(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027328
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ホットスタンピング箔
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240222BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240222BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240222BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20240222BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B41M5/00 700
G02B5/18
B32B7/023
B32B7/06
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130042
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】土井 隆二
【テーマコード(参考)】
2H249
4F100
【Fターム(参考)】
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA60
4F100AA20E
4F100AB10D
4F100AK04D
4F100AK15E
4F100AK22E
4F100AK25B
4F100AK25E
4F100AK41B
4F100AK41E
4F100AK42A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK51E
4F100AK70E
4F100AT00A
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA18G
4F100CB00E
4F100EC032
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4F100EH46B
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4F100EH46D
4F100EH46E
4F100EH66E
4F100EJ91A
4F100HB00B
4F100JA07B
4F100JK09B
4F100JK11E
4F100JN06D
(57)【要約】
【課題】優れた表面耐摩耗性を有するホットスタンピング箔を提供する。
【解決手段】ホットスタンピング箔1は、ベースフィルムからなるキャリア10と、キャリアの一方の面に形成された積層光学装飾体2とを備える。積層光学装飾体は、キャリア側から表面保護層21、光学形成層22、反射層31、下層保護層32、クッション層33、および接着層34を有する。キャリアは、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂で構成され、表面保護層は、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂を含んでいる。光学形成層は、実質的に芳香族構造を有さない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムからなるキャリアと、
前記キャリアの一方の面に形成された積層光学装飾体と、
を備え、
前記積層光学装飾体は、前記キャリア側から表面保護層、光学形成層、反射層、下層保護層、クッション層、および接着層を有し、
前記キャリアは、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂で構成され、
前記表面保護層は、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂を含み、
前記光学形成層は、実質的に芳香族構造を有さない、
ホットスタンピング箔。
【請求項2】
前記表面保護層は、主鎖または側鎖に芳香族構造を有さない樹脂をさらに含む、
請求項1に記載のホットスタンピング箔。
【請求項3】
前記表面保護層は、酸素原子を有するアクリル結合、ウレタン結合、エステル結合の少なくとも一つを骨格に含み、かつ重量平均分子量が15万以下の樹脂を含有する、
請求項1に記載のホットスタンピング箔。
【請求項4】
前記キャリアは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートのいずれかからなり、面粗さSaが0.1μm以上4.0μm以下である、
請求項1に記載のホットスタンピング箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホットスタンピング箔について、記載されている。ホットスタンピング箔を、転写対象にホットスタンプする方法について、記載されている。積層光学装飾体付転写対象について、記載されている。積層光学装飾体付転写対象は、ホットスタンピング箔を転写対象にホットスタンプすることで得られる。また、ホットスタンピング箔を、印刷体にホットスタンプする方法について、記載されている。印刷体は、印刷可能な紙、印刷可能なポリマーフィルム、印刷された紙、印刷されたポリマーフィルムとすることができる。
【背景技術】
【0002】
ホットスタンピング箔(例えば、特許文献1参照。)は、転写対象にホットスタンプされる。また、印刷体にホットスタンプ可能なホットスタンピング箔とできる。印刷体は、セキュリティ印刷とできる。セキュリティ印刷は、偽造、改ざん、秘密にされるべき情報の盗み読み等の不正防止対策や、万一そのような不正が懸念されても不正の有無の判別を容易とする対策(以下、「偽造防止対策」と称する。)、および偽造防止対策が必要とされる印刷である。セキュリティ印刷の適用例は、チケット、紙幣、認証カード、タグ、シール、認証ページ、ゲームカード、ポスター、グリーティングカード、ビジネスカード等である。
ホットスタンピング箔は、セキュリティ印刷に適用できる。ホットスタンピング箔は、認証が必要とされるセキュリティ印刷の表面に貼付される。
