IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 菊池 年晃の特許一覧

特開2024-27239地震データ解析装置、方法及びプログラム
<>
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図1
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図2
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図3
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図4
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図5
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図6
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図7
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図8
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図9
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図10
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図11
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図12
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図13
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図14
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図15
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図16
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図17
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図18
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図19
  • 特開-地震データ解析装置、方法及びプログラム 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027239
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】地震データ解析装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/30 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G01V1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129870
(22)【出願日】2022-08-17
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】505363178
【氏名又は名称】菊池 年晃
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】菊池 年晃
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】地震予知に寄与する情報を提供する。
【解決手段】地震データ解析装置10は、特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データを逐次取得する地震データ取得手段11と、地震データ取得手段11で取得された地震データについて、震源の深さに応じて浅深度の地震データと浅深度よりも深い深深度の地震データとに分類する震源深度分類手段12と、深度分類手段12で分類された浅深度の地震データ及び深深度の地震データについて、それぞれエネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出する累積エネルギー算出手段13と、累積エネルギー算出手段13で算出された浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出する累積エネルギー監視手段14と、を備えたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データを逐次取得する地震データ取得手段と、
この地震データ取得手段で取得された前記地震データについて、前記震源の深さに応じて浅深度の地震データと前記浅深度よりも深い深深度の地震データとに分類する震源深度分類手段と、
