(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027382
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20240222BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240222BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20240222BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20240222BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240222BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20240222BHJP
C01F 17/229 20200101ALI20240222BHJP
【FI】
A01N59/16
A01P3/00
C09D11/02
C09D5/14
C09D201/00
C01G49/00 D
C01F17/229
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130144
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】狩野 朋未
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】吉住 渉
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】山田 厚
【テーマコード(参考)】
4G002
4G076
4H011
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4G002AA09
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
4G076AA10
4G076AB02
4G076AC04
4G076BA38
4G076BA43
4G076BA46
4G076BC07
4G076BC08
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA15
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA33
4G076DA30
4H011AA03
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB18
4H011DA15
4H011DC04
4H011DG05
4J038HA066
4J038HA216
4J038MA06
4J039BA07
4J039BA13
4J039BE12
(57)【要約】
【課題】環境汚染度が低く、安全性にも優れ、抗菌性が高く、かつ、抗菌速度の速い抗菌剤を提供すること。
【解決手段】ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含む、抗菌剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含む、抗菌剤。
【請求項2】
前記抗菌剤についてXRDを測定したときに、
2θ=32.1±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP32.1、及び
2θ=27.9±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP27.9
を有し、
前記ピークP32.1のピーク強度I32.1と前記ピークP27.9のピーク強度I27.9との合計に対する前記ピーク強度I27.9の割合が、10%以上80%以下である、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記抗菌剤についてXRDを測定したときに、2θ=30.3±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP30.3を、更に有する、請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記ピーク強度I32.1と、前記ピーク強度I27.9と、前記ピークP30.3のピーク強度I30.3との合計に対する前記ピーク強度I30.3の割合が、1%以上15%以下である、請求項3に記載の抗菌剤。
【請求項5】
JIS Z8830に準拠してBET1点法によって測定した比表面積が、3.0m2/g以上である、請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項6】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に水処理を行うことを含む、抗菌剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の抗菌剤及び溶媒を含む、抗菌剤分散液。
【請求項8】
