(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027144
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】脂質および組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 279/14 20060101AFI20240221BHJP
C07C 321/14 20060101ALI20240221BHJP
C07C 237/12 20060101ALI20240221BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240221BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240221BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240221BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240221BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240221BHJP
C12N 15/88 20060101ALN20240221BHJP
C07K 5/06 20060101ALN20240221BHJP
C07D 233/64 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C07C279/14
C07C321/14
C07C237/12
A61K48/00
A61K31/7105
A61K31/713
A61P43/00 111
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/22
C12N15/113 Z
C12N15/88 Z
C07K5/06
C07D233/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217284
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2023513066の分割
【原出願日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2021066762
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591222566
【氏名又は名称】相互薬工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小穴 哲央
(72)【発明者】
【氏名】林田 順
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 利典
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽平
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】浅井 知浩
(57)【要約】
【課題】核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ効果的に送達することができる脂質および組成物を提供する。
【解決手段】本発明の脂質は、下記式(I)で表される脂質である。
(式中、R
1は、炭素数32~48の炭化水素基であり、R
2は、1つの任意のアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、R
3は、塩基性アミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される脂質。
【化1】
(式中、R
1は、炭素数32~48の炭化水素基であり、R
2は、1つの任意のアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、R
3は、塩基性アミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である。)
【請求項2】
R2は、親水性アミノ酸の側鎖または親水性アミノ酸の誘導体の側鎖である、請求項1に記載の脂質。
【請求項3】
R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である、請求項1または2に記載の脂質。
【請求項4】
R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である、請求項1~3のいずれかに記載の脂質。
【請求項5】
R3はリジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である、請求項1~4のいずれかに記載の脂質。
【請求項6】
R3は、アルギニンの側鎖またはアルギニンの誘導体の側鎖である、請求項1~5のいずれかに記載の脂質。
【請求項7】
R1は、炭素数32~48の分岐状の炭化水素基である、請求項1~6のいずれかに記載の脂質。
【請求項8】
R
1は、下記式(II)で表される、請求項7に記載の脂質。
【化2】
(式中、R
11は、炭素数aの直鎖状の炭化水素基であり、R
12は、炭素数bの直鎖状の炭化水素基であり、
ここで、aとbは、31≦a+b≦47を満たす。)
【請求項9】
下記式(Ia)~(Il)のいずれかで表される、請求項1~8のいずれかに記載の脂質。
【化3】
【化4】
【請求項10】
導入化合物の細胞内導入用である、請求項1~9のいずれかに記載の脂質。
【請求項11】
導入化合物が核酸である、請求項10に記載の脂質。
【請求項12】
核酸がRNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸であるか、またはmRNAである、請求項11に記載の脂質。
【請求項13】
核酸がsiRNAまたはmRNAである、請求項12に記載の脂質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の脂質と導入化合物との組成物。
【請求項15】
複数の前記脂質が集合して脂質ナノ粒子を形成し、前記脂質ナノ粒子の内部に導入化合物が包含される、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の標的細胞または組織などの対象内への化合物(例えばヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびこれらの誘導体、例えばRNAi薬剤を含む生物活性薬物など)のデリバリーは、一般に脂質などの担体分子が用いられている。しかし、例えば担体分子が生体内の分解酵素で分解されたり、細胞膜の透過が制限されたりし、化合物を対象に到達させることが困難になることがある。また、化合物を対象へ到達させることができても効率的に到達できなければ、化合物による所望の効果を得るために、望ましい投与量よりも高い投与量の導入化合物の使用を要することとなり、細胞毒作用および副作用のリスクを増大させ得る。したがって、標的細胞や組織への効率的な侵入が可能な担体分子が求められている。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1は、脂質を含有する微粒子内に核酸としてsiRNAを封入することにより、封入されたsiRNAを血しょう中での分解から保護し、かつ脂溶性の細胞膜への透過を可能とすることを開示している。また、特許文献2~4は、siRNA等の核酸医薬の送達に用いられ、生分解能を向上させた脂質を開示している。特許文献5は、RNAi剤などの生物活性薬物を送達するためのカチオン性脂質化合物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-530059号公報
【特許文献2】国際公開第2011/153493号
【特許文献3】国際公開第2013/086354号
【特許文献4】国際公開第2013/158579号
【特許文献5】特開2016-514109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近の進展にもかかわらず、生体内の標的細胞または組織などの対象内への導入するための化合物(以下、導入化合物とも称す)を対象内へ効果的に送達できる脂質が依然として求められている。
したがって、本発明は、核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ効果的に送達することができる脂質および組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の脂質は、下記式(I)で表される脂質である。
【化1】
(式中、R
1は、炭素数32~48の炭化水素基であり、R
2は、1つの任意のアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、R
3は、塩基性アミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である。)
【0007】
また、本発明の組成物は、上記の脂質と導入化合物との組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ効果的に送達することができる脂質および組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[脂質]
以下に、本発明の実施形態について例示説明する。
本実施形態の脂質は、下記式(I)で表される。
【化2】
(式中、R
1は、炭素数32~48の炭化水素基であり、R
2は、1つの任意のアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、R
3は、塩基性アミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である。)
より詳細には、本実施形態の脂質は、炭化水素基(R
1)を含む脂質親和性領域(テイル)と、当該炭化水素とエステル結合により連結する、2つのアミノ酸またはその誘導体(ジペプチド)を含む親水性領域(ヘッド)と、を有する両親媒性分子とすることができる。
なお、親水性領域の2つのアミノ酸部分(残基)について、脂質親和性領域から数えて1つ目、2つ目のアミノ酸部分に対応するアミノ酸またはアミノ酸の誘導体をそれぞれ第1アミノ酸、第2アミノ酸とも称す。
【0010】
本実施形態の脂質によれば、核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ効果的に送達することができる。
具体的には、本実施形態の脂質の親水性領域が2つのアミノ酸由来の部分で形成されているので、本実施形態の脂質の生体への影響を適切に抑制することができる。また、本実施形態の脂質は、親水性領域の末端(R3)側が、塩基性アミノ酸由来であり、適度なカチオン性を有することとなり、当該脂質を含むリポソームなどの脂質ナノ粒子を、核酸などの細胞内への導入化合物が包含された状態で作製しやすく、また、脂質ナノ粒子が細胞の細胞膜を透過しやすくすることができる。さらに、本実施形態の脂質におけるこのような親水性領域は、リポソームなどの脂質ナノ粒子と、細胞内導入化合物との相性を向上させることができる。
さらに、脂質親和性領域が炭素数32~48の炭化水素基(R1)であることにより、リポソームなどの脂質ナノ粒子の膜を膜の安定性等確保しつつ適切に形成することができる。
以上より、本実施形態の脂質を用いることにより、核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ効果的に送達することができる。
【0011】
なお、本実施形態の脂質には、式(I)で表される化合物の他、その薬剤学的に許容される塩も含まれる。薬剤学的に許容される塩とは、生物学的有効性と本発明の化合物の特性を保持し、典型的には、生物学的にまたは他の点で望ましくないことはない塩を言う。
より詳細には、本実施形態の脂質は、例えば親水性領域がプロトン化して陽イオンを形成したりまたは脱プロトン化して陰イオンを形成し得る。脂質の陽イオンと対になり得る陰イオンとしては、薬剤学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン等の無機イオン;酢酸イオン、シュウ酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、安息香酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン等の有機酸イオン等が挙げられる。また、脂質の陰イオンと対になる陽イオンとしては、薬剤学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。
【0012】
ここで、本実施形態において、式(I)中のR1は、炭素数32~48の炭化水素基である。炭化水素基の炭素数を32~48にすることにより、リポソームなどの脂質ナノ粒子の膜の安定性が向上するとともに膜自体が大きくなりすぎるのを防止することができる。
ここで「炭化水素基」としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキルアルキル基などが挙げられ、好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基である。
【0013】
R1は、分岐状の炭化水素基であっても直鎖状の炭化水素基であってもよいが、分岐状であることが好ましい。また、R1の炭素数は32~46であることが好ましく、より好ましくは32~44であり、さらに好ましくは36~44である。これにより、脂質ナノ粒子の膜の安定性がより向上するとともに膜自体が大きくなりすぎるのをさらに防止することができる。
さらに、本実施形態において、R1の炭化水素基は、飽和していてもよいが不飽和であることが好ましく、また、当該不飽和結合はシス型であることがより好ましい。
【0014】
本実施形態において、R
1としては下記式(II)で表される炭化水素基であることが好ましい。
【化3】
(式中、R
11は、炭素数aの炭化水素基であり、R
12は、炭素数bの炭化水素基であり、ここで、aとbは、31≦a+b≦47を満たす。)
【0015】
R11およびR12は、特に限定されないが例えば、直鎖状の炭化水素基とすることができ、また、好ましくは炭素1~46の直鎖状の炭化水素基である。R11およびR12は、より好ましくは炭素数6~22の直鎖状の炭化水素基、より好ましくは炭素数10~22の直鎖状の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数17~22の直鎖状の炭化水素基であり、よりさらに好ましくは炭素数18~22の直鎖状の炭化水素基である。これにより、脂質ナノ粒子の膜の安定性がより向上するとともに膜自体が大きくなりすぎるのをさらに防止することができる。
【0016】
R11およびR12は、上記の炭素数の炭化水素基であって、少なくともいずれか一方が不飽和炭化水素基であることが好ましい。また、さらに好ましくは、R11およびR12の両方は、上記の炭素数の不飽和炭化水素基である。また、R11およびR12の少なくともいずれか一方が不飽和炭化水素基である場合には、1つの不飽和炭化水素基内の不飽和結合の数は、3つ以下であることが好ましく、より好ましくは2つ以下であり、最も好ましくは1つである。
また、R11およびR12の両方が不飽和炭化水素基である場合には、R11とR12中の末端炭素から数えた不飽和基の位置は、R11とR12で同じ位置であることが好ましい。
【0017】
また、R11についての炭素数aおよびR12についての炭素数bとが、1≦b-a≦20であることが好ましく、より好ましくは1≦b-a≦18であり、さらに好ましくは1≦b-a≦15であり、よりさらに好ましくは1≦b-a≦10であり、最も好ましくは1=b-aである。
さらに、炭素数a、bが、31≦a+b≦45であることが好ましく、31≦a+b≦43であることがより好ましく、35≦a+b≦43であることがさらに好ましい。
【0018】
R11およびR12は、特に限定されないが例えば、好ましくは炭素数10~22の直鎖飽和炭化水素基(即ち、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル)または炭素数10~22の直鎖不飽和炭化水素基(例えば、シス-9-テトラデセン-1-イル、シス-8-ペンタデセン-1-イル、シス-9-ヘキサデセン-1-イル、シス-8-ヘプタデセン-1-イル、シス-9-オクタデセン-1-イル、シス-8-ノナデセン-1-イル、シス-11-オクタデセン-1-イル、シス-9-エイコセン-1-イル、シス-11-エイコセン-1-イル、シス-12-ヘンイコセン-1-イル、シス-13-ドコセン-1-イル等のモノ不飽和炭化水素基、シス-8-シス-11-ヘプタデスジエン-1-イル、シス-9-シス-12-オクタデスジエン-1-イル等のジ不飽和炭化水素基、シス-8-シス-11-シス-14-ヘプタデストリエン-1-イル、シス-9-シス-12-シス-15-オクタデストリエン-1-イル、シス-8-シス-10-シス-12-ヘプタデストリエン-1-イル、シス-9-シス-11-シス-13-オクタデストリエン-1-イル等のトリ不飽和炭化水素基、シス-3-シス-7-シス-11-シス-14-ヘプタデステトラエン-1-イル、シス-4-シス-8-シス-12-シス-15-オクタデステトラエン-1-イル、シス-4-シス-7-シス-10-シス-13-ノナデステトラエン-1-イル、シス-5-シス-8-シス-11-シス-14-エイコサテトラエン-1-イル等のテトラ不飽和炭化水素基など)である。
R11およびR12は、好ましくは炭素数16~24の直鎖不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数18~22の直鎖不飽和炭化水素基であり、さらに好ましくは、R11はシス-8-ヘプタデセン-1-イル、シス-8-シス-11-ヘプタデスジエン-1-イル、シス-12-ヘンイコセン-1-イルであり、R12はシス-9-オクタデセン-1-イル、シス-9-シス-12-オクタデスジエン-1-イル、シス-13-ドコセン-1-イルであり、最も好ましくは、R11はシス-8-ヘプタデセン-1-イルであり、R12はシス-9-オクタデセン-1-イルである。
【0019】
本実施形態において、式(I)中のR2は、1つの任意のアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖である。アミノ酸としては、20種類の天然アミノ酸(Gly、Ara、Leu、Ile、Val、Arg、Lys、Glu、Gln、Asp、Asn、Cys、Met、His、Pro、Phe、Tyr、Thr、Ser、Trp)、並びに修飾および非天然アミノ酸(例えば、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、5-アミノ吉草酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチン、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸、ホモセリン、アミノマロン酸、ホモアルギニン、グリコシアミン、2,4-ジアミノブチル酸、アミノフェニルアラニン等)が挙げられる。
好ましくは、R2は、親水性アミノ酸の側鎖または親水性アミノ酸の誘導体の側鎖である。これにより、より効果的に核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ送達することができる。親水性アミノ酸としては、特に限定されないが例えば、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、システイン、2-アミノアジピン酸、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸、ホモセリン、アミノマロン酸が挙げられる。
また、好ましくは、R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、より好ましくは、R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖である。これにより、より効果的に核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ送達することができる。
さらに、好ましくは、R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、より好ましくは、R2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンおよびトレオニンの側鎖である。これにより、細胞毒性をより抑制しつつ、細胞質へ効果的に核酸等の導入化合物を送達することができる。
なお、R2が親水性アミノ酸の誘導体の側鎖である場合、親水性アミノ酸の誘導体も親水性を示すことが好ましく、例えば極性基や電荷を有することができる官能基を備えることで親水性を示すことができる。
【0020】
なお、アミノ酸の誘導体の側鎖とは、
