(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027044
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/027 20060101AFI20240221BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C03B37/027 A
G02B6/02 356A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129748
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 弓月
(72)【発明者】
【氏名】中原 慎二
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021HA05
(57)【要約】
【課題】ガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触を素早く検出する光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】線引き炉120から線引きされたガラスファイバG1を冷却する冷却装置140と、この冷却装置140を通過したガラスファイバG1に樹脂を塗布する樹脂コーティングダイス160とを用いてガラスファイバG1に樹脂を被覆した光ファイバG3を製造する光ファイバG3の製造方法であって、樹脂コーティングダイス160より上流に配置されたファイバ位置測定器130を用いてガラスファイバG1の走行方向と交差する測定面におけるガラスファイバG1の面内振動の振動周波数fを測定する振動周波数測定工程S110と、振動周波数測定工程S110により測定されたガラスファイバG1の振動周波数fに基づいてガラスファイバG1が冷却装置140に接触したか否かを判定する接触判定工程S120とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材を加熱して軟化させる線引き炉と、前記線引き炉よりも下流側に配置されて前記線引き炉から線引きされたガラスファイバを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を通過したガラスファイバに樹脂を塗布する樹脂コーティングダイスとを用いて、前記ガラスファイバに前記樹脂を被覆した光ファイバを製造する光ファイバの製造方法であって、
前記樹脂コーティングダイスより上流に配置されたファイバ位置測定器を用いて前記ガラスファイバの走行方向と交差する測定面における前記ガラスファイバの面内振動の振動周波数を測定する振動周波数測定工程と、
前記振動周波数測定工程により測定された前記ガラスファイバの振動周波数に基づいて前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触したか否かを判定する接触判定工程とを備えている、光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記接触判定工程において、前記ガラスファイバの振動周波数が所定範囲から外れている場合に前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触したと判定する、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記接触判定工程において、前記所定範囲がファイバ張力測定器の測定した前記ガラスファイバの張力に基づいて算出される、請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記接触判定工程によって前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触していると判定された場合に前記ガラスファイバの線引きを停止する線引停止工程をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス母材からガラスファイバを線引きして光ファイバを製造する光ファイバの製造方法において、ガラス母材の先端側のネックダウン部とガラスファイバに樹脂を塗布する塗布装置との間にガラスファイバの振動を抑制する固定点が存在しないため、ネックダウン部の下端から塗布装置の間のガラスファイバがネックダウン部の下端と塗布装置とを固定点として弦のように振動(弦振動)してしまうことがあった。
