(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026911
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】標的抗原の測定方法並びにそれに用いる不溶性粒子及び標的抗原測定用キット
(51)【国際特許分類】
C07K 17/00 20060101AFI20240221BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240221BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240221BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C07K17/00
G01N33/531 A ZNA
G01N33/543 581G
C07K16/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003347
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】万場 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 公隆
(72)【発明者】
【氏名】石川 晴登
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045BA62
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA74
4H045FA80
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗原抗体反応が生じたときの凝集能に優れた不溶性粒子を提供する。
【解決手段】ラテックス粒子等の粒状担体と、前記粒状担体に担持された、特定のアミノ酸配列を有するFc領域を含むIgG等の抗体とを含有する不溶性粒子であって、前記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである不溶性粒子、前記不溶性粒子を含む又は前記不溶性粒子を調製するための抗体及び粒状担体を含む標的抗原測定用キット、並びに前記不溶性粒子を用いる標的抗原の測定方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状担体と、前記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体と、を含有する不溶性粒子であって、前記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである、不溶性粒子。
【請求項2】
前記粒状担体はラテックス粒子である、請求項1に記載の不溶性粒子。
【請求項3】
前記抗体はIgGである、請求項1又は2に記載の不溶性粒子。
【請求項4】
前記IgGのFc領域は、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、C末端アミノ酸がリジンである、請求項3に記載の不溶性粒子。
【請求項5】
前記IgGのFc領域は、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列からなる、請求項3に記載の不溶性粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の不溶性粒子を含む、又は請求項1~5のいずれか一項に記載の不溶性粒子を調製するための抗体及び粒状担体を含む、標的抗原測定用キット。
【請求項7】
被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するための、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するための、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の不溶性粒子を用いる、標的抗原の測定方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の不溶性粒子と標的抗原を含有し得る被験試料を接触させる工程、並びに
前記抗体及び前記標的抗原の抗原抗体反応による前記不溶性粒子の凝集反応を測定する工程、
を含む、標的抗原の測定方法。
【請求項10】
被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するための、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するための、請求項8又は9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的抗原の測定方法並びにそれに用いる不溶性粒子及び標的抗原測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫反応を利用した標的抗原の測定方法として、ラテックスなどの粒状担体を利用する方法がある。標的抗原に特異的な抗体が結合された粒状担体は、標的抗原が存在すると、抗原抗体反応を生じる。そして、その特異性及び親和力により、標的抗原を橋渡しにして互いに結合し、凝集する。生じた凝集塊の有無及び凝集の程度により、標的抗原の有無及び存在量が測定される。
【0003】
特許文献1では、特定のアミノ酸配列を含み、親水化処理された樹脂表面の固相に対して特異的な吸着機能を発現させるペプチドが開示されており、かかるペプチドを介して固相に効率よく抗体を結合させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、本来存在しないアミノ酸配列が抗体に付加されているため、非特異的な反応及び抗体の発現量の低下といった、好ましくない特性が抗体に付与される可能性がある。本発明の課題の一つは、かかる問題点が生じない、標的抗原の測定方法を提供することにあり、また、かかる測定方法に利用可能な不溶性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通常、抗体の重鎖のC末端リジンは、カルボキシペプチダーゼによる翻訳後修飾により除去されるため、一般的に使用される抗体の重鎖はC末端リジンが除去されている。本発明者らは、抗体の重鎖のC末端にリジンが存在することで、抗体の不溶性粒子への結合量が増加し、抗原抗体反応が生じたときの不溶性粒子の凝集能に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体と、を含有する不溶性粒子であり、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである。
