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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027211
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】アレルギー発症抑制食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240222BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240222BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240222BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20240222BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20240222BHJP
   A23L 9/00 20160101ALN20240222BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L29/00
A23L5/00 M
A23L5/20
A21D13/00
A23L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129816
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】鶴永 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森田 栄伸
【テーマコード(参考)】
4B018
4B025
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018MD48
4B018MD61
4B018ME07
4B018MF02
4B025LB17
4B025LG21
4B025LG32
4B025LG41
4B025LG52
4B025LG53
4B025LK07
4B025LP01
4B025LP10
4B032DB01
4B032DB22
4B032DG02
4B032DK29
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP40
4B035LC06
4B035LG04
4B035LG15
4B035LG31
4B035LG33
4B035LG35
4B035LG43
4B035LG44
4B035LG57
4B035LK19
4B035LP21
(57)【要約】
【課題】小麦、大豆、牛乳、卵アレルギーを簡便に抑制可能で、従来品に対して風味や舌触りに違和感のない加工食品を提供すること。
【解決手段】小麦、大豆、牛乳または卵を用いる食品であって、小麦の粉もしくはすり潰し品、大豆の粉もしくはすり潰し品、牛乳または液卵に対して所定割合のタンニンを添加して加工したことを特徴とするアレルギー発症抑制食品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦、大豆、牛乳または卵を用いる食品であって、
小麦の粉もしくはすり潰し品、大豆の粉もしくはすり潰し品、牛乳または液卵に対して所定割合のタンニンを添加して加工したことを特徴とするアレルギー発症抑制食品。
【請求項2】
タンニンを、渋皮粉末、果皮粉末、幼果粉末または果樹の葉粉末として添加することを特徴とする請求項1に記載のアレルギー発症抑制食品。
【請求項3】
タンニンを添加しない場合の食品の原材料のうち、小麦、大豆、牛乳または液卵の量を100重量部として、
タンニンを前記粉末にて添加する場合の置換割合を2重量部以上15重量部以下とすることを特徴とする請求項2に記載のアレルギー発症抑制食品。
【請求項4】
小麦を用いる食品であって、
使用する小麦をω5-グリアジン欠失小麦としたことを特徴とする請求項1に記載のアレルギー発症抑制食品。
【請求項5】
小麦、大豆、牛乳または卵を原材料として使用する、食品についてのタンニンのアレルギー発症抑制用添加材としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦や大豆、牛乳や卵を用いつつ、そのアレルギー発症を抑制する食品または関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食物アレルギーは、疾患者のみならず周囲のQOLも低下させるため、様々な取り組みがなされている。
食物アレルギーの原因物質は、鶏卵、牛乳、小麦が全体の39%、22%、12%をそれぞれ占め、また、アナフィラキシーショックを誘発する原因物質の上位3品目も鶏卵、乳製品、小麦である。そして、食物依存性運動誘発アナフィラキシーに関しては、原因物質は主に小麦と甲殻類である。
