(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026953
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】車載用レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/931 20200101AFI20240221BHJP
G01S 7/36 20060101ALI20240221BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20240221BHJP
G01S 13/34 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
G01S13/931
G01S7/36
G01S7/292
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129535
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 真吾
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD06
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH34
5J070AH40
5J070AK35
(57)【要約】
【課題】信号の時間微分の極値を用いることなく、信号から干渉信号を効果的に除去できる技術を提供する。
【解決手段】車載用レーダ装置100は、送信信号Twに基づく物標OBからの反射波を第1受信信号Dw1として受信する第1受信アンテナ131と、第1受信アンテナに接続され、送信信号と第1受信信号とをミキシングすることによって第1信号Sg1を生成する第1受信回路141と、処理部200と、を備える。処理部は、(a)第1信号の、第1信号に含まれる干渉信号を表す第1干渉信号Sgi1を含む干渉区間Sciの少なくとも一部における位相を位相接続する処理と、(b)処理(a)で位相接続された位相を曲線で近似することによって、第1干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出する処理と、(c)第1信号および関数を用いて、第1干渉信号の推定値が減算された第1信号を表す第1所望信号Sd1を算出する処理と、を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号(Tw)に基づく送信波を反射した物標(OB)からの反射波を第1受信信号(Dw1)として受信する第1受信アンテナ(131)と、
前記第1受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記第1受信信号とをミキシングすることによって第1信号(Sg1)を生成する第1受信回路(141)と、
処理部(200)と、を備え、
前記処理部は、
(a)前記第1信号の、前記第1信号に含まれる干渉信号を表す第1干渉信号(Sgi1)を含む干渉区間(Sci)の少なくとも一部における位相を位相接続する処理と、
(b)前記処理(a)で位相接続された位相を曲線で近似することによって、前記第1干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出する処理と、
(c)前記第1信号および前記関数を用いて、前記第1干渉信号の推定値が減算された前記第1信号を表す第1所望信号(Sd1)を算出する処理と、を実行する、
車載用レーダ装置(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用レーダ装置であって、
前記処理部は、前記処理(c)において、
(c1)前記第1信号および前記関数を用いて、前記第1干渉信号を推定する処理と、
(c2)前記第1信号に対して、前記処理(c1)で推定された前記第1干渉信号を減算することによって、前記第1所望信号を算出する処理と、を実行する、
車載用レーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車載用レーダ装置であって、
前記第1受信回路は、直交検波回路として構成され、前記第1信号を複素信号として生成し、
前記処理部は、前記処理(c1)において、前記関数に従って位相が時間変化する波形(v)から射影行列(M)を算出し、前記第1信号に前記射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号を推定する、車載用レーダ装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車載用レーダ装置であって、
前記第1受信回路は、前記第1信号を実信号として生成し、
前記処理部は、
前記処理(a)に先立って、前記干渉区間の少なくとも一部において、実信号としての前記第1信号を、ヒルベルト変換を用いて複素信号に変換する変換処理を実行し、
前記処理(a)において、複素信号に変換された前記第1信号の、前記第1干渉信号を含む区間における位相を位相接続し、
前記処理(c1)において、
前記関数に従って位相が変化する第1波形(v1)から第1射影行列(M1)を算出し、実信号としての前記第1信号に前記第1射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号の一部を表す第1部分信号を推定し、
前記第1波形と複素共役の関係にある第2波形(v2)から第2射影行列(M2)を算出し、実信号としての前記第1信号に前記第2射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号の一部を表し、前記第1部分信号とは異なる第2部分信号を推定し、
前記処理(c2)において、実信号としての前記第1信号に対して、前記第1部分信号および前記第2部分信号を減算することによって、前記第1所望信号を算出する、車載用レーダ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車載用レーダ装置であって、
前記処理部は、前記処理(b)において、前記処理(a)で位相接続された位相を二次関数によって近似する、車載用レーダ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車載用レーダ装置であって、
前記処理部は、前記処理(b)において、最小二乗法を用いて前記関数を算出する、車載用レーダ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車載用レーダ装置であって、
前記処理部は、前記第1信号に複数の前記第1干渉信号が含まれる場合、各前記第1干渉信号に関して、前記処理(a)~(c)を実行する、車載用レーダ装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車載用レーダ装置であって、
前記干渉区間の少なくとも一部において、前記第1信号のうち、前記第1干渉信号を、前記物標に基づく信号を表す物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタ(207)を備え、
前記処理部は、前記フィルタを通過した前記第1信号に関して、前記処理(a)および前記処理(b)を実行し、前記フィルタを通過していない前記第1信号に関して、前記処理(c)を実行する、車載用レーダ装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車載用レーダ装置であって、
前記フィルタは、ハイパスフィルタとして構成されている、車載用レーダ装置。
【請求項10】
請求項8に記載の車載用レーダ装置であって、
前記反射波を前記第1受信信号とは異なる他の受信信号として受信する、前記第1受信信号とは異なる他の受信アンテナと、
前記他の受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記他の受信信号とをミキシングすることによって前記第1信号とは異なる他の信号を生成する、前記第1受信回路とは異なる他の受信回路と、を備え、
前記フィルタは、前記他の信号を用いて、前記干渉区間の少なくとも一部において、前記第1信号のうち、前記第1干渉信号を前記物標信号に対して相対的に増幅させる、車載用レーダ装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の車載用レーダ装置であって、
前記反射波を第2受信信号(Dw2)として受信する第2受信アンテナ(132)と、
前記第2受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記第2受信信号(Dw2)とをミキシングすることによって第2信号(Sg2)を生成する第2受信回路(142)と、を備え、
前記処理部は、
(e)前記第2受信信号および前記関数を用いて、前記第2信号に含まれる干渉信号を表す第2干渉信号の推定値が減算された前記第2信号を表す第2所望信号(Sd2)を算出する処理を実行する、
