(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027380
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】情報処理装置および情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G07C 5/00 20060101AFI20240222BHJP
G06F 21/62 20130101ALI20240222BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240222BHJP
G10L 21/0332 20130101ALI20240222BHJP
【FI】
G07C5/00 Z
G06F21/62 354
G08G1/00 D
G10L21/0332
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130142
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福崎 進
【テーマコード(参考)】
3E138
5H181
【Fターム(参考)】
3E138AA01
3E138AA07
3E138GA02
3E138MA01
3E138MA10
3E138MB08
3E138MB09
3E138MC01
3E138MD05
3E138ME01
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB13
5H181CC04
5H181CC11
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
(57)【要約】
【課題】ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保すること。
【解決手段】実施形態に係るドライブレコーダ(「情報処理装置」の一例に相当)は、車両内外の映像データおよび音声データを記録するコントローラを備える。コントローラは、上記音声データにおける人の会話帯域(「人の会話の周波数帯域」の一例に相当)を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、不明瞭化された上記音声データを上記映像データとともに記録データとして記録する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内外の映像データおよび音声データを記録するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記音声データにおける人の会話の周波数帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、
不明瞭化された前記音声データを前記映像データとともに記録データとして記録する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記不明瞭化処理において前記人の会話の周波数帯域のレベルを低下させる、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記不明瞭化処理において前記音声データに対し前記人の会話の周波数帯域の逆位相データを合成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記不明瞭化処理において前記人の会話の周波数帯域における前記音声データの音量、音圧および周波数のうちの少なくともいずれかを変更する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記音声データに対し施された前記不明瞭化処理の態様を示す加工情報を記録する、
請求項1~4のいずれか一つに記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記記録データおよび前記加工情報を解析装置へ送信し、前記解析装置が前記記録データを解析するに際して前記解析装置に前記加工情報に基づいて前記音声データを明瞭化させる、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記コントローラは、
予め決められたイベントの発生を検知した場合に、前記イベントの発生時点前後の一定時間分について前記人の会話の周波数帯域が不明瞭化されていない前記音声データを記録する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
車両内外の映像データおよび音声データを記録する情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
前記音声データにおける人の会話の周波数帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行することと、
不明瞭化された前記音声データを前記映像データとともに記録データとして記録することと、
を含む、情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、情報処理装置および情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される通信型のドライブレコーダが知られている。ドライブレコーダは、たとえば通常は映像データおよび音声データを含む記録データを上書き可能な常時記録方式で繰り返し上書きしながら記録する。
【0003】
