IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社燃焼合成の特許一覧

<>
  • 特開-燃焼合成炉 図1
  • 特開-燃焼合成炉 図2
  • 特開-燃焼合成炉 図3
  • 特開-燃焼合成炉 図4
  • 特開-燃焼合成炉 図5
  • 特開-燃焼合成炉 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026940
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】燃焼合成炉
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/12 20060101AFI20240221BHJP
   F27B 17/00 20060101ALI20240221BHJP
   F27D 3/06 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
F27D3/12 E
F27B17/00 C
F27D3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129505
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(72)【発明者】
【氏名】和泉 博明
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055EA01
4K055HA02
4K055HA12
4K055HA27
4K055HA29
(57)【要約】
【課題】冷却にかかる時間を短縮できる燃焼合成炉を提供することを目的とする。加えて、本発明は、チャンバ内に設置された複数の坩堝内の原料に対して同時着火を可能とし、生産効率を向上させた燃焼合成炉を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、坩堝に充填した原料に対して、燃焼合成法により、無機化合物を合成する燃焼合成炉(1)であって、前記坩堝を複数段に配置可能な多段ラック(2)と、前記多段ラックを載置するステージ(3)と、前記多段ラックを内部に収容可能なチャンバ(4)と、を有し、前記多段ラックは、前記ステージに対して着脱可能とされる、ことを特徴とする。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝に充填した原料に対して、燃焼合成法により、無機化合物を合成する燃焼合成炉であって、
前記坩堝を複数段に配置可能な多段ラックと、
前記多段ラックを載置するステージと、
前記多段ラックを内部に収容可能なチャンバと、を有し、
前記多段ラックは、前記ステージに対して着脱可能とされる、ことを特徴とする燃焼合成炉。
【請求項2】
前記多段ラックの各段上部に、電極レールを備え、
前記電極レールの任意の位置に、前記原料に着火するためのフィラメントが装着可能とされる、ことを特徴とする請求項1に記載の燃焼合成炉。
【請求項3】
前記多段ラックには、前記ステージに着脱するための吊り下げ部が設けられる、ことを特徴とする請求項2に記載の燃焼合成炉。
【請求項4】
前記チャンバは、横方向にスライド開閉可能に構成されており、
前記チャンバを開けた状態で、前記多段ラックは、高さ方向から前記ステージに着脱される、ことを特徴とする請求項3に記載の燃焼合成炉。
【請求項5】
前記多段ラックは、CCコンポジット、チタン、或いは、ステンレスで形成される、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃焼合成炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼合成法にて無機化合物を合成するための燃焼合成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、窒化アルミニウム(AlN)や窒化ケイ素(Si)は、高絶縁性と高熱伝導性を有するため、高放熱フィラーなどとして応用されている。AlNやSiは、自己生成熱により合成反応を進行させる燃焼合成法により製造できる。
【0003】
従来において、生産性を高めるべく、坩堝を多段式にして、処理容積を稼いでいた。このとき、坩堝を各段から回収する作業を行う際、発熱部としての坩堝に直接触れることになるため、作業安全性を考慮して、火傷しない温度域まで坩堝を冷却させる必要があった。
