(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027247
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】走査アンテナ及び走査アンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20240222BHJP
H01P 11/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H05K1/09 A
H01P11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129884
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順一
(72)【発明者】
【氏名】田村 礼
【テーマコード(参考)】
4E351
【Fターム(参考)】
4E351AA02
4E351AA13
4E351BB01
4E351BB35
4E351CC03
4E351CC06
4E351DD05
4E351DD10
4E351DD35
4E351GG02
4E351GG09
(57)【要約】
【課題】信頼性が高い走査アンテナを提供する。
【解決手段】基材と、基材上に設けられる金属配線と、基材上に設けられ、少なくとも一部が金属配線上に重なり金属配線に接続される無機酸化物配線と、を有し、無機酸化物配線の厚さが、200nm以上であり、無機酸化物配線の配線抵抗値が、50kΩ以上200kΩ以下である、走査アンテナ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられる金属配線と、
前記基材上に設けられ、少なくとも一部が前記金属配線上に重なり前記金属配線に接続される無機酸化物配線と、を有し、
前記無機酸化物配線の厚さが、200nm以上であり、
前記無機酸化物配線の配線抵抗値が、50kΩ以上200kΩ以下である、
走査アンテナ。
【請求項2】
前記無機酸化物配線の厚さが、300nm未満である、
請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項3】
前記無機酸化物配線は、酸化インジウムスズからなり、
前記無機酸化物配線に含有される二酸化スズの濃度が、10質量%未満である、
請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項4】
前記基材と前記金属配線との間に位置し、前記金属配線を前記基材に固定する接着層を有する、
請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項5】
基材上に金属配線を形成する金属配線形成工程と、
少なくとも一部が前記金属配線上に重なるように前記基材上に酸化インジウムスズからなる無機酸化物配線を形成する無機酸化物配線形成工程と、を有し、
前記無機酸化物配線形成工程は、
二酸化スズの濃度が10質量%未満のスパッタリングターゲットを用いて厚さが200nm以上の無機酸化物層を成膜するスパッタリング工程と、
前記無機酸化物層をパターニングして前記無機酸化物配線を形成するパターニング工程と、を有する、
走査アンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査アンテナ及び走査アンテナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビームの放射方向を変える機能を有するアンテナ(走査アンテナ)として、アンテナ単位を備えるフェイズドアレイアンテナが知られている。フェイズドアレイアンテナには、位相器(フェイズシフター)が必要である。フェイズドアレイアンテナを低コストで製造可能とするために、液晶を用いた位相器が実用化されつつある。例えば、特許文献1には、低抵抗の金属製の電極(配線)及び高抵抗の無機酸化物製の電極(配線)を備える走査アンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/121876号
