(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027324
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】p型半導体膜の作製方法、p型半導体膜、ペロブスカイト太陽電池の製造方法、ペロブスカイト太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240222BHJP
【FI】
H01L31/04 168
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130034
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】古郷 敦史
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓郎
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151FA06
5F151GA02
(57)【要約】
【課題】性能が向上した無機p型半導体膜の作製方法および当該p型半導体膜の提供、また、前記p型半導体膜を用いたペロブスカイト太陽電池の製造方法および当該ペロブスカイト太陽電池の提供である。
【解決手段】Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤の存在下で結晶化させる工程を含み、当該工程は、基材上に形成されたp型半導体の膜に、結晶化剤を接触させて結晶化させる工程である、p型半導体膜の作製方法である。また、ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層を形成する工程が、前記p型半導体膜の作製方法によりp型半導体を結晶化させる工程を含んでいてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤の存在下で結晶化させる工程を含み、
前記結晶化させる工程は、基材上に形成された前記p型半導体の膜に、前記結晶化剤を接触させて結晶化させる工程である、p型半導体膜の作製方法。
【請求項2】
前記p型半導体の膜は、CuSCN、CuI、CuSeCN、CuS、Cu2Sから選択される少なくとも一種のp型半導体の膜である、請求項1に記載のp型半導体膜の作製方法。
【請求項3】
前記結晶化剤はオレイルアミンを含む、請求項1または請求項2に記載のp型半導体膜の作製方法。
【請求項4】
導電性基板と電極との間に、金属酸化物層と、ペロブスカイト層と、正孔輸送層とを順次形成して太陽電池を製造する方法であって、
前記正孔輸送層を形成する工程は、Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を用いてペロブスカイト層上に半導体膜を形成し、前記半導体膜にオレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤を接触させて結晶化させる工程を含む、ペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記半導体膜のp型半導体として、CuSCN、CuI、CuSeCN、CuS、Cu2Sから選択される少なくとも一種を用いる、請求項4に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記結晶化剤として、オレイルアミンを用いる、請求項4または請求項5に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項7】
Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を含むp型半導体の膜と、前記p型半導体の膜表面に設けられ、前記p型半導体を結晶化させる、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤と、を含む、p型半導体膜。
【請求項8】
前記p型半導体膜は、CuSCN、CuI、CuSeCN、CuS、Cu2Sから選択される少なくとも一種のp型半導体を含む、請求項7に記載のp型半導体膜。
【請求項9】
前記結晶化剤はオレイルアミンを含む、請求項7または請求項8に記載のp型半導体膜。
【請求項10】
導電性基板と電極との間に、金属酸化物層と、ペロブスカイト層と、正孔輸送層とが順次形成された太陽電池であって、
前記正孔輸送層は、請求項7または請求項8に記載のp型半導体膜を含む、ペロブスカイト太陽電池。
【請求項11】
導電性基板と電極との間に、金属酸化物層と、ペロブスカイト層と、正孔輸送層とが順次形成された太陽電池であって、
前記正孔輸送層は、請求項9に記載のp型半導体膜を含む、ペロブスカイト太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型半導体膜の作製方法およびp型半導体膜に関し、特にチオシアン酸銅などの無機p型半導体を材料とする半導体膜の作製方法および当該無機p型半導体膜に関する。また、正孔輸送層に無機p型半導体膜を用いたペロブスカイト太陽電池の製造方法および当該ペロブスカイト太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
p型半導体は、トランジスタなどの半導体デバイスに一般的に使用されており、特に太陽電池の正孔輸送層としても有用なものである。例えば、ペロブスカイト太陽電池ではp型半導体膜の材料として、2,2',7,7'-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ) -9,9'-スピロビフルオレンなどの有機材料が使用されている。このような有機材料は、一般的に無機材料と比べて光電変換効率が高く、性能面では優れているものの、耐久性の問題があることから、無機材料の使用も試みられている。例えば、ペロブスカイト太陽電池では、無機p型半導体膜として、Cuを含むp型半導体である、チオシアン酸銅の薄膜が利用されている。このチオシアン酸銅の薄膜の作製方法としては、以下の方法がある。硫酸銅とチオシアン酸カリウムとトリエタノールアミンとを含む水溶液を用いて電析する方法(非特許文献1)や、チオシアン酸銅を含むジエチルスルフィド溶液をペロブスカイト上にスピンコートする、いわゆる溶液塗布の方法(非特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ronen Gertman et al,‘Pulsed electrodeposition of CuSCN for superfilling of ZnO nanowire array electrodes’, Electrochimica Acta (2014), volume 125, p65-70.
