(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026611
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/484 20060101AFI20240220BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S7/481 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223229
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2022129896の分割
【原出願日】2017-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奧山 健久
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢麿
(57)【要約】
【課題】
方向によって測距が必要とされる距離範囲が異なる場合でも、空間解像度の不均一性が大きくなく、良好な測距を行うことが可能な測距装置を提供する。
【解決手段】
反射面を有する反射部材を揺動させることにより走査を行う光走査部を有する測距装置である。光走査部は仮想の走査面を走査する。この仮想の走査面は、方向によって測距が必要とされる距離範囲が異なる。測距装置は、この仮想の走査面において空間解像度の不均一性が大きくなく、良好な測距を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を出射する光源部と、
前記パルス光の照射方向を連続的に変化させる光走査部と、
対象物に当たり反射した前記パルス光を受光する受光部と、
前記パルス光を出射した時刻と受光した時刻に基づいて前記対象物までの距離を測定する測距部と、
前記光走査部からの前記パルス光の照射を制御する制御手段と、を備え、
前記パルス光の照射方向ごとの出射間隔が記憶されたタイミングテーブルを有し、
前記制御手段は、前記タイミングテーブルに基づき前記パルス光の照射を制御することを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記タイミングテーブルに基づき、照射方向ごとに前記パルス光の出射間隔を制御することを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記制御手段は、所定の仮想面により規定される測距可能範囲を有し、
前記タイミングテーブルは、前記測距可能範囲の距離に応じた前記パルス光の出射間隔が記憶されていることを特徴とする請求項2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記所定の仮想面までの距離に応じて前記光走査部からの前記パルス光の出射間隔を制御することを特徴とする請求項3に記載の測距装置。
【請求項5】
前記光走査部は、前記測距可能範囲との距離に基づいて当該出射される前記パルス光の出力を変化させることを特徴とする請求項3~4のいずれかに記載の測距装置。
【請求項6】
前記光走査部は、前記測距可能範囲までの距離が遠いほど前記パルス光の出力を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の測距装置。
【請求項7】
前記光走査部は、前記パルス光を照射する際に前記パルス光の射線における前記測距可能範囲までの距離に基づいて、当該出射される前記パルス光のスポット径を変化させることを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の測距装置。
【請求項8】
前記光走査部は、前記測距可能範囲までの距離が遠いほど前記パルス光のスポット径を小さくすることを特徴とする請求項7に記載の測距装置。
【請求項9】
移動体に搭載され、前記移動体の正面方向に照射する場合の出射間隔は、側方に照射する場合の出射間隔より短いことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の測距装置。
【請求項10】
前記光走査部は、2つの軸周りに揺動可能な反射部材を含み、
