(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026695
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】非特異的な核酸増幅を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20240220BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001838
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2019176436の分割
【原出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山越 奈々
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 友実
(72)【発明者】
【氏名】林 哲太郎
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 愛
(57)【要約】
【課題】 RT-RamDA反応において非特異的な核酸増幅を抑制する手法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることにより、RT-RamDA反応で起こり得る非特異的な核酸増幅を抑制する方法を提供する。好ましくは、前記RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度を0mMより多く50mM以下とする。カオトロピック剤は、好ましくはグアニジニウムイオン、尿素イオン、ヨウ化物イオン、リチウムイオン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅を抑制する方法であって、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることを特徴とする方法。
【請求項2】
RT-RamDA反応に供する鋳型RNA含有生体試料を、カオトロピック剤を含む細胞溶解剤で処理することにより、カオトロピック剤を含む鋳型RNA含有生体試料液を調製し、該カオトロピック剤を含む鋳型RNA含有生体試料液とRT-RamDA反応液とを混合することにより、RT-RamDA反応液中で鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度が0mMより多く50mM以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度が0mMより多く20mM以下である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記カオトロピック剤がグアニジニウムイオン、尿素イオン、ヨウ化物イオン、リチウムイオン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種類のカオトロピック剤である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記カオトロピック剤がグアニジニウム塩である請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記カオトロピック剤がグアニジンチオシアン酸塩である請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記RT-RamDA反応液が更に無機塩を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記無機塩が、カリウム塩、マンガン塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
RT-RamDA反応の安定化方法であって、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることを特徴とする、方法。
【請求項11】
カオトロピック剤を含有するRT-RamDA反応液を含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
【請求項12】
カオトロピック剤を含有する細胞溶解液を含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RT-RamDA法は、鋳型RNA、プライマー、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素、及び基質を含む混合物をインキュベートする工程により、RNAを鋳型としてcDNAを増幅させる増幅逆転写法である(特許文献1)。RT-RamDA法は従来の逆転写反応よりもcDNAを10~100倍に増加可能であることが報告されている。そのため従来難しかった微量なRNAからの低発現遺伝子の検出や検出遺伝子数の拡充が可能であり、有望な核酸増幅技術として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/052619号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、RT-RamDA反応を行う際に、時に非特異的な核酸増幅が発生して、電気泳動で検出した際に高分子側にスメアリングが認められるケースがあり、このような意図しない非特異的な核酸増幅を抑制する手法の開発が必要であるという知見を得た。理論に束縛されることは望まないが、この非特異的な増幅が発生する一つの原因として、不適切なプライマー同士のアニーリングや異常増幅産物の凝集体の発生によることが想定され得る。そこで、本発明は、RT-RamDA法において発生する上記のような非特異的な核酸増幅を抑制するための手段の提供を1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、RT-RamDA方法において、RT-RamDA反応液中に鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させてRT-RamDA反応を行うことにより、非特異的な核酸増幅反応を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[項1] RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅を抑制する方法であって、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることを特徴とする方法。