【非特許文献2】Vinod E. Madhavan et al, ‘CuSCN as Hole Transport Material with 3D/2D Perovskite Solar Cells’, ACS Appl. Energy Mater. (2020), 3, p114-121.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チオシアン酸銅などのCuを含む無機p型半導体は、有機材料のp型半導体と比べて、性能の面で劣ることは上述したとおりであるが、耐久性の面では有機材料のものよりも良好であることから、性能面での向上が望まれる。特に、ペロブスカイト太陽電池においては、正孔輸送層にこのような無機p型半導体が使用されており、電池性能の向上が望まれている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、性能が向上した無機p型半導体膜を作製することができる、無機p型半導体膜の作製方法および当該無機p型半導体膜の提供、また、そのような無機p型半導体膜を用いたペロブスカイト太陽電池の製造方法および当該ペロブスカイト太陽電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、Cuを含むp型半導体やAgまたはPbの硫化物を含むp型半導体に、オレイルアミンやオレイン酸などの結晶化剤を接触させることで、p型半導体の結晶成長を促すこと、表面形状が平滑になることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
(1)本発明の第一の態様は、Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤の存在下で結晶化させる工程を含み、前記結晶化させる工程は、基材上に形成された前記p型半導体の膜に、前記結晶化剤を接触させて結晶化させる工程である、p型半導体膜の作製方法である。
(2)本発明の第二の態様は、導電性基板と電極との間に、金属酸化物層と、ペロブスカイト層と、正孔輸送層とを順次形成して太陽電池を製造する方法であって、前記正孔輸送層を形成する工程は、Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を用いてペロブスカイト層上に半導体膜を形成し、前記半導体膜にオレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤を接触させて結晶化させる工程を含む、ペロブスカイト太陽電池の製造方法である。
(3)本発明の第三の態様は、Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を含むp型半導体の膜と、前記p型半導体の膜表面に設けられ、前記p型半導体を結晶化させる、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤と、を含む、p型半導体膜である。
(4)本発明の第四の態様は、導電性基板と電極との間に、金属酸化物層と、ペロブスカイト層と、正孔輸送層とが順次形成された太陽電池であって、前記正孔輸送層は、(3)に記載のp型半導体膜を含む、ペロブスカイト太陽電池である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のp型半導体膜の作製方法およびp型半導体膜によれば、性能が向上した無機p型半導体膜を作製することができる、無機p型半導体膜の作製方法および当該無機p型半導体膜の提供、また、そのような無機p型半導体膜を用いたペロブスカイト太陽電池の製造方法および当該ペロブスカイト太陽電池の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施例1で得られたCuSCN膜のX線回折パターンである。
【
図3】実施例2で得られたペロブスカイト太陽電池の光電流-電圧曲線である。
【
図4】ペロブスカイト層上に形成したCuSCN膜の原子間力顕微鏡画像である。
【
図5】実施例3で得られたCuI膜のX線回折パターンである。
【