また、ドライブレコーダは、たとえば事故等のイベント発生時には、上書き禁止のイベント記録方式でイベント発生時点前後の一定時間分の記録データを記録するとともに、当該記録データをデータセンタ等のサーバ装置へ送信する。サーバ装置は、ドライブレコーダから送信された記録データに基づいて事故等の解析を行うこととなる。
【0004】
なお、ドライブレコーダは、ユーザのプライバシー保護の観点から、車室内の音声データの記録機能を無効にすることができる。ただし、音声データの記録機能を無効にしていると、イベント発生時の記録データにも音声データが含まれないため、サーバ装置が十分な解析を行えないおそれがある。そこで、イベント記録方式での記録データについてのみ音声データが含まれるように記録データを記録する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術には、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保するうえで、さらなる改善の余地がある。
【0007】
たとえば、上述した従来技術を用いた場合、サーバ装置はイベント発生時点前後の一定時間分の音声データしか入手できず、解析に十分な記録データを得られないおそれがある。
【0008】
また、5G(5th Generation)をはじめとする高速大容量通信技術の発達に伴い、ドライブレコーダは、常時記録方式の記録データをリアルタイムにサーバ装置へ送信するようになる可能性も高いと考えられる。そうした場合、上述した従来技術を用いては、サーバ装置はイベント非発生時の音声データを解析することはできない。
【0009】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保することができる情報処理装置および情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の一態様に係る情報処理装置は、車両内外の映像データおよび音声データを記録するコントローラを備える。前記コントローラは、前記音声データにおける人の会話の周波数帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、不明瞭化された前記音声データを前記映像データとともに記録データとして記録する。
【発明の効果】
【0011】
実施形態の一態様によれば、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るデータ記録方法の概要説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るデータ記録システムの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るドライブレコーダの構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る不明瞭化処理の一例を示す図(その1)である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る不明瞭化処理の一例を示す図(その2)である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る不明瞭化処理の一例を示す図(その3)である。
【
図7】
図7は、変形例に係る記録処理の説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るサーバ装置の構成例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るデータ記録システムが実行する処理シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する情報処理装置および情報処理方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
また、以下では、実施形態に係る情報処理装置が、車両に搭載される通信型のドライブレコーダ10である場合を例に挙げて説明を行う。また、以下では、実施形態に係る情報処理方法がドライブレコーダ10の実行するデータ記録方法であるものとする。
【0015】
まず、実施形態に係るデータ記録方法の概要について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係るデータ記録方法の概要説明図である。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係るデータ記録システム1は、ドライブレコーダ10と、サーバ装置100とを有する。ドライブレコーダ10は、車両に搭載される通信型のデータ記録装置である。
【0017】
ドライブレコーダ10は、車両の起動中に、ドライブレコーダ10の有するカメラによって撮影した車両内外の映像データやマイクによって収音した音声データを含む記録データを繰り返し上書きしながら常時記録方式で記録することができる。
【0018】
また、ドライブレコーダ10は、車両の起動中に、事故やヒヤリ・ハット等の特定のイベント発生を検知した場合に、イベント発生時点の前後一定時間分の記録データを上書き禁止の不揮発性記録であるイベント記録方式で記録することができる。ドライブレコーダ10は、たとえばドライブレコーダ10の有するGセンサによって予め決められた閾値以上の加速度が測定された場合をイベント発生として検知する。
【0019】
