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特開2024-27014マンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置
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  • 特開-マンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置 図1
  • 特開-マンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027014
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】マンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 25/06 20060101AFI20240221BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240221BHJP
   C22C 38/24 20060101ALN20240221BHJP
   C22C 38/22 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
B21B25/06 A
B21B25/06 Z
C22C38/00 301H
C22C38/00 302E
C22C38/24
C22C38/00 301Z
C22C38/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129690
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(57)【要約】
【課題】マンドレルバーの寿命を延長できるマンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置が提供される。
【解決手段】マンドレルバーの寿命予測方法は、焼き入れ工程及び焼き戻し工程を経て製造されるマンドレルバーの寿命を予測する方法であって、入力データとして、マンドレルバーの属性情報から選択した1以上のパラメータと、焼き入れ工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータと、焼き戻し工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータとを含み、マンドレルバーの寿命を出力データとする、機械学習により生成された寿命予測モデルを用いて、マンドレルバーの寿命を予測する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き入れ工程及び焼き戻し工程を経て製造されるマンドレルバーの寿命を予測する方法であって、
入力データとして、前記マンドレルバーの属性情報から選択した1以上のパラメータと、前記焼き入れ工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータと、前記焼き戻し工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータとを含み、前記マンドレルバーの寿命を出力データとする、機械学習により生成された寿命予測モデルを用いて、前記マンドレルバーの寿命を予測する、マンドレルバーの寿命予測方法。
【請求項2】
前記焼き入れ工程に関する操業パラメータは、焼き入れ温度及び焼き入れ時間の少なくとも1つを含む、請求項1に記載のマンドレルバーの寿命予測方法。
【請求項3】
前記焼き戻し工程に関する操業パラメータは、焼き戻し温度及び焼き戻し時間の少なくとも1つを含む、請求項2に記載のマンドレルバーの寿命予測方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のマンドレルバーの寿命予測方法を用いて、前記寿命予測モデルの入力データとして、前記マンドレルバーの属性情報、前記焼き入れ工程における操業パラメータの設定値及び前記焼き戻し工程における操業パラメータの設定値を用いて、前記マンドレルバーの寿命を予測し、予測されたマンドレルバーの寿命予測値が目標値以上となるか否かの判定を行ない、前記寿命予測値が目標値未満である場合、前記焼き入れ工程及び焼き戻し工程における少なくとも一つの操業パラメータを再設定し、前記目標値以上となるまで、マンドレルバーの寿命予測を行なう、マンドレルバーの寿命予測方法。
【請求項5】
請求項4に記載のマンドレルバーの寿命予測方法により予測された前記寿命予測値が目標値以上となる場合の熱処理条件に基づいて、マンドレルバーの熱処理を行なう、マンドレルバーの製造方法。
【請求項6】
