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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026928
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】化学発熱体、及び水素発生体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/18 20060101AFI20240221BHJP
   C01B 3/08 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C09K5/18 J ZAB
C01B3/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129477
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】須賀 浩誉
(57)【要約】
【課題】安定して発熱可能な化学発熱体、及び水素発生体を提供する。
【解決手段】アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成される、化学発熱体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と、
酸化カルシウムと、を含んで構成される、化学発熱体。
【請求項2】
前記粉体は、
前記化成箔の酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下であり、
当該粉体の平均粒子径が、45μm以上150μm以下である、請求項1に記載の化学発熱体。
【請求項3】
前記粉体は、
前記化成箔の酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm未満であり、
当該粉体の平均粒子径が、75μm以上である、請求項1に記載の化学発熱体。
【請求項4】
水が添加されることにより発熱した第1発熱状態と、
前記第1発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第2発熱状態と、に少なくとも状態変化可能な構成とされる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化学発熱体。
【請求項5】
アルミニウム電解コンデンサの化成箔からなる粉体と、
酸化カルシウムと、を含んで構成され、
水が添加されることにより水素を発生する、水素発生体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学発熱体、及び水素発生体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学発熱体として、特許文献1に記載の技術が知られている。具体的に、特許文献1には、生石灰と低吸湿性の無水の塩化マグネシウムとから構成された化学発熱体が開示されている。この化学発熱体に水を混合させると、生石灰が水と反応して発熱する。一方、特許文献2には、誘電体酸化皮膜が形成された陽極アルミニウム化成箔を備えたアルミニウム電解コンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-271842号公報
【特許文献2】特開2004-179621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された化学発熱体は、発熱温度の過度な上昇を抑制すること、所望の発熱温度に迅速に到達すること等、安定して発熱可能であることが望ましい。一方、昨今では、循環型社会に適する技術の開発が求められており、例えば、上記特許文献2に記載された化成箔を製造する際に生じる端材やアルミニウム電解コンデンサから回収可能な化成箔を、廃棄することなく再資源化し、有効活用することが望ましい。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成された技術であって、安定して発熱可能な化学発熱体、及び水素発生体を提供することを目的の一つとする。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を有効活用できる化学発熱体、及び水素発生体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成される、化学発熱体である。
【0007】
このような構成によると、水が添加されることにより、安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用することができ、産業廃棄物の低減を実現することができる。
【0008】
上記構成において、前記粉体は、前記化成箔の酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下であり、当該粉体の平均粒子径が、45μm以上150μm以下としてもよい。
