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特開2024-26903siRNA及び医薬組成物並びに予防及び/又は治療剤
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  • 特開-siRNA及び医薬組成物並びに予防及び/又は治療剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026903
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】siRNA及び医薬組成物並びに予防及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240221BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12N15/113 P
A61P27/02 ZNA
A61P9/10
A61P27/06
A61K31/713
A61K48/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183608
(22)【出願日】2020-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】503286424
【氏名又は名称】カルナバイオサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313004104
【氏名又は名称】原 英彰
(71)【出願人】
【識別番号】520428753
【氏名又は名称】中村 信介
(74)【代理人】
【識別番号】100113044
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 智子
(72)【発明者】
【氏名】柚木 芳
(72)【発明者】
【氏名】澤 匡明
(72)【発明者】
【氏名】中村 信介
(72)【発明者】
【氏名】原 英彰
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】BAZFの発現を抑制するsiRNAを有効成分とする医薬組成物、具体的にはBAZFの発現を抑制することを通じてVEGFによる血管新生促進作用が関与する疾患、例えば増殖糖尿病網膜症等の糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症等の各種眼内血管新生疾患の予防及び/又は治療剤を提供すること。
【解決手段】配列番号1に示されるヌクレオチド配列を標的遺伝子配列とすることを特徴とするsiRNA、及びそれを有効成分として含有する医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を標的遺伝子配列とすることを特徴とするsiRNA。
【請求項2】
3’末端に1又は数塩基のオーバーハング用の配列を有することを特徴とする、請求項1に記載のsiRNA。
【請求項3】
siRNAを構成する少なくとも一部のリボースの2’位の水酸基が、化学修飾されたものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のsiRNA。
【請求項4】
化学修飾が、水酸基のメトキシ基による置換であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のsiRNA。
【請求項5】
下記のいずれかの配列番号の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のsiRNA。
i)配列番号2(sense鎖)及び3(antisense鎖)
ii)配列番号4(sense鎖)及び5(antisense鎖)
iii)配列番号6(sense鎖)及び7(antisense鎖)
【請求項6】
配列番号4及び5の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする請求項5に記載のsiRNA。
【請求項7】
配列番号6及び7の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする請求項5に記載のsiRNA。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、血管新生に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、眼内血管新生疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項11】
眼内血管新生疾患が糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症から選択される疾患である請求項10に記載の予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BAZF(BCL6 associated zinc finger protein)の発現を抑制する新規なsiRNA(small interfering RNA)及び当該siRNAを有効成分とする眼内血管新生疾患等の予防及び/又は治療剤並びに当該siRNAを有効成分とする医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼内血管新生疾患として、例えば増殖糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症及び加齢黄斑変性症等の後眼部疾患は、網膜における病的な血管新生により惹起される疾患で不可逆的な視野欠損や失明を引き起こすことが知られており、当該血管新生には血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor;VEGF)が関与していることが明らかにされている(非特許文献1)。
