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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026932
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】電子装置、電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20240221BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240221BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20240221BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20240221BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01L21/52 B
H01L21/52 D
H01L21/60 321Z
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
H01L25/04 C
H01L23/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129483
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 靖
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕二朗
(72)【発明者】
【氏名】高木 佑輔
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA11
5F047BA19
5F047BC02
5F047BC03
(57)【要約】
【課題】ひけ巣の発生を抑制できる。
【解決手段】電子装置は、Ni系電極を有する第1電子部品と、Sn系はんだを介してNi系電極と接合される第2電子部品とを備え、Ni系電極とSn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が存在し、接合後のSn系はんだの母相中において(Pd,Ni)Sn化合物として存在するPd含有量が、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層として存在するPd含有量よりも少ないか又はゼロである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni系電極を有する第1電子部品と、
Sn系はんだを介して前記Ni系電極と接合される第2電子部品とを備え、
前記Ni系電極と前記Sn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が存在し、
接合後の前記Sn系はんだの母相中において(Pd,Ni)Sn化合物として存在するPd含有量が、前記(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層として存在するPd含有量よりも少ないか又はゼロである、電子装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子装置であって、
前記第1電子部品は半導体素子である、電子装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電子部品であって、
前記第1電子部品は、複数の前記Ni系電極を有する半導体素子であり、
前記(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層は、少なくとも、前記複数のNi系電極のうち放熱に最も時間を要する前記Ni系電極と前記Sn系はんだの接合部界面に存在する、電子装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電子装置であって、
前記(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層におけるNi含有率が5wt.%以下である電子装置。
【請求項5】
Ni系電極を有する第1電子部品と、Sn系はんだを介して前記Ni系電極と接合される第2電子部品とを備える電子装置の製造方法であって、
前記Ni系電極の外周にPd層が形成された前記第1電子部品に対して、前記Pd層の表面に共晶組成よりもCuを多く含有するSn系はんだを配置する配置工程を含み、
前記電子装置は、前記Ni系電極と前記Sn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が形成される電子装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電子装置の製造方法であって、
前記第1電子部品は半導体素子である、電子装置の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電子装置の製造方法であって、