車載用レーダ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車載用レーダ装置であって、
前記処理部は、前記処理(e)において、
(e1)前記第2信号および前記関数を用いて、前記第2干渉信号を推定する処理と、
(e2)前記第2信号に対して、前記処理(e1)で推定された前記第2干渉信号を減算することによって、前記第2所望信号を算出する処理と、を実行する、
車載用レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物標による反射波に基づく受信信号に基づいて物標を測定する車載用レーダ装置において、受信信号に他のレーダ装置からの送信信号の干渉による干渉信号が生じる場合がある。このような干渉信号を除去する技術に関して、特許文献1には、受信信号の時間微分の極値から、干渉信号の位相応答の時間微分のパラメータを表す直線を推定し、推定された直線に基づいて受信信号から干渉信号を除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、受信信号の時間微分の極値を精度良く特定できない場合、干渉信号の位相応答の時間微分のパラメータを表す直線を精度良く推定できないので、受信信号から干渉信号を効果的に除去できない可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の第1の形態によれば、車載用レーダ装置(100)が提供される。この車載用レーダ装置は、送信信号(Tw)に基づく送信波を反射した物標(OB)からの反射波を第1受信信号(Dw1)として受信する第1受信アンテナ(131)と、前記第1受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記第1受信信号とをミキシングすることによって第1信号(Sg1)を生成する第1受信回路(141)と、処理部(200)と、を備える。前記処理部は、(a)前記第1信号の、前記第1信号に含まれる干渉信号を表す第1干渉信号(Sgi1)を含む干渉区間(Sci)の少なくとも一部における位相を位相接続する処理と、(b)前記処理(a)で位相接続された位相を曲線で近似することによって、前記第1干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出する処理と、(c)前記第1信号および前記関数を用いて、前記第1干渉信号の推定値が減算された前記第1信号を表す第1所望信号(Sd1)を算出する処理と、を実行する。
【0007】
このような形態によれば、第1信号の時間微分の極値を用いることなく、位相接続された位相を曲線で近似することによって第1干渉信号の位相変化に対応する関数を推定でき、この関数を用いて第1所望信号を算出できる。そのため、第1信号から第1干渉信号を効果的に除去できる可能性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態における車載用レーダ装置の概略構成を示す説明図。
【
図3】第1実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
【
図5】第1実施形態における第1算出処理のフローチャート。
【
図7】第1実施形態における第2算出処理のフローチャート。
【
図8】第2実施形態における車載用レーダ装置の概略構成を示す説明図。
【
図9】第2実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
【
図10】第2実施形態における第1算出処理のフローチャート。
【
図11】第2実施形態における第2算出処理のフローチャート。
【
図12】第3実施形態における車載用レーダ装置の概略構成を示す説明図。
【
図13】フィルタによる第1信号のフィルタリングを説明する図。
【
図14】第3実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
【
図15】第4実施形態における車載用レーダ装置の概略構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1に示した車載用レーダ装置100は、自動車や二輪車等の車両に搭載され、物標OBを測定する。物標OBとは、例えば、歩行者や、他の車両、道路上の障害物のことを指す。「物標OBを測定する」とは、例えば、車載用レーダ装置100が搭載された自己の車両と物標OBとの間の距離や角度、自己の車両に対する物標OBの相対速度を測定することを指す。本実施形態における車載用レーダ装置100は、FCM(Fast-Chirp Modulation)方式によって物標OBを測定するミリ波レーダとして構成されている。
【0010】
図1に示すように、車載用レーダ装置100は、送信信号生成部110、送信部120、受信アンテナ130、受信回路140、および、処理部200を備えている。
【0011】
送信信号生成部110は、例えば、PLL(Phase Locked Loop)回路によって構成され、送信信号Twを生成する。本実施形態における送信信号生成部110は、送信信号Twとして、周波数が時間に対して線形なチャープ信号を連続的に生成する。以下では、送信信号生成部110において1セットで生成される、複数の一連の送信信号Twの束のことをチャープ信号群とも呼ぶ。チャープ信号群は、通常、2の累乗数個のチャープ信号によって構成され、例えば、512個のチャープ信号によって構成される。
【0012】
送信部120は、送信信号Twを電磁波Ewとして空間に放射する送信アンテナによって構成され、パワーアンプPAによって増幅された送信信号Twを電磁波Ewとして放射する。本実施形態では、送信部120は、1つの送信アンテナによって構成されている。他の実施形態では、送信部120は、2以上の送信アンテナを有していてもよい。以下では、送信信号Twとして送信された電磁波Ewのことを、送信波とも呼ぶ。
【0013】
受信アンテナ130は、物標OBで反射した電磁波Ewを受信信号として受信する。以下では、物標OBによって反射された電磁波Ewのことを、反射波とも呼ぶ。
図1に示すように、本実施形態では、車載用レーダ装置100は、受信アンテナ130として、反射波を第1受信信号Dw1として受信する第1受信アンテナ131と、反射波を第1受信信号Dw1とは異なる他の受信信号として受信する他の受信アンテナとを有している。より詳細には、車載用レーダ装置100は、他の受信アンテナとして、反射波を第2受信信号Dw2として受信する第2受信アンテナ132と、反射波を第3受信信号Dw3として受信する第3受信アンテナ133とを有している。
【0014】
受信回路140は、受信アンテナ130に接続される。受信回路140は、受信アンテナ130によって受信された受信信号と送信信号Twとをミキシングすることによって、受信信号と送信信号Twとに基づく中間周波信号を生成し、処理部200へと出力する。
図1に示すように、本実施形態では、車載用レーダ装置100は、受信回路140として、第1受信アンテナ131に接続された第1受信回路141と、第1受信回路141とは異なる他の受信回路とを有している。より詳細には、車載用レーダ装置100は、他の受信回路として、第2受信アンテナ132に接続された第2受信回路142と、第3受信アンテナ133に接続された第3受信回路143とを有している。第1受信回路141は、送信信号Twと第1受信信号Dw1とをミキシングすることによって、送信信号Twと第1受信信号Dw1との中間周波信号として第1信号Sg1を生成する。同様に、第2受信回路142は、送信信号Twと第2受信信号Dw2との中間周波信号として第2信号Sg2を生成する。第3受信回路143は、送信信号Twと第3受信信号Dw3との中間周波信号として第3信号Sg3を生成する。第2受信回路142および第3受信回路143は、それぞれ、第1信号Sg1とは異なる他の信号として、より詳細には、他の中間周波信号として、第2信号Sg2および第3信号Sg3を生成するとも言える。
【0015】
他の実施形態では、車載用レーダ装置100は、他の受信アンテナとして、例えば、第2受信アンテナ132のみを有していてもよい。この場合、車載用レーダ装置100は、他の受信回路として、第2受信回路142のみを有していてもよい。また、車載用レーダ装置100は、他の受信アンテナとして3つ以上の受信アンテナ130を有していてもよく、この場合、他の受信回路として、各他の受信アンテナに対応して3つ以上の受信回路140を有していてもよい。
【0016】
本実施形態では、各受信回路140は、直交検波回路として構成され、直交ミキサ145と、ローパスフィルタ146と、アナログデジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)によって構成されたアナログデジタル変換部147とを有している。本実施形態における各受信回路140の構成は、それぞれ略同様である。
【0017】
