(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026997
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】クロマト分離方法及びクロマト分離装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/46 20060101AFI20240221BHJP
B01D 15/18 20060101ALI20240221BHJP
B01D 15/36 20060101ALI20240221BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240221BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240221BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240221BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240221BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240221BHJP
C13B 20/14 20110101ALI20240221BHJP
C13B 35/06 20110101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N30/46 E
B01D15/18
B01D15/36
B01J20/20 B
B01J20/26 G
B01J20/26 L
G01N30/26 Z
G01N30/02 B
C13B20/14
C13B35/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129658
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幸平
(72)【発明者】
【氏名】仲摩 翔太
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA07
4D017BA04
4D017CA03
4D017CA13
4D017CB01
4D017DA03
4D017EB01
4G066AA05B
4G066AC11B
4G066AC35B
4G066BA20
4G066CA56
4G066DA07
4G066EA01
(57)【要約】
【課題】連続式のクロマト分離をする場合に、分離剤の圧密化が生じにくく、運転効率の低下が少ないクロマト分離方法及びクロマト分離装置を提供する。
【解決手段】多成分分離装置100により、複数の充填床10に原料流体を供給し、複数の成分のそれぞれの濃度分布を有する吸着帯域を形成させたのち2以上の画分に分離するクロマト分離方法であって、分離中の任意の工程で、溶離液を、第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する流体通路20から第iの充填床に対して上向流で供給しつつ、原料流体に含まれる何れかの成分を第1の充填床に設けられた上向流抜出部30から抜き出す上向供給抜出工程を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料流体に含まれる複数の成分を分離するための分離剤が充填された第1から第2n(nは1~4までの自然数)までの複数の充填床と、
前記複数の充填床同士を連結する流体通路と、
前記複数の充填床のいずれかに設けられた上向流抜出部と、
を備える多成分分離装置により、
前記複数の充填床に原料流体を供給し、前記複数の成分のそれぞれの濃度分布を有する吸着帯域を形成させたのち2以上の画分に分離するクロマト分離方法であって、
分離中の任意の工程で、溶離液を、第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する流体通路から第iの充填床に対して上向流で供給しつつ、前記原料流体に含まれる何れかの成分を第1の充填床に設けられた上向流抜出部から抜き出す上向供給抜出工程を含むことを特徴とする、
クロマト分離方法。
【請求項2】
前記第iの充填床と前記第i+1の充填床とを連結する前記流体通路は、第iの充填床への上向流供給部であり、かつ、第i+1の充填床への下向流供給部であることを特徴とする、
請求項1に記載のクロマト分離方法。
【請求項3】
前記複数の成分を吸着する吸着剤として、イオン交換樹脂、活性炭または合成吸着剤を用いることを特徴とする、
請求項1に記載のクロマト分離方法。
【請求項4】
前記複数の充填床は、
前記吸着剤としてのイオン交換樹脂が充填され、前記原料流体を供給する吸着充填床と、
1以上の前記吸着充填床以外の充填床と、
から構成され、