特許文献1では、坩堝を反応容器(チャンバ)内で多段に積層し、反応容器の壁に設けた冷却ジャケットにより冷却効果を高める構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-172548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、反応容器内で坩堝を順に冷却させるため、処理時間が長くかかる問題があった。また、特許文献1の構成では、坩堝を反応容器内に送り込む導入室、及び坩堝を反応容器から取り出す回収室が設けられ、導入室から反応容器を介して回収室へ坩堝を移動させる機構が複雑化した。また、坩堝をスムースに各室を移動させるための高い制御が必要と考えられる。
【0006】
また、従来では、積層された複数の坩堝の各原料に対して着火点が一か所しか設けられていなかった。特許文献1においても同様に、反応容器の上部に着火装置が一つだけ設けられている。この構成では、反応容器内に送り込まれた坩堝に充填された原料に対し、順番に着火装置を作動させて燃焼合成を行うため、生産効率を効果的に高めることはできなかった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、冷却にかかる時間を短縮できる燃焼合成炉を提供することを目的とする。加えて、本発明は、チャンバ内に設置された複数の坩堝内の原料に対して同時着火を可能とし、生産効率を向上させた燃焼合成炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、坩堝に充填した原料に対して、燃焼合成法により、無機化合物を合成する燃焼合成炉であって、前記坩堝を複数段に配置可能な多段ラックと、前記多段ラックを載置するステージと、前記多段ラックを内部に収容可能なチャンバと、を有し、前記多段ラックは、前記ステージに対して着脱可能とされる、ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、前記多段ラックの各段上部に、電極レールを備え、前記電極レールの任意の位置に、前記原料に着火するためのフィラメントが装着可能とされることが好ましい。
本発明では、前記多段ラックには、前記ステージに着脱するための吊り下げ部が設けられることが好ましい。
【0010】
本発明では、前記チャンバは、横方向にスライド開閉可能に構成されており、前記チャンバを開けた状態で、前記多段ラックは、高さ方向から前記ステージに着脱されることが好ましい。
本発明では、前記多段ラックは、CCコンポジット、チタン、或いは、ステンレスで形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃焼合成炉によれば、坩堝を複数段に設置できる多段ラックを、ステージから着脱可能に支持し、該多段ラックをチャンバ外に取り外すことができる。このため、燃焼合成が終了した複数の坩堝を多段ラックごと取り外して一度に冷却でき処理時間を短縮できる。
【0012】
加えて、本発明では、多段ラックの各段上部に、フィラメントを装着できる電極レールが設けられており、フィラメントの位置を任意に設定したり、各電極レールごとにフィラメントを複数設けることができ、生産効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態における燃焼合成炉の全体概要図であり、ステージ上から多段ラックが吊り下げられた状態を示す側面図である。
図2】本実施の形態における燃焼合成炉の全体概要図であり、図1の状態から多段ラックをステージ上に載置し、チャンバを閉じた状態を示す側面図である。
図3】チャンバ内に収容された多段ラック及び坩堝等を示す透視側面図である。
図4】本実施の形態における多段ラックの斜視図である。
図5図4に示す多段ラックに坩堝をセットした斜視図である。
図6図5に示す多段ラックを真上から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<従来における燃焼合成炉の問題点>
大型の燃焼合成炉においては、原料を充填した坩堝を多段式に積層し、燃焼合成が終了した坩堝から順に回収する。このとき、坩堝は高温となっているため、坩堝を一つずつ冷却してから回収することが必要となり、処理時間が長くかかる問題が生じた。
