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  • 特開-高比表面積消石灰の製造方法及び装置 図1
  • 特開-高比表面積消石灰の製造方法及び装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027066
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】高比表面積消石灰の製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/02 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
C01F11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022140354
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】522349340
【氏名又は名称】矢野 亮
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亮
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB02
4G076BA13
4G076CA28
4G076CA40
(57)【要約】
【課題】比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰を製造する方法。
【解決手段】生石灰に水を加えて消化・熟成させることにより消石灰を製造するシステムにおいて、ナノバブル(またはマイクロバブル)を含有した水を生石灰に加えることにより、生石灰の反応熱で加熱されたナノバブル(またはマイクロバブル)の気泡が消石灰の細孔を発達させることを利用した消石灰の製造方法を提供する。この消石灰は、高いBET比表面積を有するとともに、CODはJIS特号消石灰と同程度である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状もしくは粒状の生石灰と水を接触させ、水和反応により消石灰を生成するプロセスにおいて、前記水として、ナノバブルまたはマイクロバブルを含有したナノバブル水またはマイクロバブル水を使用することにより、比表面積が20m/g以上の高比表面積消石灰を生成することを特徴とする高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項2】
前記プロセスにおいて、生石灰の消化に加える前記ナノバブル水または前記マイクロバブル水の量は、消化に必要な理論量の0.5~5質量倍であることを特徴とする請求項1に記載の高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項3】
前記プロセスにおいて、前記ナノバブル水または前記マイクロバブル水に含有させるナノバブルまたはマイクロバブルの密度は、100個/ml(ミリリットル)以上、100億個/ml以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項4】
前記プロセスにおいて、前記ナノバブル水または前記マイクロバブル水に含有させるナノバブルまたはマイクロバブルの平均気泡径は、1nm(ナノメートル)以上、500μm(マイクロメートル)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項5】
前記プロセスにおいて、前記ナノバブルまたは前記マイクロバブルを形成するガスは、消化反応に大きな影響を与えない空気、酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどのガスを使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項6】
前記プロセスにおいて、前記ナノバブルまたは前記マイクロバブルを形成する前記ガスの分子量は、4以上、130以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高比表面積消石灰の製造方法。
【請求項7】
粉末状もしくは粒状の生石灰と水とを接触させ、水和反応により消石灰を生成するプロセスにおいて、前記水にナノバブルまたはマイクロバブルを含有させるために、ナノバブル供給装置またはマイクロバブル供給装置と、これに接続された消化水供給装置とを備え、前記水に含有させるナノバブルまたはマイクロバブルの密度、平均気泡径、ガス成分を任意に制御することを特徴とする高比表面積消石灰の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消石灰の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生石灰と水とを反応(消化)させて消石灰を製造するプロセスにおいて、水に添加物を加えることにより、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰を製造する場合がある(特許文献1参照)。
【0003】
この他、生石灰と水とを反応(消化)させる装置(消化機)に対して、反応遅延剤を加えることにより、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰を製造する場合もある(特許文献2参照)。
【0004】
しかし、これらの製造方法には、以下のような問題があった。
(1)添加物や反応遅延剤を使用して製造された消石灰は、例えば酸性ガス処理用に利用する時に有害ガスを発生させる場合がある。
(2)添加物や反応遅延剤を使用して製造された消石灰に、有機化合物等が残存していると、CODが増加する問題が生じており、例えば酸性ガス処理用に利用した後で集塵機によりばいじんと消石灰を回収して最終処分場へ廃棄する場合は、最終処分場の浸出水のCODが増加する問題にまで及んでいる。
(3)添加物や反応遅延剤を使用することで、添加物や反応遅延剤の費用に加えて製造工程が複雑になることから、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰の製造コストおよび販売価格は上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-278435号公報
【特許文献2】特許第3860630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、添加物や反応遅延剤を使用せず、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰(高比表面積消石灰)を安価に製造することにある。
【0007】
