(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026559
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】電気回路遮断装置
(51)【国際特許分類】
H01H 39/00 20060101AFI20240220BHJP
B60L 3/04 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01H39/00 C
B60L3/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220504
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2020023839の分割
【原出願日】2020-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】藤原 友秀
(57)【要約】
【課題】作動時に発生したアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供する。
【解決手段】ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に形成された筒状空間に配置された発射体であって、点火器から受けるエネルギーにより筒状空間を移動可能に形成された発射体と、ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が筒状空間を横切るように配置された導体片と、筒状空間のうち、点火器の作動前において被切除部を挟んで発射体とは反対側に位置し、発射体によって切除された被切除部を受けるための消弧領域と、消弧領域に配置された、繊維状のクーラント材と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに設けられた点火器と、
前記ハウジング内に形成された筒状空間に配置された発射体であって、前記点火器から受けるエネルギーにより前記筒状空間を移動可能に形成された発射体と、
前記ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に前記発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記筒状空間を横切るように配置された導体片と、
前記筒状空間のうち、前記点火器の作動前において前記被切除部を挟んで前記発射体とは反対側に位置する消弧領域と、
前記消弧領域に配置された、繊維状のクーラント材と、
を備え、
前記クーラント材は、前記発射体が前記被切除部を切除した際に生じたアークの熱エネルギーを奪うための冷却材である、
電気回路遮断装置。
【請求項2】
前記クーラント材は金属繊維材料によって形成されている、請求項1に記載の電気回路遮断装置。
【請求項3】
前記クーラント材はスチールウールによって形成されている、請求項2に記載の電気回路遮断装置。
【請求項4】
前記消弧領域は、前記点火器の作動前において前記筒状空間を横切るように配置された前記被切除部と隣接する第1消弧領域と、前記第1消弧領域を挟んで前記被切除部とは反対側に位置すると共に前記第1消弧領域と連なる第2消弧領域と、を含み、
前記第1消弧領域の横断面方向における幅寸法が前記被切除部の横断面方向における幅寸法に対応し、前記第2消弧領域の横断面積が前記第1消弧領域の横断面積よりも大きい、
請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路には、その電気回路を構成する機器の異常時や、該電気回路が搭載されたシステムの異常時に作動することによって該電気回路での導通を緊急に遮断する遮断装置が設けられる場合がある。その一態様として、点火器等から付与されるエネルギーによって発射体を高速で移動させて、電気回路の一部を形成する導体片を強制的に且つ物理的に切断する電気回路遮断装置が提案されている(例えば、特許文献1乃至6等を参照)。また、近年では、高電圧の電源を搭載する電気自動車に適用される電気回路遮断装置の重要性が益々高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2017-517134号公報
【特許文献2】特開2019-212612号公報
【特許文献3】特開平08-279327号公報
【特許文献4】特開2019-29152号公報
【特許文献5】特開2019-36481号公報
【特許文献6】特開2019-53907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気回路遮断装置において、電気回路の一部を形成する導体片を切断した際にアークが発生し易いのが実情である。アークが発生してしまうと電気回路を迅速に遮断することができないため、電気回路遮断装置においては発生したアークを迅速に消弧することが要求される。
【0005】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作動時に発生したアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示では、電気回路遮断装置のハウジング内に形成されると共に導体片における被切除部を受けるための消弧領域に繊維状のクーラント材を配置するようにした。
【0007】