【0016】
また、従来においては、燃焼合成炉に対し着火点は一つのみ設けられており、着火点の位置も決まっていた。このため、生産効率を高めることが難しく、また、原料の量や種類、製造条件などに対して臨機応変に対応することができなかった。
【0017】
特許文献1に示すように、原料を充填した複数の坩堝を順に反応容器内に搬送し、反応容器内では、収容された坩堝の順に原料に着火し、続いて、燃焼合成が終了し冷却された坩堝を反応容器から取り出す燃焼合成炉の構成が開示されている。
【0018】
しかしながら、特許文献1における燃焼合成炉の構成では、燃焼合成が終了した坩堝を順に冷却し回収する構成であるため、冷却の処理時間を効果的に短縮できない。また、着火点は一つだけであり、生産効率を効果的に高めることができない。加えて、坩堝を反応容器内に搬入し、反応容器から取り出すまでの移動距離が長く、坩堝内に入れた原料の崩れや落下の危険性も懸念される。
【0019】
上記した従来の問題点に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行い、燃焼合成炉1に、坩堝5を複数段に配置できる多段ラック2を装備し、従来の問題点を解決するに至った。すなわち、本実施の形態の燃焼合成炉1は、坩堝を複数段に配置可能な多段ラック2と、多段ラック2を載置するステージ3と、ステージ3及び多段ラック2を内部に収容可能なチャンバ4と、を有し、多段ラック2は、ステージ3に対して着脱可能とされることを特徴とする。これにより、多段ラック2は取り外し自由であり、燃焼合成が終了した複数段の坩堝5に対して、一度に冷却でき、処理時間の短縮を図ることができる。また、各段ごとに着火点を設けることが可能であり、複数の坩堝5内の各原料に対して同時に着火でき生産効率の向上を図ることができる。以下、図面を用いて、本実施の形態における燃焼合成炉1及び多段ラック2の構成を説明する。
【0020】
<本実施の形態における燃焼合成炉1について>
図1は、本実施の形態における燃焼合成炉1の全体概要図であり、特に、チャンバ4が開いており、ステージ3上から多段ラック2が吊り下げられた状態を示す側面図である。図2は、本実施の形態における燃焼合成炉1の全体概要図であり、特に、図1の状態から多段ラック2をステージ3上に載置し、チャンバ4を閉じた状態を示す側面図である。図3は、チャンバ4内に収容された多段ラック2及び坩堝を示す透視側面図である。
【0021】
図1図3に示すように、燃焼合成炉1は、坩堝5を複数段に設置可能な多段ラック2と、多段ラック2を載置するステージ3と、多段ラック2及びステージ3を収容可能なチャンバ4と、を有して構成される。
【0022】
ここで、各図において、X1-X2方向は、横方向であり、X1方向は左方向、X2方向は右方向である。また、Y1-Y2方向は、縦方向であり、Y1方向は手前方向、Y2方向は奥行方向である。Z1-Z2方向は、高さ方向であり、Z1方向は上方向、Z2方向は下方向である。X1-X2方向、Y1-Y2方向、及びZ1-Z2方向は、互いに直交する関係にある。
【0023】
図1図2に示すように、チャンバ4及びステージ3は、台6の上方に設置される。チャンバ4は、横方向(X1-X2方向)にスライド移動できるように、台6の上に支持されている。例えば、第6の表面にはレール(図示しない)が設けられており、チャンバ4の脚部4aは、レール上を横方向(X1-X2方向)にスライド移動できる。本実施の形態では、チャンバ4を自動制御にてスライド移動させることができる。なお、チャンバ4を手動でスライド移動できるように構成してもよい。図1は、チャンバ4が右方向(X2方向)に移動して開いた状態である。
【0024】
図1に示すように、チャンバ4は、左側端部4bに開口部4cが設けられており、それ以外は閉じている。チャンバ4は、略円筒状であり、左側端部4bの外面には、円周方向に沿って凹部4dと鍔部4eとが交互に設けられている。
【0025】
図1に示すように、台6の上の左側(X1側)には、チャンバ4と対向する位置に蓋体7が設けられている。蓋体7は、チャンバ4の開口部4cと対向する右側端部7aが開口部7bとなっており、開口部4cは、円周方向に沿って、凹凸が交互に設けられる。チャンバ4の左側端部4bに設けられた凹部4dと、蓋体7の開口部4cに設けられた凸部とは略同形状で形成されており、同様に、チャンバ4の左側端部4bに設けられた鍔部4eと、蓋体7の開口部4cに設けられた凹部とは略同形状で形成されている。