そしてアレルギー症状がでるでない、発症したときの症状の程度も、当人の体調等にも依存し、必ずしも定量的に評価できない側面が存在する。
一つの解決策として、原因食材を抜いたり、代替食材を用いたりすることもあるが、食感や味が異なり疾患者に必ずしも好適に受け入れられているわけではない。また、製造工程や製造方法を変更する必要も生じる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-110094
【特許文献2】特開2010-226958
【特許文献3】特開2006-126083
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田辺創一, 渡辺純, 園山慶,渡辺道子:難治性の小麦アレルギーに挑む アレルゲンの同定から対応食品の開発まで,化学と生物,39,7,2001
【非特許文献2】田中賀治代, 蟹江悠紀, 内藤宙大, 鈴木美沙, 楳村春江, 田上和憲ら:加工食品における小麦タンパク質の不溶化とアレルゲン性の変化について,アレルギー,66,3,222-230,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、小麦、大豆、牛乳、卵アレルギーを簡便に抑制可能で、従来品に対して風味や舌触りに違和感のない食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のアレルギー発症抑制食品は、小麦、大豆、牛乳または卵を用いる食品であって、小麦の粉もしくはすり潰し品、大豆の粉もしくはすり潰し品、牛乳または液卵に対して所定割合のタンニンを添加して加工したことを特徴とする。
【0007】
小麦、大豆、牛乳または卵を、以降においては適宜原因食材と称することとする。
食品とは広義であって、混合工程、加温工程や加熱工程が入っていればよいものとする。場合により加工食品と表現することができる。
小麦が原材料に多く含まれている(加工)食品の例としてはクッキーやパン、ケーキ、麺類などを挙げることができる。
大豆が原材料に多く含まれている(加工)食品の例としては、豆乳、豆腐、湯葉、きなこ等を挙げることができる。
牛乳が原材料に多く含まれている(加工)食品の例としては、ヨーグルト、プリン、グラタン、牛乳かん、ケーキなどを挙げることができる。
卵が原材料に多く含まれている(加工)食品の例としては、卵焼き、マヨネーズ、プリン、ケーキ、クッキーなどを挙げることができる。
【0008】
請求項2に記載のアレルギー発症抑制食品は、請求項1に記載のアレルギー発症抑制食品において、タンニンを、渋皮粉末、果皮粉末、幼果粉末または果樹の葉粉末として添加することを特徴とする。
【0009】
渋皮は栗渋皮を挙げることができるが、えぐみや苦みが食品の味を変えない範囲で、他のブナ科の椎や樫等の実の渋皮を用いることもできる。
果皮は、果物の果皮をいうが、タンニンの含有量が多ければ、広義に、他の皮、具体的には穀物の皮や鞘も含まれるものとする。ブドウやキャロブ豆を挙げることができる。
幼果は、成熟果に至らない果物をいい、タンニンの多い例として、柿、バナナ、カリン、ヤマモモ、桃、キャロブ豆の例を挙げることができる。
果樹の葉の例としても、ヤマモモ葉やオリーブ葉を挙げることができる。
なお、粉末とは乾燥した性状であれば特に限定されない。粉末の粒度は食品に依存するが、添加しない場合の通常の食品と舌触りや食感が異ならない程度とする。
【0010】
請求項3に記載のアレルギー発症抑制食品は、請求項2に記載のアレルギー発症抑制食品において、タンニンを添加しない場合の食品の原材料のうち、小麦、大豆、牛乳または液卵の量を100重量部として、タンニンを前記粉末にて添加する場合の置換割合を2重量部以上15重量部以下とすることを特徴とする。
【0011】
100重量部とは、たとえば、小麦と大豆といった複数の原因食材が原材料に含まれるときは、その合計を100重量部とした場合を意味する。
タンニンを添加しない場合の食品、とは、通常のレシピ通りのもの、という意義である。
置換割合とは、合計100重量部に対する割合をいう。すなわち例えば、小麦粉が原材料に含まれ、小麦粉100重量部としてタンニン含有粉末を2重量部置換するとは、小麦粉を98重量部、タンニン含有粉末2重量部とすることをいう。
置換割合を2重量部以上15重量部以下とするのは、2重量部未満であるとアレルギー発症の抑制効果が薄まり、また、15重量部を超えると味や食感が異なってくるためであり、また、加工条件も異なってくるためである。好ましくは3重量部以上10重量部以下とする。この範囲であれば、タンニン含有粉末の種類や原因食材の種類に依存せず好適な抑制効果が期待できる。
【0012】
請求項4に記載のアレルギー発症抑制食品は、請求項1に記載のアレルギー発症抑制食品において、小麦を用いる食品であって、使用する小麦をω5-グリアジン欠失小麦としたことを特徴とする。
