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  • 特開-スクロール流体機械 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027011
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】スクロール流体機械
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
F04C18/02 311T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129686
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】390028495
【氏名又は名称】アネスト岩田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159134
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹也
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇樹
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA01
3H039AA12
3H039BB15
3H039BB28
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC17
3H039CC31
(57)【要約】
【課題】スクロール流体機械を動作させた際に、ラップ間に形成される密封空間の気密性を確保しながら、エネルギ効率を向上可能なスクロール流体機械を提供する。
【解決手段】スクロール流体機械は、固定スクロール及び旋回スクロールと、スクロールのラップの先端に設けられたチップシール溝に挿入されたチップシールとを備える。チップシール溝は、第1底部と、第1底部より深さが大きい第2底部とを含む溝側段差部を有する。チップシールは、第1部分と、第1部分より厚さが大きい第2部分とを含むチップシール側段差部を有する。チップシールは、溝側段差部及びチップシール側段差部が互いに係合するようにチップシール溝に挿入される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ端板上にラップが立設された固定スクロール及び旋回スクロールからなる2つのスクロールのうちの一方である一方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうちの他方である他方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうち、少なくとも前記一方のスクロールの前記ラップの先端に設けられたチップシール溝に挿入されたチップシールと、
を備え、
前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを旋回させることで、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に形成される空間に導入された流体の容積を可変なスクロール流体機械であって、
前記ラップの延在方向に対して交差する断面において、
前記チップシール溝は、前記先端に対して第1深さを有する第1底部と、前記第1底部より径方向外側に設けられ、前記先端に対して前記第1深さより小さい第2深さを有する第2底部とを含む溝側段差部を有し、
前記チップシールは、前記他方のスクロールの前記端板の対向面に対して第1厚さを有する第1部分と、前記第1部分より径方向外側に設けられ、前記対向面に対して前記第1厚さより小さい第2厚さを有する第2部分とを含むチップシール側段差部を有し、
前記チップシールは、前記溝側段差部及び前記チップシール側段差部が互いに係合するように前記チップシール溝に挿入される、スクロール流体機械。
【請求項2】
前記チップシールは、前記第1部分が前記第1底部に対向するとともに前記第2部分が前記第2底部に対向するように、前記チップシール溝に挿入される、請求項1に記載のスクロール流体機械。
【請求項3】
前記溝側段差部は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された溝側壁部を含み、
前記チップシール側段差部は、前記第1部分と前記第2部分との間に形成されたチップシール側壁部を含み、
前記スクロール流体機械の動作時に、前記溝側壁部と前記チップシール側壁部との接触部より径方向内側における前記チップシール溝と前記チップシールとの間に形成される第1隙間と、前記接触部より径方向外側における前記チップシール溝と前記チップシールとの間に形成される第2隙間とが互いに隔離されるように構成される、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