また、ドライブレコーダ10は、このイベント記録方式での記録と同時に、当該記録データをサーバ装置100へ送信することができる。サーバ装置100は、ドライブレコーダ10によって記録された記録データを解析する解析装置の一例に相当する。サーバ装置100は、たとえばクラウドサーバとして実現され、車両から送信された記録データに基づいて事故等のイベント発生時の車両の状況を解析する。
【0020】
ところで、既に述べた通り既存技術には、ユーザの車室内の会話等のプライバシー保護の観点からイベント記録方式での記録データについてのみ音声データが含まれるように記録データを記録するものがある。ただし、この既存技術を用いた場合、サーバ装置100はイベント発生時点前後の一定時間分の音声データしか入手できず、解析に十分な記録データを得られないおそれがある。
【0021】
また、5Gをはじめとする高速大容量通信技術の発達に伴い、ドライブレコーダ10は、常時記録方式の記録データをリアルタイムにサーバ装置100へ送信するようになる可能性も高いと考えられる。そうした場合、上述した既存技術を用いては、サーバ装置100はイベント非発生時の音声データを解析することはできない。
【0022】
そこで、実施形態に係るデータ記録方法では、ドライブレコーダ10の有するコントローラ14(
図3参照)が、音声データにおける人の会話帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、不明瞭化された音声データを映像データとともに記録データとして記録することとした。
【0023】
具体的には、
図1に示すように、ドライブレコーダ10のコントローラ14は、まずカメラによって撮影された映像データおよびマイクによって収音された音声データを取得する(ステップS1)。
【0024】
そして、コントローラ14は、取得した音声データにおける人の会話の周波数帯域(以下、適宜「人の会話帯域」と言う)を不明瞭化する(ステップS2)。ここに言う「不明瞭化」は、人の会話帯域に相当する音声が聞き取りにくくなるように音声データを加工することを指す。
【0025】
一般に、人の会話帯域は、0.25~4kHz程度と言われている。コントローラ14は、かかる人の会話帯域について、たとえばレベルを低下させることによって不明瞭化する。レベルは音量レベルや音圧レベル等である。
【0026】
また、コントローラ14は、収音した音声データから人の会話帯域を抽出し、当該帯域の逆位相データを合成することで、人の会話帯域を不明瞭化する。
【0027】
また、コントローラ14は、たとえばマイクで収音した音声データを暗号化することで、人の会話帯域を不明瞭化する。
【0028】
そして、コントローラ14は、ステップS1で取得した映像データとともに、ステップS2で不明瞭化した音声データを記録データとして記録する(ステップS3)。また、コントローラ14は、記録した記録データを常時あるいは特定のイベント発生時にサーバ装置100へ送信する(ステップS4)。
【0029】
そして、サーバ装置100は、ドライブレコーダ10から送信された記録データを解析する。このとき、サーバ装置100は、必要に応じて音声データを明瞭化し、記録データを解析する(ステップS5)。
【0030】
サーバ装置100は、たとえば人の会話帯域についてレベルを低下させることによって不明瞭化された音声データについては、当該帯域についてレベルを上昇させることで音声データを明瞭化する。
【0031】
また、サーバ装置100は、たとえば暗号化されることによって不明瞭化された音声データについては、復号化することで音声データを明瞭化する。
【0032】
このように、実施形態に係るデータ記録方法では、車両内外の映像データおよび音声データを記録するコントローラ14が、上記音声データにおける人の会話帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、不明瞭化された上記音声データを上記映像データとともに記録データとして記録する。
【0033】
つまり、実施形態に係るデータ記録方法によれば、音声データについて人の会話帯域を不明瞭化することでユーザのプライバシーを保護することができる。また、たとえば人の会話帯域についてレベルを低下させた帯域のレベルを上昇させたり、暗号化した帯域を復号化したりすることによって、不明瞭化された音声データについては必要に応じて明瞭化することで解析を行うことが可能となる。
【0034】
なお、逆位相データを合成することで人の会話帯域が不明瞭化された音声データについては復元することはできないが、人の会話帯域以外の部分は通常の録音状態となるので少なくとも当該部分を用いた解析は可能となる。したがって、実施形態に係るデータ記録方法によれば、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保することができる。
【0035】
以下、上述した実施形態に係るデータ記録方法を適用したデータ記録システム1の構成例について、より具体的に説明する。
【0036】
図2は、実施形態に係るデータ記録システム1の構成例を示す図である。データ記録システム1は、1以上のドライブレコーダ10と、サーバ装置100とを含む。
【0037】
各ドライブレコーダ10と、サーバ装置100とは、インターネットや携帯電話回線網、C-V2X(Cellular Vehicle to Everything)通信網等であるネットワークNを介して相互に通信可能に接続される。
【0038】
サーバ装置100は、上述したように、たとえばクラウドサーバとして実現される。サーバ装置100は、たとえばデータ記録システム1を運営する事業者によって管理される。サーバ装置100は、ドライブレコーダ10から転送された記録データに基づいて各車両の状況を解析する。また、サーバ装置100は、解析した解析結果に基づく各種のクラウドサービスを提供する。