(i)-NHR4または-N(R4)2基で置き換えられた-NH2基(ここで、各R4は、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(ii)-O-PO3H2、-OR4または-OCOR4基で置き換えられた-OH基(ここで、各R4は、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iii)-COOR4基で置き換えられた-COOH基(ここで、各R4は、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iv)-CON(R4)2基で置き換えられた-COOH基(ここで、各R4は、独立して、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(v)-S-S-CH2-CH(NH2)-COOHまたは-S-S-CH2-CH2-CH(NH2)-COOHで置き換えられた-SH基、
(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基(ここで、各R4は、独立して、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(vii)-CH2-NH2、-CH2-OH、-CH2R4基で置き換えられた-CH3基(ここで、各R4は、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、および/または、
(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、
を有するものが挙げられる。
また、上記のR4は好ましくはアルキルであり、より好ましくは炭素数1~6のアルキルであり、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキルであり、よりさらに好ましくは炭素数1のアルキルである。
【0021】
また、本明細書において、アミノ酸にはL体、D体およびラセミ体も含まれるが、L体であることが好ましい。
【0022】
なお、R2が、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の誘導体の側鎖である場合において、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン、セリンおよびトレオニンの誘導体の側鎖とは、例えば下記が挙げられる。
すなわち、R2がアスパラギン酸またはグルタミン酸の場合には、誘導体の側鎖とは、(iii)-COOR4基で置き換えられた-COOH基、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基、および/または、(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、を有するものが挙げられる。
また、ヒスチジンまたはメチオニンの場合には、誘導体の側鎖とは、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基、および/または、(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、を有するものが挙げられる。
さらに、R2がセリンの場合には、誘導体の側鎖とは、(ii)-O-PO3H2、-OR4または-OCOR4基で置き換えられた-OH基、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基、および/または、(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、を有するものが挙げられる。
また、R2がトレオニンの場合には、誘導体の側鎖とは、(ii)-O-PO3H2、-OR4または-OCOR4基で置き換えられた-OH基、(vii)-CH2-NH2、-CH2-OH、-CH2R4基で置き換えられた-CH3基、および/または、(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、を有するものが挙げられる。
なお、上記のいずれのアミノ酸についての誘導体の側鎖とは、好ましくは、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するもの(トレオニンの場合には、(vii)-CH2-NH2、-CH2-OH、-CH2R4基で置き換えられた-CH3基)であることが好ましく、より好ましくは、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するもの(トレオニンの場合には、-CH2R4基で置き換えられた-CH3基)である。
また、上記のR4は、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい。また、R4が分子内に複数存在する場合には相互に独立して上記より選択される。さらに、R4は、好ましくはアルキルであり、より好ましくは炭素数1~6のアルキルであり、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキルであり、よりさらに好ましくは炭素数1のアルキルである。
【0023】
本実施形態において、式(I)中のR3は、塩基性アミノ酸の側鎖または当該塩基性アミノ酸の誘導体の当該側鎖であり、好ましくは、R3は、塩基性アミノ酸の側鎖である。より好ましくは、R3は、リジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、さらに好ましくは、R3は、リジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖である。またより好ましくは、R3は、アルギニンの側鎖またはアルギニンの誘導体の側鎖であり、さらに好ましくは、R3はアルギニンの側鎖である。
このようにすることにより、細胞質へ効果的に核酸等の導入化合物を送達することができる。
【0024】
なお、塩基性アミノ酸とは、天然アミノ酸並びに修飾および非天然アミノ酸のうち塩基性を示す残基を有するアミノ酸が挙げられ、具体的には、特に限定されないが例えば、リジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、グリコシアミン、オルニチン、2,4-ジアミノブチル酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、アミノフェニルアラニン等を挙げることができる。
【0025】
R3が、塩基性アミノ酸の誘導体の側鎖である場合、それらの側鎖は、上記のアミノ酸の誘導体の側鎖として挙げた(i)~(viii)を有する側鎖とすることができる。また、この場合、R4は好ましくはアルキルであり、より好ましくは炭素数1~6のアルキルであり、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキルであり、よりさらに好ましくは炭素数1のアルキルである。
なお、R3が、塩基性アミノ酸の誘導体の側鎖である場合、塩基性アミノ酸の誘導体も塩基性を示すことが好ましく、例えばアミノ基やプロトンを受容可能な官能基を備えることで塩基を示すことができる。
【0026】
なおR3が、リジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の誘導体の側鎖である場合において、リジン、ヒスチジン、アルギニンの誘導体の側鎖とは、例えば下記が挙げられる。
すなわち、R3がリジンの場合には、誘導体の側鎖とは、(i)-NHR4または-N(R4)2基で置き換えられた-NH2基、および/または、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するものが挙げられる。
また、R3がヒスチジンの場合には、誘導体の側鎖とは、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するものが挙げられる。
さらに、R3がアルギニンの場合には、誘導体の側鎖とは、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するものが挙げられる。
なお、上記のいずれのアミノ酸についての誘導体の側鎖とは、好ましくは、(vi)-CH(NH2)-、-CH(OH)-、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するものであることが好ましく、より好ましくは、-CHR4-基で置き換えられた-CH2-基を有するものである。
また、上記のR4は、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールであって、置換されてもよく、または置換されなくてもよい。また、R4が分子内に複数存在する場合には相互に独立して上記より選択される。さらに、R4は、好ましくはアルキルであり、より好ましくは炭素数1~6のアルキルであり、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキルであり、よりさらに好ましくは炭素数1のアルキルである。
【0027】
本実施形態において、式(I)中のR2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、且つ、R3は、リジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であることが好ましく、より好ましくは、式(I)中のR2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、セリンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖であり、且つ、R3は、リジン、ヒスチジン、アルギニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖である。
また、式(I)中のR2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖または当該アミノ酸の誘導体の側鎖であり、且つ、R3は、アルギニンの側鎖またはアルギニンの誘導体の側鎖であることが好ましく、より好ましくは、式(I)中のR2は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンおよびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸の側鎖であり、且つ、R3は、アルギニンの側鎖である。
【0028】
上記式(I)で表される脂質の具体例としては、特に限定されないが例えば以下の式(1a)~(1l)で示される脂質が挙げられる。また、下記の式(1a)~(1l)で示される脂質のうち、式(1a)、(1b)、(1e)、(1l)がより好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0029】
[脂質の製造方法]
式(I)で表される化合物は特に限定されないが例えば次のようにして製造することができる。
まず、脂質親和性領域(R1-O-)に対応する脂肪族アルコール(R1-OH)と、脂質親和性領域から数えて1つ目の第1アミノ酸部分(-O-CO-CR2-NH-)に対応するアミノ酸(HO2C-CR2-NH2)または当該アミノ酸の誘導体(当該アミノ酸および当該アミノ酸の誘導体を第1アミノ酸とも称す)と、2つ目の第2アミノ酸部分(-NH-CO-CR3-NH2)に対応するアミノ酸またはアミノ酸の誘導体(当該アミノ酸または当該アミノ酸の誘導体を第2アミノ酸とも称す)と、を準備する。
【0030】
続いて、脂肪族アルコールのヒドロキシ基と第1アミノ酸のカルボキシ基とをエステル化し、次いで、上記のエステル化体のアミノ基と第2アミノ酸のカルボキシ基とをアミド化する。このようにすることにより、本実施形態の脂質を得ることができる。
なお、エステル化反応やアミド化反応を行うに当たり、各化合物が所望の官能基で反応するように、第1アミノ酸や第2アミノ酸の官能基を保護基で予め保護することもできる。
また、第1アミノ酸と第2アミノ酸とをアミド化し、次いで、アミド化体と脂肪族アルコールとをエステル化することもできる。
【0031】
なお、脂肪族アルコール(R
1-OH)は、所望の脂肪酸又は脂肪族ケトンを還元反応することにより得ることができるが、例えば脂肪族アルコール(R
1-OH)のR
1が下記式(II)で表される(すなわち、第2級アルコールの場合)には、次のようにして脂肪族アルコール(R
1-OH)を得ることができる。
【化16】
【0032】
まず、R11の炭化水素基の1位にカルボキシ基を有する脂肪酸(蟻酸のカルボニル炭素にR11が付加した脂肪酸)および、例えばR12の炭化水素基の1位にヒドロキシ基を有する脂肪族アルコールを準備する(なお、R12の炭化水素基の1位にカルボキシ基を有する脂肪酸および、例えばR11の炭化水素基の1位にヒドロキシ基を有する脂肪族アルコールを準備してもよいが、ここでは前者の場合について説明する)。
次いで、前記R12の1位にヒドロキシ基を有する脂肪族アルコールから、例えば、そのヒドロキシ基のハロゲン化等を経ることにより有機金属試薬を得る。そして、前記R11の1位にカルボキシ基を有する脂肪酸と当該有機金属試薬とを反応させることにより、R1が式(II)で表される脂肪族アルコールを得ることができる。
【0033】
ここで、本実施形態の脂質の具体的な製造方法について、上記の式(Ia)の脂質(第1アミノ酸としてアスパラギン酸、第2アミノ酸部分としてアルギニン)を用いて下記に説明する。
下記の例では、アスパラギン酸を脂肪族アルコールとエステル化する前に、アスパラギン酸のカルボキシ基およびアミノ基に保護基(それぞれt-Bu基、Fmoc基)を付加させ、そして、脂肪族アルコール(a)とアスパラギン酸(b)とをエステル化する。
【化17】
【0034】
続いて、下記に示すように、上記の過程で得たエステル化体(c)のアミノ基に付加させた保護基(-Fmoc)を脱離させ、脱離させたエステル化体(d)のアミノ基とアルギニン(e)のカルボキシ基とをアミド化する。この例では、アルギニンをアミド化する前に、アルギニンのアミノ基およびグアニジノ基には保護基(それぞれFmoc基、Pbf基)が付加されている。
【化18】
【0035】
上記のようにして得られたアミド化体(f)は、この例では保護基を有することから、保護基を脱離させることにより、式(Ia)の脂質を得ることができる。
【化19】
【0036】
[導入化合物]
ここで、本実施形態の脂質は、所定の導入化合物を細胞内に導入するための細胞内導入用として用いることができる。具体的な導入化合物としては、核酸、ペプチド、タンパク質などが挙げられる。導入化合物は、生物学的に活性な物質とすることができ、細胞または臓器に送達され細胞内に導入されると、細胞、臓器、または他の身体組織もしくは系に望ましい変化をもたらす物質であり得、感染症、疾患、障害、病態等の治療や予防に有用であり得る。
また、導入化合物は、細胞毒素、放射性イオン、化学療法薬、ワクチン、免疫応答を誘発する化合物(治療薬及び/または予防薬)であり得る。ワクチンには、インフルエンザ、麻疹、ヒトパピローマウイルス(HPV)、狂犬病、髄膜炎、百日咳、破傷風、ペスト、肝炎、結核、及びコロナウイルスなどの感染症に関連する1つ以上の状態に対する免疫を提供できる化合物及び製剤が含まれる。また、ワクチンには、上記の感染症由来の抗原及び/またはエピトープをコードする核酸、具体的にはmRNAが含まれ得る。また、ワクチンには、がん細胞などの腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する化合物及び製剤も含まれ、腫瘍細胞由来の抗原、エピトープ、及び/またはネオエピトープをコードする核酸、具体的にはmRNAが含まれ得る。免疫応答を誘発する化合物には、ワクチン、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)、及びその他の種が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
本実施形態において、核酸としては、ヌクレオチドおよび/または該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であれば、いかなる分子であってもよく、例えばリボヌクレオチドの重合体であるRNA、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるDNA、RNAとDNAとからなるキメラ核酸、およびこれらの核酸の少なくとも一つのヌクレオチドが該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子で置換されたヌクレオチド重合体があげられる。また、ヌクレオチドおよび/または該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子を少なくとも一つ含む誘導体も、本実施形態における核酸に含まれる。さらにペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624(1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am. Chem. Soc.,123, 4653(2001)]、ペプチドリボ核酸(PRNA)[J. Am. Chem. Soc., 122, 6900(2000)]等もあげられる。なお、本実施形態において、RNA中のウリジンUと、DNAにおいてはチミンTとは、それぞれ読み替えることができる。
ヌクレオチドと同等の機能を有する分子としては、例えばヌクレオチド誘導体等があげられる。
【0038】
本実施形態において、核酸としては、メッセンジャーRNA(mRNA)を含むリボ核酸(RNA)が挙げられ、mRNAは、任意の天然に存在するかもしくは天然に存在しない、またはそうでなければ修飾されたポリペプチドを含む、目的のポリペプチドをコードしてもよい。mRNAによってコードされるポリペプチドは任意のサイズものであってよく、任意の二次構造または活性を有してもよい。いくつかの実施形態では、mRNAによってコードされるポリペプチドは、細胞内で発現すると治療効果を発揮し得る。
【0039】
また、本実施形態において、核酸としては、好ましくは標的遺伝子の発現を抑制する核酸もあげられ、より好ましくはRNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸があげられる。
【0040】
本実施形態において、標的遺伝子としては、mRNAを産生して発現する遺伝子であれば特に限定されないが、例えば、腫瘍または炎症に関連する遺伝子が好ましく、例えば血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、以下VEGFと略す)、血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor、以下VEGFRと略す)、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子(Kruppel-like factor、以下KLFと略す)、Ets転写因子、核因子、低酸素誘導因子、細胞周期関連因子、染色体複製関連因子、染色体修復関連因子、微小管関連因子、増殖シグナル経路関連因子、増殖関連転写因子、アポトーシス関連因子等のタンパク質をコードする遺伝子等があげられ、具体的にはVEGF遺伝子、VEGFR遺伝子、線維芽細胞増殖因子遺伝子、線維芽細胞増殖因子受容体遺伝子、血小板由来増殖因子遺伝子、血小板由来増殖因子受容体遺伝子、肝細胞増殖因子遺伝子、肝細胞増殖因子受容体遺伝子、KLF遺伝子、Ets転写因子遺伝子、核因子遺伝子、低酸素誘導因子遺伝子、細胞周期関連因子遺伝子、染色体複製関連因子遺伝子、染色体修復関連因子遺伝子、微小管関連因子遺伝子(例えば、CKAP5遺伝子等)、増殖シグナル経路関連因子遺伝子(例えば、KRAS遺伝子等)、増殖関連転写因子遺伝子、アポトーシス関連因子(例えば、BCL-2遺伝子等)等が挙げられる。
【0041】
また、本実施形態において、標的遺伝子としては、例えば、肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子が好ましく、例えば前記の腫瘍または炎症に関連する遺伝子、B型肝炎ウイルスゲノム、C型肝炎ウイルスゲノム、アポリポタンパク質(APO)、ヒドロキシメチルグルタリル(HMG)CoA還元酵素、ケキシン9型セリンプロテアーゼ(PCSK9)、第12因子、グルカゴン受容体、グルココルチコイド受容体、ロイコトリエン受容体、トロンボキサンA2受容体、ヒスタミンH1受容体、炭酸脱水酵素、アンギオテンシン変換酵素、レニン、p53、チロシンホスファターゼ(PTP)、ナトリウム依存性グルコース輸送担体、腫瘍壊死因子、インターロイキン等のタンパク質をコードする遺伝子等があげられる。
【0042】
標的遺伝子の発現を抑制する核酸としては、例えば蛋白質等をコードする遺伝子(標的遺伝子)のmRNAの一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含み、かつ標的遺伝子の発現を抑制する核酸であれば、例えばsiRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)等の二本鎖核酸、shRNA(short hairpin RNA)、アンチセンス核酸、リボザイム等の一本鎖核酸等、いずれの核酸を用いてもよいが、二本鎖核酸が好適に用いられる。
標的遺伝子のmRNAの一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含む核酸をアンチセンス鎖核酸といい、アンチセンス鎖核酸の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含む核酸をセンス鎖核酸ともいう。センス鎖核酸は、標的遺伝子の一部の塩基配列からなる核酸そのもの等、アンチセンス鎖核酸と対合して二重鎖形成部ができる核酸をいう。
