(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026604
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ケトオクタデカジエン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6409 20220101AFI20240220BHJP
【FI】
C12P7/6409
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222757
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2019144736の分割
【原出願日】2019-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2018151990
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野原 偏弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】高木 博子
(57)【要約】
【課題】安全にかつ安定的に、効率良くケトオクタデカジエン酸を合成するケトオクタデカジエン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(a)脂肪酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させる工程、および(b)工程(a)で得られた反応混合物に含まれる前記リポキシゲナーゼの酵素反応を停止させる工程を含む、ケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂肪酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させる工程、および
(b)工程(a)で得られた反応混合物に含まれる前記リポキシゲナーゼの酵素反応を停止させる工程
を含む、ケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項2】
さらに、
(c)前記工程(b)を経て得られた生成物に脱水素酵素を作用させる工程
を含む請求項1記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸を含む原料が、リノール酸を構成成分として含有する油脂を含む原料、リノール酸を含む原料、または、リノール酸である請求項1または2記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項4】
前記酵素材料を作用させる工程を、10℃以上、60℃以下で行う請求項1~3のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項5】
前記酵素材料を作用させる工程を、20℃以上、50℃以下で行う請求項1~4のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項6】
前記酵素材料を作用させる工程において、前記酵素材料を0.5時間以上、72時間以下作用させる請求項1~5のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項7】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記リポキシゲナーゼの酵素活性を失活させることにより行う請求項1~6のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項8】
前記失活が、加熱処理またはpH調整により行われる請求項7記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理を、前記反応混合物を70℃以上、140℃以下に加熱することにより行う請求項8記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項10】
前記pH調整を、前記反応混合物をpH6未満またはpH12超に調整することにより行う請求項8記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項11】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記リポキシゲナーゼを前記反応混合物から除去することにより行う請求項1~6のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項12】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記反応混合物に前記リポキシゲナーゼの阻害剤を添加し、前記リポキシゲナーゼの酵素活性を阻害することにより行う請求項1~6のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項13】
前記脱水素酵素が、アルコール脱水素酵素である請求項2~12のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項14】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、補因子の存在下で行う請求項2~13のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項15】