塗料、インキ、又は処理液である、請求項7に記載の抗菌剤分散液。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の抗菌剤を含む、抗菌性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生性の観点から、抗菌加工、防カビ加工が施された種々のものが流通している。消費者が直接使用するものに限らず、例えば、建物の外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン等についても、抗菌のニーズは高まっている。
【0003】
抗菌効果を発現する薬剤としては、フェノール系、有機スズ系、トリアジン系、ハロゲン化スルホニルピリジン系、キャプタン系、有機銅系、クロルナフタリン系、クロロフェニルピリタジン系等の化合物が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、抗菌効果を発現するイオンとして、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等が知られている。例えば、銀、銅、亜鉛等の金属粉、又はその合金や化合物を、担体に保持させた態様とし、微量のこれら金属イオンを溶出させることで、その毒性を利用する。特許文献2には、カルボキシル基含有ポリマーと金属化合物とから形成されたカルボン酸金属塩が分散された、消臭及び抗菌・抗カビ性を有する分散液が開示されている。
【0005】
しかしながら、最近では、薬剤形態の抗菌剤や、金属イオンの毒性を利用する抗菌剤は、環境汚染性や安全性が問題視される場合がある。
【0006】
ところで、近年、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防藻剤として、フェライト化合物が提案されている。例えば、特許文献3及び4には、それぞれ、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、及びイットリウム(Y)から選択される希土類元素、鉄、及び酸素を含むオルソフェライトを主成分とする防藻用添加剤、これを用いた防藻性塗料、及び該塗料を基材表面に塗布した防藻製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-17249号公報
【特許文献2】特開平2-288804号公報
【特許文献3】特開2005-272320号公報
【特許文献4】国際公開第2021/193644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3においては、防藻効果を材料の磁性と関連付けて考えており、保磁力が小さく、植物の固有磁場に近い磁力を示す、希土類酸化物:Fe2O3=1:1(モル比)のオルソフェライトが、防藻用添加剤として最も好ましいと説明されている。
【0009】
また、特許文献4では、ランタンリッチなオルソフェライトの防藻効果が検討されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3及び4においては、オルソフェライトの抗菌効果については、検討されていない。
【0011】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、環境汚染度が低く、安全性にも優れ、抗菌性が高く、かつ、抗菌速度の速い抗菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下のとおりである。
【0013】
《態様1》ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含む、抗菌剤。
《態様2》前記抗菌剤についてXRDを測定したときに、
2θ=32.1±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP32.1、及び
2θ=27.9±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP27.9
を有し、
前記ピークP32.1のピーク強度I32.1と前記ピークP27.9のピーク強度I27.9との合計に対する前記ピーク強度I27.9の割合が、10%以上80%以下である、態様1に記載の抗菌剤。
《態様3》前記抗菌剤についてXRDを測定したときに、2θ=30.3±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP30.3を、更に有する、態様1又は2に記載の抗菌剤。
《態様4》前記ピーク強度I32.1と、前記ピーク強度I27.9と、前記ピークP30.3のピーク強度I30.3との合計に対する前記ピーク強度I30.3の割合が、1%以上15%以下である、態様3に記載の抗菌剤。
《態様5》JIS Z8830に準拠してBET1点法によって測定した比表面積が、3.0m2/g以上である、態様1又は2に記載の抗菌剤。
《態様6》ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に水処理を行うことを含む、抗菌剤の製造方法。
《態様7》態様1又は2に記載の抗菌剤及び溶媒を含む、抗菌剤分散液。
《態様8》塗料、インキ、又は処理液である、態様7に記載の抗菌剤分散液。
《態様9》態様1又は2に記載の抗菌剤を含む、抗菌性物品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、環境汚染度が低く、安全性にも優れ、抗菌性が高く、かつ、抗菌速度の速い抗菌剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた抗菌剤のXRDチャート(2θ=20~40°)である。