前記制御手段は、前記反射部材の揺動する速度を調整することにより、前記光走査部からの前記パルス光の照射を制御することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測距装置は、例えば、レーザ光を対象領域内で走査して対象物までの距離を計測する、すなわち測距する。このような測距装置の一例としては、レーザ光を出射する光源部と、光源部から出射されたレーザ光を対象領域内でリサージュ走査する光走査部と、レーザ光が物体によって反射された反射光を受光する受光部と、レーザ光の出射タイミングと反射光の受光タイミングとに基づいて、物体までの距離を計測する測距部と、を備える光測距装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両等の移動体に測距装置を搭載した場合、例えば、移動体の前方側については数百メートル程度の遠くの測距情報を、また移動体の側方側については数十メートル程度の近くの測距情報を得たいという要望があった。
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、方向によって測距が必要とされる距離範囲が異なる場合でも、空間解像度の不均一性が大きくなく、良好な測距を行うことが可能な測距装置を提供すること課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に記載の測距装置は、パルス光を出射する光源部と、前記パルス光の照射方向を連続的に変化させることで、所定の領域を走査する光走査部と、所定の測距可能範囲を有し、対象物で反射した前記パルス光によって、前記測距可能範囲内に存在する前記対象物までの距離を測定する測距部と、前記光走査部が前記パルス光を照射する方向における前記測距可能範囲の距離の大きさに応じて、前記光走査部からの前記パルス光の照射を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施例である測距装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のMEMSミラー装置の構成を示す平面図である。
【
図3】
図2のMEMSミラー装置のA-A線に沿った断面図である。
【
図4】
図1の測距装置が測距する走査対象領域を示した概念図である。
【
図5】
図1の測距装置の投光系の動作原理を説明する説明図である。
【
図6】
図1の測距装置の受光系の動作原理を説明する説明図である。
【
図7】
図2のMEMSミラー装置によって描かれるリサージュ軌跡について説明する説明図であり、図中(a)は、
図4のMEMSミラー装置によって射出される光ビームの仮想面上に描かれる軌跡を示している。(b)及び(c)は、MEMSミラー装置に印加される駆動信号の波形を示す図である。
【
図8】
図5の仮想の走査面において照射されるパルス光を説明する説明図である。
【
図9】
図5の仮想の走査面に照射されるパルス光と当該パルス光のスポット径との関係を示した概念図である。
【
図10】
図5の仮想面において描かれる走査軌跡を説明する説明図であり、図中(a)は、光ビームの仮想面上に描かれる軌跡を示している。図中(b)は、MEMSミラー装置の揺動角の経時変化を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0008】
図1は、本実施例にかかる測距装置100を示している。
【0009】
光源部10は、例えばパルス光を出射可能なレーザ素子である。
【0010】
光走査部20のMEMSミラー装置30は、光反射面(図示せず)を有している。光源部10から出射されたパルス光を当該光反射面にて反射して、走査対象領域(図示せず)を規定する仮想の走査面(図示せず)に向けて走査光を出射する。走査対象領域に存在する物体によって反射された走査光は、測距装置100に向けて反射光として戻ってくる。
【0011】
受光部40は、反射光を受光して、電気信号である受信信号を生成可能な光検出器である。受光部40としては、例えば、アバランシェフォトダイオード(APD)等を採用することができる。
【0012】
角度検知部50は、光反射面の角度変化を逐次検出する角度検出器である。角度検知部50としては、例えば、MEMSミラー装置30に設けられたホール素子を採用することができる。
【0013】
制御手段としての制御部60は、光源部10から出射するパルス光の制御及びMEMSミラー装置30の光反射面の角度の制御を行う。
【0014】
光源制御部61は、光源部10の発光制御を行う。具体的には、光源部10がパルス発光をするように発光タイミングを規定したタイミングテーブル(図示せず)を参照して、その発光を制御する。
【0015】
ミラー制御部62は、MEMSミラー装置30の光反射面の角度の傾を制御する。具体的には、ミラー制御部62は、光源部10によって出射されて光反射面によって反射されたパルス光によって、走査対象領域の走査がなされるようにMEMSミラー装置30を制御する。
【0016】