特許文献1には、VEGFによる血管新生促進作用に対し、BAZFが制御の鍵となることが記載されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、BAZFの発現を抑制し得る、二本鎖siRNAの具体的な配列が記載されている(特許文献2の配列番号1及び2)。
【0004】
しかしながら、特許文献2記載のsiRNAは、本発明における配列番号1のヌクレオチド配列(1468位~1486位)よりも更に下流の1827位~1845位付近を標的とするものであり、本発明のsiRNAと相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2010/18764号公報
【特許文献2】特許第5665213号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日薬理誌 135、149-152(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、眼内血管新生疾患の予防及び/又は治療に有用な薬剤を見出すべく鋭意検討を行った結果、BAZFの発現を有効に抑制するsiRNA配列を見出し、更にそれを有効成分とする薬剤が、BAZFの発現の抑制を通じて、VEGFによる血管新生促進作用による血管新生、特に眼内血管の新生を抑制することを見出して本発明を完成させたものであって、その目的とするところは、新規なsiRNA、医薬組成物及び眼内血管新生疾患等の予防及び/又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、下記第一の発明から第十一の発明によって、達成される。
【0009】
<第一の発明>
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を標的遺伝子配列とすることを特徴とするsiRNA。
【0010】
配列番号1:ACACCAAAGUGCACUACCA
【0011】
<第二の発明>
3’末端に1又は数塩基のオーバーハング用の配列を有することを特徴とする、第一の発明に記載のsiRNA。
【0012】
<第三の発明>
siRNAを構成する少なくとも一部の糖(リボース)の2’位の水酸基が、化学修飾されたものであることを特徴とする、第一の発明又は第二の発明に記載のsiRNA。
【0013】
<第四の発明>
化学修飾が、水酸基のメトキシ基による置換であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれか1つの発明に記載のsiRNA。
【0014】
<第五の発明>
下記のいずれかの配列番号の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする、第一の発明乃至第四の発明のいずれか1つの発明に記載のsiRNA。
i)配列番号2(sense鎖)及び3(antisense鎖)
ii)配列番号4(sense鎖)及び5(antisense鎖)
iii)配列番号6(sense鎖)及び7(antisense鎖)
【0015】
<第六の発明>
配列番号4及び5の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする第五の発明に記載のsiRNA。
【0016】
<第七の発明>
配列番号6及び7の組み合わせより構成される二本鎖RNAであることを特徴とする第五の発明に記載のsiRNA。
【0017】
<第八の発明>
第一の発明乃至第七の発明のいずれか1つの発明に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【0018】
<第九の発明>
第一の発明乃至第七の発明のいずれか1つの発明に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、血管新生に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【0019】
<第十の発明>
第一の発明乃至第七の発明のいずれか1つの発明に記載のsiRNAを含有することを特徴とする、眼内血管新生疾患の予防及び/又は治療剤。
【0020】
<第十一の発明>
眼内血管新生疾患が糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症から選択される疾患である第十の発明に記載の予防及び/又は治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明のsiRNAは、VEGFによる血管新生促進作用が関与する疾患、例えば増殖糖尿病網膜症等の糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症等を、BAZFの発現を抑制することを通じて、予防及び/又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明のsiRNA(siBAZF#5、siBAZF#5-4及びsiBAZF#5-6)による、BAZF発現の抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