[項2] RT-RamDA反応に供する鋳型RNA含有生体試料を、カオトロピック剤を含む細胞溶解剤で処理することにより、カオトロピック剤を含む鋳型RNA含有生体試料液を調製し、該カオトロピック剤を含む鋳型RNA含有生体試料液とRT-RamDA反応液とを混合することにより、RT-RamDA反応液中で鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させる、項1に記載の方法。
[項3] 前記RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度が0mMより多く50mM以下である、項1又は2に記載の方法。
[項4] 前記RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度が0mMより多く20mM以下である、項1から3のいずれかに記載の方法。
[項5] 前記カオトロピック剤がグアニジニウムイオン、尿素イオン、ヨウ化物イオン、リチウムイオン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種類のカオトロピック剤である項1から4のいずれかに記載の方法。
[項6] 前記カオトロピック剤がグアニジニウム塩である項1から5のいずれかに記載の方法。
[項7] 前記カオトロピック剤がグアニジンチオシアン酸塩である項1から6のいずれかに記載の方法。
[項8] 前記RT-RamDA反応液が更に無機塩を含む、項1から7のいずれかに記載の方法。
[項9] 前記無機塩が、カリウム塩、マンガン塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項8に記載の方法。
[項10] RT-RamDA反応の安定化方法であって、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることを特徴とする、方法。
[項11] カオトロピック剤を含有するRT-RamDA反応液を含む、項1から10のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
[項12] カオトロピック剤を含有する細胞溶解液を含む、項1から10のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅反応を効果的に抑制することができる。これにより、RT-RamDA法における定量性を損なうことなく、再現性が高く、安定したRT-RamDA反応を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1における条件1~4の定量PCRの増幅曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方または両方を意味する。
【0010】
一つの実施態様において、本発明のRT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅を抑制する方法は、RT-RamDA法を行うにあたり、RT-RamDA反応液中で鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させてRT-RamDA反応を行うことを特徴とする。このようにRT-RamDA反応液中でカオトロピック剤を共存させて鋳型RNAからのcDNA増幅を行うことにより、RT-RamDA反応で起こり得る非特異的な核酸増幅を、効果的に抑制・低減することができる。また、本発明の方法は、非特異的な核酸増幅を抑えて安定的に再現性良くRT-RamDA反応を行うことができるという観点から、RT-RamDA反応の安定化方法ということもできる。
【0011】
・RT-RamDA法(鋳型RNAの逆転写がRNAを鋳型としてcDNAを増幅させる増幅逆転写法)
RT-RamDA法とは、鋳型RNA、プライマー、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素、及び基質を含む混合物をインキュベートする工程を含む、核酸の増幅方法である。従って、本発明におけるRT-RamDA反応液は少なくとも上記の各成分(即ち、鋳型RNA、プライマー、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素、及び基質)を含むものである。RT-RamDA法では、RNase Hマイナス型逆転写酵素のRNA依存性DNAポリメラーゼ活性により鋳型RNAの相補鎖DNA(cDNA)を合成し、RNAとcDNAとのハイブリッド鎖のうちのcDNA鎖をDNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素により無作為に切断し、前記の切断部位が起点となり、RNase Hマイナス型逆転写酵素の鎖置換活性により3’側のcDNA鎖がRNAから剥がされ、RNase Hマイナス型逆転写酵素により剥がされた部分に新たなcDNA鎖が合成される。RT-RamDA法の詳細については、米国特許出願公開公報2017/0275685(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)等に記載されている。
【0012】