【0039】
サーバ装置100は、たとえば解析結果に基づいて警報やガイダンス、ナビゲーション情報等を通知する運転支援サービスを各車両に対し提供する。また、サーバ装置100は、たとえば事故発生時の状況の解析結果を保険会社等へ提供する。また、サーバ装置100は、たとえばヒヤリ・ハットの統計結果に基づく教育資料等を運送事業者等へ提供する。
【0040】
次に、ドライブレコーダ10の構成例について説明する。
図3は、実施形態に係るドライブレコーダ10の構成例を示すブロック図である。なお、
図3および後に示す
図8では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0041】
換言すれば、
図3および
図8に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0042】
また、
図3および
図8を用いた説明では、既に説明済みの構成要素については、説明を簡略するか、説明を省略する場合がある。
【0043】
図3に示すように、実施形態に係るドライブレコーダ10は、センサ部11と、通信部12と、記憶部13と、コントローラ14とを有する。
【0044】
センサ部11は、ドライブレコーダ10に搭載される各種のセンサ群である。センサ部11は、たとえばカメラ11aと、マイク11bと、Gセンサ11cとを含む。センサ部11は、この他にもGPS(Global Positioning System)センサ等の各種のセンサを含んでもよい。
【0045】
カメラ11aは、1以上設けられる。カメラ11aは、フロントガラス付近やリアガラス付近、ダッシュボード付近等の車両の各所に取り付けられ、車両内外の予め決められた撮影領域を撮影可能に設けられる。
【0046】
マイク11bは、1以上設けられる。マイク11bは、車両内外の音声を収音する。マイク11bは車室内の各席への指向性を有する指向性マイクであってもよいし、無指向性マイクであってもよい。Gセンサ11cは、車両にかかる加速度を測定する。
【0047】
通信部12は、ネットワークアダプタ等によって実現される。通信部12は、ネットワークNと無線で接続され、ネットワークNを介して、サーバ装置100との間で情報の送受信を行う。
【0048】
記憶部13は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の記憶デバイスによって実現される。記憶部13は、
図3の例では、バッファリングデータ情報13aと、記録データ情報13bとを記憶する。記録データ情報13bは、「記録データ」の一例に相当する。
【0049】
バッファリングデータ情報13aは、後述する取得部14aによって取得された直近の一定時間分の映像データおよび不明瞭可処理前の生の音声データが一時的に繰り返し保存される。
【0050】
記録データ情報13bは、カメラ11aによって撮影された映像データ、および、マイク11bによって収音された後に人の会話帯域が不明瞭化された音声データを含む記録データ群が格納される。各記録データは、後述する記録部14cによって記録される。
【0051】
また、記録データ情報13bは、記録データのうちの音声データに対し施された不明瞭化処理の態様を示す加工情報を含む。当該加工情報は、たとえば人の会話帯域を示す情報や、後述する暗号化の鍵に関する情報等を含む。加工情報は、たとえば後述する不明瞭化部14bによって記録される。
【0052】
コントローラ14は、いわゆるプロセッサに相当する。コントローラ14は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、記憶部13に記憶されている図示略の各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、コントローラ14は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現することができる。
【0053】
コントローラ14は、取得部14aと、不明瞭化部14bと、記録部14cと、検知部14dと、送信部14eとを有し、以下に説明する情報処理の機能や作用を実現または実行する。
【0054】
取得部14aは、センサ部11から映像データおよび音声データを含む各種のセンサデータを取得する。また、取得部14aは、取得した直近の一定時間分の映像データおよび音声データをバッファリングデータ情報13aへ一時的に繰り返し保存する。また、取得部14aは、取得した映像データを記録部14cへ出力する。また、取得部14aは、取得した音声データを不明瞭化部14bへ出力する。
【0055】
不明瞭化部14bは、取得部14aによって取得された音声データにおける人の会話帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行する。不明瞭化処理の概要については既に述べたが、ここで
図4~
図6を用いて不明瞭化処理について具体的に説明する。
【0056】
図4~
図6は、実施形態に係る不明瞭化処理の一例を示す図(その1)~(その3)である。
図4に示すように、不明瞭化部14bは、たとえば音声データにおける人の会話帯域のレベルを低下させることによって人の会話帯域を不明瞭化する。
【0057】
説明を分かりやすくするために、
図4では当該処理をグラフィックイコライザのイメージで模式的に表している。
図4の上段に示すように、生の音声データでは、たとえば音量レベルは各周波数帯域を通じてフラットである。