前記第1隙間は、前記ラップの径方向内側にある前記空間である高圧側空間に連通し、
前記第2隙間は、前記ラップの径方向外側にある前記空間である低圧側空間に連通する、請求項3に記載のスクロール流体機械。
【請求項5】
前記溝側段差部は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された溝側壁部を含み、
前記チップシール側段差部は、前記第1部分と前記第2部分との間に形成されたチップシール側壁部を含み、
前記溝側壁部の前記チップシール溝の深さ方向に沿った長さは、前記チップシール側壁部の前記チップシールの厚さ方向に沿った長さに等しい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項6】
前記第2厚さは前記第2深さと等しい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項7】
前記第1部分の幅は前記第1底部の幅より小さい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項8】
前記第2部分の幅は前記第2底部の幅より小さい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項9】
前記第1底部の幅は前記第2底部の幅より大きく、
前記第1部分の幅は前記第2部分の幅より大きい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項10】
前記第1底部の幅は前記第2底部の幅より小さく、
前記第1部分の幅は前記第2部分の幅より小さい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項11】
前記ラップは、前記第1深さにおいて、前記チップシール溝の径方向内側を構成する側壁の厚さが、前記溝部の径方向外側を構成する側壁の厚さより大きい、請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機、膨張機及び真空ポンプのような流体機械として、スクロール流体機械が知られている。該スクロール流体機械は、端板上にスパイラル状のラップが立設された一対の固定スクロール及び旋回スクロールを備える。固定スクロール及び旋回スクロールは、互いのラップが嵌合するように偏心配置されている。これにより、固定スクロールに対して旋回スクロールを旋回駆動させることで、両者のラップ間に形成される密閉空間の容積が変化し、該密閉空間内において流体の圧縮又は膨張が行われる。例えばスクロール圧縮機では、固定スクロールに対して旋回スクロールが旋回駆動されることで、各スクロールのラップ間に形成される密閉空間は、各スクロールの径方向外側から径方向内側に向けて移動しながら容積が減少する。これにより、密閉空間にある流体が圧縮される。
【0003】
この種のスクロール流体機械では、一方のスクロールのラップ先端に凹状のチップシール溝が形成され、当該チップシール溝にチップシールが配置されるシール構造が採用されることがある(例えば特許文献1)。このシール構造では、一方のスクロールのチップシール溝の底部とチップシールとの間に流れ込んだ流体によって、チップシール溝の底部からチップシールが浮き上がり、他方のスクロールの端板に対して押し付けられる。これにより、ラップ間に形成される密閉空間の気密性が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-371978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スクロール流体機械の高性能化・大容量化が進んでいる。これに伴って、スクロール流体機械を動作させた際にラップ間に形成される密封空間の容積が増大すると、密封空間の気密性を確保するために、チップシールを他方のスクロールの端板に押し付ける力(押付力)を大きくする必要がある。押付力を増大するためには、例えばチップシールの受圧面積を広げることが考えられる。しかしながら、チップシールの受圧面積を広げると、チップシールが挿入されるチップシール溝の容積を増加する必要があり、チップシール溝とチップシールとの間に存在する隙間の容積が増大してしまう。当該隙間は、密封空間とは異なり、気体の圧縮に寄与しない。このため、当該隙間の容積が増加することは、スクロール流体機械のエネルギ効率(電気使用量に対する流体の処理体積)が低下してしまう要因となる。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、スクロール流体機械を動作させた際に、ラップ間に形成される密封空間の気密性を確保しながら、エネルギ効率を向上可能なスクロール流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るスクロール流体機械は、上記課題を解決するために、