前記原料流体を供給する前記吸着充填床に充填された前記イオン交換樹脂の容量は、前記複数の充填床の全ての容量の1/8以上1/2以下であることを特徴とする、
請求項3に記載のクロマト分離方法。
【請求項5】
前記充填床の上流側の端部から前記原料流体を供給しつつ、前記充填床の下流側の端部から、前記複数の成分のうちの任意の一成分が富化された画分を抜き出す第1供給抜出工程を持つことを特徴とする、
請求項1に記載のクロマト分離方法。
【請求項6】
前記充填床間の前記流体通路より第2の充填床へ前記溶離液を供給して、前記充填床の下流側の端部から他の成分が富化された画分を抜き出す第2供給抜出工程を持つことを特徴とする、
請求項5に記載のクロマト分離方法。
【請求項7】
前記充填床への前記原料流体及び前記溶離液の供給及び前記充填床からの前記原料流体及び前記溶離液の抜き出しを行わずに前記充填床内の流体を循環させ、前記第1供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を、前記充填床の上流側の端部に移動させる第1循環工程を持つことを特徴とする、
請求項6に記載のクロマト分離方法。
【請求項8】
前記充填床の上流側の端部から前記溶離液を供給して、前記充填床の下流側の端部から他の成分が富化された画分を抜き出す第3供給抜出工程を持つことを特徴とする、
請求項7に記載のクロマト分離方法。
【請求項9】
前記充填床への前記原料流体及び前記溶離液の供給及び前記充填床からの前記原料流体及び前記溶離液の抜き出しを行わずに前記充填床内の流体を循環させ、前記第2供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を前記充填床の上流側の端部に移動させる第2循環工程を持つことを特徴とする、
請求項8に記載のクロマト分離方法。
【請求項10】
前記第1循環工程又は前記第2循環工程の途中に、前記上向供給抜出工程を行うことを特徴とする、
請求項9に記載のクロマト分離方法。
【請求項11】
前記第1供給抜出工程と、前記第2供給抜出工程と、前記第1循環工程と、前記第3供給抜出工程と、前記第2循環工程と、前記上向供給抜出工程と、を繰り返すことを特徴とする、
請求項10に記載のクロマト分離方法。
【請求項12】
原料流体中に含まれる複数の成分を分離するための分離剤が充填された複数の充填床と、
前記複数の充填床同士を連結する流体通路と、
前記複数の充填床の1つである第1の充填床に設けられ、原料流体を抜き出す抜出部と、
を有し、
前記複数の充填床は少なくとも2n個(nは1~4までの自然数)設けられ、前記第1の充填床の上流側の端部と第2nの充填床の下流側の端部が流体通路で連結されていることを特徴とする、
クロマト分離装置。
【請求項13】
第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する前記流体通路は、前記第iの充填床への上向流供給部であるとともに、前記充填床間の前記流体通路は、第i+1の充填床への下向流供給部であることを特徴とする、
請求項12に記載のクロマト分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分分離法によるクロマト分離法及びクロマト分離装置に関するものである。具体的には、充填剤(分離剤、吸着剤)の圧密化を改善するため、上向流工程を取り入れた多成分分離法の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疑似移動床法を代表とする連続クロマト分離は、大量の原料流体の処理が求められる工業分野で有用である。クロマト分離は、例えば、異性化糖からの果糖、ブドウ糖の分離、糖蜜からの蔗糖の分離、オリゴ糖に含まれる低分子成分の除去などの製糖分野において幅広く用いられている。
連続クロマト分離には、いくつかの運転方式が開発されている。例えば、特許文献1では、各成分が富化された帯域を抜き出し、且つ各成分が混在する帯域の少なくとも一部を非抜き出し帯域として床内に滞留させること、及び床内の流体を循環させ、原料流体供給時に抜き出される帯域を原料流体の供給帯域と置換させるクロマト分離法が開示されている。特許文献2では、擬似移動床法と同等以上の分離性能が得られ且つ床数を低減した改良型擬似移動床法が開示されている。特許文献3では、充填剤(分離剤)との相互作用が異なる3成分を含有する原料流体からこれらの3成分をそれぞれ別個の画分として分離する3成分分離改良型擬似移動床法が開示されている。特許文献4では、圧力損失を低減する手法として、NMCI法と呼ばれる連続クロマト分離法において、原料流体を供給する一層目のみ粒径を大きくする方法が開示されている。特許文献5では、疑似移動床法によるクロマト分離の一部に上向流抜出工程を取り入れ、連続式のクロマト分離をする場合に、分離剤の圧密化が生じにくいクロマト分離方法等を提供することが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-158105号公報
