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特開2024-26579ポリビニリデンフルオライド、結着剤、電極合剤、電極および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026579
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ポリビニリデンフルオライド、結着剤、電極合剤、電極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/22 20060101AFI20240220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240220BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
C08F214/22
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221171
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2022503386の分割
【原出願日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020034056
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 貴視
(72)【発明者】
【氏名】北原 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】矢野 遼一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 和哉
(72)【発明者】
【氏名】新井 佳奈子
(57)【要約】
【課題】耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができるポリビニリデンフルオライドおよび結着剤、ならびに、ポリビニリデンフルオライドおよび結着剤を用いる電極合剤、電極および二次電池を提供する。
【解決手段】ビニリデンフルオライド単位、および、式(1):CH=CH-(CH)-COOY(式中、Yは、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を表す)で表されるペンテン酸単位を含有するポリビニリデンフルオライドであって、ビニリデンフルオライド単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、95.0~99.99モル%であり、前記ペンテン酸単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、0.01~5.0モル%であるポリビニリデンフルオライドを提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド単位、および、式(1):CH=CH-(CH)-COOY(式中、Yは、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を表す)で表されるペンテン酸単位を含有し、テトラフルオロエチレン単位を含有しないポリビニリデンフルオライドであって、
ビニリデンフルオライド単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、95.0~99.99モル%であり、
前記ペンテン酸単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、0.01~5.0モル%である
ポリビニリデンフルオライド。
【請求項2】
Yが、H、Li、Na、K、Mg、Ca、AlおよびNHからなる群より選択される少なくとも1種を表す請求項1に記載のポリビニリデンフルオライド。
【請求項3】
重量平均分子量が、50000~2000000である請求項1または2に記載のポリビニリデンフルオライド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリビニリデンフルオライドを含有する結着剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のポリビニリデンフルオライドまたは請求項4に記載の結着剤、粉末電極材料、および、水または非水溶剤を含有する電極合剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のポリビニリデンフルオライドまたは請求項4に記載の結着剤を含有する電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリビニリデンフルオライド、結着剤、電極合剤、電極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、リチウム電池および/または電気二重層コンデンサの電極を形成するための、バインダーとして、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、アクリル酸などの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とに由来する繰り返し単位を含む線状半結晶性コポリマー[ポリマー(A)]であって、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05~10モル%の繰り返し単位を含み、そして少なくとも40%のランダムに分布した単位(MA)の分率によって特徴付けられるコポリマーを使用することが提案されている。
【0003】
特許文献2では、組成物(C)であって、
-ポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも0.1モル%、好ましくは少なくとも0.3モル%、さらにより好ましくは少なくとも0.5モル%、そして5モル%以下の量で式(I):
【化1】
(式中:
-互いに等しいかもしくは異なる、R、RおよびRは独立して、水素原子およびC~C炭化水素基から選択され、
-ROHは、水素原子または少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を含む少なくとも1つの官能性含水素モノマーに由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つの半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F1)]であって、前記ポリマー(F1)が、1.4dl/gより高い、好ましくは2dl/gより高い、さらにより好ましくは2.5dl/gより高い、そして5dl/gより低い25℃でのジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有するポリマー(F1)と;
-ポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも2.5モル%、好ましくは少なくとも4.0モル%、さらにより好ましくは少なくとも6モル%の量でフッ化ビニリデンとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位を含む、(F1)とは異なる、少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F2)]とを含み、ポリマー(F1)が組成物(C)の総重量で割って少なくとも10重量%を形成し、ポリマー(F2)が組成物(C)の総重量で割って最大でも90重量%を形成する組成物(C)が提案されている。
【0004】
特許文献3では、電極活物質を当該電極活物質が塗布される集電体に結着させるために用いられるバインダー組成物であって、固有粘度が1.7dl/g以上の第1のフッ化ビニリデン系重合体と、アクリル酸またはメタクリル酸を単量体単位として含む第2のフッ化ビニリデン系重合体と、を含んでいることを特徴とするバインダー組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/129041号
【特許文献2】国際公開第2018/073277号
【特許文献3】国際公開第2017/056974号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示では、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができるポリビニリデンフルオライドおよび結着剤、ならびに、ポリビニリデンフルオライドおよび結着剤を用いる電極合剤、電極および二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、ビニリデンフルオライド単位、および、式(1):CH=CH-(CH)-COOY(式中、Yは、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を表す)で表されるペンテン酸単位を含有するポリビニリデンフルオライドであって、ビニリデンフルオライド単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、95.0~99.99モル%であり、前記ペンテン酸単位の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライドの全単量体単位に対して、0.01~5.0モル%であるポリビニリデンフルオライドが提供される。
【0008】
式(1)におけるYが、H、Li、Na、K、Mg、Ca、AlおよびNHからなる群より選択される少なくとも1種を表すことが好ましい。
重量平均分子量が、50000~2000000であることが好ましい。
【0009】
また、本開示によれば、上記のポリビニリデンフルオライドを含有する結着剤が提供される。
【0010】
また、本開示によれば、上記のポリビニリデンフルオライドまたは上記の結着剤、粉末電極材料、および、水または非水溶剤を含有する電極合剤が提供される。
【0011】
また、本開示によれば、上記のポリビニリデンフルオライドまたは上記の結着剤を含有する電極が提供される。
【0012】
また、本開示によれば、上記の電極を備える二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができるポリビニリデンフルオライドおよび結着剤、ならびに、ポリビニリデンフルオライドおよび結着剤を用いる電極合剤、電極および二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本開示のポリビニリデンフルオライド(PVdF)は、ビニリデンフルオライド(VdF)単位、および、ペンテン酸単位を含有する。
【0016】
PVdFに含有されるペンテン酸単位は、式(1):CH=CH-(CH)-COOY(式中、Yは、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を表す)で表される単量体に基づく単位である。
【0017】
