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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002697
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】耐火タイル及び燃焼炉
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/10 20060101AFI20231228BHJP
   F23M 5/00 20060101ALI20231228BHJP
   F23M 5/04 20060101ALI20231228BHJP
   F23M 5/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F22B37/10 602B
F22B37/10 602D
F23M5/00 G
F23M5/04
F23M5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102052
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 悟史
(57)【要約】
【課題】充填材の膨張時におけるタイルの迫り出しを抑制することができる耐火タイル及びこれを用いた燃焼炉を得る。
【解決手段】耐火タイル30は、充填材40を介在させてボイラー水管18に取り付けられている。耐火タイル30は、ボイラー水管側に開口した開断面状に形成されると共にボイラー水管から突出した固定金具21の先端部が挿嵌される第1縦溝50を有している。第1縦溝50は、延在方向の一端に設けられた開口端部50Aから固定金具21が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部50Bが固定金具21の先端部に当接して支持される。そして、第1縦溝50では、当該先端部を収容する内部空間S2が閉塞端部50Bから開口端部50Aに向かって先細りしている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルであって、
前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成されると共に前記ボイラー水管から突出した固定金具の先端部が挿嵌される第1縦溝を有し、
前記第1縦溝は、延在方向の一端に設けられた開口端部から前記固定金具が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部が前記固定金具の先端部に当接して支持される構成とされ、当該先端部を収容する内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、耐火タイル。
【請求項2】
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部を挟んで溝の深さ方向に対向して設けられる第1側面部と第2側面部とを有し、
前記第1側面部は前記先端部に対向して配置され、
タイルの背面側に配置される前記第2側面部が前記第1側面部に対して傾斜して配置されることにより、前記先端部を収容する前記内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、請求項1に記載の耐火タイル。
【請求項3】
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部を挟んで溝幅方向に対向して設けられる第3側面部と第4側面部とを有し、
前記第3側面部と前記第4側面部が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって互いに近付くように傾斜して配置されることにより、前記先端部を収容する前記内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、請求項1又は請求項2に記載の耐火タイル。
【請求項4】
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部が収容される大径部と前記固定金具の基端部が収容される小径部とによってT字形状の開断面を構成しており、
前記第1縦溝の閉塞端部は、前記小径部において、タイルの背面側に向かって傾斜され、前記固定金具との間に所定の間隔を設けている、請求項1に記載の耐火タイル。
【請求項5】
