(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026948
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】スイッチング制御回路、半導体装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129515
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS01
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB57
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE59
5H730FD01
5H730FG05
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】出力コンデンサの変動範囲を予め把握しておくことなく、不安定動作を検出して、フィルタ調整動作を実行できるスイッチング制御回路を提供する。
【解決手段】誤差信号X(n)を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、出力コンデンサCによる位相遅れを補償した制御値Y(n)を生成するデジタルフィルタ34と、制御値Y(n)に応じたデューティーでスイッチング素子Q1、Q2をオンオフ制御する駆動部35と、フィードバック信号FBと目標値REFとの差分値を積分して積分値Z(n)を算出する積分器36と、積分器36によって算出された積分値Z(n)が予め設定されたしきい値を上回ると、フィルタ特性を段階的に変化させて、デジタルフィルタ34の係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部37と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のオンオフ制御によって生成された矩形波を出力コンデンサによって平滑して出力する出力回路を制御するスイッチング制御回路であって、
前記出力回路の出力電圧をデジタル値のフィードバック信号に変換するアナログデジタルコンバータと、
前記フィードバック信号と目標値との誤差に応じた誤差信号を生成する誤差検出器と、
前記誤差信号を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、前記出力コンデンサによる位相遅れを補償した制御値を生成するデジタルフィルタと、
前記制御値に応じたデューティーで前記スイッチング素子をオンオフ制御する駆動部と、
前記フィードバック信号と前記目標値との差分値を積分して積分値を算出する積分器と、
前記積分器によって算出された前記積分値が予め設定されたしきい値を上回ると、
前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記デジタルフィルタの前記係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部と、を具備することを特徴とするスイッチング制御回路。
【請求項2】
前記係数調整部は、前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記積分値が最小となる前記フィルタ特性を探索し、探索した前記フィルタ特性に基づく前記係数に調整することを特徴とする請求項1に記載のスイッチング制御回路。
【請求項3】
前記係数調整部は、前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記積分値が許容値未満となる前記フィルタ特性を探索し、探索した前記フィルタ特性に基づく前記係数に調整することを特徴とする請求項1に記載のスイッチング制御回路。
【請求項4】
前記係数調整部は、前記フィルタ特性としてゲインを段階的に変化させることを特徴とする請求項2又は3記載のスイッチング制御回路。
【請求項5】
前記係数調整部は、前記フィルタ特性としてポールを段階的に変化させることを特徴とする請求項2又は3記載のスイッチング制御回路。
【請求項6】
前記出力回路が出力する負荷電流に基づいて負荷急変を検出し、前記負荷急変してから所定期間の動作を有効にする積分許可信号を前記積分器に出力する負荷急変検出部を具備することを特徴とする請求項1記載のスイッチング制御回路。
【請求項7】
前記出力電圧の変化に基づいて負荷急変を検出し、前記負荷急変してから所定期間の動作を有効にする積分許可信号を前記積分器に出力する負荷急変検出部を具備することを特徴とする請求項1記載のスイッチング制御回路。
【請求項8】
スイッチング素子のオンオフ制御によって生成された矩形波を出力コンデンサによって平滑して出力する出力回路を制御するスイッチング制御回路を含む半導体装置であって、
前記スイッチング制御回路は、
前記出力回路の出力電圧をデジタル値のフィードバック信号に変換するアナログデジタルコンバータと、
前記フィードバック信号と目標値との誤差に応じた誤差信号を生成する誤差検出器と、
前記誤差信号を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、前記出力コンデンサによる位相遅れを補償した制御値を生成するデジタルフィルタと、
前記制御値に応じた生成した制御信号によって前記スイッチング素子のデューティーを制御する駆動部と、
前記フィードバック信号と前記目標値との差分値を積分して積分値を算出する積分器と、
前記積分器によって算出された前記積分値が予め設定されたしきい値を上回ると、