式(1)において、Yは、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。無機カチオンとしては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe等のカチオンが挙げられる。有機カチオンとしては、NH、NH、NH 、NHR 、NR (Rは、独立に、炭素数1~4のアルキル基を表す。)等のカチオンが挙げられる。Yとしては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、AlおよびNHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、H、Li、Na、K、Mg、AlおよびNHからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、H、Li、AlおよびNHからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、Hが特に好ましい。なお、無機カチオンおよび有機カチオンの具体例は、便宜上、符号および価数を省略して記載している。
【0018】
本開示のPVdFは、PVdFの全単量体単位に対して、95.0~99.99モル%のVdF単位、および、0.01~5.0モル%のペンテン酸単位を含有する。本開示のPVdFは、VdF単位およびペンテン酸単位を含有しており、さらに、VdF単位の含有量およびペンテン酸単位の含有量が適切に調整されていることから、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができる。
【0019】
従来、二次電池、キャパシタなどの電極を形成するための結着剤として用いるPVdFに対して、PVdFの金属箔(集電体)への密着性を向上させるために、アクリル酸単位などを導入する技術が知られている。しかしながら、金属箔(集電体)への十分な密着性を確保しながら、耐電解液膨潤性および柔軟性にも優れるPVdFが求められている。
【0020】
PVdFに導入する単量体単位として、ペンテン酸単位を選択し、さらには、VdF単位の含有量およびペンテン酸単位の含有量を特定の範囲内に調整することによって、PVdFの耐電解液膨潤性が顕著に向上し、PVdFの金属箔(集電体)への十分な密着性を確保でき、柔軟性に優れる電極を形成することができることが見出された。本開示のPVdFは、このような知見に基づき完成された新規な重合体である。
【0021】
また、本開示のPVdFは、ペンテン酸単位の含有量が適切に調整されていることから、本開示のPVdFを用いることによって、電極材料層と金属箔(集電体)とが十分に密着しており、十分な粉末電極材料の保持力を有する電極を形成することができるとともに、PVdFを高濃度で含有するにも関わらず、適切な粘度を有する正極合剤を調製することができるので、優れた特性を示す電極を高い生産性で生産することができる。
【0022】
また、従来の結着剤を用いた二次電池では、二次電池を高温で保存した場合に、結着剤が有する極性基が分解して、抵抗が増加することがある。本開示のPVdFは、ペンテン酸単位の含有量が適切に調整されていることから、高温環境下での極性基の分解に起因する影響が抑制される。したがって、本開示のPVdFを用いることによって、電極材料層と金属箔(集電体)とが十分に密着している電極を形成できるとともに、高温で保存しても抵抗値が増加しにくい二次電池を作製することができる。
【0023】
二次電池の抵抗値の増加率は、たとえば、次の方法により求めることができる。25℃の恒温槽中に置いた二次電池(セル)を、0.5C-0.05C Rateの定電流-定電圧法によって4.4Vまで充電した後、交流インピーダンス測定器を用いて、初期の抵抗値を測定する。次いで、セルを40℃の恒温槽中で1週間保存した後、25℃の恒温槽に3時間入れてセル温度が25℃に低下してから、耐久試験後のセルの抵抗値を測定する。5セルの平均値を測定値として、初期の抵抗値に対する耐久試験後の抵抗値の増加率(%)((耐久試験後の抵抗値-初期の抵抗値)/初期の抵抗値×100)を求める。
【0024】
また、従来の結着剤を用いた二次電池では、二次電池の充放電を繰り返した場合に、粉末電極材料が電極材料層から剥がれ落ちて、放電容量が低下することがある。本開示のPVdFは、ペンテン酸単位の含有量が適切に調整されていることから、本開示のPVdFを用いることによって、充放電を繰り返しても粉末電極材料が電極材料層から剥がれ落ちにくく、十分な放電容量が維持される二次電池(容量維持率が高い二次電池)を作製することができる。
【0025】
二次電池の容量維持率は、たとえば、次の方法により評価することができる。二次電池を、板で挟み加圧した状態で、25℃において、0.5Cに相当する電流で4.2Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC/CV充電と表記する)(0.1Cカット)した後、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求める。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表わし、例えば、0.5Cとはその1/2の電流値を表わす。前記と同様の条件で、300サイクルのサイクル試験を3.0-4.2Vの作動電圧で実施する。3サイクル目の初期放電容量を100%としたときの300サイクル目の放電容量を容量維持率とする。
【0026】
PVdFのVdF単位の含有量は、PVdFの全単量体単位に対して、95.0~99.99モル%であり、好ましくは95.0モル%超であり、より好ましくは97.0モル%以上であり、さらに好ましくは98.0モル%以上であり、特に好ましくは98.5モル%以上であり、最も好ましくは99.0モル%以上であり、好ましくは99.95モル%以下である。VdF単位の含有量が上記の範囲内にあると、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性を一層向上させることができ、一層柔軟性に優れる電極を形成することができる。
【0027】
PVdFのペンテン酸単位の含有量は、PVdFの全単量体単位に対して、0.01~5.0モル%であり、好ましくは5.0モル%未満であり、より好ましくは3.0モル%以下であり、さらに好ましくは2.0モル%以下であり、特に好ましくは1.5モル%以下であり、最も好ましくは1.0モル%以下であり、好ましくは0.05モル%以上である。ペンテン酸単位の含有量が上記の範囲内にあると、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性を一層向上させることができ、一層柔軟性に優れる電極を形成することができる。
【0028】
本開示において、PVdFの組成は、たとえば、19F-NMR測定により測定できる。また、PVdFのペンテン酸単位の含有量は、ペンテン酸単位のカルボキシル基(-COOY)をエステル化した後、エステル化後のPVdFを用いたH-NMR測定により測定できる。
【0029】
PVdFは、さらに、フッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)を含有してもよい。PVdFがフッ素化単量体単位をさらに含有することによって、一層柔軟性に優れる電極を形成することができる。
【0030】
フッ素化単量体としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどが挙げられる。
【0031】
フッ素化単量体としては、一層柔軟性に優れる電極を形成することができることから、CTFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテルおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CTFE、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0032】
フルオロビニルエーテルとしては、炭素数1~5のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルビニルエーテルが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0033】
PVdFは、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性を一層向上させる観点からは、TFE単位を含有しないことが好ましい。
【0034】
PVdFのフッ素化単量体単位の含有量は、PVdFの全単量体単位に対して、好ましくは0~4.99モル%であり、より好ましくは0.01モル%以上であり、さらに好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは1.95モル%以下であり、さらに好ましくは0.95モル%以下である。
【0035】
PVdFは、さらに、非フッ素化単量体単位(ただし、式(1)で表されるペンテン酸単位を除く)を含有してもよい。非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0036】
PVdFの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、十分な金属箔への密着性を確保しながら、適度な粘度を有しており、塗工性に優れる電極合剤を調製することができることから、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、特に好ましくは200000以上であり、より好ましくは1900000以下であり、さらに好ましくは1700000以下であり、特に好ましくは1500000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0037】
PVdFの数平均分子量(ポリスチレン換算)は、十分な金属箔への密着性を確保しながら、適度な粘度を有しており、塗工性に優れる電極合剤を調製することができることから、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0038】
従来のPVdFを結着剤として用いる場合、PVdFの分子量が高くなるほど、電極材料層の金属箔への密着性が向上する傾向が観られる。一方で、従来のPVdFでは、分子量が高くなるほど、電極合剤の粘度が上昇し、電極合剤の塗工性が低下する傾向が観られる。本開示のPVdFは、十分な金属箔への密着性を示す電極材料層を形成できるとともに、適度な粘度を有しており、塗工性に優れる電極合剤を調製することができる。さらに、本開示のPVdFが上記の範囲内の重量平均分子量または数平均分子量を有する場合には、電極材料層の金属箔への高い密着性と、電極合剤の優れた塗工性とを、一層高いレベルで両立することができる。
【0039】
たとえば、本開示のPVdFを結着剤として用いることにより、粉末電極材料量と結着剤量との比率を変えることなく、電極合剤に占める粉末電極材料および結着剤の含有量を、従来の電極合剤よりも増加させ、非水溶剤の量を削減した場合であっても、従来の電極合剤と同等の粘度を有する電極合剤を調製することができ、十分な金属箔への密着性を示す電極材料層を形成することができる。したがって、本開示のPVdFを結着剤として用いることにより、優れた特性を示す電極を形成できるとともに、電極の生産性の向上および非水溶剤に掛かるコストの削減が実現できる。
【0040】
PVdFの溶液粘度は、金属箔への密着性を一層向上させることができるとともに、適度な粘度を有しており、塗工性に優れる電極合剤を調製できることから、好ましくは10~4000mPa・sであり、より好ましくは50mPa・s以上であり、さらに好ましくは100mPa・s以上であり、特に好ましくは150mPa・s以上であり、より好ましくは3000mPa・s以下であり、さらに好ましくは2000mPa・s以下であり、特に好ましくは1500mPa・s以下である。PVdFの溶液粘度は、5質量%のPVdFを含有するN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液の粘度である。NMP溶液の粘度は、B型粘度計を用いて25℃で測定することができる。