【0003】
セキュリティ印刷は、チケット、紙幣、カード、冊子、ポスター等の偽造防止や、ブランド品や高級品等の一般的に高価なものへの適用ニーズが多く、真正であることの証明として、ホットスタンピング箔を適用することが知られている。ホットスタンピング箔は、これらの要求に効果的に応えることができる。また、ホットスタンピング箔を、印刷体にホットスタンプすることで、印刷体に意匠性に優れた視覚効果を付与することができる。
【0004】
近年、ホットスタンピング箔において光学効果を発現させる技術の一つとして、光の回折を用いて立体画像、特殊な装飾画像、特殊な色の変化等を表現し得るホログラムや回折格子、また、屈折率の異なる多層の無機堆積層によって見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層薄膜、等の技術を利用した積層光学構造体である、いわゆるOVD(Optical Variable Device)が利用されている。
【0005】
OVDは、高度な製造技術を要すること、独特な視覚効果を有し、一瞥で真偽が判定できることから、有効な偽造防止手段としてカード、有価証券、証明書類等の一部あるいは全面に形成される。最近では、有価証券以外にもスポーツ用品やコンピュータ部品をはじめとする電気製品ソフトウェア等に貼り付けられ、その製品の真正さを証明する認証シールや、それら商品のパッケージに貼りつけられる封印シールとしても広く使われるようになってきた。
【0006】
一般にOVDは、精巧な偽造が難しく確認が容易な偽造防止手段である。チケット、紙幣、カード、冊子等の紙やプラスチックにOVDを貼付する場合には、貼り替えを困難とする観点から、多くの場合熱転写方式が採用されている。
OVDの需要の拡大に応えるため、熱転写方式のスループットの向上が求められている。スループット向上のため、基材上に流れ方向に多層光学構造体を複数並べて配置し、高速で貼付、搬送を繰り返すことで高速に連続貼付ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
基材の流れ方向に複数の多層光学構造体を配置したテープ状のホットスタンピング箔を転写対象に高速で連続転写した後、貼付物の表面を観察すると、表面に擦り傷が発生していることがある。このような擦り傷は外観を悪化させる。さらに、耐久性が必要な物品に適用した場合は、流通や使用の過程で擦り傷が生じる可能性もあり、偽造防止効果にも悪影響を与える。
【0009】
本発明は、優れた表面耐摩耗性を有するホットスタンピング箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ベースフィルムからなるキャリアと、キャリアの一方の面に形成された積層光学装飾体とを備えるホットスタンピング箔である。
積層光学装飾体は、キャリア側から表面保護層、光学形成層、反射層、下層保護層、クッション層、および接着層を有する。
キャリアは、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂で構成され、表面保護層は、主鎖または側鎖に芳香族構造を有する樹脂を含んでいる。光学形成層は、実質的に芳香族構造を有さない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速転写に対応できうる転写性と、優れた表面耐摩耗性とを兼ね備えるホットスタンピング箔を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態のホットスタンピング箔が概略的に図解された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態について、図を参照しながら説明する。
図1は、実施形態のホットスタンピング箔1を概略的に図解する断面図である。ホットスタンピング箔は積層光学装飾体を剥離可能に保持する。ホットスタンピング箔は熱圧で転写対象に積層光学装飾体を転写できる。ホットスタンピング箔1は、キャリア10と、キャリア10上に形成された積層光学装飾体2を備える。
積層光学装飾体2は、キャリア10に近い側の上層機能層20と、遠い側の下層機能層Jとを有する。上層機能層20は、キャリア10と接して設けられ、キャリア10から剥離された後に積層光学装飾体の最表面となる表面保護層21と、光学効果を付与するための凹凸構造を有する光学形成層22とを有する。下層機能層30は、光学効果を表面に発現する反射層31と、光学形成層22を保護するための下層保護層32と、貼付時の転写対象の凹凸を吸収するクッション層33と、転写対象と接着するための接着層34とを有する。
【0014】
キャリア10は、ベースフィルムである。ベースフィルムは単層または多層のポリマーフィルムとできる。ポリマーフィルムは、押出法、溶液流延法、カレンダー法により製造できる。押出法としては、インフレーション法、Tダイ法を適用できる。また、ポリマーフィルムは、延伸、無延伸のフィルムとできる。
ポリマーフィルムの材料は、熱可塑樹脂、溶解性樹脂とすることができ、熱可塑樹脂は、ポリオレフィン樹脂とできる。ポリオレフィン樹脂は、積層光学装飾体と適度な接着性がある。ポリオレフィン樹脂は、積層光学装飾体を剥離可能に保持することができる。そのためポリオレフィン樹脂は、芳香族を分子構造に有する樹脂を適用する。特に耐熱性を考慮すると、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)が好ましい。これらの樹脂は、いずれも主鎖または側鎖に芳香族構造を有する。
ベースフィルムのキャリア10の厚さは、例えば4μm以上とできる。厚さが4μm未満であると、キャリアとしての物理的強度が不十分となりホットスタンピング箔の取り扱いが困難となる。また、50μmよりも厚いと、熱転写による熱が下層機能層にある粘着層まで十分に伝わらず、貼付対象物に密着不十分になりうる。そのためキャリア10の厚さは12~50μmの範囲が好ましい。
キャリア10の面粗さSaは0.1μm以上0.4μm以下が好ましい。面粗さSaとは、ISO25178(表面性状)に規定されるパラメータである。面粗さSaが0.1μmより小さいと、キャリア10と表面保護層21との密着が強すぎて貼付性が悪化する可能性がある。面粗さSaが4.0μmより大きいと、キャリア10のヘイズが大きくなり、外観を低下する可能性がある。