【0058】
この生の音声データに対し、不明瞭化部14bは、
図4の下段に示すように人の会話帯域に相当する帯域の音量レベルを低下させる加工を行う。これにより、記録される記録データの音声データにおける人の会話部分を聞き取りにくくすることができる。
【0059】
一方で、当該処理が行われた音声データを解析する必要がある場合、サーバ装置100は、該当の音声データについて人の会話帯域の音量レベルを上昇させる加工を行う。なお、このとき、周波数帯域の分解能によっては、音量レベルを上昇させるだけでは人の会話部分を聞き取れるほどに音声データを復元できない可能性がある。このため、不明瞭化部14bは、人の会話帯域のレベルを低下させる前に、生の音声データに対し、音声データを高音質化する高音質化処理を施しておくことが望ましい。
【0060】
また、
図5に示すように、不明瞭化部14bは、たとえば2つのマイク#1,#2(いずれもマイク11bに相当)を用い、マイク#1で収音した音声データに対してマイク#2で収音した音声データの逆位相データを合成することで、人の会話帯域を不明瞭化する。したがって、この場合、少なくともマイク#2は車室内で人の会話を収音可能に設けられる。
【0061】
つまり、
図5の例では、不明瞭化部14bは、いわゆるノイズキャンセリングにおける「ノイズ」に相当する帯域部分を人の会話帯域に置き換えた加工を行う。当該加工が行われた音声データは、生の音声データから人の会話部分が抜き取られて当該会話部分以外の音声のみが聞こえる言わばカラオケのような音声データとなる。
【0062】
なお、
図5の例の場合、サーバ装置100は、解析にあたり不明瞭化された人の会話帯域を復元することはできないが、人の会話帯域以外の部分は通常の録音状態となるので少なくとも前述のカラオケに相当する当該部分を用いた解析は可能となる。
【0063】
また、
図6に示すように、不明瞭化部14bは、たとえばマイク11bで収音した音声データを暗号化することで、人の会話帯域を不明瞭化する。この場合、サーバ装置100は、解析にあたり、暗号化された音声データを復号化することによって復元する。
【0064】
このとき、復号化のための鍵が必要となるが、サーバ装置100は、たとえばドライブレコーダ10から送信される共通鍵や予め決められた公開鍵等を用いることによって音声データを復号化する。
【0065】
なお、サーバ装置100は、たとえばドライブレコーダ10で記録された記録データの再生専用のソフトウェアを用意しておき、当該ソフトウェアが再生時に暗号化された音声データを復号化できるように設けられていてもよい。
【0066】
図4~
図6に示した例はあくまで一例である。これらの他にも、不明瞭化部14bは、たとえば深層学習等の機械学習のアルゴリズムを用いて生の音声データから人の会話帯域を不明瞭化するように学習された学習モデルによって不明瞭化処理を実行するようにしてもよい。また、不明瞭化部14bは、たとえば音声データにおける人の会話帯域を非可聴域へシフトすることによって不明瞭化処理を実行するようにしてもよい。
【0067】
図3の説明に戻る。不明瞭化部14bは、不明瞭化処理によって人の会話帯域を不明瞭化した音声データを記録部14cへ出力する。記録部14cは、人の会話帯域が不明瞭化された音声データを映像データとともに記録データ情報13bとして常時記録方式あるいはイベント記録方式で記憶部13へ記録する。
【0068】
記録部14cは、後述する検知部14dによって特定のイベントの発生が検知された場合に、イベント記録方式で記録データ情報13bを記憶部13へ記録する。なお、本実施形態の場合、記録部14cは通常、常時記録方式およびイベント記録方式のいずれにおいても不明瞭化処理が施された音声データを記録するが、イベント記録方式においては不明瞭化なしの音声データを記録するようにしてもよい。
【0069】
図7は、変形例に係る記録処理の説明図である。
図7に示すように、記録部14cは、イベント発生時点前後の一定時間分(図中の時点T-n~時点T+n参照)の記録データをイベント記録方式で記録する。このとき、記録部14cは、
図7に示すように、当該時間分の記録データについては不明瞭化なしの音声データが含まれるように記録するようにしてもよい。この場合、記録部14cは、当該記録データをバッファリングデータ情報13aから取得して記録することとなる。
【0070】
図7の例の場合、サーバ装置100は、当該時点T-n~時点T+nの記録データについては解析にあたり音声データの明瞭化を行う必要がない。これにより、サーバ装置100が解析処理を行うに際しての処理負荷を軽減することができる。また、サーバ装置100は、解析にあたり当該時点T-n~時点T+nの記録データの前後の記録データが必要な場合は、該当する記録データをドライブレコーダ10から取得して当該記録データについては音声データを明瞭化すればよい。
【0071】
図3の説明に戻る。検知部14dは、取得部14aによって取得されたセンサデータに基づいて事故やヒヤリ・ハット等に該当する特定のイベントの発生を検知する。
【0072】
検知部14dは、たとえばGセンサ11cによって測定された加速度が予め決められた閾値以上である場合をイベント発生として検知する。また、検知部14dは、イベント発生を検知した場合に、当該イベントの発生を記録部14cへ通知してイベント記録方式で記録データを記録させる。また、検知部14dは、イベント発生を検知した場合に、当該イベントの発生を送信部14eへ通知して、記録部14cによってイベント記録方式で記録された記録データを送信部14eにサーバ装置100へ向けて送信させる。
【0073】
