(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026590
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】窒化珪素基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20240220BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240220BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C04B35/587
H01L23/12 J
H01L23/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221990
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2021067895の分割
【原出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020128406
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501415752
【氏名又は名称】日本ファインセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 恵介
(72)【発明者】
【氏名】有馬 聡平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 照久
(57)【要約】
【課題】厚さ方向において熱伝導性に優れた窒化珪素基板を提供する。
【解決方法】本発明の窒化珪素基板は、基板面にX線を照射した際に、β-Si
3N
4の
X線回折ピークを有し、窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si
3N
4粒子の
長軸(c軸)の割合を示す配向度faが0~0.3の範囲であって、厚さ方向の熱伝導率
が80W/m・K以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面にX線を照射した際に、β-Si3N4のX線回折ピークを有し、
窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の長軸(c軸)の割合を
示す配向度faが0~0.3の範囲に含まれ、
厚さ方向の熱伝導率が80W/m・K以上である
窒化珪素基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さ方向に優れた熱伝導性を有する窒化珪素基板およびその製造方法に関す
る。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化珪素(Si3N4)基板をパワー半導体等の半導体回路基板に適用すること
が試みられている。半導体回路基板としては、アルミナ(Al2O3)基板、窒化アルミ
ニウム(AlN)基板が使用されている。アルミナ基板は熱伝導率が30W/m・K程度
であるが、低コスト化が可能である。また、窒化アルミニウム基板は熱伝導率が160W
/m・K以上となる高熱伝導化が可能である。一方、窒化珪素基板としては、熱伝導率が
50W/m・K以上の基板が開発されている。
【0003】
窒化珪素基板は、窒化アルミニウム基板と比較して熱伝導率は低いが、3点曲げ強度が
500MPa以上と優れている。窒化アルミニウム基板の3点曲げ強度は通常300~4
00MPa程度であり、熱伝導率が高くなるほどに強度が下がる傾向にある。高強度の利
点を生かすことにより窒化珪素基板は薄型化が可能である。基板の薄型化により熱抵抗を
下げることが可能になるので放熱性が向上する。
【0004】
このような特性を生かして窒化珪素基板は、金属板などの回路部を設けて回路基板とし
て広く使用されている。また、国際公開番号WO2011/010597号パンフレット
(特許文献1)に示したような圧接構造用の回路基板として使用する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2011/010597号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、窒化珪素基板は、上述のように窒化アルミニウム等と比較して熱伝導率
が低いために、半導体回路基板に使用した場合に半導体チップで発生する熱をヒートシン
クに効率的に逃がすことができず、半導体回路基板に投入できる電力も制限されていた。
したがって、窒化珪素基板は特に厚さ方向においてより高い熱伝導性を有することが求め
られている。
【0007】
本発明は、厚さ方向において熱伝導性に優れた窒化珪素基板を提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明は、基板面にX線を照射した際に、β-Si3N4のX
線回折ピークを有し、窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の長
軸(c軸)の割合を示す配向度faが0~0.3の範囲であって、厚さ方向の熱伝導率が