【0015】
積層光学装飾体は、キャリア10側から表面保護層21、光学形成層22の順で上層機能層20が形成され、続いて反射層31、下層保護層32、クッション層33,接着層34の順で下層機能層30が形成されている。反射層31は、積層光学装飾体の全面に形成されるか、一部に形成されるか、省略される。クッション層33は、下層保護層32に形成されるが、反射層31が省略された部位においては、光学形成層22上に形成することもできる。積層光学装飾体の各層についての詳細を以下に説明する。
【0016】
表面保護層21は、積層光学装飾体をキャリア10から剥離可能に支持させる。ホットスタンピング箔1の転写後、表面保護層21は転写対象の反対側に位置し、外的損傷から積層光学装飾体を保護する。
表面保護層21は、バインダーと添加材とで構成できる。表面保護層21のバインダーの材質は、酸素原子を有する結合の骨格を含む分子とできる。酸素原子を有する結合の実例は、アクリル結合、ウレタン結合、エステル結合である。
このような表面保護層のバインダーの負の極性をもつ酸素原子の分子骨格と、基材の正の極性を有する水素分子との水素結合により、キャリア10との間に剥離可能な緩い密着が発生し、搬送途中等での意図しない剥離を防止することができる。
バインダーの分子量を15万以下とすることで、搬送途中でキャリア10から積層光学装飾体が剥離することを防止できる。また、バインダーの平均分子量が6万以上、12万程度であれば、転写性と搬送性を両立しやすい。この剥離性は、90度剥離での剥離強度を計測することでその適性を評価できる。
表面保護層21は、熱可塑樹脂と表面改質剤を含有する層とできる。表面保護層21の熱可塑樹脂は、ガラス転移温度が70℃以上、130℃の樹脂とできる。熱可塑樹脂は、少なくとも骨格に酸素原子を有する樹脂が好ましく、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ウレタン樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とできる。実施形態においては、ホットスタンピング箔の取り扱い中の積層光学装飾体の剥がれ等のハンドリング性を確保するため、樹脂の主鎖または側鎖に芳香族構造を有するものを用いている。芳香族構造を樹脂に導入することで、キャリア10と積層光学装飾体の密着性を高めることができる。
それぞれの樹脂の分子量は、重量平均分子量で15万以下が好ましい。重量平均分子量は、樹脂の物性を予想するのに重要な値である。使用する樹脂の重量平均分子量が15万より大きいと樹脂の膜の強度が上がり、貼付後に箔が材破(後述)しにくくなる。つまり、貼付性が低下するため、15万以下が好ましい。樹脂単体の重量平均分子量の測定が困難な場合は、例えば上層機能層のみを分離し、バルクで分子量測定を行い、測定ピークのスタートの分子量が500万以下であることが好ましい。分子量測定は、市販(例えば島津製作所社製)のゲルクロマトグラフィーシステムを用いて測定できる。
転写物の表面保護機能を高める場合、表面保護層21において芳香族構造を有する樹脂の割合を増やすことが好ましい。これにより転写性が低下した場合は、表面保護層21とキャリア10の間に厚さ1μm以下のワックス単体またはワックスにバインダーを混合したワックス層を設けることで、転写性を調整することができる。ワックスは、芳香族を有さないポリエチレンワックスまたはポリプロピレンワックスが好ましい。天然物由来のカルナバワックスを用いることもできる。バインダーは表面保護層との親和性を保つため、表面保護層に使用されている樹脂と同じ系の樹脂が好ましい。バインダーは、ワックスに対し重量比で10%以下とする。
【0017】
表面改質剤は、パウダー、ワックス、オイルとできる。パウダーは、耐熱パウダーとできる。耐熱パウダーは、シリカパウダー、ポリエチレンパウダー、フッ素系パウダー、シリコーン系パウダーとすることができる。ワックスは、パラフィンワックス、シリコーン、カルナバワックスとできる。オイルは、シリコーンオイルとできる。表面保護層21は、着色されてもよい。着色は、表面保護層21の樹脂に顔料、染料を添加することによりできる。顔料は、無機顔料、有機顔料、無機顔料と有機顔料の混合とすることができる。または、顔料は、蛍光性顔料、パール顔料、磁性顔料の単体、同種のブレンド、異種の混合、異種の同種のブレンドの混合とすることもできる。染料は、天然染料、合成染料、天然染料と合成染料の混合とすることができる。または、染料は、蛍光性染料とすることもできる。表面保護層21は、キャリア10上に印刷、塗布によって形成できる。塗布は、グラビアコートやマイクログラビアコート、ダイコートとできる。印刷は、グラビア印刷、スクリーン印刷とできる。表面保護層21の厚みは、0.5μm以上5μm以下の範囲とできる。表面保護層21は、印刷を受容できる。アクリル樹脂は、印刷を受容しやすい。印刷を受容可能な表面保護層21を有する積層光学装飾体付印刷体は、一体として印刷可能となる。
【0018】
光学形成層22は、一方の表面または両面に凹凸形状のレリーフ構造を有することができる。光学形成層22は、熱可塑樹脂、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂とできる。
光学形成層22を構成する樹脂は、主鎖または側鎖に芳香族構造を有さない、すなわち、実質的に芳香族構造を有さないことが好ましい。芳香族構造が含まれる樹脂が用いられることにより表面保護層21と光学形成層22の密着性が必要以上に高まると、貼付時に必要な積層光学装飾体の材破が生じにくくなり、転写性を悪化するからである。表面保護層21と光学形成層22の間に最小限の密着性を保つことで、転写動作時に層内に歪を持たすことができ、転写性を良化することができるのである。
光学形成層22の熱可塑性樹脂は、芳香族構造を主鎖または官能基に有さないアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とできる。光学形成層22の熱硬化樹脂は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とすることができる。