【0041】
適度な粘度を有する電極合剤は、塗工性に優れるだけでなく、送液が容易であり、電極合剤中の粉末電極材料の良好な分散性を得ることができる。したがって、適度な粘度を有する電極合剤は、送液に要する時間を短縮でき、送液中や保管中に粉末電極材料が凝集しにくく、送液後または保管後の粘度の再調整も容易である。また、適度な粘度を有する電極合剤は、攪拌により電極合剤に適度なせん断力を容易に与えられるので、粉末電極材料を非水溶剤に容易に分散させることができる。本開示のPVdFが上記の範囲内の溶液粘度を有する場合には、適度な粘度を有しており、塗工性に優れる電極合剤を一層容易に調製することができる。
【0042】
PVdFの融点は、好ましくは100~240℃である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
【0043】
PVdFの30℃における貯蔵弾性率は、好ましくは2000MPa以下であり、より好ましくは1800MPa以下である。
PVdFの60℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1300MPa以下である。
PVdFの30℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1000MPa以上であり、より好ましくは1100MPa以上である。
PVdFの60℃における貯蔵弾性率は、好ましくは600MPa以上であり、より好ましくは700MPa以上である。
30℃または60℃におけるPVdFの貯蔵弾性率が上記の範囲内にあると、PVdFの柔軟性が向上し、結着剤として用いた場合に割れにくい電極を容易に形成できる。
【0044】
貯蔵弾性率は、長さ30mm、巾5mm、厚み50~100μmのサンプルについて、アイティー計測制御社製動的粘弾性装置DVA220で動的粘弾性測定により引張モード、つかみ巾20mm、測定温度-30℃から160℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定した際の30℃および60℃での測定値である。
【0045】
測定サンプルは、たとえば、PVdFを濃度が10~20質量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させて得た溶液を、ガラス板上にキャストし100℃で12時間乾燥し、さらに真空下で100℃で12時間乾燥し、得られた厚さ50~100μmのフィルムを、長さ30mm、巾5mmにカットすることで作製することができる。
【0046】
PVdFの主鎖におけるペンテン酸単位の分布状態は、特に限定されないが、金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性が一層向上するとともに、耐熱性も向上することから、ペンテン酸単位ができるだけランダムに分布していることが好ましい。PVdF中のペンテン酸単位の総数に対する、ランダムに分布したペンテン酸単位の割合を示す「ランダムに分布したペンテン酸単位の分率」としては、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。
【0047】
ランダムに分布したペンテン酸単位の分率は、以下の式に従って算出することができる。
(分率(%))=(ペンテン酸単位配列の平均数(%))/(ペンテン酸単位の平均全数(%))×100
式中、ペンテン酸単位配列は、たとえば、19F-NMR測定およびH-NMR測定により測定できる。
ペンテン酸単位配列とは、2つのVdF単位の間に含まれる孤立したペンテン酸単位であり、ペンテン酸単位配列の数が多いほど、ランダムに分布したペンテン酸単位の分率は高くなる。ペンテン酸単位が完全にランダムに分布している場合、ペンテン酸単位配列の平均数とペンテン酸単位の平均全数とが等しいことから、ランダムに分布したペンテン酸単位の分率は100%である。
【0048】
本開示のPVdFは、少なくとも、VdFと式(1)で表されるペンテン酸とを含む単量体混合物を重合することにより、製造することができる。重合方法としては、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの方法が採用できるが、後処理の容易さ等の点から懸濁重合、乳化重合が好ましい。
【0049】
上記の重合においては、重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤および溶媒を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤または水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0050】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえば、
ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類;
t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどのパーオキシエステル類;
ジt-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類;
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類;
などが代表的なものとしてあげられる。
【0051】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、[(RfCOO)-](Rfは、パーフルオロアルキル基、ω-ハイドロパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基)で表されるジアシルパーオキサイドが挙げられる。
【0052】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、たとえば、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどが挙げられる。
【0053】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸等のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。亜硫酸塩類のような還元剤を過酸化物に組み合わせて使用してもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0054】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤が使用でき、たとえば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が使用できる。なかでも、含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル結合を含んでもよい(すなわち、炭素原子間に酸素原子が挿入されていてもよい)、炭素数4~20の直鎖または分岐した含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤の添加量(対溶媒)は、好ましくは50~5000ppmである。
【0055】
連鎖移動剤としては、たとえば、エタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常、溶媒に対して0.01~20質量%の範囲である。
【0056】
溶媒としては、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0057】
懸濁重合などの重合において、水に加えて、フッ素系溶媒を使用してもよい。フッ素系溶媒としては、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類;CFHCFCFCFH、CFCFHCFCFCF、CFCFCFCFCFH、CFCFCFHCFCF、CFCFHCFHCFCF、CFHCFCFCFCFH、CFHCFHCFCFCF、CFCFCFCFCFCFH、CFCH(CF)CFCFCF、CFCF(CF)CFHCFCF、CFCF(CF)CFHCFHCF、CFCH(CF)CFHCFCF、CFHCFCFCFCFCFH、CFCFCFCFCHCH、CFCHCFCH等のハイドロフルオロカーボン類;F(CFOCH、F(CFOC、(CFCFOCH、F(CFOCH等の(ペルフルオロアルキル)アルキルエーテル類;CFCHOCFCHF、CHFCFCHOCFCHF、CFCFCHOCFCHF等のヒドロフルオロアルキルエーテル類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性および経済性の面から、溶媒に対して10~100質量%が好ましい。
【0058】
重合温度および重合圧力は、用いる溶媒の種類、量および蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められる。
【0059】
PVdFを効率的に製造できることから、少なくともVdFと式(1)で表されるペンテン酸とを含む単量体混合物を、VdFが超臨界状態となる条件で、重合することも好ましい。VdFの臨界温度は30.1℃、臨界圧力は4.38MPaである。
【0060】
PVdFを効率的に製造できることから、反応器中の単量体混合物の密度が十分に高くなるように、単量体混合物を反応器に供給することも好ましい。反応器中の単量体混合物の重合初期温度における密度としては、好ましくは0.20g/cm以上であり、より好ましくは0.23g/cm以上であり、さらに好ましくは0.25g/cm以上であり、上限は特に制限はないが、密度が高すぎると、反応器内の温度の変化による反応器内の圧力変化が大きくなりすぎる傾向があるので、安全に生産する観点から0.70g/cm以下が好ましい。反応器中の単量体混合物の密度は、反応器に供給した単量体混合物の供給量(g)を、反応器の内容積(cm)から水の体積(cm)を減じた値で除することにより、求めることができる。
【0061】
水を分散媒とした懸濁重合においては、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等の懸濁剤を、水に対して0.005~1.0質量%、好ましくは0.01~0.4質量%の範囲で添加して使用することができる。
【0062】
この場合の重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロアシル)パーオキサイド等が使用できる。その使用量は、単量体合計量に対して0.001~5質量%であることが好ましい。
【0063】
また、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素等の連鎖移動剤を添加して、得られる重合体の重合度を調節してもよい。その使用量は、通常は、単量体合計量に対して0.001~5質量%、好ましくは0.005~3質量%である。
【0064】
単量体の合計仕込量は、単量体合計量:水の質量比で2:1~1:10、好ましくは1:1~1:5である。
【0065】
上述したPVdFは、結着剤として好適に利用することができる。結着剤として上述したPVdFを含有する電極合剤を用いることにより、金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性に優れる電極材料層を形成できる。
【0066】