【特許文献2】特開2007-048800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材に対し金属配線、及び無機酸化物配線がこの順で積層される走査アンテナの開発が進められている。走査アンテナに用いられる、高抵抗の無機酸化物配線は、材料である無機酸化物自体が脆弱であり曲げ耐性が小さく、また、高抵抗化のため薄い膜厚で形成されため、厚膜の金属配線と比較して断線し易い。また、金属配線及び無機酸化物配線の両方と接着される接着層の線膨張係数と、無機酸化物配線の線膨張係数との差分が大きい場合、走査アンテナの製造時に発生する熱により、接着層及び無機酸化物配線それぞれの熱膨張量及び熱収縮量が異なる。したがって、無機酸化物配線のうち、金属配線及び接着層の両方と接触する部分にかかる負荷が大きくなり易く、係る部分において断線が発生する虞があった。そのため、走査アンテナの動作が不安定になる虞があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、信頼性が高い走査アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様の走査アンテナは、基材と、前記基材上に設けられる金属配線と、前記基材上に設けられ、少なくとも一部が前記金属配線上に重なり前記金属配線に接続される無機酸化物配線と、を有し、前記無機酸化物配線の厚さが、200nm以上であり、前記無機酸化物配線の配線抵抗値が、50kΩ以上200kΩ以下である。
【0007】
本発明の第二の態様の走査アンテナの製造方法は、基材上に金属配線を形成する金属配線形成工程と、少なくとも一部が前記金属配線上に重なるように前記基材上に酸化インジウムスズからなる無機酸化物配線を形成する無機酸化物配線形成工程と、を有し、前記無機酸化物配線形成工程は、SnO2濃度が10質量%未満のスパッタリングターゲットを用いて厚さが200nm以上の無機酸化物層を成膜するスパッタリング工程と、前記無機酸化物層をパターニングして前記無機酸化物配線を形成するパターニング工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性が高い走査アンテナを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の走査アンテナの断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の走査アンテナの製造方法の各工程を示す模式図であり、
図2(a)は金属配線形成工程の第1手順を示し、
図2(b)は金属配線形成工程の第2手順を示し、
図2(c)は無機酸化物配線形成工程のスパッタリング工程を示す。
【
図3】
図3は、スパッタリング工程で用いるスパッタリングターゲット中の二酸化スズの濃度と形成される無機酸化物層のシート抵抗値を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の走査アンテナについて説明する。
図1は、本実施形態の走査アンテナ1の断面図である。
図1で示す走査アンテナ1は、あくまで全体構造の一部のみを示すものである。走査アンテナ1は、全体として
図1に示す素子を基材10の面内に複数配置したアレイ構造を構成する。
【0011】
<走査アンテナ>
走査アンテナ1は、基材10と、基材上に設けられる接着層20と、接着層20上に設けられる金属配線30と、接着層20上に設けられ、少なくとも一部が金属配線30上に重なる無機酸化物配線40と、を有する。無機酸化物配線40は、金属配線30と接続される。
【0012】
なお、本明細書では、基材10に対し接着層20が積層される方向を上側として走査アンテナ1の各部及び製造方法の説明を行う。しかしながら、本明細書中の走査アンテナ1の姿勢はあくまで一例であり、走査アンテナ1の使用時の姿勢及び製造時の姿勢は、本明細書で示す姿勢に限定されない。
【0013】
基材10は絶縁性の材料から成る。基材10の典型的な材質はガラスであるが、各種のプラスチックフィルムを使用することにより、基材10に可撓性を付与することもできる。本実施形態において、基材10の材質はガラスである。
【0014】
接着層20は、基材10上に設けられる。また、接着層20は、基材10と金属配線30との間に位置し、金属配線30を基材10に固定する接着層を有する。接着層20は、公知の接着剤で形成された層である。
【0015】
接着層20の線膨張係数は、金属配線30の線膨張係数と、無機酸化物配線40の線膨張係数との間の値であることが好ましい。このようにすると、金属配線30、無機酸化物配線40、及び接着層20それぞれの熱膨張量及び熱収縮量の差分を小さくできるため、無機酸化物配線40に加わる負荷を低減でき、無機酸化物配線40が断線することを抑制できる。
【0016】
金属配線30は、接着層20上の一部に設けられる。金属配線30は所定のパターン形状に形成されている。金属配線30は、接着層20を介して基材10に貼り合わされている。金属配線30は、接着層20を介して基材10に貼り合わされている。走査アンテナ1において、金属配線30は、低抵抗配線の役割を担う。
【0017】
金属配線30の断面形状は、接着層20から離れるにつれて徐々に縮小するテーパー状である。そのため、金属配線30の側面30aの法線は、上方に向かっている。