図6】実施例4で得られたCuSCN膜のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態のp型半導体膜の作製方法は、Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体のうち少なくとも一種を、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンのうち少なくとも一種の結晶化剤の存在下で結晶化させる工程を含む。Cuを含むp型半導体、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体は、種々の半導体デバイス(トランジスタ、各種センサなど)や太陽電池に用いられており、耐久性の面では、有機材料のp型半導体と比べて優れるものである。なお、本実施形態において、p型半導体は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0009】
例えば、Cuを含むp型半導体として、チオシアン酸銅(CuSCN)、ヨウ化銅(CuI)、銅セレノシアネート(CuSeCN)、硫化銅(I)(Cu2S)、硫化銅(II)(CuS)などがある。特に、チオシアン酸銅(CuSCN)は、正孔の移動度の高さ、材料コストの安さ、耐久性のよさ、そして電極との間での正孔の流れやすさの点で非常に高い性能を示す材料であることから、太陽電池の正孔輸送層の材料として、好適である。また、AgまたはPbの硫化物を含むp型半導体としては、Ag2S(I)、PbS(II)などがある。
【0010】
そして、本実施形態によれば、Cuを含むp型半導体やAgまたはPbの硫化物を含むp型半導体を、結晶化剤の存在下で結晶化させることを特徴としている。上記p型半導体に、結晶化剤が接触することにより、結晶化剤がp型半導体に配位し、p型半導体が溶解、再析出することで、結晶成長を促進させることができる。また、結晶化剤の作用によりp型半導体の表面形状が変化して、表面粗さが低減されることで、平滑面にすることができる。
【0011】
また、用いる結晶化剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、炭素数12-24のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィン、炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンなどがある。これらは、界面活性剤としての機能を有する。そして、前記炭素数5-19の直鎖状アルキルアミンとしては、例えば、ヘプチルアミン、アミルアミン、1-アミノウンデカン、1-アミノデカン、ヘキシルアミン、1-アミノヘプタデカン、ステアリルアミン、n-オクチルアミン、テトラデシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1-アミノノナデカン、1-アミノトリデカン、ノニルアミン、1-アミノペンタデカンなどがある。炭素数4以下の直鎖状アルキルアミン(ブチルアミン、プロピルアミンなど)では、疎水基の部分が少ないため、界面活性剤としてp型半導体を溶解する効果が得られない。そして、これらの結晶化剤はCuを含むp型半導体やAgまたはPbの硫化物を含むp型半導体に配位するという点で共通しており、結晶化剤がこれらのp型半導体に配位し、p型半導体を溶解することで、結晶成長が促され、膜の結晶性が改善するものと思われる。また、結晶化剤は複数種類を用いても良い。これらの結晶化剤の中でもアミノ基の電子供与性が強く、強固に配位結合することから、オレイルアミンが好適である。
【0012】
例えば、以下の方法により、Cuを含むp型半導体やAgまたはPbの硫化物を含むp型半導体を結晶化剤の存在下で結晶化させる。まず、これらのp型半導体を基材上に、化合物に応じた成膜方法で、成膜する。基材は、半導体デバイスの種類やその上にp型半導体膜を形成する目的に応じて適宜選択できる。例えば、p型半導体膜をペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層として用いる場合、基材はペロブスカイトまたは電極である。そして、p型半導体の膜に結晶化剤を接触させることで、p型半導体が結晶化する。
【0013】
(実施形態1)
下記に、基材をガラス板とした場合について説明する。
基材にCuを含むp型半導体を成膜する方法は公知の技術を用いることができる。