前記補因子が、NAD+である請求項14記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項16】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、0℃以上、50℃以下で行う請求項2~15のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項17】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、6以上、12以下のpHで行う請求項2~16のいずれか1項に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【請求項18】
前記脂肪酸を含む原料に前記リポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させてのち0.5~24時間以内に前記加熱処理を行う請求項8記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトオクタデカジエン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リノール酸やオレイン酸を酵素やその他の手段を用いて反応させて得られる水酸化脂肪酸やオキソ脂肪酸などが、いわゆる希少脂肪酸として注目されている。これら希少脂肪酸は、人々の健康、医療への関心の高まりと共に、特にその生理活性などの様々な産業利用への応用という点から期待されている。中でもリノール酸のオキソ誘導体であるケトオクタデカジエン酸の一種である13-オキソ-オクタデカジエン酸や9-オキソ-オクタデカジエン酸は、脂質代謝改善等の生活習慣病を改善する活性が見いだされたことから、顕著な脂肪燃焼効果を示す機能性成分として、内外で活発な研究が行われている。
【0003】
これらケトオクタデカジエン酸は、以前よりトマトの中に含有されていることが知られているが、その含有量は約1ng/mg程度までとごく微量であり、食品または医薬品の有効成分として利用するために十分な供給源とはなり得ない。したがって、より高い含有量でケトオクタデカジエン酸を含有する供給源や、より効率的なケトオクタジエン酸の合成が望まれていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ケトオクタデカジエン酸の合成方法として、マンガン、亜鉛、鉄、銅またはマグネシウムなどの金属の存在下、且つ20℃未満の温度で、リノール酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させる工程を備える、ケトオクタデカジエン酸の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法は、触媒として金属を用いるものであり、合成したケトオクタデカジエン酸を食品用途や医薬品用途に使用する場合には、生成物に金属が含有されるリスクがある。また、副生成物の生成を抑制し、収率を向上させるために、特許文献1に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法では20℃未満の反応温度とすることが不可欠となっており、その製造プロセスにおいて、生産設備上、温度調整において煩雑な機器・機材を必要とするものであった。
【0007】
また、特許文献1に記載のケトオクタデカジエン酸の製造方法では、酵素としてリポキシゲナーゼが使用されている。使用する酵素として、このリポキシゲナーゼとともにデヒドロゲナーゼの添加も示唆されているが、リポキシゲナーゼ自体が脂肪酸の反応を顕著に促進する酵素であるため、特に20℃以上の反応温度では、リポキシゲナーゼにより過酸化物が大量に生成され、生成したケトオクタデカン酸をさらに酸化させてしまう。このため、目的物質であるケトオクタデカン酸の最終的な収率が低下してしまうという問題がある。酵素を使用して安全にかつ安定的に、効率良くケトオクタデカジエン酸を合成するケトオクタデカジエン酸の製造方法が求められている。
【0008】
本発明は、これまで供給が難しかったケトオクタデカジエン酸を、酵素を利用して、安全にかつ安定的に、効率良く製造することのできるケトオクタデカジエン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)脂肪酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させる工程、および(b)工程(a)で得られた反応混合物に含まれる前記リポキシゲナーゼの酵素反応を停止させる工程を含む、ケトオクタデカジエン酸の製造方法に関する。
【0010】
さらに、(c)前記工程(b)を経て得られた生成物に脱水素酵素を作用させる工程を含むケトオクタデカジエン酸の製造方法に関する。
【0011】
前記脂肪酸を含む原料が、リノール酸を構成成分として含有する油脂を含む原料、リノール酸を含む原料、または、リノール酸であるケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0012】
前記酵素材料を作用させる工程を、10℃以上、60℃以下で行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0013】
前記酵素材料を作用させる工程を、20℃以上、50℃以下で行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0014】
