IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和紡績株式会社の特許一覧

特開2024-26636吸収性物品用不織布、吸収性物品用トップシート、およびそれを含む吸収性物品
<>
  • 特開-吸収性物品用不織布、吸収性物品用トップシート、およびそれを含む吸収性物品 図1
  • 特開-吸収性物品用不織布、吸収性物品用トップシート、およびそれを含む吸収性物品 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026636
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】吸収性物品用不織布、吸収性物品用トップシート、およびそれを含む吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4374 20120101AFI20240220BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
D04H1/4374
A61F13/511 300
A61F13/511 400
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000780
(22)【出願日】2024-01-05
(62)【分割の表示】P 2022118698の分割
【原出願日】2017-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2016071848
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】中村 保紀
(72)【発明者】
【氏名】五百藏 悦聖
(57)【要約】
【課題】風合い、ウェットバック量、吸液速度、拡散長、(ウェットバック量、吸液速度及び拡散長の)繰り返し耐久性、保存性などから選択される少なくとも1種が改良される不織布を提供する。
【解決手段】第1繊維層と第2繊維層の少なくとも二層構造を有する不織布であって、第1繊維層と第2繊維層の両方共、各々特定の繊度を有し、第1繊維層の繊維径が第2繊維層の繊維径より大きく、第1繊維層と第2繊維層の両方共、水と接触しても親水性の高さの程度が維持される親水性を有し、第1繊維層と第2繊維層の両方共同じ親水性を有する不織布である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
第1繊維層を形成する繊維と第2繊維層を形成する繊維は、両方共、それらの繊維が水と接触してもそれらの親水性の高さの程度が維持される親水性を有し、それらの親水性は同じであり、
第1繊維層が人の肌に対向するように不織布は配置される、吸収性物品用不織布。
【請求項2】
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
水と接触前の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A1)と、水と接触前の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A2)は、下記(I)を満たし、
(I):A1≦80°、A2≦80°、|A1-A2|<12
水と接触後の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B1)と、水と接触後の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B2)は、下記(II)を満たし、
(II):-5≦(B1-A1)<40°、-5≦(B2-A2)<40°
第1繊維層が人の肌に対向するように不織布は配置される、吸収性物品用不織布。
【請求項3】
前記水と接触前の接触角(A1、A2)、水と接触後の接触角(B1、B2)において、B1-A1とB2-A2の差である(B1―A1)-(B2-A2)の絶対値が下記(III)を満たす請求項2に記載の吸収性物品用不織布。
(III):|(B1-A1)-(B2-A2)|≦18
【請求項4】
第1繊維層を形成する繊維は、芯成分がポリエステル、鞘成分が高密度ポリエチレンである同心芯鞘複合繊維を含む、請求項1~3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
第2繊維層の目付と第1繊維層の目付との比(第2繊維層の目付/第1繊維層の目付)が0.8~3.0である、請求項1~4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の不織布を含み、第1繊維層が人の肌に対向するように配置される、吸収性物品用トップシート。
【請求項7】
請求項6に記載のトップシートを含み、第1繊維層が人の肌に対向するように配置される、吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布、吸収性物品用シート、およびそれを含む吸収性物品に関する。より具体的には、吸収性物品に用いられる不織布、それを含む吸収性物品用トップシート、およびそれを含む吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドおよびパンティライナー等の吸収性物品のトップシートとして、二層構造を有する不織布が提案されている。例えば、特許文献1は、使用者の肌に触れる第1繊維層と、それに隣接する第2繊維層を有する二層構造の不織布であって、第1繊維層の繊維はより小さな特定の繊維径(11~18μm)を有し、第2繊維層の繊維はより大きな特定の繊維径(19~31μm)を有し、第1繊維層と第2繊維層の坪量が共に特定の値(7~30g/m)である不織布からなる吸収性物品用トップシートを提案する。特許文献1は、不織布がこのような特徴を有するので、トップシートの風合いを良好にでき、かつウェットバック量を低減可能であることを述べる。
【0003】
更に、特許文献1は、第1繊維層および第2繊維層の繊維が共に親水化されており、第1繊維層の繊維は、第2繊維層の繊維と比べて、水との接触で親水化度が低下しやすいように親水化されていることが、ウェットバック量を更に一層低減させることができるので好ましいことを述べる。
【0004】
また、特許文献2は、肌側に配される上層と吸収体側に配される下層とを有する積層不織布からなり、液透過前においては、上層よりも下層の親水度が高いかほぼ等しく、液透過後においては、上層に使用される親水油剤として、その耐水性が下層に使用される親水油剤の耐水性と比較して明らかに高い親水油剤を選択したことで、下層よりも前記上層の親水度が明らかに高くなることを特徴とする吸収性物品の表面シートが提案する。特許文献2は、その吸収性物品の表面シートによると、液体の透過性が吸収性物品を使用しているときに安定した状態で維持され、尿や経血等の液体の表面流れ及びウェットバックを使用中長時間防止することができることを述べる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-166832号公報
【特許文献2】特開2005-324010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸収性物品には、風合いとウェットバック量の他に、吸液速度、拡散長、(ウェットバック量、吸液速度および拡散長の)繰り返し耐久性、保存性、コストなどの性質も改良が求められる。更に、おむつなどは、一度濡れたら直ぐに交換されることはないので、繰り返しの排泄に対応できること(すなわち、繰り返し耐久性)が極めて重要である。
特許文献1は、二層構造の不織布を親水化すること、第1繊維層の繊維は水と接触するとその親水化度が低下しやすいことが好ましいことを述べる。しかし、特許文献1は、その実施例で、親水化度およびその耐水性について具体的に何も記載しておらず、更に風合いとウェットバック量以外の性質についても、何も示していない。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2に記載の不織布及び表面シートは、肌側に配され、使用時に着用者の肌に接触する面(一般的には肌当接面とも称される)を構成する繊維層と、前記肌当接面の反対側表面を構成し、使用時に着用者の肌に接触せず、吸収体に対向している面を構成している繊維層とで、液体に対する親水性の強さ(親水化度)、および液体と接触しても親水性の強さが低下しにくいこと、言い換えるならば、親水性の液体に対する耐久性が、上下の繊維層で異なることを特徴としている。
【0008】
このような不織布や表面シートを得るには、これらの繊維層を構成する合成繊維に対し、液体への親和性の強さ(例えば親水性)、液体に接触した際の耐久性(液体と接触しても繊維から脱落しにくさ)を考慮した親水化剤(繊維処理剤とも称す)を繊維表面に付着させた上で不織布を製造する。