二本鎖核酸とは、二本の鎖が対合し二重鎖形成部を有する核酸をいう。二重鎖形成部とは、二本鎖核酸を構成するヌクレオチドまたはその誘導体が塩基対を構成して二重鎖を形成している部分をいう。二重鎖形成部を構成する塩基対は、通常15~27塩基対であり、15~25塩基対が好ましく、15~23塩基対がより好ましく、15~21塩基対がさらに好ましく、15~19塩基対が特に好ましい。
【0043】
二重鎖形成部のアンチセンス鎖核酸としては、標的遺伝子のmRNAの一部配列に対して相補的な塩基配列を含む核酸、または該核酸において1~3塩基、好ましくは1~2塩基、より好ましくは1塩基が置換、欠失もしくは付加され、かつ標的蛋白質の発現抑制活性を有する核酸が好適に用いられる。二本鎖核酸を構成する一本鎖の核酸長は、通常15~30塩基からなるが、15~29塩基が好ましく、15~27塩基がより好ましく、15~25塩基がさらに好ましく、17~23塩基が特に好ましく、19~21塩基が最も好ましい。
二本鎖核酸を構成するアンチセンス鎖、センス鎖のいずれか一方、または両方の核酸は、二重鎖形成部に続く3’側または5’側に二重鎖を形成しない追加の核酸を有してもよい。この二重鎖を形成しない部分を突出部(オーバーハング)ともいう。
突出部を有する二本鎖核酸としては、少なくとも一方の鎖の3’末端または5’末端に1~4塩基、通常は1~3塩基からなる突出部を有するものが用いられるが、2塩基からなる突出部を有するものが好ましく用いられ、dTdTまたはUUからなる突出部を有するものがより好ましく用いられる。突出部は、アンチセンス鎖のみ、センス鎖のみ、およびアンチセンス鎖とセンス鎖の両方に有することができるが、アンチセンス鎖とセンス鎖の両方に突出部を有する二本鎖核酸が好ましく用いられる。
また、二重鎖形成部に続いて標的遺伝子のmRNAと一部または全てが一致する配列、または、二重鎖形成部に続いて標的遺伝子のmRNAの相補鎖の塩基配列と一致する配列を用いてもよい。さらに、標的遺伝子の発現を抑制する核酸としては、例えばDicer等のリボヌクレアーゼの作用により前記の二本鎖核酸を生成する核酸分子(国際公開第2005/089287号)や、3’末端や5’末端の突出部を有していない二本鎖核酸などを用いることもできる。
【0044】
また、前記の二本鎖核酸がsiRNAである場合、アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って少なくとも1~17番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列であり、好ましくは、該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1~19番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する19塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1~21番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する21塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1~25番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する25塩基の配列と相補的な塩基の配列である。
【0045】
さらに、本実施形態において、核酸がsiRNAである場合、好ましくは該核酸中の糖の10~70%、より好ましくは15~60%、さらに好ましくは20~50%が、2’位において修飾基で置換されたリボースである。本実施形態において、リボースの2’位において修飾基で置換されたとは、2’位の水酸基が修飾基に置換されているものを意味し、リボースの2’位の水酸基と立体配置が同じであっても異なっていてもよいが、好ましくはリボースの2’位の水酸基と立体配置が同じである。2’位において修飾基で置換されたリボースは、糖部修飾ヌクレオチドにおける2’-修飾ヌクレオチドに包含され、2’位において修飾基で置換されたリボースの修飾基は、2’-修飾ヌクレオチドの修飾基と同義である。
【0046】
本実施形態において、核酸には、核酸の構造中のリン酸部、エステル部等に含まれる酸素原子等が、例えば硫黄原子等の他の原子に置換された誘導体を包含する。
【0047】
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の5’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ5’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等でリン酸基もしくは前記の修飾基に変換される基によって修飾されていてもよい。
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の3’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ3’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等でリン酸基もしくは前記の修飾基に変換される基によって修飾されていてもよい。
【0048】
一本鎖の核酸としては、標的遺伝子の連続する15~27塩基、好ましくは15~25塩基、より好ましくは15~23塩基、さらに好ましくは15~21塩基、特に好ましくは15~19塩基からなる配列の相補配列からなる核酸、または該核酸において1~3塩基、好ましくは1~2塩基、より好ましくは1塩基が置換、欠失もしくは付加され、かつ標的蛋白質の発現抑制活性を有する核酸であればいずれでもよい。該一本鎖の核酸長は、15~30塩基以下、好ましくは15~29塩基、より好ましくは15~27塩基、さらに好ましくは15~25塩基、特に好ましくは15~23塩基の一本鎖核酸が好適に用いられる。
一本鎖核酸として、上記の二本鎖核酸を構成するアンチセンス鎖およびセンス鎖を、スペーサー配列(スペーサーオリゴヌクレオチド)を介して連結したものを用いてもよい。スペーサーオリゴヌクレオチドとしては6~12塩基の一本鎖核酸分子が好ましく、その5’末端側の配列は2個のUであるのが好ましい。スペーサーオリゴヌクレオチドの例として、UUCAAGAGAの配列からなる核酸があげられる。スペーサーオリゴヌクレオチドによってつながれるアンチセンス鎖およびセンス鎖の順番はどちらが5’側になってもよい。該一本鎖核酸としては、ステムループ構造によって二重鎖形成部を有するshRNA等の一本鎖核酸であることが好ましい。shRNA等の一本鎖核酸は、通常50~70塩基長である。
リボヌクレアーゼ等の作用により、上記の一本鎖核酸または二本鎖核酸を生成するように設計した、70塩基長以下、好ましくは50塩基長以下、さらに好ましくは30塩基長以下の核酸を用いてもよい。
【0049】
なお、本実施形態で用いられる核酸は、既知のRNAまたはDNA合成法、およびRNAまたはDNA修飾法を用いて製造すればよい。
【0050】
[組成物]
つづいて、本実施形態に係る組成物について説明する。
本実施形態の組成物は、上記の式(I)で表される脂質と、上記の導入化合物とを含有し、より具体的には、複数の式(I)で表される脂質が集合して形成され、内部に導入化合物が包含される脂質ナノ粒子を含むことができる。
【0051】
本実施形態の組成物は、式(I)で表される脂質の2種以上を組み合わせて含有してもよく、あるいは、導入化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲であれば、上記式(I)で表される脂質以外の分子、例えば、両親媒性分子(例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン等の生体膜由来のリン脂質など)、カチオン性脂質分子、界面活性剤(例えば、CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N-D-グルコ-N-メチルアルカンアミド類など)、ポリエチレングリコール修飾脂質、糖脂質、ペプチド脂質、蛋白質、ステロールなどをさらに含有してもよい。
【0052】
なお、ポリエチレングリコール修飾脂質としては、PEG2000-DMG(PEG2000-ジミリスチルグリセロール)、PEG2000-DPG(PEG2000-ジパルミトイルグリセロール)、PEG2000-DSG(PEG2000-ジステアロイルグリセロール)、PEG5000-DMG(PEG5000-ジミリスチルグリセロール)、PEG5000-DPG(PEG5000-ジパルミトイルグリセロール)、PEG5000-DSG(PEG5000-ジステアロイルグリセロール)、PEG-cDMA(N-[(メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバミル]-1,2-ジミリスチルオキシルプロピル-3-アミン)、PEG-C-DOMG(R-3-[(ω-メトキシ-ポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル]-1,2-ジミリスチルオキシルプロピル-3-アミン)、ポリエチレングリコール(PEG)-ジアシルグリセロール(DAG)、PEG-ジアルキルオキシプロピル(DAA)、PEG-リン脂質、PEG-セラミド(Cer)等が挙げられる。ポリエチレングリコール修飾脂質は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
ステロールとしては、コレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴカステロール、フコステロール、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)等が挙げられる。ステロールは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
本実施形態において、脂質ナノ粒子の形成は、上記の式(I)で表される脂質が集合して組織化されることで形成され得る。ここで「組織化」とは、上記式(I)で表される脂質と、任意で含有させることができる、式(I)で表される脂質以外の分子とを含む構成分子同士が、疎水結合等の非共有結合を介して集合することをいう。組織化された集合体としては、構成分子の疎水部同士が疎水結合し形成される二重膜、リポソーム、多重ベシクル、ひも状会合体、ディスク状会合体、ラメラ状会合体、ロッド状会合体等及びこれらの混合物が含まれる。組織化される過程で、導入化合物を内部に包含させることで脂質ナノ粒子を得ることができる。
【0054】
本実施形態の組成物は、上述した成分の他にも、その他の添加剤として、ショ糖、ブドウ糖、ソルビトール、乳糖等の糖;グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、ヒスチジン等のアミノ酸;クエン酸、リン酸、酢酸、乳酸、炭酸、酒石酸等の酸の塩等を含有してもよい。
【0055】
本実施形態の組成物は、医薬組成物として製剤化されていてもよい。医薬組成物の剤型としては、例えば注射剤が挙げられる。
【0056】
本実施形態の組成物は、例えば、凍結乾燥等により溶媒を除去した粉末状態であってもよく、液体状態であってもよい。組成物が粉末状態である場合には、使用前に薬学的に許容される媒体に懸濁又は溶解させて注射剤として用いることができる。組成物が液体状態である場合には、そのままで又は薬学的に許容される媒体に懸濁又は溶解させて注射剤として用いることができる。
【0057】
薬学的に許容される媒体としては、滅菌水;生理食塩水;ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液等が挙げられる。本実施形態の組成物は、更に、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール等の溶解補助剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0058】
本実施形態の組成物の脂質ナノ粒子の粒子径は、平均粒子径を算出することができ、脂質ナノ粒子の粒子径(平均粒子径)は、250nm以下が好ましく、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下であり、さらにより好ましくは130nm以下であり、最も好ましくは120nm以下である。また、脂質ナノ粒子の粒子径(平均粒子径)は、10nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上である。
また、脂質ナノ粒子の多分散指数(PDI)は、0.4以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下であり、さらに好ましくは0.2以下である。
粒子径および/または多分散指数が上記範囲であることにより、生体内の標的細胞または組織などの対象に到達させやすくすることができる。
平均粒子径や多分散指数は、実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0059】
実施形態の組成物は、非特異的な吸着や免疫反応を抑制する観点から、例えばpH7.4のTris-HCl中で測定した組成物の電荷が低いことが好ましい。
pH7.4のTris-HCl中で測定した組成物の電荷は、実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0060】
本実施形態の組成物の脂質ナノ粒子は、特に限定されることはなく公知の方法により形成することができる。
組成物の製造方法としては、例えば、導入化合物を含むクエン酸緩衝液などの水溶液と、本実施形態の脂質を少なくとも含有する極性有機溶媒含有溶液とを調製する工程と、水溶液と極性有機溶媒含有溶液とを混合し混合液を得る工程と、混合液中の極性有機溶媒を除去する工程と、を備える。この組成物の製造方法によれば、導入化合物が効率よく内部に封入された脂質ナノ粒子を含む組成物を得ることができる。
【0061】
極性有機溶媒含有溶液には、本実施形態の脂質以外の分子、例えば、両親媒性分子(例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン等の生体膜由来のリン脂質など)、カチオン性脂質分子、界面活性剤(例えば、CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N-D-グルコ-N-メチルアルカンアミド類など)、ポリエチレングリコール修飾脂質、糖脂質、ペプチド脂質、蛋白質、コレステロール等のステロールなどをさらに含有してもよい。
また、極性有機溶媒含有溶液の極性有機溶媒としては、特に限定されないが、溶媒の極性や脂質ナノ粒子の形成後の溶媒の除去の容易性の観点より、例えばエタノール、t-ブタノールなどのアルコールが挙げられる。
【0062】
混合液を得る工程は、例えばボルテックスミキサーやマイクロ流路を用いて行うことができる。また、混合液を得る工程により、混合液中において導入化合物を内部に封入された脂質ナノ粒子を形成させることができる。
極性有機溶媒を除去する工程では、例えば透析濾過、限外濾過または減圧下での蒸発により極性有機溶媒の含有量を低減させることができる。
【0063】
なお、混合液を得る工程および極性有機溶媒の含有量を低減させる工程の間に、インキュベーション工程をおこなうこともきる。
【0064】
本実施形態において、例えば、本実施形態の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈内投与することで、例えば癌または炎症の生じた臓器または部位へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本実施形態の組成物中の核酸などの導入化合物を導入することができる。癌または炎症の生じた臓器または部位としては、特に限定されないが、例えば胃、大腸、肝臓、肺、脾臓、膵臓、腎臓、膀胱、皮膚、血管、眼球等があげられる。また、本実施形態の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈内投与することで、例えば血管、肝臓、肺、脾臓および/または腎臓へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本実施形態の組成物中の導入化合物を導入することができる。肝臓、肺、脾臓および/または腎臓の細胞は、正常細胞、癌もしくは炎症に関連した細胞またはその他の疾患に関連した細胞のいずれでもよい。
本実施形態の組成物中の導入化合物が核酸であり、核酸がRNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸であれば、ほ乳類の細胞内に、遺伝子の発現を抑制する核酸等を導入することができ、遺伝子等の発現の抑制ができる。投与対象は、人であることが好ましい。
また、本実施形態の組成物における標的遺伝子が、例えば腫瘍または炎症に関連する遺伝子であれば、本実施形態の組成物を、癌または炎症疾患の治療剤または予防剤、好ましくは固形癌または血管もしくは血管近傍の炎症の治療剤または予防剤として使用することができる。具体的には、本実施形態の組成物における標的遺伝子が、血管新生に関連する遺伝子等であれば、血管平滑筋の増殖や血管新生等を抑制できるので、本実施形態の組成物を、例えば血管平滑筋の増殖や血管新生を伴う癌または炎症疾患の治療剤または予防剤として使用することができる。
即ち、本実施形態では、上記説明した本実施形態の組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法も提供する。投与対象は、人であることが好ましく、癌または炎症疾患に罹患している人がより好ましい。
【0065】
本実施形態の組成物は、例えば血液成分等の生体成分(例えば血液、消化管等)中での前記核酸の安定化、副作用の低減または標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器への薬剤集積性の増大等を目的とする製剤としても使用できる。
【0066】
さらに、本実施形態の組成物中の導入化合物が核酸であり、核酸が感染症や腫瘍細胞由来の抗原等をコードするmRNAであれば、特異的免疫応答を誘導するように指向することができ、したがって、感染症や腫瘍を含む幅広い種類の疾患のための、広範な治療的および予防的mRNAワクチンを開発することに適用され得る。
【0067】
本実施形態の組成物の投与経路としては、治療に際し最も効果的な投与経路を使用するのが望ましく、口腔内、気道内、直腸内、皮下、皮内、筋肉内または静脈内等の非経口投与または経口投与を挙げることができ、好ましくは静脈内投与または筋肉内投与を挙げることができる。また、本実施形態の組成物をmRNAワクチンとして使用する場合には筋肉内投与が好ましい。
組成物の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の脂質および組成物は、上記の例に限定されることは無く、本発明の脂質および組成物には、適宜変更を加えることができる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、限定するものと解釈されるべきではない。なお、最終生成物、中間体、および出発物質の構造は、例えば標準的な分析方法、例えばMSまたはNMRにより確認される。下記の実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である。いくつかの略語を以下に示す。
DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド
DMAP:N,N-ジメチル-4-アミノピリジン
TEA:トリエチルアミン
THF:テトラヒドロフラン
TFA:トリフルオロ酢酸
MsCl:メタンスルホニルクロリド
【0070】
1HNMRスペクトルは、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置、JNM-ECZ400S、400MHzの分光計で記録した。すべての化学シフトはクロロホルムに対する百万分率(δ)で報告されている。以下の略語が信号パターンを示すために使用される:S=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、qはカルテット=、quin=クインテット、M=マルチプレット、br=ブロード。
MSデータは、高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(装置名:UPLC-MS/MSシステムACQUITY TQD;日本ウォーターズ株式会社製)を用いてESI+のイオンモードで測定した。測定条件は、キャピラリー電圧4.0kV、コーン電圧30V、ソース温度100℃、脱溶媒ガス温度250℃とした。
【0071】
<脂質の合成>
以下に示す実施例および比較例の脂質を合成した。
[実施例1]
3-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(以下、脂質(Ia)とも称す)の合成
脂質(Ia)は、脂質親和性領域が炭素数36個の炭化水素基であり、親水性領域が、Asp(第1アミノ酸)、Arg(第2アミノ酸)由来のジペプチドである。以下に、脂質(Ia)の合成方法について説明する。
【0072】
工程(a1):N-メトキシ-N-メチロールアミドの合成
【化20】