それぞれ端板上にラップが立設された固定スクロール及び旋回スクロールからなる2つのスクロールのうちの一方である一方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうちの他方である他方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうち、少なくとも前記一方のスクロールの前記ラップの先端に設けられた溝部に挿入されたチップシールと、
を備え、
前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを旋回させることで、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に形成される空間に導入された流体の容積を可変なスクロール流体機械であって、
前記ラップの延在方向に対して交差する断面において、
前記溝部は、前記先端に対して第1深さを有する第1底部と、前記第1底部より径方向内側に設けられ、前記先端に対して前記第1深さより小さい第2深さを有する第2底部とを含む溝側段差部を有し、
前記チップシールは、前記他方のスクロールの前記端板の対向面に対して第1厚さを有する第1部分と、前記第1部分より径方向内側に設けられ、前記対向面に対して前記第1厚さより小さい第2厚さを有する第2部分とを含むチップシール側段差部を有し、
前記チップシールは、前記溝側段差部及び前記チップシール側段差部が互いに係合するように前記溝部に挿入される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、スクロール流体機械を動作させた際に、ラップ間に形成される密封空間の気密性を確保しながら、エネルギ効率を向上可能なスクロール流体機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るスクロール流体機械の全体構成を示す縦断面図である。
図2図1の固定スクロールを内側から示す図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4図3に対応する参考技術を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
図1は一実施形態に係るスクロール流体機械100の全体構成を示す縦断面図であり、図2図1の固定スクロール2を内側から示す図であり、図3図2のA-A断面図である。以下の実施形態では、スクロール流体機械100の一例としてスクロール圧縮機を示すが、スクロール膨張機のような他のスクロール流体機械についても特段の記載がない限りにおいて本発明を適用可能である。
【0012】
図1~3に示すように、スクロール流体機械100は、略円筒形状のケーシング1と、不図示の動力源と、該動力源の出力軸であるロータ17と、ケーシング1に固定される固定スクロール2と、該固定スクロール2に対して旋回する旋回スクロール6とを備える。つまり、スクロール流体機械100は、固定スクロール2と旋回スクロール6とから構成される2つのスクロール2,6を備える。本実施形態では、2つのスクロール2,6のうち、一方のスクロール2が固定スクロール2となり、他方のスクロール6が旋回スクロール6となるが、これに限定されるものではない。また、ロータ17、固定スクロール2及び旋回スクロール6は、ケーシング1の内側に配置される。旋回スクロール6は、ロータ17を介して伝達される動力源からの動力によって固定スクロール2に対して旋回可能に構成される。
尚、以下の説明では、出力軸であるロータ17を基準にして、ロータ17の長手方向を「軸方向」、ロータ17の長手方向に交差する方向を「径方向」、ロータ17を軸とした回転方向を「周方向」と適宜定義する。
【0013】
固定スクロール2は、端板3(以下、固定端板3とも記す)と、固定端板3上に立設されたスパイラル状のラップ4(以下、固定ラップ4とも記す)とを備える。固定端板3は、略円形状を有する。また固定端板3は、ケーシング1の一端側を閉じる蓋板を兼ねる。固定端板3の背面側の中心部には、短尺円筒形のボス部11が設けられる。ボス部11の中心には、スクロール流体機械100によって生成された圧縮後の流体を吐出するための吐出孔21が設けられる。
【0014】
旋回スクロール6は、端板7(以下、旋回端板7とも記す)と、旋回端板7上に立設されたスパイラル状のラップ8(以下、旋回ラップ8とも記す)とを備える。旋回端板7の背面側には、旋回端板7に対して交差する(本実施形態では、直交する)方向に向けて一体に形成されたボス部16が設けられる。ボス部16は、動力源により駆動されるロータ17の先端に設けられた偏心軸部18に軸受19を介して枢支される。
