(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026913
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ウイルスを除去する空気清浄機
(51)【国際特許分類】
A61L 9/16 20060101AFI20240221BHJP
A01N 41/04 20060101ALI20240221BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20240221BHJP
A01N 33/16 20060101ALI20240221BHJP
A01N 33/24 20060101ALI20240221BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20240221BHJP
B03C 3/28 20060101ALI20240221BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20240221BHJP
F24F 8/192 20210101ALI20240221BHJP
F24F 8/95 20210101ALI20240221BHJP
【FI】
A61L9/16 F
A01N41/04 Z
A01N43/16 A
A01N33/16
A01N33/24 101
A01N31/02
B03C3/28
F24F8/108 120
F24F8/192
F24F8/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021019372
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】506160237
【氏名又は名称】株式会社セフティランド
(72)【発明者】
【氏名】津田 紳二
【テーマコード(参考)】
4C180
4D054
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA16
4C180CC01
4C180CC04
4C180DD09
4C180EB01X
4C180FF07
4C180HH05
4D054AA11
4D054BC16
4H011AA04
4H011BB03
4H011BB04
4H011BB07
4H011BB08
4H011DA10
4H011DC10
4H011DC12
(57)【要約】
【課題】フィルターの繊維の隙間を、HEPAフィルターや高性能フィルターなどと同等に大きくして、圧力損失を低くしたものであっても、静電気力などを用いることにより、ウイルスを捕捉できる機能を持つ空気清浄機を提供する。
【解決手段】微細なウイルスを目の細かい抗ウイルス性フィルターによって捕捉することを特徴とする空気清浄機であって、フィルターは、ウイルスの寸法より大きな網の目のHEPAフィルターまたはHEPAフィルターと同等の大きさの網の目を有する高性能フィルターであり、ウイルスを含む空気にフィルターを通過させる流れを生じさせるとともに、空気の流れによってフィルターにウイルスを吸着する静電気を生じさせる送風装置をさらに備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細なウイルスをフィルターによって捕捉する空気清浄機であって、前記フィルターは、前記ウイルスの寸法より大きな網の目のHEPAフィルターまたは前記HEPAフィルターと同等の大きさの網の目を有する高性能フィルターであり、前記ウイルスを含む空気に前記フィルターを通過させる流れを生じさせるとともに、前記空気の流れによって前記フィルターに前記ウイルスを吸着する静電気を生じさせる送風装置をさらに備える空気清浄機。
【請求項2】
前記フィルターには、陰イオン性界面活性剤が付着されている請求項1に記載の空気清浄機。
【請求項3】
前記フィルターよりも網の目が粗く、かつ前記フィルターよりも先に前記ウイルスを含む空気を通過させるプレフィルターを備えた請求項1または請求項2に記載の空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家庭用であって、ウイルスを含む空気からウイルスを除去する空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気清浄機の中でウイルスを除去するものはその原理として、HEPAフィルター方式、帯電フィルター方式、電気集塵方式などがある。
【0003】