また、本発明が解決しようとする課題は、高比表面積消石灰のCODがJIS特号消石灰と同程度であることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は上記課題を解決するため、消化に使用する水をナノバブル水又はマイクロバブル水に代替することにより、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰を製造できることを考案した。具体的には次のとおりである。
【0009】
粉末状もしくは粒状の生石灰と水を接触させ、水和反応により消石灰を生成するプロセスにおいて、前記水として、ナノバブルまたはマイクロバブルを含有したナノバブル水またはマイクロバブル水を使用することにより、比表面積が20m/g以上の高比表面積消石灰を製造する。
なお、本発明において「ナノバブル」とは、直径1nm(ナノメートル)以上、1μm(マイクロメートル)未満と定める微細な気泡のことである。
また、本発明において「マイクロバブル」とは、直径1μm以上、500μm以下と定める微細な気泡のことである。
ここで、本発明において「バブル水」とは、前記ナノバブルまたは前記マイクロバブルを含有したナノバブル水またはマイクロバブル水の総称(呼称)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消化に使用する水にバブル水を利用することにより、水和反応による変化中の消石灰内部でバブル(気泡)が複数の経路に拡散することによって、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰を製造できる。また、バブルを形成する気体に空気や窒素などを適用することにより、消石灰のCODへの影響を抑制することができるため、前述製造方法で得られた高比表面積消石灰のCODがJIS特号消石灰と同程度な製品として製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来例において、水を使用して生石灰から消石灰を製造するプロセスフロー。
図2】実施形態において、バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー。一例として、バブル水を直接的に水和反応工程に供給するフロー。
図3】実施形態において、バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー。一例として、バブル水を消化水に混合させて水和反応工程に供給するフロー。
図4】実施形態において、バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー 一例として、気体と消化水を混合させたバブル水を水和反応工程に供給するフロー。
図5】従来例において、消石灰内部の水蒸気が拡散する様子(イメージ)。
図6】実施形態において、消石灰内部の水蒸気とバブルが拡散する様子(イメージ)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
図2に、本発明の一実施形態であるバブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフローBを概念的に示している。
生石灰1に対して消化に必要な理論量以上のバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた消化水)5を加えることにより、図1に示す従来の消石灰を製造するプロセスフローAと同じく水和反応と熟成および乾燥工程31を経て、高比表面積消石灰41を製造する。
【0013】
ここで、本発明の特徴の一つとして、高比表面積消石灰を製造するためのプロセスフローBと従来の消石灰を製造するプロセスフローAの違いは、バブル水5と水2の違いだけである点が挙げられる。この特徴は、比表面積が広く細孔容積が大きい消石灰(高比表面積消石灰)を安価に製造するための大きな利点である。
以下に、高比表面積消石灰41を製造するための具体的な実施形態を説明する。
【0014】
生石灰1と消化に必要な理論量以上のバブル水5を接触させる方法は、従来の消石灰を製造するプロセスと同じであっても、高比表面積消石灰41は製造される。また、バブル水5と水2を個別に計量して、個別に接触させる方法であっても差し支えない。
【0015】
生石灰1と消化に必要な理論量以上のバブル水5を接触させて水和反応(消化)・熟成・乾燥する方法は、従来の消石灰を製造するプロセスと同じであっても、高比表面積消石灰41は製造される。また、水和反応(消化)・熟成・乾燥において、各々既存の操作方法によって各々製造条件を任意に調整しても差し支えない。
【0016】
ここで、消化に必要なバブル水に対して、発明が解決しようとする課題に大きな影響を与えない量の添加物や反応遅延剤を含ませることで、高比表面積消石灰41を製造しても差し支えない。
【0017】
生石灰1に対して消化に必要な理論量以上のバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた消化水)5を加える量は、消化に必要な理論量の1~5質量倍程度とすることにより、高比表面積消石灰41を製造する。
【0018】
生石灰1に対して消化に必要な理論量以上のバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた消化水)5のバブル密度は、100個/ml(ミリリットル)以上から100億個/ml程度とすることにより、高比表面積消石灰41を製造する。
【0019】
生石灰1に対して消化に必要な理論量以上のバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた消化水)5の平均気泡径は、1nm(ナノメートル)以上から500μm(マイクロメートル)程度とすることにより、高比表面積消石灰41を製造する。
【0020】
バブル水に含有させたナノバブルまたはマイクロバブルを形成するガスは、生石灰の消化反応や消石灰のCODに大きな影響を与えない物質(空気、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)を用いることにより、CODがJIS特号消石灰と同程度である高比表面積消石灰41を製造する。
【0021】
ここで、生石灰の水和反応(消化)・熟成・乾燥において、図1の水2を用いる場合と図2のバブル水5を用いる場合とで、変化中の消石灰内部で発達する細孔の形成過程の違いを説明する。
【0022】
生石灰の水和反応(消化)・熟成・乾燥において、図1の水2を用いる場合に変化中の消石灰内部で細孔を発達させる物質は、図5に示す水蒸気2’のみである。一方、図2のバブル水5を用いる場合に消石灰内部で細孔を発達させる物質は、図6に示すとおり水蒸気2’だけでなくバブルに含まれていた気体5‘が加わる。この作用により、図6の細孔(図示省略)は図5の細孔に比べてより複数かつ複雑な経路が形成されて、高比表面積消石灰が製造される。
