(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027275
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】鋼管連結装置
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
E02D5/24 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129943
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】可知 大暉
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】永島 健
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA19
2D041CA01
2D041CB06
2D041DB02
2D041DB13
(57)【要約】
【課題】連結作業が簡単であり作業効率が高い鋼管連結装置を提供する。
【解決手段】鋼管の互いに対向する端部に夫々設けられるボックス継手1及びピン継手2と、これら継手1、2が互いに嵌合させられて形成されるこれらの継手1、2の境界を跨ぐキー溝31内に収容され、これらの継手1、2の境界を跨った跨設位置に移動可能なキー3と、軸部41及び頭部42を有するピン4とを備える。これらの継手1、2に、キー溝31に連通する貫通孔16、穴部26が夫々形成され、キー3に貫通孔16及び穴部26に対向する貫通孔32が形成されている。ピン4が、軸部41が貫通孔32、穴部26に挿入されて頭部42が貫通孔16に挿入されたセット位置に配置されると、キー3は頭部42によって跨設位置に位置決めされる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管軸心方向に隣り合わされた鋼管の互いに対向する鋼管端部の一方に設けられ、内周面に周方向に沿って内向き溝部が形成されているボックス継手と、
他方の鋼管端部に設けられ、前記ボックス継手と互いに嵌合させられたときに前記内向き溝部に対向する外向き溝部が、外周面に周方向に沿って形成されているピン継手と、
前記内向き溝部に格納された格納位置と、前記外向き溝部及び前記内向き溝部に跨った跨設位置と、に位置変更が可能な荷重伝達キーと、
軸部及び当該軸部の一端に連結された頭部を有するピンと、を備えた鋼管連結装置であって、
前記ボックス継手に、前記内向き溝部の底部から当該ボックス継手の外周面に連通するボックス継手貫通孔が形成され、
前記ピン継手に、前記ボックス継手及び前記ピン継手が互いに嵌合させられたときに前記ボックス継手貫通孔に対向するピン継手孔部が、前記外向き溝部の底部から当該ピン継手の内周面に向けて延びるように形成され、
前記ピンは、前記ボックス継手の外周面から前記軸部が前記ピン継手孔部に挿入されて前記頭部が前記ボックス継手貫通孔に挿入されたセット位置に配置可能であり、
前記荷重伝達キーは、前記ピンが前記セット位置に配置されたときに前記頭部との当接によって前記跨設位置に位置決めされるように構成されている鋼管連結装置。
【請求項2】
前記荷重伝達キーに、前記ボックス継手及び前記ピン継手が互いに嵌合させられたときに前記ボックス継手貫通孔及び前記ピン継手孔部に対向するキー貫通孔が形成され、
前記ピンが前記セット位置に配置されたときに、
前記軸部は前記キー貫通孔を通過して前記ピン継手孔部に挿入され、
前記頭部は前記キー貫通孔周りに当接して前記荷重伝達キーを前記跨設位置に位置決めさせる、請求項1に記載の鋼管連結装置。
【請求項3】
前記ピンの前記頭部は、前記軸部に連結する一端に前記軸部の方向へ次第に縮径するテーパー部を有する、請求項2に記載の鋼管連結装置。
【請求項4】
前記荷重伝達キーは、前記ボックス継手の外周面側の表面に、前記テーパー部と相補的な形状を有し前記テーパー部の少なくとも一部を受け入れる凹部を有する、請求項3に記載の鋼管連結装置。
【請求項5】
前記セット位置に配置された前記ピンの前記ボックス継手の外周面側への移動を規制するストップリングを更に備え、
前記ストップリングは、前記ボックス継手貫通孔に形成された取付溝に取り付けられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼管連結装置。