一つの実施形態において、本発明は、上記のRT-RamDA法を行う際に起こり得る非特異的な核酸増幅を抑制することを特徴とする。本明細書において、「非特異的な核酸増幅」とは特に限定されず、RT-RamDA法において正常な特異的増幅産物以外の増幅産物が発生することを指す。例えば、増幅産物の直鎖状多量体(コンカテマー)の形成、増幅産物の直鎖状多量体(コンカテマー)の凝集体の形成、プライマー同士の直鎖状多量体(コンカテマー)の形成、プライマー同士の直鎖状多量体(コンカテマー)の凝集体の形成、プライマーのミスマッチアニーリング形成、及び/又はプライマーダイマー形成等の非特異的な増幅産物の形成が挙げられる。本発明は、上記で列挙した全ての非特異的な増幅産物の形成を抑制するものでなくてもよく、例えば、上記で列挙した非特異的な増幅産物の形成のうちの少なくとも1つの形成を抑制するものであり得る。
本明細書において、非特異的な核酸増幅が抑制されているかどうかの判断基準としては、例えば、カオトロピック剤を使用していない場合と比較して、RT-RamDA反応液中にカオトロピック剤を共存させた場合に、初期鋳型量とCt値との間での直線関係が改善すること、及び/又はPCR効率が改善すること(例えば、PCR効率がより100%に近付くこと)が挙げられる。
【0013】
・カオトロピック剤
本発明においては、RT-RamDA反応液中にカオトロピック剤を共存させることを一つの特徴とする。カオトロピック剤は、水素結合、ファンデルワールス力および疎水性効果などの非共有結合力により仲介される分子間相互作用の安定化を阻害する成分をいう。そのためカオトロピック剤は、タンパク質、DNA、またはRNAなどの巨大分子の三次元構造を破壊し、それらを変性させることが可能である。従って、過剰量のカオトロピック剤の使用は、RT-RamDA反応に影響を与えることも懸念される。しかしながら、理論には束縛されないが、本発明者らの検討結果から、RT-RamDA反応液に所与の条件でカオトロピック剤を共存させることによって、RT-RamDA反応において、例えばプライマーのミスアニーリングを防ぐ作用及び/又は異常増幅産物の凝集体等を適切に解す作用等が発揮されて、意図しない非特異的な核酸増幅を抑制でき、RT-RamDA反応を安定化させることができると推察され得る。
【0014】
本発明に用いられ得るカオトロピック剤としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、グアニジニウムイオン、尿素イオン、ヨウ化物イオン、リチウムイオン及びこれらの塩(例えば、塩酸塩、チオシアン酸塩、過塩素酸塩等)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。RT-RamDA反応を阻害する影響が比較的小さく、また、RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅を高度に抑制できるという観点から、カオトロピック剤としては、グアニジニウムイオン及び/又はその塩を用いるのが好ましく、グアニジニウム塩を用いることがより好ましく、グアニジンチオシアン酸塩及び/又はグアニジン塩酸塩を用いることが更に好ましく、なかでもグアニジンチオシアン酸塩を用いることが特に好ましい。
【0015】
RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の添加量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、前述のように過剰量のカオトロピック剤がRT-RamDA反応液に存在すると、RT-RamDA反応が阻害されやすくなる懸念がある。従って、本発明において使用するカオトロピック剤の濃度は、RT-RamDA反応液中の終濃度として、例えば、50mM以下であることが好ましく、40mM以下であることがより好ましく、30mM以下であることが更に好ましく、20mM以下であることが特に好ましい。RT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の終濃度の下限値は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、一例として、0mMより多い量とすることができ、1mM以上であることが好ましく、3mM以上であることがより好ましく、5mM以上であることが更に好ましく、7mM以上であることが更により好ましく、10mM以上であることが特に好ましい。
【0016】
・鋳型RNA
RT-RamDA反応に用いる鋳型RNAとしては、組織や細胞から抽出されたRNA、組織や細胞からの抽出処理後に更に精製されたRNA(例えば、エタノール沈殿、カラム精製等の当該分野で公知の任意の精製手段により処理された精製RNA)等の任意のRNAであり得る。簡便には、鋳型RNAとして、RT-RamDA法による解析を望む生体試料(細胞や組織等)を細胞溶解剤で溶解した試料(本明細書では、これを「鋳型RNA含有生体試料」ともいう)を、更なる抽出・精製工程を経ずに、そのままRT-RamDA反応に用いることもできる。RT-RamDA反応液に含まれる鋳型RNAの量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、より確実に精度よくRT-RamDA反応を行うことができ、安定して再現性の高い結果が得られ易いという観点から、好ましくは0.1pg/μl~10ng/μl、より好ましくは0.1pg/μl~1ng/μlとすることができる。本発明において、鋳型RNAとして「鋳型RNA含有生体試料」を用いる場合は、該生体試料中に含まれる鋳型RNAの量が上記濃度範囲内となるような量で使用すればよい。
【0017】
核酸増幅対象となる鋳型RNAを抽出する細胞・組織の種類は特に制限されず、いかなる種類の細胞・組織であってもよい。例えば、細胞の個数は、セルソーターにより適宜調整することができる。例えば、少数(例えば1~100個、好ましくは1~10個、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個)の細胞から抽出されたRNAを使用することもできる。