送信部14eは、検知部14dによってイベントの発生が検知された場合に、記録部14cによってイベント記録方式で記録された記録データを記録データ情報13bから抽出し、通信部12を介し、サーバ装置100へ向けて送信する。
【0074】
また、送信部14eは、たとえば通信環境やデータ記録システム1の処理能力が記録データの常時送信を許容可能であれば、記憶部13へ記録される記録データ情報13bをリアルタイムにサーバ装置100へ向けて送信する。
【0075】
また、送信部14eは、記録データとともに当該記録データに対応する音声データの加工情報をサーバ装置100へ送信する。
【0076】
次に、サーバ装置100の構成例について説明する。
図8は、実施形態に係るサーバ装置100の構成例を示すブロック図である。
【0077】
図8に示すように、実施形態に係るサーバ装置100は、通信部101と、記憶部102と、コントローラ103とを有する。
【0078】
通信部101は、上述の通信部12と同様にネットワークアダプタ等によって実現される。通信部101は、ネットワークNと有線または無線で接続され、ネットワークNを介して、各ドライブレコーダ10との間で情報の送受信を行う。
【0079】
記憶部102は、ROM、RAM、フラッシュメモリ等の記憶デバイスや、ハードディスク、光ディスク等のディスク装置によって実現される。記憶部102は、
図8の例では、収集情報DB(Database)102aと、解析モデル102bとを記憶する。
【0080】
収集情報DB102aは、各ドライブレコーダ10から収集された記録データが格納されるデータベースである。
【0081】
解析モデル102bは、後述する解析部103bが各種の解析処理を実行する際に読み込まれるモデルである。解析モデル102bは、ドライブレコーダ10から取得する加工情報に応じて音声データを明瞭化する明瞭化処理のアルゴリズム等を含む。
【0082】
コントローラ103は、上述のコントローラ14と同様にいわゆるプロセッサに相当する。コントローラ103は、CPUやMPU等によって、記憶部102に記憶されている図示略の各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、コントローラ103は、ASICやFPGA等の集積回路により実現することができる。
【0083】
コントローラ103は、収集部103aと、解析部103bとを有し、以下に説明する情報処理の機能や作用を実現または実行する。
【0084】
収集部103aは、通信部101を介し、各ドライブレコーダ10から送信される記録データおよび加工情報を収集する。また、収集部103aは、収集した各データを収集情報DB102aへ格納する。
【0085】
解析部103bは、収集部103aによって収集された記録データを、解析モデル102bを用いて解析する。解析部103bは、解析に際し、各記録データに対応する加工情報に基づいて不明瞭化された音声データを明瞭化する。
【0086】
次に、データ記録システム1が実行する処理手順について説明する。
図9は、実施形態に係るデータ記録システム1が実行する処理シーケンスを示す図である。
【0087】
まず、ドライブレコーダ10のコントローラ14は、センサ部11から映像データおよび音声データを取得する(ステップS101)。そして、コントローラ14は、取得した音声データにおける人の会話帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行する(ステップS102)。
【0088】
そして、コントローラ14は、映像データおよび不明瞭化された音声データを含む記録データを記録する(ステップS103)。また、コントローラ14は、たとえばイベント発生の検知状態等に基づいて送信を要するか否かを判定する(ステップS104)。
【0089】
送信が不要の場合(ステップS104,No)、コントローラ14はステップS101からの処理を繰り返す。
【0090】
一方、送信を要する場合(ステップS104,Yes)、コントローラ14は、記録データおよび当該記録データに応じた加工情報をサーバ装置100へ送信する(ステップS105)。そして、コントローラ14は、ステップS101からの処理を繰り返す。
【0091】
また、サーバ装置100のコントローラ103は、ドライブレコーダ10から取得した記録データを解析するに際し、当該記録データにおける音声データの明瞭化を要するか否かをたとえば加工情報に基づいて判定する(ステップS106)。
【0092】
明瞭化を要する場合(ステップS106,Yes)、コントローラ103は、音声データを明瞭化する明瞭化処理を実行する(ステップS107)。明瞭化が不要の場合(ステップS106,No)、ステップS108へ遷移する。
【0093】
そして、コントローラ103は、必要に応じ音声データが明瞭化された記録データを解析する(ステップS108)。そして、サーバ装置100は、当該記録データの解析結果に応じた各種のクラウドサービスを提供することとなる。
【0094】
上述してきたように、実施形態に係るドライブレコーダ10(「情報処理装置」の一例に相当)は、車両内外の映像データおよび音声データを記録するコントローラ14を備える。コントローラ14は、上記音声データにおける人の会話帯域(「人の会話の周波数帯域」の一例に相当)を不明瞭化する不明瞭化処理を実行し、不明瞭化された上記音声データを上記映像データとともに記録データとして記録する。
【0095】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保することができる。
【0096】
