(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027367
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】肉盛溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240222BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20240222BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240222BHJP
C22C 38/48 20060101ALI20240222BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240222BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20240222BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
B23K9/04 N
B23K9/235 A
B23K9/04 J
C22C19/05 B
C22C38/48
C22C38/00 302Z
C22C38/44
B23K35/30 340A
B23K35/30 340M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130111
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】益山 大智
(72)【発明者】
【氏名】鴨 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 幹久
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】榊原 紀幸
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB11
4E001CB05
4E001CC01
4E001DB03
4E001DB05
4E001DD02
4E001EA05
(57)【要約】
【課題】コバルト基合金からなる溶接層の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる肉盛溶接方法を提供する。
【解決手段】鋼材と、鋼材上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部と、を備える部材に肉盛溶接する方法であって、溶接用トーチと肉盛溶接部との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部の表面を溶融して溶融池を形成し、鋼材の共金系溶接材料と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料と、を同時に、溶融池に挿入させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、前記鋼材上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部と、
を備える部材に肉盛溶接する方法であって、
溶接用トーチと前記肉盛溶接部との間にアークを発生させ、
前記アークにより前記肉盛溶接部の表面を溶融して溶融池を形成し、
前記鋼材の共金系溶接材料と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料と、を同時に、前記溶融池に挿入させる、肉盛溶接方法。
【請求項2】
前記共金系溶接材料の形状が棒状またはワイヤ状であり、前記コバルト基合金溶接材料の形状が棒状またはワイヤ状である、請求項1に記載の肉盛溶接方法。
【請求項3】
前記コバルト基合金溶接材料の直径と、前記共金系溶接材料の直径との比が70:30~60:40である、請求項2に記載の肉盛溶接方法。
【請求項4】
前記共金系溶接材料が前記コバルト基合金溶接材料と接触した状態で、前記溶融池に挿入させる、請求項1に記載の肉盛溶接方法。
【請求項5】
前記共金系溶接材料と前記コバルト基合金溶接材料とを、前記鋼材の厚さ方向に沿って、前記溶融池の表面から前記共金系溶接材料の中心までの距離と、前記溶融池の表面から前記コバルト基合金溶接材料の中心までの距離がほぼ等しくなるように、前記溶融池に挿入させる、請求項4に記載の肉盛溶接方法。
【請求項6】
前記溶融池を形成予定の領域を200℃~300℃で加熱する、請求項1に記載の肉盛溶接方法。
【請求項7】
前記領域が、前記肉盛溶接部の一部を前記鋼材が露出しないように除去した領域である、請求項6に記載の肉盛溶接方法。
【請求項8】
前記コバルト基合金溶接材料が、前記肉盛溶接部の形成に用いられた材料と同じである、請求項1に記載の肉盛溶接方法。
【請求項9】
前記鋼材が9Cr系ステンレス鋼または12Cr系ステンレス鋼である、請求項1に記載の肉盛溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、肉盛溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の表面硬化処理を行う方法として、硬質材料を用いた肉盛溶接を行う方法がある。
【0003】