【0018】
金属配線30は、金属製である。本実施形態において、金属配線30は、銅製である。このため、本実施形態の金属配線30の線膨張係数は、16.8×10-6/Kである。金属配線30は、銀、アルミニウム等の比抵抗が小さい金属によって構成されても良い。低抵抗化の観点から、金属配線30は、厚膜であることが望ましい。金属配線30の厚さは、例えば1μm以上30μm以下である。本実施形態において、金属配線30の厚さは、2μmである。
【0019】
なお、金属配線30は、基材10上に直接的に設けられていてもよい。すなわち、金属配線30は、基材10上に設けられていればよく、基材10との間に接着層20が介在していても他の機能を有する層が介在していてもよい。
【0020】
無機酸化物配線40は、接着層20上に設けられる。無機酸化物配線40は、所定のパターン形状に形成されている。走査アンテナ1において、無機酸化物配線40は、高抵抗配線の役割を担う。
【0021】
なお、無機酸化物配線40は、金属配線30と同様に、金属配線30は、基材10上に設けられていればよく、基材10との間に接着層20が介在していても他の機能を有する層が介在していてもよい。
【0022】
無機酸化物配線40は、無機酸化物製である。本実施形態において、無機酸化物配線40は、酸化インジウムスズ(ITO)製である。このため、本実施形態の無機酸化物配線40の線膨張係数は、7.2×10-6/Kである。なお、無機酸化物配線40は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、ZnO、酸化インジウム亜鉛(IZO)、IGZOなどの比抵抗が大きい無機酸化物によって構成されても良い。
【0023】
無機酸化物配線40の厚さは、200nm以上、300nm未満である。無機酸化物配線40の厚さを200nm以上とすることで無機酸化物配線40の強度を高め断線を抑制することができる。無機酸化物配線40の厚さは、300nm未満とすることで無機酸化物配線40の抵抗値が低くなりすぎることを抑制できる。また、無機酸化物配線40の線幅は、5μm以上30μm以下とされる。本実施形態において、無機酸化物配線40の線幅は10μmである。
【0024】
無機酸化物配線40の配線抵抗値は、50kΩ以上200kΩ以下である。ここで無機酸化物配線40の配線抵抗値は、無機酸化物配線40の長さ方向の両端部間の電気抵抗値である。無機酸化物配線40は、配置抵抗値を上述の範囲内とすることで走査アンテナ1において高抵抗配線の役割を十分に担うことができる。本実施形態では、無機酸化物配線40の断線を抑制する目的で、無機酸化物配線40の厚さを200nm以上と比較的厚膜としている。このような厚膜の無機酸化物配線40では、抵抗値を50kΩ以上とすることが困難である。本実施形態では、無機酸化物配線40は、酸化インジウムスズからなり、無機酸化物配線に含有される二酸化スズ(SnO2)濃度を10質量%未満とする。これにより、無機酸化物配線40の配線抵抗値を大きくして上述の範囲内とすることができる。
【0025】
<走査アンテナの製造方法>
図2は、本実施形態の走査アンテナ1の製造方法の各工程を示す模式図である。
上述の構成を有する本実施形態の走査アンテナ1の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の走査アンテナ1の製造方法は、接着層形成工程と、金属配線形成工程と、無機酸化物配線形成工程と、を有する。
【0026】
接着層形成工程は、基材10上に接着層20を形成する工程である。本実施形態の接着層形成工程では、基材10の表面全体に、液状の接着剤を塗布して接着層20を形成する。接着層20は、基材10上にロールコート法を用いて形成される。液状の接着剤を塗布する方法は、ダイコート法及びスリット&スピンコート法等の塗布方法であってもよい。
【0027】
図2(a)(b)に示す金属配線形成工程は、接着層20を介して基材10上に金属配線30を形成する工程である。本実施形態の金属配線形成工程は、金属箔(金属層)30Aを形成する第1手順と、金属箔30Aにパターニングを行い金属配線30を形成する第2手順と、を有する。
【0028】
図2(a)に示す金属配線形成工程の第1手順では、まず金属箔30Aが形成される。金属箔30Aはシート状に形成された厚さ2000nmの銅箔である。本実施形態の第1手順では、厚さ2000nmの金属箔30Aが形成される。本実施形態の金属箔30Aは電解鍍金法によって形成されるが、スパッタリング法で形成されていてもよい。なお、金属箔30Aの形成時には、製膜の土台となるベース部材(図示略)を使用してもよい。この場合、金属箔30Aは、例えば、後段の基材10に貼り付ける工程の後にベース部材から取り外される。