オレイン酸(42.4g、150mmol)、DMAP(2.75g、22.5mmol)、N,O-ジメチルヒドロキシルアミン塩酸塩(21.9g、225mmol)をジクロロメタン(150mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的のN-メトキシ-N-メチロールアミドを定量的に得た。
【0073】
工程(a2):(Z)-オクタデカ-9-エン-1-イルメタンスルホン酸の合成
【化21】
オレイルアルコール(100.0g、372.45mmol)、TEA(113.07g、1.117mmol)をTHF(900mL)に溶解し0℃まで冷却した溶液中に、MsCl(63.9g、558.7mmol)を添加した。添加後室温まで昇温させ、室温にて2時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン及びトリエチルアミンを減圧下で濃縮し、得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(Z)-オクタデカ-9-エン-1-イルメタンスルホン酸を定量的に得た。
【0074】
工程(a3):(Z)-1-ブロモオクタデカ-9-エンの合成
【化22】
上記の工程(a2)で得た(Z)-オクタデカ-9-エン-1-イルメタンスルホン酸(135g、390mmol)、臭化リチウム(161g、1850mmol)をアセトン(300mL)に溶解し、還流下で1時間反応させた。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン)にて精製し、目的の(Z)-1-ブロモオクタデカ-9-エンを定量的に得た。
【0075】
工程(a4):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オンの合成
【化23】
マグネシウム(3.73g、154mmol)、ジエチルエーテル(25mL)中に、工程(a3)で得た(Z)-1-ブロモオクタデカ-9-エン(40.7g、123mmol)のジエチルエーテル(250mL)溶液を撹拌しながら滴下した。滴下終了後1時間攪拌し、続けて工程(a1)で得たN-メトキシ-N-メチロールアミド(20g、61.4mmol)のジエチルエーテル(125mL)溶液を滴下した。薄層クロマトグラフィ(TLC)にて原料消失を確認した時点を反応終了とした。反応終了後、反応系中に水を加えクエンチし、酢酸エチルにて抽出し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オンを定量的に得た。
【0076】
工程(a5):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オールの合成
【化24】
工程(a4)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オン(31.9g、61.7mmol)をTHF(120mL)、メタノール(120mL)に溶かした溶液中に、水素化ホウ素ナトリウム(11.7g、309mmol)を添加し、反応させた。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オールを定量的に得た。
【0077】
工程(a6):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アスパルテートの合成
【化25】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(4.0g、7.7mmol)と、予めアスパラギン酸のアミノ基およびカルボキシ基に保護基(それぞれFmoc基、tBu基)を付加させたFmoc-Asp(tBu)-OH(3.8g、9.2mmol)と、DCC(2.3g、11.5mmol)と、DMAP(0.28g、2.3mmol)と、をジクロロメタン(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アスパルテートを得た(3.5g、3.8mmol、50%)。
【0078】
工程(a7):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)アスパルテートの合成
【化26】
工程(a6)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アスパルテート(3.0g、3.3mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)アスパルテートを得た(1.2g、1.7mmol、53%)。
【0079】
工程(a8):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテートの合成
【化27】
工程(a7)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)アスパルテート(1.0g、1.4mmol)と、Fmoc-Arg(Pbf)-OH(1.88g、2.9mmol)(TCI製)と、DCC(0.42g、2.9mmol)と、をジクロロメタン(9mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテートを得た(1.8g、1.4mmol、94%)。
【0080】
工程(a9):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテートの合成
【化28】
工程(a8)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテート(1.8g、1.4mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテートを得た(0.9g、1.1mmol、73%)。
【0081】
工程(a10):3-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(脂質(Ia))の合成
【化29】
工程(a9)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルアスパルテート(0.9g、1.1mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の3-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(脂質(Ia))を得た(0.3g、0.37mmol、36%)。
【0082】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.47-5.13 (4H), 4.93-4.61 (2H), 4.13-3.73 (1H), 3.36-2.90 (2H), 2.89-2.42 (2H), 2.11-1.76 (10H), 1.57-1.42 (6H), 1.42-0.98 (46H), 0.98-0.25 (6H)
[C46H87N5O5H]+: 790.73
【0083】
[実施例2]
4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(以下、脂質(Ib)とも称す)の合成
脂質(Ib)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をGluに変更した脂質である。以下に、脂質(Ib)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同じであるため省略する。
【0084】
工程(b6):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)グルタメートの合成
【化30】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(3.0g、5.7mmol)と、予めグルタミン酸のアミノ基およびカルボキシ基に保護基(それぞれFmoc基、tBu基)を付加させたFmoc-Glu(tBu)-OH(4.92g、11.5mmol)と、DCC(2.6g、13mmol)と、DMAP(0.24g、1.9mmol)と、をジクロロメタン(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)グルタメートを得た(6.8g、7.6mmol、79%)。
【0085】
工程(b7):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタメートの合成
【化31】
工程(b6)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)グルタメート(3.6g、3.8mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタメートを得た(1.6g、2.3mmol、58%)。
【0086】
工程(b8):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメートの合成
【化32】
工程(b7)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタメート(1.6g、2.3mmol)と、予めアルギニンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Pbf基)を付加させたFmoc-Arg(Pbf)-OH(2.95g、4.5mmol)と、DCC(0.65g、4.5mmol)と、をジクロロメタン(10mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメートを得た(2.8g、2.1mmol、92%)。
【0087】
工程(b9):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメートの合成
【化33】
工程(b8)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメート(2.8g、2.1mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメートを得た(1.2g、1.4mmol、68%)。
【0088】
工程(b10):4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(脂質(Ib))の合成
【化34】
工程(b9)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nw-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)アルギニルグルタメート(1.2g、1.4mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(脂質(Ib))を得た(0.3g、0.37mmol、27%)。
【0089】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.43-5.19 (4H), 5.09-4.96 (1H), 4.91-4.74 (1H), 4.69-4.46 (1H), 3.71-3.52 (2H), 3.33-2.99 (2H), 2.58-2.31 (2H), 2.03-1.84 (8H), 1.81-1.69 (2H), 1.68-1.42 (6H), 1.41-0.98 (46H), 0.96-0.71 (6H)
[C47H89N5O5H]+:804.75
【0090】
[実施例3]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルヒスチジネート(以下、脂質(Ic)とも称す)の合成
脂質(Ic)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をHisに変更した脂質である。以下に、脂質(Ic)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同じであるため省略する。
【0091】
工程(c6):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nt-トリチルヒスチジネートの合成
【化35】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(3.0g、5.8mmol)と、予めヒスチジンのアミノ基およびイミダゾール基に保護基(それぞれFmoc基、Trt基)を付加させたFmoc-His(Trt)-OH(4.3g、6.9mmol)と、DCC(1.8g、8.6mmol)と、DMAP(0.10g、0.58mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nt-トリチルヒスチジネートを得た(3.8g、3.4mmol、58%)。
【0092】
工程(c7):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル-Nt-トリチルヒスチジネートの合成
【化36】
工程(c6)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nt-トリチルヒスチジネート(3.8g、3.4mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル-Nt-トリチルヒスチジネートを得た(2.0g、2.2mmol、53%)。
【0093】
工程(c8):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネートの合成
【化37】
工程(c7)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル-Nt-トリチルヒスチジネート(2.2g、3.0mmol)と、予めアルギニンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Pbf基)を付加させたFmoc-Arg(Pbf)-OH(1.7g、2.6mmol)と、DCC(0.67g、3.5mmol)と、DMAP(27mg、0.10mmol)と、をジクロロメタン(20mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネートを得た(2.3g、1.6mmol、72%)。
【0094】
工程(c9):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネートの合成
【化38】
工程(c8)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネート(2.3g、1.6mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネートを得た(1.5g、1.2mmol、75%)。
【0095】
工程(c10):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルヒスチジネート(脂質(Ic))の合成
【化39】
工程(c9)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNa-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-Nt-トリチルヒスチジネート(1.5g、1.2mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルヒスチジネート(脂質(Ic))を得た(0.2g、0.26mmol、22%)。
【0096】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ7.86-7.44 (1H), 7.09-6.74 (1H), 5.40-5.22 (4H), 4.91-4.78 (1H), 4.16-3.97 (1H), 3.78-3.31 (3H), 3.27-3.06 (2H), 2.10-1.84 (8H), 1.84-1.60 (2H), 1.60-1.47 (6H), 1.36-1.00 (46H), 0.93-0.76 (6H)
[C48H89N7O3H]+:812.74
【0097】
[実施例4]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-3-ヒドロキシプロピオネート(以下、脂質(Id)とも称す)の合成
脂質(Id)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をSerに変更した脂質である。以下に、脂質(Id)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)までの工程と同じであるため省略する。
【0098】
工程(d6):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-O-(tert-ブチル)セリネートの合成
【化40】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(3.0g、5.7mmol)と、予めセリンのアミノ基およびヒドロキシ基に保護基(それぞれFmoc基、tBu基)を付加させたFmoc-Ser(tBu)-OH(2.7g、6.9mmol)と、DCC(1.8g、8.7mmol)と、DMAP(70mg、0.58mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-O-(tert-ブチル)セリネートを得た(3.7g、4.2mmol、72%)。
【0099】
工程(d7):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)セリネートの合成
【化41】
工程(d6)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-O-(tert-ブチル)セリネート(3.7g、4.2mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)セリネートを得た(2.4g、3.6mmol、86%)。
【0100】
工程(d8):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-O-(tert-ブチル)セリネートの合成
【化42】
工程(d7)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)セリネート(2.4g、3.6mmol)と、予めアルギニンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Pbf基)を付加させたFmoc-Arg(Pbf)-OH(2.8g、4.3mmol)と、DCC(1.1g、5.4mmol)と、DMAP(44mg、0.36mmol)と、をジクロロメタン(24mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-O-(tert-ブチル)セリネートを得た(3.0g、2.4mmol、68%)。
【0101】
工程(d9):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)-N-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5 -イル)アルギニル)セリネートの合成
【化43】
工程(a8)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)-O-(tert-ブチル)セリネート(3.0g、2.4mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)-N-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)セリネートを得た(1.8g、1.8mmol、72%)。
【0102】
工程(d9):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルセリネート(脂質(Id))の合成
【化44】
工程(d8)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルO-(tert-ブチル)-N-(Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニル)セリネート(1.8g、1.8mmol)を、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルセリネート(脂質(Id))を得た(0.20g、0.26mmol、15%)。
【0103】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.33 (dd, 4H), 4.81 (s, 2H), 4.70-3.46 (m, 3H), 3.46-2.81 (m, 2H), 2.27-1.85 (m, 10H), 1.85-1.37 (m, 6H), 1.37-0.93 (m, 46H), 0.87 (td, 6H)
[C45H87N5O4H]+:762.92
【0104】
[実施例5]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-3-ヒドロキシブタノエート(以下、脂質(Ie)とも称す)の合成
脂質(Ie)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をThrに変更した脂質である。以下に、脂質(Ie)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)までの工程と同じであるため省略する。
