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特開2024-27327リグニン由来モノマーの製造方法およびモノマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027327
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】リグニン由来モノマーの製造方法およびモノマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/20 20060101AFI20240222BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20240222BHJP
   C07C 15/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C07C1/20
C07C13/18
C07C15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130041
(22)【出願日】2022-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月1日 第66回リグニン討論会講演集にて公開した。 令和4年3月1日 ウェブサイト「https://www.jwrs.org/wood2022/index.html」を通じて公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「熱化学反応制御によるバイオマスからの高機能素材合成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河本 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】魯 保 旺
(72)【発明者】
【氏名】汪 家 ▲チィー▼
(72)【発明者】
【氏名】南 英治
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC26
4H006BA21
4H006BA30
4H006BA55
4H006BC10
4H006BE20
(57)【要約】
【課題】リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得ること、および/または、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを高収率で選択的に得ることができるリグニン由来モノマーの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る第1工程と、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る第2工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る第1工程と、
前記芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る第2工程と、を含むリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項2】
前記リグニンは、針葉樹リグニンである請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属元素触媒は固体炭素に担持されたパラジウム触媒である請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、水素の存在下で行う請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族モノマーは、グアイアコールおよび沸点が350℃以下の飽和アルキルグアイアコール類の少なくとも1つを含む請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程は、水素の存在下140℃以上280℃以下で行い、
前記第2の金属元素触媒は、メソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項7】
前記脂環式モノマーはシクロヘキサン類を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項8】
前記第2工程は、水素の存在下140℃以上260℃未満で行い、
前記第2の金属元素触媒は、カルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項9】
前記脂環式モノマーはシクロヘキサノール類を含む請求項1~請求項5および請求項8のいずれか1項に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項10】
前記第2工程は、水素の存在下260℃以上340℃以下で行い、
前記第2の金属元素触媒は、カルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項1に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項11】
前記別の芳香族モノマーはベンゼン類を含む請求項1~請求項5および請求項10のいずれか1項に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項12】
リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得るリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項13】
前記リグニンは、針葉樹リグニンである請求項12に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項14】
前記第1の金属元素触媒は、固体炭素に担持されたパラジウム触媒である請求項12に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項15】
前記分解は、水素の存在下で行う請求項12~請求項14のいずれか1項に記載のリグニン由来モノマーの製造方法。
【請求項16】
芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得るモノマーの製造方法。
【請求項17】
前記芳香族モノマーは、沸点が350℃以下であり、かつ、側鎖に炭素間の多重結合を含まない請求項16に記載のモノマーの製造方法。
【請求項18】
前記反応は、水素の存在下140℃以上280℃以下で行い、
前記第2の金属元素触媒は、メソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項16または請求項17に記載のモノマーの製造方法。
【請求項19】
前記反応は、水素の存在下140℃以上260℃未満で行い、
前記第2の金属元素触媒は、カルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項16または請求項17に記載されたモノマーの製造方法。
【請求項20】
前記反応は、水素の存在下260℃以上340℃以下で行い、
前記第2の金属元素触媒は、カルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒である請求項16または請求項17に記載のモノマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リグニン由来モノマーの製造方法およびモノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、パルプと異なり、ほとんど利用されていない植物由来の資源である。このため、リグニンから芳香族モノマーおよび/または脂環式モノマーを製造する技術は、化学材料およびプラスチック材料のグリーン化に重要である。
【0003】
特許文献1(特表2014-518215号公報)は、リグニンを金属触媒の存在下連続プロセスにより高温(たとえば240℃から375℃)かつ高圧(たとえば水素圧力が0.1MPaから20MPa)で接触水素化分解して、芳香族化合物および/または脂環式化合物を得る方法を開示する。
【0004】
特許文献2(国際公開WO2019/108959号)は、リグニンを触媒の存在下300℃以下で接触水素化分解して芳香族生成物を得る方法を開示する。
【0005】
非特許文献1(Chemical Engineering Journal,429,(2022),p.132365)は、リグニンを触媒存在下250℃未満で接触水素化分解して芳香族生成物を得る方法を開示する。
【0006】