また、コントローラ14は、上記不明瞭化処理において上記人の会話帯域のレベルを低下させる。
【0097】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、人の会話帯域の音量レベルや音圧レベルを低下させることによって、ユーザの車室内における会話内容を聞き取りにくくし、ユーザのプライバシーを保護することができる。
【0098】
また、コントローラ14は、上記不明瞭化処理において上記音声データに対し上記人の会話帯域の逆位相データを合成する。
【0099】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、いわゆるノイズキャンセリングにおけるノイズを人の会話帯域に置き換えた不明瞭化処理によって、ユーザの車室内における会話内容を聞き取りにくくし、ユーザのプライバシーを保護することができる。
【0100】
また、コントローラ14は、上記不明瞭化処理において上記人の会話帯域における上記音声データの音量、音圧および周波数のうちの少なくともいずれかを変更する。
【0101】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、人の会話帯域における音声データの音量、音圧および周波数のうちの少なくともいずれかを変更することでユーザの車室内における会話内容を聞き取りにくくし、ユーザのプライバシーを保護することができる。
【0102】
また、コントローラ14は、上記音声データに対し施された上記不明瞭化処理の態様を示す加工情報を記録する。
【0103】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、加工情報に基づいて簡便に不明瞭化された音声データを明瞭化させることが可能となる。
【0104】
また、コントローラ14は、上記記録データおよび上記加工情報をサーバ装置100(「解析装置」の一例に相当)へ送信し、サーバ装置100が上記記録データを解析するに際してサーバ装置100に上記加工情報に基づいて上記音声データを明瞭化させる。
【0105】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、サーバ装置100が記録データを解析するに際し、加工情報に基づいて簡便に不明瞭化された音声データを明瞭化したうえで詳細に解析させることが可能となる。
【0106】
また、コントローラ14は、予め決められたイベントの発生を検知した場合に、上記イベントの発生時点前後の一定時間分について上記人の会話帯域が不明瞭化されていない上記音声データを記録する。
【0107】
したがって、実施形態に係るドライブレコーダ10によれば、イベント発生時の記録データについてはサーバ装置100に音声データの明瞭化を行わせることなく記録データの解析を行わせることができる。
【0108】
また、実施形態に係るデータ記録方法は、車両内外の映像データおよび音声データを記録するドライブレコーダ10が実行する情報処理方法であって、上記音声データにおける人の会話帯域を不明瞭化する不明瞭化処理を実行することと、不明瞭化された上記音声データを上記映像データとともに記録データとして記録することと、を含む。
【0109】
したがって、実施形態に係るデータ記録方法によれば、ユーザのプライバシーを保護しつつ解析に有用となる情報をより確保することができる。
【0110】
なお、上述した実施形態では、不明瞭化処理の処理対象となる人の会話帯域が0.25~4kHz程度と説明したが、当該帯域を限定するものではない。人の会話帯域は、実験等を重ねて導出された固定値であってもよいし、車両に乗車するユーザの状況等に応じて可変する可変値であってもよい。
【0111】
たとえば、車両に乗車するユーザを認証し、認証されたユーザごとに予め登録された当該ユーザの声の周波数帯域を総合的に勘案して、不明瞭化処理の処理対象となる人の会話帯域を決定してもよい。
【0112】
また、男女の区別によって声の周波数帯域は変わるので、かかる男女の区別を考慮したうえで、たとえば車両に乗車する男女比等に基づいて不明瞭化処理の処理対象となる人の会話帯域を決定してもよい。
【0113】
また、言語圏の違いによっても人の声の周波数帯域は異なるので、たとえば車両のGPS位置情報から車両が存在する言語圏地域を特定し、特定した言語圏地域に基づいて不明瞭化処理の処理対象となる人の会話帯域を決定してもよい。
【0114】
また、上述した実施形態では、ドライブレコーダ10が情報処理装置の一例である場合を例に挙げたが、ドライブレコーダ10以外の1以上の車載装置によって、ドライブレコーダ10と同等の機能を実現する情報処理装置を構成するようにしてもよい。
【0115】
たとえば、車両にドライブレコーダ10が搭載されていない場合に、車両に搭載された車載カメラ、車載マイク、および、通信型のナビゲーション装置等を組み合わせることによって、ドライブレコーダ10と同等の機能を実現するようにしてもよい。
【0116】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 データ記録システム
10 ドライブレコーダ
11 センサ部
11a カメラ
11b マイク
11c Gセンサ
12 通信部
13 記憶部
13a バッファリングデータ情報
13b 記録データ情報
14 コントローラ
14a 取得部
14b 不明瞭化部
14c 記録部
14d 検知部
14e 送信部
100 サーバ装置
101 通信部
102 記憶部
102a 収集情報DB
102b 解析モデル
103 コントローラ
103a 収集部
103b 解析部