(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027099
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ピリドインドール環を2つ有する化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
C07D 519/00 20060101AFI20240221BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240221BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20240221BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240221BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20240221BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20240221BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240221BHJP
【FI】
C07D519/00 311
C07D519/00 CSP
H10K50/10
H10K50/16
H10K50/17
H10K50/18
H10K59/00
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130369
(22)【出願日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022129610
(32)【優先日】2022-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】富樫 和法
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
(72)【発明者】
【氏名】市川 結
【テーマコード(参考)】
3K107
4C072
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC11
3K107CC14
3K107DD50
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
4C072MM02
4C072UU10
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、低消費電力の有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として、電子の注入・輸送性能に優れた特性を有する有機化合物を提供し、さらにこの化合物を用いて、低消費電力の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、ピリドインドール環を2つ有する化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、ピリドインドール環を2つ有する化合物。
【化1】
式中、
X
1~X
4は、同一でも異なってもよく、CR
9またはNを示す。
Y
1~Y
4は、同一でも異なってもよく、CR
10またはNを示す。但し、Y
1~Y
4のうち、1つはNを示す。
R
1~R
10は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R
1~R
5のうち、1つはシアノ基を示す。
【請求項2】
下記一般式(2)で表される、請求項1記載のピリドインドール環を2つ有する化合物。
【化2】
式中、
X
1~X
4は、同一でも異なってもよく、CR
9またはNを示す。
Y
1~Y
4は、同一でも異なってもよく、CR
10またはNを示す。但し、Y
1~Y
4のうち、1つはNを示す。
R
1~R
10は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R
1~R
5のうち、1つはシアノ基を示す。
【請求項3】
下記一般式(3)で表される、請求項1または2記載のピリドインドール環を2つ有する化合物。
【化3】
式中、
X
1~X
4は、同一でも異なってもよく、CR
9またはNを示す。
R
1~R
9は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R
1~R
5のうち、1つはシアノ基を示す。
【請求項4】
一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、請求項1または請求項2に記載の化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記有機層が電子輸送層である、請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機層が正孔阻止層である、請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記有機層が電子注入層である、請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記有機層が正孔注入層である、請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記有機層が発光層である、請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子に適した化合物と発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発することにより有機材料を用いた有機EL素子を実用的なものにした。彼らは電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層し、両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m2以上の高輝度が得られるようになった(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機エレクトロルミネッセンス素子の実用化のために多くの改良がなされ、各種の役割をさらに細分化して、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を設けた電界発光素子によって高効率と耐久性が達成されるようになってきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また発光効率の更なる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられ、燐光発光体の利用が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
そして、熱活性化遅延蛍光(TADF)による発光を利用する素子も開発されている。2011年に九州大学の安達らは、熱活性化遅延蛍光材料を用いた素子によって5.3%の外部量子効率を実現させており(例えば、非特許文献3参照)、2012年には19%を超える外部量子効率を実現させた(例えば、非特許文献4参照)。
【0007】
発光層は、一般的にホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、蛍光体や燐光発光体をドープして作製することもできる。有機エレクトロルミネッセンス素子における有機材料の選択は、その素子の効率や耐久性など諸特性に大きな影響を与える。