非特許文献2(Catalysis Communications 17,(2012),pp.54-58)は、リグニン由来のグアイアコールを接触水素化することにより収率よくシクロヘキサノールを得る方法を開示する。
【0007】
特許文献3(特開平6-199714号公報)は、フェノールをパラジウム触媒の存在下気相反応により接触水素化することによりシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールの混合物を得ることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2014-518215号公報
【特許文献2】国際公開WO2019/108959号
【特許文献3】特開平6-199714号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemical Engineering Journal,429,(2022),p.132365
【非特許文献2】Catalysis Communications 17,(2012),pp.54-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法では、高圧が必要であり、また溶媒として水を用いていることから、反応の制御が困難であり、雑多な芳香族生成物が得られるに過ぎないという問題点がある。
【0011】
特許文献2の方法では、実施例において検証されている分解の温度は250℃未満であり、針葉樹であるマツ由来のリグニンにおいては、芳香族生成物の収率は14%程度と低いという問題点がある。
【0012】
非特許文献1の方法では、前処理としてアルカリ混合が必須であり、また、針葉樹であるマツ由来のリグニンにおいては、芳香族生成物の収率は29%程度と低いという問題点がある。
【0013】
非特許文献2の方法では、溶媒が必須であり接触水素化反応に時間を要するという問題点がある。
【0014】
特許文献3の方法では、気相反応の前に予めパラジウム触媒を活性化処理する必要があるため時間を要するとともに、混合物しか得られないという問題点がある。
【0015】
本開示は、上記の問題点を解決して、リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得ること、および/または、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができるリグニン由来モノマーの製造方法を提供することを目的とする。また、本開示は、上記の問題点を解決して、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができるモノマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示のある態様にしたがうリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る第1工程と、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る第2工程と、を含む。
【0017】
本開示の別の態様にしたがうリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る方法である。
【0018】
本開示のさらに別の態様にしたがうモノマーの製造方法は、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る方法である。
【発明の効果】
【0019】
本開示のリグニン由来モノマーの製造方法によれば、リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得ること、および/または、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。また、本開示のモノマーの製造方法によれば、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示のある実施形態にかかるリグニン由来モノマーの製造方法を示すチャートである。
図2図2は、リグニンを分解することにより芳香族モノマーを得る装置の一例を示す概略図である。
図3図3は、リグニンの分解により得られる芳香族モノマーの収率の例を示すグラフである。
図4図4は、リグニンの分解により得られる芳香族モノマーの収率の例を示す表である。
図5図5は、リグニンの分解により開裂する結合を示すグラフである。
図6図6は、モデルダイマーの分解の例を示すグラフであり、(A)はモデルダイマーがジフェニルエーテル結合を含む場合、(B)はモデルダイマーがα-アリール型結合を含む場合、(C)はモデルダイマーがビフェニル型結合を含む場合を示す。
図7図7は、リグニンの分解例を示すグラフである。
図8図8は、芳香族モノマーを反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る装置の一例を示す概略図である。
図9図9は、芳香族モノマーを反応させることにより得られる脂環式モノマーの例を示すグラフであり、(A)は芳香族モノマーがグアイアコールの場合、(B)は芳香族モノマーがメチルグアイアコールの場合、(C)は芳香族モノマーがエチルグアイアコールの場合を示す。
図10図10は、芳香族モノマーを反応させることにより得られる脂環式モノマーの別の例を示すグラフであり、(A)は芳香族モノマーがメチルグアイアコールの場合、(B)は芳香族モノマーがエチルグアイアコールの場合を示す。
図11図11は、芳香族モノマーであるグアイアコールを反応させることにより得られる脂環式モノマーのまた別の例を示すグラフであり、(A)は担体(CaO-SBA-15)中のCaO含有率が10質量%の場合、(B)は担体(CaO-SBA-15)中のCaO含有率が20質量%の場合を示す。
図12図12は、芳香族モノマーを反応させることにより得られる脂環式モノマーのさらに別の例を示すグラフであり、(A)は芳香族モノマーがグアイアコールの場合、(B)は芳香族モノマーがメチルグアイアコールの場合、(C)は芳香族モノマーがエチルグアイアコールの場合を示す。
図13図13は、芳香族モノマーを反応させることにより得られる脂環式モノマーおよび/または別の芳香族モノマーの例を示すグラフであり、(A)は芳香族モノマーがグアイアコールの場合、(B)は芳香族モノマーがメチルグアイアコールの場合、(C)は芳香族モノマーがエチルグアイアコールの場合を示す。
図14図14は、本開示の別の実施形態にかかるリグニン由来モノマーの製造方法を示すチャートである。
図15図15は、本開示のさらに別の実施形態にかかるモノマーの製造方法を示すチャートである。
図16図16は、芳香族モノマーを反応させることにより得られる脂環式モノマーおよび/または別の芳香族モノマーの別の例を示すグラフであり、(A)は芳香族モノマーがグアイアコールの場合、(B)は芳香族モノマーであるフェノールを芳香族モノマーであるグアイアコールに溶解させた場合、(C)は芳香族モノマーであるフェノールをメタノールに溶解させた場合を示す。
図17図17は、芳香族モノマーであるトルエンを反応させることにより得られる脂環式モノマーの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
図1を参照して、本開示の実施形態1にかかるリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る第1工程S1と、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る第2工程S2と、を含む。実施形態1のリグニン由来モノマーの製造方法によれば、リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得ること、および、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。
【0022】
芳香族モノマーとは、1つの芳香環を有する芳香族化合物をいい、実施形態1においてはリグニンの分解によって得られるセグメントとしての芳香族化合物である。また、別の芳香族モノマーとは、上記芳香族モノマーと化学式が異なる芳香族モノマーをいう。また、脂環式モノマーとは、1つの脂肪族環を有する脂肪族化合物をいい、実施形態1においては上記リグニン由来の芳香族モノマーを反応させて得られるセグメントとしての脂肪族化合物である。また、高収率とは、目的とするモノマーの収率が30mol%以上であることをいう。また、選択的とは、所定の温度範囲において目的とするモノマーがそれ以外のモノマーに比べて優先的に得られることをいう。
【0023】
[第1工程]
図1を参照して、実施形態1のリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る第1工程を含む。かかる第1工程により、リグニンを分解して芳香族モノマーを、30mol%以上、好ましくは40mol%以上、より好ましくは50mol%以上、さらに好ましくは60mol%以上の高収率で得ることができる。