前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記デジタルフィルタの前記係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部と、を具備することを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などの電源回路を制御するスイッチング制御回路、半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などの電源回路において、オートチューナーと、出力コンデンサが最小値で最適化された第1制御指令と、出力コンデンサが最大値で最適化された第2制御指令と、重み付け係数を備え、第1制御指令に重み付けされた第2制御指令を加算した信号で主スイッチング素子のデューティーを制御する制御回路が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1は、出力コンデンサが、品質ばらつきや、周囲温度変化や、経年劣化などにより容量値が変化した際には、オートチューナーが重み付け係数を自動調整することで制御を安定化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、出力コンデンサの変動範囲を予め把握しておく必要があり、想定される変動範囲を超えた場合には安定動作を得られない問題があった。
【0005】
本発明は斯かる問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、出力コンデンサの変動範囲を予め把握しておくことなく、不安定動作を検出して、フィルタ調整動作を実行できるスイッチング制御回路、半導体装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスイッチング制御回路は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
本発明に係るスイッチング制御回路は、スイッチング素子のオンオフ制御によって生成された矩形波を出力コンデンサによって平滑して出力する出力回路を制御するスイッチング制御回路であって、前記出力回路の出力電圧をデジタル値のフィードバック信号に変換するアナログデジタルコンバータと、前記フィードバック信号と目標値との誤差に応じた誤差信号を生成する誤差検出器と、前記誤差信号を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、前記出力コンデンサによる位相遅れを補償した制御値を生成するデジタルフィルタと、前記制御値に応じたデューティーで前記スイッチング素子をオンオフ制御する駆動部と、前記フィードバック信号と前記目標値との差分値を積分して積分値を算出する積分器と、前記積分器によって算出された前記積分値が予め設定されたしきい値を上回ると、前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記デジタルフィルタの前記係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部と、を具備することを特徴とする
また、本発明に係る半導体装置は、スイッチング素子のオンオフ制御によって生成された矩形波を出力コンデンサによって平滑して出力する出力回路を制御するスイッチング制御回路を含む半導体装置であって、前記スイッチング制御回路は、前記出力回路の出力電圧をデジタル値のフィードバック信号に変換するアナログデジタルコンバータと、前記フィードバック信号と目標値との誤差に応じた誤差信号を生成する誤差検出器と、前記誤差信号を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、前記出力コンデンサによる位相遅れを補償した制御値を生成するデジタルフィルタと、前記制御値に応じた生成した制御信号によって前記スイッチング素子のデューティーを制御する駆動部と、前記フィードバック信号と前記目標値との差分値を積分して積分値を算出する積分器と、前記積分器によって算出された前記積分値が予め設定されたしきい値を上回ると、前記フィルタ特性を段階的に変化させて、前記デジタルフィルタの前記係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスイッチング電源装置は、フィードバック信号FBに基づいて、出力コンデンサCの品質ばらつき、温度変化や経年劣化を検出できるため、出力コンデンサCの変動範囲を予め把握しておくことなく、不安定動作を検出して、フィルタ調整動作を実行できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るスイッチング電源装置の第1の実施の形態の構成を示す回路図である。
【
図2】
図1に示すデジタルフィルタの構成を示す図である。
【
図3】定常動作時のループゲインの周波数特性を示すボーデ線図である。
【
図4】不安定動作時のループゲインの周波数特性を示すボーデ線図である。
【
図6】第1の実施の形態における不安定動作の検出動作を示すフローチャートである。
【
図7】第1の実施の形態におけるフィルタ調整動作を示すフローチャートである。
【
図8】第1の実施の形態におけるフィルタ調整動作を説明する波形図である。
【
図9】
図1に示す係数調整部の他のフィルタ調整動作を示すフローチャートである。
【
図10】本発明に係るスイッチング電源装置の第2の実施の形態の構成を示す回路図である。
【
図11】定常動作時のループゲインの周波数特性を示すボーデ線図である。
【
図12】不安定動作時のループゲインの周波数特性を示すボーデ線図である。
【
図13】第2の実施の形態におけるフィルタ調整動作を示すフローチャートである。
【
図14】本発明に係るスイッチング電源装置の第3の実施の形態の構成を示す回路図である。
【
図15】第3の実施の形態における不安定動作の検出動作を説明する波形図である。
【