パワー調整部63は、光源部10から出射されるパルス光の強度を調整する。具体的には、パワー調整部63は、光源部10に供給する電圧と電流を調整する。パワー調整部63は、例えば、可変抵抗器を採用することができる。パワー調整部63は、MEMSミラー装置30の光反射面の揺動角度に応じて光源部10に供給する電圧と電流を調整する。具体的にはパワー調整部63は、光反射面の角度に応じた出力が記憶された出力テーブル(図示せず)を備え、この出力テーブルを参照してパルス光の強度を調整する。
【0017】
スポット径調整部64は、光源部10とMEMSミラー装置30との光路上に配置され、光源部10から出射されたパルス光のスポット径を調整する。具体的には、スポット径調整部64は、レンズ(図示せず)とアクチュエータ(図示せず)を備える。スポット径調整部64は、アクチュエータを稼働することによりレンズの絞り径を調整する。具体的にはスポット径調整部64は、光反射面の角度に応じたスポット径を記憶したスポット径テーブル(図示せず)を備え、このスポット径テーブルを参照してパルス光のスポット径を調整する。
【0018】
従って、スポット径調整部64に入射されたパルス光は、アクチュエータが動作することによりレンズ径が調整され、走査対象領域上のスポット径が調整される。尚、スポット径を調整する機構は、レンズとアクチュエータと以外の機構でもよく、例えば、液晶レンズを用いることもできる。液晶レンズを用いてパルス光のスポット径を調整する場合には、液晶レンズにかける電圧を適宜調整して行うとよい。
【0019】
測距部としての距離測定部70は、受光部40によって生成された受光信号に基づいて、例えば、タイムオブフライト法によって、測距装置100と走査対象領域内にある物体との距離を算出する。
【0020】
具体的には、距離測定部70は、光源部10によって出射された1のパルス光の出射時刻と、当該1のパルス光が走査対象領域内の物体によって反射されて反射光として受光部40に検出された受光時刻を取得する。そして、当該出射時刻と当該受光時刻の時刻差に基づいて、当該1のパルス光が光源部10から出射されて受光部40、に受光されるまでの光経路の長さを算出し、当該長さに基づいて測距装置100と物体との距離を算出する。
【0021】
図2は、MEMSミラー装置30の平面図である。保持部31は、本実施例においては矩形の平板形状に形成されている。尚、保持部31は、矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状であってもよい。
【0022】
固定部32は、本実施例においては矩形の枠形状に形成されている。尚、固定部32の形状は矩形の枠形状に限られず、環状の枠形状に形成されていてもよい。固定部32は、保持部31上に保持されている。
【0023】
可動部33は、反射部材としての内側可動部34と、内側可動部34を囲む枠形状の外側可動部35と、を含んでいる。内側可動部34は、本実施例においては、矩形の平板形状に形成されている。尚、内側可動部34の形状は矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状に形成されていてもよい。内側可動部34の中央には光ビームを反射する光反射面MRが形成されている。
【0024】
第1の軸AXは、光反射面MRに対して非垂直方向であり、本実施例においては、光反射面MRに平行である。
【0025】
2つの第1のトーションバーTB1は、光反射面MRの面中心Cを通る第1の軸AXの方向に沿って伸長した板状体に形成されている。2つの第1のトーションバーTB1は、一端が内側可動部34の側面に固定され、他端が外側可動部35の側面に固定されている。すなわち、内側可動部34の第1の軸AX周りの力が掛かると、第1のトーションバーTB1がねじれる。この結果、内側可動部34は、第1の軸AXを中心に揺動する。従って、外側可動部35は第1保持部材として、第1の軸AXの周りに揺動可能に内側可動部34を保持する。また、第1の軸AXは内側可動部34の揺動軸となる。
【0026】
外側可動部35は、本実施例においては、矩形の枠形状に形成されている。尚、外側可動部35の形状は矩形の枠形状に限られず、例えば、環状の枠形状に形成されていてもよい。第2の軸AYは、第1の軸AXと直交して交差する。第2の軸AYは、光反射面MRに対して非垂直方向であり、本実施例においては、光反射面MRに平行である。
【0027】
2つの第2のトーションバーTB2は、第2の軸AYの方向に沿って伸長した板状体に形成されている。2つの第2のトーションバーTB2は、一端が外側可動部35の側面に固定され、他端が固定部32の側面に固定されている。すなわち、外側可動部35の第2の軸AY周りの力が掛かると、第2のトーションバーTB2がねじれる。この結果、外側可動部35は、第2の軸AYを中心に揺動する。従って、固定部32は第2保持部材として、第2の軸AYの周りに揺動可能に外側可動部35を保持する。また、第2の軸AYは外側可動部35の揺動軸となる。
