(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027389
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】地盤変動の予測方法及び地盤変動予測システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20240222BHJP
【FI】
G01V1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130154
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】仲山 貴司
(72)【発明者】
【氏名】三輪 陽彦
(72)【発明者】
【氏名】大原 勇
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
(57)【要約】
【課題】地盤に負荷を与えた後の地盤変動を予測することで、地表面の変形などの発生を抑えることができる地盤変動の予測方法を提供する。
【解決手段】鋼管を掘進させる際に発生する地盤変動の予測方法である。
そして、鋼管の進行方向の地表に検知装置を設置するステップS1と、鋼管の先端と検知装置との間の地盤を振動させるステップと、検知装置によって起振時の弾性波速度を計測するステップS2と、地盤の掘削中の起振時に計測された弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求めるステップS4と、弾性波速度比から計測時以降の地盤変動を予測するステップS7とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレメント管を掘進させる際に発生する地盤変動の予測方法であって、
前記エレメント管の進行方向の地表に検知装置を設置するステップと、
前記エレメント管の先端と前記検知装置との間の地盤を振動させるステップと、
前記検知装置によって起振時の弾性波速度を計測するステップと、
地盤の掘削中の起振時に計測された弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求めるステップと、
前記弾性波速度比から計測時以降の地盤変動を予測するステップとを備えたことを特徴とする地盤変動の予測方法。
【請求項2】
前記振動の付与は、前記エレメント管の内部から先端付近を起振することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の地盤変動の予測方法。
【請求項3】
前記地盤変動の予測は、計測時以降の弾性波速度比の予測値であって、前記予測値が所定の閾値を下回ったときに、地盤変動を抑える対策を検討するステップを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤変動の予測方法。
【請求項4】
地盤に負荷を与えた後の地盤変動を予測する地盤変動予測システムであって、
地盤の起振時の弾性波速度を測定する計測部と、
前記計測部によって計測された負荷中の弾性波速度を負荷前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める速度比演算部と、
計測時以降の弾性波速度比を予測する予測部とを備えたことを特徴とする地盤変動予測システム。
【請求項5】
前記予測部による予測結果に基づいて地盤変動の影響度を判定する判定部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の地盤変動予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレメント管を掘進させる際に発生する地盤変動の予測方法及び地盤変動予測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、複数のエレメント管が並列する外殻が先行して設けられるトンネルの構築方法が知られている。これらの工法では、トンネル断面を分割掘削することで、超低土被りでも地表面の沈下を小さく抑えることができるため、鉄道の線路下を横断する工事などに適用されている。
【0003】
一方において、トンネルを構築するために地盤を掘削するという負荷をかけると、応力解放が起きて周辺地盤や地表面が変形することがある。また、地盤に改良剤等を注入するという負荷をかけた場合も、地表面が隆起するなどの変形を起こすことがある。
【0004】
鉄道においては、軌道沈下が生じると列車の運行に支障をきたすことになるため、掘削工事中は軌道計測がリアルタイムで行われるとともに、問題となる沈下が生じた場合には、軌道整備が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-68549号公報