この震源深度分類手段で分類された前記浅深度の地震データ及び前記深深度の地震データについて、それぞれ前記エネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出する累積エネルギー算出手段と、
この累積エネルギー算出手段で算出された前記浅深度の累積エネルギー及び前記深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出する累積エネルギー監視手段と、
を備えた地震データ解析装置。
【請求項2】
前記累積エネルギー監視手段は、前記浅深度の累積エネルギーと前記深深度の累積エネルギーとの差の増加を検出する、
請求項1記載の地震データ解析装置。
【請求項3】
特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データを逐次取得し、
取得された前記地震データについて、前記震源の深さに応じて浅深度の地震データと前記浅深度よりも深い深深度の地震データとに分類し、
分類された前記浅深度の地震データ及び前記深深度の地震データについて、それぞれ前記エネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出し、
算出された前記浅深度の累積エネルギー及び前記深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出する、
を備えた地震データ解析方法。
【請求項4】
算出された前記浅深度の累積エネルギー及び前記深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出するとともに、前記浅深度の累積エネルギーと前記深深度の累積エネルギーとの差の増加を検出する、
請求項3記載の地震データ解析方法。
【請求項5】
特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データを逐次取得する地震データ取得手段、
この地震データ取得手段で取得された前記地震データについて、前記震源の深さに応じて浅深度の地震データと前記浅深度よりも深い深深度の地震データとに分類する震源深度分類手段、
この深度分類手段で分類された前記浅深度の地震データ及び前記深深度の地震データについて、それぞれ前記エネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出する累積エネルギー算出手段、及び、
この累積エネルギー算出手段で算出された前記浅深度の累積エネルギー及び前記深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出する累積エネルギー監視手段、
としてコンピュータを機能させるための地震データ解析プログラム。
【請求項6】
前記累積エネルギー監視手段は、前記浅深度の累積エネルギーと前記深深度の累積エネルギーとの差の増加を検出する、
請求項5記載の地震データ解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定地域において時系列的に発生する地震のデータを解析することにより、地震の前兆を観測する地震データ解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震に関する研究は様々な観点から進められている。本発明者は、地震波を雑音性信号と捉えて、幾つかの信号処理法を駆使することにより、震源構造を解明する技術を開示している(特許文献1)。
【0003】
また、地震発生の予測に関する研究も盛んに行われている。例えば非特許文献1では、高知県の室津港の海底が地震時に大きく隆起し徐々に下降することに着目し、この地域において2035年頃に巨大地震が発生すると予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5616392号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鎌田浩毅著、「首都直下地震と南海トラフ」、MdN新書、2021年2月、p106-114
【非特許文献2】後誠介著、「紀伊半島の成立と崩壊」、ペトロジスト第61巻第1号(2017年)、p17-23
【非特許文献3】檀原毅著、「地震エネルギー潜在区の分布図」、地震予知連絡会会報第2巻(1970年)、p80-84
【非特許文献4】ウィキペディア(Wikipedia)、「マグニチュード」、インターネット、2022年7月22日検索、URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/マグニチュード
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の技術では、地震の発生を正確に予測することは極めて難しい。そのため、地震予知に寄与する情報の提供が喫緊の課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る地震データ解析装置は、
