IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インテルコス エッセ.ピ.ア.の特許一覧

<>
  • 特開-ヤヌス粒子に基づく化粧品組成物 図1
  • 特開-ヤヌス粒子に基づく化粧品組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026735
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ヤヌス粒子に基づく化粧品組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20240220BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20240220BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20240220BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/25
A61K8/37
A61K8/891
A61Q1/02
A61Q1/12
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002943
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2020571482の分割
【原出願日】2019-06-24
(31)【優先権主張番号】102018000006709
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】516200323
【氏名又は名称】インテルコス エッセ.ピ.ア.
【氏名又は名称原語表記】INTERCOS S.p.A
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルセシア、パトリチア
(72)【発明者】
【氏名】ディステファノ、ガエタノ
(72)【発明者】
【氏名】アネセ、アントネラ
(57)【要約】
【課題】美容用途に使用可能なヤヌス粒子を製造する具体的な方法を提供する。
【解決手段】改質されていない表面エネルギーαを有する凹面と改質された表面エネルギーβを有する凸面とを含むヤヌス粒子、水相、および有機相を含有し、前記ヤヌス粒子が0.01重量%~99.99重量%含まれ、前記水相と前記有機相との合計が0.01重量%~99.99重量%である化粧品組成物において、前記ヤヌス粒子を、エネルギーαを有する内側表面とエネルギーβを有する外側表面とをもつ中空球状粒子(11)を1種類の化学薬品で化学処理し、内側表面が改質されていない表面エネルギーαを有し外側表面が改質された表面エネルギーβを有する改質粒子を得る段階と、ヤヌス粒子を得るために改質粒子を粉砕して破片(21)を得る段階とを含む工程によって構成し、前記工程が粉砕後の更なる化学処理を含まないようにする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質されていない表面エネルギーαを有する凹面と改質された表面エネルギーβを有する凸面とを含むヤヌス粒子、
水相、および
有機相を含有し、
前記ヤヌス粒子が0.01重量%~99.99重量%含まれ、前記水相と前記有機相との合計が0.01重量%~99.99重量%である化粧品組成物において、
前記ヤヌス粒子は、
エネルギーαを有する内側表面とエネルギーβを有する外側表面とをもつ中空球状粒子(11)を1種類の化学薬品で化学処理し、内側表面が改質されていない表面エネルギーαを有し外側表面が改質された表面エネルギーβを有する改質粒子を得る段階と、
ヤヌス粒子を得るために改質粒子を粉砕して破片(21)を得る段階とを含む工程によって構成され、前記工程は粉砕後の更なる化学処理を含まないことを特徴とする化粧品組成物。
【請求項2】
前記水相が、水と、水溶性および/または水分散性の物質とを含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項3】
前記有機相が、トリグリセリド、および/またはエステル、および/またはグリセリル・エステルの類に属する油、および/またはシリコーン、および/または化粧用途で許容できるその他の油、およびこれらそれぞれの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項4】
前記有機相が、1以上の油および油溶性および/または油分散性の物質を含有することを特徴とする請求項3に記載の化粧品組成物。
【請求項5】
前記ヤヌス粒子が20重量%~0.01重量%含まれ、
前記水相が油中水型エマルション/シリコーン中水型エマルションとして有機相に分散しているか、或いは、前記有機層が水中油型エマルション/水中シリコーン型エマルションとして前記水相に分散していることを特徴とする請求項1に記載の化粧組成物。
【請求項6】
前記ヤヌス粒子が10重量%~90重量%含まれたことを特徴とする請求項1に記載の化粧組成物。
【請求項7】
前記表面エネルギーαが、前記表面エネルギーβよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項8】
前記改質されていない表面エネルギーαが、前記改質された表面エネルギーβよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項9】
前記1種類の化学薬品がポリメチルヒドロシロキサンの共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項10】
