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特開2024-27319セパレータ製造方法、燃料電池セル製造方法およびセパレータ製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027319
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】セパレータ製造方法、燃料電池セル製造方法およびセパレータ製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0206 20160101AFI20240222BHJP
   H01M 8/026 20160101ALI20240222BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240222BHJP
【FI】
H01M8/0206
H01M8/026
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130027
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000103921
【氏名又は名称】オリオン機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】北條 芙美
(72)【発明者】
【氏名】高井 希紗
(72)【発明者】
【氏名】中根 孝浩
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE03
5H126GG02
5H126HH01
5H126HH02
(57)【要約】
【課題】振動や衝撃に起因する破損を招き難く、小形化が可能で、設計の自由度が十分に高い製品を製造する。
【解決手段】スリットが設けられたプレート71と、閉塞部が設けられたプレート72とを含むプレート71~73,81,82を重ねた積層体55aの両面にカーボンシートScを重ねた積層体55bを処理槽内に収容し、処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、第1の温度まで積層体55bを温度上昇させて各プレートの不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、積層体55bを加圧した状態において第1の温度よりも高温の第2の温度まで積層体55bを温度上昇させて各プレートを拡散接合させる第3の処理と、積層体55bの温度を低下させると共に処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、発電用気体を通過させる溝部が構成され、かつ積層体55aの両面に浸炭部が形成された燃料電池用セパレータを製造する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電用気体を通過させる溝部が設けられた燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造方法であって、
板厚方向で貫通させられたスリットが設けられた第1の金属板と、前記スリットの前記板厚方向における一方を閉塞する閉塞部が設けられた第2の金属板とを少なくとも含む複数の板体を当該板厚方向で重ねた第1の積層体の当該板厚方向における少なくとも一方の面にカーボンシートを重ねた第2の積層体を処理槽内に収容し、
前記処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、
予め規定された第1の温度まで前記第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体の不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、
予め規定された加圧力で前記第2の積層体を加圧した状態において前記第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度まで当該第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体を拡散接合させる第3の処理と、
前記第2の積層体の温度を低下させると共に前記処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、前記スリットおよび前記閉塞部によって前記溝部が構成され、かつ前記第1の積層体における前記少なくとも一方の面に浸炭部が形成された前記燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属板によって前記少なくとも一方の面が構成されるように前記複数の板体を重ねた前記第1の積層体に前記カーボンシートを重ねた前記第2の積層体を用いて前記燃料電池用セパレータを製造する際に、前記第4の処理を完了した当該第2の積層体において前記第1の金属板に浸炭せずに残存している当該カーボンシートを除去する第5の処理を実行して前記溝部を露出させる請求項1記載のセパレータ製造方法。
【請求項3】
前記複数の板体のうちの前記第1の金属板以外の当該板体によって前記少なくとも一方の面が構成されるように当該複数の板体を重ねた前記第1の積層体に前記カーボンシートを重ねた前記第2の積層体を用いて前記燃料電池用セパレータを製造する際に、前記第4の処理を完了した当該第2の積層体において前記第1の金属板以外の板体に浸炭せずに残存している当該カーボンシートを除去する第5の処理を実行する請求項1記載のセパレータ製造方法。
【請求項4】
前記第4の処理において前記処理槽内に窒素を流入させて当該処理槽内の真空度を低下させる請求項1記載のセパレータ製造方法。
【請求項5】
前記第4処理において前記処理槽内の気体を前記第2の積層体に向けて送風して当該第2の積層体の温度を低下させる請求項1記載のセパレータ製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のセパレータ製造方法によって製造した複数の前記燃料電池用セパレータの間に燃料電池用膜電極接合体を挟み込んだ状態で当該各燃料電池用セパレータおよび当該燃料電池用膜電極接合体を一体化させて燃料電池セルを製造する燃料電池セル製造方法。
【請求項7】
発電用気体を通過させる溝部が設けられた燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造装置であって、
板厚方向で貫通させられたスリットが設けられた第1の金属板と、前記スリットの前記板厚方向における一方を閉塞する閉塞部が設けられた第2の金属板とを少なくとも含む複数の板体を当該板厚方向で重ねた第1の積層体の当該板厚方向における少なくとも一方の面にカーボンシートを重ねた第2の積層体を収容可能な処理槽と、
前記処理槽内の真空度を調整する真空度調整部と、
前記処理槽内に収容された前記第2の積層体の温度を調整する温度調整部と、
前記処理槽内に収容された前記第2の積層体を前記板厚方向に加圧する加圧部と、
前記真空度調整部、前記温度調整部および前記加圧部の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記真空度調整部を制御して前記第2の積層体が収容された前記処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、
前記温度調整部を制御して予め規定された第1の温度まで前記第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体の不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、
予め規定された加圧力で前記加圧部に前記第2の積層体を加圧させた状態において前記温度調整部を制御して前記第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度まで当該第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体を拡散接合させる第3の処理と、