より詳しくは、本開示に係る電気回路遮断装置は、ハウジングに設けられた点火器と、前記ハウジング内に形成された筒状空間に配置された発射体であって、前記点火器から受けるエネルギーにより前記筒状空間を移動可能に形成された発射体と、前記ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に前記発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記筒状空間を横切るように配置された導体片と、前記筒状空間のうち、前記点火器の作動前において前記被切除部を挟んで前記発射体とは反対側に位置し、前記発射体によって切除された前記被切除部を受けるための消弧領域と、前記消弧領域に配置された、繊維状のクーラント材と、を備える。
【0008】
ここで、前記クーラント材は金属繊維材料によって形成されていても良い。また、前記クーラント材はスチールウールによって形成されていても良い。
【0009】
また、前記消弧領域は、前記点火器の作動前において前記筒状空間を横切るように配置された前記被切除部と隣接する第1消弧領域と、前記第1消弧領域を挟んで前記被切除部とは反対側に位置すると共に前記第1消弧領域と連なる第2消弧領域と、を含み、前記第1消弧領域の横断面方向における幅寸法が前記被切除部の横断面方向における幅寸法に対応し、前記第2消弧領域の横断面積が前記第1消弧領域の横断面積よりも大きくても良い。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、作動時に発生したアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、遮断装置の内部構造を説明する図である。
【
図6】
図6は、遮断装置に導体片を設置した状態における小径空洞部と導体片との平面的な位置関係を説明する図である。
【
図7】
図7は、遮断装置の内部構造を説明する図である。
【
図8】
図8は、遮断装置における点火器の作動後の状態を示す図である。
【
図9】
図9は、電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。
【
図10】
図10は、電気回路遮断試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る電気回路遮断装置について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0013】
<実施形態1>
図1は、電気回路遮断装置(以下、単に「遮断装置」という)1の斜視図である。
図2は、遮断装置1の高さ方向(後述する筒状空間13が延在する方向)に沿った内部構造を説明する図である。遮断装置1は、自動車や家庭電化製品等に含まれる電気回路や、当該電気回路のバッテリー(例えば、リチウムイオンバッテリー)を含むシステムの異常時に、電気回路を遮断することで大きな被害を未然に防止するための装置である。本明細書においては、遮断装置1の高さ方向(後述する筒状空間13が延在する方向)に沿った断面を遮断装置1の縦断面といい、縦断面に直交する方向の断面を遮断装置1の横断面という。また、
図2は、遮断装置1の作動前の状態を示している。
【0014】
遮断装置1は、ハウジング10、点火器20、発射体40、導体片50等を含んでいる。
図3は、ハウジング10の分解図である。ハウジング10は、第1端部11から第2端部12の方向に延在する筒状空間13を有している。この筒状空間13は、後述する発射体40が移動可能なように直線状に形成された空間である。そして、遮断装置1における第1端部11側には点火器20が設けられている。点火器20は、点火薬を含む点火部21と、点火部21に接続された導電ピン23を含む点火器本体22を有する。点火器本体22は、絶縁樹脂によって包囲されている。また、点火器本体22における導電ピン23は外部に露出しており、遮断装置1の使用時に電源と接続される。
【0015】
ハウジング10は、ハウジング本体100と、当該ハウジング本体100の上部に取り付けられたシリンダー30を含む。つまり、ハウジング本体100およびシリンダー30を含んで遮断装置1の外殻が形成されている。
【0016】
図1に示す例では、ハウジング本体100は、全体で概略直方体形状を有しており、上段側から上蓋ハウジング部110、中央ハウジング部120、底蓋ハウジング部130を有している。但し、ハウジング本体100の形状は特に限定されない。また、ハウジング本体100は、例えば公知の固定具を用いて上蓋ハウジング部110と中央ハウジング部120、中央ハウジング部120と底蓋ハウジング部130がそれぞれ固定されることで一体となっている。
【0017】
中央ハウジング部120は、合成樹脂等といった絶縁部材によって形成されている。例えば、ポリアミド合成樹脂の一種であるナイロンによって中央ハウジング部120が形成されていても良い。また、中央ハウジング部120は、概略角柱形状を有している。
【0018】
中央ハウジング部120は、中央ハウジング部120の上端面120Aから下端面120Bに渡り空洞部121が上下方向に沿って貫通形成されている。空洞部121は、中央ハウジング部120の上端面120A側に配置された小径空洞部121Aと、中央ハウジング部120の下端面120B側に配置された大径空洞部121Bを含んでいる。小径空洞部121Aおよび大径空洞部121Bは共に円形横断面を有する円柱状の空洞部であり、小径空洞部121Aの直径が大径空洞部121Bの直径よりも小さい。また、小径空洞部121Aおよび大径空洞部121Bは同軸に配置されている。更に、中央ハウジング部120には、導体片50を挿通するための一対の導体片挿通部124が中央ハウジング部120を横断面方向に貫通するように設けられている。
【0019】