【
図2】
図2は、実施例4で得られた抗菌剤のXRDチャート(2θ=20~40°)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《抗菌剤》
本発明の抗菌剤は、ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含む。本発明の抗菌剤は、ランタンフェライト及び水酸化ランタン以外に、水酸化炭酸ランタン及びその類似化合物を更に含んでいてもよい。
【0017】
本発明の抗菌剤中にランタンフェライト及び水酸化ランタンが含まれることは、XRD分析により確認されてよい。すなわち、抗菌剤中にランタンフェライトが含まれていれば、XRDの2θ=32.1°付近に、LaFeO3のピークが観測される。また、抗菌剤中に水酸化ランタンが含まれていれば、XRDの2θ=27.9°付近に、La(OH)3のピークが観測される。
【0018】
したがって、抗菌剤中にランタンフェライト及び水酸化ランタンが含まれていれば、当該抗菌剤についてXRDを測定したときに、得られたXRDチャートが、
2θ=32.1±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP32.1、及び
2θ=27.9±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP27.9
を有することになるのである。
【0019】
〈ランタンフェライト〉
本発明の抗菌剤におけるランタンフェライトは、ランタン及び鉄を含む金属酸化物であり、例えば、下記式(1):
La2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、xは、0.45以上1.00未満の数である。)
で表される組成を有していてよい。
【0020】
ランタンフェライトは、上記式(1)中のxが、0.45以上1.00未満の数である限り、どのような形態であってもよい。例えば、全体が均一な組成である固溶体であってよい。
【0021】
式(1)中のxは、0.50以上、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、又は0.75以上であってもよく、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、又は0.60以下であってもよい。
【0022】
上記式(1)中のxは、典型的には、例えば、0.50以上0.90以下の数であってよく、更には、更には、0.65以上0.85以下、又は0.70以上0.80以下の数であってよく、特に0.5であってよい。xが0.5の場合、上記式(1)は、LaFeO3である。
【0023】
〈水酸化ランタン〉
本発明の抗菌剤における水酸化ランタンは、例えば、La(OH)3で表される組成を有していてよい。
【0024】
〈ランタンフェライト及び水酸化ランタンの割合〉
本発明の抗菌剤におけるランタンフェライト及び水酸化ランタンの含有割合は、抗菌剤について測定したXRDによって定義されてよい。本発明の抗菌剤は、ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含むので、XRDを測定したときに、得られたXRDチャートが、
2θ=32.1±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP32.1、及び
2θ=27.9±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP27.9
を有する。
【0025】
本発明の抗菌剤は、XRDを測定したときに、ランタンフェライトに帰属されるピークP32.1のピーク強度I32.1と水酸化ランタンに帰属されるピークP27.9のピーク強度I27.9との合計に対するピーク強度I27.9の割合が、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上であてよく、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、又は25%以下であってよい。
【0026】
抗菌剤のXRDにおけるI32.1とI27.9とのピーク強度比は、抗菌剤中のランタンフェライトと水酸化ランタンとのモル比に、概ね等しいと考えられる。
【0027】
理由は不明であるが、抗菌剤が、ランタンフェライトとともに水酸化ランタンを、好ましくはXRDにおけるピーク強度比が上記の範囲となるように含んでいることにより、抗菌速度が向上される。すなわち、本発明の抗菌剤が、細菌と接触すると、例えば30分以内の短い時間で、細菌の大多数を死滅させることができる。その理由は明らかではないが、以下の効果が複合的に作用するものと推察される。
(1)ランタンフェライトは、電荷を帯びており、このことにより、細菌を引き寄せたうえ、イオンチャネルの機能を阻害することにより、細菌を死滅させること;
(2)ランタンフェライトの微弱な磁性により、細菌を死滅させること;
(3)ランタンフェライトと水酸化ランタンとの相互作用により、何らかの反応活性種が生成して、これが細菌を死滅させること;
(4)抗菌剤周囲の環境がアルカリ性となることにより、細菌を死滅させること;
等。(4)周囲環境のアルカリ性化については、抗菌剤中に水酸化ランタンが共存することにより、効果が増大されていると考えられる。
【0028】
なお、本発明は、いかなる理論にも拘束されるものではない。