特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データを逐次取得する地震データ取得手段と、
この地震データ取得手段で取得された前記地震データについて、前記震源の深さに応じて浅深度の地震データと前記浅深度よりも深い深深度の地震データとに分類する震源深度分類手段と、
この震源深度分類手段で分類された前記浅深度の地震データ及び前記深深度の地震データについて、それぞれ前記エネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出する累積エネルギー算出手段と、
この累積エネルギー算出手段で算出された前記浅深度の累積エネルギー及び前記深深度の累積エネルギーの少なくとも一方の増加を検出する累積エネルギー監視手段と、
を備えたものである。
【0008】
本発明に係る地震データ解析方法は、本発明に係る地震データ解析装置の動作に対応するものである。本発明に係る地震データ解析プログラムは、本発明に係る地震データ解析装置の各手段をコンピュータに機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、逐次取得した地震データを震源の深さに応じて浅深度の地震データと深深度の地震データとに分類し、それぞれの地震データについてエネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー及び深深度の累積エネルギーとして算出し、これらの累積エネルギーの増加を検出することにより、地震予知に寄与する情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る地震データ解析装置を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る地震データ解析方法を示すフローチャートである。
図3】紀伊半島南東沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2004年)である。
図4】紀伊半島南東沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2010年)である。
図5】紀伊半島南東沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2016年)である。
図6】紀伊半島南東沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2020年)である。
図7】紀伊半島を構成する三タイプの地質体を示す図である。
図8】紀伊半島における付加体の形成と変形のしくみを示す図である。
図9】付加体と震源位置の関係を図3乃至図8に基づきモデル化した図である。
図10図3のデータから算出した累積エネルギーを示すグラフ(2004年)である。
図11図4のデータから算出した累積エネルギーを示すグラフ(2010年)である。
図12図5のデータから算出した累積エネルギーを示すグラフ(2016年)である。
図13図6のデータから算出した累積エネルギーを示すグラフ(2020年)である。
図14図10乃至図13のデータを含む累積エネルギーの年次変化を示すグラフである。
図15図14の縦軸を拡大して示すその一部のグラフである。
図16】室津港の地震隆起を示すグラフである。
図17】周期性地震の活動度の一例を示すグラフである。
図18】深部域と浅部域の二つの震源域を有する観測点を示す図である。
図19】紀伊半島南東沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2004年)である。
図20】東海地方南方はるか沖地震の震源深度分布を示すグラフ(2004年)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の基礎となる知見>
本発明者は、紀伊半島関連地震について研究を進めた結果、以下のような知見を得た。この知見を図面に沿って説明する。
【0012】
1.はしがき
最近、日本近辺では各所で地震が多発しており、複数の震源域が関連して巨大化した震源域が見つかった。その一つが紀伊半島南東沖地震域である。特にこの海域は、近い将来巨大地震が発生すると危惧されている。そこで、この海域で発生する地震の現状と将来を観測データから予測する。
【0013】
2.紀伊半島域の震源構造
地震観測データは防災科学技術研究所のHi-netを利用する。Hi-netが観測した「紀伊半島南東沖地震」の震源深度分布を年次ごとにグラフ化した。その一部を図3乃至図6に示す。図3乃至図6は震源深度分布図であり、図3は2004年、図4は2010年、図5は2015年、図6は2020年である。各図とも、縦軸は地震の深度[km]であり、横軸は元旦を基準(0)とした経過時間[hour]であり、各年に発生した地震について発生時間における深度を×印で示している。
【0014】