前記酵素材料を作用させる工程において、前記酵素材料を0.5時間以上、72時間以下作用させるケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0015】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記リポキシゲナーゼの酵素活性を失活させることにより行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0016】
前記失活が、加熱処理またはpH調整により行われるケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0017】
前記加熱処理を、前記反応混合物を70℃以上、140℃以下に加熱することにより行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0018】
前記pH調整を、前記反応混合物をpH6未満またはpH12超に調整することにより行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0019】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記リポキシゲナーゼを前記反応混合物から除去することにより行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0020】
前記酵素反応を停止させる工程を、前記反応混合物に前記リポキシゲナーゼの阻害剤を添加し、前記リポキシゲナーゼの酵素活性を阻害することにより行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0021】
前記脱水素酵素が、アルコール脱水素酵素であるケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0022】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、補因子の存在下で行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0023】
前記補因子が、NAD+であるケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0024】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、0℃以上、50℃以下で行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0025】
前記脱水素酵素を作用させる工程を、6以上、12以下のpHで行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【0026】
前記脂肪酸を含む原料に前記リポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させてのち0.5~24時間以内に前記加熱処理を行うケトオクタデカジエン酸の製造方法が好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のケトオクタデカジエン酸の製造方法によれば、二つの異なる酵素を独立して順次反応させることができるため、反応収率の点から従来問題となっていた副生成物の生成量が著しく抑制され得る。したがって、効率良くケトオクタデカジエン酸を製造することができる。また、合成の温度も室温とすることができ、特に20℃以上の反応温度でも十分な収率でケトオクタデカジエン酸を製造することができる。さらに、本発明のケトオクタデカジエン酸の製造方法では、特殊な金属を使用する必要がない。2種類の酵素だけが用いられるため、従来技術よりも、より簡便な方法でケトオクタデカジエン酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ケトオクタデカジエン酸とは、特定の微生物や植物において、リノール酸の酸化的代謝によって得られる代謝物の一つである。リノール酸は、リノール酸代謝酵素の一つであるリポキシゲナーゼ(lipoxygenase:LOX)の作用により酵素的に過酸化脂質(ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸(HPODE))へと変換され、この過酸化脂質(HPODE)は、非酵素的、または、酵素的に例えばペルオキシダーゼなどによってラジカルを放出して水酸化脂肪酸であるヒドロキシオクタデカジエン酸(HODE)へと変換される。ヒドロキシオクタデカジエン酸(HODE)にアルコール脱水素酵素(ADH)などの脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)が作用することなどによって、脂肪酸のオキソ誘導体であるケトオクタデカジエン酸が生成される。
【0029】
ケトオクタデカジエン酸としては、具体的には、例えば、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(本明細書中、9-oxoODAとも略記される。)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(本明細書中、13-oxoODAとも略記される。)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸等が挙げられる。なお、これら化合物に異性体が存在する場合には全ての異性体およびその混合物を含むものとする。
【0030】
