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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027135
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/20 20210101AFI20240221BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240221BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240221BHJP
   B29C 64/255 20170101ALI20240221BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240221BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240221BHJP
【FI】
B22F12/20
B22F10/28
B29C64/153
B29C64/255
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213800
(22)【出願日】2023-12-19
(62)【分割の表示】P 2021131895の分割
【原出願日】2021-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 達雄
(72)【発明者】
【氏名】宮北 歩
(72)【発明者】
【氏名】台野 洋平
(57)【要約】
【課題】造形中に投入される熱量を従来よりも効率良く利用することができる三次元積層造形装置を提供する。
【解決手段】粉末材料が敷き詰められるステージと、ステージを囲む状態に配置される筒状の造形ボックスと、を備える三次元積層造形装置であり、造形ボックスは、ステージを囲む第1の筒状部材と、第1の筒状部材を介してステージを囲むとともに、第1の筒状部材との間に空間を形成する第2の筒状部材とを有する側壁部を備えている。また、造形ボックスは、空間に冷媒を供給する冷媒冷却部を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料が敷き詰められるステージと、
前記ステージを囲む状態に配置される筒状の造形ボックスと、
を備える三次元積層造形装置であって、
前記造形ボックスは、前記ステージを囲む第1の筒状部材と、前記第1の筒状部材を介して前記ステージを囲むとともに、前記第1の筒状部材との間に空間を形成する第2の筒状部材とを有する側壁部を備え、
前記空間に冷媒を供給する冷媒冷却部を備える
三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記第1の筒状部材の外面および前記第2の筒状部材の内面のうち、少なくとも一方の面に溝が形成されており、
前記空間は、前記溝によって形成されている
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記溝は、螺旋状に形成されている
請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記第1の筒状部材の外面と前記第2の筒状部材の内面とは、前記溝の形成部位を除いて、隙間を介して対向している
請求項2または3に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記隙間は、前記第1の筒状部材の外面および前記第2の筒状部材の内面のうち、少なくとも一方の面に形成された微細な凹凸によって形成されている
請求項4に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記溝を真空引きする真空ポンプを備える
請求項2または3に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記溝の長さ方向の一端側に接続された第1の接続配管と、
前記溝の長さ方向の他端側に接続された第2の接続配管と、
前記第1の接続配管および前記第2の接続配管に設けられた複数のバルブと、
を備え、
前記溝を真空引きする状態と前記溝に冷媒を供給する状態とを、前記複数のバルブの開閉によって切り替え可能に構成されている
請求項2または3に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、層状に敷き詰められた粉末材料にビームを照射して粉末材料を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層を順に積み重ねて三次元構造の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-42465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元積層造形装置においては、造形ボックスによって囲まれるステージ上に粉末材料を敷き詰め、この粉末材料にビームを照射することにより、粉末材料を加熱する。その際、ビームの照射によって投入する熱量は、造形物の品質、造形時間、環境負荷などの観点から、極力少ない方が望ましい。
【0005】