【0009】
このような構成によると、化成箔の酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下である、高圧用のアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用し、より安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。
【0010】
上記構成において、前記粉体は、前記化成箔の酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm未満であり、当該粉体の平均粒子径が、75μm以上であってもよい。
【0011】
このような構成によると、化成箔の酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm以下である、低圧用のアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用し、より安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。
【0012】
当該化学発熱体は、水が添加されることにより発熱した第1発熱状態と、前記第1発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第2発熱状態と、に少なくとも状態変化可能な構成とされていてもよい。
【0013】
このような構成によると、水を複数回添加することによって繰り返し発熱可能な化学発熱体を提供することができる。繰り返し発熱可能な化学発熱体は、1回の発熱において温度が過度に上昇することを抑制するように、繰り返して使用可能であるため、好適である。
【0014】
また、本開示は、アルミニウム電解コンデンサの化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成され、水が添加されることにより水素を発生する、水素発生体である。
【0015】
このような水素発生体によると、水素を発生可能な水素発生体を提供することができる。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を水素発生体の構成材料として有効活用することができ、産業廃棄物の低減を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、安定して発熱可能な化学発熱体、及び水素発生体を提供することが可能となる。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を有効活用できる化学発熱体、及び水素発生体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1-1及び実施例1-2に係る発熱態様を示すグラフ
図2】比較例1-1から比較例1-3に係る発熱態様を示すグラフ
図3】実施例2-1に係る発熱態様を示すグラフ
図4】実施例2-2に係る発熱態様を示すグラフ
図5】比較例2-1に係る発熱態様を示すグラフ
図6】比較例3-1に係る発熱態様を示すグラフ
図7】実施例3-1に係る発熱態様を示すグラフ
図8】実施例3-2に係る発熱態様を示すグラフ
図9】実施例3-3に係る発熱態様を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
本開示の実施形態を説明する。本実施形態では、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成される、化学発熱体、及び水素発生体について説明する。
【0019】
本実施形態で例示するアルミニウム電解コンデンサは、陽極と、誘導体と、陰極と、を少なくとも含んで構成されている。陽極及び誘導体は、エッチングされたアルミニウム箔の表面に所定厚さの酸化被膜(Al)を形成してなる化成箔によって構成されている。この化成箔のうち、酸化被膜が形成されていないアルミニウム部分が陽極とされ、酸化被膜が誘導体とされる。陰極としては、エッチングにより拡面されたアルミニウム箔を用いることができる。
【0020】
アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔としては、アルミニウム電解コンデンサからリサイクル等によって回収することにより得られる化成箔や、アルミニウム電解コンデンサを製造する際に用いられる化成箔の端材(端の部分)を採用することができる。化成箔は、高純度(例えば純度99.98%以上)のアルミニウムをシート状にしてなる高純度アルミニウム箔(高純箔)を、電気的または化学的なエッチングにより粗面化し、その粗面化された表面に、所定厚さの酸化被膜が形成されてなるものとされる。エッチングされた高純箔に対する酸化被膜の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、エッチングされた高純箔を、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸水溶液、あるいはホウ酸に五ホウ酸アンモニウムを加えた水溶液等の化成液中に浸し、定格電圧以上の電圧を印加して形成する方法でもよい。このように、電解液中において陽極酸化することによって、アルミニウム表面に電気絶縁性(耐電圧)のある酸化被膜を形成することを、化成処理と呼ぶ。高純箔の厚さは、特に限定されないが、例えば、50μm以上150μm以下の厚さとしてもよい。
