(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026947
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/04 20060101AFI20240221BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N17/04
G01N27/26 351J
G01N27/26 351M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129514
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 弘光
(72)【発明者】
【氏名】岸垣 暢浩
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 照久
(72)【発明者】
【氏名】山戸 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】白石 智規
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA02
2G050AA07
2G050EB03
(57)【要約】
【課題】構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に推定することができる塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、導電性を有する材料により部材上に設けられた電極部の表面を覆うように試験用塗膜が形成された試験片を作成し、前記試験片を所定の観測環境において暴露し、前記電極部から得られる電気特性を検出し、前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する、
塗装劣化診断方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、導電性を有する材料により部材上に設けられた電極部の表面を覆うように試験用塗膜が形成された試験片を作成し、
前記試験片を所定の観測環境において暴露し、
前記電極部から得られる電気特性を検出し、
前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する、
塗装劣化診断方法。
【請求項2】
前記部材は、第1金属により形成され、
前記電極部は、前記第1金属と異なる第2金属により形成された電極と、前記電極と前記部材との間を絶縁する絶縁層とを備え、
前記電気特性は、前記電極と前記部材との間に生じる電流値を検出する、
請求項1に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項3】
前記構造物が設置された観測点に前記試験片を設置し、
前記観測点における前記観測環境に前記試験片を暴露する、
請求項2に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項4】
前記構造物が設置された観測点における前記観測環境を模した疑似環境を生成可能な試験装置に前記試験片を設置し、
前記試験装置により前記疑似環境を生成し前記疑似環境に前記試験片を暴露する、
請求項2に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項5】
前記電極を予め所定の劣化状態に加工し、前記試験用塗膜が形成された前記試験片を形成する、
請求項3又は4に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項6】
導電性を有する材料を用いて部材上に設けられた電極部と、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、前記電極部を覆うように形成された塗膜と、を備える試験片の前記電極部から得られる電気特性を検出する検出部と、
前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する演算部と、を備える、
塗装劣化診断装置。
【請求項7】
構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置に搭載されたコンピュータに、
導電性を有する材料を用いて部材上に設けられた電極部と、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、前記電極部を覆うように形成された塗膜と、を備える試験片の前記電極部から得られる電気特性を検出させ、
前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装面の寿命を予測するための塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔等の金属構造物は、腐食防止のために部材の表面を塗膜で覆う塗装が施されている。金属部材の表面に施工された塗装は、経時的に劣化が進行し金属部材が腐食する虞がある。そのため、金属構造物の塗装面は、定期的に点検され、劣化の状態に応じて塗り替え等の補修が行われる(例えば、特許文献1参照)。一般的に、構造物に施工された塗装の寿命は、塗装の目的に応じて、光沢度の低下や塗膜の消失減耗に基づいて評価されている。
【0003】