[本発明のsiRNA]
本発明のsiRNAは、配列番号1に示されるヒト・サルに共通なヌクレオチド配列を標的遺伝子配列とする配列を有し、VEGFによる血管新生促進作用を有意に抑制することを特徴とするものである。
【0025】
本願発明者等は、BAZF(BCL6B;Ref Seq(mRNA);NM 181844)の核酸配列中の、種々の部位をターゲットとして、siRNAのデザインを行い、種々検討した結果、配列番号1に示した、下記#5の部位に対するsiRNA(以下、siBAZF#5等と記載する場合がある。)が、極めて効果的であることを見出した。
【0026】
#5;1468位~1486位(配列番号1)
【0027】
《siRNAの配列》
従って、本発明の配列番号1に示されるヌクレオチド配列を標的遺伝子配列とするsiRNA(二本鎖)としては、
A)BAZF(BCL6B)遺伝子の核酸配列中の、1468位~1486位(配列番号1)に相当する19塩基配列からなる配列(センス鎖)と、
B)A)と二本鎖を形成し得る配列(アンチセンス鎖)
からなるものが挙げられる。
【0028】
また、本発明のsiRNAには、上記のA)及び/又はB)に、A)とB)が二本鎖を形成し得る限りにおいて下記の種々の改変、修飾を施したもの等も含まれる。
【0029】
尚、二本鎖を形成し得るとは、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができることを意味し、必ずしも、対応する構成塩基同士が完全に相補対を形成している必要は無い。
【0030】
(核酸配列の改変)
上述のA)及び/又はB)の改変とは、より具体的には、A)及び/又はB)の核酸配列に、1乃至数個の塩基(ヌクレオチド)の、置換、欠失、付加及び/又は挿入等(以下、改変と記載することがある。)が施されていることを意味する。
【0031】
置換、付加及び/又は挿入する塩基は、リボースに結合するもののほか、後述するdTdT等のように、デオキシリボースに結合しているものであっても良い。
【0032】
但し、置換、欠失、付加及び/又は挿入は、siRNA効果を失わないようなものが好ましく、例えば、標的となる配列番号1のRNA配列と、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0033】
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を言い、例えば、J. Sambrookら、Molecular Cloning、 A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(特に11.45節“Conditions for Hybridization of oligonucleotide Probes等)及び Elbashir SM、Lendeckel W、Tuschl T.、Genes Dev. 2001 Jan 15;15(2):188-200. doi: 10.1101/gad.862301に記載されている条件等が挙げられる。
【0034】
上記の付加の一例としては、下記のオーバーハング用の配列等が挙げられる。
【0035】
(オーバーハング用の配列の付加)
本発明のsiRNAは、上記のsiRNAの3’末端に1又は数塩基のオーバーハング用の配列を有することが好ましい。
【0036】
オーバーハング用の配列とは、アニーリングによって、センス鎖及びアンチセンス鎖からなる二本鎖siRNAとなった際に、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖の、主に3’末端側を突出させるための配列を意味する。
【0037】
1又は数塩基とは、具体的には2塩基が一般的であるが、これに限定されるものでは無い。
【0038】
オーバーハング用の配列としては、公知のものが使用できるが、例えばdTdT等が、オーバーハングの効果が確立されているという点で好ましい。
【0039】
(核酸を構成する糖部分の修飾)
本発明のsiRNAは、相補的な塩基配列を有する核酸との安定的なハイブリッドの形成能の向上及び/又はヌクレアーゼ耐性の向上等の点で、siRNAを構成する少なくとも一部の糖(リボース)の2’位の水酸基が、化学修飾されたものであることが好ましい。
【0040】
本発明において、化学修飾とは、糖(リボース)の2’位の水酸基を、下記のような置換基で置換することを意味する。
【0041】
・メトキシ基
・2-メトキシエトキシ基
・3-アミノプロピルオキシ基
・2-(N,N-ジメチルアミノオキシ)エトキシ基
・フルオロ基
【0042】
中でも、例えばTLR(Toll様受容体、Toll like receptor)を介する免疫応答を回避するためには、メトキシ基で置換(OHのOMe化)することが好ましい。
【0043】
また、RNAi活性(siRNA効果)を十分に発揮するためには、対象となるsiRNA分子を構成する糖(リボース)の2’位水酸基のうち、全てではなく一部のみが化学修飾されていることが好ましい。