【0024】
(装置)
第1工程を行う装置は、第1工程を行える限り特に制限はなく、たとえば、図2を参照して、リグニンを収納する分解反応炉101と塩浴102とを含み、塩浴102中で分解反応炉101を振動できる装置100が好適に挙げられる。かかる装置100によれば、リグニンから芳香族モノマーを高収率で得ることができる。
【0025】
(リグニン)
第1工程において用いるリグニンとして、針葉樹から得られる針葉樹リグニン、広葉樹から得られる広葉樹リグニン、イネ科植物などの草本植物から得られる草本リグニン、いずれも適用できる。ここで、針葉樹リグニンは、広葉樹リグニンおよび草本リグニンに比べて、分解が困難である。しかしながら、実施形態1の第1工程によれば、針葉樹リグニンからも芳香族モノマーを、30mol%以上、好ましくは40mol%以上、より好ましくは50mol%以上、さらに好ましくは60mol%以上の高収率で得ることができる。かかる観点から、リグニンは、針葉樹リグニンであることが好ましい。
【0026】
(第1の金属元素触媒)
第1工程において用いる第1の金属元素触媒は、第1工程を行える限り制限はなく、たとえば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)などの金属元素を含む触媒が挙げられる。第1の金属元素触媒は、芳香族モノマーの収率を高くする観点から、固体炭素に担持された触媒が好ましく、固体炭素に担持されたパラジウム触媒(Pdを含む触媒)(たとえばPd/C)がより好ましい。ここで、固体炭素とは、固体状の炭素をいい、触媒活性を高める観点から、表面積が大きいポーラスカーボン、たとえば活性炭などが好ましい。
【0027】
(分解温度)
第1工程における分解温度は、250℃以上400℃以下である。ここで、第1工程における分解温度とは、250℃以上400℃以下の温度範囲を含むものであれば足り、第1工程において必ずしも一定でなくともよい。すなわち、第1工程の一部において250℃未満または400℃を超える温度が含まれていてもよい。ただし、第1工程全体に亘って分解温度は、250℃以上であること、または、400℃以下であることが好ましい。
図3および図4を参照して、第1工程における分解温度は、芳香族モノマーの収率を高くする観点から、特に低沸点の芳香族モノマーの収率を高くする観点から、250℃以上であり、好ましくは260℃以上であり、より好ましくは280℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上であり、特に好ましくは320℃以上である。また、装置の熱劣化および芳香族モノマーの2次分解を抑制する観点から、400℃以下である。ここで、分解温度が250℃以上で芳香族モノマーの収率が高くなるのは、225℃までの温度ではリグニンのα/β-エーテル型結合の開裂が起こるに過ぎないが、250℃以上の温度ではビフェニル型以外の縮合型結合の開裂が起こるためと考えられる。このことは、図5を参照して、α-エーテル型(たとえばα-O-4;詳細にはα位C-O-4位C)結合の開裂エネルギーおよびβ-エーテル型(たとえばβ-O-4;詳細にはβ位C-O-4位C)結合の開裂エネルギーに比べて、ジフェニルエーテル型(たとえば4-O-5;詳細には4位C-O-5位C)結合の開裂エネルギーおよびビフェニル型以外の縮合型(たとえば、β-アリール型;詳細にはβ位C-アリール位C)結合の開裂エネルギーがより高くなり、ビフェニル型(たとえばアリール-アリール;詳細にはアリール位C-アリール位C、たとえば5-5;詳細には5位C-5位C)結合の開裂エネルギーがさらに高くなっていることから理解できる。なお、図5において、円グラフ内の%はリグニン中のモル含有率(mol%)を示す。
【0028】
また、上記のα/β-エーテル型結合は、分解しても2次的に縮合してα-アリール型結合を形成する。こうして形成されるα-アリール型結合は、芳香族モノマーの収率向上の妨げとなる。
【0029】
そこで、ジフェニルエーテル型、α-アリール型、およびビフェニル型の結合の開裂条件を把握するため、図6を参照して、上記のそれぞれの型の結合を有するモデルダイマーの分解試験(モデルダイマー10mg、溶媒(アニソール)2ml、パラジウム触媒10mg、水素ガス0~3ml/1bar、分解温度および分解時間は図6を参照)を試みた。図6(A)および(B)に示すように、ジフェニルエーテル型およびα-アリール型のモデルダイマーは、250℃以上で分解が促進され、300℃以上ではほとんどが分解された。これに対して、図6(C)に示すように、350℃の高温条件であってもほとんど分解されなかった。上記の結果より、従来行われていた250℃未満では分解されなかったジフェニルエーテル型結合およびα-アリール型結合が、250℃以上において開裂するため、芳香族モノマーの収率が高くなったものと考えられる。
また、図5を参照して、図6において、250℃以上で分解が促進されたジフェニルエーテル型結合(たとえば4-O-5)の開裂エネルギーが83kcal/molであり、350℃でもほとんど分解されなかったビフェニル結合(たとえばアリール-アリール、たとえば5-5)の開裂エネルギーが117kcal/molである。このため、図5におけるβ-アリール結合については、開裂エネルギーが83kcal/mol程度以下のものは250℃以上の温度で開裂し、開裂エネルギーが117kcal/mol程度以上のものは350℃においても開裂しないものと考えられる。
【0030】
(分解時間)
第1工程における分解時間は、特に制限はないが、図3および図4を参照して、芳香族モノマーの収率を高くする観点から、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは60分間以上である。分解時間が60分間および180分間における芳香族モノマーの収率がほぼ同じであることから、装置の熱劣化を抑制する観点から、分解温度は好ましくは180分間以下である。なお、第1工程の一部において温度が250℃未満となる時間が1分間を超えた場合は、当該時間は分解時間に含めない。250℃未満の時間が1分間を超えると芳香族モノマーの収率に影響を与えるからである。
【0031】
(水素)
第1工程は、芳香族モノマーの収率を高める観点から、水素の存在下で行うことが好ましい。第1工程におけるリグニンの分解は、熱分解が起こり、次いで水素化分解が起こるものと考えられる。したがって、水素の存在により水素化分解が促進され、芳香族モノマーの収率を高めると考えられる。
図7を参照して、第1工程において第1の金属触媒の存在により、リグニンの熱分解が促進されるため、芳香族モノマーの収率が向上する。また、第1工程において第1の金属触媒および水素の存在のため、リグニンの熱分解および水素化分解が促進されるため、芳香族モノマーの収率が向上する。
【0032】
(芳香族モノマー)
第1工程により得られる芳香族モノマーは、1つの芳香環を有する芳香族化合物であれば特に制限はないが、第2工程を効率的に行う観点から、グアイアコール(沸点205℃)および沸点が350℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下)の飽和アルキルグアイアコール類の少なくとも1つを含むことが好ましい。ここで、沸点が350℃以下の飽和アルキルグアイアコール類としては、メチルグアイアコール(沸点221℃)、エチルグアイアコール(沸点237℃)、プロピルグアイアコール(沸点264℃)などが挙げられる。また、このようにして第1工程により得られる上記芳香族モノマーは、従来法により、グアイアコール、メチルグアイアコール、エチルグアイアコールなどの各種芳香族モノマーに分離することができる。
【0033】
[第2工程]
図1を参照して、実施形態1のリグニン由来モノマーの製造方法は、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る第2工程S2を含む。かかる第2工程により、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。
【0034】
(装置)
第2工程を行う装置は、第2工程を行える限り特に制限はなく、たとえば、図8を参照して、芳香族モノマーを予熱してガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態にする予熱炉210と、第2の金属元素触媒225の存在下上記状態の芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーに変換する触媒変換炉220とを含む装置200が好適に挙げられる。触媒変換炉220内には第2の金属元素触媒225が配置されている。装置200において、予熱炉210および触媒変換炉220は、それぞれ、ヒータ210h,220hおよび冷却ガス210c,220cにより温度制御される。かかる装置200によれば、芳香族モノマーから脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。