塗装の点検においては、作業者が限度見本等と塗装面とを比較して、経験や知見に基づいて塗膜下に腐食が発生しているか否かを判定し、塗り替え時期を決定している。このとき、塗装面が塗り替え時期に達していなければ、継続的に点検を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防錆を目的とした実際の塗装の場合、塗膜下において発生する腐食の面積の拡大度合いを判断し塗り替えを行うか否かが決定されている。塗装寿命を塗膜下腐食の発生により評価するために、塗装試験片を屋外暴露して寿命評価を行う場合がある。しかしながら、塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に測定する方法はまだ提案されていなかった。
【0006】
本発明は、構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に推定することができる塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、導電性を有する材料により部材上に設けられた電極部の表面を覆うように試験用塗膜が形成された試験片を作成し、前記試験片を所定の観測環境において暴露し、前記電極部から得られる電気特性を検出し、前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する、
塗装劣化診断方法である。
【0008】
本発明によれば、試験片の電極の電気特性を検出することにより構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装劣化状態を定量的に推定することができる。
【0009】
本発明の前記部材は、第1金属により形成され、前記電極部は、前記第1金属と異なる第2金属により形成された電極と、前記電極と前記部材との間を絶縁する絶縁層とを備え、前記電気特性は、前記電極と前記部材との間に生じる電流値を検出してもよい。
【0010】
本発明によれば、電極と部材との間に生じるガルバニック電流を検出することにより、電源を用いることなく、塗装の劣化度合を定量的に評価することができる。
【0011】
本発明は、前記構造物が設置された観測点に前記試験片を設置し、前記観測点における前記観測環境に前記試験片を暴露してもよい。
【0012】
本発明によれば、試験片を構造物と同じ環境に暴露することにより、構造物の塗装劣化度合を正確に評価することができる。
【0013】
本発明は、前記構造物が設置された観測点における前記観測環境を模した疑似環境を生成可能な試験装置に前記試験片を設置し、前記試験装置により前記疑似環境を生成し前記疑似環境に前記試験片を暴露してもよい。
【0014】
本発明によれば、試験装置を用いて疑似環境を生成することにより、試験片を構造物と同様の環境において劣化度合を観測することができる。
【0015】
本発明の前記電極を予め所定の劣化状態に加工し、前記試験用塗膜が形成された前記試験片を形成してもよい。
【0016】
本発明によれば、電極を予め所定の劣化状態に加工することにより、劣化度合に応じた試験片の電気特性を観測し、検出値をデータベース化することができる。
【0017】
本発明の一態様は、導電性を有する材料を用いて部材上に設けられた電極部と、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、前記電極部を覆うように形成された塗膜と、を備える試験片の前記電極部から得られる電気特性を検出する検出部と、 前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する演算部と、を備える塗装劣化診断装置である。
【0018】
本発明によれば、試験片の電極の電気特性を検出することにより構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に推定する塗装劣化診断装置を構成することができる。
【0019】
構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置に搭載されたコンピュータに、導電性を有する材料を用いて部材上に設けられた電極部と、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、前記電極部を覆うように形成された塗膜と、を備える試験片の前記電極部から得られる電気特性を検出させ、前記電気特性の検出値に基づいて、前記塗膜の劣化状態、及び前記塗膜が接触している塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定させる、プログラムである。
【0020】
本発明によれば、験片の電極の電気特性を検出することにより構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に推定する塗装劣化診断装置を動作させるプロクラムを構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、構造物の塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を定量的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】試験片に設けられる電極の構成を示す平面図である。
【
図3】劣化が進行した試験片の構成を示す断面図である。
【
図4】劣化が進行した試験片に水分が浸透する状態を示す断面図である。
【
図5】検出部により検出される電流値の予測値を示す図である。
【
図6】異なる条件により形成された試験片の電気特性を示す図である。
【
図7】塗装劣化診断システムの構成を示す図である。
【
図8】塗装劣化診断方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムの実施形態について説明する。塗装劣化診断方法は、塗装の劣化を試験する試験片を用いて行われる。
【0024】