前記温度調整部を制御して前記第2の積層体の温度を低下させると共に前記真空度調整部を制御して前記処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、前記スリットおよび前記閉塞部によって前記溝部が構成され、かつ前記第1の積層体における前記少なくとも一方の面に浸炭部が形成された前記燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用の気体の通過が可能な溝部が設けられた燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造方法およびセパレータ製造装置、並びに、そのようなセパレータ製造方法によって製造したセパレータを使用して燃料電池セルを製造する燃料電池セル製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池セルは、電解質膜、一対の電極および一対のセパレータを備えて構成されている。この場合、カーボンを主体とするカーボンセパレータを採用することによって発電効率のよい燃料電池セルを製造可能であることが知られている。このカーボンセパレータの製造方法としては、カーボンと熱硬化性樹脂とを混練した混練物を金型内に射出し、熱硬化性樹脂が溶融する温度まで混合物を加熱してから圧縮した状態で熱硬化性樹脂が硬化する温度まで加熱して硬化させる方法が知られている。しかしながら、このような製造方法によるセパレータの製造時には、一般的な樹脂成形物の製造時と比較して、金型内に射出する成形材料(混練物)におけるカーボンの配合量が多いことで成形材料の粘度が高く、その流動性が悪いため、成形材料が金型におけるキャビティ内の隅々まで充填される前に固化することがある。このため、所望の形状のセパレータを製造するのが困難となることがある。
【0003】
一方、下記の特許文献には、上記のような課題を解決すべくなされた燃料電池用のカーボンセパレータの成形方法および成形装置の発明が開示されている。この成形方法および成形装置では、粒状固体からなるカーボン粉末の表面に成形用樹脂材料(熱硬化性樹脂材料)を塗布してコーティング層を形成したカーボン樹脂材料に流動性を向上させるための液体(水、アルコールおよびフロリナート等)を混合して混練した成形材料(混練物)を金型内に射出し、射出した成形材料(混練物)中の液体を金型に設けられている微小穴を介して金型の外に排出させることを特徴としている。これにより、金型内に射出する時点において成形材料の流動性が高いことで、金型内の隅々まで成形材料を充填することができる。これにより、所望の形状のカーボンセパレータを製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-207684号公報(第4-9頁、第1-9図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献に開示の製造方法および製造装置によって製造されたカーボンセパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)には、以下のような解決すべき課題が存在する。具体的には、上記特許文献に開示のセパレータの成形装置およびその成形方法では、カーボン樹脂材料(成形材料)を金型内に射出して硬化させる構成・方法が採用されている。これにより、従来の成形装置および成形方法と比較して、所望の形状のセパレータを確実に製造することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、この種の成形方法および成形装置によって製造された成形品は、成形材料に採用する樹脂材料の種類によってはある程度の硬度を有する状態にすることができるものの、成形材料に粒状個体(カーボン粉末)が混入されていることで靱性が低く、振動や衝撃が加わった際に割れが生じ易いことが知られている。このため、この成形装置および成形方法によって成形したセパレータを使用して製造した燃料電池セルでは、発電装置に加わる振動や衝撃に起因してセパレータに割れが生じることがあり、水素セルに割れが生じたときには、水素ガスの漏出を招くおそれがあり、空気セパレータに割れが生じたときには、水素ガスと反応させるべき酸素量が減少して発電効率が低下するおそれがある。
【0007】
また、振動や衝撃に起因する割れの発生を回避するには、セパレータ自体の物理的強度を確保するために充分な厚みに形成する必要がある。このため、この成形装置および成形方法によって成形したセパレータを使用して製造する燃料電池セルの小形化が困難となっている。さらに、上記特許文献に開示のセパレータの成形装置およびその成形方法では、成形品の形状が「金型から離脱可能な形状(型抜き可能な形状)」に限定される。このため、セパレータの形状に関する設計の自由度が低いという課題も存在する。
【0008】
本発明は、かかる改善すべき課題に鑑みてなされたものであり、振動や衝撃に起因する破損を招き難く、小形化が可能で、かつ設計の自由度が十分に高い製品を製造し得るセパレータ製造方法、燃料電池セル製造方法およびセパレータ製造装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、請求項1記載のセパレータ製造方法は、発電用気体を通過させる溝部が設けられた燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造方法であって、板厚方向で貫通させられたスリットが設けられた第1の金属板と、前記スリットの前記板厚方向における一方を閉塞する閉塞部が設けられた第2の金属板とを少なくとも含む複数の板体を当該板厚方向で重ねた第1の積層体の当該板厚方向における少なくとも一方の面にカーボンシートを重ねた第2の積層体を処理槽内に収容し、前記処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、予め規定された第1の温度まで前記第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体の不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、予め規定された加圧力で前記第2の積層体を加圧した状態において前記第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度まで当該第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体を拡散接合させる第3の処理と、前記第2の積層体の温度を低下させると共に前記処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、前記スリットおよび前記閉塞部によって前記溝部が構成され、かつ前記第1の積層体における前記少なくとも一方の面に浸炭部が形成された前記燃料電池用セパレータを製造する。
【0010】
請求項2記載のセパレータ製造方法は、請求項1記載のセパレータ製造方法において、前記第1の金属板によって前記少なくとも一方の面が構成されるように前記複数の板体を重ねた前記第1の積層体に前記カーボンシートを重ねた前記第2の積層体を用いて前記燃料電池用セパレータを製造する際に、前記第4の処理を完了した当該第2の積層体において前記第1の金属板に浸炭せずに残存している当該カーボンシートを除去する第5の処理を実行して前記溝部を露出させる。
【0011】
請求項3記載のセパレータ製造方法は、請求項1記載のセパレータ製造方法において、前記複数の板体のうちの前記第1の金属板以外の当該板体によって前記少なくとも一方の面が構成されるように当該複数の板体を重ねた前記第1の積層体に前記カーボンシートを重ねた前記第2の積層体を用いて前記燃料電池用セパレータを製造する際に、前記第4の処理を完了した当該第2の積層体において前記第1の金属板以外の板体に浸炭せずに残存している当該カーボンシートを除去する第5の処理を実行する。
【0012】
請求項4記載のセパレータ製造方法は、請求項1記載のセパレータ製造方法において、前記第4の処理において前記処理槽内に窒素を流入させて当該処理槽内の真空度を低下させる。