【0015】
固定スクロール2の内側には、周方向に沿って略等間隔に配置された3つのピンクランク式の自転防止機構5が設けられる。そして、該自転防止機構5を介して、旋回スクロール6が固定スクロール2に近接して配置される。
【0016】
固定スクロール2及び旋回スクロール6は、固定ラップ4及び旋回ラップ8が互いに嵌合されることで、固定ラップ4と旋回ラップ8との間には空間9が形成される。空間9は、固定スクロール2に対して旋回スクロール6が旋回駆動された際に密封空間として、その容積が次第に減少しながら径方向中心に向けて移動する。これにより、ケーシング1に設けられた吸気口20から取り入れられた流体が空間9で圧縮される。圧縮後の流体は、吐出孔21から外部に吐出される。
【0017】
ここで、本実施形態に係るスクロール流体機械100は、2つのスクロール2,6のうち、少なくとも一方のスクロール2のラップ4,8の先端に設けられたチップシール溝12に挿入されたチップシール14を更に備える。具体的には、固定ラップ4又は旋回ラップ8の少なくとも一方の先端には、チップシール溝12が形成される。チップシール溝12には、チップシール14が挿入される。本実施形態では図1に示すように、固定ラップ4及び旋回ラップ8のそれぞれの先端に、チップシール14が挿入されたチップシール溝12が設けられる。以下の説明では、固定ラップ4に設けられたチップシール溝12及びチップシール14について詳述するが、特段の記載がない限りにおいて、旋回ラップ8に設けられたチップシール溝12及びチップシール14も同様である。
尚、チップシール14は、例えばフッ素樹脂等の自己潤滑性を有する材料によって形成される。
【0018】
図2及び図3に示すように、固定ラップ4は、径方向内側にある空間9である高圧側空間9Aと、径方向外側の空間9である低圧側空間9Bとを仕切るように設けられる。固定ラップ4の先端には、チップシール14が挿入されたチップシール溝12が形成される。チップシール溝12は、旋回スクロール6の旋回端板7に対向する側が開口し、チップシール14の形状に対応した凹溝として構成される。
【0019】
具体的にはチップシール溝12は、固定ラップ4の延在方向に対して交差する断面において、第1底部12a1、第2底部12a2、及び、溝側壁部12a3を含む溝側段差部13を有する。第1底部12a1は、固定ラップ4の先端に対して第1深さH1を有する。第2底部12a2は、第1底部12a1より径方向外側(低圧側空間9B側)に設けられる。また第2底部12a2は、固定ラップ4の先端に対して第1深さH1より小さい第2深さH2を有する。溝側壁部12a3は、第1底部12a1と第2底部12a2との間に形成される。また溝側壁部12a3は、チップシール溝12の深さ方向に沿って延在する。
尚、第1底部12a1及び第2底部12a2は、チップシール溝12の幅方向(深さ方向に対して交差する方向、本実施形態では直交する方向)に沿ってそれぞれ延在する。
【0020】
チップシール14は、固定ラップ4の延在方向に対して交差する断面において、第1部分14a1、第2部分14a2、及び、チップシール側壁部14a3を含むチップシール側段差部15を有する。第1部分14a1は、チップシール14のうち旋回端板7の対向面14cを基準として第1厚さh1を有する。第2部分14a2は、第1部分14a1より径方向外側(低圧側空間9B側)に設けられる。また第2部分14a2は、チップシール14のうち旋回端板7の対向面14cを基準として第1厚さh1より小さい第2厚さh2を有する。チップシール側壁部14a3は、第1部分14a1と第2部分14a2との間に形成される。またチップシール側壁部14a3は、チップシール14の厚さ方向に沿って延在する。
尚、第1部分14a1及び第2部分14a2は、チップシール14の幅方向(厚さ方向に対して交差する方向、本実施形態では、直交する方向)に沿ってそれぞれ延在する。
【0021】
チップシール14は、溝側段差部13及びチップシール側段差部15が互いに係合するようにチップシール溝12に挿入される。言い換えると、チップシール14は、第1部分14a1が第1底部12a1に対向するとともに第2部分14a2が第2底部12a2に対向するように、チップシール溝12に挿入される。
【0022】
