高収率が記載されていたのは、Fcサブユニットに結合したCTLA-4 VLD2つを有する二量体組換えタンパク質を生成させる、Ig-CH2/CH3ドメインと融合させたCTLA-4 VLDをコードする遺伝子の発現に関してのみであった(WO95/01994及びAU16458/95)。AU60590/96には、MYPPPY表面ループの第1のチロシン(Y)の単一アミノ酸の置き換えを行ったCTLA-4 VLDの変異型が記載されており、これは天然のCD80リガンド及びCD86リガンドに対する親和性を保持し、かつ修飾するものである。AU60590/96には、CTLA-4 VLDのかかる好ましい可溶性形態が、真核細胞で発現させた組換え型CTLA-4/Ig融合タンパク質として記載されているが、原核生物発現系における凝集の問題は解決されていない。EP0757099A2には、CTLA-4変異分子の使用、例えば、BL配列における変異のリガンド結合に与える各種変化の影響が記載されている。
【0192】
B7-1(CD80)タンパク質及びB7-2(CD86)タンパク質
B7タンパク質は、活性化抗原提示細胞(APC)に見られる表在性膜タンパク質であり、T細胞の表面タンパク質CD28またはCD152(CTLA-4)のいずれかと対になると、それぞれ、共刺激シグナルまたは共抑制性シグナルを発してAPCとT細胞間のMHC-TCRシグナルの活性の増強または低下を行うことができる。B7は、活性化APC上に存在するほか、T細胞上にも見られる。
【0193】
B7タンパク質は多数のファミリーメンバーを含み、それらには、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1~B7-H7が挙げられる。B7-1タンパク質はCD80とも呼ばれ、CD28及びCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)に結合する。ヒト配列のUniprot参照番号はP33681である。
【0194】
一例では、BDMはB7-1ヒトタンパク質に結合する。一例では、BDMはB7-2タンパク質に結合する。
【0195】
スクレロスチン
スクレロスチンは、C末端にシステインノット様ドメイン、及び骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストのDAN(ディファレンシャルスクリーニング法で選択した神経芽腫における異常遺伝子)ファミリーに対する配列類似性を有する分泌糖タンパク質である。スクレロスチンは骨細胞により産生され、骨形成の抗同化作用を有する。ヒト配列のUniprot参照番号はQ9BQB4である。
【0196】
一例では、BDMはヒトのスクレロスチンタンパク質に結合する。
【0197】
薬理的に活性なタンパク質
本開示の完全なタンパク質種は薬理学的に活性である。そのようなタンパク質には、抗体(例えば、完全長抗体)もしくは免疫グロブリン抗原結合性断片または本明細書に記載する非抗体タンパク質が含まれる。
【0198】
用語「薬理学的に活性である」は、医療用パラメータまたは疾患状態に影響を与えるか、または免疫応答に関与する細胞の活性化を引き起こす活性を有すると決定される物質を意味する。タンパク質は、アゴニストタンパク質、アンタゴニストタンパク質または擬似タンパク質であってよい。タンパク質は治療用抗体であってもよい。
【0199】
「擬似」または「アゴニスト」という用語は、天然タンパク質(例えば、EPOまたはG-CSF)に匹敵する生物学的活性を有するタンパク質(またはペプチド)を指す。
【0200】
本願開示に従う好適な例示的タンパク質としては、血液凝固因子、アンチカリン、トキソイド、ヒト血清アルブミン、コラーゲン結合タンパク質、TNF-α受容体結合タンパク質、インテグリン結合タンパク質、VEGFまたはその擬似物質、EPOまたはその擬似物質、C4結合タンパク質、ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト、リンホカイン、サイトカイン、オステオプロテゲリン(OPG)、またはプログラム細胞死1タンパク質(PD1)、プログラム死リガンド1(PD-L1)、NKG2D、MHCクラスIポリペプチド関連配列A(MICA)、MHCクラスIポリペプチド関連配列B(MICB)、UL16結合タンパク質(ULBP)から選択されるタンパク質の細胞外ドメインが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0201】
血液凝固因子は当該技術分野で公知であり、例としては、血友病に関連する第VIII因子及び第IX因子が挙げられる。
【0202】
一例では、トキソイドはボツリヌストキソイドである。トキソイドは、A型ボツリヌストキソイドまたはB型ボツリヌストキソイドであってよい。ボツリヌストキソイドの合成形態もまた意図される。
【0203】
一例では、リンホカインはIL-2またはGM-CSFまたはその擬似物質である。
【0204】
一例では、サイトカインはG-CSFもしくはその擬似物質または幹細胞因子もしくはその擬似物質である。
【0205】
一例では、タンパク質をBDMと結合させ、それがヒト血清アルブミンに結合し、かかるタンパク質の半減期が、BDMが存在しないタンパク質よりも生体内で延長されるようにする。
【0206】
抗体
特定の例では、多重特異性分子は完全長抗体を含む。一例では、抗体はヒト化抗体である。別の例では、抗体はヒト抗体である。別の例では、抗体はキメラ抗体である。
【0207】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト種由来抗体に由来する抗原結合部位または可変領域、ならびにそれ以外の部分としてヒト抗体の構造及び/または配列に基づく抗体構造を有するキメラ抗体のサブクラスを指すと理解されるべきである。ヒト化抗体では、抗原結合性部位は一般に、ヒト抗体の可変領域にある適切なフレームワーク領域(FR)に移植した非ヒト抗体由来相補性決定領域(CDR)、及びそれ以外の部分としてのヒト抗体由来領域を含む。抗原結合部位は、野生型(すなわち、非ヒト抗体のものと同一)であっても、または1つ以上のアミノ酸置換で修飾されていてもよい。ある場合には、ヒト抗体のFR残基を対応する非ヒト残基で置き換える。一般に、ヒト化抗体は、すべてまたは実質的にすべてのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、かつ、すべてまたは実質的にすべてのFR領域はヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFR領域である、少なくとも1つの可変ドメイン、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含むことになる。
【0208】
本開示のヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にヒト免疫グロブリンの定常領域も含有するであろう(Jones et al.,(1986)Nature,321:522-525;Riechmann et al.,(1988)Nature,332:323-329;及びPresta,(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596)。
【0209】
非ヒト抗体またはその部分(例えば、可変領域)をヒト化する方法は、当該技術分野で公知である。ヒト化は、Winter及び協力者ら(Jones et al.,Nature,321:522 525(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323 327(1988));Verhoeyen et al.Science,239:1534 1536(1988))の方法またはUS5225539またはUS5585089に記載の方法に従って本質的に実施可能である。抗体をヒト化する他の方法を除外するものではない。
【0210】
本明細書で使用する用語「ヒト抗体」は、可変領域(例えば、VH、VL)、及び任意選択で、ヒトにおいて、例えば、ヒトの生殖系列細胞もしくは体細胞において見られる配列に由来するかまたは一致する定常領域を有する抗体を指す。「ヒト」抗体には、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基、例えば、ランダムまたは部位特異的な変異によってインビトロで導入された変異(特定の変異では、少数の抗体残基、例えば、抗体の残基のうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ、例えば、抗体の1つ以上のCDRを構成する残基のうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つにおいて、保存的置換または変異を行う)が含まれ得る。これらの「ヒト抗体」は、ヒトによって実際に産生される必要はなく、むしろ、組換え手法の使用による作製、及び/またはヒト抗体の定常領域及び/または可変領域(例えば、上述)をコードする核酸を含むトランスジェニック動物(例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されているマウス)からの単離が可能である。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリー(例えば、US5885793に記載のもの)など、当該技術分野で公知のさまざまな技術を使用して作製することができる。
【0211】
選択エピトープを認識するヒト抗体は、「誘導選択(guided selection)」と呼ばれる技術を使用して作製することもできる。この方法では、選択した非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全にヒトである抗体の選択を誘導するものである(例えば、US5,565,332に記載)。
【0212】
ヒト化抗体を含め、ヒト化免疫グロブリンが遺伝子工学によって構築されてきている。先に記載したほとんどのヒト化免疫グロブリンは、特定のヒト免疫グロブリン鎖(すなわち、アクセプターまたはレシピエント)のフレームワークと同一なフレームワーク、及び非ヒト(ドナー)免疫グロブリン鎖由来の3つのCDRを含んでいた。ヒト化には、ヒト化免疫グロブリン鎖を含む抗体の親和性を高めるため、ヒト化免疫グロブリン鎖のフレームワーク内の限られた数のアミノ酸を同定し、アクセプターではなくドナーにおける位置のアミノ酸と同一となるよう選択する基準も含まれ得る。
【0213】
ヒト化抗体には一般に、ヒトの治療での使用について、マウスまたはキメラ抗体に対して少なくとも3つの大きな利点がある。抗体のエフェクター部分がヒトであるため、ヒト免疫系の他の部分とより良く相互作用する(例えば、補体依存性細胞障害活性(CDC)または抗体依存性細胞障害活性(ADCC)によって標的細胞をより効率的に破壊する)と考えられている。さらに、ヒト免疫系は、ヒト化抗体のフレームワークまたは定常領域を異物として認識してはいけないため、そのような注入抗体に対する抗体反応は、完全外来性のマウス抗体または部分的に外来性のキメラ抗体に対する反応よりも少なくなるはずである。最後に、マウス抗体は、ヒトの血液循環における半減期がヒト抗体の半減期よりもかなり短いことが知られている。ヒト化抗体は、推定上、天然に生じるヒト抗体とより類似した半減期を有することができ、より少量で低頻度の投与を可能にする。
【0214】
所望の標的に結合する完全長抗体はいずれも本開示で使用することができることは認識されよう。一例では、完全長抗体をさらに親和性成熟させてからBDMと結合させる。
【0215】
別の例では、完全長免疫グロブリンは非ヒト免疫グロブリンである。一例では、免疫グロブリンはマウス、ラット、ハムスター、ネコ、イヌ、ウマまたはウシの免疫グロブリンである。
【0216】
従来の方法を使用して抗体を調製することができる。例えば、ペプチドまたは完全長標的タンパク質の使用により、標準的方法を用いてポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を作製することができる。哺乳類(例えば、マウス、ハムスター、またはウサギ)は、哺乳類で抗体反応を示すペプチドの免疫原形態で免疫することができる。ペプチドに高い免疫原性を付与する技術には、担体への複合体化または当該技術分野において周知の他の技術が含まれる。例えば、タンパク質またはペプチドは、アジュバント存在下で投与可能である。血漿または血清中の抗体価を検出することにより免疫化の進行を監視することができる。抗原として免疫原を用いて標準的ELISAまたは他の免疫測定手順を使用し、抗体レベルを評価することができる。免疫化の後、抗血清を得、所望であれば、血清からポリクローナル抗体を単離することができる。
【0217】
抗体は、細胞培養、ファージ、またはウシ、ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヒツジ、イヌ、ネコ、サル、チンパンジー、類人猿が含まれるが、これに限定されない多様な動物で作製可能である。したがって、本開示で有用な抗体は典型的に哺乳類の抗体である。ファージ法を使用して、初期抗体の単離または改変された特異性もしくはアビディティ特性を有する変異型の作製が可能である。そのような技術は常套的であり当該技術分野において周知である。一例では、抗体は、当該技術分野で公知の組換え手法により作製される抗体である。例えば、組換え型抗体は、抗体をコードするDNA配列を含むベクターで宿主細胞をトランスフェクトすることによって作製可能である。1つ以上のベクターを使用して、宿主細胞に少なくとも1つのVL領域と1つのVH領域を発現しているDNA配列をトランスフェクトすることができる。抗体の作製及び産生の組換え手法に関する例示的な記載には、Delves,Antibody Production:Essential Techniques(Wiley,1997);Shephard,et al.,Monoclonal Antibodies(Oxford University Press,2000);及びGoding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(Academic Press,1993)が含まれる。
【0218】
生体内での抗体の有効性を高めるために、抗体をエフェクター機能について修飾することが望ましい場合がある。例えば、システイン残基(複数可)をFc領域に導入し、それにより、この領域で鎖間ジスルフィド結合を形成させてよい。こうして作製された抗体は、改善された内部移行能力及び/または補体介在による高い殺細胞性及び高い抗体依存性細胞障害活性(ADCC)を有し得る。Caron et al.,(1992)J.Exp Med.,176:1191-1195及びShopes,(1992)J.Immunol.,148:2918-2922を参照のこと。
【0219】
抗体断片
抗体断片は、無傷抗体の部分を含み、それには、無傷抗体の抗原結合領域または可変領域が含まれ得る。本開示での使用に好適な抗体断片の例としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、di-scFv、または化学的に結合しているF(ab’)2が挙げられる。特定の例では、抗体断片はFabである。
【0220】
Fvは、完全な抗原認識性及び結合性部位を含有する抗体断片を指す。この領域は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインが強い非共有結合で会合している二量体で構成される。各可変ドメインの3つのCDRが相互に作用してVH-VL二量体表面の抗原結合部位を画定するのは、この立体配置にある場合である。まとめると、6つのCDRにより抗体断片に抗原結合特異性が付与される。
【0221】
Fab断片はFvを含有し、かつ軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab断片は、抗体ヒンジ領域から1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端において、少数の残基が付加されている点でFab’断片とは異なる。F(ab’)2断片は、間にヒンジのシステイン残基を有するFab’断片対として作製する。
【0222】
化学的に連結されたF(ab’)2は、2つの異なるFab’断片を互いに対にすることにより形成され、その各々が異なる結合特異性を有する二重特異性分子である。抗体断片から二重特異性抗体を作製する技術は、文献に記載がある。例えば、二重特異性抗体は、化学的結合を使用して調製することができる。Brennan et al (1985) Science 229:81には、無傷抗体をタンパク質の分解により切断してF(ab’)2断片を作製する手順が記載されている。これらの断片を、ジチオール錯化剤亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元させて、近接するジチオールを安定化させるとともに、分子間のジスルフィドが形成されないようにする。その後、作製されたFab’断片をチオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換させる。その後、Fab’-TNB誘導体のうちの1つをメルカプトエチルアミンを用いた還元により再度Fab’-チオールに変換させ等モル量の別のFab’-TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成させる。
【0223】
多重特異性分子の作製