例えば、上記例示したCuを含むp型半導体のうち、CuSCN、CuI、CuSeCNは、有機溶媒に溶解させた後、当該有機溶媒を基材上に塗布し、その後乾燥させ、有機溶媒を蒸発させることによって基材上にp型半導体の膜を形成する。塗布の方法は、スプレー法、ディップコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、コールコート法、スピンコート法など公知の方法でよく、このことは以下の工程や他の実施形態にも共通する。なおこれらの中でも、均一な薄膜を形成できることから、スピンコート法により基材上に塗布することが好ましい。また、用いる有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ピリジン等の窒素含有溶媒、γ-ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、ジエチルスルフィド、ジ-n-プロピルスルフィド等のスルフィド系溶媒が挙げられる。有機溶媒の各々は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このことは、以下の工程や他の実施形態にも共通する。例えば、これらの中でも、p型半導体に対する溶解度が高いことから、ジエチルスルフィドなどのアルキルスルフィド系溶媒が好ましい。
【0014】
一方、上記例示したCuを含むp型半導体のうち、Cu2Sは、例えば、チオ硫酸ナトリウムと硫酸ナトリウムを含む水溶液を基材上にスピンコートし、水で洗浄することで、基材上にp型半導体の膜を形成する。
【0015】
また、Ag2S(I)、PbS(II)などの硫黄を含有するp型半導体は、以下の方法により、基材上にp型半導体の膜を形成する。
硝酸銀あるいは硝酸鉛を含む水溶液と硫化ナトリウムを交互に基板上にスピンコートした後、水およびエタノールで順に洗浄して乾燥する。
【0016】
そして、これらのp型半導体の膜表面に、結晶化剤を含む有機溶媒を塗布し、加熱、乾燥させて、有機溶媒を蒸発させることによって、本実施形態のp型半導体膜が作製できる。なお、有機溶媒としては、2-プロパノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、トルエンなどの疎水性溶媒が好ましい。この工程では、p型半導体の結晶を完全に溶かすのではなく、塗布したときに結晶を残しつつ、乾燥時に再成長させるため、有機溶媒にはp型半導体を溶解しないものを使う必要がある。p型半導体は疎水性溶媒に溶けにくい傾向がある。そして、結晶化剤(界面活性剤)によってp型半導体を溶解するので、有機溶媒は疎水性溶媒が良い。この理由としては、オレイルアミンなどの界面活性剤は、親水基をp型半導体に配位させ、疎水基が疎水性溶媒と結合して溶媒和させることから、疎水性溶媒が好ましい。
また、基材に影響しないような有機溶媒を選択するとよい。
そして、使用する結晶化剤は、p型半導体の結晶成長を促進でき、p型半導体の下の基材に影響がないような濃度、量とすることが望ましい。例えば、結晶化剤の含有量は、p型半導体100モルに対し1-50モルとすることが好ましい。
【0017】
(実施形態2)
そして、上記方法により作製したp型半導体は、ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層の材料として使用できる。ペロブスカイト太陽電池は、例えば、以下の方法により製造できる。
図1には、ペロブスカイト太陽電池1の模式図を示す。
ペロブスカイト太陽電池1は、導電性基板3と電極(正極)である電極11との間に、金属酸化物層5と、ペロブスカイト層7と、正孔輸送層9とが順次形成されたものである。また、導電性基板3には電極(負極)11が形成されている。ペロブスカイト太陽電池1では、下方から入射した光がペロブスカイト層7に吸収され、電子と正孔が生成する。電子と正孔はそれぞれ金属酸化物層5および正孔輸送層9に移動し、両電極間に光起電力が発生し電流が生成する。なお、導電性基板3が透明の場合は、電極(負極)11は導電性基板3の下側にあってもよい。
【0018】
(導電性基板)
導電性基板3は、導電性材料からなる基板である。導電性材料としては、例えば、白金、金等の金属、炭素、及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、透明であることから、FTOおよびITOが好適である。なお、図示しないが、導電性基板3の下に、ガラス基板、プラスチック基板等の透明の支持基板があっても良い。
導電性基板3の厚さは、100nm-1000nm程度が好ましい。導電性基板3は、導電性材料を平板状に成形することで得ることができる。支持基板がある場合は、その上に積層することで導電性基板3を得ることができる。
【0019】
(金属酸化物層)