このガラスファイバの弦振動はガラスファイバの走行方向と交差する交差面内で振動するため、ガラス母材から線引きされたガラスファイバを冷却する冷却装置の壁面にガラスファイバが接触し、この接触によるガラスファイバの損傷によって光ファイバの強度が低下してしまうことがあった。
【0003】
そこで、この弦振動による光ファイバの強度低下を防ぐために、ガラス母材から垂下したガラスファイバの走行方向と交差する水平方向におけるガラスファイバの走行位置をファイバ位置測定器で検出し、ガラス母材を加熱する加熱炉の中心にガラスファイバの走行位置が配置されるようにガラス母材を水平方向に移動させる位置調整制御を行う光ファイバの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス母材は長尺且つ大径であり、ガラス母材の慣性を考慮すると、ガラス母材の移動速度を高めることには限界があるため、上述した特許文献1に記載された光ファイバの製造方法では、所定のサンプリング時間(例えば、0.1秒。すなわち、10Hz)におけるガラスファイバの水平面における平均走行位置に対してガラス母材の水平面内における位置を変化させている。
したがって、サンプリング時間のあいだにガラスファイバが冷却装置に間欠的に接触した場合、ガラス母材の位置が変化せず、ガラスファイバが接触して損傷してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的はガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触を素早く検出する光ファイバの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の光ファイバの製造方法は、ガラス母材を加熱して軟化させる線引き炉と、前記線引き炉よりも下流側に配置されて前記線引き炉から線引きされたガラスファイバを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を通過したガラスファイバに樹脂を塗布する樹脂コーティングダイスとを用いて、前記ガラスファイバに前記樹脂を被覆した光ファイバを製造する光ファイバの製造方法であって、前記樹脂コーティングダイスより上流に配置されたファイバ位置測定器を用いて前記ガラスファイバの走行方向と交差する測定面における前記ガラスファイバの面内振動の振動周波数を測定する振動周波数測定工程と、前記振動周波数測定工程により測定された前記ガラスファイバの振動周波数に基づいて前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触したか否かを判定する接触判定工程とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
上記によれば、ガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触を素早く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の光ファイバの製造方法で用いる光ファイバ製造装置の概略図である。
【
図2】
図1に示すファイバ位置測定器によるガラスファイバの位置測定を説明する模式図。
【
図3】本開示の一態様に係る光ファイバの製造工程における異常判定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様の内容を列記して説明する。
本開示の光ファイバの製造方法は、(1)ガラス母材を加熱して軟化させる線引き炉と、前記線引き炉よりも下流側に配置されて前記線引き炉から線引きされたガラスファイバを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を通過したガラスファイバに樹脂を塗布する樹脂コーティングダイスとを用いて、前記ガラスファイバに前記樹脂を被覆した光ファイバを製造する光ファイバの製造方法であって、前記樹脂コーティングダイスより上流に配置されたファイバ位置測定器を用いて前記ガラスファイバの走行方向と交差する測定面における前記ガラスファイバの面内振動の振動周波数を測定する振動周波数測定工程と、前記振動周波数測定工程により測定された前記ガラスファイバの振動周波数に基づいて前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触したか否かを判定する接触判定工程とを備えている。
