(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027376
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】藻類の選択的成長促進剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20240222BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240222BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240222BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01G33/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130137
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】狩野 朋未
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】山田 厚
【テーマコード(参考)】
2B026
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026AC02
2B026AC06
2B026EB01
4H011AB03
4H011BB18
4J038DL031
4J038HA066
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA12
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】藻場を再生するに際して、再生後の藻場を所望の藻類の繁殖に適した藻場とすることが可能な、藻類の選択的な成長促進効果を示す薬剤を提供すること。
【解決手段】希土類フェライトを含む、藻類の選択的成長促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類フェライトを含む、藻類の選択的成長促進剤。
【請求項2】
前記希土類フェライトが、下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.50以上1.00未満の数である。)
で表される組成を有する、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項3】
前記式(1)中のxが0.65以上0.85以下の数である、請求項2に記載の成長促進剤。
【請求項4】
前記希土類フェライトがランタンフェライトである、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項5】
前記式(1)中のLnがランタンである、請求項2に記載の成長促進剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の成長促進剤、樹脂、及び溶媒を含む、藻類の選択的成長促進剤分散液。
【請求項7】
塗料、インキ、又は処理液である、請求項6に記載の成長促進剤分散液。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の成長促進剤を含む塗膜を有する、藻類の選択的成長促進物品。
【請求項9】
海苔網又は人工藻礁である、請求項8に記載の成長促進物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の藻類の付着及び成長を促進するための、選択的成長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
藻場は、多種多様な水生生物の生存場所となり、海水の浄化に寄与し、海岸線を保全する等、海岸及び近海の環境の維持に大きな役割を果たしている。
【0003】
しかしながら、我が国では沿岸地域の開発、「磯焼け」等により、藻場が急速に減少しつつある。開発に起因する藻場の減少原因は、例えば、埋め立て、海水の透明度の低下、海への化学物質の流入等である。「磯焼け」とは、海流の変化による水温の変化、湧昇流の減少による栄養塩濃度の低下等が原因となって、藻類の生産力が低下することをいう。
【0004】
減少した藻場を再生するため、種々の取り組みがなされている。例えば、特許文献1には、アンカー杭と、アンカー杭の上部に装着された腕部と、腕部に取り付けられた人工海藻とから成る、人工藻場育成装置が提案されている。特許文献2には、海中又は海底に設置された延縄に、生分解性プラスチックを裁断した人工浮藻を固定して成る、延縄式人工浮藻が提案されている。
【0005】
一方、船舶、護岸、漁網等の分野では、藻の発生を防止する必要がある。このような目的のために、特許文献3では、特定の組成を有する希土類フェライトに防藻効果があることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-135828号公報
【特許文献2】特開2005-237357号公報
【特許文献3】国際公開第2021/193644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2の技術は、藻場が生成し得る環境を人工的に整えた後は、藻場の再生を海の自然治癒力に委ねるものである。この場合、再生される藻場は、必ずしも当該地域の目的に適うものになるとは限らない。