【0028】
2つの第2のトーションバーTB2は、一端が外側可動部35の側面に固定され、他端が固定部32の側面に固定されている。すなわち、外側可動部35の第2の軸AY周りの力が掛かると、第2のトーションバーTB2がねじれる。この結果、外側可動部35は、第2の軸AYを中心に揺動する。従って、固定部32は、外側可動部35が揺動軸である第2の軸AYの周りに揺動可能に外側可動部35を保持する。従って、固定部32は第2保持部材として、外側可動部35が揺動軸である第2の軸AYの周りに揺動可能に外側可動部35を保持する。尚、固定部32、第1のトーションバーTB1、外側可動部35、第2のトーションバーTB2及び内側可動部34は、半導体基板で一体的に形成されている。
【0029】
外側可動部35の周縁領域にはそれぞれ第1駆動コイルCL1が設けられている。内側可動部34の周縁領域には第2駆動コイルCL2が設けられている。第1駆動コイルCL1と第2駆動コイルCL2とは、それぞれ対向するように設けられている。第1駆動コイルCL1の端部は、固定部32に形成された一対の第1電極端子T1に接続されている。第2駆動コイルCL2の端部は、固定部32に形成された第2電極端子T2に接続されている。
【0030】
第1駆動コイルCL1に磁界を作用させる互いに極性が異なる一対の第1永久磁石MG1及び第2駆動コイルCL2に磁界を作用させる互いに極性が異なる一対の第2永久磁石MG2が内側可動部34及び外側可動部35を挟んでそれぞれ対向して保持部31上に配置されている。
【0031】
したがって、例えば、第1駆動コイルCL1に供給される電流と、第1永久磁石MG1による磁界と、によって、外側可動部35及び内側可動部34に対してローレンツ力が作用する。この結果、内側可動部34及び外側可動部35は、第2のトーションバーTB2の軸周りに揺動する。
【0032】
また、第2駆動コイルCL2に供給される電流と、第2永久磁石MG1による磁界と、によって、内側可動部34に対してローレンツ力が作用する。この結果、内側可動部34は、第1のトーションバーTB1の軸周りに揺動する。したがって、可動部33は、第1の軸AX及び第2の軸AYの周りに揺動する。ここで、第1駆動コイルCL1及び第2駆動コイルCL2に供給される電流の周波数のそれぞれは、MEMSミラー装置30の共振周波数と同一又はその近傍の周波数に設定されている。
【0033】
図3は、
図2のMEMSミラー装置30の第1の軸AXに沿った断面図である。
図3において、保持部31は、本実施例においては矩形の平板形状に形成されている。尚、保持部31は、矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状であってもよい。保持部31は、その上面TSから突出して形成された突出部36を含んでいる。
【0034】
突出部36は、保持部31の上面TSの中央部を囲うように固定部32の周縁領域に沿って環状に形成されている。従って、保持部31の上面TSと、突出部36の互いに対向する内側面36sとによって開口部が形成されている。
【0035】
突出部36の上面は、平坦に形成され、この上面に固定部32が固定されている。突出部36の高さは、少なくとも、MEMSミラー装置30の内側可動部34及び外側可動部35が揺動時に上面TSに干渉しないように形成するとよい。したがって、保持部31は第3保持部材として、固定部32を保持する。尚、MEMSミラー装置30Bは、MEMSミラー装置30と同一の構造を有するので説明を省略する。
【0036】
以上で説明した測距装置が自動車等の移動体に搭載された場合を説明する。尚、移動体は、自動車の他に、自転車、バイク、飛行機、船舶、移動する人等、自動車以外の移動体であっても良い。
【0037】
図4は、自動車AMに搭載された測距装置の光走査部20が走査する走査対象領域R1を示した図である。
図4に示すように、自動車AMのフロント領域に、測距中心Cが設けられている。また、自動車AMの前後方向に延びる線であって、測距中心Cを通る中心線CXが規定されている。
【0038】
光走査部20は、自動車AMのフロント領域、例えば、自動車AMのヘッドライトの近傍に設けられている。光走査部20が走査する走査対象領域R1は、上面視が測距中心Cを中心とする楕円扇形状である。光走査部20は、走査対象領域R1に存在する対象物OBの測距を行う。
【0039】