これらの図から明らかなように、震源域は50km以浅と300km以深との二領域に分割されている。Hi-netデータは2002年6月から現在に至るまで常時記録保存されている。これらの図では煩雑を避けるためマグニチュード1.5以上の地震に限定しているが、マグニチュード1.5未満の地震も同様に二領域に分割されている。すなわち、この地域の地震は深度の異なる二領域で発生している。
【0015】
3.紀伊半島の地殻構造
前項に示したように、震源域は深度に応じて二領域に分割され、その二領域は時間的に変化しない。したがって、この現象はその地域の地殻構造に起因していると考えられる。
【0016】
紀伊半島が形成された過程を地質学的に解説する図を、非特許文献2から引用して図7及び図8に示す。紀伊半島は三タイプの地質体(火成岩体、前弧海盆堆積体及び付加体)で構成されており(図7)、その地質体の一つが付加体である。この付加体は、海洋プレートと海洋との境界において、海溝やトラフ付近の深海で形成された。そして、海洋プレートの沈み込みによってその上部に位置する付加体が湾曲し、海洋プレートの更なる沈み込みによって付加体は次第に垂直分布に変わった(図8)。
【0017】
付加体と震源位置の関係を、図3乃至図8に基づきモデル化して図9に示す。図9において、最下層が海洋プレ-トであり、中間層が垂直化した付加体であり、最上層に表層が位置している。海洋プレートの移動により、付加体と海洋プレートとの接触面で地震が発生する。ここが深部の震源領域である。この領域での付加体のひずみによって付加体上部にもひずみが伝わり、付加体上部と表層下部との接触面で地震が発生する。ここが浅部の震源領域である。このように、深部と浅部の地震発生は、付加体を介して互いに関連していると考えられる。
【0018】
図3乃至図6の地震データは、深度約400km付近のプレートの移動による地震エネルギー変動が、観測容易な深度約40km付近の震源域へ伝搬されることを示している。この重要な役割を図9に示す付加体が担っている。付加体はその下端で受けた地震エネルギーを付加体の上端へ伝送している。その際、図3乃至図6において付加体内部で地震が発生しないことから明らかなように、付加体内部では地震エネルギーの反射、屈折及び減衰が伴わない。ここで、地震エネルギーの反射、屈折及び減衰を引き起こす最も大きな要因は断層である。要するに、この付加体内部には、これらの要因となる断層がないと考えられる。
【0019】
4.地震のエネルギー
地震は、地殻中に蓄積されていたひずみエネルギーの解放現象である。そのため、新しい地震のエネルギーは、同一地域内の過去の類似地震が発生した以降に蓄積が開始される(非特許文献3)。紀伊半島南東沖では前述したように震源域は深度的に二分化されている。したがって、蓄積されるひずみエネルギーも深度的に二分化されている。そこで、深部地震と浅部地震との関連性を調べるために、それらのエネルギーを調べる。地震のエネルギーE[Joule]は次式で表される(非特許文献4)。
log10E=4.8+1.5M
ここで、Mはマグニチュードである(以下同じ)。
【0020】
前述したように、浅部領域と深部領域で毎年数百回の地震が発生している。図10乃至図13は各年毎に地震のエネルギーを累積化したグラフであり、図10は2006年、図11は2012年、図12は2016年、図13は2020年である。各図において、縦軸は累積エネルギーである。累積エネルギーは、各年の元旦のエネルギーを0とし、その後に発生した地震のエネルギー(log10E)を累積的に加算したものである。横軸は元旦を0とした経過時間[hour]である。つまりグラフの右端は12月31日である。+印は深深度域で発生した地震の累積エネルギーであり、・印は浅深度域で発生した地震の累積エネルギーである。
【0021】
これらの図で特に注目すべきは、2016年の図12である。この図では、深部域で発生したM1.5からM3.7までの地震76件の累積エネルギーを、+印で示している。また、浅部域で発生したM1.5からM3.1までの地震86件の累積エネルギーを、・印で示している。図から明らかなように、両深度域の発生地震数及びそれらのマグニチュードの範囲が異なっているにもかかわらず、両深度域の累積エネルギーの上昇率のみならず細部変動までも一致している。
【0022】
例えば、2000時間から2600時間にわたる変動曲線は、深部地震と浅部地震が平行している。そして、深部地震の約450時間後に浅部地震が発生している。すなわち、深部地震に関連して浅部地震が発生することから、深部域で付加体下部に加えられたエネルギーが付加体上部で浅部地震として放射されていると考えられる。このような変化は異なる二つの震源では観測できないことである。したがって、図9の震動モデルは有効性が高いと言える。
【0023】
また、図10及び図11では、全般を通して深部地震(+印)よりも浅部地震(・印)の値が大きい。すなわち、深部で付加体に印加される累積エネルギーよりも、浅部で付加体から放出される累積エネルギーの方が大きい。これとは逆に、図12を境目として図13では、全般を通して浅部地震(・印)よりも深部地震(+印)の値が大きい。これらの相違については、付加体に印加されるエネルギーの長期変動として監視する必要がある。