【0035】
ここで、第2工程を行う装置においては、予熱炉210で予熱された芳香族モノマーをキャリアガス210gにより予熱炉210から排出し、触媒変換炉220で得られた脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーをキャリアガス220gにより触媒変換炉220から排出することができる。あるいは、キャリアガス220gのポートを使用することなく、キャリアガス210gにより、予熱炉210で予熱された芳香族モノマーを予熱炉210から排出して触媒変換炉220に送り、触媒変換炉220で得られた脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを触媒変換炉220から排出することができる。キャリアガス210g,220gは、芳香族モノマーから脂環式モノマーおよび別の芳香族モノマーへの変換を阻害しないものであれば特に制限はないが、後述のように、第2工程において水素の存在が脂環式モノマーおよび別の芳香族モノマーの選択性を高めることから、芳香族モノマーから変換して得られる脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーの選択性を高める反応性ガスを兼ねるキャリアガスとして、好ましくは水素ガスを含むガスであり、より好ましくは水素ガスである。
【0036】
(芳香族モノマー)
第2工程において用いる芳香族モノマーは、第1工程によりリグニンから得られるものであって第2工程が行えるものである限り特に制限はないが、予熱によりガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態にしやすい観点から、グアイアコールおよび沸点が350℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下)の飽和アルキルグアイアコールの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0037】
(第2の金属元素触媒)
第2工程において用いる第2の金属元素触媒は、第2工程を行える限り制限はなく、たとえばニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)などの金属元素を含む触媒が挙げられる。第2の金属元素触媒は、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーの選択性を高くする観点から、シリカに担持された触媒が好ましく、ポーラスシリカに担持された触媒がより好ましく、メソポーラスシリカに担持された触媒がさらに好ましく、メソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(Niを含む触媒)が特に好ましい。ここで、メソポーラスとは孔の直径が2~50nmの大きさの多孔質をいい、これより孔の直径が小さいものをマイクロポーラスといい、これより孔の直径が大きいものをマクロポーラスという。メソポーラスシリカは、特に制限はないが、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーの選択性を高くする観点から、たとえば、SBA-15(平均径6nmの細孔を有する平均粒径150μmのポーラスシリカ)が好適に用いられる。メソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒は、特に制限はないが、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーの選択性を高くする観点から、たとえば、NiO/SBA-15が好適に用いられる。
【0038】
また、目的とする脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーによっては、それらの選択性を高める観点から、カルシウム(Ca)を含むメソポーラスシリカ(たとえば、CaO-SBA-15)に担持されたニッケル触媒(たとえば、NiO/(CaO-SBA-15))またはセリウム(Ce)を含むメソポーラスシリカ(たとえば、CeO-SBA-15)に担持されたニッケル触媒(たとえば、NiO/(CeO-SBA-15))が特に好ましい。
【0039】
(ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応)
第2工程においては、第2の金属元素触媒の存在下芳香族モノマーをガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させるため、140℃以上340℃以下の温度であっても極めて短時間(秒オーダー、すなわち1秒以上1分未満)で反応させて、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。
【0040】
(水素)
第2工程は、脂環式モノマーおよび別の芳香族モノマーの選択性を高める観点から、水素の存在下で行う好ましい。
【0041】
(芳香族モノマー、第2の金属元素触媒、および温度の組合せ)
第2工程において、第2の金属元素触媒および水素の存在下、芳香族モノマー、第2の金属元素触媒、および温度の組合せにより、所望の脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得ることができる。図9図13および図16および図17における選択率とは、芳香族モノマーの反応により生成する全てのモノマーの生成量(mol)に対する目的とするモノマー(すなわち脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマー)の生成量(mol)の百分率をいう。目的とするモノマーの選択率が高いほど選択性が高いといえる。
【0042】
(1)第1の組合せ形態
図9を参照して、第2の金属元素触媒としてメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/(SBA-15)、触媒全体中のNiO含有率:10質量%)を用い、水素の存在下140℃以上280以下の温度で、芳香族モノマーを反応させる場合は、シクロヘキサン類を含む脂環式モノマーが高収率で選択的に得られる。ここで、シクロヘキサン類とは、1つのシクロヘキサン骨格を有する脂環式モノマーをいう。図9(A)は、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、シクロヘキサンが選択的に得られることを示す。図9(B)は、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メチルシクロヘキサンまたはシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。図9(C)は、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンまたはシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。
【0043】
(2)第2の組合せ形態
図10を参照して、第2の金属元素触媒としてシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/SiO、触媒全体中のNiO含有率:10質量%)を用い、水素の存在下100℃以上280以下の温度で、芳香族モノマーを反応させる場合は、シクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。ここで、シクロヘキサノール類とは、1つのシクロヘキサノール骨格を有する脂環式モノマーをいう。図10(A)は、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メトキシ-メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールまたはメチルシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。図10(B)は、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メトキシーエチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノールまたはメチルシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。しかしながら、シリカに担持されたニッケル触媒を用いる場合は、メソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒を用いる場合に比べて、選択性が低い。このことから、選択性を高くする観点から、シリカに担持されたニッケル触媒よりもメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒が好ましい。