【特許文献2】特開2002-168087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、軌道計測では軌道変位が発生してからでないと対策が取れないので、突如として列車運行に影響を及ぼす軌道変位が確認された場合を想定して、緊急で軌道整備を実施する要員を常時配備させる必要があり、通常のトンネル建設に比べてコストが大きくなる傾向にある。
【0007】
一方において、特許文献2に開示されているように、トンネルの切羽前方の地山状況を、音波、電波、弾性波などを用いて探査することで、現状の地層構造や支障物の有無を調べることができるが、掘削を進めた場合の地盤変動を予測できるものではない。
【0008】
そこで、本発明は、地盤に負荷を与えた後の地盤変動を予測することで、地表面の変形などの発生を抑えることができる地盤変動の予測方法及び地盤変動予測システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の地盤変動の予測方法は、エレメント管を掘進させる際に発生する地盤変動の予測方法であって、前記エレメント管の進行方向の地表に検知装置を設置するステップと、前記エレメント管の先端と前記検知装置との間の地盤を振動させるステップと、前記検知装置によって起振時の弾性波速度を計測するステップと、地盤の掘削中の起振時に計測された弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求めるステップと、前記弾性波速度比から計測時以降の地盤変動を予測するステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記振動の付与は、前記エレメント管の内部から先端付近を起振することによって行うことができる。また、前記地盤変動の予測は、計測時以降の弾性波速度比の予測値であって、前記予測値が所定の閾値を下回ったときに、地盤変動を抑える対策を検討するステップを備えた構成とすることもできる。
【0011】
また、地盤変動予測システムの発明では、地盤に負荷を与えた後の地盤変動を予測する地盤変動予測システムであって、地盤の起振時の弾性波速度を測定する計測部と、前記計測部によって計測された負荷中の弾性波速度を負荷前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める速度比演算部と、計測時以降の弾性波速度比を予測する予測部とを備えたことを特徴とする。ここで、前記予測部による予測結果に基づいて地盤変動の影響度を判定する判定部を備えた構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の地盤変動の予測方法は、地盤を掘進させるエレメント管の進行方向の地表に設置された検知装置によって起振時の弾性波速度を計測するとともに、地盤の掘削中に計測された弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める。そして、この弾性波速度比から計測時以降の地盤変動を予測する。
【0013】
このように地盤の現状を探査するだけでなく、地盤に負荷を与えた後の地盤変動を弾性波速度比から予測することで、事前に施工条件を見直すなどして、問題となる軌道変位など地表面の変形などの発生を防ぐことができるようになる。
【0014】
また、地盤変動予測システムの発明は、地盤の起振時の弾性波速度を測定する計測部によって計測された負荷中の弾性波速度を負荷前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める速度比演算部と、計測時以降の弾性波速度比を予測する予測部とを備えている。
【0015】
例えば予測部による予測結果を見て、影響の大きな地盤変動が起きることが事前に予測できるようになれば、地表面の変形などの発生を防ぐ対策を、早期に検討して実行することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態の地盤変動の予測方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】地盤変動を発生させることがある地盤に与えられる負荷を例示した説明図である。
【
図4】地盤に鋼管を掘進させる推進工法と弾性波速度の計測状況の概要を示した説明図である。
【
図5】本実施の形態の地盤変動予測システムの概要を示した説明図である。
【
図6】降下床実験の概要と結果を示した説明図である。
【
図7】弾性波速度比の閾値を設定する数式を導くための仮定を示した説明図である。
【
図8】降下床実験の実験結果と数式から求められた弾性波速度比とを比較した説明図である。
【
図10】検証実験における土砂崩落の進展過程を模式的に示した説明図である。
【
図11】検証実験における土砂崩落と地表面沈下と弾性波速度比との関係を示した説明図である。
【
図12】本実施の形態の地盤変動予測システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の地盤変動の予測方法の処理の流れを説明するフローチャートである。一方、