本実施形態における底蓋ハウジング部130は、例えば外形が中央ハウジング部120に対応する四角形を有する平板部材である。また、
図3に示す例において、底蓋ハウジング部130は2層構造となっている。より具体的には、底蓋ハウジング部130は、中央ハウジング部120側に面する内装部131と、外部に面する外装部132とが一体的に接合された積層構造となっている。
【0020】
底蓋ハウジング部130の内装部131は、中央ハウジング部120と同様、合成樹脂等といった絶縁部材によって形成されている。内装部131も、中央ハウジング部120と同様、ポリアミド合成樹脂の一種であるナイロンによって形成されていても良い。また、底蓋ハウジング部130における外装部132は強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成されている。但し、底蓋ハウジング部130の上記態様は例示的なものである。例えば、底蓋ハウジング部130の全体が絶縁部材によって形成されていても良い。
【0021】
上蓋ハウジング部110は、例えば外形が中央ハウジング部120に対応する四角形を有する部材である。
図3に示すように、上蓋ハウジング部110における横断面中央側には、上端110Aから下端110Bに渡って、シリンダー30を圧入するための空洞部111が上下方向に沿って貫通形成されている。上蓋ハウジング部110は、底蓋ハウジング部130における外装部132と同様、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成されている。上蓋ハウジング部110の空洞部111は、上蓋ハウジング部110の上端110A側に配置された小径空洞部111Aと、上蓋ハウジング部110の下端110B側に配置された大径空洞部111Bを含んでいる。小径空洞部111Aおよび大径空洞部111Bは共に円形横断面を有する空洞部であり、小径空洞部111Aの直径が大径空洞部111Bの直径よりも小さい。また、上蓋
ハウジング部110における小径空洞部111Aと大径空洞部111Bは同軸に配置されている。更に、小径空洞部111Aと大径空洞部111Bの境界部には、これらの直径差に起因して上蓋ハウジング部110の横断面方向に沿って延在する段差面112が形成されている。
【0022】
次に、シリンダー30の詳細について説明する。シリンダー30は、段付き円筒形状を有する筒部材であり、上端側と下端側は共に開口端として形成されている。シリンダー30は、上蓋ハウジング部110等と同様、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成されている。
【0023】
シリンダー30についてより詳しく説明すると、シリンダー30は上端側に配置された小径部31、下端側に配置された大径部32、これらを接続する段差部33を含んでいる。小径部31および大径部32は概略円筒形状を有し、小径部31の直径は大径部32の直径よりも小さい。シリンダー30における小径部31および大径部32は、上下方向に伸びる中心軸が同軸に配置されており、段差部33はシリンダー30の横断面方向(径方向)に沿って延在している。また、符号33Aは、段差部33の内壁面である。
【0024】
図3に示す符号31Aは小径部31の内周面である。
図2に示すように、シリンダー30の小径部31には、例えば、内周面31Aに点火器20が圧入されることによって、点火器20が小径部31に対して固定されている。更に、シリンダー30における小径部31の上端側は、例えば径方向内側に向けて折り曲げ成形されており、これによって上端側鍔部34が小径部31の上端側に形成されている。上端側鍔部34の縁部は円環形状を有しており、その内側に開口部35が形成されている。
【0025】
ここで、
図2に示すように、点火器20における点火器本体22は、シリンダー30の小径部31に収容された円柱状の本体部221と、開口部35を通じてシリンダー30(ハウジング10)の外部に露出したコネクタ部222を有する。点火器20における本体部221は、シリンダー30の小径部31における内周面31Aに圧入されることで、内周面31Aに固定されている。より詳しくは、点火器20における本体部221は、上下方向における中間部の外径が他所に比べて一回り小さく形成されており、この外径差に起因して環状凹部としての括れ部223が形成されている。本体部221の括れ部223には、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂からなるOリング224が嵌め込まれており、これによって、シリンダー30における内周面31Aと点火器20における本体部221との間の気密性が高められている。また、点火器20におけるコネクタ部222は、
図1に示されるように導電ピン23の側方を覆う円筒形状を有し、電源側のコネクタと接続できるようになっている。
【0026】
次に、シリンダー30の大径部32の詳細について説明する。
図3に示す符号32Aは、大径部32の内周面である。
図2に示すように、シリンダー30の大径部32の内側には、発射体40のピストン部410が内周面32Aに沿って摺動自在に配置される。また、
図2および
図3に示すように、シリンダー30における大径部32の下端側は、例えば径方向外側に向けて折り曲げ成形されており、これによって下端側鍔部37が大径部32の下端側に形成されている。ここで、シリンダー30における大径部32の外径は、上蓋ハウジング部110における小径空洞部111Aの直径と等しい。また、シリンダー30における下端側鍔部37の外径は、上蓋ハウジング部110における大径空洞部111Bの直径と等しい。本実施形態における遮断装置1は、シリンダー30における下端側鍔部37を上蓋ハウジング部110の大径空洞部111Bに配置し、上蓋ハウジング部110の段差面112に下端側鍔部37を係合させた状態でシリンダー30をハウジング本体100に組付ける。その結果、ハウジング本体100に対してシリンダー30が一体に固定される。なお、シリンダー30における大径部32の内径は、中央ハウジング部120に