【0009】
しかし、二層構造の不織布を製造した場合、不織布はロール状に巻かれるかたちで製造、保管、出荷されるが、このとき性質の異なる繊維同士が密着した状態で保管されるようになる。ロール状に巻いた状態が長期間に及んだ場合、保管した環境が高温多湿の環境であると、使用している繊維処理剤が異なる繊維層同士が接触した部分で、親水化剤が相互に移動し、吸収性物品にした際、設計したとおりの性能を発揮できなくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、驚くべきことに、第1繊維層と第2繊維層の少なくとも二層構造を有する不織布であって、第1繊維層と第2繊維層の両方共、各々特定の繊度を有し、第1繊維層の繊維径が第2繊維層の繊維径より小さく、第1繊維層と第2繊維層の両方共、水と接触しても親水性の高さの程度が維持され、第1繊維層と第2繊維層の両方共実質的に同じ親水性が施されていること等によって、風合い、ウェットバック量、吸液時間、拡散長、(ウェットバック量、吸液時間および拡散長の)繰り返し耐久性、保存性などから選択される少なくとも1種が改良されることを見いだして、より好ましくは、ウェットバック量、吸液時間および拡散長の繰り返し耐久性から選択される少なくとも1種が改良されることを見いだして、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は一の要旨において、
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
第1繊維層を形成する繊維と第2繊維層を形成する繊維は、両方共、その繊維が水と接触してもその親水性の高さの程度(親水化度)が維持される親水化処理が施されており(すなわち、繊維の親水化度は耐水性を有し)、その親水性(親水性の高さの程度とその耐水性)は実質的に同じであり、
第1繊維層が人の肌に対向するように、不織布は配置される、吸収性物品用不織布を提供する。
【0012】
不織布表面と水との親和性は、不織布を構成する繊維表面と水滴の間で形成される接触角の大小で表すことができる。すなわち、接触角が小さければ不織布と液体とは親和性(親水性)が高く、接触角が大きければ親和性(親水性)が低いといえる。また、親水性の液体に対する耐久性は、液を透過させた前後での接触角の変化で表すことができる。
【0013】
よって、本発明は、他の要旨において、
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
水と接触前の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A1)と、水と接触前の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A2)は、下記(I)を満たし、
(I):A1≦80°、A2≦80°、|A1-A2|<12
水と接触後の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B1)と、水と接触後の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B2)は、下記(II)を満たし、
(II):-5≦(B1-A1)<40°、-5≦(B2-A2)<40°
第1繊維層が人の肌に対向するように不織布は配置される、吸収性物品用不織布
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、上述のような特徴を有するので、風合い、ウェットバック量、吸液時間、拡散長、(ウェットバック量、吸液時間および拡散長の)繰り返し耐久性、保存性などから選択される少なくとも1種が改良される。より好ましくは、ウェットバック量、吸液時間および拡散長の繰り返し耐久性から選択される少なくとも1種が改良される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、水滴と繊維(表面)とがなす接触角を模式的に示す。
図2図2は、水透過後の接触角を測定するために、不織布サンプルに水滴を付着させるためのステンレス製プレートを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、吸収性物品用不織布を提供する。
吸収性物品は、一般に液保持性の吸収体、液不透過性のバックシート、および液透過性のトップシートを含み、吸収体とトップシートの間にバックシートが配置される。本発明の実施形態に係る吸収性物品用不織布は、装着者の肌に当接するトップシートとして配置される。かかるバックシートおよび吸収体として、吸収性物品に通常用いられているものを用いることができる。
例えばバックシートとして、透湿性を有する又は有さない熱可塑性樹脂のフィルムを用いることができる。例えば吸収体として、パルプ繊維、高吸収性ポリマーの粒子又はそれらの混合物をティッシュペーパー等の紙等で包んだ又は挟んだ吸収体を用いることができる。
【0017】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する少なくとも二層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
第1繊維層を形成する繊維と第2繊維層を形成する繊維は、両方共、それらの繊維が水と接触してもそれらの親水性の高さの程度が維持される親水性を有し、それらの親水性は同じであり、
第1繊維層が人の肌に対向するように、すなわち、吸収性物品の外側を向くように、不織布は配置される。
【0018】
前記本発明の形態の吸収性物品用不織布は、不織布を構成する繊維表面における水を含む液体へのなじみやすさである親水性の強さ、および、そのような液体と接触しても親水性が低下しにくい性質を、繊維表面と水との接触角を用いることで以下のように記載することもできる。
【0019】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、
第1繊維層とその第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する不織布であり、
第1繊維層を形成する繊維の繊度は1.0~2.8dtexであり、
第2繊維層を形成する繊維の繊度は1.7~5.6dtexであり、
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さく、
水と接触前の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A1)と、水と接触前の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A2)は、下記(I)を満たし、
(I):A1≦80°、A2≦80°、|A1-A2|<12
水と接触後の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B1)と、水と接触後の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B2)は、下記(II)を満たし、
(II):-5≦(B1-A1)<40°、-5≦(B2-A2)<40°
第1繊維層が人の肌に対向するように不織布は配置される。
【0020】
第1繊維層を形成する繊維の繊度は、1.0~2.8dtexであり、好ましくは1.5~2.6dtexであり、より好ましくは1.7~2.3dtexである。
第2繊維層を形成する繊維の繊度は、1.7~5.6dtexであり、好ましくは2.0~5.0dtexであり、より好ましくは2.6~4.0dtexである。
更に、第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、第2繊維層を形成する繊維の繊維径より小さい。
従って、本発明においては、人の肌に対向する第1繊維層に、より細い繊維を使用し、吸収体に対向する第2繊維層に、第1繊維層より、太い繊維を使用する。
人の肌に対向する第1繊維層の繊維は、第2繊維層の繊維より、より細い特定の繊度を有するので、風合い、触感が向上し好ましい。
【0021】
なお、第1繊維層および第2繊維層は、それらを形成する繊維のすべてが前記範囲の繊維繊度を有することが好ましいが、本発明の所望の効果を損なわない範囲において、前記範囲外の繊維が含まれていてもよい。
第1繊維層を形成する繊維の繊維径は、10~20μmが好ましく、12~19μmがより好ましく、14~18μmがさらに好ましい。
第2繊維層を形成する繊維の繊維径は、13~28μmが好ましく、15~26μmがより好ましく、17~24μmがさらに好ましく、17~21μmがさらにより好ましい。