【0008】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層中での効率的な電荷再結合を実現するため、電子注入・輸送性が良い電子輸送材料が求められている。素子の発光効率向上を図るため、より電子親和力と仕事関数が大きい電子輸送材料が求められている。
【0009】
電子親和力が大きいと、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が小さくなり、電子注入効率が良くなることで、素子の発光効率向上が期待できる。
【0010】
仕事関数が大きいと、一部の正孔が発光層を通り抜けてしまうことを防ぐことが可能となり、その結果、発光層内での電荷再結合の確率が向上し、素子の発光効率向上が期待できる。
【0011】
代表的な発光材料であるトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以後、Alq3と略称する)は電子輸送材料としても一般的に用いられるが、仕事関数が5.7eVと小さく正孔阻止性能があるとは言えない。
【0012】
正孔の一部が発光層を通り抜けてしまうことを防ぎ、発光層での電荷再結合の確率を向上させる方策には、正孔阻止層を挿入する方法がある。正孔阻止材料としてはこれまでに、トリアゾール(以後、TAZと略称する)誘導体(例えば、特許文献3参照)やバソクプロイン(以後、BCPと略称する)などが提案されている。
【0013】
TAZは仕事関数が6.3eVと大きく正孔阻止能力が高いものの、電子親和力が2.7eVと小さいため、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が大きく、素子の効率向上のためには十分とは言えない。
【0014】
さらに、電子輸送性が低いことがTAZにおける大きな課題であり、より電子輸送性の高い電子輸送材料と組み合わせて、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製することが必要であった(例えば、非特許文献5参照)。
【0015】
また、BCPもTAZと同様、仕事関数が6.7eVと大きく正孔阻止能力が高いものの、電子親和力が2.8eVと小さいため、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が大きく、素子の効率向上のためには十分とは言えない。
【0016】
電子注入・輸送性及び正孔阻止能力が高い電子輸送材料として、2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール)(以下、TPBiと略称する)が提案されている。(特許文献4)
【0017】
TPBiは仕事関数が6.2eVと大きく正孔阻止能力が高いものの、電子親和力が2.7eVと小さいため、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が大きく、素子の効率向上のためには十分とは言えない。
【0018】
いずれの材料も正孔阻止能力が高いものの、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が大きく、有機エレクトロルミネッセンス素子の効率向上のためには十分とは言えない。有機エレクトロルミネッセンス素子の素子特性を改善させるために、電子注入・輸送性能と正孔阻止能力を併せ持った有機化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8-48656号公報
【特許文献2】特許第3194657号公報
【特許文献3】特許第2734341号公報
【特許文献4】特許第3992794号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】応用物理学会第9回講習会予稿集55~61ページ(2001)
【非特許文献2】応用物理学会第9回講習会予稿集23~31ページ(2001)
【非特許文献3】Appl.Phys.Let.,98,083302(2011)
【非特許文献4】Nature,492,234(2012)
【非特許文献5】応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会会誌11巻1号13~19ページ(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、低消費電力の有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として、電子の注入・輸送性能に優れた特性を有する有機化合物を提供し、さらにこの化合物を用いて、低消費電力の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に適した有機化合物の物理的な特性としては、(1)電子の注入・輸送特性が良いこと、(2)正孔阻止性が高いことをあげることができる。また、本発明に適した素子の物理的な特性としては、発光効率が高いことをあげることができる。
【0023】
そこで本発明者らは上記の目的を達成するために、電子吸引基であるシアノ基を分子末端に配置し、電子吸引性の大きいピリドインドール環を2つ有する化合物を設計し、該化合物を用いて種々の有機エレクトロルミネッセンス素子を試作し、素子の特性評価を鋭意行なった結果、本発明を完成するに至った。具体的には以下に示す。
【0024】
1)下記一般式(1)で表される、ピリドインドール環を2つ有する化合物。
【0025】
【0026】
式中、
X1~X4は、同一でも異なってもよく、CR9またはNを示す。
Y1~Y4は、同一でも異なってもよく、CR10またはNを示す。但し、Y1~Y4のうち、1つはNを示す。
R1~R10は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R1~R5のうち、1つ以上はシアノ基を示す。
【0027】
2)下記一般式(2)で表される、ピリドインドール環を2つ有する1)記載の化合物。
【0028】
【0029】
X1~X4は、同一でも異なってもよく、CR9またはNを示す。
Y1~Y4は、同一でも異なってもよく、CR10またはNを示す。但し、Y1~Y4のうち、1つはNを示す。
R1~R10は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R1~R5のうち、1つ以上はシアノ基を示す。
【0030】
3)下記一般式(3)で表される、ピリドインドール環を2つ有する1)または2)記載の化合物。
【0031】
【0032】
X1~X4は、同一でも異なってもよく、CR9またはNを示す。
R1~R9は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。但し、R1~R5のうち、1つ以上はシアノ基を示す。
【0033】
4)一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記1)~3)のいずれか1に記載の化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。
【0034】
5)前記有機層が電子輸送層である、上記4)記載の有機EL素子。
【0035】
6)前記有機層が正孔阻止層である、上記4)記載の有機EL素子。
【0036】
7)前記有機層が電子注入層である、上記4)記載の有機EL素子。
【0037】