前記第1縦溝の前記開口端部に連続して設けられ、前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成される第2縦溝を有し、
前記第2縦溝は、タイルの板厚方向に沿って前記固定金具を挿入可能に構成され、当該第2縦溝を通過して前記固定金具が前記開口端部に案内される、請求項1に記載の耐火タイル。
【請求項6】
前記第2縦溝は、溝幅方向に対向して設けられた側面がタイルの背面側に向かって互いに離間するように傾斜されている、請求項5に記載の耐火タイル。
【請求項7】
耐火壁を用いて燃料を燃焼する燃焼室を形成する燃焼炉であって、
前記耐火壁は、ボイラー水管と、充填材を介在させて前記ボイラー水管に取り付けられる耐火タイルと、を有し、
前記耐火タイルは、
前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成されると共に前記ボイラー水管から突出した固定金具の先端部が挿嵌される第1縦溝を有し、
前記第1縦溝は、延在方向の一端に設けられた開口端部から前記固定金具が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部が前記固定金具の先端部に当接して支持される構成とされ、当該先端部を収容する内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、燃焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐火タイル及び燃焼炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー水管壁の耐火構造として、ボイラー水管の表面を耐火タイルで覆う構造が知られている。この耐火タイルは、ボイラー水管との間に形成される背面側の空間に充填材を介在させて、ボイラー水管に取り付けられている。
【0003】
また、ボイラー水管に耐火タイルを取り付ける方法として、耐火タイルの背面に設けた縦溝にボイラー水管から突出した固定金具を挿嵌して固定する方法が知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-190038号公報
【特許文献2】米国特許第5243801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなボイラー水管壁をゴミ焼却施設や汚泥ガス化施設などの燃焼炉に設ける場合、炉内に発生するガスによって固定金具が腐食する場合がある。この際、固定金具の腐食によって耐火タイルが炉内に迫り出すといった課題がある。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みてなされたものであり、固定金具の腐食時におけるタイルの迫り出しを抑制することができる耐火タイル及びこれを用いた燃焼炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1>
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルであって、
前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成されると共に前記ボイラー水管から突出した固定金具の先端部が挿嵌される第1縦溝を有し、
前記第1縦溝は、延在方向の一端に設けられた開口端部から前記固定金具が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部が前記固定金具の先端部に当接して支持される構成とされ、当該先端部を収容する内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、耐火タイル。
<2>
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部を挟んで溝の深さ方向に対向して設けられた第1側面部と第2側面部とを有し、
前記第1側面部は前記先端部に対向して配置され、
タイルの背面側に配置される前記第2側面部が前記第1側面部に対して傾斜して配置されることにより、前記先端部を収容する前記内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、<1>に記載の耐火タイル。
<3>
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部を挟んで溝幅方向に対向して設けられた第3側面部と第4側面部とを有し、