本開示は、本開示の多重特異性分子を作成するための方法も提供する。
【0224】
分子の発現は、原核細胞でも真核細胞でも可能である。原核生物は、多種多様な株の細菌に代表されることが最も多い。細菌は、グラム陽性菌であってもグラム陰性菌であってもよい。典型的に、E.coliなどのグラム陰性細菌が好ましい。他の微生物菌株も使用してよい。
【0225】
分子をコードする配列は、E.coliのような原核細胞で外来配列を発現させるために設計されたベクターにクローニングすることができる。これらのベクターには、本明細書において、転写開始用プロモーター及び任意選択でオペレーターを、リボソーム結合部位配列と共に含むと定義される、一般的に使用される原核生物の制御配列が含まれ得、そのような一般的に使用されるプロモーターには、ベータ-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)及びラクトース(lac)プロモーター系(Chang,et al.,(1977)Nature 198:1056)、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel,et al.,(1980)Nucleic Acids Res.8:4057)及びラムダ由来PLプロモーター及びN-遺伝子リボソーム結合部位(Shimatake,et al.,(1981)Nature 292:128)が含まれ得る。
【0226】
そのような発現ベクターには、ベクターが細菌内で複製することができるよう、また、そのプラスミドを担持する細胞が、アンピシリンまたはカナマイシンなどの抗生物質存在下で増殖させた場合に選択可能となるよう、複製起点、及び抗生物質に対する耐性を付与するベータ-ラクタマーゼまたはネオマイシンホスホトランスフェラーゼの遺伝子などの選択マーカーも含まれるであろう。
【0227】
E.coli及び酵母などの単細胞生物での抗体発現は当該技術分野で十分に確立されている。概説については、例えばAndre Frenzel et al(2013)Front Immunol 4:217を参照のこと。培養真核細胞での発現もまた、本明細書に記載の二重特異性分子を作製するための一つの選択肢として当業者に公知であり、最近の総説、例えばRaff,M.E.(1993)Curr.Opinion Biotech.4:573-576;Trill J.J.et al.(1995)Curr.Opinion Biotech 6:553-560を参照のこと。
【0228】
これらの目的を達成する分子クローニング技術は当該技術分野で公知であり、例えば、Ausubel et al.、(編集者ら)、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)またはSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されている。多種多様なクローニング法及びインビトロ増幅法は、組換え型核酸の構築に好適である。組換え型抗体を作製する方法も当該技術分野で公知であり、例えば、US4816567またはUS5530101を参照のこと。
【0229】
さまざまな各種の宿主細胞でポリペプチドをクローニングし発現させる系が周知である。好適な宿主細胞には、細菌、哺乳類細胞、酵母及びバキュロウイルスの各系が含まれる。好適な宿主細胞には、細菌、哺乳類細胞、酵母及びバキュロウイルスの各系が含まれる。異種ポリペプチドの発現について当該技術分野で利用可能な哺乳類細胞株には、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウス黒色腫細胞及び他の多くの細胞が含まれる。好適な宿主は、例えば、選択ベクターとの宿主の適合性、宿主の分泌特性、タンパク質を正確に折り畳む宿主の能力、及び宿主の発酵要件、ならびに発現させるDNA配列によってコードされる産物の宿主に対する毒性、及び発現産物の精製の容易さなどを考慮して選択されるであろう。
【0230】
単離後、核酸を、発現構成体または発現ベクター内にプロモーターに機能的に連結させて挿入し、さらなるクローニング(DNA増幅)または無細胞系もしくは細胞での発現に供する。ベクターは、適宜、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、「ファージ」、またはファージミドであり得る。
【0231】
本開示のベクター構成体を作製するため、本明細書に記載する抗体の軽鎖配列、重鎖配列、及びリンカー配列ならびにBDM配列をコードする核酸配列を標準的方法によって好適なベクターにクローニングする。
【0232】
いくつかの例では、BDMは、抗体軽鎖配列のC末端にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体重鎖配列のC末端にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体軽鎖配列のN末端にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体重鎖配列のN末端にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体軽鎖配列のN末端及びC末端の両方にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体重鎖配列のN末端及びC末端の両方にクローニングされるであろう。いくつかの例では、BDMは、抗体の軽鎖配列及び重鎖配列両方のN末端及びC末端両方にクローニングされるであろう。いくつかの例では、抗体の重鎖または軽鎖及びBDMをコードする核酸配列を1つのベクター内に提供し、その抗体のもう一方の鎖を別のベクターに提供する。他の例では、抗体軽鎖配列、リンカー配列及びBDM配列をコードする核酸配列を1つのベクター内にクローニングし、抗体重鎖配列、リンカー配列及びBDM配列をコードする核酸配列を別のベクター内にクローニングする。別の方法では、抗体の軽鎖と重鎖の両方が同一ベクター上に発現するバイシストロン性ベクターを使用してよい。特定の例では、重鎖及び軽鎖のコード配列(そのうちの1つにはBDMも含まれるであろう)は単一ベクター上に、例えば、同一ベクター内に2つの発現カセットに入れて存在してよい。
【0233】
分子をコードする核酸配列を、真核生物宿主で外来配列を発現するよう設計されたベクターに挿入することもできる。ベクターの調節エレメントは、特定の真核生物宿主に応じて異なり得る。
【0234】
有用な発現ベクターは、例えば、染色体DNA、非染色体DNA及び合成DNAの各配列で構成され得る。好適なベクターには、SV40及び公知の細菌プラスミドの誘導体、例えば、E.coliプラスミドのcol El、Pcr1、Pbr322、Pmb9及びその誘導体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージλ、例えばNM989、ならびに、その他のファージDNA、例えば、M13及び繊維状一本鎖ファージDNAの多数の誘導体;2uプラスミドまたはその誘導体などの酵母プラスミド;真核細胞において有用なベクター、例えば、昆虫または哺乳類の細胞において有用なベクター;ファージDNAまたは他の発現制御配列を利用するよう修飾されているプラスミドなどの、プラスミド及びファージのDNAの組み合わせに由来するベクター;ならびに同類のものが含まれる。
【0235】
分子をコードする核酸配列を真核生物の宿主細胞のゲノムに組み込み、宿主ゲノム複製試料として複製することができる。別法として、かかる核酸配列を担持するベクターは、染色体外での複製を可能にする複製起点を含有し得る。
【0236】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」は、その最も広い文脈で解釈されるべきであり、かかる用語には、TATAボックスまたはイニシエーターエレメントなど、ゲノム遺伝子の転写調節配列が含まれるが、プロモーターは、例えば、発達及び/または外部の刺激に応答して、または組織特異的に、核酸の発現を改変するさらなる調節エレメント(例えば、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)の有無にかかわらず、転写開始が正確に行われるために必要である。本願の文脈においては、用語「プロモーター」は、組換え型核酸、合成核酸もしくは融合核酸、またはプロモーターが機能的に連結されている核酸の発現を与える、活性化する、もしくは高める誘導体を表すためにも使用される。例示的なプロモーターは、前記核酸の発現をさらに増強させる、及び/または空間的発現及び/または一時的発現を改変する、1つ以上の特定の調節エレメントのさらなるコピーを含有することができる。
【0237】
本明細書で使用する場合、用語「機能的に連結される」は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるよう、そのプロモーターを核酸に対して配置することを意味する。
【0238】
細胞での発現用に多くのベクターが利用可能である。ベクターの構成成分としては一般に、シグナル配列、タンパク質をコードする配列(例えば、本明細書で提供する情報に由来)、エンハンサーエレメント、プロモーター、ポリアデニル化配列及び転写終結配列のうち1つ以上が挙げられるが、これに限定されるものではない。当業者は、タンパク質の発現に好適な配列について認識しているであろう。例示的なシグナル配列には、原核生物の分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、または耐熱性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、または酸性ホスファターゼリーダー)または哺乳類の分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が含まれる。
【0239】
哺乳類細胞で活性な例示的プロモーターには、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターまたはその活性断片を含むハイブリッド調節エレメントなどが含まれる。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40(COS-7、ATCC CRL1651)により形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胎児由来腎臓株(浮遊培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞または293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);またはチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0240】
単離された核酸またはそれを含む発現構成体を発現用宿主細胞内に導入する手段は当業者に公知である。所与の細胞に使用する技術は、成功したことが既知である技術に依存する。細胞に組換えDNAを導入する手段としては、中でも、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランにより誘導されるトランスフェクション、lipofectamine(Gibco、MD,USA)及び/またはcellfectin(Gibco、MD,USA)などを使用する、リポソームで誘導されるトランスフェクション、PEG誘導性のDNA取込み、レトロウイルス遺伝子導入、電気穿孔法ならびにDNAでコーティングしたタングステンまたは金粒子(Agracetus Inc.,WI,USA)を使用するような微粒子の撃ち込みが挙げられる。
【0241】
導入の後に、核酸からの発現を、例えば、発現用条件下での宿主細胞の培養によって、生じさせるかまたは可能にすることができる。
【0242】
本開示は、抗体または免疫グロブリンの抗原結合性断片鎖及びBDMを発現させるため、発現系において上述の構成体を使用することを含む方法も提供する。
【0243】
本開示は、本明細書に記載する核酸配列を1つ以上含む組換え型宿主細胞も提供する。タンパク質産生に使用される宿主細胞は、使用する細胞種に応じて多種多様な培地で培養され得る。ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMl-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販培地は、哺乳類細胞の培養に好適である。本明細書で論じる他の細胞種の培養用培地は当該技術分野で公知である。
【0244】
本開示の核酸配列を発現させる際に、多種多様な宿主/発現ベクターの組み合わせを活用することができる。有用な発現ベクターは、例えば、染色体DNA、非染色体DNA及び合成DNAの配列で構成され得る。好適なベクターには、SV40及び公知の細菌プラスミドの誘導体、例えば、E.coliプラスミドのcol El、Perl、Pbr322、Pmb9及びその誘導体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージλ、例えばNM989、ならびに、その他のファージDNA、例えば、M13及び繊維状一本鎖ファージDNAの多数の誘導体;2uプラスミドまたはその誘導体などの酵母プラスミド;真核細胞において有用なベクター、例えば、昆虫または哺乳類の細胞において有用なベクター;ファージDNAまたは他の発現制御配列を利用するよう修飾されているプラスミドなどの、プラスミド及びファージのDNAの組み合わせに由来するベクター;ならびに同類のものが含まれる。
【0245】
本明細書に記載する1つ以上のポリヌクレオチドを含む組換え型宿主細胞も本明細書で提供される。
【0246】
多種多様な発現制御配列、すなわち、それに機能的に連結された核酸配列の発現を制御する配列のいずれも、その核酸配列を発現させるためにこれらのベクター内で使用することができる。そのような有用な発現制御配列には、例えば、SV40、CMV、ワクシニア、ポリオーマもしくはアデノウイルスの初期または後期のプロモーター、lac系、tip系、TAC系、TRC系、LTR系、ファージλの主要なオペレーター領域とプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3-ホスホグリセリン酸キナーゼもしくは他の糖分解酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼ(例えば、Pho5)のプロモーター、酵母接合因子のプロモーター、及び、原核細胞もしくは真核細胞またはそのウイルスの遺伝子発現制御が既知である他の配列、ならびにその組み合わせ各種が含まれる。
【0247】
当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、過度の実験を行わずに適切なベクター、発現制御配列、及び宿主を選択して、所望の発現を達成することができるであろう。例えば、ベクター選択の際は、そのベクターが宿主で機能する必要があるので、宿主を考慮しなければならない。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、及びそのベクターによってコードされる任意の他のタンパク質の発現、例えば、抗生物質マーカーなども考慮されるであろう。当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、適切なベクター、発現制御配列、及び宿主を選択して、所望の発現を達成することができる。例えば、ベクター選択の際は、そのベクターが宿主で機能するので、宿主を考慮する。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、及びそのベクターによってコードされる任意の他のタンパク質の発現、例えば、抗生物質マーカーなども考慮され得る。
【0248】
本開示は、本明細書に記載するようなポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド(核酸)、そのようなポリヌクレオチドを含有するベクター、ならびにそのようなポリヌクレオチドを転写しポリペプチドに翻訳する宿主細胞及び発現系を提供する。
【0249】
本開示は、本明細書の他の箇所に記載があるようなプラスミド、ベクター、転写または発現カセットの形態の、上述ポリヌクレオチドを少なくとも1つ含む構成体も提供する。
【0250】
本開示は、本明細書に開示する1つ以上のポリヌクレオチドを含有する宿主細胞も提供する。
【0251】
発現により作製した後、任意の好適な技術を使用して分子を単離及び/または精製することができる。核酸がコードされることにより、本明細書に記載する分子及びベクターは、例えばその天然環境から、実質的に純粋もしくは均一な形態で、または核酸の場合は、必要機能を有するポリペプチドをコードする配列以外の、本来の核酸もしくは遺伝子を含まないかまたは実質的に含まずに、単離及び/または精製されて提供され得る。核酸は、DNAまたはRNAを含むことができ、全部または一部が合成であり得る。
【0252】
Saccharomyces cerevisiaeで核酸配列を発現させる場合、内在性酵母プラスミド由来の複製起点、2μ環を使用することができる。(Broach、(1983)Meth.Enz.101:307)。別法として、自律複製を促進することができる酵母ゲノム由来の配列を使用することができる(例えば、Stinchcomb et al.,(1979)Nature 282:39);Tschemper et al.,(1980)Gene 10:157;及びClarke et al.,(1983)Meth.Enz.101:300を参照のこと)。