HEPAフィルターは0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を持つものとして規定されているが、ウイルスは0.1μmの大きさなので、捕集できるかどうか分からない。HEPAフィルターのろ紙は主に直径1~10μm以下のガラス繊維でできており、繊維の充填率は10%程度であり、空隙は数10μmの大きさがあるので、ウイルスをネットで捉えられるものではない。
【0004】
帯電加工フィルターは、微細なウイルスなどを捕捉する帯電性ろ材部分には、抗ウイルス機能が付与されてなく、また帯電体に抗ウイルス機能を付与することは、非常に困難であり、帯電性を保持し続けることが難しい。
【0005】
電気集塵方式は、例えばウイルスをプラス電荷に帯電させ、マイナス極で電気的にウイルスを電着させるものであるが、マイナス極にウイルスが電着された瞬間にウイウイルスはマイナスになってしまい、接着性がなくなるので、この後の処理方法が問題となるが、この部分が曖昧な特許文献が多い。
【0006】
従来、空気清浄機の中でウイルスを死滅又は不活性化させるものはその原理として、銀、銅、亜鉛、チタンなどの金属、光触媒、紫外線の照射による方法、ニトリル系化合物、ヨード化合物、カテキン類、第4級アンモニウム塩類などに触れさせる方法、オゾンによる方法などがある。
【0007】
銀、銅、亜鉛、チタンなどの金属に触れさせる方法は、即効性に問題があることに加え、金属表面にウイルスを滞留させることが難しい。または金属を粉状にして、フィルターに保持させる方法もあるが、金属粉をフィルターに接着させることは接着剤によるフィルターの目詰まりを起こす問題がある。また金属粉の大きさと分布はウイルスよりはるかに大きいので、ウイルスを捕捉することはできない。
【0008】
光触媒による方法も即効性に問題があることに加え、集塵部がプレートで構成される為、表面にウイルスを滞留させることが難しい。また紫外線照射も必要になるが、紫外線照射による方法は、ウイルスは極めて小さいので、フィルター繊維の奥深く入ってしまうし、フィルター表面には粉塵と埃の層ができるので、紫外線をウイルスに直射させることはできなくなる。
【0009】
ニトリル系化合物、ヨード化合物、カテキン類などに触れさせる方法は、抗ウイルス効果には疑問がある。厚生労働省が2020年6月に新型コロナウイルスの消毒・除菌効果について発表した情報サイトの中では、アルコールや次亜塩素酸水や界面活性剤は新型コロナウイルスを無毒化できると記載されているが、ニトリル系化合物、ヨード化合物、カテキン類などについては記載されていない。
【0010】
第4級アンモニウム塩類については花王株式会社の「殺菌と界面活性剤の話」の中で、「第4級アンモニウム塩はウイルスのほとんどには殺菌効果を示しません」と、記載されている。
【0011】
オゾンによる方法は、オゾンを空気清浄機のフィルター部分に滞留させることができないので、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献】特開2008-272424
【特許文献】特開2012-211428
【特許文献】特開2012-239871
【特許文献】特開2013-121556
【特許文献】特開2013-210162
【特許文献】特開2014-104376
【特許文献】特開2019-135050
【特許文献】特開2020-096794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
微細なウイルスを捕捉する方法として、HEPAフィルター方式で捕捉する方法が電気式に比べ、確実性が高いと思われるが、ウイルスの大きさが0.1μmと極めて小さいので、繊維の隙間1~数10μmを通過してしまう。繊維の隙間をさらに小さくすると、圧力損失が高くなるので、空気清浄機の機能を果たさなくなってしまう。
【0014】
フィルターの繊維の隙間はHEPAフィルターや高性能フィルターなどと同等に大きくして、圧力損失を低くしたものであっても、静電気力などを用いることにより、ウイルスを捕捉できる機能を持つ空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため本発明の請求項1に係る空気清浄機は、微細なウイルスをフィルターによって捕捉する空気清浄機であって、フィルターは、ウイルスの寸法より大きな網の目のHEPAフィルターまたはHEPAフィルターと同等の大きさの網の目を有する高性能フィルターであり、ウイルスを含む空気にフィルターを通過させる流れを生じさせるとともに、空気の流れによってフィルターにウイルスを吸着する静電気を生じさせる送風装置をさらに備える。
【0016】
請求項2に係る空気清浄機は、フィルターには、陰イオン性界面活性剤が付着されている。
【0017】
請求項3に係る空気清浄機は、前記フィルターよりも網の目が粗く、かつ前記フィルターよりも先にウイルスを含む空気を通過させるプレフィルターを備えた。