特許文献1には、弁棒との摺動面を有する軸受けを備える弁装置であって、前記軸受けは前記弁棒との摺動面に耐熱コバルト基合金からなるプラズマ粉体肉盛溶接層が形成され、当該溶接層は、前記軸受けの表面に形成された、希釈率が5~25%の第1の溶接層と、前記第1の溶接層の上に形成された、希釈率が前記第1の溶接層の希釈率の50%以下である第2の溶接層とを備えることを特徴とする弁装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、所定長の金属製の中空パイプ内に硬質粒子を充填して該中空パイプの両端を閉鎖し、上記中空パイプを金属製の母材上に横向きに載置し、上記中空パイプの上方に溶接用トーチを近接させて、その電極と上記中空パイプとの間にアークを発生させ、該アークにより上記中空パイプと上記母材の表面を溶融して溶融池を形成し、上記中空パイプの溶融により未溶融の上記硬質粒子を、上記中空パイプの内部から上記溶融池内に流出させ、上記溶接トーチを上記中空パイプに沿って移動させることにより、上記母材の表面において、上記溶接トーチの移動軌跡に沿う硬化肉盛層を形成することを特徴とする硬化肉盛の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/111150号
【特許文献2】特開2018-1172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸気タービン等の主要弁内臓品の摺動面、接触面に対しては、より硬い材質であるコバルト基合金(ステライト等)を肉盛溶接することで、耐摩耗性向上を図っている。肉盛溶接部は時効硬化による割れ抑制のため、希釈率(母材の成分がどの程度溶接金属へ溶け込んだかを示すパラメータ)を管理することが必要となっている。希釈率管理は、肉盛溶接部の補修溶接にも適用されるが、肉盛溶接部はコバルト基合金であり、コバルト基合金が溶融されて母材は溶融されない。このため、肉盛溶接部の補修では母材との希釈がなく、希釈率を規定の範囲とすることが難しかった。特許文献1及び2の肉盛溶接方法は、溶接される素材(母材)へ溶接する方法が開示されており、母材が直接溶融する。しかし、コバルト基合金からなる溶接層を補修溶接する場合、母材(鋼材)を直接溶融しないので、補修溶接部の希釈率が低下し、補修溶接部の割れを抑制できない可能性があった。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、コバルト基合金からなる溶接層の補修溶接で形成される補修溶接部で不足する成分(例えばFe)を溶接材料に添加し、希釈率の低下を抑制することができる肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る鋼材と、前記鋼材上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部と、
を備える部材に肉盛溶接する方法であって、溶接用トーチと前記肉盛溶接部との間にアークを発生させ、前記アークにより前記肉盛溶接部の表面を溶融して溶融池を形成し、前記鋼材の共金系溶接材料と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料と、を同時に、前記溶融池に挿入させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る肉盛溶接方法によれば、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の肉盛溶接方法における除去領域の近傍を拡大した斜視図である。
【
図2】第1実施形態の肉盛溶接方法における溶融池近傍を拡大した断面図である。
【
図3】第2実施形態の肉盛溶接方法における溶融池近傍を拡大した断面図である。
【
図4】比較例1の除去領域の近傍を拡大した断面図である。
【
図5】比較例2の除去領域の近傍を拡大した断面図である。
【
図6】比較例3の除去領域の近傍を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本開示の肉盛溶接方法について説明する。第1実施形態の肉盛溶接方法における除去領域の近傍を拡大した斜視図である。
本開示の肉盛溶接方法は、鋼材11と、鋼材11上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部12と、を備える部材10に肉盛溶接する方法であって、溶接用トーチ50と肉盛溶接部12との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池を形成し、鋼材11の共金系溶接材料21と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料22と、を同時に、前記溶融池に挿入させる。ここで希釈率とは、溶接金属にどの程度鋼材の成分が溶け込んだかを示すパラメータであり、一般的には溶接した金属の全量をA、鋼材へ溶け込んでいる溶接金属の量をBとすると、B/A×100(%)で求められる値をいう。しかし、上記式を適用する場合、溶接金属を切断しなければならない。実製品の切断は不可であることから、本開示における希釈率は、鋼材中の少なくとも1つの成分X(例えばFe値)に対する溶接金属中の少なくとも1つの成分Y(例えばFe値)の割合を百分率で求めた値であり、Y/X×100(%)で求められる。なお、本開示における溶接金属とは、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22が溶融して溶接された補修溶接部の金属をいう。以下、第1実施形態の肉盛溶接方法について説明する。
【0012】
(部材10)
部材10は、鋼材11と、鋼材11上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部12と、を備える。
【0013】
(鋼材)
鋼材11は、9Cr系ステンレス鋼、12Cr系ステンレス鋼などを用いることができる。9Cr系ステンレス鋼の化学組成としては、例えば、C:0.06~0.12質量%、Si:0.2~0.5質量%、Mn:0.3~0.6質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.4質量%以下、Cr:8.0~9.5質量%、Mo:0.85~1.05質量%、残部:Feおよび不純物である。12Cr系ステンレス鋼の化学組成としては、例えば、C:0.06~0.13質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.6質量%以下、P:0.03質量%以下、S:0.04質量%以下、Ni:0.5質量%以下、Cr:12.0~13.5質量%、Mo:0.6質量%以下、残部:Feおよび不純物である。