前記第1電子部品は、複数の前記Ni系電極を有する半導体素子であり、
前記配置工程では、少なくとも、前記複数のNi系電極のうち放熱に最も時間を要する前記Ni系電極と前記第2電子部品との間に、共晶組成よりもCuを多く含有するSn系はんだを配置する、電子装置の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の電子装置の製造方法であって、
共晶組成よりCuを多く含有する前記Sn系はんだの組成は、Cuが3~6wt.%含まれている電子装置の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の電子装置の製造方法であって、
前記第1電子部品のNi電極上のPd層の厚さに対して40倍の厚さの(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が前記接合部界面に形成される電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置、および電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RoHS指令やELV指令により自動車に搭載される電子制御装置に含まれる鉛の使用が規制されているため、これまでSn-3Ag-0.5Cu(重量%)を主とした鉛フリーはんだにより鉛フリー化が進められてきた。インバータに用いられるパワーモジュールは、小型化および軽量化を目的として高パワー密度化が潮流となっており、たとえば次の2点が求められている。第1に、パワー半導体の上下両面をはんだ接合してパワーモジュールの上下両面から放熱できることである。第2に、パワー半導体接合部の保証温度を高温化して多くの電流を流せることである。
【0003】
半導体素子の電極には、はんだとの接合を担うNi系電極が用いられており、はんだの濡れを確保しやすくするために、電極の再表面にはAuやAgのメタライズが施される。しかしながら、チップ製造過程での加熱や保管環境によっては、薄いAuメタライズや欠陥の多いAgメタライズの表面にNiが拡散し再表面から最も表面にNi酸化物を生成し、はんだの接合性を損ねてしまうことがある。そのため、再表面にNi酸化物を形成しないように、Ni系電極上にPdの層を設け、その上にAuやAgのメタライズを施すことが増えてきている。特許文献1には、原子%で、Ag:3~6%、Cu:1~4%、Co:0.01~2%、Sn:残部からなる鉛フリーはんだボール用合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3724486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている発明では、ひけ巣の対策に検討の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様による電子装置は、Ni系電極を有する第1電子部品と、Sn系はんだを介して前記Ni系電極と接合される第2電子部品とを備え、前記Ni系電極と前記Sn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)6Sn5化合物層が存在し、接合後の前記Sn系はんだの母相中において(Pd,Ni)Sn4化合物として存在するPd含有量が、前記(Cu,Ni,Pd)6Sn5化合物層として存在するPd含有量よりも少ないか又はゼロである。
本発明の第2の態様による電子装置の製造方法は、Ni系電極を有する第1電子部品と、Sn系はんだを介して前記Ni系電極と接合される第2電子部品とを備える電子装置の製造方法であって、前記Ni系電極の外周にPd層が形成された前記第1電子部品に対して、前記Pd層の表面に共晶組成よりもCuを多く含有するSn系はんだを配置する配置工程を含み、前記電子装置は、前記Ni系電極と前記Sn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)6Sn5化合物層が形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ひけ巣の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ひけ巣の一例を示す図
図2】冷却時のはんだの挙動を示す図
図3】電子部品の第1の構成を示す図
図4】一般的なはんだを用いた構成を示す図
図5】電子部品の第2の構成を示す図
図6】半導体装置の製造方法を示す図
図7】実施例1~6を示す図
図8】比較例1~2を示す図
図9】半導体装置の製造方法を示す図
図10】実施例7~9を示す図
図11】比較例3~4を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
―第1の実施の形態―
以下、図1図11を参照して、電子部品である半導体装置の第1の実施の形態を説明する。Ni(ニッケル)系電極上にPd(パラジウム)層を設けたチップを用いる場合は、Pd層の無いチップを用いた場合と比べて、はんだ接合部にひけ巣ができやすいという問題が知られている。