本実施形態では、第1受信回路141は、第1信号Sg1を複素信号として生成する。より詳細には、第1受信回路141の直交ミキサ145は、信号ISg1と信号QSg1とを生成する。信号ISg1は、送信信号Twと同位相の局部発振信号LOと、低ノイズアンプLNAによって増幅された第1受信信号Dw1とがミキシングされた信号に基づく信号である。信号Qsg1は、送信信号Twに対して位相を90°遅らせた局部発振信号LOと、同様に増幅された第1受信信号Dw1とがミキシングされた信号に基づく信号である。第1受信回路141のローパスフィルタ146は、直交ミキサ145の出力信号から高周波成分を減衰させ、アナログデジタル変換部147におけるエイリアシングを抑制する。アナログデジタル変換部147は、ローパスフィルタ146によって処理された信号を、時間領域のデジタル信号に変換して出力する。このように第1受信回路141によって出力される信号ISg1は、第1信号Sg1の実数部に相当し、信号QSg2は、第1信号Sg1の虚数部に相当する。同様に、第2受信回路142は、第2信号Sg2を複素信号として生成し、第3受信回路143は、第3信号Sg3を複素信号として生成する。
【0018】
図2は、横軸を時間とし、縦軸を周波数とする模式的なグラフである。
図2には、第1信号Sg1の例が示されている。
図2では、第1信号Sg1は、第1受信アンテナ131からの距離が互いに異なる2つの物標OBにそれぞれ由来する物標信号SgO1および物標信号SgO2と、第1干渉信号Sgi1とによって、模式的に表されている。物標信号SgO1は、物標信号SgO2よりも高い周波数を有している。そのため、物標信号SgO1は、物標信号SgO2と比較して、より遠距離の物標OBに由来している。第1干渉信号Sgi1とは、第1信号Sg1に含まれる干渉信号を表す。干渉信号とは、中間周波信号に含まれる、混入信号に由来する信号のことを指す。混入信号は、他の車両に搭載されたレーダシステム等から送信された電磁波が受信信号に入り込むことによって生じる。より詳細には、
図2に示した第1干渉信号Sgi1は、他のレーダシステム等から送信されたチャープ信号に由来する。
【0019】
以下では、同様に、第2信号Sg2に含まれる干渉信号および第3信号Sg3に含まれる干渉信号のことを、それぞれ、第2干渉信号および第3干渉信号とも呼ぶ。図示は省略するが、上述したように、第1信号Sg1が2つの物標信号と1つの第1干渉信号Sgi1とを含む場合、第2信号Sg2も、2つの物標信号と1つの第2干渉信号とを含む。また、この場合、第3信号Sg3も、2つの物標信号と1つの第3干渉信号とを含む。
【0020】
処理部200は、CPUと、記憶部と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェイスとを備えるコンピュータとして構成されている。処理部200は、信号処理部210と、測定部250とを備える。本実施形態における信号処理部210と測定部250とは、処理部200の記憶部に記憶されたプログラムをCPUが実行することによって実現される機能部である。処理部200のことを信号処理装置とも呼ぶ。他の実施形態では、処理部200の機能の一部や全部が、ハードウェア回路によって実現されてもよい。また、例えば、測定部250が、処理部200とは別体に構成されていてもよい。
【0021】
処理部200は、
図3に示した干渉信号処理を実行することによって、所望信号を生成する。所望信号とは、その中間周波信号に含まれる干渉信号の推定値が減算された中間周波信号のことを指す。本実施形態では、処理部200の信号処理部210は、干渉信号処理を実行することによって、第1所望信号Sd1~第3所望信号Sd3を生成する。第1所望信号Sd1とは、第1干渉信号Sgi1の推定値が減算された第1信号Sg1のことを指す。同様に、第2所望信号Sd2とは、第2干渉信号の推定値が減算された第2信号Sg2のことを指す。第3所望信号Sd3とは、第3干渉信号の推定値が減算された第3信号Sg3のことを指す。測定部250は、後述するように、生成された各所望信号に基づいて、物標OBを測定する。
【0022】
本実施形態では、
図3に示した干渉信号処理は、チャープ信号群ごとに実行される。より詳細には、信号処理部210は、あるチャープ信号群を構成する最初の送信信号Twに基づく第1信号Sg1が処理部200に入力されたときに、干渉信号処理を開始する。
【0023】
ステップS110にて、信号処理部210は、
図2に示した、第1信号Sg1の干渉区間Sciを検出する。干渉区間Sciとは、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号Sgi1を含む時間区間のことを指す。上述したように、干渉信号はチャープ状の混入信号に由来するので、第1信号Sg1のうち干渉区間Sciではチャープ状の信号が生じ、その他の範囲においては正弦波状の信号が生じる。また、干渉区間Sciにおける信号強度は、通常、その他の範囲における信号強度より強い。そのため、信号処理部210は、例えば、このような波形の差異や信号強度の差異に基づいて、干渉区間Sciを検出する。なお、
図2の例では、干渉区間Sciは、第1信号Sg1の全時間範囲に相当する。
【0024】
ステップS120にて、信号処理部210は、
図2に示した第1信号Sg1の干渉区間Sciの少なくとも一部における位相を位相接続する位相接続処理を実行する。位相接続とは、-π~πの範囲で定義された位相を、位相の連続性を考慮して、-π~πより外側の範囲へ拡張することを指す。より詳細には、位相接続では、位相に適宜2πn(nは0でない整数)を加算または減算することによって、2π周期の境界等に生じる位相の値の飛びを解消する。位相の値の飛びは、位相ジャンプとも呼ばれる。位相接続は、位相アンラップや、位相アンラッピングとも呼ばれる。本実施形態では、信号処理部210は、ステップS120において、干渉区間Sciの全区間における位相を接続する。
【0025】
図4は、横軸を時間とし、縦軸を位相とするグラフである。
図4には、位相接続処理において位相接続されたアンラップ位相Upの例が示されている。アンラップ位相Upには、主に、干渉区間Sciにおける第1干渉信号Sgi1の位相が反映される。この理由は、干渉区間Sciにおいて、通常、第1干渉信号Sgi1の強度が、第1信号Sg1に含まれる物標信号の強度よりも大きいからである。また、チャープ信号に由来する第1干渉信号Sgi1の周波数は線形に変化するため、第1干渉信号Sgi1の位相の時間変化は、二次関数によって表される。その結果、アンラップ位相Upは、二次関数によって表される曲線に、物標信号に由来するバラツキが加わった波形を有する。特に、干渉区間Sciにおいて、物標信号に対する第1干渉信号Sgi1の強度が相対的に大きいほど、アンラップ位相Upに対して第1干渉信号Sgi1の位相がより強く反映される。
【0026】
ステップS130にて、信号処理部210は、ステップS120で位相接続された位相を曲線で近似することによって、第1干渉信号Sgi1の時間に対する位相変化に対応する位相関数φを算出する近似処理を実行する。本実施形態では、信号処理部210は、近似処理において、位相接続された位相を二次関数によって近似する。また、信号処理部210は、近似処理において、最小二乗法を用いる。より詳細には、信号処理部210は、ステップS130において、ステップS120で位相接続された位相を、最小二乗法を用いて二次関数でカーブフィッティングする。そして、信号処理部210は、位相関数φを、位相接続された位相を近似した二次関数と同じ二次の係数c1、および、一次の係数c2を有する時間tに関する二次関数として算出する。従って、位相関数φは、下記式(1)によって表される。
φ(t)=c1t2+c2t …(1)
係数c1は、第1干渉信号Sgi1の位相変化を表す二次のパラメータの近似値に相当する。係数c2は、第1干渉信号Sgi1の位相変化を表す一次のパラメータの近似値に相当する。本実施形態における近似処理では、位相関数φの係数c1および係数c2が決定されるとも言える。
【0027】
ステップS140にて、信号処理部210は、第1信号Sg1および位相関数φを用いて第1所望信号Sd1を算出する第1算出処理を実行する。
【0028】
図5に示すように、本実施形態では、信号処理部210は、第1算出処理において、ステップS141~ステップS143の第1推定処理と、ステップS144の第1減算処理とを実行する。第1推定処理とは、第1信号Sg1および位相関数φを用いて第1干渉信号Sgi1を推定する処理のことを指す。第1減算処理とは、第1推定処理によって推定された第1干渉信号Sgi1を第1信号Sg1に対して減算することによって、第1所望信号Sd1を算出する処理のこと指す。
【0029】
ステップS141にて、信号処理部210は、位相関数φに従って位相が変化する波形vを算出する。波形vは、位相関数φに従って位相が変化する振幅1の波形であり、下記式(2)で表されるベクトルとして算出される。
【0030】
【0031】
上記式(2)において、添え字Nは時間サンプル番号を表す。また、添え字Tは行列の転置を表す。
【0032】