このように樹脂コーティングダイスより上流に配置されたファイバ位置測定器を用いてガラスファイバの走行方向と交差する測定面におけるガラスファイバの面内振動の振動周波数を測定する振動周波数測定工程と、振動周波数測定工程により測定されたガラスファイバの振動周波数に基づいてガラスファイバが冷却装置に接触したか否かを判定する接触判定工程とを備えていることにより、ガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触がガラスファイバの振動周波数に基づいて判定されるため、測定面におけるガラスファイバの位置に基づいてガラスファイバの冷却装置への接触を判定する場合に比べてガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触を素早く検出することができる。
【0011】
上記の光ファイバの製造方法において、(2)前記接触判定工程において、前記ガラスファイバの振動周波数が所定範囲から外れている場合に前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触したと判定する。
これにより、測定面におけるガラスファイバの位置変動を周波数解析するだけでガラスファイバの冷却装置への接触の有無が判定されるため、ガラスファイバの冷却装置への接触の有無の判定を簡単に行うことができる。
【0012】
上記の光ファイバの製造方法において、(3)前記接触判定工程において、前記所定範囲がファイバ張力測定器の測定した前記ガラスファイバの張力に基づいて算出される。
これにより、ガラスファイバが冷却装置に接触しているか否かを判定するための根拠となるガラスファイバの振動周波数の範囲が線引きされているガラスファイバの状態に基づいて算出されるため、ガラスファイバの冷却装置への接触の有無の判定をより正確に行うことができる。
【0013】
上記の光ファイバの製造方法において、(4)前記接触判定工程によって前記ガラスファイバが前記冷却装置に接触していると判定された場合に前記ガラスファイバの線引きを停止する線引停止工程をさらに備える。
これにより、ガラスファイバの弦振動による冷却装置への接触に基づいてガラスファイバの線引きが停止されるため、光ファイバの品質不良を抑制することができる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る光ファイバの製造方法の具体例について説明する。
【0015】
<1.光ファイバ製造装置の概要>
まず、本開示に係る光ファイバの製造方法で用いる光ファイバの製造装置について。
図1は本開示の光ファイバの製造方法で用いる光ファイバ製造装置の概略図であり、
図2は
図1に示すファイバ位置測定器によるガラスファイバの位置測定を説明する模式図である。
【0016】
光ファイバ製造装置100は、
図1に示すように、最上流から順に、ガラス母材Gの上部を把持する母材送りユニット110と、ガラス母材Gを加熱して軟化させる線引き炉120と、ガラス母材Gから線引きされたガラスファイバG1の位置を検出するファイバ位置測定器130と、このファイバ位置測定器130を通過したガラスファイバG1をヘリウムガス等の冷却ガスによって冷却する冷却装置140と、この冷却装置140を通過したガラスファイバG1の屈折率からガラスファイバG1の張力を測定するファイバ張力測定器150と、このファイバ張力測定器150を通過したガラスファイバG1に紫外線硬化樹脂(以下、「UV(UltraViolet)硬化樹脂」と称する。)を塗布して樹脂塗布済みファイバG2を生成する樹脂コーティングダイス160と、樹脂塗布済みファイバG2の表面に塗布されたUV硬化樹脂を硬化させて光ファイバG3を生成するUV硬化炉170と、光ファイバG3が巻き取られるボビンBに向けて光ファイバG3の走行方向を転換する直下ローラー180と、光ファイバ製造装置100の各要素を制御するコントローラー190とを備えている。
したがって、この光ファイバ製造装置100は、ガラスファイバG1にUV硬化樹脂を被覆した光ファイバG3を製造する。
【0017】
母材送りユニット110は、ガラス母材Gの上端に設けられたダミー棒Gdを回転自在に把持してガラス母材Gの長手方向である中心軸方向(Z方向)と直交する水平方向(XY方向)にガラス母材Gを移動させる水平移動機構111と、ガラス母材Gを中心軸回りに回転させる回転機構112と、ガラス母材G(すなわち、水平移動機構111)を線引きの進行に応じて上下動をさせるフィーダー113とを備えている。
なお、実施形態において、ガラス母材Gの中心軸方向は、光ファイバG3の直下ローラー180までの走行方向と一致する。
【0018】
線引き炉120は、内側にガラス母材Gが供給される円筒状の炉心管121と、この炉心管121を取り囲む発熱体122とを備え、発熱体122によりガラス母材Gを軟化させる加熱領域が形成される。