おける小径空洞部121Aの直径よりも大きい。
【0027】
また、中央ハウジング部120の上端面120Aには、円環状の溝部122が形成されており、この溝部122にゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂からなるOリング123が、シリンダー30の下端側鍔部37に当接した状態で嵌め込まれている。シリンダー30をハウジング本体100に組付ける際、中央ハウジング部120の溝部122に配置されたOリング123がシリンダー30の下端側鍔部37によって圧縮されることで、シリンダー30とハウジング本体100との間の気密性がより一層高められている。また、中央ハウジング部120の上端面120Aのうち、シリンダー30における大径部32の内側に面している領域をストッパー部125と呼ぶ。
【0028】
次に、発射体40の詳細について説明する。
図4は、発射体40の側面図である。発射体40は、合成樹脂等の絶縁部材によって形成されており、ピストン部410と、当該ピストン部410に接続された棒状のロッド部420を含んでいる。ピストン部410およびロッド部420は共に概略円柱体であり、ピストン部410の外径はロッド部420の外径よりも大きい。また、発射体40におけるピストン部410とロッド部420は同軸に配置されている。また、
図4に示す符号410Aはピストン部410の上端面、符号410Bはピストン部410の下端面である。ピストン部410の上端面410Aは、平面方向中心部が最も深い凹部曲面形状を有している。但し、ピストン部410における上端面410Aの形状を上記態様に限定されず、平坦面として形成されていても良い。
【0029】
また、符号420Aは、ロッド部420の下端面である。ピストン部410の上端面410Aは発射体40の上端面ということができ、ロッド部420の下端面420Aは発射体40の下端面ということができる。以下では、
図4に示す上下方向を、発射体40の上下方向と定義する。発射体40の上下方向は、ピストン部410およびロッド部420の軸方向に一致している。また、発射体40のロッド部420において、ピストン部410と接続されている方を基端側といい、その反対側、すなわち下端面420Aが位置する方を先端側という場合がある。
【0030】
ピストン部410の外径は、シリンダー30における大径部32の内径よりも僅かに小さい。また、ピストン部410は、その上下方向における中間部の外径が他所に比べて一回り小さく形成されており、この外径差に起因して環状凹部としての括れ部411が形成されている。ピストン部410の括れ部411には、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂からなるOリング412が嵌め込まれている。
図2に示す状態において、ピストン部410の括れ部411に嵌め込まれたOリング412は、シリンダー30の大径部32における内周面32Aに当接することで圧縮されており、これによって適度なシール性がOリング412によって発揮される。また、発射体40におけるロッド部420の外径は、中央ハウジング部120における小径空洞部121Aの直径よりも僅かに小さい。
【0031】
次に、導体片50の詳細について説明する。
図5は、導体片50の平面図である。導体片50は、遮断装置1の構成要素の一部を構成すると共に、遮断装置1を所定の電気回路に取り付けたときに当該電気回路の一部を形成する導電性の金属体であり、バスバー(bus bar)と呼ばれる場合がある。導体片50は、例えば、銅(Cu)等の金属によって形
成することができる。但し、導体片50は、銅以外の金属で形成されていても良いし、銅と他の金属との合金で形成されても良い。なお、導体片50に含まれる銅以外の金属としては、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)等が例示できる。
【0032】
図5に示す例において、導体片50は全体として細長い平板片として形成されており、両端側の第1接続端部51および第2接続端部52と、これらの中間部分に位置する被切除部53等を含んでいる。導体片50における第1接続端部51および第2接続端部52
には、それぞれ接続孔51A,52Aが設けられている。これら接続孔51A,52Aは、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するために使用される。導体片50の被切除部53は、遮断装置1が適用される電気回路に過大電流等の異常が生じた場合に、発射体40のロッド部420によって強制的に且つ物理的に切断され、第1接続端部51および第2接続端部52から切除される部位である。導体片50における被切除部53の両端には、被切除部53が切断されて切除され易いように、切り込み(スリット)54が形成されている。
【0033】
ここで、導体片50は種々の形態を採用することができ、その形状は特に限定されない。
図5に示す例では、第1接続端部51、第2接続端部52および被切除部53の表面が同一面を形成しているが、これには限られない。例えば、導体片50は、第1接続端部51および第2接続端部52に対して被切除部53が直交、或いは、傾斜した姿勢で接続されていても良い。また、導体片50における被切除部53の平面形状についても特に限定されない。勿論、導体片50における第1接続端部51、第2接続端部52の形状も特に限定されない。