【特許文献2】特開平2-049159号公報
【特許文献3】特開平7-232003号公報
【特許文献4】特開2002-143605号公報
【特許文献5】国際公開第2019/168114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の通り、疑似移動床法を始めとする連続クロマト分離は大量の原料流体の処理が期待される。このため、単位分離剤量あたりの原料流体の処理量が多く、さらには高濃度の原料流体を処理できることが望ましい。一方で、これらの要素は圧力損失が高くなる要因であり、圧力損失の増大は分離剤の圧密化による分離性能の低下に寄与してしまう。このため、安全に分離作業を行うため、原料流体の負荷量あるいは濃度を下げることによる粘性の低減、適切な分離剤粒子径の選定、昇温により原料流体の粘性を下げるなどの操作により圧力損失をコントロールすることがある。
【0005】
しかしながら、負荷量や濃度を下げることは原料流体処理量の増加につながり、結果として装置が大きくなる。圧力損失低減のため分離剤粒子径を大きくすると、分離性能が低下する。温度を上げることで原料流体の粘性は下がるが、糖液などを原料流体とした場合は、着色が大きな問題となる。このため、設定可能な温度の上限は60℃程度となる。
【0006】
実際には、これらの要因を把握して圧力損失が大きくなり過ぎないよう余裕を持った装置設計を行う。しかしながら、天然物が基本由来となる糖液などを始めとする原料流体は年ごと、さらに言えば時期ごとに組成が変化する。これにより、原料流体の粘性が高くなったり、温度による着色の影響が大きくなったりすることがある。このとき、例えば、分離装置の設計時に想定した温度よりも低温で運転することが必要となる場合がある。これにより、圧力損失増大により分離剤が圧密化して、長期安定運転が困難となる可能性がある。分離剤が圧密化すると、分離性能の低下だけでなく分離運転そのものができなくなることもある。この場合は、装置洗浄や分離剤をほぐす操作等が必要となる。これにより、運転効率の低下が課題となる。
【0007】
特許文献5にて、疑似移動床法において上向流供給工程を組み込んだ圧密化防止について記述しているが、本特許の分離法(新MCI法)においては原料流体が供給される充填床が一定であり、より圧力損失が発生しやすい。
また原料流体が供給される充填床が一定であるため、上向流供給工程での運転効率の低下が大きい。
【0008】
本発明の目的は、連続式のクロマト分離をする場合に、分離剤の圧密化が生じにくく、運転効率の低下が少ないクロマト分離方法及びクロマト分離装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1>本発明の態様1に係るクロマト分離方法は、原料流体に含まれる複数の成分を分離するための分離剤が充填された第1から第2n(nは1~4までの自然数)までの複数の充填床と、前記複数の充填床同士を連結する流体通路と、前記複数の充填床のいずれかに設けられた上向流抜出部と、を備える多成分分離装置により、前記複数の充填床に原料流体を供給し、前記複数の成分のそれぞれの濃度分布を有する吸着帯域を形成させたのち2以上の画分に分離するクロマト分離方法であって、分離中の任意の工程で、溶離液を、第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する流体通路から第iの充填床に対して上向流で供給しつつ、前記原料流体に含まれる何れかの成分を第1の充填床に設けられた上向流抜出部から抜き出す上向供給抜出工程を含むことを特徴とする。
【0010】
<2>本発明の態様2に係るクロマト分離方法は、態様1に係るクロマト分離方法において、前記第iの充填床と前記第i+1の充填床とを連結する前記流体通路は、前記第iの充填床への上向流供給部であり、かつ、第i+1の充填床への下向流供給部であることを特徴とする。
【0011】
<3>本発明の態様3に係るクロマト分離方法は、態様1又は態様2に係るクロマト分離方法において、前記複数の成分を吸着する吸着剤として、イオン交換樹脂、活性炭または合成吸着剤を用いることを特徴とする。
【0012】
<4>本発明の態様4に係るクロマト分離方法は、態様1から態様3のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記複数の充填床は、前記吸着剤としてのイオン交換樹脂が充填され、前記原料流体を供給する吸着充填床と、1以上の前記吸着充填床以外の充填床と、から構成され、前記原料流体を供給する前記吸着充填床に充填された前記イオン交換樹脂の容量は、前記複数の充填床の全ての容量の1/8以上1/2以下であることを特徴とする。
【0013】
<5>本発明の態様5に係るクロマト分離方法は、態様1から態様4のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記充填床の上流側の端部から前記原料流体を供給しつつ、前記充填床の下流側の端部から、前記複数の成分のうちの任意の一成分が富化された画分を抜き出す第1供給抜出工程を持つことを特徴とする。
