(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026744
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ゴム変性スチレン系樹脂組成物、シート、照明用カバーおよび成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 279/02 20060101AFI20240220BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240220BHJP
C08L 25/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C08F279/02
C08L9/00
C08L25/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003425
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2019034785の分割
【原出願日】2019-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】菅原 末樹
(57)【要約】
【課題】本発明は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に分散している補強ゴム粒子を最適化することにより、全光線透過率、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、マトリックスを形成するスチレン系重合体及び該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するものであって、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~15.0質量%であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスを形成するスチレン系重合体及び該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、
前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、
前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、
前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~15.0質量%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性、光透過性、及び耐白化性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、当該樹脂組成物を含むシート、並びに当該シートより得られる照明用カバー等の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、照明の光源としては、従来使用されてきた蛍光灯から指向性のより強いLEDが用いられるようになってきている。それにより、照明カバーの要求特性として、光透過性も十分確保しつつ、光源が透けて見えることを防止するためにより強い光拡散性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭60-21662号公報
【特許文献2】特開昭60-139758号公報
【特許文献3】特許2512544号公報
【特許文献4】特開平11-60966号公報
【特許文献5】特開2004-50607号公報
【特許文献6】特開平08-198976号公報
【特許文献7】特開2000-296581号公報
【特許文献8】特開2004-90626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような照明カバーとしては、従来、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂などの透明樹脂に光拡散剤を多量に添加することで、光拡散性と光透過性の両立させてきた。
【0005】
具体的に透明樹脂に光拡散性を付与する方法としては、透明樹脂に屈折率の異なる微粒子を配合する方法が古くから開示されている。例えば、1~10μmの微粒子を配合する技術(特許文献1)、10~50μmの微粒子を配合する技術(特許文献2)、1~6μmのシリコーン樹脂微粒子と1~7μmの無機粉末を併用する技術(特許文献3)、5μm未満の架橋樹脂微粒子と5~10μmの架橋樹脂微粒子を併用する技術(特許文献4)、1~20μmの光拡散剤を配合する技術(特許文献5)などが挙げられる。しかしながら、有機系であれ無機系であれ、これらの微粒子は、樹脂との親和性が低く、多量に添加すると耐衝撃性が低下するという問題点を有していた。
【0006】
また、耐衝撃性を改良する目的で、アクリル系多層構造重合体を加える技術も開示されているが(特許文献6~8)、通常、乳化重合で作製される多層構造重合体の粒子径は0.5μmより小さく、短波長側の光が吸収されやすいため、透過色の黄色度が高くなり好ましくない。
【0007】
さらに、耐衝撃性を有するスチレン系樹脂として、ゴム変性スチレン系樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)があるが、従来のゴム変性スチレン系樹脂は、透過色の黄色度が高く、更には光の拡散性及び光透過性に劣る問題があった。特許文献9には、ゴム変性スチレン系樹脂に分散している粒子の径及びこの粒子の累積体積比率を特定の範囲にすることにより、光透過性に優れ、光拡散性を有することが開示されている。しかし、この技術で拡散光透過率は改良されているが、製品を爪で軽く押しただけで、白化傷が発生し、明かりを点灯した際に、影となり黒い点となってしまう問題が有った。
【0008】
そこで、本発明は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に分散している補強ゴム粒子を最適化することにより、全光線透過率、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、当該樹脂組成物を含むシート、及び当該シートより得られる照明用カバー等の成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に含まれる補強ゴム粒子の構造とその含有量を詳細に検討した結果、特定のゴム状重合体の量とゴム粒子構造により照明カバーに好適に使用される拡散光透過率及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]マトリックスを形成するスチレン系重合体及び該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、