前記第3側面部と前記第4側面部が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって互いに近付くように傾斜して配置されることにより、前記先端部を収容する前記内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、<1>又は<2>に記載の耐火タイル。
<4>
前記第1縦溝は、前記固定金具の先端部が収容される大径部と前記固定金具の基端部が収容される小径部とによってT字形状の開断面を構成しており、
前記第1縦溝の閉塞端部は、前記小径部において、タイルの背面側に向かって傾斜され、前記固定金具との間に所定の間隔を設けている、<1>に記載の耐火タイル。
<5>
前記第1縦溝の前記開口端部に連続して設けられ、前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成される第2縦溝を有し、
前記第2縦溝は、タイルの板厚方向に沿って前記固定金具を挿入可能に構成され、当該第2縦溝を通過して前記固定金具が前記開口端部に案内される、<1>に記載の耐火タイル。
<6>
前記第2縦溝は、溝幅方向に対向して設けられた側面がタイルの背面側に向かって互いに離間するように傾斜されている、<5>に記載の耐火タイル。
<7>
耐火壁を用いて燃料を燃焼する燃焼室を形成する燃焼炉であって、
前記耐火壁は、ボイラー水管と、充填材を介在させて前記ボイラー水管に取り付けられる耐火タイルと、を有し、
前記耐火タイルは、
前記ボイラー水管側に開口した開断面状に形成されると共に前記ボイラー水管から突出した固定金具の先端部が挿嵌される第1縦溝を有し、
前記第1縦溝は、延在方向の一端に設けられた開口端部から前記固定金具が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部が前記固定金具の先端部に当接して支持される構成とされ、当該先端部を収容する内部空間が前記閉塞端部から前記開口端部に向かって先細りしている、燃焼炉。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、充填材の膨張時におけるタイルの迫り出しを抑制することができる耐火タイル及び燃焼炉が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る耐火タイルを適用した燃焼炉を模式的に示す模式図である。
図2】(A)は、実施形態に係る燃焼炉の耐火壁の表面を示す正面図であり、(B)は耐火壁の縦断面である。
図3】実施形態に係る耐火タイルを背面側から見た背面図である。
図4図3の4-4線に沿って切断した耐火タイルの断面図である。
図5図3の5-5線に沿って切断した耐火タイルの断面図である。
図6図4の6-6線に沿って切断した耐火タイルの断面図である。
図7図3の7-7線に沿って切断した耐火タイルの断面図である。
図8】本実施形態に係る第1縦溝の第1の変形例を示しており、(A)は、図4に対応する耐火タイルの断面図であり、(B)は、図3に対応する耐火タイルの背面図である。
図9】本実施形態に係る第1縦溝の第2の変形例を示しており、図5に対応する耐火タイルの断面図である。
図10】本実施形態に係る第1縦溝の第3の変形例を示しており、図5に対応する耐火タイルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る耐火タイル30が適用された燃焼炉10について図1図7を参照して説明する。以下の説明において、「耐火タイルの背面」は、耐火タイルにおいて水管壁と対向する側面を示しており、「耐火タイルの表面」は、耐火タイルにおいて、燃焼炉の炉内に面した側面を示している。
【0011】
図1に示されるように、燃焼炉10は、炉内の側面が耐火壁12で構成された燃焼室14を有している。耐火壁12は、複数のボイラー水管18を備える水管壁16と、水管壁16の表面を覆う複数の耐火タイル30(図2参照)と、水管壁16と耐火タイル30との間に介在する充填材40とを含んで構成される。燃焼炉10は、燃焼室14内で固形燃料を燃焼し、ボイラー水管18内の水を蒸発させる。固形燃料としては、ゴミ等の廃棄物やバイオマス(木質燃料)、汚泥、化石燃料、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)等が挙げられる。ボイラー水管18は、例えば、発電用タービンの駆動室と連通されることにより、蒸気の力でタービンを駆動させる。これにより、燃焼室14の熱エネルギーを発電用の駆動エネルギーに変換する。
【0012】