8)前記有機層が正孔注入層である、上記4)記載の有機EL素。
【0038】
9)前記有機層が発光層である、上記4)記載の有機EL素子。
【発明の効果】
【0039】
一般式(1)から(3)で表される化合物は、電子親和力が大きいため、特に電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が小さい。また、仕事関数も大きく、正孔阻止性が高いため、有機EL素子の正孔阻止層、電子輸送層、あるいは発光層の構成材料として有用である。本発明の化合物を用いて作製した有機EL素子は発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施例1の化合物(化合物1)の
1H-NMRチャート図である。
【
図2】実施例2の化合物(化合物5)の
1H-NMRチャート図である。
【
図3】実施例5~実施例8、比較例1の有機EL素子構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される、ハロゲン原子しては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげることができる。
【0042】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される、置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基および置換されていてもよい芳香族複素環基としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、およびカルボリニル基などをあげることができる。
【0043】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基および置換されていてもよい芳香族複素環基における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基、n-ヘプチル基、イソへプチル基、ネオへプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基などの炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基;ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基;スチリル基、ナフチルビニル基などのアリールビニル基;アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基のような基をあげることができ、これらの置換基は、さらに前記例示した置換基が置換していても良い。また、これらの置換基同士が単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0044】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、および「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、および「炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基などをあげることができる。
【0045】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される「置換基を有する炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有する炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、および「置換基を有する炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに、前記例示した置換基が置換していても良い。また、これらの置換基同士が単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0046】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」および「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」および「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基などをあげることができ、これらの基同士が単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0047】
一般式(1)~(3)中のR1~R10で表される「置換基を有する炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」および「置換基を有する炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」としては、上記で表される「置換基を有する炭素原子数1ないし8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有する炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、および「置換基を有する炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「置換基」に関して示したものと同様のものをあげることができ、とりうる態様も、同様のものをあげることができる。
【0048】
一般式(1)から(3)で表される化合物は新規な化合物であり、従来の電子輸送材料より電子親和力が大きいため、電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁が小さい。さらに、仕事関数も大きいため、正孔阻止性が高い。よって、本発明の化合物を用いた素子では、発光効率の向上が期待できる。
【0049】
上記より一般式(1)から(3)で表される化合物は、有機EL素子の正孔阻止層および/または電子輸送層の構成材料として使用することができる。従来の材料に比べ電子親和力が大きい材料を用いることにより、電子注入層から電子輸送層への電子注入・輸送効率が向上する。さらに仕事関数が大きい材料を用いることにより、正孔阻止性が高まり、励起子の閉じ込め効果が向上することから、発光効率が改善された有機EL素子が実現可能である。
【0050】
一般式(1)から(3)で表される化合物は、有機EL素子の発光層の構成材料としても使用することができる。従来の材料に比べて電子輸送性に優れる本発明の材料を発光層のホスト材料として用い、ドーパントと呼ばれている蛍光性発光体や燐光性発光体を担持させて、発光層として用いることにより、駆動電圧が低下し、発光効率が改善された有機EL素子が実現可能である。
【0051】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、一般式(2)で表されることが好ましく、一般式(3)で表されることがより好ましい。
【0052】
本発明の一般式(3)で表される化合物において、X1はCR9またはN(窒素原子)であり、X2~X4は、水素原子であることが好ましい。
【0053】
一般式(1)から(3)で表される化合物は、新規な化合物であり、これらの化合物は例えば、ハロゲン化されたベンゼンや含窒素複素環と種々のピリドインドール環を有する化合物とをウルマンカップリング反応させることによって合成することができる。
【0054】