本発明は、リポキシゲナーゼ(LOX)によって酵素的にリノール酸をヒドロペルオキシオクタデカジエン酸(HPODE)やヒドロキシオクタデカジエン酸(HODE)に変換させたのち、LOXを失活させ、その後に必要に応じADHなどの脱水素酵素を作用させて高効率にケトオクタデカジエン酸を製造するための方法を提供する。LOXの失活はHPODEが生成された後でもよく、HODEが生成された後でもよい。以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態において、ケトオクタデカジエン酸は、脂肪酸を含む原料から製造される。脂肪酸を含む原料としては、例えば、脂肪酸を構成成分として含有する油脂を含む原料、脂肪酸を含む原料、および脂肪酸などが挙げられる。好ましくは、脂肪酸を含む原料は、リノール酸を構成成分として含有する油脂を含む原料、リノール酸を含む原料、または、リノール酸である。ここで、リノール酸としては、リノール酸に限定されず、共役リノール酸であってもよく、また、リノール酸のエステル体などを含んでいてもよい。
【0032】
リノール酸を構成成分として含有する油脂を含む原料またはリノール酸を含む原料としては、特に限定されるものではなく、例えば、植物体、動物体またはバクテリア体において、リノール酸を構成成分とする油脂を含むような原料またはリノール酸を含むような原料であれば、本実施形態の製造方法に好適に使用することができる。リノール酸を構成成分とする油脂またはリノール酸の含量が多いことが知られている、ダイズ、ヒマ、ベニバナもしくはトウモロコシなどの植物体、または、卵などの動物体を使用すれば、結果的に高収量でケトオクタデカジエン酸を生成させることができるため、このような原料を用いることが好ましい場合がある。また、上述の原料から抽出および/または精製された高純度のリノール酸を原料として用いてもよい。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態において、ケトオクタデカジエン酸は、上述の脂肪酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させることにより製造される。リポキシゲナーゼを含む酵素材料としては、リポキシゲナーゼを含む植物体、動物体またはバクテリア体の材料を使用してもよく、例えば上述の原料に含まれるリポキシゲナーゼを、酵素材料に含まれる天然由来のリポキシゲナーゼとしてそのまま使用してもよい。脂肪酸の酸化反応を効率的に進めるという観点から、例えば大豆などの植物体、例えば卵などの動物体、またはバクテリア体から適当な単離精製技術により精製された、天然由来、すなわち植物由来、動物由来またはバクテリア由来のリポキシゲナーゼが使用されてもよい。また、遺伝子工学的手法により組み換え体として製造されたリポキシゲナーゼあるいは化学的に合成されたリポキシゲナーゼが使用されてもよい。さらには、市販品を利用することもできる。また、酵素材料はリポキシゲナーゼ以外に他の酵素を含んでいてもよい。
【0034】
酵素材料は、使用する原料に応じて、適宜その使用量を選択することができる。例えば、原料に含まれるリノール酸10gに対し、精製した酵素換算で、100~300000ユニットのリポキシゲナーゼが含まれるような酵素材料が使用される。原料に含まれるリノール酸10gに対し、2000~180000ユニットのリポキシゲナーゼが使用されてもよい。また、5000~90000ユニットのリポキシゲナーゼが使用されてもよい。なお、本明細書において1ユニットとは、リノール酸を基質とし、3mL(幅1cm)の石英セル内において、pH9、温度25℃で1分間に波長234nmにおける基質溶液の吸光度を0.001増加させる酵素量と定義される。したがって、ここでリポキシゲナーゼ活性1ユニットは、毎分0.12μmolのリノール酸を酸化する量に相当する。
【0035】
脂肪酸を含む原料に酵素材料を作用させる反応温度は、使用する原料に応じて適宜設定することができるが、0~90℃であることが好ましい。0℃未満では溶媒が凍ってしまい、反応が進行しない恐れがある。また、90℃より高い温度では酵素材料に含まれるLOXがすぐに失活してしまう。例えば、酵素材料を作用させる反応温度は、10℃以上、60℃以下とすることができる。好ましくは、酵素材料を作用させる反応温度は、15℃以上、50℃以下であり得る。好ましくは、20℃以上、50℃以下であり得る。好ましくは、30℃以上、50℃以下である。
【0036】
なお、本明細書に記載の反応または工程は、適切な溶媒中で実施することができる。適切な溶媒は、当業者によって容易に選択され得る。適切な溶媒とは、本明細書に記載の反応または工程が、反応が実施される上述のような温度において、反応物、中間体および/または生成物と実質的に反応性でない溶媒である。また、本明細書に記載の反応または工程は、1種の溶媒中で実施されてもよいし、または、2種以上の溶媒の混合物中で実施されてもよい。
【0037】
脂肪酸を含む原料に酵素材料を作用させる作用時間は、酵素材料に含まれるLOXの含有量や反応温度に応じて適時設定すればよいが、例えば、0.5~144時間が好ましい。0.5時間より作用時間が短いとLOXによる酸化反応が進まない恐れがある。酵素材料の作用時間が72時間より長くなると、副反応が起こりやすくなる。より好ましくは、酵素材料の作用時間が0.5~72時間程度であることが望ましい。さらに、24~72時間であることが望ましい。
【0038】