図2(A)及び図2(B)に示されるように、水管壁16は、平行に延在する複数のボイラー水管18を有している。複数のボイラー水管18は、溶接された板状のフィン20によって接続され、水管壁16を形成している。
【0013】
ボイラー水管18の延在方向は、特に限定されず、鉛直方向(ほぼ鉛直を含む)、鉛直方向に対して傾斜した方向、Rがついて曲がった方向(例えば円弧)などが挙げられる。ボイラー水管18の延在方向は、水平方向も可能であるが、蒸気の流れる方向を考慮すると、鉛直方向や鉛直方向に対して傾斜した方向が好ましい。複数のボイラー水管18は、互いに平行に延在する。
本明細書において、鉛直(ほぼ鉛直)とは、好ましくは鉛直±10°であり、より好ましくは鉛直±5°とする。
【0014】
水管壁16の表面(炉内側の面)には、ボイラー水管18のフィン20から炉内側へ突出する複数のスタッドボルト22が溶接により取り付けられている。これらのスタッドボルト22は、円板状のワッシャ24が螺合することにより、先端側が鍔状に張り出したT字形状の固定金具21を構成する。固定金具21は、先端側のワッシャ24が耐火タイル30の後述する第1縦溝50に挿嵌され、これにより、耐火タイル30を支持する構成となっている。
【0015】
耐火タイル30は、一例として、SiC(炭化ケイ素)を主成分とする定型耐火物で構成されており、矩形板状に形成されている。熱伝導率の高いSiCを主成分とすることにより、燃焼室14で生じた熱エネルギーが耐火タイル30を介してボイラー水管18に高効率で伝達される。
【0016】
図2(A)及び図2(B)に示すように、耐火タイル30は、ボイラー水管18と対向する背面側に背面空間S1を形成した状態で固定金具21に係止される。この背面空間S1には、充填材40が充填される。充填材40は、背面空間S1と耐火タイル30の目地31の間隙を隙間なく塞ぐ。これにより、燃焼室14内で発生した熱が耐火タイル30と充填材40を介してボイラー水管18に効率良く伝達される。また、充填材40は、炉内に発生するガスがボイラー水管18に到達することを抑制している。更に、充填材40は、耐火タイル30に形成された第1縦溝50と第2縦溝60の内部にも充填される。第1縦溝50では、内部に収容された固定金具21(スタッドボルト22とワッシャ24)が充填材40によって封止される。
【0017】
充填材40は、コンクリート等で構成することができ、好ましくは不定形耐火物等で構成できる。不定形耐火物としては、例えば、耐火キャスタブルが挙げられる。充填材40は、好ましくは熱伝導率の高いSiCを主成分とする耐火骨材を含む不定形耐火物で構成される。本実施形態では、一例として、SiCを主成分とする耐火骨材を含む耐火キャスタブルによって充填材40が構成されている。
【0018】
耐火キャスタブルで構成された充填材40は、耐火モルタル等に比べて混練時の水分量が少ないため、硬化後の気孔率(即ち、通気率と同義。)が低く、ガスの浸透を効果的に抑制することになる。これにより、耐火壁12の耐ガス腐食性能を高めることができ、耐火壁12の耐用期間を延ばすことができる。
【0019】
耐火壁12の施工では、まず、複数の耐火タイル30を対応する固定金具21に挿嵌して水管壁16の表面を覆うように配置した後、耐火タイル30間の目地31をセラミックペーパ等で塞いた状態にする。その後、充填材40を耐火タイル30の上方空間から背面空間S1に流し込むようにして充填する。
【0020】
(耐火タイルの形状)
次に、図3図7を参照して、耐火タイル30の形状及び構造的な特徴について詳細に説明する。以下の説明において、耐火タイル30の上下方向は、ボイラー水管18の延在方向に沿った上下方向と一致している。なお、「ボイラー水管の延在方向に沿った」とは、ボイラー水管の延在方向と厳密に平行である方向と、ボイラー水管の延在方向に対して傾斜した方向の両方を含む広い概念である。本実施形態では、ボイラー水管18が鉛直方向(重力方向)に延在している場合を例として説明する。この場合において、耐火タイル30の上下方向は、耐火壁12の施工時における壁面の上下方向と一致している。即ち、以下の説明において、耐火タイル30の下面側は、炉内の壁面に配置された状態で耐火タイル30の底面側と一致する。
【0021】
図3には、ボイラー水管18と対向する耐火タイル30の背面が示されている。この図に示されるように、耐火タイル30の背面の中央部分には、第1縦溝50と第2縦溝60が上下方向に並んで配置されている。第1縦溝50及び第2縦溝60は、それぞれが耐火タイル30の背面側に開口した開断面状に形成されており、耐火タイル30の背面側から固定金具21を挿入可能に構成されている。
【0022】