【0024】
図12図13を比較すると、累積エネルギーの上昇傾向は一致しているが、上昇比率が大きく異なっている。浅部地震の最終累積値は図12より図13の値は100小さいが、深部地震の最終累積値は図12より図13の値は250大きい。したがって、付加体等には350のエネルギーが蓄積されていることになる。この蓄積エネルギーは、より大きな地震の素となるため、継続して観測することが重要である。
【0025】
5.累積エネルギーの長期変動
地震活動の長期変化を調べるためには、各年毎の累積エネルギーを更に長期にわたって調べる必要がある。そこで、長期変動のデータとして各年の累積エネルギーの最終値(12月31日の値)に着目する。累積エネルギーの最終値の年次変化を図14に示し、図14の縦軸を拡大して図15に示す。縦軸は累積エネルギーの最終値であり、横軸は年次である。防災科学技術研究所のHi-netでは、2002年6月から現在に至るまで連続的に計測かつ保存されている。+印は浅部域の最終値を表し、×印は深部域の最終値を表す。
【0026】
前項でも記したように、全般を通して、浅部域の最終値(+印)は深部域の最終値(×印)よりも大きい傾向にある。その理由は、図3に表れているように、浅部域で2004年9月5日に大きな地震(M7.4)が発生しているからである。この地震のエネルギーデータは記録されていないが、2002年以前に蓄積されたエネルギーである。そのエネルギーが、年次毎に放出されて減少し、2016年に至って深部域からのエネルギーと一致した。2016年以降は浅部域のエネルギーよりも深部域のエネルギーが大きくなり、それらのエネルギー差がこの地域に蓄積されていく。したがって、この地域に蓄積されるエネルギーの原点は2016年にあると見なす。それ以後のエネルギーの蓄積は次項に記す地震予知に関連する。
【0027】
6.繰り返し起きる地震と予知
南海トラフ海域では、古くから巨大地震が繰り返し発生している。すなわち、1854年の安政南海地震、1944年の昭和東南海地震、及び、1946年の昭和南海地震などである。これらの周期性に基づく次期地震の発生が幾つか予測されている。例えば図16に示す非特許文献1では、高知県の室津港の海底が地震時に大きく隆起し徐々に沈降していくことに着目している。そして、沈降速度を一定とすることにより、次の巨大地震の発生を2035年頃と予測している。
【0028】
また、非特許文献1では、周期的地震の活動度を検証しグラフ化している。図17にその概要を破線で模写した。図17において、縦軸は地震の活動度であり、横軸は経過時間である。横軸には、内陸地震増加→海の巨大地震→内陸地震減少→静穏期→内陸地震増加→海の巨大地震→内陸地震減少とある。この周期に従って、次の巨大地震の発生を2030年代と予測している。
【0029】
図17は、巨大地震の発生前後には活動度が上昇することを示している。しかしながら、2004年9月に現実に発生したM7.4の地震は考慮されていない。M8クラスの地震を巨大長周期地震と考えると、M7クラスの地震は中周期の地震と考えることができる。その地震の活動度を図17に実線で加筆した。ここで縦軸の活動度は、非特許文献1では抽象的な表現にすぎないが、本研究ではより具体的な物理量すなわちエネルギーで表すことができる。
【0030】
更に、このエネルギーは図14及び図15に示したようにプレートの移動に起因する地震活動の基本量すなわち蓄積エネルギーで表すことができる。この蓄積エネルギーの年次変化を観測し、その値が急上昇した場合又はある値に達した場合は地震の発生がかなり近づいたと言える。ある値の一例として、図14におけるの最大値2.4×104を目安とする。この値は2004年に発生した地震の最大値である。
【0031】
7.近隣する震源との連動
南海トラフ海域の地震波は時期的に連動して発生することが危惧されている。そこで、この海域で紀伊半島南東沖と同様な震源構造、すなわち深部域と浅部域との二つの震源域を有する観測点を調べ図18に示した。図18において、(1)は紀伊半島南東沖、(2)は東海地方南方はるか沖、(3)は遠州灘、(4)は静岡県南方はるか沖、(5)は駿河湾南方沖である。
【0032】
8.二つの震源域における連動性
図18に示す(1)紀伊半島南東沖と(2)東海地方南方はるか沖とは、距離が39kmであり、かなり接近している。2004年に発生したそれらの震源域における震源深度分布を図19(紀伊半島南東沖)及び図20(東海地方南方はるか沖)に示す。図19図3と同じグラフである。
【0033】
図19及び図20において、特に2004年9月5日に発生した大きな地震は、紀伊半島南東沖で発生時刻19時7分、震源の深さ37.6km、M6.9、東海地方南方はるか沖で発生時刻19時53分、震源の深さ37.8km、M3.5であった。これらの地震は、余震を含めるとほぼ同時に発生している。このようにこの海域で発生する地震は連動する可能性があるので、各震源域における蓄積エネルギーの変化を観測し、急激な変動が起こり始めたかどうかを監視する必要がある。
【0034】
9.まとめ
