(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002712
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】焼酎
(51)【国際特許分類】
C12H 6/02 20190101AFI20231228BHJP
【FI】
C12H6/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102083
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠典
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115NB01
4B115NG02
4B115NG10
4B115NG14
4B115NP02
(57)【要約】
【課題】香味に優れ、香りと味とのバランスが非常に良い新規の焼酎を提供する。
【解決手段】γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で6.0~10.0mg/Lである全量イモ焼酎が提供される。γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lである、全量イモ焼酎以外の焼酎が提供される。酒類又は酒類の発酵工程生産物に添加して使用され、γ-ブチロラクトンを有効成分として含有する酒類に対する香味増強剤が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で6.0~10.0mg/Lであり、
全量イモ焼酎である、焼酎。
【請求項2】
γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lであり、
全量イモ焼酎以外の焼酎である、焼酎。
【請求項3】
前記γ-ブチロラクトン含量が4.0~10.0mg/Lであり、
前記全量イモ焼酎以外の焼酎が乙類焼酎である、請求項2に記載の焼酎。
【請求項4】
前記乙類焼酎が米麹イモ焼酎である、請求項3に記載の焼酎。
【請求項5】
前記全量イモ焼酎以外の焼酎が甲類焼酎である、請求項2に記載の焼酎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼酎に関し、さらに詳細には、γ-ブチロラクトンを特定量含有する焼酎に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の成分であるラクトン類の一部には、甘く、ココナッツ様の香気を有するものがあることが知られている(非特許文献1)。ラクトン類の一種であるγ-ブチロラクトンは、ワインに含まれている(非特許文献2)。
【0003】
特許文献1には、果汁含有製品の熱劣化臭の新規マスキング剤が開示されており、マスキング剤の有効成分としてγ-ブチロラクトンが挙げられている。特許文献2には、ビールテイスト飲料について飲み応えを増強できる新規な技術として、γ-ブチロラクトンの利用が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-170374号公報
【特許文献2】特開2021-78400号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】時友裕紀子、「果実の香気分析」、化学と生物、2017年、第55巻、第11号、p.743-749
【非特許文献2】CARLOS J. MULLER et al, "LACTONES IN WINES -- A REVIEW", American Journal of Enology and Viticulture, Vol. 24, No. 1, 1973, p.5-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、消費者の嗜好が多様化しており、焼酎についても多様な香りや味わい等が求められている。そこで本発明は、香味に優れ、香りと味とのバランスが非常に良い新規の焼酎を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の酒類と比べて香味に優れ、香りと味とのバランスが非常に良い酒類を提供すべく、鋭意検討を行った。特に、イモ焼酎が奏する香味に関わる成分について詳細に検討した。その結果、γ-ブチロラクトンが香味に強く影響していることを見出した。そして、焼酎のγ-ブチロラクトン含量を増大させることによって、当該焼酎の香味を増強でき、これにより、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質を有する焼酎が得られることを見出した。