第1縦溝50について説明する。図4には、上下方向と直交する方向に沿って切断した第1縦溝50の横断面が示されている。この図に示すように、第1縦溝50は、耐火タイル30の表面側に形成される大径部52と、大径部52に対して耐火タイル30の背面側に形成される小径部54とによって、T字状の開断面を構成している。大径部52の溝幅方向の寸法D1はワッシャ24の外径と同等か大きく設定されている。小径部54の溝幅方向の寸法D2は、スタッドボルト22の外径と同等か大きく設定されている。
【0023】
図5には、上下方向に沿って切断した第1縦溝50の縦断面が示されている。この図に示すように、第1縦溝50は、耐火タイル30の上下方向に沿って長尺に延在している。第1縦溝50は、延在方向の下端に開口端部50Aを有し、延在方向の上端に閉塞端部50Bを有している。かかる第1縦溝50には、耐火タイル30の底面側に向かって開口した開口端部50Aから固定金具21が挿入される。固定金具21は、基端部を構成するスタッドボルト22部分が小径部54に収容され、先端部を構成するワッシャ24部分が大径部52に収容される(図2(B)参照)。耐火タイル30を下方にスライドさせるようにして固定金具21を更に押し込めると、大径部52の上端に設けられた閉塞端部50Bが固定金具21の先端部に当接して支持される。これにより、固定金具21の先端部が第1縦溝50の大径部52に挿嵌される。
【0024】
図5に示すように、大径部52は、溝の深さ方向に、第1側面部M1と第2側面部M2とが対向して設けられる。大径部52に固定金具21を収容した状態では、大径部52において溝の深さ方向に対向して設けられた第1側面部M1と第2側面部M2とが固定金具21の先端部を挟んで両側に配置される。第1側面部M1は、耐火タイル30の上下方向(鉛直方向)沿って延在し、耐火タイル30の炉内側の表面と略平行に延びる側面を構成している。この第1側面部M1は、固定金具21の先端部と対向して配置されるため、固定金具21の先端部を第1側面部M1に沿って位置合わせすることにより、燃焼炉10内への耐火タイル30の迫り出し量を簡単に調整することができる。
【0025】
一方、第2側面部M2は、第1側面部M1に対して固定金具21の先端部を挟んで背面側に配置される。この第2側面部M2は、第1縦溝50の閉塞端部50Bから開口端部50Aに向かうにつれて第1側面部M1に近付く方向に傾斜している。これにより、大径部52の内部空間S2は、上方側の閉塞端部50Bから下方側の開口端部50Aに向かうにつれて先細りしている。
【0026】
また、図6に示すように、大径部52は、溝幅方向に対向して設けられた第3側面部M3と第4側面部M4を有している。大径部52に固定金具21を収容した状態では、固定金具21の先端部を挟んで両側に第3側面部M3と第4側面部M4が配置される。第3側面部M3と第4側面部M4は、上方側の閉塞端部50Bから下方側の開口端部50Aに向かうにつれて互いに近づくように傾斜されている。
【0027】
即ち、本実施形態では、第1側面部M1、第2側面部M2、第3側面部M3及び第4側面部M4によって、下方側(耐火タイル30の底面側)に向かって角錐台状に先細りした内部空間S2が形成されている。
本明細書における「先細り」とは、耐火タイル30の上下方向(縦溝方向)と直交する方向に沿って切断した断面視において、開口端部50Aの溝の断面が、閉塞端部50Bの溝の断面よりも小さくなる態様を意味する。溝の断面は、閉塞端部50Bから開口端部50Aに向かって側面部に多少の凹凸があることにより一部太くなる態様を除外しないが、徐々に細くなる態様の方が好ましい。また、溝の断面は、閉塞端部50Bから開口端部50Aにかけて溝幅方向の寸法及び溝幅方向と直交する方向(溝の深さ方向)の寸法の両方が狭くなっていくことで先細りすることが好ましいが、溝幅方向の寸法のみが先細りしてもよく、溝幅方向と直交する方向の寸法のみが先細りしてもよい。
【0028】
次に、図5及び図7を参照して第2縦溝60について説明する。図5には、上下方向と直交する方向に沿って切断した第2縦溝60の横断面が示されている。この図に示すように、第2縦溝60は、耐火タイル30の背面側(ボイラー水管18側)に開口した矩形状の開断面を有している。
【0029】
図7に示すように、この第2縦溝60は、第1縦溝50の開口端部50Aに連続して設けられており、溝幅方向の寸法D3は第1縦溝50の大径部52と同等に設定されている。このため、この第2縦溝60には、耐火タイル30の背面側からタイルの板厚方向に沿って固定金具21を挿入することができる。
【0030】