【0029】
第1手順では、次に金属箔30Aの下側を向く面を接着層20に重ね合わせて金属箔30Aと基材10とを所定の圧力で圧着させつつ、接着層20を乾燥させる。これにより、接着層20を介して、金属箔30Aと基材10とを貼り合わせることができる。
【0030】
なお、金属配線形成工程の第1手順は、金属箔30Aの表面に接着剤を塗布し接着層20を形成した後に基材10を重ね合わせる方法を採用してもよい。この方法を採用する場合、
図2(a)に対し上下方向を反転させた状態で、金属箔30Aと接着層20に対して基材10を上側から重ね合わせる。
また、金属配線形成工程の第1手順は、接着層20上にスパッタリングなどの薄膜堆積法、又は電解鍍金法などの手段によって金属層を直接的に形成する工程であってもよい。
【0031】
なお、鍍金法によって金属箔を基材上に設ける場合は、鍍金槽内への基材の浸漬時や基材の搬送時に、基材の割れ及び欠けが発生する虞がある。しかしながら、本実施形態では、金属配線形成工程の第1手順において、接着層20を介して金属箔30Aを基材10上に貼り合わせるため、基材10の割れ及び欠けが発生することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の製造工数及び製造コストが増大することを抑制できる。また、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0032】
図2(b)に示すように、金属配線形成工程の第2手順は、金属箔30Aをパターニングして金属配線を形成する工程である。金属箔30Aのパターンニングは、フォトリソグラフィによって行われる。
【0033】
金属配線形成工程の第2手順では、まず、金属箔30A上にフォトレジスト層を形成する。本実施形態では、フォトレジストとしてポジ型フォトレジストであるノボラック樹脂を用いた。フォトレジストは、一般的なスピンコーターによって金属箔30A上に塗布され、フォトレジスト層が形成される。
次に、フォトレジスト層の乾燥を行う。本実施形態では、チャンバー内において減圧下でベークを行うことで乾燥させる。これにより、フォトレジスト層の乾燥時間を短縮できる。チャンバー内の気圧は、130Paとした。ベーク温度は、120℃とした。ベーク時間は、2分とした。
次に、金属配線30に対応したパターン形状が描画されたフォトマスクを介して、フォトレジスト層に紫外光を照射して、フォトレジスト層を露光する。本実施形態において、露光量は、35mJとした。
次に、露光後のフォトレジスト層の現像を行い、不要なレジストを除去する。現像液は、ポジ現像液を用いた。現像方法としては、スプレー現像法を用いた。現像液圧は、0.1MPaとした。現像液の温度は、25℃とした。現像時間は、25秒とした。
次に、金属箔30Aのエッチングを行い、金属箔30Aのうちフォトレジスト層が除去された部分を除去し、金属箔30Aを、金属配線30に対応したパターン形状にパターンニングする。エッチング液は、過酸化水素水、硫酸及び水を混合した混合水溶液とした。過酸化水素水の濃度は、2%~20%程度とした。硫酸の濃度は、2%~20%程度とした。エッチング液の液温は、40℃とした。エッチング時間は、60秒~300秒程度とした。
次に、金属配線30上に残存するフォトレジスト層の剥膜を行う。剥膜液は、ケイ酸塩水溶液を用いた。剥膜液の温度は、40℃とした。剥膜時間は、180秒とした。
最後に、窒素雰囲気化においてベーク温度250℃、ベーク時間90分のポストベークを行う。
【0034】
図2(c)に示す無機酸化物配線形成工程は、少なくとも一部が金属配線30上に重なるように、接着層20を介して基材10上に無機酸化物配線40を形成する工程である。本実施形態の無機酸化物配線形成工程は、無機酸化物層40Aを形成するスパッタリング工程と、無機酸化物層40Aにパターンニングを行い無機酸化物配線40を形成するパターニング工程と、を有する。
【0035】
図2(c)に示す無機酸化物配線形成工程のスパッタリング工程では、スパッタリングによって、接着層20上に酸化インジウムスズ(ITO)を積層させて、厚さが200nm以上の無機酸化物層40Aを形成する。
【0036】
一般的に酸化インジウムスズを成膜用のスパッタリングターゲット50として、酸化インジウム(In2O3)粉末と二酸化スズ(SnO2)粉末とを混合し焼結することで製造されたものが用いられる。本実施形態のスパッタリング工程では、二酸化スズの濃度が10質量%未満のスパッタリングターゲット50を用いて厚さが200nm以上の無機酸化物層を成膜する。これにより、成膜される無機酸化物層40Aのシート抵抗値を大きくして、無機酸化物配線形成工程で製造される無機酸化物配線40の配線抵抗を高く保つことが可能となる。