【0253】
酵母ベクターの転写調節配列には、糖分解酵素合成のプロモーターが含まれる(Hess et al.,(1968)J.Adv.Enzyme Reg.7:149;Holland et al.,(1978)Biochemistry 17:4900)。当該技術分野で公知のさらなるプロモーターには、CDM8ベクターで提供されるCMVプロモーター(Toyama and Okayama,(1990)FEBS 268:217-221);3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzeman et al.,(1980)J.Biol.Chem.255:2073)のプロモーター、及び他の糖分解酵素のプロモーターが挙げられる。
【0254】
当該技術分野で公知の方法によってポリペプチドの発現を検出することができる。例えば、抗体、免疫グロブリンの抗原結合性断片またはBDMのいずれかと結合する抗体を使用して、クマシー染色SDS-PAGEゲル及び免疫ブロット法によって分子を検出することができる。タンパク質の回収は、標準のタンパク質精製手段、例えば、アフィニティクロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを使用して実施し、実質的に純粋な生成物を得ることができる(R.Scopes in: “Protein Purification,Principles and Practice”,Therd edition、Springer-Verlag(1994))。
【0255】
本開示は、本開示の多重特異性分子を作製する方法も提供し、その方法は、
(i)タンパク質(例えば、抗体)及びBDMをコードするポリヌクレオチドを含むベクター(複数可)を提供し、
(ii)かかるベクターを用いて哺乳類宿主細胞(例えば、CHO)を形質転換し、
(iii)ステップ(ii)の宿主細胞を、宿主細胞から培地中へのタンパク質分泌を促す条件下で培養し、かつ
(iv)ステップ(iii)の分泌タンパク質を回収する
というステッップを含む。
【0256】
一例では、方法は、
(i)多重特異性分子の重鎖をコードする第1のベクターを提供すること、
(ii)多重特異性分子の軽鎖をコードする第2のベクターを提供すること、及び
(iii)前記第1及び第2のベクターを用いて哺乳類宿主細胞(例えば、CHO)を形質転換すること
を含む。
【0257】
合成による作製
本開示のポリペプチドをコードする核酸は、クローニングによることに加えて、またはクローニングによってではなく、合成によって調製することができる。核酸は、ポリペプチド部分(例えば、免疫グロブリン及びBDM)のための適切なコドンを用いて設計することができる。一般に、配列を発現に使用するのであれば、ある意図する宿主に好ましいコドンが選択されるであろう。一般に、配列を発現に使用するのであれば、その意図する宿主に好ましいコドンが選択されるであろう。完全ポリヌクレオチドは、標準的方法で調製され、完全なコード配列に構築されている重複オリゴヌクレオチドから組み立てることができる。例えば、Edge,Nature,292:756(1981);Nambair et al.,Science,223:1299(1984);Jay et al.,J.Biol.Chem.,259:6311(1984)を参照のこと。
【0258】
タンパク質の単離
ポリペプチドを単離する方法は、当該技術分野で公知であり、及び/または本明細書に記載されている。
【0259】
ポリペプチドが培地中に分泌される場合、そのような発現系から得た上清は、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外ろ過ユニットなどを使用して、初めに濃縮することができる。タンパク質分解を阻害するため、上述ステップのいずれかにPMSFなどのプロテアーゼ阻害薬を含めてよく、また外来性汚染物の増殖を予防するため、抗生物質を含めてよい。別法または追加として、上清は、ポリペプチドを発現している細胞から、例えば連続遠心分離を使用して、ろ過及び/または分離が可能である。
【0260】
宿主細胞から調製されたポリペプチドは、例えば、イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー(例えば、タンパク質Aアフィニティクロマトグラフィーまたはタンパク質Gクロマトグラフィー)、または上述のものの任意の組み合わせを使用して、精製することができる。これらの方法は当該技術分野で公知であり、例えば、WO99/57134またはEd Harlow and David Lane(編集者ら)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)に記載されている。
【0261】
いくつかの例では、本開示のポリペプチドを異種のアミノ酸配列、例えば、シグナル配列または親和性タグなどに、生物学的活性(すなわち、その標的に対する結合性)に影響を与えずに融合させる。
【0262】
当業者は、精製または検出を容易にする親和性タグ、例えば、ポリヒスチジンタグ、例えば、ヘキサヒスチジンタグ、またはインフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)タグ、またはシミアンウイルス5(V5)タグ、またはFLAGタグ、またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグなどが含まれるようポリペプチドの修飾が可能であることも認識するであろう。その後、得られるポリペプチドを、当該技術分野で公知の方法、例えば、アフィニティ精製を使用して精製する。例えば、ヘキサ-hisタグを含むポリペプチドは、かかるポリペプチドを含む試料を、固体または半固体の支持体上に固定化したヘキサ-hisタグに特異的に結合するニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)と接触させ、その試料を洗浄して未結合タンパク質を除去し、その後、結合しているタンパク質を溶出させることによって精製される。
【0263】
薬理的に活性なタンパク質とBDMの結合
薬理的に活性なタンパク質またはペプチドと、少なくとも本開示によるBDMとの結合は、化学的結合(Brennan et al(1985)Science 229:81)または化学的カップリング(Shalaby et al(1992)J Exp Med 175:217-225)または遺伝子融合を使用して調製することができる。
【0264】
さらに、タンパク質(例えば、抗体)とBDM間の融合または結合は、従来の共有結合もしくはイオン結合、タンパク質融合、またはヘテロ二官能性クロスリンカー、例えば、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等によって達成され得る。単純に、タンパク質とBDMの間に所望量の空間を提供するだけの従来の不活性リンカー配列(例えば、ペプチドリンカー)を使用してもよい。そのようなリンカーの設計は当業者に周知であり、例えば、US8,580,922;US5,525,491;及びUS6,165,476に記載されている。
【0265】
タンパク質の共有結合による複合体化にはさまざまなカップリング剤または架橋剤を使用することができる。架橋剤の例としては、タンパク質A、カルボジイミド、N-スクシンイミジル-S-アセチル-チオアセタート(SATA)、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)、o-フェニレンジマレイミド(oPDM)、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、及びスルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸(スルホ-SMCC)(例えば、Karpovsky el al.(1984)J.Exp.Med 160 1686,Liu,MA et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82 8648を参照のこと)が挙げられる。他の方法には、Paulus(1985)Behring Ins Mitt No 78,1 18-132,Brennan et al.(1985)Science 229 81-83及びGlennie et al.(1987).J Immunol 39 2367-2375)に記載のものが挙げられる。
【0266】
リンカーにより、高い柔軟性の促進、及び/または任意の2タンパク質間の立体障害の低減が可能になる。リンカーは、天然由来のもの、例えば、タンパク質の2つのドメイン間のランダムコイルに存在するよう決定されている配列であり得る。例示的なリンカー配列は、RNAポリメラーゼアルファサブユニットのC末端ドメインとN末端ドメイン間に見られるリンカーである。天然に生じるリンカーの他の例としては、1CIタンパク質及びLexAタンパク質に見られるリンカーが挙げられる。
【0267】
リンカー内部では、アミノ酸配列は、経験的に決定されたかまたはモデリングにより明らかにされた好ましいリンカー特性に基づき異なり得る。リンカー選択時に考慮する点としては、リンカーの柔軟性、リンカーの電荷、及び天然に生じるサブユニットのリンカーの一部のアミノ酸の存在が挙げられる。リンカーは、リンカー内の残基がDNAと接触し、これにより結合親和性または特異性に影響を与えるかまたは他のタンパク質と相互作用するように設計することもできる。いくつかの場合には、特に、サブユニットの間が長い距離に及ぶことが必要な場合、またはドメインを特定の立体配置で保持しなければならない場合、リンカーは、任意選択で、折り畳まれたさらなるドメインを含有してよい。
【0268】
いくつかの例では、リンカーの設計は、リンカーが比較的短い距離、好ましくは、約10オングストローム(Å)未満に及ぶことが要求されるドメイン配置を行うことが好ましい。しかし、ある実施形態では、リンカーは、最高約50Åまたはそれ以上の距離に及ぶ。
【0269】
用語「ペプチドリンカー」は、タンパク質と多重特異性分子のポリペプチドのBDM部分とを接続または連結させる短いペプチド断片を指す。リンカーは好ましくは、ペプチド結合で互いに連結されているアミノ酸で構成される。例えば、ペプチドリンカーは、低分子アミノ酸残基または親水性アミノ酸残基(例えば、グリシン、セリン、スレオニン、プロリン、アスパラギン酸、アスパラギンなど)を含むことができる。例えば、ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、または約5~約100アミノ酸長、または約10~50アミノ酸長、もしくは約10~15アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0270】
一例では、リンカーは、グリシン及びアラニンなど、立体障害のないアミノ酸の大部分で構成される。したがって、さらなる例では、リンカーは、ポリグリシン、ポリアラニンまたはポリセリンである。
【0271】
当業者であれば、一般に使用される多くのペプチドリンカーを本開示の実施形態で使用してよいことを理解するであろう。ある実施形態では、短いペプチドリンカーは、リンカー長を延長する繰り返し単位を含んでよい。例えば、2回、3回または4回繰り返されるリンカーである。一例では、リンカーは、式(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)nを含むかまたは式(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly)n Serを含み、ここで、nは3~6の数である。
【0272】
一例では、リンカーは、配列SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)またはSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号17)を含むかまたは構成要素とする。
【0273】
非ペプチドリンカーも可能である。例えば、s=2~20である-NH-(CH2)s-C(O)-などのアルキルリンカーを使用することができるであろう。これらのアルキルリンカーは、低級アルキル(例えば、C1-C6)、低級アシル、ハロゲン(例えば、Cl、Br)、CN、NH2、フェニルなど、立体障害のない任意の基でさらに置換されてよい。例示的な非ペプチドリンカーは分子量が100~5000kD、好ましくは100~500kDのPEGリンカーである。
【0274】
使用に好適な他のリンカーの例としては、GSTVAAPS、TVAAPSGSまたはGSTVAAPSGSまたはそのようなリンカーの倍数体が挙げられる。他の例には、(TVSDVP)n(GS)mが挙げられ、ここで、n=1かつm=1であるか、またはn=2かつm=1であるか、またはn=2かつm=0である。
【0275】
別の例では、リンカーはGSである。
【0276】
ポリペプチド活性の評価
公知の方法に従ったさまざまな手段によって本開示のタンパク質(またはペプチド)及びBDM部分を評価することができる。そのような評価法には、機能解析、例えば、殺細胞アッセイ(cell killing assay)、cAMPもしくはカルシウムフラックスアッセイまたは結合アッセイ、例えば、ELISAまたは競合アッセイが含まれ得る。
【0277】
利用する機能解析の種類は、ポリペプチドのタンパク質またはペプチド及びBDM部分が結合する標的に依存するであろう。
【0278】
半減期アッセイを使用してもよい。そのような方法は当該技術分野で公知である。タンパク質の半減期測定に一般に使用される2つの方法は、放射性パルスチェイス解析及びシクロヘキシミドチェイス(Zhou P(2004)Methods Mol.Biol.284:67-77)である。
【0279】
結合親和性の測定
エピトープの結合は、ELISAのような従来の抗原結合アッセイ、FRETなど蛍光を利用する技術、または分子の質量を測定するする表面プラズモン共鳴のような技術によって測定することができる。抗原結合タンパク質(例えば、BDM)の抗原またはエピトープに対する特異的結合は、例えば、スキャッチャード解析及び/またはラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA及びサンドイッチ競合アッセイのような酵素免疫測定法といった競合結合アッセイを含む、好適なアッセイによって決定することができる。
【0280】
表面プラズモン共鳴法のような競合アッセイを使用して、特定の標的に結合するよう工学的に操作されたBDMが、そのように結合することができるか否かを決定できる。例として、BDMを幹細胞因子受容体(CSFRまたはc-kit受容体)に結合するよう工学的に操作し、BDMの天然リガンド(c-kit)の結合と競合する能力について試験することができる。修飾BDMが標的への結合を競合する能力の決定ならびに解離定数(KD)の決定を行うインビトロでの競合アッセイは当該技術分野で公知である。
【0281】
タンパク質またはポリペプチドのBDM部分と、各自の標的との相互作用の結合親和性または解離定数(KD)は、当該技術分野で公知の多数の方法により測定することができる。そのような方法としては、蛍光滴定、競合ELISA、熱量測定法、例えば等温滴定型熱量測定(ITC)及び表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはバイオレイヤー干渉法(例えば、Blitzシステム(ForteBio)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0282】
好ましい表面プラズモン共鳴法は当該技術分野で公知のBIAcoreである。
【0283】
ほとんどの結合部分はKD値が低マイクロモル(10-6)~ナノモル(10-7~10-9)の範囲である。高親和性結合部分は一般に、ピコモル10-12)範囲の親和性が非常に高い結合部分を有する低ナノモル範囲(10-9)であると考えられる。
【0284】
それぞれの部分とその標的間の複合体形成は、多くの異なる因子、例えば、それぞれの結合相手の濃度、競合相手の有無、使用する緩衝系のpH及びイオン強度、ならびにKD(例えば、蛍光滴定、競合ELISAまたは表面プラズモン共鳴)を決定するために使用する実験方法または実験データの評価に使用する数学アルゴリズムにより影響される。
【0285】
したがって、所与の標的に対する特定の免疫グロブリンまたはBDMの親和性決定に使用される方法と実験の設定に応じて、KD値が特定の実験範囲内で異なり得ることは当業者には明らかである。このことは、KD値を表面プラズモン共鳴(Biacore)、競合ELISAまたは「直接ELISA」のいずれの方法で決定したかによって、測定したKD値または許容範囲にわずかな偏差があり得ることを意味する。
【0286】
好ましい例では、表面プラズモン共鳴法を使用して、例えば、BIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を固定化した標的に使用してKD値を決定する。
【0287】