【0013】
ω5-グリアジン欠失小麦としては、文献1または文献2に掲げる小麦の例を挙げることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、小麦、大豆、牛乳または卵を原材料として使用する食品についてのタンニンのアレルギー発症抑制用添加材としての使用である。
タンニンは、例えば、柿幼果の粉末、栗渋皮の粉末またはヤマモモ葉の粉末として用いることができる。この場合、添加量は、原因食材の2重量%~15重量%の範囲内での置換割合とすることができる。また、小麦を使用する場合にはω5-グリアジン欠失小麦を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小麦、大豆、牛乳、卵アレルギーを簡便に抑制可能で、従来品に対して風味や舌触りに違和感のない、そして加工条件や加工工程も変えずに済む食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】栗渋皮を添加したクッキーのFASPEKエライザII小麦(グリアジン)測定値を示した図である。
図2】柿幼果を添加したクッキーのFASPEKエライザII小麦(グリアジン)測定値を示した図である。
図3】ヤマモモ葉を添加したクッキーのFASPEKエライザII小麦(グリアジン)測定値を示した図である。
図4】栗渋皮とヤマモモ葉をそれぞれ添加したクッキーのFASTKITエライザVer.III小麦 測定値を示した図である。
図5】栗渋皮と柿幼果をそれぞれ添加したクッキーのFASPEKエライザII小麦(グリアジン)測定値を示した図である。
図6】クッキーについて、ウェスタンブロッティング法によるω-5グリアジンの検出結果を示した図である。
図7】栗渋皮を添加したクッキー生地に対する、FASPEKエライザII小麦(グリアジン)測定値(上段)ならびにFASTKITエライザVer.III小麦 測定値(下段)を示した図である。
図8】パンについて、ウェスタンブロッティング法によるω-5グリアジンの検出結果を示した図である。
図9】パンについて、小麦アレルギー患者の血清を用いたIgE免疫ブロッティング評価の結果を示した図である。
図10】栗渋皮を添加したヨーグルトのFASPEKエライザII牛乳(カゼイン)測定値を示した図である。
図11】上段は栗渋皮を添加した豆乳ヨーグルトのFASPEKエライザII大豆測定値を示した図である。下段はFASTKITエライザVer.III大豆 測定値を示した図である。
図12】上段は栗渋皮を添加したプリンFASPEKエライザII卵(卵白アルブミン)測定値を示した図である。下段はFASTKITエライザVer.III卵 測定値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来、食べ物の「しぶみ」はタンニン由来であることが多く、食材からタンニンを除去するなどしてから加工等されていた。すなわち、従来はタンニンを少なくする食品加工がなされていたところ、本願発明者らは鋭意検討の結果、タンニンを意図的に添加することにより食物アレルギーの抑制効果が得られることを発見して本発明をなしたものである。
以下、本発明の実施の形態を図表を参照しながら詳細に説明する。なお、抑制効果は、現実に即して、実際に口にする状態に加工された食品の状態にて主として評価している。
【0018】
<実験例1>(食品名-原因物質-添加材:クッキー-小麦粉-栗渋皮)
まず、小麦アレルギーの発症抑制について検討した。
小麦の主要タンパク質は、グリアジン、アルブミン、グロブリン、グルテニンの4種類であって、これらすべてがアレルゲンとなり得ることが知られている。そこで、小麦アレルギーの発症抑制用の添加材(以下、発症抑制用添加材を単に添加材と称することとする。)として、食品由来である栗の渋皮を用い、クッキーに加工したあとで評価をおこなった。
【0019】
詳細には次のとおりである。
○クッキーの製造:
クッキーの基本的な配合は、薄力粉(日清製粉グループ,薄力小麦粉)200g,バター(森永,無塩バター)120g,砂糖60g,タマゴ25g,塩2gとした。これらを混和後、冷蔵庫で30分程度寝かせて、ラップにくるんで冷凍後、6mm程度の厚さに切って、170℃15分で焼成した。
これに栗の渋皮を添加材として加えた。用いる栗は、渋皮を簡単に外せる品種「ぽろたん」とした。まず果皮に切れ目を入れ熱湯で3分間加熱処理し、果実と果皮に分けた。次に果皮から渋皮を剥がし、これを60℃×12時間で乾燥した後ミキサーで粉砕し、1.0mmのふるいにかけて添加材を得た。なお、配合の時以外は、この添加材は保存袋に封入し-25℃で保存した。
【0020】
添加材の添加量は、小麦粉の重量100に対して0%置換(無添加品:コントロール)、3%置換、5%置換、10%置換とした。なお、15%を超える置換量とすると、原料攪拌時の性状(粘度や形状保持性など)や加熱時間等を変えていく必要性が生じうる。逆に置換量が15%以下であれば他の原料の配分や製造工程をそのままとすることができて好適である(これは、他の添加材でも同様である)。