図11を参照して、第2の金属元素触媒としてカルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/(CaO-SBA-15)、触媒全体中のNiO含有率:10質量%)を用い、水素の存在下140℃以上280℃以下の温度で、芳香族モノマーとしてグアイアコールを反応させる場合は、シクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。図11(A)および(B)は、カルシウムを含むメソポーラスシリカ(CaO-SBA-15)中のCaO含有率が10質量%および20質量%のいずれのときも、特定の温度範囲で、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキサノールまたはシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。
【0044】
図12を参照して、第2の金属元素触媒としてセリウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/(CeO-SBA-15)、触媒全体中のNiO含有率:5質量%、(CeO-SBA-15)中のCeO含有率:20質量%)を用い、水素の存在下120℃以上280℃以下の温度で、芳香族モノマーを反応させる場合は、シクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。図12(A)は、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキサノールまたはシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。図12(B)は、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メチルシクロヘキサノール、メトキシ-メチルシクロヘキサノールまたはメチルシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。図12(C)は、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、エチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサンまたはメチルシクロヘキサンが選択的に得られることを示す。
【0045】
(3)第3の組合せ形態
図13を参照して、第2の金属元素触媒としてカルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/(CaO-SBA-15)、触媒全体中のNiO含有率:10質量%、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率:40質量%)を用い、水素の存在下140℃以上260℃未満の温度で芳香族モノマーを反応させる場合は、シクロヘキサノール類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。図13(A)は、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、シクロヘキサノールが選択的に得られることを示す。図13(B)は、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、メチルシクロヘキサノールが選択的得られることを示す。図13(C)は、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、エチルシクロヘキサノールが選択的に得られることを示す。
【0046】
(4)第4の組合せ形態
図13を参照して、第2の金属元素触媒としてカルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(NiO/(CaO-SBA-15)、触媒全体中のNiO含有率:10質量%、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率:40質量%)を用い、水素の存在下260℃以上340℃以下の温度で芳香族モノマーを反応させる場合は、ベンゼン類を含む別の芳香族モノマーが選択的に得られる。ここで、ベンゼン類とは、1つのベンゼン骨格を有する芳香族モノマーをいう。図13(A)は、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、ベンゼンが選択的に得られることを示す。図13(B)は、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、トルエン(メチルベンゼン)またはベンゼンが選択的に得られることを示す。図12(C)は、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、特定の温度範囲で、トルエンが選択的に得られることを示す。
【0047】
<実施形態2>
図14を参照して、本開示の実施形態2にかかるリグニン由来モノマーの製造方法は、リグニンを第1の金属元素触媒の存在下250℃以上400℃以下で分解することにより芳香族モノマーを得る方法S10である。実施形態2のリグニン由来モノマーの製造方法によれば、リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得ることができる。実施形態2のリグニン由来モノマーの製造方法は、実施形態1の第1工程と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0048】
<実施形態3>
図15を参照して、本開示の実施形態3にかかるモノマーの製造方法は、芳香族モノマーを第2の金属元素触媒の存在下ガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態で反応させることにより脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得る方法S20である。実施形態3のモノマーの製造方法によれば、芳香族モノマーがリグニン由来であるか否かを問わず、当該芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを高収率で選択的に得ることができる。
【0049】
(装置)
実施形態3のモノマーの製造方法に用いる装置は、実施形態の1の第2工程を行う装置(図8に示す装置200)と同じであるため、ここでは繰り返さない。
【0050】
(芳香族モノマー)
実施形態3のモノマーの製造方法に用いる芳香族モノマーは、当該製造方法が行えるものである限り特に制限はないが、予熱によりガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態にしやすい観点から、沸点が350℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下)であり、かつ、側鎖に炭素間の多重結合を含まないことが好ましい。ここで、多重結合とは、二重結合または三重結合をいう。したがって、芳香族モノマーには、実施形態1の第2工程において好ましく用いられるグアイアコール、メチルグアイアコール、エチルグアイアコールの他に、ベンゼン(沸点80.1℃)、トルエン(沸点110.6℃)、フェノール(沸点181.8℃)などが含まれる。
【0051】
実施形態3のモノマーの製造方法は、芳香族モノマーがリグニン由来の芳香族モノマーに限定されない点以外は、実施形態1の第1工程と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0052】
実施形態3のモノマー製造方法において、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得る観点から、第2の金属元素触媒としてメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(たとえば、NiO/(SBA-15))を用い、芳香族モノマーを水素の存在下140℃以上280℃以下で反応させることが好ましい。図9(触媒全体中のNiO含有率が10質量%)および図17(触媒全体中のNiO含有率が10質量%)を参照して、芳香族モノマーがグアイアコール、メチルグアイアコール、エチルグアイアコールまたはトルエンのとき、シクロヘキサン類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。