前記1種類の化学薬品がトリエトキシシランおよび/またはトリメトキシシランであることを特徴とする請求項9に記載の化粧品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤヌス粒子に基づく化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、概して、2つの不混和性の液体間の界面を機械的に安定させて、分子乳化剤を使用せずに安定したエマルションを形成可能な両親媒性粒子の製造に関する。このように安定化させたエマルションは、学術文書においてピッカリングエマルションと名付けられ、熱力学的に安定したエマルションを形成することで知られている。
【0003】
また、ピッカリングエマルションの安定性は、いわゆるヤヌス粒子を用いて得られた場合、分子乳化剤によって得られたエマルションの安定性を大幅に上回ることも知られている。
【0004】
主成分の一つとして水を含有する化粧品が、経済性および持続可能性の理由と、そのような配合に特有の爽快感とから、増えてきている。これらの多くは、油中水型エマルション(シリコーン)または水中油(シリコーン)型エマルションから成る。これらのエマルションは、2つの不混和相が存在するという特徴をもち、一方の相が他方の相に分散され、分散相は通常、乳化剤や共乳化剤によって安定する。乳化剤は、両親媒性分子であり、様々な分子量(大抵1.66053E-24kg(1000Da)未満)で様々な性質(イオン性または非イオン性)をもち得る。分散相の液滴直径は、エマルション自体の外観、知覚特性、および安定性に影響を及ぼす基本的特性であることが知られている。
【0005】
一方、ピッカリングエマルションは、エマルションに用いられる2つの液体に対する接触角が約90°である固形材料に基づいている。これは、この材料が、一方または他方の液体によって独立して湿潤することを意味する。この材料は、粉末状に微細化されると、2つの液体間の界面において吸収され、そこに封鎖されたままとなる。最終的には、粒子が、全ての界面を覆い、エマルションを凝集および合一に対して安定させる。この効果は、液相と、関係する材料とを適切に選択することでのみ得られる。固体と液体との間の界面エネルギーは、液体分子と、固体の表面に露出する化学的機能との間のエネルギー寄与の合計により定義され得る。この寄与は、有極性、分散性(ファンデルワールス)、酸塩基、水素結合の仲介等に分類され得る。両親媒性表面は、水および油に対して親和性がある。すなわち、水と油それぞれに対して同等の界面エネルギーを定める表面特性を有する。従って、固体は、水と油のどちらによって湿潤するかを選好しない。この材料を粉末状に微細化することにより、固形粒子が水油界面に移動して、分散相が合一することを機械的に防止するため、乳化剤として働くことができる。そのような材料の表面特性は均一であるが、両親媒性材料は、希少で、設計が難しい。従って、ある特定の材料の粉末は、限られた分野の不混和性液体(表面張力)に対して固形乳化剤として働くので、その方法を、全ての種類の配合に対して容易に一般化することはできないということは明らかである。
【0006】
この問題は、異なる面(例えば疎水性および親水性)を有し、それぞれが2つの相(例えば油と水)の一方を選好して湿潤する粒子である、ヤヌス粒子を用いることにより解決され得る。
【0007】
ヤヌス粒子は、2つの顔を持つ古代ローマの神にちなんで名付けられ、上述した両親媒性粒子が進化したものである。ヤヌス粒子は、粒子自体の区域によって異なる親和性(表面エネルギー)をもつ表面を有する。例えば、フレーク状のヤヌス粒子は、親水性表面と疎水性表面とを特徴として備える。ヤヌス粒子は、均一の(区切られていない)表面エネルギーをもつ粉末乳化剤よりも優れている。これは、エマルションの液相との相互作用が特定的であるため、つまり、親水性面は水相と相互作用し、疏水面は油(シリコーン)相と相互作用するためである。結果として、粒子は液液界面に移動し、そこに不可逆的に隔離される。ヤヌス粒子は、文献に記載される様々な技術を使って製造することができるが、それらの技術で共通するのは、生産高が低いことと、製造工程が多いことである。
【0008】
確かに、今日のヤヌス粒子(下に列挙する非特許文献1~6を参照)は、高度な方法を用いて低生産高で製造されるので、効率的および費用効率よく実施できない。従って、ヤヌス粒子は、我々の知る限り、今日の美容分野やその他産業分野において使用される原料の1つとして市場に出ていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chariya Kaewsaneha et al.,“Preparation of Janus Colloidal Particles Via Pickering Emulsion:An Overview”,Colloids and Surfaces A:Physiochemical and Engineering Aspects‐Volume 439,20 December 2013,pages 35-42.
【非特許文献2】Yunoi Yang et al.,“An Overview of Pickering Emulsions:Solid‐Particle Materials,Classification,Morphology,and Applications”,Frontiers in Pharmacology,1 May 2017,Volume 8,Article 287.
【非特許文献3】Fuxin Liang et al.,“Rational Design and Synthesis of Janus Composites”,Advanced Materials,Volume 26, art 40,29 October 2014,pages 6944-6949.