【0037】
なお、無機酸化物層40Aを成膜するスパッタリング工程において、導入酸素量を調整することで成膜される無機酸化物層40Aのシート抵抗値を高くしてもよい。しかしながら、導入酸素量によるシート抵抗値の調整は、制御性が悪いという問題がある。本実施形態に示すように、スパッタリングターゲット50中の二酸化スズの濃度を調整する方法であれば、成膜された無機酸化物層40Aのシート抵抗値を緻密に調整できる。
【0038】
本実施形態のスパッタリング工程におけるスパッタリングの電力値は、5.6kWとした。また、本実施形態のスパッタリング工程における基材10の搬送速度は、495nm/秒とした。また、成膜後には、100℃~250℃のアニール温度でアニールを行い、無機酸化物層40Aの組成を安定させる。
【0039】
上述のように、金属配線30の断面形状はテーパー状であり、金属配線30の側面30aの法線は上方に向かっている。本実施形態によれば、スパッタリング工程で、側面30aを含む金属配線30の外側面全体に、無機酸化物層40Aを均一な厚さで形成できる。
【0040】
一般的に、鍍金加工によって、金属配線30を形成する場合は、金属配線30が複雑な形状であると、電流密度に偏りが生じやすいため、金属配線30の膜厚のムラが大きくなり易く、走査アンテナ1の動作が不安定になる虞がある。本実施形態では、上述のように、金属箔30Aの形状が簡易な形状であるシート状であるため、鍍金加工によって形成される金属箔30Aの膜厚ムラを低減できる。また、本実施形態では、金属配線形成工程の第1手順において、金属箔30Aを基材10上に貼り合わせた後に、金属配線形成工程の第2手順において、金属箔30Aをパターンニングして金属配線30を形成する。したがって、金属配線30の膜厚のムラを低減でき、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0041】
一般的に、鍍金加工によって、厚膜の配線パターンを形成する場合、基材と配線パターンとの接着性を充分に得られない。基材と厚膜の配線パターンとの接着性を高める方法として、導電性ペーストによって厚膜の配線パターンを形成する方法があるが、この方法では、不活性ガス雰囲気下で導電性ペーストを焼成する必要が有るため、製造コストが増大してしまう。本実施形態では、金属配線形成工程の第1手順において、金属箔30Aを基材10上に貼り合わせた後に、金属配線形成工程の第2手順において、金属箔30Aをパターンニングして金属配線30を形成する。したがって、厚膜の金属配線30の製造コストが増大することを抑制できる。
【0042】
図2(c)に示す仕掛品に対し、無機酸化物配線形成工程のパターニング工程を行うことで、
図1に示す走査アンテナ1を形成することができる。
図1に示すように、無機酸化物配線形成工程は、無機酸化物層40Aをパターニングして金属配線を形成する工程である。
【0043】
無機酸化物配線形成工程のパターニング工程では、フォトリソグラフィによって無機酸化物層40Aのパターンニングが行われる。パターニング工程では、まず、無機酸化物層40A上にフォトレジスト層を形成する。本実施形態では、フォトレジストとしてポジ型フォトレジストであるノボラック樹脂を用いた。フォトレジストは、一般的なスピンコーターによって無機酸化物層40A上に塗布され、フォトレジスト層が形成される。
次に、フォトレジスト層の乾燥を行う。本実施形態では、チャンバー内において減圧下でベークを行うことで乾燥させる。チャンバー内の気圧は、130Paとした。ベーク温度は、120℃とした。ベーク時間は、2分とした。
次に、無機酸化物配線40に対応したパターン形状が描画されたフォトマスクを介して、フォトレジスト層に紫外光を照射して、フォトレジスト層を露光する。本実施形態において、露光量は、70mJとした。
次に、露光後のフォトレジスト層の現像を行い、不要なレジストを除去する。現像液は、ポジ現像液を用いた。現像方法としては、スプレー現像法を用いた。現像液圧は、0.15MPaとした。現像液の温度は、25℃とした。現像時間は、100秒とした。
次に、無機酸化物層40Aのエッチングを行い、無機酸化物層40Aのうちフォトレジスト層が除去された部分を除去し、無機酸化物配線40に対応したパターン形状にパターンニングする。エッチング液は、シュウ酸水溶液とした。エッチング液の液温は、40℃とした。エッチング時間は、60秒とした。
次に、無機酸化物配線40上に残存するフォトレジスト層の剥膜を行う。剥膜液は、ケイ酸塩水溶液を用いた。剥膜液の温度は、40℃とした。剥膜時間は、180秒とした。フォトレジスト層の剥膜が終了すると、