図16】第3の実施の形態におけるフィルタ調整動作を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、同一の構成は、同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0010】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態のスイッチング電源装置1は、入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換し、出力端子Toに接続された負荷loadに供給するDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などの電源回路である。スイッチング電源装置1は、
図1を参照すると、出力回路2と、出力回路2をデジタル制御する制御回路3と、を備える。
【0011】
出力回路2は、2個のスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2と、インダクタL、出力コンデンサCと、を備える。
【0012】
スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2は、高電位の入力電圧Vinと低電位側の接地端子との間に直列に接続されている。本実施の形態では、スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2は、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)で構成される。
【0013】
上アームスイッチとして機能するスイッチング素子Q1は、ドレインが入力電圧Vinに接続されていると共に、ソースが下アームスイッチとして機能するスイッチング素子Q2のドレインに接続され、スイッチング素子Q2のソースが接地端子に接続されている。
【0014】
制御回路3によってスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2のオンオフ制御(PWM制御)することで、スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインとの接続点の電圧Vrは、矩形波状のPWM波形となる。
【0015】
インダクタLは、一端がスイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインとの接続点に、他端が出力端子Toにそれぞれ接続されている。そして、出力コンデンサCは、一端がインダクタLの他端と出力端子Toとの接続点に、他端が接地端子にそれぞれ接続されている。なお、
図1に示すResrは、出力コンデンサCの等価直列抵抗である。
【0016】
インダクタL及び出力コンデンサCは、平滑回路を構成する。矩形波状のPWM波形(電圧Vr)に対して、インダクタLは、電流を平滑化すると共に、出力コンデンサCは、電圧を平滑化する。
【0017】
制御回路3は、ADC(アナログデジタルコンバータ)31と、目標値設定部32と、誤差検出器33と、デジタルフィルタ34と、駆動部35と、積分器36と、係数調整部37と、を備える。制御回路3は、半導体基板に集積化されたIC(Integrated Circuit)等の半導体装置で構成される。なお、出力回路2の一部、例えば、スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2は、制御回路3に含めて集積化されても良い。
【0018】
ADC31は、アナログの出力電圧Voutを入力とし、出力電圧Voutを複数ビットからなるデジタル値に変換し、変換したデジタル値をフィードバック信号FBとして出力する。
【0019】
誤差検出器33は、フィードバック信号FBを、目標値設定部32に設定された目標値REFから減算することで、フィードバック信号FBと目標値REFとの誤差(偏差)に応じた誤差信号X(n)を生成する。
【0020】
デジタルフィルタ34は、誤差信号X(n)を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、出力コンデンサCによる位相遅れを補償した制御値Y(n)を生成する。
【0021】
駆動部35は、デジタルフィルタ34で生成された制御値Y(n)に応じたPWM信号を生成し、生成したPWM信号によってスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2のデューティーを制御する。すなわち、制御値Y(n)は、次の周期のスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2のデューティーを決める値である。
【0022】
デジタルフィルタ34は、2ポール2ゼロ制御器(2P2Z)やPID制御器などで構成される。本実施の形態のデジタルフィルタ34は、2ポール2ゼロ制御器で構成した。
図2は、デジタルフィルタ34のブロック線図および差分方程式である。
【0023】
デジタルフィルタ34は、
図2(a)を参照すると、誤差信号X(n)を係数b
0倍[b
0X(n)]して出力する乗算器41と、遅延素子51によって誤差信号X(n)をサンプリングの1周期(1クロック)だけ遅延させた1周期前の誤差信号X(n-1)を係数b
1倍[b
1X(n-1)]して出力する乗算器42と、遅延素子52によって信号X(n-1)サンプリングの1周期(1クロック)だけ遅延させた2周期前の誤差信号X(n-2)を係数b
2倍[b
2X(n-2)]して出力する乗算器43と、遅延素子53によって制御値Y(n)をサンプリングの1周期(1クロック)だけ遅延させた1周期前の制御値Y(n-1)を係数a
1倍[a
1Y(n-1)]して出力する乗算器44と、遅延素子55によって制御値Y(n-1)をサンプリングの1周期(1クロック)だけ遅延させた2周期前の制御値Y(n-2)を係数a