そして、導電性基板3上には、電子輸送層となる金属酸化物層5が形成されている。当該金属酸化物層用の材料としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化スズ(SnO2)などが挙げられる。金属酸化物層5の厚みは、例えば、その上のペロブスカイト層7からの電子をより収集できる観点から、10-1000nm程度が好ましい。金属酸化物層5は、成形する材料に応じて公知の成膜方法を用いて得ることができる。例えば、二酸化スズを用いる場合、二酸化スズのコロイド溶液を導電性基板3上に塗布して、加熱(100-150℃)、乾燥させることで、作製できる。また、二酸化チタンの場合は、酸化チタンペーストのアルコール溶液(例えばエタノール溶液やイソプロパノール溶液等)を塗布して作製することができる。酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブなども同様にペースト状にして塗布すればよい。二酸化スズのコロイド溶液や酸化チタンペーストは公知又は市販品を用いることができる。
【0020】
(ペロブスカイト層)
そして、金属酸化物層5上には、光電変換層として機能するペロブスカイト層7が形成されている。ペロブスカイト層7では、光照射により電子とホール(正孔)とを生成する。ペロブスカイト層は、一般式R-M-X3(但し,Rは有機分子あるいはカリウム、セシウム、ルビジウム,Mは金属原子,Xはハロゲン原子)で表されるペロブスカイト材料や、ペロブスカイト錯体を含む。例えば、RNH3PbX3、R(NH2)2PbX3、RNH3SnX3、R(NH2)2SnX3(Rは、炭素数1~10のアルキル基)、CsPbX3、RbPbX3、これらとジメチルホルムアミドとの錯体などがある。ペロブスカイト層7の膜厚は,光吸収効率と励起子拡散長とのバランス及び導電性基板3を透過した光の吸収効率の観点から、例えば、100-600nmが好ましい。ペロブスカイト層7を形成する成分を溶媒に溶解して、金属酸化物層5上に塗布、乾燥させることで、ペロブスカイト層7を作製できる。溶媒は、γ-ブチルラクトン、メチルホルメート、エチルアセテート等のエステル類;アセトン、ジメチルケトン類等のケトン類;ジエチルエーテル、ジイソピルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール等のアルコール類;塩化エチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を好ましく用いることができる。なお、ペロブスカイト層7の前駆体を塗布し、クロロベンゼンやトルエンなどの貧溶媒を塗布することで、ペロブスカイト層7を作製してもよい。
【0021】
(正孔輸送層)
そして、ペロブスカイト層7上には、正孔輸送層9が形成されている。正孔輸送層9は実施形態1で作製したp型半導体膜を用いることができる。すなわち、ペロブスカイト層7上に、有機溶媒に溶解したp型半導体を塗布、乾燥させた後、さらに結晶化剤を含む有機溶媒を塗布し、加熱、乾燥させることによって正孔輸送層9を作製できる。その厚さは、10-1000nm程度であることが好ましく、ピンホールを作らない程度の厚みが必要でありかつ低抵抗が良いことから、50-500nm程度であることがより好ましい。なお、結晶化剤の量は、p型半導体の結晶成長を促進でき、下層となるペロブスカイト層7に影響がないような濃度、量とすることが望ましい。例えば、オレイルアミンを用いた場合、ペロブスカイト層を溶解しないよう、2-プロパノールを用いて0.2M以下の濃度に希釈するとよい。
【0022】
(電極)
最後に、透明導電性基板3と正孔輸送層9とにそれぞれ電極11を形成することで、太陽電池1(太陽電池素子)を作製することができる。電極11は、例えば、金(Au)で形成される。また、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属材料を用いてもよい。電極11は、蒸着、スパッタリング並びにスプレー法、スピンコーティング法、ディップコーティング法といった公知の方法により形成することができる。
【実施例0023】
(実施例1)
(p型半導体膜の作製1)
p型半導体としてCuSCNを用い、また結晶化剤としてオレイルアミンを用いて、半導体膜を作製した。