寿命予測モデルの入力データとして、マンドレルバーの属性情報、焼き入れ工程における操業パラメータの設定値及び焼き戻し工程における操業パラメータの設定値を用いて、マンドレルバーの寿命を予測する寿命予測部と、寿命予測値が目標値を満足するかどうかの判定を行い、目標値を満足しない場合は、前記焼き入れ工程及び前記焼き戻し工程における少なくとも一つの操業パラメータを再設定する熱処理条件設定部と、を備える、マンドレルバーの製造条件設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管の肉厚圧下プロセスの1つにマンドレル圧延がある。このプロセスは、肉厚を管の内面から圧延するマンドレルバーを素管に挿入し、素管とマンドレルバーの両方を孔型ロール間に引き込み、減肉、延伸する。孔型ロールは複数スタンドであることが多く、管の外周長を均一に圧下できるように管周方向に位相差を設けて設置される。製造する管長及びスタンド数に応じて、内面工具であるマンドレルバーは数メートルから数十メートルの長尺形状となる。マンドレル圧延では、孔型ロールのロールギャップと管を内面から圧下するマンドレルバーの径で肉厚を決定するため、全長にわたって寸法精度の高いマンドレルバーが必要となる。また、管の内表面はマンドレルバーの表面が転写されるため、良好なマンドレルバーの表面品質が必要である。マンドレル圧延後のマンドレルバーは、引き抜き装置によって端部のつかみ部がつかまれて、管から抜き取られ、再びマンドレル圧延に循環使用される。
【0003】
マンドレルバーは圧延する管内面との高い接触圧力を生じる。熱間の場合、マンドレルバーは高温にさらされ、管内面に挿入された後に潤滑剤を供給することも難しい。このような厳しい使用条件により、マンドレルバーは圧延での利用回数に応じて縮径及び表面に焼き付きが発生する。縮径及び焼き付きが発生すると、製造する管の肉厚及び内表面品質に悪影響を与える。そのため、縮径量及び焼き付き状況が管理され、製品品質に悪影響を与えるマンドレルバーは廃却される。ここで、マンドレルバーは長尺であり、製造する管の肉厚に応じて様々なマンドレルバーの外径サイズを持つ必要があるため、工具コストが高い。そのため、マンドレルバーの損傷を抑制して、寿命を延長させることにより工具コストを低減することができる。例えば特許文献1は、マンドレルバーの製造に用いられる熱処理プロセスのうち最終段階である焼き戻しにおいて、加熱後に特定の冷却速度で加速冷却することで、マンドレルバーの硬度を維持しながら靭性値を向上させて、工具寿命を向上させる方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5835259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は工具寿命の延長に効果がある。しかし、マンドレルバーを特定の冷却速度で加速冷却するための装置が必要になる。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、マンドレルバーの寿命を延長できるマンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らはマンドレルバーの寿命に影響する因子に関して鋭意検討した結果、マンドレルバーの製造時の焼き戻し条件に加えて、焼き入れ条件が大きく影響することを見出した。この知見に基づき、発明者らは入力データとして、マンドレルバーの成分等の属性情報、焼き戻しに関する操業パラメータに加え、焼き入れに関する操業パラメータを含み、マンドレルバーの寿命を出力データとする、寿命予測モデルを用いる方法を着想した。このような寿命予測モデルを用いることで、マンドレルバーの寿命を正確に予測することができる。さらに、寿命予測モデルにおいて、マンドレルバーの寿命が長くなる操業パラメータの値を探索し、その値を用いてマンドレルバーを作製することで、寿命の長いマンドレルバーを作製する方法を着想した。本開示は以上の知見に基づきなされたものである。その要旨は次のとおりである。
【0008】
(1)本開示の一実施形態に係るマンドレルバーの寿命予測方法は、
焼き入れ工程及び焼き戻し工程を経て製造されるマンドレルバーの寿命を予測する方法であって、
入力データとして、前記マンドレルバーの属性情報から選択した1以上のパラメータと、前記焼き入れ工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータと、前記焼き戻し工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータとを含み、前記マンドレルバーの寿命を出力データとする、機械学習により生成された寿命予測モデルを用いて、前記マンドレルバーの寿命を予測する。
【0009】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記焼き入れ工程に関する操業パラメータは、焼き入れ温度及び焼き入れ時間の少なくとも1つを含む。