【0021】
○クッキーの味:
幾人かの被験者に食べてもらったが、味は、無添加品に比べると違いがあるようにも感じられるものの、このような風味であるとして、全く違和感なくクッキーとして受け入れられるものであることを確認した。なお、以降では、添加材を変えて、また、プリンやヨーグルトでも味の評価をおこなったが、いずれも15%置換までであれば違和感なく受け入れられることを確認したので味についての言及を適宜省略する。
【0022】
○抑制評価:
次に、サンドイッチエライザ法により、クッキーに含まれるグリアジンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII小麦(グリアジン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図1に示す。図から明らかなように、コントロールに対して、添加材の添加量に応じて著しく濃度が低減していることが確認できる(10%置換の場合はコントロールに比べて約1/10に低減している)。なお、コントロールと3%置換とを比較すると、2%以上の置換とすれば、有意な抑制効果を得ることができると考えられる。
【0023】
なお、本願発明者らは、栗鬼皮についても評価をおこなったが、有用といえるほどの抑制効果は得られなかった(実験例7参考)。
【0024】
<実験例2>(食品名-原因物質-添加材:クッキー-小麦粉-柿幼果)
次に、添加材を同じく食品由来であるところ柿幼果を用い、同様にクッキーに加工したあとで評価をおこなった。
【0025】
詳細には次のとおりである。
○クッキーの製造:
配合材料等は実験例1と同様である。
これに柿幼果を添加材として加えた。用いる柿は、渋柿品種である「西条」とした。なお、柿は幼果である方がタンニン量が多く、また、成熟果は時期や保存方法により脱渋することもあってばらつくため、使用する柿は幼果とした(8月採取)。幼果を凍結乾燥した後ミキサーで粉砕し、1.0mmのふるいにかけて添加材を得た。なお、配合の時以外は、この添加材は保存袋に封入し-25℃で保存した。
【0026】
添加材の添加量は、小麦粉の重量100に対して0%置換(無添加品:コントロール)、3%置換、5%置換、10%置換とした。
【0027】
○クッキーの味:
幾人かの被験者に食べてもらったが、味は、栗渋皮と同様、無添加品に比べると違いがあるようにも感じられるものの、このような風味であるとして、全く違和感なくクッキーとして受け入れられるものであることを確認した。
【0028】
○抑制評価:
次に、サンドイッチエライザ法により、クッキーに含まれるグリアジンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII小麦(グリアジン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図2に示す。図から明らかなように、コントロールに対して、添加材の添加量に応じて著しく濃度が低減していることが確認できる(10%置換の場合はコントロールに比べて約1/2に低減している)。なお、コントロールと3%置換とを比較すると、2%以上の置換とすれば、有意な抑制効果を得ることができると考えられる。
【0029】
<実験例3>(食品名-原因物質-添加材:クッキー-小麦粉-ヤマモモ葉)
次に、添加材をヤマモモの葉を用い、同様にクッキーに加工したあとで評価をおこなった。
【0030】
詳細には次のとおりである。
○クッキーの製造:
配合材料等は実験例1と同様である。
これにヤマモモ葉を添加材として加えた。用いるヤマモモは、島根大学松江キャンパス内に植えられている通常品種とした。6月に葉を採取し凍結乾燥した後ミキサーで粉砕し、1.0mmのふるいにかけて添加材を得た。なお、配合の時以外は、この添加材は保存袋に封入し-25℃で保存した。
【0031】
添加材の添加量は、小麦粉の重量100に対して0%置換(無添加品:コントロール)と10%置換とした。
【0032】
○クッキーの味:
幾人かの被験者に食べてもらったが、味は、これまでと同様、無添加品に比べると違いがあるようにも感じられるものの、このような風味であるとして、全く違和感なくクッキーとして受け入れられるものであることを確認した。
【0033】
○抑制評価:
次に、サンドイッチエライザ法により、クッキーに含まれるグリアジンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII小麦(グリアジン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図3に示す。図から明らかなように、コントロールに対して、10%置換で約1/4に濃度が低減していることを確認した。すなわち、ヤマモモ葉も小麦アレルギー発症抑制用添加材であることを確認できた。