【0105】
工程(e6):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(tert-ブトキシ)ブタノエートの合成
【化45】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(5.0g、9.6mmol)と、予めトレオニンのアミノ基およびヒドロキシ基に保護基(それぞれFmoc基、tBu基)を付加させたFmoc-Thr(tBu)-OH(4.6g、12mmol)と、DCC(2.6g、13mmol)と、DMAP(0.24g、1.9mmol)と、をジクロロメタン(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(tert-ブトキシ)ブタノエートを得た(6.8g、7.6mmol、79%)。
【0106】
工程(e7):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-アミノ-3-(tert-ブトキシ)ブタノエートの合成
【化46】
工程(e6)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(tert-ブトキシ)ブタノエート(5.0g、5.6mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(40mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-アミノ-3-(tert-ブトキシ)ブタノエートを得た(2.0g、3.0mmol、53%)。
【0107】
工程(e8):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-3-(tert-ブトキシ)-2-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-5-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グアニジノ)ペンタナミド)ブタノエートの合成
【化47】
工程(e7)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-アミノ-3-(tert-ブトキシ)ブタノエート(2.0g、3.0mmol)と、予めアルギニンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれBoc基、Pbf基)を付加させたBoc-Arg(Pbf)-OH(1.7g、3.3mmol)と、DCC(0.73g、3.5mmol)と、DMAP(36mg、0.30mmol)と、をジクロロメタン(20mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-3-(tert-ブトキシ)-2-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-5-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グアニジノ)ペンタナミド)ブタノエートを得た(3.1g、2.6mmol、88%)。
【0108】
工程(e9):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-3-ヒドロキシブタノエート(脂質(Ie))の合成
【化48】
工程(e8)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-3-(tert-ブトキシ)-2-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-5-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グアニジノ)ペンタナミド)ブタノエート(2.0g、1.7mmol)を、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(2S)-2-((S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-3-ヒドロキシブタノエート(脂質(Ie))を得た(0.3g、0.38mmol、20%)。
【0109】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.45-5.19 (4H), 4.88-4.76 (1H), 4.45-4.32 (1H), 4.30-4.10(2H), 3.28-2.98 (2H), 2.16-1.88 (10H), 1.88-1.62 (2H), 1.62-1.48(4H), 1.39-0.94 (49H), 0.93-0.78 (6H)
[C46H89N5O4H]+:776.72
【0110】
[実施例6]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルアルギニルメチオニネート(以下、脂質(If)とも称す)の合成
脂質(If)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をMetに変更した脂質である。以下に、脂質(If)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同じであるため省略する。
【0111】
工程(f6):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)メチオニネートの合成
【化49】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(3.0g、5.8mmol)と、予めメチオニンのアミノ基に保護基(Fmoc基)を付加させたFmoc-Met-OH(2,7g、6.9mmol)と、DCC(1.8g、8.7mmol)と、DMAP(70mg、0.58mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)メチオニネートを得た(2.9g、3.4mmol、58%)。
【0112】
工程(f7):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルメチオニネートの合成
【化50】
工程(f6)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)メチオニネート(2.9g、3.4mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルメチオニネートを得た(1.9g、2.9mmol、87%)。
【0113】
工程(f8):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネートの合成
【化51】
工程(f7)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルメチオニネート(1.9g、2.9mmol)と、予めアルギニンのアミノ基とグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Pbf基)を付加させたFmoc-Arg(Pbf)-OH(2.3g、3.5mmol)と、DCC(0.90g、4.4mmol)と、DMAP(36mg、0.29mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネートを得た(2.6g、2.1mmol、71%)。
【0114】
工程(f9):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネートの合成
【化52】
工程(f8)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-Nw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネート(2.6g、2.1mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネートを得た(1.3g、1.2mmol、58%)。
【0115】
工程(f10):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(2-アミノ-5-グアニジノ-1-イミノペンチル)-S-エチルホモシステイネート(脂質(If))の合成
【化53】
工程(f9)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルNw-(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)アルギニルメチオニネート(1.3g、1.2mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルN-(2-アミノ-5-グアニジノ-1-イミノペンチル)-S-エチルホモシステイネート(脂質(If))を得た(0.21g、0.26mmol、22%)。
【0116】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.34 (d, 4H), 5.03 (s, 1H), 4.78 (d, 1H), 3.10-2.82 (m, 5H), 2.22-1.72 (m, 13H), 1.70-1.60 (2H), 1.60-1.36 (m, 6H), 1.24 (s, 46H), 0.99-0.76 (m, 6H)
[C47H91N5O3SH]+:806.73
【0117】
[実施例7]
3-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(以下、脂質(Ig)とも称す)の合成
脂質(Ig)は、脂質(Ia)の第2アミノ酸をLysに変更した脂質である。以下に、脂質(Ig)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程および脂質親和性領域と第1アミノ酸とを結合する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a7)の工程と同じであるため省略する。
【0118】
工程(g8):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパラギン酸の合成
【化54】
工程(a7)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)アスパラギン酸(1.5g、2.2mmol)と、予めリシンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Boc基)を付加させたFmoc-Lys(Boc)-OH(1.2g、2.6mmol)と、DCC(0.67g、3.3mmol)と、DMAP(27mg、0.22mmol)と、をジクロロメタン(22mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパラギン酸を得た(1.7g、1.5mmol、68%)。
【0119】
工程(g9):4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパルテートの合成
【化55】
工程(g8)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパラギン酸(1.7g、1.5mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパルテートを得た(0.88g、0.96mmol、65%)。
【0120】
工程(g10):3-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸の合成
【化56】
工程(d9)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパルテート(0.88g、0.96mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の3-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(脂質(Ig))を得た(0.26g、0.34mmol、35%)。
【0121】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.32 (t, 4H), 4.90-4.62 (m, 1H),4.14(m, 1H)3.02 (s, 2H), 2.95-2.60 (m, 1H), 2.12-1.81 (m, 8H), 1.72 (s, 2H), 1.65-1.42 (m, 6H), 1.35-0.98 (m, 48H), 0.86 (t, 6H)
[C46H87N3O5H]+:762.74
【0122】
[実施例8]
4-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(以下、脂質(Ih)とも称す)の合成
脂質(Ih)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をGluに、第2アミノ酸をLysに変更した脂質である。以下に、脂質(Ih)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程および脂質親和性領域と第1アミノ酸とを結合する工程は、脂質(Ib)の工程(b1)~工程(b7)までの工程と同じであるため省略する。
【0123】
工程(h8):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルグルタミン酸の合成
【化57】
工程(b7)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタミン酸(1.5g、2.1mmol)と、予めリシンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(それぞれFmoc基、Boc基)を付加させたFmoc-Lys(Boc)-OH(1.2g、2.6mmol)と、DCC(0.66g、3.2mmol)と、DMAP(26mg、0.21mmol)と、をジクロロメタン(21mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルグルタミン酸を得た(1.7g、1.5mmol、70%)。
【0124】
工程(h9):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルグルタミン酸の合成
【化58】
工程(g8)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)-N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルグルタミン酸(1.7g、1.5mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルグルタミン酸を得た(1.1g、1.2mmol、78%)。
【0125】
工程(h10):4-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸の合成
【化59】
工程(d9)で得た4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N6-(tert-ブトキシカルボニル)リシルアスパルテート(1.1g、1.2mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の4-(2,6-ジアミノヘキサナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(脂質(Ih))を得た(0.23g、0.29mmol、25%)。
【0126】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ7.94 (1H), 6.98 (1H), 5.39-5.25 (4H), 4.88-4.78 (1H), 4.60-4.31 (1H), 4.20-4.07 (1H), 3.51-3.43 (1H), 3.36-3.23 (2H), 3.14-2.91 (2H), 2.05-1.81 (8H), 1.82-1.70 (2H), 1.54-1.38 (6H), 1.37-1.13 (48H), 0.89-0.79 (6H)
[C47H89N3O5H]+:776.70
【0127】
[実施例9]
4-(2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(以下、脂質(Ii)とも称す)の合成
脂質(Ii)は、脂質(Ia)の第1アミノ酸をGluに、第2アミノ酸をHisに変更した脂質である。以下に、脂質(Ii)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程および脂質親和性領域と第1アミノ酸とを結合する工程は、脂質(Ib)の工程(b1)~工程(b7)の工程と同じであるため省略する。
【0128】
工程(i8):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Na-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸の合成
【化60】
工程(b7)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタミン酸(1.5g、2.1mmol)と、予めヒスチジンのアミノ基に保護基(それぞれFmoc基、Trt基)を付加させたFmoc-His(Trt)-OH(1.6g、2.6mmol)と、DCC(0.66g、3.2mmol)と、DMAP(26mg、0.21mmol)と、をジクロロメタン(21mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Na-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸を得た(1.8g、1.4mmol、65%)。
【0129】
工程(i9):5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸の合成
【化61】
工程(i8)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)N2-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸(1.8g、1.4mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸を得た(1.1g、1.0mmol、73%)。
【0130】
工程(i10):4-(2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸の合成
【化62】
工程(i9)で得た5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)Nt-トリチルヒスチジルグルタミン酸(1.1g、1.0mmol)、TFA(10mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の4-(2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパナミド)-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(脂質(Ii))を得た(0.14g、0.18mmol、18%)。
【0131】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.34 (d, J = 15.1 Hz, 4H), 4.86 (s, 1H), 3.83-3.47 (m, 1H), 3.35-2.83 (m, 3H), 2.29 (s, 2H), 2.03 (d, J = 34.8 Hz, 10H), 1.66-1.36 (m, 6H), 1.24 (s, 46H), 0.96-0.74 (m, 6H)
[C47H84N4O5H]+:785.65
【0132】
[実施例10]
(6Z,9Z,27Z,30Z)-ヘキサトリアコンタ-6,9,27,30-テトラエン-18-イル2-(2-アミノ-5-グアニジノペンタンアミド)-3-ヒドロキシブタノエート(以下、脂質(Ij)とも称す)の合成
脂質(Ij)は、脂質(Ie)の脂質親和性領域の炭化水素基の不飽和結合の数を変更した脂質である。
【0133】
【化63】
合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程は、脂質(Ie)の合成工程のうち、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程(工程(e6)~工程(e8))と同様な手順で行い、(6Z,9Z,27Z,30Z)-ヘキサトリアコンタ-6,9,27,30-テトラエン-18-イル2-(2-アミノ-5-グアニジノペンタンアミド)-3-ヒドロキシブタノエート(脂質(Ij))を得た。
【0134】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.43-5.18 (8H), 4.88-4.76(1H), 4.46-4.36(1H), 4.34-4.18 (2H), 3.30-2.94 (2H), 2.78-2.72(4H), 2.10-1.82 (10H), 1.81-1.42 (6H), 1.40-0.97 (37H), 0.93-0.69 (6H)