ステップS142にて、信号処理部210は、ステップS141で算出した波形vから射影行列Mを算出する。射影行列Mは、任意のベクトルを、波形vを基底ベクトルとする部分空間に正射影する行列であり、下記式(3)で表される。
M=(v・vH)/(vH・v)…(3)
上記式(3)において、添え字Hはエルミート転置を表す。エルミート転置は、共役転置とも呼ばれる。
【0033】
ステップS143にて、信号処理部210は、第1信号Sg1に射影行列Mを乗算する。この操作は、第1信号Sg1から、第1干渉信号Sgi1の位相変化に対応する信号を取り出す操作に相当する。信号処理部210は、この第1干渉信号Sgi1の位相変化に対応する信号を、第1干渉信号Sgi1として推定する。ステップS143では、第1干渉信号Sgi1の推定値が算出されるとも言える。ステップS143で推定される第1干渉信号Sgi1の波形S1は、下記式(4)で表される。
S1=A・exp(j・(a1t2+a2t+φ0))…(4)
上記式(4)において、Aは、第1干渉信号Sgi1の振幅を表す。φ0は、第1干渉信号Sgi1の初期位相を表す。式(4)における係数a1は、第1干渉信号Sgi1の位相変化を表す二次のパラメータの推定値に相当し、上述した係数c1と互いに近似する。同様に、係数a2は、第1干渉信号Sgi1の位相変化を表す一次のパラメータの推定値に相当し、係数c2と互いに近似する。
【0034】
ステップS144の第1減算処理にて、信号処理部210は、第1信号Sg1に対して、ステップS143で算出された第1干渉信号Sgi1の推定値を減算する。これにより、
図6に示すように、第1所望信号Sd1が算出される。
【0035】
ステップS150にて、信号処理部210は、第2信号Sg2、および、ステップS120で算出された位相関数φを用いて第2所望信号Sd2を算出する第2算出処理を実行する。
【0036】
図7に示すように、本実施形態では、信号処理部210は、第2算出処理において、ステップS151の第2推定処理と、ステップS152の第2減算処理とを実行する。第2推定処理とは、第2信号Sg2と、上述した第1信号Sg1に関して算出された位相関数φとを用いて、第2干渉信号を推定する処理のことを指す。第2減算処理とは、第2推定処理によって推定された第2干渉信号を第2信号Sg2に対して減算することによって、第2所望信号Sd2を算出する処理のこと指す。
【0037】
図7のステップS151にて、信号処理部210は、上述した位相関数φに基づく射影行列Mを第2信号Sg2に乗算し、第2信号Sg2への射影行列Mの乗算によって算出される信号を第2干渉信号として推定する。このように推定される第2干渉信号は、その位相関数φの算出に用いられた第1干渉信号Sgi1と同じ混入信号に由来する干渉信号である。以下では、互いに同じ混入信号に由来する各干渉信号のことを、「対応する干渉信号」とも呼ぶ。より詳細には、第2干渉信号は、対応する第1干渉信号Sgi1と同じ係数a
1および係数a
2を有し、一方で、通常、対応する第1干渉信号Sgi1とは異なる振幅および初期位相を有する。ステップS152にて、信号処理部210は、第2推定処理によって推定された第2干渉信号の推定値を、第2信号Sg2に対して減算することによって、第2所望信号Sd2を算出する。
【0038】
図3のステップS160にて、信号処理部210は、第3信号Sg3、および、ステップS120で算出された位相関数φを用いて第3所望信号Sd3を算出する第3算出処理を実行する。ステップS160は、上述したステップS150と略同様であるため、説明を省略する。
【0039】
測定部250は、上述した干渉信号処理によって生成された各所望信号に基づいて、物標OBを測定する。この場合、測定部250は、例えば、これらの信号を個別に解析することによって物標OBを測定してもよいし、これらの信号を更にフーリエ変換した結果に基づいて物標OBを測定してもよい。
【0040】
以上で説明した本実施形態における車載用レーダ装置100によれば、処理部200は、(a)第1信号Sg1の干渉区間Sciにおける位相を位相接続する位相接続処理と、(b)位相接続によって接続された位相を曲線で近似することによって、第1干渉信号Sgi1の位相の時間変化に対応する位相関数φを算出する近似処理と、(c)第1信号Sg1および位相関数φを用いて、第1干渉信号Sgi1の推定値が減算された第1信号Sg1を表す第1所望信号Sd1を算出する第1算出処理とを実行する。これによれば、第1信号Sg1の時間微分の極値を用いることなく、位相接続された位相を曲線で近似することによって第1干渉信号Sgi1の位相変化に対応する位相関数φを推定でき、この位相関数φを用いて第1所望信号Sd1を算出できる。そのため、第1信号Sg1から第1干渉信号Sgi1を効果的に除去できる可能性が高まる。
【0041】
また、本実施形態では、処理部200は、第1算出処理において、(c1)第1信号Sg1および位相関数φを用いて第1干渉信号Sgi1を推定する第1推定処理と、(c2)第1信号Sg1に対して、第1推定処理で推定された第1干渉信号Sgi1を減算することによって、第1所望信号Sd1を算出する第1減算処理とを実行する。これによれば、第1信号Sg1の時間微分の極値を用いることなく、位相関数φを用いて、第1信号Sg1に含まれる第1干渉信号Sgi1を精度良く推定できる。そして、このように推定された第1干渉信号Sgi1を第1信号Sg1から減算することで、第1信号Sg1から第1干渉信号Sgi1を効果的に除去できる可能性が高まる。
【0042】
また、本実施形態では、第1受信回路141は、直交検波回路として構成され、第1信号Sg1を複素信号として生成し、処理部200は、第1推定処理において、位相関数φに従って位相が時間変化する波形vから射影行列Mを算出し、第1信号Sg1に射影行列Mを乗算することによって、第1干渉信号Sgi1を推定する。これにより、第1信号Sg1の極値や第1信号Sg1の時間微分の極値を用いることなく、第1干渉信号Sgi1の振幅Aおよび初期位相φ0を含む各パラメータを精度良く推定できる。そのため、第1干渉信号Sgi1を精度良く推定できる。また、第1信号Sg1に対して第1干渉信号Sgi1を減算することで第1所望信号Sd1を複素信号として生成できるので、第1所望信号Sd1が実信号として生成される場合と比較して、第1所望信号Sd1を用いて、より高度な信号処理を実行できる。
【0043】
また、本実施形態では、処理部200は、近似処理において、位相接続された位相を二次関数によって近似する。中間周波信号に含まれる干渉信号は、通常、他のレーダ装置等によって送信されたチャープ波に由来するため、その周波数は線形に変化し、その位相接続された位相の時間変化は、二次関数によって表される。そのため、近似処理において、位相接続された位相を二次関数によって近似することで、例えば、二次関数よりも高次の関数によって近似する場合と比較して、位相関数φをより迅速に算出できる。
【0044】
また、本実施形態では、処理部200は、近似処理において、最小二乗法を用いて位相関数φを算出する。そのため、より簡易に位相関数φを算出できる。
【0045】
また、本実施形態では、処理部200は、(e)第2受信信号Dw2および位相関数φを用いて、第2信号Sg2から第2干渉信号の推定値が減算された第2所望信号Sd2を算出する第2算出処理を実行する。これによれば、第2干渉信号に関して第2干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出しなくても、第1信号Sg1に関して算出された位相関数φを用いて第2所望信号Sd2を算出できる。そのため、より迅速に第2所望信号Sd2を算出できる。
【0046】
また、本実施形態では、処理部200は、第2算出処理において、(e1)第2信号Sg2および位相関数φを用いて第2干渉信号を推定する第2推定処理と、(e2)第2信号Sg2に対して、第2推定処理で推定された第2干渉信号を減算することによって、第2所望信号Sd2を算出する処理とを実行する。これによって、第2干渉信号に関して第2干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出しなくても第2干渉信号を推定でき、推定された第2干渉信号を第2信号Sg2から減算して第2所望信号Sd2を算出できる。
【0047】
B.第2実施形態:
図8に示すように、第2実施形態における処理部200bは、第1実施形態とは異なり、ヒルベルト変換器206を有する複素信号変換部205を備える。また、本実施形態における受信回路140bは、中間周波信号を複素信号ではなく実信号として生成する。第2実施形態における車載用レーダ装置100bの構成のうち、特に説明しない点については、第1実施形態と同様である。
【0048】
本実施形態における各受信回路140bは、直交検波回路としては構成されておらず、各受信アンテナ130による受信信号を受信し、各中間周波信号を実信号として生成する回路として構成されている。例えば、第1受信回路141bは、ミキサ144によって送信信号Twと第1受信信号Dw1とをミキシングすることで第1信号Sg1を実信号として生成する。同様に、第2受信回路142bおよび第3受信回路143bは、それぞれ、第2信号Sg2および第3信号Sg3を実信号として生成する。