【0008】
本発明の目的は、藻場を所望の藻類の繁殖に適した藻場とすることが可能な、藻類の選択的な成長促進効果を示す薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
【0010】
《態様1》希土類フェライトを含む、藻類の選択的成長促進剤。
《態様2》前記希土類フェライトが、下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.50以上1.00未満の数である。)
で表される組成を有する、態様1に記載の成長促進剤。
《態様3》前記式(1)中のxが0.65以上0.85以下の数である、態様2に記載の成長促進剤。
《態様4》前記希土類フェライトがランタンフェライトである、態様1に記載の成長促進剤。
《態様5》前記式(1)中のLnがランタンである、態様2に記載の成長促進剤。
《態様6》態様1~5のいずれか一項に記載の成長促進剤、樹脂、及び溶媒を含む、藻類の選択的成長促進剤分散液。
《態様7》塗料、インキ、又は処理液である、態様6に記載の成長促進剤分散液。
《態様8》態様1~5のいずれか一項に記載の成長促進剤を含む塗膜を有する、藻類の選択的成長促進物品。
《態様9》海苔網又は人口藻礁である、態様8に記載の成長促進物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の藻類の選択的成長促進剤は、紅藻の付着及び成長を抑制しつつ、緑藻の付着及び成長を促進する効果を有する。したがって、人工藻場に本発明の選択的成長促進剤を適用すると、所望の藻類の繁殖に適した藻場とすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《藻類の選択的成長促進剤》
本発明の藻類の選択的成長促進剤は、希土類フェライトを含む。
【0013】
希土類フェライトは、例えば下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.50以上1.00未満の数である。)
で表される組成を有するものであってよい。
【0014】
上掲特許文献3では、下記式(1)で表される組成の希土類フェライトは、優れた防藻効果を示す防藻剤として機能すると説明されている。しかしながら、本発明者らの検討によると、この希土類フェライトは、紅藻の付着及び成長を抑制しつつ、緑藻の付着及び成長を促進する効果を有することが確認された。
【0015】
本発明の希土類フェライトは、上記式(1)中のxが、0.50以上1.00未満の数である限り、どのような形態であってもよい。例えば、全体が均一な組成である固溶体を形成していてもよいし、LnFeO3相とLn2O3相との混合物であってもよいし、均一組成の固溶体とLnFeO3相とLn2O3相との混合物であってもよいし、これら以外の相を含んでいてもよい。また、Ln2O3相の一部又は全部がLn(OH)3に変換されていてもよく、このような態様も、本発明に包含される。
【0016】
式(1)中のxは、0.50以上であり、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、又は0.75以上であってもよい。xは、1.00未満であり、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、又は0.60以下であってもよい。
【0017】
上記式(1)中のxは、典型的には、例えば、0.50以上0.90以下の数であってよく、更には、更には、0.65以上0.85以下であってよく、特には、0.70以上0.80以下の数であってよい。
【0018】
式(1)中の希土類(Ln)は、紅藻の付着及び成長の抑制効果、及び緑藻の付着及び成長の促進効果、並びにコストの観点から、特に、ランタンであってよい。したがって本発明の藻類の選択的成長促進剤は、ランタンフェライト粒子であってよい。
【0019】
本発明の選択的成長促進剤の粒径は、ハンドリング性の観点からは、大きい方が好適である。この観点からは、粒径は、例えば、0.5μm以上、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、又は10μm以上であってよい。一方で、質量当たりの表面積を高めること、本発明の選択的成長促進剤を塗料として物品に塗布して用いるときの粒子の脱落を防止すること、等の観点からは、粒径は小さい方が好適である。この観点からは、粒径は、例えば、15μm以下、12μm以下、10μm以下、又は8.0μm以下であってよい。
【0020】
《藻類の選択的成長促進剤の製造方法》
本発明の選択的成長促進剤の製造方法は、特に限定されるものではない。
【0021】
しかし、本発明の選択的成長促進剤は、例えば、希土類源と鉄源とを所定の割合で含有する混合物に、適当な応力を印加して粉砕混合した後に、焼成することにより、行われてよい。所望により、焼成後に水処理を行ってもよい。
【0022】
希土類源としては、例えば、所望の希土類元素の酸化物を使用してよい他、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム等を使用してよい。希土類元素としては、得られる希土類フェライト粒子の抗菌性、及びコストの観点から、ランタンを用いることが好ましい。中でも、La2O3を用いれば、効果が高く、比較的コストが安価な選択的成長促進剤を製造することができる。