本開示の結着剤は、上述のPVdFを含有する。本開示の結着剤は、上述のPVdFを含有することから、金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性に優れる。また、本開示の結着剤を含有する電極合剤を用いることにより、金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性に優れる電極材料層を形成できる。
【0067】
本開示の結着剤は、上述のPVdF以外の重合体を含有してもよい。上述のPVdF以外の重合体としては、フルオロポリマー(ただし、上述したPVdFを除く)、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、スチレンゴム、ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0068】
本開示の結着剤は、上述のPVdF以外の重合体として、VdF重合体(ただし、上述したPVdFを除く)を含有することが好ましい。VdF重合体としては、VdF単独重合体、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含有する重合体などが挙げられる。
【0069】
VdF重合体としては、結着剤の金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性が一層向上するとともに、粘度が上昇しにくい電極合剤を得ることができることから、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含有することが好ましい。
【0070】
VdFと共重合可能な単量体としては、フッ素化単量体、非フッ素化単量体などが挙げられる。
【0071】
フッ素化単量体(ただし、VdFを除く)としては、結着剤の金属箔への密着性、耐電解液膨潤性および柔軟性が一層向上するとともに、粘度が一層上昇しにくい電極合剤を得ることができることから、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、CTFEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、TFEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、電解液に対する膨潤が抑制され電池特性の向上ができる点でTFEが特に好ましい。
【0072】
フッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)は、極性基を有していても有していなくてもよい。
【0073】
非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレンなどの極性基を有しない非フッ素化単量体、極性基を有する非フッ素化単量体(以下、極性基含有単量体ということがある)などが挙げられる。非フッ素化単量体として、極性基を有するものを用いると、VdF重合体に極性基が導入され、これによって、結着剤の金属箔への密着性が一層向上する。
【0074】
VdF重合体は、極性基を有していてもよく、これによって、結着剤の金属箔への密着性が一層向上する。上記極性基としては、極性を有する官能基であれば特に限定されないが、結着剤の金属箔への密着性が一層向上することから、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボニル基含有基、エポキシ基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。上記ヒドロキシ基には、上記カルボニル基含有基の一部を構成するヒドロキシ基は含まれない。また、上記アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。
【0075】
上記カルボニル基含有基とは、カルボニル基(-C(=O)-)を有する官能基である。上記カルボニル基含有基としては、結着剤の金属箔への密着性が一層向上することから、一般式:-COOR(Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基またはカルボン酸無水物基が好ましく、一般式:-COORで表される基がより好ましい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。一般式:-COORで表される基として、具体的には、-COOCHCHOH、-COOCHCH(CH)OH、-COOCH(CH)CHOH、-COOH、-COOCH、-COOC等が挙げられる。一般式:-COORで表される基が、-COOHであるか、-COOHを含む場合、-COOHは、カルボン酸金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等のカルボン酸塩であってもよい。
【0076】
また、上記カルボニル基含有基としては、一般式:-X-COOR(Xは主鎖が原子数1~20で構成される分子量500以下の原子団を表す。Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。)で表される基であってもよい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。
【0077】
上記アミド基としては、一般式:-CO-NRR’(RおよびR’は、独立に、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。)で表される基、または、一般式:-CO-NR”-(R”は、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基を表す。)で表される結合が好ましい。
【0078】
上記極性基は、VdFと極性基含有単量体とを重合させることにより、VdF重合体に導入することもできるし、VdF重合体と上記極性基を有する化合物とを反応させることにより、VdF重合体に導入することもできるが、生産性の観点からは、VdFと極性基含有単量体とを重合させることが好ましい。
【0079】
上記極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシプロピルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;式(2):
【化2】
(式中、R~Rは、独立に、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を表す。Rは、単結合または炭素数1~8の炭化水素基を表す。Yは、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。)で表される単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く);等が挙げられる。
【0080】
VdF重合体は、上記極性基含有単量体として、式(2)で表される単量体(2)に基づく単位を含有することが好ましい。
【0081】
式(2)において、Yは、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。無機カチオンとしては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe等のカチオンが挙げられる。有機カチオンとしては、NH、NH、NH 、NHR 、NR (Rは、独立に、炭素数1~4のアルキル基を表す。)等のカチオンが挙げられる。Yとしては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、NHが好ましく、H、Li、Na、K、Mg、Al、NHがより好ましく、H、Li、Al、NHがさらに好ましく、Hが特に好ましい。なお、無機カチオンおよび有機カチオンの具体例は、便宜上、符号および価数を省略して記載している。
【0082】
式(2)において、R~Rは、独立に、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を表す。上記炭化水素基は、1価の炭化水素基である。上記炭化水素基の炭素数は4以下が好ましい。上記炭化水素基としては、上記炭素数のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、メチル基またはエチル基が好ましい。RおよびRは、独立に、水素原子、メチル基またはエチル基であることが好ましく、Rは、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0083】
式(2)において、Rは、単結合または炭素数1~8の炭化水素基を表す。上記炭化水素基は、2価の炭化水素基である。上記炭化水素基の炭素数は4以下が好ましい。上記炭化水素基としては、上記炭素数のアルキレン基、アルケニレン基等が挙げられ、なかでも、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0084】
単量体(2)としては、(メタ)アクリル酸およびその塩、ビニル酢酸(3-ブテン酸)およびその塩、3-ペンテン酸およびその塩、3-ヘキセン酸およびその塩、4-ヘプテン酸およびその塩、ならびに、5-ヘキセン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0085】
VdF重合体と上記極性基を有する化合物とを反応させて、上記極性基をVdF重合体に導入する場合には、上記極性基を有する化合物として、上記極性基含有単量体、または、VdF重合体と反応性の基と加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤もしくはチタネート系カップリング剤を用いることができる。上記加水分解性基としては、好ましくはアルコキシ基である。カップリング剤を用いる場合には、溶媒に溶解または膨潤させたVdF重合体と反応させることによって、VdF重合体に付加させることができる。
【0086】
VdF重合体としては、また、VdF重合体を塩基で部分的に脱フッ化水素処理した後、部分的に脱フッ化水素処理されたVdF重合体を酸化剤とさらに反応させて得られたものを用いることもできる。上記酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩、ハロゲン化パラジウム、ハロゲン化クロム、過マンガン酸アルカリ金属、過酸化合物、過酸化アルキル、過硫酸アルキル等が挙げられる。
【0087】
VdF重合体の極性基含有単量体単位の含有量は、結着剤の金属箔への密着性が一層向上することから、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0.001~8.0モル%であり、より好ましくは0.01~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.30~3.0モル%である。
【0088】
本開示において、VdF重合体の組成は、たとえば、19F-NMR測定により測定できる。VdF重合体が極性基含有単量体単位を含有する場合の、VdF重合体における極性基含有単量体単位の含有量は、たとえば、極性基がカルボン酸等の酸基である場合、酸基の酸-塩基滴定によって測定できる。
【0089】
VdF重合体としては、VdF単位およびフッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)を含有する重合体が好ましい。VdF重合体は、これらの単量体単位に加えて、極性基含有単量体単位などの非フッ素化単量体単位を含有してもよい。
【0090】
VdF重合体のVdF単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは57.0~99.9モル%であり、より好ましくは60.0モル%以上であり、さらに好ましくは63.0モル%以上であり、より好ましくは99.5モル%以下である。