【0013】
請求項5記載のセパレータ製造方法は、請求項1記載のセパレータ製造方法において、前記第4処理において前記処理槽内の気体を前記第2の積層体に向けて送風して当該第2の積層体の温度を低下させる。
【0014】
請求項6記載の燃料電池セル製造方法は、請求項1から5のいずれかに記載のセパレータ製造方法によって製造した複数の前記燃料電池用セパレータの間に燃料電池用膜電極接合体を挟み込んだ状態で当該各燃料電池用セパレータおよび当該燃料電池用膜電極接合体を一体化させて燃料電池セルを製造する。
【0015】
請求項7記載のセパレータ製造装置は、発電用気体を通過させる溝部が設けられた燃料電池用セパレータを製造するセパレータ製造装置であって、板厚方向で貫通させられたスリットが設けられた第1の金属板と、前記スリットの前記板厚方向における一方を閉塞する閉塞部が設けられた第2の金属板とを少なくとも含む複数の板体を当該板厚方向で重ねた第1の積層体の当該板厚方向における少なくとも一方の面にカーボンシートを重ねた第2の積層体を収容可能な処理槽と、前記処理槽内の真空度を調整する真空度調整部と、前記処理槽内に収容された前記第2の積層体の温度を調整する温度調整部と、前記処理槽内に収容された前記第2の積層体を前記板厚方向に加圧する加圧部と、前記真空度調整部、前記温度調整部および前記加圧部の動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記真空度調整部を制御して前記第2の積層体が収容された前記処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、前記温度調整部を制御して予め規定された第1の温度まで前記第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体の不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、予め規定された加圧力で前記加圧部に前記第2の積層体を加圧させた状態において前記温度調整部を制御して前記第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度まで当該第2の積層体の温度を上昇させて前記複数の板体を拡散接合させる第3の処理と、前記温度調整部を制御して前記第2の積層体の温度を低下させると共に前記真空度調整部を制御して前記処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、前記スリットおよび前記閉塞部によって前記溝部が構成され、かつ前記第1の積層体における前記少なくとも一方の面に浸炭部が形成された前記燃料電池用セパレータを製造する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載のセパレータ製造方法では、板厚方向で貫通させられたスリットが設けられた第1の金属板と、スリットの板厚方向における一方を閉塞する閉塞部が設けられた第2の金属板とを少なくとも含む複数の板体を板厚方向で重ねた第1の積層体の板厚方向における少なくとも一方の面にカーボンシートを重ねた第2の積層体を処理槽内に収容し、処理槽内の真空度を上昇させる第1の処理と、予め規定された第1の温度まで第2の積層体の温度を上昇させて複数の板体の不動態皮膜を還元除去する第2の処理と、予め規定された加圧力で第2の積層体を加圧した状態において第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度まで第2の積層体の温度を上昇させて複数の板体を拡散接合させる第3の処理と、第2の積層体の温度を低下させると共に処理槽内の真空度を低下させる第4の処理とをこの順で実行することにより、スリットおよび閉塞部によって発電用気体を通過させる溝部が構成され、かつ第1の積層体における少なくとも一方の面に浸炭部が形成された燃料電池用セパレータを製造する。
【0017】
また、請求項6記載の燃料電池セル製造方法では、上記のセパレータ製造方法によって製造した複数の燃料電池用セパレータの間に燃料電池用膜電極接合体を挟み込んだ状態で各燃料電池用セパレータおよび燃料電池用膜電極接合体を一体化させて燃料電池セルを製造する。また、請求項7記載のセパレータ製造装置では、上記の第2の積層体を収容可能な処理槽と、処理槽内の真空度を調整する真空度調整部と、処理槽内に収容された第2の積層体の温度を調整する温度調整部と、処理槽内に収容された第2の積層体を板厚方向に加圧する加圧部と、真空度調整部、温度調整部および加圧部の動作を制御する制御部とを備え、制御部が、上記の第1の処理、第2の処理、第3の処理および第4の処理をこの順で実行することによって燃料電池用セパレータを製造する。
【0018】
したがって、請求項1記載のセパレータ製造方法、請求項5記載の燃料電池セル製造方法、および請求項6記載のセパレータ製造装置によれば、カーボン粉末の表面に熱硬化性樹脂材料を塗布してコーティング層を形成したカーボン樹脂材料に水などの液体を混合して混練した混練物を成形材料として用いた成形方法によって製造されたカーボンセパレータと比較して、金属板を素材として用いていることで、その硬度、剛性および靱性が十分に高い燃料電池用セパレータを製造することができる。これにより、振動や衝撃に起因する破損を招き難い燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルを提供することができる。また、燃料電池用セパレータの物理的強度を確保するために各部の厚み等を過剰に厚くする必要がないため、燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルを十分に小形化することができる。また、離型(成形完了後の金型からの離脱)を考慮した形状設計が不要であることから、その設計の自由度が十分に高くなり、求められる発電能力や用途に応じた任意の形状で製造することができる。さらに、表面部位に浸炭部が存在することで、燃料電池用膜電極接合体や集電板などに接する部位の電気的抵抗が十分に小さくなるため、電気的特性に優れた燃料電池用セパレータ、および発電効率が十分に高い燃料電池セルを提供することができる。また、浸炭部が保護層として機能することから、耐食性に優れた製品を提供することができる。
【0019】
また、請求項2記載のセパレータ製造方法では、第1の金属板によって少なくとも一方の面が構成されるように複数の板体を重ねた第1の積層体にカーボンシートを重ねた第2の積層体を用いて燃料電池用セパレータを製造する際に、第4の処理を完了した第2の積層体において第1の金属板に浸炭せずに残存しているカーボンシートを除去する第5の処理を実行して溝部を露出させる。また、請求項3記載のセパレータ製造方法では、複数の板体のうちの第1の金属板以外の板体によって少なくとも一方の面が構成されるように複数の板体を重ねた第1の積層体にカーボンシートを重ねた第2の積層体を用いて燃料電池用セパレータを製造する際に、第4の処理を完了した第2の積層体において第1の金属板以外の板体に浸炭せずに残存しているカーボンシートを除去する第5の処理を実行する。
【0020】
したがって、請求項2,3記載のセパレータ製造方法、およびそのセパレータ製造方法に従って製造したセパレータを使用して燃料電池セルを製造する燃料電池セル製造方法によれば、第5の処理を行うこと、すなわち、第4の処理の完了後にカーボンシートが残存していることを前提として、十分な厚みのカーボンシートを第1の積層体に重ねた第2の積層体を対象として第1の処理から第4の処理までの一連の処理を行うことができるため、第4の処理が完了する以前にカーボンシートに破れが生じて浸炭部が好適に形成されない部位が生じるのを回避して、カーボンシートを重ねた部位の全域に浸炭部を好適に形成することができる。また、残存しているカーボンシートを除去する際に燃料電池用セパレータの表面平坦性を十分に向上させることができるため、この燃料電池用セパレータを含む積層物(燃料電池セル)において燃料電池用セパレータを他の積層物に対して好適に密着させることができる。これにより、発電用気体の漏れが生じる事態を好適に回避することができる。
【0021】