2倍[a
2Y(n-2)]して出力する乗算器45と、を備える。
【0024】
また、デジタルフィルタ34は、乗算器41の出力[b
0X(n)]、乗算器42の出力[b
1X(n-1)]、乗算器43の出力[b
2X(n-2)]、乗算器44の出力[a
1Y(n-1)]、乗算器45の出力[a
2Y(n-2)]を加算する加算器61、62、63、64を備える。これにより、デジタルフィルタ34は、入力された誤差信号X(n)を
図2(b)に示す差分方程式に従ってフィルタ演算を行い、演算結果を制御値Y(n)として出力する。
【0025】
係数a
1、a
2、b
0、b
1、b
2は、フィルタ特性(ゼロfz、ポールfp、ゲインKdc)と、演算周期Tsとを用いた以下の係数算出式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)によってそれぞれ算出されたものである。係数算出式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)は、
図1のシステム(スイッチング電源装置1)の伝達関数を、双一次変換を用いてZ変換することで得られたフィルタ特性と係数の相関式である。
【0026】
a1=(2/(π・fp2))/(1/(π・fp2)+Ts)・・・(1)
【0027】
a2=(1/(π・fp2)―Ts)/(1/(π・fp2)+Ts)・・・(2)
【0028】
b0=Kdc・(Ts+1/(π・fz1))(Ts+1/(π・fz2))/(2/(π・fp2)+2・Ts)・・・(3)
【0029】
b1=Kdc・(Ts^2-1/(π^2・fz1・fz2))/(1/(π・fp2)+Ts)・・・(4)
【0030】
b2=Kdc・(Ts-1/(π・fz1))(Ts-1/(π・fz2))/(2/(π・fp2)+2・Ts)・・・(5)
【0031】
図3及び
図4は、スイッチング電源装置1におけるループゲインの周波数特性を示す定常動作時のボーデ(ボード)線図であり、(a)は制御対象の特性を、(b)はデジタルフィルタ34のフィルタ特性(ゼロfz、ポールfp、ゲインKdc)を、(c)は(a)の特性に(b)の特性を足し合わせた一巡伝達関数の特性をそれぞれ示す。
【0032】
図3(a)は、定常動作時の制御対象の特性を示す。この定常動作時の制御対象の特性に対し、
図3(b)に示すように、デジタルフィルタ34のフィルタ特性(ゼロfz、ポールfp、ゲインKdc)を最適化する。これにより、
図3(c)に示すように、インダクタLと出力コンデンサCによる位相遅れは、補償され、位相余裕度が十分確保できるように設定される。
【0033】
図4(a)は、出力コンデンサCの容量が減少し、出力コンデンサCとインダクタLで決まるLC共振周波数(1/2π√LC)が上昇した制御対象の特性を示す。この場合、定常動作時に最適化された
図4(b)のデジタルフィルタ34のフィルタ特性を足し合わせても、
図4(c)に示すように、クロスオーバー周波数が上昇し、位相余裕度が低下してシステムが不安定動作に至る。不安定動作になると、
図5に示すように、出力電圧Voutの振幅が大きくなり、ADC31の出力と目標値REFとの誤差が増幅する。
【0034】
積分器36は、
図6を参照すると、ADC31の出力と目標値REFとの差分値(誤差信号X(n)の絶対値ABS[X(n)])を積分した積分値Z(n)を算出する(ステップS101)。積分器36は、例えば、以下の式(6)に示すように、絶対値ABS[X(n)]と、前の演算周期の積分値Z(n-1)の和から、係数Bを減算することで、積分値Z(n)を算出する。積分値Z(n)は、演算周期毎に算出される。係数Bは、積分値の貯まり過ぎを防止するための感度調整用の係数であり、定常動作時において積分値Z(n)が増減しない値に設定される。なお、積分器36は、予め設定された所定期間の差分値の絶対値ABS[X(n)]を加算して積分値Z(n)を算出しても良い。
【0035】
Z(n)=Z(n-1)+ABS[X(n)]-B ・・・式(6)
【0036】
係数調整部37は、積分値Z(n)と予め設定されたしきい値とを比較する(ステップS102)。ステップS102で積分値Z(n)がしきい値以下である場合、積分器36は、ステップS101に戻って、次の演算周期の積分値Z(n)を算出する。
【0037】
ステップS102で積分値Z(n)がしきい値を超える場合、係数調整部37は、システムが不安定動作になったことを検出し、フィルタ調整動作の実行する(ステップS103)。
【0038】
また、積分器36は、係数調整部37のフィルタ調整動作において、係数調整部37からの算出指示に基づいて、予め設定された所定期間の差分値、すなわち絶対値ABS[X(n)]を加算して積分値Z(n)を算出し、算出した積分値Z(n)を係数調整部37に出力する。
【0039】
係数調整部37は、積分器36からの調整指示に基づいて、デジタルフィルタ34の係数b
0、b
1、b
2を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する。以下、係数調整部37によるフィルタ調整動作について
図7及び
図8を参照して詳細に説明する。
【0040】
係数調整部37は、最小値を初期化すると共に(ステップS201)、変数CNTに1をセットする(ステップS202)。最小値は、積分値Z(n)と比較する値であり、初期化によって、例えば、直前の積分値Z(n)がセットされる。
【0041】
係数調整部37は、デジタルフィルタ34に現在設定されている係数b0、b1、b2を算出する基となったフィルタ特性のゲインKdc0を、ゲインKdcの起点として設定する(ステップS203)。
【0042】
係数調整部37は、ゲインKdcから予め設定された定数Nを減算する(ステップS204)。ゲインKdcから定数Nを減算することで、