【0022】
第1繊維層の繊維(原料又は材質)は、本発明が目的とする不織布を得られる限り特に制限されることはない。
第1繊維層の繊維は、例えば、下記の繊維を含むことができる:コットン、シルクおよびウールなどの天然繊維;ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維;ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリルニトリルからなる(ポリ)アクリル系繊維、ポリカーボネート系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリスチレン系繊維、および環状ポリオレフィン系繊維などの合成繊維。
第1繊維層の繊維は、単一種類の樹脂でできている繊維のみならず、二種以上の樹脂でできている複合繊維(例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維)を用いることもできる。
なお、天然繊維を含む場合、その繊度または繊維径については、JIS L 1019 7.4.1 マイクロネヤによる方法に準じ、算出できる。
【0023】
第1繊維層の繊維として、合成繊維が好ましく、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびその組み合わせがより好ましい。第1繊維層の繊維は、本発明が目的とする不織布を得られる限り、合成繊維に、再生繊維および/又は天然繊維を含むことができる。
第1繊維層の繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;および、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレン三元共重合体等のポリオレフィン系繊維;およびそれらを組み合わせた繊維を含むことができる。
【0024】
ポリエチレンは高密度ポリエチレンであることが、捲縮を容易に付与できるので更に好ましい。本願発明では、後述するように繊維に親水性を施すために繊維処理剤が、使用され得る。繊維に捲縮を容易に付与できる場合、繊維処理剤は、例えば、撥水性を施すための追加の成分を含有する必要性が低下し得、吸液特性への不要な影響を抑制し得る。
これらの繊維は、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0025】
2種類の繊維を組み合わせる場合、各々の繊維を単純に混合した繊維、同心又は偏心芯鞘型の複合繊維等、組み合わせの形態は、目的とする不織布を得ることができる限り特に制限されることはない。
同心又は偏心芯鞘型の複合繊維が好ましく、同心芯鞘型複合繊維が第1繊維層の厚さを薄くできるためより好ましい。
不織布の厚さは薄い方が、吸収体までの距離が短くなるため液の移動性が良く、吸液時間やウェットバック量がより向上し得るので、第1繊維層も厚さは、薄い方が好ましい。
ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂から構成される同心又は偏心芯鞘型の複合繊維が更により好ましい。特に芯成分がポリエステル系樹脂であり、鞘成分がポリオレフィン系樹脂である芯鞘型の複合繊維が好ましい。
【0026】
第1繊維層の繊維は、同心芯鞘型複合繊維を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、第1繊維層を形成するすべての繊維が同心芯鞘型複合繊維であることが特に好ましい。第1繊維層の繊維は、同心芯鞘型複合繊維を50質量%以上含む場合、不織布の厚さの増加をより抑制し得る。
第1繊維層の繊維は、風合いや触感を向上させるために、繊維中に酸化チタン等の添加剤を含むことができる。このような添加剤は、添加剤等も含む繊維全体を100質量%として、0.1~10質量%含まれることが好ましく、1~5質量%含まれることがより好ましい。また、第1繊維層の繊維が芯鞘型複合繊維である場合、添加剤は芯成分により多く含まれていることが好ましく、芯成分のみに含まれていることが好ましい。添加剤が鞘成分に含まれている場合、不織布等の製造装置が傷つけられることがある。
【0027】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比が質量比で80:20~40:60であることが好ましく、70:30~50:50であることがより好ましく、65:35~55:45であることがさらに好ましい。複合比がこの範囲である場合、特に複合比(質量比)で芯成分の方が多い場合、不織布の目付や地合のムラが少なくなり得るので好ましい。
【0028】
第2繊維層の繊維(原料又は材質)は、本発明が目的とする不織布を得られる限り特に制限されることはない。
第2繊維層の繊維は、例えば、下記の繊維を含むことができる:コットン、シルクおよびウールなどの天然繊維;ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維;ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリルニトリルからなる(ポリ)アクリル系繊維、ポリカーボネート系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリスチレン系繊維、および環状ポリオレフィン系繊維などの合成繊維。
第2繊維層の繊維は、単一種類の樹脂でできている繊維のみならず、二種以上の樹脂でできている複合繊維(例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維)を用いることもできる。
なお、天然繊維を含む場合、その繊度または繊維径については、JIS L 1019 7.4.1 マイクロネヤによる方法に準じ、算出できる。
【0029】
第2繊維層の繊維として、合成繊維が好ましく、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびその組み合わせがより好ましい。第2繊維層の繊維は、本発明が目的とする不織布を得られる限り、合成繊維に、再生繊維および/又は天然繊維を含むことができる。
第2繊維層の繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;および、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレン三元共重合体等のポリオレフィン系繊維;およびそれらを組み合わせた繊維を含むことができる。
【0030】
ポリエチレンは高密度ポリエチレンであることが、捲縮を容易に付与できるので更に好ましい。本願発明では、後述するように繊維に親水性を施すために繊維処理剤が、使用され得る。繊維に捲縮を容易に付与できる場合、繊維処理剤は、例えば、撥水性を施すための追加の成分を含有する必要性が低下し得、吸液特性への不要な影響を抑制し得る。
これらの繊維は、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0031】
2種類の繊維を組み合わせる場合、各々の繊維を単純に混合した繊維、同心又は偏心芯鞘型の複合繊維等、組み合わせの形態は、目的とする不織布を得ることができる限り特に制限されることはない。
同心又は偏心芯鞘型の複合繊維が好ましく、同心芯鞘型複合繊維が第2繊維層の厚さを薄くできるためより好ましい。
不織布の厚さは薄い方が、吸収体までの距離が短くなるため液の移動性が良く、吸液時間やウェットバック量がより向上し得るので、第2繊維層も厚さは、薄い方が好ましい。
ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂から構成される同心又は偏心芯鞘型の複合繊維が更により好ましい。特に芯成分がポリエステル系樹脂であり、鞘成分がポリオレフィン系樹脂である芯鞘型の複合繊維が好ましい。
【0032】
第2繊維層の繊維は、同心芯鞘型複合繊維を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、第2繊維層を形成するすべての繊維が同心芯鞘型複合繊維であることが特に好ましい。第2繊維層の繊維は、同心芯鞘型複合繊維を50質量%以上含む場合、不織布の厚さの増加をより抑制し得る。第2繊維層の繊維は、風合いや触感を向上させるために、繊維中に酸化チタン等の添加剤を含むことができる。このような添加剤は、第2繊維層の添加剤等を含む繊維全体を100質量%として、0.1~10質量%含まれることが好ましく、1~5質量%含まれることがより好ましい。また、第2繊維層の繊維が芯鞘型複合繊維である場合、添加剤は芯成分により多く含まれていることが好ましく、芯成分のみに含まれていることが好ましい。添加剤が鞘成分に含まれている場合、不織布等の製造装置が傷つけられることがある。