また、線引き炉120には、加熱領域にパージガスを供給するガス供給部123が設けられている。
【0019】
ファイバ位置測定器130は、光学式の測定器であり、ガラスファイバG1の走行方向と交差する測定面におけるガラスファイバG1の位置(本実施形態では、ガラスファイバG1の走行方向と直交交差する水平面におけるガラスファイバG1の位置)を検出する。
そして、このファイバ位置測定器130は、
図2に示すように、水平面上の第1の方向XにおけるガラスファイバG1の位置を検出する第1方向測定手段131と、水平面上で第1の方向Xと直交する第2の方向YにおけるガラスファイバG1の位置を検出する第2方向測定手段132とを有している。
【0020】
第1方向測定手段131は、
図2に示すように、第2の方向Yでレーザー光Lを投光および受光するものであり、レーザー光Lを発する投光部131aと、この投光部131aより発せられたレーザー光Lを受光する受光部131bとを有している。
第2方向測定手段132は、
図2に示すように、第1の方向Xでレーザー光Lを投光および受光するものであり、レーザー光Lを発する投光部132aと、この投光部132aより発せられたレーザー光Lを受光する受光部132bとを有している。
したがって、ファイバ位置測定器130は、レーザー光Lの投光と受光を互いに直交する2方向で行うことで、この2方向(本実施形態では、第1の方向Xと、第2の方向Y)で形成される測定面(本実施形態では、水平面)のガラスファイバG1の位置を認識することができる。
なお、
図2に示すように、ファイバ位置測定器130による検出範囲(すなわち、レーザー光Lが通過する範囲)は、ガラスファイバG1の直径より大きくなっている。
【0021】
さらに、このファイバ位置測定器130は、測定面である水平面におけるガラスファイバG1の位置の変動を周波数解析することで、水平面におけるガラスファイバG1の振動周波数を算出することができる。
【0022】
冷却装置140は、液体の冷媒で冷却された冷却筒を備えている。
この冷却筒の内部にはヘリウムガス等の冷却ガスが充填されている。
したがって、ガラスファイバG1が冷却筒の内部を通過すると、冷却ガスによってガラスファイバG1は冷却される。
【0023】
コントローラー190は、母材送りユニット110の水平移動機構111、回転機構112およびフィーダー113、ファイバ位置測定器130、ファイバ張力測定器150、ボビンBを回転させる不図示のボビン回転機構等が通信可能に接続されている。
そして、このコントローラー190は、ファイバ位置測定器130が算出したガラスファイバG1の水平方向の振動周波数に基づいて母材送りユニット110の水平移動機構111、回転機構112およびフィーダー113等を制御するガラス母材位置制御手段191とを有している。
【0024】
<2.光ファイバ製造装置による光ファイバの製造>
次に、光ファイバ製造装置100による光ファイバの製造方法について、
図1および
図3に基づいて詳しく説明する。
図3は、本開示の一態様に係る光ファイバの製造工程における異常判定のフローチャートである。
【0025】
<2.1.光ファイバの製造方法の概説>
まず、
図1を参照しつつ、光ファイバの製造方法について概説する。
光ファイバG3を製造するためには、母材送りユニット110によりガラス母材Gが線引き炉120の炉心管121内に送られる。
そして、ガラス母材Gの下端部分が発熱体122による炉心管121の加熱により軟化して下方に線引きされると、光ファイバG3を構成するガラスファイバG1が形成される。
このガラスファイバG1は、コア部およびクラッド部を有し、外径が例えば125μmの光導波路となっている。
【0026】
そして、ガラス母材Gから線引きされたガラスファイバG1の水平面における走行位置がファイバ位置測定器130で測定された後、このガラスファイバG1が冷却装置140を通過することで、ガラスファイバG1の表面温度が室温程度まで下げられる。
【0027】
室温程度まで冷却されたガラスファイバG1の張力がファイバ張力測定器150で測定された後、このガラスファイバG1が樹脂コーティングダイス160を通過することで、ガラスファイバG1の周囲にUV硬化樹脂が塗布されて樹脂塗布済みファイバG2となる。
そして、樹脂塗布済みファイバG2がUV硬化炉170を通過することで、ガラスファイバG1の表面に塗布されたUV硬化樹脂はUV硬化炉170で紫外線が照射されて硬化し、光ファイバG3が生成される。
【0028】
そして、直下ローラー180によって走行方向が変更された光ファイバG3は、ボビンBに巻き取られる。
【0029】
<2.2.異常判定>