【0044】
一部のみを化学修飾する方法としては、例えば、ホスホロアミダイト法を用いた核酸自動合成装置を用いてsiRNAを合成する場合、原料となるアミダイトとして、特定の塩基を含むアミダイトの一部又は全部の、2’位水酸基のみをOMe化しておくこと等によって、siRNA分子を構成する全ての糖(リボース)の2’位水酸基が化学修飾されることを防ぐことができる。
【0045】
上記特定の塩基としては、TLRの活性化を効果的に抑制することが知られている点で、UやG等が好ましいものとして挙げられる。
【0046】
化学修飾は、上記A)、B)の少なくとも一方において施されていれば良い。
【0047】
本発明のsiRNAの具体的としては、例えば下記のいずれかの組み合わせより構成される二本鎖RNAが、好ましいものとして挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、これらの二本鎖RNAに、センス鎖とアンチセンス鎖が二本鎖を形成し得る限りにおいて、上述のような塩基自体の改変(1乃至数個の塩基(ヌクレオチド)の、置換、欠失、付加及び/又は挿入)が施されたもの等も含まれる。
【0048】
【表1】
【0049】
尚、上記表1の配列中、細字はRNA、太字のdTはDNA(オーバーハング用の配列)を表す。
【0050】
また、表1中のUm、Gmとは、それぞれの塩基が結合している糖(リボース)2’位の水酸基がメトキシ基で置換されていることを意味するが、この置換は、2’OMe(又は2’-O-Methyl)等と表現される場合がある。
【0051】
《siRNAの製法》
上述の本発明のsiRNA(siBAZF)は、例えば核酸自動合成装置や形質転換細胞等を用いて人工的に合成する方法、
天然に存在するポリヌクレオチドを抽出する方法、
天然からの抽出ポリヌクレオチドの塩基の一部を欠失、置換、付加及び/又は挿入する方法、
目的とする配列と相補的な配列を用い、逆転写酵素やRNAポリメラーゼ等によって目的の配列のものを合成させる方法、
あるいはこれらを組み合わせた方法
等の方法によって製造することができる。
【0052】
尚、上記の核酸自動合成装置を用いる方法としては、具体的には、アミダイトを用いたホスホロアミダイト法等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0053】
また、siRNAを構成する少なくとも一部の糖(リボース)の2’位の水酸基が化学修飾された本発明のsiRNAは、材料であるアミダイト中の糖(リボース)、又は合成後のヌクレオチドを構成する糖(リボース)の、一部又は全部の2’位の水酸基を、公知の方法に従って、上述の置換基で置換(保護)し、必要に応じて適宜、その一部の置換基を脱保護すること等によって行うことができる。
【0054】
《siRNAの用途》
本発明のsiRNAは、後述する本発明の医薬組成物や予防及び/又は治療剤として用いることができる他、実験室内における、実験・研究試薬(BAZF発現抑制剤又は血管新生阻害剤)としても利用価値の高いものである。
【0055】
[本発明の医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、上記の本発明のsiRNAを含有することを特徴とするものである。
具体的には、以下の本発明の予防及び/又は治療剤の項で詳述したもの等が、医薬組成物の一例として挙げられる。
【0056】
[本発明の疾患の予防及び/又は治療剤]
本発明の疾患の予防及び/又は治療剤は、上記本発明のsiRNAを含むことを特徴とするものであって、VEGFによる血管新生促進作用が関与する疾患、例えば増殖糖尿病網膜症等の糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症等を、BAZFの発現を抑制することを通じて、予防及び/又は治療することができるものである。
【0057】
(添加剤)
本発明の医薬組成物或いは本発明の予防及び/又は治療剤(以下、医薬組成物等と記載する場合がある。)は、有効成分である本発明のsiRNA単独で、或いはsiRNAを医薬上許容される添加剤とともに使用して、各々製剤化することができる。
【0058】
医薬上許容される添加剤としては、例えば、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
ショ糖、デンプン等の有機系の賦形剤
セルロース、メチルセルロース等の結合剤
デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤
ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑沢剤(滑剤)
メントール等の芳香剤
安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤
クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤
メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤
界面活性剤等の分散剤
水、生理食塩水等の希釈剤
【0060】
(核酸導入用試薬)
本発明のsiRNAの標的細胞内への導入を促進するために、本発明のsiRNAを含む医薬組成物等、或いは実験試薬等には、更に公知の核酸導入用試薬を含有させることができる。