スクロール流体機械100が駆動されることで固定スクロール2に対して旋回スクロール6が旋回されると、図3に示すように、チップシール溝12に挿入されたチップシール14は、旋回端板7に向かう押付力を受ける。押付力によって旋回端板7に押し付けられたチップシール14は、固定ラップ4の径方向内側にある高圧側空間9Aと、固定ラップ4の径方向外側にある低圧側空間9Bとを隔離するようにシールする。このときチップシール溝12の溝側壁部12a3と、チップシール14のチップシール側壁部14a3とが接触することで接触部23が形成される。接触部23より径方向内側においてチップシール溝12とチップシール14との間に形成される第1隙間V1は、高圧側空間9Aに連通する。そのため、第1隙間V1には高圧側空間9Aから高圧流体が導入される。これにより、当該導入された高圧流体によってチップシール14を旋回端板7に押し付ける押付力が発生する。また接触部23より径方向外側においてチップシール溝12とチップシール14との間に形成される第2隙間V2は、低圧側空間9Bに連通する。そのため、第2隙間V2には低圧側空間9Bから低圧流体が導入される。これにより、当該導入された低圧流体によってチップシール14を旋回端板7に押し付ける押付力が発生する。
【0023】
ここで、図4を参照して、本発明に対する参考技術について説明する。図4図3に対応する参考技術を示す断面図である。この参考技術は、図3に示す本発明の実施形態と比較して、チップシール溝12´の底部12a´がシンプルな平坦形状を有するとともに、チップシール14´がシンプルな矩形状断面を有する点が主に異なる。このため、参考技術については、前述の本発明に係る実施形態に対応する構成には共通の符号を付し、特段の記載がない限りにおいて、重複する説明は適宜省略する。
【0024】
参考技術のチップシール溝12´の底部12a´は、本実施形態の第1底部12a1と等しい第1深さH1を有する平坦面として構成される。またチップシール溝12´に挿入されるチップシール14´は、底部12a´の対向面14a´が、チップシール溝12´の底部12a´に対応するように平坦に構成される。
【0025】
このような構成を有する参考技術では、図4に示すように、スクロール流体機械の動作時において、チップシール14´は、高圧側空間9Aと低圧側空間9Bとの圧力差によって、低圧側空間9B側のチップシール溝12´の側壁12b´に、チップシール14´の側面14b´が接触しながら、旋回端板7に対して押し付けられる。このとき、チップシール溝12´とチップシール14´との間には、隙間V´が形成される。隙間V´は、高圧側空間9Aに連通するため、高圧側空間9Aからの高圧流体が導入される。隙間V´は、高圧側空間9A及び低圧側空間9Bとは異なり、流体の圧縮に寄与しない。そのため、スクロール流体機械の高性能化・大容量化に対応するために隙間V´の容積を増大させると、スクロール流体機械のエネルギ効率(電気使用量に対する流体の処理体積)が低下してしまう要因となる。
【0026】
一方、本実施形態では、図3に示すように、高圧側空間9Aに連通する第1隙間V1を、図4に示す参考技術の隙間V´に比べて小さく構成できる。具体的には、本実施形態では、チップシール溝12のうち部分的に深く形成された第1底部12a1に対して、チップシール14のうち部分的に厚さが大きく形成された第1部分14a1が入り込んでいる。それに対して参考技術では、平坦な底部12a´を有するチップシール溝12´に対して、矩形状断面を有するチップシール14´が挿入された構成を有する。このため、本実施形態における第1隙間V1を参考技術の隙間V´に比べて小さく構成できる。これにより、本実施形態では、流体の圧縮に寄与しない隙間の容積が減少するため、エネルギロスが抑制され、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械100を実現できる。
【0027】
尚、本実施形態では、参考技術に比べて、低圧側空間9Bに連通する第2隙間V2の分だけ流体の圧縮に寄与しない容積が増加しているとみることもできる。ただし、第2隙間V2には、低圧側空間9Bが連通するため、第1隙間V1に比べて圧力が低い流体が導入される。そのため、参考技術の隙間V´に比べて第1隙間V1の容積が減少することによるエネルギ効率の向上分と、参考技術に比べて第2隙間V2を設けることによるエネルギ効率の減少分とを比較すると、前者の寄与の方が大きい。これにより、本実施形態では、参考技術に比べて良好なエネルギ効率を達成可能である。
【0028】
また本実施形態では、図3に示すように、チップシール溝12の深さ方向における溝側壁部12a3の長さH3(以下、「深さ方向長さH3」とも記す)は、チップシール14の厚さ方向におけるチップシール側壁部14a3の長さh3(以下、厚さ方向長さh3とも記す)に等しい。これにより、旋回端板7に対してチップシール14が押し付けられた際に、チップシール溝12の第1底部12a1とチップシール14の第1部分14a1との間に形成される隙間であって第1隙間V1の一部を構成する隙間の大きさを最小にできる。その結果、高圧側空間9Aから高圧流体が導入される第1隙間V1の容積をより小さく抑えることができ、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械100が得られる。