【非特許文献4】Yoshimune Nonomura et al.,“Adsorption of Disk Shaped Janus Beads at Liquid‐Liquid Interfaces”,Langmuir,2004,20,11821-11823.
【非特許文献5】B.P.Binks et al.,“Particles Adsorbed at the Oil‐Water Interface:Theoretical Comparison between Spheres of Uniform Wettability and “Janus”Particles”,Langmuir,2001,17,4708-4710.
【非特許文献6】Jie Wu et al.,“Recent Studies of Pickering Emulsions:Particles Make the Difference”,Small,Volume 12,Part 34,14 September 2016,pages 4633-4640.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、美容用途に使用可能なヤヌス粒子を製造する具体的な方法を提供する。この材料は、(市場に出ているヤヌスではない固形乳化剤に比べて)ナノメートルサイズではないため、消費者にとって安全性の問題はない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヤヌス粒子を、化粧品配合における「固形乳化剤」の機能として使用して、標準的なエマルションの外観を有し得るエマルション、または、かたまりの状態および塗布中の両方において、配合自体の機能として特別な視覚および知覚効果を特徴として備え得るエマルション(例えば、分散相の液滴が肉眼で見える安定したマクロエマルション)を作り出す。これらの新しい商品タイプには、大きな利点があり、その1つは、肌に刺激を与える可能性のある従来の分子乳化剤が存在しないという点である。確かに、スキンケア製品やメイクアップ製品に求められるのは、特に、肌の生理機能を改善することと、どのような場合でも尊重することである。このため、従来の乳化剤を含まないエマルションは、当技術分野においてかなりの改善を見せることになる。
【0012】
さらに、このようなエマルションの並外れた安定性は、低粘度を特徴とする新しいエマルションへの道を開くことになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】中空球状粒子から改質粒子を得る工程を示す説明図である。
図2】改質粒子を粉砕して破片を得る工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、化粧品を作るためのエマルションに使用できるヤヌス粒子を通常の設備および低い生産コストで容易に製造できる新しい方法を用いた化粧品組成物を提供することを主な目的とする。更に、本発明に係るヤヌス粒子の新しい製造方法によれば、1時間当たり数十キログラムの生産量が得られる。本発明は、そのようなヤヌス粒子を、顔、目、唇、または身体のメイクアップおよびスキンケア用の化粧品の配合に用いることを、別の目的とする。
【0015】
従来の技術における材料の表面エネルギーの改質には、様々な技術を用い得る。そのような方法は、粉末状の材料に適用した場合、非特定的に表面を改質する、即ち、処理(化学的処理または物理的処理)が到達し得る全ての表面を改質する。「物理的処理」とは、その分子が表面に共有結合していない材料の層を、例えば溶媒からの析出や流延により堆積することである。一方で、「化学的処理」とは、その分子が表面に共有結合している材料の層を堆積することである。これらの処理は、両方とも元々の表面の面エネルギーを変化させるが、物理的処理は、分離法(例えば抽出)によって除去され得る一方、化学的処理は、処理剤と表面自体の間に形成された共有結合の分解が必要となるため、より安定的である。
【0016】
親水性表面から疎水性表面への転換は、例えば、周知の化学的機能化技術(化学的ゾルゲル)を用いることにより可能である。従来技術で用いられる技術の場合、改質する粒子の領域を正確に定めて部分的に機能化させることは不可能であり、通常、表面全体が改質されてしまう。粒子の表面の一部を表面改質から保護する必要がある。この保護方法は、文献に記載されているが、湿式技術が採用され、生産高が低い。
【0017】
中空球体(球状バブル)の形態を有する粉末状材料には、元々、自己保護能力がある。各粒子は、処理が到達しない内側表面と、処理が到達する外側表面との2つの表面に区分できる。