【0019】
光学形成層22の表面のレリーフ構造は、凹部または凸部、凹部と凸部を有し、回折、光反射抑制、等方性または異方性の光散乱、屈折、偏光・波長選択性の反射、透過、光反射抑制などの光学的性質を積層光学装飾体に付与する。例えば0.5μm以上2μm以下のピッチ、0.05μm以上0.5μm以下の深さで回折格子構造の領域を設けることで、レリーフ構造は光を回折させる性質を積層光学装飾体に付与する。例えば0.1μm以上0.5μm以下のピッチ、0.25μm以上、0.75μm以下の深さでモスアイ構造や深い格子構造を設けることで、レリーフ構造は光反射抑制の性質や、偏光・波長選択性の反射、透過、光反射抑制を積層光学装飾体に付与する。例えば0.5μm以上3μm以下の平均ピッチ、0.05μm以上0.5μm以下の深さで非周期的な線状またはドット状の繰り返し構造の領域を設けることで、レリーフ構造は等方的なあるいは異方的な散乱光を射出する性質を積層光学装飾体に付与する。光学形成層22に、3μmより大きい平均ピッチ、0.5μmより深い構造の領域を設け、隣接する層と異なる屈折率とすることで、レリーフ構造は屈折の性質を積層光学装飾体に付与する。
積層光学装飾体の光学的性質は、目視や機械検知によって、知覚あるいは検知できる。これにより偽造改ざん防止や意匠性を向上できる。光学形成層22の表面のレリーフ構造は、複数種類のレリーフ構造領域を有してもよい。レリーフ構造領域は、単体として、または複数の統合として画像を表示できる。画像は、絵、写真、肖像、ランドマーク、マーク、およびロゴ等の、単体または2以上の組合せとできる。
【0020】
反射層31は、光学形成層22上の一部または全面に形成される。反射層31が光学形成層22上の一部に形成された場合、積層光学装飾体の製造のためにより高度な加工技術が要求され、より精緻な意匠となる為、ホットスタンピング箔1はより高い偽造防止効果を有することができる。
反射層31は、光学形成層22で生じる光学的性質の知覚あるいは検知を容易にする。反射層31は、構造色を表示してもよい。構造色は、変化色、虹色等である。反射層31の材料としては、金属またはケイ素の単体、合金、またはこれらの化合物を用いることができる。単体、合金、またはこれらの化合物の金属またはケイ素は、Si、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Agのいずれか又はいずれかの組合せとすることができる。
反射層31の厚みは、10~500nmの範囲とできる。反射層31は、減圧下で無機材料を堆積することで形成できる。堆積には、真空蒸着やスパッタ、CVDにより行える。
反射層31は単層または多層である。多層の反射層は、金属の単体と金属の化合物を交互に積層したもの、異種の金属の単体を交互に積層したもの、異種の金属の化合物を交互に積層したものとできる。金属の単体と金属の化合物を交互に積層したものとして、アルミニウムの層に二酸化ケイ素の層を積層し多層としたものを挙げることができる。
【0021】
下層保護層32は、反射層31上の全面または一部を被覆する。下層保護層32は、反射層31上の一部にレジストとして設け、下層保護層に覆われていない反射層31を選択的に除去することで、反射層31を光学形成層22上の一部に設けることができる。反射層31が光学形成層22上の一部に設けられている場合、下層保護層32は、一部に設けられた反射層31のみに対応させて設けてもよい。
下層保護層32となる材料を反射層31上に印刷、塗布、堆積することで反射層31を下層保護層32で被覆することができる。下層保護層32を反射層31上の一部に設ける方法として、下層保護層32を印刷で部分的に設ける方法、エッチング液の透過性の異なる下層保護層32を反射層31上に堆積させ、下層保護層32と反射層31をエッチング液の透過性の差により選択的にエッチングする方法、紫外線を露光によって溶解する或いは溶解し難くなる樹脂材料を塗布し、パターン状に紫外線を露光した後、現像し、エッチング液で反射層31を選択的にエッチングする方法、反射層31上に溶解性の樹脂を部分的に形成した後に下層保護層32を形成し、溶解性樹脂および溶解性樹脂上の被覆層を溶剤で部分的に除去する方法等を採用できる。方法はこれには限られず、他の周知の各種加工技術を適用してもよい。
【0022】
クッション層33は、貼付時の圧力を吸収するため、または反射層と接着層との密着性を確保するアンカー層として積層される。
クッション層33は圧力を吸収するため、柔軟性の異なる軟質樹脂と変形制限剤の混合体をマトリクスとする。
クッション層33の重合体は、塩化ビニル、ビニル、セルロース、フェノール、フッ素系、シリコーン系、アクリル系、メラミン系、エポキシ系のいずれかの重合体又はいずれかの共重合とできる。塩化ビニル酢酸ビニル共重合体は、他の樹脂との密着性が良い。クッション層33のマトリクスの軟質樹脂は、酸変性ポリオレフィン樹脂とできる。
酸変性ポリオレフィン樹脂は、エチレンと酸性分との共重合樹脂であってもよい。エチレンと酸性分との共重合体は、エチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂とできる。エチレンと酸性分との共重合樹脂は、適度な柔軟性と隣接する層との適度な密着性が得やすい。
クッション層33中の軟質樹脂は、クッション層33中の塩化ビニル酢酸ビニル共重合体よりも低い軟化温度とでき、さらに、ホットスタンピング時の転写温度以下の軟化温度とできる。クッション層33の樹脂の軟化温度は、60℃以上110℃以下の範囲とできる。転写温度は、ホットスタンピング箔のホットスタンピングの版面温度で、90℃から130℃の範囲とできる。この軟化温度は、ホットスタンピング箔のホットスタンピングの版面温度の90℃から130℃の範囲との親和性が得やすい。なお、転写温度は典型的には120℃である。
酸変性ポリオレフィンの酸価は、一般に使われるFT-IR法や、滴定法等により測定できる。酸変性ポリオレフィンの酸価は、0.5~200の範囲とできる。
【0023】
軟質樹脂の溶液として、軟質樹脂の分散体であるディスパージョンが用いられてもよい。この場合、ディスパージョンの粒子の大きさは30μm程度とできる。
【0024】