図3(b)及び
図4(b)に示すゲイン線図の周波数特性が下方向に移動する。
【0043】
係数調整部37は、ステップS204で定数Nを減算したゲインKdcを式(3)、(4)、(5)に代入することで係数b0、b1、b2を算出する(ステップS205)。
【0044】
係数調整部37は、ステップS205で算出した係数b0、b1、b2をデジタルフィルタ34に適用させ、積分値Z(n)の算出を指示する算出指示を積分器36に出力する(ステップS206)。積分器36は、係数調整部37からの算出指示に基づいて、予め設定された所定期間の差分値の絶対値ABS[X(n)]を加算して積分値Z(n)を算出し、算出した積分値Z(n)を係数調整部37に出力する。
【0045】
係数調整部37は、積分器36で算出された積分値Z(n)と最小値とを比較し、積分値Z(n)が最小値を下回るか否かを判断する(ステップS207)。
【0046】
ステップS207で積分値Z(n)が最小値を下回る場合、係数調整部37は、積分値Z(n)を最小値として記憶(最小値を更新)すると共に、積分値Z(n)が最小値となったゲインKdcの値(係数b0、b1、b2でも良い)を記憶する(ステップS208)。
【0047】
ステップS207で積分値Z(n)が最小値以上である場合、もしくは、ステップS208で積分値Z(n)を最小値として記憶させた後、係数調整部37は、変数CNTをインクリメントし(ステップS209)、変数CNTが予め設定された上限値CNTMAXに到達したか否かを判断する(ステップS210)。
【0048】
ステップS210で変数CNTが上限値CNT
MAXに到達していない場合、係数調整部37は、ステップS204に戻って、さらにゲインKdcから定数Nを減算して、ステップS205~ステップS210の動作を実行する。これにより、係数調整部37は、下方向(ゲインKdcから減算する方向)のフィルタ調整動作として、
図8に示すように、不安定動作を検出した際の値Kdc
0を起点として、ゲインKdcを下方向に段階的に変化させ、積分値Z(n)が最小となるポイント(ゲインKdc)を探索することになる。
【0049】
ステップS210で変数CNTが上限値CNTMAXに到達した場合、係数調整部37は、変数CNTに1をセットすると共に(ステップS211)、ゲインKdc0をゲインKdcの起点として設定する(ステップS212)。
【0050】
係数調整部37は、ゲインKdcに定数Nを加算する(ステップS213)。ゲインKdcに定数Nを加算することで、
図3(b)及び
図4(b)に示すゲイン線図の周波数特性が上方向に移動する。ステップS213でゲインKdcに加算する定数Nと、ステップS204でゲインKdcから減算する定数Nとは、異なる値であっても良い。
【0051】
係数調整部37は、ステップS213で定数Nを加算したゲインKdcを式(3)、(4)、(5)に代入することで係数b0、b1、b2を算出する(ステップS214)。
【0052】
係数調整部37は、ステップS214で算出した係数b0、b1、b2をデジタルフィルタ34に適用させ、積分値Z(n)の算出を指示する算出指示を積分器36に出力する(ステップS215)。積分器36は、係数調整部37からの算出指示に基づいて、予め設定された所定期間の差分値の絶対値ABS[X(n)]を加算して積分値Z(n)を算出し、算出した積分値Z(n)を係数調整部37に出力する。
【0053】
係数調整部37は、積分器36で算出された積分値Z(n)と最小値とを比較し、積分値Z(n)が最小値を下回るか否かを判断する(ステップS216)。
【0054】
積分値Z(n)が最小値を下回る場合、係数調整部37は、積分値Z(n)を最小値として記憶(最小値を更新)すると共に、積分値Z(n)が最小値となったゲインKdcの値(係数b0、b1、b2でも良い)を記憶する(ステップS217)。
【0055】
ステップS216で積分値Z(n)が最小値以上である場合、もしくは、ステップS217で積分値Z(n)を最小値として記憶させた後、係数調整部37は、変数CNTをインクリメントし(ステップS218)、変数CNTが予め設定された上限値CNTMAXに到達したか否かを判断する(ステップS219)。ステップS219の上限値CNTMAXと、ステップS210の上限値CNTMAXとは、異なる値であっても良い。
【0056】
ステップS219で変数CNTが上限値CNT
MAXに到達していない場合、係数調整部37は、ステップS213に戻って、さらにゲインKdcに定数Nを加算して、ステップS214~ステップS219の動作を実行する。これにより、係数調整部37は、上方向(ゲインKdcに加算する方向)のフィルタ調整動作として、
図8に示すよう、不安定動作を検出した際の値Kdc
0を起点として、ゲインKdcを上方向に段階的に変化させ、積分値Z(n)が最小となるポイント(ゲインKdc)を探索することになる。
【0057】
ステップS219で変数CNTが上限値CNT
MAXに到達した場合、係数調整部37は、ステップS208もしくはステップS217で記憶させたゲインKdc(積分値Z(n)が最小値となったゲインKdc)を式(3)、(4)、(5)に代入することで係数b
0、b
1、b
2を算出し、算出した係数b
0、b
1、b
2をデジタルフィルタ34に適用させ(ステップS220)、フィルタ調整動作を終了する。これにより、
図8に示すように、スイッチング電源装置1は、安定した定常動作に移行することになる。
【0058】
以上のフィルタ調整動作では、変数CNTが上限値CNTMAXに到達するまで上下方向にゲインKdcを段階的に変化させて、積分値Z(n)が最小となるポイント(ゲインKdc)を探索している。ゲインKdcに上限値及び下限値をそれぞれ設定し、上限値~下限値の範囲でゲインKdcを段階的に変化させて、積分値Z(n)が最小となるポイント(ゲインKdc)を探索しても良い。また、探索には人工知能を用いても良い。