【0053】
実施形態3のモノマー製造方法において、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得る観点から、第2の金属元素触媒としてカルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(たとえば、NiO/(CaO-SBA-15))を用い、芳香族モノマーを水素の存在下140℃以上260℃未満で反応させることが好ましい。図13(触媒全体中のNiO含有量10質量%および(CaO-SBA-15)中のCaO含有量40質量%)および図16(触媒全体中のNiO含有量10質量%および(CaO-SBA-15)中のCaO含有量30質量%)を参照して、芳香族モノマーがグアイアコール、メチルグアイアコール、エチルグアイアコールまたはフェノールのとき、シクロヘキサノール類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。
【0054】
実施形態3のモノマー製造方法において、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを選択的に得る観点から、第2の金属元素触媒としてカルシウムを含むメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒(たとえば、NiO/(CaO-SBA-15))を用い、芳香族モノマーを水素の存在下260℃以上340℃以下で反応させることが好ましい。図13(触媒全体中のNiO含有量10質量%および(CaO-SBA-15)中のCaO含有量40質量%)および図16(触媒全体中のNiO含有量10質量%および(CaO-SBA-15)中のCaO含有量30質量%)を参照して、芳香族モノマーがグアイアコール、メチルグアイアコール、エチルグアイアコールまたはフェノールのとき、ベンゼン類を含む脂環式モノマーが選択的に得られる。
【実施例0055】
(実施例I-1)
実施例I-1は、実施形態1の第1工程および実施形態2に対応する実施例である。図2を参照して、リグニンとして針葉樹リグニンであるスギ磨砕リグニン10mg、触媒として固体炭素に担持されたパラジウム触媒であるパラジウム炭素Pd/C(触媒全体中のPd含有率5質量%)(ナカライテスク社製品番25910)10mg、0.1MPaの水素ガス2.4mol当量(リグニンの芳香族ユニットに対して)、溶剤としてアニソール2mlを収納した分解反応炉101を、所定の温度(200℃、250℃、300℃または350℃)の塩浴102内で所定の時間(10分間、30分間、60分間、または180分間)振動させることにより、リグニンの分解を行った。リグニンの分解物をメタノールで抽出してメタノール溶解物を得た。メタノール溶解物のゲルパーミエイションクロマトグラフィー分析(GPC)により各芳香族モノマーの分子量分布を測定し、トリメチルシラン(TMS)が添加されたメタノール溶解物のガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)により各芳香族モノマーの収率を測定した。結果を図3および図4にまとめた。
【0056】
図3および図4を参照して、200℃で180分間の分解では芳香族モノマーとしてジヒドロコニフェリルアルコール(沸点340℃)が収率11.8mol%が得られるに過ぎなかった。これに対して、250℃以上の分解においては、いずれも収率30mol%を超える収率であった。ここで、収率30mol%はリグニン中のα/β-エーテル型結合が開裂しジフェニルエーテル型結合および縮合型結合が開裂しないときの理論的収率であり、収率30mol%を超える収率はジフェニルエーテル型結合および/または縮合型結合の少なくとも一部が開裂していることを示す。具体的には、250℃で60分間の分解においては、9.4mol%のグアイアコール(沸点205℃)、4.9mol%のメチルグアイアコール(沸点221℃)、および6.5mol%のエチルグアイアコール(沸点237℃)を含む芳香族モノマーが53.2mol%の収率で得られた。300℃で60分間の分解においては、13.3mol%のグアイアコール、5.5mol%のメチルグアイアコール、および19.9mol%のエチルグアイアコールを含む芳香族モノマーが61.3mol%の収率で得られた。330℃で60分間の分解においては、10.5mol%のグアイアコール、5.0mol%のメチルグアイアコール、および33.0mol%のエチルグアイアコールを含む芳香族モノマーが61.8mol%の収率で得られた。350℃で60分間の分解においては、13.0mol%のグアイアコール、5.9mol%のメチルグアイアコール、および21.5mol%のエチルグアイアコールを含む芳香族モノマーが61.5mol%の収率で得られた。このように、250℃、300℃、および330℃と温度が高くなるほど、芳香族モノマーおよびその中に含まれる沸点の低いグアイアコール類の収率が高くなった。そして、330℃で60分間の分解により61.8mol%の極めて高い収率で芳香族モノマーが得られた。350℃における芳香族モノマーの収率は61.5mol%であり、330℃における芳香族モノマーの収率61.8mol%に比べてわずかに低くなった。
【0057】
(実施例I-2)
実施例I-2は、実施形態1の第1工程および実施形態2に対応する実施例である。図7を参照して、触媒としてのPd/C量、水素ガス量、温度および時間を図7に示すものとしたこと以外は、実施例I-1と同様にしてスギ磨砕リグニン10mgを分解して、分解物から各芳香族モノマーの収率を測定して、図7にまとめた。
【0058】
図7を参照して、Pd/Cおよび水素ガスが存在しないときの分解では、芳香族モノマーの収率は約12mol%であった。これに対して、リグニンと等量(10mg)のPd/Cが存在し水素ガスが存在しないときの分解では、芳香族モノマーの収率は約34mol%に向上した。さらに、上記と同量のPd/Cが存在しかつ水素ガスが存在するときの分解では、芳香族モノマーの収率は、2.4mol当量(リグニン中のリグニンの芳香族ユニットに対して)の水素ガスが存在するとき約42mol%、32mol当量の水素ガスが存在するとき約50mol%と向上した。さらに、30mgのPd/Cおよび32mol当量の水素ガスが存在するときは、芳香族モノマーの収率は約63mol%まで向上した。リグニンの分解において、Pd/Cにより熱分解および水素化分解が促進され、水素ガスにより水素化分解が促進されるため、芳香族モノマーの収率が高くなったと考えられる。
【0059】
(実施例II-1)
実施例II-1は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第1の組合せ形態に対応する実施例である。図8を参照して、芳香族モノマーを、予熱炉210内でガス状態およびミスト状態の少なくとも1つの状態にして、触媒変換炉220内で第2の金属元素触媒225と接触させて反応させることにより、脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを得た。
【0060】
実施例II-1においては、第2の金属元素触媒としてメソポーラスシリカに担持されたニッケル触媒NiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)を用いた。担体であるSBA-15(平均径6nmの細孔を有する平均粒径150μmのポーラスシリカ)は、水に中性界面活性剤(シグマ-アルドリッチ社製プルトニック(登録商標)P-123)、酸(塩酸)、およびシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)をそれぞれ所定量添加して100℃で撹拌して、水を蒸発させた後、550℃で10時間焼成することにより得た。NiO/(SBA-15)は、エタノールに、Ni(NO)およびSBA-15を添加して室温(25℃)で撹拌して、エタノールを蒸発させた後、500℃で5時間焼成することにより得た。
【0061】
実施例II-1においては、0.1ml(ミリリットル)のNiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)および流速34ml/minの大過剰の水素ガスの存在下、図9(A)~(C)に示す芳香族モノマー0.2μl(マイクロリットル)を140℃~280℃の温度で2秒反応させることにより、脂環式モノマーを得た。ここで、図8を参照して、水素ガスは、芳香族モノマーから変換して得られるモノマーの選択性を高める反応性ガスを兼ねるキャリアガス210gとして予熱炉210を経由して触媒変換炉220に供給した。得られた脂環式モノマーについて、GC/MSにより各脂環式モノマーの生成量を測定して、各脂環式モノマーの選択率を求めた。結果を図9にまとめた。
【0062】