親和性は、無関係なアミノ酸配列に対するタンパク質またはBDMの親和性よりも、少なくとも1倍高い、少なくとも2倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも4倍高い、少なくとも5倍高い、少なくとも6倍高い、少なくとも7倍高い、少なくとも8倍高い、少なくとも9倍高い、少なくとも10倍高い、少なくとも20倍高い、少なくとも30倍高い、少なくとも40倍高い、少なくとも50倍高い、少なくとも60倍高い、少なくとも70倍高い、少なくとも80倍高い、少なくとも90倍高い、少なくとも100倍高い、または少なくとも1000倍高い、またはそれ以上であり得る。標的(例えば、タンパク質抗原)に対するタンパク質またはBDMの親和性は、例えば、約100ナノモル(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル(pM)、または約100nM~約1フェムトモル(fM)またはそれ以上であり得る。
【0288】
一例では、タンパク質は、KDで測定した親和性が約200nM以下、約100nM以下、約50nM以下、約25nM以下、約10nM以下、約5nM以下、約1nM以下または約0.5nM以下である。
【0289】
一例では、BDMは、KDで測定した親和性が約200nM以下、約100nM以下、約50nM以下、約25nM以下、10nM以下、約5nM以下、約1nM以下または約0.5nM以下である。
【0290】
バイオレイヤー干渉法は、インタラクトーム内の生体分子間相互作用を測定する、標識を用いない技術である。これは、バイオセンサー先端にある固定化されたタンパク質の層と、内部の参照層の2つの表面から反射される白色光の干渉パターンを解析する光学的分析手法である。バイオセンサー先端に結合する分子数に変化があると、干渉パターンにシフトが生じ、これをリアルタイムで測定することができる。
【0291】
バイオセンサー先端表面に固定化されたリガンドと、溶液中の分析対象物とが結合すると、バイオセンサー先端の光学的厚さが増加して波長シフトΔλが生じ、これが生物学的層の厚さの変化の直接的な測定値となる。相互作用をリアルタイムで測定し、結合特異性、会合と解離の速度、または濃度を精密かつ正確に監視することを可能にする。
【0292】
バイオセンサーに結合する分子またはバイオセンサーから解離する分子のみが干渉パターンをシフトさせ、反応プロファイルの作成を可能にする。未結合分子、周辺培地の屈折率の変化、または流速変化が干渉パターンに影響を及ぼすことはない。これはバイオレイヤー干渉法固有の特徴であり、タンパク質-タンパク質相互作用、定量、親和性、及び速度論についての用途で使用される粗試料で幅広く実施することができる。
【0293】
標的
本開示による標的は好ましくは抗原である。抗原は、タンパク質、グリカン、脂質、リポタンパク質または核酸から選択されてよい。タンパク質は、ヒトタンパク質、非ヒトタンパク質(例えば、霊長類、イヌ科、ネコ科など)、ウイルスタンパク質、酵母タンパク質、細菌タンパク質、藻類タンパク質、植物タンパク質または原生動物タンパク質であってよい。タンパク質は、可溶性タンパク質または膜結合型タンパク質であってよい。可溶性タンパク質の例には、転写因子、抗体、増殖因子、血液タンパク質(例えば、アルブミン)、または薬物(例えば、ステロイド、医薬品など)が挙げられるが、これに限定されるものではない。膜結合型タンパク質の種類には、増殖因子受容体、腫瘍マーカー、もしくは細胞内への輸送を媒介するマーカー(例えば、トランスフェリン)、またはFc受容体が含まれる。
【0294】
核酸標的は、DNA、RNAまたはDNAとRNAの組み合わせであってよい。
【0295】
より詳細には、標的は抗原上に存在するエピトープである。抗原は多数の特有のエピトープを含んでよく、その各々は、タンパク質(例えば、抗体)またはBDMによって認識されるであろうということを当業者は理解するであろう。
【0296】
本開示のポリペプチドは、異なる標的に結合することができる。一例では、異なる標的は2つまたは3つの異なる抗原である。それぞれの抗原は異なる細胞に存在してよい。別の例では、ポリペプチドは、同一抗原上の異なる2つまたは3つの標的(例えば、エピトープ)に結合してよい。好ましくは、タンパク質が結合する標的は、BDMが結合する標的とは異なる。
【0297】
本開示による「標的抗原」は、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、多糖類、グリカン、脂質、リポタンパク質または核酸であってよい。本開示による標的抗原は、分泌型または膜結合型のいずれでもよい。そのような抗原は、細菌、哺乳類(ヒト及び非ヒト)、真菌、藻類、原生動物の材料に由来してよい。タンパク質は、ヒトタンパク質、非ヒトタンパク質(例えば、霊長類、イヌ科、ネコ科など)、ウイルスタンパク質、酵母タンパク質、細菌タンパク質、藻類タンパク質、植物タンパク質または原生動物タンパク質であってよい。
【0298】
同一である「第1の標的抗原」、「第2の標的抗原」等への言及は、薬理的に活性なタンパク質及び少なくとも1つのBDM部分は同一の抗原に結合するが、その抗原上に存在する異なるエピトープに結合し得ることを意味すると理解されるであろう。
【0299】
異なっている「第1の標的抗原」、「第2の標的抗原」等への言及は、薬理的に活性なタンパク質部分及び少なくとも1つのBDM部分は、異なる細胞上に存在する異なる抗原、したがって異なるエピトープに結合することを意味すると理解されるであろう。
【0300】
(i)細菌抗原
抗原は細菌に由来し得、それらとしてはHelicobacter pylori、Chlamydia pneumoniae、Chlamydia trachomatis、Ureaplasma urealyticum、Mycoplasma pneumoniae、Staphylococcus spp.、Staphylococcus aureus、Streptococcus spp.、Streptococcus pyogenes、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus viridans、Enterococcus faecalis、Neisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Bacillus anthracis、Salmonella spp.、Salmonella typhi、Vibrio cholera、Pasteurella pestis、Pseudomonas aeruginosa、Campylobacter spp.、Campylobacter jejuni、Clostridium spp.、Clostridium difficile、Mycobacterium spp.、Mycobacterium tuberculosis、Treponema spp.、Borrelia spp.、Borrelia burgdorferi、Leptospira spp.、Hemophilus ducreyi、Corynebacterium diphtheria、Bordetella pertussis、Bordetella parapertussis、Bordetella bronchiseptica、hemophilus influenza、Escherichia coli、Shigella spp.、Erlichia spp.、及びRickettsia sppが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0301】
(ii)ウイルス抗原
抗原はウイルスに由来し得、それらとしてはインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、アデノウイルス、呼吸器多核体ウイルス、エプスタイン-バーウイスル、ライノウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス(ヒト及び動物)、単純ヘルペスウイルス、パルボウイルス(ヒト及び動物)、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ブニヤウイルス、狂犬病ウイルス、アレナウイルス、フィロウイルス、HIV1、HIV2、HTLV-1、HTLV-II、FeLV、ウシLV、FeIV、イヌジステンパーウイルス、イヌ伝染性肝炎ウイルス、ネコカリシウイルス、ネコ鼻気管炎ウイルス、TGEウイルス(ブタ)、及び口蹄疫が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0302】
(iii)腫瘍抗原
標的抗原は腫瘍関連抗原であってよい。そのような腫瘍関連抗原としては、MUC-1及びそのペプチド断片、タンパク質MZ2-E、多形性上皮ムチン、葉酸結合タンパク質LK26、MAGE-1またはMAGE-3及びそのペプチド断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)及びそのペプチド断片、癌胎児性抗原(CEA)及びそのペプチド断片、アルファフェトプロテイン(AFP)及びそのペプチド断片、膵癌胎児抗原及びそのペプチド断片、CA125、CA15-3、CA19-9、CA549、CA195及びそのペプチド断片、前立腺特異抗原(PSA)及びそのペプチド断片、前立腺特異的膜抗原(PSMA)及びそのペプチド断片、扁平上皮癌抗原(SCCA)及びそのペプチド断片、卵巣癌抗原(OCA)及びそのペプチド断片、膵癌関連抗原(PaA)及びそのペプチド断片、Her1/neu及びそのペプチド断片、gp-100及びそのペプチド断片、変異K-rasタンパク質及びそのペプチド断片、変異p53及びそのペプチド断片、非変異p53及びそのペプチド断片、切断型上皮増殖因子受容体(EGFR)、キメラタンパク質p210BCR-ABL、テロメラーゼ及びそのペプチド断片、サバイビン及びそのペプチド断片、Melan-A/MART-1タンパク質及びそのペプチド断片、WT1タンパク質及びペプチド断片、LMP2タンパク質及びペプチド断片、HPV E6 E7タンパク質及びペプチド断片、イディオタイプタンパク質及びペプチド断片、NY-ESO-1タンパク質及びペプチド断片、PAPタンパク質及びペプチド断片、癌・精巣タンパク質及びペプチド断片、及び5T4タンパク質及びペプチド断片が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0303】
(iv)他の哺乳類抗原
標的抗原は、心臓、血液系、肺、腸、胃、直腸、前立腺、甲状腺、肝臓または食道内に位置する細胞上に存在する抗原またはエピトープであってよい。標的抗原は、分泌タンパク質上に存在する抗原またはエピトープであってよい。分泌タンパク質の例には、ホルモン、酵素、毒素及び抗菌物質、ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。別法として、抗原またはエピトープは非膜結合型タンパク質上に存在する。
【0304】
選択的結合
一例では、分子は、多重特異性分子の異なる標的抗原のうち1つしか発現しない細胞よりも、その標的抗原の2つ以上を発現する細胞に選択的に結合することができる。
【0305】
そのような細胞選択性は、二重特異性または三重特異性分子の各部分(例えば、タンパク質またはBDM)の結合親和性を調節することによって達成することができるが、その際、個々の部分それぞれは、蛍光活性化細胞選別(FACS)または免疫蛍光標識または殺細胞を可能にするにはその標的に対する結合が不十分である、または細胞がその標的を発現するのは、二重特異性または三重特異性の分子と結合している他の標的が存在しない場合であるが、ここで、それらの弱く結合している各部分が組み合わさることで、二重特異性または三重特異性の分子に十分なアビディティを促し、そのような標的を1つしか発現していない細胞より、関連する標的分子を共発現している細胞と選択的に結合することができ、そのため、選択的なFACS選別、免疫蛍光標識または殺細胞が達成され得るようにすることができる。
【0306】
組成物
本開示の多重特異性分子は、薬理学的に許容される担体または添加物と組み合わせた場合に組成物として使用することができる。そのような医薬組成物は、対象の生体内投与にとって有用である。
【0307】
薬理学的に許容される担体は、投与を受けた患者に生理学的に許容され、投与に併用される分子の治療特性を保持する。薬理学的に許容される担体及びそれらの処方は、例えば、Remington’ pharmaceutical Sciences 18th edn.Ed.A Gennaro,Mack Publishing Co.,Easton PA 1990)に概説されている。一つの例示的担体は生理食塩水である。本明細書で使用する語句「薬理学的に許容される担体」は、投与部位である臓器または体の部分から、別の臓器、または体の部分までのポリペプチドの運搬または輸送を担う、液体もしくは固体の賦形剤、希釈剤、添加物、溶媒または封じ込め物質のような、薬理学的に許容される物質、組成物またはビヒクルを意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で許容されるものでなければならず、患者にとって有害であってはならない。
【0308】
薬理学的に許容される添加物には、保存剤または凍結保存剤が含まれ得る。
【0309】
医薬組成物は、全身投与または局所投与いずれでも、特定の投与経路と適合するよう製剤化することができる。
【0310】
一例では、本明細書に記載する組成物は、従来の薬理学的に許容される非毒性担体を含有する投与製剤にするか、または他の好都合な任意の剤形によって、経口投与、非経口投与、吸入用スプレーによる投与、吸着、吸収、局所投与、直腸内投与、経鼻投与、経頬側投与、経腟投与、脳室内投与、埋め込み型リザーバーを用いた投与が可能である。本明細書で使用する用語「非経口」には、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、及び頭蓋内への注射法または注入法が含まれる。
【0311】
対象への投与に好適な形態に分子を調製する方法(例えば、医薬組成物)は当該技術分野で公知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990)及び米国薬局方:National Formulary(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1984)に記載の方法が含まれる。
【0312】
本開示の医薬組成物は、静脈内投与または臓器もしくは関節の体腔もしくは内腔への投与のような非経口投与に特に有用である。投与用組成物は、一般に、薬理学的に許容される担体、例えば、水性キャリアに溶解させたポリペプチドの溶液を含むであろう。多種多様な水性キャリア、例えば、緩衝生理食塩水等を使用することができる。組成物は、必要に応じ生理的条件に近づけるため、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調節剤等、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等などの薬理学的に許容される助剤を含有してよい。これらの製剤中の本開示タンパク質濃度は大きく異なってよく、選択される特定の投与方法及び患者のニーズに従って主に液量、粘度、体重等に基づいて選択されるであろう。例示的な担体には、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクルを使用してもよい。リポソームを担体として使用してもよい。ビヒクルは等張性及び化学的安定性を高める少量の添加剤、例えば、緩衝剤、保存剤または添加剤を含有してよい。
【0313】
製剤化時、本開示のポリペプチドは、投与製剤と適合する方法、かつ治療上/予防上有効な量で投与されるであろう。製剤は、上記の注射液タイプのような多種多様な剤形で容易に投与されるが、他の薬理学的に許容される形態、例えば、錠剤、丸剤、カプセルもしくは経口投与用の他の固形剤、坐剤、ペッサリー、点鼻液もしくはスプレー、エアロゾル、吸入剤、リポソーム形態等もまた意図される。医薬「除放性」カプセルまたは組成物を使用してもよい。除放性製剤は、一般に、一定の薬物レベルを長期にわたり提供するよう設計されており、本開示の化合物を送達するために使用してよい。
【0314】
静脈内投与では、好適な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が含まれる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びその好適な混合物などを含有している溶媒または分散媒であり得る。流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散時の必要粒径の維持、及び界面活性剤の使用などにより維持することができる。抗菌薬及び抗真菌薬には、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸及びチメロサールが含まれる。等張化剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトールなど、及び塩化ナトリウムなどを組成物中に含めてよい。得られる溶液は、そのままの状態で使用するために包装するか、または凍結乾燥が可能で、凍結乾燥した調製物は、後で投与前に滅菌溶液と合わせることができる。
【0315】
薬理学的に許容される担体は、吸収またはクリアランスを安定化させる、高める、または遅延させる化合物を含有することができる。そのような化合物には、例えば、グルコース、スクロース、またはデキストランのような炭水化物;低分子量タンパク質;ペプチドのクリアランスまたは加水分解を低下させる組成物;または添加物もしくは他の安定化剤及び/または緩衝剤が含まれる。吸収を遅延させる薬剤には、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンが含まれる。リポソーム担体など医薬組成物の吸収の安定化または増減を図るために界面活性剤を使用することもできる。消化から保護するため、化合物を組成物と複合体化させて酸加水分解及び酵素加水分解に対して抵抗性をもたせることも、または化合物を適切な抵抗性のある担体、例えばリポソームなどに複合体化することも可能である。ポリペプチドを消化から保護する手段は当該技術分野で公知である(例えば、Fix(1996)Pharm Res.13:1760 1764;Samanen(1996)J.Pharm.Pharmacol.48:119 135;及び治療剤を経口送達するための脂質組成物を記載した米国特許第5,391,377号を参照のこと)。