【0034】
上記のように構成される導体片50は、ハウジング本体100における中央ハウジング部120に設けられた一対の導体片挿通部124に挿通されることで、中央ハウジング部120の小径空洞部121Aを横断した状態で中央ハウジング部120に保持される(
図2を参照)。なお、ハウジング本体100における中央ハウジング部120において、一対の導体片挿通部124の下面を規定する載置面124Aに導体片50が載置される(
図3を参照)。一対の導体片挿通部124における各載置面124Aは、筒状空間13の延在方向(軸方向)と直交方向に延在した平坦面として形成されている。そのため、中央ハウジング部120に設けられた載置面124Aに導体片50の第1接続端部51および第2接続端部52がそれぞれ載置されると、導体片50が筒状空間13を横切るようにして、当該筒状空間13の延在方向(軸方向)に直交する姿勢に保持される。
【0035】
なお、
図6は、遮断装置1の中央ハウジング部120に導体片50を設置した状態における小径空洞部121Aと導体片50との平面的な位置関係を説明する図である。
図6に示すように、導体片50は、被切除部53が小径空洞部121Aの領域内に含まれるように導体片50が中央ハウジング部120に設置される。また、導体片50は、中央ハウジング部120における小径空洞部121Aの外縁L1(
図6に示す)が導体片50の切り込み54の位置と平面的に重なるように設置される。
【0036】
図2および
図3に戻り、遮断装置1の構成について説明する。ハウジング10内に形成される筒状空間13には、第1端部11側から遮断装置1の上下方向に沿って順に点火器20、発射体40、導体片50が配置されている。また、
図7は、遮断装置1の高さ方向(後述する筒状空間13が延在する方向)に沿った内部構造を説明する図であり、便宜上、発射体40の図示を省略したものである。本実施形態における遮断装置1は、シリンダー30における大径部32の内側に形成されたシリンダー空洞部36、ハウジング本体100(中央ハウジング部120)における小径空洞部121Aおよび大径空洞部121Bがそれぞれ上下方向に繋がることによって、ハウジング10の筒状空間13が形成されている。すなわち、遮断装置1におけるシリンダー空洞部36、小径空洞部121Aおよび大径空洞部121Bを含んで筒状空間13が構成されている。
【0037】
図2、
図7等に示すように、点火器20における点火部21が、ハウジング10の筒状空間13(より詳しくは、シリンダー空洞部36)内を臨むようにして配置されている。したがって、点火器20の作動時に点火部21の点火薬が燃焼して生じる燃焼生成物は、筒状空間13(シリンダー空洞部36)へと放出されることになる。また、
図2に示すように、発射体40は、ピストン部410が上方側に位置し、ロッド部420が下方側に位
置する姿勢でハウジング10の筒状空間13内に収容されている。具体的には、発射体40におけるピストン部410の上端面410Aが点火器20における点火部21に対向するように配置されている。
【0038】
また、遮断装置1は、ハウジング10に設置された導体片50における被切除部53の上面53A(
図2、
図7等を参照)とシリンダー30の段差部33とにおけるハウジング10の上下方向の離間寸法と、発射体40の軸方向における長さが略等しい寸法に設定されている。これにより、遮断装置1(点火器20)の作動前においては、発射体40におけるピストン部410の上端面410Aの外周縁がシリンダー30の段差部33における内壁面33Aに当接し、且つ、ロッド部420の下端面420Aが導体片50における被切除部53の上面53Aに当接した状態で、発射体40が筒状空間13内において位置決めされる。以下、このように位置決めされた発射体40の位置を「初期位置」と呼ぶ。但し、この初期位置において、発射体40におけるロッド部420の下端面420Aと導体片50における被切除部53の上面53Aが間隔をおいて両者が対向配置されていても良い。
【0039】
また、遮断装置1(点火器20)の作動前において、ハウジング10の筒状空間13は、筒状空間13を横切るように配置された導体片50(被切除部53)によって上下に隔てられている(二分されている)。以下、ハウジング10における筒状空間13のうち、導体片50の被切除部53を挟んで発射体40が配置されている方の領域(空間)を「発射体初期配置領域R1」(
図7を参照)と呼び、発射体40とは反対側に位置する領域(空間)を「消弧領域R2」(
図7を参照)と呼ぶ。
図7等から明らかなように、本実施形態における筒状空間13における消弧領域R2は、大径空洞部121Bの全体および小径空洞部121Aの一部を含む絶縁閉鎖空間として形成されている。
【0040】
また、消弧領域R2のうち、小径空洞部121Aによって形成される領域を「第1消弧領域R21」と呼び、大径空洞部121Bによって形成される領域を「第2消弧領域R22」と呼ぶ。ここで、第1消弧領域R21は、点火器20の作動前において筒状空間13を横切るように配置された導体片50における被切除部53と隣接する領域であり、第2消弧領域R22の上方に連なっている。また、第2消弧領域R22は、第1消弧領域R21を挟んで被切除部53とは反対側に位置すると共に第1消弧領域R21の下方に連なる領域である。本実施形態においては、第2消弧領域R22における横断面が第1消弧領域R21における横断面積よりも大きい。より詳しくは、第1消弧領域R21における横断面方向における幅寸法(本実施形態においては、第1消弧領域R21(小径空洞部121A)の直径に相当する)が被切除部53の横断面方向における幅寸法に対応し、第2消弧領域R22の横断面積が第1消弧領域R21の横断面積よりも大きい。