【0029】
〈水酸化炭酸ランタン及びその類似化合物〉
本発明の抗菌剤は、ランタンフェライト及び水酸化ランタンを含むが、これら以外に、水酸化炭酸ランタン及びその類似化合物から選択される1種以上(以下、本明細書において、これらをまとめて「水酸化炭酸ランタン類」ということがある)を含んでいてよい。
【0030】
本発明の抗菌剤における水酸化炭酸ランタンは、例えば、La(CO3)(OH)で表される組成を有していてよい。水酸化炭酸ランタンの類似化合物は、例えば、水酸化炭酸ランタンのCO3基の数が異なる種、OH基の数が異なる種、クラスター等を含む。
【0031】
本発明の抗菌剤が、ランタンフェライト及び水酸化ランタンとともに、水酸化炭酸ランタン類を含む場合、抗菌剤のXRDを測定したときに、得られたXRDチャートは、ランタンフェライトに帰属されるピークP32.1及び水酸化ランタンに帰属されるピークP27.9とともに、2θ=30.3±0.1°の範囲にピークトップがあるピークP30.3を有することになる。水酸化炭酸ランタン類に含まれる複数種の化学種は、すべて、特性ピークとしてピークP30.3を示す。
【0032】
本発明の抗菌剤における水酸化炭酸ランタン類の含有割合は、抗菌剤について測定したXRDによって定義されてよい。
【0033】
本発明の抗菌剤は、XRDを測定したときに、ランタンフェライトに帰属されるピークP32.1のピーク強度I32.1と、水酸化ランタンに帰属されるピークP27.9のピーク強度I27.9と、水酸化炭酸ランタン類に帰属されるピークP30.3のピーク強度I30.3の合計に対するピーク強度I30.3の割合が、1%以上、3%以上、又は5%以上であってよく、15%以下、12%以下、10%以下、又は8%以下であってよい。
【0034】
本発明の抗菌剤が水酸化炭酸ランタン類を、好ましくは上記の範囲で含むと、上述の効果のうちの、(3)反応活性種の生成を促進して、細菌を死滅させる効果が増大すると考えられる。
【0035】
《任意成分》
本発明の抗菌剤は、ランタンフェライト及び水酸化ランタン、並びに任意的に水酸化炭酸ランタン類を含む。本発明の抗菌剤は、これら以外に更に、任意成分を含んでいてよい。本発明の抗菌剤が含み得る任意成分として、例えば、酸化ランタン、Fe2O3等が挙げられる。
【0036】
本発明の抗菌剤が上述の任意成分を含むとき、その含有割合は、抗菌剤の全質量に対する任意成分の合計質量として、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、若しくは0.1質量%以下であってよく、又は任意成分を全く含まなくてもよい。
【0037】
〈抗菌剤の比表面積〉
本発明の抗菌剤の比表面積は、3.0m2/g以上、5.0m2/g以上、8.0m2/g以上、10m2/g以上、12m2/g以上、又は15m2/g以上であってよい。抗菌剤の比表面積が大きいほど、抗菌速度が速い傾向にある。この現象は、抗菌剤の比表面積が大きいほど、細菌と抗菌剤との接触確率が高くなり、その結果、細菌が迅速に死滅することによると考えられる。しかしながら、抗菌剤の比表面積を過度に大きくしても、抗菌速度が無制限に向上するものでもない、本発明の抗菌剤の比表面積は、50m2/g以下、40m2/g以下、35m2/g以下、30m2/g以下、25m2/g以下、又は20m2/g以下であってよい。
【0038】
本明細書における抗菌剤の比表面積は、JIS Z8830に準拠してBET1点法によって測定される値である。
【0039】
本発明の抗菌剤の比表面積は、例えば、抗菌剤製造時の焼成温度、抗菌剤の粒径等を制御することにより、調節できる。
【0040】
〈抗菌剤の粒径〉
本発明の抗菌剤の粒径は、抗菌の対象となる細菌のサイズに近くてよい。抗菌剤の粒径と細菌のサイズとが近いと、抗菌剤と細菌との接触確率が高くなると考えられる。
【0041】
本発明の抗菌剤は、粒度分布の体積積算分布における50%径(d50粒径)が、0.05μm以上、0.08μm以上、0.10μm以上、0.12μm以上、0.15μm以上、又は0.18μm以上であってよく、0.45μm以下、0.40μm以下、0.35μm以下、0.30μm以下、又は0.25μm以下であってよい。
【0042】
《抗菌剤の製造方法》
本発明の抗菌剤は、どのような方法によって製造されたものであってもよい。本発明の抗菌剤は、例えば、ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に水処理を行うことを含む方法によって製造されてよい。
【0043】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物は、例えば、ランタン源と鉄源とを所定の割合で含有する混合物に、適当な応力を印加して粉砕混合することにより製造されてよい。
【0044】
ランタン源としては、ランタン酸化物を使用してよい。特に、La2O3を用いれば、効果が高く、比較的コストが安価な抗菌剤を製造することができ、好ましい。
【0045】
鉄源としては、FeO、Fe3O4、Fe2O3等の酸化物;FeOOH、フェリヒドライト、シュベルマンライト等のオキシ酸化物;Fe(OH)2、Fe(OH)3等の水酸化物;等を使用してよい。これらの中で、鉄源としてFeOOHを用いれば、Fe2O3等と比較して反応性が高いため、低温での焼成が可能となる。また、FeOOHは、Fe2O3等と比較して粒経の小さい抗菌剤を製造することができるため、好ましい。