[C46H85N5O4H]+:772.70
【0135】
[実施例11]
4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタンアミド)-5-オキソ-5-(((9Z,30Z)-テトラコンタ-9,30-ジエン-18-イル)オキシ)ペンタン酸(以下、脂質(Ik)とも称す)の合成
脂質(Ik)は、脂質(Ib)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。
【0136】
【化64】
合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程は、脂質(Ib)の合成工程のうち、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程(工程(b6)~工程(b10))と同様な手順で行い、4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタンアミド)-5-オキソ-5-(((9Z,30Z)-テトラコンタ-9,30-ジエン-18-イル)オキシ)ペンタン酸(脂質(Ik))を得た。
【0137】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.47-5.18 (4H),4.88-4.76(1H), 4.46-4.36(1H), 4.34-4.18 (1H), 4.16-3.92 (1H), 3.46-2.85 (2H), 2.56-2.10 (3H), 2.09-1.95 (10H), 1.77-1.57 (2H), 1.57-1.42 (4H), 1.41-1.06 (54H), 0.93-0.78 (6H)
[C51H97N5O5H]+:860.74
【0138】
[実施例12]
4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-5-オキソ-5-(((10Z,34Z)-テトラテトラコンタ-10,34-ジエン-22-イル)オキシ)ペンタン酸(以下、脂質(Il)とも称す)の合成
脂質(Il)は、脂質(Ib)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。
【0139】
【化65】
合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程は、脂質(Ib)の合成工程のうち、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸、第2アミノ酸を結合する工程(工程(b6)~工程(b10))と同様な手順で行い、4-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-5-オキソ-5-(((10Z,34Z)-テトラテトラコンタ-10,34-ジエン-22-イル)オキシ)ペンタン酸(脂質(Il))を得た。
【0140】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.46-5.18 (4H), 4.95-4.70 (1H), 4.70-4.41 (1H), 4.26-3.81 (1H), 3.40-2.66 (2H), 2.65-2.11 (2H), 2.08-1.81 (10H), 1.81-1.43 (8H), 1.42-0.98 (62H), 0.98-0.78 (7H)
[C55H105N5O5H]+:916.92
【0141】
[比較例1]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル2-アミノ-3-ヒドロキシブタノエート(以下、脂質(CEa)とも称す)の合成
【化66】
脂質(CEa)は、脂質親和性領域が炭素数36個の炭化水素基であり、親水性領域が、Thr(第1アミノ酸)である。
脂質(CEa)の合成方法は、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程については、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)までの工程と同じである。また、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸を結合させる工程は、脂質(Ie)の工程(e6)、工程(e7)、工程(e9)の工程と同様な手順で行った。
【0142】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 5.12-4.89 (m, 1H), 3.86 (d, J = 4.6 Hz, 2H), 1.98 (q, J = 6.7 Hz, 8H), 1.72-1.33 (m, 4H), 1.42-1.06 (m, 49H), 0.97-0.76 (m, 6H)
【0143】
[比較例2]
3-グアニジノ-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(以下、脂質(CEb)とも称す)の合成
【化67】
脂質(CEb)は、脂質(CEa)の第1アミノ酸をグアニジノ基を有する化合物に変更した脂質である。以下に、脂質(CEb)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程およびその後の一部の工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a7)の工程と同じであるため省略する。
【0144】
工程:4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((E)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)アスパルテートの合成
【化68】
4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)アスパルテート(1.5g、2.2mmol)と、N,N’-ジ-BOC-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン(0.74g、2.4mmol)と、トリエチルアミン(0.26g、2.6mmol)と、をジクロロメタン(5mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチした。有機相を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((E)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)アスパルテートを得た(1.88g、2.0mmol、93%)。
【0145】
工程:3-グアニジノ-4-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-4-オキソブタン酸(脂質(CEb))の合成
【化69】
4-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((E)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)アスパルテート(1.88g、2.0mmol)を、トリフルオロ酢酸(以下、TFAとも表記する)(5mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の脂質(CEb)を得た(0.66g、0.98mmol、61%)。
【0146】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 8H),1.78-1.52 (m,4H), 1.38-1.18 (m, 46H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0147】
[比較例3]
4-グアニジノ-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(以下、脂質(CEc)とも称す)の合成
【化70】
脂質(CEc)は、脂質(CEa)の第1アミノ酸をグアニジノ基を有する化合物に変更した脂質である。以下に、脂質(CEc)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程およびその後の一部の工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)および工程(b6)、(b7)の工程と同じであるため省略する。
【0148】
工程:5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((Z)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)グルタメートの合成
【化71】
5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)グルタメート(1.0g、1.4mmol)と、N,N’-ジ-BOC-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン(0.48g、1.6mmol)と、トリエチルアミン(0.17g、1.7mmol)と、をジクロロメタン(5mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチした。有機相を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((Z)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)グルタメートを得た(1.34g、1.4mmol、100%)。
【0149】
工程:4-グアニジノ-5-(((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)オキシ)-5-オキソペンタン酸(脂質(CEc))の合成
【化72】
5-(tert-ブチル)1-((9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル)((Z)-N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)カルバミミドイル)グルタメート(1.34g、1.4mmol)を、トリフルオロ酢酸(以下、TFAとも表記する)(5mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の脂質(CEc)を得た(0.45g、0.67mmol、44%)。
【0150】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (m, 2H), 2.09-1.86 (m, 10H),1.78-1.52 (m,4H), 1.38-1.18 (m, 46H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0151】
[比較例4]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルリシネート(以下、脂質(CEd)とも称す)の合成
【化73】
脂質(CEd)は、脂質(CEa)の第1アミノ酸をLysに変更した脂質である。以下に、脂質(CEd)の合成方法について説明する。なお、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)までの工程と同じであるため省略する。
【0152】
工程(CEd1):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル N2,N6-ビス(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)リシネートの合成
【化74】
工程(a5)で得た(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-オール(2.0g、3.9mmol)と、N
α,N
ε-ビス[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-L-リジン(Fmoc-Lys(Fmoc)-OH)(4.55g、7.7mmol)とDCC(2.0g、7.7mmol)と、をジクロロメタン(15mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル N2,N6-ビス(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)リシネートを得た(3.8g、3.5mmol、90%)。
【0153】
工程(CEd2):(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルリシネートの合成
【化75】
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イル N2,N6-ビス(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)リシネート(3.5g、3.5mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の脂質(CEd)を得た(1.5g、2.3mmol、72%)。
【0154】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 10H),1.78-1.52 (m,4H), 1.38-1.18 (m, 50H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0155】
[比較例5]
(6Z,14Z)-イコサ-6,14-ジエン-10-イルリシネート(以下、脂質(CEe)とも称す)の合成
【化76】
脂質(CEe)は、脂質(CEd)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。脂質(CEe)の合成方法において、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して、第1アミノ酸を付加させる工程は、脂質(CEd)の工程(CEd1)、工程(CEd2)と同様に行い、脂質(CEe)を得た。
【0156】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 24H), 1.38-1.18 (m, 8H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0157】
[比較例6]
(7Z,25Z)-ドトリアコンタ-7,25-ジエン-16-イルリシネート(以下、脂質(CEf)とも称す)の合成
【化77】
脂質(CEf)は、脂質(CEd)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。脂質(CEf)の合成方法において、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して、第1アミノ酸を付加させる工程は、脂質(CEd)の工程(CEd1)、工程(CEd2)と同様に行い、脂質(CEf)を得た。
【0158】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 8H), 1.54-1.66 (4H,),1.38-1.18 (m, 42H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0159】
[比較例7]
(9Z,35Z)-テトラテトラコンタ-9,35-ジエン-22-イルリシネート(以下、脂質(CEg)とも称す)の合成
【化78】
脂質(CEg)は、脂質(CEd)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。脂質(CEg)の合成方法において、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して、第1アミノ酸を付加させる工程は、脂質(CEd)の工程(CEd1)、工程(CEd2)と同様に行い、脂質(CEg)を得た。
【0160】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 10H), 1.54-1.66 (4H,),1.38-1.18 (m, 58H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0161】
[比較例8]
(3Z,15Z)-ドコサ-3,15-ジエン-7-イルリシネート(以下、脂質(CEh)とも称す)の合成
【化79】
脂質(CEh)は、脂質(CEd)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。脂質(CEh)の合成方法において、脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して、第1アミノ酸を付加させる工程は、脂質(CEd)の工程(CEd1)、工程(CEd2)と同様に行い、脂質(CEh)を得た。
【0162】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 8H), 1.54-1.66 (6H),1.38-1.18 (m, 22H), 1.09 (3H, t, J = 7.5 Hz), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
【0163】
[比較例9]
(3Z,19Z)-オクタコサ-3,19-ジエン-7-イルリシネート(以下、脂質(CEi)とも称す)の合成
【化80】
脂質(CEi)は、脂質(CEd)の脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変更した脂質である。脂質(CEi)の合成方法において、脂質親和性領域を合成する工程は、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)の工程と同様な手順で行った。また、脂質親和性領域に対して、第1アミノ酸を付加させる工程は、脂質(CEd)の工程(CEd1)、工程(CEd2)と同様に行い、脂質(CEi)を得た。
【0164】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H), 2.09-1.86 (m, 14H), 1.54-1.66 (14H),1.38-1.18 (m, 30H), 1.09 (3H, t, J = 7.5 Hz), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
【0165】
[比較例10]
3-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-4-(2,3-ビス(((Z)-ヘプタデカ-8-エノイル)オキシ)プロポキシ)-4-オキソブタン酸(以下、脂質(CEj)とも称す)の合成
【化81】
脂質(CEj)は、脂質(Ia)の脂質親和性領域の炭化水素基を変更した脂質である。以下に、脂質(CEj)の合成方法について説明する。
【0166】
【化82】
(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタノール(5.0g、37.8mmol)をDMF(250mL)に溶解し、0℃に冷却した溶液に水素化ナトリウム(1.2g、50.3mmol)を添加した。室温で翌日まで撹拌し、0℃まで冷却して4-メトキシベンジルクロリド(7.1g、45.4mmol)滴下した。室温で1時間撹拌した後に水でクエンチし、ヘプタンにて抽出し、有機相をイオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の4-(((4-メトキシベンジル)オキシ)メチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソランを得た(8.6g、34.1mmol、90%)。
【0167】
【化83】
4-(((4-メトキシベンジル)オキシ)メチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン(8.6g、34.1mmol)を水(40mL)と酢酸(160mL)に溶解し、50℃に昇温して1時間反応した。反応終了後に減圧下で濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-((4-メトキシベンジル)オキシ)プロパン-1,2-ジオールを得た(6.4g、30.0mmol、88%)。
【0168】
【化84】
3-((4-メトキシベンジル)オキシ)プロパン-1,2-ジオール(6.4g、30.0mmol)と、オレイン酸(10.2g、36.0mmol)と、DCC(7.4g、36.0mmol)と、DMAP(0.37g、3.0mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-((4-メトキシベンジル)オキシ)プロパン-1,2-ジイルジオレエートを得た(10.2g、13.8mmol、46%)。
【0169】
【化85】