一般式(1)から(3)で表される化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
これらの化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭および活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行った。物性値として、仕事関数、バンドギャップの測定を行った。仕事関数は正孔阻止能力の指標となるものであり、バンドギャップは電子親和力を算出するためのパラメータである。
【0068】
また仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、理研計器製の大気中光電子分光装置AC-3型を用いて測定した。
【0069】
バンドギャップは、市販の分光光度計により測定した紫外可視吸収スペクトルより算出できる。長波長側の吸収端の波長を読み取り、下記の式に従って光のエネルギー値に換算することによって算出できる。
Eg(eV)=hc/λ
【0070】
ここで、Egは光エネルギーに換算したバンドギャップの値を、hはプランク定数(6.63×10-34Js)を、cは光速(3.00×108m/s)を、λは紫外可視吸収スペクトルの長波長側吸収端の波長(nm)を表す。そして、1eVは1.60×10-19Jとなる。
【0071】
一般的に、仕事関数(Ip)とバンドギャップ(Eg)から、下記の式に従って電子親和力(Ea)を算出できる。
Ea(eV)=Ip-Eg
【0072】
本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極からなるもの、また、陽極と正孔輸送層の間に正孔注入層を有するもの、電子輸送層と陰極の間に電子注入層を有するもの、発光層と正孔輸送層の間に電子阻止層を有するものがあげられる。これらの多層構造においては有機層を何層か省略することが可能であり、例えば基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を有する構成とすることもできる。
【0073】
前記発光層、前記正孔輸送層、前記電子輸送層においては、それぞれが2層以上積層された構造であっても良い。
【0074】
有機EL素子の陽極としては、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。有機EL素子の正孔注入層としては、銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物のほか、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体、分子中にトリフェニルアミン構造を3個以上、単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン化合物などのトリフェニルアミン3量体および4量体、ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物や塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0075】
有機EL素子の正孔輸送層としては、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)-ベンジジン(以後、TPDと略称する)やN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)-ベンジジン(以後、NPDと略称する)、N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジンなどのベンジジン誘導体、1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(以後、TAPCと略称する)、種々のトリフェニルアミン3量体および4量体などを用いることができる。これらは、単独で成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用しても良く、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としても良い。また、正孔の注入・輸送層として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOTと略称する)/ポリ(スチレンスルフォネート)(以後、PSSと略称する)などの塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0076】
また、正孔注入層あるいは正孔輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンなどをPドーピングしたものや、TPDの構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0077】
有機EL素子の電子阻止層として、4,4’,4’’-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(以後、TCTAと略称する)、9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]フルオレン、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)、2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン(以後、Ad-Czと略称する)などのカルバゾール誘導体、9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(トリフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレンに代表されるトリフェニルシリル基とトリアリールアミン構造を有する化合物などの電子阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらは、単独で成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用しても良く、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としても良い。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0078】
有機EL素子の発光層として、前記一般式(1)~(3)で表される化合物のほか、Alq3をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体、各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などを用いることができる。また、発光層をホスト材料とドーパント材料とで構成しても良く、ホスト材料として前記発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。またドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜しても良く、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用しても良く、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としても良い。
【0079】