【0014】
(肉盛溶接部)
肉盛溶接部12は、コバルト基合金からなる。肉盛溶接部12は、溶接中に溶融した金属が凝固した部分であり、肉盛溶接部12には熱影響部(鋼材11と肉盛溶接部12の間で入熱のある部分)は含まれない。ここでコバルト基合金とは、コバルトを50質量%以上含有する合金である。肉盛溶接部12は、例えば、鋼材11に対し、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料22を用いて肉盛溶接を行って形成した溶接部である。肉盛溶接部12は鋼材11よりも硬質であることが好ましい。
【0015】
(溶融池形成領域)
溶融池を形成する予定の領域(溶融池形成領域)は、肉盛溶接部12上にある。溶融池形成領域は、例えば、肉盛溶接部12の一部を鋼材が露出しないように除去した領域であることが好ましい。具体的には、溶融池形成領域は、肉盛溶接部12の欠陥がある箇所をカッターなどで除去した後の除去領域15である。
【0016】
(共金系溶接材料)
共金系溶接材料21は、鋼材11の化学成分と同一またはほぼ同等の化学成分を有する。鋼材11が9Cr系ステンレス鋼であれば、鋼材11の9Cr系ステンレス鋼の化学成分と同一またはほぼ同等の化学成分を有する溶接材料を用いる。
【0017】
共金系溶接材料21の形状は特に限定されず、例えば、棒状、ワイヤ状である。共金系溶接材料21としては、棒状であることが好ましい。共金系溶接材料21が棒状またはワイヤ状である場合、共金系溶接材料21の直径d1は特に限定されない。共金系溶接材料21の直径d1は、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
(コバルト基合金溶接材料22)
コバルト基合金溶接材料22は、コバルト基合金からなる。コバルト基合金は全質量に対し、コバルトの含有量が50質量%以上である合金をいう。コバルト基合金溶接材料22としては、ステライト(登録商標)、トリバロイ(登録商標)などを用いることができる。ステライトとしては、ステライト1(Cr:31質量%、W:13質量%、C:2.3質量%、Si:1.3質量%、残部:Co)、ステライト6(Cr:28.5質量%、W:4.5質量%、C:1.1質量%、Si:1.2質量%、残部:Co)、ステライト12(Cr:28.5質量%、W:7.7質量%、C:1.4質量%、Si:1.2質量%、残部:Co)、ステライト20(Cr:35質量%、W:18質量%、C:3.2質量%、Si:0.6質量%、残部:Co)、ステライト21(Cr:26質量%、C:0.22質量%、Ni:3質量%、Mo:5.8質量%、Si:1.2質量%、残部:Co)、ステライト32(Cr:26質量%、W:13質量%、C:1.95質量%、Si:1.2質量%、残部:Co)などが挙げられる。コバルト基合金溶接材料22は、肉盛溶接部12の形成に用いられた材料(溶接材料)と同じであることが好ましい。
【0019】
コバルト基合金溶接材料22の形状は特に限定されず、例えば、棒状またはワイヤ状である。コバルト基合金溶接材料22としては、棒状であることが好ましい。コバルト基合金溶接材料22が棒状またはワイヤ状である場合、コバルト基合金溶接材料22の直径d2は特に限定されない。コバルト基合金溶接材料22の直径d2は、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
コバルト基合金溶接材料22の直径d2と共金系溶接材料21の直径d1の比(d2:d1)は、70:30~60:40であることが好ましい。より好ましくは、コバルト基合金溶接材料22の直径d2と共金系溶接材料21の直径d1の比が65:35~60:40である。コバルト基合金溶接材料22の直径d2と共金系溶接材料21の直径d1の比を上記の範囲にすることで、補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。
【0021】
(溶接用トーチ50)
溶接用トーチ50は、先端が開口したノズル52とノズル52の中心軸に配置された電極51を備える。溶接用トーチ50は、TIG(TUNGSTEN INERT GAS)用溶接トーチであることが好ましい。TIG溶接の場合、電極51はタングステン電極である。TIG溶接の場合、ノズル52の内に不活性ガス(Arなど)が供給される。不活性ガスを供給しながら、溶接用トーチ50と肉盛溶接部12との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池を形成する。
【0022】
次に、溶接条件について説明する。
図2は、第1実施形態の肉盛溶接方法における溶融池近傍を拡大した断面図である。
図2に示すように、溶接用トーチ50と肉盛溶接部12との間にアークを発生させ、発生したアークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成し、鋼材11の共金系溶接材料21と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料22と、を同時に、溶融池13に挿入させる。溶融池13が凝固することで、肉盛溶接部12の除去領域15に補修溶接部を形成することができる。
【0023】
(予熱)
第1実施形態の肉盛溶接方法において、肉盛溶接を行う前に、部材10の溶接予定領域(例えば、除去領域15)付近を予熱しておくことが好ましい。予熱温度は例えば、200℃~300℃である。予熱を行うことで、補修溶接部および周囲母材部の割れを抑制することができる。
【0024】
(アーク溶接)
第1実施形態の肉盛溶接方法において、溶接方法はアークを発生させるアーク溶接であれば、特に限定されない。アーク溶接としては、TIG溶接、プラズマ溶接などが挙げられる。アーク溶接としては、特にTIG溶接が好ましい。