80W/m・K以上であることを特徴とする、窒化珪素基板に関する。
【0009】
fa=(P-P0)/(1-P0) ‥(1)。
【0010】
式(1)において、Pは、式(2)で表され、前記β型窒化珪素基板における(10°
≦2θ≦80°)の範囲でc軸に関連するすべてのX線回析線強度比(具体的に(101
)面、(111)面、(201)面、(121)面、(301)面、(221)面、(1
31)面、(002)面、(401)面、(102)面、(112)面、(231)面、
(202)面、(141)面、(212)面、(302)面、(501)面)のX線回析
強度が対象)、P0は、式(3)で表され、β型窒化珪素粉末における(10°≦2θ≦
80°)の範囲でc軸に関連するすべてのX線回析線強度比(具体的に(101)面、(
111)面、(201)面、(121)面、(301)面、(221)面、(131)面
、(002)面、(401)面、(102)面、(112)面、(231)面、(202
)面、(141)面、(212)面、(302)面、(501)面)のX線回析強度が対
象)を意味している。
【0011】
P=(I(101)+I(111)+I(201)+I(121)+I(301)+I
(221)+I(131)+I(002)+I(401)+I(102)+I(112)
+I(231)+I(202)+I(141)+I(212)+I(302)+I(50
1))/(I(100)+I(110)+I(200)+I(101)+I(120)+
I(111)+I(300)+I(201)+I(220)+I(121)+I(130
)+I(301)+I(400)+I(221)+I(131)+I(230)+I(0
02)+I(140)+I(401)+I(102)+I(112)+I(231)+I
(202)+I(500)+I(141)+I(330)+I(212)+I(240)
+I(302)+I(501))‥(2)。
【0012】
P0=(I0(101)+I0(111)+I0(201)+I0(121)+I0(
301)+I0(221)+I0(131)+I0(002)+I0(401)+I0(
102)+I0(112)+I0(231)+I0(202)+I0(141)+I0(
212)+I0(302)+I0(501))/(I0(100)+I0(110)+I
0(200)+I0(101)+I0(120)+I0(111)+I0(300)+I
0(201)+I0(220)+I0(121)+I0(130)+I0(301)+I
0(400)+I0(221)+I0(131)+I0(230)+I0(002)+I
0(140)+I0(401)+I0(102)+I0(112)+I0(231)+I
0(202)+I0(500)+I0(141)+I0(330)+I0(212)+I
0(240)+I0(302)+I0(501))‥(3)。
【0013】
また、本発明は、珪素粉末、焼結助剤および分散媒を混合してスラリーを作製する工程
と、前記スラリーからシート体を成形する工程と、前記シート体を窒素含有雰囲気中で熱
処理して、前記シート体中の珪素を窒化させ、窒化珪素を形成する工程と、前記窒化珪素
を含む前記シート体を焼結して、窒化珪素基板を製造する工程と、を含み、少なくとも前
記窒化珪素を形成する工程において、焼結助剤の揮発を制御し前記焼結助剤の移動の方向
である厚み方向に窒化ケイ素粒子を配向させることを特徴とする、窒化珪素基板の製造方
法に関する。
【0014】
本発明によれば、窒化工程を経て珪素から窒化珪素、さらには焼結工程を経て窒化珪素
基板を得る際に、少なくとも窒化珪素を得る際に焼結助剤の揮発を促すようにしている。
したがって、焼結助剤の揮発による拡散移動により、生成した窒化珪素β粒子は厚さ方向
に配向するようになる。
【0015】
結果として、基板面にX線を照射した際に、β-Si3N4のX線回折ピークを有し、
窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の長軸(c軸)の割合を示
す配向度faが0~0.3の範囲の窒化珪素基板が得られる。この基板は、厚さ方向の熱
伝導率が80W/m・K以上であるので、従来の窒化珪素基板に比較して高い熱伝導率を
有する。
【0016】
したがって、半導体回路基板に使用した場合にも半導体チップで発生する熱をヒートシ
ンクに効率的に逃がすことができ、半導体回路基板に投入できる電力を向上させることが
できるようになる。すなわち、窒化珪素基板の優れた強度と相俟ってパワー半導体を初め
とする種々の半導体回路基板に対して適用することができる。
【0017】
本発明の窒化珪素基板およびその製造方法において、焼結助剤は、希土類酸化物および
マグネシウム化合物の少なくとも一方であることが好ましい。これによって、上述した焼
結助剤から生成した液相の厚さ方向の移動が促進されるので、上述した作用効果をより顕
著に奏することができる。
【0018】
また、本発明の窒化珪素基板においては、3点法による抗折強度が500MPa以上で
あり、厚さが0.1~1.2mmであることが好ましい。これによって、実用に足る強度
の窒化珪素基板を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明の窒化珪素基板においては、主面の大きさが400~40000mm2