【0041】
本実施形態において、遮断装置1における消弧領域R2は、発射体40によって導体片50における第1接続端部51および第2接続端部52から切除された被切除部53を受け入れるための空間であると同時に、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークを効果的に消弧するための空間としての意義を有する。そして、導体片50から被切除部53を切除する際に生じたアークを効果的に消弧するために、本実施形態においては消弧領域R2に消弧材として繊維状のクーラント材(以下、「繊維状クーラント材」という)14を充填するようにした(
図2を参照)。繊維状クーラント材14は、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークおよび被切除部53の熱エネルギーを奪い、冷却する繊維状の冷却材である。繊維状クーラント材14の種類は特段限定されないが、本実施形態においては繊維状クーラント材14としてスチールウールを採用している。なお、
図2においては、便宜上、消弧領域R2に配置されている繊維状クーラント材14の範囲をハッチングによって示している。
図2においては、消弧領域R2の全体に繊維状クーラント材14が充填された態様が示されているが、消弧領域R2の一部分を占有するよ
うに繊維状クーラント材14が配設されていても良い。例えば、消弧領域R2における第2消弧領域R22のみに繊維状クーラント材14を配置し、第1消弧領域R21を空洞としても良い。勿論、消弧領域R2における繊維状クーラント材14の設置態様はこれらの例に限定されるものではなく、種々の態様を採用できる。
【0042】
上記のように構成される遮断装置1は、電気回路の異常電流を検知する異常検知センサー(図示せず)、および、点火器20の作動を制御する制御部(図示せず)を備えている。異常検知センサーは、導体片50を流れる電流の他に、電圧や導体片50の温度を検出することができても良い。また、制御部は、例えば所定の制御プログラムを実行することで所定の機能を発揮できるコンピュータである。制御部による所定の機能は、対応するハードウェアで実現することもできる。そして、遮断装置1が適用される電気回路の一部を形成する導体片50に過大な電流が流れると、その異常電流が異常検知センサーによって検出される。検出された異常電流は、異常検知センサーから制御部に引き渡される。例えば、制御部は、異常検知センサーによって検出された電流値に基づいて、導電ピン23に接続された外部電源(図示せず)から通電を受け、点火器20を作動させる。ここで、異常電流とは、所定の電気回路の保護のために設定された所定の閾値を超える電流値であっても良い。なお、上述した異常検知センサーおよび制御部は、遮断装置1の構成要素に含まれていなくても良く、例えば遮断装置1とは別の装置に含まれていても良い。また、上記異常検知センサーや制御部は、遮断装置1に必須の構成ではない。
【0043】
点火器20が作動すると、点火部21の点火薬が燃焼し、燃焼ガスや火炎等の燃焼生成物が筒状空間13(シリンダー空洞部36)に放出される。点火部21から筒状空間13(シリンダー空洞部36)に放出された燃焼生成物の圧力(燃焼エネルギー)は、初期位置において点火部21の近傍に且つ対向して配置される発射体40におけるピストン部410の上端面410Aに伝えられる。その結果、発射体40は、筒状空間13の延在方向(軸方向)に沿って筒状空間13を下方に移動し、ロッド部420が導体片50から被切除部53を押し切ることで被切除部53が切除される。ここで、発射体40におけるピストン部410の上端面410Aは、平面方向中心部が最も深い凹部曲面形状を有している。そのため、点火器20の作動時に点火部21から筒状空間13(シリンダー空洞部36)に放出された燃焼生成物の圧力をピストン部410の上端面410Aによって受け取り易く、発射体40におけるロッド部420の下端面420Aを勢いよく被切除部53に衝突させ、被切除部53を切除することができる。
【0044】
点火器20の作動時において、発射体40のピストン部410は、シリンダー30における大径部32の内周面32Aにガイドされ、筒状空間13における発射体初期配置領域R1(シリンダー空洞部36)内を内周面32Aに沿って下方に移動する。このとき、ピストン部410の括れ部411に嵌め込まれたOリング412はシリンダー30の内周面32Aに接触しているが、ピストン部410におけるOリング44以外の外周面はシリンダー30の内周面32Aに対して完全には接触していない。また、発射体40におけるロッド部420の外周面は、中央ハウジング部120における小径空洞部121Aの内周面に対して完全には接触していない。これにより、点火器20の作動時において、発射体40を筒状空間13(発射体初期配置領域R1)の延在方向(軸方向)に沿って円滑に移動させることができ、導体片50における被切除部53を好適に切除することができる。但し、点火器20の作動時に発射体40を筒状空間13の延在方向(軸方向)に沿って円滑に移動させることができる限りにおいて、発射体40の形状、寸法を自由に決定することができ、例えば発射体40におけるピストン部410の外径がシリンダー30における大径部32の内径と等しい寸法に設定されていても良い。同様に、発射体40におけるロッド部420の外径が中央ハウジング部120における小径空洞部121Aの直径と等しい寸法に設定されていても良い。
【0045】