しかしながら、従来の三次元積層造形装置では、ビームの照射によって投入した熱量の一部が、造形ボックスから輻射熱として外部に流出していた。このため、造形中に投入される熱量が必ずしも効率良く利用されているとは言えなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、造形中に投入される熱量を従来よりも効率良く利用することができる三次元積層造形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粉末材料が敷き詰められるステージと、ステージを囲む状態に配置される筒状の造形ボックスと、を備える三次元積層造形装置である。造形ボックスは、ステージを囲む第1の筒状部材と、第1の筒状部材を介してステージを囲むとともに、第1の筒状部材との間に空間を形成する第2の筒状部材とを有する側壁部を備えている。また、造形ボックスは、空間に冷媒を供給する冷媒冷却部を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、造形中に投入される熱量を従来よりも効率良く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置が備える造形ボックスの構成を示す斜視図である。
図3図2に示す造形ボックスの一部を拡大した縦断面図である。
図4図3のA部を拡大した図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置が備える流体圧回路の構成例を示す概略図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置が備える造形ボックスの一部を拡大した縦断面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置が備える造形ボックスの一部を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、図1の左右方向をX方向、図1の奥行き方向をY方向、図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0012】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末供給装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、回収ボックス22と、ステージ24と、ステージ移動装置26と、を備えている。
【0013】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。
【0014】
ビーム照射装置14は、造形面32aに向かって電子ビーム15を照射する装置である。造形面32aは、ステージ24の上に敷き詰められる金属粉末32の上面に相当する。
ビーム照射装置14は、図示はしないが、電子ビームの発生源となる電子銃と、電子銃が発生した電子ビームを制御する光学系とを備える。光学系は、集束レンズ、対物レンズ、偏向レンズなどを備える。集束レンズは、電子銃が発生する電子ビーム15を集束させるレンズである。対物レンズは、集束レンズで集束させた電子ビーム15を造形面32aの近傍に合焦させるためのレンズである。偏向レンズは、電子ビーム15を造形面32a上で走査させるために電子ビーム15を偏向するレンズである。
【0015】
粉末供給装置16は、造形物の原材料となる粉末材料としての金属粉末32を造形テーブル18上に供給する装置である。粉末供給装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、アーム16cとを有している。ホッパー16aは、金属粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている金属粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。アーム16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。
アーム16cは、粉末投下器16bによって投下された金属粉末を、造形テーブル18およびステージ24の上に敷き詰める。アーム16cは、造形テーブル18およびステージ24の全面に金属粉末を均一に敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0016】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末供給装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部は開口している。造形テーブル18の開口形状は、平面視円形または平面視角形である。
【0017】
造形ボックス20は、造形用の空間を形成するボックスである。造形ボックス20は、筒状に形成されている。造形ボックス20は、ステージ24を囲む状態に配置されている。造形ボックス20の横断面形状は、造形テーブル18の開口形状と同じ形状である。たとえば、造形テーブル18の開口形状が平面視円形であれば、造形ボックス20の横断面形状は円形となり、造形テーブル18の開口形状が平面角形であれば、造形ボックス20の横断面形状は角形となる。本実施形態においては、一例として、造形ボックス20の横断面形状が円形、すなわち造形ボックス20が円筒形に形成されているものとする。造形ボックス20の上端部は、造形テーブル18の開口縁に接続されている。