【0023】
鉄源としては、FeO、Fe3O4、Fe2O3等の酸化物;FeOOH、フェリヒドライト、シュベルマンライト等のオキシ酸化物;Fe(OH)2、Fe(OH)3等の水酸化物;等を使用してよい。これらの中で、鉄源としてFeOOHを用いれば、Fe2O3等と比較して反応性が高いため、低温での焼成が可能となり、また、Fe2O3等と比較して粒経の小さい選択的成長促進剤を製造することができる。
【0024】
希土類源と鉄源との使用割合は、所望の選択的成長促進剤についての式(1)中のxの値に適合するように、適宜に定められてよい。
【0025】
粉砕混合は、乾式粉砕であっても、湿式粉砕であってもよい。この粉砕において希土類源と鉄源との混合物に印加される応力は、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。
【0026】
上述の応力を印加する方法としては、例えば、ボールミル中で湿式粉砕する方法等が挙げられる。粉砕を湿式粉砕にて実施する場合には、液状媒体として、例えば、水、アルコール等を使用してよい。希土類源と鉄源との混合物を湿式粉砕によって粉砕混合した後は、必要に応じて、加熱乾燥等の適宜の方法によって液状媒体が除去されてよい。
【0027】
焼成温度及び焼成時間は、特に限定されるものではなく、それぞれ、適宜に設定することができる。
【0028】
焼成温度は、例えば、700℃以上、800℃以上、900℃以上、又は1,000℃以上、かつ、例えば、1,300℃以下、1,200℃以下、1,100℃以下、又は1,000℃以下の温度において、実施してよい。
【0029】
焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、又は15時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、又は15時間以下の時間で、実施してよい。
【0030】
焼成時の周囲雰囲気は、酸化性雰囲気であってよく、例えば、空気中で焼成してよい。
【0031】
上記のようにして、希土類フェライトが得られる。この希土類フェライトを、そのまま本発明の選択的成長促進剤として用いてもよいし、希土類フェライトに水処理を施したうえで、本発明の選択的成長促進剤として用いてもよい。
【0032】
希土類フェライトの水処理は、希土類フェライトを水と接触させる適宜の方法によって行われてよい。例えば、以下の接触方法によってよい。
希土類フェライトに、液体の水を加えて接触させ、必要に応じて撹拌した後、接触後の水を除去する方法、
希土類フェライトに、水蒸気を供給して接触させる方法、等。
【0033】
希土類フェライトと、液体の水との接触は、例えば、0℃以上、10℃以上、又は20℃以上、かつ、100°以下、60℃以下、又は40℃以下の温度において行われてよい。この方法は、繰り返して行われてもよい。この場合、処理後の水の導電率が、精製水の導電率と同じになるまで、繰り返して行われてよい。
【0034】
希土類フェライト物と、水蒸気との接触は、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上、かつ、200°以下、160℃以下、又は140℃以下の温度において行われてよい。
【0035】
希土類フェライトの水処理において、液体の水との接触と、水蒸気との接触とを組み合わせて行ってもよい。
【0036】
水処理後、処理物を本発明の選択的成長促進剤として用いる前に、所望により、適宜の乾燥を行ってもよい。この乾燥は、例えば、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上、かつ、200°以下、160℃以下、又は140℃以下の温度において、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、又は8時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、24時間以下、又は18時間以下の時間で、行われてよい。
【0037】
得られた選択的成長促進剤は、必要に応じて、粉砕して粒度を調製した後に、使用に供されてよい。
【0038】
《藻類の選択的成長促進剤分散液》
本発明の別の観点によると、藻類の選択的成長促進剤分散液が提供される。
【0039】
本発明の成長促進剤分散液は、本発明の成長促進剤、樹脂、及び溶媒を含み、更に分散剤を含んでいてよい。
【0040】
本発明の成長促進剤分散液に含まれる成長促進剤は、本発明の成長促進剤であり、上記の説明をそのまま援用できる。
【0041】
本発明の成長促進剤分散液に含まれる樹脂は、物品の表面上に塗膜を形成し、成長促進剤の粒子を物品に固定するためのバインダーとして機能する。樹脂は、成長促進剤分散液の溶媒に溶解するか、又は分散性のよいものであってよい。
【0042】
樹脂は、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等から選択されてよい。
【0043】