【0021】
アルミニウム電解コンデンサとしては、低圧用アルミニウム電解コンデンサと、低圧用アルミニウム電解コンデンサよりも高い電圧に耐えることが可能な高圧用アルミニウム電解コンデンサと、のうちいずれかを採用することができる。高圧用アルミニウム電解コンデンサの化成箔(高圧用化成箔と呼ぶことがある)としては、その酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下の範囲のものを採用することができる。低圧用アルミニウム電解コンデンサの化成箔(低圧用化成箔と呼ぶことがある)としては、その酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm未満の範囲のものを採用することができる。
【0022】
化学発熱体には、化成箔の粉体が含まれている。この粉体の形状・構造等は特に限定されないが、例えば、この粉体として、平均粒子径が45μm以上のものを採用することができる。化成箔が高圧用化成箔の場合、その粉体としては、平均粒子径が45μm以上150μm以下のものを採用することが好ましい。化成箔が低圧用化成箔の場合、その粉体としては、平均粒子径が、75μm以上のものを採用することが好ましい。このような粉体を用いることにより、安定して発熱可能な化学発熱体とすることができる。尚、本開示において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。また、化成箔からその粉体を製造する方法は特に限定されないが、例えば、混練機(ボールミル)を用いて化成箔を粉砕して粉体にすることとしてもよい。
【0023】
酸化カルシウムの形状は特に限定されないが、例えば、粉末状のもの(粉体状のもの)を採用することができる。
【0024】
化学発熱体は、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体が、酸化カルシウムよりも質量比で高い割合となるように含んでいてもよい。例えば、化学発熱体は、酸化カルシウム100質量部に対し、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体を、101質量部以上200質量部以下となるように含んでいてもよく、120質量部以上170質量部以下となるように含んでいてもよく、130質量部以上150質量部以下となるように含んでいてもよく、135質量部以上140質量部以下となるように含んでいてもよい。このような範囲によると、安定して発熱可能な化学発熱体とすることができる。
【0025】
化学発熱体は、水が添加されることにより、酸化カルシウムと水が反応して水酸化カルシウムが生じつつ、発熱する。また、化学発熱体は、生じた水酸化カルシウムとアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と水とが反応してアルミン酸カルシウムと水素が生じつつ、発熱する。化学発熱体は、アルミニウム電解コンデンサの化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成され、水が添加されることにより水素を発生する、水素発生体としても用いることができる。
【0026】
化学発熱体は、水が添加されることにより発熱した第1発熱状態と、第1発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第2発熱状態と、に少なくとも状態変化可能な構成とされる。化学発熱体は、添加される水の量を調整することにより、繰り返し発熱することが可能である。このような水の量(複数回の添加における1回分の水の量)としては、化学発熱体よりも質量比で低い割合となる量でもよく、例えば、化学発熱体100質量部に対し、1回分の添加される水の量が、90質量部以下でもよく、80質量部以下でもよく、70質量部以下でもよい。
【0027】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成される、化学発熱体を示した。
【0028】
このような構成によると、水が添加されることにより、安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用することができ、産業廃棄物の低減を実現することができる。
【0029】
粉体は、化成箔の酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下としてもよく、その場合、粉体の平均粒径は、45μm以上150μm以下としてもよい。