【0018】
回収ボックス22は、粉末供給装置16によって造形テーブル18上に供給された金属粉末32のうち、余剰の金属粉末32を回収するボックスである。回収ボックス22は、X方向の一方と他方に1個ずつ設けられている。
【0019】
ステージ24は、上下方向(Z方向)に移動可能に設けられている。ステージ24は、造形ボックス20の内周面に沿って上下方向に摺動する。ステージ24の外周部にはシール部材28が取り付けられている。シール部材28は、ステージ24の外周部と造形ボックス20の内周面との間で、摺動性および密閉性を保持する部材である。シール部材28は、耐熱性および弾力性を有する材料によって構成される。
【0020】
ステージ移動装置26は、ステージ24を上下方向に移動させる装置である。ステージ移動装置26は、シャフト26aと、駆動機構部26bとを備えている。シャフト26aは、ステージ24の下面に接続されている。駆動機構部26bは、図示しないモータと動力伝達機構とを備え、モータを駆動源として動力伝達機構を駆動することにより、ステージ24をシャフト26aと一体に上下方向に移動させる。動力伝達機構は、たとえば、ラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構などによって構成される。
【0021】
続いて、上記構成からなる三次元積層造形装置10を用いて三次元構造の造形物を形成する場合の基本的な手順について説明する。
まず、ステージ24の上面を造形テーブル18の上面よりも下げた状態で、ステージ24の上に金属粉末32を層状に敷き詰める。このとき、粉末供給装置16は次のように動作する。まず、ホッパー16aに貯蔵されている金属粉末を粉末投下器16bにて計量することにより、予め決められた量の金属粉末32を粉末投下器16bから造形テーブル18上に投下する。次に、アーム16cは、X方向に往復移動する。具体的には、アーム16cは、ホームポジションHPから折り返しポジションTPへと移動した後、折り返しポジションTPからホームポジションHPへと戻る。これにより、造形テーブル18およびステージ24の全面に金属粉末32が均一に敷き詰められる。また、余分な金属粉末32は、回収ボックス22に回収される。
【0022】
次に、ビーム照射装置14は、金属粉末32の上面(造形面32a)に電子ビーム15を照射することにより、金属粉末32を仮焼結させる。このとき、ビーム照射装置14は、目的とする造形物よりも広範囲に電子ビーム15を照射するとともに、金属粉末32が過度に加熱されないように電子ビーム15をデフォーカスさせる。
【0023】
次に、ビーム照射装置14は、金属粉末32の上面に電子ビーム15を照射することにより、仮焼結体としての金属粉末32を溶融および凝固させる。この工程は本焼結工程とも呼ばれる。本焼結工程において、ビーム照射装置14は、目的とする造形物の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚みにスライスした二次元データに基づいて電子ビーム15を走査することにより、ステージ24上の金属粉末32を選択的に溶融する。電子ビーム15の照射によって溶融した金属粉末32は、電子ビーム15が通過した後に凝固する。
【0024】
次に、ビーム照射装置14は、次層の金属粉末32を敷き詰めるための準備として、金属粉末32の上面に電子ビーム15を照射することにより、金属粉末32を予備加熱する。このとき、ビーム照射装置14は、電子ビーム15をデフォーカスさせる。
【0025】
次に、ステージ移動装置26は、ステージ24を所定量だけ下降させる。所定量は、造形物を積層によって造形するときの一層分の厚さに相当する。
【0026】
以降は、造形物の造形が終了するまで上記動作を繰り返す。造形物の造形は、造形物の造形に必要な層の数だけ金属粉末32の溶融および凝固が行なわれた段階で終了となる。
これにより、目的とする造形物が得られる。
【0027】
このように、造形物の造形を終了するまでには、金属粉末32の仮焼結、本焼結または予備加熱を繰り返し行ない、その都度、電子ビーム15の照射によって熱量を投入する必要がある。その際、投入した熱量の一部が造形ボックス20から輻射熱として外部に流出すると、より多くの熱量を投入する必要があり、熱効率の観点から好ましくない。そこで本実施形態においては、以下のような構成を採用している。
【0028】
図2は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10が備える造形ボックス20の構成を示す斜視図であり、図3は、図2に示す造形ボックス20の一部を拡大した縦断面図である。
【0029】
図2および図3に示すように、造形ボックス20は円筒状に形成されている。造形ボックス20は側壁部40を備えている。側壁部40は、造形中に金属粉末32から受ける圧力に耐えられる程度の機械強度を確保し、かつ、熱による変形を抑えるために、適度な厚みを有する。側壁部40は2層構造になっている。具体的には、側壁部40は、円筒状の内側パイプ41と、内側パイプ41よりも外径の大きい円筒状の外側パイプ42とを有している。上記図1に示すように、造形ボックス20の内側にステージ24を配置した場合、内側パイプ41は、ステージ24を囲むように配置され、外側パイプ42は、内側パイプ41を介してステージ24を囲むように配置される。