【0091】
VdF重合体のフッ素化単量体単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0.1~43.0モル%であり、より好ましくは0.5モル%以上であり、より好ましくは40.0モル%以下であり、さらに好ましくは37.0モル%以下である。
【0092】
VdF重合体は、比較的少量のVdF単位と、比較的多量のフッ素化単量体単位とを含有することも好ましい。たとえば、VdF単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは57.0モル%以上であり、より好ましくは60.0モル%以上であり、さらに好ましくは63.0モル%以上であり、好ましくは95.0モル%以下であり、より好ましくは90.0モル%以下であり、さらに好ましくは85.0モル%以下である。フッ素化単量体単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは5.0モル%以上であり、より好ましくは8.0モル%以上であり、特に好ましくは10.0モル%以上であり、最も好ましくは15.0モル%以上であり、好ましくは43.0モル%以下であり、より好ましくは40.0モル%以下であり、さらに好ましく38.0モル%以下であり、特に好ましくは37.0モル%以下である。
【0093】
比較的少量のVdF単位と、比較的多量のフッ素化単量体単位を含有するVdF重合体は、さらに、極性基含有単量体単位を含有することも好ましい。極性基含有単量体単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0.01~2.0モル%であり、より好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは1.0モル%以下である。
【0094】
VdF重合体は、比較的多量のVdF単位と、比較的少量のVdFと共重合可能な単量体単位とを含有することも好ましい。たとえば、VdF単位の含有量としては、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは92.0~99.9モル%であり、より好ましくは95.0モル%以上であり、より好ましくは99.5モル%以下である。VdFと共重合可能な単量体単位の含有量は、VdF重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0.10~8.0モル%であり、より好ましくは0.50モル%以上であり、より好ましくは5.0モル%以下である。
【0095】
VdF重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは50000~3000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、特に好ましくは200000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用い50℃で測定することができる。
【0096】
VdF重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用い50℃で測定することができる。
【0097】
VdF重合体の融点は、好ましくは100~240℃である。融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
【0098】
VdF重合体は、30℃における貯蔵弾性率が1100MPa以下であり、かつ、60℃における貯蔵弾性率が500MPa以下であることが好ましい。VdF重合体の30℃における貯蔵弾性率が1100MPa以下であり、60℃における貯蔵弾性率が500MPa以下であると、柔軟性がより一層向上する。
VdF重合体の30℃における貯蔵弾性率は、より好ましくは800MPa以下であり、さらに好ましくは600MPa以下である。
VdF重合体の60℃における貯蔵弾性率は、より好ましくは350MPa以下である。
VdF重合体の30℃における貯蔵弾性率は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは150MPa以上であり、さらに好ましくは200MPa以上である。
VdF重合体の60℃における貯蔵弾性率は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは80MPa以上であり、さらに好ましくは130MPa以上である。
VdF重合体の貯蔵弾性率は、PVdFの貯蔵弾性率と同様の方法により測定できる。
【0099】
VdF重合体としては、たとえば、VdF/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/TFE/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/TFE/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE/HFP/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/2-カルボキシエチルアクリレート共重合体、VdF/TFE/HFP/2-カルボキシエチルアクリレート共重合体、VdF/TFE/アクリロイルオキシエチルコハク酸共重合体、VdF/TFE/HFP/アクリロイルオキシエチルコハク酸共重合体等が挙げられる。
【0100】
VdF重合体としては、なかでも、VdF/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/TFE/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/CTFE共重合体およびVdF/CTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0101】
VdF/TFE共重合体は、VdF単位およびTFE単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは50~95モル%であり、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは92モル%以下であり、さらに好ましくは89モル%以下である。TFE単位の含有量としては、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは50~5モル%であり、より好ましくは45モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは8モル%以上であり、さらに好ましくは11モル%以上である。
【0102】
VdF/TFE共重合体は、VdF単位およびTFE単位の他に、VdFおよびTFEと共重合可能な単量体(ただし、VdF、TFEおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびTFEと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0103】
VdFおよびTFEと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびTFEと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0104】
VdF/TFE共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0105】
VdF/TFE共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0106】
VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80~98モル%であり、より好ましくは83モル%以上であり、さらに好ましくは85モル%以上であり、より好ましくは97モル%以下であり、さらに好ましくは96モル%以下である。HFP単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20~2モル%であり、より好ましくは17モル%以下であり、さらに好ましくは15モル%以下であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは4モル%以上である。
【0107】
VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位の他に、VdFおよびHFPと共重合可能な単量体(ただし、VdF、HFPおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0108】
VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く)がさらに好ましい。
【0109】
VdF/HFP共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0110】
VdF/HFP共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0111】
VdF/CTFE共重合体は、VdF単位およびCTFE単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80~98モル%であり、より好ましくは85モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは97.5モル%以下であり、さらに好ましくは97モル%以下である。CTFE単位の含有量としては、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20~2モル%であり、より好ましくは15モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは3モル%以上である。
【0112】
VdF/CTFE共重合体は、VdF単位およびCTFE単位の他に、VdFおよびCTFEと共重合し得る単量体(ただし、VdF、CTFEおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびCTFEと共重合し得る単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0113】
VdFおよびCTFEと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびCTFEと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、TFEがさらに好ましい。
【0114】
VdF/CTFE共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0115】
VdF/CTFE共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0116】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体は、VdF単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80~98モル%であり、より好ましくは85モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは97.5モル%以下であり、さらに好ましくは97モル%以下である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量としては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20~2モル%であり、より好ましくは15モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは3モル%以上である。