【0008】
上記した知見に基づいて提供される本発明の一つの様相は、γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で6.0~10.0mg/Lであり、全量イモ焼酎である、焼酎である。
【0009】
本様相は、全量イモ焼酎に係るものであり、γ-ブチロラクトンを特定量含有することを特徴とする。本様相の全量イモ焼酎は、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質を有する。
【0010】
全量イモ焼酎とは、掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみであるイモ焼酎を指す。
【0011】
本発明の他の様相は、γ-ブチロラクトン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lであり、全量イモ焼酎以外の焼酎である、焼酎である。
【0012】
本様相は、全量イモ焼酎以外の焼酎に係るものであり、γ-ブチロラクトンを特定量含有することを特徴とする。本様相の焼酎は、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質を有する。
【0013】
好ましくは、前記γ-ブチロラクトン含量が4.0~10.0mg/Lであり、前記全量イモ焼酎以外の焼酎が乙類焼酎である。
【0014】
好ましくは、前記乙類焼酎が米麹イモ焼酎である。
【0015】
米麹イモ焼酎とは、麹原料が米であり、掛原料がイモである焼酎を指す。
【0016】
好ましくは、前記全量イモ焼酎以外の焼酎が甲類焼酎である。
【0017】
かかる構成により、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質を有する、全量イモ焼酎以外の焼酎、例えば、乙類焼酎(米麹イモ焼酎等)や甲類焼酎を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質の全量イモ焼酎、全量イモ焼酎以外の焼酎、乙類焼酎、及び甲類焼酎を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本発明において「アルコール濃度」とはエチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。また、γ-ブチロラクトン含量について、基本的に、アルコール濃度25v/v%換算値を採用する。
【0020】
本発明でいう「焼酎」とは、酒税法上の焼酎である。焼酎の発酵方法、蒸留方法に特に限定は無い。焼酎には、連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)と単式蒸留焼酎(乙類焼酎)の両方が含まれる。
【0021】
本発明でいう「全量イモ焼酎」とは、掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみであるイモ焼酎を指す。
本発明でいう「米麹イモ焼酎」とは、麹原料に米を用いて、掛原料にサツマイモを用いたイモ焼酎を指す。
本発明でいう「全量イモ焼酎以外の焼酎」の例としては、掛原料がイモであるが麹原料がイモ以外である焼酎(例えば、米麹イモ焼酎)、掛原料がイモ以外である焼酎(例えば、麦焼酎、米焼酎)が挙げられる。
【0022】
本発明の焼酎は、γ-ブチロラクトンを特定量含有するものである。γ-ブチロラクトン(γ-Butyrolactone)は、分子式C4H6O2、CAS登録番号96-48-0の化合物である。
【0023】
本発明の「全量イモ焼酎」におけるγ-ブチロラクトン含量は、アルコール濃度25v/v%換算で6.0~10.0mg/Lである。前記γ-ブチロラクトン含量(アルコール濃度25v/v%換算)は、好ましくは6.0~9.0mg/Lである。前記γ-ブチロラクトン含量が6.0mg/L未満であると、全量イモ焼酎の香り立ちや味わいに欠ける酒質となるおそれがある。前記γ-ブチロラクトン含量が10.0mg/L超であると、全量イモ焼酎の味わいが重たくなり香味のバランスに欠ける酒質となるおそれがある。