また、発光材料として燐光性の発光材料を使用することも可能である。燐光性の発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光性発光体を使用することができる。Ir(ppy)3などの緑色の燐光性発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp2Ir(acac)などの赤色の燐光性発光体などが用いられ、このときのホスト材料としては正孔注入・輸送性のホスト材料として、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)やTCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などを用いることができる。電子輸送性のホスト材料として、p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)や2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール)(以後、TPBiと略称する)などを用いることができる。
【0080】
燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0081】
また、発光材料としてPIC-TRZ、CC2TAなどのトリアジン誘導体、PXZ-TRZなどのフェノキサジン誘導体、4CzIPNなどカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体の遅延蛍光を放射する材料を使用することも可能である。(例えば、非特許文献3、4参照)
【0082】
これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0083】
有機EL素子の正孔阻止層として、前記一般式(1)~(3)で表される化合物のほか、バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体や、ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム(以後、BAlqと略称する)などのキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体など、正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらの材料は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。これらは、単独で成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用しても良く、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としても良い。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0084】
有機EL素子の電子輸送層として、前記一般式(1)~(3)で表される化合物のほか、Alq3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種金属錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用しても良く、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としても良い。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0085】
有機EL素子の電子注入層として、前記一般式(1)~(3)で表される化合物のほか、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などを用いることができるが、電子輸送層と陰極の好ましい選択においては、これを省略することができる。
【0086】
さらに、電子注入層あるいは電子輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらにセシウムなどの金属やリチウムキノリンなどの金属錯体をN型ドーピングしたものを用いることができる。
【0087】
有機EL素子の陰極として、アルミニウムのような仕事関数の小さい電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の小さい合金が電極材料として用いられる。
【0088】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0089】
[合成実施例1]
<5,5’-(1,3-フェニレン)ビス[8-(4-シアノフェニル)-5H-ピリド[4,3-b]インドール](化合物1)の合成
窒素置換した反応容器に、8-ブロモ-5H-ピリド[4,3-b]インドール26.1g、4-シアノフェニルボロン酸17.1g、炭酸カリウム43.8g、トルエン234ml、エタノール59ml、水59ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)2.4gを加え、撹拌しながら23時間加熱還流した。室温まで冷却して析出した固体を濾取し、クロロホルム/メタノール=5/1の混合溶媒に溶解して濾過し、濾液を濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をクロロホルム加熱分散洗浄によって精製し、4-(5H-ピリド[4,3-b]インドール-8-イル)ベンゾニトリル24.4g(収率86%)の黄色粉末を得た。
【0090】
窒素置換した反応容器に、4-(5H-ピリド[4,3-b]インドール-8-イル)ベンゾニトリル4.3g、1、3-ジヨードベンゼン7.1g、銅粉1.5g、炭酸カリウム19.9g、ジメチルスルホキシド0.7ml、ドデシルベンゼン48mlを加え、撹拌しながら180℃で12時間加熱した。60℃まで冷却してクロロホルム/メタノール=5/1の混合溶媒を加えて濾過し、濾液を濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=94/6)によって精製し、5,5’-(1,3-フェニレン)ビス[8-(シアノフェニル)-5H-ピリド[4,3-b]インドール](化合物1)3.4g(収率26%)の白色粉末を得た。
【0091】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR測定結果を
図1に示した。
【0092】
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の24個の水素シグナルを検出した。δ(ppm)=9.60(2H)、8.88(2H)、8.56-8.58(2H)、7.95-8.07(14H)、7.74-7.76(2H)、7.59-7.61(2H)。
【0093】
[合成実施例2]
<5,5’-(2,6-ピリジンジイル)ビス[8-(4-シアノフェニル)-5H-ピリド[4,3-b]インドール](化合物5)の合成
窒素置換した反応容器に、4-(5H-ピリド[4,3-b]インドール-8-イル)ベンゾニトリル21.5g、2、6-ジブロモピリジン8.5g、銅粉2.5g、炭酸カリウ33.1g、ジメチルスルホキシド1.1ml、ドデシルベンゼン80mlを加え、撹拌しながら180℃で21時間加熱した。60℃まで冷却してクロロホルム/メタノール=5/1の混合溶媒を加えて濾過し、濾液を濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=95/5)によって精製し、5,5’-(2,6-ピリジンジイル)ビス[8-(4-シアノフェニル)-5H-ピリド[4,3-b]インドール](化合物5)1.5g(収率7%)の白色粉末を得た。