【0046】
ランタン源と鉄源との使用割合は、所望の抗菌剤におけるLa:Fe比に応じて、適宜に設定されてよい。ランタン源と鉄源との使用割合は、ランタン源中のランタン原子と鉄源中の鉄原子との合計モル数に対する、ランタン源中のランタン原子のモル数が占める割合として、50モル%超、55モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、又は80モル%以上であってよく、100モル%未満、95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下、又は70モル%以下であってよい。
【0047】
ランタン源と鉄源との混合物の粉砕混合は、乾式粉砕であっても、湿式粉砕であってもよい。この粉砕において希土類源と鉄源との混合物に印加される応力は、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。
【0048】
上述の応力を印加する方法としては、例えば、ボールミル中で湿式粉砕する方法等が挙げられる。粉砕を湿式粉砕にて実施する場合には、液状媒体として、例えば、水、アルコール等を使用してよい。希土類源と鉄源との混合物を湿式粉砕によって粉砕混合した後は、必要に応じて、加熱乾燥等の適宜の方法によって液状媒体を除去し、その後に焼成を実施してもよい。
【0049】
この応力印加を、CO2を含む雰囲気中(例えば大気下)で行うと、ランタン源又は生成したランタンフェライトと、CO2とが反応して、水酸化炭酸ランタン類が生成する。
【0050】
焼成温度及び焼成時間は、特に限定されるものではなく、それぞれ、適宜に設定することができる。
【0051】
焼成温度は、例えば、700℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、又は1,000℃以上、かつ、例えば、1,300℃以下、1,200℃以下、1,100℃以下、又は1,000℃以下の温度において、実施してよい。
【0052】
焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、又は15時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、又は15時間以下の時間で、実施してよい。
【0053】
焼成時の周囲雰囲気は、酸化性雰囲気であってよく、例えば、空気中で焼成してよい。
【0054】
ここで、応力印加後、焼成前の混合物に水酸化炭酸ランタン類が含まれる場合、焼成温度が高いと、水酸化炭酸ランタン類からCO2が外れて分解するが、焼成温度が低いと、得られる抗菌剤中に水酸化炭酸ランタン類が含まれることになる。ここで、焼成温度が、800℃であれば、得られる抗菌剤は水酸化炭酸ランタン類を含むが、焼成温度が、800℃超、例えば850℃以上のとき、得られる抗菌剤は水酸化炭酸ランタン類を含まない傾向にある。
【0055】
本発明の抗菌剤の製造方法では、以上のようにして、ランタンフェライト及び酸化ランタンを含む混合物が得られる。
【0056】
次いで、ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に対して、水処理が行われる。この水処理により、酸化ランタンが水酸化ランタンに変換されて、本発明の抗菌剤が得られる。
【0057】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物の水処理は、例えば、ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物を水と接触させる適宜の方法によって行われてよい。例えば、以下の接触方法によってよい。
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に、液体の水を加えて接触させ、必要に応じて撹拌した後、接触後の水を除去する方法、
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物に、水蒸気を供給して接触させる方法、等。
【0058】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物と、液体の水との接触は、例えば、0℃以上、10℃以上、又は20℃以上、かつ、100°以下、60℃以下、又は40℃以下の温度において行われてよい。この方法は、繰り返して行われてもよい。この場合、処理後の水の導電率が、精製水の導電率と同じになるまで、繰り返して行われてよい。
【0059】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物と、水蒸気との接触は、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上、かつ、200°以下、160℃以下、又は140℃以下の温度において行われてよい。
【0060】
ランタンフェライト及び酸化ランタンの混合物の水処理において、液体の水との接触と、水蒸気との接触とを組み合わせて行ってもよい。
【0061】
水処理後、処理物を乾燥させることにより、本発明の抗菌剤が得られる。この乾燥は、例えば、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上、かつ、200°以下、160℃以下、又は140℃以下の温度において、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、又は8時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、24時間以下、又は18時間以下の時間で、行われてよい。