LOXを含む酵素材料を作用させる反応は、pH6~12程度の範囲内で行われ得る。pH6未満またはpH12超過では、反応溶液中で、酵素材料に含まれるLOXが失活および/または変性する恐れがある。特には、LOXを含む酵素材料を作用させる反応がpH9~12の条件下で行われることが好ましい。さらに、pH10~12の条件下でLOXの失活を行うことが好ましい。このような範囲内のpHであると、原料に含まれるリノール酸が乳化し易く、反応が進みやすい場合がある。反応におけるpHの調整は、公知のpH調整剤を用いて行うことができ、例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムもしくはリン酸水素カリウムなどのカリウム塩、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムもしくはリン酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩、トリエチルアミンなどのアミン類、または、アンモニアなどを用いて行うことができる。
【0039】
上述の脂肪酸を含む原料とリポキシゲナーゼを含む酵素材料との反応により、脂肪酸に酸素分子が添加されて、過酸化脂質および/または水酸化脂肪酸が生成される。本発明のケトオクタデカジエン酸の製造方法では続いて、脂肪酸を含む原料とリポキシゲナーゼを含む酵素材料との反応によって得られた反応混合物中においてリポキシゲナーゼの酵素反応が停止される。
【0040】
リポキシゲナーゼの酵素反応の停止は、特に限定されないが、例えば、リポキシゲナーゼの酵素活性を失活させることによって行われ得る。リポキシゲナーゼの酵素活性の失活方法としては、加熱処理によるリポキシゲナーゼ活性の失活処理、pH調整によるリポキシゲナーゼ活性の失活処理などが挙げられる。リポキシゲナーゼの酵素反応の停止は、また、リポキシゲナーゼを例えば限外ろ過またはゲルろ過などにより反応混合物から除去することでもできるし、または担体表面に酵素を吸着、結合もしくはゲル内に含包させたいわゆる固定化酵素を用いてカラムなどの反応塔を通せばリポキシゲナーゼは自然と反応系から除去される。または、リポキシゲナーゼと相互に作用して選択的にリポキシゲナーゼの反応を阻害する阻害剤などの試薬を反応混合物に添加することにより実施されてもよい。すなわち、本明細書中、広義の意味において、リポキシゲナーゼの酵素活性を失活させることのみならず、リポキシゲナーゼの酵素活性を阻害することおよびリポキシゲナーゼを除去することもリポキシゲナーゼの酵素反応を停止させることに含まれるものとする。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、リポキシゲナーゼの酵素反応の停止は、反応混合物を加熱処理することによってリポキシゲナーゼ活性を失活させることにより実施され得る。加熱処理による失活は、簡便な制御で、また大量に製造する場合でも効率よく行うことができる点から特に好ましい。加熱処理の加熱温度と保持時間は、リポキシゲナーゼが十分に失活できる条件に適宜設定することができる。例えば加熱温度としては、70℃以上が好ましい。より短時間でリポキシゲナーゼの酵素活性を失活させることが好ましい場合には、加熱温度を90℃以上とすることが望ましい。加熱温度の上限値は特に規定されないが、反応混合物中の溶媒が揮発しすぎない程度の温度が好ましく、例えば一般的なオートクレーブ処理における温度(120~140℃)程度とすることができる。この程度の温度でリポキシゲナーゼの酵素反応の停止工程を行うことにより、例えば、製造したケトオクタデカジエン酸が食品や医薬品用途に用いられる場合、リポキシゲナーゼ活性の失活と同時に生成物が加熱殺菌されるため、特に好ましい場合がある。保持時間、すなわちリポキシゲナーゼの失活処理時間は特に規定されないが、一般的には、5分以上とすることができ、好ましくは10分以上が望ましい。
【0042】
リポキシゲナーゼ活性の失活が、pH調整により行われる場合、反応混合物のpHが、pH6未満またはpH12超に調整される。pHの調整は、上述のような公知のpH調整剤を用いて行うことができる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、阻害剤などの試薬を反応混合物に添加してリポキシゲナーゼの酵素活性を阻害することによりリポキシゲナーゼの酵素反応が停止される。リポキシゲナーゼ阻害剤としては、例えば、N-ヒドロキシウレア誘導体、レドックス阻害剤、および非レドックス阻害剤などが含まれ、一例として、これらに限定される訳ではないが、N-[1-ベンゾ[b]チエン-2-イルエチル]-N-ヒドロキシウレア(ジロートン)、1-[4-[5-(4-フルオロフェノキシ)-2-フリル]ブト-3-イン-2-イル]-1-ヒドロキシ-ウレア、テトラヒドロ-4-[3-[[4-(2-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)フェニル]チオ]フェニル)-2H-ピラン-4-カルボキサミド(CJ-13610)、2-(12-ヒドロキシドデカ-5,10-ジイニル)-3,5,6-トリメチル-シクロヘキサ-2,5-ジエン-1,4-ジオン(ドセベノン)、6-[[3-フルオロ-5-(4-メトキシオキサン-4-イル)フェノキシ]メチル]-1-メチル-キノリン-2-オン(ZD2138)等が挙げられる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態において、続いて、脱水素化反応を行うため、リポキシゲナーゼの酵素反応が停止された後、得られた生成物に脱水素酵素が作用される。これにより、ケトオクタデカジエン酸が製造される。ここで使用される脱水素酵素としては、上記の過酸化脂質や水酸化脂肪酸を基質として利用し、脂肪酸のオキソ誘導体に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、好ましくはアルコール脱水素酵素(ADH)である。