【0025】
(溶接電流)
第1実施形態に係る肉盛溶接方法の溶接電流は、肉盛溶接を行うことができれば、特に限定されない。溶接電流は、例えば、50~100Aである。
【0026】
(不活性ガス)
第1実施形態に係る肉盛溶接方法において、不活性ガス(シールドガス)を流すことが好ましい。不活性ガスとしては、例えばArである。シールドガスの流量は特に限定されない。例えば、シールドガスの流量は、8~12L/minである。
【0027】
(共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22の溶融池への挿入方法)
第1実施形態において、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池13に挿入させることが好ましい。共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池13に挿入させることで、補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22と接触させる方法は、特に限定されない。例えば、治具を用いて、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを固定することで、共金系溶接材料21をコバルト基合金溶接材料22と接触させてもよい。
【0028】
第1実施形態において、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させることが好ましい。このように共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを、溶融池13に挿入させることで、さらに補修溶接部の希釈率のばらつきを抑制することができる。
【0029】
共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させる方法は、特に限定されない。母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離とが等しくてもよい。例えば、以下の方法で、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを、溶融池13に略同時に挿入させることができる。まず、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを治具などで固定することで、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態にする。次に、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させる。共金系溶接材料21の中心は、共金系溶接材料21の長手方向に垂直な断面における中心である。共金系溶接材料21が棒状またはワイヤ状である場合は、共金系溶接材料21の中心は、円の中心である。同様に、コバルト基合金溶接材料22の中心は、コバルト基合金溶接材料22の長手方向に垂直な断面における中心である。コバルト基合金溶接材料22が棒状またはワイヤ状である場合は、コバルト基合金溶接材料22の中心は、円の中心である。
【0030】
溶接終了直後(補修溶接部形成後)に、ガスバーナなどで加熱(後加熱)を行ってもよい。加熱温度は例えば、300~400℃である。後加熱の後、部材10をガラスクロスなどで覆うことで、徐冷することが好ましい。
【0031】
溶接終了後、または、後加熱後の徐冷後、希釈率を確認することが好ましい。希釈率は、PMI(Positive Material Identification)検査用の蛍光X線測定装置で、補修溶接部の特定の元素(例えば、Fe)の値を測定することで、希釈率を求めることができる。希釈率は、用途に応じて適宜設定される。例えば、希釈率は、10%以上~30%以下である。
【0032】
(作用効果)
以上説明した第1の実施形態においては、コバルト基合金からなる肉盛溶接部の補修溶接の際に、補修溶接で形成された補修溶接部で不足する成分を溶接材料に添加し、希釈率の低下を抑制することができる。また、第1実施形態の肉盛溶接方法では、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池に挿入させている。そのため、補修溶接部の希釈率をより抑制することができる。また、第1実施形態の肉盛溶接方法では、共金系溶接材料と前記コバルト基合金溶接材料とを、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させる。そのため、補修溶接部の希釈率のばらつきを抑制することができる。
【0033】
<第2実施形態>
以下、本開示の肉盛溶接方法について説明する。以下、第1実施形態と異なる内容について説明し、第1実施形態の肉盛溶接方法と共通する詳しい説明は、省略する。
【0034】
(共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22の溶融池への挿入方法)
第2実施形態の肉盛溶接方法において、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池13に挿入させる。共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池13に挿入させることで、補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触させる方法は、特に限定されない。例えば、治具を用いて、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを固定することで、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触させてもよい。
【0035】