【0030】
内側パイプ41は、第1の筒状部材に相当し、外側パイプ42は、第2の筒状部材に相当する。また、内側パイプ41の内周面は、第1の筒状部材の内面に相当し、内側パイプ41の外周面は、第1の筒状部材の外面に相当する。また、外側パイプ42の内周面は、第2の筒状部材の内面に相当し、外側パイプ42の外周面は、第2の筒状部材の外面に相当する。
【0031】
内側パイプ41および外側パイプ42は、いずれも金属(合金を含む)によって構成されている。内側パイプ41および外側パイプ42を構成する金属の一例としてはステンレス鋼を挙げることができる。
【0032】
内側パイプ41は、外側パイプ42よりも肉厚に形成されている。内側パイプ41の内周面は、上述したシール部材28の摺動によってステージ24の移動を円滑に行なえるよう、凹凸のない曲面となっている。これに対して、内側パイプ41の外周面には溝45が形成されている。溝45は、造形ボックス20の中心軸を中心に螺旋状に形成されている。溝45は、mm単位で表される程度の深さ、すなわちmmオーダーの深さ寸法を有する。溝45の縦断面形状は、たとえば四角形、半円形、三角形など、任意の形状を採用することができる。また、溝45の幅および深さ寸法は、後述する冷媒を流すことができる範囲で、任意に変更可能である。また、溝45は、後述する冷媒の流れやすさなどを考慮すると螺旋状に形成することが好ましいものの、螺旋状以外の形状に形成してもよい。
【0033】
溝45の長さ方向の一端部45aは、造形ボックス20の上端部近傍に配置され、溝45の長さ方向の他端部45bは、造形ボックス20の下端部近傍に配置されている。そして、溝45は、一端部45aから他端部45bまで連続して形成されている。本実施形態においては、内側パイプ41の外周面に溝45が螺旋状に形成されているため、溝45の長さ方向は、内側パイプ41の外周面に沿う螺旋方向となる。
【0034】
また、内側パイプ41の外周面には、突条部46が形成されている。突条部46は、Z方向において、溝45と隣り合わせに形成されている。突条部46は、溝45と同様に螺旋状に形成されている。突条部46は、溝45の底面から、溝45の深さ寸法と同じ寸法で径方向外側に突き出している。つまり、内側パイプ41の外周面は、溝45と突条部46がZ方向に交互に並んだ凹凸構造になっている。
【0035】
外側パイプ42は、内側パイプ41の外周面の全面を覆うように配置されている。外側パイプ42は、内側パイプ41と溶接によって接合され、これによって造形ボックス20の上下端が封止されている。具合的には、造形ボックス20の上端部は、内側パイプ41の上端面と外側パイプ42の上端面とを、造形ボックス20の全周にわたって溶接することにより、気体や液体などの流体が漏れないように封止されている。同様に、造形ボックス20の下端部は、内側パイプ41の下端面と外側パイプ42の下端面とを、造形ボックス20の全周にわたって溶接することにより、流体が漏れないように封止されている。なお、内側パイプ41と外側パイプ42とを接合する方法は、造形ボックス20の上下端を封止できる方法であれば、溶接以外の方法を採用してもかまわない。
【0036】
外側パイプ42の内周面は、凹凸のない曲線となっている。このため、内側パイプ41の外周面に外側パイプ42を被せると、内側パイプ41と外側パイプ42との間に空間47が形成される。この空間47は、側壁部40の内部に溝45によって形成される空間である。このため、空間47は、溝45の長さ方向の一端部45aから他端部45bまで連続してつながっている。
【0037】
また、内側パイプ41の外周面と外側パイプ42の内周面とは、図4に示すように、溝45の形成部位を除いて、隙間48を介して対向している。換言すると、内側パイプ41の突条部46は、隙間48を介して外側パイプ42の内周面と対向している。隙間48は、μm単位で表される程度の微小な隙間、すなわちμmオーダーの寸法の隙間である。つまり、隙間48の寸法は、溝45の深さ寸法に比較して十分に小さい。また、溝45と隙間48の断面積を比較しても、隙間48の断面積は溝45の断面積に比較して十分に小さい。
【0038】
外側パイプ42には、2つの接続配管51a,51bが接続されている。2つの接続配管51a,51bのうち、いずれか一方は第1の接続配管に相当し、他方は第2の接続配管に相当する。接続配管51aは、ジョイント52aを介して溝45の一端部45aに連通し、接続配管51bは、ジョイント52bを介して溝45の他端部45bに連通している。連通とは、空間的につながっている状態をいう。ジョイント52aは、接続配管51aを接続するために外側パイプ42に取り付けられ、ジョイント52bは、接続配管51bを接続するために外側パイプ42に取り付けられている。
【0039】
図5は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10が備える流体圧回路の構成例を示す概略図である。