【0030】
このような構成によると、化成箔の酸化被膜の厚さが、210nm以上1200nm以下である、高圧用のアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用し、より安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。
【0031】
粉体は、化成箔の酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm未満としてもよく、その場合、粉体の平均粒径は、75μm以上としてもよい。
【0032】
このような構成によると、化成箔の酸化被膜の厚さが、3nm以上210nm以下である、低圧用のアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を化学発熱体の構成材料として有効活用し、より安定して発熱可能な化学発熱体を提供することができる。
【0033】
化学発熱体は、水が添加されることにより発熱した第1発熱状態と、第1発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第2発熱状態と、に少なくとも状態変化可能な構成とされる。
【0034】
このような構成によると、水を複数回添加することによって繰り返し発熱可能な化学発熱体を提供することができる。繰り返し発熱可能な化学発熱体は、1回の発熱において温度が過度に上昇することを抑制するように、繰り返して使用可能であるため、好適である。
【0035】
また、本実施形態では、アルミニウム電解コンデンサの化成箔からなる粉体と、酸化カルシウムと、を含んで構成され、水が添加されることにより水素を発生する、水素発生体を示した。
【0036】
このような水素発生体によると、水素を発生可能な水素発生体を提供することができる。また、アルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を水素発生体の構成材料として有効活用することができ、産業廃棄物の低減を実現することができる。
【実施例0037】
以下、実施例に基づいて本技術を詳細に説明する。なお、本技術はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
<実施例1-1>
高圧用のアルミニウム電解コンデンサ用に製造された化成箔(高圧用化成箔)の端材を準備し、この高圧用化成箔の端材を、約50mm角に切断した後、混練機(THINKY社製 AR-100)で粉砕し、粉体を得た。この高圧用化成箔は、アルミニウムの純度が99.98%以上である高純度アルミニウム箔(高純箔)を、電気的または化学的なエッチングにより粗面化し、その表面に、厚さが210nm以上1200nm以下の酸化皮膜を形成するように化成処理されている。酸化被膜の形成においては、エッチングされた高純度アルミニウム箔を、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸水溶液、あるいはホウ酸に五ホウ酸アンモニウムを加えた水溶液等の化成液中に浸し、定格電圧以上の電圧を印加することにより、アルミニウム箔の表面に誘導体としての酸化被膜(Al)を形成している。上記混練機には、粉砕・分散用ボールとして、ジルコニアからなり、直径が10mm、密度が6.0g/cm、HV硬度が1300のジルコニアボール(ニッカトー社製 YTZ-10)を使用した。得られた粉体を10g採取し、これに粉末状の酸化カルシウム7.3gを加えて混合して、化学発熱体を17.3g得た。この化学発熱体は、酸化カルシウム100質量部に対し、粉体137質量部を含んでいる。
【0039】
<実施例1-2>
低圧用のアルミニウム電解コンデンサ用に製造された化成箔(低圧用化成箔)であって、酸化皮膜の厚さが3nm以上210nm未満の化成箔の端材を準備し、この低圧用化成箔の端材を混練機で粉砕し、粉体を得たこと以外は、実施例1-1と同様にして、化学発熱体を得た。
【0040】
<比較例1-1>
高圧用または低圧用のアルミニウム電解コンデンサ用の化成箔を製造するために使用され、アルミニウムの純度が99.98%以上である高純度アルミニウム箔(エッチングされていないアルミニウム箔:高純箔)を混練機で粉砕し、粉体を得たこと以外は、実施例1-1と同様にして、化学発熱体を得た。
【0041】
<比較例1-2>
モーリアンヒートパック(登録商標、協同社製)の袋体を開封して得られる内容物(アルミニウム粉末、酸化カルシウム、及び添加剤を含んで構成される粉状体)を、比較例1-2の化学発熱体とした。
【0042】
<比較例1-3>
粉末状の酸化カルシウム7.3gのみを、比較例1-3の化学発熱体とした。
【0043】
[発熱温度の評価]
上記実施形態及び比較例において得られた各化学発熱体17.3gに、純水をそれぞれ11.7ml(化学発熱体100質量部に対し純水67.6質量部)ずつ加えた。化学発熱体に純水を加えてからの温度変化を、赤外線サーモグラフィカメラ(FLIR Systems社製 C3シリーズ)で測定した。結果を、図1及び図2に示す。