【0010】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記焼き戻し工程に関する操業パラメータは、焼き戻し温度及び焼き戻し時間の少なくとも1つを含む。
【0011】
(4)本開示の一実施形態として、
(1)から(3)のいずれかのマンドレルバーの寿命予測方法を用いて、前記寿命予測モデルの入力データとして、前記マンドレルバーの属性情報、前記焼き入れ工程における操業パラメータの設定値及び前記焼き戻し工程における操業パラメータの設定値を用いて、前記マンドレルバーの寿命を予測し、予測されたマンドレルバーの寿命予測値が目標値以上となるか否かの判定を行ない、前記寿命予測値が目標値未満である場合、前記焼き入れ工程及び焼き戻し工程における少なくとも一つの操業パラメータを再設定し、前記目標値以上となるまで、マンドレルバーの寿命予測を行なう。
【0012】
(5)本開示の一実施形態に係るマンドレルバーの製造方法は、
(4)のマンドレルバーの寿命予測方法により予測された前記寿命予測値が目標値以上となる場合の熱処理条件に基づいて、マンドレルバーの熱処理を行なう。
【0013】
(6)本開示の一実施形態に係るマンドレルバーの製造条件設定装置は、
寿命予測モデルの入力データとして、マンドレルバーの属性情報、焼き入れ工程における操業パラメータの設定値及び焼き戻し工程における操業パラメータの設定値を用いて、マンドレルバーの寿命を予測する寿命予測部と、寿命予測値が目標値を満足するかどうかの判定を行い、目標値を満足しない場合は、前記焼き入れ工程及び前記焼き戻し工程における少なくとも一つの操業パラメータを再設定する熱処理条件設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、マンドレルバーの寿命を延長できるマンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、マンドレルバーの寿命予測モデルの生成方法について説明するための図である。
図2図2は、マンドレルバーの寿命予測方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るマンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置が説明される。本開示は、概要として、マンドレル圧延用のマンドレルバーの長寿命化に関する。本開示によれば、マンドレルバーを製造してから圧延に使用して表面に割れが発生し使用不可になるまでの寿命(圧延本数)を予測する方法が提供される。また、予測に基づいて長寿命なマンドレルバーを製造する方法及び装置が提供される。
【0017】
マンドレルバーは、マンドレル圧延法で使用される内面工具である。マンドレルバーを製造するための材料の鋼種として、一般的にJISに規定するSKD6又はSKD61などの熱間工具鋼が使用される。表1はSKD6及びSKD61の鋼組成を示す。表1に示されていない残部はFe及び不可避的不純物である。
【0018】
【表1】
【0019】
マンドレルバーは所定の寸法に加工された後に、焼き入れ及び焼き戻しの熱処理を経て製造される。焼き入れ工程は、マンドレルバーを加熱して急速冷却することによって、強度を向上させる工程である。焼き戻しは、焼き入れを行ったマンドレルバーを適切な温度域に置いて、靱性を向上させる工程である。
【0020】
マンドレル圧延で使用中のマンドレルバーは、圧延本数が増加すると、表面に円周方向の割れが発生する。マンドレルバーの円周方向の割れによって、鋼管内面疵の発生が引き起こされる。発明者らがマンドレルバーの損傷メカニズムについて詳細に検討したところ、マンドレルバーの製造時における焼き戻し条件に加えて、焼き入れ条件が大きく影響することを見出した。
【0021】
SKD6及びSKD61は合金元素としてMn、Cr、Mo、V等が添加されたものであり、熱処理の過程でこれらを炭化物として析出させることで熱間強度を高めている。発明者らの検討によれば、焼き入れ時間が短い又は焼き入れ温度が低い場合に、焼き入れ前に粒界に偏析した炭化物が溶解せずに偏析したまま残存し、材料の靭性を低下させて、マンドレルバーに亀裂が発生しやすくなる。そのため、マンドレルバーの寿命が短くなることが明らかとなった。
【0022】
また、発明者らの検討によれば、焼き入れ時間が長い又は焼き入れ温度が高い場合に、結晶粒が大きくなり、材料の靭性を低下させて、マンドレルバーに亀裂が発生しやすくなる。そのため、マンドレルバーの寿命が短くなることが明らかとなった。
【0023】
このように、焼き入れ条件はマンドレルバーの寿命に影響する。そのため、本実施形態では、入力データとして、マンドレルバーの成分等の属性情報、焼き戻しに関する操業パラメータに加え、焼き入れに関する操業パラメータを含む、マンドレルバーの寿命予測モデルを用いる。寿命予測モデルの出力データは寿命である。このような寿命予測モデルを用いることで、マンドレルバーの寿命を正確に予測することができる。
【0024】
<マンドレルバーの属性情報>