また、請求項4記載のセパレータ製造方法では、第4の処理において処理槽内に窒素を流入させて処理槽内の真空度を低下させる。したがって、請求項3記載のセパレータ製造方法、およびそのセパレータ製造方法に従って製造したセパレータを使用して燃料電池セルを製造する燃料電池セル製造方法によれば、真空度を低下させるために空気(大気)を処理槽内に流入させる製造方法とは異なり、第3の処理において高温まで加熱された第2の積層体に触れる酸素量を十分に低減することができるため、第2の積層体の表面が酸化して不動態皮膜が生じる事態を好適に回避することができる。また、窒素が比較的安価で、高温下における危険性も低く、かつ、処理終了後に処理槽の扉を開けた際に大気中に放出されても無害であることから、燃料電池用セパレータの製造コストの高騰、製造時の事故発生、および環境破壊が生じる事態を回避することができる。
【0022】
また、請求項5記載のセパレータ製造方法では、第4処理において処理槽内の気体を第2の積層体に向けて送風して第2の積層体の温度を低下させる。したがって、請求項4記載のセパレータ製造方法、およびそのセパレータ製造方法に従って製造したセパレータを使用して燃料電池セルを製造する燃料電池セル製造方法によれば、第2の積層体の各部における温度低下量を均一化することができ、各部の熱収縮状態を同様とすることができることから、燃料電池用セパレータに意図しない変形が生じたり、クラックが生じたりするのを好適に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】セパレータ製造装置1の構成を示す構成図である。
図2】燃料電池セル50の断面図である。
図3】プレート71の平面図である。
図4】プレート72の平面図である。
図5】プレート73の平面図である。
図6】プレート81の平面図である。
図7】プレート82の平面図である。
図8】カーボンシートScの平面図である。
図9】積層体55a,55bの断面図である。
図10】セパレータ集合体51の製造時における処理槽10内の真空度、積層体55aの温度および積層体55aに加える押圧力について説明するための説明図である。
図11】加熱・加圧の処理を開始する前の積層体55aの断面図である。
図12】加熱・加圧の処理を完了した積層体55aの断面図である。
図13】セパレータ集合体51の断面図である。
図14】セパレータ集合体51におけるプレート71の表面からの距離と、鉄、炭素、ニッケルおよびクロムの組成比との関係について説明するための説明図である。
図15】プレート71と同じ材料の金属塊で構成されたセパレータ集合体の表面からの距離と、鉄、炭素、ニッケルおよびクロムの組成比との関係について説明するための説明図である。
図16】積層体55bに加える押圧力の上限を押圧力P1まで低下させて製造したセパレータ集合体におけるプレート71の表面からの距離と、鉄、炭素、ニッケルおよびクロムの組成比との関係について説明するための説明図である。
図17図15に示す例の金属塊の表面にカーボンコートを施したセパレータ集合体の表面からの距離と、鉄、炭素、ニッケルおよびクロムの組成比との関係について説明するための説明図である。
図18】セパレータ集合体51Aの断面図である。
図19】セパレータ集合体51Bの断面図である。
図20】導電性パッキンPの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、セパレータ製造方法、燃料電池セル製造方法およびセパレータ製造装置の実施の形態について説明する。
【0025】
最初に、セパレータ製造装置1の構成について、添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1に示すセパレータ製造装置1は、「セパレータ製造装置」の一例であって、後述の「セパレータ製造方法」に従ってセパレータ集合体51(図2参照)などを製造可能に構成されている。
【0027】
この場合、セパレータ集合体51は、「燃料電池用セパレータ」の一例であって、図2に示すように、セパレータ52a,52bやMEA53,53などと相俟って「燃料電池セル」の一例である燃料電池セル50を構成する。具体的には、セパレータ集合体51は、「発電用気体」の一例である水素ガスが通過させられるセパレータ61aと、「発電用気体」の他の一例である空気(大気)が通過させられるセパレータ61bと、両セパレータ61a,61bを冷却するための冷却用流体(一例として空気(大気))が通過させられるセパレータ62とが一体的に形成されている。
【0028】
また、セパレータ61a,61bは、プレート71~73が一体化されると共にプレート71の一面に浸炭部71cが形成され、セパレータ62は、プレート81,82が一体化されて構成されている。なお、本例のセパレータ集合体51では、各プレート71~73,81,82が「複数の板体」に相当し、これらが、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS316L、SUS316、SUS304)の薄平板によって平面視矩形状に形成されている。
【0029】
プレート71は、「第1の金属板」の一例であって、図3に示すように、「発電用気体」としての水素ガス、「発電用気体」としての空気、および「冷却用流体」としての空気を通過させる流路を構成する複数の貫通孔71aが形成されると共に、「板厚方向で貫通させられたスリット」の一例である複数のスリット71bが形成されている。
【0030】
プレート72は、「第2の金属板」の一例であって、図4に示すように、プレート71における貫通孔71aと同様にして、「発電用気体」としての水素ガス、「発電用気体」としての空気、および「冷却用流体」としての空気の流路を構成する複数の貫通孔72aが形成されると共に、プレート71の隣接するスリット71bにおける端部同士や貫通孔71aおよびスリット71bを連通させるための複数の貫通孔72bが形成されている。なお、このプレート72では、プレート71に重ねられた状態においてプレート71のスリット71bと重なる閉塞部72cが「スリットの板厚方向における一方を閉塞する閉塞部」に相当する。
【0031】
なお、このセパレータ61a,61bでは、プレート71のスリット71b、およびプレート72の閉塞部72cによって「発電用気体を通過させる溝部」の一例である溝部H61(図13参照)が構成されている。プレート73は、図5に示すように、プレート71,72における貫通孔71a,72aと同様にして、「発電用気体」としての水素ガス、「発電用気体」としての空気、および「冷却用流体」としての空気の流路を構成する複数の貫通孔73aが形成されている。
【0032】
プレート81は、図6に示すように、プレート71~73における貫通孔71a~73aと同様にして、「発電用気体」としての水素ガス、「発電用気体」としての空気、および「冷却用流体」としての空気の流路を構成する複数の貫通孔81aが形成されると共に、プレート82における後述の閉塞部82cと相俟って「冷却用流体を通過させる溝部(図示せず)」を構成する複数のスリット81bが形成されている。
【0033】
プレート82は、図7に示すように、プレート71~73,81における貫通孔71a~73a,81aと同様にして、「発電用気体」としての水素ガス、「発電用気体」としての空気、および「冷却用流体」としての空気の流路を構成する複数の貫通孔82aが形成されると共に、プレート81の隣接するスリット81bにおける端部同士や、貫通孔81aおよびスリット81bを連通させるための複数の貫通孔82bが形成されている。なお、このプレート82では、上記のように、プレート81に重ねられた状態においてプレート81のスリット81bと重なる閉塞部82cがスリット81bの板厚方向における一方を閉塞する「閉塞部」として機能する。
【0034】
また、図2に示すように、セパレータ集合体51と相俟って燃料電池セル50を構成するセパレータ52a,52bは、セパレータ61a,61bにおけるプレート71と同様にして一面に浸炭部91cが形成されたプレート91と、セパレータ61a,61bにおけるプレート72と同様に構成されたプレート92と、セパレータ61a,61bにおけるプレート73と同様に構成されたプレート93とが一体化されて構成されている。なお、本例のセパレータ61a,61bでは、各プレート91~93がオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS316L、SUS316、SUS304)の薄平板によって平面視矩形状に形成されている。