細胞からRNAを抽出する方法は、通常、細胞溶解成分を含む細胞溶解剤を用いて、細胞を溶解する工程を含む。
細胞溶解剤は、例えば、細胞溶解成分として界面活性剤を含むもの等であり得る。界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム)、カチオン性界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム)、ノニオン性界面活性剤(例えば、オクチルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、及び両イオン性界面活性剤(例えば、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸)等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、細胞溶解剤は、細胞溶解成分としてプロテアーゼ(例えば、プロテアーゼK)、RNase阻害剤、これら2種以上の組合せ等を任意に含むものであってもよい。更に特定の実施形態では、本発明で用いる細胞溶解剤は、カオトロピック剤(例えば、尿素、過塩素酸リチウム塩、グアニジン塩酸塩等のグアニジニウム塩等)を含んでいてもよいし、他の特定の実施形態では、細胞溶解剤はカオトロピック剤を含まないものであってもよい。細胞溶解剤は、通常、前記のような細胞溶解成分を、水(好ましくはヌクレアーゼフリー水)等の水性溶媒に溶解した水溶液の形態で使用される。
【0018】
特定の実施形態において、本発明のRT-RamDA法では、カオトロピック剤を含む細胞溶解剤を用いて生体試料(例えば、細胞、組織等)を溶解して得られる鋳型RNA含有生体試料を用いることができる。このようなカオトロピック剤を含む細胞溶解剤で処理して得た鋳型RNA含有生体試料は、更なる抽出・精製工程を経ていなければ、そのままカオトロピック剤を含む生体試料液となるため、RT-RamDA反応液と混合した場合に、RT-RamDA反応液中にカオトロピック剤が持ち込まれることとなる。このようなカオトロピック剤を含む生体試料液を鋳型RNA含有生体試料として用いる場合、RT-RamDA反応液に別途、カオトロピック剤を添加する必要がないという利点がある。
【0019】
カオトロピック剤を含む細胞溶解剤で生体試料を溶解して得られる生体試料液を鋳型RNA含有生体試料として用いる場合、カオトロピック剤を別途添加しても添加しなくても、RT-RamDA反応液におけるカオトロピック剤の総量の終濃度が、好ましくは50mM以下、より好ましくは40mM以下、更に好ましくは30mM以下、特に好ましくは20mM以下となるような細胞溶解液を使用することが好ましい。同様に、RT-RamDA反応液におけるカオトロピック剤の総量の終濃度の下限値が、例えば、0mMより多い量、好ましくは1mM以上、より好ましくは3mM以上、更に好ましくは5mM以上、更により好ましくは7mM以上、とりわけ10mM以上となるように調整された細胞溶解液を使用することが好ましい。
【0020】
・DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素
DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素は、RNAとDNAとのハイブリッド鎖中のDNA鎖を切断する活性を有する酵素であることが好ましい。当該酵素としては、例えば、二本鎖特異的DNA分解酵素、非特異的DNA分解酵素を使用することができる。RT-RamDA反応液に含まれるDNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素の量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、より確実に精度よくRT-RamDA反応を行うことができ、安定して再現性の高い結果が得られ易いという観点から、好ましくは、0.01U/μl~0.1U/μlとすることができる。
【0021】
二本鎖特異的分解酵素(二本鎖特異的ヌクレアーゼ;DSNとも言う)は、原核生物又は真核生物に由来する酵素を使用することができるが、好ましくは、甲殻類由来の二本鎖特異的DNA分解酵素又はその改変体を使用することができる。具体的な例としては、以下のものが挙げられる。
・ Solenocera melantho(ナミクダヒゲエビ)DNase
・ Penaeus japonicus(クルマエビ)DNase
・ Paralithodes camtschaticus(タラバガニ)DSN
・ Pandalus borealis(ホッコクアカエビ)dsDNase
・ Chionoecetes opilio(ズワイガニ)DSN
・ その他のDSNホモログ
二本鎖特異的DNA分解酵素は、好ましくは、60℃未満でもDNA分解活性を有する酵素である。上記の中では、エビ由来の二本鎖特異的DNA分解酵素又はその改変体が好ましい。
二本鎖特異的DNA分解酵素としては、市販品を使用することができる。市販品としては、dsDNase(ArcticZymes社)、Hl-dsDNase(ArcticZymes社)、dsDNase(Thermo scientific社)、Shrimp DNase、Recombinant(affymetrix社)、Atlantis dsDNase(Zymo Research社)、Thermolabile Nuclease(Roche社)などを挙げることができる。
【0022】
非特異的DNA分解酵素としては、RNAとDNAとのハイブリッド鎖のDNA鎖を切断する活性を有し、RNAとDNAとのハイブリッド鎖のRNA鎖、一本鎖RNAを切断する活性を実質的に有さず、好ましくは、一本鎖DNAを切断する活性がRNAとDNAとのハイブリッド鎖のDNA鎖を切断する活性に比較して低くなる酵素を挙げることができる。非特異的DNA分解酵素は、好ましくは、60℃未満でもDNA分解活性を有する酵素である。このような非特異的DNA分解酵素としては、市販品を使用することもでき、例えば、DNaseI(Thermo Fisher社製、DNaseI)等を用いることが可能である。