図1に示すように、所定のパターン形状の無機酸化物配線40が形成される。
【0044】
<まとめ>
本実施形態の走査アンテナ1は、基材10と、基材10上に設けられる金属配線30と、基材10上に設けられ、少なくとも一部が金属配線30上に重なり金属配線30に接続される無機酸化物配線40と、を有する。また、無機酸化物配線40の厚さが、200nm以上である。無機酸化物配線40の配線抵抗値が、50kΩ以上200kΩ以下である。
【0045】
本実施形態の無機酸化物配線40は、金属配線30の上側に乗り上げるように重ねて形成されている。このため、無機酸化物配線40は、金属配線30に乗り上げる境界部分で段差状に形成される。また、接着層20、金属配線30、及び無機酸化物配線40は、それぞれの熱膨張量及び熱収縮量が異なる。このため、無機酸化物配線40の段差部分には、温度変化が生じた際に大きな負荷が加わる。本実施形態によれば、無機酸化物配線40の厚さを、200nm以上の十分な厚さとすることで、無機酸化物配線40の強度を高め無機酸化物配線40の断線を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、金属配線30の側面30aは、接着層20から離れるにつれて徐々に縮小するテーパー状である。このため、無機酸化物配線40が、金属配線30に乗り上げる境界部分において、無機酸化物配線40が急激に屈曲した形状となることが抑制されている。しかしながら、側面30aのテーパー形状は、必ずしも滑らかに成形されておらず、成型状態によっては急峻なテーパー角となる場合がある。金属配線30の側面30aのテーパー形状は、金属配線30のエッチングによって形成されている。このため、エッチングの状態によって、金属配線30と接着層20との界面の近傍でテーパー角が急峻になる場合や、接着層20が侵食されて接着層20と金属配線30との間に段差形状が形成される場合がある。本実施形態によれば、金属配線30の側面30aのテーパー形状が不完全である場合などにおいても、無機酸化物配線40の厚さを200nm以上とすることで無機酸化物配線40の断線を抑制できる。
【0047】
本実施形態によれば、無機酸化物配線40の配線抵抗値が、50kΩ以上200kΩ以下である。上述したように、無機酸化物配線40は、200nm以上の厚膜に形成されているが、配線抵抗値を上述の範囲内とすることで、低抵抗配線として十分に使用が可能となる。また、無機酸化物配線40の抵抗値を十分に高めて上述の範囲内とするために、無機酸化物配線40を構成する材料を適切に選定する必要がある。
【0048】
本実施形態によれば、無機酸化物配線40は、酸化インジウムスズからなり、無機酸化物配線40に含有される二酸化スズの濃度が、10質量%未満である。本実施形態において、酸化インジウムスズからなる無機酸化物配線40に中にドーパントされる二酸化スズの濃度を下げる事で材料物性の電気抵抗率やシート抵抗を上げることができる。本実施形態によれば、ドーピング材である二酸化スズの濃度を10質量%未満とすることで、無機酸化物配線40の厚さを200nm以上としつつ無機酸化物配線40の配線抵抗値を50kΩ以上に高めることができる。
【0049】
なお、本実施形態では、無機酸化物配線40を構成する材料として酸化インジウムスズを採用する場合について説明した。しかしながら、無機酸化物配線40を構成する材料は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、ZnO、酸化インジウム亜鉛(IZO)、IGZOなどの他の無機酸化物であってもよい。この場合、ドーピング材として、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)などが含有され、ドーピング材の濃度調整によって配線抵抗値が調整される。
【0050】
本実施形態の無機酸化物配線40の厚さは、300nm未満である。無機酸化物配線40の厚さを厚くし過ぎると、無機酸化物の物性値としての抵抗値を高めたとしても、無機酸化物配線40の高抵抗配線として機能する程度に配線抵抗値を高め難い。本実施形態によれば、無機酸化物配線40の厚さを300nm未満とすることで、無機酸化物配線40の抵抗値を適切な範囲とすることができる。
【0051】
本実施形態の走査アンテナ1によれば、基材10と金属配線30との間に位置し、金属配線30を基材10に固定する接着層20を有する。本実施形態によれば、金属配線30は、接着層20を介して基材10に貼り合わされる。厚膜に形成される金属配線30の内部応力は大きく、また、金属製である金属配線30と基材10との密着力は小さい。そのため、金属配線30を基材10上に直接設ける場合では、基材10からの金属配線30の浮き及び剥がれが発生し易い。本実施形態では、金属配線30及び基材10の両方と密着性が高い接着剤から成る接着層20を介して、金属配線30が基材10に貼り合わされるため、基材10からの金属配線30の浮き及び剥がれが発生することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0052】