【0035】
また、MEA53は、電極触媒、電解質膜およびガス拡散層などが積層されて構成された燃料電池用膜電極接合体であって、各セパレータ61a,61b,62,52a,52bと同様に平面視矩形状に形成されている。なお、「燃料電池セル」における「MEA(燃料電池用膜電極接合体)」の具体的な構成については公知のため、詳細な説明を省略する。
【0036】
一方、セパレータ製造装置1は、図1に示すように、処理槽10、真空ポンプ11、制御弁12、窒素タンク13、ヒータ14、送風機15、加圧機構16、操作部17、表示部18、制御部19および記憶部20を備えて構成されている。処理槽10は、「処理槽」の一例であって、後述する積層体55bなどの処理対象物や、ヒータ14および加圧機構16などを収容可能な耐圧耐熱容器で構成されている。
【0037】
真空ポンプ11は、制御部19の制御に従って処理槽10内の空気を排気することで処理槽10内の真空度(真空圧)を上昇させる。制御弁12は、窒素タンク13から処理槽10に窒素タンク13内の窒素を導入する導入用配管に配設されると共に、制御部19の制御に従って処理槽10内に窒素を導入させることで処理槽10内の真空度(真空圧)を低下させる。窒素タンク13には、絶対湿度が十分に低くなるように脱湿された工業用窒素が収容されている。なお、本例のセパレータ製造装置1では、真空ポンプ11、制御弁12および窒素タンク13が相俟って「真空度調整部」が構成されている。
【0038】
ヒータ14は、送風機15と相俟って「温度調整部」を構成し、前述のように処理槽10内に収容されると共に、制御部19の制御に従い、処理槽10内に収容された後述の積層体55bを加熱(温度上昇)させる。送風機15は、制御部19の制御に従い、後述する拡散接合処理が完了した積層体55bに向けて窒素タンク13から処理槽10に導入される窒素を送風することで積層体55bの全体を均一に温度低下させる。
【0039】
加圧機構16は、「加圧部」の一例であって、処理槽10内に収容された積層体55bを各プレート71~73,81,82の板厚方向に加圧するアクチュエータ16aを備えている。操作部17は、セパレータ製造装置1によるセパレータ集合体51等の製造条件の設定操作や、処理開始や中断を指示する操作スイッチなどを備え、スイッチ操作に応じた操作信号を制御部19に出力する。表示部18は、セパレータ製造装置1の動作条件を設定するための表示画面や、セパレータ製造装置1の動作状態を示す表示画面を表示する。
【0040】
制御部19は、セパレータ製造装置1を総括的に制御する。この制御部19は、「制御部」の一例であって、真空ポンプ11を制御して処理槽10内の空気を排気させ、ヒータ14を制御して積層体55bを温度上昇させ、かつ加圧機構16(アクチュエータ16a)を制御して積層体55bを加圧させる。また、制御部19は、制御弁12を制御して処理槽10内に窒素を導入させ、かつ送風機15を制御して積層体55bに向けて窒素を送風させる。記憶部20は、制御部19の動作プログラムや、セパレータ製造装置1の動作条件などを記憶する。
【0041】
次に、「セパレータ製造方法」および「燃料電池セル製造方法」の一例について、添付図面を参照して説明する。
【0042】
セパレータ製造装置1を使用したセパレータ集合体51の製造に際しては、最初に、前述の各プレートなどを重ね合わせて図9に示す積層体55bを製作する。具体的には、前述の各プレート71~73,81,82、および図8に示すカーボンシートScを用意する。この場合、カーボンシートScは、「カーボンシート」に相当し、厚み0.1mm~2.0mmの範囲内の黒鉛シート(一例として、東洋炭素株式会社製「PERMA-FOIL(登録商標)」)を裁断して各プレート71~73,81,82と同様の平面視矩形状に形成されている。次いで、同図に示すように、カーボンシートSc、プレート71、プレート72、プレート73、プレート82、プレート81、プレート73、プレート72、プレート71およびカーボンシートScの順でこれらを積み重ねる。これにより、積層体55bが完成する。
【0043】
この場合、積層体55bは、「第2の積層体」の一例であって、この積層体55bの構成例では、同図における下側のプレート71~73、プレート81,82、および同図における上側のプレート71~73が「複数の板体」に相当し、これらを積み重ねた積層体55aが「第1の積層体」に相当する。また、この積層体55bを構成する積層体55aでは、両プレート71,71の表面(同図における上側のプレート71における上面、および下側のプレート71における下面)が「少なくとも一方の面」に相当する。
【0044】
次いで、処理槽10の図示しない扉を開き、図1に示すように、積層体55bを処理槽10内に収容して加圧機構16にセットした後に扉を閉じる。なお、セパレータ製造装置1において実行される以下の処理の処理条件については、予め設定されて記憶部20に処理条件データが記憶されているものとする。
【0045】
続いて、操作部17を操作して処理開始を指示する。これに応じて、制御部19は、上記の処理条件データに従い、処理槽10内の真空度を上昇させる「第1の処理」、「予め規定された第1の温度」まで積層体55bの温度を上昇させて各プレート71~73,81,82の不動態皮膜を還元除去する「第2の処理」、「予め規定された加圧力」で積層体55bを加圧させた状態において「予め規定された第2の温度」まで積層体55bの温度を上昇させて各プレート71~73,81,82を拡散接合させる「第3の処理」、および積層体55bの温度を低下させると共に処理槽10内の真空度を低下させて大気圧に戻す「第4の処理」をこの順で実行する。
【0046】
具体的には、図10に示すように、操作部17の操作によって処理開始を指示された時点t0において、制御部19は、アクチュエータ16aを制御することにより、積層体55bの各プレート間にずれが生じることのない程度の押圧力P1で各プレートの板厚方向に積層体55bを加圧させる。次いで、制御部19は、加圧機構16による加圧が押圧力P1に達する時点t1において「第1の処理」を開始し、真空ポンプ11を制御して処理槽10内の空気を排気させる(真空引きさせる)ことにより、処理槽10内の真空度を大気圧状態の真空度V0から予め設定された真空度V1まで上昇させる。
【0047】
続いて、制御部19は、処理槽10内が真空度V1に達した時点t2において「第2の処理」を開始し、ヒータ14を制御して「予め規定された第1の温度」まで積層体55bの温度を上昇させる。この場合、積層体55bにおける積層体55aを構成する各プレート71~73,81,82には、その表面に不動態(酸化皮膜)が生じており、この不動態の存在が、拡散接合を阻害する要因となって各プレート71~73,81,82の接合力が低下したり、後述するプレート71の表面に好適な浸炭層が形成され難くなったりするおそれがある。また、各プレート71~73,81,82に不動態(酸化皮膜)が存在する状態では、仮に、ある程度の接合力で接合することができたとしても、その不動態の存在に起因して電気的抵抗値が大きく、製造されるセパレータ集合体51の電気的特性が低下するおそれがある。
【0048】
ここで、出願人は、本例において使用するオーステナイト系ステンレス鋼(一例として、SUS316L)に生じる不動態については、680℃~800℃の範囲内の温度に加熱した状態を一定時間に亘って維持することで、上記のような製造上の問題が生じたり、電気的特性が大きく低下したりすることのない程度まで不動態が好適に還元除去されることを確認している。したがって、制御部19は、ヒータ14によって上記の温度範囲内の温度Tb(「予め規定された第1の温度」の一例)まで積層体55bを加熱させ、積層体55bの温度が温度Tbとなった時点t3から時間T1に亘ってその状態を維持させることで、各プレート71~73,81,82の不動態皮膜を十分に還元除去する。
【0049】