【0059】
第1の実施の形態のスイッチング電源装置1は、品質ばらつき、温度変化や経年劣化の影響を受けて出力コンデンサCの容量が減少しても、フィルタ調整動作によって係数b0、b1、b2が最適値に調整されるため、安定動作を提供することができる。また、容量値がある程度変化しても電源動作が不安定にならないため、出力コンデンサCは、品質ばらつきの大きい、安価なグレードのものを選定することができ、システム全体のコストダウンに寄与できる。
【0060】
なお、係数調整部37は、積分値Z(n)が予め設定された許容値を下回るポイント(ゲインKdc)を検索し、積分値Z(n)が許容値を下回ったゲインKdcを式(3)、(4)、(5)に代入することで係数b
0、b
1、b
2を算出し、算出した係数b
0、b
1、b
2をデジタルフィルタ34に適用させても良い。この場合のフィルタ調整動作について
図9を参照して説明する。
【0061】
係数調整部37は、ステップS202~ステップS206を実行した後、積分器36で算出された積分値Z(n)と予め設定された許容値とを比較し、積分値Z(n)が許容値を下回るか否かを判断する(ステップS301)。
【0062】
ステップS301で積分値Z(n)が許容値以上である場合、係数調整部37は、ステップS209~ステップS210を実行する。
【0063】
ステップS301で積分値Z(n)が許容値を下回る場合、係数調整部37は、フィルタ調整動作を終了させる。すなわち、ステップS301で積分値Z(n)が許容値を下回ることは、不安定動作を検出した際の値Kdc0を起点としてゲインKdcを下方向に段階的に変化させる下方向のフィルタ調整動作で、積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ゲインKdc)が検索されたことになる。従って、デジタルフィルタ34の係数b0、b1、b2は、ステップS206で適用されたものが継続して使用される。
【0064】
係数調整部37は、ステップS211~ステップS212を実行した後、積分器36で算出された積分値Z(n)と予め設定された許容値とを比較し、積分値Z(n)が許容値を下回るか否かを判断する(ステップS302)。
【0065】
ステップS302で積分値Z(n)が許容値以上である場合、係数調整部37は、ステップS218~ステップS219を実行する。
【0066】
ステップS302で積分値Z(n)が許容値を下回る場合、係数調整部37は、フィルタ調整動作を終了させる。すなわち、ステップS302で積分値Z(n)が許容値を下回ることは、不安定動作を検出した際の値Kdc0を起点としてゲインKdcを上方向に段階的に変化させる上方向のフィルタ調整動作で、積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ゲインKdc)が検索されたことになる。従って、デジタルフィルタ34の係数b0、b1、b2は、ステップS215で適用されたものが継続して使用される。
【0067】
ステップS219でYesの場合、上下方向のフィルタ調整動作でいずれも積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ゲインKdc)が検索されなかったことを意味し、係数調整部37は、エラーを検出し(ステップS303)、フィルタ調整動作を終了させる。
ステップS303のエラー検出によって、係数調整部37は、スイッチング電源装置1の動作を停止させたり、上位装置にエラーを報知したりすることができる。
【0068】
図9に示すフィルタ調整動作は、積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ゲインKdc)が検索された時点で、終了する。従って、係数b
0、b
1、b
2は、フィルタ調整動作によって素早く適値に調整されるため、システムを素早く安定させることができる。
【0069】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のスイッチング電源装置1aは、
図10を参照すると、出力コンデンサCとして等価直列抵抗Resrが比較的大きい電解コンデンサが用いられ、係数調整部37aは、デジタルフィルタ34の係数a
1、a
2、b
0、b
1、b
2を動的に調整する点が、第1の実施の形態のスイッチング電源装置1と異なっている。
【0070】
図11及び
図12は、スイッチング電源装置1aにおけるループゲインの周波数特性を示す定常動作時のボーデ(ボード)線図であり、(a)は制御対象の特性を、(b)はデジタルフィルタ34のフィルタ特性(ゼロfz、ポールfp、ゲインKdc)を、(c)は(a)の特性に(b)の特性を足し合わせた一巡伝達関数の特性をそれぞれ示す。
【0071】
図11(a)を参照すると、スイッチング電源装置1aでは、出力コンデンサCに電解コンデンサが用いられているため、等価直列抵抗Resrによって発生するゼロfz_esrが低い周波数に発生している。デジタルフィルタ34は、
図11(b)に示すように、ゼロfz_esrに対応させたポールfp2が設定され、
図11(c)に示すように、ポールfp2によってゼロfz_esrが影響を相殺される。
【0072】
出力コンデンサCの劣化等の要因で等価直列抵抗Resr増加する方向に変化すると、
図12(a)に示すように、ゼロfz_esrが低周波数側にシフトする。この場合、定常動作時に最適化された
図12(b)のデジタルフィルタ34のフィルタ特性を足し合わせても、
図12(c)に示すように、クロスオーバー周波数が上昇し、位相余裕度が低下してシステムが不安定動作に至る。不安定動作になると、出力電圧Voutの振幅が大きくなり、ADC31の出力と目標値REFとの誤差が増幅するため、積分器36によって不安定動作が検出される。
【0073】
係数調整部37aは、