【0014】
<6>本発明の態様6に係るクロマト分離方法は、態様1から態様5のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記充填床間の前記流体通路より第2の充填床へ前記溶離液を供給して、前記充填床の下流側の端部から他の成分が富化された画分を抜き出す第2供給抜出工程を持つことを特徴とする。
【0015】
<7>本発明の態様7に係るクロマト分離方法は、態様1から態様6のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記充填床への前記原料流体及び前記溶離液の供給及び前記充填床からの前記原料流体及び前記溶離液の抜き出しを行わずに前記充填床内の流体を循環させ、前記第1供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を、前記充填床の上流側の端部に移動させる第1循環工程を持つことを特徴とする。
【0016】
<8>本発明の態様8に係るクロマト分離方法は、態様1から態様7のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記充填床の上流側の端部から前記溶離液を供給して、前記充填床の下流側の端部から他の成分が富化された画分を抜き出す第3供給抜出工程を持つことを特徴とする。
【0017】
<9>本発明の態様9に係るクロマト分離方法は、態様1から態様8のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記充填床への前記原料流体及び前記溶離液の供給及び前記充填床からの前記原料流体及び前記溶離液の抜き出しを行わずに前記充填床内の流体を循環させ、前記第2供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を前記充填床の上流側の端部に移動させる第2循環工程を持つことを特徴とする。
【0018】
<10>本発明の態様10に係るクロマト分離方法は、態様1から態様9のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記第1循環工程又は前記第2循環工程の途中に、前記上向供給抜出工程を行うことを特徴とする。
【0019】
<11>本発明の態様11に係るクロマト分離方法は、態様1から態様10のいずれか1つに係るクロマト分離方法において、前記第1供給抜出工程と、前記第2供給抜出工程と、前記第1循環工程と、前記第3供給抜出工程と、前記第2循環工程と、前記上向供給抜出工程と、を繰り返すことを特徴とする。
【0020】
<12>本発明の態様12に係るクロマト分離装置は、原料流体中に含まれる複数の成分を分離するための分離剤が充填された複数の充填床と、前記複数の充填床同士を連結する流体通路と、前記複数の充填床の1つである第1の充填床に設けられ、原料流体を抜き出す抜出部と、を有し、前記複数の充填床は少なくとも2n個(nは1~4までの自然数)設けられ、前記第1の充填床の上流側の端部と第2nの充填床の下流側の端部が流体通路で連結されていることを特徴とする。
【0021】
<13>本発明の態様13に係るクロマト分離装置は、態様12に係るクロマト分離装置において、第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する前記流体通路は、前記第iの充填床への上向流供給部であるとともに、前記充填床間の前記流体通路は、第i+1の充填床への下向流供給部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の多成分分離法(NMCI法)と比較して各成分の純度・回収率で同等の性能を得ながら圧密化を緩和するクロマト分離運転が可能となり、長期間の安定運転に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。すなわち、実施の形態の例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に記載がない限り、本発明の範囲を限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するための一例であり、実際の大きさを表すものではない。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0025】
(多成分分離装置)
図1は、本実施の形態が適用される上向流を適用した多成分分離法の実施に用いられる多成分分離装置の一例を説明する概略図である。
図1に示す多成分分離装置は、内部に原料流体Fに含まれる複数の成分を分離するための充填剤(分離剤、吸着剤)が充填された複数の充填床10と、複数の充填床10同士を連結する流体通路20と、複数の充填床10のいずれかに設けられた上向流抜出部30と、複数の充填床10内の液体を移動させる循環ポンプ40と、を有している。