【0044】
実施例1-1,1-2、比較例1-1,1-2では、比較例1-3よりも、発熱温度(最高温度)が高く、迅速に発熱している(最高温度に到達するまでの時間が短い)。実施例1-1は、実施例1-2、比較例1-1,1-2に比して最高温度(約90度)が約20度低く、それに到達するまでの時間(水の添加から3~5分後)も長いため、マイルドな発熱である。実施例1-2は、比較例1-1,1-2に比して、最高温度(約110度)、及びそれに到達するまでの時間(水の添加から2~3分後)が同等である。実施例1-1,1-2は、比較例1-1,1-2に比して、最高温度に到達した後の温度の低下が緩やかである。低圧用化成箔(実施例1-2)について、このような結果となったのは、低圧用化成箔の方が高圧用化成箔に比して酸化被膜が薄く、化成箔中のアルミニウムの割合が高いことに起因すると推測する。
【0045】
[アルミニウムの割合の評価]
実施例1-1及び実施例1-2で使用した高圧用化成箔及び低圧用化成箔を、所定量測り取り、ヨウ素‐メタノール法により溶解させ、得られた酸化被膜の質量を測ることにより、高圧用化成箔及び低圧用化成箔におけるアルミニウムの質量比を算出した。その結果、高圧用化成箔では、質量比において、アルミニウムが約57%、酸化被膜が約43%であった。低圧用化成箔では、質量比において、アルミニウムが約94%、酸化被膜が約6%であった。これにより、低圧用化成箔の方が化成箔中のアルミニウムの割合が高いことが裏付けられた。化成箔中のアルミニウムの割合が高いほど、混練機で粉砕された際のアルミニウムの新生面(活性面)の露出割合が増え、高活性な材料となるため、実施例1-2では、比較例1-1,1-2のような発熱挙動を示したと考えられる。
【0046】
<実施例2-1,2-2、比較例2-1>
実施例1-1,1-2、比較例1-2と同様にして、それぞれ、実施例2-1(高圧用化成箔を使用),実施例2-2(低圧用化成箔を使用)、比較例2-1(モーリアンヒートパックを使用)の化学発熱体を得た。この得られた各化学発熱体17.3gに、純水をそれぞれ11.7mlずつ加えて、1回目の発熱反応を行った(このときの化学発熱体を、水が添加されることにより発熱した第1発熱状態とする)。各化学発熱体が最高温度に達し、その後、温度が室温(30度前後)に低下したことを確認した後に、再度、当該各化学発熱体に純水をそれぞれ11.7mlずつ加えて、2回目の発熱反応を行った(このときの化学発熱体を、第1発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第2発熱状態とする)。実施例2-2、及び比較例2-1について、各化学発熱体が最高温度に達し、その後、温度が室温(30度前後)に低下したことを確認した後に、再度、当該各化学発熱体に純水をそれぞれ11.7mlずつ加えて、3回目の発熱反応を行った(このときの化学発熱体を、第2発熱状態の後、水が添加されることにより再び発熱した第3発熱状態とする)。このように、化学発熱体を繰り返し発熱させた際の温度変化を、赤外線サーモグラフィカメラ(FLIR Systems社製 C3シリーズ)で測定した。結果を、図3から図5に示す。
【0047】
実施例2-1では、2回目の水の添加において実施例2-2や比較例2-1よりも高温(例えば60度以上の温度)となる発熱は見られなかった。実施例2-2では、2回目の水の添加において、1回目の水の添加と同様の曲線を描いた発熱反応がみられた。2回目の発熱反応(第2発熱状態)では、その最高温度(約95度)が、1回目の発熱反応(第1発熱状態)における最高温度(110度)よりも約15度低い。2回目の発熱反応では、最高温度に到達するまでの時間が、2~3分程度であり、1回目の発熱反応に比して同等である。3回目の水の添加において比較例2-1よりも高温(例えば60度以上の温度)となる発熱は見られなかった。比較例2-1では、1回目から3回目の水の添加において、最高温度がいずれも同等(約110度)である。最高温度に達するまでの時間は、3回目の水の添加が1回目や2回目の水の添加に比して2~3分程度遅延している。粉体のアルミニウムの割合は、高圧用化成箔(実施例2-1)、低圧用化成箔(実施例2-2)、モーリアンヒートパック(比較例2-1)の順で高くなる。図3から図5を見るに、粉体のアルミニウムの割合が高くなるほど、最高温度は高くなり、最高温度に到達するまでの時間が短くなっているといえる。
【0048】
<実施例3-1から3-3、比較例3-1>
実施例1-1と同様にして、高圧用化成箔の端材から得た粉体(約20g)を得た。この粉体をふるいにかけ、平均粒子径が、45μm未満の粉体0.69g(比較例3-1の粉体とする)、45μm以上75μm未満の粉体0.95g(実施例3-1の粉体とする)、75μm以上150μm未満の粉体6.39g(実施例3-2の粉体とする)、150μm以上の粉体12.86g(実施例3-3の粉体とする)にそれぞれ選別した。各値を表1に示す。尚、本開示において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