共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方を先に、溶融池13に挿入させる。共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方を先に、溶融池13に挿入させても、補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる。
【0036】
共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方を先に、溶融池13に挿入させる方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法で、共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方を先に、溶融池13に挿入させることができる。まず、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを治具などで固定することで、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態にする。次に、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離が異なるようにして、溶融池13に挿入させる。
【0037】
(作用効果)
以上説明した第2の実施形態においては、コバルト基合金からなる肉盛溶接部の補修溶接の際に、補修溶接で形成された補修溶接部で不足する成分を溶接材料に添加し、希釈率の低下を抑制することができる。また、第2実施形態の肉盛溶接方法では、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、溶融池に挿入させている。そのため、補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。また、第2実施形態の肉盛溶接方法では、共金系溶接材料21およびコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方を先に、溶融池13に挿入させる。このように挿入すると、共金系溶接材料21またはコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方の溶接材料の溶ける量が多くなるため、溶接箇所の形状や希釈率に応じて、挿入方法を適宜変更することができる。どちらか一方を先に溶融池13に挿入しても、第2実施形態に係る肉盛溶接方法によれば、補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる。
【0038】
以上、本開示の肉盛溶接方法について、説明した。本開示の肉盛溶接方法によれば、コバルト基合金からなる肉盛溶接部の補修溶接の際に、補修溶接で形成された補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる。
【0039】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【実施例0040】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0041】
(実施例1)
部材10は、鋼材11の9Cr系ステンレス鋼(9.0%Cr―1.0%Mo鋼(ASTMA182MF91))、または12Cr系ステンレス鋼の上に肉盛溶接部12を形成したものを用意した。鋼材の組成を表1に示す。実施例1の肉盛溶接部12は、Co:55質量%、Cr:25質量%、Ni:3質量%の粉体を用いて、プラズマ粉体肉盛溶接で形成した。以後の実施例は9Cr系ステンレス鋼についての結果を示す。
【0042】
【0043】
共金系溶接材料21は鋼材11と化学組成が同じであるものを用意した。コバルト基合金溶接材料22は、肉盛溶接部12の形成に用いたCo:55質量%、Cr:25質量%、Ni:3質量%の溶接棒を用意した。コバルト基合金溶接材料22と共金系溶接材料21はともに棒状であり、コバルト基合金溶接材料22の直径と共金系溶接材料21の直径の比(コバルト基合金溶接材料22の直径:共金系溶接材料21の直径)=60:40とした。また、共金系溶接材料21は、コバルト基合金溶接材料2と治具で固定した。まず、部材10表面の肉盛溶接部12の一部を鋼材に達しないように除去し除去領域15を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域15を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していないことを確認した。
【0044】
加熱後に、溶接用トーチ(電極:タングステン)50を除去領域15に近づけて、溶接用トーチ50と除去領域15との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成した。
【0045】
溶融池13を形成後、共金系溶接材料21と、コバルト基合金溶接材料22と、を同時に、溶融池13に挿入させた。具体的には、
図2のように、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させた。溶接電流は50~100Aとし、シールドガスにはArを用い、8~12L/minとした。この溶接によって、補修溶接部を形成した。
【0046】
(実施例2)
部材10、共金系溶接材料21、コバルト基合金溶接材料22は、実施例1と同じものを用意した。部材10表面の肉盛溶接部12の一部を鋼材に達しないように除去し除去領域15を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域15を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していないことを確認した。
【0047】