【0117】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体は、VdF単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の他に、VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体(ただし、VdF、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび式(1)で表されるペンテン酸を除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0118】
VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(2)(ただし、式(1)で表されるペンテン酸を除く)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0119】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0120】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0121】
結着剤におけるPVdF(A)とVdF重合体(B)との質量比((A)/(B))としては、柔軟性が向上し、粘度が上昇しにくい電極合剤を得ることができることから、好ましくは95/5~10/90であり、より好ましくは90/10以下であり、より好ましくは40/60以上であり、さらに好ましくは45/55以上であり、特に好ましくは50/50以上である。
【0122】
本開示のPVdFおよび結着剤は、二次電池を形成する材料として好適に用いることができる。本開示のPVdFおよび結着剤は、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができることから、二次電池の電極に用いる結着剤として好適である。本開示のPVdFおよび結着剤は、また、二次電池のセパレータコーティングの結着剤として用いることもできる。本開示のPVdFおよび結着剤を用いることによって、高温で保存しても抵抗値が増加しにくく、さらに、充放電を繰り返しても十分な放電容量が維持される二次電池を作製することができる。
【0123】
本開示のPVdFは、二次電池用PVdFであってよい。本開示において、二次電池用PVdFには、二次電池の正極、負極、セパレータに用いるPVdFが含まれる。
また、本開示の結着剤は、二次電池用結着剤であってよい。本開示において、二次電池用結着剤には、二次電池の正極、負極、セパレータに用いる結着剤が含まれる。 二次電池はリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0124】
本開示のPVdFまたは結着剤は、粉末電極材料、水または非水溶剤とともに電極合剤を構成することもできる。本開示のPVdFまたは結着剤を適用する対象となる二次電池は、正極合剤が正極集電体に保持されてなる正極、負極合剤が負極集電体に保持されてなる負極および電解液を備えている。
【0125】
本開示の電極合剤は、上述したPVdFまたは結着剤、粉末電極材料、および、水または非水溶剤を含有する。本開示の電極合剤は、二次電池用電極合剤であってよく、リチウムイオン二次電池用電極合剤であってよい。本開示の電極合剤は、上述したPVdFまたは結着剤を含有することから、PVdFまたは結着剤を高濃度で含有させた場合であっても、集電体への塗工に適した粘度に容易に調整することができるとともに、耐電解液膨潤性および金属箔への密着性に優れており、柔軟性に優れる電極を形成することができる。また、本開示の電極合剤は、上述したPVdFまたは結着剤を含有することから、適度な粘度に調整し、塗工性に優れるものとした場合でも、十分な金属箔(集電体)への密着性および十分な粉末電極材料の保持力を確保することができる。さらに、本開示の電極合剤を用いることによって、高温で保存しても抵抗値が増加しにくく、さらに、充放電を繰り返しても十分な放電容量が維持される二次電池を作製することができる。
【0126】
電極合剤は、正極の作製に用いる正極合剤であってもよく、負極の作製に用いる負極合剤であってもよいが、正極合剤であることが好ましい。本開示の電極合剤から形成される電極材料層は、上述したPVdFまたは結着剤および粉末電極材料を含有するものであれば、正極材料層であってもよいし、負極材料層であってもよい。
【0127】
粉末電極材料は、電池に用いられる粉末電極材料であり、電極活物質を含むことが好ましい。電極活物質は、正極活物質および負極活物質に分けられる。リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限はないが、リチウム複合酸化物が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。上記正極活物質としては、リチウム含有遷移金属リン酸化合物も好ましい。上記正極活物質が、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物等の、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質であることも好ましい。
【0128】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnO等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。上記置換したものとしては、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・マンガン・アルミニウム複合酸化物、リチウム・チタン複合酸化物等が挙げられ、より具体的には、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiMn1.8Al0.2、LiMn1.5Ni0.5、LiTi12、LiNi0.82Co0.15Al0.03等が挙げられる。
【0129】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム含有遷移金属リン酸化合物の具体例としては、たとえば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0130】
特に、高電圧、高エネルギー密度、あるいは、充放電サイクル特性等の観点から、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiNi0.82Co0.15Al0.03、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiFePOが好ましい。
【0131】
また、これら正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いることもできる。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0132】
これら表面付着物質は、たとえば、溶媒に溶解または懸濁させて正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解または懸濁させて正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質表面に付着させることができる。
【0133】
表面付着物質の量としては、正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、上限として好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0134】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作成する際の導電剤との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0135】
正極活物質のタップ密度は、通常1.3g/cm以上、好ましくは1.5g/cm以上、さらに好ましくは1.6g/cm以上、最も好ましくは1.7g/cm以上である。正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極材料層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電剤や結着剤の必要量が増加し、正極材料層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い金属複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極材料層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく特に上限はないが、大きすぎると、正極材料層内における非水系電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、通常2.5g/cm以下、好ましくは2.4g/cm以下である。
【0136】
正極活物質のタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(たとえば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0137】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、最も好ましくは3μm以上で、通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記下限を下回ると、高嵩密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成すなわち活物質と導電剤や結着剤等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引いたりする等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性をさらに向上させることもできる。
【0138】
なお、本開示におけるメジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0139】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、正極活物質の平均一次粒子径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.08μm以上、最も好ましくは0.1μm以上で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.6μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。なお、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0140】