走査対象領域R1には、被走査面(仮想平面)である仮想面VSが測距装置100と対向させて設けられている。本実施例では、仮想面VSの画角中央は、走査対象領域R1の画角中央と走査方向と重なるように設けられている。
【0040】
ここで、中心線CXと走査対象領域R1の外縁との交点をP1とする。走査対象領域R1の外縁うち、最も測距中心Cに近い位置をP2a,P2bとする。本実施例において、測距中心Cから交点P1までの距離は、例えば、200mである。測距中心Cから交点P2a又は交点P2bまでの距離は、例えば、40mである。尚、測距中心Cから交点P1までの距離は任意に定めることができる。また、測距中心Cから交点P2a又はP2bまでの距離は任意に定めることができる。
【0041】
図5は、測距装置100の光走査部20の投光系の動作を示している。
図5において、光源部10とMEMSミラー装置30との間には、ビームスプリッタBSが設けられている。ビームスプリッタBSは、光源部10側から入射した光ビームをMEMSミラー装置30側に通す光学素子である。したがって、光源部10から出射された光ビームがビームスプリッタBSを介してMEMSミラー装置30に入射される。MEMSミラー装置30は入射した光ビームを走査対象領域R1を規定する仮想の走査面SSに向けて反射させる。尚、走査面SSは実在するものではない。仮想の走査面SSの位置は測距装置100の測距可能範囲として設定される走査対象領域R1の最外周部に位置する。当該測距可能範囲は、光源部10から出射したパルス光の反射光が、受光部40に受光されるまでの待ち時間の最大値によって設定される。すなわち、待ち時間を過ぎて受光部40に受光された反射光は、測距可能範囲よりも遠くの対象物によって反射されたパルス光であり、そのような対象物は測距の対象外として扱われる。
【0042】
具体的には、MEMSミラー装置30は、可動部33を揺動して走査する態様で光ビームを走査対象領域R1内に向けて反射させる。この結果、MEMSミラー装置30によって反射された光ビームは、走査対象領域R1内であり光ビームの反射方向にある仮想面VSにおいてリサージュ軌跡を描くように、照射方向を変化させながら照射される。
【0043】
尚、仮想面VSは実在するものではなく、走査対象領域R1を走査する際の光ビームの照射方向の変化を、光ビームの軌跡で説明するために、本明細書中に用いられるものである。このリサージュ軌跡は、MEMSミラー装置30の搖動による光ビームの照射方向の連続的な変化の方向によってあらわされるものである。また、仮想面VSにおいて描かれる軌跡は、リサージュ曲線に沿った軌跡に限られず、例えば、平行な水平方向の走査軌跡群で構成されたラスタであってもよい。本実施例においては、この軌跡をリサージュ軌跡として説明する。
【0044】
図6は、測距装置100の光走査部20の受光系の動作を示している。
図6において、走査対象領域R1内に対象物OBが存在すると、対象物OBから反射された光ビームがMEMSミラー装置30に入射され、ビームスプリッタBSを介して受光部40に入射される。
【0045】
受光部40は、入射された反射光に基づいて生成された電気信号を距離測定部70に供給する。距離測定部70は、光ビームを出射した時刻と光ビームを受光した時刻に基づいて、対象物OBまでの距離を計測する。
【0046】
図7(a)は、第1駆動コイルCL1と第2駆動コイルCL2とに供給される電流の位相差を変化させたときの仮想面VSにおいて描かれるリサージュ走査軌跡を示している。
図7(a)においては、水平方向走査と垂直方向走査とを、下記のようにした場合のリサージュ走査軌跡を示している。
【0047】
具体的には図中のAX1及びAY1は、第1の軸AX及び第2の軸AYにそれぞれ対応している。すなわち、MEMSミラー装置30の第1の軸AXの周りの揺動は、仮想面VSにおけるAY1方向の走査位置の変化に対応する。また、MEMSミラー装置30の第2の軸AYの周りの揺動は、仮想面VSにおけるAX1方向の走査位置の変化に対応する。
【0048】
水平方向走査: DX(θx)=Ax sin(θx+Bx)
垂直方向走査: DY(θy)=Ay sin(θy+By)
図7(a)に示されるリサージュ軌跡は、図中において軸AX1の端部の近傍の領域は軌跡が密に描かれている。このように軌跡の密度が密である領域を密領域とする。また、軸AX1の中央の近傍の領域は軌跡が疎に描かれている。このように軌跡の密度が疎である領域を疎領域とする。従って、
図7(a)に示されるリサージュ軌跡は、密領域と疎領域を有しており、密領域から疎領域に向かうにつれて軌跡の密度は漸次疎になっている。なお、軌跡の密度は測距装置100からの距離によっても変化する。測距装置から遠くになるにつれて、隣り合って照射されるパルス光同士の距離は離れていく。従って、同じ照射方向に照射されたパルス光であっても、測距装置100からの距離が近い対象物上の照射点の密度より、測距装置100からの距離が遠い対象物上の照射点の密度の方が疎になる。