図13を参照すると、係数調整部37が実行するステップS203~ステップS206の代わりにステップS401~ステップS404を実行する。
【0074】
係数調整部37aは、デジタルフィルタ34に現在設定されている係数a1、a2、b0、b1、b2を算出する基となったフィルタ特性のポールfp20を、ポールfp2の起点として設定する(ステップS401)。
【0075】
係数調整部37aは、ポールfp2から予め設定された定数Nを減算する(ステップS402)。
【0076】
係数調整部37aは、ステップS402で定数Nを減算したポールfp2を式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)に代入することで係数a1、a2、b0、b1、b2を算出する(ステップS403)。
【0077】
係数調整部37aは、ステップS403で算出した係数a1、a2、b0、b1、b2をデジタルフィルタ34に適用させ、積分値Z(n)の算出を指示する算出指示を積分器36に出力する(ステップS404)。
【0078】
これにより、係数調整部37aは、下方向(ポールfp2を減算する方向)のフィルタ調整動作として、不安定動作を検出した際のポールfp20を起点として、ポールfp2を下方向に段階的に変化させ、積分値Z(n)が最小となるポイント(ポールfp2)を探索することになる。
【0079】
係数調整部37aは、
図13を参照すると、係数調整部37が実行するステップS212~ステップS215の代わりにステップS405~ステップS408を実行する。
【0080】
係数調整部37aは、デジタルフィルタ34に現在設定されている係数a1、a2、b0、b1、b2を算出する基となったフィルタ特性のポールfp20を、ポールfp2の起点として設定する(ステップS405)。
【0081】
係数調整部37aは、ポールfp2から予め設定された定数Nを加算する(ステップS406)。
【0082】
係数調整部37aは、ステップS405で定数Nを減算したポールfp2を式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)に代入することで係数a1、a2、b0、b1、b2を算出する(ステップS407)。
【0083】
係数調整部37aは、ステップS406で算出した係数a1、a2、b0、b1、b2をデジタルフィルタ34に適用させ、積分値Z(n)の算出を指示する算出指示を積分器36に出力する(ステップS408)。
【0084】
これにより、係数調整部37aは、上方向(ポールfp2に加算する方向)のフィルタ調整動作として、不安定動作を検出した際のポールfp20を起点として、ポールfp2を上方向に段階的に変化させ、積分値Z(n)が最小となるポイント(ポールfp2)を探索することになる。
【0085】
係数調整部37aは、
図13を参照すると、係数調整部37が実行するステップS220の代わりにステップS409を実行する。
【0086】
ステップS219で変数CNTが上限値CNTMAXに到達した場合、係数調整部37aは、ステップS208もしくはステップS217で最小値と共に記憶させたポールfp2(積分値Z(n)が最小値となったポールfp2)を式a1、a2、b0、b1、b2に代入することで係数a1、a2、b0、b1、b2を算出し、算出した係数a1、a2、b0、b1、b2をデジタルフィルタ34に適用させ(ステップS409)、フィルタ調整動作を終了する。
【0087】
第2の実施の形態においても、フィルタ調整動作は、積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ポールfp2)を検索するようにしても良い。この場合、係数a1、a2、b0、b1、b2は、フィルタ調整動作によって素早く適値に調整されるため、システムを素早く安定させることができる。
【0088】
第2の実施の形態のスイッチング電源装置1aは、品質ばらつき、温度変化や経年劣化の影響を受けて出力コンデンサCの等価直列抵抗Resrが上昇しても、フィルタ調整動作によって係数a1、a2、b0、b1、b2が最適値に調整されるため、安定動作を提供することができる。また、等価直列抵抗Resrがある程度変化しても電源動作が不安定にならないため、出力コンデンサCは、品質ばらつきの大きい、安価なグレードのものを選定することができ、システム全体のコストダウンに寄与できる。
【0089】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態のスイッチング電源装置1bは、
図14を参照すると、スイッチング電源装置1の構成に加えて、負荷電流検出部38と、負荷急変検出部39と、を備える。
【0090】
負荷電流検出部38は、負荷loadに供給する負荷電流Ioを検出する。負荷電流検出部38は、例えば、変流器(カレントトランス)で構成され、スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインとの接続点と、インダクタLとの間に介装される。
【0091】
負荷急変検出部39は、負荷電流検出部38によって検出された負荷電流Ioに基づいて、負荷急変したことを検出し、負荷急変してから所定期間の動作を有効にする積分許可信号を積分器36に出力する。負荷急変検出部39は、例えば、負荷電流Ioの単位時間当たりの変化量が予め設定されたしきい値を超えた場合に、負荷急変したことを検出する。
【0092】
積分器36は、負荷急変検出部39からの積分許可信号によって許可された期間のみ、ADC31の出力と目標値REFとの差分値(誤差信号X(n)の絶対値ABS[X(n)])を積分した積分値Z(n)を算出する。
【0093】
図15を参照すると、出力電圧Voutは、負荷電流Ioが軽負荷から重負荷へ急変すると一時的に落ち込み、負荷電流Ioが重負荷から軽負荷へ急変すると一時的に跳ね上がる。
【0094】