マンドレルバーの属性情報としては、マンドレルバーの寸法などの他、マンドレルバーの成分組成を用いることができる。成分組成は、C、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Vなどの成分元素の含有量である。マンドレルバーの属性情報は、C、Mn、Cr、Mo及びVの含有量を含むことが好ましい。C、Mn、Cr、Mo及びVは炭化物として析出し、マンドレルバーの靭性に影響するからである。また、マンドレルバーの属性情報は、P及びSの含有量を含むことが好ましい。P及びSは粒界に偏析し、マンドレルバーの靭性に影響する可能性があるからである。また、マンドレルバーの属性情報は、Siの含有量を含むことが好ましい。Siはマンドレルバーの表面で酸化物を形成し、表面状態に影響するからである。つまり、Siはマンドレルバー表面の亀裂の発生に影響するからである。
【0025】
<焼き戻しの操業パラメータ>
焼き戻しの操業パラメータとしては、焼き戻し温度、焼き戻し時間、焼き戻し加熱速度、焼き戻し後の冷却速度などを用いることができる。焼き戻しの操業パラメータは、焼き戻し温度を含むことが好ましい。焼き戻し温度により析出する炭化物が変化し、マンドレルバーの靭性に影響するからである。焼き戻しの操業パラメータは、焼き戻し後の冷却速度を含むことが好ましい。焼き戻し後の冷却速度によりP及びSの粒界への偏析形態が変化し、マンドレルバーの靭性に影響するからである。
【0026】
<焼き入れの操業パラメータ>
焼き入れの操業パラメータとしては、焼き入れ温度、焼き入れ時間、焼き入れ加熱速度、焼き入れ後の冷却速度などを用いることができる。焼き入れの操業パラメータは、焼き入れ温度を含むことが好ましい。焼き入れ温度により炭化物の溶解状態が変化し、また、結晶粒の大きさが変化し、マンドレルバーの靭性に影響するからである。焼き入れの操業パラメータは、焼き入れ時間を含むことが好ましい。焼き入れ時間により炭化物の溶解状態が変化し、また、結晶粒の大きさが変化し、マンドレルバーの靭性に影響するからである。
【0027】
<マンドレルバーの寿命実績>
マンドレルバーの寿命実績は、上位コンピュータに保存される。上位コンピュータは、例えばマンドレルバーの製造及びマンドレルバーを使用したマンドレル圧延プロセスを含む鋼管などの製造を管理するコンピュータであってよい。マンドレルバーの寿命は、マンドレル圧延で使用された後に、目視又は検査装置によって検出される表面の亀裂の有無に基づいて判定されてよい。マンドレルバーの表面に亀裂が生じた場合に、それまでの圧延本数がマンドレルバーの寿命実績として上位コンピュータに記録されてよい。ここで、マンドレルバーの寿命を示す指標は、圧延本数に限定されるものでなく、圧延本数と異なる値であってよい。例えば圧延荷重を考慮する場合に、圧延荷重に圧延本数を掛けた値を亀裂が生じるまで積算し、積算値がマンドレルバーの寿命実績として上位コンピュータに記録されてよい。
【0028】
<マンドレルバーの寿命予測モデルの生成>
図1は、マンドレルバーの寿命を予測する寿命予測モデルの生成方法を示す。モデル生成部は、寿命予測モデルを生成する。本実施形態において、モデル生成部は、マンドレルバーの属性情報、焼き戻し操業実績データ、焼き入れ操業実績データ及びマンドレルバーの寿命実績データを収集する。ここで、焼き戻し操業実績データは、寿命実績データが得られたマンドレルバーの製造時における焼き戻し工程に関する操業パラメータのデータである。また、焼き入れ操業実績データは、寿命実績データが得られたマンドレルバーの製造時における焼き入れ工程に関する操業パラメータのデータである。モデル生成部は、収集したこれらのデータ(実績データ)を用いた機械学習によって、寿命予測モデルを生成する。
【0029】
マンドレルバーの属性情報、焼き戻し操業実績データ、焼き入れ操業実績データ及びマンドレルバーの寿命実績データは、上位コンピュータからモデル生成部に送られる。モデル生成部は、上位コンピュータ及び各操業ラインを構成する各種の装置と通信可能なコンピュータによって実現されてよい。コンピュータの構成は、特に限定されるものでなく、例えばメモリ(記憶装置)、CPU(処理装置)、ハードディスクドライブ(HDD)、ネットワークに接続するための通信制御部、表示装置及び入力装置を備えるものであってよい。ここで、図1のデータベースはハードディスクドライブで実現されてよい。予測モデルを生成する機械学習部はCPUで実現されてよい。予測モデルはメモリに記憶されてよい。
【0030】
実績データのデータセットが複数収集されて、データベースに保存される。実績データのうち、マンドレルバーの属性情報、焼き戻し操業実績データ及び焼き入れ操業実績データは、入力実績データとなる。また、入力実績データに対応するマンドレルバーの寿命実績データは、出力実績データとなる。データベースに蓄積されるデータ数は、50個以上が好ましく、100個以上がより好ましく、200個以上がさらに好ましい。
【0031】