【0049】
図8は、走査面SSの一部を上から見た場合の走査面SSに照射されるパルス光の一部を示している。
【0050】
図8において、走査面SS上に照射されるパルス光の照射点PE1~PE4が示されている。照射点PE1~PE4は、それぞれ一定の間隔ΔLを有して配置されている。
【0051】
ここで、走査対象領域R1の外縁であって照射点PE2と照射点PE3との中間点を点PMとする。パルス光の出射点POから点PMまでの距離を距離Rとする。交点P1bとパルス光の出射点POを結ぶ線を基準線LBとする。照射点PE1と出射点POとを結ぶ射線L1と基準線LBとがなす角度をθ1とする。照射点PE2と出射点POを結んだ射線L2と基準線LBとがなす角度をθ2とする。
【0052】
角度θ1から、角度θ2を引いた角度Δθとした場合、距離(R)と角度(Δθ)と、各パルス光の間隔(ΔL)の関係は、以下の式(1)を満たす。
【0053】
R×Δθ=ΔL (一定) 式(1)
式(1)に表されるように、各パルス光の間隔ΔLが一定であることは走査面SSの単位面積あたりに照射されるパルス光の照射点が一定であることを意味する。すなわち、本実施例の測距装置100は、走査面SS上の空間解像度の不均一性が抑制されるように走査する。
【0054】
具体的には、ミラー制御部61は、上述のようなリサージュ軌跡を描くような態様、すなわち第1のトーションバーTB1及び第2のトーションバーTB2の軸周りに内側可動部34が共振して揺動する態様でMEMSミラー装置30を駆動させる。
【0055】
また、光源制御部61は、光走査部20がパルス光を照射する方向における測距可能範囲の距離の大きさに応じて光走査部20からのパルス光の照射を制御する。具体的には、光源制御部61は、MEMSミラー装置30の内側可動部34の揺動角度に応じたパルス光の出射タイミングを記憶したタイミングテーブルを有しており、このタイミングテーブルを参照して、光源部10にパルス光を出射する間隔が変化するようにパルス光を出射させる。
【0056】
パルス光が出射される間隔は、測距中心から遠く離れた走査対象領域R1の交点P1の近傍の領域、すなわち疎領域には、パルス光の出射間隔が短くなるように設定し、測距中心から近くに位置するP2a,P2bの近傍の領域、すなわち密領域には、パルス光の出射間隔が長くなるように設定するとよい。
【0057】
タイミングテーブルには、パルス光の照射方向ごとの測距可能範囲の距離に応じてパルス光の適切な出射間隔が記憶されている。具体的には、タイミングテーブルは、測距装置100が取り付けられた自動車AMを基準としたパルス光の照射方向毎に光源部10からのパルス光の出射間隔を記憶する。自動車AMを基準としたパルス光の照射方向を定めるものとしては、例えば、角度検知部50が検出するMEMSミラー装置30の光反射面MRの角度が挙げられる。
【0058】
例えば、
図4における自動車AMの正面方向(すなわち、仮想の走査面SSまでの距離が最長である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向に対しては、相対的に短い出射間隔(Xμ秒)(Xは固有の数値)が設定される。また、自動車AMの側方(すなわち、仮想の走査面SSまでの距離が最短である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向にはXよりも長い出射間隔(Zμ秒)(ZはZ>Xを満たす固有の数値)が設定される。
【0059】
自動車AMの正面方向から側方までの中間方向にパルス光を照射する場合、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて、仮想の走査面SSまでの距離も徐々に短くなる。従って、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて徐々に出力がZμ秒に近づくように出射間隔が設定されている。この場合、出射間隔Zよりも短くかつ、出射間隔Xよりも長い中間の出射間隔(Yμ秒)(Yは、X>Y>Z満たす変数)が設定されている。
【0060】
これによって、光源制御部61は、タイミングテーブルを参照して、出射間隔の制御を行うことで、走査面SSまでの距離に応じた(測距可能範囲までの距離に応じた)、電圧及び電流を光源部10に供給することができる。
【0061】
このようにパルス光の出射間隔を設定することにより、走査対象領域R1の単位面積あたりに照射されるパルス光の照射点の不均一性を抑制することができる。