【0008】
上記不溶性粒子はラテックス粒子とすることができる。
【0009】
上記抗体はIgGとすることができる。また、IgGのFc領域は、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、C末端アミノ酸がリジンであるポリペプチドであってよく、IgGのFc領域は、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、上記不溶性粒子を含む、又は上記不溶性粒子を調製するための抗体及び粒状担体を含む、標的抗原測定用キットである。
【0011】
上記キットは、被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するための、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するためのキットとすることができる。
【0012】
本発明の他の一側面は、上記不溶性粒子を用いる標的抗原の測定方法である。
【0013】
上記測定方法は、上記不溶性粒子と標的抗原を含有し得る被験試料を接触させる工程、並びに上記抗体及び上記標的抗原の抗原抗体反応による上記不溶性粒子の凝集反応を測定する工程、を含むことができる。
【0014】
上記測定方法は、被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するための、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するための方法とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、抗原抗体反応が生じたときの凝集能に優れた不溶性粒子を提供することができる。凝集能に優れた不溶性粒子を使用することで、標的抗原の高感度な検出が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】抗IgE抗体感作ラテックスの凝集反応の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
一実施形態に係る不溶性粒子は、粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体と、を含有しており、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである。重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体は、粒状担体への結合能が高い。また、重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体を含有する不溶性粒子は、抗原抗体反応が生じたときの凝集能に優れる。
【0019】
標的抗原は、例えば、CRP(C反応性蛋白質)、前立腺特異抗原、フェリチン、β-2マイクログロブリン、ミオグロビン、ヘモグロビン、アルブミン、クレアチニン等のタンパク質マーカー、IgG、IgE、IgA、IgM等の免疫グロブリン、各種腫瘍マーカー、LDL、HDL、TG等のリポ蛋白、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、ライノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、HAV、HBs、HCV、HIV、EBV等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、レジオネラ属菌、炭疽菌、MRSA等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト絨毛製ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミンB類等のビタミン類、プロスタグランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、農薬、環境ホルモン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
粒状担体は、ラテックス粒子、セラミック粒子、アルミナ粒子、シリカ-アルミナ粒子、カーボンブラック粒子等の粒子が挙げられる。これらの粒子の中ではラテックス粒子が好ましい。ラテックスの材質は、例えば、ポリスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、ポリスチレンであることが好ましい。粒状担体の平均粒径は0.1~5μmとすることができる。なお、粒状担体の粒径は、動的光散乱法によって測定することができる。本明細書において「平均粒径」とは、動的光散乱法によって得られた体積基準の粒径の分布曲線において、小粒径からの積算値が全体の50%に達した時の粒径(メディアン径)を意味する。
【0021】
抗体は、標的抗原に特異的に結合し得るものであれば特に制限されず、例えば、IgGとすることができる。IgGは2本の重鎖(H鎖)及び2本の軽鎖(L鎖)から構成される。重鎖はN末端から順に、可変領域(VH)、第一定常領域(CH1)、第二定常領域(CH2)及び第三定常領域(CH3)から構成されている。軽鎖はN末端から順に、可変領域(VL)及び定常領域(CL)から構成されている。CH2及びCH3から構成される部分がFc領域である。1本の重鎖と1本の軽鎖は、CH1に存在するシステイン残基及びCLに存在するシステイン残基のジスルフィド結合により結合している。また、重鎖同士は、CH1とCH2の間に位置するヒンジ領域に存在するシステイン残基同士のジスルフィド結合により結合している。抗体は、重鎖が存在するIgGの断片であってもよく、1本の重鎖及び1本の軽鎖から構成されるrIgG(還元型IgG)であってもよく、2本の重鎖から構成される断片であってもよく、1本の重鎖から構成される断片であってよい。2本の重鎖が存在する抗体において、少なくとも一方の重鎖のC末端がリジンであればよく、両方の重鎖のC末端がリジンであってもよい。
【0022】