【0033】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比が質量比で80:20~40:60であることが好ましく、70:30~50:50であることがより好ましく、65:35~55:45であることがさらに好ましい。複合比がこの範囲である場合、特に複合比(質量比)で芯成分の方が多い場合、不織布の目付および地合のムラが少なくなり得るので、より好ましい。
【0034】
更に、不織布全体の目付は10~80g/mであることが好ましく、より好ましくは15~50g/mであり、さらに好ましくは17~40g/mである。
不織布全体の目付は使い捨ておむつの場合、なるべく低いことがコストの面でよく、その場合の目付は10~50g/mであることが好ましく、15~40g/mであることがより好ましい。
【0035】
また不織布の厚さは、0.2~3.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.3~1.5mmであり、さらに好ましくは0.35~0.8mmである。不織布の厚さは使い捨ておむつの場合、なるべく低いことがコストの面でよく、その場合の厚さは0.2~1.0mmであることが好ましく、0.3~0.8mmであることがより好ましい。
【0036】
第1繊維層の目付は3~40g/mであることが好ましく、5~15g/mであることがより好ましい。
第2繊維層の目付は3~40g/mであることが好ましく、8~20g/mであることがより好ましい。
【0037】
第2繊維層の目付と第1繊維層の目付との比(第2繊維層の目付/第1繊維層の目付)は0.8~3.0であることが好ましく、1.0~2.0であることがより好ましく、1.3~1.7であることがさらに好ましい。特に繊維径のより小さい第1繊維層の目付が第2繊維層の目付よりも小さい場合、すなわち、第2繊維層の目付と第1繊維層の目付との比(第2繊維層の目付/第1繊維層の目付)が、1より大きい場合、風合いや触感を有しつつ、より良好な吸液特性が得られるため、より好ましい。
【0038】
第1繊維層を形成する繊維と第2繊維層を形成する繊維は、両方共、水と接触しても親水性の高さの程度(親水化度)が維持される親水性が施される(すなわち、繊維は耐水性を有する親水性を有する)。
「水と接触しても親水性の高さの程度が維持される親水性」は、下記の耐水性指標の測定方法により得られた耐水性指標が15以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、10以下であることが特に好ましい。耐水性指標が小さいほど、親水性の耐水性は高いと考えられる。
耐水性指標が15以下である場合、繰り返しの吸液特性(吸液特性の耐久性)、特に繰り返しのウェットバック特性(ウェットバックの耐久性)が、より良好になり、より好ましい。
【0039】
また、「水と接触しても親水性の高さの程度が維持される親水性」は、耐水性指標の算出と同様の方法によって得られる「1回目の吸液時間(秒)」と「3回目の吸液時間(秒)」について、3回目の吸液時間(秒)と1回目の吸液時間(秒)との比の値(3回目の吸液時間(秒)/1回目の吸液時間(秒))によって表してもよい。このような比の値は、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが特に好ましい。このような比の値が30以下である場合、繰り返しの吸液特性(吸液特性の耐久性)、特に繰り返しのウェットバック特性(ウェットバックの耐久性)が、より良好になり、より好ましい。
【0040】
繊維処理剤の親水性の耐水性(耐水性指標)は、下記の様にして評価する。
(1)ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、同心芯鞘型複合繊維(繊度:2.0dtex、繊維長:45mm)(例えば、ダイワボウポリテック社製NBF(登録商標) 品番(SH))に、繊維処理剤を0.40質量%付与し、パラレルカード法およびエアスルー法(加熱温度:135℃、処理時間:10秒、風速:1.0m/s)を用いて、不織布サンプル(目付:20.0g/m、寸法:タテ10.0cm×ヨコ10.0cm、厚さ:1.2mm)を製造して用意した。
その他下記物品を用意した。
注入筒付きプレート(EDANA Nonwovens Standard Procedures - Edition 2015 の NWSP 070.3.R0 (15) に記載の Strike-through plate を使用)
0.90%生理食塩水(青色染料で着色)
ろ紙(MEZGER inc.製の商品名Lister Paper(Grade989、10cm×10cm))
【0041】
(2)不織布サンプルの吸液時間を下記方法によって測定した。
(i)ろ紙を3枚積層し、その上に不織布サンプルを積層した。その上に注入筒付きプレートを乗せた。
(ii)約37℃に温めた生理食塩水5.0mlを筒から注入した。注入してから生理食塩水が不織布表面から見えなくなる(液体として生理食塩水が確認されなくなる)までの時間を計測し、吸液時間とした。
(iii)吸液後30秒静置した後、上記(ii)を繰り返して2回測定を行った。合計3回、吸液時間を測定した。
(iv)耐水性指標は下記式により算定した。
式:耐水性指標=3回目の吸液時間(秒)-1回目の吸液時間(秒)
【0042】
第1繊維層の繊維および第2繊維層の繊維が示す湿潤時の「親水性の高さの程度」は、本発明が目的とする吸収性物品用不織布を得ることができれば特に制限されることはない。その湿潤時の親水性の高さの程度は、下記のランオフの評価方法で評価して、ランオフ2~5回目の総和が、好ましくは9.0~30であり、より好ましくは9.5~20であり、特に好ましくは10.0~15である。
ランオフ2~5回目の総和が、9.0~30である場合、繰り返しの吸液特性、特に繰り返しのウェットバック特性が、より良好になり、より好ましい。
【0043】
また、「親水性の高さの程度」は、ランオフ2~5回目の総和の算出と同様の方法によって得られる1~5回目のランオフの値について、下記式によって得られた値(ランオフ指標)で表してもよい。
【数1】
このような式によって得られた値(ランオフ指標)が、好ましくは13.7~55であり、より好ましくは14.0~40であり、特に好ましくは14.5~30である。このような式によって得られた値(ランオフ指標)が、13.7~55である場合、繰り返しの吸液特性、特に繰り返しのウェットバック特性が、より良好になり、より好ましい。
【0044】
繊維処理剤の親水性の高さの程度は、下記のようにランオフを測定して評価した。
ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、同心芯鞘型複合繊維(繊度:2.0dtex、繊維長:45mm)(例えば、ダイワボウポリテック社製NBF(登録商標) 品番(SH))に、繊維処理剤を0.40質量%付与し、パラレルカード法およびエアスルー法(加熱温度:135℃、処理時間:10秒、風速:1.0m/s)を用いて、不織布サンプル(目付:20.0g/m、寸法:タテ18.0cm×ヨコ7.0cm、厚さ:0.70mm)を製造して用意した。
【0045】
略直角二等辺三角形の底面を有する三角柱を、横倒しして、斜面が水平面と45度の角度を有する支持台を準備した。その斜面上に、ろ紙(MEZGER inc.製の商品名Lister Paper(Grade989、27.5cm×14cm))を2枚重ねて敷き、その上に不織布サンプルを載せて固定した。
【0046】
不織布の上端から1cm下方の位置に、0.90%生理食塩水(青色染料で着色)を、マイクロチューブポンプまたはビュレットから、1.0g/30secの速度で、滴下した量の合計が1.0gとなるよう30秒かけて滴下した。全ての生理食塩水が不織布に吸収され、生理食塩水の水滴が不織布表面から消えたときの生理食塩水の先端の位置を測定した。当該位置と生理食塩水を不織布表面に滴下した位置との間の距離、すなわち生理食塩水の水滴が不織布表面を流れた最長の距離を求めた。
【0047】
2回目のランオフは、1回目のランオフに使用した不織布サンプルを使い、1回目のランオフの測定終了から30秒後に、1回目に生理食塩水を滴下した位置と同じ位置に、1回目と同様にして生理食塩水を滴下して、生理食塩水が不織布表面を流れた距離を求めた。3回目以降のランオフは、その前回の不織布サンプルを使用して、同様に繰り返し測定した。
【0048】
更に、第2繊維層を形成する繊維は、第1繊維層を形成する繊維と実質的に同じ親水性が施される。第1繊維層の繊維と第2繊維層の繊維が、このような親水性を有するので、繰り返しの吸液特性、より具体的には、ウェットバック量、吸液時間および拡散長から選択される少なくとも一種の繰り返し耐久性が、より向上し得る。