【請求項6】
回転力を付与せずに鋼管杭を地盤内に圧入する工法において、当該鋼管杭を構成する鋼管の連結に使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼管連結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼管杭を構成する鋼管の連結に使用される鋼管連結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記鋼管連結装置としては、一方の鋼管端部に溶接された筒部と、他方の鋼管端部に溶接された軸部とを互いに嵌合させた状態で、筒部の内周面に設けられた溝部と軸部の外周面に設けられた溝部とを跨る位置に円弧キーを配置し、これにより鋼管同士を抜け止め状態で連結させる構成のものが知られていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の鋼管連結装置では、連結された鋼管同士の相対回転を防止するための手段を設けている。具体的には、互いに嵌合された筒部及び軸部の外周面を跨ぐように形成された切欠凹部に回転抑止キーを嵌め込むことで、筒部及び軸部の相対回転を抑止し、これにより、鋼管同士を回り止め状態で連結させるようにしている。
【0005】
しかしながら、上記構成の鋼管連結装置においては、切欠凹部から抜け落ちないように回転抑止キーをボルト等で固定する作業が必要となるため、鋼管の連結作業に手間がかかり作業効率が低いという問題があった。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、連結作業が簡単であり作業効率が高い鋼管連結装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するための本発明に係る鋼管連結装置は、鋼管軸心方向に隣り合わされた鋼管の互いに対向する鋼管端部の一方に設けられ、内周面に周方向に沿って内向き溝部が形成されているボックス継手と、他方の鋼管端部に設けられ、前記ボックス継手と互いに嵌合させられたときに前記内向き溝部に対向する外向き溝部が、外周面に周方向に沿って形成されているピン継手と、前記内向き溝部に格納された格納位置と、前記外向き溝部及び前記内向き溝部に跨った跨設位置と、に位置変更が可能な荷重伝達キーと、軸部及び当該軸部の一端に連結された頭部を有するピンと、を備えた鋼管連結装置であって、前記ボックス継手に、前記内向き溝部の底部から当該ボックス継手の外周面に連通するボックス継手貫通孔が形成され、前記ピン継手に、前記ボックス継手及び前記ピン継手が互いに嵌合させられたときに前記ボックス継手貫通孔に対向するピン継手孔部が、前記外向き溝部の底部から当該ピン継手の内周面に向けて延びるように形成され、前記ピンは、前記ボックス継手の外周面から前記軸部が前記ピン継手孔部に挿入されて前記頭部が前記ボックス継手貫通孔に挿入されたセット位置に配置可能であり、前記荷重伝達キーは、前記ピンが前記セット位置に配置されたときに前記頭部との当接によって前記跨設位置に位置決めされるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
上記構成の鋼管連結装置においては、ボックス継手及びピン継手を互いに嵌合させた状態でピンをセット位置に配置すると、回転力が付与されることによりボックス継手及びピン継手が互いに対して回転しようとしても、ボックス継手貫通孔及びピン継手孔部を跨るピンに対してこれらの貫通孔の壁部が反対の方向から当接するので、ボックス継手及びピン継手の相対回転は抑止される。すなわち、上記構成の鋼管連結装置によれば、ピンを挿し込む工程を行うことによって、互いに嵌合されたボックス継手及びピン継手を、相対回転自在な状態から回り止め状態に移行させることができる。
【0009】
これに対し、特許文献1に示すような従来の鋼管連結装置は、互いに嵌合されたボックス継手及びピン継手を回り止め状態に移行させるのに、少なくとも回転抑止キーを切欠凹部に嵌め込む工程と、回転抑止キーをボルトで固定する工程とを行う必要がある。このように、従来の鋼管連結装置と比べると、本発明の鋼管連結装置は鋼管を連結させる際の工程が簡素化されているので、連結作業の効率が向上する。
【0010】