【0018】
本発明に係る方法は、従来技術で知られているいずれかの方法で、粒子の外側表面を機能化させる。機能化させた後の粒子は、「保護された」非機能化表面と、露出した機能化表面とを隠し持つ。上記材料を粉砕して非機能化表面を露出させることにより、最終的にヤヌス粒子が得られる。元々の材料が中空球体の形態を有している場合、処理および粉砕の後、球冠形状の粒子を得ることができる。
【0019】
市場には、マイクロバブル形態を有する異なる材料が多数ある。そのうちの1つのカテゴリーは、ガラス(例えば、3M社製のGlass Microbubbles)で構成される。別の例は、プラスチック材料で作られた中空微小球(例えば、Akzo Nobel社製のExpancel)で構成される。しかし、本発明においては、内側表面および外側表面(バブルまたはシェル)を特徴として備える粉末状の任意の材料を使用できる。この種の材料は、市場に多く出回ってきている。確かに、この種の材料は、機能的賦形剤の機能を有し、非常に低比重量の配合が得られる。
【0020】
本発明に係る化粧品組成物は、請求項1に定義される。
【0021】
本発明の化粧品組成物に用いることができるヤヌス粒子の製造方法には、添付の図1および図2に示すように、以下の一連の段階がある。
【0022】
1)中空粒子1(例えば図1左側に示すように球状バブルの形状)は、表面エネルギーαをもつ任意の材料(例えば、水に対する接触角がWCA-α<90°の親水性材料またはWCA-α>90°の疏水性材料)でできており、外側(到達可能)表面2と、内側(到達不可能)表面3の2つの非連続表面を特徴として備える。このような中空粒子1の外側表面の表面エネルギーを化学的または物理的に(例えば化学コーティングにより)変化させ、図1の右側に示すような改質粒子11を作り出す。得られた中空粒子11は、表面エネルギーβ(αより大きいか小さい)に改質されて、水に対する接触角が変化した(WCA-β>WCA-αまたはWCA-β<WCA-α)外側表面12と、改質処理が到達せず、元々の表面エネルギーαから改質されていない内側表面13とを特徴として備える。表面処理剤は、例えば、ポリメチルヒドロシロキサンの共重合体、または、トリエトキシシランおよび/またはトリメトキシシランとすることができる。物理的改質の場合は、揮発性溶剤を蒸発させること、または溶融物質を堆積させその後固化させることにより、改質材料を堆積させることができる。
【0023】
2)そして、粒子11(図2の左側に示す)を、粒子11を破壊可能な任意の粉砕技術で粉砕し(図2の中央部)、球冠形状の小さな破片(粒子21)を得る。球冠によって描かれる立体角が小さければ小さいほど、球冠は、より平面形状に近似する。処理された中空球体が破壊されることにより、改質されていなかった内側表面13が到達可能となり、これによりヤヌス粒子(図2の右側)が生成される。
【0024】
このような方法で作られたヤヌス粒子を用いることにより、水相と有機相とを備え、0.01重量%~99.99重量%のヤヌス粒子を含み、水相と有機相との合計が0.01重量%~99.99重量%である化粧品組成物を得ることができる。
【0025】
特に、10重量%~90重量%の有機相を含んだ化粧品組成物を得ることができる。水相は90重量%~10重量%含まれ、ヤヌス粒子は20重量%~0.01重量%含まれており、水相が有機相に分散している(油(シリコーン)中水型エマルション)であるか、または、その逆の(水中油/シリコーン型エマルション)である。また、0.01重量%~10重量%の有機相を含み、10重量%~70重量%の水相を含み、10重量%~90重量%のヤヌス粒子を含む化粧品組成を得ることもできる。
【0026】
水相は、水と、水溶性および/または水分散性の物質で構成することができ、有機相は、トリグリセリド、および/またはエステル、および/またはグリセリルエステルの類に属する油、および/またはシリコーン、および/または美容の観点から許容できるその他の油、およびこれらそれぞれの混合物で構成してもよく、1以上の油および油溶性および/または油分散性の物質を含有してもよい。
【実施例0027】
本発明に係るヤヌス粒子の調製およびヤヌス粒子のエマルション生成における使用と、美容用途に適したその他の調製とに関するいつくかの実施例を以下に示す。
【0028】
実施例1‐親水性ガラスの中空粒子をジメチコーンで機能化したヤヌス粒子(親水性シリコーン)の調製