【0062】
図9は、走査面SSに照射されたならば形成されるパルス光の照射痕を示している。
図9において、走査面SSに形成されたパルス光のスポット径Dの不均一性は抑制されている。ここで、パルス光のスポット径Dは、
図9に示したパルス光の出射点POから点PMまでの距離(R)に比例する。したがって、光走査部20は、出射点POから点PMまでの射線の距離(R)に応じて、すなわち、出射されるパルス光の射線における走査面SSとの距離に応じて当該出射されるパルス光のスポット径Dを調整して照射する。
【0063】
具体的には、スポット調整部64は、パルス光の射線における走査面SSとの距離が大きいほど相対的に小さいスポット径で照射されるようにパルス光のスポット径を調整し、パルス光の射線における走査面SSとの距離が短くなるにつれて徐々にスポット径が大きくなるように調整する。
【0064】
なお、スポット径テーブルには、パルス光の照射方向ごとの測距可能範囲の距離に応じてスポット径が記憶されている。具体的には、スポット径テーブルは、測距装置100が取り付けられた自動車AMを基準としたパルス光の照射方向毎に光源部10からのパルス光のスポット径を記憶する。自動車AMを基準としたパルス光の照射方向を定めるものとしては、例えば、角度検知部50が検出するMEMSミラー装置30の光反射面MRの角度が挙げられる。
【0065】
例えば、
図4における自動車AMの正面方向(すなわち、仮想の走査面SSまでの距離が最長である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向に対しては小さなスポット径(αmm)(αは固有の数値)が設定される。また、自動車AMの側方(すなわち、走査面SSまでの距離が最短である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向に対しては相対的に大きなスポット径(γmm)(γはγ>αを満たす固有の数値)が設定される。
【0066】
自動車AMの正面方向から側方までの中間方向にパルス光を照射する場合、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて、仮想の走査面SSまでの距離も徐々に短くなる。従って、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて徐々にスポット径がγmmに近づくように、スポット径が設定される。この場合、スポット径αよりも大きくかつ、スポット径γよりも小さい中間のスポット径(βmm)(βは、γ>β>α満たす変数)が設定されている。
【0067】
これによって、スポット径テーブルを参照して、スポット径調整部64が制御を行うことで、仮想の走査面SSまでの距離に応じた(測距可能範囲までの距離に応じた)、パルス光のスポット径とすることができる。
【0068】
また、パワー調整部63は、出射されるパルス光の射線における走査面SSとの距離に基づいて当該出射されるパルス光の出力を変化させる。具体的には、パワー調整部63は、パルス光の射線における走査面SSとの距離が大きいほど、相対的に最も大きい出力で照射されるようにパルス光のパワーを調整し、パルス光の射線における走査面SSとの距離が短くなるにつれて徐々に出力が小さくなるようにパワーを調整する。
【0069】
以上のように、本実施例の測距装置100は、走査の際に自動車AMからの距離が最も遠い交点P1の近傍、すなわちリサージュ軌跡の密度が疎である疎領域においては、パルス光の出射間隔が短くなるように走査すると共に、自動車AMからの距離が最も近い交点P2a,P2bの近傍の領域、すなわちリサージュ軌跡の密度が密である密領域パルス光の出射間隔が長くなるように走査する。
【0070】
なお、出力テーブルには、パルス光の照射方向ごとの測距可能範囲の距離に応じてパルス光の出力が記憶されている。具体的には、出力テーブルは、測距装置100が取り付けられた自動車AMを基準としたパルス光の照射方向毎に光源部10からのパルス光の出力を記憶する。自動車AMを基準としたパルス光の照射方向を定めるものとしては、例えば、角度検知部50が検出するMEMSミラー装置30の光反射面MRの角度が挙げられる。
【0071】
例えば、
図4における自動車AMの正面方向(すなわち、走査面SSまでの距離が最長である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向に対しては相対的に大きな出力(δmW)(δは固有の数値)が設定される。また、自動車AMの側方(すなわち、仮想の走査面SSまでの距離が最短である方向)にパルス光を照射する場合、当該方向に対してはδよりも小さな出力(ζmW)(ζはδ>ζを満たす固有の数値)が設定される。