また、上記構成の鋼管連結装置においては、ピンを差し込む工程に伴って荷重伝達キーが跨設位置に位置決めされることで、ボックス継手及びピン継手は抜け止め状態になる。すなわち、上記構成の鋼管連結装置によれば、ピンを挿し込む工程を行うことによって、互いに嵌合されたボックス継手及びピン継手を、分離可能な状態から抜け止め状態に移行させることもできる。
【0011】
これに対し、従来の鋼管連結装置においては、回り止め状態に移行させるための工程と、抜け止め状態に移行させるための工程とを個別に行う必要がある。このように、従来の鋼管連結装置と比べると、本発明の鋼管連結装置は鋼管を連結させる際の工程がより簡素化されているので、連結作業の効率が向上する。
【0012】
本発明に係る鋼管連結装置において、前記荷重伝達キーに、前記ボックス継手及び前記ピン継手が互いに嵌合させられたときに前記ボックス継手貫通孔及び前記ピン継手孔部に対向するキー貫通孔が形成され、前記ピンが前記セット位置に配置されたときに、前記軸部は前記キー貫通孔を通過して前記ピン継手孔部に挿入され、前記頭部は前記キー貫通孔周りに当接して前記荷重伝達キーを前記跨設位置に位置決めさせると好適である。
【0013】
荷重伝達キーは通常複数設けられるが、荷重が均等にかかるように、これらの荷重伝達キーを周方向に等間隔で隔てた状態で跨設位置に位置決めさせることが好ましい。上記構成の鋼管連結装置によれば、ピンをセット位置に配置させるときに軸部がキー貫通孔を通過するので、ピンに対する荷重伝達キーの周方向のずれは生じにくい。すなわち、荷重伝達キーを所望の間隔で跨設位置に位置決めさせることが容易になる。
【0014】
本発明に係る鋼管連結装置において、前記ピンの前記頭部は、前記軸部に連結する一端に前記軸部の方向へ次第に縮径するテーパー部を有すると好適である。
【0015】
ボックス継手及びピン継手の相対回転を抑止するピンには曲げモーメントが作用するのであるが、ピンの頭部と軸部との連結箇所は、断面形状に変化が生じることで応力が集中するので、破壊しやすくなる。上記構成の鋼管連結装置によれば、ピンの頭部と軸部との連結箇所における断面形状の変化が緩くなるので、応力集中が緩和されて破壊が生じにくくなる。
【0016】
本発明に係る鋼管連結装置において、前記荷重伝達キーは、前記ボックス継手の外周面側の表面に、前記テーパー部と相補的な形状を有し前記テーパー部の少なくとも一部を受け入れる凹部を有すると好適である。
【0017】
上記構成の鋼管連結装置によれば、ピンがセット位置に配置された場合、荷重伝達キーは、凹部をもってピンの頭部におけるテーパー部と当接することで跨設位置に位置決めされる。荷重伝達キーに凹部が形成されない場合と比べて、荷重伝達キーはより広い面積でピンの頭部と当接することになるので、当接部位に作用する単位面積当たりの力を軽減することが可能になり、その結果、当接部位の破損を抑止することができる。
【0018】
本発明に係る鋼管連結装置において、前記セット位置に配置された前記ピンの前記ボックス継手の外周面側への移動を規制するストップリングを更に備え、前記ストップリングが、前記ボックス継手貫通孔に形成された取付溝に取り付けられていると好適である。
【0019】
上記構成の鋼管連結装置によれば、セット位置に配置されたピンが不意にボックス継手の外周面側へ抜けてしまうことで鋼管の連結が解除されてしまうことを防止できる。
【0020】
本発明に係る鋼管連結装置は、回転力を付与せずに鋼管杭を地盤内に圧入する工法において、当該鋼管杭を構成する鋼管の連結に使用されると好適である。
【0021】
回転力を付与せずに鋼管杭を地盤内に圧入する工法であれば、鋼管杭の埋設中に鋼管同士の間で伝達される回転力は小さくなるか無くなるので、鋼管同士の相対回転を抑止するためのピンについては、より強度の低いものを使用したり設置数を減らしたりすることが可能になる。設置数を減らす場合には、連結作業にかかる手間がより少なくなるので、作業効率が一層向上する。また、より強度の低いものを使用する場合と設置数を減らす場合のいずれにおいても、ピンにかかるコストの軽減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】鋼管を鋼管連結機構によって連結して構成した鋼管杭の部分断面図である。
【
図2】ボックス継手をピン継手に嵌合させる工程を説明する図である。
【
図3】格納位置に保持された荷重伝達キーを示す図である。
【
図4】荷重伝達キーの保持を解除する工程を説明する図である。