非特異的DNA分解酵素は、原核生物又は真核生物に由来する酵素を使用することができるが、好ましくは、ほ乳類由来の非特異的DNA分解酵素又はその改変体、より好ましくはウシ由来の非特異的DNA分解酵素又はその改変体を使用することができる。
【0023】
上記改変体とは、天然由来のアミノ酸配列を改変することによって得られる酵素を意味する。具体的には、天然由来のアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる酵素、並びに天然由来のアミノ酸配列において1又は数個(例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個)のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなる酵素である。
【0024】
・一本鎖DNA結合タンパク質
RT-RamDA反応液は更に、一本鎖DNA結合タンパク質を含んでいてもよい。一本鎖DNA結合タンパク質は、通常、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素とともに使用される。なかでも、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素として、非特異的DNA分解酵素を用いる場合に、一本鎖DNA結合タンパク質を含むことが好ましい。一本鎖DNA結合タンパク質としては、例えば、T4ジーン32プロテイン、RecA、SSB(Single-Stranded DNA Binding Protein)、これら2種以上の組合せが挙げられる。RT-RamDA反応液が一本鎖DNA結合タンパク質を含む場合、その一本鎖DNA結合タンパク質の添加量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、より確実にRT-RamDA反応を行うことができ、安定して再現性の高い結果が得られ易いという観点から、好ましくは、10ng/μl~100ng/μlとすることができる。
【0025】
・プライマー
RT-RamDA反応に用いるプライマーとしては、鋳型RNAに対する特異的なプライマー、オリゴdTプライマー、ランダムプライマー、これら2種以上の組合せが挙げられる。オリゴdTプライマーとランダムプライマーとを組み合わせて用いる場合、それらのモル比は、例えば、オリゴdTプライマー:ランダムプライマーの比率が1:5~1:15とすることができ、好ましくは1:8~1:12である。
ランダムプライマーとしては、例えば、完全ランダムプライマー、NSR(Not So Random)プライマーが挙げられる。
【0026】
完全ランダムプライマーとは、種々の塩基配列を有するプライマーの混合物であり、各塩基配列は完全にランダムな塩基配列である。完全ランダムプライマーは、rRNA配列と完全に一致する(又は完全に相補的な)配列を含み得る。完全ランダムプライマーとしては、完全ランダムペンタマー、完全ランダムヘキサマー、完全ランダムヘプタマー、完全ランダムオクタマー、これらの組合せなどが例示できる。例えば、完全ランダムヘキサマーは、4種類のヌクレオチド(A、T、C、G)で可能な全ての塩基配列(46種類)の混合物であってもよい。
【0027】
NSRプライマーとは、完全ランダムプライマーから、rRNA配列と完全に相補的な配列を有するプライマーを除去したものである。除去するrRNA配列としては、例えば、18S rRNA配列、28S rRNA配列、12S rRNA配列、16S rRNA配列、これらの組合せが挙げられる。
NSRプライマーとしては、例えば、完全ランダムヘキサマーからrRNA配列と完全に相補的な配列を有するヘキサマーを除外したものが挙げられる。また、完全ランダムペンタマー、完全ランダムヘプタマー、完全ランダムオクタマーなどのプライマーセットからrRNA配列と完全に相補的な配列を有するものを除外したものをNSRプライマーとすることもできる。
このようなNSRプライマーを使うことにより、mRNA等をより高感度に解析することができる。
【0028】
NSRプライマーの詳細については、1) Amour et al., Digital transcriptome profiling using selective hexamer priming for cDNA synthesis, Nature Methods, Vol. 6, No. 9, 2009, pp. 647-649、2) Ozsolak et al., Digital transcriptome profiling from attomole-levelRNA samples, Genome Research, Vol. 20, 2010, pp. 519-525、3) 米国特許出願公開公報2010/0029511(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)等に記載されている。
プライマーの長さは、アニーリングの観点から、例えば5塩基以上、好ましくは6塩基以上であり、合成の観点から、例えば30塩基以下、好ましくは25塩基以下、より好ましくは20塩基以下である。
RT-RamDA反応液中における、プライマーの濃度は、特に制限されないが、例えば1~10μM、好ましくは2~6μM、より好ましくは3~5μMである。
【0029】
・デオキシリボヌクレオチド(基質)