【0061】
具体的な核酸導入用試薬としては、例えば下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
アテロコラーゲン、リポソーム、ナノパーティクル、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine:登録商標)、DOGS(トランスフェクタム:ジオクトアデシルアミドグリシルスペルミン)、DOPE(L-α-ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)、DOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン)、DDAB(ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド)、DHDEAB(N,N-ジ-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウムブロミド)、HDEAB(N-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウムブロミド)、ポリブレン、或いはポリエチレンイミン(PEI)等の陽イオン性脂質等を用いることが出来る。
【0063】
また、本発明の医薬組成物等は、以下の血管新生制御に係る分子標的薬等との合剤あるいはそれぞれの特性を活かした組み合わせで使用することもできる。
【0064】
VEGFに対するヒト型モノクローナル抗体医薬、VEGFに対するRNAアプタマー医薬、Notch1、Notch1遺伝子、CBF-1、CBF-1遺伝子、HEY1、HEY1遺伝子、HEY2、HEY2遺伝子、HES1、HES1遺伝子等に対する各種核酸医薬
【0065】
(剤形)
本発明の医薬組成物等の剤形は、例えば硝子体内注射剤等の注射剤、点眼薬、吸入製剤等が挙げられる。
【0066】
(有効成分の含有量)
本発明の医薬組成物等中の、有効成分siRNAの含有量は、剤形によって様々であり、一概に限定できず、各種剤形化が可能な範囲で、後述する投与量との関係で適宜選択すれば良い。
【0067】
(製造方法)
本発明の医薬組成物等は、上記の成分を用いて、周知の方法で製剤化することができる。
【0068】
尚、リポソームへのsiRNA封入法としては、例えば下記のような、公知の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
リピドフィルム法(ボルテックス法)、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、凍結融解法、リモートローディング法等
【0070】
(投与経路)
本発明の医薬組成物等の投与経路としては、全身投与と局所投与があり、具体的には、静注等の静脈投与、筋注等の筋肉内投与、経鼻投与、皮内投与、皮下投与、粘膜投与、吸入、眼内投与等が挙げられ、治療目的の疾患、症状等に応じて、適宜選択することができる。例えば、加齢黄斑変性症のように病巣部が特定されている疾患の場合には、硝子体内投与もしくは点眼等の局所投与が好ましい。
【0071】
(投与方法)
投与方法は、特に制限されず、適宜、従来公知のデリバリーシステムを利用できる。
【0072】
例えば、アテロコラーゲンを用いた局所投与法、全身投与法が好ましい。
【0073】
前記アテロコラーゲンは、例えば、局所止血剤として既に臨床応用されており、また、前記アテロコラーゲンを用いたsiRNAの局所投与法は、VEGFを分子標的とした動物実験でその有意性が示されている(Takei Yら、Cancer Res 64(10):3365-3370、2004)。
【0074】
また、その他のデリバリーシステムとして、生体内での分解を防ぎ、細胞内透過性を高めるための化学修飾(Rossi JJ.、Nature 432(7014):155-156、2004; Soutschek Jら、Nature 432(7014):173-178、2004)やカチオニックリポソーム(Yano Jら、Clin Cancer Res 10(22):7721-7726、2004)を用いたデリバリーシステムを利用しても良い。
【0075】
さらに、必要に応じて、本発明の二本鎖siRNAを発現するsiRNA発現ベクターを構築し、遺伝子治療技術を利用したデリバリーシステムを利用することもできる。
【0076】
(投与量)
本発明の医薬組成物等の投与量は、投与経路、症状、年齢、性別、体重、医薬組成物等の形態等によって異なるため、一概には規定できないが、例えば、医薬組成物等中の有効成分(siRNA)の量が、遺伝子として0.0001~100mg、好ましくは、0.001~10mg等を、数日乃至数ヶ月に1回程度等投与するのが好ましい。
【実施例0077】
本発明の内容を以下の試験例及び実施例等でさらに詳細に説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。
【0078】
試験例1
ヒト網膜毛細血管内皮細胞におけるBAZFの発現抑制効果確認試験
【0079】
《材料と方法》
ヒト網膜毛細血管内皮細胞(Human retinal microvascular endothelial cells; HRMEC, Cell systems製)を3.0×10cells/mlとなるように播種し、37℃、5%CO条件下で24時間培養した。