3-((4-メトキシベンジル)オキシ)プロパン-1,2-ジイルジオレエート(10.2g、13.8mmol)を酢酸エチル(120mL)と水(12mL)に溶解し、それに2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)(6.0g、49.2mmol)を添加したものを室温で翌日まで攪拌した。反応終了後に結晶をろ過によって除去してろ液を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-ヒドロキシプロパン-1,2-ジイルジオレエートを得た(6.5g、10.5mmol、76%)。
【0170】
【化86】
3-ヒドロキシプロパン-1,2-ジイルジオレエート(2.0g、3.2mmol)と、予めアスパラギン酸のアミノ基およびカルボニル基に保護基(それぞれFmoc基、tBu基)を付加させたFmoc-Asp(tBu)-OH(1.59g、3.8mmol)と、DCC(1.33g、6.4mmol)と、DMAP(0.2g、1.6mmol)とをジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アスパラギン酸を得た(3.1g、3.0mmol、95%)。
【0171】
【化87】
1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アスパラギン酸(3.1g、3.0mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)アスパラギン酸を得た(1.75g、2.2mmol、72%)。
【0172】
【化88】
1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)アスパラギン酸(1.75g、2.2mmol)と、予めアルギニンのアミノ基およびグアニジノ基に保護基(Boc基)を付加させたBoc-Arg(Boc)2-OH(1.72g、2.6mmol)と、DCC(0.55g、2.6mmol)と、DMAP(27mg、0.22mmol)とをジクロロメタン(13mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)N2,Nw,Nw’-トリス(tert-ブトキシカルボニル)アルギニルアスパルテートを得た(1.6g、1.2mmol、58%)。
【0173】
【化89】
1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)N2,Nw,Nw’-トリス(tert-ブトキシカルボニル)アルギニルアスパルテート(1.6g、1.2mmol)、TFA(4mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)4-(tert-ブチル)アルギニルアスパルテートを得た(0.30g、0.33mmol、26%)。
【0174】
1H-NMR (400MHz, CHLOROFORM-D) δ5.32 (m, 4H), 5.30-5.18(m,1H), 4.90-4.75 (m, 1H), 4.35-4.05(m, 4H), 3.15-3.02 (4H), 2.95-2.20 (m, 4H), 2.12-1.81 (m, 10H), 1.65-1.42 (m, 12H), 1.35-0.98 (m, 28H), 0.86 (t, 6H)
【0175】
[比較例11]
3-(2-アミノ-5-グアニジノペンタナミド)-4-((2,3-ビス(((Z)-ヘプタデカ-8-エノイル)オキシ)プロピル)アミノ)-4-オキソブタン酸(以下、脂質(CEk)とも称す)の合成
【化90】
脂質(CEk)は、脂質(Ia)の脂質親和性領域の炭化水素基を変更した脂質である。以下に、脂質(CEk)の合成方法について説明する。
【0176】
【化91】
Fmoc-Asp(tBu)-OH(3.4g、8.3mmol)と、DCC(2.3g、10.8mmol)と、DMAP(0.10g、8.3mmol)と、をジクロロメタン(105mL)に溶解し、混合溶液を室温で2時間攪拌した。この溶液に、DMF(55mL)に溶解した3-アミノ-1,2-プロパンジオール(4.0g、7.7mmol)を添加し、室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的のtert-ブチル 3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-((2,3-ジヒドロキシプロピル)アミノ)-4-オキソブタノエートを得た(3.5g、7.2mmol、87%)。
【0177】
【化92】
tert-ブチル 3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-((2,3-ジヒドロキシプロピル)アミノ)-4-オキソブタノエート(3.5g、7.5mmol)と、オレイン酸(4.47g、15.8mmol)と、DCC(3.89g、18.8mmol)と、DMAP(0.09g、0.8mmol)と、をジクロロメタン(30mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-(2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジイル ジオレエートを得た(3.4g、3.4mmol、45%)。
【0178】
【化93】
3-(2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジイル ジオレエート(3.5g、3.5mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-(2-アミノ-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジイル ジオレエートを得た(3.2g、3.2mmol、91%)。
【0179】
【化94】
3-(2-アミノ-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジイル ジオレエート(1.0g、1.3mmol)と、Fmoc-Arg(Pbf)-OH(0.9g、1.4mmol)(TCI製)と、DCC(0.31g、1.5mmol)と、DMAP(0.03g、0.3mmol)と、をジクロロメタン(13mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、水でクエンチし、析出したジシクロヘキシルウレアをろ過によって除去した。ろ液を濃縮した残渣を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の8-(2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)-1-(9H-フルオレン-9-イル)-3,6,9-トリオキソ-5-(3-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グラニジノ)プロピル)-2-オキサ-4,7,10-トリアザトリデカン-12,13-ジオールジウレアートを得た(1.68g、1.2mmol、93%)。
【0180】
【化95】
8-(2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)-1-(9H-フルオレン-9-イル)-3,6,9-トリオキソ-5-(3-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グラニジノ)プロピル)-2-オキサ-4,7,10-トリアザトリデカン-12,13-ジオールジウレアート(1.68g、1.2mmol)を20%ピペリジン/DMF溶液(6mL)に溶解した。室温で翌日まで撹拌した後、減圧下、溶媒を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散させ、析出物をろ過によって除去した。ろ液を酢酸エチルに溶解し、有機相を10%塩酸、飽和重曹水、イオン交換水で洗浄後、有機相を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)にて精製し、目的の3-(2-(2-アミノ-5-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グアニジノ)ペンタンアミド)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジエチル ジオレインを得た(1.2g、1.0mmol、85%)。
【0181】
【化96】
3-(2-(2-アミノ-5-(3-((2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-イル)スルホニル)グアニジノ)ペンタンアミド)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタンアミド)プロパン-1,2-ジエチル ジオレイン(1.2g、1.0mmol)をTFA(4mL)に溶解した。室温で1時間撹拌した後、減圧下溶媒を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)にて精製し、目的の脂質(CEk)を得た(0.24g、0.27mmol、27%)。
【0182】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.34 (d, J = 17.4 Hz, 4H), 5.08 (s, 1H), 4.94-4.64 (1H), 4.21 (s, 1H), 4.02 (s, 1H), 3.39 (s, 1H), 3.01 (s, 1H), 2.43-2.14 (m, 4H), 1.99 -1.70 (m,10H), 1.55 (s, 5H), 1.26 (m, 46H), 0.86 (t, J = 6.6 Hz, 6H)
【0183】
[比較例12]
(9Z,27Z)-ヘキサトリアコンタ-9,27-ジエン-18-イルメチオニネート(以下、脂質(CEl)とも称す)の合成
【化97】
脂質(CEl)は、脂質(CEa)の第1アミノ酸をMetに変更した脂質である。
脂質(CEl)の合成方法は、合成工程中の脂質親和性領域を合成する工程については、脂質(Ia)の工程(a1)~工程(a5)までの工程と同じである。また、脂質親和性領域に対して第1アミノ酸を結合させる工程は、脂質(If)の工程(f6)、工程(f7)の工程と同様な手順で行った。
【0184】
1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 5.44-5.25 (m, 4H), 4.87 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 3.48-3.31 (m, 1H), 3.20-3.16 (t, 1H), 2.70-2.66 (t, 1H),2.19(s,3H), 2.09-1.86 (m, 10H),1.78-1.52 (m,4H), 1.38-1.18 (m, 46H), 0.87 (t, J = 6.9 Hz, 6H)
【0185】
[参考例1]
脂質(r1)(Cayman Chemical社製、SM102-33474)は各評価を比較するため参考の脂質として用いた。
【化98】
【0186】
<評価>
つづいて、上記の実施例および比較例の脂質を用いて、siRNAおよびmRNAを内包する脂質ナノ粒子を含む組成物を作製し各評価を行った。
【0187】
[脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)の作製]
A.脂質溶液、クエン酸バッファーの調製
まず、実施例および比較例の脂質を用いて脂質溶液を調製した。調製は次の手順で行った。
(i)実施例および比較例の所定の脂質(10mM、以下、メイン脂質とも称す。)のエタノール溶液、当該メイン脂質とは異なるヘルパー脂質(DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン):10mM)のエタノール溶液、コレステロール(10mM)のエタノール溶液を作製した。
(ii)上記(i)で調製した各溶液をメイン脂質/ヘルパー脂質/コレステロール=45/10/45(molar ratio)になるように混合して脂質溶液を得た。
【0188】
次いで、クエン酸バッファーを調製した。具体的には、1mMのクエン酸水溶液50mLと1mMクエン酸ナトリウム水溶液50mLをそれぞれ作製した。pH計で確認しながらクエン酸水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液を混合し、pH=4.5の1mMクエン酸バッファーを調製した。
【0189】
B.脂質ナノ粒子の作製
続いて、マイクロ流路を用いて脂質ナノ粒子を作製した。マイクロ流路法はマイクロリアクターを用いて脂質溶液とsiRNA溶液またはmRNA溶液を混合させることで脂質ナノ粒子を作製する方法である。なお、siRNA溶液としては、21塩基対のsiRNAをRFW(RNase Free Water)に溶解した溶液を用い、mRNA溶液としては、TriLink BioTechnologies社(製造元)のCleanCap FLuc mRNA(型番L-7602-100)を用いた。
まず、siRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法について、以下に手順を記す。
(i)上記脂質溶液と上記1mMクエン酸バッファー、洗浄用のエタノールを25℃に設定したインキュベーターで保温した。
(ii)マイクロ流路(YMC社製、KC-M-S-SUS)を、脂質溶液側はエタノール、siRNA溶液側はRFWを流して洗浄した。
(iii)必要量の1mMクエン酸バッファーとsiRNA溶液を混合し、siRNAクエン酸バッファー溶液を作製した。
(iv)脂質溶液0.33mL、siRNAクエン酸バッファー溶液1.66mLをそれぞれ別のシリンジにとり、それぞれのポンプにセットした。なお、脂質溶液とsiRNAクエン酸バッファー溶液とは、総流量3.3mL/minとなるように、また、総脂質とsiRNAとのモル比が7000:1、脂質濃度1.7mM、溶媒比(アルコール濃度)24.1%となるように設定した。
(v)装置をスタートさせ、流路内で脂質溶液とsiRNAクエン酸バッファー溶液を激しく混合した。最初の約750μL分を廃棄して残りの溶液をエッペンドルフチューブに回収した。
【0190】
次いで、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法について、以下に手順を記す。
(i)上記脂質溶液と上記1mMクエン酸バッファーを25℃に設定したインキュベーターで保温した。
(ii)マイクロ流路(YMC社製、KC-M-S-SUS)を、脂質溶液側は脂質溶液のエタノール、mRNA溶液側はRFWを流して洗浄した。
(iii)必要量の1mMクエン酸バッファーとmRNA溶液を混合し、mRNAクエン酸バッファー溶液を作製した。なお、ここでの1mMクエン酸バッファーは、酸性の1mMクエン酸バッファーを用いてpH4.5に調整されたものを用いた。
(iv)脂質溶液0.522mL、mRNAクエン酸バッファー溶液1.478mLをそれぞれ別のシリンジにとり、それぞれのポンプにセットした。なお、脂質溶液とmRNAクエン酸バッファー溶液の量は、脂質とmRNAとの重量比が30:1になるように調整した量である。
(v)脂質溶液の流量を685.7μL/min、mRNAクエン酸バッファー溶液の流量を2.914mL/minの設定で装置をスタートさせ、流路内で脂質溶液とmRNAクエン酸バッファー溶液を激しく混合した。最初の約13.75秒間を廃棄して残りの溶液をエッペンドルフチューブに回収した。
【0191】
なお、参考例1の脂質(r1)を用いた、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法を以下説明する。
脂質(r1)を用いた、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製は、下記の点を変更した以外、各実施例の脂質を用いた、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法と同様にして行った。
脂質溶液の作製については次のようにした。(i)脂質(r1)(10mM)のエタノール溶液、ヘルパー脂質(DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン):10mM)のエタノール溶液、コレステロール(10mM)のエタノール溶液、PEG2000-DMG(10mM)のエタノール溶液を作製した。(ii)上記(i)で調製した各溶液をメイン脂質/ヘルパー脂質/コレステロール/PEG2000-DMG=50/10/38.5/1.5(molar ratio)になるように混合して脂質溶液を得た。
続いてmRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法については、(iv)脂質溶液とmRNAクエン酸バッファー溶液の量を、脂質(r1)とmRNAとの重量比が19.35:1になるように調整した以外、各実施例の脂質を用いた、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の作製方法と同様にして行った。
【0192】
続いて、上記のようにして得られたsiRNAまたはmRNAを含む脂質ナノ粒子含有溶液を透析膜(REPLIGEN社製、Spectra/Por 2 Membrane)を用い透析をすることで、使用したエタノールなどの有機溶媒やバッファーに含まれる塩などを除去した。以下に手順を示す。
(i)透析膜を必要な長さに切り水につけて活性化させた。
(ii)活性化した透析膜の水気を切り、クリップで下方を留めて下方より脂質ナノ粒子含有溶液が漏れないようにした。
(iii)透析膜内に脂質ナノ粒子含有溶液をピペットで計量しながら入れ、入れ終わってからクリップで上方を留めた。
(iv)大量の水を満たした容器(ビーカーなど)に入れ、スターラーで透析膜が緩やかに回るくらいの速度で撹拌した。途中で数回水を交換しつつ、over nightで攪拌した。
(v)透析終了後、透析膜を水から取り出した。ハサミを使って開放し、ピペットで計量しながら内容物を別の容器に移した。
【0193】
[脂質ナノ粒子の粒子径、多分散指数、ゼータ電位の測定]
上記の操作で得られた透析後の脂質ナノ粒子含有溶液をそれぞれ30μL量りとり、当該脂質ナノ粒子含有溶液を超純水800μLを加えて希釈し、希釈した調製液を用いてゼータサイザー(Malvern Panalytical社製、Zetasizer nano Ultra)により粒子径(nm)、多分散指数(PDI)を測定した。粒子径は、超純水中でZ-平均で評価した。また、ゼータ電位は、希釈溶液にpH7.4 Tris-HClを用いて測定した。
【0194】
[脂質ナノ粒子のsiRNA内封率およびmRNA内封率の評価]
脂質ナノ粒子のsiRNA内封率およびmRNA内封率を次のようにして得た。まず、脂質ナノ粒子含有溶液に界面活性剤(シグマアルドリッチ社製、Triton(登録商標)、X-100(還元型))を加え、脂質ナノ粒子を崩壊させて内封されているsiRNAまたはmRNAを遊離させた。脂質ナノ粒子含有溶液と界面活性剤の量は、脂質ナノ粒子含有溶液に界面活性剤を加えた後の溶液40μL中に、siRNAまたはmRNAが2pmol、界面活性剤が1%になるように調整した。次いで、当該溶液にリボグリーン試薬(siRNAと作用して蛍光を発する試薬。Thermo Fisher Scientific社製、Quant-iT(登録商標) RiboGreen(登録商標) RNA Assay Kit)を加え、蛍光強度計(TECAN社製、Infinite M200)で励起波長480nm、蛍光波長520nmの条件で蛍光強度を測定した。具体的には、当該溶液10μLにクエン酸バッファー65μL加えて希釈した溶液に、リボグリーン試薬を2000分の1に希釈した試薬75μLを添加して、蛍光強度を測定した。これにより、溶液中に存在する全siRNA量または全mRNA量を相対的に測定することができる。
続いて、脂質ナノ粒子含有溶液に界面活性剤を加えない状態でリボグリーン試薬を加え、同様に蛍光強度計で蛍光強度を測定した。界面活性剤を加えないことにより、脂質ナノ粒子に内封されずに溶液中に遊離しているsiRNAまたはmRNAの量を相対的に測定することができる。
そして、上記のようにして得た、界面活性剤を加えた溶液より得た蛍光強度を蛍光強度a、界面活性剤を加えた溶液より得た蛍光強度を蛍光強度bとし、式(a-b)/a×100により、脂質ナノ粒子のsiRNA内封率(%)またはmRNA内封率(%)を得た。なお、各蛍光強度a、bは、各溶液についての測定を3回行った結果の算術平均値からブランクを引いた値である。なお、ブランクは、細胞や脂質ナノ粒子が入っていない水を入れたウェルに対して同じ操作を行って測定した。
【0195】
[細胞実験1]
各実施例および各比較例の脂質を用いて作製した、siRNAを内封させた脂質ナノ粒子を評価するためにHT1080-EGFP(ヒト/線維肉腫)細胞を用いて細胞実験を行った。この細胞は緑色蛍光タンパク質遺伝子(EGFP)を持たせた細胞である。細胞を溶解させた溶液の蛍光強度を測定することでEGFPの発現を容易に確認できるため、EGFPの発現を抑制するsiRNAを内封させた脂質ナノ粒子を作用させ、蛍光強度の低下を観察することで、用いた脂質ナノ粒子の性能を評価することができる。以下、細胞実験の手順を示す。
【0196】
A.細胞の準備
(i)液体培地(DMEM/Ham’sF12、FBS+、P/S+)(FBS:ウシ胎児血清、P/S:抗生物質)を冷蔵庫から取り出し37℃設定の恒温器で調温した。
(ii)-80℃の冷凍庫から細胞入りのクライオチューブを取り出し37℃設定の恒温器で一気に解凍した。