加熱後に、溶接用トーチ(電極:タングステン)50を除去領域15に近づけて、溶接用トーチ50と除去領域15との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成した。
【0048】
溶融池13形成後、共金系溶接材料21と、コバルト基合金溶接材料22と、を同時に、溶融池13に挿入させた。具体的には、
図3のように、共金系溶接材料21をコバルト基合金溶接材料22の下にすることで、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22よりも先に溶融池13に入るようにした。溶接電流は50~100Aとし、シールドガスにはArを用い、8~12L/minとした。この溶接によって、補修溶接部を形成した。
【0049】
(比較例1)
部材10、コバルト基合金溶接材料22は、実施例1と同じものを用意した。
図4のように、比較例1では、コバルト基合金溶接材料22のみを用いた。部材10表面の肉盛溶接部12の一部を鋼材に達しないように除去し除去領域15を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域15を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していないことを確認した。
【0050】
加熱後に、溶接用トーチ(電極:タングステン)50を除去領域15に近づけて、溶接用トーチ50と除去領域15との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成した。
【0051】
溶融池13形成後、コバルト基合金溶接材料22のみを、溶融池13に挿入させて、補修溶接部を形成した。溶接電流は50~100Aとし、シールドガスにはArを用い、8~12L/minとした。
【0052】
(比較例2)
部材10、コバルト基合金溶接材料22は、実施例1と同じものを用意した。
図5のように、比較例2では、部材10表面の肉盛溶接部の一部を鋼材11まで達するように除去し除去領域15を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域15を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していることを確認した。
【0053】
加熱後に、溶接用トーチ(電極:タングステン)50を除去領域15に近づけて、溶接用トーチ50と除去領域15との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成した。
【0054】
溶融池13形成後、コバルト基合金溶接材料22のみを、溶融池13に挿入させて、補修溶接部を形成した。溶接電流は50~100Aとし、シールドガスにはArを用い、8~12L/minとした。
【0055】
(比較例3)
部材10は、実施例1と同じものを用意した。
図6のように、比較例3では、コバルト基合金溶接材料22をコバルト基合金溶接材料22aに変えた。具体的には、コバルト基合金溶接材料22aは、希釈率を満足するように、Feを含有したコバルト基合金溶接材料である。
【0056】
実施例1と同様に、部材表面の肉盛溶接部の一部を鋼材に達しないように除去し除去領域を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していないことを確認した。
【0057】
加熱後に、溶接用トーチ(電極:タングステン)を除去領域に近づけて、溶接用トーチと除去領域との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部の表面を溶融して溶融池を形成した。
【0058】
溶融池形成後、コバルト基合金溶接材料のみを、溶融池に挿入させて、補修溶接部を形成した。溶接電流は50~100Aとし、シールドガスにはArを用い、8~12L/minとした。
【0059】
(表面希釈率)
実施例1~2および比較例1~3の補修溶接部の表面希釈率を測定した。測定は、PMI検査用の蛍光X線装置による成分分析で行った。具体的には、Olympus製 VANTAを用い、補修溶接部の表面からFe含有量を測定し、得られた鉄(Fe)の含有量の値を基に表面希釈率を評価した。得られた結果を表2に示す。表面希釈率が10~30%の範囲内であればGood、範囲外であればBadとした。
【0060】
(断面希釈率)
実施例1~2および比較例1~3の補修溶接部の断面希釈率を測定した。測定は、PMI蛍光X線装置による成分分析で行った。Olympus製 VANTAを用い、補修溶接部を切断し、得られた断面において、鉄(Fe)の値を測定し断面希釈率を評価した。得られた結果を表2に示す。断面希釈率が10~30%の範囲内であればGood、範囲外であればBadとした。
【0061】
(断面観察)
実施例1~2および比較例1~3の補修溶接部の断面を観察した。観察は走査型電子顕微鏡を用いて行った。得られた結果を表2に示す。断面観察において、溶接不良(ひびなどの欠陥)が無ければ、Good、溶接不良があればBadとした。
【0062】
【0063】
表2に示すように、本開示の肉盛溶接方法の条件を満足する実施例1および2は、表面希釈率、断面希釈率、断面観察全て合格した。また、実施例1の場合、6箇所溶接を行った場合の希釈率ばらつきは±0.5%以内であったが、実施例2の場合は、6箇所溶接を行った場合の希釈率ばらつきは、±2.0%以内であった。そのため、母材の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように溶融池13に挿入させることで、希釈率のばらつきを低減できることが確認された。なお、鋼材11が12Cr系ステンレス鋼の場合も同様の結果となることを確認した。
【0064】
比較例1は、肉盛溶接部に、コバルト基合金溶接材料22で溶接を行ったため、表面希釈率が表面希釈率の下限を下回った。比較例2は、鋼材が露出するまで除去してから溶接を行ったので、表面希釈率は合格したが、断面希釈率において、初層の表面希釈率が上限値を超えた。比較例3は、断面観察において、不良部があった。