図1に示されるように、試験片Sは、金属材料により板状に形成された部材S1と、部材S1の表面に設けられた電極部S2と、電極部S2の表面を覆うように形成された試験用塗膜S10とを備えている。部材S1は、管理対象となる鉄塔等の構造物と同じ素材により形成されている。部材S1は、例えば、鉄素材の鋼板により形成されている。部材S1は、の素材は管理対象の構造物に応じて適宜変更されてもよい。部材S1の表面には、メッキ層が形成されていてもよい。部材S1の一面側には、電極部S2が設けられている。
【0025】
電極部S2は、例えば、導電性を有する材料により形成された電極S3と、電極S3と部材S1との間を絶縁する絶縁層S4とを備えている。電極S3は、部材S1を形成する金属材料(第1金属)に比してイオン化傾向が低い金属材料(第2金属)により形成されている。即ち、電極S3は、部材S1と電気的に接触した際にガルバニック電流(腐食電流)が流れる材料により形成されている。部材S1、絶縁層S4、及び電極S3の表面を試験用塗装素地S11とする。試験用塗膜S10と試験用塗装素地S11とを含む層を試験用塗装と呼ぶ。試験用塗装素地S11は、塗膜が接触している塗装素地を再現したものである。本実施形態において、電極S3は、銀素材により形成されている。電極S3は、部材S1との間に水等の電解質が媒介した際に電位差に基づいて電流が流れるように形成されている。本実施形態では、電極S3は、部材S1に対して陰極側となり、部材S1側に腐食が生じる。
【0026】
図2に示されるように、電極S3には、複数のスリット穴SHが形成されたスリット部STが形成されている。スリット穴SHは、長孔に形成されている。スリット部STは、複数のスリット穴SHが配置されている。絶縁層S4は、エポキシ樹脂等の非導電性材料により形成されている。絶縁層S4には、複数のスリット穴SHに対応して部材S1まで貫通した複数の貫通孔S4Hが形成されている。電極S3と部材S1とには、電極S3から得られる電気特性を検出する検出部Cが電気的に接続されている。検出部Cは、例えば、無抵抗電流計である。検出部Cは、電極S3と部材S1との間に流れる電流を検出する。電極部S2は、試験用塗膜S10により覆われている。
【0027】
試験用塗膜S10は、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用いて形成されている。試験用塗膜S10は、例えば、エポキシ樹脂系塗料である。試験用塗膜S10は、管理対象の構造物に応じて適宜変更されてもよい。試験用塗膜S10は、2層以上の複数の層により形成されていてもよい。試験用塗膜S10は、同じ塗料により複数の層により形成されていてもよく、異なる塗料により複数の層により形成されていてもよい。複数の層により形成された試験用塗膜S10には、防錆用塗膜や下地用塗膜が含まれていてもよい。試験片Sは、所定の観測環境において暴露される。試験片Sは、例えば、構造物が設置された観測点に設置される。試験片Sは、所定の期間の間、観測点に設置された後、試験用塗膜S10の劣化、及び試験用塗装素地S11の腐食状態が観測される。試験片Sは、構造物が設置された観測点における観測環境を模した疑似環境を生成可能な試験装置(不図示)内に設置され、試験装置を用いて試験用塗膜S10の劣化や試験用塗装素地S11の腐食状態を観測してもよい。試験装置によれば、試験片Sの劣化を促進するように疑似環境を変化させることができる。試験装置によれば、観測点における暴露に比して短期間において試験片Sの劣化を観測することができる。
【0028】
図3に示されるように、試験片Sは、観測点や試験装置内において所定期間の間、暴露されると試験用塗膜S10が劣化する。試験用塗膜S10が劣化すると、塗膜の膜厚が減少し、塗膜表面から部材S1まで貫通するピンホールPが発生し、試験用塗膜S10と部材S1又は電極S3との間が剥離して試験用塗膜S10の下層に隙間Qが生じる。
【0029】
図4に示されるように、ピンホールPや隙間Qには、降雨時等に水が侵入する。そうすると、試験用塗膜S10の下層において電極S3と部材S1との間に生じる電位差に基づいて電流が流れ、部材S1を含む試験用塗装素地S11に腐食が生じる。検出部Cは、電極S3と部材S1との間に流れる電流を検出する。検出部Cにより検出される検出値を定期的に観測する。
【0030】
図5に示されるように、所定期間において、検出部Cにより検出される電流値は、試験片Sが水に暴露された際に上昇すると予想される。また、電流値は、試験片Sの劣化状態が進行するほど上昇することが予想される。即ち、電流値は、試験用塗膜S10が劣化するほど上昇する傾向となると予想される。電流値は、試験用塗膜S10の下層の試験用塗装素地S11の腐食が進行するほど上昇する傾向があると予想される。電流値は、試験用塗膜S10の下層に水が侵入するほど上昇する傾向があると予想される。試験用塗膜S10の下層の試験用塗装素地S11の劣化度合いは、水分だけでなく、観測点における紫外線量や塩分量の違いによっても異なると予想される。上記の予想を確認すると共に、構造物の状態を再現するため、下層の状態を変えて形成された複数の試験片Sが用意された。また、試験片Sは、紫外線の照射時間を変えて電流値が観測された。
【0031】
図6に示されるように、様々な条件に基づいて形成された複数の試験片Sの電流値が観測された。観測において、塗装前に塩化化合物を部材S1の表面に付着させ、試験用塗膜S10を形成し、強力な紫外線を発生する光源により第1照射時間(325時間)の間に紫外線を照射した第1試験片が形成された。光源は、例えば、太陽光の10倍以上の紫外線を発生するメタルハイドランプである。この光源によれば、屋外の1年分に相当する紫外線エネルギーを数日程度で照射させることができ、観測期間を短縮可能である。