また、制御部19は、一例として、上記の「第2の処理」を開始した時点t2において、アクチュエータ16aを制御することによって後述の拡散接合工程に適した押圧力P2(「予め規定された加圧力」の一例)で各プレートの板厚方向に積層体55bを加圧させる。
【0050】
一方、上記の時間T1が経過した時点t4において、制御部19は、上記の「第3処理」を開始し、加圧機構16に積層体55bを加圧させた状態を維持しつつ、ヒータ14を制御して拡散接合工程に適した温度Tc(「第1の温度よりも高温の予め規定された第2の温度」の一例)まで積層体55bの温度を上昇させる。また、制御部19は、積層体55bの温度が温度Tcに達した時点t5から時間T2に亘ってこの状態を維持させる。これにより、各プレート71~73,81,82が拡散接合されて恰も1つの金属塊のように一体化された状態となる(拡散接合工程)。
【0051】
この場合、本例では、各プレート71~73,81,82の積層物である積層体55aの一方の面(図9に示す下側のプレート71の表面:下面)および他方の面(図9に示す上側のプレート71の表面:上面)にそれぞれカーボンシートScを重ねた積層体55bを処理槽10内において処理している。したがって、上記の拡散接合工程においては、積層体55aに重ね合わされたカーボンシートScが、積層体55aと共に温度Tcまで温度上昇させられた状態において押圧力P2で積層体55a(プレート71)に押し付けられている。これにより、カーボンシートSc内の炭素がプレート71内に浸炭した状態となり、後述する浸炭部71c(「浸炭部」の一例:図12,13参照)がプレート71,71の表面(積層体55aの表裏両面)にそれぞれ形成された状態となる。
【0052】
続いて、上記の時間T2が経過した時点t6において、制御部19は、上記の「第4処理」を開始し、ヒータ14を制御して積層体55bの加熱を終了させ、かつ送風機15を制御して送風を開始させて積層体55bの温度を低下させると共に、真空ポンプ11を制御して排気(真空引き)を終了させ、かつ制御弁12を制御して窒素タンク13から処理槽10内に窒素を導入させて処理槽10内の真空度を低下させる。
【0053】
この場合、本例の製造方法とは異なり、処理槽10内の真空度を低下させるために、窒素に代えて空気(大気)を処理槽10内に導入したときには、導入した空気に含まれる酸素が高温の積層体55bに接することで積層体55bの側面や、貫通孔71a~73a,81a,82aで構成される流路の内壁面などが酸化して、これらの部位に酸化皮膜が形成されるおそれがある。したがって、「第4の処理」においては、温度低下中の積層体55bに多量の酸素が触れることのないように、処理槽10内に「酸素含有量が少なく、周囲の環境に悪影響を及ぼすことのない安定気体(本例では窒素)」を導入するのが好ましい。
【0054】
また、制御部19は、一例として、上記の「第4の処理」を開始した時点t6において、アクチュエータ16aを制御することによって積層体55bに加えている押圧力を徐々に低下させる。この後、処理槽10内が大気圧状態の真空度V0となり、かつ積層体55bが十分に低温の温度Ta(空気中の酸素に触れたときに酸化皮膜が形成され難く、取り扱い時に作業員が火傷を負うことのない温度)まで低下した時点t7において、処理槽10の扉を開き、積層体55bを取り出す。以上により、セパレータ製造装置1による一連の処理が終了する。
【0055】
次いで、「第4の処理」を完了して処理槽10から取り出した積層体55bにおいてプレート71,71に浸炭せずに残存しているカーボンシートScを除去する「第5の処理」を実行する。
【0056】
具体的には、上記のようにセパレータ製造装置1による一連の処理の開始時に処理槽10内に収容した時点における積層体55bでは、図11に示すように、プレート71の一面に密着するようにしてカーボンシートScが積層体55aに重なった状態となっている。このような積層体55bをセパレータ製造装置1の処理槽10内で上記のように処理することにより、前述のように積層体55aを構成する各プレート71~73,81,82が拡散接合されて一体化されると共に、図12に示すように、カーボンシートSc内の炭素が積層体55a(プレート71)の表面に浸炭して積層体55a(プレート71)の表面側に浸炭部71cが形成される。
【0057】
また、積層体55a(プレート71)に浸炭せずに残存したカーボンシートSc(以下、処理開始前のカーボンシートScと区別するために、残存したカーボンシートScをカーボンシートScaともいう)は、加圧機構16による押圧およびヒータ14による加熱によって硬化し、非常に脆い状態となっている。また、積層体55a(プレート71)にカーボンシートScaが残存している状態では、プレート71のスリット71bおよびプレート72の閉塞部72cによって形成される溝部H61がカーボンシートScaで閉塞された状態となっている。このため、このような状態の積層体55bを使用して燃料電池セル50を製造したときには、溝部H61を通過させられる「発電用気体」としての水素ガスや空気がMEA53に接しない状態、すなわち、発電が阻害される状態となる。
【0058】
したがって、「第5の処理」を実行することにより、図13に示すように、積層体55bからカーボンシートScaを除去して溝部H61を露出させる。この際には、カーボンシートScaの残存面に研削用メディアを吹き付けるブラスト処理、ペースト状またはシート状の研磨剤を用いてカーボンシートScaの残存面を研磨する研磨処理、およびスクレーパ等を用いてカーボンシートScaを剥ぎ取る剥取り処理などを行うことで、カーボンシートScaを除去する。なお、不要なカーボンシートScaを除去する際には、積層体55bを過剰に温度上昇させることなく処理可能な手法を採用し、部分的な温度上昇に起因するクラックの発生等を回避するのが好ましい。以上により、「第5の処理」が完了し、セパレータ集合体51が完成する。
【0059】
なお、燃料電池セル50の製造に使用するセパレータ52a,52bについては、上記のセパレータ集合体51の製造時における「第1の処理」から「第5の処理」までの一連の処理と同様の処理を実行することで製造することができる。この場合、セパレータ52a,52bの製造時には、セパレータ集合体51の製造時に使用した各プレート71~73,81,82およびカーボンシートScに代えて、プレート91~93およびカーボンシートScの積層体(図示せず:「第2の積層体」の他の一例)をセパレータ製造装置1の処理槽10に収容して「第1の処理」から「第4の処理」までの一連の処理を実行し、その後に、処理槽10から取り出した積層体を対象とする「第5の処理」を実行することで製造することができる。
【0060】
一方、燃料電池セル50の製造に際しては、上記のように製造したセパレータ集合体51と、セパレータ52a,52bと、予め製造した2つのMEA53を用意する。なお、セパレータ集合体51、セパレータ52a,52b、および2つのMEA53は、燃料電池セル50を構成する必要最低限の要素であって、実際の「燃料電池セル」の製造に際しては、これらの要素の他に、「燃料電池セル」の使用に応じた各種の構成物を用意して一体化させる。次いで、図2に示すように、セパレータ52a、MEA53、セパレータ集合体51、MEA53およびセパレータ52bを重ね合わせ、一例として、一対の押え板(図示せず)の間に挟み込んだ状態で両押さえ板をボルト/ナット(図示せず)で位置決め固定することにより、セパレータ集合体51、セパレータ52a,52bおよびMEA53,53を一体化させる。これにより、燃料電池セル50が完成する。なお、この燃料電池セル50を用いて製造される発電モジュール(燃料電池における発電部)は、その仕様により、図示しない集電板や放熱板などが組み込まれるが、これらの要素に関する詳細な説明を省略する。
【0061】
この場合、上記の製造方法に従って製造されたセパレータ集合体51では、構成材料である各プレート71~73,81,82自体が十分な硬度および十分な靱性を有しているため、カーボン成形品と比較して、振動や衝撃が加わったときに破損が生じ難くなっている。また、このセパレータ集合体51は、各プレート71~73,81,82が拡散接合によって十分な接合力で接合された状態となっており、恰も1つの金属塊で構成されているかの如く、各プレート71~73,81,82が一体化されている。このため、ある程度薄厚のプレート71~73,81,82を採用して製造したとしても、セパレータ集合体51全体としての剛性を十分に高くすることができる。これらの点については、セパレータ52a,52bについても同様である。