【0010】
図1は、ひけ巣の一例を示す図である。図1では、半導体素子1とパワーモジュールのエミッタ側リード2の間にはんだ接合部3が形成されている。はんだ接合部3のエミッタ側リード2に近い領域には、黒く表示されるひけ巣101が形成されている。なお図1に示す例では、エミッタ側リード2の側よりも半導体素子1の側から多く放熱された。ひけ巣が形成されると、通電により発熱した半導体素子の熱を逃がす放熱経路が少なくなり信頼性確保が難しくなる。そのため、ひけ巣が形成されると組立後の品質検査において不具合品と判定される。ひけ巣は、半導体素子のNi系電極上に形成されたPdがはんだ接合の際に、溶融したSn(スズ)系鉛フリーはんだにPdが拡散することで、Sn系鉛フリーはんだの液相線温度が上昇するために生じると考える。
【0011】
本実施の形態におけるNi系電極とはたとえば、ニッケルのみ、ニッケルとリン、ニッケルとバナジウムなどである。この場合のニッケルとリンの比率は、たとえば100:1~15程度である。この場合のニッケルとバナジウムの比率は、たとえば100:1~15程度である。
【0012】
図2は、冷却時のはんだの挙動を示す図である。図2の左側は、はんだの固まり始めと終わりの温度差が小さい場合を示し、図2の右側は、はんだの固まり始めと終わりの温度差が大きい場合を示す。図2では、図示上方から下方に向かって時間が経過している。また図2に示す例でも、半導体素子1の側から多く放熱されている。図2の左側に示す、はんだの固まり始めと終わりの温度差が小さい場合は、はんだ接合部3の全体が凝固による体積収縮の影響を受けて全体的に収縮する。その一方で、図2の右側に示す、はんだの固まり始めと終わりの温度差が大きい場合は、冷却されている側から少しずつ固まり、最終凝固部で凝固時の体積収縮を受けることになりひけ巣101が形成されやすくなる。なお仮に半導体素子1の側よりもエミッタ側リード2の側から多く放熱される場合には、ひけ巣101は半導体素子1の側に形成される。
【0013】
図3は、本実施の形態における電子部品である半導体装置100の第1の構成を示す図である。図示左側が接合前の状態を示し、図示右側が接合後の状態を示す。半導体素子1の表面にNi系電極8、Pd層7、および金属膜6が存在する。金属膜6は、Au(金)またはAg(銀)によるメタライズである。エミッタ側リード2の表面にはNiめっき5が存在する。本実施の形態では、金属膜6とNiめっき5の間に銅添加はんだ24を配して接合する。銅添加はんだ24は、Cu(銅)を共晶組成よりも多く添加されたSn系はんだである。具体的には銅添加はんだ24は、Cuの重量%が0.9%以上であり好ましくは3%以上6%未満、かつSnの重量%が80%以上である。
【0014】
Cuを共晶組成よりも多く含む銅添加はんだ24は、はんだ中に符号25で示すCuSn化合物を多く含んでいる。CuSn化合物を用いて接合することで、はんだ中から供給したCuSn化合物の中にPdを取り込み、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物として接合部界面26に化合物を形成することができる。はんだ接合部は、図示上下に存在する接合部界面26と、はんだ中央層27とから構成される。
【0015】
このとき、はんだに含まれるCuの含有量やはんだ接合部の厚さLを、半導体素子1のPd厚さに応じてコントロールすることで、接合部界面26に形成する(Cu,Ni,Pd)Sn化合物にPdをほぼ取り込むことができる。ここで、Pd層7の厚みを記号dで表し、Pd層の厚みを記号dで表し、上部の接合部界面26の厚みを記号y1で表し、下部の接合部界面26の厚みを記号y2で表し、Pdの密度を記号D1で表し、(Cu,Ni,Pd)Snの密度D2を記号D2で表す。(Cu,Ni,Pd)SnにおけるPdは、3.6重量%なので、Pdの重量に関して次の式1が成りたつ。式1の左辺は接合前のPd、右辺は接合後のPdについて記述している。なお式1における「x」は積を意味する演算記号である。
【0016】
d x D1=(y1+y2)x D2 x 0.036 ・・・(式1)
【0017】
ここで、Pd密度D1は12.03g/cm3、(Cu,Ni,Pd)Sn密度D2は8.33g/cm3なので、式1を整理すると次の式2が得られる。
【0018】
y=y1+y2=40.1 x d ・・・(式2)
【0019】
すなわち式2から、上部の接合部界面26の厚みと下部の接合部界面26の厚みの合計が、接合前のPd層7の厚みの約40倍になることがわかる。なお、所望のはんだ厚さLが決まる場合には、接合部界面26の厚さyに基づき、必要なはんだのCu含有率を算出できる。
【0020】
Pdを接合部界面26に全て取り込むことができれば、はんだ中央層27には(Pd,Ni)Sn4化合物がほぼ存在しなくなり、液相線温度の上昇を抑制できるので、ひけ巣を抑制できる。ひけ巣を抑制する効果は、接合後の前記Sn系はんだの母相中において(Pd,Ni)Sn化合物として存在するPd含有量が、前述の(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層として存在するPd含有量よりも少ないか又はゼロであるときに顕著に得られる。なお、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層におけるNi含有率が5wt.%以下である。