デオキシリボヌクレオチドとしては、デオキシリボヌクレオシドトリホスフェートが好ましい。デオキシリボヌクレオチドトリホスフェートとしては、例えば、デオキシシチジントリホスフェート(dCTP)、デオキシグアノシントリホスフェート(dGTP)、デオキシアデノシントリホスフェート(dATP)、デオキシチミジントリホスフェート(dTTP)、デオキシウリジントリホスフェート(dUTP)、これらの誘導体、これら2種以上の組合せが挙げられる。これらのうち、dCTP、dGTP、dATP、及びdTTPの混合物、dCTP、dGTP、dATP、及びdUTPの混合物、dCTP、dGTP、dATP、dTTP、及びdUTPの混合物等が好ましい。RT-RamDA反応液に含まれるデオキシリボヌクレオチド(基質)の量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、より確実にRT-RamDA反応を行うことができ、安定して再現性の高い結果が得られ易いという観点から、好ましくは、0.1~5mMとすることができる。
【0030】
・RNase Hマイナス型逆転写酵素
RT-RamDA反応に用いるRNase Hマイナス型逆転写酵素は、逆転写活性(RNA依存性DNAポリメラーゼ活性)を有する任意のタンパク質(酵素)であって、RNaseH活性を有さないものをいう。RNase Hマイナス型逆転写酵素の例としては、例えば、トリ骨髄芽球ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素(AMV-RT)、モロニーネズミ白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus)逆転写酵素(MMLV-RT)、ヒト免疫ウイルス(Human Immunovirus)逆転写酵素(HIV-RT)、EIRV-RT、RAV2-RT、C.ヒドロゲノホルマンス(C.hydrogenogormans)DNAポリメラーゼ、rTthDNAポリメラーゼ、スーパースクリプト(SuperScript)I、スーパースクリプト(SuperScript)II、これらの変異体、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、MMLV-RTが好ましい。RT-RamDA反応液に含まれるRNase Hマイナス型逆転写酵素の量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、より確実にRT-RamDA反応を行うことができ、安定して再現性の高い結果が得られ易いという観点から、好ましくは、0.2~2U/μlとすることができる。
【0031】
本発明のRT-RamDA反応液は、最初からRNase Hマイナス型逆転写酵素を含む試薬として提供されてもよいし、RT-RamDA反応を行う前にRT-RamDA反応液に添加するように用時調製可能なものであってもよい。RT-RamDA反応液に用時調製で添加する場合に用いられるRNase Hマイナス型逆転写酵素は、そのままの状態若しくは凍結乾燥させた状態のものであってもよいし、又は、水(好ましくは、ヌクレアーゼフリー水)で希釈した状態のものであってもよい。例えば、RT-RamDA反応液中のRNase Hマイナス型逆転写産物の終濃度が上記範囲内となるように、例えば、1/20~1/30になるように希釈して用いられるものとすることができる。
【0032】
・無機塩
本発明のRT-RamDA反応液は、更に無機塩を含むことが好ましい。RT-RamDA反応液中で更に無機塩を共存させることにより、RT-RamDA反応をより一層効率的に行うことが可能となる。本発明に用いられ得る無機塩の種類は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、カリウム塩、マンガン塩、及び/又はマグネシウム塩を挙げることができ、好ましくはカリウム塩を挙げることができる。RT-RamDA反応液に無機塩を共存させる場合、その反応液中終濃度は特に限定されないが、一例として、20~100mMとすることができる。
【0033】
・DNAポリメラーゼ
本発明のRT-RamDA反応液は、DNAポリメラーゼを含んでいてもよいし、含まなくてもよい。本発明のRT-RamDA反応液がDNAポリメラーゼを含む場合、任意のDNAポリメラーゼを使用することができ、例えば、下記のようなDNAポリメラーゼが挙げられるが、これらに限定されない:Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT(商標)、DEEPVENT(商標)、これらの変異体
【0034】
・RNase阻害剤
本発明のRT-RamDA反応液は、RNase阻害剤を含んでいてもよい。RNase阻害剤は、特に制限されず、例えば、ヒト胎盤由来、ラット肺由来、又はブタ肝臓由来のタンパク質が挙げられる。
【0035】
・添加剤
本発明のRT-RamDA反応液は、他の添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、緩衝剤、塩、これら2種以上の組合せが挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、トリス(Tris)、トリシン(Tricine)、ビス-トリシン(Bis-Tricine)、ヘペス(Hepes)、モプス(Mops)、テス(Tes)、タプス(Taps)、ピペス(Pipes)、ギャプス(Caps)、これら2種以上の組合せが挙げられる。緩衝剤は、通常、水(好ましくはヌクレアーゼフリー水)に溶解され、水溶液の形態で使用される。
塩としては、例えば、塩化物(例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン)、酢酸塩(例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン)、硫酸塩(例えば、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン)、これら2種以上の組合せが挙げられる。
【0036】
・インキュベーション
RT-RamDA反応は、解析対象とする鋳型RNAと共に、プライマー、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素、及び基質、並びに、必要に応じて一本鎖DNA結合タンパク質、他の任意の成分を含むRT-RamDA反応液を、所定条件下でインキュベーションすることにより核酸増幅反応させる。RT-RamDA反応におけるインキュベーションは、等温条件で行ってもよいし、熱サイクル条件で行ってもよい。その後、必要に応じて逆転写酵素を失活してもよい。逆転写の失活方法は、特に限定されるわけではないが、例えば、90~100℃で所定時間(例えば1~10分)インキュベーションする方法であってもよい。