【0029】
またチップシール14の第2厚さh2は、チップシール溝12の第2深さH2と等しい。これにより、旋回端板7に対してチップシール14が押し付けられた際に、チップシール溝12の第2底部12a2とチップシール14の第2部分14a2との間に形成される隙間であって第2隙間V2の一部を構成する隙間の大きさを最小にできる。その結果、低圧側空間9Bから低圧流体が導入される第2隙間V2の容積をより小さく抑えることができ、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械100が得られる。
【0030】
またチップシール14の第1部分14a1の幅b1は、チップシール溝12の第1底部12a1の幅B1より小さい。これにより、スクロール流体機械100の動作時に、チップシール側壁部14a3とチップシール溝側壁部12a3とが接触した際に、高圧側空間9A側のチップシール溝12の内表面とチップシール14とが離間するため、高圧側空間9Aと第1隙間V1とを好適に連通できる。
【0031】
またチップシール14の第2部分14a2の幅b2は、チップシール溝12の第2底部12a2の幅B2より小さい。これにより、スクロール流体機械100の動作時に、チップシール側壁部14a3とチップシール溝側壁部12a3とが接触した際に、低圧側空間9B側のチップシール溝12の内表面とチップシール14とが離間するため、低圧側空間9Bと第2隙間V2とを好適に連通できる。
【0032】
また第1底部12a1の幅B1は、第2底部12a2の幅B2より大きく、且つ、第1部分14a1の幅b1は第2部分14a2の幅b2より大きい。チップシール14は第1隙間V1及び第2隙間V2からそれぞれ旋回端板7に向かう押付力を受けるが、第1隙間V1は高圧側空間9Aに連通するため、低圧側空間9Bに連通する第2隙間V2より大きな押付力をチップシール14に与える。この構成では、チップシール14が第1隙間V1から押付力を受ける面積が、第2隙間V2から押付力を受ける面積より相対的に大きくなる。そのため、チップシール14が旋回端板7に押し付けられやすくなり、良好なシール効果を発揮することができる。
【0033】
また第1底部12a1の幅B1は、第2底部12a2の幅B2より小さく、且つ、第1部分14a1の幅b1は第2部分14a2の幅b2より小さくともよい。この構成では、
前述の場合とは逆に、チップシール14が第2隙間V2から押付力を受ける面積が、第1隙間V1から押付力を受ける面積より相対的に大きくなる。そのため、チップシール14の旋回端板7に対する押付力が緩和されることで、適切なシール性を保ちながら摺動抵抗によるエネルギ効率の低下を防ぐことができる。
【0034】
また上記構成を有するチップシール溝12が形成された固定ラップ4では、第1底部12a1に対応する第1深さH1において、チップシール溝12の径方向内側を構成する側壁の厚さt2が、チップシール溝12の径方向外側を構成する側壁の厚さt1より大きい。このように、チップシール溝12の径方向内側を構成する側壁の厚さt2を大きく構成することで、チップシール溝12の径方向内側における機械的強度を径方向外側よりも向上可能である。
【0035】
以上説明したように上記実施形態によれば、スクロール流体機械を動作させた際に、ラップ間に形成される密封空間の気密性を確保しながら、エネルギ効率を向上可能なスクロール流体機械を提供できる。
【0036】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0037】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0038】
一態様に係るスクロール流体機械は、
それぞれ端板上にラップが立設された固定スクロール(2)及び旋回スクロール(6)からなる2つのスクロールのうちの一方である一方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうちの他方である他方のスクロールと、
前記2つのスクロールのうち、少なくとも前記一方のスクロールの前記ラップの先端に設けられたチップシール溝(12)に挿入されたチップシール(14)と、
を備え、
前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを旋回させることで、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に形成される空間(V1、V2)に導入された流体の容積を可変なスクロール流体機械であって、
前記ラップの延在方向に垂直な断面において、
前記チップシール溝は、前記先端に対して第1深さ(H1)を有する第1底部(12a1)と、前記第1底部より径方向外側に設けられ、前記先端に対して前記第1深さより小さい第2深さ(H2)を有する第2底部(12a2)とを含む溝側段差部(13)を有し、