クッション層33のマトリクスの軟化温度は、60℃以上110℃以下の範囲とできる。クッション層33のマトリクスの軟化温度は、ホットスタンピング箔の転写時の版面温度が、一般に90℃から130℃の範囲であるため、この転写時の温度で軟化する温度である。
【0025】
クッション層33には、助剤が添加されてもよい。助剤の添加量は、マトリクスに対して0.1Wt%から10Wt%の範囲とできる。助剤として、シランカップリング剤、イソシアネートが添加されてもよい。シランカップリング剤を添加することで、クッション層33の一部が反射層31と接触している場合でも、シラノール結合を生じることにより積層光学装飾体との接着の安定性が向上する。シラノール結合により、クッション層33の耐熱性、耐溶剤性も向上する。また、クッション層33の一部が光学形成層22と接触している場合、光学形成層22の表面に存在する光学形成層22に添加したシラン化合物との密着性も向上する。
【0026】
クッション層33には、助剤としてイソシアネートが添加されてもよい。イソシアネートを添加することで、クッション層33のうち光学形成層22に接する部位でウレタン結合が生じ、密着性、耐熱性、耐溶剤性が向上する。クッション層33のマトリクスは、蛍光性を有していてもよい。蛍光性は、樹脂やポリマーが蛍光分子構造を有するか、樹脂に蛍光剤が添加されるか、樹脂やポリマーが蛍光分子構造を有し樹脂に蛍光剤が添加されることで実現できる。
クッション層33の厚さは、0.5μm以上、3μm以下の範囲とできる。
【0027】
接着層34は、熱可塑樹脂をマトリクスとし、マトリクス中にスペーサー粒子が分散されている。接着層34のマトリクスは、無機粉体フィラーを含有してもよい。熱可塑樹脂のマトリクスに対する無機粉体フィラーの比率は、0.1%以上、100%以下の範囲とできる。
マトリクスの熱可塑樹脂として、周知の各種接着剤や粘着剤を適用できる。熱可塑樹脂は、アクリル樹脂とできる。アクリル樹脂はポリメチルメタクリレートとできる。ホットスタンピング箔1がセキュリティ印刷に適用される場合、アクリル樹脂を接着層34のマトリクスの熱可塑樹脂とした場合、少ない熱量で転写可能となり、転写プロセスにおいて短時間の熱加圧で転写が行える。これにより転写のスループットが向上する。
本開示における「短時間の熱加圧」とは、一般的に版面温度90~130℃にて1秒未満での熱加圧である。そのため、接着層34に用いる熱可塑樹脂は、アクリル樹脂に限られず、融点が60℃から130℃の間である他の熱可塑樹脂とすることもできる。この場合、さらに短時間での熱加圧で転写ができる。
【0028】
接着層34のマトリクスに用いるアクリル樹脂以外の樹脂は、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂のいずれか、またこれらのいずれかとアクリル樹脂との混合とできる。ビニル系樹脂は、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールとできる。ポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体とできる。また、これらのうち2種類以上を共重合した樹脂であってもよい。
上記樹脂は、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、アミン結合、シラノール結合を含んでいてもよく、これらの結合に関わる官能基を有する2種類以上の樹脂の化学構造の一部を架橋させてもよい。これらの結合によって分子量を調整することができ、軟化温度や粘弾性、耐溶剤性を調整することができる。さらに、これらの樹脂は共重合でもよく、変性していてもよい。
接着層34のマトリクスは、蛍光性を有していてもよい。蛍光性は、樹脂やポリマーが蛍光分子構造を有するか、樹脂に蛍光剤が添加されるか、樹脂やポリマーが蛍光分子構造を有し樹脂に蛍光剤が添加されることで実現できる。
マトリクスにより規定される接着層34の厚さの値は、転写対象物の算術平均粗さRaよりも大きい方が好ましく、一般的には2μm以上、10μm以下の範囲とできる。
【0029】
スペーサー粒子は、接着層34の厚みよりも大きい平均粒径を有する。また、スペーサー粒子の平均粒径は、接着層34の厚さとクッション層33とを足した総厚より大きく、前記総厚の2倍以下とすることができる。スペーサー粒子の平均粒子径は、1以上10μm以下の範囲とできる。含有される粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置(マイクロトラックBlueRaytrac マイクロトラック・ベル株式会社製など)を用いて測定でき、体積平均粒子径を意味する。
スペーサー粒子は、2種類の平均粒子径の粒子群をブレンドしたものとできる。このとき、スペーサー粒子において相対的に小さい方の粒子群の平均粒子径を1~10μmの範囲とし、相対的に大きい方の粒子群の平均子径を10μm以上30μmの範囲としてもよい。2種類の平均粒子径の粒子群をブレンドする際に、大きい方の粒子群の体積比率は、小さい方の平均粒子径より大きくできる。大きい方の粒子群との小さい方の粒子群との体積比率は、1:50以上、1:2以下とできる。さらに、スペーサー粒子は、2種類以上の平均粒子径の粒子群をブレンドしたものとできる。
スペーサー粒子は、定形粒子または不定形粒子とできる。定形粒子は、楕円状粒子、球状粒子とできる。定型粒子は、安定したギャップを維持しやすい。楕円状粒子では、圧力に対してロバストである。球状粒子では、圧力に対して一定の反応が得られる。不定形粒子は、コストを低減することができる。粒子径の分散状態は、粒子径が揃っている単分散のものを用いるのが好ましい。単分散とは、一般的にCV値=(標準偏差/平均値)が10%以下である。
スペーサー粒子は、無機、耐熱樹脂、無機と耐熱樹脂のコンポジットとできる。無機は、無機化合物、純物質とできる。無機化合物は、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カオリンクレーとできる。純物質は、カーボンブラックとできる。スペーサー粒子の材質としての耐熱樹脂は、合成樹脂や天然素材とできる。合成樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂とできる。天然素材は木粉、琥珀とできる。また、スペーサー粒子41の無機と耐熱樹脂のコンポジットは、上に挙げた材料を無機と耐熱樹脂のそれぞれとすることができる。無機材料は、耐熱性、耐薬品性を得やすい。合成樹脂は、耐熱性、耐薬品性を得やすい。天然素材は環境負荷が小さい。