また、第2縦溝60において、溝幅方向に対向する第5側面部M5及び第6側面部M6は、耐火タイル30の背面側に向かって互いに離間するようにテーパ状に傾斜されている。この第5側面部M5及び第6側面部M6によって形成される勾配は必須ではないが、成形された耐火タイル30から抜型を脱型する際に耐火タイル30と抜型の側面との摩擦を低減させる点において好適である。第5側面部M5及び第6側面部M6は、平行に形成されてもよく、耐火タイル30の表面側に向かって互いに離隔するようにテーパ状に傾斜していてもよい。
【0031】
上記構成の耐火タイル30を水管壁16に取り付けるには、耐火タイル30の背面の第2縦溝60を通って第1縦溝50の開口端部50Aに固定金具21を案内した後、固定金具21に対して耐火タイル30を下方側にスライドさせる。これにより、第1縦溝50内の上方側に固定金具21が挿し込まれ、第1縦溝50の閉塞端部50Bが固定金具21の先端部に当接して支持される。
【0032】
その後、耐火タイル30の上方側の空間から背面空間S1に充填材40を流し込むと、流し込まれた充填材40の一部が第1縦溝50及び第2縦溝60の内部に充填されて固定金具21が封止される。
【0033】
ここで、図5に示すように、第1縦溝50の閉塞端部50Bは、小径部54内の側面M7が耐火タイル30の背面側に向かって傾斜している。これにより、閉塞端部50Bと固定金具21との間に所定の間隔が設けられ、充填材40と共に第1縦溝50に入り込んだ気泡が小径部54の閉塞端部50Bに沿って溝の外へ抜け易くなる。第1縦溝50内に気泡が残留しないことにより、充填材40による固定金具21のキャッピング性を高めることができる。
【0034】
図3に戻り、耐火タイル30の背面には、複数の凹部38が形成されている。この凹部38は、対向して配置されるボイラー水管18の外周に沿って円弧状に窪んでいる。凹部38の最深部には、ボイラー水管18側に突出した複数の突起部39が一体に設けられており、突起部39がボイラー水管18の外周面に当接する。これにより、耐火タイル30の背面とボイラー水管18の外周との間の間隔を一定に保ち、背面空間S1を形成している。本実施形態では、耐火タイル30の背面中央に形成された第1縦溝50及び第2縦溝60の両側に凹部38がそれぞれ形成されている。
【0035】
また、耐火タイル30の背面には、上端側の角部を面取りして形成した第1傾斜面F1と下端側の角部を面取りして形成した第2傾斜面F2が形成されている。これらの第1傾斜面F1及び第2傾斜面F2は、複数の凹部38と繋がって形成されており、耐火タイル30の背面空間S1に流し込まれた充填材40を耐火タイル30の背面空間S1全体に均一に広めることができる。これにより、充填材40の充填圧力による曲げ応力の負荷を小さくすることができる。
【0036】
なお、本実施形態(図3)では、耐火タイル30の背面に凹部38が2つ(2本)形成される例を示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、耐火タイル30に凹部38が3つ以上形成され、3本以上のボイラー水管18と対向してもよい。この場合、第1縦溝50及び第2縦溝60は1つ以上形成されていればよい。例えば、耐火タイルの背面が3本のボイラー水管18と対向し、耐火タイル30にボイラー水管18の外周に沿う凹部38が3つある場合、2つの凹部38に挟まれた一般面(平面部)が2箇所に形成される。かかる構成では、2箇所の一般面のそれぞれに第1縦溝50及び第2縦溝60が形成されてもよく、2箇所の一般面のうちの1つに第1縦溝50及び第2縦溝60が形成されていてもよい。全ての凹部38と凹部38の間に第1縦溝50及び第2縦溝60が形成されていれば、耐火タイルをバランスよく施工できる。全ての凹部と凹部の間でなく、適宜第1縦溝50及び第2縦溝60が形成されていれば、水管壁に溶接されるスタッドボルトとスタッドボルトに螺合するワッシャが少なくなり、施工コストを削減できる。
【0037】
(作用並びに効果)
以上説明したように、上記実施形態の耐火タイル30は、ボイラー水管18側に開口した開断面状に形成される第1縦溝50を有し、ボイラー水管18から突出した固定金具21の先端部が第1縦溝50に挿嵌される構成となっている。この第1縦溝50は、延在方向の一端に設けられた開口端部50Aから固定金具21が挿通され、延在方向の他端に設けられた閉塞端部50Bが固定金具21の先端部に当接して支持される。第1縦溝50内では、耐火タイル30の背面空間S1に流し込まれた充填材40の一部が流れ込み、固定金具21を封止する。
【0038】