図5に示すように、流体圧回路50は、上述した溝45に連通するように外側パイプ42に接続された2つの接続配管51a,51bと、3つのバルブ55,56,57と、真空ポンプ61と、冷媒供給部62と、を備えている。バルブ55は、接続配管51aに設けられている。接続配管51aの終端部は大気中に開放されている。
【0040】
一方、接続配管51bは分岐部53を有し、分岐部53で接続配管51b-1と接続配管51b-2とに分岐している。バルブ56は接続配管51b-1に設けられ、バルブ57は接続配管51b-2に設けられている。接続配管51b-1は、バルブ56を介して真空ポンプ61に接続されている。接続配管51b-2は、バルブ57を介して冷媒供給部62に接続されている。
【0041】
真空ポンプ61は、溝45を真空引きするためのポンプである。冷媒供給部62は、溝45に冷媒を供給する部分である。冷媒供給部62が供給する冷媒は、水のような液体でもよいし、空気のような気体でもよい。各々のバルブ55,56,57は、真空ポンプ61を用いた真空引きに耐えられるよう、真空バルブによって構成することが望ましい。
【0042】
続いて、上記構成からなる流体圧回路50を用いた三次元積層造形方法について説明する。
まず、三次元積層造形装置10によって造形物の造形を開始する場合は、それに先立ってバルブ55およびバルブ57を共に閉状態とし、バルブ56を開状態として、真空ポンプ61を作動させる。これにより、造形ボックス20の側壁部40において、溝45によって形成された空間47が真空引きされる。また、溝45によって形成された空間47は隙間48とつながっている。このため、真空ポンプ61によって溝45を真空引きすると、隙間48の部分も真空引きされる。その結果、造形ボックス20の側壁部40の内部に真空断熱層が形成される。この真空断熱層は、溝45および空間47の形成部位と、隙間48の形成部位の両方、つまり側壁部40の全域に形成される。
【0043】
このように側壁部40の内部に真空断熱層を形成することにより、造形ボックス20の断熱性が大幅に向上する。このため、造形ボックス20内の熱が造形ボックス20外に逃げにくくなる。三次元積層造形装置10によって造形物を形成する場合は、側壁部40内に真空断熱層を形成した状態で造形物の造形を開始し、その状態を造形物の造形を終了するまで維持する。つまり、造形物の造形中は、側壁部40の内部に真空断熱層を形成した状態に維持する。これにより、造形中に電子ビーム15の照射によって投入される熱量のうち、造形ボックス20から輻射熱として外部に流出する熱量を減らすことができる。このため、造形中に投入される熱量を従来よりも効率良く利用することができる。
【0044】
ただし、造形物の造形終了後に、側壁部40内に真空断熱層を形成した状態に維持すると、造形物の温度が下がりにくくなる。このため、造形ボックス20から造形物を取り出せるようになるまで長い時間がかかってしまう。
【0045】
そこで、三次元積層造形装置10で造形物の造形を終了した場合は、真空チャンバー12内を真空状態に維持しつつ、バルブ55およびバルブ57を共に開状態とし、バルブ56を閉状態として、冷媒供給部62を作動させる。これにより、造形ボックス20の側壁部40内の溝45に対し、冷媒供給部62から接続配管51bを通して冷媒が供給される。
【0046】
このように造形ボックス20の側壁部40内の溝45に冷媒を供給することにより、造形ボックス20が冷却される。このため、造形物の温度を早く下げることができる。したがって、造形ボックス20から造形物を取り出せるようになるまでの時間を短縮することができる。また、従来においては、真空チャンバー12内に不活性ガスを供給し、不活性ガス中で造形物を冷却する技術も知られているが、この従来技術では、不活性ガスに含まれる不純物の影響で造形物が酸化する可能性がある。これに対し、本実施形態では、造形終了後も真空チャンバー12内を真空状態に維持し、真空中で造形物を冷却するため、造形物が酸化するおそれがない。
【0047】
また、本実施形態においては、溝45の深さ寸法に比較して隙間48の寸法が非常に小さくなっており、その分、両者の断面積が大きく異なっている。このため、接続配管51bを通して供給される冷媒は、溝45および空間47の形成部位には流れやすく、隙間48の形成部位には流れにくくなる。よって、造形ボックス20の側壁部40内に、溝45による空間47とこれに通じる隙間48とを形成した場合でも、冷媒を溝45に優先的に流すことができる。また、溝45による冷媒の流路を長く確保した場合でも、溝45の長さ方向の一端から他端まで冷媒を流すことができる。このため、造形ボックス20の全体にわたって溝45を形成することにより、造形ボックス20全体を冷媒によって冷却することができる。特に、溝45を螺旋状に形成した場合は、溝45のカーブが緩やかになって冷媒が流れやすくなるとともに、冷媒の流路長を長く確保することができる。このため、十分な熱交換によって造形物を効率良く冷却することができる。
【0048】
以上のことから、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10によれば、造形ボックス20の断熱性が向上するという第1の効果と、造形物の冷却時間が短くなるという第2の効果、すなわち相反する2つの効果を同時に得ることができる。
【0049】