前記チップシールは、前記他方のスクロールとは異なるスクロールの前記端板の対向面(14c)に対して第1厚さ(h1)を有する第1部分(14a1)と、前記第1部分より径方向外側に設けられ、前記対向面に対して前記第1厚さより小さい第2厚さ(h2)を有する第2部分(14a2)とを含むチップシール側段差部(15)を有し、
前記チップシールは、前記溝側段差部及び前記チップシール側段差部が互いに係合するように前記チップシール溝に挿入される。
【0039】
この態様によれば、ラップの先端に設けられたチップシール溝にチップシールが挿入される。チップシール溝は、第1底部と、第1底部より小さい深さを有する第2底部とを含む溝側段差部を有する。チップシールは、第1部分と、第1部分より小さい厚さを有する第2部分とを含むチップシール側段差部を有する。チップシールは、溝側段差部及びチップシール側段差部が互いに係合するようにチップシール溝に挿入される。チップシール溝のうち部分的に深く形成された第1底部に対して、チップシールのうち部分的に厚さが大きく形成された第1部分が入り込む。これにより、スクロール流体機械の動作時に、溝側壁部とチップシール側壁部との接触部より径方向内側におけるチップシール溝とチップシールとの間に形成される第1隙間は、流体の圧縮・膨張に寄与しないが、このような構成を有することで、当該第1隙間の容積を減少できる。その結果、エネルギロスを抑え、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械を実現できる。
【0040】
他の態様では、前述の態様において、
前記チップシールは、前記第1部分が前記第1底部に対向するとともに前記第2部分が前記第2底部に対向するように、前記チップシール溝に挿入される。
【0041】
この態様によれば、チップシールの第1部分とチップシール溝の第1底部とが対向するとともに、チップシールの第2部分とチップシール溝の第2底部とが対向する。これにより、溝側段差部及びチップシール側段差部が互いに係合するようにチップシールがチップシール溝に挿入された構成を好適に実現できる。
【0042】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記溝側段差部は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された溝側壁部(12a3)を含み、
前記チップシール側段差部は、前記第1部分と前記第2部分との間に形成されたチップシール側壁部(14a3)を含み、
前記スクロール流体機械の動作時に、前記溝側壁部と前記チップシール側壁部との接触部より径方向内側における前記チップシール溝と前記チップシールとの間に形成される第1隙間(V1)と、前記接触部より径方向外側における前記チップシール溝と前記チップシールとの間に形成される第2隙間(V2)とが互いに隔離されるように構成される。
【0043】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に、チップシール溝の溝側段差部とチップシールのチップシール側段差部とが接触する。この接触部より径方向内側では、チップシール溝とチップシールとの間に第1隙間が形成されるとともに、接触部より径方向外側ではチップシール溝とチップシールとの間に第2隙間が形成される。第1隙間及び第2隙間は、接触部によって互いに隔離される。
【0044】
他の態様では、前述の態様において、
前記第1隙間は、前記ラップの径方向内側にある前記空間である高圧側空間(9A)に連通し、
前記第2隙間は、前記ラップの径方向外側にある前記空間である低圧側空間(9B)に連通する。
【0045】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に、第1隙間に高圧側空間が連通するとともに、第2隙間に低圧側空間が連通する。これにより、第1隙間には高圧側空間からエネルギ密度の高い高圧の流体が導入される。そのため、前述のように第1隙間の容積を減少させることで、当該容積によるエネルギロスをより効果的に抑えることができる。
【0046】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記溝側段差部は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された溝側壁部(12a3)を含み、
前記チップシール側段差部は、前記第1部分と前記第2部分との間に形成されたチップシール側壁部(14a3)を含み、
前記溝側壁部の前記チップシール溝の深さ方向に沿った長さ(H3)は、前記チップシール側壁部の前記チップシールの厚さ方向に沿った長さ(h3)に等しい。