正極活物質のBET比表面積は、0.2m/g以上、好ましくは0.3m/g以上、さらに好ましくは0.4m/g以上で、4.0m/g以下、好ましくは2.5m/g以下、さらに好ましくは1.5m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極材料層形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0141】
BET比表面積は、表面積計(たとえば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0142】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、たとえば、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、また、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0143】
なお、本開示において、正極活物質粉体は1種を単独で用いても良く、異なる組成または異なる粉体物性の2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用しても良い。
【0144】
負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用しても良い。なかでも炭素質材料またはリチウム複合酸化物が安全性の点から好ましく用いられる。
【0145】
金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、放出可能であれば特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0146】
炭素質材料としては、
(1)天然黒鉛、
(2)人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質;炭素質物質{たとえば天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、或いはこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークスおよびこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物(たとえば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、或いは乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直留系重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等分解系石油重質油、さらにアセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジン等のN環化合物、チオフェン、ビチオフェン等のS環化合物、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、これらのものの不溶化処理品、含窒素性のポリアクリロニトリル、ポリピロール等の有機高分子、含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子、セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キトサン、サッカロースに代表される多糖類等の天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂)およびこれらの炭化物、または炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液およびこれらの炭化物}を400から3200℃の範囲で一回以上熱処理された炭素質材料、
(3)負極材料層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質から成り立ちかつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
(4)負極材料層が少なくとも2種類以上の異なる配向性を有する炭素質から成り立ちかつ/又はその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
から選ばれるものが初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスが良く好ましい。
【0147】
電極活物質(正極活物質または負極活物質)の含有量は、得られる電極の容量を増やすために、電極合剤中40質量%以上が好ましい。
【0148】
上記粉末電極材料は、さらに導電剤を含んでもよい。導電剤としては、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類やグラファイト等の炭素材料、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。
【0149】
電極合剤中の粉体成分(活物質および導電剤)と上述したPVdFまたは結着剤との割合は、通常、質量比で80:20~99.5:0.5程度であり、粉体成分の保持、集電体への接着性、電極の導電性を考慮して決められる。
【0150】
上述のような配合割合では、集電体上に形成される電極材料層では、上述したPVdFまたは結着剤は、粉体成分間の空隙を完全に充填することはできないが、溶媒としてPVdFまたは結着剤を良く溶解または分散する液体を用いると、乾燥後の電極材料層において、PVdFまたは結着剤が均一に分散、編み目状になり、粉体成分をよく保持するので好ましい。
【0151】
上記液体としては、水または非水溶剤を挙げることができる。非水溶剤としては、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;さらに、それらの混合溶剤等の低沸点の汎用有機溶剤を挙げることができる。
なかでも、上記液体としては、電極合剤の安定性、塗工性に優れている点から、N-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0152】
上記電極合剤中の上記液体の量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。通常、PVdFまたは結着剤と上記液体との割合は、質量比で0.5:99.5~20:80が好ましい。
【0153】
また、上述したPVdFまたは結着剤は、上記液体に対する速やかな溶解または分散を可能とするために、平均粒径1000μm以下、特に50~350μmの、小粒径で使用に供することが望ましい。
【0154】
上記電極合剤は、集電体との接着性をさらに向上させるため、たとえば、ポリメタクリレート、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミド系樹脂等をさらに含んでいてもよい。また、架橋剤を添加し、γ線や電子線等の放射線を照射して架橋構造を形成させてもよい。架橋処理法としては放射線照射に留まらず、他の架橋方法、たとえば熱架橋が可能なアミン基含有化合物、シアヌレート基含有化合物等を添加して熱架橋させてもよい。
【0155】
上記電極合剤は、電極スラリーの分散安定性を向上させるために、界面活性作用等を有する樹脂系やカチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の分散剤を添加してもよい。
【0156】
電極合剤におけるPVdFまたは結着剤の含有量としては、電極合剤の質量に対して、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%である。
【0157】
電極合剤を調製する方法としては、PVdFまたは結着剤を上記液体に溶解または分散させた溶液または分散液に上記粉末電極材料を分散、混合させるといった方法が挙げられる。そして、得られた電極合剤を、金属箔、金属網等の集電体に均一に塗布、乾燥、必要に応じてプレスして集電体上へ薄い電極材料層を形成し薄膜状電極とする。
【0158】
そのほか、PVdFまたは結着剤の粉末と電極材料の粉末とを先に混合した後、上記液体を添加し電極合剤を作製してもよい。また、PVdFまたは結着剤の粉末と電極材料の粉末とを加熱溶融し、押出機で押し出して薄膜の電極合剤を作製しておき、導電性接着剤や汎用有機溶剤を塗布した集電体上に貼り合わせて電極シートを作製することもできる。さらに、予め予備成形した電極材料にPVdFまたは結着剤の粉末と電極材料の粉末との溶液または分散液を塗布してもよい。このように、PVdFまたは結着剤としての適用方法は特に限定されない。
【0159】
本開示の電極は、上述したPVdFまたは結着剤を含有する。本開示の電極は、上述したPVdFまたは結着剤を含有することから、高密度化のため粉末電極材料を厚塗りし捲回、プレスしても電極が割れることがなく、粉末電極材料の脱落や集電体からの剥離もない。さらに、本開示の電極は、耐電解液膨潤性にも優れている。また、上記電極を用いることにより、高温で保存しても抵抗値が増加しにくく、充放電を繰り返しても十分な放電容量が維持される二次電池を作製することができる。
【0160】
上記電極は、集電体と、当該集電体上に形成された、上記粉末電極材料および上述したPVdFまたは結着剤を含有する電極材料層とを備えることが好ましい。上記電極は、正極であっても負極であってもよいが、正極であることが好ましい。
【0161】
集電体(正極集電体および負極集電体)としては、たとえば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等が挙げられる。中でも、正極集電体としては、アルミ箔等が好ましく、負極集電体としては銅箔等が好ましい。
【0162】
本開示の電極は、たとえば上述した方法によって製造することができる。上記の電極合剤は塗工性に優れるものであるため、本開示の電極を上記の電極合剤を用いて作製することにより、平滑で均一な厚い電極材料層を備える電極を容易に作製することができる。
【0163】
本開示の二次電池は、上述した電極を備える。本開示の二次電池においては、正極および負極の少なくとも一方が、上述した電極であればよく、正極が上述した電極であることが好ましい。二次電池はリチウムイオン二次電池であることが好ましい。本開示の二次電池は、低い抵抗上昇率および高い容量維持率を示す。
【0164】
本開示の二次電池は、さらに非水系電解液を備えることが好ましい。上記非水系電解液は特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒の1種または2種以上が使用できる。電解質も従来公知のものがいずれも使用でき、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、炭酸セシウム等を用いることができる。
【0165】
また、正極と負極との間にセパレータを介在させてもよい。セパレータとしては、従来公知のものを使用してもよいし、上述したPVdFまたは結着剤をコーティングに使用したセパレータを使用してもよい。
【0166】
二次電池(好ましくはリチウムイオン二次電池)の正極、負極およびセパレータの少なくとも1つに上述したPVdFまたは結着剤を用いることも好ましい。
【0167】
上述したPVdFまたは結着剤からなる二次電池用フィルムも、本開示の好適な形態の1つである。
【0168】
基材と、当該基材上に形成された、上述したPVdFまたは結着剤からなる層とを有する二次電池用積層体も、本開示の好適な形態の1つである。上記基材としては、上記集電体として例示したものや、二次電池のセパレータに用いられる公知の基材(多孔質膜等)等が挙げられる。