【0023】
図2のバブル水5を用いる場合のバブルを形成している物質(気体)は、農業や漁業で一般的に用いられている空気、二酸化炭素などの多原子分子、酸素や窒素などの二原子分子、ヘリウムやネオンなど分子量が小さいガスから分子量の大きいガスなど、消石灰のCODに大きな影響を与えない多数の物質から選択できる。
【0024】
これら多数の物質の中から単独または複数の気体を選択することで、バブル水に含まれるバブル(気泡)は多種多様に構成することができる。
【0025】
以上の作用や方法により、消石灰に求められる細孔をより高度に形成することができる。
【0026】
<実施形態2>
図3に、本発明の他の実施形態であるバブル水供給装置5Mを加えて、生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフローCを概念的に示している。なお、図3において先の実施形態(実施形態1)と対応する構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0027】
図3に表れているようにバブル水供給装置5Mは、消化に必要なバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた水)の生成装置であり、本装置はナノバブルまたはマイクロバブルの密度(個/ml)や平均気泡径(nmまたはμm)を任意な条件で生成できる。
【0028】
また、バブル水供給装置5Mは、ナノバブル水とマイクロバブル水を個別または単独に生成することができる。さらにナノバブルとマイクロバブルとを任意な比率で混在させたバブル水を生成することもできる。
【0029】
すなわち、バブル水供給装置5Mにより、任意な条件(ナノバブルまたはマイクロバブルの単独または組み合わせ)でバブル水を生成した後、公知の消化水供給装置2Mの構成機器や消化水供給装置2Mの供給経路で水とバブル水とを混合する。
【0030】
バブル水に含有させたナノバブルまたはマイクロバブルを形成するガスは、生石灰の消化反応や消石灰のCODに大きな影響を与えない物質(空気、酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴンなど)を用いる。
【0031】
前述工程を経て生石灰の消化に必要となる所定のバブル水5を生産し、水和反応と熟成および乾燥工程31へ供給することで、CODがJIS特号消石灰と同程度である高比表面積消石灰41を製造する。
【0032】
<実施形態3>
図4に、本発明の他の実施形態であるバブル水を発生させる混合機5GMとバブルを形成するガス5Gを加えて、生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフローDを概念的に示している。なお、図4において先の実施形態(実施形態1及び実施形態2)と対応する構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0033】
図4に表れているようにバブル水を発生させる混合機5GMは、消化に必要なバブル水(ナノバブルまたはマイクロバブルを含有させた水)の発生装置であり、本装置はナノバブルまたはマイクロバブルの密度(個/ml)や平均気泡径(nmまたはμm)を任意な条件で生成できる。
【0034】
また、バブル水を発生させる混合機5GMは、単独または複数台で構成することにより、ナノバブル水とマイクロバブル水を個別または単独に生成することができる。さらにナノバブルとマイクロバブルとを任意な比率で混在させたバブル水を生成することもできる。
【0035】
すなわち、バブル水を発生させる混合機5GMにより、任意な条件(ナノバブルまたはマイクロバブルの単独または組み合わせ)でバブル水を生成する機能を、消化水供給装置2Mから水が供給される経路上に組み込むことで、水をバブル水5に変換する。
【0036】
また、バブル水を発生させる混合機5GMでナノバブルまたはマイクロバブルを形成するために必要となるガスは、気体供給装置5Gから供給される。
【0037】
気体供給装置5Gで供給するガスは、生石灰の消化反応や消石灰のCODに大きな影響を与えない物質(空気、酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴンなど)を用いる。
【0038】
気体供給装置5Gからの供給方式は、圧縮機やガスボンベまたはPSA(Pressure Swing Adsorption)など、いずれであっても差し支えない。
【0039】
前述工程を経て生石灰の消化に必要となる所定のバブル水5を生産し、水和反応と熟成および乾燥工程31へ供給することで、CODがJIS特号消石灰と同程度である高比表面積消石灰41を製造する。
【実施例0040】
本発明の実施例を表1に示す。
BET比表面積は推定値であり、CODは実測値である。また、比較例として、従来の製造方法によるJIS特号消石灰のBET比表面積とCODを文献から引用し記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すとおり、実施例は比較例に比べてBET比表面積が高くなると推定され、このことより、実施例は比較例に比べて酸性ガスの除去性能が高くなることが推定される。また、実施例は、JIS特号消石灰と同程度である。
【符号の説明】
【0043】
A 水を使用して生石灰から消石灰を製造するプロセスフロー
B バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー例1
C バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー例2
D バブル水を使用して生石灰から高比表面積消石灰を製造するプロセスフロー例3
1 生石灰および生石灰の製造工程
2 水(消化水)および水の供給工程
2‘ 水和反応によって発生する水蒸気の流れ
2M 水(消化水)を供給する機械装置
3 水による水和反応(消化)および同反応により消石灰への変化を担う工程
31 バブル水による水和反応(消化)および同反応により消石灰への変化を担う工程
4 消石灰および消石灰の整形工程
4‘ 変化中の消石灰
41 高比表面積消石灰および高比表面積消石灰の整形工程
41‘ 変化中の高比表面積消石灰
5 バブル水(消化水)およびバブル水の供給工程
5‘ 水和反応によって発生するバブルガスの流れ
5M バブル水(消化水)を供給する機械装置
5G バブル(気泡)を形成するために供給する気体および気体の供給工程
5GM 水と気体を混合してバブル水(消化水)を生成し供給する機械装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6