ここで、第1縦溝50では、固定金具21の先端部を収容する内部空間S2が閉塞端部50Bから開口端部50Aに向かって先細りしている。これにより、固定金具21の先端部の腐食によりボイラー水管18に対する耐火タイル30の固定強度が低下した場合であっても、充填材40が第1縦溝50に引っ掛かることで、耐火タイル30が炉内に迫り出すことを抑制することができる。
【0039】
これにより、ゴミ焼却施設や汚泥ガス化施設などの燃焼炉10において、炉内に発生するガスによって固定金具21が腐食した場合でも、耐火タイル30が炉内に迫り出すことを抑制することができる。
【0040】
具体的に、本実施形態の一例では、第1縦溝50は、固定金具21の先端部が収容される大径部52と固定金具21の基端部が収容される小径部54とによってT字形状の開断面を構成している。
【0041】
固定金具21の先端部が収容される大径部52では、固定金具21の先端部を挟んで溝の深さ方向に対向して設けられた第1側面部M1と第2側面部M2とを有している。大径部52の内部空間S2は、固定金具21の先端部に対向して配置される第1側面部M1に対し、第2側面部M2が傾斜して配置されることにより先細りしている。これにより、上述のように、タイルの迫り出しを抑制することができる。また、水管壁16に耐火タイル30を取り付ける際には、固定金具21の先端部を第1側面部M1に沿って位置合わせすることにより、燃焼炉10内への耐火タイル30の迫り出し量を簡単に調整することができる。
【0042】
更に、大径部52では、固定金具21の先端部を挟んで溝幅方向に対向して設けられた第3側面部M3と第4側面部M4とが互いに近付くように傾斜して配置されている。これによっても、大径部52の内部空間S2が閉塞端部50Bから開口端部50Aに向かって先細りしている。即ち、本実施形態では、第1側面部M1、第2側面部M2、第3側面部及び第4側面部M4によって大径部52の内部空間S2が角錐台状に先細りしている。これにより、耐火タイル30が充填材40に強固に引っかかり、耐火タイル30の迫り出しをより一層効果的に抑制している。
【0043】
第1縦溝50の閉塞端部50Bは、小径部54において、タイルの背面側に向かって傾斜され、固定金具21との間に所定の間隔を設けている。これにより、充填材40と共に第1縦溝50に入り込んだ気泡が小径部54の閉塞端部50Bに沿って第1縦溝50の外部に抜け易くなり、充填材40による固定金具21のキャッピング性を良好にすることができる。
【0044】
耐火タイル30は、第1縦溝50の開口端部50Aに連続して設けられ、ボイラー水管18側に開口した開断面状に形成される第2縦溝60を有している。第2縦溝60は、タイルの板厚方向に沿って固定金具21を挿入可能に構成され、当該第2縦溝60を通過して固定金具21が第1縦溝50の開口端部50Aに案内される。即ち、本実施形態では、第1縦溝50の開口端部50Aが耐火タイル30の外周端から離間したタイル中央部に配置されている。作業者は、ボイラー水管18から突出した固定金具21を耐火タイル30の中央部から挿入し、第1縦溝50に沿って耐火タイル30を下方側にスライドさせて取り付けることができる。従って、固定金具を挿嵌させるための縦溝が耐火タイルの外周端部まで延在されている構成と比較して、固定金具を挿嵌させるための耐火タイル30の移動量(スライド量)を小さくすることができる。これにより、耐火タイル30の取付位置の上方側にタイルの移動量を確保するための作業空間が少ない箇所においても、タイルの取り付けや交換等の作業を行うことができる。
【0045】
また、第2縦溝60は、溝幅方向に対向して設けられた第4側面部M4と第5側面部M5がタイルの背面側に向かって互いに離間するように傾斜されている。これにより、成形された耐火タイル30から抜型を脱型する際に耐火タイル30と抜型の側面との摩擦を低減させることができる。
[補足説明]
【0046】
上記実施形態及び各変形例の構成は、本発明の要旨を変更又は逸脱しない範囲で適宜組み合わせが可能である。
【0047】
また、上記実施形態及び各変形例では、充填材40が耐火キャスタブルで構成される例について説明したが、これに限らない。充填材40は、コンクリートで構成することができる。
【0048】
また、本発明に係る第1縦溝において、「T字形状」とは、角部が完全な直角をなす場合に限らず、角部にR状の加工がなされている場合も含む広い概念である。
【0049】
(第1縦溝の第1の変形例)
また、上記実施形態では、第1縦溝50をT字形状の開断面として構成したがこれに限らない。矩形状や台形状の開断面でもよい。一例として、第1の変形例に係る第1縦溝70について図8(A)及び図8(B)を参照して説明する。なお、各図において、上記実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