前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、
前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~15.0質量%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
[2]前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が10~14の範囲である、上記[1]に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
[3]上記[1]または[2]に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出成形してなるシート。
[4]上記[3]に記載のシートを熱成形してなる成形品。
[5]上記[3]に記載のシートを熱成形してなる照明用カバー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、全光線透過率、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、当該樹脂組成物を含むシート、及び当該シートより得られる照明用カバー等の成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明を行うが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、マトリックスを形成するスチレン系重合体及び該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する。
ここで、本実施形態におけるゴム変性スチレン系樹脂組成物中のスチレン系重合体を形成するスチレン系単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等が挙げられ、これらを単独又は二種以上用いてもよい。中でも、スチレンが好ましい。
なお、必要に応じてスチレン系単量体に共重合可能なその他の単量体を本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。ここで用いることが可能なその他の共重合可能な単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物基含有単量体、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のジカルボン酸イミド含有単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体等が挙げられる。
スチレン単量体に共重合可能なその他の単量体の量は、マトリックスを構成する単量体としては好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0014】
本実施形態におけるゴム変性スチレン系樹脂組成物は、海島構造を有しており、スチレン系重合体がマトリックスを形成し、ゴム状重合体粒子が当該マトリックス中に島状に分散している。また、ゴム変性スチレン樹脂組成物中のゴム状重合体粒子は、該ゴム状重合体粒子中にスチレン系重合体(粒子)を内包している。本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子に内包されたスチレン系重合体粒子は粒子径が極めて小さく、かつ均一であることが好ましい。
【0015】
本実施形態におけるゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体は、ポリブタジエンゴム(ローシスポリブタジエン、ハイシスポリブタジエン)及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体(ランダム及びブロックスチレン-ブタジエン共重合体(SBR))であり、ポリブタジエンゴムが好ましく、特にハイシスポリブタジエンが好ましい。ゴム状重合体としてスチレン-ブタジエン共重合体を用いる場合には、当該共重合体におけるスチレン重合体の含有量は、25質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。スチレン-ブタジエン共重合体におけるスチレン重合体の含有量が増加すると、マトリックスとの屈折率差が近くなり、拡散性が低下する傾向がある。
【0016】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系重合体およびゴム状重合体の合計100質量%に対して、ゴム状重合体を1.0~6.0質量%、スチレン系重合体を99.0~94.0質量%の範囲で含む。また好ましくは、ゴム重合体を1.5~5.0質量%、スチレン系重合体を98.5~95.0質量%の範囲で含み、より好ましくは、ゴム重合体を2.0~4.5質量%、スチレン系重合体を98.0~95.5質量%の範囲で含む。ゴム状重合体が1.0質量%未満では、光拡散性、耐衝撃性が低下し、6.0質量%を超えると光透過性、剛性が低下し、白化傷が発生しやすくなる。
【0017】
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状重合体の分散粒子の粒子径は、2.0~5.5μmであり、好ましくは2.5~5.0μm、より好ましくは3.0~4.5μmである。該粒子径が2.0μm未満では、拡散性が低下し、照明カバー等の光拡散用途に用いた場合に光源が透けて見えやすくなるとともに、透過色の黄色度が増加し、更には衝撃性に劣る。一方、該粒子径が5.5μmを超えると高い光拡散性を満足させるためには、ゴム状重合体粒子の多量の添加が必要となり、ゴム状重合体粒子を添加しすぎると剛性が低下し、白化傷が発生し易くなり好ましくない。
【0018】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分は2.0~15.0質量%の範囲であり、好ましくは4.0~13.0質量%、より好ましくは5.0~12.0質量%である。メチルエチルケトン不溶ゲル分が少なくなるにつれて衝撃強度が低下し、光拡散性が低下する傾向にあり、増加するにつれて白化傷が発生し易くなり、光の透過性が低下する傾向にある。
【0019】
なお、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量測定は、樹脂を溶剤に溶解し、遠心分離後にデカンテーションによって、可溶分と分散相である不溶分を分離後、不溶分を乾燥する操作によって求められる。一般的には、溶剤としてトルエンが用いられている。しかし分散している粒子の径が小さい、又はゴム状重合体の架橋度が低いゴム変性スチレン系樹脂組成物では、トルエンを使用すると、トルエンとゲル分の親和性が良いために、測定時のデカンテーション時にゲル分が流出し、分散相の含有量が真の値よりも低い値となってしまう場合がある。そこで本発明では、溶媒としてメチルエチルケトンを使用する。メチルエチルケトンを使用することにより、デカンテーション時のゲル分の流出がなく、分散相の含有量を測定することができる。