【
図5】ピンをセット位置に配置させる工程を説明する図である。
【
図6】セット位置に配置されたピンに対してストップリングを取り付ける工程を説明する図である。
【
図7】ピンによってボックス継手及びピン継手の相対回転が抑止された状態を示す図である。
【
図8】他の実施形態のピン及び荷重伝達キーを示す図である。
【
図9】他の実施形態の鋼管連結機構を示す図である。
【
図11】更なる実施形態のピンの回転前の状態を示す図である。
【
図13】
図11に示す実施形態のピンの回転後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る鋼管連結装置の実施形態を説明する。
【0024】
鋼管連結装置Jは、鋼管軸心方向X(本実施形態では上下方向と同一方向)に隣り合わされた鋼管S1、S2の互いに対向する端部を連結して鋼管杭Pを構成するためのものであり、ボックス継手1と、ピン継手2と、荷重伝達キー3と、ピン4と、ストップリング5とを備えている(
図1、2、6参照)。
【0025】
〔ボックス継手〕
ボックス継手1は、鋼製の筒状体を加工することによって作成される。ボックス継手1の上端部は、溶接等によって鋼管S1の端部と連結される。ボックス継手1は、
図2に示すように、下端部に突条11が設けられ、内周面12の上端部近傍に周溝13が形成されている。
【0026】
また、
図2、3に示すように、ボックス継手1の内周面12には、周方向に沿って、これに限られないが二条の内向き溝部14が形成されている。各内向き溝部14は、後述する荷重伝達キー3の鋼管杭Pの径方向に沿う厚みよりも深く構成され、且つ荷重伝達キー3の鋼管軸心方向Xに沿う高さよりも高く構成されている。
【0027】
更に、
図1~3に示すように、ボックス継手1には、内向き溝部14の底部からボックス継手1の外周面15に連通する断面円形のボックス継手貫通孔16が、後述する荷重伝達キー3の設置箇所に対応して、周方向に等間隔を隔てて複数設けられている。ボックス継手貫通孔16には、ボックス継手1の外周面15近傍に、後述するストップリング5を取り付けるための取付溝17が周設されている。
【0028】
〔ピン継手〕
ピン継手2は、鋼製の筒状体を加工することによって作成され、軸方向の少なくとも一部がボックス継手1内に挿入可能な形状を有している。ボックス継手1内に挿入可能な部分は、外周面21がボックス継手1の内周面12よりも略小径に形成されている。
【0029】
ピン継手2の下端部は、溶接等によって鋼管S2の端部と連結される。
図2に示すように、ピン継手2は、ボックス継手1内に挿入されたときに、ボックス継手1の周溝13に嵌合可能な突条22が上端部に設けられ、且つ、ボックス継手1に設けられた突条11が嵌合可能な周溝23が、外周面21の下端部近傍に形成されている。周溝13、23に突条22、11が夫々嵌合することで、ボックス継手1及びピン継手2は、鋼管軸心方向Xに沿って分離可能であり且つ相対回転自在な遊嵌状態で互いに嵌合される。
【0030】
また、
図2、3、6に示すように、ピン継手2の外周面21には、周方向に沿って、これに限られないが二条の外向き溝部24が、ボックス継手1とピン継手2とが互いに嵌合させられたときに内向き溝部14に対向するように形成されている。各外向き溝部24は、後述する荷重伝達キー3の厚みよりも浅く(本実施形態では厚みの略半分になるように)構成され、且つ荷重伝達キー3及び内向き溝部14のいずれの高さよりも高く構成されている。ボックス継手1とピン継手2とが互いに嵌合させられたときに、外向き溝部24の下方側壁面は内向き溝部14の下方側壁面と略同一の高さ位置にあり、これに対し、外向き溝部24の上方側壁面は内向き溝部14の上方側壁面よりも高い位置にある。互いに対向する内向き溝部14及び外向き溝部24により、荷重伝達キー3を収容するためのキー溝31が構成される。
【0031】
更に、ピン継手2には、外向き溝部24の底部からピン継手2の内周面25に向けて延びる断面円形のピン継手孔部26が、後述する荷重伝達キー3の設置箇所に対応して、周方向に等間隔を隔てた複数設けられている。ピン継手孔部26は、ボックス継手貫通孔16よりも小径であり、ボックス継手1とピン継手2とが互いに嵌合させられたときにキー溝31を介してボックス継手貫通孔16と対向するように設けられている。なお、本実施形態において、ピン継手孔部26は、外向き溝部24の底部から内周面25まで連通する貫通孔である。しかし、ピン継手孔部26は、内周面25まで連通しないめくら孔であってもよい。