【0026】
図1に示すように、蓋体7は、右側端部7aの内側に径が大きい空間7cが形成されており、空間7cにチャンバ4の左側端部4bが進入できる。すなわち、図2図3のように、チャンバ4を、図1の状態から、左方向(X1方向)にスライド移動させたとき、チャンバ4の左側端部4bに設けられた凹部4d及び鍔部4eと、蓋体7の開口部7bに設けられた凹凸との形状が一致してチャンバ4の左側端部4bは、蓋体7の空間7cまで進入する。
【0027】
図1図3に示すように、蓋体7の左側端部の内側には側盤8が設けられ、蓋体7の空間7cまで進入したチャンバ4の左側端部4bは、側盤8に密着し、チャンバ4と蓋体7からなる密閉空間を形成できる。
【0028】
また、蓋体7の側盤8にはステージ3が固定支持されている。図1に示すように、ステージ3は、蓋体7から離れる方向(右方向(X2方向))に向けて突出している。
【0029】
ステージ3の上面には、原料を充填した坩堝5を各段に配置した多段ラック2が載置されるため、ステージ3は、該多段ラック2が載置されても変形したり損傷しない十分な強度を備える。
【0030】
また、ステージ3の表面の広さは、多段ラック2よりも大きく、多段ラック2がステージ3の外縁部からはみ出さないようにステージ3の上面内に多段ラック2を載置できるようになっている。また、ステージ3の両側面は、上方(Z1方向)に折り曲げられており、多段ラック2を安定してステージ3上に載置できる。
【0031】
図示しないが、蓋体7の側盤8の外側(チャンバ4と対向する側とは反対側:X1側)には、制御部、配管及びスイッチなどが設けられている。
次に、多段ラック2の構造について詳述する。
【0032】
[多段ラック2]
図4は、本実施の形態における多段ラック2の斜視図である。図5は、図4に示す多段ラック2に坩堝5をセットした斜視図である。図6は、図5に示す多段ラック2を真上から見た平面図である。
【0033】
図4に示すように、多段ラック2は、高さ方向(Z1-Z2方向)に延出し、多段ラック2の角に位置する複数本の支柱21と、各支柱21の間の下端及び上端をそれぞれ、横方向(X1-X2方向)にて繋ぐ複数本の第1の横梁部22と、各支柱21の間の下端及び上端をそれぞれ、縦方向(Y1-Y2方向)にて繋ぐ複数本の第1の縦梁部23と、を備える。
【0034】
さらに、多段ラック2は、上端及び下端に位置する第1の横梁部22の中間に配置された複数本の第2の横梁部24と、上端及び下端に位置する第1の縦梁部23の中間に配置された複数本の第2の縦梁部25と、を備える。さらに、各段に位置する第1の横梁部22の間、及び第2の横梁部24の間を縦方向(Y1-Y2方向)に縦断する第3の縦梁部26が設けられる。これら支柱21及び各梁部が、溶接などにより組み立てられて複数段の多段ラック2が構成される。図4に示す多段ラック2は、4段構造であるが、段数(棚数)を限定するものではない。また多段ラック2における各段の高さも任意に設定できる。
【0035】
また、多段ラック2には、左側面(X1側の側面)、右側面(X2側の側面)及び、裏面(奥側(Y2側)の面)の各中間位置に、支柱21と略平行に延出する落下防止柱27が、各梁部に固定され支持されている。これにより、図5図6に示すように、多段ラック2の各段に、原料を充填した坩堝5を配置したときに、坩堝5が多段ラック2から落下するのを適切に防止できる。なお、多段ラック2に固定支持された落下防止柱27は、多段ラック2の正面(手前側(Y1側)の面)には設けられていない。これにより、多段ラック2の各段に正面側から坩堝5を挿入することができる。ただし、多段ラック2の正面側から坩堝5が落下することを防止するために、図4に示すように、多段ラック2のY1側の下端及び上端に位置する第1の横梁部22には、それぞれ、貫通孔28aを備えた規制部材28が設けられている。これにより、坩堝5を多段ラック2の各段に収納した後、貫通孔28aに落下防止柱(図示しない)を通すことで、多段ラック2の正面側(Y1側)からの落下を適切に防止できる。
【0036】
図4に示すように、多段ラック2の上面には、複数の吊り下げ部29が設けられている。吊り下げ部29は、例えば、上端に位置する第1の縦梁部23と第3の縦梁部26との間に固定されている。吊り下げ部29は、例えば、板状であり、板を立てた状態として固定支持される。図4に示すように、吊り下げ部29には、穴29aが設けられている。図1に示すように、この穴29aに、ロープ9を接続することで、多段ラック2を吊り下げることができる。
