(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027064
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】燃焼補助材とその使用法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/32 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
C10L1/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022139553
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】598012050
【氏名又は名称】澤山 裕行
(71)【出願人】
【識別番号】591011720
【氏名又は名称】木野 正人
(72)【発明者】
【氏名】澤山 裕行
(72)【発明者】
【氏名】木野 正人
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013DC08
(57)【要約】
【課題】燃焼機関に於いて、水・燃料エマルジョンの水の割合を増加させると燃焼しなくなる。水の割合が少ないと燃費削減効果やCO2削減効果が低くなる。
【解決手段】燃焼機関の燃焼室に、水中で飽和状態まで増殖させた微生物やその死骸の混合液を液体燃料と混合して供給することで水の割合を増やしたエマルジョン燃料でも着火性や燃焼性が改善されて燃焼が継続する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥直径が0.1μm以上で100μm以下の可燃性微小粒子(以下、「粉塵」と言う。)を液体に混合(以下、「混合液」と言う。)して燃焼室で燃焼させることを特徴とする燃焼補助材とその使用法。
【請求項2】
粉塵が微生物または該微生物の死骸(以下、「微生物」と言う。)であり、液体の主成分が水であり、その混合液体(以下、「微生物水」と言う。)を燃料と共に燃焼室に供給して燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の燃焼補助材とその使用法。
【請求項3】
微生物の構成成分が脂質を含むことを特徴とする請求項2に記載の燃焼補助材とその使用法。
【請求項4】
燃焼室に供給する方法が、混合液または微生物水と可燃性液体燃料を混合した混合燃料(以下「エマルジョン」と言う。)を燃焼させることを特徴とする請求項1、2または3に記載の燃焼補助材の使用法。
【請求項5】
燃焼室に供給する方法が、混合液または微生物水を燃焼機関の吸気に噴霧して混合することを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の燃焼補助材の使用法。
【請求項6】
燃焼室が内燃機関の燃焼室であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の燃焼補助材の使用法。
【請求項7】
燃焼室がボイラーまたはストーブの燃焼室であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6に記載の燃焼補助材の使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水混合燃料の燃焼安定化や着火性を補助する技術
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料に界面活性剤と水を加えて燃焼させることで、燃焼温度は低下するが混合した水の水蒸気圧で膨張圧力を維持することで燃料を節約して燃費削減及び炭素排出削減を行う技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、工場排ガス中の粉塵を燃焼させる技術が開示されている。しかし、粉塵を着火性改善や燃焼継続補助に使用した文献は見つからなかった。
水混合燃料(以下「エマルジョン」)で水の割合を増やすと気化熱によって燃焼温度が低下して着火できなかったり、上手く燃焼が継続できなくなる。