図2は、地盤変動を発生させることがある地盤に与えられる負荷を例示した説明図である。
【0018】
上述したように、複数のエレメント管が並列する外殻が先行して設けられるトンネルの構築方法が知られている。
図2は、このようなトンネルの構築方法において、列車が走行する鉄道の線路Rの下を、トンネルが横断する場合を例示している。こうしたトンネルの構築方法は、盛土などによって形成される地盤の地表面において、許容される沈下量が極めて小さい場合などに適用される。
【0019】
例えば、断面視略長方形のトンネルを構築する際に、トンネルの外殻となる位置に、複数のエレメント管である鋼管1を先行して掘進させる。この鋼管1は、例えば断面視略長方形に形成された角型鋼管であって、複数の鋼管1を並べて掘進させることで、トンネルの天井や壁や床が先に構築されることになる。
【0020】
鋼管1を掘進させる際には、鋼管1の横断面に相当する断面積の地盤の掘削が行われる。この掘削は、人力掘削、オーガー掘削、カッタフェイス掘削などによって慎重に行われることになるが、地盤に何らかの影響を及ぼす地盤に負荷をかける行為となる。要するに、地盤を掘削すると緩みが生じ、地表面を陥没させることがある。
【0021】
また、
図2の右側に例示したように、地盤にセメントミルクや薬液などの改良剤を注入することで地盤を補強する場合も、地盤に何らかの影響を及ぼす地盤に負荷をかける行為となりうる。要するに、地盤に改良剤を注入すると、注入箇所に割裂が起きるなどして膨張し、地表面を隆起させることがある。
【0022】
以下では、地盤に負荷をかける行為として、鋼管1の先端11から前方の地盤を掘削し、掘削された空洞に向けて鋼管1を推進させるというエレメント管の掘進工事を例にして説明を行う。
【0023】
本実施の形態の地盤変動の予測方法では、少なくとも鋼管1の進行方向の地表に検知装置2を設置する。検知装置2は、地盤を伝播するP波(縦波)やS波(横波)などの弾性波を計測する装置である。
【0024】
図3は、検知装置2の一例を示した説明図である。この検知装置2は、地盤を掘進させる鋼管1の先端11などをハンマー等を用いてたたくなどして起振したときに、地盤を伝播する弾性波を計測するためのセンサ21が先端に設けられている。
【0025】
センサ21は、圧電素子(ピエゾ素子)などによって形成される。圧電素子は、指向性を有するため、入射方向次第でP波又はS波が収録されることになる。本実施の形態では、到達が早く、鋼管1に吸収されにくいP波が測定できるように、圧電素子の向きを調整する。
【0026】
センサ21は、二重管などによって形成される本体部22の先端に取り付けられ、地盤の内部に配置される。例えば、本体部22の外管を線路R脇の地表のバラストから地盤に向けて挿入し、外管が所定の深度まで埋設された後に、センサ21が先端に取り付けられた内管を外管に挿し込むことで、センサ21を損傷させることなく所望する地盤の深度に配置する。
【0027】
検知装置2は、センサ21の他にも、3次元の位置座標を取得するためのGPS受信機23、各種データを送受信するための送受信機(図示省略)、これらの機器を動作させるためのバッテリ24などを備えている。
【0028】
図4は、地盤に鋼管1を掘進させる推進工法と弾性波速度の計測状況の概要を示した説明図である。この図に示すように、盛土などの地盤に推進された鋼管1の先端11を起振することで周辺地盤を振動させ、それによって発生した弾性波の圧力波形を検知装置2で測定する。
【0029】
要するに、鋼管1の先端11と検知装置2との間の地盤を振動させ、地表付近に設置されたセンサ21の圧電素子により電圧波形に換算する。推進工法の施工は、例えば20cmから30cm程度の地盤の掘削と鋼管1の推進を1サイクルとした掘進を行い、各掘進サイクルにおいて、複数回の波形の収録を行う。
【0030】
詳細には、
図4の左側に示すように、前サイクルの推進が完了した掘進サイクルの初めには、鋼管1の先端11が地盤に密着した掘削前の状態で、鋼管1の内部から先端11付近を起振する。この起振によって検知装置2では、掘削前の弾性波速度Vが測定される。
【0031】
続いて、
図4の右側に示すように、鋼管1の先端11より前方の地盤を掘削している掘削中にも、鋼管1の内部から先端11付近を起振することで、掘削中の弾性波速度V'を測定する。このとき測定される弾性波速度V'は、鋼管1の先端11と検知装置2との間の地盤に発生した地盤の緩みの影響を受けるため、掘削前の弾性波速度Vより低下するなど、異なる値が測定される。掘削中の弾性波速度V'の計測は、1掘進サイクルで例えば2回から3回、実施される。
【0032】
本実施の形態の地盤変動の予測方法では、地盤の掘削中に計測された弾性波速度V'を掘削前の弾性波速度Vと比較した弾性波速度比(V'/V)を使用して、弾性波速度の変化を捉えることで、地盤の緩みなどによる地盤変動の予兆を検知する。
【0033】