図9を参照して、脂環式モノマーとしてシクロヘキサン類が選択的に得られた。図9(A)に示すように、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、140~260℃の温度でシクロヘキサンが選択率100%で選択的に得られた。図9(B)に示すように、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、140~248℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率50~100%で、248~276℃の温度でシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。図9(C)に示すように、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、140~204℃の温度でエチルシクロヘキサンが選択率50~100%で、204~248℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率50~100%で、248~272℃でシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。なお、図9(A)~(C)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-1においては、芳香族モノマーは全て脂環式モノマーに変換されたものと考えられた。
【0063】
(実施例II-2)
実施例II-2は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第2の組合せ形態に対応する実施例である。第2の金属元素触媒として、NiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)に替えてNiO/SiO(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマー中の各脂環式モノマーの選択率を求めた。NiO/SiOは、担体であるSiOに、NiOを実施例II-1と同じ要領で坦持させた。結果を図10にまとめた。
【0064】
図10を参照して、脂環式モノマーとしてシクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類が選択的に得られた。図10(A)に示すように、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、100~132℃の温度でメトキシ-メチルシクロヘキサノールが選択率50~100%で、132~232℃の温度でメチルシクロヘキサノールが選択率50~93%で、232~280℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。図10(B)に示すように、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、100~121℃の温度でメトキシ-エチルシクロヘキサノールが選択率50~100%で、121~229℃の温度でエチルシクロヘキサノールが選択率37~98%で、229~280℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率37~100%で選択的に得られた。なお、図10(A)および(B)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-2においては、芳香族モノマーは全て脂環式モノマーに変換されたものと考えられた。
【0065】
(実施例II-3)
実施例II-3は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第2の組合せ形態に対応する実施例である。第2の金属元素触媒として、NiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)に替えてNiO/(CaO-SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率:10質量%または20質量%)を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーとしてグアイアコールを反応させて、得られた脂環式モノマー中の各脂環式モノマーの選択率を求めた。CaO-SBA-15は、水に中性界面活性剤(シグマ-アルドリッチ社製プルトニック(登録商標)P-123)、酸(塩酸)、Ca(NO)、およびシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)をそれぞれ所定量添加して100℃で撹拌して、水を蒸発させた後、550℃で10時間焼成することにより得た。NiO/(CaO-SBA-15)は、エタノールに、Ni(NO)およびCaO-SBA-15を添加して室温(25℃)で撹拌して、エタノールを蒸発させた後、500℃で5時間焼成することにより得た。結果を図11にまとめた。
【0066】
図11を参照して、脂環式モノマーとしてシクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類が選択的に得られた。図11(A)に示すように、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率が10質量%のとき、100~152℃の温度でメトキシシクロヘキサノールが選択率50~90%で、152~188℃の温度でシクロヘキサノールが選択率50~100%で、188~280℃の温度でシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。図11(B)に示すように、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率が20質量%のとき、140~152℃の温度でメトキシシクロヘキサノールが選択率50~55%で、152~204℃の温度でシクロヘキサノールが選択率50~100%で、204~280℃の温度でシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。なお、図11(A)~(C)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-3においては、芳香族モノマーは全て脂環式モノマーに変換されたものと考えられた。
【0067】
(実施例II-4)
実施例II-4は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第2の組合せ形態に対応する実施例である。第2の金属元素触媒として、NiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)に替えてNiO/(CeO-SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:5質量%、(CeO-SBA-15)中のCeO含有率:20質量%)を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマー中の各脂環式モノマーの選択率を求めた。CeO-SBA-15は、水に中性界面活性剤(シグマ-アルドリッチ社製プルトニック(登録商標)P-123)、酸(塩酸)、Ce(NO)、およびシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)をそれぞれ所定量添加して100℃で撹拌して、水を蒸発させた後、550℃で10時間焼成することにより得た。NiO/(CeO-SBA-15)は、エタノールに、Ni(NO)およびCaO-SBA-15を添加して室温(25℃)で撹拌して、エタノールを蒸発させた後、500℃で5時間焼成することにより得た。結果を図12にまとめた。
【0068】
図12を参照して、脂環式モノマーとしてシクロヘキサノール類またはシクロヘキサン類が選択的に得られた。図12(A)に示すように、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、120~160℃の温度でメトキシシクロヘキサノールが選択率50~74%で、160~212℃の温度でシクロヘキサノールが選択率50~100%で、212~280℃の温度でシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。図12(B)に示すように、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、120~136℃の温度でメチルシクロヘキサノールが選択率50~100%で、136~148℃の温度でメトキシ-メチルシクロヘキサノールが選択率50~54%で、148~200℃の温度でメチルシクロヘキサノールが選択率50~95%で、200~280℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率50~100%で選択的に得られた。図12(C)に示すように、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、120~190℃の温度でエチルシクロヘキサノールが選択率50~94%で、190~230℃の温度でエチルシクロヘキサンが選択率50~94%で、230~280℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率50~98%で選択的に得られた。なお、図12(A)~(C)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-4においては、芳香族モノマーは全て脂環式モノマーに変換されたものと考えられた。