スペーサー粒子の接着層34のマトリクスに対する体積比率は、0.1%以上、3%以下の範囲とできる。
【0030】
無機粉体フィラーは、平均粒子径がナノレベルの粉体である。無機粉体フィラーの材質は、シリカや、各種金属およびその酸化物とできる。無機粉体フィラーは、溶剤で劣化しない。また、無機粉体フィラーは、低コストである。
耐熱樹脂粉体フィラーは、平均粒子径がナノレベルの粉体である。耐熱樹脂粉体フィラーの材質としての耐熱樹脂は、合成樹脂や天然素材とできる。合成樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂とできる。天然素材はセルロース、琥珀とできる。合成樹脂は、耐熱性、耐薬品性を得やすい。天然素材は環境負荷が小さい。
無機粉体フィラー、耐熱樹脂粉体フィラーの平均粒径は、10~15ナノメートル(nm)とできる。無機粉体フィラー、耐熱樹脂粉体フィラーの平均粒径は、接着層34の膜厚より小さくてもよい。ナノレベルのフィラーの平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置(ナノトラックNanotrac Wave マイクロトラック・ベル株式会社製など)を用いて測定でき、体積平均粒子径を意味する。
無機粉体フィラー、耐熱樹脂粉体フィラーは、不定形粒子とできる。また、無機粉体フィラーの粒子径の分散状態は、粒子径が揃っていない多分散のものを用いるのが好ましい。多分散とは、一般的にCV値=(標準偏差/平均値)が10%以上である。
なお、接着層34の厚みは、接着層34のうち、マトリクスとなる樹脂の領域の厚みで規定される。すなわち、接着層34の厚みは、接着層34のマトリクスの樹脂領域の隣接する層との境界から接着層34のマトリクスの樹脂領域の反対側の境界までの距離である。接着層34の厚みは、走査型電子顕微鏡により、樹脂領域における隣接する層との境界を特定すれば、境界から境界までの距離として計測できる。計測数は、実用的には5点とできるが、精密には30点とでき、計測した各点の実測値の平均値を厚みとできる。または、光学顕微鏡で同様に測定してもよい。また、他の層の厚みも境界から境界までの距離とすることができる。他の層の厚みも、走査型電子顕微鏡により隣接する層との境界を特定し、境界から境界までの距離を計測することで得られる。この際の計測数も、実用的には5点、精密には30点とでき、計測した実測値の平均値を厚みとできる。また、同様に光学顕微鏡で測定してもよい。
【0031】
接着層34には、上記のマトリクスの熱可塑樹脂、スペーサー粒子および無機粉体フィラー以外に、ガラス転移温度が60℃以上のポリマーが含まれていてもよい。ポリマーのガラス転移温度は、60℃以上150℃以下とできる。ポリマーは、1種類の樹脂で構成されてもよく、複数の樹脂の混合体で構成されてもよい。樹脂は、熱可塑樹脂や硬化樹脂とできる。ポリマーは、1種類のモノマーの重合体や、共重合体とすることができる。1種類のモノマーの重合体としては、アクリル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンとできる。共重合体は、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とできる。また、ポリマーは、テルペン樹脂や、ロジン樹脂、スチレンマレイン酸などの低分子のものをポリマー中に含んでもよい。マトリクスの熱可塑樹脂と、ガラス転移温度が60℃以上のポリマーとの比率は、50:1から5:1の範囲とでき、さらには40:1から6:1の範囲とできる。
【0032】
接着層34は、マトリクスの熱可塑樹脂、スペーサー粒子を含有する塗液を塗布することにより形成できる。塗液は固形分が完全に溶解しているものでもよいし、ディスパージョンやエマルジョンのように、固形分が分散しているものでもよい。塗布は、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート、ロッドコート、リップコート、ダイコートとすることができる。また、印刷を塗布に適用しても良い。印刷は、グラビア、スクリーン印刷とできる。塗液の乾燥は、固形分の融点以下の温度で行うことが好ましい。
【0033】
発明者らは、キャリア10と上層機能層20の材料構成が所定の範囲を満たすことにより、転写容易性と転写後の耐摩耗性を両立できることを見出した。
高速連続貼付を実現するためには、キャリアと貼付後の積層光学装飾体とを高速で剥離することが必要である。特に、積層光学装飾体の全体が転写されず、その一部がキャリア上に残存する場合は、転写されて転写対象に接合される部位と転写されずにキャリア上に残存する部位との境界で、積層光学装飾体が厚さ方向に断裂する「材破」が速やかに完了することが重要である。
発明者らは、JIS K 6854-1に準拠して測定された垂直材破強度が、その値が低いほど貼付装置内の僅かな張力で材破することを示すことに着目し、ホットスタンピング箔の連続貼付性を評価するための指標となる可能性を見出した。発明者らが鋭意検討した結果、測定10回の平均垂直材破強度が12gf/mm以下であると連続貼付が容易であることを突き止めた。
【0034】
ホットスタンピング箔1の転写対象は、印刷体とできる。印刷体は、印刷されたポリマーフィルムまたは印刷された紙、ならびに印刷可能なポリマーフィルムまたは印刷可能な紙である。印刷されたフィルムは、ベースフィルムの表面にアンカー層がコートされ、アンカー層に印刷されたものである。印刷された紙は、コート紙、非コート紙、樹脂含浸紙等に印刷されたものである。印刷可能なポリマーフィルムは、ベースフィルム上に印刷を受容するようアンカー層がコートされたポリマーフィルムである。印刷されたポリマーフィルム、印刷可能なポリマーフィルムのベースフィルムには、ポリマーフィルムを適用できる。ポリマーフィルムには、延伸ポリマーフィルムまたは無延伸ポリマーフィルムとできる。延伸ポリマーフィルムまたは無延伸ポリマーフィルムは、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムとできる。