【0047】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に端板に対してチップシールが押し付けられた際に、溝側壁部とチップシール側壁部との接触部より径方向内側におけるチップシール溝とチップシールとの間に形成される第1隙間の大きさを最小にできる。これにより、第1隙間の容積をより小さく抑えることができ、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械が得られる。
【0048】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記第2厚さは前記第2深さと等しい。
【0049】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に端板に対してチップシールが押し付けられた際に、溝側壁部とチップシール側壁部との接触部より径方向外側におけるチップシール溝とチップシールとの間に形成される第2隙間の大きさを最小にできる。これにより、第2隙間の容積をより小さく抑えることができ、良好なエネルギ効率を有するスクロール流体機械が得られる。
【0050】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記第1部分の幅(b1)は前記第1底部の幅(B1)より小さい。
【0051】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に、径方向内側のチップシール溝部の内表面とチップシールとの間に、径方向内側にある高圧側空間と第1隙間とを好適に連通できる。
【0052】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記第2部分の幅(b2)は前記第2底部の幅(B2)より小さい。
【0053】
この態様によれば、スクロール流体機械の動作時に、径方向外側のチップシール溝部の内表面とチップシールとの間に、径方向外側にある低圧側空間と第2隙間とを好適に連通できる。
【0054】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記第1底部の幅(B1)は前記第2底部の幅(B2)より大きく、
前記第1部分の幅(b1)は前記第2部分の幅(b2)より大きい。
【0055】
チップシールは第1隙間及び第2隙間からそれぞれ端板に向かう押付力を受けるが、第1隙間は径方向内側にある高圧側空間に連通するため、径方向外側にある低圧側空間に連通する第2隙間より大きな押付力をチップシールに与える。この態様によれば、チップシールが第1隙間から押付力を受ける面積が、第2隙間から押付力を受ける面積より相対的に大きくなる。そのため、チップシールが端板に押し付けられやすくなり、良好なシール効果を発揮することができる。
【0056】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記第1底部の幅(B1)は前記第2底部の幅(B2)より小さく、
前記第1部分の幅(b1)は前記第2部分の幅(b2)より小さい。
【0057】
チップシールは第1隙間及び第2隙間からそれぞれ端板に向かう押付力を受けるが、第1隙間は径方向内側にある高圧側空間に連通するため、径方向外側にある低圧側空間に連通する第2隙間より大きな押付力をチップシールに与える。この態様によれば、チップシールが第2隙間から押付力を受ける面積が、第1隙間から押付力を受ける面積より相対的に大きくなる。そのため、チップシールの端板に対する押付力が緩和されることで、適切なシール性を保ちながら摺動抵抗によるエネルギ効率の低下を防ぐことができる。
【0058】
他の態様では、前述のいずれか一態様において、
前記ラップは、前記第1深さにおいて、前記チップシール溝の径方向内側を構成する側壁の厚さ(t2)が、前記溝部の径方向外側を構成する側壁の厚さ(t1)より大きい。
【0059】
この態様によれば、チップシール溝の径方向内側を構成する側壁の厚さを大きく構成できるため、機械的強度を向上可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ケーシング
2 固定スクロール
3 固定端板
4 固定ラップ
5 自転防止機構
6 旋回スクロール
7 旋回端板
8 旋回ラップ
9 空間
9A 高圧側空間
9B 低圧側空間
11 ボス部
12 チップシール溝
12a1 第1底部
12a2 第2底部
12a3 チップシール溝側壁部
13 溝側段差部
14 チップシール
14a1 第1部分
14a2 第2部分
14a3 チップシール側壁部
15 チップシール側段差部
16 ボス部
17 ロータ
18 偏心軸部
19 軸受
20 吸気口
21 吐出孔
100 スクロール流体機械
V1 第1隙間
V2 第2隙間

図1
図2
図3
図4