なお、上記第1実施形態においては、接続配管51bを2つに分岐させて、接続配管51b-1に真空ポンプ61を接続し、接続配管51b-2に冷媒供給部62を接続したが、流体圧回路50の構成は種々の変更が可能である。たとえば、接続配管51aを2つに分岐させて、一方の接続配管に真空ポンプ61を接続し、他方の接続配管に冷媒供給部62を接続してもよい。また、接続配管51aおよび接続配管51bのうち、いずれか一方の接続配管に真空ポンプ61を接続し、他方の接続配管に冷媒供給部62を接続してもよい。
【0050】
また、上記第1実施形態においては、接続配管51aの終端部を大気中に開放しているが、これに限らず、接続配管51aの終端部を図示しない循環用の配管によって冷媒供給部62に接続することにより、流体圧回路50内で冷媒を循環させてもよい。
【0051】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本発明の第2実施形態においては、上述した第1実施形態と比較して、造形ボックス20の側壁部40の構造が異なる。具体的には、本発明の第2実施形態においては、図6に示すように、造形ボックス20の側壁部40を構成する内側パイプ41および外側パイプ42のうち、内側パイプ41の外周面の一部である、突条部46の頂面に微細な凹凸44が形成され、この凹凸44によって隙間48Aが形成されている。そして、内側パイプ41の外周面と外側パイプ42の内周面とは、溝45の形成部位を除いて、微細な凹凸44による隙間48Aを介して対向している。
【0052】
微細な凹凸44は、溝45の長さ方向の一端側から冷媒を供給した場合に、この冷媒が溝45に優先的に流れるように、溝45の深さ寸法に比べて凸部と凹部の高低差が充分に小さい凹凸であればよい。具体的には、溝45の深さ寸法をmmオーダー(たとえば、数mmから十数mm)とし、凹凸44の高低差をμmオーダー(たとえば、数μmから数十μm)とすればよい。微細な凹凸44は、突条部46の頂面を機械的または化学的に粗面化して形成してもよい。
【0053】
このように突条部46の頂面に微細な凹凸44を形成することにより、上記第1実施形態の場合と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。
まず、内側パイプ41の外周面に外側パイプ42の内周面を接触させた場合に、内側パイプ41と外側パイプ42との間に、微細な凹凸44による隙間48Aを確保することができる。また、内側パイプ41の突条部46と外側パイプ42の内周面とは、微細な凹凸44によって点接触または線接触した状態となる。このため、内側パイプ41と外側パイプ42との接触面積を極力小さくして、内側パイプ41から外側パイプ42への熱の移動を抑えることができる。また、内側パイプ41に外側パイプ42を被せた場合、外側パイプ42の形状を微細な凹凸44によって保持することができる。また、溝45を真空引きした場合に、微細な凹凸44の存在により、外側パイプ42の変形や張り付きなどを抑制することができる。
【0054】
なお、上記第2実施形態においては、内側パイプ41の突条部46の頂面に微細な凹凸44を形成しているが、本発明はこれに限らず、外側パイプ42の内周面に微細な凹凸を形成してもよい。
【0055】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本発明の第3実施形態においては、上述した第1実施形態と比較して、造形ボックス20の側壁部40の構造が異なる。具体的には、本発明の第3実施形態においては、図7に示すように、外側パイプ42Aの内周面に螺旋状の溝45Aを形成し、この溝45Aによって側壁部40Aの内部に空間47Aを形成している。このような構成を採用した場合でも、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0057】
たとえば、上記第1実施形態および上記第2実施形態においては、内側パイプ41の外周面に溝45を形成し、上記第3実施形態においては、外側パイプ42Aの内周面に溝45Aを形成しているが、本発明はこれに限らず、内側パイプの外周面および外側パイプの内周面の両方に溝を形成してもよい。
【0058】
また、上記第2実施形態においては、突条部46の頂面に微細な凹凸44を形成しているが、これと同様の技術思想を上記第3実施形態に適用することも可能である。具体的には、図7に示す外側パイプ42Aの内周面のうち、溝45Aの形成部位を除く面に微細な凹凸を形成してもよいし、内側パイプ41Aの外周面に微細な凹凸を形成してもよい。
【0059】
また、上述した各実施形態においては、造形ボックス20の側壁部40,40Aを2層構造としているが、本発明はこれに限らず、造形ボックス20の側壁部40,40Aを3層以上の多層構造としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…三次元積層造形装置、20…造形ボックス、24…ステージ、32…金属粉末(粉末材料)、40,40A…側壁部、41,41A…内側パイプ(第1の筒状部材)、42,42A…外側パイプ(第2の筒状部材)、44…凹凸、45,45A…溝、47,47A…空間、48,48A…隙間、51a…接続配管、51b…接続配管、55,56,57…バルブ、61…真空ポンプ、62…冷媒供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7