また、第1繊維層を形成する繊維と第2繊維層を形成する繊維に実質的に同じ親水性が施されていることで、第1繊維層と第2繊維層との親水性が混在して吸液特性が変化することがないため好ましい。
【0049】
本発明の形態の吸収性物品用不織布において、前記第1繊維層及び第2繊維層の各々の親水性の高さの程度(親水化度又は親水性の強弱)、及び各々の繊維層を構成する繊維の表面に付与されている繊維処理剤が示す親水性の耐水性(耐水性指標、又は各々の繊維層が水と接触したときの各々の繊維層の親水性の耐久性)は、繊維表面とその上に付された水滴表面がなす角の角度(接触角)を用いて表すことができる。その接触角は、後述する方法で測定される。
【0050】
即ち、本発明の形態の吸収性物品用不織布は、
水と接触前の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A1)と、水と接触前の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A2)は、下記(I)を満たし、
(I):A1≦80°、A2≦80°、|A1-A2|<12
水と接触後の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B1)と、水と接触後の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B2)は、下記(II)を満たす。
(II):-5≦(B1-A1)<40°、-5≦(B2-A2)<40°
【0051】
本発明の形態の吸収性物品用不織布において、水と接触前(液透過前)の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A1)及び第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(A2)について説明する。
A1及びA2は、各繊維層を形成する繊維の表面に約20℃のイオン交換水を噴霧することで、噴霧されたイオン交換水の微小な水滴が繊維表面に付着し、その液滴の表面と繊維表面とがなす角の角度をいう。
A1及びA2は、本発明の形態の吸収性物品用不織布において、尿や経血といった吸収性物品の着用者(人やほ乳類動物を含む)から排出される液体を受ける前の繊維層表面における親水性の高低を示す。
【0052】
本発明の形態の吸収性物品用不織布において、A1及びA2の両方共、80°以下である(A1≦80°、A2≦80°)。
A1及びA2が、両方共80°以下なので、第1繊維層の親水性および第2繊維層の親水性の両方共十分に高く、尿や経血、軟便などが排出されて不織布に接したとき、これらの液体や排出物に含まれる水分と繊維とがなじみやすく、不織布がこれらの液体や水分を瞬時に吸収しやすくなる。
A1及びA2の両方共、20°以上80°以下であることが好ましく、30°以上75°以下であることがより好ましく、35°以上75°以下であることが特に好ましく、40°以上70°以下であることが最も好ましい。
【0053】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、第1繊維層と第2繊維層の親水性の高さの程度(親水化度)が同程度である。
従って、本発明の形態の吸収性物品用不織布は、A1とA2の差の絶対値が12未満である(|A1-A2|<12)。
A1とA2の差の絶対値が、12未満なので、本発明の形態の吸収性物品用不織布は、水と接触前の第1繊維層が奏する親水性の強さ(親水化度)と、水と接触前の第2繊維層が奏する親水性の強さ(親水化度)が同程度である。
即ち、例えば、第1繊維層を構成する繊維が処理された繊維処理剤の親水性の強さと、第2繊維層を構成する繊維が処理された繊維処理剤の親水性の強さは、同程度である。
A1とA2の差の絶対値が12未満なので、第1繊維層の親水化度と、第2繊維層の親水化度が同程度であり、尿や経血に対するなじみやすさが同程度であり、一方の層が他方の層と比較して極端に親水性が高く、尿や経血等の液体を保持しやすくなるということが生じ難い。
A1とA2の差の絶対値は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることが特に好ましい。
【0054】
次に、本発明の形態の吸収性物品用不織布における、水と接触後(液透過後)の第1繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B1)と、水と接触後の第2繊維層を形成する繊維の表面に対するイオン交換水の接触角(B2)について説明する。
B1及びB2とは、不織布に対し約20℃のイオン交換水0.04mlを通過させ、不織布を自然乾燥させた後、イオン交換水を通過させた部分の不織布表面に約20℃のイオン交換水を噴霧することで微小な液滴が繊維表面に付着し、その液滴の表面と繊維表面とがなす角の角度をいう。
B1及びB2は、本発明の形態の吸収性物品用不織布を得られる限り、特に限定されないが、90°未満であることが好ましい。
B1及びB2が90°未満である場合、第1繊維層、第2繊維層の親水性がある程度維持されており、尿や経血が繰り返し排出された場合であっても十分に吸収できる。B1及びB2は、30°以上85°以下であることがより好ましく、40°以上80°以下であることが特に好ましく、45°以上80°以下であることが最も好ましい。
【0055】
B1とB2の差の絶対値は、本発明の形態の吸収性物品用不織布を得られる限り、特に限定されないが、14未満であることが好ましい。
B1とB2の差の絶対値が、14未満である場合、水と接触後(液透過後)も第1繊維層及び第2繊維層の各々を形成する繊維の表面が奏する親水性の高さが同程度であることを意味する。即ち、第1繊維層及び第2繊維層の親水性の高低(親水化度)が同程度であり、尿や経血に対するなじみやすさが、これらの液体を通過させた後でも同程度となり、一方の層が他方の層と比較して極端に親水性が高く、尿や経血といった液体を保持しやすくなる、ということが発生しにくい。
B1及びB2の差の絶対値は12以下であることがより好ましく、10以下であることが特に好ましく、8以下であることが最も好ましい。
【0056】
本発明の形態の吸収性物品用不織布において、水と接触前の接触角(A1、A2)と水と接触後の接触角(B1及びB2)との間に、下記の関係がある。
-5≦(B1-A1)<40°、-5≦(B2-A2)<40°
B1-A1及びB2-A2が、前記の範囲にあるので、第1繊維層および第2繊維層を形成する繊維表面の親水性の耐久性、即ち、繊維表面に付与された繊維処理剤の水(例えば、尿や経血等の液体、軟便などに含まれる水分)に対する耐久性が適度であり、水に徐々に少しずつ溶出する繊維処理剤であり得る。
このような繊維処理剤が付与された繊維層は、水を複数回吸収及び通過可能な親水化度を維持するが、徐々に親水化度が低下するため、各繊維層が水を保持し続けにくくなり、繊維層中に残った液体が不織布表面に戻る液戻り(いわゆるウェットバック)の量を抑えることができると考えられる。
【0057】
B1-A1及びB2-A2が-5°より小さい場合、水と接触後の繊維層は、親水化度が高くなりすぎていることに加え親水化度の変化が大きいことため、液戻り量が増加し得る。
B1-A1及びB2-A2が40°以上の場合、即ち、水との接触で親水化度が大きく低下している場合、この繊維層は親水化度が水との接触で低下しやすい繊維であるだけでなく、水との接触後の繊維層が示す親水化度も低い繊維層になっている。このような繊維層は、親水化度の耐水性が低いため、水と接触により親水化度が大きく低下しやすく、水(例えば、尿や経血等)を複数回吸収及び通過させることが難しくなり、水(例えば、尿や経血等)の漏れが発生しやすくなる。
B1-A1及びB2-A2は、-3°以上35°以下であることが好ましく、0°以上30°以下であることがより好ましく、3°以上25°以下であることが特に好ましく、5°以上20°以下であることが最も好ましい。
【0058】
本発明の形態の吸収性物品用不織布において、水と接触前後の第1繊維層における接触角の変化(B1-A1)と、水と接触前後の第2繊維層における接触角の変化(B2-A2)が同程度であることが好ましい。
即ち、B1-A1とB2-A2の差である(B1―A1)-(B2-A2)の絶対値(|(B1-A1)-(B2-A2)|)が18以下であることが好ましい。
水と接触の前後で第1繊維層の接触角の変化と第2繊維層の接触角の変化が、同程度なので、第1繊維層の親水性の耐久性と第2繊維層の親水性の耐水性(即ち、第1繊維層を形成する繊維の表面に付着した繊維処理剤の液体に対する耐久性と、第2繊維層を形成する繊維に付着した繊維処理剤の水に対する耐久性)は、同程度の強さであり、水との接触によって、同程度に、繊維処理剤による親水化度は、低下し得る。