抗体がIgGである場合、そのFc領域は、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、C末端アミノ酸がリジンであるポリペプチドであることが好ましく、配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列からなるポリペプチドであることがより好ましい。配列番号1~13のいずれか一つのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、C末端アミノ酸がリジンであるポリペプチドは、エフェクター機能を有することが好ましい。Fc領域の有するエフェクター機能が維持されたポリペプチドは、不溶性粒子への結合効率も高くなる。
【0023】
ここで、配列番号1は、Protein Accession No. P01857 (human Ig gamma-1 C region)であり、配列番号2は、Protein Accession No. P01859 (human Ig gamma-2 C region)であり、配列番号3は、Protein Accession No. P01860 (human Ig gamma-3 C region)であり、配列番号4は、Protein Accession No. P01861 (human Ig gamma-4 C region)であり、配列番号5は、Protein Accession No. P01868 (mouse Ig gamma-1 C region)であり、配列番号6は、Protein Accession No. P01863 (mouse Ig gamma-2a C region)であり、配列番号7は、Protein Accession No. P01867 (mouse Ig gamma-2b C region)であり、配列番号8は、Protein Accession No. P03987 (mouse Ig gamma-3 C region)であり、配列番号9は、Protein Accession No. P20759 (rat Ig gamma-1 C region)であり、配列番号10は、Protein Accession No. P20760 (rat Ig gamma-2a C region)であり、配列番号11は、Protein Accession No. P20761 (rat Ig gamma-2b C region)であり、配列番号12は、Protein Accession No. P20762 (rat Ig gamma-2c C region)であり、配列番号13は、Protein Accession No. P01870 (rabbit Ig gamma C region)である。
【0024】
重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体は、遺伝子組み換え植物により作製することができる。遺伝子組み換え植物により作製した抗体は、重鎖のC末端リジンが欠損し難いという特性がある。かかる抗体は、植物一過性発現系を用いることで作製することができ、例えば、特許第5015012号公報に記載の方法を利用することができる。かかる方法で作製した抗体はカルボキシペプチダーゼによる翻訳後修飾を受けにくいため、重鎖のC末端リジンが維持された抗体を得られやすい。また、重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体は、カルボキシペプチダーゼを欠損させた哺乳動物細胞を発現宿主に用いた遺伝子組換え体としても得る事が可能である。その場合の哺乳動物細胞としては、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞やHEK293(Human Embryonic Kidney cells 293)細胞等が挙げられるが、この限りではない。更に遺伝子組換え体として得る手法に関しても、自立複製能を欠いたプラスミドベクターやウイルスベクターを用いたtransient発現系や、核移行性シグナルを付与し且つ自立複製能を有したepisomal vectorを用いたsemi-stable発現系、また目的遺伝子を発現宿主のゲノムへ挿入したstable発現系等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0025】
粒状担体と重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体の結合は、一般的な手法、例えば、物理吸着法及び化学結合法などを用いることができる。
【0026】
一実施形態の標的抗原の測定方法は、粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体とを含有し、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである不溶性粒子を用いる。かかる測定方法は、被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するために、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するために行うことができる。
【0027】
一実施形態において、上記測定方法は、粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体とを含有し、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである不溶性粒子と標的抗原を含有し得る被験試料を接触させる工程、並びに上記抗体及び上記標的抗原の抗原抗体反応による上記不溶性粒子の凝集反応を測定する工程、を含む。上記不溶性粒子は、調製済みのものを用いてもよく、測定に際して、粒状担体と重鎖のC末端アミノ酸がリジンである抗体とを結合させることにより調製してもよい。
【0028】
粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体とを含有し、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである不溶性粒子を含む懸濁液と被検試料とを混合することで、上記不溶性粒子と標的抗原を含有し得る上記被験試料を接触させることができる。両者を接触させると、上記被検試料中に含まれる標的抗原と上記不溶性粒子に含まれる抗体との間の相互作用によって上記不溶性粒子が凝集し、懸濁液の吸光度が変化する。この吸光度の変化量(エンドポイント法)又は変化率(レート法)を測定する。測定は、比濁法又は比色法が好適に用いられる。例えば、セル外部より可視光から近赤外域の光、通常300nm~1000nm、好ましくは500nm~900nmの光を照射し、吸光度変化又は散乱光の強度変化を検出することにより、上記不溶性粒子の凝集反応が測定される。