【0024】
本発明の「全量イモ焼酎以外の焼酎」におけるγ-ブチロラクトン含量は、アルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lである。前記γ-ブチロラクトン含量が1.0mg/L未満であると、「全量イモ焼酎以外の焼酎」において香り立ちや味わいに欠ける酒質となるおそれがある。前記γ-ブチロラクトン含量が10.0mg/L超であると、「全量イモ焼酎以外の焼酎」において味わいが重たくなり香味のバランスに欠ける酒質となるおそれがある。
【0025】
1つの実施形態では、前記「全量イモ焼酎以外の焼酎」が乙類焼酎である。前記乙類焼酎におけるγ-ブチロラクトン含量は、好ましくはアルコール濃度25v/v%換算で4.0~10.0mg/L、より好ましくは4.0~7.5mg/Lである。前記γ-ブチロラクトン含量が4.0mg/L未満であると、前記乙類焼酎の香り立ちや味わいに欠ける酒質となるおそれがある。前記γ-ブチロラクトン含量が10.0mg/L超であると、前記乙類焼酎の味わいが重たくなり香味のバランスに欠ける酒質となるおそれがある。
【0026】
1つの実施形態では、前記「全量イモ焼酎以外の焼酎」が甲類焼酎である。前記甲類焼酎におけるγ-ブチロラクトン含量は、アルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lであり、好ましくは2.5~7.5mg/Lである。前記γ-ブチロラクトン含量が1.0mg/L未満であると、前記甲類焼酎の香り立ちや味わいに欠ける酒質となるおそれがある。前記γ-ブチロラクトン含量が10.0mg/L超であると、前記甲類焼酎の味わいが重たくなり香味のバランスに欠ける酒質となるおそれがある。
【0027】
本発明の焼酎を製造する方法については、特に限定はなく、焼酎の一般的な製法を基礎として行うことができる。一般に、焼酎の製造工程は、原料処理、仕込、発酵(糖化・発酵)、蒸留工程及び精製工程よりなる。なお、原料処理には、製麹工程、原料液化、液化・糖化工程も含むものとする。通常、焼酎の製造において、一次醪は穀類麹を水と混合して仕込み、酵母を添加して増殖させて得ることができる。次に、得られた一次醪に、例えば蒸きょうした掛原料を添加して二次醪とする。醪の発酵に使用する酵母は、アルコール発酵に適した醸造用の酵母であればよく、具体的には、焼酎酵母、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母などが挙げられる。本発明では、アルコール発酵能を有する酵母であれば特に限定されない。
【0028】
蒸留工程についても特に限定はなく、通常の焼酎の製造で採用されている方法をそのまま適用することができる。例えば、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)を得るための連続蒸留法、乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を得るための単式蒸留法のいずれもが採用可能である。また、醪を通常の大気圧下で蒸留する常圧蒸留法、真空ポンプで醪を大気圧より低い減圧下で蒸留する減圧蒸留法のいずれもが採用可能である。
【0029】
特定量のγ-ブチロラクトンを含有する焼酎を得る方法としては、例えば、γ-ブチロラクトンを高生成する酵母を用いて発酵工程を行うことが挙げられる。γ-ブチロラクトン高生成酵母株を選定する方法については、特に限定はない。例えば、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、焼酎酵母、パン酵母などの市販の酵母を親株として育種あるいは選抜により新たに取得した株を使用してもよい。酵母の育種あるいは選抜にあたっては、酵母に対して公知の変異誘発法、例えば、紫外線、X線、γ線などの放射線の照射や、化学的変異誘発剤を接触させる方法を適宜用いることができる。
【0030】
単離精製されたγ-ブチロラクトンや、γ-ブチロラクトンを含有する溶液や組成物を香味増強剤として用い、これを添加することによって特定量のγ-ブチロラクトンを含有する焼酎を得ることもできる。例えば、前記香味増強剤を焼酎製造の発酵工程で添加する方法が挙げられる。また、前記香味増強剤を焼酎自体に添加する方法が挙げられる。