【0062】
また、上記の製造方法に従って製造されたセパレータ集合体51やセパレータ52a,52bでは、「第2の処理」において不動態皮膜が好適に除去されているため、「第3の処理」における拡散接合において各プレートを好適に接合することができるだけでなく、完成品としてのセパレータ集合体51やセパレータ52a,52b内に不動態が存在しないことで、その電気的抵抗が小さくなっている。これにより、電気的特性が十分に良好な製品を提供することができる。
【0063】
さらに、上記の製造方法に従って製造されたセパレータ集合体51やセパレータ52a,52bでは、「第3の処理」において積層体55b全体が温度Tcまで加熱された状態でカーボンシートScがプレート71,91に押し付けられることでカーボンシートScの炭素がプレート71,91に浸透し、これにより、プレート71,91の表面に浸炭部71c,91cが形成されている。具体的には、図14に示すように、上記の製造方法に従って製造したセパレータ集合体51では、浸炭部71cの存在により、プレート71の表面から十分な深さまで炭素の組成比が十分に高くなっている。なお、同図、および後に参照する図15~17では、対象物の表面からの深さ[μm]毎に、「炭素(C)が占める比率」を実線L1で示し、「鉄(Fe)が占める比率」を破線L2で示し、「ニッケル(Ni)が占める比率」を一点鎖線L3で示し、かつ「クロム(Cr)が占める比率」を荒破線L4で示している。
【0064】
このため、このセパレータ集合体51では、燃料電池セル50として組み立てられた状態においてMEA53に接するプレート71における表面部位の電気的抵抗が十分に低くなっており、電気的特性が十分に高い製品を提供することができる。また、セパレータ集合体51(プレート71)の表面部位に存在する浸炭部71cが保護層として機能し、表面部位における鉄、クロムおよびニッケル等の酸化が進行し難くなっている。
【0065】
これに対して、例えば、上記のセパレータ集合体51の製造時に使用したプレート71~73,81,82と同じ材質の金属板(SUS316Lの板材)に切削加工やエッチング加工によって「溝部」を形成したものを導電性接着剤で接着して製造した「セパレータ集合体」、すなわち、上記の「第1の処理」から「第5の処理」を行わずに製造した金属性の「セパレータ集合体」では、セパレータ集合体51と同様に十分な硬度、剛性および靱性を有した状態となる。しかしながら、その製造過程において上記の「第2の処理」が行われていないため、金属板の表面部位に不動態(クロムの酸化皮膜)が生じた状態となっている。このため、この不動態の存在に起因して「セパレータ集合体」における表面部位の電気的抵抗が大きくなり、電気的特性が良好な製品の提供が困難となる。また、上記のセパレータ集合体51とは異なり、図15に示すように、その表面部位に極く少量の自然含有炭素が存在するものの、その量が非常に少量であるため、炭素の存在による電気的抵抗の低減や、鉄、クロムおよびニッケル等の酸化の抑制効果も望めない。
【0066】
なお、前述のセパレータ集合体51の製造方法では、積層体55bを押圧力P2まで加圧した状態において「第3の処理」を実行して各プレート71~73,81,82を拡散接合したが、出願人は、このような製造方法に代えて、例えば、押圧力P1と同程度の弱い押圧力で積層体55bを加圧した状態で「第3の処理」の散接合工を行った場合においても、各プレート71~73,81,82を好適に接合することができることを確認している。また、図16に示すように、「第3の処理」時における積層体55bの押圧力を弱くした場合においても、カーボンシートScの炭素をプレート71に浸透させて、十分な深さまで浸炭部71cを形成することができる。したがって、そのような製造方法で製造したセパレータ集合体についても、セパレータ集合体51と同様に電気的特性が十分に高い製品を提供することができ、表面部位における鉄、クロムおよびニッケル等の酸化の進行を抑制することができる。
【0067】
一方、図15を参照しつつ説明をしたセパレータ集合体の表面にカーボンコート(一例として、スパッタリング処理によってカーボン被膜を形成する処理)を施したときには、図17に示すように、その表面側の十分な深さまで炭素が占める比率を高くすることができる。このため、セパレータ集合体の表面部位、すなわち、カーボン被膜の部位の電気的抵抗を十分に低減することができ、カーボン被膜により構成される保護層の存在により、鉄、クロムおよびニッケル等の酸化の進行を十分に抑制することができる。しかしながら、このような製造方法によって製造したセパレータ集合体では、カーボン被膜の下に存在する金属塊が図15を参照しつつ説明をしたセパレータ集合体と同様であり、この金属塊の表面には電気的抵抗が高い不動態(クロムの酸化物の層)が生じた状態となっている。このため、表面部位の抵抗が小さいにも拘わらず、電気的特性が良好な製品の提供が困難となる。
【0068】
このように、このセパレータ製造方法では、板厚方向で貫通させられたスリット71bが設けられたプレート71と、スリット71bの板厚方向における一方を閉塞する閉塞部72cが設けられたプレート72とを少なくとも含むプレート71~73,81,82を板厚方向で重ねた積層体55aの板厚方向における両面にカーボンシートScを重ねた積層体55bを処理槽10内に収容し、処理槽10内の真空度を上昇させる「第1の処理」と、予め規定された温度Tbまで積層体55bの温度を上昇させてプレート71~73,81,82の不動態皮膜を還元除去する「第2の処理」と、予め規定された押圧力P2で積層体55bを加圧した状態において温度Tbよりも高温の予め規定された温度Tcまで積層体55bの温度を上昇させてプレート71~73,81,82を拡散接合させる「第3の処理」と、積層体55bの温度を低下させると共に処理槽10内の真空度を低下させる「第4の処理」とをこの順で実行することにより、スリット71bおよび閉塞部72cによって「発電用気体」を通過させる溝部H61が構成され、かつ積層体55aの両面に浸炭部71cが形成されたセパレータ集合体51を製造する。
【0069】
また、この燃料電池セル製造方法では、上記のセパレータ製造方法によって製造したセパレータ集合体51およびセパレータ52a,52bの間にMEA53を挟み込んだ状態でセパレータ集合体51、セパレータ52a,52bおよびMEA53を一体化させて燃料電池セル50を製造する。また、このセパレータ製造装置1では、上記の積層体55bを収容可能な処理槽10と、処理槽10内の真空度を調整する真空ポンプ11、制御弁12および窒素タンク13と、処理槽10内に収容された積層体55bの温度を調整するヒータ14および送風機15と、処理槽10内に収容された積層体55bを板厚方向に加圧する加圧機構16と、真空ポンプ11、制御弁12、ヒータ14、送風機15および加圧機構16(アクチュエータ16a)の動作を制御する制御部19とを備え、制御部19が、上記の「第1の処理」、「第2の処理」、「第3の処理」および「第4の処理」をこの順で実行することによってセパレータ集合体51を製造する。
【0070】
したがって、このセパレータ製造方法、燃料電池セル製造方法およびセパレータ製造装置1によれば、カーボン粉末の表面に熱硬化性樹脂材料を塗布してコーティング層を形成したカーボン樹脂材料に水などの液体を混合して混練した混練物を成形材料として用いた成形方法によって製造されたカーボンセパレータと比較して、金属板を素材として用いていることで、その硬度、剛性および靱性が十分に高いセパレータ集合体51を製造することができる。これにより、振動や衝撃に起因する破損を招き難いセパレータ集合体51および燃料電池セル50を提供することができる。また、セパレータ集合体51の物理的強度を確保するために各部の厚み等を過剰に厚くする必要がないため、セパレータ集合体51および燃料電池セル50を十分に小形化することができる。また、離型(成形完了後の金型からの離脱)を考慮した形状設計が不要であることから、その設計の自由度が十分に高くなり、求められる発電能力や用途に応じた任意の形状で製造することができる。さらに、表面部位に浸炭部71cが存在することで、MEA53に接する部位の電気的抵抗が十分に小さくなるため、電気的特性に優れたセパレータ集合体51、および発電効率が十分に高い燃料電池セル50を提供することができる。また、浸炭部71cが保護層として機能することから、耐食性に優れた製品を提供することができる。