本実施形態において、機械学習部は、入力実績データと出力実績データのデータセットである学習データを用いた機械学習によって、マンドレルバーの寿命予測モデルを生成する。寿命予測モデルの生成に用いられる学習データは複数であるが、特定の数に限定されない。ここで、入力実績データは、マンドレルバーの属性情報から選択した1以上のパラメータと、焼き入れ工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータと、焼き戻し工程に関する操業パラメータから選択した1以上のパラメータと、を含む。
【0032】
機械学習の方法は、公知の学習方法を適用すればよい。機械学習は、例えば、ニューラルネットワークなどの公知の機械学習手法を用いればよい。他の機械学習手法として、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰などを例示することができる。また、マンドレルバーの寿命予測モデルは、新たな実績データから得られた学習データを用いて、適宜、更新されてよい。機械学習部は、上記のように、生成した寿命予測モデルをメモリに記憶してよい。
【0033】
<マンドレルバーの寿命予測方法>
マンドレルバーの寿命予測は、予め生成された寿命予測モデルを用いて行われる。寿命予測は、予測対象とするマンドレルバーのスラブの属性情報が得られたタイミング以降に行われる。
【0034】
マンドレルバーの寿命予測結果を用いて、熱処理条件を再設定することができる。熱処理条件は、焼き入れ工程及び焼き戻し工程の操業パラメータである。熱処理条件の再設定は、予測対象とするマンドレルバーの焼き入れ及び焼き戻しの熱処理が実施される前に行われる。
【0035】
図2はマンドレルバーの寿命予測方法について説明するための図である。寿命予測部及び熱処理条件設定部はコンピュータによって実現されてよい。ここで、寿命予測部及び熱処理条件設定部を実現するコンピュータは、モデル生成部を実現するのと同じコンピュータであってよいし、別のコンピュータであってよい。別のコンピュータである場合には、寿命予測モデルなどを取得できるように、モデル生成部を実現するコンピュータ及び上位コンピュータと通信可能であればよい。ここで、寿命予測部及び熱処理条件設定部の処理はCPUで実現されてよい。寿命予測モデルを用いて予測されたマンドレルバーの寿命予測値はメモリに記憶されてよい。
【0036】
寿命予測部は、上位コンピュータから、マンドレルバーの属性情報、予め設定されている焼き戻し条件の設定値(初期条件)及び焼き入れ条件の設定値(初期条件)を取得する。ここで、焼き戻し条件とは、焼き戻し工程における操業パラメータである。また、焼き入れ条件とは、焼き入れ工程における操業パラメータである。寿命予測部は、焼き戻し及び焼き入れの操業パラメータの初期設定値を、寿命予測モデルの入力データとして用いる。そして、寿命予測部は、初期条件に対する出力データすなわちマンドレルバーの寿命予測値を得る。
【0037】
熱処理条件設定部は、予測されたマンドレルバーの寿命予測値が目標値以上となるか否かの判定を行なう。熱処理条件設定部は、予測されたマンドレルバーの寿命が目標値以上(すなわち目標値を満足する)であれば、設定値(初期条件)を適切な熱処理条件と判定して処理を終了する。熱処理条件設定部の再設定部は、寿命予測値が目標値未満(すなわち目標値を満足しない)であれば、マンドレルバーの寿命が長くなるように、焼き入れ工程及び焼き戻し工程における少なくとも一つの操業パラメータを再設定する。
【0038】
寿命予測部は、再設定された熱処理条件(焼き入れ工程及び焼き戻し工程の操業パラメータ)を寿命予測モデルの入力データとして、再びマンドレルバーの寿命予測を実施してよい。このようにマンドレルバーの寿命予測が繰り返し実施されることで、適切な熱処理条件を決定することができる。
【0039】
ここで、熱処理条件を再設定する場合に、再設定部は、例えば焼き入れ温度、焼き入れ時間、焼き入れ加熱速度及び焼き入れ後の冷却速度の少なくとも1つを変更すればよい。また、焼き入れ条件の変更に加えて又は代えて、再設定部は、例えば焼き戻し温度、焼き戻し時間、焼き戻し加熱速度及び焼き戻し後の冷却速度の少なくとも1つを変更すればよい。また、予め複数の熱処理条件が用意され、それぞれの条件でマンドレルバーの寿命予測が行われて、目標値以上の寿命予測値となった熱処理条件のうちで最も良好なものが、最適な熱処理条件として決定されてよい。ここで、複数の熱処理条件を用意する際に、実験計画法などの手法で条件が設定されてよい。また、逐次2次計画法などの最適化手法が用いられてよい。
【0040】
以上のように、本実施形態に係るマンドレルバーの寿命予測方法、マンドレルバーの製造方法及びマンドレルバーの製造条件設定装置は、上記の構成又は工程によって、マンドレルバーの寿命を延長できる。すなわち、本開示によれば、マンドレルバーの寿命が高精度に予測可能となり、予測に基づいて寿命を延ばすように操業パラメータを再設定でき、その結果として、マンドレルバーの高寿命を実現することができる。