【0034】
なお、栗渋皮、柿幼果、ヤマモモ葉、に共通する顕著な物質はタンニンであって、上述の実験から、タンニンに小麦アレルギーの発症抑制作用があることが確認できたといえる。従って、食品に添加しても、えぐみ(ホモゲンチジン酸やシュウ酸由来)や苦み(アルカロイド等が由来)が少ない、または、食品の味を変えない程度であれば、他の渋皮、幼果、果皮、果樹の葉を用いることができる。例えば、バナナ、カリン、キャロブ豆、ヤマモモ、桃等の幼果や、ブドウ果皮、オリーブ葉、ヤマモモ葉、ツバキ葉を用いることができる。このほか、広義には果皮であるが、小豆や落花生といった豆類の種皮やさやであってタンニン含有量の高いものを用いることもできる。
【0035】
<実験例4>複数アレルゲンに対する抑制評価
以上は、クッキーの原材料の小麦中のグリアジン由来のタンパク質濃度を測定して、添加材による濃度低減効果を評価したものである。そこで、他のアレルゲンも含めた複合的なタンパク質濃度を測定することによる評価をおこなった(実験例1~3と同様のクッキーを用いた評価をおこなった)。検出には、FASTKITエライザVer.III小麦(日本ハム株式会社製)を用いた。
結果を図4に示す。評価は、栗渋皮とヤマモモ葉とについておこなった。小麦のアレルゲンのうちグリアジンが最も含有量が多いため、相対的な濃度低減割合は大きくは高まらないが、タンパク質の絶対量はコントロールも大きくなるため低減効果が大きくなることが確認できる。換言すれば、タンニンにはグリアジンだけでなく、他のアレルゲンの低減効果もあることが確認できた。
<実験例5>(食品名-原因物質-添加材:クッキー-グリアジン欠失小麦粉-栗渋皮&柿幼果)
次に、用いる小麦をω-5グリアジン欠失小麦にかえ評価をおこなった。この小麦は、国立大学法人島根大学にて育成している品種である(特許文献1,特許文献2)。
詳細には次のとおりである。
○クッキーの製造:
配合材料等は実験例1と同様である。
添加材は栗渋皮と柿幼果を用い、添加量は、小麦粉の重量100に対して0%置換(無添加品:コントロール)、3%置換、5%置換、10%置換とした。
【0036】
○抑制評価1:
次に、サンドイッチエライザ法により、クッキーに含まれるグリアジンの濃度を測定した(FASPEKエライザII小麦(グリアジン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図5に示す。当然ながら、実験例1や実験例2と同様な傾向が得られている。
【0037】
○抑制評価2:
次に、クッキーについて、ウェスタンブロッティング法(IgG抗体使用)によるω-5グリアジンの検出試験をおこなった。結果を図6に示す。ω-5グリアジンに相当する約55kDaの領域にはバンドが確認できなかった。ω-5グリアジンは、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを生じさせる要因であるので、この小麦を用い更にタンニンを添加することで、同症状はもとより小麦アレルギー発症を総じて抑制することが可能となる。
<実験例6>(食品名-原因物質-添加材:クッキー生地-小麦粉-栗渋皮)
次に、加熱をおこなわない場合の抑制効果を確認した。
○クッキー生地の作成:
クッキー生地は、実験例1と同一とした。添加材を栗渋皮とし、小麦粉の重量100に対して0%置換(無添加品:コントロール)と10%置換の生地を作成した。
【0038】
○抑制評価:
サンドイッチエライザ法により、クッキー生地に含まれるグリアジンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII小麦(グリアジン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。加えて、他のアレルゲンも含めた複合的なタンパク質濃度を測定することによる評価をおこなった(FASTKITエライザVer.III小麦(日本ハム株式会社製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図7に示す。図から明らかなように、どちらの検出キットの場合でも、コントロールに対して、添加による濃度低減が確認できる。すなわち、添加材は、単に添加するだけで、その後加熱してもしなくても、小麦アレルギーの発症抑制を実現するといえる。換言すれば、食品の加工ないし製造工程中の添加時期に自由度があり、適用可能性の高い添加材であるといえる。
<実験例7>(食品名-原因物質-添加材:パン-小麦粉-栗渋皮&栗鬼皮)
以上はクッキーにおける評価であるが、他の加工食品についての評価もおこなった。具体的には、パンについての評価をおこなった。
【0039】
○パンの製造:
パンの基本的な配合は、特選強力小麦粉(日清製粉グループ,パン専用小麦粉)250g,バター(森永,無塩バター)10g,砂糖17g,スキムミルク(森永)6g,塩5g,水(水道水)180g,ドライイースト(株式会社パイオニア企画)2.8gとした。製造工程は、ニーディング、一次発酵(30分)、ガス抜き、2次発酵(40分)、焼成190℃40分行った。焼成してから24時間後スライスし、さらに24時間放置して常温にて乾燥させた後に、ブレンダーを使用して微粉砕した。
添加材としては、柿幼果5%置換、栗渋皮5%置換にて評価をおこなった。このほか、成熟した柿の果皮(そのままおよび脱渋品)、成熟した柿の果肉(そのままおよび脱渋品)、栗鬼皮についても5%置換品のパンを作成し、評価をおこなった。
【0040】
○抑制評価1:
パンについて、ウェスタンブロッティング法によるω-5グリアジンの検出試験をおこなった。結果を図8に示す。栗渋皮についてはω-5グリアジンに相当する約55kDaの領域にはバンドが確認できなかった。
○抑制評価2:
同様に、小麦アレルギー患者の血清を用いたIgE免疫ブロッティング評価をおこなった。結果を図9に示す。栗渋皮についてはω-5グリアジンに相当する約55kDaの領域のバンドが、図6と同様に確認できなかった。
【0041】
<実験例8>(食品名-原因物質-添加材:ヨーグルト-牛乳-栗渋皮)
次に、牛乳アレルギーに対する抑制効果を検討した。
具体的には、ヨーグルトとして評価をおこなった。これは、市販のヨーグルト(ビフィズスプレーンヨーグルト:イオントップバリュ株式会社)に栗渋皮の含有量が10%となるように混ぜ込んだ食品として評価をおこなった。
【0042】
○抑制評価:
サンドイッチエライザ法により、ヨーグルトに含まれるカゼインの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII牛乳(カゼイン)(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図10に示す。10%置換であることを加味しても、それ以上の低減効果が確認できる。従って、タンニン添加により、牛乳アレルギーの抑制効果が得られるといえることがわかった。
【0043】
<実験例9>(食品名-原因物質-添加材:豆乳ヨーグルト-大豆-栗渋皮)
更に、大豆アレルギーに対する抑制効果を検討した。
具体的には、豆乳ヨーグルトとして評価をおこなった。これは、市販の豆乳ヨーグルト(豆乳ヨーグルト:イオントップバリュ株式会社)に栗渋皮の含有量が10%となるように混ぜ込んだ食品として評価をおこなった。
【0044】
○抑制評価:
サンドイッチエライザ法により、豆乳ヨーグルトに含まれるβ-コングリシニンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII大豆(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。加えて、他のアレルゲンも含めた複合的なタンパク質濃度を測定することによる評価をおこなった(FASTKITエライザVer.III大豆(日本ハム株式会社製)を用いた測定をおこなった)。
結果をそれぞれ、図11に示す。10%置換であることを加味しても、それ以上の低減効果が確認できる。従って、タンニン添加により、大豆アレルギーの抑制効果が得られるといえることがわかった。
【0045】
<実験例10>(食品名-原因物質-添加材:プリン-牛乳&卵-栗渋皮)
更に、原因食材を複数含有する食品についての抑制効果を検討した。
具体的には、牛乳と卵を含むプリンの評価をおこなった。これは、市販のプリン(プッチンプリン:グリコ乳業株式会社)に栗渋皮の含有量が10%となるように混ぜ込んだ食品として評価をおこなった。
【0046】
○抑制評価:
サンドイッチエライザ法により、プリンに含まれる卵白アルブミンの濃度測定をおこなった(FASPEKエライザII卵白(株式会社森永生化学研究所製)を用いた測定をおこなった)。加えて、他のアレルゲンも含めた複合的なタンパク質濃度を測定することによる評価をおこなった(FASTKITエライザVer.III卵(日本ハム株式会社製)を用いた測定をおこなった)。
結果を図12に示す。図から明らかなように、著しい低減効果が確認できる(食品自体に加熱等することなく後添加で混ぜ込むだけで著しい低減効果が得られる)。従って、タンニン添加により、卵アレルギーそして牛乳アレルギーの抑制効果が得られるといえることがわかった。
【0047】
以上説明したように、小麦、大豆、牛乳または卵を原材料として使用する、食品についてのタンニンのアレルギー発症抑制用添加材としての使用は有効であって、アレルギーを簡便に抑制可能で、従来品に対して風味や舌触りに違和感のない加工食品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、粉ミルクへの添加素材としてもアレルギー発症抑制の観点から有効であると考えられる。

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図12