【0026】
複数の充填床10は少なくとも第1から第2n(nは1~4までの自然数)まで設けられる。本実施形態において、複数の充填床10は、第1の充填床11と、第2の充填床12と、第3の充填床13と、第4の充填床14と、を有する。複数の充填床10同士は、流体通路20によって直列に連結される。複数の充填床10の内部は、原料流体F及び溶離液Wが流れる。複数の充填床10は、第1の充填床11が最も上流側に位置し、第4の充填床14が最も下流側に位置する。複数の充填床10の内部を流れる流体は、流体通路開閉弁により下向流、すなわち上流側から下流側に向けて移動する。以下、流体が複数の充填床10において下流側から上流側に流れることを、上向流と呼称することがある。
【0027】
第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)とを連結する流体通路20は、第iの充填床への上向流供給部であり、複数の充填床10間の流体通路20は、第i+1の充填床への下向流供給部である。つまり流体通路20のいずれかは、流体を下流側から上流側に向けて供給可能である。本実施形態においては、第2の充填床12と第3の充填床13の間を接続する流体通路20に、上向流供給部を有する。
【0028】
第1の充填床11の上流側の端部と第2nの充填床10の下流側の端部は、流体通路20で連結されている。本実施形態においては、第1の充填床11の上流側の端部と第4の充填床14の下流側の端部が、流体通路20で連結されている。これにより、複数の充填床10を流れる流体は、循環可能である。
【0029】
第iの充填床12と第i+1の充填床13との間には、流体通路開閉弁VX2と、逆止弁F2と、が設けられる。流体通路開閉弁VX2は、第1の充填床11において上向流が流れる時に第i+1の充填床13に液が行かないようにする役割を有する。第4の充填床14と第1の充填床11との間には、流体通路開閉弁VX1と、循環ポンプ40と、が設けられている。本実施形態において、上向流抜出部30は、第1の充填床11に設けられている。また、第1の充填床11と第4の充填床14との間には、下向流において原料流体Fを抜き出す抜出部Vが設けられている。抜出部Vは、Q成分抜き出し弁VQと、P成分抜き出し弁VPと、R成分抜き出し弁VRと、を有する(詳細は後述する)。
【0030】
第1の充填床11、第3の充填床13の各々の上流側には、溶離液Wの供給管が配設されており、それぞれ溶離液供給口VW1、VW3が設けられている。そして、第1の充填床11と、第3の充填床13と、溶離液Wの供給管と、の接続部には、それぞれ溶離液供給口(不図示)が形成されている。また、第1の充填床11には、原料流体Fの供給管が配設されており、原料流体供給弁VF1が設けられている。そして、第1の充填床11と原料流体Fの供給管の接続部には、原料流体供給口(不図示)が形成されている。
【0031】
さらに、第4の充填床14の下流側には、原料流体Fから分離する充填剤との相互作用が大きい順にP成分、Q成分及びR成分の3個の画分をそれぞれ抜き出す抜出部Vが配設されている。P成分は、P成分抜き出し弁VPから抜き出される。Q成分は、Q成分抜き出し弁VQから抜き出される。R成分は、R成分抜き出し弁VRから抜き出される。第4の充填床14には、P成分抜き出し弁VPとの接続部にP成分抜き出し口(不図示)が形成され、Q成分抜き出し弁VQとの接続部にQ成分抜き出し口(不図示)が形成され、R成分抜き出し弁VRとの接続部にR成分抜き出し口(不図示)が形成されている。
【0032】
尚、第iの充填床12と第i+1の充填床13とを連結する流体通路20には、溶離液Wを上向流で流す溶離液Wの供給管が配設されており、溶離液供給口VW2が設けられている。そして、第1の充填床11には溶離液Wを上向流で流した際の排水管である上向流抜出部30も配設されており、溶離液抜き出し弁VSが設けられている。
【0033】
(クロマト分離方法)
次に、本実施形態に係るクロマト分離方法について説明する。本実施形態に係るクロマト分離方法は、上述の構成を備える多成分分離装置100(クロマト分離装置)により、複数の充填床10に原料流体F及び溶離液Wを供給し、原料流体Fに含まれる複数の成分のそれぞれの濃度分布を有する吸着帯域を形成させたのち2以上の画分に分離する方法である。
【0034】
本実施形態に係るクロマト分離方法は、分離中の任意の工程で、溶離液Wを、第iの充填床と第i+1の充填床を連結する流体通路20から、第1の充填床11の上流側の端部の方向に、つまり第iの充填床に対して上向流で供給しつつ、原料流体Fに含まれる何れかの成分を第1の充填床に設けられた上向流抜出部30から抜き出す上向供給抜出工程を含む。本実施形態において、上向供給抜出工程は、後述する(6)の工程で行われる。溶離液Wを上向流で流す操作により、充填床10の内部における充填剤(分離剤)の圧密化を緩和しながら、多成分分離装置100を連続運転する。なお、上向供給抜出工程は、第1循環工程又は第2循環工程の途中に行ってもよい。