【0037】
(1)等温条件
インキュベーションを等温条件で行う場合、例えば25℃以上50℃未満の間の所定の温度、好ましくは30~45℃の間の所定の温度、より好ましくは35~40℃の間の所定の温度、例えば37℃で所定の時間(例えば5~180分、好ましくは10~150分)行うことができる。
25℃以上50℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションは、2以上の段階に分けて行ってもよい。例えば25℃以上30℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで30℃以上35℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで35℃以上50℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~60分)インキュベーションしてもよい。
25℃以上50℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションの後、例えば50℃以上100℃未満の間の所定の温度でインキュベーションしてもよい。50℃以上100℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションは2以上の段階に分けて行ってもよい。例えば50℃以上80℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで80~90℃の間の所定の温度で5~15分インキュベーションしてもよい。
【0038】
(2)熱サイクル条件
インキュベーションを熱サイクル条件で行う場合、例えば20℃以上30℃未満の間の所定の温度T1(例えば25℃)と30~45℃の間の所定の温度T2(例えば37℃)とを組み合わせて、T1で所定の時間(例えば1~3分、一例として2分)とT2で所定の時間(例えば1~3分、一例として2分)とを1サイクルとして、これを好ましくは10~40サイクル、より好ましくは15~35サイクル繰り返して行ってもよい。なお、上記の熱サイクルに先立って、例えば25℃以上30℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで30℃以上35℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで35℃以上50℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば1~5分)インキュベーションしてもよい。また、上記の熱サイクルの後、例えば50℃以上80℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで80~90℃の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)インキュベーションしてもよい。
【0039】
本発明による核酸の増幅方法は、微量のRNA(例えば、1細胞から数百細胞相当の微量RNA)を用いたRT-PCR法またはRT-qPCR法の一部として使用することができる。
本発明による核酸の増幅方法は、微量のRNA(例えば、1細胞から数百細胞相当の微量RNA)を用いたRNAシーケンス法に利用することができる。
【0040】
RT-RamDA反応終了後にPCR法又はqPCR法を行う場合、そのPCR反応液又はqPCR反応液は、RT-RamDA反応液中の成分(例えば、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素等の酵素類等)をそのまま含んでいてもよいし、それらの成分を失活させたものであってもよい。これらのPCR反応液又はqPCR反応液は、DNA増幅反応を行うための成分(例えば、プライマー、デオキシリボヌクレオチド、及びDNAポリメラーゼ等)を添加したものであってもよいし、またRT-RamDA反応液がDNAポリメラーゼ等のDNA増幅反応に必要な成分を含んでいる場合には、そのRT-RamDA反応液はそのままPCR反応液又はqPCR反応液となり得、両組成物は相互に互換可能に呼称され得る。
PCR反応液又はqPCR反応液等のDNA増幅のために用いられるプライマーとしては、DNA(RNAから逆転写されたDNAを含む)に対して特異的なプライマー(フォワードプライマー、リバースプライマー)が好ましい。
更に、PCR反応液又はqPCR反応液等のDNA増幅用組成物は、抗DNAポリメラーゼ抗体、反応緩衝剤、金属イオン(マグネシウムイオンなど)、蛍光色素、蛍光標識したプローブ、これら2種以上の組合せを含んでいてもよい。
【0041】
PCR反応又はqPCR反応等でのDNA増幅を熱サイクル条件で行う場合、その熱サイクル条件下でのインキュベーションは、例えば80℃以上100℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば10~30秒)と50~70℃の間の所定の温度で所定の時間(例えば30秒~2分)とを1サイクルとして、これを好ましくは10~50サイクル、より好ましくは15~40サイクル繰り返して行ってもよいが、これらに限定されない。
【0042】