【0037】
図4図6に示すように、各段の上方には、電極レール30が設けられている。例えば、電極レール30は、多段ラック2の左側面(X1側の面)に位置する第1の縦梁部23及び第2の縦梁部25の夫々から、右方向(X2方向)に向けて延出しており、縦梁部23、25、26との接続部は、絶縁碍子により絶縁されている。電極レール30は、各段に2本ずつ設けられている。この実施の形態では、各電極レール30は、左側面側の第1の縦梁部23及び第2の縦梁部25から右側面側の第1の縦梁部23及び第2の縦梁部25にまでわたって設けられているが、これに限定されない。例えば、各電極レール30は、左側面側の第1の縦梁部23及び第2の縦梁部25から、右側面側の第1の縦梁部23及び第2の縦梁部25の手前の位置まで延出する形態(片持ち状)であってもよい。
【0038】
図5は、図4に示す多段ラック2の各段に、原料を充填した坩堝5を配置した状態を示しているが、各段に坩堝5を配置する度に、図5図6に示すように、坩堝5の上方にて対向する電極レール30の間に、フィラメント31がセットされる。例えば、固定クリップ32を用いて、フィラメント31を電極レール30間に固定できる。フィラメント31は、横方向(X1-X2方向)から見ると、下方(Z2方向)に撓んでおり、坩堝5内の原料の表面に接している。限定されるものではないが、多段ラック2の下段から上段に向けて坩堝5を収納し、坩堝5の収納の度にフィラメント31のセッティングを行う。図4に示すように、多段ラック2は、支柱21及び各梁部からなる骨組み構造であるから、例えば、真上からフィラメント31のセッティングが可能である。したがって、下段側から、坩堝5の収納と、フィラメント31のセッティングを次々に行うことが、坩堝5を容易に多段状に配置でき、また配置に要する時間も短くできる。
【0039】
図3に示すように、電源クリップ33が、各段に設けられた電極レール30の左端部に接続される。図示しないが、電源クリップ33により配線34を介して電極レール30が制御盤(図示せず)に電気的に接続されている。電極レール30間を通電して、フィラメント31が熱せられ、各坩堝5に充填された原料が着火することで、燃焼合成法により、所定の無機化合物を製造できる。
【0040】
本実施の形態では、チャンバ4の内部全体を加熱するものではなく、多段ラック2に配置された各坩堝5ごとに加熱できる。このため、チャンバ4内全体が高温になることはなく、多段ラック2は、セラミックスやグラファイトほどの高温耐性を有していなくてもよく、例えば、CCコンポジット、チタン、或いは、ステンレスにより形成できる。これにより、機械的強度に優れた多段ラック2を製造でき、図1に示すように、多段ラック2を吊して別の場所へ移動させ作業を行う等、作業効率の向上を図ることができる。なお、CCコンポジットは、チタンやステンレスに比べて多少強度は劣るが、多段ラック2の大きさや形状に応じて使用可能である。CCコンポジットは、軽量で熱伝導率が高く冷却が速くなるメリットがある。また、チタンは軽量であり好ましい。またステンレスは、コスト面で有利である。
【0041】
[作業工程]
燃焼合成の終了から、次の燃焼合成の開始までの作業の流れについて図面を使用して説明する。
【0042】
燃焼合成の終了後、図1に示すように、チャンバ4を右方向(X2方向)にスライド移動させて多段ラック2を外部に開放する。
【0043】
次に、図1に示すように、多段ラック2の吊り下げ部29にロープ9を接続して、多段ラック2を上方に持ち上げてステージ3から離し、燃焼合成炉1から搬出する。
【0044】
燃焼合成炉1の外部で、多段ラック2に配置された複数の坩堝5を冷却する。坩堝5が所定温度以下となったら、多段ラック2から各坩堝5を取り出す。
【0045】
続いて、原料を充填した新たな坩堝5を多段ラック2にセットする。このとき、図6に示すように、各段の電極レール30の間に、フィラメント31を接続し、フィラメント31を坩堝5内の原料の表面に接触させる。
【0046】
多段ラック2をロープ9で吊り上げ、ステージ3上に載置する。図3に示す電源クリップ33を多段ラック2の各電極レール30に接続し、チャンバ―4を左方向(X1方向)にスライド移動させて、多段ラック2をチャンバ―4内に収める。これにより、燃焼合成前の設置準備が完了する。