水と接触後、第1繊維層及び第2繊維層のいずれか一方の親水化度(液体への親和性)が極端に高い、又は極端に低いということを生じないため、液戻り量が更に低下しやすいと考えられる。
B1-A1とB2-A2の差((B1-A1)-(B2-A2))の絶対値が15以下であることがより好ましく、12以下であることが特に好ましく、10以下であることがと最も好ましい。
【0059】
[液透過前の接触角測定]
第1繊維層を形成する繊維表面の水の接触角と、第2繊維層を形成する繊維表面の水の接触角は、各繊維層表面にイオン交換水を噴霧し、各繊維層を形成する繊維表面とその水滴の表面がなす角の角度を測定する。
水と繊維表面との接触角は下記の方法で測定することができる。
(株)キーエンス製マイクロスコープVHX-1000にズームレンズ((株)キーエンス製、型番:VH-Z100R)を取り付けた測定部を水平方向に倒した状態で固定する。接触角の測定対象である繊維を含む不織布を縦(MD方向)×横(CD方向)が50mm×10mmの大きさとなるようにカットして、測定サンプルを作製する。測定サンプルの測定面を上向きにした状態で、ズームレンズのレンズ面に対して不織布のCD方向が垂直となる向きにして(すなわち、観察方向がCD方向と平行となるように)測定サンプルを試験台に置いて、両端をテープで固定する。なお、観察方向(ズームレンズを通して対象物を見る方向)は、観察方向と直交する方向に繊維が延びているように選択される限りにおいて、特に限定されない。不織布の種類によっては、不織布のCD方向と例えば45°の角度をなす方向を観察方向としてよい。
【0060】
次に、測定用サンプルに、霧の大きさがなるべく一定で細かくなるような霧吹きを使って、イオン交換水(水温約20℃)の水滴を吹き付ける。吹き付け後5秒以内に、繊維表面の上に載った水滴を、ズームレンズを用いて、観察する繊維の繊維径に応じて50~1000倍で観察して画像を取り込む。吹き付けと画像取り込みを繰り返して、水滴が鮮明に写っている20点の画像を得る。得られた画像の中から、繊維が水平になっている画像を選ぶ。これは、繊維が傾いていると接触角が変化することによる。選んだ画像の数が10点以上である場合には、それらの画像を用いて接触角を求める。繊維が水平になっている画像の数が10点未満であるときは、さらに20点の画像を得て、それらの中から繊維が水平になっている画像を選ぶことを、繊維が水平になっている画像の合計数が10点以上となるまで繰り返す。
【0061】
接触角は、図1に示すように、水滴の空気と触れる面と繊維とが接する箇所にて水滴に接線を引き、当該接線と繊維とがなす角度とした。接触角は、画像解析処理ソフト(例えば、スカラ株式会社より入手可能な2次元画像解析ソフト『MicroMeasure』)または分度器等によって測定する。選んだ各画像において接触角を測定し、それらの平均値(算術平均値)を求めて、測定対象となる繊維の接触角とする。
接触角は、不織布を用いて測定せずに、測定面から対象となる構成繊維を取り出して、構成繊維に水滴を吹き付ける方法で測定してもよい。
【0062】
接触角の測定は、以下の点に注意する。
(1)繊維の上に載った水滴の接触角を測定する。繊維の下まで垂れ下がった水滴及び2本以上の繊維にまたがった水滴の接触角を測定しない。
(2)繊維が螺旋状等の細かい捲縮を発生している場合は、捲縮が少ないところか、繊維を伸張させて捲縮状態を無くして測定する。
(3)接触角の測定結果は、上記のとおり、測定する箇所又は測定サンプルを変えて、繊維が水平になっている画像を10点以上選んで測定値を平均して求める。繊維の親水化度が高い場合、接触角を測定するときに繊維の上で水滴が移動し得る(すなわち、水滴の形状が変化し得る)。その場合、その移動の状況を考慮して「接触角」を求める。
接触角の測定箇所が20点になるまでに、測定回数の合計(水滴の撮影を試みた測定箇所の合計、撮影中に水滴が移動した場合と移動しなかった場合の合計)の40%未満で水滴が移動した場合、繊維が水平になっている画像を10点以上選んで測定値を平均して接触角とする。
接触角の測定箇所が20点になるまでに、測定回数の合計の40%以上で水滴が移動した場合、接触角は20°以下とする。
【0063】
[液透過後の接触角の測定]
以下のようにして、接触角測定用の不織布サンプルを調製する以外は、上述した液透過前の接触角の測定方法と同様にして測定する。
【0064】
[不織布サンプルの調整]
不織布をタテ方向22cm、ヨコ方向5cmの寸法に裁断して測定サンプルを作製する。次に、図2に示す、直径15mmの穴が等間隔(穴の中心間の距離は20mm)に開けられたステンレス製のプレートを用意する。プレートの穴内の4箇所に油性のマジックペンでマーキングする。プレートを測定サンプルの測定面の上に置く。測定サンプルにステンレス製プレートを載せたまま、ステンレス製プレートに設けた穴の中心部分に位置する測定サンプルの測定面に対し、約20℃に調整した0.04mlのイオン交換水を、駒込ピペット又はビュレットを用いて滴下させる。イオン交換水を滴下後、測定サンプルのイオン交換水を吸収させる。滴下した水滴が測定サンプル表面から消失後、測定サンプルを20~50℃の雰囲気中で乾燥させる。なお、測定サンプルに水滴を滴下後、水滴を吸収させる際、水滴が残っている部分を吸引して、水分を下側の層(第2繊維層、もしあれば)に強制的に吸収させてもよい。
【0065】
乾燥させた測定サンプルを、図2に示すステンレス製プレートの穴内の点1及び点2を通る直線で裁断する。イオン交換水を滴下した箇所に対応する測定サンプルの切断面の上から、上述の霧吹きで、約20℃のイオン交換水を噴霧し、測定サンプルの繊維に水滴を付着させる。
以下、液透過前の接触角の測定方法と同様の方法で、測定サンプルの繊維上の水滴を観察することで、水透過後の接触角を測定する。
【0066】
第1繊維層および第2繊維層の両方共、それらの繊維が同じ繊維処理剤を用いて処理されて、実質的に同じ程度の親水性が付与されていることが好ましい。その繊維処理剤は、たとえ水と接触したとしても、同程度の湿潤時の親水性の高さの程度を維持でき、同程度の親水性の耐水性を有することが好ましい。
【0067】
そのような繊維処理剤として、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーン、エチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステル等の、たとえ水と接触しても、繊維表面から容易に、離脱しない物質を例示できる。例えば、そのような繊維処理剤を、繊維の表面に塗布する等の方法を用いて、第1繊維層および第2繊維層に、実質的に同程度の親水性を付与することができ、更に、その親水化度を実質的に維持することができる、すなわち、その親水性は実質的に耐水性を有する。繊維処理剤を用いる繊維の処理は、繊維が繊維層を形成する前又は後のどちらでも良い。
【0068】
第1繊維層の繊維および第2繊維層の繊維には、上述した繊維処理剤が、繊維処理剤等を含む繊維全体を100質量%として、0.1~1.5質量%付着していることが好ましく、0.2~1.0質量%付着していることがより好ましく、0.25~0.8質量%付着していることがさらに好ましい。繊維処理剤が所定量繊維に付着していることにより、所望の吸液特性、特にウェットバック特性がより良好になるため好ましい。
【0069】
本発明で使用する第1繊維層および第2繊維層は、種々の繊維ウェブの製造方法を用いて製造することができる。本発明が目的とする吸収性物品用不織布を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはない。そのような製造方法として、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカード法、エアレイ法等を例示することができる。
【0070】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、第1繊維ウェブと第2繊維ウェブを重ね合わせて、一体化することで製造することができる。本発明が目的とする吸収性物品用不織布を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはない。そのような製造方法として、例えば、エアスルー法(熱風貫通式熱処理法)、熱風吹付け式熱処理法、ヒートロール法、赤外線式熱処理法、ニードルパンチ法等を例示することができる。
一体化された不織布の第1繊維層の繊維と第2繊維層の繊維は、接着されていてよい。
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、必要に応じて、更に、不織布が通常有する追加の層を有することができる。