粉体混合機に、平均直径100μmの中空ガラス粒子を200g加えて、100rpmで5分間優しく混ぜる。表面処理剤(ポリメチルヒドロシロキサン‐ポリジメチルシロキサンの共重合体、4g)を加えた後、この混合物をさらに5分間かき混ぜる。このようにして得られた混合物に対して、150℃の空気中で24時間熱処理を施す。熱処理後、混合物を放冷する。コーティングされた中空粒子は、0.00033N(33dyn)/cm未満の表面エネルギーを有する。これらの粒子をその後、エアジェット粉砕機を用いて、送り速度10g/分で700kPa(7bar)で粉砕する(投入・粉砕チャンバ)。レーザー回折式粒度計によって計測した最終的な粒径の分布は、0.1μm~20μmの間である。
【0029】
実施例2‐親水性ガラスの中空粒子をベフェニルカルバモイルプロピル・ポリシルセスキオキサンで機能化したヤヌス粒子(親水性脂肪族化合物)の調製
加熱した粉体混合機に、平均直径200μmの中空ガラス粒子を200g加えて、60rpmで5分間優しく混ぜる。表面処理剤としてベフェニルカルバモイルプロピル・トリエトキシシランを4g加えた後、混合物を混合しながら80℃にして、1時間完全に混ぜる。触媒として希釈酸の水溶液を1g混合機に投入して、80℃で2時間そのまま混ぜ続ける。混合物をその後放冷する。コーティングされた中空粒子は、0.00033N(33dyn)/cm未満の表面エネルギーを有する。その後、原位置で中空のシェルを破壊するために、粒子を3000rpmで激しく混ぜ、最終的な粒径の分布が0.1μm~20μmの間の範囲になるようにする。
【0030】
実施例3‐親水性ガラスの中空粒子をトリエトキシカプリリルシランで機能化したヤヌス粒子(親水性脂肪族化合物)の調製
加熱した粉体混合機に、平均直径が200μmの中空ガラス粒子を200g加えて、60rpmで5分間優しく混ぜる。表面処理剤としてトリエトキシカプリリルシランを4g加えた後、混合物を混合しながら80℃にして、1時間完全に混ぜる。触媒として希釈酸の水溶液を1g混合機に投入して、80℃で2時間そのまま混ぜ続ける。混合物をその後放冷する。コーティングされた中空粒子は、0.00033N(33dyn)/cm未満の表面エネルギーを有する。これらの粒子をその後、エアジェット粉砕機を用いて、送り速度10g/分で700kPa(7bar)で粉砕する(投入・粉砕チャンバ)。最終的な粒径の分布は、0.1μm~10μmの間である。
【0031】
実施例4‐疏水性ポリマー中空粒子を大気プラズマによって機能化したヤヌス粒子(疎水性及び親水性)の調製
大気プラズマ反応器に、平均粒径80μmの疎水性ポリマー(ポリアクリロニトリル/架橋ポリメチル・メタクリレート)の中空球体を200g加えて、2時間処理を施す。処理後の粉末は、表面エネルギーが0.00072N(72dyn)/cmを超えて、親水性になる。さらに、この粉末をエアジェット粉砕機を用いて低温(該材料のガラス転移点未満の温度)で粉砕してシェルを破壊し、ヤヌス粒子を生成する。最終的な粒径の分布は、0.1μm~10μmの間である。
【0032】
実施例5‐実施例1のヤヌス粒子を用いたシリコーン中水型エマルションの調製
【0033】
【表1】
【0034】
このシリコーン中水型エマルションは、室温で相Aを機械的に攪拌してビーカーに調製し、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相Bを加えることにより得る。光学顕微鏡法で検出した最終的な水液滴の分布は、10μm~150μmの間である。得られたエマルションは、室温で6ヶ月を超えて合一に対する安定性を持つ。
【0035】
実施例6‐実施例2のヤヌス粒子を用いた油中水型エマルションの調製
【0036】
【表2】
【0037】
この油中水型エマルションは、室温で相Aを機械的に攪拌してビーカーに調製し、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相Bを加えることにより得る。光学顕微鏡法で検出した最終的な水液滴の分布は、10μm~170μmの間である。得られたエマルションは、室温で6ヶ月を超えて合一に対する安定性を持つ。
【0038】
実施例7‐実施例4のヤヌス粒子を用いた油中シリコーン型エマルションの調製
【0039】
【表3】
【0040】
この油中水型エマルションは、室温で相Aを機械的に攪拌してビーカーに調製し、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相Bを加えることにより得る。光学顕微鏡法で検出した最終的な水液滴の分布は、30μm~200μmの間である。得られたエマルションは、室温で6ヶ月を超えて合一に対する安定性を持つ。