そこで、粉塵爆発の原理を利用して粉塵を燃焼補助に使用することを発案した。しかし新たな課題として、燃焼室に粉塵を届ける方法や粒子径を100μm以下にして、しかも安価で表面が親水性で容易に沈殿せず高温で燃焼性ガスが発生するものが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の手段では、乾燥直径が0.1μm以上で100μm以下の可燃性微小粒子(以下「粉塵」)を液体に混合(以下「混合液」)して燃焼室で燃焼させることを特徴とする。
燃焼室内の粉塵径が大きすぎると粉塵の燃焼に時間が掛かり過ぎて粉塵の完全燃焼できなくなる。粉塵爆発時、粉塵表面から可燃性ガスが発生して高温等の着火原因によって着火するが、粒子径が大きいと粉体重量に対する表面積が小さくなり発生する可燃性ガス濃度が希薄になり着火しなくなる。更に、直径が大きすぎると混合後の貯留で沈殿したり、噴射孔に詰まったりする不具合が発生する。また、小さすぎると空気中での酸化が進み、可燃性ガス発生が抑制される。また、あまりに微小過ぎると保管や製造等の扱いが困難になる。粉塵爆発の爆発範囲は、粉塵粒子径は0.1μm以上、100μm以下の範囲であることが知られている。液体が可燃性液体である場合、燃焼室内で乾燥状態となった粉塵は高温の為、表面から可燃性ガスが発生し、周囲の炎でほぼ同時に全ての粒子が着火・燃焼することで可燃度が不十分で本来なら失火する可燃性液体でも、燃焼温度を補うことができるため燃焼を継続することが可能となる。粉塵は、液体に混合して使用するため、液体との親和性を有する必要があり、粒子に親和性の無い者は粒子表面に親和性処理を行う。以降、粉塵爆発効果で燃焼する状態を「粉塵燃焼」と言う。粉塵は、例えば、蛋白、脂質等の有機固形物や炭素、リン、窒素化合物等の無機固形物であっても良い。水に対する親和性改善は、粒子表面に親水性コーティングを行い、燃料との混合には界面活性剤を使用する。また、油等の無極性液体の場合は親油性コーティングを行う。
【0006】
第二の手段では、粉塵が微生物または該微生物の死骸(以下「微生物」)であり、液体の主成分が水であり、その混合液体(以下「微生物水」)を燃料と共に燃焼室に供給して燃焼させることを特徴とする。
粉塵が微生物の場合、構成成分が蛋白を主成分とする有機物であり、粉塵のサイズ範囲の微生物には、ミドリムシやゾウリムシ等のプランクトンや酵母等の真菌や細菌等がある。ウイルスは自ら増殖できない為、生物として扱われていないが、標準的なサイズが0.1~0.3μmであり細菌やプランクトンや酵母等にも寄生して内部で多量に複製し、細胞を破壊して外部に出てくるため、ここでは「微生物」として扱う。微生物水を混入することで燃焼室内で水が蒸発し、微生物も乾燥状態となる。微生物の成分は有機物であるため、炭水化物と脂質と蛋白及び微量のミネラルであり殆んど可燃性成分である。
【0007】
第三の手段では、粉塵の構成成分が脂質を含むことを特徴とする。
粉塵の成分の内、脂質が多い微生物を用いることで燃焼カロリーを大きくすることができるため、燃焼継続補助効果や着火性改善効果が大きくなる。即ち、微生物量が少なくても粉塵燃焼効果により水混合による燃焼温度低下を補う事ができる。
【0008】
第四の手段では、燃焼室に供給する方法が、混合液または微生物水と可燃性液体燃料を混合した混合燃料(以下「エマルジョン」と言う。)を燃焼させることを特徴とする。
液体燃料にはガソリン、軽油、灯油、重油、アルコール、石炭などの固体燃料を液化した液化燃料、植物性油や動物性油から抽出した脂肪酸等がある。燃料に水を混合してエマルジョンにして燃焼室で燃焼させることで燃焼温度を低くし、排ガス温度も低下する。その低下分のエネルギーを節約することができる。粉塵を混入することで水の割合を増やしても燃焼できるため、より大きな燃費節減が可能となる。燃焼前にエマルジョンとすることで水用の噴射ノズルを必要とせず、燃焼機構を変更せずに燃焼が可能となる。
【0009】
第五の手段では、燃焼室に供給する方法が、混合液または微生物水を燃焼機関の吸気に噴霧して混合することを特徴とする。