であり、密度が3.15~3.40g/cm3であり、絶縁耐圧が20kV/mm以上で
あることが好ましい。この場合、実用に足る絶縁耐力の窒化珪素基板を得ることができる
。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、厚さ方向において熱伝導性に優れた窒化珪素基
板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】β-Si3N4の結晶系を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態における窒化珪素基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、β-Si3N4の結晶系を示す概略図であり、
図2は、本発明の実施形態にお
ける窒化珪素基板の概略断面図である。
【0023】
本発明の窒化珪素基板は、窒化珪素の含有量が85質量%以上であることが好ましく、
より好ましくは87質量%以上である。これによって、以下に説明するように、窒化珪素
の結晶系(結晶構造)に起因して、窒化珪素基板の厚さ方向の熱伝導率が向上するように
なる。窒化珪素の含有量が85質量%未満であると、上記窒化珪素の割合が少なくなるた
めに窒化珪素基板の厚さ方向の熱伝導率の向上が不十分となる。
【0024】
また、窒化珪素の含有量が95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは93
質量%以下である。窒化珪素の含有量が95質量%を超えると、窒化珪素基板に含有され
る焼結助剤の含有量が減少するために、液相の量が減少し、分離剤層中に向かう垂直方向
の液相の移動が減少するので、生成した窒化珪素が窒化珪素基板の厚さ方向に配向するの
が困難になり、窒化珪素基板の厚さ方向の熱伝導率を向上させることができない。
【0025】
本発明の窒化珪素基板において、焼結助剤の含有量は5質量%以上であることが好まし
く、より好ましくは7質量%以上である。焼結助剤を5質量%以上の割合で含むことによ
り、以下に説明するように、窒化珪素基板を焼結して製造する際の液相の割合が最適化さ
れ、窒化珪素粒子が厚さ方向に垂直に配向するとともに、窒化珪素の割合が最適化され、
窒化珪素基板の厚さ方向における熱伝導率が向上する。
【0026】
一方、本発明の窒化珪素基板において、焼結助剤の含有量は15質量%以下であること
が必要である。焼結助剤を15質量%を超えて含有すると、窒化珪素の割合が減少するの
で、窒化珪素に由来する窒化珪素基板の厚さ方向における熱伝導率が減少する。
【0027】
なお、本発明の窒化珪素基板は、上述のような窒化珪素や焼結助剤に加えて、不可避的
不純物を含む。この不可避的不純物とは、例えば窒化珪素基板の製造過程で使用する分散
媒としての有機溶媒やバインダー、可塑剤等の添加剤等である。
【0028】
本発明の窒化珪素基板は、基板面にX線を照射した際に、β-Si3N4のX線回折ピ
ークを有し、窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の長軸(c軸
)の割合を示す配向度faが0~0.3範囲であることが好ましい。
【0029】
図1に示すように、β-Si3N4の結晶系(結晶構造)は、(200)面および(1
20)面含む複数の面を側面に有し、(002)面を端面に有する六角柱状である。した
がって、基板面にX線を照射した際に、窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-S
i3N4粒子の割合を示す配向度faが0~0.3の範囲であるということは、窒化珪素
基板の厚さ方向において、β-Si3N4粒子が優先的に配向し、
図2に示すような形態
で、窒化珪素基板10内に柱状のβ―Si3N4粒子11の大部分が厚さ方向に配向して
いることを意味する。なお、参照数字12は焼結助剤等に起因した粒界相を示す。
【0030】
本来的に、窒化珪素粒子の熱伝導率は、六角柱の長さ方向においてその他の方向よりも
高くなる。すなわち、本発明では、例えば
図2に示すように、六角柱状の窒化珪素(β-
Si3N4)が窒化珪素基板の厚さ方向に沿って配向する割合が高くなる。したがって、
本発明では、厚さ方向において高熱伝導率を呈することができる。
【0031】
なお、窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の割合を示す配向
度faが0未満、すなわち負の範囲では、面方向への配向が強くなり、上述した作用効果
を十分に奏することができず、窒化珪素基板の厚さ方向において高い熱伝導率を得ること
ができない。また、配向度faの上限は現状では0.3であるが熱伝導率の観点からは高
いほど好ましい。但し、この比があまり高くなりすぎると、厚さ方向における破壊強度等
の機械的強度が低下するようになる。
【0032】
本発明の窒化珪素基板においては、厚さ方向の熱伝導率が80W/m・K以上であり、
好ましくは85W/m・K以上である。これによって、本発明の窒化珪素基板を半導体回
路基板に使用した場合にも、半導体チップで発生する熱をヒートシンクに効率的に逃がす