【0035】
本発明は、
図2に示すように、次の7工程の繰り返しにより実施される。
(1)充填床10の上流側の端部である第1の充填床11の原料流体供給口から原料流体Fを供給し、第3の充填床13の溶離液供給口から複数の成分のうちの任意の一成分(本実施形態では、Q成分)が富化された画分を抜き出すための溶離液Wを供給し、且つ充填床10の下流側の端部に位置するQ成分抜き出し口から充填床10内を流下してきた液体をQ成分が富化された画分として抜き出す第1供給抜出工程。
(2)第1の充填床11と第2の充填床12との間に位置する流体通路20の溶離液供給口から第2の充填床12へ、Q成分が富化された画分を抜き出すための溶離液Wを供給し、且つ充填床10の下流側の端部に位置するQ成分抜き出し口から充填床10内を流下してきた液体をQ成分が富化された画分として抜き出す第2供給抜出工程。
(3)全ての供給口及び抜き出し口を閉鎖して、充填床10への原料流体及び溶離液の供給及び充填床10からの原料流体F及び溶離液Wの抜き出しを行わずに充填床10内の流体を循環させ、第1供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を、充填床10の上流側の端部に移動させる第1循環工程。
(4)充填床10の上流側の端部である第1の充填床11の溶離液供給口から、前記任意の一成分の他の成分(本実施形態では、P成分)が富化された画分を抜き出すための溶離液Wを供給し、且つ充填床10の下流側の端部に位置するP成分抜き出し口から充填床10内を流下してきた液体をP成分が富化された画分として抜き出す第3供給抜出工程。
(5)第1の充填床11の溶離液供給口からR成分が富化された画分を抜き出すための溶離液Wを供給し、R成分抜き出し口から充填床10内を流下してきた液体をR成分が富化された画分として抜き出す第4供給抜出工程。
(6)第1の充填床11の出口側から溶離液Wを上向流で流し、第1の充填床11の入口側から流出する液を抜き出す上向供給抜出工程。
(7)全ての供給口及び抜き出し口を閉鎖して、充填床10への原料流体F及び溶離液Wの供給及び充填床10からの原料流体F及び溶離液Wの抜き出しを行わずに充填床10内の流体を循環させ、第2供給抜出工程で抜き出された成分と他の成分が混在する帯域を、充填床10の上流側の端部に移動させる第2循環工程。
【0036】
上述のように、本実施形態に係るクロマト分離は、上述の7工程を繰り返す。すなわち、本実施形態に係るクロマト分離は、第1供給抜出工程と、第2供給抜出工程と、第1循環工程と、第3供給抜出工程と、上向供給抜出工程と、第4供給抜出工程と、第2循環工程と、を繰り返すことで行われる。
ここで、工程(6)に係る上向供給抜出工程において、上向流で溶離液Wを供給し、第1の充填床11の入口側から流出する液を抜出す操作において、上向流により充填剤(分離剤)が流動し撹拌されてしまうと、クロマト分離によって得られた分離帯が大きく乱され分離性能の低下につながる。このため、溶離液の流量は、充填剤(分離剤)が流動しない程度にする必要がある。すなわち、例えば、LV=1.1m/hにすることがより望ましい。
【0037】
以下、上述の各工程の詳細を説明する。なお、以下の説明において各種弁の開閉について記載するが、開閉の操作の記載がない自動弁については、特に記載のない限り、通常は閉の状態であるとする。
工程(1)の第1供給抜出工程では、原料流体供給弁VF1、流体通路開閉弁VX2、Q成分抜き出し弁VQを開とし、原料流体供給弁VF1から原料流体を供給し、且つQ成分抜き出し弁VQからQ成分に富むQ画分を抜き出す。
【0038】
工程(2)の第2供給抜出工程では、溶離液供給口VW3、流体通路開閉弁VX2、Q成分抜き出し弁VQを開とし、溶離液供給口VW3から溶離液Wを供給し、且つQ成分抜き出し弁VQからQ成分に富むQ画分を抜き出す。
【0039】
工程(3)の第1循環工程では、流体通路開閉弁VX1、VX2、を開とし、次工程の開始位置まで循環ポンプ40で擬似移動床内の液を下流方向に移動させる。
【0040】
工程(4)の第3給抜出工程では、溶離液供給口VW1、流体通路開閉弁VX2、P成分抜き出し弁VPを開とし、溶離液供給口VW1から溶離液を供給し、且つP成分抜き出し口からP成分に富むP画分を抜き出す。
【0041】
工程(5)の第4供給抜出工程では、溶離液供給口VW1、流体通路開閉弁VX2、R成分抜き出し弁VRを開とし、溶離液供給口VW1から溶離液を供給し、且つR成分抜き出し弁VRからR成分に富むR画分を抜き出す。
【0042】
工程(6)の上向供給抜出工程では、溶離液抜き出し弁VS、溶離液供給口VW2を開、流体通路開閉弁VX2を閉とし、溶離液供給口VW2から溶離液を供給し、且つ第1の充填床11の溶離液抜き出し弁VSから流出する液を抜き出す。