また、酵素の由来は特に制限されない。キュウリなどの植物由来のADHまたは酵母などの微生物由来のADHが使用されてもよく、さらに、動物由来のADHが使用されてもよい。また、遺伝子工学的手法により組み換え体として製造されたADHあるいは化学的に合成されたADHが使用されてもよい。さらには、市販品のADHを利用することもできる。より反応を効率的に進めるためには植物または酵母由来から精製されたものを使うことができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態において、脱水素酵素を作用させる工程は、補因子の存在下で行われることが好ましい。補因子は、リポキシゲナーゼの酵素反応が停止される工程を経て得られる生成物に添加され得る。補因子はまた、酵素と共に混合物として、生成物に添加されてもよい。補因子は、脱水素酵素の種類に応じて、選択することができる。補因子の例は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)などを含むことができるが、これらに限定されない。好ましくは、補因子はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)である。補因子の添加濃度は、脱水素化反応が効率良く進む程度の濃度であればよい。
【0046】
ADHの使用量は、使用する原料に応じて、適宜選択され得るが、例えば、原料に含まれるリノール酸10gに対し、精製した酵素換算で、10~15000ユニットのADHが使用されてもよい。また、15000ユニットより多い量のADHが使用されてもよい。20~5000ユニットのADHが使用されてもよく、また、100~500ユニットのADHが使用されてもよい。なお、本明細書において1ユニットとは、pH8.8、25℃の条件下、1分間で、1.0μmolのエタノールをアセトアルデヒドに変換する酵素量と定義される。
【0047】
ADHを作用させる作用温度は、使用する原料に応じて適宜設定することができるが、0~50℃であることが好ましい。0℃未満では溶媒が凍ってしまい、反応が進行しない恐れがある。また、50℃より高い温度ではADH酵素がすぐに失活してしまう。より好ましくは、10℃以上、40℃以下であり得る。
【0048】
ADHを作用させる作用時間は、反応温度等に応じて適時設定され得るが、例えば、1~72時間程度が好ましい。反応効率の観点からは、ADHの作用時間は、24時間程度で十分である。
【0049】
ADHを作用させる反応は、好ましくは、pH6~12程度の範囲内で行われ得る。pH6未満またはpH12超過では、ADHが失活および/または変性する恐れがある。特には、pH8~12の条件下で行われることが好ましい。したがって、LOXを含む酵素材料を作用させる工程と同程度のpH条件とすることができ、この場合、ADHを作用させる工程においてpHを再度調整する必要がないため、好ましい。反応におけるpHの調整は、公知のpH調整剤を用いて行うことができ、例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムまたはリン酸水素カリウムなどのカリウム塩、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムもしくはリン酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩、トリエチルアミンなどのアミン類、または、アンモニアなどを用いて行うことができる。
【0050】
リポキシゲナーゼの酵素反応が停止された工程後の生成物にADHを作用させることにより、先にリポキシゲナーゼとの反応によって生成された、脂肪酸のリポキシゲナーゼ代謝物である過酸化脂質や水酸化脂肪酸がケトオクタデカジエン酸に変換される。したがって、本実施形態の製造方法によれば、副生成物の生成が顕著に抑制され、ケトオクタデカジエン酸を安定して製造することができる。
【0051】
本発明の実施形態においてはHPODEが生成した後に加熱処理を行うことによりLOXを失活させて、引き続き加熱処理を行うことによりケトオクタデカジエン酸を得ることもできる。この場合、脂肪酸を含む原料にリポキシゲナーゼを含む酵素材料を作用させてのち0.5~24時間以内に加熱処理を行い、その加熱処理時間は10分以上、好ましくは30分以上が望ましい。
【0052】
本明細書に記載の工程は、当該技術分野で知られている適切な分析方法に従ってモニターすることができる。生成物の生成は、種々の分光手段によって、またはクロマトグラフィーによって、モニターされ得る。本発明の製造方法によれば、リノール酸を含む原料から、ケトオクタデカジエン酸の中でも、特に、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)および13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)が生成する。9-oxoODAや13-oxoODAなどの生成は、例えば、LC-MSなどの分析手段により確認され得、また、その濃度も定量的に分析され得る。よって、リノール酸からの生成物の変換収率、いわゆる収率が算出される。
【0053】
なお、ケトオクタデカジエン酸には、上述のように、(E,E体)、(Z,E体)、(E,Z体)、(Z,Z体)など様々な異性体が存在するが、機能性成分としてのその効果はほぼ同等であり、したがって、以下の実施例に述べるケトオクタデカジエン酸の収率はこれら異性体を合算したものである。
【0054】