【0020】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は、10~14であり、好ましくは10~13、より好ましくは11~13である。膨潤指数は、ゴム状重合体の架橋密度を表しており、数値が小さいほど架橋密度が高く、数値が大きいほど架橋密度は低い。膨潤指数が小さくなるにつれてゴム変性スチレン系樹脂組成物の強度が低下する傾向にある。一方、膨潤指数が大きくなるにつれて成形加工時の配向によって分散粒子が変形を生じ易くなり、配向方向に直行する方向の強度が低下し、拡散性が低下する傾向にある。
【0021】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の例を示す。
典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。スチレン系単量体の重合方法に関しては特に制約はなく、スチレン系単量体にゴムを溶かした溶液を用いて、通常の塊状重合、溶液重合、懸濁重合等を行うことができる。また、メルトフローレイト調整のために、溶媒や連鎖移動剤を適宜選択して使用することが好ましい。溶媒としてはトルエン、エチルベンゼン、キシレン等を使用できる。溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、重合原料液の全量100質量%に対して、0~50質量%の範囲が好ましい。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等が用いられ、α-メチルスチレンダイマーが好ましい。連鎖移動剤の使用量は、重合原料液の全量100質量%に対して好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.03~1質量%、さらに好ましくは0.05~0.2質量%の範囲である。重合反応温度は好ましくは80~200℃、さらに好ましくは90~180℃の範囲である。反応温度が80℃以上であれば生産性が良好で、工業的に適当であり、一方200℃以下であれば、低分子量重合体が多量に生成することを回避でき好ましい。スチレン系重合体の目標分子量が重合温度のみで調整できない場合は、開始剤量、溶媒量、連鎖移動剤量等で制御すればよい。反応時間は一般に0.5~20時間、好ましくは2~10時間である。反応時間が0.5時間以上であれば反応が良好に進行し、一方、20時間以下であれば、生産性が良好で工業的に適当である。
【0022】
上記の製造方法において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の分散粒子の粒子径については、反応器内の撹拌機の回転数により制御が可能であり、メチルエチルケトン不溶ゲル分の量については開始剤量による制御が可能であり、トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は回収系の押出機の温度により制御が可能である。
【0023】
ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の量は、目標とする含有量になるように原材料中のゴム状重合体の含有量や重合率を調整することによって制御することができる。本発明のゴム変性スチレン系樹脂は、前記製造法により製造できる。別の方法として、前記の製造方法により得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物に、ゴム状重合体を含有しないポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂を混合し希釈することによっても製造することができる。前記製造法でゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する場合は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の量は、好ましくは1~6質量%、より好ましくは1.5~5質量%、更に好ましくは2~4.5質量%である。
【0024】
重合開始剤として用いられる有機過酸化物としては、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。
【0025】
重合溶媒としては、エチルベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることが可能である。
【0026】
本実施形態においてゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する際の回収工程の前後の任意の段階、又はゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出加工、成型加工する段階において、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、ヒンダートフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、滑剤、流動パラフィンなどの可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、各種染料や顔料、蛍光増白剤、光拡散剤、選択波長吸収剤を添加してもよい。
【0027】
ここで、本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物には、光源ランプから発生する紫外線による着色を防止する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤を添加することができる。紫外線吸収剤とは、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5ビス(α,α’ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、フェニルサリシレート、4-t-ブチルフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤、2-(1-アリールアルキデン)マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤が挙げられる。また、光安定剤とは、例えばヒンダートアミン系光安定剤などが挙げられる。ヒンダートアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セパケート、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物が挙げられる。紫外線吸収剤、光安定剤は、各々単独又は複数での使用が可能であり、添加量は、紫外線吸収剤と光安定剤の総和でゴム変性スチレン系樹脂組成物100質量部に対して0.02~2.0質量部が好ましい。より好ましくは、0.1~1.5質量部である。