【0032】
〔荷重伝達キー〕
荷重伝達キー3は、ボックス継手1とピン継手2とが互いに嵌合させられたときに、ボックス継手1とピン継手2とを抜け止め状態で連結するための部材である。
図2、3に示すように、荷重伝達キー3は、矩形の横断面を有する円弧形状の鋼製部材から構成され、本実施形態において、キー溝31内には、これに限定されないが八個の荷重伝達キー3が鋼管軸心X周りに間隔を隔てて配置されている。したがって、荷重伝達キー3の数に対応するように、前述したボックス継手1のボックス継手貫通孔16及びピン継手2のピン継手孔部26も、それぞれ八個設けられている。
【0033】
荷重伝達キー3の長手方向かつ高さ方向の中央位置には、荷重伝達キー3の厚み方向に貫通するキー貫通孔32が穿設されている。キー貫通孔32は、ボックス継手1の外周面15側に位置する雌ネジ部321と、ピン継手2の内周面25側に位置するネジなし部322とを有する。ボックス継手1とピン継手2とが互いに嵌合させられたときに、雌ネジ部321はボックス継手貫通孔16に対向し、ネジなし部322はピン継手孔部26に対向する。雌ネジ部321は、ボックス継手貫通孔16よりも小径であり、ネジなし部322は、雌ネジ部321及びピン継手孔部26よりも小径である。
【0034】
キー溝31内において、荷重伝達キー3は、厚み方向の全体が内向き溝部14内に入り込んだ格納位置(
図2及び
図3参照)と、内向き溝部14及び外向き溝部24に跨った跨設位置(
図6、7参照)とに位置変更が可能である。跨設位置に荷重伝達キー3が配置されたとき、遊嵌状態にあるボックス継手1及びピン継手2は抜け止め状態で連結されることになる。
【0035】
〔ピン〕
図6、7に示すように、ピン4は、断面略円形の長手の軸部41と、軸部41の一端に連結された頭部42とを有する鋼製部材である。頭部42は、軸部41に連結された端面421が軸部41の長手方向に対して略直交となっている。軸部41は、ピン継手孔部26及びキー貫通孔32のネジなし部322よりも略小径であってキー貫通孔32の長さよりも長くなるように形成されている。一方、頭部42は、キー貫通孔32よりも大径であってボックス継手貫通孔16よりも略小径であるように形成され、且つ、頭部42の長さ及び荷重伝達キー3の厚さの和が、内向き溝部14の深さ及び外向き溝部24の深さの和よりも大きくなるように形成されている。
【0036】
このように形成されたピン4をボックス継手1の外周面15からボックス継手貫通孔16に挿し込むと、荷重伝達キー3は頭部42の端面421との当接によって外向き溝部24の底部まで押し込まれて跨設位置に位置決めされる。また、軸部41は、キー貫通孔32を通過してピン継手孔部26まで挿入され、頭部42は、ボックス継手1の外周面15側の少なくとも一部がボックス継手貫通孔16内に保持される。なお、このときのピン4の位置は、本発明に係るセット位置に相当する。
【0037】
ピン4をセット位置に配置すると、荷重伝達キー3が跨設位置に位置決めされることによって、ボックス継手1及びピン継手2は抜け止め状態で連結される。また、ボックス継手1に一例として
図7に示すような反時計回り方向の回転力が付与されることにより、ボックス継手1がピン継手2に対して回転しようとする場合、ボックス継手貫通孔16及びピン継手孔部26を跨るピン4に対してこれらの貫通孔16、26の壁部が反対の方向から当接する(
図7に示す形態においては、頭部42に対してボックス継手貫通孔16の壁部が反時計回り方向から当接し、軸部41に対してピン継手孔部26の壁部が時計回り方向から当接する)ことになるので、ボックス継手1に作用する回転力はピン4を介してピン継手2に伝達され、これにより、ボックス継手1及びピン継手2の相対回転が抑止される。その結果、ボックス継手1及びピン継手2は回り止め状態で連結される。
【0038】
なお、
図6に示すように、鋼管杭Pに引張荷重が作用する前の状態において、外向き溝部24の上方側壁面と、荷重伝達キー3の上方側面との距離は、ピン4の軸部41の上方側外周面と、ピン継手孔部26の上方側壁面との距離よりも小さく構成されている。これにより、鋼管杭Pに引張荷重が作用した際に、荷重伝達キー3は、ボックス継手1と共に上昇してやがて外向き溝部24の上方側壁面に当接することになるが、この時でもピン4の軸部41はピン継手孔部26の上方側壁面に当接しないので、引張荷重は荷重伝達キー3のみによって伝達される。これにより、荷重伝達キー3よりも強度の低いピン4の軸部41が引張荷重を受けて折損することを回避できる。