【0062】
得られた抗菌剤は、必要に応じて、粉砕して粒度を調製した後に、使用に供されてよい。
【0063】
本発明の抗菌剤は、後述の実施例で検証されるように、単独で使用しても優れた抗菌効果を示す。しかしながら、本発明の抗菌剤と他の抗菌剤とを併用することも、本発明の好ましい態様の1つである。ここで併用される他の抗菌剤は、例えば、有機抗菌剤であってよい。有機抗菌剤は、例えば、チアゾリン系化合物、第4級アンモニウム塩、カチオン性ポリマー、フェノール系化合物等であってよい。
【0064】
《抗菌剤分散液》
本発明の別の観点によると、抗菌剤分散液が提供される。
【0065】
本発明の抗菌剤分散液は、本発明の抗菌剤及び溶媒を含み、更に樹脂、分散剤等を含んでいてよい。
【0066】
本発明の抗菌剤分散液に含まれる抗菌剤は、本発明の抗菌剤であり、上記の説明をそのまま援用できる。
【0067】
本発明の抗菌剤分散液に任意的に含まれる樹脂は、物品の表面上に塗膜を形成し、抗菌剤の粒子を物品に固定するためのバインダーとして機能する。樹脂は、抗菌剤分散液の溶媒に可溶性のものであってよく、又は分散性のよいものであってよい。
【0068】
樹脂は、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等から選択されてよい。
【0069】
溶媒は、例えば、水、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、芳香族炭化水素等から選択される1種又は2種以上であってよい。
【0070】
本発明の抗菌剤分散液は、例えば、塗料、インキ、処理液等として用いられてよい。
【0071】
《抗菌性物品》
本発明の更に別の観点によると、抗菌性物品が提供される。
【0072】
本発明の抗菌性物品は、本発明の抗菌剤を含むものである。本発明の抗菌性物品は、物品中に本発明の抗菌剤が練り込まれているものであってもよいし、物品の表面に本発明の抗菌剤を含む塗膜を有するものであってもよい。
【0073】
本発明の抗菌性物品が塗膜を有するものである場合、この塗膜は、本発明の抗菌剤の他に、樹脂等を含んでいてよい。これらの樹脂等は、それぞれ、本発明の抗菌剤分散液に含まれる樹脂等と同じであってよい。
【0074】
本発明の抗菌性物品は、例えば、家庭の玄関、居間、台所、食堂、寝室、廊下等;企業の受付、執務室、会議室、応接室、廊下、休憩室、食堂等;公共交通機関の券売機、改札、待合室、ホーム、車内等の、通常の生活環境に近い環境下で使用される物品への適用が好適である。
【0075】
本発明の抗菌性物品は、具体的には、例えば、什器、カーテン、ドアノブ、パーティション、飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、タッチパネル用保護フィルム、マスク、電車の吊革、包装資材、一般印刷物、ビジネスフォーム、紙幣、有価証券、カード類、家電、空調機関連部材、玩具、食器、建築内装、建築外装、自動車内装、電車内装、航空機内装等として使用されてよい。また、本発明の抗菌剤を、チューイン・ガム、練り歯磨き、ハンドクリーム、シャンプー等に配合して、これらを抗菌性物品とすることも、本発明の好ましい態様である。
【実施例0076】
《実施例1》
(1)抗菌剤の合成
粉砕メディアとして10mmΦのアルミナ球を使用するボールミル中に、0.45モル部のLa2O3、0.1モル部のFeOOH、及び水を仕込み、5時間粉砕混合した。得られた粉砕物を、300℃にて15時間乾燥した後、回転式粗砕機で解砕した。得られた解砕物を、700℃にて15時間焼成した後、ハンマーミルで解砕して解砕物を得た。
【0077】
次いで、解砕物の水処理を行った。この水処理では、得られた解砕物を洗浄タンク内に投入し、水道水を投入して撹拌後、処理後の水をろ過により除去し、次いで新たな水道水を加えて撹拌及びろ過を繰り返す方法により行った。そして、処理後の水と水道水とが同じ導電率となった時点を水処理の終点とした。
【0078】
水処理後の解砕物を、130℃にて15時間乾燥した後、再度ハンマーミルで解砕することにより、実施例1の抗菌剤を得た。
【0079】
(2)抗菌剤の組成分析
抗菌剤の組成は、(株)リガク製の走査型蛍光X線分析装置、「ZSX Primus III+」を用いて行った。抗菌剤5gを装置専用の樹脂製ホルダに充填し、フィルムで被覆して作製した測定用試料について、組成分析を行った。
【0080】
(3)抗菌剤のXRD分析
得られた抗菌剤のXRD分析を、以下の条件にて行った。
測定装置:(株)リガク製、デスクトップX線回折装置、「MiniFlex600」
管球:CuKα(波長1.541862Å)
出力:40kV-15mA
測定角度範囲(2θ):10~80°
サンプリング間隔:0.01°
【0081】
実施例1で得られた抗菌剤のXRDチャート(2θ=20~40°)を、
図1に示す。
【0082】
(4)抗菌剤の比表面積測定
抗菌剤の比表面積は、JIS Z8830に準拠してBET1点法によって測定した。
【0083】
(5)抗菌剤の抗菌性評価