【0018】
具体的には、例えば、以下の課題を解決するための手段が考えられる。風量、静圧共大きく取れるシロッコファンモーターを上部に配置し、下部側面に空気を浄化する目の細かいHEPAフィルター或いは高性能フィルターと、その外側に目の粗いプレフィルターを配置する。室内の汚れた空気は目の粗いプレフィルターで粉塵や埃や花粉を遮断し、次に目の細かいHEPAフィルター或いは高性能フィルターでPM2.5や細菌、ウイルスを捕捉する。
ファンモーターの種類としては、シロッコファンモーターが風量、静圧とも大きく取れるので最良ではあるが、風量が大きいプロペラファンや、コンパクトなクロスフローファンでも良い。フィルター繊維は、界面活性剤を20倍から100倍程度に薄めた溶液に含侵させた後、乾燥させて、界面活性剤の成分が繊維層に多く存在する状態にする。
【0019】
フィルターの繊維は、ポリプロピレン、PET、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、アクリルなどの化学繊維やガラス繊維、或いは綿、セルロースパルプなどの繊維を単独或いは複数組み合わせて製造される不織布を用いることができる。
【0020】
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価を取りまとめたことをうけ、厚生労働省が新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について公開した情報一覧の中で、物に付着したウイルスに対しては界面活性剤が有効であり、9種類の界面活性剤が検証済であることが確認されている。
【0021】
空気清浄機で使用する場合は、ウイルスの捕捉が問題となるので、ウイルスの捕捉にも効果があり、かつウイルスを無毒化できる界面活性剤を、厚生労働省が公表した、9種類の界面活性剤から選定して使用するものとする。
【0022】
9種類の界面活性剤の中で、特に陰イオン性の界面活性剤は静電気力によって、ウイルスを捕捉できるので、特に有効である。0.1μmほどの極めて小さいウイルスの捕捉は静電気のクーロン力を使うのが良い。ウイルスは弱陽イオンであり、陰イオン性の界面活性剤との間に引力が生じ、ウイルスを捕捉することができるので、陰イオン性の界面活性剤を使用するものとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は以上のように構成したので、請求項1に記載の発明は、大きな圧力損失を生じないフィルターによって、ウイルスを含む空気からウイルスを除去することができる。すなわち、目の細かいHEPAフィルター或いは高性能フィルターでPM2.5や細菌、ウイルスなどの微粒子を捕捉する。これらの微粒子はフィルターの網の目よりも小さいが、微粒子はブラウン運動をしているので、フィルターを構成する繊維に衝突しやすい。
【0024】
また、フィルターを構成する繊維はジグザクに何層もあるので、微粒子の慣性によって何れかの層の繊維に接触する。ファンモーターによって、フィルターの繊維層の間には常に空気が流動している。空気が動く所には摩擦で静電気が起きやすい。微粒子の中でも特にウイルスは小さいので、静電気力を受けやすく、繊維に電着することにより、捕捉することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明は、弱陽イオンのウイルスは陰イオン性界面活性剤にクーロン力によって捕捉され、例えば、新型コロナウイルスのようにエンベロープと呼ばれる脂質の外膜を持つウイルスは界面活性剤で脂質の外膜を破壊されるので、不活性化することができる。陰イオン性界面活性剤の付着により、フィルターの繊維層に、界面活性剤の粘り気のある薄い膜が被っているので、微細なウイルスは、繊維だけの場合より、さらに界面活性剤の薄い膜によって捕捉されやすくなる。
【0026】
また、陰イオン性の界面活性剤をフィルターの繊維層に含侵させることによって、ウイルスは弱陽イオンなので、陰イオン性界面活性剤との間に静電気のクーロン力が働くので、ウイルスを捕捉することができる。
【0027】
また、陰イオン性の界面活性剤がフィルターの繊維層に含侵されているので、弱陽イオンのウイルスは陰イオン性界面活性剤にクーロン力によって捕捉され、例えば、新型コロナウイルスのようにエンベロープと呼ばれる脂質の外膜を持つウイルスは界面活性剤で脂質の外膜を破壊されるので、不活性化することができる。
【0028】
請求項3に記載の発明は、室内の汚れた空気は目の粗いプレフィルターで粉塵や埃や花粉を除去することができ、HEPAフィルターや高性能フィルターの目詰まりによる性能低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明を実施した第一実施形態のウイルスを捕獲し、不活性化する空気清浄機の概要を示す平面図兼断面図である。