前記香味増強剤として、γ-ブチロラクトンを高含有する酒類を用いることもできる。例えば、γ-ブチロラクトンを高含有する酒類を、発酵工程で添加したり、別途製造した焼酎に添加して、所望のγ-ブチロラクトン含量を有する焼酎を製造することができる。
【0031】
前記香味増強剤についてさらに説明する。上述のとおり、前記香味増強剤としては、例えば、γ-ブチロラクトンを高含有する酒類を香味増強剤とすることができる。また、γ-ブチロラクトンを高含有する蒸留酒の蒸留画分を得て、これを香味増強剤とすることができる。一方、上述のとおり、単離精製されたγ-ブチロラクトンや、それを含有する溶液や組成物を香味増強剤とすることもできる。
前記香味増強剤は、焼酎又は焼酎の発酵工程生産物に添加して使用され得る。すなわち、添加対象物は、最終製品たる焼酎でもよいし、最終製品以前の発酵工程における産物や中間品(すなわち、発酵工程生産物)でもよい。発酵工程生産物の代表例は、醪である。醪の段階で香味増強剤を添加することにより、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い焼酎を得ることができる。
【0032】
前記香味増強剤としてγ-ブチロラクトンを高含有する酒類を得る場合には、当該酒類の製造時の発酵工程において、発酵醪のpHを低下させる工程を包含させてもよい。この工程により、γ-ブチロラクトンを発酵醪中に多く生成させることができ、酒類のγ-ブチロラクトン含量を高めることが可能となる。醪のpHを低下させるために添加する酸類としては、特に限定はないが、酒税法上認められているものとして、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸などがある。常法により製麹して得た麹を醪に添加して、麹由来のクエン酸により、醪のpHを低下させてもよい。なお、醪のpHを低下させることにより、γ-ブチロラクトンの前駆体であるγ-ヒドロキシ酪酸の環状化が促進され、γ-ブチロラクトンの生成量が増加することは確認済みである。
【0033】
前記香味増強剤としてγ-ブチロラクトンを高含有する蒸留酒類を得る場合には、遠心式薄膜真空蒸発装置を用いてもよい。また、γ-ブチロラクトンを高含有する蒸留酒類の蒸留画分を得る場合には、例えば、連続式蒸留により所望のγ-ブチロラクトン含量となる蒸留塔棚段にて留液を採取することができる。なお、遠心式薄膜真空蒸発装置を用いることにより、γ-ブチロラクトン含量が200mg/L以上(アルコール濃度非換算)の蒸留酒類が得られることは確認済みである。
【0034】
前記香味増強剤を焼酎(添加対象物)に添加する場合、香味増強剤と添加対象物のγ-ブチロラクトンの含量(濃度)について、香味増強剤のγ-ブチロラクトン含量が、添加対象物のγ-ブチロラクトン含量よりも高ければよく、香味増強剤と添加対象物とのγ-ブチロラクトンの含量の差(濃度差)の大小は問わない。すなわち、香味増強剤と添加対象物のγ-ブチロラクトン含量の差が大きくてもよいし、少しの差であってもよい。また、香味増強剤と添加対象物の体積比としては、特に限定はなく、香味増強剤のγ-ブチロラクトン含量と目標とするγ-ブチロラクトン最終含量とによって適宜選択される。例えば、γ-ブチロラクトンを高含有する香味増強剤であれば、添加対象物に対して、少量添加することができる。一方、γ-ブチロラクトンを中程度含有する香味増強剤であれば、添加対象物に対して、添加対象物と同体積の香味増強剤を添加してもよい。
【0035】
一般的な方法で製造された焼酎、又はその発酵工程における醪に前記香味増強剤を添加することや、γ-ブチロラクトンを高生成する酵母を用いて焼酎を製造することにより、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが向上し、芳醇で香味のバランスが非常に良い酒質を有する焼酎を得ることができる。
【0036】
本開示は、以下の項目に記載の香味増強剤、酒類の製造方法、及び酒類の香味増強方法を含む。
(1) 酒類又は酒類の発酵工程生産物に添加して使用され、γ-ブチロラクトンを有効成分として含有する、酒類に対する香味増強剤。
(2) 前記酒類が蒸留酒類である、(1)に記載の香味増強剤。
(3) 前記蒸留酒類が焼酎である、(2)に記載の香味増強剤。
(4) 前記発酵工程生産物が醪である、(1)~(3)のいずれかに記載の香味増強剤。