【0316】
生物分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などを使用することができる。そのような製剤を調製する方法は当業者に公知である。材料は、Alza Corporation and Nova Pharmaceuticals,Inc.から市販されているものを入手することもできる。リポソーム懸濁液(抗体またはウイルスコートタンパク質を使用して細胞または組織に指向されたリポソームを含む)を薬理学的に許容される担体として使用することもできる。これらは、当該技術分野で公知の方法、例えば、米国特許第4,235,871号;第4,501,728号;第4,522,811号;第4,837,028号;第6,110,490号;第6,096,716号;第5,283,185号;第5,279,833号;Akimaru(1995)Cytokines Mol.Ther.1:197 210;Alving(1995)Immunol.Rev.145:5 31;及びSzoka(1980)Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467)に記載の方法に従って調製することができる。生物分解性のミクロ粒子もしくはカプセルまたはペプチドなど低分子を持続的に送達可能な他の生物分解性ポリマー構成は当該技術分野で公知である(例えば、Putney(1998)Nat.Biotechnol.16:153 157を参照のこと)。
【0317】
本開示の分子をミセル内部に組み込むことができる(例えば、Suntres(1994)J.Pharm.Pharmacol.46:23 28;Woodle(1992)Pharm.Res.9:260 265を参照のこと)。分子は、脂質の単層または二重層の表面に結合され得る。例えば、分子を、ヒドラジド-PEG-(ジステアロイルホスファチジル)エタノールアミン含有リポソームに結合させることができる(例えば、Zalipsky(1995)Bioconjug.Chem.6:705 708を参照のこと)。別法として、任意の形態の脂質膜、例えば、脂質平面膜または無傷細胞の細胞膜、例えば赤血球などを使用することができる。リポソーム製剤及び脂質含有製剤は、例えば、静脈内、経皮吸収(例えば、Vutla(1996)J.Pharm.Sci.85:5 8を参照のこと)、経粘膜、または経口投与など、あらゆる手段により送達可能である。
【0318】
本開示の組成物は、本明細書で提供するように、他の治療用部分または造影用/診断用部分と組み合わせることができる。治療用部分及び/または造影用部分は、別々の組成物として、または複合体部分として提供され得る。リンカーは、必要に応じて複合体化部分に含めることができ、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0319】
本明細書に開示する分子をイムノリポソームとして製剤化してよい。ポリペプチドを含有するリポソームは、当該技術分野で公知の方法、例えば、Epstein et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980);及び米国特許第4,485,045号及び第4,544,545号に記載の方法などによって調製される。循環時間の長いリポソームは米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0320】
インビボ投与用の製剤は無菌である。滅菌は、滅菌ろ過膜によるろ過を介して容易に達成することができる。
【0321】
本開示の組成物は、他の治療剤、例えば、化学療法薬などと共に投与可能である。化学療法薬は当該技術分野で公知であり、細胞傷害性薬物及び細胞増殖抑制剤が含まれる。非限定的例としては、パクリタキセル、シスプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、フルダラビン等が挙げられる。治療すべき状態に応じて他の治療剤が意図される。
【0322】
本開示の一実施形態では、障害治療用の医薬品を製造するため、本開示の任意の医薬組成物の使用が意図される。医薬品は、対象における障害治療の指示に関する適切なラベルの付いた好適な医薬包装体に包装され得る。
【0323】
標識及び検出
本開示は、薬剤で標識した本明細書に記載の分子を提供する。一例では、薬剤は造影用/検出用部分である。別の例では、薬剤は治療用部分である。ポリペプチドを標識する方法は当業者に馴染みがあるであろう。
【0324】
「標識」または「標識化した」という用語により、タンパク質(例えば、抗体)またはBDMに検出可能な物質を結合(すなわち、物理的連結)させることによる前記タンパク質またはBDMの直接標識、ならびに直接標識した別の試薬との反応性による間接標識を包含するものとする。かかる用語には共有結合または非共有結合いずれの結合も含まれる。
【0325】
一例では、毒素、放射性核種、鉄関連化合物、染料、造影剤もしくは蛍光標識または化学療法薬を用いて分子を標識化することができる。
【0326】
別法として、分子は、検出可能標識、例えば、放射性核種、鉄関連化合物、染料、造影剤もしくは標的抗原の免疫学的検出用蛍光物質などを用いて標識化することができる。
【0327】
放射性標識体の非限定的な例には、例えば、32P、33P、43K、52Fe、57Co、64Cu、67Ga、67Cu、68Ga、71Ge、75Br、76Br、77Br、77As、81Rb/81MKr、87MSr、90Y、97Ru、99Tc、100Pd、101Rh、103Pb、105Rh、109Pd、111Ag、111In、113In、119Sb、121Sn、123I、125I、127Cs、128Ba、129Cs、131I、131Cs、143Pr、153Sm、161Tb、166Ho、169Eu、177Lu、186Re、188Re、189Re、191Os、193Pt、194Ir、197Hg、199Au、203Pb、211At、212Pb、212Bi及び213Biが含まれる。
【0328】
放射性複合体タンパク質の作製にはさまざまな放射性核種が利用可能である。例としては、13C、15N、2H、125I、123I、99Tc、43K、52Fe、67Ga、68Ga、111In等などの低エネルギー放射性核(例えば、診断用に好適)が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えば、放射性核種は、投与から撮像部位局在までの時間経過後に作用または検出を可能にする好適な半減期を有するガンマ線、光子、または陽電子を放出する放射性核種である。本開示はまた、125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Re及び188Reなどの高エネルギー放射性核(例えば、治療用)も包含する。これらの同位体は、典型的に、飛程の短い、高エネルギーのα粒子またはβ粒子を発生させる。そのような放射性核種は、それらが近接している細胞、例えば、複合体により結合または侵入された腫瘍性細胞を死滅させる。これらは非限局性細胞に対してはほとんど、または全く作用せず、本質的に非免疫原性である。別法として、高エネルギー同位体は、例えば、ホウ素中性子捕捉療法の場合のように、本来ならば安定な同位体に熱照射することにより生成され得る(Guan et al.,1998)。好適であり得る他の同位体は、Carter.(2001)Nature Reviews Cancer 1,118-129,Goldmacher et al.(2011)Therapeutic Delivery 2;397-416,Payne(2003)Cancer Cell 3,207-212,Schrama et al,(2006)Nature Rev.Drug Discov.5,147-159,Reichert et al.(2007)Nature Reviews Drug Discovery 6;349-356に記載されている。
【0329】
毒素には、細胞にとって有害な(例えば、死滅させる)任意の薬剤が含まれる。抗体と免疫毒素との複合体調製に関連するさらなる技術は、例えば、US5,194,594で提供されており、本開示で利用されてよい。毒素の非限定的な例には、例えば、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、momordica charantia阻害因子、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害因子、ゲロニン、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセン、クロストリジウム-パーフリンジェンスホスホリパーゼC(PLC)、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ(BPR)、抗ウイルスタンパク質(PAP)、アブリン、コブラ毒因子(CVF)、ゲロニン(GEL)、サポリン(SAP)ビスクミン(viscumin)が含まれる。
【0330】
鉄関連化合物の非限定的な例には、例えば、磁性酸化鉄粒子、第二鉄または第一鉄の粒子、Fe203及びFe304が含まれる。ポリペプチド、タンパク質及びペプチドを標識する鉄関連化合物及び方法は、例えば、米国特許第4,101,435号及び第4,452,773号、ならびに米国公開出願第20020064502号及び第20020136693号に見出すことができ、それらはすべて参照によりその全体が本明細書により組み込まれる。
【0331】
特定の例では、分子を細胞毒素または他の細胞増殖阻害化合物に標識化して、その薬剤の腫瘍細胞への送達位置を特定することができる。例えば、薬剤は、薬剤、酵素阻害剤、増殖阻害剤、溶解剤、DNAまたはRNA合成阻害剤、膜透過性修飾物質、DNA代謝物、ジクロロエチルスルフィド誘導体、タンパク生成阻害剤、リボソーム阻害剤、アポトーシス誘導物質、及び神経毒で構成される群からから選択され得る。
【0332】
一例では、本明細書に記載する分子は、検出及び/または単離を容易にする1つ以上の検出可能マーカーを含む。例えば、ポリペプチドは、例えば、フルオレセイン(FITC)、5,6-カルボキシメチルフルオレセイン、Texas red、ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル(NBD)、クマリン、ダンシルクロリド、ローダミン、4’-6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、及びシアニン色素のCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5及びCy7、フルオレセイン(5-カルボキシフルオレセイン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、ローダミン(5,6-テトラメチルローダミン)などの蛍光標識を含む。これらの蛍光色素では、吸収極大及び発光極大はそれぞれ、FITC(490nm;520nm)、Cy3(554nm;568nm)、Cy3.5(581nm;588nm)、Cy5(652nm:672nm)、Cy5.5(682nm;703nm)及びCy7(755nm;778nm)である。
【0333】
特定の例では、分子を、腫瘍画像診断において有用な薬剤と結合させることができる。そのような薬剤には、金属、金属キレート剤、ランタニド、ランタニドキレート剤、放射性金属、放射性金属キレート剤、陽電子放出核、マイクロバブル(超音波用)、リポソーム、リポソームまたはナノ粒子にマイクロカプセル化した分子、単結晶酸化鉄ナノ化合物、磁気共鳴画像法用造影剤、吸光剤、反射剤及び/または散乱剤、コロイド粒子、近赤外蛍光団などの蛍光団が含まれる。多くの例では、そのような二次機能性/部分は、比較的大きくなり、例えば、少なくとも25amuの大きさとなり、多くの場合、少なくとも50amu、100amuまたは250amuの大きさであり得る。特定の例では、二次機能性は、金属をキレートするためのキレート部分、例えば、放射性金属イオンまたは常磁性イオンに対するキレート剤である。さらなる例では、二次機能性は、放射線治療または画像法に有用な、放射性核種に対するキレート剤である。
【0334】
別法または追加として、分子は、例えば、磁性もしくは常磁性化合物、例えば、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、希土類物質、ネオジミウム-鉄-ホウ素、第一鉄-クロミウム-コバルト、ニッケル-第一鉄、コバルト-白金、またはストロンチウムフェライトなどを用いて標識化されてよい。
【0335】
別の例では、分子を「受容体」(ストレプトアビジンなど)と複合体化させ、細胞の事前標的化(pretargeting)において利用し、その場合、かかる複合体を患者に投与した後、消失剤(clearing agent)を使用して未結合の複合体を循環から除去し、次いで、治療剤(例えば、放射性ヌクレオチド)と複合体化させた「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。
【0336】
例示的な治療剤としては、抗血管新生薬、抗血管新生及び/または他の血管新生薬、抗増殖剤、アポトーシス促進剤、化学療法薬、抗有糸分裂剤(例えば、抗有糸分裂剤アウリスタチン、(Angew.Chem.Int.Ed.2014,53,1-6によるMMAF/MMAE)または治療用核酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0337】
本明細書の薬剤として有用な化学療法薬には、細胞傷害性及び細胞増殖抑制性の薬物が含まれる。化学療法薬には、細胞に対し他の作用を及ぼす、例えば形質転換された状態から分化状態へと逆転させるものなど、または細胞複製を阻害するものが含まれ得る。本発明において有用な公知の細胞傷害性薬剤の例は、例えば、Goodman et al.,“The Pharmacological Basis of Therapeutics,” Sixth Edition,A.B.Gilman et al.,eds./Macmillan Publishing Co.New York,1980に掲載されている。これらには、パクリタキセル及びドセタキセルなどのタキサン系;メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタード及びクロラムブシルなどの窒素;チオテパなどのエチレンイミン誘導体;ブスルファンなどのアルキルスルホン酸系;ロムスチン、セムスチン及びストレプトゾシンなどのニトロソ尿素系;ダカルバジンなどのトリアゼン系;メトトレキサートなどの葉酸類似体;フルオロウラシル、シタラビン及びアザリビンなどのピリミジン類似体;メルカプトプリン及びチオグアニンなどのプリン類似体;ビンブラスチン及びビンクリスチンなどのビンカアルカロイド;ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びマイトマイシンなどの抗生物質;酵素、シスプラチンなどの白金配位錯体;ヒドロキシウレアなどの尿素置換体;プロカルバジンなどのメチルヒドラジン誘導体;ミトタンなどの副腎皮質抑制剤;コルチコステロイド(プレドニゾン)、プロゲスチン(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸塩及び酢酸メゲストロール)、エストロゲン(ジエチルスチルベストロール及びエチニルエストラジオール)、及びアンドロゲン(プロピオン酸テストステロン及びフルオキシメステロン)などのホルモン及びアンタゴニストが含まれる。
【0338】
一例では、本明細書に記載する多重特異性分子を別のタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミンまたはHSA)とさらに複合体化または連結させる。別の例では、非抗体タンパク質はHSAである。
【0339】
分子を治療剤またはリポソーム(例えば、薬物含有リポソーム)と複合体化または連結させてよい。
【0340】
タンパク質合成を妨害する薬物を使用してもよく、そのような薬物は当業者に公知であり、ピューロマイシン、シクロヘキシミド、及びリボヌクレアーゼが挙げられる。
【0341】
さらに、他の標識、例えば、ビオチン、それに続くストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(AP)、西洋わさびペルオキシダーゼなどが本開示により意図される。
【0342】
当該技術分野で公知であり、容易に入手可能なさらなる非タンパク質性部分を含有するよう本開示の分子を修飾することができる。例えば、タンパク質の誘導体化に好適な部分は、生理学的に許容されるポリマー、例えば、水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはポリプロピレングリコール(PPG)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0343】
使用