80mg/mLのCuSCN(メルク社製、品番298212)が溶解したジエチルスルフィド(メルク社製、品番107247)をガラス基板(松浪硝子工業株式会社製、フロストスライドグラスS2226)に6000rpm、40sの条件でスピンコートし(ミカサ株式会社製、スピンコーター、品番MS-B100、以下の実施例でも同様)、乾燥することでCuSCN/ガラス基板を作製した。これに25mMのオレイルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番326-27572)を含む2-プロパノール溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番166-04836)を6000rpm、40sの条件でスピンコートし、100℃で5分間加熱して乾燥させた。結晶化剤の含有量は、p型半導体100モルに対し3.8モルであった。
図2には、作製した半導体膜を、X線結晶解析装置(株式会社リガク製、Smartlab(登録商標))を用いて測定した結果(破線)を示す。測定条件は、X線源CuKα、スキャン速度4度min
-1とした。また、比較例として、CuSCN/ガラス基板(オレイルアミンのスピンコートなし)の結果(実線)も示す。なお、
図2(B)は、
図2(A)のピーク付近の拡大図(スキャン速度0.1度min
-1,比較しやすいように重ねた図)を示す。
図2からも、オレイルアミンの存在によってCuSCN(003)面の回折ピーク(2θ=16.15°)が高くなり、回折ピークの半値幅(半値幅より計算)から結晶サイズ(平均結晶サイズ)が21.9nmから35.0nmに増加したことが分かった。すなわち、オレイルアミンにより、CuSCNの結晶化が促進され、結晶成長することが確認できた。
【0024】
(実施例2)
(ペロブスカイト太陽電池の作製)
CuSCNを正孔輸送材として用いたペロブスカイト太陽電池1(
図1)を作製し、その光電変換特性を評価した。また結晶化剤としてオレイルアミンを用い、ペロブスカイト太陽電池は、以下の方法で作製した。なお、特に断り書きがない限り、実施例1と重複する試薬および方法は、同じ試薬および方法を用いた。
透明導電性基板3(ジオマテック株式会社製、ITO膜付きガラス、品番1001)の上に酸化スズコロイド溶液(Alfa Aesar社製、品番44592)をスピンコートし、150℃で1時間乾燥させ、SnO
2/ITO基板を作製した。
次いで、ヨウ化ホルムアミジン(1M) (東京化成工業株式会社製、品番F1263)、ヨウ化メチルアンモニウム (0.2M) (東京化成工業株式会社製、品番M2556)、ヨウ化鉛(1.1M) (東京化成工業株式会社製、品番L0279)、臭化鉛(0.2M) (東京化成工業株式会社製、品番L0288)を、N,N-ジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番043-32361):ジメチルスルホキシド(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番048-32811)=4:1(体積比)の混合溶媒に溶解し、1.5Mのヨウ化セシウム(東京化成工業株式会社製、品番C2205)を含むジメチルスルホキシドを4vol%添加して、Cs
0.05(FA
0.83MA
0.17)Pb(I
0.83Br
0.17)
3ペロブスカイト(FA=CH(NH
2)
2、MA=CH
3NH
3)の前駆体溶液を調製した。
そして、乾燥空気(露点-30℃)でSnO
2/ITO基板に前駆体溶液を1000rpmで10s、4000rpmで30sの2段階の回転数でスピンコートし、4000rpmの回転中20秒目にクロロベンゼン(メルク社製、品番284513)を700μL滴下した。前駆体溶液にペロブスカイトが溶けないクロロベンゼン(貧溶媒)をかけることで、前駆体溶液中のペロブスカイトが析出する。この方法により被覆率と結晶性の高いペロブスカイトが作製できる。そして、この基板を100℃で1時間加熱乾燥することでペロブスカイトを成膜し、ペロブスカイト層7を形成した。
【0025】
次に、80mg/mLのCuSCNを含むジエチルスルフィドを6000rpm、40sでスピンコートして、数分程度の自然乾燥後、25mMのオレイルアミンを含む2-プロパノール溶液を6000rpm、40sでスピンコートし、100℃で5分間乾燥させて、正孔輸送層9を形成した。