ことができ、半導体回路基板に投入できる電力を向上させることができるようになる。す
なわち、窒化珪素基板の優れた強度と相俟ってパワー半導体を初めとする種々の半導体回
路基板に対して適用することができる。
【0033】
なお、上記熱伝導率は、本発明の窒化珪素基板が上述した窒化珪素および焼結助剤の含
有量、並びにX線回折の要件を満足することにより得ることができる。
【0034】
また、本発明の窒化珪素基板においては、3点法による抗折強度が500MPa以上で
あり、厚さが0.1~1.2mmであることが好ましい。これによって、実用に足る強度
の窒化珪素基板を得ることができる。また、後述の表1に示すように、本発明の窒化珪素
基板においては、3点法による抗折強度として650MPa以上、好ましくは700MP
a以上を有し得る。
【0035】
さらに、本発明の窒化珪素基板においては、主面の大きさが400~40000mm2
であり、密度が3.15~3.40g/cm3であり、絶縁耐圧が20kV/mm以上で
あることが好ましい。この場合、実用に足る絶縁耐力の窒化珪素基板を得ることができる
。
【0036】
次に本発明の窒化珪素基板の製造方法について説明する。
【0037】
最初に、原料として、珪素粉末、焼結助剤粉末を用意する。珪素粉末は、例えばメジア
ン径D50が50μm以下であり、不純物酸素含有量が0.6質量%以下であることが好
ましい。なお、焼結助剤の量は、珪素粉末100質量部に対して15質量部であることが
好ましい。
【0038】
焼結助剤は、例えばメジアン径D50が10μm以下の金属化合物粉末であることが好ま
しい。金属化合物粉末としては、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムなどの
酸化物が挙げられるが、より好ましくは希土類元素酸化物、マグネシウム化合物(マグネ
シア等)である。これらの焼結助剤は流動性に優れるため、以下に説明するような流体挙
動を呈し、窒化珪素(粒子)を厚さ方向に配向しやすくする。
【0039】
次いで、珪素粉末および焼結助剤に分散媒を添加して、例えばボールミルでメディア分
散し、粉砕混合してスラリーを作製する。分散媒としては、トルエン、エタノール、ブタ
ノール等の有機溶媒を用いることができる。
【0040】
次いで、上記スラリーに対して、必要に応じてバインダー、可塑剤などを添加し、さら
に真空脱泡してスラリーの粘度調整を行う。バインダーとしては、ブチルメタクリレート
、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート等の有機バインダーを用いることが
できる。
【0041】
次いで、粘度調整したスラリーをドクターブレード法、ロール法等のシート成形法によ
りシート状に成形し、例えば厚さ0.2~1.5mmのシート体を形成する。なお、当該
シート体は、例えばスラリーをフィルム上に塗布して形成した後、乾燥後にフィルムを除
去して得られる。
【0042】
次いで、必要に応じて当該シート体の主面上にセラミック粉末および分散媒からなるス
ラリーを塗布し分離剤層を形成する。なお、分散媒としては、上記同様に、トルエン、エ
タノール、ブタノール等の有機溶媒を用いることができる。また、塗布方法としては、ス
プレー法、バーコート法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0043】
次いで、必要に応じてシート体の脱脂を、例えば非酸化性雰囲気中、600℃以下の温
度で数時間行う。その後、上記シート体を窒素含有雰囲気中、1200~1500℃の温
度で2~8時間保持することにより、シート体を構成する珪素の窒化を行い、窒化珪素を
形成する。なお、窒素含有雰囲気中の窒素分圧は例えば0.05~0.5MPaとする。
【0044】
次いで、同じく窒素含有雰囲気中、1800~1950℃の温度で6~24時間保持す
ることにより、窒化珪素の焼結を行う。
【0045】
なお、本発明では窒化焼結工程において重石板を使用するが、(1)珪素の窒化の際に
、重石板を用いずに上面をフリーの状態にしておき、焼結の際にのみ重石板を用いる方法
や(2)重石板として多孔質板を用い、珪素の窒化および窒化珪素の焼結と連続して成形
体に荷重をかける方法、(3)あるいは重石板として緻密板を用い、成形体と緻密板との
間に分離剤層を設ける方法などがある。
【0046】
分離剤層はセラミック粉末から構成するが、窒化および焼結において熱的に安定であっ
て、焼結完了後に、緻密板を分離できるものであれば特に限定されるものではないが、窒
化硼素が好ましい。
【0047】
また、セラミック粉末として窒化硼素を用いる場合、その純度は95%以上であること
が好ましく、その平均粒径は5~20μmであることが好ましい。また、分離剤層の厚さ
は10~60μm、あるいは20~60μmであることが好ましい。
【0048】
分離剤層が主面上に形成されたシート体を、当該分離剤層を介して複数積層させること
もできる。この場合、上述した窒化および焼結の工程を経ることにより、複数の窒化珪素
基板を同時に製造することができる。
【0049】
結果として、基板面にX線を照射した際に、β-Si3N4のX線回折ピークを有し、
窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ-Si3N4粒子の長軸(c軸)の割合を示
す配向度faが0~0.3範囲である窒化珪素基板が得られるようになる。
【0050】
(実施例)
【0051】
(実施例1)
金属Si粉末および焼結助剤(希土類酸化物およびマグネシウム化合物)、分散剤(ポ
リオキシアルキレン型分散剤)、ならびに、分散媒(エタノール、ブタノール)を、ボー
ルミルを用いて35時間にわたり混合した。金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化
珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0.89:0.11となるよう調節された。その
後、当該混合物に、分散媒(エタノール、メチルエチルケトン)、有機バインダー(アク
リル樹脂)および可塑剤を追加して再混合することによりスラリーを作製した。続いて、
作製したスラリーをボールミルより取り出し、脱泡機に移した後、真空脱泡によりスラリ
ーの粘度を調整し、シート状に成形して100×100×t0.38mmのシート成形体
が作製された。シート成形法としてドクターブレード法が採用された。
【0052】
その後、窒化硼素からなるセラミックスラリーをシート成形体に塗布することにより厚
さ10μmの分離剤層を当該シート成形体の表面に形成した後、シート成形体に対して非
酸化性雰囲気において550℃で脱脂処理を施した。
【0053】
次に、窒化硼素からなる分離剤層が主面に形成されたシート成形体に対して、窒素分圧
0.2MPaの窒素含有雰囲気において1400℃で2時間にわたり窒化処理を施した。
さらに、窒素分圧0.7MPaの窒素含有雰囲気において1820℃で9時間にわたり焼
結し、実施例1の窒化珪素基板を作製した。
【0054】
(実施例2)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.895:0.105となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ20μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
1と同様の作製条件にしたがって実施例2の窒化珪素基板を作製した。
【0055】
(実施例3)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.878:0.122となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ25μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
1と同様の作製条件にしたがって実施例3の窒化珪素基板を作製した。
【0056】
(実施例4)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.885:0.115となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ35μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
1と同様の作製条件にしたがって実施例4の窒化珪素基板を作製した。
【0057】
(実施例5)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.883:0.117となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ35μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
1と同様の作製条件にしたがって実施例5の窒化珪素基板を作製した。
【0058】
(実施例6)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.885:0.115となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ50μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
1と同様の作製条件にしたがって実施例6の窒化珪素基板を作製した。
【0059】
(実施例7)
シート成形体の表面に分離剤層がない状態でシート成形体に対して脱脂処理が施され、
シート成形体が重石板のない状態で焼結されたほかは、実施例1と同様の作製条件にした
がって実施例7の窒化珪素基板を作製した。
【0060】
(実施例8)
シート成形体の表面に分離剤層に代えて気孔率40%の多孔質板が形成され、その状態
でシート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例1と同様の作製条件にしたが
って実施例8の窒化珪素基板を作製した。
【0061】
(実施例9)
シート成形体の表面に分離剤層に代えて気孔率15%の半緻密質板が形成され、その状
態でシート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例1と同様の作製条件にした
がって実施例8の窒化珪素基板を作製した。