負荷急変検出部39は、負荷急変に伴って、出力電圧Voutが一時的に落ち込む、もしくは、一時的に跳ね上がる期間の積分を許可する期間とする積分許可信号を積分器36に出力する。
【0095】
積分器36は、積分許可信号がHiレベルで積分を許可する期間、ADC31の出力と目標値REFとの差分値(誤差信号X(n)の絶対値ABS[X(n)])を積分した積分値Z(n)を算出する。そして、積分値Z(n)が予め設定されたしきい値を上回った場合、積分器36は、係数調整部37にフィルタ調整動作を指示する。
【0096】
図16を参照すると、係数調整部37は、フィルタ調整動作において、ゲインKdcを段階的に変化させて、積分許可期間の積分値Z(n)が最小となるポイント(ゲインKdc)を探索する。
【0097】
第3の実施の形態においても、フィルタ調整動作は、積分値Z(n)が許容値を下回るポイント(ゲインKdc)を検索するようにしても良い。この場合、係数b0、b1、b2は、フィルタ調整動作によって素早く適値に調整されるため、システムを素早く安定させることができる。
【0098】
また、第3の実施の形態においても、ポールfp2を段階的に変化させて、積分許可期間の積分値Z(n)が最小となるポイント(ポールfp2)を探索しても良い。また、負荷急変検出部39は、図示しない出力電圧検出部によって検出される出力電圧Voutの変化から負荷急変したことを判断し、フィルタ調整動作に移行する構成としても良い。
【0099】
第3の実施の形態のスイッチング電源装置1bは、負荷急変時の出力電圧変動と、制御安定性の両方をバランス良く満たすフィルタ特性を設定することができるため、負荷応答性能の高い電源を実現することが可能となる。
【0100】
以上説明したように、本実施の形態は、スイッチング素子Q1、Q2のオンオフ制御によって生成された矩形波を出力コンデンサCによって平滑して出力する出力回路2を制御する制御回路3(スイッチング制御回路)であって、出力回路2の出力電圧Voutをデジタル値のフィードバック信号FBに変換するADC31(アナログデジタルコンバータ)と、フィードバック信号FBと目標値REFとの誤差に応じた誤差信号X(n)を生成する誤差検出器33と、誤差信号X(n)を入力としてフィルタ特性に基づく係数を用いたフィルタ演算を行うことにより、出力コンデンサCによる位相遅れを補償した制御値Y(n)を生成するデジタルフィルタ34と、制御値Y(n)に応じたデューティーでスイッチング素子Q1、Q2をオンオフ制御する駆動部35と、フィードバック信号FBと目標値REFとの差分値(誤差信号X(n)の絶対値)を積分して積分値Z(n)を算出する積分器36と、積分器36によって算出された積分値Z(n)が予め設定されたしきい値を上回ると、フィルタ特性を段階的に変化させて、デジタルフィルタ34の係数を動的に調整するフィルタ調整動作を実行する係数調整部37と、を備える。
この構成により、係数調整部37は、フィードバック信号FBに基づいて、出力コンデンサCの品質ばらつき、温度変化や経年劣化を検出し、デジタルフィルタ34の係数を調整できる。従って、係数調整部37は、出力コンデンサCの変動範囲を予め把握しておくことなく、不安定動作を検出して、フィルタ調整動作を実行できる。また、容量値がある程度変化しても電源動作が不安定にならないため、出力コンデンサCは、品質ばらつきの大きい、安価なグレードのものを選定することができ、システム全体のコストダウンに寄与できる。
【0101】
さらに、本実施形態において、係数調整部37、37aは、フィルタ特性を段階的に変化させて、積分値Z(n)が最小となるフィルタ特性を探索し、探索したフィルタ特性に基づく係数に調整する。
この構成により、デジタルフィルタ34の係数は、フィルタ調整動作によって最適値に調整される。
【0102】
さらに、本実施形態において、係数調整部37、37aは、フィルタ特性を段階的に変化させて、積分値Z(n)が許容値未満となるフィルタ特性を探索し、探索したフィルタ特性に基づく係数に調整する。
この構成により、デジタルフィルタ34の係数は、フィルタ調整動作によって素早く適値に調整される。
【0103】
さらに、第1の実施の形態において、係数調整部37は、フィルタ特性としてゲインを段階的に変化させる。
この構成により、係数調整部37は、デジタルフィルタ34の係数b0、b1、b2を調整でき、出力コンデンサCの容量の減少に対応することができる。
【0104】
さらに、第2の実施の形態において、係数調整部37aは、フィルタ特性としてポールを段階的に変化させる。
この構成により、係数調整部37は、デジタルフィルタ34の係数a1、a2、b0、b1、b2を調整でき、出力コンデンサCとして等価直列抵抗Resrが比較的大きい電解コンデンサを用いても対応することができる。
【0105】
さらに、第3の実施の形態において、スイッチング電源装置1cは、出力回路2が出力する負荷電流Ioに基づいて負荷急変を検出し、負荷急変してから所定期間の動作を有効にする積分許可信号を積分器36に出力する負荷急変検出部39を備える。
この構成により、負荷急変時の出力電圧変動と、制御安定性の両方をバランス良く満たすフィルタ特性を設定することができるため、負荷応答性能の高い電源を実現することが可能となる。
【0106】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、同一構成要素には、各図において、同一符号を付している。
【符号の説明】
【0107】
1、1a、1b スイッチング電源装置
2 出力回路
3 制御回路
31 ADC(アナログデジタルコンバータ)
32 目標値設定部
33 誤差検出器
34 デジタルフィルタ
35 駆動部
36 積分器
37、37a 係数調整部
38 負荷電流検出部
39 負荷急変検出部
41、42、43、44、45 乗算器
51、52、53、55 遅延素子
61、62、63、64 加算器