混合液または微生物水を吸気に噴霧混合することで、混合液または微生物水噴霧の為の噴霧ノズルは必要となるが、エマルジョン生成工程が不要となるため界面活性剤の添加が不要となる。また、噴霧ノズルで添加するため、燃焼状態に合わせて噴霧量の調節を行うことが可能となり常に安定した燃焼を確保できるため、例えば自動車エンジン等の如く出力が大きく変化する燃焼機関には好都合である。
【0010】
第六の手段では、燃焼室が内燃機関の燃焼室であることを特徴とする。
内燃機関に混合液や微生物水を噴霧やエマルジョンとして燃焼させることで水の分だけ気化熱で燃焼温度は低下するが、2原子分子の窒素の温度低下に伴う圧力低下分を3原子分子の燃焼ガス=二酸化炭素+水蒸気、に加えて水が蒸発して水蒸気が発生してガス量を増加させる為、温度低下に伴う圧力低下分を補うことができる。即ち、燃焼が可能な限りエネルギー変換効率を改善して排熱温度を低下させた分だけほぼ燃費削減が可能となる。
【0011】
第七の手段では、燃焼室がボイラーまたはストーブの燃焼室であることを特徴とする。 ボイラーやストーブでは燃焼室に水を加えても内燃機関の様に熱エネルギーを運動エネルギーに変換していないため変換効率を改善することはできないが、排ガス温度がより高温になれば排ガスの赤外線放射のピーク波長が短くなる。排ガス温度が20℃の場合、放射ピーク波長は約14~15μm、100℃の場合は約11~12μm、二酸化炭素と水蒸気は温室効果ガスである。温室効果ガスを含む大気は凡そ8μm~13μmの赤外線は透過するため排ガス温度が高くなると二酸化炭素や水蒸気を含む空気に赤外線は吸収されにくくなり、暖房効果が低下する。
即ち、ボイラーやストーブの排ガス温度を低下させることで温室効果を上げて暖房効率を向上させることができる。更に、混合液や微生物水を加えることでより多くの水を燃焼室に入れる事ができるため、水蒸気発生量が多くなり、温室効果が更に促進され暖房効果を高める事ができる。
【発明の効果】
【0012】
粉塵を液体に混合して燃焼室に供給することで制御が容易になる。また、混合液や微生物水を燃焼室で燃料と共に燃焼させることで粉塵燃焼効果により、粉塵の燃焼熱が加わることで水を混入して燃焼温度が低下した分の内、燃焼継続に必要な熱を補充することができ、燃焼を安定させ、より多くの水を燃焼室に供給することができるため、水蒸気を発生させて排ガス温度を低下させ、内燃機関ではエネルギー変換効率を高め、ボイラー等では温室効果を向上させて燃費削減と排出炭素削減を実現できる。また、後述の灯油ボイラーでの実験では表1の如く、粉塵としての微生物を含まないエマルジョンでは、灯油と水の割合が7:3が安定して燃焼する限界であったが、微生物を混入したエマルジョンでは、該割合が5:5でも燃焼が安定して継続した。細菌は培養条件で栄養や環境条件に合ったものだけが大量に増殖するため、粒径が比較的揃っている事やタンパク質で構成される細胞膜が界面活性があることや水に非常に馴染みやすいことや製造が容易である事で、混合液としての理想的な微生物水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】 本発明の実施形態1の一例を説明する側面説明図
【
図2】 本発明の実施形態2の一例を説明する側面説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実験〕
灯油ボイラーに表1に記載のエマルジョンを燃焼させて燃焼の状態を観察した。
微生物水の調製は、真水にミネラル及びビタミンと有機物を溶かした水溶液を夏季は約30℃の外気で、冬季は湯を加えて25~35℃の栄養溶液中に好気性菌、通性嫌気性菌、酵母等を含む生ゴミ分解菌の菌体をオガクズに保持した担体を入れて4~5日培養し、菌で飽和状態となったものから上澄を採取し、1種又は5種Aの粗い濾紙で濾して清水を得る。この清水を60℃で30分間加熱して殺菌し、微生物水を得る。殺菌することで成分変化を防止できる。60℃の比較的低温で処理することで蛋白の変成度合いを小さくして微生物の構造の変形を最小にする。但し、加熱殺菌工程は必ずしも必要な工程ではない為、ボイラー用等、使用目的や使用環境によっては省略しても良い。希釈微生物水は、微生物水を50倍容積に希釈したものに界面活性剤を濃度が1容積%となるように加えたものである。表1の「水」は単に水に界面活性剤を1容積%となるように加えたものである。表1からエマルジョンBが燃料割合がエマルジョンCと同様の5割にも拘わらず7割のエマルジョンAと同様に燃焼性や着火性が保たれており、微生物の粉塵燃焼効果が明確に表れていることが判る。