【0039】
〔ストップリング〕
図6、7に示すように、ストップリング5は、取り付け治具によって縮径することで取付溝17に取り付けることができる。セット位置に配置されたピン4の頭部42よりもボックス継手1の外周面15側に形成された取付溝17にストップリング5を取り付けることで、ピン4のボックス継手1の外周面15側への移動が規制されるので、ピン4が振動等によりセット位置から離れてボックス継手1とピン継手2との連結が解除されてしまう虞がない。
【0040】
<鋼管連結方法>
以降、上述したように構成された本発明に係る鋼管連結装置Jを用いて鋼管S1、S2を連結する方法について説明する。なお、鋼管S1、S2の端部にボックス継手1、ピン継手2を連結させる工程についての説明は省略している。
【0041】
まず、
図2、3に示すように、クレーン等によってボックス継手1をピン継手2よりも上方に移動させる。ボックス継手1の内向き溝部14内には、ボックス継手1の外周面15側からボックス継手貫通孔16に挿通させて荷重伝達キー3のキー貫通孔32における雌ネジ部321に螺合させたボルト6によって、各荷重伝達キー3が格納位置に予め保持されている。
【0042】
次に、鋼管S1を降ろしてボックス継手1とピン継手2とを遊嵌状態で嵌合させる。なお、鋼管S1を降ろす際には、鋼管S1を適宜回転させて、荷重伝達キー3のキー貫通孔32をピン継手2のピン継手孔部26に概ね対向させる。
【0043】
そして、
図4に示すように、ボックス継手1からボルト6を取り外し、ボルト6による荷重伝達キー3の保持を解消する。
【0044】
その後、
図5に示すように、ピン4をボックス継手貫通孔16から挿し込んでセット位置に配置させ、これにより、遊嵌状態にあるボックス継手1及びピン継手2を抜け止め状態及び回り止め状態で連結させる。
【0045】
更に、
図6に示すように、ストップリング5を取付溝17に取り付けてピン4をセット位置に保持させる。以上の工程により、鋼管S1及び鋼管S2が連結される。
【0046】
なお、鋼管S1、S2を分割する場合には、上記工程を逆の順で行えばよい。具体的には、まず、ストップリング5を取付溝17から取り外す。次に、ピン4の頭部42に形成された穴部422に六角レンチ等の工具を嵌合させてピン4をボックス継手貫通孔16から取り出す。そして、ボルト6をボックス継手貫通孔16から挿通させて荷重伝達キー3のキー貫通孔32に螺合させ、荷重伝達キー3を格納位置まで引き戻す。これにより、ボックス継手1及びピン継手2は遊嵌状態になるので、鋼管S1及び鋼管S2を分割可能になる。
【0047】
鋼管を埋設する工法としては、打込み工法、プレボーリング工法、中掘工法、回転埋設杭工法などがある。本発明に係る鋼管連結装置Jを用いて構成した鋼管杭は、工法を問わずに使用できるが、好適には、打込み工法などのような鋼管杭に回転力を付与しない工法に使用できる。この工法の場合、鋼管杭Pの埋設中にピン4に作用する回転力は小さくなるか無くなるので、ピン4が折損する虞が低減する。しかしながら、より強度の高いピン4を使用したり、ピン4の本数を増やしたりすることで、折損の心配なく回転力を伝達することが可能になるので、回転力を付与する工法に使用される鋼管杭Pを構成するために本発明に係る鋼管連結装置Jを使用してもよい。
【0048】
<その他の実施形態>
(1)前述した実施形態の鋼管連結装置Jにおいて、ピン4の頭部42は、軸部41に連結する端面421が軸部41の長手方向に対して略直交となるように形成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
図8に示すように、ピン4の頭部42は、軸部41に連結する一端に軸部41の方向へ次第に縮径するテーパー部423を有してもよい。これに対応して、荷重伝達キー3は、ボックス継手1の外周面15側の表面に、テーパー部423と相補的な形状を有しテーパー部423の一部を受け入れるように形成された凹部33を有してもよい。この実施形態の場合、ピン4は、凹部33に対してテーパー部423が当接することで荷重伝達キー3を跨設位置に位置決めさせる。なお、凹部33は、テーパー部423の全部を受け入れるように形成されてもよい。