容量30mLの蓋付ガラス容器中に、(株)ヤクルト本社製の乳酸菌飲料「Newヤクルトを純水で10倍希釈した希釈液9.9gを入れ、更に上記で得らえた抗菌剤0.1gを添加して、直ちにインテリミキサーにて24時間振とうした。このとき、振とう開始後30分後、1時間後、及び24時間後に、それぞれ、液を100μLずつ採取して、液のATP減少率(%)を測定した。具体的には、次の方法によった。
【0084】
キッコーマンバイオケミファ(株)製のATP測定キット、「ルシフェールAT100」を用いて、採取液を発光させ、同社製のルミノメータ、「ルミテスターC-110」により、ATP発光量を測定した。
【0085】
これとは別に、抗菌剤を添加していない希釈液についても、上記と同様にインテリミキサーにて24時間振とうし、振とう開始後30分後、1時間後、及び24時間後にそれぞれ液を採取し、採取液のATP発光量を測定して、得られた値を各サンプリング時間のブランク値とした。
【0086】
そして、各サンプリング時間における採取液のATP発光量とブランク値とを用いて、下記数式:
ATP減少率(%)={(ブランク値-採取液のATP発光量)/ブランク値}×100
によって、ATP減少率(%)を算出した。
【0087】
《実施例2~6及び比較例1》
La2O3及びFeOOHの仕込み比、並びに焼成温度を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、抗菌剤を合成し、各種の評価を行った。
【0088】
結果は表1に示す。また、実施例4で得られた抗菌剤のXRDチャート(2θ=20~40°)を、
図2に示す。
【0089】
《比較例2》
焼成後の水処理を行わなかった他は、実施例6と同様にして、抗菌剤を合成し、各種の評価を行った。結果は表1に示す。
【0090】
《比較例3~5》
La(OH)3を回転式粗砕機で解砕し、表1に記載した温度にて15時間焼成した後、ハンマーミルで解砕して解砕物を得た。その後、実施例1と同様に、得られた解砕物の水処理、乾燥、及びハンマーミルによる再度の解砕を行うことにより、比較例3~5の抗菌剤をそれぞれ得た。
【0091】
ここで得られた抗菌剤について、各種の評価を行った。結果は表1に示す。
【0092】
《比較例4及び5》
【0093】
【0094】
表1の結果から、以下のことが理解される。
【0095】
合成時にボールミルによる原料の湿式粉砕を行い、かつ、焼成温度が800℃以下の、実施例1、4、及び5の抗菌剤は、XRDにおいて、水酸化炭酸ランタン類に帰属されるピークP30.3を示した。一方、湿式粉砕を行ったが、焼成温度が900℃である、実施例3及び6、並びに比較例1及び2の抗菌剤は、ピークP30.3を示さなかった。また、合成時にボールミルによる原料の湿式粉砕を行わなかった比較例3~5の抗菌剤は、焼成温度によらず、ピークP30.3を示さなかった。
【0096】
この現象は、以下の理由により生じたと推察される。
【0097】
原料の湿式粉砕時に、原料が、ボールミル内に存在するCO2と反応して、水酸化炭酸ランタン類が生成したと考えられる。生成した水酸化炭酸ランタン類は、焼成温度が800℃以下である場合には抗菌剤中に残存したが、焼成温度が900℃まで上がるとCO2が外れて分解したものと考えられる。
【0098】
抗菌性については、以下の傾向が見られた。
【0099】
LaFeO3を含み、La(OH)3を含まない比較例1及び2の抗菌剤は、振とう開始30分後及び1時間後のATP減少率が極めて低く、24時間後であってもATP減少率は低い値に留まった。一方、La(OH)3を含み、LaFeO3を含まない比較例3~5の抗菌剤は、振とう開始24時間後には比較的高いATP減少率を示したが、30分後及び1時間後のATP減少率は低く、抗菌速度が不十分であった。
【0100】
これらに対して、LaFeO3及びLa(OH)3双方を含む実施例1~6の抗菌剤は、振とう開始30分後及び1時間後のATP減少率が高く、抗菌速度が高かった他、24時間後のATP減少率が極めて高く、十分に高い抗菌性を有することが検証された。また、比表面積が高い抗菌剤の方が、抗菌速度が高い傾向にあった。
【0101】
下記の実施例7~16では、実施例4で得られた抗菌剤(ランタン鉄組成物)を用い、種々の菌種に対する抗菌性を調べた。
【0102】
《実施例7》
試験菌としてEscherichia coli(大腸菌)を用い、初期のATP発光量が50,000RLUとなるように菌液を調製し、これを試験菌液とした。この試験菌液9.9gに、実施例4で得られた抗菌剤(ランタン鉄組成物)0.1g添加し、アズワン(株)製のチューブローテーター、「MX-RL-E」によって2時間振とうした。このとき、振とう開始後30分後、1時間後、及び24時間後に、それぞれ、液を100μLずつ採取して、採取液のATP減少率(%)を測定した。
【0103】
各採取液のATP減少率(%)は、ATP測定キットとして、キッコーマンバイオケミファ(株)製の「ルシフェール250プラス」を用いた他は、実施例1と同様にして行った。
【0104】
得られた結果を表2に示す。
【0105】
《実施例8~16》
試験菌として、表2に記載のものをそれぞれ用いた他は、実施例7と同様にして試験菌液を調製し、実施例4で得られた抗菌剤(ランタン鉄組成物)の抗菌性を調べた。得られた結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
表2の結果により、LaFeO3及びLa(OH)3双方を含む本発明の抗菌剤は、大腸菌、黄色ブドウ球菌等の一般的な細菌の他、感染症の原因菌、真菌、消毒薬耐性がある芽胞菌、悪臭の原因菌等、種々の細菌に対する抗菌性を示すことが検証された。