【0015】
【0016】
〔実施形態1〕
本実施の形態を
図1で説明する。
図1は発電機用ディーゼルエンジンである。101は燃料タンク、102は混合槽、103は微生物水タンク、104は噴射ノズル、105はシリンダヘッド、106は燃焼室、107はピストン、108は希釈微生物水、109は液体燃料、Pは送液ポンプである。
希釈微生物水の調製は前述実験と同様である。
軽油(109)と希釈微生物水(108)を混合槽(102)で1対1の容積割合で混合し、エマルジョンとする。ピストン(107)で圧縮して燃焼室内を発火点以上の温度にした後、送液ポンプ(P)でエマルジョンを燃焼室(106)にノズル(104)で噴射して燃焼させる。
【0017】
〔実施形態2〕
本実施の形態を
図2で説明する。
図2は自動車用ディーゼルエンジン。201は燃料タンク、202は微生物水タンク、203及び204は噴射ノズル、205はシリンダヘッド、206は燃焼室、207はピストン、208は希釈微生物水、209は液体燃料、Pは送液ポンプである。
希釈微生物水の調製は前述実験と同じである。エマルジョンの濃度については高出力時には液体燃料(209)と希釈微生物水(208)の割合が7対3となる様に送液ポンプ(P)を制御し、低負荷時には該割合が1対1となる様に制御する。
負荷の大きさによって7:3~1:1の間で比率を可変調整する。吸気への希釈微生物水噴射は、
図2では燃焼室に噴射しているが、吸気口から燃焼室までの区間であれば、どの位置で噴霧しても良い。
【0018】
〔その他の形態〕
栽培用のハウスに設けた暖房用灯油ボイラーの吸気口に前述希釈微生物水から界面活性剤を除いた混合水を噴霧混入した(図示せず)。
噴霧量は燃焼状態を観察しながら燃焼が安定していることを確認しながら噴霧量を増加させ、燃焼の安定性が悪くなる手前の噴霧量で噴霧した。
ハウス内の湿度が上昇して温室効果が増加して、更に排気ガスの温度が適度に低下して排ガスからの赤外線波長域が水蒸気に吸収される波長域まで長くなることで更に温室効果を上昇させ、燃料消費量を3~4割削減することができた。また、ハウス内での加湿器による強制加湿では作物に水滴が付着して商品価値を損なう惧れがあるが、本方式では、作物への水滴付着は全く無かった。
【0019】
また粉塵に主成分が炭素の石炭微粉末を使用することも可能である(図示せず)。粒子径を数10μmとする。石炭微粉末は表面が親油性であるが、空隙が少ない物は比重が1よりも大きく、水と混合すると沈殿するため、比重の小さい液状植物油と界面活性剤とバイオエタノールと水を混合してエマルジョンを生成し、点火式エンジンの燃焼室で燃焼させることが可能である。また、このエマルジョン貯槽には撹拌手段を設ける事が望ましい。
【0020】
粉塵燃焼効果を用いた水混合効果により燃費削減と炭素排出削減が可能となる。内燃機関では、エンジンやガスタービンに用いることができる。微生物の粒子径にバラつきが大きい場合は、エンジンでは比較的回転数の低い船舶用ディーゼルエンジンや回転数の変化が少ない発電用ディーゼルエンジンに向いている。船舶に用いる場合は、限外濾過を用いた淡水化装置と組み合すことで長期の航海でも淡水を得て効果を発揮することができる。また、希釈微生物水タンクには撹拌手段を設けても良い。撹拌することで水中の微生物濃度が一定となり、しかも長時間でも沈殿の惧れが無い。小さい粒子径で、しかも粒子径のバラつきを抑制するには、微生物種を特定の種に絞り培養することで実現できる。今回実験に使用した菌体は複数の菌種を混合したものだが、例えば脂質を多く蓄えたミドリムシのみを用いることもできる。また、乾燥して微粉末状にした菌体を水に混合しても良い。
【符号の説明】
【0021】
101、201 燃料タンク 106、206 燃焼室
102 混合槽 107、207 ピストン
103、202 微生物水タンク 108、208 希釈微生物水
104、203、204 噴射ノズル 109、209 液体燃料
105、205 シリンダヘッド P 送液ポンプ