一例では、アフィニティ精製または、タンパク質(またはペプチド)及び/またはBDMが結合するエピトープを担持している所望抗原の検出に本開示の分子を使用することができる。
【0344】
本開示は、ポリペプチドのタンパク質及びBDM部分のいずれか、または両方が結合する標的を検出する方法も提供する。そのような方法には、例えば、上記のような検出可能な標識の使用を利用してよい。一例では、結合した標的がタンパク質またはBDMのいずれが結合したものなのかを確認するため、タンパク質及びBDMに異なるラベルを用いることが可能であろう。
【0345】
タンパク質もしくはペプチド及び/またはBDMに結合する標的(例えば、タンパク質)が試料に含有されているか否かの決定には、さまざまなフォーマットを利用することができる。そのようなフォーマットの例には、酵素免疫測定法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット法及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0346】
一フォーマットでは、ウエスタンブロット法または免疫蛍光抗体法などの方法にポリペプチドを使用して標的を検出することができる。
【0347】
タンパク質(またはペプチド)またはBDMが結合するポリペプチドもしくは標的抗原を固体支持体に固定化してよい。別法として、多重特異性分子を固体支持体に結合させてよい。好適な固相支持体または担体には、抗原(すなわち、標的)または免疫グロブリンまたはBDMと結合できる、いかなる支持体も含まれる。周知の支持体または担体としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロース及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩、ならびに磁鉄鉱が挙げられる。当業者は、タンパク質、BDMまたは標的抗原と結合させるための好適な担体を他にも多く知ることであろうし、そのような支持体を本開示を用いた使用に合わせて適応させることができるであろう。例えば、標的タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動で走らせて、ニトロセルロースなどの固相支持体上に固定化することができる。その後、支持体を好適な緩衝液で洗浄した後、検出可能に標識化したポリペプチドで処理することができる。次いで、固相支持体に2度目のバッファー洗浄を行って未結合ポリペプチドを除去することができる。その後、従来の手段によって、固体支持体に結合した標識の量を検出することができる。
【0348】
一例では、本開示の分子を医薬品として使用することができる。
【0349】
本開示の多重特異性分子の利点
非抗体タンパク質に関しては、そのようなタンパク質にBDMを付加することにより、タンパク質の安定性、循環時間及び/または生物学的活性の増加が促され得る。例えば、第VIII因子タンパク質を、ヒト血清アルブミンに結合するVLDと結合させて、かかるタンパク質の半減期を延長させることができる。これは、血友病に罹患した対象にとって、投与頻度の減少という点で明らかに利点となる。
【0350】
抗体に関しては、本開示による分子により、二重特異性抗体を用いる治療薬に対する利点が提供される。抗体、例えば、治療効果の不十分な抗体の1つ以上の特徴を改善する簡便かつ効率的な方法は、特定の治療標的に結合する1つ以上の単一結合ドメイン分子(BDM)を、対象標的に対して特異的な抗体または免疫グロブリン抗原結合性断片に結合させることである。
【0351】
この二重特異性による方法の利点は、簡便かつ高効率の二重特異性抗体が作製されること;かかる方法はあらゆる抗体配列に適用可能であること;親抗体に、その本来の結合部位と特異性が保持されること;親抗体にそのアビディティが保持されること;親抗体にその本来の構造と機能が保持され、かつ選択用途について、抗体によるエフェクター機能が保持されること;血清中半減期など抗体の薬物動態が保持されること;二重特異性生成物は、既存のIgG作製工程、例えば、製造、精製、製剤化及び標準的IgG作製工程に基づく他のあらゆる工程にシームレスに組み込まれることである。
【0352】
選択用途では、抗体Fab断片を用いる二重特異性分子はまた、その分子量が小さいこと、血流中で半減期が短いこと、及び全抗体に比べて分子量と結合部位の比が改善されていることから望ましいものとなろう。
【0353】
一例として、従来より全抗体で処理されてきた毒性物質の中和は、より有効にFabで処理することができる。抗体の分子量(150kDa)は、毒性物質(典型的に1kDa未満)と比べて比較的大きいため、化学量論的に毒素に結合するためには大量の抗体が必要となる。本明細書に記載する二重特異性または三重特異性のFabは、二重特異性または三重特異性の分子により複数の結合部位が提供されるため、低用量での使用が可能である。抗体に対してサイズが小さいFabでは、毒性物質-Fab複合体の腎臓を介したすばやい排泄が見られる。やはり、Fabを用いた二重特異性分子を作製する効率的かつ簡便な方法は、特定の標的に結合するBDMを、対象標的に対して特異的な既存のFabに結合させることである。
【0354】
キット
本開示は、本明細書に記載する多重特異性分子を、使用説明書と共に含むキットも提供する。組成物が凍結乾燥されている場合、キットには、調製物を再構成するさらなる溶液調製物が含有され得る。指示書きは、「印刷物」、例えば、キット内に入っているかまたはキットに添付の紙もしくは厚紙に記されている、またはキットもしくは包装材料に貼付のラベルに記されている、またはキットの構成成分を含有するバイアルもしくは管に貼付されていてよい。
【0355】
さらに、キットには、本明細書で提供される任意の他の部分、例えば、化学療法薬がさらに含まれ得る。
【0356】
キットにはさらに、本明細書で提供するアッセイ用、例えば、ELISAアッセイ用の構成成分が含まれ得る。
【0357】
キットには、例えば、製品概要、投与方法及び治療適応などを明記したラベルがさらに含まれてよい。ラベルまたは添付文書には、適切な文書による指示事項が含まれ得る。
【0358】
本開示の広義の一般的範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に対し多数の変形及び/または修正を行ってよいことは当業者には理解されるであろう。したがって、本願実施形態は、あらゆる点で、例示的なものであって限定的なものではないとみなされるべきである。
【実施例0359】
実施例1 二重特異性及び三重特異性の抗体分子の作製
i)ベクター作製
CTLA-4 BDMの遺伝子構築とクローニングは標準的で、十分な記載のある技術、さらには先に記載されているUS7,166,697に従った。CTLA-4 BDMはライブラリー(Geneart)から得た。結合ループ領域に相当するDNA配列中に異なる置換を含有させる目的で、縮重オリゴヌクレオチド合成を使用して遺伝子ライブラリー1696327を構築した。
【0360】
これらの例で使用するCTLA-4配列は、天然配列PEPCPDSDGSTGがPEPSPDSNで置き換えられる、天然配列のC末端修飾を含む。これらの配列にはC末端のCys残基が含有されていないため、BDMは単量体形態のままでいることができる。
【0361】
B7-1結合CTLA-4 V様ドメイン配列と融合させた抗リゾチームIgG1重鎖配列をコードする核酸構成体(D1.3 IgG-VLD×2(HC)と表す)、及びB7-1結合V様ドメイン配列と融合させた抗リゾチームIgGカッパ軽鎖配列をコードする核酸構成体(D1.3 IgG-VLD×2(LC)と表す)を作製した。VLDを、Gly-Serリンカー配列を介して抗体の重鎖(H)または軽鎖(L)のそれぞれと結合させた。すべてのDNA構成体を、制限酵素による分析及びDNAシークエンシングによって検証し、標準的な十分に理解されている技術によって組換えタンパク質の発現について試験した。
これらの構成体の配列を下記に示す。抗原結合性ループは該当箇所に下線が引かれている:
B7-1結合V様ドメイン(VLD)の配列(配列番号13)
【表7】
VLDの結合ループには下線が引かれている。
リンカー配列(配列番号16)
【表8】
リンカー配列(配列番号17)
【表9】
抗体-VLD融合体に使用する抗リゾチームIgG1重鎖配列(配列番号18)
【表10】
リンカーによってB7-1結合VLDに結合させた抗リゾチームIgG1重鎖の配列(D1.3 IgG-VLDx2(HC))(配列番号19)
【表11】
VLDの結合ループには下線が引かれている。
抗リゾチームIgGカッパ軽鎖(配列番号20)
【表12】
21アミノ酸Gly-Serリンカーを有するB7-1結合VLDと結合させた抗リゾチームIgGカッパ軽鎖(D1.3 IgG-VLD×2(LC)と表す)(配列番号21)
【表13】
VLDの結合ループには下線が引かれている。
21アミノ酸Gly-Serリンカーを有するB7.1結合VLDと結合させた抗リゾチームFabカッパ軽鎖(D1.3 Fab-VLD×1(LC)と表す(配列番号22)
【表14】
VLDの結合ループには下線が引かれている。
21アミノ酸Gly-Serリンカーを有するB7.1結合VLDと結合させた抗リゾチームFab重鎖(D1.3 Fab-VLD×1(HC)と表す(配列番号23)
【表15】
VLDの結合ループには下線が引かれている。
抗リゾチームFab重鎖(C末端にHis
6タグとmycタグを有する)(配列番号24)
【表16】
【0362】
ii)二重特異性分子及び三重特異性分子の作製
抗体-VLD配列またはFab-VLD配列をコードする個々の重鎖及び軽鎖を発現ベクターpcDNA3.4(Thermo Fisher)にクローニングした。E.coli細胞(Agilent Technologies製Electro Ten Blue)にベクターの作製/増幅を行った。
【0363】
本開示による二重特異性及び三重特異性の分子の概略図を、抗体-VLD分子については
図2~4に、またFab-VLD分子については
図5~7に例として示す。
【0364】
図2は、標的特異的VLD(例えば、標的Bに結合)と、抗リゾチームIgG1抗体重鎖の各重鎖定常領域(CH3)配列の末端とを結合させることによって創製した一例に従う、抗体-VLD二重特異性分子[D1.3 IgG-VLD×2(HC)]の概略図を示す。抗体分子は、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を介して標的Aに結合し、重鎖のVLDを介して標的Bに結合する。
【0365】
図3は、標的特異的VLD(例えば、標的Bに結合)と、抗リゾチームIgG1抗体軽鎖の各軽鎖定常領域(CL)配列の末端とを結合させることによって創製した一例に従う、抗体-VLD二重特異性分子[D1.3 IgG-VLD×2(LC)]の概略図を示す。分子は、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を介して標的Aに結合し、軽鎖のVLDを介して標的Bに結合する。
【0366】
図4は、標的特異的VLD(例えば、標的Bに結合)と、重鎖及び軽鎖の両方とを結合させることによって創製した一例に従う、抗体-VLD三重特異性分子D1.3 IgG-VLD×4(LC+HC)の概略図を示し、この場合、VLDは末端のCL配列に結合され、末端の重鎖CH3配列にも結合されている。分子は、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を介して標的Aに結合し、軽鎖のVLDを介して標的Bに結合し、標的Bが結合するVLDと同一または異なるVLDを介して標的Cに結合する。三重特異性分子は、標的A、B及びCに個々別々または同時または標的3つの組み合わせで(例えば、標的AとBまたは標的AとCまたは標的BとC)結合することができる。
【0367】
図5は、本開示の一例に従った二重特異性Fab-VLD分子(D1.3 Fab-VLD×1(HC))の概略図を示す。この概略図では、標的特異的VLD(例えば、この例ではVLDは標的Bに対して特異的である)と、標的Aに結合するFab(例えば、この例ではFabは標的Aに対して特異的である)の定常領域(CH1)配列の末端とを融合させることによって二重特異性を創製する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【0368】
図6は、本開示の一例に従った二重特異性Fab-VLD分子(D1.3 Fab-VLD×1(LC))の概略図を示す。この概略図では、標的特異的VLD(例えば、この例ではVLDは標的Bに対して特異的である)と、標的Aに結合するFab(例えば、この例ではFabは標的Aに対して特異的である)のCL配列の末端とを融合させることによって二重特異性を創製する。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【0369】
図7は、本開示に従った三重特異性Fab-VLD分子(D1.3 Fab-VLD×2(LC+HC))の概略図を示す。この概略図では、標的特異的VLD(例えば、この例ではVLDは標的Bに対して特異的である)と、Fab CL配列の末端とを融合させること、及び第2の標的に特異的なVLD(例えば、この例ではVLDは標的Cに対して特異的である)と、標的Aに結合するFab CH3配列(例えば、この例ではFabは標的Aに対して特異的である)の末端とを融合させることによって三重特異的を創製する。三重特異性分子は、標的A及び標的B及び標的Cに対し、個々別々または同時または標的3つの組み合わせで(例えば、標的AとBまたは標的AとCまたは標的BとC)結合することができる。
【0370】
電気穿孔法用コンピテント細胞株(例えば、ElectroTen-Blue細胞、Stratageneカタログ番号200159)を使用し2ngのDNAを使用する標準的な技術に従ってベクターによる細菌の形質転換を実施した。
【0371】
ベクター増幅後、Qiagen HiSpeed Plasmid Maxi Kit(カタログ番号12663)またはQiafilter Plasmid Mega Kit(カタログ番号12281)を使用してDNAを抽出し、調製した。ヌクレアーゼを含まない精製水にDNAを溶出させた。
【0372】
iii)タンパク質発現用哺乳類細胞へのDNAトランスフェクション
Expi293 Expression System(ThermoFisher Scientific)を使用して、約2×106Expi293細胞/mLのトランスフェクション(哺乳類細胞生存率95%超)を実施した。二重特異性または三重特異性のDNAベクターをHC DNA:LC DNA比1:3で調製した。DNAを65℃まで5分間加熱し、室温まで降温させてからOpti-MEM I(Life Technologiesカタログ番号31985070)及びExpiFectamine293試薬(ThermoFisherカタログ番号A14525)を加え、室温で30分間インキュベートした。トランスフェクション複合体を細胞に加え、37℃、5%CO2、120rpmでインキュベートした。約4~5日後、タンパク質を含有している上清を採取した。
【0373】
抗体-VLD及びFab-VLDの親抗リゾチームD1.3抗体、Expi293発現系を使用したトランスフェクションから得られた二重特異性変異型及び三重特異性変異型のタンパク質発現レベルを測定したものをそれぞれ表1及び表2に示す。抗体またはFabはリゾチームに結合し、VLDはB7.1に結合する。
表1 二重特異性及び三重特異性の抗体-VLD変異型におけるタンパク質発現レベル
【表17】
表2 二重特異性及び三重特異性のFab-VLD変異型におけるタンパク質発現レベル
【表18】
【0374】
iv)精製
二重特異性分子及び三重特異性分子の精製にはProsepA精製を使用した。カラム容量の5倍のPBS/Tris(2mM Tris、pH8)を用いてProsepAカラムの平衡化を行った。二重特異性分子をpH8で含有しているトランスフェクトされた細胞の上清をカラムに担持させ、PBS、2mM Tris、pH8をカラム容量の10倍用いてカラムを洗浄した。0.1Mグリシン(pH3)でタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質画分を1M Tris、pH8で約pH7に中和し、標準的方法に従って透析を行った。
【0375】
変異型のタンパク質発現レベルをSDS PAGEにより決定した。アフィニティクロマトグラフィーにより精製した30mlの発現培養物から各値を得た(図示せず)。
【0376】
実施例2 Fab分子の発現
親D1.3 Fab、及び最適化していない標準Expi293発現系で発現させた親D1.3 Fabの二重特異性変異型と三重特異性変異型の発現を、非還元条件下及び還元条件下でSDS PAGEによって分析した。アフィニティクロマトグラフィーにより精製した30mlの発現培養物から各値を得た。親FabはD1.3 Fabであり、二重特異性型はD1.3 Fabと、D1.3 FabのCH配列の末端に融合させたVLDとを合わせたD1.3 Fab-VLD×1(HC)、及びD1.3 Fabと、D1.3 FabのCL配列の末端に融合させたVLDとを合わせたD1.3 Fab-VLD×1(CL)である。三重特異性分子は、D1.3 Fabと、D1.3 FabのCH配列及びCL配列の両方の末端に融合させた各VLDとを合わせたD1.3 Fab-VLD×2(HC+LC)である。非還元条件下の結果を
図8に示す。還元条件下の結果を
図9に示す。解析から、適切な重鎖と軽鎖の融合体は予測した大きさの範囲であったことが指された。
【0377】
実施例3 二重特異性分子及び三重特異性分子の結合評価