【0029】
凝集反応を行う時間は、1分~30分とすることができ、好ましくは1分~10分であるが、これらに限られない。凝集反応を行う温度は、35℃~40℃とすることができ、36~38℃とすることもできるが、これらに限られない。
【0030】
測定すべき標的抗原を種々の既知濃度で含む複数の標準試料を準備し、それらについて上記方法により吸光度の変化量又は変化率を測定する。標準試料中の測定すべき抗原の濃度を横軸、測定された吸光度の変化量又は変化率を縦軸にプロットして検量線を描く。未知の被検試料についても同じ方法により吸光度の変化量又は変化率を測定し、測定結果を上記検量線に当てはめることにより、被検試料中の標的抗原を定量的に評価することができる。また、あらかじめ吸光度の変化量又は変化率の閾値を設定しておき、閾値を超えた場合に被験試料中に標的抗原が存在すると定性的に評価することができる。
【0031】
被験試料は、標的抗原を含有し得るものであれば特に限定されないが、血液、血清、血漿、尿、便、唾液、組織液、髄液、ぬぐい液等の体液等又はその希釈物が挙げられ、血液、血清、血漿、尿、便、髄液又はこれらの希釈物が好ましい。
【0032】
一実施形態に係る標的抗原測定用キットは、粒状担体と、上記粒状担体に担持された、標的抗原に対する抗体とを含有し、上記抗体の重鎖のC末端アミノ酸がリジンである不溶性粒子を含む。標的抗原測定用キットは、被験試料中の標的抗原の有無を定性的に評価するため、又は被検試料中の標的抗原の濃度を定量的に評価するために用いることができ、より具体的には、上記標的抗原の測定方法に用いることができる。
【0033】
一実施形態において、標的抗原測定用キットは、上記不溶性粒子を調製するための抗体及び粒状担体を含む。本実施形態にかかる標的抗原測定用キットは、測定に際して抗体及び粒状担体を結合させて上記不溶性粒子を調製する。
【0034】
標的抗原測定用キットは、さらに、陽性対照又は検量線作成に用いるための標的抗原を含んでいてもよく、被験試料を希釈する緩衝液、不溶性粒子と被検試料とを混合するための緩衝液、抗体と粒状担体とを結合させるための緩衝液などを含んでいてもよい。
【実施例0035】
1.抗IgE抗体の作製
重鎖の定常領域が配列番号5からなる抗体を以下の方法で作製した。
【0036】
1.1.重鎖のC末端リジンが欠損した抗IgE抗体(Anti-IgE Ab-K0)の作製
抗IgE抗体産生ハイブリドーマをマウスの腹腔内に投与し数日~数十日後に腹水を採取した。腹水をProtein Aカラムクロマトグラフィーにかけることで不純物を除去した。
【0037】
1.2.重鎖のC末端リジンが欠損していない抗IgE抗体(Anti-IgE Ab-K67)の作製
特許第5015012号公報に記載の植物一過性発現系で調製した。抗IgE抗体の軽鎖はタバコモザイクウイルス(TMV)ベクター(Icon Genetics社製)にクローニングし、各重鎖(CH3欠損体又はCH2欠損体を含む)はジャガイモウイルスX(PVX)ベクター(Icon Genetics社製)にクローニングした。これらのベクターをそれぞれ別々のアグロバクテリウムに導入して形質転換して培養した後、培養液の混合液をニコチアナベンサミアーナの葉にインフィルトレーションし、1週間ほどで収穫した。収穫した葉(感染葉)を凍結した。
【0038】
凍結した感染葉200gを量りとり、カッターミキサーで粉砕した。粉砕物に抽出溶液(100mM Tris、250mM NaCl、40mM アスコルビン酸ナトリウム)500mLを添加し、感染葉を繰り返し粉砕した。遠心分離して上清を回収した。回収した液を硫安沈殿により濃縮した後、0.22μmフィルターで濾過した。濾過液をProtein Aカラムクロマトグラフィーにかけることで純物を除去した。
【0039】
2.抗IgE抗体重鎖C末端リジンの分析
精製した抗IgE抗体を還元アルキル化及び酵素消化(Trpsin/Lys-C)し、LC-MSでタンパク質のアミノ酸配列を解析した。マウス腹水法で調製した抗IgE抗体(Anti-IgE Ab-K0)の重鎖C末端のリジンは完全に欠損していた。一方で、植物一過性発現系で調製した抗IgE抗体(Anti-IgE Ab-K67)の重鎖C末端リジンは全体の33%しか欠損が認められなかった。
【0040】
3.抗IgE抗体のラテックス凝集試験
以下の手順に従い、得られた抗体のラテックスへの結合効率を評価した。
【0041】
(1)試薬の調製
抗IgE抗体を用いて、以下の通りに免疫凝集法による測定試薬を調製した。
i)抗体をポリスチレンラテックス浮遊液1mLに対し0.1mg担持させてなる感作粒子を、0.1%となるように緩衝液(グリシン、pH7.3)中で懸濁し、ラテックス浮遊液を調製した。
ii)緩衝液(グリシン、pH8.3)を準備した。
【0042】
(2)自動分析装置による測定
自動分析装置は日立社製7180型自動分析装置によりエンドポイント法で自動測定を行った。上記の通りに調製した試薬を用いて、各濃度の抗原(IgE)の測定を行った。IgE溶液3.5μLに対し、上記(1)で調製した緩衝液140μLを添加し、この混合液を37℃で撹拌混合した。5分間放置後、ラテックス浮遊液70μLを添加し、更に37℃で撹拌混合した。約5分間の凝集反応を吸光度変化量として測定した。
【0043】
調製条件(抗体とラテックスの量)を変化させたときの結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示した結果から明らかなように、抗体重鎖のC末端リジンが欠損していない抗体(Anti-IgE Ab-K67)は、C末端リジンが欠損している抗体(Anti-IgE Ab-K0)に比べ、効率良くラテックスに結合することを確認した。
【0046】
同一条件で調製したAnti-IgE Ab-K0及びAnti-IgE Ab-K67の感作ラテックス(それぞれ表1の調製条件1と調製条件2)で抗原との反応による凝集度を評価した結果を
図1に示す。
図1に示した結果から明らかなように、抗体重鎖のC末端リジンが欠損していない抗体(Anti-IgE Ab-K67)を担持するラテックスは、C末端リジンが欠損している抗体(Anti-IgE Ab-K0)を担持するラテックスに比べ、凝集度が大きく、高感度な測定が可能であることを確認した。