本発明はさらに、上記した本発明の方法に用いられ得る、非特異的な核酸増幅を抑制できるキットに関する。このような本発明のキットは、非特異的な核酸増幅が抑えられて安定して精度よくRT-RamDA反応を行うことができるRNA解析キット等として提供され得る。前記のような本発明のキットは、RT-RamDA反応液中に鋳型RNAとカオトロピック剤とを共存させるように構成されている限り、特に限定されない。例えば、本発明のキットは、カオトロピック剤を含むRT-RamDA反応液(例えば、カオトロピック剤を含むプレミックス型RT-RamDA反応用試薬)及び/又はカオトロピック剤を含む細胞溶解液(例えば、カオトロピック剤を含むプレミックス型細胞溶解試薬)を備えたキットであり得る。つまり、カオトロピック剤は、RT-RamDA反応用試薬及び細胞溶解試薬の一方又は両方に含むことができるが、好ましくは、鋳型RNAと混合後のRT-RamDA反応液中におけるカオトロピック剤の総量が、終濃度で0mMより多く50mM以下になるように調整された量であるのがよい。本発明のキットは、さらに所望により、核酸増幅反応を実施するのに必要な他の試薬、緩衝液など含むものでもよい。他の試薬としては、プライマー、及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸などを挙げることができる。RT-RamDA反応液、及び、必要に応じて添付され得る細胞溶解液、他の試薬等は、1つの容器中に全てを含む態様で提供されてもよいし、別々の容器に各試薬を含む態様で提供されてもよい。
【実施例0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1:RT-RamDA法におけるグアニジンチオシアネート(グアニジニンチオシアン酸塩)による非特異的な核酸増幅抑制(精製RNA 5pg~10ng)
本実施例では、RT-RamDA法におけるカオトロピック剤による非特異的核酸増幅への影響を確認する目的で、以下の試験を行った。
サンプル溶液(RT-RamDA反応液)に、グアニジンチオシアネートを添加し、RT-RamDA反応により1本鎖cDNAの合成を行った。その後、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)にて、グアニジンチオシアネートの有無による増幅曲線の比較を行った。具体的には、以下の手法により行った。
本実施例で用いる核酸断片サンプルは、NIH3T3細胞をRNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いて精製したRNA5pg~10ngを用いた。
このRNA5pg~10ngをRT-RamDA法で逆転写反応するために、本実施例で使用したサンプル溶液(RT-RamDA反応液)に含まれる成分とそのサンプル溶液中の終濃度を以下の表1に示す。
【表1】
【0045】
精製RNAを上記組成に添加したサンプル溶液(RT-RamDA反応液)10μlを用いて、RT-RamDA法を行った。この方法では25℃10分、30℃10分、37℃30分、50℃5分、及び95℃5分の各等温条件下で反応を行った。
その後、以下の定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)にてDNA量の比較を行った。
具体的には、前述のサンプル溶液(RT-RamDA反応液)中でRT-RamDA反応を行った後、nuclease free water(Qiagen社)で5倍希釈し、希釈したサンプル溶液 2μlをqPCR反応に用いた。このRT-RamDA反応後のqPCRは、StepOne Plus(Life Technologies社)を用いて、以下の条件で行った。
qPCR反応用溶液[20μl(THUNDERBIRD(商標) SYBR qPCR Mix (TOYOBO社)、6pmol フォワードプライマー、6pmol リバースプライマー、2μl RT-RamDA反応液、nuclease free water]を95℃1分処理して酵素を活性化したのち、95℃15秒の変性及び60℃1分の伸長反応を40サイクル行った。
【0046】
融解曲線分析は、95℃15秒、60℃15秒、及び95℃15秒で行った。
標的遺伝子としてメッセンジャーRNA(mRNA)であるβactinを使用した。
【0047】
各遺伝子のプライマーは、以下のとおりである。
βactin(mRNA)
フォワードプライマー:CAGCTGAGAGGGAAATCGTG(配列番号1)
リバースプライマー:CGTTGCCAATAGTGATGACC(配列番号2)
【0048】
【0049】
上記表1及び
図1の結果に示されるように、グアニジンチオシアネートを添加していない条件1ではCt値として算出できない増幅曲線が発生しており、RT-RamDA反応において非特異的な核酸増幅増が発生しており、定量的な測定ができていない。一方でグアニジンチオシアネートを添加した条件2~4では安定した増幅曲線が得られている。PCR効率においても条件1に比べ条件2~4のPCR効率が100%に近く、非特異的な増幅産物が抑制されていると考えられる。このことからグアニジンチオシアネートにより、RT-RamDA反応における非特異的な増幅が抑制されることが明らかとなった。また、この結果から、鋳型RNAの量が比較的多い場合(例えば、鋳型RNA量が100pg~10ngとなる場合)は、グアニジンチオシアネートの量が少ないとき(例えば、15mM以下、又は10mM以下のとき)の方が、Ct値が低くなり、良好な結果を示すことが確認された。
【0050】
なお、上記開示した実施形態および実施例はすべて例示であり制限的なものではない。また、実施形態および実施例に開示された内容を組み合わせた実施形態及び実施例も本発明の範囲に含まれる。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって有効であり、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内のすべての変更・修正・置き換え等を含むものである。
本発明は、微量なRNAからの低発現遺伝子の検出や検出遺伝子数の拡充を可能にするRT-RamDA方法において、非特異的な核酸増幅を効果的に抑制できので、より一層高精度で安定したRNA解析が可能となる。
RT-RamDA反応における非特異的な核酸増幅を抑制する方法であって、RT-RamDA反応液において鋳型RNA及びカオトロピック剤を共存させることを特徴とする方法。