上述した実施形態に係るケトオクタデカジエン酸の製造方法は、追加で、生成したケトオクタデカジエン酸を精製する工程を含んでいてもよい。例えば、生成したケトオクタデカジエン酸は、一般的な精製方法によって、例えば、溶媒抽出後に薄層クロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーによって分離精製されてもよい。精製方法および条件は、実験によって異なっていてよく、例えばクロマトグラフィーおよびHPLC精製における溶離液や溶媒、固定相などは適宜選択されてよい。しかしながら、製造されたケトオクタデカジエン酸は、精製せずにケトオクタデカジエン酸を含む反応溶液そのままで、または、粗精製処理に供した、例えば溶媒抽出後に乾燥させたもの等の粗精製物で使用されてもよい。
【0055】
上述した実施形態に係るケトオクタデカジエン酸の製造方法により製造されたケトオクタデカジエン酸の中でも、9-oxoODA体や13-oxoODA体は、PPARα活性化作用が報告されており、脂肪燃焼作用等が期待でき(例えばKim YI, et al., Mol. Nutr. Food. Res., 55 (2011) 585.やYoung-il Kim, et al., PLoSONE, 7 (2012) 2)、例えば肥満や脂質代謝異常、インスリン抵抗性を原因とした糖尿病や、高脂血症、動脈硬化、心疾患の予防や改善に用いることができる。例えば実用に供するのはサプリメントや食品、機能性食品、化粧品等に添加して用いることができる。
【0056】
また、本発明者らは、ケトオクタデカジエン酸を植物に作用させることで強力な抵抗性誘導効果を示す植物賦活剤として利用できることを見出しており、さまざまな植物の成長促進効果や果実の収量増加効果、病害抑制効果を示すことを知見している。例えば病害抑制に関して効果のある具体的な例としては、キュウリ、スイカ、メロン、カボチャなどウリ科の葉の灰色カビ病、つる割れ病、つる枯病、ベト病、トマト、ナス、ジャガイモなどナス科の青枯れ病、萎凋病、半身萎凋病、立枯病、褐色根腐病、バラやイチゴなどバラ科植物のうどん粉病、黒星病、灰色カビ病、炭疽病、ホウレンソウなどヒユ科のベト病、ハクサイ、キャベツ、コマツナなどアブラナ科の黒腐病、軟腐病、斑点細菌病、リゾクトニア病、ニンジンなどセリ科の白絹病、イネ科植物のいもち病などに有効である。
【0057】
上述した実施形態に係るケトオクタデカジエン酸の製造方法によれば、二つの異なる酵素を使用して、ケトオクタデカジエン酸が簡便に、安定的かつ効率的に製造され得る。これまで供給が難しかったケトオクタデカジエン酸を十分な収率で製造できるため、ケトオクタデカジエン酸の生理活性解析や産業利用への応用が期待できる。さらに、金属の添加を必要とすることなしに、ケトオクタデカジエン酸を安定して製造することができるため製造されたケトオクタデカジエン酸が様々な分野で安全に使用できる点でも本発明のケトオクタデカジエン酸の製造方法は有用であり、得られたケトオクタデカジエン酸は、機能性食品、医薬品、化粧品、植物賦活剤等の原料として特に適している。
【0058】
また、上述した実施形態に係るケトオクタデカジエン酸の製造方法によれば、二つの異なる酵素を独立して順次反応させれば室温で効率よくケトオクタデカジエン酸を製造でき、特別な温度調節装置や温度調節が必須ではないため、製造における省力化・省資源化・省エネルギー化、ひいては製造コストの削減が達成され得ると考えられる。
【実施例0059】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
ケトオクタデカジエン酸の製造
・実施例1
脂肪酸を含む原料として、純度80%のリノール酸(和光純薬工業株式会社製)2.8gを用い、これに炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)7.0g、および、蒸留水300mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは11であった。
【0061】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(シグマアルドリッチ社製、Glycine max由来)を0.2mg添加し、30℃で36時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に5分間置いて、酵素を失活させた。反応溶液を室温に戻した後に、アルコール脱水素酵素(和光純薬工業株式会社製、Yeast由来)を0.2mg添加し、30℃にてさらに24時間反応させた。
【0062】
反応終了後の試験溶液中の生成物を、標準物質としてケイマンケミカル社製の13-oxoODAを用いて、MS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて同定した。また、検出波長 UV 272nmで、絶対検量線法により定量を行った。また9-oxoODAは、13-oxoODAの吸光度を参考にして定量した。
【0063】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、表1に示されるように、収率5.4%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は10.9%であった。なお、収率(%)は以下の式に基づいて求めた。
収率(%)=(生成した13-oxoODAまたは9-oxoODAのwt%)/(使用した原料リノール酸の初期wt%)
【0064】
・実施例2
試験溶液のリポキシゲナーゼとの反応時間を、36時間に替えて、24時間にしたこと以外は実施例1と同様に操作・分析を行った。