発射体40は、中央ハウジング部120におけるストッパー部125にピストン部410の下端面410Bが当接(衝突)するまで、筒状空間13の延在方向(軸方向)に沿って下方に移動する。
図8は、遮断装置1における点火器20の作動後の状態を示す図である。
図8に示す状態において、発射体40におけるピストン部410の下端面410Bは、中央ハウジング部120のストッパー部125に当接することで発射体40が位置決めされている。点火器20の作動に伴い、発射体40におけるロッド部420によって導体片50から切除された被切除部53は、ロッド部420の先端部と共に絶縁閉鎖空間である消弧領域R2内に移動し、消弧領域R2に受け入れられることで電気絶縁的に保持される。これにより、導体片50の両端に位置する第1接続端部51および第2接続端部52は電気的に不通状態となり、遮断装置1が適用される所定の電気回路が強制的に遮断される。
【0046】
本実施形態における遮断装置1は、消弧領域R2に繊維状クーラント材14が配置されている。そのため、発射体40におけるロッド部420によって導体片50の被切除部53が第1接続端部51および第2接続端部52からそれぞれ切断された瞬間に、被切除部53を瞬時に消弧領域R2における繊維状クーラント材14内に埋没させ、被切除部53を繊維状クーラント材14によって急冷することができる。これにより、所定の電気回路の一部を構成する導体片50から被切除部53を切除する際に、アークが発生することを効果的に抑制できる。また、遮断装置1によって電気回路を遮断する際に、導体片50の被切除部53における切断面にたとえアークが発生した場合でも、発生したアークを迅速且つ効果的に消弧できる。これにより、遮断装置1が適用される電気回路に異常が検知された場合等に、当該電気回路を迅速に遮断できる。すなわち、電気回路を遮断する際に発生したアークの消弧が長引くことを効果的に抑制することで、電気回路の遮断が長引くことを抑制できる。また、遮断装置1によれば、電気回路の遮断時に大きな火花や火炎が生じたり、大きな衝撃音が発生することを好適に抑制できる。また、これらに起因して遮断装置1のハウジング10等が破損することも抑制できる。
【0047】
また、
図8から明らかなように、遮断装置1は、点火器20の作動時に発射体40が切除した被切除部53が第1消弧領域R21の下方に位置する第2消弧領域R22に受け入れられるように、発射体40におけるピストン部410のストローク長さ、第1消弧領域R21の軸方向の長さ等の相対関係が設定されている。このように、点火器20の作動時に、被切除部53に比べて大きな横断面積を有する第2消弧領域R22まで被切除部53を移動させることによって、被切除部53の周囲、特に被切除部53の切断面を繊維状クーラント材14によってより一層好適に被覆し、被切除部53の切断面から熱エネルギーを効率的に奪い去ることができる。その結果、アークをより一層速やかに消弧できる。
【0048】
また、本実施形態に係る遮断装置1は、ハウジング10における筒状空間13の消弧領域R2に配置する消弧材として繊維状クーラント材14を採用したので、例えば粉末状、或いは粒状の消弧材を採用する場合に比べて以下の利点がある。すなわち、繊維状クーラント材14における繊維間には適度な空隙が形成されているため、点火器20の作動時において導体片50から切除された被切除部53とロッド部420の先端部を繊維状クーラント材14に対して容易に押し込み、被切除部53を繊維状クーラント材14に円滑に埋没させることができる。消弧領域R2に受け入れた被切除部53の周囲を繊維状クーラント材14によって覆い囲むことによって、被切除部53をより迅速に冷却することができ、以って、より一層効果的にアークを消弧できる。
【0049】
更に、繊維状クーラント材14によれば、例えば、遮断装置1が振動等によって揺れた場合においても異音が発生し難い。例えば、遮断装置1が自動車に搭載される場合、遮断装置1は振動を受ける環境下において使用されることになる。このような環境下においても、遮断装置1からユーザーにとって不快な音が発生することを好適に抑制できる。これ
に対して、遮断装置1における消弧領域R2に対して仮に粉末状や粒状の消弧材を充填する場合、消弧領域R2内で粉末状或いは粒状の消弧材が動き易く、所謂シャカシャカ音が発生し易い。特に、電気自動車においては走行時にエンジン音が発生せず、静粛性に優れているため、ハウジング内で消弧材が動くことに起因したシャカシャカ音によってユーザーに不快感を与えてしまう虞がある。また、遮断装置1における消弧領域R2に対して粉末状や粒状の消弧材を消弧材として充填する場合、消弧材を構成する粒子同士が擦れることで、経時的に粒径が小さくなり、場合によっては所期の消弧性能が発揮できないことも想定される。これに対して、本実施形態における繊維状クーラント材14によれば、消弧性能が経時的に変化し難く、恒常的に所期の消弧性能を発揮することができる。
【0050】
一方で、上記のような不快音の発生を抑制する観点においては、ハウジング内に粉末状や粒状の消弧材を押し固めて充填することが考えられる。しかしながら、このような態様としてしまうと、たしかに不快音の発生は抑制され得るものの、その背反として、点火器20の作動時に導体片50から切除された被切除部53とロッド部420の先端部を消弧材に押し込むことが困難となり、アークの消弧性能が低下する虞がある。これに対して、本実施形態に係る繊維状クーラント材14によれば、そのような虞が無い。以上より、本実施形態においては、アークの消弧性能と静粛性能に優れ、しかも消弧性能が経時的に低下しにくい遮断装置1を実現できる。
【0051】