地震活動は、プレートの移動によって付随して生じた地殻歪が蓄積して応力限界を超えた時に発生する。本研究の目的は、地殻の変動を地震エネルギーに置換することにより、プレートの移動と地表近くの震源域の歪とを連結し、これにより地震予知に寄与する情報を取得することにある。
【0035】
本発明は上述の知見に基づきなされたものである。以下、本発明の実施形態を図面に沿って説明する。
【0036】
<実施形態>
図1に示すように、本実施形態の地震データ解析装置10は、特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データ(図3乃至図6)を逐次取得する地震データ取得手段11と、地震データ取得手段11で取得された地震データについて、震源の深さに応じて浅深度の地震データ(図3乃至図6の上半分)と浅深度よりも深い深深度の地震データ(図3乃至図6の下半分)とに分類する震源深度分類手段12と、深度分類手段12で分類された浅深度の地震データ及び深深度の地震データについて、それぞれエネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー(図10乃至図13の・印)及び深深度の累積エネルギー(図10乃至図13の+印)として算出する累積エネルギー算出手段13と、累積エネルギー算出手段13で算出された浅深度の累積エネルギー(図14及び図15の+印)及び深深度の累積エネルギー(図14及び図15の×印)の少なくとも一方の増加を検出する累積エネルギー監視手段14と、を備えたものである。
【0037】
なお、地震は地殻中に蓄積されたひずみエネルギーの解消現象である。このひずみエネルギーの蓄積量を算出するために累積エネルギーを用いる。また、図10乃至図13のグラフでは、元日を0としてその後に発生した地震のエネルギーを順次加算し、その加算期間を1年としている。上記「エネルギーを累積加算して一定期間ごとの」における「一定期間」とは、その加算期間を1年に限定しないという意味である。
【0038】
地震データ(図3乃至図6)は、例えば防災科学技術研究所が管理しているデータを利用できる。地震データ取得手段11は、防災科学技術研究所のHi-netから、地震が起きる度に地震データをダウンロードして取得すればよいし、又は、2002年に遡って任意の時刻の地震データをダウンロードして取得すればよい。
【0039】
震源深度分類手段12は、例えば図3乃至図6に示す地震データで言えば、震源の深さ200kmを境界として、浅深度の地震データ(図3乃至図6の上半分)と深深度の地震データ(図3乃至図6の下半分)とに分類する。境界となる震源の深さは、200kmに限定されるものではなく、二つの領域に分類できればどのように設定してもよい。
【0040】
累積エネルギー算出手段13は、浅深度の地震データ(図3乃至図6の上半分)及び深深度の地震データ(図3乃至図6の下半分)について、エネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー(図10乃至図13の・印)及び深深度の累積エネルギー(図10乃至図13の+印)として算出する。このときの「一定期間」は、図10乃至図13では1年としたが、地震データの解析に有効であれば半年や三か月又は一か月などどのような値にしてもよい。図10乃至図13において各年の累積エネルギーは、グラフの右端(12月31日)の値である。
【0041】
累積エネルギー監視手段14は、図14及び図15で言えば、浅深度の累積エネルギー(+)及び深深度の累積エネルギー(×)の少なくとも一方の増加を検出する。例えば、図14において浅深度の累積エネルギー(+印)が2004年に急激に増加している。このような累積エネルギーの急激な増加を、地震の前兆として検出する。
【0042】
より詳しくは、次のように説明できる。図15において、浅深度の累積エネルギー(+)の放出は毎年減少の一途をたどる。その一方、深深度の累積エネルギー(×)が加味されたエネルギーは、図17において波状の破線で示したように2030年に近づくとともに上昇の一途をたどる。つまり、図15における×印と+印との差、すなわちこの地域に蓄積されるエネルギーは、年とともに増加する。この蓄積エネルギーが図14に示す2004年の規模の地震の値に達するには、それらの年間差が平均して500とすれば2016年から48年後、それらの年間差が平均して1000とすれば2016年から24年後(2040年)になる(図14では2028年にピークとなる例を破線で表示)。ただし、これらの予測は誤差が大きい。しかしながら、深深度からのエネルギーはプレートの移動と連携しているため、プレート活動が活発になり急激なエネルギーの増大が生じた場合には、巨大地震の発生に備えた対応が可能となる。
【0043】
地震データ解析装置10によれば、逐次取得した地震データ(図3乃至図6)を震源の深さに応じて浅深度の地震データ(図3乃至図6の上半分)と深深度の地震データ(図3乃至図6の下半分)とに分類し、それぞれの地震データについてエネルギーを累積加算して一定期間(1年)ごとの浅深度の累積エネルギー(図10乃至図13の・印)及び深深度の累積エネルギー(図10乃至図13の+印)として算出し、これらの累積エネルギーの増加(図14及び図15)を検出することにより、地震予知に寄与する情報を提供できる。その理由を以下に詳しく説明する。