【0049】
(2)前述した実施形態の鋼管連結装置Jにおいて、ピン4は、軸部41がキー貫通孔32を通過してピン継手孔部26まで挿入され、頭部42がキー貫通孔32周りに当接して荷重伝達キー3を跨設位置に位置決めさせるセット位置に配置可能なように構成されている。しかし、本発明の鋼管連結装置Jはこれに限定されない。
図9に示すように、鋼管軸心X周りに間隙を隔てて配置されている荷重伝達キー3の隣り合う端部34同士の間隙に対向するようにボックス継手貫通孔16’及びピン継手孔部26’を設けて、ピン4を、軸部41が端部34同士の間隙を通過してピン継手孔部26’まで挿入され、頭部42が端部34同士に当接して荷重伝達キー3を跨設位置に位置決めさせるセット位置に配置可能なように構成してもよい。本実施形態の鋼管連結装置においても、前述した実施形態の鋼管連結装置Jと同一の工程を行うことにより鋼管同士を連結又は分割することができる。なお、本実施形態においても、ボルト6を挿通させるための貫通孔18をボックス継手1に設ける必要があるが、貫通孔18はボルト6の外径より略大径のものとすることができる。
【0050】
(3)前述した実施形態の鋼管連結装置Jにおいては、ストップリング5によってピン4をセット位置に保持させているが、ボックス継手1の外周面15側へのピン4の移動を規制する手段はこれに限定されない。
例えば、ボックス継手貫通孔16を雌ネジ付き孔に形成してピン4の頭部42を雄ネジ付きのものに形成することで、互いに螺合したボックス継手貫通孔16及び頭部42に生じる摩擦力によってピン4の移動を規制することもできる。
又は、
図10に示すように、ピン4として、軸部41の先端側にのみ雄ネジ部411が設けられて軸部41の頭部42側にヌスミ加工が施されたいわゆる脱落防止ボルトを採用すると共に、ピン継手孔部26を雌ネジ付き孔に形成する構成とすることもできる。この形態の場合では、軸部41の先端側の雄ネジ部411がピン継手孔部26を螺通してピン継手2の内周面25側まで突き抜けるようにしてピン4をセット位置に配置するのであるが、このように配置されたピン4は、ピン継手孔部26の雌ネジ部にピン4の雄ネジ部411が引っかかることにより、ボックス継手1の外周面15側への移動が規制される。
更に、
図11~13(説明の便宜上、ピン4を非断面図で示している)のように、ピン4の頭部42の外周面における軸部41側に、ピン4の軸方向に延びる突起部424を、周方向上で等間隔を隔てて二つ設けると共に、ボックス継手貫通孔16に、頭部42の突起部424を摺動案内する溝部161を設ける構成とすることもできる。ここで、突起部424は、ピン4がセット位置まで挿設された際に、ボックス継手貫通孔16の溝部161を通り抜けて内向き溝部14内に収容されるように構成されている。この形態の場合、ピン4の設置時には、頭部42の突起部424がボックス継手貫通孔16の溝部161によって案内された状態で、ピン4をセット位置へ挿し込んでいくのであるが、頭部42の突起部424が溝部161を通り抜けて内向き溝部14まで移動した後(
図11参照)に、ピン4を所定角度(例えば90度)回転させて突起部424の位置を溝部161と対向しない位置にずらせば(
図12、13参照)、ボックス継手1の外周面15側へのピン4の移動は、内向き溝部14の底部(
図13の二点鎖線で示される部位)に突起部424が当接することにより規制される。なお、突起部424の数は二つに限らず、一つであってもよく、三つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 :ボックス継手
2 :ピン継手
3 :荷重伝達キー
4 :ピン
5 :ストップリング
6 :ボルト
11 :突条
12 :内周面
13 :周溝
14 :内向き溝部
15 :外周面
16、16’ :ボックス継手貫通孔
161 :溝部
17 :取付溝
18 :貫通孔
21 :外周面
22 :突条
23 :周溝
24 :外向き溝部
25 :内周面
26、26’ :ピン継手孔部
31 :キー溝
32 :キー貫通孔
321 :雌ネジ部
322 :ネジなし部
33 :凹部
34 :端部
41 :軸部
411 :雄ネジ部
42 :頭部
421 :端面
422 :穴部
423 :テーパー部
424 :突起部
J :鋼管連結装置
P :鋼管杭
S1 :鋼管
S2 :鋼管
X :鋼管軸心方向