標準の化学と試薬を使用し、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用して、精製した二重特異性分子及び三重特異性分子の結合特性の特徴付けを行った。
【0378】
アフィニティクロマトグラフィーで精製した抗体、抗体-VLD二重特異性分子及び抗体-VLD三重特異性分子を市販のリゾチーム(Sigma Aldrichカタログ番号L4919)及びB7-1-Fc(R&D Systemsカタログ番号140-B1)と共に使用した。ストレプトアビジン捕捉表面(SA Sensor ForteBioカタログ番号18-5019、またはSensor Chip SA、GE カタログ番号BR-1000-32)を使用してビオチン標識化リゾチームを捕捉した。抗体、抗体-VLD二重特異性分子及び抗体-VLD三重特異性分子を、バイオセンサー表面に捕捉された標的に通し、結合のセンサーグラムを作成した(すなわち、第1の特異性)。この同じ標的に対し、解離段階にある時に、B7-1-Fcを、すでに結合済みの抗体、抗体-VLD二重特異性分子及び抗体-VLD三重特異性分子(すなわち、第2の特異性)に通し、第2の結合相互作用を実証した。
【0379】
図10は、二重特異性分子[IgG VLD×2(HC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いて、B7.1-Fcに対し二次結合したことを示す、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した予備分析を示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]重鎖と結合させたB7-1結合VLDを有する。トレース1は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース2は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、抗体の定数重鎖(CH)鎖に結合させたVLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(HC)]のセンサーグラムである。二重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース4は、抗体のCH鎖に結合させたVLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(HC)]のセンサーグラムである。二重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。
【0380】
図11は、二重特異性分子[IgG VLD×2(LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いてB7-1-Fcに対し二次結合したことを示す、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した予備分析を示す。二重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]軽鎖と結合させたB7-1結合VLDを有する。トレース1は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース2は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、抗体の軽鎖定常領域(CL)に結合させたVLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)]のセンサーグラムである。二重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース4は、抗体CL鎖と結合させたVLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)]のセンサーグラムである。二重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。
【0381】
図12は、三重特異性[IgG VLD×4(HC+LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いてB7-1-Fcに二次結合したことを示す、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した予備分析を示す。三重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖及び軽鎖の両方に結合させた各B7-1結合VLDを有する。トレース1は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース2は、二重特異性の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]のセンサーグラムである。抗体が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、抗体のCH及びCL鎖に結合させたVLDを有する三重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[三重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×4(HCLC)]のセンサーグラムである。三重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。トレース4は、抗体のCH鎖及びCL鎖に結合させたVLDを有する三重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[三重特異性分子-D1.3 IgG-Im×4(HC+LC)]のセンサーグラムである。三重特異性分子が、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後、ポイント1にてB7-1-Fcを加えられた場合を示す。ポイント2にてB7-1-Fcをバッファーで置き換えた。
【0382】
図13は、三重特異性分子が二重特異性分子より結合性が高いことを示す、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した予備分析を示す。図は、三重特異性分子が二重特異性分子よりもB7-1-Fcに対する結合レベルが高いことを実証している。抗体数が同等の二重特異性分子及び三重特異性分子を、バイオセンサー表面に結合させたビオチン標識化リゾチームに捕捉した後、バッファーまたはB7-1-Fcを加えた(ポイント1)ところ、三重特異性分子は二重特異性分子より高い結合能を示した。トレース1は、二重特異性分子及び三重特異性分子の構築に使用したD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]である。ポイント1にてバッファーのみを注入し、結合した抗体が示されている。トレース2はD1.3抗リゾチーム抗体[D1.3 IgG]であり、ポイント1にてB7-1-Fcを注入した場合が示されている。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース3は、抗体CL鎖と融合させた各VLDを有する二重特異性D1.3抗リゾチーム抗体[二重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×2(LC)]である。捕捉された二重特異性分子が、ポイント1にて注入したB7-1-Fcに結合したことを示している。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。トレース4は、抗体のCH鎖及びCL鎖と融合させた各VLDを有する三重特異性D1.3抗リゾチーム抗体である[三重特異性分子-D1.3 IgG-VLD×4(HCLC)]。捕捉された二重特異性分子が、ポイント1にて注入したB7-1-Fcに結合したことを示している。ポイント2にて、B7-1-Fcをバッファーで置き換えた。
【0383】
実施例4 表面プラズモン共鳴(SPR)で決定したB7.1-Fcに対する分子の結合親和性
本項での結合分析は、標準の化学と試薬を使用してBiacore X100SPR装置(GE)で実施した。濃度系列トレースは、重ね合わせて表示し、全データとも、リゾチームを含有していなかった参照用表面からの応答を差し引いた後の応答ユニット(RU)として提示されている。
【0384】
図14は、二重特異性[IgG VLD×2(HC))]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)に二次結合することをSPR分析によって決定し、各濃度系列のSPRによる結合センサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、
図2に例示するように、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
二重特異性分子の注入:これは、センサー表面にIgG VLD×2(HC)を加えるポイントである。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するIgG VLD×2(HC)の結合を示す。
バッファーの注入1:IgG VLD×2(HC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイントである。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのIgG VLD×2(HC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0uμg/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのIgG VLD×2(HC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのIgG VLD×2(HC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0385】
図15は、二重特異性分子[IgG VLD×2(LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μug/ml)に二次結合することをSPR分析によって決定し、各濃度系列のSPRによる結合センサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、
図3に例示するように、D1.3抗体[D1.3 IgG]の軽鎖と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
二重特異性分子の注入:センサー表面にIgG VLD×2(LC)を加えるポイントである。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するIgG VLD×2(LC)の結合を示す。
バッファーの注入1:IgG VLD×2(LC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのIgG VLD×2(LC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのIgG VLD×2(LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのIgG VLD×2(LC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0386】
図16は、三重特異性[IgG VLD×4(HC+LC)]がストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)に二次結合することをSPR分析によって決定し、各濃度系列のSPRによる結合センサーグラムを重ね合わせたものを示す。三重特異性分子は、
図4に例示するように、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
三重特異性分子の注入:センサー表面にIgG VLD×4(HC+LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するIgG Im×4(HCLC)の結合を示す。
バッファーの注入1:IgG VLD×4(HC+LC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのIgG VLD×4(HC+LC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのIgG VLD×4(HC+LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのIgG VLD×4(HC+LC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0387】
表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、精製したFab、Fab-VLD二重特異性分子及び三重特異性分子の結合特性の特徴付けも行った。
【0388】
図17は、二重特異性[Fab-VLD×1(HC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0ug/ml)に二次結合することを示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、
図5に例示するように、D1.3 Fab[D1.3 Fab]重鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
二重特異性分子の注入:センサー表面にFab-VLD×1(HC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するFab-VLD×1(HC)の結合を示す。
バッファーの注入1:Fab-VLD×1(HC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのFab-VLD×1(HC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0ug/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのFab-VLD×1(HC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのFab-VLD×1(HC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0389】
図18は、二重特異性[Fab-VLD×1(LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0ug/ml)に二次結合することを示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。二重特異性分子は、
図6に例示されるように、D1.3 Fab[D1.3 Fab]軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
二重特異性分子の注入:センサー表面にFab-VLD×1(LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するFab-VLD×1(LC)の結合を示す。
バッファーの注入1:Fab-VLD×1(LC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのFab-VLD×1(LC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0ug/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのFab-VLD×1(LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのFab-VLD×1(LC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0390】
図19は、三重特異性[Fab-VLD×2(HC+LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、続いてある濃度系列のB7-1-Fc(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)に二次結合することを示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。三重特異性分子は、
図7に例示するように、D1.3 Fab[D1.3 Fab]の重鎖及び軽鎖の両方と融合させた各B7-1結合VLDを有する。
三重特異性分子の注入:センサー表面にFab-VLD×2(HC+LC)を加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームに対するFab-VLD×2(HC+LC)の結合を示す。
バッファーの注入1:Fab-VLD×2(HC+LC)の注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームからのFab-VLD×2(HC+LC)の解離を示す。