【0065】
以上の結果から、本開示の肉盛溶接方法を用いることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができることが確認された。
【0066】
<付記>
上記の実施形態に記載の肉盛溶接方法は以下のように把握され得る。
【0067】
(1)本開示の第1の態様に係る肉盛溶接方法は、鋼材11と、鋼材11上に形成されたコバルト基合金からなる肉盛溶接部12と、を備える部材10に肉盛溶接する方法であって、溶接用トーチ50と肉盛溶接部12との間にアークを発生させ、アークにより肉盛溶接部12の表面を溶融して溶融池13を形成し、鋼材11の共金系溶接材料21と、コバルト基合金からなるコバルト基合金溶接材料22と、を同時に、溶融池13に挿入させる。
【0068】
このようにすることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下を抑制することができる。
【0069】
(2)本開示の第2の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)の肉盛溶接方法であって、共金系溶接材料21の形状が棒状またはワイヤ状であり、コバルト基合金溶接材料22の形状が棒状またはワイヤ状である。
【0070】
このようにすることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。また、共金系溶接材料21またはコバルト基合金溶接材料22のどちらか一方の溶接材料の溶ける量が多くなるため、溶接箇所の形状や希釈率に応じて、挿入方法を適宜変更することができる。
【0071】
(3)本開示の第3の態様に係る肉盛溶接方法は、(2)の肉盛溶接方法であって、コバルト基合金溶接材料22の直径と、前記共金系溶接材料の直径との比が70:30~60:40である。
【0072】
このようにすることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。
【0073】
(4)本開示の第4の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)~(3)のいずれか1つの肉盛溶接方法であって、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、前記溶融池に挿入させる。
【0074】
このようにすることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率の低下をより抑制することができる。
【0075】
(5)本開示の第5の態様に係る肉盛溶接方法は、(4)の肉盛溶接方法であって、共金系溶接材料21とコバルト基合金溶接材料22とを、鋼材11の厚さ方向に沿って、溶融池13の表面から共金系溶接材料21の中心までの距離と、溶融池13の表面からコバルト基合金溶接材料22の中心までの距離がほぼ等しくなるように、溶融池13に挿入させる。
【0076】
このようにすることで、コバルト基合金の補修溶接で形成される補修溶接部の希釈率のばらつきを抑制することができる。
【0077】
(6)本開示の第6の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)~(5)のいずれか1つの肉盛溶接方法であって、溶融池を形成予定の領域を200℃~300℃で加熱する。
【0078】
このようにすることで、補修溶接部および周囲母材部の割れを抑制することができる。
【0079】
(7)本開示の第7の態様に係る肉盛溶接方法は、(6)の肉盛溶接方法であって、前記領域が、肉盛溶接部12の一部を鋼材が露出しないように除去した領域である。
【0080】
このようにすることで、肉盛溶接部12の欠陥部を除去した状態で補修をすることができる。
【0081】
(8)本開示の第8の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)~(7)のいずれか1つの肉盛溶接方法であって、コバルト基合金溶接材料22が、肉盛溶接部12の形成に用いられた材料と同じである。
【0082】
このようにすることで、肉盛溶接部12との補修溶接部の成分の差を小さくすることができる。
【0083】
(9)本開示の第9の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)~(8)のいずれか1つの肉盛溶接方法であって、鋼材11が9Cr系ステンレス鋼または12Cr系ステンレス鋼である。
【0084】
このようにすることで、部材10が優れた常温特性および高温特性を得ることができる。
10 部材、11 鋼材、12 肉盛溶接部、13 溶融池、15 除去領域、21 共金系溶接材料、22 コバルト基合金溶接材料、50 溶接用トーチ、51 電極、52 ノズル
共金系溶接材料21は鋼材11と化学組成が同じであるものを用意した。コバルト基合金溶接材料22は、肉盛溶接部12の形成に用いたCo:55質量%、Cr:25質量%、Ni:3質量%の溶接棒を用意した。コバルト基合金溶接材料22と共金系溶接材料21はともに棒状であり、コバルト基合金溶接材料22の直径と共金系溶接材料21の直径の比(コバルト基合金溶接材料22の直径:共金系溶接材料21の直径)=60:40とした。また、共金系溶接材料21は、コバルト基合金溶接材料22と治具で固定した。まず、部材10表面の肉盛溶接部12の一部を鋼材11に達しないように除去し除去領域15を形成した。次に、ガスバーナで、200~300℃で除去領域15を加熱した。除去領域15は、PMI検査用の蛍光X線測定装置で鋼材11が露出していないことを確認した。
(4)本開示の第4の態様に係る肉盛溶接方法は、(1)~(3)のいずれか1つの肉盛溶接方法であって、共金系溶接材料21がコバルト基合金溶接材料22と接触した状態で、前記溶融池13に挿入させる。