【0094】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR測定結果を
図2に示した。
【0095】
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の23個の水素シグナルを検出した。δ(ppm)=9.63(2H)、8.90(2H)、8.57-8.59(2H)、8.52-8.56(1H)、8.04-8.11(8H)、7.95-7.99(6H)、7.90-7.92(2H)。
【0096】
[実施例1]
本発明の合成実施例1の化合物1を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC-3型)で仕事関数[eV]を測定した結果を表1に示す。
【0097】
[実施例2]
実施例1と同様に、合成実施例2の化合物5を用いたこと以外同様に蒸着膜を作製して仕事関数[eV]を測定した結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、本発明の化合物はTAZやBCPなどの一般的な正孔阻止層がもつ仕事関数と比較して、同等のエネルギー準位を示しており、良好な正孔阻止能力を有していることがわかる。
【0100】
[実施例3]
本発明の化合物1を用いて、石英基板の上に膜厚50nmの蒸着膜を作製して、市販の分光光度計で紫外可視吸収スペクトルを測定し、長波長側の吸収端の波長からバンドギャップを算出した。また、仕事関数[eV]とバンドギャップの値から電子親和力[eV]を算出した。結果を表2に示す。
【0101】
[実施例4]
実施例3と同様に、合成実施例2の化合物5を用いたこと以外同様に仕事関数[eV]とバンドギャップの値から電子親和力[eV]を算出した。結果を表2に示す。
【0102】
[比較例1]
実施例3と同様に、比較化合物としてAlq3を用いたこと以外同様に仕事関数[eV]とバンドギャップの値から電子親和力[eV]を算出した。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例2]
実施例3と同様に、比較化合物としてTPBiを用いたこと以外同様に仕事関数[eV]とバンドギャップの値から電子親和力[eV]を算出した。結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
このように本発明の化合物はAlq3やTPBiなどの一般的な電子輸送材料がもつバンドギャップと比較して同等の値を示しており、電子親和力は大きく、電子注入層からの良好な電子注入性を有していることがわかる。
【0106】
[実施例5]
有機EL素子は
図3に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔輸送層3、発光層4、正孔阻止層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極(アルミニウム電極)8の順に蒸着して作製した。
【0107】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UVオゾン処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔輸送層3として、TAPCを蒸着速度1.0Å/sで膜厚40nmとなるように形成した。この正孔輸送層3の上に、発光層4としてCBPと緑色燐光性発光体Ir(ppy)3を、蒸着速度比がCBP:Ir(ppy)3=94:6となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚30nmとなるように形成した。この発光層4の上に、正孔阻止層5兼電子輸送層6として合成実施例1の化合物1を蒸着速度1.0Å/sで膜厚45nmとなるように形成した。この電子輸送層6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを蒸着速度0.1Å/sで膜厚0.5nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚150nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。
【0108】
合成実施例1の化合物1を使用して作製した有機EL素子に電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光特性の測定結果を表3に示した。
【0109】
[実施例6]
実施例5における正孔阻止層5兼電子輸送層6の材料を合成実施例2の化合物5に代え、実施例5と同様の方法で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子に電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光特性の測定結果を表3に示した。
【0110】
[実施例7]
実施例5における正孔阻止層5の材料を合成実施例1の化合物1に代え、電子輸送層6の材料をTPBiに代え、実施例5と同様の方法で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子に電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光特性の測定結果を表3に示した。
【0111】
[実施例8]
実施例5における正孔阻止層5の材料を合成実施例2の化合物5に代え、電子輸送層6の材料をTPBiに代え、実施例5と同様の方法で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子に電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光特性の測定結果を表3に示した。
【0112】
[比較例3]
比較のために、実施例5における正孔阻止層5兼電子輸送層6の材料をTPBiに代え、実施例5と同様の方法で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子に電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光特性の測定結果を表3に示した。
【0113】
【0114】
表3に示す様に、電流密度1mA/cm2の電流を流したときの発光効率は、比較例3の61.7%に対して実施例5では67.4%、実施例6では68.3%、実施例7では73.5%、実施例8では71.2%といずれも高効率化した。また、電流密度1mA/cm2の電流を流したときの輝度に関しても高い値を示した。
【0115】
これらの結果から明らかなように、本発明の化合物を用いた有機EL素子は、一般的な電子輸送材料として用いられているTPBiを用いた素子と比較して、発光効率や輝度の向上を達成できることがわかった。
本発明のピリドインドール環を2つ有する化合物は、電子の注入・輸送性能が良く、バンドギャップが広いため、有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて有機EL素子を作製することにより、高い効率を得ることができると共に、耐久性を改善させることができる。例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能となった。