【0069】
(実施例II-5)
実施例II-5は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第3の組合せ形態に対応する実施例である。第2の金属元素触媒として、NiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%)に替えてNiO/(CaO-SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率:40質量%)を用いたことおよび反応させる温度を140℃以上260℃未満としたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマーおよび/または別の芳香族モノマーに対する各脂環式モノマーの選択率を求めた。このNiO/(CaO-SBA-15)は、CaOの添加量を変えたこと以外は実施例II-3と同様にして得た。結果を図13にまとめた。
【0070】
図13を参照して、140℃以上260℃未満の温度で、脂環式モノマーとしてシクロヘキサノール類が選択的に得られた。図13(A)に示すように、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、140~240℃(260℃未満)の温度でシクロヘキサノールが選択率50~100%で選択的に得られた。図13(B)に示すように、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、200~250℃(260℃未満)の温度でメチルシクロヘキサノールが選択率50~100%で選択的に得られた。図13(C)に示すように、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、160~248℃(260℃未満)の温度でエチルシクロヘキサノールが選択率50~100%で選択的に得られた。なお、図13(A)~(C)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-5においては、芳香族モノマーは全て脂環式モノマーに変換されたものと考えられた。
【0071】
(実施例II-6)
実施例II-6は、実施形態1の第2工程および実施形態3に対応する実施例であり、特に第4の組合せ形態に対応する実施例である。反応させる温度を260℃以上340℃以下としたこと以外は、実施例II-5と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマーおよび/または別の芳香族モノマーに対する別の各芳香族モノマーの選択率を求めた。結果を図13にまとめた。
【0072】
図13を参照して、260℃以上340℃以下の温度で、別の芳香族モノマーとしてベンゼン類が選択的に得られた。図13(A)に示すように、芳香族モノマーがグアイアコールのとき、272~330℃の温度でベンゼンが選択率50~100%で選択的に得られた。図13(B)に示すように、芳香族モノマーがメチルグアイアコールのとき、250~330℃の温度でトルエン(メチルベンゼン)が選択率50~95%で、330~340℃の温度でベンゼンが選択率50~71%で選択的に得られた。図13(C)に示すように、芳香族モノマーがエチルグアイアコールのとき、250~320℃の温度でトルエンが選択率50~97%で選択的に得られた。なお、図13(A)~(C)のいずれにおいても、反応後のGC/MSにおいて当初の芳香族モノマーは測定されなかった。このことから、実施例II-6においては、当初の芳香族モノマーは全て別の芳香族モノマーに変換されたものと考えられた。
【0073】
(実施例III-1)
実施例III-1は、実施形態3に対応する実施例である。リグニン由来でない芳香族モノマーとしてフェノールを用いたこと、室温(25℃)で固体のフェノールをグアイアコールまたはメタノールに溶解して用いたこと、第2の金属元素触媒としてNiO/(CaO-SBA-15)(触媒全体中のNiO含有率:10質量%、(CaO-SBA-15)中のCaO含有率:30質量%)を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマーおよび/または別の芳香族モノマー中の各モノマーの選択率を求めた。結果を図16にまとめた。
【0074】
図16を参照して、140℃以上260℃未満の温度でシクロヘキサノール類が選択的に得られた。図16(B)に示すように、芳香族モノマーとしてフェノール0.1gをグアイアコール0.5mlに溶解したものを用いたとき、220~260℃の温度でシクロヘキサノールが選択率90~100%で選択的に得られた。図16(C)に示すように、芳香族モノマーであるフェノール0.1gをメタノール1mlに溶解したものを用いたとき、130~241℃(260℃未満)の温度でシクロヘキサノールが選択率43~100%で選択的に得られた。なお、図16(A)は、芳香族モノマーとしてグアイアコールを用いたものであり、図16(B)の参照としたものである。
【0075】
また、図16を参照して、260℃以上340℃以下の温度でベンゼン類が選択的に得られた。図16(B)に示すように、芳香族モノマーとしてフェノール0.1gをグアイアコール0.5mlに溶解したものを用いたとき、290~340℃の温度でベンゼンが選択率37~94%で選択的に得られた。図16(C)に示すように、芳香族モノマーであるフェノール0.1gをメタノール1mlに溶解したものを用いたとき、260~340℃の温度でベンゼンが選択率71~82%で選択的に得られた。なお、図16(A)は、芳香族モノマーとしてグアイアコールを用いたものであり、図16(B)の参照としたものである。
【0076】
なお、図16(A)および(C)においては、反応後のGC/MSにおいて当初の芳香族モノマーは測定されなかったことから、当初の芳香族モノマーは全て別の芳香族モノマーに変換されたものと考えられた。しかしながら、図16(B)においては、反応後のGC/MSにおいて当初の芳香族モノマーであるフェノールが測定されたことから、240~320℃の温度において、当初の芳香族モノマー中のフェノールの一部が別のモノマーに変換されなかったか、あるいは、当初の芳香族モノマー中にフェノールと共存していたグアイアコールからフェノールが生成したものと考えられた。
【0077】
(実施例III-2)
実施例III-2は、実施形態3に対応する実施例である。リグニン由来でない芳香族モノマーとしてトルエンを用いたこと、第2の金属元素触媒としてNiO/(SBA-15)(触媒全体中のNiO含有量:5質量%)を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、芳香族モノマーを反応させて、得られた脂環式モノマー中の各モノマーの選択率を求めた。結果を図17にまとめた。図17を参照して、140~280℃の温度でメチルシクロヘキサンが選択率65~100%で選択的に得られた。
【0078】
上記実施例により、本開示のリグニン由来モノマーの製造方法によれば、リグニンを分解して芳香族モノマーを高収率で得られること、および/または、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを高収率で選択的に得られることが分かった。また、本開示のモノマーの製造方法によれば、芳香族モノマーを反応させて脂環式モノマーまたは別の芳香族モノマーを高収率で選択的に得られることが分かった。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
100,200 装置、101 分解反応炉、102 塩浴、210 予熱炉、210c,220c 冷却ガス、210g,220g キャリアガス、230g スプリットガス、220 触媒変換炉、225 第2の金属元素触媒、O 振動、S1 第1工程、S2 第2工程、S10,S20 方法。
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