図8(A)は、耐火タイル30の横断面を示す断面図である。図8(A)に示すように、第1縦溝70は、耐火タイル30の背面空間S1側に開口した台形状の開断面を有している。この開断面では、開口部の溝幅方向の寸法D4が、溝の最深部の溝幅方向の寸法D5よりも小さく設定されている。即ち、第1縦溝70の溝幅が、最深部から開口部に向かって小さくなっている。これにより、第1縦溝70に充填材40が充填されると、内部空間S2は、固定金具21の先端部が収容される最深部において充填材40の厚みが増し、先端部のキャッピング性能に優れる。その一方で、開口部に向かって溝幅を小さくすることにより、固定金具21の基端部側(スタッドボルト22)の収容位置を安定させることができるため、施工性に優れる。
【0051】
図8(B)は、耐火タイル30の背面図である。この図に示すように、上記第1縦溝70は、耐火タイル30の背面側から見ると、延在方向の一端に開口端部70Aを有するスリット状をなしており、閉塞端部70Bから開口端部70Aに向かって溝幅(スリット幅)が細くなるように設定されている。即ち第1縦溝70は、溝幅方向に対向して設けられる第3側面部M3と第4側面部M4が、閉塞端部70Bから開口端部70Aに向かって互いに近付くように傾斜して配置されている。これにより、第1縦溝70の内部空間S2は、閉塞端部70Bから開口端部70Aに向かって先細りしており、これにより、第1の変形例においても、固定金具21の腐食時におけるタイルの迫り出しを抑制することができるという上記実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、上記第1の変形例では、第1縦溝70の横断面を台形状の開断面としたが、矩形状の開断面としてもよい。
【0052】
(第1縦溝の第2の変形例)
また、上記実施形態では、耐火タイル30に第1縦溝50と第2縦溝60の両方が設けられる構成としたが、これに限らない。図9に示す第2の変形例のように、第2縦溝60を省略してもよい。第2の変形例では、第1縦溝50が耐火タイル30の中央部から底面に相当する外周端部まで延在している。即ち、上記実施形態の第2縦溝60が省略されている。かかる構成では、耐火タイル30の外周端部に設けられた開口端部50Aから固定金具21が挿入される。
【0053】
(第1縦溝の第3の変形例)
また、上記実施形態では、第1側面部M1に対して第2側面部M2が傾斜されている構成としたが、これに限らない。図10に示す第3の変形例のように、第1側面部M1に対して第2側面部M2が互いに傾斜されている構成でもよい。第3の変形例に係る第1縦溝80は、上記実施形態の第1縦溝50と同様に、T字形状の開断面を有する。第1縦溝80は、固定金具21の先端部が収容される大径部82と、固定金具21の基端部が収容される小径部84を有している。また、大径部82において、溝の深さ方向に対向して設けられた第1側面部M1と第2側面部M2が第1縦溝80の閉塞端部80Bから開口端部80Aに向かって互いに近づくように傾斜されている。これにより、大径部82の内部空間S2が、閉塞端部80Bから開口端部80Aに向かって先細りしている。
【0054】
また、上記実施形態では、第1側面部M1、第2側面部M2、第3側面部M3及び第4側面部M4によって内部空間S2が角錐台状に先細りした構成についてとしたが、これに限らない。第2側面部M2、第3側面部及び第4側面部のうち、一つ以上の側面部を傾斜させればよい。
【0055】
上記実施形態では、固定金具がスタッドボルトとワッシャによって構成される例について説明したが、これに限らない。スタッドボルトの先端部にナットを螺合させて固定部材を構成してもよい。六角ボルトのように頭付きのボルトによって固定金具を構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 燃焼炉
18 ボイラー水管
21 固定金具
22 スタッドボルト(固定金具の基端部)
24 ワッシャ(固定金具の先端部)
30 耐火タイル
40 充填材
50 第1縦溝
50A 開口端部
50B 閉塞端部
52 大径部
54 小径部
60 第2縦溝
70 第1縦溝
70A 開口端部
70B 閉塞端部
80 第2縦溝
80A 開口端部
80B 閉塞端部
82 大径部
84 小径部
M1 第1側面部
M2 第2側面部
M3 第3側面部
M4 第4側面部
S1 背面空間
S2 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10