【0049】
【表1】
【0050】
得られた各粉体に対し、粉末状の酸化カルシウムを質量比で73%(粉体137質量部に対し酸化カルシウム100質量部)となる量で加えて混合して、化学発熱体を得た(表1参照)。各化学発熱体に対し、純水を質量比で67.6%(化学発熱体100質量部に対し純水67.6質量部)となる量でそれぞれ加えた(表1参照)。各化学発熱体に純水を加えてからの温度変化を、赤外線サーモグラフィカメラ(FLIR Systems社製 C3シリーズ)で測定した。結果を、図6から図9に示す。尚、各実施例及び比較例において、上記実施例2-1等と同様に、純水を複数回に亘って添加して化学発熱体を繰り返し発熱させ、その発熱の挙動を観測している。
【0051】
いずれの実施例・比較例においても、平均粒子径によらず、1回目の水の添加では、100度前後まで発熱している。比較例3-1、実施例3-1,3-2,3-3の順で、粉体の平均粒子径が大きくなるほど、繰り返し発熱可能な回数が減っている。得られた粉体の平均粒子径が小さいほど、酸化被膜が粉砕され、アルミニウムの活性面が多く露出することにより、粉体全体として反応性が高い部分が多い材料になっていると考えられる。一方、実施例3-1では、1回目の水の添加における発熱挙動(最高温度、及び最高温度に達するまでの時間、発熱曲線の形等)と、2回目の水の添加における発熱挙動が、他の実施例や比較例に比して分散しておらず、安定して繰り返し発熱している。実施例3-1から実施例3-3は、比較例3-1に比して、1回目の水の添加における最高温度に達するまでの時間が、1~3分程短く、迅速に発熱している。
【0052】
尚、実施例1-2と同様にして、低圧用化成箔の端材から得た粉体(約8g)をふるいにかけたところ、平均粒子径が、45μm未満の粉体0g、45μm以上75μm未満の粉体0.02g、75μm以上150μm未満の粉体0.75g、150μm以上の粉体7.01gにそれぞれ選別することができた。
【0053】
<実施例4-1>
実施例1-1と同様にして、高圧用化成箔の端材を、混練機で粉砕し、粉体を得た。得られた粉体を7mg採取し、これに粉末状の酸化カルシウム7.3mgを加えて混合して、水素発生体(化学発熱体)を14.3mg得た。この水素発生体に、純水をそれぞれ1ml加え、24時間反応させた。生じた気体(水素)をボトルで捕集し、その気体の発生量を計測した。結果を、表2に示す。
【0054】
<実施例4-2>
実施例4-1と同様にして得られた粉体を100mg採取し、これに粉末状の酸化カルシウム7.3mgを加えて混合して、水素発生体を107.3mg得た。この水素発生体に、純水をそれぞれ1ml加え、3時間反応させた。生じた気体(水素)を水上置換にて捕集し、その気体の発生量を計測した。結果を、表2に示す。
【0055】
<実施例4-3>
実施例1-2と同様にして、低圧用化成箔の端材を、混練機で粉砕し、粉体を得た。得られた粉体を7mg採取し、これに粉末状の酸化カルシウム7.3mgを加えて混合して、水素発生体(化学発熱体)を14.3mg得た。この水素発生体に、純水をそれぞれ1ml加え、24時間反応させた。生じた気体(水素)をボトルで捕集し、その気体の発生量を計測した。結果を、表2に示す。
【0056】
<実施例4-4>
実施例4-3と同様にして得られた粉体を100mg採取し、これに粉末状の酸化カルシウム7.3mgを加えて混合して、水素発生体を107.3mg得た。この水素発生体に、純水をそれぞれ1ml加え、3時間反応させた。生じた気体(水素)を水上置換にて捕集し、その気体の発生量を計測した。結果を、表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
各実施例において、水素発生体に水を添加することにより、水素が生じ、この生じた水素をそれぞれ捕集することができた。実施例4-1と実施例4-3とを比較した場合、又は、実施例4-2と実施例4-4とを比較した場合において、高圧用の化成箔と低圧用の化成箔とでは、生じた水素の量に大差はなかった。尚、各実施例において、二酸化炭素の発生は確認していない。
【0059】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0060】
(1)上記実施形態以外にも、粉体としては、アルミニウム電解コンデンサを製造する際に用いられる化成箔を粉砕したものであってもよい。即ち、粉体を得るための化成箔は、端材でなくてもよく、アルミニウム電解コンデンサからリサイクルによって回収したものでなくてもよい。
【0061】
(2)化学発熱体には、粉体及び酸化カルシウム以外の添加物(酸化マグネシウム等)が添加されていてもよい。このような添加物としては、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、塩化マグネシウム等の金属塩化物等を採用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9