【0049】
複素信号変換部205は、後述するように、ヒルベルト変換器206を用いて、後述する変換処理を実行する。ヒルベルト変換器206は、例えば、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ等によって構成され、ヒルベルト変換器206に入力された信号をヒルベルト変換する。ヒルベルト変換器206に入力された元の信号は、ヒルベルト変換によって、その信号の位相がπ/2だけ遅れた信号に相当する信号に変換される。
【0050】
本実施形態における処理部200bは、
図9に示した干渉信号処理を実行する。
【0051】
ステップS210は、
図3のステップS110と同様である。ステップS215にて、処理部200bの複素信号変換部205は、変換処理を実行する。変換処理とは、第1信号Sg1の、干渉区間Sciの少なくとも一部を、ヒルベルト変換を用いて複素信号に変換する処理のことを指す。本実施形態では、複素信号変換部205は、第1信号Sg1を、第1信号Sg1の干渉区間Sciがヒルベルト変換器206によってヒルベルト変換された信号を虚部に有し、第1信号Sg1の干渉区間Sciがヒルベルト変換されていない信号を実部に有する第1信号Sg1bに変換する。このようにヒルベルト変換を用いて複素信号に変換された信号は、解析信号とも呼ばれる。ステップS205では、第1信号Sg1は、干渉区間Sciの少なくとも一部において、解析信号に変換されるとも言える。
【0052】
次に、ステップS220にて、信号処理部210は、複素信号に変換された第1信号Sg1bの干渉区間Sciにおける位相を、
図3のステップS120と同様に位相接続する。その後、ステップS230にて、信号処理部210は、近似処理を実行する。本実施形態における近似処理では、信号処理部210は、ステップS220で位相接続された位相を、
図3のステップS130と同様に曲線で近似することによって、位相関数φを算出する。
【0053】
ステップS240にて、信号処理部210は、第1算出処理を実行する。本実施形態における第1算出処理では、信号処理部210は、実信号としての第1信号Sg1および位相関数φを用いて第1所望信号Sd1を算出する。
図10に示すように、本実施形態における第1算出処理のうち、ステップS241~ステップS243が第1推定処理に相当し、ステップS244が第1減算処理に相当する。
【0054】
図10のステップS241にて、信号処理部210は、第1波形v1および第2波形v2を算出する。第1波形v1は、位相関数φに従って位相が変化する振幅1の波形であり、第1実施形態で説明した波形vと同様のベクトルとして算出される。第2波形v2は、第1波形v1と複素共役の関係にある波形である。
【0055】
ステップS242にて、信号処理部210は、第1波形v1から第1射影行列M1を算出し、第2波形v2から第2射影行列M2を算出する。第1射影行列M1および第2射影行列M2は、第1実施形態で説明した射影行列Mと同様に算出される。
【0056】
ステップS243にて、信号処理部210は、第1部分信号および第2部分信号を推定する。より詳細には、信号処理部210は、実信号としての第1信号Sg1に第1射影行列M1を乗算し、これによって算出される信号を第1部分信号として推定する。同様に、信号処理部210は、実信号としての第1信号Sg1に第2射影行列M2を乗算し、これによって算出される信号を第2部分信号として推定する。このように推定される第1部分信号および第2部分信号は、ともに第1干渉信号Sgi1の一部を表す、互いに異なる信号である。より詳細には、第1部分信号と第2部分信号とのいずれか一方は、第1干渉信号Sgi1の正の周波数成分に対応し、他方は、第1干渉信号Sgi1の負の周波数成分に対応する。
【0057】
ステップS244にて、信号処理部210は、実信号としての第1信号Sg1に対して、第1部分信号および第2部分信号を減算する。これにより、第1所望信号Sd1が算出される。
【0058】
ステップS250の第2算出処理にて、信号処理部210は、実信号としての第2信号Sg2および位相関数φを用いて第2所望信号Sd2を算出する。
図11に示すように、本実施形態における第2算出処理のうち、ステップS251が第2推定処理に相当し、ステップS252が第2減算処理に相当する。
【0059】
図11のステップS251にて、信号処理部210は、第3部分信号および第4部分信号を推定する。より詳細には、信号処理部210は、実信号としての第2信号Sg2に第1射影行列M
1を乗算し、これによって算出される信号を第3部分信号として推定する。同様に、信号処理部210は、実信号としての第2信号Sg2に第2射影行列M
2を乗算し、これによって算出される信号を第4部分信号として推定する。このように推定される第3部分信号と第4部分信号とのいずれか一方は、第2干渉信号の正の周波数成分に対応し、他方は、第2干渉信号の負の周波数成分に対応する。ステップS252にて、信号処理部210は、実信号としての第2信号Sg2に対して、第3部分信号および第4部分信号を減算する。これにより、第2所望信号Sd2が算出される。ステップS260は、
図3のステップS160と同様である。
【0060】
以上で説明した第2実施形態によれば、処理部200bは、位相接続処理に先立って、少なくとも干渉区間Sciにおいて、実信号としての第1信号Sg1を、ヒルベルト変換を用いて複素信号に変換する変換処理を実行し、位相接続処理において、複素信号に変換された第1信号Sg1bの、干渉区間Sciにおける位相を位相接続する。次に、第1推定処理において、実信号としての第1信号Sg1に、第1波形v1から算出された第1射影行列M1を乗算することによって、第1干渉信号Sgi1の一部を表す第1部分信号を推定し、実信号としての第1信号Sg1に、第1波形v1と複素共役の関係にある第2波形v2から算出された第2射影行列M2を乗算することによって、第1干渉信号Sgi1の一部を表す第2部分信号を推定する。そして、第1減算処理において、実信号としての第1信号Sg1に対して、第1部分信号および第2部分信号を減算することによって、第1所望信号Sd1を算出する。そのため、第1受信回路141bが直交検波回路として構成されていなくても、第1信号Sg1の極値や第1信号Sg1の時間微分の極値を用いることなく、第1干渉信号Sgi1の振幅Aおよび初期位相φ0を含む各パラメータを精度良く推定できる。
【0061】
また、第2実施形態では、上述したように、干渉区間Sciの少なくとも一部を複素信号に変換すればよく、実信号としての第1信号Sg1の全時間区間を複素信号に変換することを要しない。そのため、干渉区間Sciの一部を複素信号に変換すれば、干渉区間Sciの全部や実信号としての第1信号Sg1の全時間区間を複素信号に変換する場合と比較して、より迅速に第1所望信号Sd1を算出できる。
【0062】
なお、他の実施形態において、実信号としての第1信号Sg1の全時間区間を複素信号に変換する場合、例えば、第1算出処理において、複素信号としての第1信号Sg1bおよび位相関数φを用いて第1所望信号Sd1を算出してもよい。この場合、処理部200bは、例えば、第1実施形態で説明したのと同様に第1算出処理を実行して第1所望信号Sd1を算出できる。同様に、この場合、処理部200bは、第2算出処理において、複素信号としての第2信号および位相関数φを用いて第2所望信号Sd2を算出してもよい。
【0063】
C.第3実施形態:
図12に示すように、第3実施形態における車載用レーダ装置100cは、第1実施形態とは異なり、フィルタ207を備える。第3実施形態における車載用レーダ装置100cの構成のうち、特に説明しない点については、第1実施形態と同様である。
【0064】
本実施形態では、フィルタ207は、処理部200cに設けられている。フィルタ207は、干渉区間の少なくとも一部において、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号を、物標OBに基づく信号に対して相対的に増幅させる。本実施形態では、フィルタ207は、ハイパスフィルタとして構成されており、予め定められた遮断周波数fcより高い周波数を通過させ、遮断周波数fc以下の周波数を遮断する。なお、「周波数が高い」とは、「周波数の絶対値が大きい」ことを意味する。ハイパスフィルタは、ローカットフィルタとも呼ばれる。
【0065】
図13の上部には、
図2と同様に、物標信号SgO1および物標信号SgO2と1つの第1干渉信号Sgi1aとによって表された第1信号Sg1が示されている。また、
図13の上部には、第1干渉信号Sgi1aを含む干渉区間Sci1aが示されている。
図13に示すように、第1信号Sg1がフィルタ207を通過してフィルタリングされることによって、フィルタ207を通過した第1信号Sg1を表すフィルタ後信号Sg1fが生成される。フィルタ後信号Sg1fの区間Sc1および区間Sc2は、互いに分離した区間であり、それぞれ、第1干渉信号Sgi1aの周波数が遮断周波数fcより大きい区間に対応する。フィルタ後信号Sg1fの区間Sc3は、干渉区間Sci1aの周波数が遮断周波数fc以下の区間に対応する。なお、以下では、特に断らない限り、単に「第1信号Sg1」という場合、フィルタ207を通過していない第1信号Sg1を指す。