【0041】
(実施例)
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示は実施例の内容に限定されるものではない。
【0042】
本実施例では、継目無鋼管の製造において、熱間マンドレル圧延プロセスが行われた。
【0043】
表2に示す化学成分を有する炭素鋼を真空溶解炉で溶製し、丸ビレットに成形後、マンネスマン穿孔方式でΦ(直径)が130~230mm、肉厚が13~35mmの素管が製造された。1000~1150℃の範囲でマンドレル圧延が行われて、肉厚を4~18mmへ成形する圧延が、250本のマンドレルバーを使って、各マンドレルバーが寿命(使用限界)となるまで実施された。圧延毎に目視でマンドレルバー表面を観察し、亀裂が存在した場合に、その時点での圧延本数を寿命とした。例えば2000本の素管のマンドレル圧延を行った時点で、250本のうちの1本のマンドレルバーの表面で亀裂が生じた場合に、亀裂が生じたマンドレルバーの実績データとしての寿命は2000本になる。
【0044】
【表2】
【0045】
上記の250本のマンドレルバーについて、マンドレルバーの属性情報、焼き戻し操業実績データ、焼き入れ操業実績データ及びマンドレルバーの寿命実績データを用いて、マンドレルバーの寿命予測モデルが作成された。
【0046】
予測モデルの入力データとして、マンドレルバーのC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Vの含有量、焼き戻し温度、焼き戻し後の冷却速度、焼き入れ温度及び焼き入れ時間が用いられた。C、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Vの含有量として、マンドレルバーの素材を作製した際の製鋼工程での測定値が用いられた。焼き戻し後の冷却速度[℃/秒]は(焼き戻し温度[℃]-100[℃])/(焼き戻し温度から100℃になるまでの時間[秒])で計算された。ここで、冷却中のマンドレルバーの長手中央部の外面温度を放射温度計によって測定して、焼き戻し温度から100℃になるまでの時間が測定された。
【0047】
機械学習手法として、中間層を3層とするニューラルネットワークが用いられた。活性化関数としてシグモイド関数が用いられた。上記の250本のマンドレルバーの実績データがモデル作成用のデータ(学習データ)として用いられた。
【0048】
次に、上記の250本のマンドレルバーとは別のマンドレルバー(第1のマンドレルバー)が1本用意された。上記で作成した寿命予測モデルを用いて、第1のマンドレルバーの属性情報と熱処理条件の設定値を入力データとして、寿命予測が行われた。その結果、第1のマンドレルバーの寿命は2002本と予測された。第1のマンドレルバーは、寿命予測モデルに入力された熱処理条件で熱処理が実施された。継目無鋼管の製造において、第1のマンドレルバーを用いる熱間マンドレル圧延プロセスが実行された。表2に示す化学成分を有する炭素鋼を真空溶解炉で溶製し、丸ビレットに成形後、マンネスマン穿孔方式でΦ(直径)が130~230mm、肉厚が13~35mmの素管が製造された。1000~1150℃の範囲でマンドレル圧延が行われて、肉厚を4~18mmへ成形する圧延が繰り返し実施された。圧延毎に目視でマンドレルバー表面を観察し、亀裂が存在した場合に、その時点での圧延本数を寿命とした。その結果、第1のマンドレルバーの寿命は2003本であった。
【0049】
次に、さらに別のマンドレルバー(第2のマンドレルバー)が1本用意された。上記で作成した寿命予測モデルを用いて、第2のマンドレルバーの属性情報と熱処理条件の設定値を入力データとして、寿命予測が行われた。その結果、第2のマンドレルバーの寿命は2000本と予測された。目標値を2040本と設定し、焼き戻し温度及び焼き入れ温度を変更して、繰り返し寿命予測が行われた結果、第2のマンドレルバーの寿命を2042本と予測する熱処理条件が存在した。第2のマンドレルバーは、その熱処理条件で熱処理が実施された。継目無鋼管の製造において、第2のマンドレルバーを用いる熱間マンドレル圧延プロセスが実行された。表2に示す化学成分を有する炭素鋼を真空溶解炉で溶製し、丸ビレットに成形後、マンネスマン穿孔方式でΦ(直径)が130~230mm、肉厚が13~35mmの素管が製造された。1000~1150℃の範囲でマンドレル圧延が行われて、肉厚を4~18mmへ成形する圧延が繰り返し実施された。圧延毎に目視でマンドレルバー表面を観察し、亀裂が存在した場合に、その時点での圧延本数を寿命とした。その結果、第2のマンドレルバーの寿命は2042本であった。本実施例の結果から、上記の実施形態で説明した方法及び装置によって、マンドレルバーの寿命を高精度に予測できること及びマンドレルバーの高寿命を実現できることが確認された。
【0050】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
図1
図2