印刷は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷とできる。印刷は、インキが印刷されたものとできる。インキは、顔料インキ、染料インキ、パールインキ、蛍光インキとできる。転写対象の印刷体は、セキュリティ印刷とすることができる。セキュリティ印刷は、紙幣、チケット、タグ、シール、ゲームカード、認証カード、認証ページ、ポスター、グリーティングカード、ビジネスカードとできる。セキュリティ印刷は、偽造、改ざん、秘密にされるべき情報の盗み読みの不正防止対策や、万一そのような不正が懸念されても不正の有無の判別を容易とする対策、および偽造防止対策が必要とされる印刷である。
転写対象にホットスタンピング箔から積層光学装飾体を熱転写した後に、積層光学装飾体に、または、転写対象の印刷体に、積層光学装飾体と転写対象の印刷体の双方に印刷することができる。ホットスタンピング箔を用い積層光学装飾体を印刷体に熱転写することにより、積層光学装飾体付印刷体を作製できる。チケット、紙幣、カード、冊子、ポスター等や、ブランド品や高級品の一般的に高価なものへ積層光学装飾体を熱転写することで、真正であることを証明可能な積層光学装飾体付印刷体とでき、偽造を防止できる。ホットスタンピング箔は、これらの要求に効果的に応えることができ、意匠的にも優れた視覚効果を得られる。ホットスタンピング箔1は、印刷体に熱転写可能である。
【0035】
実施形態のホットスタンピング箔について、実施例および比較例を用いて具体例で説明する。本開示の範囲は、これら個別の実施例の具体的内容により限定されない。
【0036】
(実施例1)
まず、各層の材料の配合比について示す。以降の記載において、「部」は、特にことわりのない限り質量部を意味する。
(キャリア)
PETフィルム(厚さ38μm、面粗さSa1.006μm)(商品名 ルミラー、東レ株式会社製)
(表面保護層形成用インキ)
アクリル樹脂 19.2部
ポリエチレンパウダー 0.8部
ジメチルアセトアミド 45.0部
トルエン 35.0部
上記アクリル樹脂は、スチレン構造を側鎖に有するアクリル樹脂A(三菱ケミカル社製ダイヤナールBR-50 分子量60000)と、アクリル樹脂B(三菱ケミカル社製ダイヤナールBR85 分子量120000)とを5:95で混合して調製した、重量平均分子量117000のアクリル樹脂である。
(光学形成層形成用インキ)
ウレタン樹脂(芳香族構造を含まない) 20.0部
メチルエチルケトン 50.0部
酢酸エチル 30.0部
(下層保護層形成用インキ)
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体 65.6部
ポリエチレン樹脂 2.9部
ポリウレタン樹脂 8.2部
ジメチルアセトアミド(DMAC) 23.3部
(クッション層形成用インキ)
EMAA(ディスパージョン、軟化温度62℃) 47.8部
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(巴工業社製 E15/45M tg 73℃) 7.1部
有機シラン化合物(シランカップリング剤) 2.4部
イソシアネート 1.4部
エタノール 11.9部
メチルエチルケトン 15.4部
トルエン 14.0部
(接着層形成用インキ)
アクリル樹脂(樹脂成分) 36.9部
ポリエステル樹脂(樹脂成分) 0.9部
消泡剤 0.2部
シリカ(スペーサー粒子、平均粒径8.0μm レーザー法による測定) 1.1部
ナノシリカ(無機粉体フィラー、平均粒径10~15nm レーザー法による測定)
50.1部
メチルエチルケトン 9.4部
トルエン 1.5部
【0037】
上記キャリアの一方の面に、上記表面保護層形成用インキを、乾燥後の膜厚(ドライ膜厚)が1μmとなるよう塗布乾燥し、表面保護層を形成した。さらに、表面保護層上に上記光学形成層形成用インキをドライ膜厚が1μmとなるように塗布乾燥した後、回折格子を構成するレリーフ構造をロールエンボス法にて層の表面に形成し、光学形成層を形成した。以上により、上層機能層をキャリア上に形成した。
【0038】
続いて、光学形成層上に、アルミニウムを50nmの膜厚となるよう真空蒸着して、反射層を形成した。さらに、反射層上に、上記下層保護層形成用インキをドライ膜厚が1μmとなるようパターン塗布乾燥した後1N水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、下層保護層に覆われていない反射層を除去した。
その後、下層保護層および露出した光学形成層上に、上記クッション層形成用インキをドライ膜厚が1~2μmとなるよう塗布乾燥し、クッション層を形成した。
さらに、クッション層上に、上記接着層形成用インキを、固形分のドライ膜厚が4~5μmとなるよう塗布乾燥し、接着層を形成した。
以上により、実施例1に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0039】
(実施例2)
表面保護層形成用インキのアクリル樹脂として、上記アクリル樹脂Aのみを用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で実施例2に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0040】
(実施例3)
以下に示す手順でアクリル樹脂Dを作製した。
モル比で1:2になるように、フェノキシエチルメタクリレート(東亜合成社製ライトエステルPO)5.0部とエチルメタクリレート(東亜合成社製ライトエステルE)6.5部、さらに開始剤として全モノマーに対して1モル%のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、反応溶媒としてジメチルホルムアルデヒド(DMF)、メチルエチルケトンをガラス重合管に投入し、真空下で封止した。サーモスタットで60℃に制御して重合を行なった後、ガラス管を開封し、内容物を大量のメタノールに注いでポリマーを沈殿させ、激しく攪拌した。沈殿物をろ過で回収し、24時間、50℃、真空下で乾燥後、再度ベンゼンに分散し凍結真空下で乾燥してアクリル樹脂Dを得た。