【0032】
また、観測において、塗装前に部材S1と電極S3との間で腐食を発生させ、試験用塗膜S10を形成し、強力な紫外線を発生する光源により第1照射時間の間に紫外線を照射した第2試験片が形成された。即ち、第2試験片は、予め試験用塗装素地S11に腐食が生じると共に、試験用塗膜S10が予め第1試験片に比して劣化した状態により形成されている。また、観測において、予め部材S1と電極S3との間で腐食を発生させ、試験用塗膜S10を形成し、強力な紫外線を発生する光源により第2照射時間(650時間)の間に紫外線を照射した第3試験片が形成された。即ち、第3試験片は、予め試験用塗装素地S11に腐食が生じると共に、試験用塗膜S10が予め第2試験片に比して劣化した状態により形成されている。
【0033】
図示するように、第1試験片は、試験用塗膜S10への乾燥状態と湿潤状態において電流値が変化することがわかる(比較例:
図5)。また、紫外線照射時間が同じ第1試験片と第2試験片を比較すると、試験用塗装素地S11が予め腐食している第2試験片は、第1試験片に比して電流値が増加することがわかる。また、試験用塗装素地が予め腐食しつつ塗膜への紫外線照射時間が異なる第2試験片と第3試験片を比較すると、第3試験片は、第2試験片に比して電流値が増加することが分かる。これにより、塗装された構造物は、塗装素地に腐食が発生するほど電流値が増加すると共に、塗膜の劣化が進行するほど電流値が増加する傾向があることが分かる。実験結果に基づいて、構造物が設置されている位置の紫外線量、降水量、塩分等の環境条件を示すパラメータと、電流値との関係がデータベース化される。そうすると、構造物の位置における環境条件に設置された試験片Sから検出される電気特性をモニタリングすることで、構造物の塗装に生じる劣化を定量的に評価することができる。
【0034】
図7に示されるように、構造物の塗膜の劣化、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合いを判定する塗装劣化診断システム1を構築し、構造物の塗装状態を管理することができる。塗装劣化診断システム1は、例えば、管理対象となる複数の鉄塔Tm(m自然数)に設けられた所定数の検出部C-mと、検出部C-mの検出結果に基づいて、鉄塔Tmの塗装劣化状態を管理する塗装劣化診断装置10とにより構成されている。
【0035】
鉄塔Tmには、鉄塔Tmの塗装状態に応じて形成された試験片セットSn(n:自然数)が空中に暴露された状態において配置されている。試験片セットSnは、少なくとも1つの試験片Sにより構成される。試験片セットSnは、検出値の平均値を取得するため1つ以上の試験片Sにより構成されている。試験片Sは、導電性を有する材料を用いて部材上に設けられた電極S3と、構造物の表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、電極S3を覆うように形成された試験用塗膜S10と、により形成されている。鉄塔Tmには、試験片Sの試験用塗膜S10、及び試験用塗装素地S11の劣化状態を測定するための検出部C-mが設けられている。検出部C-mは、試験片Sの電極S3から得られる電気特性を検出する。検出部C-mは、例えば、無抵抗電流計を備え、電極S3から出力される電流値を検出する。
【0036】
検出部C-mは、例えば、有線或いは無線通信に基づいてネットワークNWを介して塗装劣化診断装置10に通信可能に接続されている。検出部C-mは、例えば、定期的な計測タイミングにおいて撮像データ等の検出値を塗装劣化診断装置10に送信する。
【0037】
塗装劣化診断装置10は、管理対象となる鉄塔Tmの塗装時期を管理するための情報処理端末装置である。塗装劣化診断装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。塗装劣化診断装置10は、検出部C-mとネットワークNWを介して通信可能に接続されている。塗装劣化診断装置10は、例えば、検出部C-mから検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて塗膜の寿命を算出する演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を表示する表示部18とを備える。
【0038】
取得部12は、鉄塔Tmと同様の条件において試験用塗膜S10及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む塗装の劣化状態を測定した実測値を取得する。取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワークに接続された通信インタフェースである。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。記憶部16は塗装劣化診断装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを提供するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、鉄塔Tmの塗膜の劣化状態、及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む塗装の劣化状態に関する情報を表示する。
【0039】