分散剤は、例えば、アクリル酸系、カルボン酸系、スルホン酸系、アンモニウム塩系等の公知の分散剤から適宜に選択されてよい。分散剤として、具体的には、特に、アクリル系共重合体のアンモニウム塩、酸基を有する共重合体のアルキロールアンモニウム塩であってよい。
【0044】
溶媒は、例えば、水、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、芳香族炭化水素等から選択される1種又は2種以上であってよい。
【0045】
本発明の成長促進剤分散液における成長促進剤の含有量は、選択的成長促進機能と塗膜形成性とのバランスをとる観点から、成長促進剤分散液の総固形分含量を100質量%としたときに、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってよい。
【0046】
本発明の成長促進剤分散液において、成長促進剤及び樹脂の合計質量に対する希土類フェライト粒子の割合は、選択的成長促進機能と、塗膜への成長促進剤の良好な固着性とのバランスをとる観点から、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、又は20質量%以上であってよく、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0047】
本発明の成長促進剤分散液は、例えば、適宜の物品に塗布されることにより、藻類の選択的成長促進物品を形成し得る。したがって、成長促進剤分散液は、例えば、塗料、インキ、処理液等の形態であってよい。
【0048】
《藻類の選択的成長促進物品》
本発明の更に別の観点によると、藻類の選択的成長促進物品が提供される。
【0049】
本発明の成長促進物品は、成長促進剤を含む塗膜を有する物品である。この塗膜は、任意の物品の表面上の少なくとも一部に形成されていてよい。
【0050】
本発明の成長促進物品における塗膜は、本発明の成長促進剤の他に、樹脂、分散剤等を含んでいてよい。これらの樹脂及び分散剤は、それぞれ、本発明の成長促進剤分散液に含まれる樹脂及び分散剤から、適宜に選択されてよい。本発明成長促進物品の塗膜における、成長促進剤、樹脂、及び分散剤の使用割合も、本発明の成長促進剤分散液における使用割合と同様であってよい。
【0051】
本発明の成長促進物品は、例えば、海苔網、人工藻礁等であってよい。
【実施例0052】
《実施例1》
(1)成長促進剤の合成
粉砕メディアとして10mmΦのアルミナ球を使用するボールミル中に、0.4モル部のLa2O3及び0.2モル部のFeOOH(La:Fe=80:20(モル比))、並びに水を仕込み、5時間粉砕混合した。得られた粉砕物を、300℃にて15時間乾燥した後、回転式粗砕機で解砕した。得られた解砕物を、1,000℃にて15時間焼成した後、ハンマーミルで解砕して解砕物を得た。
【0053】
次いで、解砕物の水処理を行った。この水処理では、得られた解砕物を洗浄タンク内に投入し、精製水を投入して撹拌後、処理後の水をろ過により除去し、次いで新たな精製水を加えて撹拌及びろ過を繰り返す方法により行った。そして、処理後の水と精製水とが同じ導電率となった時点を水処理の終点とした。
【0054】
水処理後の解砕物を、130℃にて15時間乾燥した後、再度ハンマーミルで解砕することにより、実施例1の成長促進剤を得た。
【0055】
(2)試験用塗料の調製
バッセル化学(株)製の薬剤フリーシリコーン塗料、品名「SSガード」に、上記で合成した成長促進剤を、塗膜中の成長促進剤濃度が30質量%となるように添加し、更に、キシレンを加えて塗料固形分が45重量%となるように希釈して、よく撹拌することにより、試験用塗料を調製した。
【0056】
(3)試験網の作製
市販のポリエチレン製の海苔網を、上記で調製した試験用塗料に浸漬した後、常温にて1日(24時間)静置して乾燥することにより、試験網を作製した。
【0057】
(4)藻類成長試験
試験網を、鹿児島県沖合の潮流が穏やかな海中に設置し、設置後26日目、64日目、115日目、及び153日目に、それぞれ、緑藻及び紅藻の付着状況を調べた。この試験は、11月末から翌年の4月初めにかけて行った。藻類の付着状況は、試験網の面積を100%とした場合の各藻の付着面積で表した。結果を表1に示す。
【0058】
《比較例1》
成長促進剤を添加しないシリコーン塗料「SSガード」をそのまま試験用塗料とした他は、実施例1と同様にして試験網を作製し、藻類成長試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
《比較例2》
試験用塗料を塗布しない海苔網をそのまま試験網として、実施例1と同様に藻類成長試験を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示した結果から、以下のことが理解される。
【0062】
塗料を塗布していない比較例2の海苔網では、試験網設置64日目までは、緑藻の付着よりも紅藻の付着の方がやや優先する程度であったが、その後、紅藻が緑藻を駆逐し、153日目には試験網面積の95%に紅藻が付着している状態となった。また、シリコーン塗料のみを塗布した比較例1の試験網は、緑藻及び紅藻双方に対する付着防止効果が見られたが、特定の藻に対する成長促進効果は見られなかった。
【0063】
これらに対して、本発明の成長促進剤を含むシリコーン塗料を塗布した実施例1の試験網は、紅藻に対する付着防止効果とともに、緑藻に対する成長促進効果を示すことが確認された。