【0065】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率3.5%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は3.7%であった。
【0066】
・実施例3
脂肪酸を含む原料として、純度80%のリノール酸(和光純薬工業株式会社製)2.8gを用い、これに炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)4.0g、リン酸水素二カリウム(和光純薬工業株式会社製)23.3g、および、蒸留水300mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは9.0であった。
【0067】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(シグマアルドリッチ社製、Glycine max由来)を0.4mg添加し、15℃で3時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に90分間置いて、酵素を失活させた。反応終了後の生成物に対して、実施例1と同様に操作・分析を行った。
【0068】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率2.6%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は1.2%であった。
【0069】
・比較例1
脂肪酸を含む原料として、純度80%のリノール酸(和光純薬工業株式会社製)0.1gを用い、これに炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.23g、および、蒸留水10mLを加えて試験溶液を調製した。この時の溶液のpHは11であった。
【0070】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(シグマアルドリッチ社製、Glycine max由来)およびアルコール脱水素酵素(和光純薬工業株式会社製、Yeast由来)を、同時に、それぞれ0.04mg添加し、5℃で24時間反応させた。反応終了後の試験溶液中の生成物を、実施例1と同様に分析し、定量を行った。
【0071】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率2.2%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は0.02%であった。
【0072】
・比較例2
反応温度を、5℃に替えて、30℃にしたこと以外は比較例1と同様に操作・分析を行った。
【0073】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率2.2%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は0.37%であった。
【0074】
・比較例3
脂肪酸を含む原料として、純度80%のリノール酸(和光純薬工業株式会社製)0.28gを用い、これに炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.15g、炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.05g、および、蒸留水10mLを加えて試験溶液を調製した。この時の溶液のpHは10.2であった。
【0075】
試験溶液に大豆粉末(品種:フクユタカ)0.2gおよびMn含有酵母(5%、メディエンス社製)0.1gを添加し、5℃で24時間反応させた。反応終了後の試験溶液中の生成物を、実施例1と同様に分析し、定量を行った。
【0076】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率2.9%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は0.5%であった。
【0077】
・比較例4
反応温度を、5℃に替えて、30℃にしたこと以外は比較例5と同様に操作・分析を行った。
【0078】
表1に示されるように、(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率1.9%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は1.1%であった。
【0079】
【0080】
表1に示されるように、実施例1~3のケトオクタデカジエン酸の収率は、比較例1~4におけるケトオクタデカジエン酸の収率よりもはるかに高いものであった。したがって、本発明のケトオクタデカジエン酸の製造方法が高収率でケトオクタデカジエン酸を生成するという顕著に優れた効果を有していることがわかる。
【0081】
なお、比較例3および4で用いた大豆粉末には、リポキシゲナーゼとアルコール脱水素酵素との両方が含まれていると考えられるため、比較例3および4の結果は、リポキシゲナーゼおよびアルコール脱水素酵素の同時添加と同等の条件下で得られているものと考えられる。比較例3および4では、この大豆粉末に加え、さらに、金属を供給するMn含有酵母が試験溶液に添加されている。すなわち、比較例3および4では、金属触媒が寄与するケトオクタデカジエン酸の生成反応促進効果も付与されているにもかかわらず、比較例3および4の収率は、実施例1~3と比較して低いものにすぎない。この結果からも、本発明の製造方法が、リノール酸からのケトオクタデカジエン酸の変換収率において優れた効果を有していることがわかる。