【0028】
更に、本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物には、必要に応じて蛍光増白剤、ブルーイング剤等のマスキング剤を任意に使用することが可能である。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂への前記添加剤の添加方法は、公知の方法を選択することができる。例えば、ゴム変性スチレン系樹脂組成物、添加剤等ならびに必要に応じてゴム状重合体を含有しないスチレン系樹脂をヘンシェルミキサーやタンブラー等で混合した後、単軸又は2軸押出機や各種ニーダー等を用いて溶融混練することにより、ペレット状や板状等に成形された組成物を得ることができる。
【0029】
本実施形態においては、押出成形の方法によりゴム変性スチレン系樹脂組成物からシートを製造することができ、また押出成形、射出成形、圧縮成形等の方法により、ゴム変性スチレン系樹脂組成物または当該シートから各種の成形品を製造することもできる。それらシートや成形品は、照明器具や電照看板、液晶ディスプレイや液晶テレビ等に好適に用いることができる。なかでも、本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、当該シートを熱成形して得られる照明用カバー用途として好適に用いられる。
【実施例0030】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
<樹脂1の作製方法>
スチレン系単量体としてスチレン78.2質量部、ゴム状重合体としてポリブタジエンゴム(宇部興産社製BR15HB)9.8質量部、溶剤としてエチルベンゼン12質量部、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.003質量部、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.10質量部、酸化防止剤イルガノックス1076(BASFジャパン社製)0.15質量部を混合溶解した重合液を、撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-1に3.2リットル/Hrで連続的に仕込み、温度を117℃/123℃/129℃に調整した。攪拌機の回転数は毎分120回転とした。
【0032】
続いて層流型反応器-1と直列に接続された、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-2に、層流型反応器-1中の反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分15回転とし、温度は136℃/138℃/140℃に設定した。続いて攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-3に、層流型反応器-2中の反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分10回転とし、温度は147℃/156℃/159℃に設定した。
【0033】
重合反応器(層流型反応器-3)から連続して排出される重合体溶液を真空ベントつき押出機に導き、10torrの減圧下、脱揮後ペレタイズした。押出機の温度は230℃に設定した。
得られた樹脂1の性状等を表1に示す。
【0034】
<樹脂2の作製方法>
重合開始剤量を表1のとおり変更した以外は、樹脂1と同様にして作製を実施した。得られた樹脂2の性状等を表1に示す。
【0035】
<樹脂3、4の作製方法>
回収系の押出機の温度を表1のとおり変更した以外は、樹脂1と同様にして作製を実施した。得られた樹脂3、4の性状等を表1に示す。
【0036】
<樹脂5~7の作製方法>
層流型反応器-1の攪拌機の回転数を表1のとおり変更した以外は、樹脂1と同様にして作製を実施した。得られた樹脂5~7の性状等を表1に示す。
【0037】
<樹脂8の作製方法>
原料組成、層流型反応器―1の攪拌機の回転数を表1のとおり変更した以外は、樹脂1と同様にして作製を実施した。なお原料の流動パラフィンには出光興産社製CP-68Nを使用した。得られた樹脂8の性状等を表1に示す。
【0038】
<樹脂9の作製方法>
原料組成、層流型反応器-1の攪拌機の回転数、回収系の押出機温度を表1のとおり変更した以外は、樹脂1と同様にして作製を実施した。得られた樹脂9の性状等を表1に示す。
【0039】
【0040】
分析方法と評価方法を以下に記す。
(1)ゴム状重合体含有量
ゴム変性スチレン系樹脂組成物0.4gを100mlのメスフラスコに入れて精秤した(W)。クロロホルム75mlを加えてよく分散させた後、一塩化ヨウ素18gを1000mlの四塩化炭素に溶かした溶液20mlを加えて冷暗所に保存し、8時間後にクロロホルムで標線に合わせた。これを25ml採取し、ヨウ化カリウム10gを水800ml、エタノール200mlの混合液に溶かした溶液60mlを加え、チオ硫酸ナトリウム10gを1000mlの水に溶かした溶液(モル濃度x)で滴定した。本試験Aml、空試験Bmlとし、ゴム状重合体含有量(質量%)は以下の式により求めた。
ゴム状重合体含有量(質量%)=10.8×x×(B-A)/W
【0041】
(2)ゴム状重合体粒子の粒子径
30μmのアパチャーチューブを装着したベックマンコールター株式会社製COULTER MULTISIZER III(商品名)にて、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のペレット2~5粒をジメチルホルムアミド約5ml中に入れ約2~5分間放置した。次にジメチルホルムアミド溶解分を適度の粒子濃度として測定し、体積基準のメジアン径を求めた。
【0042】
(3)メチルエチルケトン不溶分(ゲル分)
ゴム変性スチレン系樹脂組成物1gを精秤し(W1)、メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)20mlを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac(商品名)CR-20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離した。上澄み液をデカンテーションして除き、不溶分を得た。引き続き、160℃。20mmHg以下の条件で60分間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、不溶分の質量を精秤した(W2)。下記式により、メチルエチルケトン不溶分(ゲル分)を求めた。
メチルエチルケトン不溶分(質量%)=(W2/W1)×100
【0043】
(4)トルエンに対する膨潤指数