得られたアクリル樹脂Dの重量平均分子量は、約70000であった。重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(HLC-8320GPC EcoSEC 東ソー社製)を用い、0.6ml/分の流量で、溶離剤としてDMFを用いて行った。分子量の検量線は、ポリエチレングリコール標準を用いて取得した。
アクリル樹脂Dを、KBr錠剤法による赤外線吸収測定(フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-46000、日本分光株式会社製)したところ、3050cm-1付近に強い吸収が認められ、樹脂中(側鎖)に芳香族構造(フェニル構造)が含まれていることが確認できた。
アクリル樹脂Dと、アクリル樹脂C(ダウコーニング社製パラロイドA14 分子量70000)とを10:90で混合して調製した、重量平均分子量約70000のアクリル樹脂を、表面保護層形成用インキに用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で実施例3に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0041】
(実施例4)
表面保護層形成用インキのアクリル樹脂として、上記アクリル樹脂Dと、アクリル樹脂B(三菱ケミカル社製ダイヤナールBR85 分子量120000)とを5:95で混合して調製したアクリル樹脂を用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で実施例4に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0042】
(実施例5)
以下に示す手順でアクリル樹脂Eを作製した。
モル比で1:3になるようエトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学社製A-LEN-10)5.0部と、エチルメタクリレート(東亜合成社製ライトエステルE)5.7部、さらに開始剤として全モノマーに対して1モル%のAIBN、反応溶媒としてDMF、メチルエチルケトンをガラス重合管に投入し、真空下で封止した。サーモスタットで60℃に制御して重合を行なった後、ガラス管を開封し、内容物を大量のメタノールに注いでポリマーを沈殿させ、激しく攪拌した。沈殿物をろ過で回収し、24時間、50℃、真空下で乾燥後、再度ベンゼンに分散し凍結真空下で乾燥してアクリル樹脂Fを得た。
実施例3と同様の方法で測定したアクリル樹脂Eの重量平均分子量は、約60000であった。
実施例3と同様の方法でアクリル樹脂Fの赤外線吸収測定を行ったところ、樹脂中(側鎖)に芳香族構造(フェニルフェノール構造)が含まれていることが確認できた。
アクリル樹脂Eと上記アクリル樹脂Cとを5:95で混合して調製した、重量平均分子量約70000のアクリル樹脂を、表面保護層形成用インキに用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で実施例5に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0043】
(比較例1)
表面保護層形成用インキのアクリル樹脂として、アクリル樹脂Cのみを用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で比較例1に係るホットスタンピング箔を作製した。
(比較例2)
表面保護層形成用インキのアクリル樹脂として、アクリル樹脂Bのみを用いた。
その他の点については実施例1と同様の手順で比較例2に係るホットスタンピング箔を作製した。
【0044】
各例のホットスタンピング箔に対し、以下の評価を行った。
<転写性>
JIS K 6854-1に準拠し、ローラ式はく離装置を用いて垂直材破強度を測定した。具体的には以下の通りである。
装置として、テンシロンRTF-1225(エー・アンド・ディ社製)に90°はく離ステージ(プリント板90°はく離J-PZ-200N)を取り付けたものを用いた。測定するホットスタンピング箔を10mm幅のテープ状にカットし、積層光学装飾体の一部を上質紙(64g/m2 日本製紙社製)からなる貼付媒体に0.4t/cm2、スタンプ温度120℃で熱圧着により接合し、上記90°はく離ステージにセットした。貼付媒体にバックテンションをかけた状態で、貼付媒体に接合されていない積層光学装飾体をキャリアとともにテンシロンで100mm/minでけん引し、積層光学装飾体の材破によって生じる最初の応力ピークを幅方向寸法で除し、mm当たりの数値を算出して垂直材破強度とした。
上記評価において、積層光学装飾体の上質紙への接着が弱い等の場合は、他の貼付媒体を使用してもよい。その貼付媒体にコシがない等の場合は、積層光学装飾体が接合された貼付媒体を1mm厚のPET板に貼り付けてからはく離ステージにセットすればよい。
【0045】
<耐摩耗性>
JIS K 5701-1に準拠して行った。具体的には、転写性評価と同様の試験片を、学振形摩擦試験機(摩擦試験機II型 安田精機製作所製)にセットし、摩擦布である白布(カナキン3号)に1kgの荷重をかけた状態で、積層光学装飾体上を100回往復させた。往復後の傷を観察し、反射層に20μm以上の幅の傷が長さ2mm以上生じたものを不良(×)、それより小さい傷を生じたものを不合格(△)、反射層に傷が生じなかったものを合格(〇)と評価した。
【0046】
結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
芳香族構造を有する樹脂を含む本実施例ではいずれも耐摩擦性評価において反射層の傷つきを認めず、良好な耐摩耗性が確認された。
また、芳香族構造を有する樹脂と有さない樹脂とがブレンドされた表面保護層を有する実施例では、垂直材破強度が小さくなる傾向がみられ、より転写性が良好であった。
一方、表面保護層に芳香族構造を有する樹脂を含まない比較例では、耐摩耗性が十分でなかった。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 ホットスタンピング箔
2 積層光学装飾体
10 キャリア
21 表面保護層
22 光学形成層
31 反射層
32 下層保護層
33 クッション層
34 接着層