本実施形態の走査アンテナ1の製造方法は、基材10上に金属配線30を形成する金属配線形成工程と、少なくとも一部が金属配線30上に重なるように基材10上に酸化インジウムスズからなる無機酸化物配線40を形成する無機酸化物配線形成工程と、を有する。無機酸化物配線形成工程は、二酸化スズの濃度が10質量%未満のスパッタリングターゲット50を用いて厚さが200nm以上の無機酸化物層40Aを成膜するスパッタリング工程と、無機酸化物層40Aをパターニングして無機酸化物配線40を形成するパターニング工程と、を有する。
【0053】
本実施形態によれば、無機酸化物層40Aを形成するスパッタリング工程において、二酸化スズの濃度が10質量%未満のスパッタリングターゲット50を用いて厚さが200nm以上の無機酸化物層40Aを成膜する。スパッタリングターゲット50に含まれる二酸化スズの濃度を10質量%未満とすることで、当該スパッタリングターゲット50を用いて製膜される無機酸化物層40Aの二酸化スズの濃度も10質量%未満とすることができる。これにより、無機酸化物層40Aをパターニングして形成される無機酸化物配線40の抵抗値を十分に高めることができる。
【0054】
図3は、酸化インジウムスズ(ITO)成膜用のスパッタリングターゲット50に含まれる二酸化スズ(SnO
2)の濃度と、成膜された無機酸化物層40Aのシート抵抗値を表すグラフである。なお、
図3の縦軸のシート抵抗値は、成膜後さらにアニールを行った後の値である。
図3に示すように、スパッタリングターゲット50に含まれる二酸化スズの濃度を低くすることで、無機酸化物配線40の配線抵抗値も高めることができ、無機酸化物配線40を厚膜に成形しても高抵抗配線として十分に機能させることができる。
【実施例0055】
以下、本発明の優位性を確認するために行った実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
様々なパラメータのサンプルの無機酸化物配線(ITO配線)の配線抵抗値を後段の表1にまとめる。なお、No.1~3のサンプルでは、実際に配線抵抗値を測定した。また、No.4~6のサンプルの配線抵抗値は、No.1~3のサンプルの結果と予備試験により確認されたターゲットの二酸化スズ(SnO
2)濃度とシート抵抗値との関係から導いた試験結果(
図3のグラフ)を基に試算した値である。また、各サンプルに対して、A~Eの5段階の評価を表1中に示す。5段階評価はAが最も好ましい評価であり、Eが最も好ましくない評価である。
【0057】
【0058】
No.1のサンプルに示すように、ターゲットの二酸化スズの濃度を10質量%として無機酸化物配線の厚さ(ITO厚さ)を60nmとする場合、無機酸化物配線(ITO配線)の配線抵抗値が高くなりすぎることが確認された。これは、当該サンプルにおいて無機酸化物配線が局所的に細く形成されているためであると考えられ、当該サンプルは、断線の危険性が高い。これに対し、No.2、3のサンプルに示すように、無機酸化物配線を200nm又は300nmに厚膜化することで、抵抗値が安定する。しかしながら、No.2、3のサンプルでは、ターゲットの二酸化スズ(SnO2)の濃度が10質量%であることから、無機酸化物配線(ITO配線)の配線抵抗値が低くなりすぎてしまう。これに対し、No.5、6に示すように、ターゲットの二酸化スズ(SnO2)の濃度を0質量%とする場合に、無機酸化物配線(ITO配線)を厚くしても配線抵抗値を高く保ちやすい。
【0059】
無機酸化物配線(ITO配線)を走査アンテナ1の高抵抗配線として使用する場合、配線抵抗値を50kΩ以上200kΩとすることが好ましい。このことから、サンプルNo.5のように、ターゲットの二酸化スズ(SnO2)の濃度を0質量%として厚さ200nmの無機酸化物配線を、走査アンテナに好適に利用できることが確認された。また、無機酸化物配線(ITO配線)の線幅をさらに細くする場合(例えば5μm程度)、サンプルNo.6のように、ターゲットの二酸化スズ(SnO2)の濃度を0質量%として厚さ300nmの無機酸化物配線であっても、走査アンテナに利用できることがわかる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらは全てではなく、これら以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。