【0021】
図4は、比較のために一般的なはんだを用いた構成を示す図である。図示左側が接合前の状態を示し、図示右側が接合後の状態を示す。図4の左側を図3の左側と比較すると、図3における銅添加はんだ24の代わりに一般はんだ4が用いられている。半導体素子1の表面にNi系電極8、Pd層7、および金属膜6が存在する点と、エミッタ側リード2の表面にはNiめっき5が存在する点は図3と共通している。一般はんだ4はたとえば、Sn-3Ag-0.5CuのようなSn系鉛フリーはんだである。
【0022】
この場合にPd層7に含まれるPdは、はんだと反応して接合部界面に形成される(Ni,Cu,Pd)Sn化合物の成分として取込まれるものと、はんだ接合部内部に(Pd,Ni)Sn化合物として浮島状に存在するものに分配される。ここで、接合部を接合部界面の金属間化合物とそれ以外のはんだ部として分けて考えると、接合部界面に形成された金属間化合物ははんだの液相線温度には関わらず、それ以外のはんだ部の液相線温度がひけ巣の出来やすさに影響を及ぼす。ここでは、(Pd,Ni)Sn化合物23が多く形成するほど、はんだの液相線温度が高くなりひけ巣が出来やすくなる。
【0023】
図5は、本実施の形態における半導体装置100の第2の構成を示す図である。パワーモジュールなどの半導体素子1は、図5に示すようにエミッタ側とコレクタ側の両面をはんだ接合することがある。具体的には図5に示す半導体素子1は、図示下方のコレクタ側リード12と、図示上方のエミッタ側リード2とに挟みこまれている。この場合は、図示下方のコレクタ側リード12から冷却されるため、半導体素子1の下側に存在する符号13のコレクタ側接合部の方が冷却が速く、符号3で示すエミッタ側接合部の方が冷却速度が遅くなる。ひけ巣は冷却速度が遅いほど発生しやすいため、エミッタ側接合部の方がひけ巣が出来やすい。そのため、少なくともエミッタ側接合部において、Cuを共晶組成より多く添加されたSn系はんだでNi系電極上にPdを有する半導体素子を接合することでひけ巣生成を抑制することができる。
【0024】
(実施例1~6)
図6および図7を参照して、実施例1~6を説明する。図6に示す半導体装置100Aの製造方法は次のとおりである。まず、粗化Niめっきを有するCu製コレクタ側リード32のはんだ搭載位置に、コレクタ側はんだ24-2を供給する。その上に、両面のNi系電極上に厚さ600nmのPd層を有する半導体素子1を接合する。さらに、接合した半導体素子1の上面の電極上にエミッタ側はんだ24-1を配し、さらにその上に粗化Niめっきを有する銅製のエミッタ側リード31を積層して接合する。これにより、ひけ巣が生成しやすいエミッタ側接合部において、接合部内部にほぼ(Pd,Ni)Sn化合物が無い状態で、接合部界面の(Cu,Ni,Pd)Sn化合物の中に半導体素子から供給されたPdを取込むことができる。その後にトランスファーモールドによりレジン33による封止を行い、半導体装置100Aが製造される。
【0025】
実施例ごとのエミッタ側はんだ24-1およびコレクタ側はんだ24-2のそれぞれの組成は、図10の「基板上部はんだ」および「基板下部はんだ」の欄に記載のとおりである。たとえば実施例1は、コレクタ側はんだ24-2およびエミッタ側はんだ24-1はいずれも、Snを主成分としてCuが3重量%以上6重量%未満含まれるはんだである。実施例2は、コレクタ側はんだ24-2およびエミッタ側はんだ24-1はいずれも、Snを主成分としてAgが4重量%含まれ、かつCuが3重量%以上6重量%未満含まれるはんだである。
【0026】
実施例ごとに100台の半導体装置100Aを作製し、ひけ巣101の存在を評価した。ひけ巣101の評価は、接合部面積の5%を超えるひけ巣101が100台中1台も確認されない場合に「合格」、1台でも5%を超えるひけ巣101が観察された場合に「不合格」とした。その結果、実施例1~6のいずれにおいても「合格」となった。
【0027】
(比較例1~2)
図6および図8を参照して、比較例1~2を説明する。実施例1~6とは、エミッタ側はんだ24-1およびコレクタ側はんだ24-2の組成のみが異なる比較例1~2も同様に半導体装置を作成して評価した。評価の結果、比較例1~2のいずれも「不合格」となった。
【0028】
(実施例7~9)
図9および図10を参照して、実施例7~9を説明する。図9に示す半導体装置100Bの製造方法は次のとおりである。まず、放熱ベース45の上に基板下部はんだ24-4のシートを置き、その上にセラミックス絶縁基板43を積層する。セラミックス絶縁基板43の図示上側には、エミッタ側リード2が配されている。次に、そのエミッタ側リード2の上に基板上部はんだ24-3を置き、半導体素子1を設置した後に加熱して接合する。そして、はんだが接合された後にアルミワイヤ42および端子41を接合し、その後ケース47を取付ける。最後にケース47の内部をゲル46で封止して半導体装置100Bが製造される。