上述した光ファイバG3の製造方法で光ファイバを製造すると、ガラスファイバG1の走行に伴って、ガラスファイバG1は、ガラス母材Gの先端P1と樹脂コーティングダイス160の入口P2とを両端とする区間で水平方向に振動する。
このガラスファイバG1の振動の振幅が大きいと、ガラスファイバG1が冷却装置140の内面に接触してしまう虞があり、ガラスファイバG1が冷却装置140の内面に接触するとガラスファイバG1の品質不良に繋がるため、ガラスファイバG1と冷却装置140の内面との接触の早期検知は重要となる。
そこで以下、光ファイバG3の製造における異常判定、すなわち、ガラスファイバG1と冷却装置140の内面との接触検知およびその後の処理について説明する。
【0030】
図3に示すように、本開示の光ファイバの製造における異常判定は、振動周波数測定工程S110と、接触判定工程S120と、線引停止工程S130とから構成されている。
【0031】
振動周波数測定工程S110は、光ファイバの製造中において常に実行される工程であり、樹脂コーティングダイス160より上流に配置されたファイバ位置測定器130を用いてガラスファイバG1の走行方向と交差する測定面(本実施形態では水平面)におけるガラスファイバG1の面内振動の振動周波数fを測定する。
【0032】
接触判定工程S120は、ファイバ位置測定器130の測定したガラスファイバG1の振動周波数fに基づいてガラスファイバG1が冷却装置140に接触したか否かを判定する。
具体的には、接触判定工程S120では、ファイバ位置測定器130の測定したガラスファイバG1の振動周波数fが所定範囲に収まっているか否かを判定する。
【0033】
ここで、ガラスファイバG1が冷却装置140に接触していないと判定する根拠となる、ガラスファイバG1の振動周波数の所定範囲について説明する。
ガラスファイバG1が冷却装置140に接触していない場合、ガラスファイバG1の固有振動数Fn[Hz]は次のようになる。
【数1】
なお、H[m]はガラス母材Gの先端P1と樹脂コーティングダイス160の入口P2との間の距離であり、S[N]はファイバ張力測定器150が測定したガラスファイバG1の張力、ρ[kg/m]はガラスファイバG1の線密度であり、AはガラスファイバG1の線速に応じた係数である。
また、n=1のときを「基本振動」、n=2・・・のときを「n倍振動」と称することから、n=1におけるガラスファイバG1の固有振動数F1は「基本振動におけるガラスファイバG1の固有振動数」であり、n=2・・・におけるガラスファイバG1の固有振動数Fnは「n倍振動におけるガラスファイバG1の固有振動数」と称する。
【0034】
そして、ガラスファイバG1が冷却装置140に接触していないと判定する根拠となるガラスファイバG1の振動周波数の所定範囲は、上記数1により算出されるガラスファイバG1の固有振動数Fnに所定の誤差範囲を加えた範囲となる。
【0035】
接触判定工程S120において、ガラスファイバG1の振動周波数fが所定範囲に収まっている場合、ガラスファイバG1が冷却装置140に接触していないと判定し、光ファイバの製造を続行する。
接触判定工程S120において、ガラスファイバG1の振動周波数fが所定範囲から外れている場合、ガラスファイバG1が冷却装置140に接触していると判定し、コントローラー190はガラスファイバG1の線引きを停止する線引停止工程S130を実行する。
【0036】
線引停止工程S130では、ガラス母材位置制御手段191により母材送りユニット110を制御するか、コントローラー190が不図示のボビン回転機構を制御してガラスファイバG1の線引きを停止する。
【0037】
このように構成される光ファイバの製造方法によれば、樹脂コーティングダイス160より上流に配置されたファイバ位置測定器130を用いてガラスファイバG1の走行方向と交差する測定面である水平面におけるガラスファイバG1の面内振動の振動周波数fを測定する振動周波数測定工程S110と、この振動周波数測定工程S110により測定されたガラスファイバG1の振動周波数fに基づいてガラスファイバG1が冷却装置140に接触したか否かを判定する接触判定工程S120とを備えていることにより、ガラスファイバG1の弦振動による冷却装置140への接触がガラスファイバG1の振動周波数fに基づいて判定されるため、水平面におけるガラスファイバG1の位置に基づいてガラスファイバG1の冷却装置140への接触を判定する場合に比べてガラスファイバG1の弦振動による冷却装置140への接触を素早く検出することができる。
【0038】