この基板の透明導電性基板3と正孔輸送層9とに、それぞれ金を10-3パスカルで蒸着して電極11を形成し、太陽電池1(太陽電池素子)を作製した。また、比較例として、オレイルアミンなしのペロブスカイト太陽電池を作製した。比較例のペロブスカイト太陽電池は、上記工程中、CuSCNを塗布した後、オレイルアミンを塗布せずに、金蒸着を行ったものであり、それ以外の方法、条件は、実施例の太陽電池1の作製方法、条件と同様とした。そして、これらの太陽電池を疑似太陽光照射下で光電流-電圧曲線を測定し、発電性能を評価した。光源にはソーラーシミュレータ(株式会社ワコム電創製、WXS-80C-3)を用い、ソースメーター(株式会社アドバンテスト製、R6243)により0.1 V s-1で電圧スキャンを行った。
【0026】
その結果を
図3に示す。
図3からも、太陽電池の開放電圧および曲線因子の改善が見られ、エネルギー変換効率は、8.6%から11.4%に向上した。
また、ペロブスカイト層7上に成膜した正孔輸送層9(CuSCN膜)のモルフォロジーを原子間力顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、Nanonavi)で観察したところ(
図4)、自乗平均面粗さが6.91nm(比較例、
図4(B))から5.98nm(
図4(A))に減少し、平滑性が改善したことが認められた。
上記結果からも、オレイルアミンによって、CuSCN膜の結晶性と平滑性が増したことで、電荷キャリア(電子と正孔)の抵抗および再結合が抑制されたため、電池性能が向上したものと考えることができる。
【0027】
(実施例3)
(p型半導体膜の作製2)
p型半導体としてCuIを用い、また結晶化剤としてオレイルアミンを用いて、半導体膜を作製した。
200mg/mLのCuI(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番038-10972)が溶解したジエチルスルフィド(メルク社製、品番107247)をガラス基板に6000rpm、40sの条件でスピンコートし、乾燥することでCuI/ガラス基板を作製した。これに25mMのオレイルアミンを含む2-プロパノール溶液を6000rpm、40sの条件でスピンコートし、100℃で5分間加熱して乾燥させた。結晶化剤の含有量は、p型半導体100モルに対し、2.4モルであった。
図5には、作製した半導体膜を、X線結晶解析装置を用いて測定した結果(破線)を示す。また、比較例として、CuI/ガラス基板(オレイルアミンのスピンコートなし)の結果(実線)も示す。この測定方法、測定条件は、実施例1と同様とした(スキャン速度は4度min
-1)。なお、
図5(B)は、
図5(A)のピーク付近の拡大図(スキャン速度4度min
-1,比較しやすいように重ねた図)を示す。
図5からも、オレイルアミンの存在によって、回折ピークの半値幅から結晶サイズ(平均結晶サイズ)が31.5nmから144.7nmに大幅に増加したことが分かった。すなわち、オレイルアミンにより、CuIの結晶化が促進され、結晶成長することが確認できた。
【0028】
(実施例4)
(p型半導体膜の作製3)
p型半導体としてCuSCNを用い、また結晶化剤として4種類のアルキルアミン(炭素数5のアミルアミン、炭素数7のヘプチルアミン、炭素数10の1-アミノデカン、炭素数18のステアリルアミン)を用いて、半導体膜を作製した。
実施例1と同様に、160mg/mLのCuSCN(メルク社製、品番298212)が溶解したジエチルスルフィドをガラス基板に6000rpm、40sの条件でスピンコートし、乾燥することでCuSCN/ガラス基板を作製した。これに50mMのアルキルアミン(4種類とも50mM)を含む2-プロパノール溶液を6000rpm、40sの条件でスピンコートし、100℃で5分間加熱して乾燥させた。結晶化剤の含有量は、p型半導体100モルに対し、それぞれ3.8モルであった。
図6には、作製した半導体膜を、X線結晶解析装置を用いて測定した結果を示す。この測定方法、測定条件は、実施例1と同様とした(スキャン速度は0.1度min
-1)。また、比較例として、CuSCN/ガラス基板(アルキルアミンのスピンコートなし)の結果(実線)も示す。なお、
図6は、
図2(B)、
図5(B)で示したように、ピーク付近の拡大図(スキャン速度0.1度min
-1,比較しやすいように重ねた図)を示している。
図6からも、アルキルアミンの存在によってCuSCN(003)面の回折ピーク(2θ=16.15°)が高くなり、回折ピークの半値幅(半値幅より計算)から結晶サイズ(平均結晶サイズ)が21.9nmからアミルアミンは35.8nm、ヘプチルアミンは34.0nm、1-アミノデカンは34.4nm、ステアリルアミンは45.6nmに増加したことが分かった。すなわち、これらのアルキルアミンにより、CuSCNの結晶化が促進され、結晶成長することが確認できた。