B7-1-Fcの注入:第2の分析対象物B7-1-Fcを特定の濃度(25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)で加えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームにまだ結合したままのFab-VLD×2(HC+LC)に対するB7-1-Fcの結合を示す。
バッファーの注入2:B7-1-Fcの注入を中止し、バッファー注入で置き換えるポイント。トレースは、バイオセンサー表面に固定化したリゾチームとまだ結合したままのFab-VLD×2(HC+LC)からのB7-1-Fcの解離を示す。
【0391】
実施例5 分子の結合化学量論
B7-1-Fcに対する二重特異性分子[IgG VLD×2(HC)]及び三重特異性分子[IgG Im×4(HC+LC)]の結合化学量論もSPRにより決定した(
図20)。ビオチン-リゾチーム表面で捕捉し、分析対象物として一連の濃度のB7-1-Fc(50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0μg/ml)を用いて、IgG-VLD×2(HC)、IgG-VLD×2(LC)及びIgG-VLD×4(HCLC)の速度論的解析を実施した。分析対象物及びリガンドの分子量を考慮し、捕捉したIgG-VLDタンパク質量に基づいて、分析対象物の理論的最大結合シグナル(Rmax)を計算した。
【0392】
すべての試料の化学量論を1:1と仮定し、各濃度について、リガンドに対する分析対象物の結合レベルをRmax値のパーセンテージとしてプロットした。分析対象物濃度が25μg/mlに上昇すると、結合レベルは飽和レベルまたは平衡レベルに近づいた。4価タンパク質IgG-VLD×4(HC+LC)の平衡結合レベル(Rmax:103.9%)は、二価タンパク質IgG-VLD×2(HC)(56.7%)及びIgG-VLD×2(LC)(51.4%)の約2倍であった。このことは、IgG-VLD×4(HC+LC)が、重鎖及び軽鎖と融合させたVLDドメインを同時に介してB7.1-Fcと結合できることを示唆する。
【0393】
二重特異性[Fab-VLD×1(HC)]、[Fab-VLD×1(LC)]及び[Fab-VLD×2(HC+LC)のB7-1-Fcに対する結合化学量論を
図21に示す。結果は、Fab-VLD×2(HC+LC)が、重鎖及び軽鎖と融合させたVLDドメインを同時に介してB7.1と結合できることを示唆している。
【0394】
実施例6 B7.1-Fcに対する分子の結合親和性
抗体-VLDの二重特異性分子と三重特異性分子及びFab-VLDの二重特異性分子と三重特異性分子の結合速度論を表面プラズモン共鳴により決定した。会合定数(Ka)、解離定数(Kd)及び平衡解離定数/結合定数K
Dをそれぞれ表3及び表4に示す。
表3 B7.1-Fcに対する抗体-VLD分子の親和性
【表19】
【0395】
結果は、B7-1-Fcに対し、三重特異性分子IgG VLD×4(HC+LC)の結合親和性と二重特異性分子IgG VLD×2(HC)の結合親和性は比較可能であることを実証している。
表4 B7.1-Fcに対するFab-VLD分子の親和性
【表20】
【0396】
結果は、B7-1-Fcに対し、三重特異性分子Fab VLD×4(HC+LC)の結合親和性と二重特異性分子Fab VLD×1(HC)の結合親和性は比較可能であることを実証している。
【0397】
実施例7 三重特異的結合の分析
IgG VLD×4(HCLC)構成体の修飾を行い、ここでは、スクレロスチン(Scl)結合VLDを抗リゾチーム抗体D1.3の重鎖のC末端と結合させ、B7-1結合VLDを抗リゾチーム抗体の抗体軽鎖定常領域(CL)と結合させた。この三重特異性分子を[IgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)]とした。抗スクレロスチンVLD「1E1」と融合させた抗リゾチームIgG1重鎖の配列を下記に示す(配列番号25):
【0398】
【表21】
抗スクレロスチンVLDの配列を下記に示す:
【表22】
(配列番号14)
配列番号25及び配列番号14のVLD結合ループには下線が引かれている。
【0399】
リゾチーム、B7-1及びスクレロスチンの同時三重結合について分析するため、Biacore X100SPR装置(GE)で分析を実施した。先にフローセル2でビオチン化リゾチームを捕捉させておいた(約200RU)ストレプトアビジンセンサーチップ表面に抗体-Imunexinタンパク質を35μg/mlで注入した。抗体-Imunexinタンパク質を注入し、その後、安定化時間を置いた。第1の分析対象物B7.1-Fcを濃度25μg/mlで注入した。B7.1-Fcの代わりにバッファーのみを注入した対照サイクルを実施した。次いで、第2の分析対象物スクレロスチン(R&D Systemsカタログ番号1406-ST/CF)を15μg/mlで速やかに60秒間注入し、120秒の解離時間を設けた。スクレロスチンの代わりにバッファーのみを注入した対照サイクルを実施した。
【0400】
pH2.1のグリシンバッファー10mMを30秒注入して表面の再生を行った。
【0401】
全データとも、リゾチームを含有していなかった参照用表面(フローセル1)からの応答を差し引いた後の応答ユニット(RU)として提示されている。
【0402】
(a)完全長抗体構成体の三重特異的結合の分析
図22は、三重特異性[IgG VLD×4(Scl-HC)(B7-LC)]が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、続いてB7-1-Fc及びスクレロスチンに対し同時結合することを示す、一連のSPRによる結合のセンサーグラムを重ね合わせたものを示す。三重特異性分子は、D1.3抗体[D1.3 IgG]の重鎖と融合させたスクレロスチン結合VLD及び軽鎖と融合させたB7-1結合VLDを有する。
【0403】
B7-1-Fcのみのトレースは、三重特異性分子がバイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてB7-1-Fcを加えられた場合を示すセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合が示されている。
【0404】
スクレロスチンのみのトレースは、三重特異性分子がバイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、続いてスクレロスチンを加えられた場合を示すセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びスクレロスチンに対する二重標的同時結合が示される。
【0405】
B7-1-Fc及びスクレロスチンのトレースは、三重特異性分子がバイオセンサー表面に固定化したリゾチームに結合し、その後B7-1-Fcを加えられ、次いでスクレロスチンを加えられ場合が示されているセンサーグラムである。センサーグラムにより、リゾチーム及びB7-1-Fc及びスクレロスチンに対する三重標的同時結合が示されている。
【0406】
図22に示すように、SPRによってB7-1及びスクレロスチンに対する分子の結合を調べた。結果から、三重特異性分子はB7-1とスクレロスチンの両方に同時結合することができることがわかる。
【0407】
(b)Fab構成体の三重特異的結合の分析
Fab VLD×2(HC+LC)構成体の修飾を行い、ここでは、B7-1結合VLDを抗リゾチームFab D3.1の重鎖のC末端と結合させ、スクレロスチン(Scl)結合VLDを抗リゾチームFabのFab軽鎖定常領域(CL)と結合させた。この三重特異性分子を[Fab VLD×2(B7-1-HC)(Scl-LC)]とした。第2の構成体の作製を行い、ここでは、スクレロスチン結合VLDを抗リゾチームFab D3.1の重鎖のC末端と結合させ、B7-1結合VLDを抗リゾチームFabのFab軽鎖定常領域(CL)と結合させた。この三重特異性分子を、[Fab VLD×2(Scl-HC)(B7-1-LC)]とした。
【0408】
図23は、三重特異性Fab VLD×2(B7-1-HC)(Scl-LC)の結合分析を示し、
図24は、三重特異性Fab VLD×2(Scl-HC)(B7-1-LC)の結合分析を示す。ForteBio Blitzを使用して結合分析を実施した。結合トレースは、三重特異性分子(Fab VLD×2(B7-HC)(Scl-LC)(
図23)及びFab VLD×2(Scl-HC)(B7-1-LC)(
図24))が、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化リゾチームに最初に結合し、その後B7-1-Fc及びスクレロスチンに対して順に同時結合することを示す。バイオセンサートレースは、三重特異性分子が、最初にバイオセンサー表面に固定化したリゾチーム結合し、その後、B7-1-Fcに結合することを示す(指定ポイントにてB7-1-Fcを加えた)。結合トレースは、リゾチーム及びB7-1-Fcに対する二重標的同時結合を示す。続いて、指定ポイントにてスクレロスチンを加え、そのバイオセンサートレースは、Fab VLD×2(B7-1-HC)(Scl-LC)及びFab VLD×2(Scl-HC)(B7-1-LC)両分子とも、リゾチーム及びB7-1-Fc及びスクレロスチンに対し三重標的同時結合することを示している。最後に、スクレロスチンをバッファーに置き換え、解離速度を示す。
【0409】
実施例8 ヒト血清アルブミン-VLD融合タンパク質の作製
方法
図25は、本開示の一例に従ったVLDと結合させたタンパク質の概略図を示す。二重特異性分子は、標的Aと標的Bの両方に個々別々または同時に結合することができる。
【0410】
ベクター作製
1つまたは2つのVLDと融合させたヒト血清アルブミン(HSA)をコードする配列を作製し、これには、16アミノ酸のリンカー配列(SGGGGSGGGGSGGGGS)(強調表示)及びC末端ヒスチジンタグが含まれる。配列を哺乳類の発現ベクターにクローニングした。使用したベクターpcDNA3.4ベクター(Thermo Fisher)であった。タンパク質が分泌されるようシグナルペプチドを用いて配列をクローニングした。ペプチドの配列はMAWMMLLLGLLAYGSG(配列番号8)である。
【0411】
電気穿孔法用コンピテント細胞(例えば、ElectroTen-Blue細胞、Stratageneカタログ番号200159)を使用して標準的技術に従いベクターによる細菌の形質転換を実施した。
【0412】
ベクター増幅後、Qiagen HiSpeed Plasmid Maxi Kit(カタログ番号12663)またはPromega PureYield(商標)Plasmid Midiprep System(カタログ番号A2492)を使用してプラスミドDNAを抽出し、調製した。ヌクレアーゼを含まない精製水にDNAを溶出させた。
【0413】
トランスフェクション
Expi293 Expression System(ThermoFisher Scientificカタログ番号A14635)を使用して、密度3×106~5×106細胞/mL、生存率>95%のExpi293哺乳類細胞のトランスフェクションを実施した。Opti-MEM I Reduced Serum Medium(Life Technologiesカタログ番号31985070)及びExpiFectamine293試薬(ThermoFisherカタログ番号A14525)にDNAベクターを加え、室温で20分間インキュベートした。トランスフェクション複合体を細胞に加え、37℃、5%CO2、120rpmでインキュベートした。20時間後、細胞にExpifectamine 293 Transfection Enhancer 1及び2(ThermoFisherカタログ番号A14525)を加えた。約4~5日後、タンパク質を含有している上清を採取した。
【0414】
精製
Nickel Sepharose Excel(GE、カタログ番号17-3712-01)を使用してアフィニティクロマトグラフィーによりタンパク質を精製した。20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、ph7.4をカラム容量の5倍用いてNickel Sepharoseカラムの平衡化を行った。Hisタグの付いたHSA-VLDタンパク質を含有している、トランスフェクトした細胞培養上清をカラムに担持させ、20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、5mMイミダゾール、ph7.4をカラム容量の10倍用いてカラムを洗浄した。20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、500mMイミダゾールph7.4を用いてタンパク質を溶出させた。溶出させた画分をプールし、標準的な方法に従ってPBSで透析を行った。
【0415】
図26は、抗His HRP(Sigma Aldrich、カタログ番号11965085001)を用いて行った、精製したHSA融合タンパク質のウエスタンブロット解析と検出を示し、かかるタンパク質は、HSAのC末端、N末端、またはC末端とN末端の両方と融合させたVLDを含む。タンパク質それぞれの推定サイズは、67kDa(予測サイズ:81.9kDa);69.3kDa(予測サイズ:81.8kDa);及び94.4kDa(予測サイズ:96.2kDa)である。
【0416】
結合の評価
標準の化学と試薬を使用し、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用して、精製した分子の結合特性の特徴付けを行った。
【0417】
市販のB7.2-Fcタンパク質(R&D Systems、カタログ番号141-B2)、CD3(Acrobiosystems、カタログ番号CDD-H52W3)、及びビオチン化抗HSAアフィボディー(Abcam、カタログ番号31898)を用いてアフィニティ精製した分子を試験した。
【0418】
EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin(ThermoFisher、カタログ番号21327)を標準的方法に従って使用し、CD3及びB7.2Fcタンパク質をモル比1:1でビオチン化した。
【0419】
ビオチン標識化タンパク質の捕捉にはストレプトアビジン捕捉表面(SA Sensor、ForteBioカタログ番号18-5019)を使用した。HSA-VLD分子を、バイオセンサー表面に捕捉された標的に通し、結合のセンサーグラムを作成した。
【0420】
図27は、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化B7.2-Fcに対するHSA-VLD分子の結合を実証している。トレース1は、C末端に結合しているB7結合VLDを有するHSA-VLD融合タンパク質のセンサーグラムである。トレース2は、N末端とC末端の両方に結合しているB7結合VLDを有するVLD-HSA-VLD融合タンパク質のセンサーグラムである。分子が、バイオセンサー表面に固定化されたB7.2-Fcに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。
【0421】
図28は、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化CD3デルタ/イプシロン(de)ヘテロダイマーに対するHSA-VLD分子の結合を実証している。図示トレースは、C末端に結合させたCD3結合VLDを有するHSA-VLD融合タンパク質のセンサーグラムである。分子が、バイオセンサー表面に固定化されたCD3deに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。
【0422】
図29は、ForteBio Blitzバイオセンサーを使用した分析を示し、ストレプトアビジンで捕捉したビオチン標識化抗HSAアフィボディーに対するHSA-VLD分子の結合を実証している。図示トレースは、C末端に結合させたB7結合VLDを有するHSA-VLD融合タンパク質のセンサーグラムである。分子が、バイオセンサー表面に固定化された抗HSAアフィボディーに結合し、その後、ポイント1にてバッファーを加えられた場合を示す。ポイント2にて、センサー表面に捕捉された分子にB7.2Fcタンパク質を結合させた。その後、ポイント3にてB7.2Fcをバッファーで置き換えた。
結果
(i)HSAのC末端、N末端またはC末端とN末端の両方のいずれかでヒト血清アルブミンと融合させたCTLA4 VLD。
配列を下記に示す:
HSAのC末端と融合させたB7-2結合VLD(配列番号26):
【表23】
HSAのN末端と融合させたB7-1結合VLD(配列番号27):
【表24】
HSAのN末端とC末端の両方と融合させたB7-2結合VLD(配列番号28):
【表25】
(ii)ヒト血清アルブミンのC末端と融合させたCD3結合VLD(AF3と呼ぶ)
配列は下記に示す:
HSAのC末端と融合させたCD3結合VLD「AF3」(配列番号29):
【表26】
前記少なくとも1つのBDMと前記薬理的に活性なタンパク質もしくはペプチドとの結合は、リンカー手段、直接融合、複合体化、または共有結合もしくは非共有結合によるものである、請求項1に記載の分子。
前記分子は、前記個々のBDM及び前記分子の薬理学的に活性なタンパク質部分によって認識される2つ以上の異なる標的抗原または標的エピトープを発現する細胞に選択的に結合し、前記標的抗原または標的エピトープの1つのみを発現する細胞には結合しない、先行請求項1~14のいずれか1項に記載の分子。