【0062】
(実施例10)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.921:0.079となるよう調節され、240×180×t0.29mmのシート成
形体が作製され、シート成形体の表面に厚さ20μmの分離剤層が形成され、その状態で
当該シート成形体に対して脱脂処理が施され、窒素分圧0.7MPaの窒素含有雰囲気に
おいて1840℃で12時間にわたり焼結されたほかは、実施例1と同様の作製条件にし
たがって実施例10の窒化珪素基板を作製した。
【0063】
(実施例11)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.92:0.08となるよう調節され、窒素分圧0.7MPaの窒素含有雰囲気において
1830℃で12時間にわたり焼結されたほかは、実施例10と同様の作製条件にしたが
って実施例11の窒化珪素基板を作製した。
【0064】
(実施例12)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.926:0.074となるよう調節され、240×180×t0.38mmのシート成
形体が作製され、シート成形体の表面に厚さ10μmの分離剤層が形成され、その状態で
当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例11と同様の作製条件にし
たがって実施例12の窒化珪素基板を作製した。
【0065】
(実施例13)
金属Si粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量の質量比で0
.927:0.073となるよう調節され、シート成形体の表面に厚さ20μmの分離剤
層が形成され、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施されたほかは、実施例
12と同様の作製条件にしたがって実施例13の窒化珪素基板を作製した。
【0066】
(比較例)
【0067】
(比較例1)
金属Si粉末窒化珪素粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量
の質量比で0.909:0.091となるよう調節され、100×100×t0.38m
mのシート成形体が作製され、シート成形体の表面に厚さ35μmの分離剤層が形成され
、その状態で当該シート成形体に対して脱脂処理が施され、窒素分圧0.7MPaの窒素
含有雰囲気において1820℃で9時間にわたり焼結し窒化珪素基板を作製した。された
ほかは、実施例1と同様の作製条件にしたがって比較例1の窒化珪素基板を作製した。
【0068】
(比較例2)
金属Si粉末窒化珪素粉末および焼結助剤が焼結後の窒化珪素含有量と焼結助剤含有量
の質量比で0.904:0.096となるよう調節されたほかは、比較例1と同様の作製
条件にしたがって比較例2の窒化珪素基板を作製した。
【0069】
(評価方法)
各実施例および各比較例の窒化珪素基板の特性を次のように評価した。
【0070】
(X線回折ピーク強度による配向度)
X線回折は、40kV、15mAで励起したCu-Kα線を用いて、θ-2θ法による
走査を、0.01°のステップ幅で測定を行った。
【0071】
(元素分析)
Si、N、Mgおよび希土類元素の定量分析は、Rigaku社製ZSX Primu
sIIを用いて蛍光X線分析法により行なった。一方、Oの分析は、HORIBA社製E
MGAー920を用いて不活性ガス融解―非分散型赤外線吸収(NDIR)法により行な
った。SiおよびNの量および量比よりSiNの含有量を計算し、MgおよびOの量およ
び量比、並びに希土類元素およびOの量および量比より焼結助剤の量を計算した。
【0072】
(熱伝導率)
熱拡散率の測定は、フラッシュ法により、NETZSCH社製LFA 467 Hyp
erFlash装置を用いて行なった。本装置にて、パルス幅20μsecのキセノンフ
ラッシュ光を照射することにより、IR検出器でAC温度応答を測定し、その温度応答の
振幅と位置に対する減衰率から熱拡散率を算出した。10mm×10mmのサイズの試験
片の表面に黒化処理が施されたうえで測定が実施された。
【0073】
(密度測定)
密度測定にはアルキメデス法により行なった。
【0074】
(3点法による抗折強度)
3点曲げ強度は、4mm×35mmの試験片に対して、JIS R1601:2008
にしたがって、室温(25℃)にて、2支点間の間隔が30mmで、2支点の中間点から
曲げたときの3点曲げ強度として測定し、10個の試験片の3点曲げ強度の平均値とした
。
【0075】
表1には、各実施例および各比較例の窒化ケイ素基板の作製条件の一部および当該評価
結果がまとめて示されている。
【0076】
【0077】
シート体の片主面上に分離剤層を形成した実施例1~5、10~13および多孔質板を
形成した実施例6~9においては、いずれも窒化珪素基板において厚さ方向に配向したβ
-Si3N4粒子の割合を示す配向度faが0~0.3の範囲であって、厚さ方向の熱伝
導率が80W/m・K以上であることが判明した。
【符号の説明】
【0078】
10 窒化珪素基板
11 窒化珪素粒子
12 粒界相