【0169】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0170】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0171】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0172】
(ポリマー組成)
PVdFにおけるペンテン酸単位の含有量は、ペンテン酸単位のカルボキシル基をエステル化することによりエステル基に変換した後、H-NMRを用いてエステル化したPVdFを分析することによって測定した。具体的には、400mgのPVdF、10mgのトリメチルシリルジアゾメタンおよび3mgのメタノールを25℃で12時間反応させ、得られたポリマーをメタノールで洗浄し、70℃で24時間真空乾燥させた後、H-NMRを用いて乾燥させたポリマーを分析し、H-NMRの3.7ppmのスペクトルから求めた。
【0173】
(溶液粘度)
PVdF(結着剤)のNMP溶液(5質量%)を調製した。B型粘度計(東機産業社製、TV-10M)を用いて、25℃、ロータNo.M4、回転速度6rpmの条件にて、測定開始から10分経過後のNMP溶液の粘度を測定した。
【0174】
(重量平均分子量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。東ソー社製のAS-8010、CO-8020、カラム(GMHHR-Hを3本直列に接続)および島津製作所社製RID-10Aを用い、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を流速1.0ml/分で流して測定したデータ(リファレンス:ポリスチレン)より算出した。
【0175】
(融点)
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後10℃/分で30℃まで降下させ、再度10℃/分の速度で220℃まで昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度を、融点として求めた。
【0176】
(耐電解液膨潤性)
PVdF(結着剤)のNMP溶液(8質量%)を、ガラス製シャーレ上にキャストし、100℃で6時間真空乾燥を行って、厚み200μmフィルムを作製した。得られたフィルムを10mmΦの大きさに切り取り、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの3/7(体積比)の溶媒にLiPFを1M濃度で溶解した溶液)が入ったサンプル瓶に入れ、60℃で1週間静置した後、次式より重量増加率を求めることで、耐電解液膨潤性を評価した。
重量増加率(%)=(電解液浸漬後のフィルム重量/電解液浸漬前のフィルム重量)×100
【0177】
(正極合剤の粘度)
正極合剤を調製した後、速やかに正極合剤の粘度を測定した。B型粘度計(東機産業社製、TV-10M)を用いて、25℃、ロータNo.M4、回転速度6rpmの条件にて、測定開始から10分経過後の正極合剤の粘度を測定した。
【0178】
(正極材料層の密度)
正極材料層の密度は、正極材料層の面積、膜厚および重量を測定し、これらの値から算出した。
【0179】
(正極の正極材料層と正極集電体との剥離強度)
正極を切り取ることにより、1.2cm×7.0cmの試験片を作製した。試験片の正極材料層側を両面テープで可動式治具に固定した後、正極集電体の表面にテープを張り、100mm/分の速度でテープを90度に引っ張った時の応力(N/cm)をオートグラフにて測定した。オートグラフのロードセルには1Nを用いた。
【0180】
(正極の柔軟性)
正極を切り取ることにより、2cm×10cmの試験片を作製し、直径3.0mmの丸棒に巻き付けて、正極を目視で確認し、以下の基準で評価した。
〇:ひび割れおよび破断が観察されなかった。
△:正極材料層にひび割れが観察されたが、正極材料層および集電体の破断は観察されなかった。
×:正極材料層および集電体が破断していた。
【0181】
(サイクル容量維持率)
実験例で作製したアルミラミネートセル(二次電池)を用いて、サイクル容量維持率を測定した。二次電池を、25℃において、0.5Cに相当する定電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.1Cになるまで充電を実施し、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを3サイクル行って電池を安定させた。その後、二次電池を、0.5Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.1Cになるまで充電を実施し、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電し、初期放電容量を求めた。同様の方法で充放電を行い、300サイクル後の放電容量を測定した。下記式に基づき、300サイクル後の放電容量の初期放電容量に対する割合を求め、これをサイクル容量維持率(%)とした。結果を表2に示す。
(300サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)×100=サイクル容量維持率(%)
【0182】
実施例1
内容積2.5リットルのオートクレーブに、純水1,546g、メチルセルロース1.5g、4-ペンテン酸1ml、メタノール2ml、およびジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1gと共に、VdF668gを仕込み、1.5時間かけて31℃まで昇温した後、31℃を9時間維持した。この間の最高到達圧力は7MPaGであった。
【0183】
31℃への昇温完了時から9時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0184】
実施例2
内容積2.5リットルのオートクレーブに、純水1,700g、メチルセルロース1.7g、4-ペンテン酸2ml、メタノール2ml、およびジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1gと共に、VdF520gを仕込み、1.5時間かけて36℃まで昇温した後、36℃を30時間維持した。この間の最高到達圧力は7MPaGであった。
【0185】
36℃への昇温完了時から30時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0186】
実施例3
内容積2.5リットルのオートクレーブに、純水1,700g、メチルセルロース1.7g、4-ペンテン酸2ml、メタノール2ml、およびジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1gと共に、VdF520gを仕込み、1.5時間かけて36℃まで昇温した後、36℃を37時間維持した。この間の最高到達圧力は7MPaGであった。
【0187】
36℃への昇温完了時から37時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0188】
実施例4
内容積2.5リットルのオートクレーブに、純水1,700g、メチルセルロース1.7g、4-ペンテン酸2ml、メタノール2ml、およびジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1gと共に、VdF520gを仕込み、1.5時間かけて36℃まで昇温した後、36℃を39時間維持した。この間の最高到達圧力は7MPaGであった。
【0189】
36℃への昇温完了時から39時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0190】
実施例5
内容積2リットルのオートクレーブに、純水700g、メチルセルロース0.35g、4-ペンテン酸0.8ml、メタノール1.0ml、およびt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート2.0gと共に、VdF357gを仕込み、1.5時間かけて72℃まで昇温した後、72℃を18時間維持した。この間の最高到達圧力は7.9MPaGであった。
【0191】
72℃への昇温完了時から18時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0192】
比較例1
内容積2.5リットルのオートクレーブに、純水839g、メチルセルロース0.84g、メタノール2ml、およびジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1gと共に、VdF1173gを仕込み、1.5時間かけて31℃まで昇温した後、31℃を3時間維持した。この間の最高到達圧力は7MPaGであった。
【0193】
31℃への昇温完了時から3時間後に重合を終了した。重合終了後、得られた重合体スラリーを回収し、脱水および水洗し、さらに118℃で12時間乾燥して、PVdFの粉末を得た。
【0194】
実験例
(正極合剤の調製)
NMP溶液中のPVdF(結着剤)の濃度が8質量%になるように、実施例および比較例で得られたPVdF(結着剤)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させて、NMP溶液を調製した。得られたNMP溶液に、正極活物質(NMC(811)(LiNi0.8Mn0.1Co0.1))および導電剤(アセチレンブラック(AB))を加え、撹拌機で十分に混合して、正極合剤を調製した。正極合剤における、正極活物質、導電剤およびPVdF(結着剤)の質量比は、96/2/2であった。また、正極合剤の固形分濃度は、表1に記載するとおりであった。
【0195】
(正極の作製)
得られた正極合剤を、正極集電体(厚さ20μmのアルミ箔)の片面に、塗布量が22.5mg/cmとなるように均一に塗布し、NMPを完全に揮発させた後、ロールプレス機を用いて、10tの圧力を印加してプレスすることにより、正極材料層および正極集電体を備える正極を作製した。正極材料層の密度は、2.75g/ccであった。
【0196】
(電解液の調製)
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるエチルメチルカーボネートを、体積比30対70になるように混合し、これにLiPFを1.0モル/リットルの濃度となるように添加し、これにビニレンカーボネートを2質量%添加することで非水電解液を得た。
【0197】
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記で得られた正極を、幅50mm、長さ30mmの塗工部(正極材料層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出した。
【0198】
人造黒鉛98質量部に、増粘剤および結着剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部およびスチレンブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレンブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、幅52mm、長さ32mmの塗工部(負極材料層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0199】
上記の正極と負極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、アルミラミネートセル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0200】
評価結果を表1に示す。
【0201】
【表1】