【0041】
実施例8‐ヤヌス粒子の原位置生成(湿潤な粉砕)を用いたシリコーン中水型エマルションの調製
【0042】
【表4】
【0043】
この実施例は、エマルション生成中にヤヌス粒子を原位置で生成するケースを示す。実施例1のシリコーンで処理されたガラスマイクロバブルを粉砕前の状態で用いる。相Aをビーカーに調製して、混合物の状態で3シリンダ粉砕機(カレンダ)にかけ、これによりシリコーン分散のヤヌス粒子が生成される。そして、室温で相Aを相Bに加え、その後、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相Cを加える。光学顕微鏡法で検出した最終的な水液滴の分布は、10μm~150μmの間である。得られたエマルションは、室温で6ヶ月を超えて合一に対する安定性を持つ。
【0044】
実施例9‐油中水型エマルションのファンデーションの調製
【0045】
【表5】
【0046】
油中水型エマルションのファンデーションは、以下のように製造する。相Aを80℃にしてワックスを溶融させる。そして、機械的に攪拌をしながら相Bを加える。相Cを80℃に加熱し、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相A+相Bに加える。そして、相Dを、攪拌中の混合物に加える。その後、機械的に攪拌しながら、周囲温度まで温度を下げる。
【0047】
実施例10‐「パウダークリーム」状の化粧品の調製
【0048】
【表6】
【0049】
「パウダークリーム」状の化粧品は、以下のように作る。周囲温度で、相Aを粉末混合機で混合する(2500rpmで5分間)。相Bを相Aに加え、さらに均一に混合する(2500rpmで5分間を2サイクル)。そして、相Cを相A+相Bに加え、この混合物のかたまりが、流動する乾いた粉末状の外観になるまで混合する。このような粉末は、肌へ塗布(摩擦)するとクリームへと変化し、水が蒸発すると乾いた状態に戻る能力を持つ。
【0050】
実施例11‐スキンケア用水中油型エマルションの調製
【0051】
【表7】
【0052】
スキンケア用水中油型エマルションは、以下のように作る。相Aを、50℃にして均質にする。そして相Cを50℃に加熱する。相Bを、高剪断ロータ・ステータ装置を使用して5分間10000rpmでエマルションを生成しながら相Aに加える。そして、エマルションを放冷し、相C及び相Dを、機械攪拌(200rpm)して加える。
【0053】
比較例
以下に、別の製造方法(処理なし、粉砕なし、または処理・粉砕の順序が異なる)で得た粒子を用いてシリコーン中水型エマルションを形成する試みの失敗を示す比較例を記載する。
【0054】
比較の粉末は、以下に記載の通りである。
【0055】
・比較例I(親水性マイクロバブル)‐親水性中空ガラス球状の粉末をそのまま使用(コーティングなし、粉砕なし)
・比較例II(親水性フレーク)‐コーティング工程を除いて実施例1と同様にして親水性フレークを得る(コーティングなし、粉砕あり)
・比較例III(疎水性マイクロバブル)‐エアジェット粉砕工程を除いて実施例1と同様にして中空疎水性ガラス球体を得る(コーティングあり、粉砕なし)
・比較例IV(疏水性フレーク)‐コーティングと粉砕の順序が入れ替わる他は実施例1と同様にして疏水性フレークを得る(粉砕あり、コーティングあり)
【0056】
エマルションは、上記の異なる粉末(比較例I~IV)を相Aとして用いて、実施例5に従って調製する。相B(水相)を、水滴に色を加えるための0.1%の水溶性染料FD&C Blue1と共に加える。
【0057】
視覚および光学顕微鏡による評価により、本発明に記載したヤヌス粒子のみが、安定性が改善したピッカリングエマルションを生成することが示される。粒子が完全に親水性である場合(中空球体またはフレーク)や、疏水性中空球体が使用される場合(それぞれ、比較例I、比較例II、及び比較例III)は、エマルションは形成されない。疎水性フレーク(比較例IV)は、水相とシリコーン相との間の中間平均濡れに基づいてピッカリングエマルションをもたらすが、そのようなエマルションは、加速安定性試験(4000rpmで2分間または2500rpmで10分間遠心分離機にかける)で示されるように、本発明の目的であるヤヌス粒子に基づくピッカリングエマルションと比較すると、液滴直径が大きく、合一に対する安定性が低い。
【符号の説明】
【0058】
1 中空粒子
2 外側表面
3 内側表面
11 改質粒子
12 外側表面
13 内側表面
21 破片
図1
図2