【0066】
図13の例では、物標信号SgO2全体と、第1干渉信号Sgi1aの一部の遮断周波数fc以下の周波数域とがカットされることによって、フィルタ後信号Sg1fが生成されている。これにより、フィルタ後信号Sg1fは、物標信号SgO2に対応する信号を含まない。物標信号SgO2は、より近距離の物標OBに由来するので、通常、物標信号SgO2の強度は、物標信号SgO1の強度よりも大きい。そのため、フィルタ後信号Sg1fが物標信号SgO2に対応する信号を含まないことにより、フィルタ後信号Sg1fの区間Sc1および区間Sc2において、フィルタ207を通過した第1干渉信号Sgi1aが、フィルタ207を通過した物標信号に対して相対的に増幅される。また、区間Sc1および区間Sc2は、それぞれ、フィルタ207を通過した第1干渉信号Sgi1aを含み、フィルタ後信号Sg1fの干渉区間Scifに相当する。従って、フィルタ後信号Sg1fにおける2つの干渉区間Scifは、それぞれ分離しているが、ともに1つの第1干渉信号Sgi1aに起因する。
【0067】
信号処理部210は、例えば、このように2つに分離した干渉区間Scifにおけるフィルタ後信号Sg1fの強度が同等であることを利用して、各干渉区間Scifがともに同じ第1干渉信号Sgi1aに起因すると判定できる。また、これにより、信号処理部210は、フィルタ後信号Sg1fから、第1信号Sg1における干渉区間Sci1aを推定できる。より詳細には、信号処理部210は、例えば、同じ第1干渉信号Sgi1aに起因する2つの干渉区間Scifと、これら2つの干渉区間Scifに挟まれる区間Sc3とによって形成される連続した区間に対応する区間を、干渉区間Sci1aとして推定できる。以下では、フィルタ後信号Sg1fに含まれる干渉信号、つまり、フィルタ207を通過した第1干渉信号のことをフィルタ後干渉信号とも呼ぶ。また、干渉区間Scifのように、フィルタ後信号Sg1fの干渉区間、つまり、フィルタ後干渉信号を含む干渉区間のことを、フィルタ後干渉区間とも呼ぶ。
【0068】
図13の例では、区間Sc3は、第1干渉信号Sgi1aに由来するフィルタ後干渉信号を含んでおらず、フィルタ207を通過した物標信号SgO1に対応する信号のみを含んでいる。ここで、例えば、
図13の上部に破線で示したように、第1信号Sg1に、第1干渉信号Sgi1aよりも周波数の時間に対する変化の傾きの絶対値が大きい第1干渉信号Sgi1bが第1干渉信号Sgi1aと同時刻に含まれている場合、フィルタ後信号Sg1fにおいて、第1干渉信号Sgi1bに由来するフィルタ後干渉信号を含む干渉区間は、区間Sc1や区間Sc2ではなく区間Sc3内に含まれる。このように、本実施形態では、フィルタ後信号Sg1fにおいて、複数のフィルタ後干渉区間が個別に検出されやすくなる。また、信号処理部210は、干渉区間Sci1aをフィルタ後信号Sg1fから推定するのと同様に、第1信号Sg1における、第1干渉信号Sgi1bを含む干渉区間Sci1bをフィルタ後信号Sg1fから推定できる。さらに、このように、第1信号Sg1における各干渉区間をフィルタ後信号Sg1fから推定することによって、第1信号Sg1に含まれる干渉信号の個数を推定できる。例えば、第1信号Sg1に第1干渉信号Sgi1aおよび第1干渉信号Sgi1bが含まれる場合、フィルタ後信号Sg1fには、同じ第1干渉信号Sgi1aに起因する2つのフィルタ後干渉区間と、同じ第1干渉信号Sgi1bに起因する2つのフィルタ後干渉区間との、計4つのフィルタ後干渉区間が含まれるが、第1信号Sg1に含まれる第1干渉信号や干渉区間の個数は、2つであると推定される。
【0069】
本実施形態における処理部200cは、
図14に示した干渉信号処理を実行する。
図14では、
図3と同様の工程には、
図3と同じ符号が付されている。本実施形態では、処理部200cは、干渉信号処理において、フィルタ後信号Sg1fに関して、位相接続処理と近似処理とを実行し、フィルタ207を通過していない第1信号Sg1に関して、第1算出処理を実行する。
【0070】
図14のステップS105にて、処理部200cは、上述したように、フィルタ207を用いて、第1信号Sg1をフィルタリングする。
【0071】
図14のステップS110bでは、処理部200cの信号処理部210は、フィルタ後信号Sg1fに含まれるフィルタ後干渉区間を検出する。ステップS115にて、信号処理部210は、第1信号Sg1に含まれる第1干渉信号の個数を推定する。信号処理部210は、ステップS115において、例えば、上述したように、干渉区間Scifにおけるフィルタ後信号Sg1fの強度を利用して、同じ第1干渉信号に由来するフィルタ後信号を特定するとともに、第1信号Sg1に含まれる第1干渉信号の個数を推定する。ステップS120bの位相接続処理にて、信号処理部210は、フィルタ後干渉区間の少なくとも一部における位相を位相接続する。例えば、信号処理部210は、ステップS120bにおいて、
図13で説明した第1干渉信号Sgi1aに関して位相接続処理を実行する場合、区間Sc1と区間Sc2とのいずれか一方の区間の少なくとも一部における位相を位相接続する。ステップS130bの近似処理にて、信号処理部210は、ステップS120bで位相接続された位相を曲線で近似することによって、位相関数φを算出する。その後、ステップS140の第1算出処理において、信号処理部210は、フィルタ207を通過していない第1信号Sg1と、ステップS130で算出された位相関数φとを用いて第1所望信号Sd1を算出する。
【0072】
ステップS145にて、信号処理部210は、第1所望信号Sd1に、他の第1干渉信号が含まれているか否かを判定する。信号処理部210は、第1所望信号Sd1に他の第1干渉信号が含まれていると判定した場合、ステップS120bに処理を戻す。ステップS145における「他の第1干渉信号」とは、ステップS145が実行された時点で処理されていない第1干渉信号のことを指す。「ある干渉信号が処理される」とは、その干渉信号に関して位相接続処理と近似処理とが実行されることによって、その干渉信号に関する位相関数φが算出されることを指す。例えば、ステップS115で推定された第1干渉信号の個数が2つ以上である場合、信号処理部210は、最初に実行されるステップS145では、第1所望信号Sd1に他の第1干渉区間が含まれていると判定する。
【0073】
再度実行されるステップS120b~ステップS140では、信号処理部210は、検出された他の第1干渉信号に関して、それぞれ、位相接続処理と近似処理と第1算出処理とを実行する。そのため、本実施形態では、信号処理部210は、第1信号Sg1に複数の第1干渉信号が含まれている場合、各第1干渉信号に関して、位相接続処理と近似処理と第1算出処理とを実行するとも言える。
【0074】
例えば、
図13で説明したように、第1信号Sg1に、第1干渉信号Sgi1aに加えて第1干渉信号Sgi1bが含まれており、最初に実行されるステップS140において第1干渉信号Sgi1aに関して第1算出処理が実行された場合、再度実行されるステップS120b~ステップS140では、信号処理部210は、第1干渉信号Sgi1bに関して位相接続処理と近似処理と第1算出処理とを実行する。より詳細には、この場合、再度実行されるステップS120bでは、信号処理部210は、フィルタ後信号Sg1fのうち、第1干渉信号Sgi1bに由来するフィルタ後干渉区間の少なくとも一部における位相を位相接続する。この場合、先に実行されたステップS120bで、区間Sc1と区間Sc2とのいずれの区間が位相接続の対象であった場合でも、再度実行されるステップS120bでは、区間Sc1と区間Sc2とのいずれもが位相接続の対象から除外される。再度実行されるステップS130bでは、信号処理部210は、再度実行されたステップS120bで接続された位相を用いて、位相関数φを算出する。再度実行されるステップS140では、信号処理部210は、直前に算出された第1所望信号Sd1を第1信号Sg1として用い、かつ、再度実行されたステップS130bで算出された第1干渉信号Sgi1bに関する位相関数φを用いて、新たに第1所望信号Sd1を算出する。つまり、再度実行されるステップS140bは、直前に算出された第1所望信号Sd1と位相関数φとを用いて、第1所望信号Sd1を更新する処理であるとも言える。なお、推定された干渉信号の個数が3つ以上である場合も上記と同様に、信号処理部210は、ステップS120b、ステップS130bおよびステップS140を、推定された干渉信号の個数に相当する回数だけ繰り返す。
【0075】