(5) 前記香味増強剤が蒸留酒類に属するものである、(1)~(4)のいずれかに記載の香味増強剤。
(6) 前記香味増強剤が焼酎に属するものである、(5)に記載の香味増強剤。
(7) (1)~(6)のいずれかに記載の香味増強剤を、第一の酒類又は第一の酒類の発酵工程生産物に添加して、第二の酒類を得る、酒類の製造方法。
(8) 前記第一の酒類が第一の焼酎である、(7)に記載の酒類の製造方法。
(9) 前記第一の焼酎がイモ焼酎である、(8)に記載の酒類の製造方法。
(10) 前記発酵工程生産物が醪である、(7)~(9)のいずれかに記載の酒類の製造方法。
(11) (1)~(6)のいずれかに記載の香味増強剤を酒類又は酒類の発酵工程生産物に添加して、前記酒類の香味を増強する、酒類の香味増強方法。
【0037】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0038】
本実施例では、焼酎についてγ-ブチロラクトン添加の効果を調べた。
【0039】
市販の焼酎(麦焼酎A、米麹イモ焼酎B、米焼酎C、甲類焼酎D)のγ-ブチロラクトン濃度をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS分析)により測定した。次に、γ-ブチロラクトン濃度が表1に記載の濃度となるように、各焼酎にγ-ブチロラクトンを添加した(実験例1-1~実験例1-13)。
【0040】
γ-ブチロラクトンの添加前後において、酒質の官能評価試験を10名の専門のパネリストにより実施した。評価は、「口に含んだ時の香り立ち」、「味わい」、「香味のバランス」のそれぞれについて行った。評価方法は、「口に含んだ時の香り立ち」、「味わい」、「香味のバランス」のそれぞれについて、以下の基準で平均値を採用した。
・添加前に比べて評価が低下している場合:1点
・添加前に比べて評価がやや低下している場合:2点
・添加前後で評価が同等である場合:3点
・添加前に比べて評価がやや向上している場合:4点
・添加前に比べて評価が向上している場合:5点
【0041】
結果を表1に示す。表中、「GBL濃度」はγ-ブチロラクトン濃度(アルコール濃度25v/v%換算)を意味し、「添加前」と「添加後」はγ-ブチロラクトンの添加前と添加後を意味する。表1に示すように、いずれの焼酎についても、γ-ブチロラクトンを添加したものは、添加前に比べて、「口に含んだ時の香り立ち」、「味わい」、「香味のバランス」のいずれも評価が高かった。そして、γ-ブチロラクトンを添加した焼酎は、口に含んだ時の香り立ちに優れ、味わいが良く、香りと味とのバランスが良い酒質であった。乙類焼酎である麦焼酎A、米麹イモ焼酎B、米焼酎Cにおいては、γ-ブチロラクトン含量を、アルコール濃度25v/v%換算で4.0~10.0mg/Lとした場合に、酒質が向上していた(実験例1-1~実験例1-9)。甲類焼酎Dにおいては、γ-ブチロラクトン含量を、アルコール濃度25v/v%換算で1.0~10.0mg/Lとした場合に、酒質が向上していた(実験例1-10~実験例1-13)。これにより、γ-ブチロラクトンを添加することより、乙類焼酎及び甲類焼酎の酒質を向上できることが示された。
【0042】
市販の全量イモ焼酎E(製品名:一刻者(宝酒造社製)、アルコール濃度25v/v%換算値でγ-ブチロラクトン含量:5.2mg/L)に、表2に記載の濃度(アルコール濃度25v/v%換算値)となるようにγ-ブチロラクトンを添加した。γ-ブチロラクトンの添加前後において、酒質の官能評価試験を10名の専門のパネリストにより実施した(実験例2-1~実験例2―6)。評価は、「口に含んだ時の香り立ち」、「味わい」、「香味のバランス」のそれぞれについて、実施例1と同様の方法を採用した。
結果を表2に示す。表中、「GBL濃度」はγ-ブチロラクトン濃度(アルコール濃度25v/v%換算)を意味し、「添加前」と「添加後」はγ-ブチロラクトンの添加前と添加後を意味する。すなわち、市販の全量イモ焼酎Eに適量のγ-ブチロラクトンを添加したものは、添加前に比べて、「口に含んだ時の香り立ち」、「味わい」、「香味のバランス」のいずれも評価が高かった。とりわけ、γ-ブチロラクトン含量を、アルコール濃度25v/v%換算値で6.0~10.0mg/Lとした場合において、評価が特に高かった(実験例2-2~実験例2-6)。これにより。γ-ブチロラクトンを全量イモ焼酎に添加することより、全量イモ焼酎の酒質を向上できることが示された。