なお、ハウジング10の消弧領域R2に充填する繊維状クーラント材14は、熱伝導性に優れ、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークおよび被切除部53の熱エネルギーを急速に奪い去る繊維材料を用いることが好ましい。このような繊維材料としては金属繊維材料が例示できる。また、繊維状クーラント材14を構成する金属繊維材料としては、スチールウールを好適に用いることができる。但し、上記のようにハウジング10の消弧領域R2に受け入れた被切除部53を急冷することができれば、繊維状クーラント材14として必ずしも金属繊維材料を採用する必要は無い。
【0052】
なお、上記実施形態における遮断装置1は種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、ハウジング本体100を、上蓋ハウジング部110、中央ハウジング部120、底蓋ハウジング部130によって構成する態様を例に説明したがこれには限られない。また、遮断装置1を構成する各種部品の形状、大きさ等も適宜変更することができる。例えば、上記実施形態では発射体40のロッド部420を円柱体形状とする場合を例に説明したがこれには限られず、ロッド部420を例えば角柱体形状としても良い。その場合、ハウジング本体100における小径空洞部121Aの横断面形状をロッド部420と対応する形状にすると良い。また、上記実施形態では、ハウジング10の筒状空間13における消弧領域R2を、横断面積の異なる第1消弧領域R21および第2消弧領域R22を含んで形成する場合を例に説明したが、これには限られない。例えば、消弧領域R2の上下方向において横断面積が一定であっても良い。
【0053】
<電気回路遮断試験>
次に、遮断装置1に対して行った電気回路遮断試験について説明する。
図9は、電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。符号1000は電源、符号2000は電流計、符号3000は作動用電源である。また、符号4000は、遮断装置1における導体片50と協働して電気回路ECを形成するための配線である。また、符号5000は、遮断装置1の点火器20における導電ピン23(
図1を参照)に作動用電源3000から供給される作動用電流を流すための配線である。
【0054】
次に、電気回路遮断試験の手順について説明する。
(手順1)
図9に示すように、遮断装置1における導体片50の第1接続端部51および第2接続端部52をそれぞれ配線4000によって電源1000、電流計2000等に接
続し、遮断装置1における点火器20を配線5000によって作動用電源3000に接続する。
(手順2)電源1000からの電流を電気回路ECに流す。
(手順3)作動用電源3000をオンにし、遮断装置1における点火器20に作動用電流を通電することによって点火器20を作動させる。
(手順4)電源1000、作動用電源3000をオフにする。
【0055】
本遮断試験では、作動用電源3000によって遮断装置1における点火器20に作動用電流を通電する前後に渡り、電気回路ECに流れる電流値を継続的に電流計2000によって計測した。なお、本遮断試験においては、遮断装置1のハウジング10における消弧領域R2に充填する繊維状クーラント材14としてスチールウール(実施例)を採用した。また、実施例と比較するための比較例として、スチールウールの代わりに粒状ゼオライトを消弧材として消弧領域R2に配置した場合を比較例とした。
【0056】
ここで、実施例には、日本スチールウール株式会社製(商品名:ボンスター、標準線径φ0.035mm)における標準タイプのスチールウールを用いた。また、比較例には、東ソー株式会社製(商品名:ゼオラム)の粒状タイプのゼオライトを用いた。
【0057】
図10は、電気回路遮断試験の結果を示すグラフである。上段に実施例、下段に比較例の各試験結果を示している。各グラフにおいて、縦軸は電流値、横軸は時間を示す。時間T0は、作動用電源3000をオンにして、点火器20に作動用電流を通電した時点を示す。
【0058】
消弧材としてスチールウールを使用した実施例(
図10の上段)と、消弧材として粒状タイプのゼオライトを使用した比較例(
図10の下段)は共に、時間T0における点火器20の作動後、電気回路ECを流れる電流値が0まで速やかに低下した。これは、実施例および比較例で使用した消弧材によってアークが迅速に消弧されたことによるものと考えられる。
図10の上段に示すΔT1は、実施例において、時間T0から電気回路ECを流れる電流値が0に至るまでに要した時間(以下、「消弧時間」という)を示したものである。また、
図10の下段に示すΔT2は、比較例における消弧時間を示したものである。
【0059】
ここで、実施例における消弧時間ΔT1は、比較例における消弧時間ΔT2よりも若干短いという結果が得られた。従って、本遮断試験の結果を踏まえると、消弧材としてスチールウールを使用した実施例は、消弧材として粒状タイプのゼオライトを使用した比較例と比較して少なくとも同等以上のアークの消弧性能を有していることが確認できた。なお、スチールウールのような繊維状の消弧材は、粒状や粉末状の消弧材では得ることのできない異質の技術的効果を有することは上記の通りである。
【0060】
以上、本開示に係る電流回路遮断装置の実施形態および変形例について説明したが、上述した各実施形態および変形例は可能な限り組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :遮断装置
10 :ハウジング
13 :筒状空間
14 :繊維状クーラント材
20 :点火器
30 :シリンダー
40 :発射体
50 :導体片
53 :被切除部