【0047】
例えば、本実施の形態では、AlNを燃焼合成法により製造できる。このとき、Alを主成分とする原料を坩堝5に入れておき、原料の表面にフィラメント31を接触させた状態として、チャンバ4内を、所定圧まで脱気する。その後、窒素置換を行い、窒素加圧雰囲気にする。
【0048】
続いて、電極レール30に接続されたフィラメント31に対して、原料が着火するまで、5~10秒程度、通電を行い、原料中のAlと窒素ガスの燃焼合成反応を開始する。
【0049】
[本実施の形態における燃焼合成炉1の効果]
本実施の形態の燃焼合成炉1の特徴的部分は、多段ラック2が、ステージ3に対し着脱可能とされた点である。
【0050】
これにより、本実施の形態では、多段ラック2を燃焼合成炉1の外部に搬出でき、外部にて、冷却作業や坩堝5の設置作業を行うことができ、時間短縮できる。
【0051】
また、本実施の形態では、燃焼合成終了後の高温状態にある坩堝5は多段ラック2の各段に配置されており、坩堝5を直接搬出せずに、多段ラック2の搬出をすればよい。このとき、多段ラック2自体は、坩堝5ほどの高温にはならず、多段ラック2を取り扱うことは、高温状態の坩堝5を直接扱うことに比べて作業安全性に優れる。
【0052】
生産効率について説明する。本実施の形態では、多段ラック2の各段上部に、電極レール30が設けられており、電極レール30の任意の位置に、坩堝5に充填された原料に着火するためのフィラメント31を接続できる。このように、本実施の形態では、フィラメント31の位置を任意に設定でき、また、各段の電極レール30に対して複数のフィラメント31を設けて着火点を複数にもできる。これにより、燃焼距離の短縮が可能になり、合成時間を短くできる。また、本実施の形態では、多段ラック2の各段に配置された坩堝5内の原料に対して、同時に着火でき、各坩堝5の原料に対して燃焼合成を行うのにかかるトータル時間を短縮できる。なお、複数の着火点を同時に着火させる場合、各フィラメント31の発熱量が低下しないように、燃焼合成炉1には電流値の調整機構を設けることが好適である。さらに、本実施の形態では、多段ラック2をステージ3に対して着脱可能であるから、燃焼合成が終了した多段ラック2を燃焼合成炉1の外部に搬出した後、時間を空けずに、新たな原料が充填された坩堝5を備える多段ラック2を燃焼合成炉1に搬入できる。このため、燃焼合成炉1内への坩堝5の入れ替えに要する時間を短くできる。以上により、生産効率の向上を図ることができる。また、フィラメント31の位置や数を自由に変更できるから、原料の量や種類、製造条件などに合わせて臨機応変に対応できる。
【0053】
本発明は、上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらに、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。従って、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0054】
例えば、多段ラック2を冷却する冷却装置は、燃焼合成の終了後、チャンバ4内を冷却可能に設けられていてもよい。
【0055】
また、多段ラック2に配置される複数段の坩堝5に充填された原料は、同じであっても違っていてもよい。したがって、各坩堝5によって製造される無機合成物の材質が異なっていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、無機合成物を製造する燃焼合成炉に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 :燃焼合成炉
2 :多段ラック
3 :ステージ
4 :チャンバ
4a :脚部
4b :左側端部
4c :開口部
4d :凹部
4e :鍔部
5 :坩堝
6 :台
7 :蓋体
7a :右側端部
7b :開口部
7c :空間
8 :側盤
9 :ロープ
21 :支柱
22 :第1の横梁部
23 :第1の縦梁部
24 :第2の横梁部
25 :第2の縦梁部
26 :第3の縦梁部
27 :落下防止柱
28 :規制部材
28a :貫通孔
29 :吊り下げ部
29a :穴
30 :電極レール
31 :フィラメント
32 :固定クリップ
33 :電源クリップ
34 :配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6