【0043】
工程(7)の第2循環工程では、流体通路開閉弁VX1、VX2を開とし、次工程の開始位置まで循環ポンプ40で擬似移動床内の液を下流方向に移動させる。
【0044】
(充填剤)
複数の充填床10は、充填剤(吸着剤)としてのイオン交換樹脂が充填され、原料流体を供給する吸着充填床と、1以上の吸着充填床以外の充填床10と、から構成される。本実施形態において、吸着充填床は、例えば、原料流体を供給する第1の充填床11である。
吸着充填床(第1の充填床11)に充填されたイオン交換樹脂の容量は、複数の充填床10の全ての容量の1/8以上1/2以下である。
【0045】
吸着充填床に充填される充填剤(吸着剤)は、原料流体(F)中の成分に応じて適宜選択する。本実施形態では、複数の成分を吸着する吸着剤(充填剤)として、イオン交換樹脂、活性炭または合成吸着剤を用いる。具体的には、吸着剤として、例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、合成吸着剤等が挙げられる。
【0046】
本発明は、高粘性の糖液に対応することを主眼としており、糖クロマトにおいては強酸性陽イオン交換樹脂を用いることがほとんどである。このような充填剤の具体例としては、例えば、三菱化学株式会社製工業クロマト分離用陽イオン交換樹脂(UBK510L、 UBK530、 UBK550、 UBK535J、 UBK535K等)、ダウ社製(AMBERLITE CR1320)、ランクセス社製(LEWATIT MDS1368)等が挙げられる。
充填剤を構成する粒子の粒径は均一であることが好ましい。例えば、粒度分布として、粒径200μm~500μm、好ましくは300μm~400μm程度の粒子の割合が、全体の80%以上、さらには85%以上であることが好ましい。
【0047】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
図1に示した装置を表2に示す組成の原料流体(オリゴ糖)の分離を行った。内径29,4mm、高さ550mmの充填床4本に、充填剤(吸着剤)として平均粒径0,22mm(220ミクロン)、架橋度6%のNa塩形の強酸性カチオン樹脂(ダイヤイオンUBK-530;三菱ケミカル社製、登録商標)を充填し、直列に連結した。各充填床の充填層高は、550mmである。溶離液には水を使用し、を65℃に保った。床内を空間速度750ml/hR(SV=0,5)で通液し、表1(2)の操作条件で分離操作を行った。入口圧が安定するまでサイクルを重ね、定常状態に達した50サイクル後に得られた各画分の成分組成分析を実施した。分析装置及び条件を表2、回収率を表3に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
比較例として、特開昭63-158105に記載の条件において、温度・流速等を実施例と同様の条件とし、下記表1(1)の操作条件で分離操作を行った。入口圧が安定するまでサイクルを重ね、定常状態に達した50サイクル後に得られた各画分の成分組成と回収率を表3に示す。
表1、表2及び表3に示すように、上向供給抜出工程によって、より効率的に各成分が回収できることがわかる。また、表3の結果から逆洗工程を加えても分離性能の低下は見られず、同等の分離が可能とわかる。本発明が解決しようとする課題から、圧力損失の増大による樹脂の圧密化が発生すると分離性能の悪化、運転困難など問題が発生し運転効率が低下するが、逆洗を含む本特許の系では圧密化を抑え安定的な運転ができるため、より効率的な分離が可能となる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るクロマト分離方法によれば、溶離液を、第iの充填床と第i+1の充填床(iは1から2n-1までの自然数)を連結する流体通路20から第iの充填床に対して上向流で供給しつつ、原料流体Fに含まれる何れかの成分を第1の充填床に設けられた上向流抜出部30から抜き出す上向供給抜出工程を含む。これにより、充填床10の内部で分離剤を攪拌し、圧密化を生じにくくすることができる。
また、第1供給抜出工程と、第2供給抜出工程と、第1循環工程と、第3供給抜出工程と、第2循環工程と、上向供給抜出工程と、を繰り返す。つまり、上向供給抜出工程は、クロマト分離方法に係る作業において繰り返される工程の1つに組み込まれている。よって、分離剤を攪拌する工程を、多成分分離装置100の通常運転の工程の1つとして周期的に行う。これにより、多成分分離装置100の運転を停止して、運転装置洗浄や分離剤をほぐす操作をおこなうことを不要とすることができる。よって、運転効率の低下を少なくすることができる。
【0053】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
F 原料流体
W 溶離液
10 充填床
11 第1の充填床
12 第2の充填床
13 第3の充填床
14 第4の充填床