【0029】
実施例ごとの基板上部はんだ24-3および基板下部はんだ24-4のそれぞれの組成は、図10の「基板上部はんだ」および「基板下部はんだ」の欄に記載のとおりである。実施例ごとに100台の半導体装置100Bを作製し、ひけ巣101の存在を評価した。ひけ巣101の評価は、接合部面積の5%を超えるひけ巣101が100台中1台も確認されない場合に「合格」、1台でも5%を超えるひけ巣101が観察された場合に「不合格」とした。その結果、図10に示すように実施例7~9のいずれにおいても「合格」となった。
【0030】
(比較例3~4)
図9および図11を参照して、比較例3~4を説明する。実施例7~9とは、基板上部はんだ24-3および基板下部はんだ24-4の組成のみが異なる。比較例3~4も同様に半導体装置を作成して評価した。比較例3~4の基板上部はんだ24-3および基板下部はんだ24-4のそれぞれの組成は、図11の「基板上部はんだ」および「基板下部はんだ」の欄に記載のとおりである。評価の結果、比較例1~2のいずれも「不合格」となった。
【0031】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電子装置である半導体装置100は、Ni系電極を有する半導体素子1と、Sn系はんだを介してNi系電極と接合されるエミッタ側リード2とを備える。Ni系電極とSn系はんだの接合部界面26に(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が存在し、接合後のSn系はんだの母相中において(Pd,Ni)Sn化合物として存在するPd含有量が、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層として存在するPd含有量よりも少ないか又はゼロである。そのため、ひけ巣101の発生が抑制される。
【0032】
(2)半導体素子1は複数のNi系電極を備え、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層は、少なくとも、複数のNi系電極のうち放熱に最も時間を要するNi系電極とSn系はんだの接合部界面に存在する。たとえば図6に示す例では、図示下部のコレクタ側リード32の側から放熱されるため、早く冷却されるコレクタ側はんだ24-2にはひけ巣101が発生しにくいことから対策の必然性が低い。しかし冷却に時間を要する側、図6の例ではエミッタ側は、何らの対策も行わない場合にはひけ巣101が発生する可能性があるので、上述した組成のはんだを用いることでひけ巣101の発生を抑制する。
【0033】
(3)半導体装置100は、(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層におけるNi含有率が5wt.%以下である。
【0034】
(4)Ni系電極を有する半導体素子1と、Sn系はんだを介してNi系電極と接合されるエミッタ側リード2とを備える半導体装置100の製造方法は、Ni系電極の外周にPd層が形成された半導体素子1に対して、Pd層の表面に共晶組成よりもCuを多く含有する銅添加はんだ24を配置する配置工程を含む。半導体装置100は、Ni系電極とSn系はんだの接合部界面に(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が形成される。
【0035】
(5)半導体素子1は、複数のNi系電極を有する。配置工程では、少なくとも、放熱に時間を要する図6の図示上側のNi系電極とエミッタ側リード31との間に、共晶組成よりもCuを多く含有する銅添加はんだ24を配置する。
【0036】
(6)共晶組成よりCuを多く含有する銅添加はんだ24の組成は、Cuが3~6wt.%含まれている。
【0037】
(7)図3を参照して説明したように、半導体素子1のNi電極上のPd層の厚さdに対して40倍の厚さである厚さLの(Cu,Ni,Pd)Sn化合物層が接合部界面に形成される。
【0038】
(変形例1)
上述した第1の実施の形態では、半導体素子であるパワーモジュールの接合部におけるひけ巣101の発生を抑止するためのはんだの組成を説明した。しかしひけ巣101の発生は電子部品のあらゆる場面で問題となりうるため、本発明の適用対象はパワーモジュールに限定されず、様々な半導体素子を適用対象にできる。さらに、半導体に限定されず、電極を備えるさまざまな電子装置に適用できる。
【0039】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 :半導体素子
7 :Pd層
8 :Ni系電極
12 :コレクタ側リード
24 :銅添加はんだ
24-1 :エミッタ側はんだ
24-2 :コレクタ側はんだ
24-3 :基板上部はんだ
24-4 :基板下部はんだ
31 :エミッタ側リード
32 :コレクタ側リード
100、100A、100B:半導体装置
101 :ひけ巣
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11