【0071】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、必要に応じて、エンボス加工等の追加の加工が施されてよく、そのような追加の形態および形状等を有してよい。
【0072】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、MD方向(機械方向)の10%伸長時強度が3.5N/5cm以上であることが好ましく、6.0N/5cm以上であることがより好ましく、8.5N/5cm以上であることが更に好ましく、10.0N/5cm以上であることが更により好ましい。また、MD方向の20%伸長時強度が8.0N/5cm以上であることが好ましく、10.0N/5cm以上であることがより好ましく、13.0N/5cm以上であることが更に好ましく、15.0N/5cm以上であることが更により好ましく、18.0N/5cm以上であることが特に好ましい。低伸長時の強度がこのような範囲であることにより、不織布の寸法安定性が良く、吸収性物品に加工する際に不織布の幅入りが抑えられ、不織布の加工性が良くなる。また、不織布の触感、例えばドレープ性の観点から、MD方向の10%伸長時強度が30.0N/5cm以下であることが好ましく、25.0N/5cm以下であることが好ましく、20.0N/5cm以下であることが更に好ましい。上記強度はJIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じて測定される。
【0073】
本発明の形態の吸収性物品用不織布は、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドおよびパンティライナー等の種々の吸収性物品に使用することができる。
更に、本発明は、そのような吸収性物品用不織布を含む、種々の吸収性物品を提供することができる。
【実施例0074】
以下に本発明を実施例および比較例を用いて説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0075】
実施例および比較例の不織布を製造するために使用した[繊維]を以下に示す。
繊維1:ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、繊度2.0dtex(繊維径15μm)、繊維長45mmの同心芯鞘型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製の商品名NBF(登録商標) 品番(SH))
繊維2:ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、繊度3.3dtex(繊維径19μm)、繊維長51mmの同心芯鞘型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製の商品名NBF(登録商標) 品番(SH))
繊維3:ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、繊度4.4dtex(繊維径22μm)、繊維長51mmの同心芯鞘型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製の商品名NBF(登録商標) 品番(SH))
【0076】
実施例および比較例の不織布を製造するために使用した[繊維処理剤(親水化剤)]を以下に示す。繊維処理剤の親水性と耐久性を、下記のように評価した。なお繊維処理剤は、繊維処理剤等を含む繊維全体を質量100%として、約0.40質量%付与されている。
繊維処理剤A:C12アルキルリン酸エステルカリウム塩を含み、耐水性を有する、耐水親水性繊維処理剤
繊維処理剤B:C12アルキルリン酸エステルカリウム塩を含み、繊維処理剤Aより高い耐水性を有する、耐水親水性繊維処理剤
繊維処理剤C:C12アルキルリン酸エステルカリウム塩を含み、繊維処理剤Bより高い親水性を有する、耐水親水性繊維処理剤
繊維処理剤D:C12アルキルリン酸エステルカリウム塩を含み、耐水性を有さない、親水性繊維処理剤
【0077】
[繊維処理剤の湿潤時の親水性の高さ(ランオフ2~5回の数値の総和)]
繊維処理剤A~Dの湿潤時の親水性の高さは、下記のようにして行ったランオフ(run-off)2~5回の数値の総和で規定した。各回の数値が小さいほど、親水性が高く、ランオフの回数が増えても数値の変化が小さいほど、耐水性が高い。その結果、ランオフ2~5回の数値の総和が小さいほど、湿潤時の親水性が高いと考えられる。
【0078】
ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、同心芯鞘型複合繊維(繊度:2.0dtex、繊維長:45mm)(ダイワボウポリテック社製NBF(登録商標) 品番(SH))に、繊維処理剤を0.40質量%付与し、パラレルカード法およびエアスルー法(加熱温度:135℃、処理時間:10秒、風速:1.0m/s)を用いて、不織布サンプル(目付:20.0g/m、寸法:タテ18.0cm×ヨコ7.0cm、厚さ:0.70mm)を製造して用意した。
【0079】
略直角二等辺三角形の底面を有する三角柱を、横倒しして、斜面が水平面と45度の角度を有する支持台を準備した。その斜面上に、ろ紙(MEZGER inc.製の商品名Lister Paper(Grade989、27.5cm×14cm))を2枚重ねて敷き、その上に不織布サンプルを載せて固定した。
【0080】
不織布の上端から1cm下方の位置に、0.90%生理食塩水(青色染料で着色)を、マイクロチューブポンプまたはビュレットから、1.0g/30secの速度で、滴下した量の合計が1.0gとなるよう30秒かけて滴下した。全ての生理食塩水が不織布に吸収され、生理食塩水の水滴が不織布表面から消えたときの生理食塩水の先端の位置を測定した。当該位置と生理食塩水を不織布表面に滴下した位置との間の距離、すなわち生理食塩水の水滴が不織布表面を流れた最長の距離を求めた。
【0081】
2回目のランオフは、1回目のランオフに使用した不織布サンプルを使い、1回目のランオフの測定終了から30秒後に、1回目に生理食塩水を滴下した位置と同じ位置に、1回目と同様にして生理食塩水を滴下して、生理食塩水が不織布表面を流れた距離を求めた。3回目以降のランオフは、その前回の不織布サンプルを使用して、同様に繰り返し測定した。
結果を表1に示す。
繊維処理剤D、A、B、Cの順に、湿潤時の親水性が高くなると考えられる。
【0082】
【表1】

【0083】
また、上述したランオフ指標についても算出したところ、数値は下記の通りとなった。
繊維処理剤A:19.5
繊維処理剤B:14.9
繊維処理剤C:13.6
繊維処理剤D:61.4
【0084】
[繊維処理剤の親水性の耐水性(耐水性指標)]
繊維処理剤A~Dの耐水性指標は次の方法により評価した。
(1)ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレンが鞘であり、複合比(芯/鞘、質量比)が60/40である、同心芯鞘型複合繊維(繊度:2.0dtex、繊維長:45mm)(ダイワボウポリテック社製NBF(登録商標) 品番(SH))に、繊維処理剤を0.40質量%付与し、パラレルカード法およびエアスルー法(加熱温度:135℃、処理時間:10秒、風速:1.0m/s)を用いて、不織布サンプル(目付:20.0g/m、寸法:タテ10.0cm×ヨコ10.0cm、厚さ:1.2mm)を製造して用意した。
その他下記物品を用意した。
注入筒付きプレート(EDANA Nonwovens Standard Procedures - Edition 2015 の NWSP 070.3.R0 (15) に記載の Strike-through plate を使用)
0.90%生理食塩水(青色染料で着色)
ろ紙(MEZGER inc.製の商品名Lister Paper(Grade989、10cm×10cm))
【0085】
(2)方法
吸液時間を下記方法によって測定した。
(i)ろ紙を3枚積層し、その上に不織布サンプルを積層した。その上に注入筒付きプレートを乗せた。
(ii)約37℃に温めた生理食塩水5.0mlを筒から注入した。注入してから生理食塩水が不織布表面から見えなくなる(液体として生理食塩水が確認されなくなる)までの時間を計測し、吸液時間とした。
(iii)吸液後30秒静置した後、上記(ii)を繰り返して2回測定を行った。合計3回、吸液時間を測定した。
(iv)耐水性指標は下記式により算定した。
式:耐水性指標=3回目の吸液時間(秒)-1回目の吸液時間(秒)
【0086】
繊維処理剤A~Dの耐水性指標の数値は下記の通りとなった。
繊維処理剤A:6.2
繊維処理剤B:1.0
繊維処理剤C:1.0
繊維処理剤D:49.0
耐水性指標が小さいほど、耐水性は高いと考えられる。