【0044】
プレート運動などにより地中に蓄積されたひずみエネルギー(以下「蓄積エネルギー」という。)が限界に達し、断層が破壊することにより、地震が発生する。そのため、蓄積エネルギーの増加を検出できれば、地震発生の予測精度を向上できることになる。ところが、従来の地震発生の予測では、隆起量や発生間隔などの情報を用いるため、間接的にしか蓄積エネルギーの増加を検出できなかった。つまり、隆起量の次元は[m]、発生間隔の次元は[年]であるが、蓄積エネルギーの次元は[J]である。このような次元の異なる情報同士は、関連性も低くなるので、予測精度が上がらないのである。
【0045】
これに対し、地震データ解析装置10では、蓄積エネルギーと同じ次元[J]を持つ累積エネルギーの増加を検出できることから、より直接的に蓄積エネルギーの増加を検出できることになるので、地震予知に有益な情報を提供できる。例えば、図14の浅深度の累積エネルギー(+印)の2004年の値のように、累積エネルギーの急激な増加を検出することにより、地震発生の予測精度を向上できる。
【0046】
また、累積エネルギー監視手段14は、浅深度の累積エネルギーと深深度の累積エネルギーとの差(図14及び図15における+印と×印との差)の増加を、検出するようにしてもよい。図14に示すように2004年に浅深度で大きな地震の発生した直後は、浅深度の累積エネルギー(+印)が深深度の累積エネルギー(×印)よりもかなり大きくなっている。その後、図15に示すように浅深度の累積エネルギー(+印)は、時間の経過とともに徐々に減少し、2016年を境に深深度の累積エネルギー(×印)よりも小さくなる。
【0047】
このことは、2016年を原点として浅深度から出るエネルギーよりも深深度から浅深度に加わるエネルギーの方が大きくなる(それらのエネルギー差が浅深度における蓄積エネルギーに相当)ことを意味する。したがって、浅深度の累積エネルギーと深深度の累積エネルギーとの差(図15における+印と×印との差)の増加を検出することにより、より直接的に蓄積エネルギーを検出できるので、地震発生の予測精度をより向上できる。
【0048】
換言すると、図15に示すように、累積エネルギー監視手段14は、浅深度の累積エネルギー(+印)及び深深度の累積エネルギー(×印)について経時変化を比較することにより、浅深度の累積エネルギー(+印)が深深度の累積エネルギー(×印)よりも小さくなってから、浅深度の累積エネルギーと深深度の累積エネルギーとの差(+印と×印との差)を更に累積加算し、この累積値を蓄積エネルギーとして検出するようにしてもよい。
【0049】
図2に示す本実施形態の地震データ解析方法は、例えば地震データ解析装置10の動作に対応する。すなわち、本実施形態の地震波解析方法は、特定地域内で発生した地震について震源の深さ及びエネルギーを含む地震データ(図3乃至図6)を逐次取得し(ステップS1)、取得された地震データについて、震源の深さに応じて浅深度の地震データ(図3乃至図6の上半分)と浅深度よりも深い深深度の地震データ(図3乃至図6の下半分)とに分類する(ステップS2)。
【0050】
分類された浅深度の地震データ及び深深度の地震データについて、それぞれエネルギーを累積加算して一定期間ごとの浅深度の累積エネルギー(図10乃至図13の・印)及び深深度の累積エネルギー(図10乃至図13の+印)として算出し(ステップS3)、算出された浅深度の累積エネルギー(図14及び図15の+印)及び深深度の累積エネルギー(図14及び図15の×印)の少なくとも一方の増加を検出する(ステップS4)。また、ステップS4において、浅深度の累積エネルギーと深深度の累積エネルギーとの差(図14及び図15における+印と×印との差)の増加を、検出することを加えてもよい。
【0051】
なお、地震データ解析装置10は、ハードウェアとして構築してもよいが、これに限らず、コンピュータに地震波解析プログラムを実行させることにより、ソフトウェア上に地震データ取得手段11、震源深度分類手段12、累積エネルギー算出手段13及び累積エネルギー監視手段14を構築するようにしてもよい。
【0052】
<その他>
以上、上記実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細については当業者が理解し得るさまざまな変更を加えることができ、そのように変更された技術も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、地震発生に至る応力蓄積状態を的確に把握することにより、地震発生時期の予測精度を向上させることに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 地震データ解析装置
11 地震データ取得手段
12 震源深度分類手段
13 累積エネルギー算出手段
14 累積エネルギー監視手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20