取得された検出値に基づいて、塗装劣化診断装置10において、試験片Sの試験用塗膜S10の劣化状態、及び試験用塗装素地S11の腐食状態が判定される。演算部14は、例えば、試験片Sから出力された電流値に基づいて試験片Sの試験用塗膜S10の劣化状態、及び試験用塗装素地S11の腐食状態を判定する。例えば、予め試験片Sの試験用塗膜S10の劣化状態、及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む試験片Sの塗装の劣化度合いを示すデータベースに基づいて、鉄塔Tmの塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態を判定するための閾値が設定される。閾値は、塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化状態に応じて段階的に設定されてもよい。閾値は、例えば、部材S1の腐食状態を段階的に示し、段階に応じて点検や補修が設定されてもよい。演算部14は、判定結果に基づいて試験用塗膜S10の劣化状態、及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む塗装の劣化状態を推定する。演算部14は、閾値と検出値とを比較し、検出値のレベルに応じて点検や補修を促す情報を表示部18に表示させる。演算部14は、例えば、予め試験片Sの試験用塗膜S10及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む塗装の劣化度合いを示すデータベースを教師データとするディープラーニングを用いた機械学習に基づいて検出値に基づく試験片Sの試験用塗膜S10及び試験用塗装素地S11の腐食状態を含む塗装の劣化状態を判定してもよい。
【0040】
図8には、塗装劣化診断システム1を用いた塗装劣化診断方法の各工程がフローチャートにより示されている。管理者は、鉄塔Tmの表面に形成された塗膜に用いられる塗料を用い、導電性を有する材料により部材S1上に設けられた電極部S2の表面を覆うように試験用塗膜S10が形成された試験片Sを作成する(ステップS100)。試験片Sは、第1金属により形成された電極S3と、電極S3と異なる第2金属により形成された部材S1と、により形成される。管理者は、試験片Sを所定の観測環境において暴露する(ステップS102)。
【0041】
試験片Sは、鉄塔Tm等の構造物が設置された観測点に設置される。試験片Sは、鉄塔Tmの観測環境に暴露される。塗装劣化診断装置10は、試験片Sの電極から得られる電気特性を定期的に検出する(ステップS104)。電気特性は、電極と前記部材との間に生じる電流を検出することで観測される。塗装劣化診断装置10は、試験片Sから検出された電気特性の検出値に基づいて、鉄塔Tmの塗膜の劣化状態、及び塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定する(ステップS106)。
【0042】
ステップS100からステップS104においては、鉄塔Tm等の構造物が設置された観測点における観測環境を模した疑似環境を生成可能な試験装置に試験片Sを設置し、試験装置により生成された疑似環境に試験片Sを暴露し、試験片Sからの検出値を観測してもよい。また、試験片Sは、設置される環境や鉄塔Tmの現状の劣化状態に応じて電極S3を予め所定の劣化状態に加工し、試験用塗膜S10を形成した状態において観測が行われてもよい。
【0043】
記憶部16に記憶されたプログラムは、構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置10に搭載されたコンピュータに、以下の処理を実行させる。プログラムは、試験片Sの電極S3から得られる電気特性を検出させ、電気特性の検出値に基づいて、塗膜の劣化状態、及び塗膜と構造物の表面との間の塗装素地の腐食状態を含む塗装の劣化度合を判定させる。
【0044】
塗装劣化診断装置10を構成する演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部16に設けられたHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0045】
上述したように塗装劣化診断方法によれば、金属構造物の塗装の劣化度合を定量的に評価することができる。塗装劣化診断方法によれば、実際の構造物の塗膜を模した試験用塗膜S10を有する試験片Sの電気特性を計測することにより、金属構造物の塗装の劣化度合を推定することができる。塗装劣化診断方法によれば、試験片Sの電気特性を観測することにより、観測点に設置された構造物の塗装の劣化度合を予測することができる。塗装劣化診断方法によれば、塗装劣化診断方法によれば、試験片Sの観測に基づいて管理対象となる全ての構造物の塗装面の状態や塗装時期を管理することができる。
【0046】
[変形例]
上記実施形態において試験片Sにおいて電極部S2は、第1金属により形成された部材S1と、第1金属と異なる第2金属により形成された電極S3と、により形成され、無抵抗電流計を用いて電流を検出しているものを例示した。部材S1と電極S3は、これに限らず電気伝導性を有する同素材により形成されていてもよい。この場合、電極部S2は、無抵抗電流計に代えて、外部電源装置を用いて電圧が加えられていてもよい。そして、検出部Cは、電極部S2の電流値や電圧値の変化を検出してもよい。また、電極部S2に加えられる電圧は、構造物に加えられている防食電圧を再現した電圧値、電流値が再現されていてもよい。電極部S2の素材は、金属だけでなく、炭素など電気伝導性を有している素材であれば他の素材に置き換えられてもよい。また、電極部S2に加えられる電圧は、直流だけでなく、交流であってもよい。即ち、試験片Sの電気特性の変化を評価可能であれば、他の素材や他の電気特性の検出方法を用いてもよい。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
10 塗装劣化診断装置
14 演算部
C、C-m 検出部
S 試験片
S1 部材
S2 電極部
S3 電極
S4 絶縁層
S10 試験用塗膜