【
図4】厚生労働省が2020年6月に発表した新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について、界面活性剤が新型コロナウイルスに有効であることを発表したものの抜粋である。
【
図5】フィルターろ布に界面活性剤を付着させた顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第一実施形態)
以下、本発明の実一実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明に係る空気の流れを上から見た断面図である。室内の汚染された空気は4方向から目の粗いプレフルター1と目の細かいフィルター2によってろ過されてから、シロッコファンによって一方方向に送出される。目の細かいフィルター2はひだ折式にしている。ひだ折式にすることによって、ろ過面積が3倍乃至4倍に増えるので、空気抵抗を減らすことができる。
【0031】
図2は空気の流れを横から見た断面図である。室内の汚染された空気は目の粗いプレフィルター1で粉塵や埃をろ過してから、目の細かいフィルター2によって、微粉塵PM2.5や細菌、ウイルスなどの微粒子をろ過し、シロッコファンによって一方方向に送出される。ファンはシロッコファンが風量、静圧とも大きく取れるので良いが、風量の大きく取れるプロペラファンによって上方向に送出しても良いし、コンパクトなクロスフローファンで一方方向に送出しても良い。
【0032】
図3は目の細かいHEPAフィルター乃至高性能フィルターのろ布繊維の断面の顕微鏡写真である。ウイルスはフィルターの網の目よりも小さいが、ブラウン運動をしているので、フィルター繊維に衝突しやすく、このような断面が何層にもあるので、最初の断面では通過したウイルスも次の断面、あるいはその次の断面で繊維に衝突することになり、捕捉することができる。
【0033】
ファンモーターによって、フィルターの繊維層の間には、強い風速があるので、空気の摩擦によって静電気が起きており、ウイルスのように特に小さい微粒子は静電気の影響を受けやすく、フィルターの繊維層に電着するので、捕捉することができる。
【0034】
図4は厚生労働省が2020年6月に新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について、界面活性剤が新型コロナウイルスに有効であることを発表したものである。この中で直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)だけが、陰イオン性界面活性剤であるので、これがウイルスを捕捉するには最適なものと考えられる。
【0035】
天然のウイルスの内側には、陽イオンのアミノ酸が存在しているので、ウイルスは弱陽イオン性である。陰イオン性の界面活性剤であれば、ウイルスをクーロン力によって捕捉することができる。
【0036】
新型コロナウイルスはエンベロープという脂質の殻を持つので、界面活性剤の溶菌酵素は脂質の殻に入り込み、ウイルスを破壊し、ウイルスを無毒化することができる。
【0037】
図5は目の細かいHEPAフィルター乃至高性能フィルターのろ布繊維に界面活性剤が付着した断面の顕微鏡写真である。界面活性剤の濃度が高すぎると、空気抵抗が大きくなるので、風量が減り、空気清浄機の機能を果たさなくなる。界面活性剤の濃度が低すぎると、ろ布繊維に界面活性剤の分子が充分に存在しなくなるので、ウイルスを無毒化する機能が減少することになる。厚生労働省の発表では界面活性剤が0.1%溶液でも有効となっているが、界面活性剤の分子量を増やす為、1%乃至5%の量で溶液を作り、この溶液をフィルターに含侵させた後、乾燥させ、
図5のようにフィルター繊維に陰イオン性界面活性剤(直鎖アルキルスルホン酸ナトリウム)を付着させる。
【0038】
図5の陰イオン性界面活性剤が付着したフィルター繊維は、ウイルスが網の目を通過するときに粘着力のある界面活性剤に付着されやすいので、捕捉効率を上げることができる。また弱陽イオンのウイルスは陰イオン性界面活性剤によって捕捉することができ、陰イオン性界面活性剤によって、外側の脂質を破壊し、無毒化することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:目の粗いプレフィルター、2:目の細かいフィルター、3:モーター、4:電線、5:電源基盤、6:シロッコファン(送風装置)のランナー、7:シロッコファン(送風装置)のスクロール、8:空気の流れ(ウイルスを含む空気)、9:空気の流れ(ウイルスが除去された空気)