(iii)解凍した細胞のストック液を蓋付き試験管に採取した。
(iv)細胞が入っていたチューブを液体培地で洗い、洗浄液も試験管に採取した。
(v)試験管を遠心分離器にかけ、細胞を沈殿させた。
(vi)上清を吸い取り、液体培地を添加し優しくタップして細胞を分散させた。
(vii)分散させた液体培地を少量採取し、細胞数を顕微鏡で観察、計数した。
(viii)24ウェルプレートに、1ウェルあたり2×104個の細胞数になるように細胞を播種した。なお、後述のLDHアッセイ用のプレートには、96ウェルプレートに、1ウェルあたり4×103個の細胞数になるように細胞を播種した。
(ix)24ウェルプレートまたは96ウェルプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で24時間細胞を培養した。
【0197】
B.トランスフェクション
作製した脂質ナノ粒子を細胞に導入した。
(i)上記Aの(i)と同様に調温した液体培地(FBS-、P/S-)にウシ胎児血清(FBS)を10%になるように添加した。
(ii)インキュベーターから24ウェルプレートを取り出し、24ウェルプレート中の液体培地上清を吸い取り、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。
(iii)洗浄した24ウェルプレートに上記(i)で作製した液体培地を400μL添加した。また、濃度を調製したLNP溶液を100μL添加した。
(iv)24ウェルプレートをインキュベーターに入れ、細胞を培養した(24時間)。
(v)24時間後、24ウェルプレート中の液体培地上清を吸い取り、FBS10%入り液体培地(FBS+/P/S+)を500μL添加した。
(vi)24ウェルプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で24時間細胞を培養した。
【0198】
なお、後述のLDHアッセイ用の細胞への脂質ナノ粒子の導入は、下記の通りに行った。
(i)インキュベーターから96ウェルプレートを取り出した。
(ii)96ウェルプレート中の液体培地上清を吸い取り、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。
(iii)洗浄した96ウェルプレートにFBS10%入り液体培地(FBS+/P/S+)を160μL添加した。また濃度を調製したLNP溶液を40μL添加した。
(iv)96ウェルプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で24時間細胞を培養した。
【0199】
C.毒性の評価(CCK-8アッセイ、LDHアッセイ)
実施例1~9について、CCK-8アッセイまたはLDHアッセイを行うことで、生細胞の代謝活性を測定し相対的に生存している細胞数を定量して脂質ナノ粒子の毒性を評価した。
(a)CCK-8アッセイ
(i)上記Aの(i)と同様に調温した液体培地(FBS-,P/S-)に、FBSが10%、生細胞数測定キット(同仁化学研究所製、Cell Count Kit-8)が10%になるように添加した。
(ii)インキュベーターから24ウェルプレートを取り出した。液体培地を除去し、上記(i)で作製した生細胞数測定キット入りの液体培地を315μL添加した。
(iii)インキュベーター内で1時間熟成した。
(iv)24ウェルプレートを取り出しプレートリーダー(TECAN社製、Infinite M200)で測定波長450nm、対象波長630nmの条件で吸光度を測定した。吸光度は、脂質ナノ粒子を添加していない対照の細胞の吸光度を1.00として算出した。得られた値が0.80以上1.00以下を◎(優)、0.50以上0.80未満を〇(良)、0.20以上0.50未満を△(可)、0.20未満を×(不可)として評価した。
【0200】
(b)LDHアッセイ
LDHアッセイは製細胞数測定キット(同仁化学研究所製、Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST)を用いて下記のように行った。
(i)ポジコンウェルに溶解バッファー20μLを加え、37℃、30分間インキュベーター内でインキュベーションした。
(ii)各ウェルから上澄み100μLを取り、測定用の96ウェルプレートに移した。
(iii)全てのウェルに、キットに付属の試薬の混合液100μLを加え、遮光下、室温で30分間呈色反応を行った。
(iv)全てのウェルにキットに付属のstop solution試薬50μLを加えた。
(v)96ウェルプレートをプレートリーダー(TECAN社製、Infinite M200)で測定波長490nm、対象波長630nmの条件で測定し吸光度を算出した。吸光度は、脂質ナノ粒子無添加の対照の細胞の吸光度を1.00として算出した。得られた値が0.5以下を◎(優)、0.5超1.0以下を〇(良)、1.0超6.0未満を△(可)、6.0以上を×(不可)として評価した。
【0201】
D.ノックダウン効果の評価(GFPアッセイ)
GFPアッセイを行うことで、細胞のEGFP発現量を測定して脂質ナノ粒子による緑色蛍光タンパク質遺伝子(EGFP)のノックダウン効果を評価した。
(i)24ウェルプレートをインキュベーターから取り出しPBSで洗浄した。
(ii)細胞を破壊するためにプロテアーゼインヒビターを加えた1%オクチルグルコシド液を添加した。ピペットで撹拌して細胞を溶解させた。
(iii)細胞溶解液をエッペンドルフチューブに移し、遠心分離器にかけた。
(iv)上清を150μL採取し、蛍光測定用のプレートに添加した。
(v)プレートリーダー(TECAN社製、Infinite M200)で励起波長485nm、蛍光波長535nmの条件で蛍光強度を測定した。蛍光強度は、脂質ナノ粒子無添加の対照の細胞の蛍光強度を100%として算出した。
【0202】
[細胞実験2]
実施例1、2、5の脂質(Ia)、(Ib)、(Ie)について、mRNAを内封させた脂質ナノ粒子を評価するためにHEK293T細胞、NIH3T3細胞を用いて細胞実験を行った。この細胞に脂質ナノ粒子をトランスフェクションさせ所定のタンパク質を産生させた量を測定することで、用いた脂質ナノ粒子の性能を評価することができる。以下、細胞実験の手順を示す。
【0203】
A.細胞の播種
(i)液体培地(DMEM High glucose、FBS+、P/S+)を37℃設定の恒温器で調温した。
(ii)-80℃の冷凍庫から細胞入りのクライオチューブを取り出し37℃設定の恒温器で一気に解凍した。
(iii)試験管を遠心分離器にかけ、細胞を沈殿させた。
(iv)上清を吸い取り、液体培地を添加し優しくタップして細胞を分散させた。
(v)分散させた液体培地を少量採取し、細胞数を顕微鏡で観察、計数した。
(vi)3つの24ウェルブラックプレートに、1ウェルあたり1×104個/μLの細胞数になるように細胞を播種した。24ウェルブラックプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で24時間細胞を培養した。
【0204】
B.トランスフェクション
(i)mRNAを含む脂質ナノ粒子含有溶液を、mRNA濃度が100ng/20μL(=0.005μg/μL)となるように濃縮した。
(ii)液体培地(DMEM High glucose、FBS-、P/S-)とFBSを37℃に温め、必要分の液体培地とFBSとを混合し(このときの液体培地中のFBS濃度:12.5%)、調製した液体培地を0.22μmフィルターに通して濾過滅菌した。
(iii)細胞を培養した24ウェルブラックプレート中の液体培地上清を吸い取り、1つのウェル当たり80μLの調製液体培地を添加した。
(iv)RFWおよび上記の濃度を調製した脂質ナノ粒子含有溶液を、1つのウェル当たり20μL添加した。
(v)24ウェルブラックプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で24時間細胞を培養した。
【0205】
C.タンパク質発現効果の評価(ガウシアルシフェラーゼ(GLuc)の検出)
タンパク質発現効果の評価をThermo Scientific社製のGaussiaルシフェラーゼアッセイのキットを用いて行った。
(i)上記のB.(v)にて培養した細胞をインキュベーターから取り出し、室温で静置した。
(ii)プレート中における上清を20μL採取し、新しい96ウェルホワイトプレートに添加した。
(iii)キットに付属の100XCoelenterazineとGaussia Glow Assay Bufferを室温に戻し、それぞれ1:100で混合して調製した。調整した溶液を多連ピペットを用いて、1つのウェル当たり50μLで上清に添加した。
(iv)アルミニウム箔でプレートを遮光し、10分静置した後、プレートリーダー(TECAN社製、Infinite M200)で発光量を測定し(測定時間:2秒間)、得られた発光量を指標としてタンパク質発現量を算出した。
【0206】
D.毒性の評価(CellTiter-Fluor(登録商標) Cell Viabilityアッセイ)
(i)CellTiter‐Fluor(登録商標) Cell Viability(CTF)アッセイの試薬を37℃の湯浴にて完全に解凍させた。
(ii)GF-AFC Substrateをボルテックスミキサーにて均一に混合した。
(iii)CTFアッセイ試薬(キット)に付属のバッファーとGF-AFC Substrateとをそれぞれ10mL:10μLの混合比で、必要量混合した。
(iv)混合したCTF試薬混合物を、上記のB.(v)で培養した細胞を含む24ウェルブラックプレートに、1つのウェル当たり100μLで添加し、速やかにアルミニウム箔で遮光した後、30秒間プレートシェイカーで振とうした。
(v)プレートをインキュベーターに入れ、24ウェルブラックプレートをインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2の条件下で30分間細胞を培養した。
(vi)プレートリーダーで蛍光強度を測定した(励起波長380nm、蛍光波長505nm)。得られた測定結果より、脂質ナノ粒子を添加していない細胞の蛍光強度を1として生存する細胞数を算出した。生存する細胞数が0.8超1.00以下を◎(優)、0.50超0.80以下を〇(良)、0.20超0.50以下を△(可)、0.20以下を×(不可)として評価した。
【0207】
[in vivo動物実験]
mRNAを内封させた脂質ナノ粒子を評価するためにマウスを用いて実験を行った。マウスに脂質ナノ粒子を含む溶液を注射しトランスフェクションし、産生した所定のタンパク質の量を測定することで、用いた脂質ナノ粒子の性能を評価することができる。以下、実験の手順を示す。
【0208】
A.脂質ナノ粒子含有溶液の調整
実施例2、11、12の脂質(Ib)、(Ik)、(Il)を用いて、in vivo動物実験用の脂質ナノ粒子含有溶液を調整した。上記の[脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)の作製]に記載される脂質溶液の調整方法の(ii)において、脂質溶液を、メイン脂質/ヘルパー脂質/コレステロール=45/10/45になるように混合して、さらに混合液に1.5mol%になるようにポリエチレングリコール修飾脂質(PEG2000-DMG)を添加して作製した点を変更した以外は、上記の[脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)の作製]の方法と同様にして脂質ナノ粒子含有溶液を調整した。
また、実施例2の脂質(Ib)より形成した脂質ナノ粒子含有溶液については、比較のために、ポリエチレングリコール修飾脂質を添加しないで作製した脂質ナノ粒子含有溶液も、in vivo動物実験に使用した。
【0209】
B.投与用溶液の調整
実施例2、11、12の脂質(Ib)、(Ik)、(Il)より形成した脂質ナノ粒子含有溶液を、遠心式限外ろ過フィルターユニット(Amicon Ultra-2,10k)を用いて、目的の濃度(mRNAとして0.03125μg/μL)まで濃縮した(6,000xg)。次いで、最終的なスクロース濃度が0.3Mとなるように、濃縮した脂質ナノ粒子含有溶液に1.5Mスクロース溶液を添加して投与用溶液を得た。
【0210】
C.投与および測定
投与用溶液50μL(mRNA量として、1.25μg/マウス)をマウスの左後肢に筋肉内投与した。そして投与から所定時間(2、4、6、8、24時間)が経過する10分前に、30mg/mLルシフェリン溶液/PBS(-)を150mg/kg bodyの用量でマウスに腹腔内投与した。ルシフェリン溶液を投与して10分後に、イソフルラン麻酔下で、投与から所定時間における発光量をin vivoイメージングシステム(Xenogen社製、IVIS)にて測定し、タンパク質発現量を算出した。
【0211】
<評価結果>
(1)siRNAを含有する脂質ナノ粒子の評価結果について
各実施例および各比較例の脂質を用いて得た、siRNAを含有する脂質ナノ粒子の評価結果を表1、2に示す。
【0212】
【0213】
【0214】
表1に示すように、実施例1~12の脂質より得た脂質ナノ粒子は、粒子径やPDIが低くなっている。このように脂質ナノ粒子の粒子径やPDIが低いと、脂質ナノ粒子を標的細胞や組織へ到達させやすくすることができる。具体的には、粒子径やPDIが低いので、例えば標的組織が腫瘍である場合には、脂質ナノ粒子が腫瘍の血管の細孔の大きさよりも小さくなる傾向があり、組織内へ脂質ナノ粒子を到達させやすくすることができる。
また、実施例1~12の脂質より得た脂質ナノ粒子は、pH7.4のTris-HCl中で測定した電荷が低くなっている。生体の血液は約pH7.4の環境であり、そのような環境下で、脂質ナノ粒子のカチオン性が強い(電荷が大きい)と、非特異的な吸着や免疫反応が生じ、或いは、脂質ナノ粒子が毒性を有したり、または標的細胞や組織に到達される前に代謝されやすくなる。実施例1~12の脂質より得た脂質ナノ粒子はpH7.4において電荷が低い(0mVに近い)のでの毒性や代謝の懸念を抑制することができる。
【0215】
また、表1に示すように、実施例1~12の脂質より得た脂質ナノ粒子は高いsiRNAの内封率を有している。したがって、siRNAを内封する脂質ナノ粒子を効率よく得ることができる。
【0216】
さらに、表1のGFPアッセイおよび毒性の細胞実験の結果に示すように、実施例1~12の脂質より得た脂質ナノ粒子は、GFPアッセイの結果が低い値となっている。したがって、HT1080-EGFP(ヒト/線維肉腫)細胞の緑色蛍光タンパク質遺伝子(EGFP)が効果的にノックダウンされていること、つまり、脂質ナノ粒子が細胞内に到達してsiRNAにより当該遺伝子の発現が阻害されていることが分かる。したがって、実施例1~12の脂質を用いることで、効果的にsiRNAを細胞内に送達することができる。
【0217】
また、表1の実施例1~6に示されるように、第1アミノ酸が親水性アミノ酸である脂質(実施例1~5)は、第1アミノ酸が親水性でない脂質(実施例6)よりもGFPアッセイの結果が良好であることがわかる。したがって、第1アミノ酸が親水性アミノ酸である脂質は、より効果的に、核酸等の導入化合物を生体内の標的細胞または組織などへ送達することができる。
【0218】
また、表1に示す、CCKアッセイやLDHアッセイは細胞毒性に関連する評価であるが、実施例1~3、5、6の脂質は、細胞毒性も低くいことが分かる。なお、siRNAを細胞内に導入するためには、mRNAを細胞内に導入する場合よりも比較的多い脂質を用いているが、実施例1~3、5、6の脂質は比較的多い脂質を細胞へ適用させたとしても、毒性を低減させることができる。
【0219】
また、実施例10~12の脂質は、脂質親和性領域が実施例1~9の脂質と異なる脂質である。実施例5と実施例10の結果より、脂質親和性領域の炭化水素基において、不飽和結合の数が変化しても良好な結果が得られることが分かる。さらに実施例2、11、12の結果より、脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変化させても、所望の範囲(具体的には、式(I)中のR1の炭化水素基の炭素数が32~48個)であれば、良好な結果が得られることが分かる。
【0220】
つづいて、表2の比較例1~4、12は、それぞれ同じ脂質親和性領域と、相互に異なる1つのアミノ酸からなる親水性領域とを有する脂質を用いた結果を示している。表2の比較例1に示すように、比較例1、12の脂質より得た脂質ナノ粒子は、粒子径やPDIが大きい値になっている。したがって、比較例1、12のような1つのアミノ酸を親水性領域とする脂質では、導入化合物を標的細胞や組織へ到達させることが困難であることがわかる。他方、表2の比較例2~4に示されるように、比較例2~4の脂質より得た脂質ナノ粒子は、比較例1の場合よりも粒子径やPDIが大きい値ではないものの、GFPアッセイの結果が大きい値になっている。したがって、比較例2~4のように親水性領域が1つのアミノ酸であっても当該アミノ酸の側鎖が塩基性を有する脂質は、アミノ酸の側鎖が塩基性でない脂質(比較例1、12)に比べて粒子径やPDIが改善され得るものの、導入化合物を細胞内に効率的に導入させにくいことがわかる。また、各実施例に示されるような、2つのアミノ酸からなる親水性領域を有する脂質が有効であることが分かる。
【0221】
また、表2の比較例5~10では、比較例4の脂質に対して、脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を変化させた脂質の結果を示している。具体的には、脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数が36個である比較例4の脂質と比較して、炭素数が20個である比較例5の脂質、炭素数が22個である比較例8の脂質、炭素数が28個である比較例9の脂質は、粒子径およびPDIのいずれか一方または両方が大きく悪化している。これに対して、炭素数が32個である比較例6の脂質、炭素数が44個である比較例7の脂質は、比較例4の脂質と比較して、粒子径およびPDIが同等であると認められる。したがって、表2の比較例4~9の結果より、脂質親和性領域の炭化水素基の炭素数を32~48個の範囲外にすると、粒子径およびPDIのいずれか一方または両方が大きく悪化することが分かる。
さらに、比較例8、9の脂質は、脂質親和性領域の分岐した炭化水素基について、分岐鎖の間での炭素数に差(10個または16個)がある脂質である。比較例8、9の脂質は、比較例6、7の脂質のように分岐鎖の間での炭素数に差がない脂質と比較して、粒子径およびPDIが悪化している。したがって、脂質親和性領域の炭化水素基が分岐している場合には、分岐した炭化水素基の間での炭素数の差が小さい方が良好な結果が得られることが分かる。
【0222】
さらに、表1の実施例1の脂質、表2の比較例10、11の脂質を用いた結果より、脂質親和性領域と、親水性領域との結合部分において、エステル基やアミド基を介して結合を形成するよりも、炭化水素基である脂質親和性領域とアミノ酸部分である親水性領域とが直接結合する方が良好な結果が得られることが分かる。
【0223】
(2)mRNAを含有する脂質ナノ粒子の評価結果について
続いて、実施例1、2、5の脂質を用いて作製した、mRNAを含有する脂質ナノ粒子の評価結果を表3に示す。
【0224】
【0225】
実施例1、2、5の脂質を用いて得た、mRNAを含有する脂質ナノ粒子は、上記のsiRNAを含有させた脂質ナノ粒子と同様に、粒子径やPDIが低くなっており、脂質ナノ粒子を標的細胞や組織へ到達させやすくなっている。
また、実施例1、2、5の脂質より得た脂質ナノ粒子は、pH7.4のTris-HCl中で測定した電荷が低くなっており、生体内で、非特異的な吸着や免疫反応が生じることを抑制することができる。
【0226】
また、表3に示すように、実施例1、2、5の脂質より得た脂質ナノ粒子は高いmRNAの内封率を有している。したがって、mRNAを内封する脂質ナノ粒子を効率よく得ることができる。
【0227】
さらに、表3のタンパク質発現量およびCTFアッセイ(毒性に関する評価)の結果に示すように、実施例1、2、5の脂質より得た脂質ナノ粒子は、所望のタンパク質を一定量発現させており、つまり、脂質ナノ粒子が細胞内に到達して脂質ナノ粒子が含有するmRNAによりタンパク質が発現していることが分かる。したがって、実施例1、2、5の脂質は、効果的にmRNAを細胞内に送達することができる。
また、表3に示すように実施例1、2、5の脂質は、細胞実験において生存している細胞数が多い。したがって、実施例1、2、5の脂質は、mRNAを標的細胞や組織へ送達させるために用いた場合には細胞毒性も低くいことが分かる。
【0228】
なお、表3には、mRMAワクチンの脂質として使用されている参考例1の脂質(r1)を用いた例も示しているところ、実施例1、2、5の脂質を用いた結果は、参考例1の脂質を用いた結果と比較して良好な結果であることがわかる。
【0229】
(3)in vivo動物実験の評価結果について
続いて、実施例2、11、12の脂質を用いて作製した、in vivo動物実験用の脂質ナノ粒子の評価結果を表4に示す。
【0230】
【0231】
実施例2の結果より、脂質ナノ粒子含有溶液を調整する際に、ポリエチレングリコール修飾脂質を存在させることにより、タンパク質発現量を大きく向上させることができることが分かる。また、実施例11、12の結果から分かるように、実施例11、12の脂質より作製した脂質ナノ粒子含有溶液を用いた場合でも、タンパク質発現量を大きく向上させることができることが分かる。
したがって、本実施形態の脂質は、脂質ナノ粒子含有溶液を調整する際に、本実施形態の脂質以外の分子を存在させることで、より良好な特性を得られることが想定される。