【0080】
細胞培養には、分裂促進因子(mitogen)の一種であるCulture boost(登録商標)を含むCS-C Complete Medium(Cell systems製)を使用した。24時間培養後、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific)を用いてControl siRNA(BAZFをターゲットとしないsiRNA,MISSION(登録商標)siRNA Universal Negative Control(SIC001)Sigma-Aldrich製,以下siContと記載する。)、表1に記載のsiBAZF#5、siBAZF#5-4及びsiBAZF#5-6それぞれを終濃度25nMとなるように添加し24時間培養した。
更に、10%FBS含有培地(Culture boost(登録商標)を含まない)へ培地交換し、6時間の培養を行った。
PBSに溶解したRecombinant human VEGF(10ng/ml、R&D systems製)を添加し、更に1時間培養した。
【0081】
尚、比較対象のためのVEGFを添加しない群に関しては、PBSを添加した。
【0082】
NucleoSpin(登録商標)RNA kit(Takara製)を用いてRNAを抽出し、PrimeScript (登録商標)RT reagent kit (Takara製)を用いてcDNAを作製した。
【0083】
RT-PCRは、TB Green Premix Ex Taq (登録商標)II(Takara製)を用いて、95℃で30秒を1サイクル、95℃で5秒、60℃で30秒を40サイクルの反応により行った。
【0084】
尚、使用したプライマーの配列は、以下の通りである。
BAZF forward:CGGGAAGTGAATTTTTCAGC(配列番号8)
BAZF reverse:TGGTAAGGCTTTTCCCCTGT(配列番号9)
【0085】
GAPDH forward:CCTGCACCACCAACTGCTTA(配列番号10)
GAPDH reverse:GGCCATCCACAGTCTTCTGAG(配列番号11
(Eurofins Genomics社(東京)製)
【0086】
使用したsiRNAは、上述の表1に記載のsiBAZF#5、siBAZF#5-4、siBAZF#5-6である。
【0087】
《結果》
結果を図1に示す。
図1に示した通り、siBAZF#5、siBAZF#5-4及びsiBAZF#5-6は、BAZFの発現を有意に抑制した。
【0088】
従って、BAZFのヌクレオチド配列の一部である配列番号1(#5)を標的とするsiBAZF(siBAZF#5、siBAZF#5-4及びsiBAZF#5-6)、なかでも特にsiBAZF#5-4は、VEGFによる血管新生促進作用が関与する疾患、例えば増殖糖尿病網膜症等の糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症等を、BAZFの発現を抑制することを通じて、予防及び/又は治療することができる。
【0089】
実施例1
siBAZF#5
二本鎖のsiRNA(siBAZF#5)を、以下の通り作成した。
【0090】
siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖のオリゴヌクレオチドを、それぞれ対応するRNA合成用アミダイト試薬を用いたホスホロアミダイト法によって核酸自動合成装置を用いて合成し、次いで、常法に従って塩基部脱保護及び2’位水酸基の脱保護を行い、一本鎖の状態でカラム精製し、脱塩、次いでセンス鎖とアンチセンス鎖のアニーリングを行い、凍結乾燥し、表1記載のsiRNAを作製した。
【0091】
実施例2
siBAZF#5-4
二本鎖のsiRNA(siBAZF#5-4)を、以下の通り作成した。
【0092】
siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖のオリゴヌクレオチドを、対応するRNA合成用アミダイト試薬および2’-O-Methyl修飾型アミダイト試薬を用いたホスホロアミダイト法によって核酸自動合成装置を用いて合成し、次いで、常法に従って塩基部脱保護及びリボース2’位水酸基の置換基の脱保護を行い、一本鎖の状態でカラム精製し、脱塩、次いでセンス鎖とアンチセンス鎖のアニーリングを行い、凍結乾燥し、表1記載のsiRNAを作製した。
【0093】
実施例3
siBAZF#5-6
二本鎖のsiRNA(siBAZF#5-6)を、実施例2の方法と同様にして表1記載のsiRNAを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のBAZFの発現を抑制するsiRNAを有効成分とする医薬は、VEGFによる血管新生促進作用が関与する疾患、例えば増殖糖尿病網膜症等の糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜分枝静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、血管新生緑内障、血管新生黄斑症、糖尿病黄斑浮腫及び加齢黄斑変性症等を、BAZFの発現を抑制することを通じて、予防及び/又は治療することができる。
図1
【配列表】
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