ゴム変性スチレン系樹脂組成物1gを精秤し(W3)、トルエン20mlを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac(商品名)CR-20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離した。上澄み液をデカンテーションして除き、トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤した(W4)。引き続き、160℃、20mmHg以下の条件で60分間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、不溶分の質量を精秤した(W5)。下記式により、トルエンに対する膨潤指数を求めた。
トルエンに対する膨潤指数=W4/W5
【0044】
(5)白化試験
ゴム変性スチレン系樹脂組成物を温度220℃で射出成形を行い、1mm厚みの平板を作製した。30.5mmの受け台を設置したDupont衝撃試験機に平板を設置し、12.7mmΦの撃芯を乗せ、静かに100g毎に錘の重量を増加させ、白化傷が発生した荷重を測定した。
【0045】
(6)全光線透過率、拡散光透過率、ヘーズ、黄色度(イエローインデックス)
ゴム変性スチレン系樹脂組成物を温度220℃で射出成形を行い、1mm厚みの平板を作製し、日本電色社製 色度濁度測定器 COH300A(商品名)を用いて、C光源/2度視野、12mmΦの面積で透過光により、全光線透過率、拡散光透過率、ヘーズ、イエローインデックスを測定した。
【0046】
(7)シャルピー衝撃試験
樹脂温度220℃、金型温度45℃の条件で射出成形して作製した試験片を用いて、ISO 179に準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強度の測定を実施した。
【0047】
(8)メルトマスフローレイト
ISO 1133に準拠して200℃、49N測定を実施した。
【0048】
(9)流動パラフィン量
ゴム変性スチレン系樹脂組成物2gを精秤し、メチルエチルケトン40mlを加え23℃で40分間振とうし、メタノール200ml中に滴下し、60℃で10分間加温した後、23℃に冷却し、穴径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した。濾別した濾液を減圧蒸留濃縮し、80℃で30分間乾燥した後、23℃に冷却し、ノルマルヘキサンに溶解させ、10mlの試料を得た。得られた試料について、下記の条件下で液体クロマトグラフィーにより、流動パラフィン含有量(質量%)を定量した。
【0049】
機器:高速液体クロマトグラフ (株)島津製作所製(商品名)LC-10A
カラム:平均粒子径5μmの全多孔性シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm
溶媒:ノルマルヘキサン
温度:23℃
溶媒流量:2g/min
注入量:200μm
【0050】
[実施例1~実施例9]
実施例1~実施例8は樹脂1、樹脂2または樹脂5のいずれかと樹脂9を表2の比率で混合し溶融混練してゴム変性スチレン系樹脂組成物を作製した。また、実施例9は樹脂8を使用した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
実施例1~9のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、いずれも白化傷の発生する荷重が高く、全光線透過率とヘーズのバランスが良いため拡散光透過率が高く、光拡散性が高い。
【0051】
[比較例1]
比較例1は樹脂1と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例1のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム量が少なく、ゲル分も少ないため、全光線透過率は高いがヘーズが低いため拡散光透過率が低く、衝撃強度も低い。
【0052】
[比較例2]
比較例2は樹脂1と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例2のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム量が多く、ゲル分も多いため、白化傷の発生する荷重が低い。全光線透過率が低いため拡散光透過率が低い。黄色度も高くなる。
【0053】
[比較例3]
比較例3は樹脂2と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例3のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゲル分が多いため、白化傷の発生する荷重が低く、全光線透過率が低いため拡散光透過率が低い。黄色度も高くなる。
【0054】
[比較例4]
比較例4は樹脂6と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例4のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム粒子径が小さいため、透過光の黄色度が増加する。
【0055】
[比較例5]
比較例5は樹脂7と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例5のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム粒子径が大きいため、光拡散性(ヘーズ)が低い。
【0056】
[比較例6]
比較例6は樹脂3と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例6のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、膨潤指数が低いため、衝撃強度が低い。
【0057】
[比較例7]
比較例7は樹脂4と樹脂9を表2の比率で混合した。得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を上記のように評価しその結果を表2に示す。
比較例7のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、膨潤指数が高いため、光拡散性が低下し、拡散光透過率が低くなる。
【0058】
本発明によれば、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に分散している補強ゴム粒子を最適化することにより、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、当該樹脂組成物を含むシート、及び当該シートより得られる照明用カバー等の成形品を提供することができる。
また、本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、照明用カバー等の光透過性と光拡散性を必要とする用途に好適に用いられる。