信号処理部210は、ステップS150で第2算出処理を実行した後、ステップS155にて、第2信号Sg2に含まれる全ての第2干渉信号の処理が完了したか否かを判定する。信号処理部210は、全ての第2干渉信号の処理が完了していないと判定した場合、ステップS150に処理を戻す。より詳細には、第2信号Sg2に含まれる第2干渉信号の数は、第1信号Sg1に含まれる第1干渉信号の個数と同じであるので、信号処理部210は、ステップS140を実行した回数と同じ回数だけ、ステップS150を実行する。再度実行されるステップS150では、第2信号Sg2として、直前に算出された第2所望信号Sd2が用いられる。また、再度実行されるステップS150で用いられる位相関数φと、先に実行されるステップS150で用いられる位相関数φとは、それぞれ、異なる第1干渉信号に由来する。ステップS160およびステップS165は、それぞれ、ステップS150およびステップS155と略同様であるため、説明を省略する。
【0076】
以上で説明した第3実施形態によれば、干渉区間の少なくとも一部において、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号を物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタ207を備え、処理部200cは、フィルタ後信号Sg1fに関して、(a)位相接続処理および(b)近似処理を実行し、フィルタ207を通過していない第1信号Sg1に関して、(c)第1算出処理を実行する。これにより、フィルタ207によって、第1干渉信号の強度を物標信号の強度に対して相対的に大きくできるので、近似処理においてアンラップ位相Upをより精度良く近似できる。そのため、第1算出処理において第1所望信号Sd1をより精度良く算出できる。なお、本実施形態のようにフィルタ207を備える構成を、例えば、第2実施形態で説明した車載用レーダ装置100bのように、第1信号Sg1を実信号として生成する受信回路140b、および、ヒルベルト変換器206を備える形態に適用してもよい。
【0077】
また、本実施形態では、フィルタ207は、ハイパスフィルタとして構成されている。これにより、フィルタ207を、干渉区間の少なくとも一部において、より近距離の物標OBに由来する信号をカットすることにより第1干渉信号を物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタとして、簡易に構成できる。また、フィルタ後信号Sg1fの各フィルタ後干渉区間を短くできるので、フィルタ後信号Sg1fにおいて、複数のフィルタ後干渉区間を個別に検出しやすくなり、第1信号Sg1に含まれる複数の干渉区間を個別に検出しやすくなる。なお、他の実施形態では、フィルタ207は、例えば、バンドパスフィルタとして構成されてもよい。この場合であっても、フィルタ207の通過帯域を適切に設定することで、上記と略同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態では、処理部200cは、第1信号Sg1に複数の第1干渉信号が含まれる場合、各第1干渉信号に関して、位相接続処理と近似処理と第1算出処理とを実行する。そのため、第1信号Sg1に複数の第1干渉信号が含まれる場合であっても、第1信号Sg1から各第1干渉信号を効果的に除去できる。
【0079】
なお、第1実施形態や第2実施形態のように、フィルタ207が設けられていない形態であっても、処理部200は、第1信号Sg1に複数の第1干渉信号が含まれる場合に、各第1干渉信号に関して位相接続処理と近似処理と第1算出処理とを実行してもよい。
【0080】
D.第4実施形態
図15に示すように、第4実施形態における車載用レーダ装置100dは、フィルタ207bを備えている。フィルタ207bは、第3実施形態で説明したフィルタ207とは異なり、ハイパスフィルタとしては構成されていない。フィルタ207bは、第1信号Sg1とは異なる他の中間周波信号を用いて、干渉区間Sciの少なくとも一部において、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号Sgi1を物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタとして構成されている。第4実施形態における車載用レーダ装置100dの構成のうち、特に説明しない点については、第1実施形態と同様である。
【0081】
本実施形態におけるフィルタ207bは、処理部200dに設けられている。フィルタ207bは、第2信号Sg2を用いて、第1干渉信号Sgi1を第1信号Sg1に含まれる物標信号に対して相対的に増幅させる。例えば、フィルタ207bは、第2信号Sg2に含まれる第2干渉信号の位相がその第2干渉信号に対応する第1干渉信号Sgi1の位相と一致するように第2信号Sg2の位相を調整し、このように位相が調整された第2信号Sg2を、第1信号Sg1に対して加算するフィルタとして構成される。通常、第1信号Sg1における物標信号と第1干渉信号Sgi1との位相差と、第2信号Sg2における物標信号と第2干渉信号との位相差とは異なるので、このように構成されたフィルタ207bにより、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号Sgi1が、物標信号に対して相対的に増幅される。これにより、フィルタ後信号Sg1fbが生成される。
【0082】
上述した第1干渉信号Sgi1や第2干渉信号の位相は、例えば、第2干渉信号や第1干渉信号Sgi1に対して位相接続処理や近似処理と同様の処理を実行することによって検出されてもよい。また、例えば、混入信号が放射された方位が概ね予想される場合、互いに対応する第1干渉信号Sgi1と第2干渉信号との位相差を概ね予想できる。この場合、この位相差に基づいて、第1信号Sg1に対して加算される第2信号Sg2の位相を調整してもよい。これらの場合、上記の位相や位相差は、第1信号Sg1に対する第2信号Sg2の加算によって第1干渉信号Sgi1を増幅させることができる程度の精度で検出されればよい。
【0083】
本実施形態では、処理部200dは、例えば、上記のフィルタリングを実行した後に、
図3の干渉信号処理と同様の処理を実行することによって、第1所望信号Sd1~第3所望信号Sd3を生成する。より詳細には、処理部200dは、干渉信号処理において、第3実施形態と同様に、フィルタ後信号Sg1fbに関して、位相接続処理と近似処理とを実行し、フィルタ207bを通過していない第1信号Sg1に関して、第1算出処理を実行する。他の実施形態では、処理部200dは、
図9や
図14の干渉信号処理と同様の処理を実行してもよい。
【0084】
以上で説明した第4実施形態によれば、フィルタ207bは、第1信号Sg1とは異なる他の中間周波信号を用いて、干渉区間Sciの少なくとも一部において、前記第1干渉信号を前記物標信号に対して相対的に増幅させる。このような形態によっても、フィルタ207bによって、第1信号Sg1のうち、第1干渉信号Sgi1の強度を物標信号の強度に対して相対的に大きくできるので、近似処理においてアンラップ位相Upをより精度良く近似できる。
【0085】
なお、他の実施形態では、フィルタ207bは、例えば、第2信号Sg2に含まれる物標信号の位相と、その物標信号に対応する第1信号Sg1に含まれる物標信号の位相との位相が一致するように第2信号Sg2の位相を調整し、このように位相が調整された第2信号Sg2を、第1信号Sg1に対して減算するフィルタとして構成されてもよい。この場合であっても、第4実施形態と同様に、フィルタ207bを、第1信号Sg1とは異なる他の信号を用いて、第1干渉信号Sgi1を第1信号Sg1に含まれる物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタとして構成できる。
【0086】
また、他の実施形態では、フィルタ207bは、例えば、第3信号Sg3を用いて、第1干渉信号Sgi1を第1信号Sg1に含まれる物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタとして構成されていてもよい。また、この場合、例えば、第3信号Sg3に基づいて第3所望信号Sd3を算出せず、第3信号Sg3をフィルタ207bによるフィルタリングのみに用いてもよい。
【0087】
E.他の実施形態:
(E-1)上記実施形態では、処理部200は、第1算出処理において、第1推定処理と、第1減算処理とを実行している。これに対して、処理部200は、第1算出処理において、第1推定処理と第1減算処理とを実行しなくてもよい。例えば、処理部200は、第1算出処理において、第1信号Sg1に、行例Mbを乗じることによって、第1所望信号Sd1を算出してもよい。行列Mbは、上述した射影行列Mを用いて下記式(5)で表される。
Mb=I-M …(5)
上記式(5)において、Iは単位行列を表す。第1信号Sg1に行列Mbを乗じることによって算出される第1所望信号Sd1は、第1推定処理と第1減算処理とを実行することによって算出される第1所望信号Sd1と数学的に同値である。そのため、この場合でも、第1信号Sg1から第1干渉信号Sgi1を効果的に除去できる可能性が高まる。また、同様に、処理部200は、第2算出処理において、第2推定処理と第2減算処理とを実行しなくてもよい。