繊維処理剤D、A、B、Cの順に(但し、BとCは、ほぼ同じ)、耐水性が高くなると考えられる。
【0087】
また、上記耐水性指標の算定に使用した吸液時間により、繊維処理剤A~Dの3回目の吸液時間(秒)と1回目の吸液時間(秒)との比の値(3回目の吸液時間(秒)/1回目の吸液時間(秒))は、下記の通りとなった。この比の値が小さいほど、耐水性は高いと考えられる。
繊維処理剤A:8.0
繊維処理剤B:2.3
繊維処理剤C:2.0
繊維処理剤D:50.5
【0088】
[不織布の厚さ]
不織布の厚さは、厚み測定機((株)大栄科学精器製作所製の商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A)を用い、不織布に300Paの荷重を加えた状態で測定した。
【0089】
[液通過前、液通過後の接触角の測定]
不織布の液透過前および液透過後の接触角は前記の方法で測定した。その測定結果を表4に示す。
【0090】
[実施例1]
0.40質量%の繊維処理剤Aが付与されている繊維1を用い、パラレルカード機を使用して、第1繊維層となる第1繊維ウェブを製造した。第1繊維ウェブの目付は、約8g/mであった。
0.4質量%の繊維処理剤Aが付与されている繊維2を用い、パラレルカード機を使用して、第2繊維層となる第2繊維ウェブを製造した。第2繊維ウェブの目付は、約12g/mであった。
この第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを重ね合わせて、熱風貫通式熱処理機を用いて135℃で熱処理し、一体化して、実施例1の不織布を得た。実施例1の不織布の目付は、18.2g/mであり、厚さは、1.32mmであった。
【0091】
[実施例2~4]および[比較例4~5]
実施例2~4および比較例4~5について、表2~3に記載した繊維および繊維処理剤を使用して、上述の実施例1の不織布の製造方法と同様の方法を用いて、実施例2~4および比較例4~5の不織布を得た。
【0092】
[比較例1~3および6]
比較例1~3および6について、表3に記載した繊維および繊維処理剤を使用して、第2繊維ウェブを製造して積層しなかったことを除いて、上述の実施例1の不織布の製造方法と同様の方法を用いて、比較例1~3および6の不織布を得た。
【0093】
このようにして得られた実施例および比較例の不織布について、評価用吸液性物品を製造して、その吸収性を評価した。
[吸収性物品の製造]
市販のおむつ(大王製紙株式会社製の商品名GOO.N(登録商標))から、トップシート/セカンドシート/吸収体の三層構造の吸収性物品を取り出した。その吸収性物品からトップシートを剥がして除去し、そのトップシートの代わりに、上述の実施例および比較例の不織布を積層して、評価用吸収性物品を得た。尚、積層の際、第1繊維層が、外側に向くように配置した。この評価用吸収性物品を用いて、実施例および比較例の不織布の吸液性(ウェットバック、吸液時間および拡散長)を評価した。
【0094】
[ウェットバック]
実施例および比較例の不織布のウェットバックは、次の方法により評価した。
(1)ウェットバック量を測定するために、下記の物品を用意した。
上述の実施例および比較例の評価用吸収性物品
注入筒付きプレート(筒下部の内径2.5cm)
0.90%生理食塩水(青色染料で着色)
ろ紙(東洋濾紙(株)製ADVANTEC(登録商標)No.2)10cm×10cm
重り(5kg)10cm×10cm
【0095】
(2)方法
ウェットバック量を下記の手順に従って測定した。
(i)評価用吸収性物品を、不織布(タテ42cm×ヨコ21cm)が上を向くように配置して、その上に注入筒付きプレートを乗せた。
(ii)約37℃に温めた生理食塩水50mlを筒から注入した。生理食塩水が不織布表面から見えなくなる(液体として生理食塩水が確認されなくなる)まで放置した。
(iii)注入筒付きプレートを外し、10分間静置した。
(iv)予め質量を測定したろ紙(30枚)を不織布の上に載せ、その上に5kgの重りを20秒間載せた。その後、ろ紙の質量を測定した。不織布の上に載せる前のろ紙の質量と、不織布の上に載せ、更におもりを載せた後のろ紙の質量との差が、ウェットバック量に相当する。
(vi)上記(i)に戻り、(i)~(iv)を繰り返して3回測定を行った。合計4回、ウェットバックを評価した。
【0096】
一つの試料(不織布)について、3つのサンプルを用意した。3つのサンプル各々について測定したウェットバック量の平均値を、その試料のウェットバック量とした。
結果を表2~3に示した。不織布からしみ出す水分の量がより少ない方が、人の肌がよりむれないことから、ウェットバックの値は、小さい方が好ましい。
【0097】
[吸液時間]
上記ウェットバックの測定の際、生理食塩水の注入から、生理食塩水が不織布表面から見えなくなる(液体として生理食塩水が確認されなくなる)時間を計測し、吸液時間とした。
結果を表2~3に示した。より短時間で吸収する方が、人の肌がよりむれないので、吸液時間(秒)は、その値が小さい方が好ましい。
【0098】
[拡散長]
上記ウェットバックの測定の際、生理食塩水の注入から5分後に、評価用吸収性物品のタテ方向における生理食塩水を吸収した長さを計測し、拡散長とした。
結果を表2~3に示した。吸収性物品全体を有効に利用可能と考えられるので、拡散長(cm)の値は、大きい方が好ましい。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】


【0102】
実施例1および4を比較例1および3と、各々比較する。単層を積層にすると、3回目又は4回目のウェットバック、すなわち、ウェットバック量に関する繰り返し耐久性が改良されることがわかる。
実施例3を比較例2と比較する。単層を積層にすると、2~4回目の吸液時間に関する繰り返し耐久性が大きく改良されることがわかる。
実施例1、3および4と、比較例1~3では、繊維処理剤A~Cが使用されている。繊維処理剤A~Cは、いずれも高い親水性および高い耐水性を有する。実施例のこれらの繊維処理剤を使用すると、単層を積層にすることにより、繰り返し耐久性が改良されることが判った。
【0103】
実施例1、3~4を比較例4と比較する。実施例1、3~4では、第1繊維層と第2繊維層の両方共、高い親水性および高い耐水性を有する繊維処理剤A~Cが使用されており、比較例4では、第1繊維層と第2繊維層の両方共、高い親水性を有するが、低い耐水性を有する繊維処理剤Dが使用されている。高い親水性および高い耐水性を有する繊維処理剤を用いると、3回目および4回目のウェットバック、すなわちウェットバック量に関する繰り返し耐久性および吸液時間に関する繰り返し耐久性が改良されることがわかる。
【0104】
尚、念のため比較例4を比較例6と比較する。いずれも、高い親水性を有するが、低い耐水性を有する繊維処理剤Dが使用されている。繊維処理剤Dを使用すると、単層を積層にすると、3~4回目の吸液時間は大差ないが、3~4回目のウェットバック量はかえって悪化するので、積層構造とする場合には、高い親水性および高い耐水性を有する繊維処理剤を用いることが重要であることが理解できる。
【0105】
実施例1、3~4を比較例5と比較する。第1繊維層と第2繊維層の両方共、高い親水性および高い耐水性を有する繊維処理剤A~Cを使用する。実施例1、3~4では、第1繊維層を処理する繊維処理剤と第2繊維層を処理する繊維処理剤が同じであるが、比較例5では、第1繊維層を処理する繊維処理剤と第2繊維層を処理する繊維処理剤で異なる。この場合、ウェットバックと吸液速度に関する、顕著な相違は認められなかった。
【0106】
しかし、第1繊維層と第2繊維層で異なる繊維処理剤を用いることは、同一の繊維処理剤を用いることと比較して煩雑で有り、コスト増加をもたらす。更に、不織布をロール状に巻くなどして、特に高温環境で長期保管すると、両者の繊維処理剤が混じるなどして、所定の性能を発揮しないこともあり、わざわざ異なる繊維処理剤を使用して異なる親水性にする利益が実質的になくなる可能性もある。
【0107】
実施例1と実施例4とを比較する。繊維処理剤の親水性の高さおよび耐水性が大きすぎない繊維処理剤A(実施例1)を使用する方が、繊維処理剤C(実施例4)を使用するより、3回目又は4回目の繰り返しのウェットバックが改良されることがわかる。
【0108】
尚、接触角の測定結果は、ランオフによる測定結果と、実質的に同様である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、不織布、吸収性物品用シート、およびそれを含む吸収性物品を提供する。それらは、風合い、ウェットバック量、吸液時間、拡散長、(ウェットバック量、吸液時間、拡散長の)繰り返し耐久性、コスト、保存性などから選択される少なくとも一種が好ましく改良される。
図1
図2