さらに、接触判定工程S120において、ガラスファイバG1の振動周波数fが所定範囲から外れている場合にガラスファイバG1が冷却装置140に接触したと判定することにより、水平面におけるガラスファイバG1の位置変動を周波数解析するだけでガラスファイバG1の冷却装置140への接触の有無が判定されるため、ガラスファイバG1の冷却装置140への接触の有無の判定を簡単に行うことができる。
【0039】
また、接触判定工程S120において、所定範囲がファイバ張力測定器150の測定したガラスファイバG1の張力に基づいて算出されることにより、ガラスファイバG1が冷却装置140に接触しているか否かを判定するための根拠となるガラスファイバG1の振動周波数fの範囲が線引きされているガラスファイバG1の状態に基づいて算出されるため、ガラスファイバG1の冷却装置140への接触の有無の判定をより正確に行うことができる。
【0040】
さらに、接触判定工程S120によってガラスファイバG1が冷却装置140に接触していると判定された場合にガラスファイバG1の線引きを停止する線引停止工程S130をさらに備えることにより、ガラスファイバG1の弦振動による冷却装置140への接触に基づいてガラスファイバG1の線引きが停止されるため、光ファイバG3の品質不良を抑制することができる。
【0041】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。
また、前述した実施形態が備える各要素は技術的に可能である限り組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0042】
例えば、上述した光ファイバ製造装置100のファイバ位置測定器130における測定面は水平面であったが、光ファイバ製造装置のファイバ位置測定器における測定面は水平面に限ったものではなく、ガラスファイバの走行方向と交差していれば、傾斜面であってもよい。
【0043】
例えば、上述した光ファイバ製造装置100のファイバ位置測定器130は、レーザー光の投光と受光とを2方向で行っていたが、レーザー光の投光と受光を1方向のみで行って光ファイバの水平面上の位置を測定してもよい。
この場合のレーザー投受光方向の位置の把握は、例えば、レーザー光の焦点を測定領域の中心からずらした状態で投光して得たファイバに遮られた領域を含む受光プロファイルから、ガラスファイバのエッジ部分の受光強度の傾きを求め、予め求めておいたエッジ部分の受光強度の傾きとレーザー投受光方向のファイバ位置との相関関係から、エッジ部分の受光強度の傾きをレーザー投受光方向のファイバ位置に換算して求める方法が挙げられる。
【0044】
例えば、上述した光ファイバ製造装置100においては、ファイバ位置測定器130がガラスファイバの面内振動の振動周波数を測定していたが、コントローラー190がファイバ位置測定器130の検出した測定面におけるガラスファイバG1の位置の変動を周波数解析してもよい。
【0045】
例えば、上述した光ファイバの製造方法においては、接触判定工程S120によってガラスファイバG1が冷却装置140に接触していると判定された場合に、線引停止工程S130を実行していたが、接触判定工程S120によってガラスファイバG1が冷却装置140に接触していると判定された場合に、光ファイバG3の線引きを停止せず、判定された時点における線引き開始からのガラスファイバG1の長さを記録しておき、線引き後の工程で、接触していると判定された部分を除去してもよい。
【符号の説明】
【0046】
100 ・・・ 光ファイバ製造装置
110 ・・・ 母材送りユニット
111 ・・・ 水平移動機構
112 ・・・ 回転機構
113 ・・・ フィーダー
120 ・・・ 線引き炉
121 ・・・ 炉心管
122 ・・・ 発熱体
123 ・・・ ガス供給部
130 ・・・ ファイバ位置測定器
131 ・・・ 第1方向測定手段
131a・・・ 第1方向投光部
131b・・・ 第1方向受光部
132 ・・・ 第2方向測定手段
132a・・・ 第2方向投光部
132b・・・ 第2方向受光部
140 ・・・ 冷却装置
150 ・・・ ファイバ張力測定器
160 ・・・ 樹脂コーティングダイス
170 ・・・ UV硬化炉
180 ・・・ 直下ローラー
190 ・・・ コントローラー
191 ・・・ 振動周波数算出手段
192 ・・・ ガラス母材位置制御手段
B ・・・ ボビン
G ・・・ ガラス母材
Gd ・・・ ダミー棒
G1 ・・・ ガラスファイバ
G2 ・・・ 樹脂塗布済みファイバ
G3 ・・・ 光ファイバ
P1 ・・・ ガラス母材の先端(紡糸開始点)
P2 ・・・ 樹脂コーティングダイスの入口
X ・・・ 第1の方向
Y ・・・ 第2の方向
L ・・・ レーザー光