【0071】
また、このセパレータ製造方法では、プレート71によって一方の面が構成されるようにプレート71~73,81,82を重ねた積層体55aにカーボンシートScを重ねた積層体55bを用いてセパレータ集合体51を製造する際に、「第4の処理」を完了した積層体55bにおいてプレート71に浸炭せずに残存しているカーボンシートScaを除去する「第5の処理」を実行して溝部H61を露出させる。
【0072】
したがって、このセパレータ製造方法および燃料電池セル製造方法によれば、「第5の処理」を行うこと、すなわち、「第4の処理」の完了後にカーボンシートScaが残存していることを前提として、十分な厚みのカーボンシートScを積層体55aに重ねた積層体55bを対象として「第1の処理」から「第4の処理」までの一連の処理を行うことができるため、「第4の処理」が完了する以前にカーボンシートScに破れが生じて浸炭部71cが好適に形成されない部位が生じるのを回避して、カーボンシートScを重ねた部位の全域に浸炭部71cを好適に形成することができる。また、残存しているカーボンシートScaを除去する際にセパレータ集合体51の表面平坦性を十分に向上させることができるため、このセパレータ集合体51を含む積層物(燃料電池セル50)においてセパレータ集合体51を他の積層物に対して好適に密着させることができる。これにより、「発電用気体」の漏れが生じる事態を好適に回避することができる。
【0073】
また、このセパレータ製造方法では、「第4の処理」において処理槽10内に窒素タンク13から窒素を流入させて処理槽10内の真空度を低下させる。したがって、このセパレータ製造方法および燃料電池セル製造方法によれば、真空度を低下させるために空気(大気)を処理槽10内に流入させる製造方法とは異なり、「第3の処理」において高温まで加熱された積層体55bに触れる酸素量を十分に低減することができるため、積層体55bの表面が酸化して不動態皮膜が生じる事態を好適に回避することができる。また、「窒素」が比較的安価で、高温下における危険性も低く、かつ、処理終了後に処理槽10の扉を開けた際に大気中に放出されても無害であることから、セパレータ集合体51の製造コストの高騰、製造時の事故発生、および環境破壊が生じる事態を回避することができる。
【0074】
また、このセパレータ製造方法では、第4処理において処理槽10内の気体を積層体55bに向けて送風機15によって送風して積層体55bの温度を低下させる。したがって、このセパレータ製造方法および燃料電池セル製造方法によれば、積層体55bの各部における温度低下量を均一化することができ、各部の熱収縮状態を同様とすることができることから、セパレータ集合体51に意図しない変形が生じたり、クラックが生じたりするのを好適に回避することができる。
【0075】
なお、「セパレータ製造方法」および「燃料電池セル製造方法」の具体的な内容、並びに「セパレータ製造装置」の構成は、上記の例示のような内容・構成に限定されない。
【0076】
例えば、2組のプレート71~73と、プレート81,82と、2枚のカーボンシートScを重ね合わせた積層体55bを処理槽10内において処理することで3つのセパレータ61a,61b,62が一体化されたセパレータ集合体51を製造する構成・方法を例に挙げて説明したが、セパレータ61a(「セパレータ」の他の一例)と、セパレータ61bおよびセパレータ62を一体化したセパレータ集合体60(「セパレータ」の他の一例)とを別個に製造した後に導電性パッキンPを挟み込むようにして一体化させて、図18に示すセパレータ集合体51Aを製造する製造方法を採用することもできる。また、セパレータ61a、セパレータ61bおよびセパレータ62(それぞれ「セパレータ」の他の一例)を別個に製造した後に導電性パッキンPを挟み込むようにして一体化させて図19に示すセパレータ集合体51Bを製造する製造方法を採用することもできる。
【0077】
この場合、セパレータ集合体51Aを構成するセパレータ61aやセパレータ集合体60の製造方法、およびセパレータ集合体51Bを構成する各セパレータ61a,61b,62の製造方法は、前述のセパレータ集合体51の製造方法と同様のため、詳細な説明を省略する。また、導電性パッキンPは、導電性を有し、かつ耐熱性および耐薬品性を有する弾性樹脂材料で形成されたシート体であって、図20に示すように、各プレート71~73やプレート81,82における貫通孔71a~73a,8a,82aの形成位置に合わせて貫通孔Paが形成されている。このような製造方法に従って製造したセパレータ集合体51A,51Bにおいても、プレート71,91に浸炭部71c,91cが形成されることで、前述のセパレータ集合体51と同様の効果を奏することができる。
【0078】
また、積層体55aにおける両プレート71,71の表面を「少なくとも一方の面」としてカーボンシートScをそれぞれ配設した状態で「第1の処理」から「第4の処理」までの一連の処理を実行した後に、「第5の処理」を実行してプレート71,71に浸炭せずに残存しているカーボンシートScを除去する方法を例に挙げて説明したが、例えば、セパレータ集合体51Aの製造時に、プレート71~73の積層体を「第1の積層体」とし、この「第1の積層体」におけるプレート71,73の表面を「少なくとも一方の面」としてカーボンシートScをそれぞれ配設した状態で「第1の処理」から「第4の処理」までの一連の処理を実行した後に、「第5の処理」を実行してプレート71,73に浸炭せずに残存しているカーボンシートScを除去する方法を採用することもできる。この製造方法では、プレート73が「複数の板体のうちの第1の金属板以外の板体」に相当する。
【0079】
このようなセパレータ製造方法によれば、「第5の処理」を行うこと、すなわち、「第4の処理」の完了後にカーボンシートScaが残存していることを前提として、十分な厚みのカーボンシートScを「第1の積層体」に重ねた「第2の積層体」を対象として「第1の処理」から「第4の処理」までの一連の処理を行うことができるため、「第4の処理」が完了する以前にカーボンシートScに破れが生じてプレート71,73に「浸炭部」が好適に形成されない部位が生じるのを回避して、カーボンシートScを重ねた部位の全域に「浸炭部」を好適に形成することができる。また、残存しているカーボンシートScaを除去する際に「セパレータ集合体」の表面平坦性を十分に向上させることができるため、この「セパレータ集合体」を含む積層物(燃料電池セル)において「セパレータ集合体」を他の積層物に対して好適に密着させることができる。これにより、「発電用気体」の漏れが生じる事態を好適に回避することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 セパレータ製造装置
10 処理槽
11 真空ポンプ
12 制御弁
13 窒素タンク
14 ヒータ
15 送風機
16 加圧機構
16a アクチュエータ
17 操作部
18 表示部
19 制御部
20 記憶部
50 燃料電池セル
51,51A,51B,60 セパレータ集合体
52a,52b,61a,61b,62 セパレータ
53 MEA
55a,55b 積層体
71~73,81,82,91~93 プレート
71a~73a,81a,82a,Pa 貫通孔
71b,81b スリット
71c,91c 浸炭部
72b,82b 貫通孔
72c,82c 閉塞部
H61 溝部
P 導電性パッキン
P0,P1 押圧力
Sc,Sca カーボンシート
Ta~Tc 温度
V0,V1 真空度
図1
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