【0072】
自動車AMの正面方向から側方までの中間方向にパルス光を照射する場合、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて、仮想の走査面SSまでの距離も徐々に短くなる。従って、自動車AMの正面方向から側方に近づくにつれて徐々に出力がζmWに近づくように、出力が設定されている。この場合、当該方向に対しては、出力δよりも小さくかつ、出力ζよりも大きい中間の出力(εmW)(εは、δ>ε>ζ満たす変数)が設定されている。
【0073】
これによって、出力テーブルを参照してパワー調整部63が制御を行うことで、仮想の走査面SSまでの距離に応じた(測距可能範囲までの距離に応じた)、電圧及び電流を光源部10に供給することができる。
【0074】
従って、本実施例の測距装置100によれば、自動車AMの前方側と側方側との距離が異なるように、方向によって測距が必要とされる距離範囲が異なる場合でも、走査面SS上にパルス光が照射される間隔の不均一性を抑制する、すなわち、空間解像度が、不均一性が大きくなく、良好な測距を行うことが可能となる。したがって、測距装置100は、測距動作において対象物OBの検出効率の向上を図ることができる。
【0075】
また、パワー調整部63によって出射されるパルス光の射線における走査面SSとの距離に基づいて当該出射されるパルス光の出力を調整することで、信号雑音比(S/N比)を高めることが可能となる。したがって、測距装置100が測定した測距情報の信頼性を高めることが可能となる。より具体的には、遠い位置の走査面SSにはパルス光の相対強度を強くすることで、信号雑音比(S/N比)を高めることができる。また、近い位置の走査面SSにはパルス光の相対強度を小さくすることで、パルス光の出射強度や回数が規定されている場合に、当該規定に沿うようにパルス光の出射を制御することが可能となる。
【0076】
さらに、スポット径調整部64によって、出射されるパルス光の射線における走査面SSとの距離に基づいて当該出射されるパルス光のスポット径を調整することにより、対象物の検出効率の向上を図ることが可能となる。すなわち、パルス光のスポット径は距離Rに比例するため、走査面SSにおいて照射されるパルス光のスポット径Dの不均一性を抑制することが可能となる。
制御部60のミラー制御部62は、第1のトーションバーTB1又は第2のトーションバーTB2の一方の軸周りに内側可動部34が共振せずに揺動させられるようにMEMSミラー装置30を駆動し、かつ、第1のトーションバーTB1又は第2のトーションバーTB2の一方の軸周りの角度の変位の速度が、この一方の軸周りの揺動角度範囲全体に亘って変化させるようにMEMSミラー装置30を駆動する。言い換えれば、ミラー制御部62は、MEMSミラー装置30の光反射面MRの揺動する速度を制御する。
尚、第1のトーションバーTB1又は、第2のトーションバーTB2のいずれか一方の軸周りに内側可動部34が共振せずに揺動させられるような態様であればよく、例えば、第1のトーションバーTB1及び第2のトーションバーTB2の両方の軸周りに内側可動部34が共振せずに揺動させられるようにしてもよい。
本実施例においては、一例として第1のトーションバーTB1の軸周りについては内側可動部34が共振しつつ揺動するように駆動させ、第2のトーションバーTB2については内側可動部34が共振せずに揺動するように駆動させた例について説明する。
ラスタ走査の軌跡間の間隔が最も狭い領域、すなわち、仮想面VSの軸AX1と軸AX2との交点の近傍は、走査対象領域R1の外縁において、測距中心Cから最も離れた交点P1の近傍を走査する。
また、ラスタ走査の軌跡間の間隔が最も広い領域、すなわち、仮想面VSの軸AX1の端部の近傍は、走査対象領域R1の外縁において測距中心Cから最も近い交点P2,a,P2bの近傍を走査する。
以上のように、本実施例の測距装置100は、走査の際に自動車AMからの距離が最も遠い交点P1の近傍に対して、ラスタ走査の軌跡間の間隔を最も狭い領域とし、自動車AMからの距離が最も近い交点P2a,P2bの近傍に対して、ラスタ走査の軌跡間の間隔を最も広い領域とし、パルス光を一定の間隔で出射する。
従って、本実施例の測距装置100によれば、自動車AMの前方側と側方側との距離が異なるように、方向によって測距が必要とされる距離範囲が異なる場合でも、走査面SS上にパルス光が照射される間隔の不均一性を抑制することができる。すなわち、測距装置100によれば、空間解像度が不均一性が大きくなく、良好な測距を行うことが可能となる。したがって、測距装置100は、画像処理において対象物OBを検出効率の向上を図ることができる。