【0088】
(E-2)上記実施形態では、処理部200は、第1推定処理において射影行列Mを算出しているが、射影行列Mを算出しなくてもよい。この場合、処理部200は、例えば、近似処理において下記式(6)で表される位相関数φbを算出し、第1推定処理において位相関数φbに基づいて第1干渉信号Sgi1を推定してもよい。
φb=c1t2+c2t+c3 …(6)
つまり、この場合、処理部200は、近似処理において、アンラップ位相Upを曲線で近似することによって係数c1および係数c2に加えて係数c3を決定する。係数c3は、第1干渉信号Sgi1の初期位相の近似値に相当する。そして、処理部200は、第1推定処理において、第1干渉信号Sgi1の振幅Aを推定することによって、下記式(7)で表される第1干渉信号Sgi1の波形S2を推定する。
S2=A・exp(j・(c1t2+c2t+c3))…(7)
この場合、振幅Aは、例えば、第1信号Sg1の振幅に基づいて算出される。また、この場合、処理部200は、第2信号Sg2に関しても、位相接続処理と同様の処理、および、上記の近似処理と同様の処理を実行することによって、上記式(6)で表される位相関数φbと同様の関数を算出できる。そして、処理部200は、第2推定処理において、この関数に基づいて第2干渉信号を推定できる。
【0089】
(E-3)上記実施形態では、処理部200は、近似処理において、アンラップ位相Upを二次関数によって近似しているが、二次関数によって近似しなくてもよい。また、上記実施形態では、処理部200は、近似処理において、最小二乗法を用いて位相関数φbを算出しているが、最小二乗法以外の手法を用いて位相関数φbを算出してもよい。
【0090】
(E-4)上記実施形態では、処理部200は、第2算出処理において、第1干渉信号Sgi1の位相関数φを用いて第2所望信号Sd2を算出しているが、例えば、第2算出処理に先立って、第2信号Sg2に関して位相接続処理および近似処理と同様の処理を実行することによって、第2干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出し、算出した関数を用いて第2所望信号Sd2を算出してもよい。
【0091】
(E-5)上記実施形態では、車載用レーダ装置100は、第1受信アンテナ131とは異なる他の受信アンテナ130や、第1受信回路141とは異なる他の受信回路140を備えているが、他の受信アンテナ130や他の受信回路140を備えていなくてもよい。
【0092】
F.他の形態:
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0093】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0094】
<形態1>車載用レーダ装置(100)は、送信信号(Tw)に基づく送信波を反射した物標(OB)からの反射波を第1受信信号(Dw1)として受信する第1受信アンテナ(131)と、前記第1受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記第1受信信号とをミキシングすることによって第1信号(Sg1)を生成する第1受信回路(141)と、処理部(200)と、を備える。前記処理部は、(a)前記第1信号の、前記第1信号に含まれる干渉信号を表す第1干渉信号(Sgi1)を含む干渉区間(Sci)の少なくとも一部における位相を位相接続する処理と、(b)前記処理(a)で位相接続された位相を曲線で近似することによって、前記第1干渉信号の位相の時間変化に対応する関数を算出する処理と、(c)前記第1信号および前記関数を用いて、前記第1干渉信号の推定値が減算された前記第1信号を表す第1所望信号(Sd1)を算出する処理と、を実行する。
【0095】
<形態2>上記形態1の信号処理装置において、前記処理部は、前記処理(c)において、(c1)前記第1信号および前記関数を用いて、前記第1干渉信号を推定する処理と、(c2)前記第1信号に対して、前記処理(c1)で推定された前記第1干渉信号を減算することによって、前記第1所望信号を算出する処理と、を実行してもよい。
【0096】
<形態3>上記形態2の信号処理装置において、前記第1受信回路は、直交検波回路として構成され、前記第1信号を複素信号として生成し、前記処理部は、前記処理(c1)において、前記関数に従って位相が時間変化する波形(v)から射影行列(M)を算出し、前記第1信号に前記射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号を推定してもよい。
【0097】
<形態4>上記形態2の信号処理装置において、前記第1受信回路は、前記第1信号を実信号として生成し、前記処理部は、前記処理(a)に先立って、前記干渉区間の少なくとも一部において、実信号としての前記第1信号を、ヒルベルト変換を用いて複素信号に変換する変換処理を実行し、前記処理(a)において、複素信号に変換された前記第1信号の、前記第1干渉信号を含む区間における位相を位相接続し、前記処理(c1)において、前記関数に従って位相が変化する第1波形(v1)から第1射影行列(M1)を算出し、実信号としての前記第1信号に前記第1射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号の一部を表す第1部分信号を推定し、前記第1波形と複素共役の関係にある第2波形(v2)から第2射影行列(M2)を算出し、実信号としての前記第1信号に前記第2射影行列を乗算することによって、前記第1干渉信号の一部を表し、前記第1部分信号とは異なる第2部分信号を推定し、前記処理(c2)において、実信号としての前記第1信号に対して、前記第1部分信号および前記第2部分信号を減算することによって、前記第1所望信号を算出してもよい。
【0098】
<形態5>上記形態1から4のいずれか一の形態の車載用レーダ装置において、前記処理部は、前記処理(b)において、前記処理(a)で位相接続された位相を二次関数によって近似してもよい。
【0099】
<形態6>上記形態1から5のいずれか一の形態の車載用レーダ装置において、前記処理部は、前記処理(b)において、最小二乗法を用いて前記関数を算出してもよい。
【0100】
<形態7>上記形態1から6のいずれか一の形態の車載用レーダ装置において、前記処理部は、前記第1信号に複数の前記第1干渉信号が含まれる場合、各前記第1干渉信号に関して、前記処理(a)~(c)を実行してもよい。
【0101】
<形態8>上記形態1から7のいずれか一の形態の車載用レーダ装置において、前記干渉区間の少なくとも一部において、前記第1信号のうち、前記第1干渉信号を、前記物標に基づく信号を表す物標信号に対して相対的に増幅させるフィルタ(207)を備え、前記処理部は、前記フィルタを通過した前記第1信号に関して、前記処理(a)および前記処理(b)を実行し、前記フィルタを通過していない前記第1信号に関して、前記処理(c)を実行してもよい。
【0102】
<形態9>上記形態8の車載用レーダ装置において、前記フィルタは、ハイパスフィルタとして構成されていてもよい。
【0103】
<形態10>上記形態8の車載用レーダ装置において、前記反射波を前記第1受信信号とは異なる他の受信信号として受信する、前記第1受信信号とは異なる他の受信アンテナと、前記他の受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記他の受信信号とをミキシングすることによって前記第1信号とは異なる他の信号を生成する、前記第1受信回路とは異なる他の受信回路と、を備え、前記フィルタは、前記他の信号を用いて、前記干渉区間の少なくとも一部において、前記第1信号のうち、前記第1干渉信号を前記物標信号に対して相対的に増幅させてもよい。
【0104】
<形態11>上記形態1から10のいずれか一の形態の車載用レーダ装置において、前記反射波を第2受信信号(Dw2)として受信する第2受信アンテナ(132)と、前記第2受信アンテナに接続され、前記送信信号と前記第2受信信号(Dw2)とをミキシングすることによって第2信号(Sg2)を生成する第2受信回路(142)と、を備え、前記処理部は、(e)前記第2受信信号および前記関数を用いて、前記第2信号に含まれる干渉信号を表す第2干渉信号の推定値が減算された前記第2信号を表す第2所望信号(Sd2)を算出する処理を実行してもよい。
【0105】
<形態12>上記形態11の車載用レーダ装置において、前記処理部は、前記処理(e)において、(e1)前記第2信号および前記関数を用いて、前記第2干渉信号を推定する処理と、(e2)前記第2信号に対して、前記処理(e1)で推定された前記第2干渉信号を減算することによって、前記第2所望信号を算出する処理と、を実行してもよい。
【符号の説明】
【0106】
Dw1…第1受信信号、OB…物標、Sci…干渉区間、Sd1…第1所望信号、Sg1…第1信号、Sgi1…第1干渉信号、Tw…送信信号、100…車載用レーダ装置、130…受信アンテナ、131…第1受信アンテナ、140…受信回路、141…第1受信回路