図5は、本実施の形態の地盤変動予測システムの概要を示した説明図である。本実施の形態の地盤変動予測システムは、地盤の起振時の弾性波速度を測定する計測部と、計測部によって計測された掘削中の弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める速度比演算部と、計測時以降の弾性波速度比を予測する予測部と、予測部による予測結果に基づいて地盤変動の影響度を判定する判定部とを備えている。
【0034】
計測部には、鋼管1の進行方向の地表などに設置される検知装置2が該当する。検知装置2は、鋼管1の進行方向に限らず、平面的に複数を設置することができる。検知装置2で測定された計測データは、無線によりリアルタイムでタブレット等の端末3に送信される。端末3は、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートパソコン、スマートフォンなどであってもよい。
【0035】
本実施の形態の地盤変動予測システムの速度比演算部、予測部及び判定部の一部又は全部は、端末3によって構成することもできるし、端末3とは別に事務所などに設置されるコンピュータと組み合わせて構成することもできる。
【0036】
鋼管1の掘進中は、先端11の起振時に検知装置2によって弾性波の計測が行われ、端末3側では、計測データに基づいて、リアルタイムで弾性波速度比の計算及び監視が行われることになる。さらに、端末3側では、今後どの程度の掘削をしたら、地表面の陥没などが起きる可能性が高くなるかの予測を実施する。
【0037】
要するに、線路Rの軌道変位が発生する前段階において、今後の地盤変動を予測することができるようにする。そのためには、地盤変動の予兆をどのような物理量によって検知するか、予兆を判定するための物理量の閾値をどこに設定するかを明らかにする必要がある。
【0038】
そこで、まずは角型鋼管の掘進を模擬した降下床実験を行って閾値を定め、その閾値の妥当性について、実物の角型鋼管を用いた掘削実験により検証を行った。
図6は、降下床実験の概要と結果を示した説明図である。
【0039】
降下床実験とは、
図6の右側に示したような土槽内に模型地盤を構築し、その土槽の底面の一部(降下床)を降下させることにより、トンネル掘削に伴う周辺地盤の緩みを再現する実験である。ここでは、角型鋼管の掘進を模擬した降下床実験を実施し、降下床直上の緩み域を通過する弾性波速度を測定した。
【0040】
図6の左側のグラフは、降下床実験の実験結果を示している。このグラフは、横軸を降下床の降下量(mm)とし、縦軸を降下前の弾性波速度Vと降下中の弾性波速度V'との比である弾性波速度比(V'/V)としている。
【0041】
この実験結果を見ると、降下床の低下(降下量の増加)に伴って弾性波速度比は低下し、緩み域内の土の崩落がはじまる降下量(約1mm)に到達すると、弾性波速度比は一定値に収束することが分かった。この実験結果によって、弾性波速度比がある閾値を下回るかどうかをチェックすることで、地盤変動の予兆を検知できる可能性があることが分かる。また、この弾性波速度比の閾値は、土被り(1Dは掘削幅(
図7参照))に応じて変化することも明らかになった。
【0042】
そこで、掘削幅と土被りに応じた閾値の設定方法について検討した。この検討は、降下床実験の結果を簡易モデルを用いて検証することで行った。
図7は、簡易モデルの仮定を説明するための図である。
【0043】
図7の右側に示したように、降下床直上では、簡易的に緩み領域と初期の応力状態を保つ領域のみがある状態であると仮定し、それぞれの領域の弾性波速度をv
p1,v
p2とする。すなわち、緩み領域内の弾性波速度をv
p1とし、緩み領域外の弾性波速度をv
p2とする。
【0044】
そして、降下床の頂点である起振点と弾性波速度を計測する地表の受信機とを結ぶ伝播経路が直線であると仮定したときの走時(弾性波の到達時間)との関係から、降下前後の弾性波速度V,V'は次式で表されることになる。
V=vp2 (1)
V'=(vp1vp2H)/(vp2h+(H-h)vp1) (2)
ここに、Vは降下前の弾性波速度、V'は降下後の弾性波速度、Hは土被り、hは緩み高さ、vp1は緩み領域内の弾性波速度、vp2は緩み領域外の弾性波速度を示す。
【0045】
上記(1),(2)の式から、降下前後の弾性波速度比V'/Vは、以下の式となる。
V'/V=(vp1H)/(vp2h+(H-h)vp1) (3)
ここで、vp1/vp2については、既往の知見に基づいて、取りうる値を整理する。密度とポアソン比の変化は二次的なものであり無視できると仮定すると、vp1/vp2は地盤の変形係数の1/2乗に比例する。
vp1/vp2=(E1/E2)1/2 (4)
ここに、E1は緩み領域内の地盤の変形係数、E2は緩み領域外の地盤の変形係数を示す。
【0046】
さらに、変形係数の拘束圧依存性から、変形係数Eと拘束圧σの関係は、以下の式(5)のように表せる。
E=A・σn (5)
ここに、Eは地盤の変形係数、σは拘束圧を示す。A,nは係数であり、nの値は一般的には0.5とされ、細粒分が多くなると1に近づく。
【0047】
そして、式(3)から式(5)を整理すると、式(6)のようになる。
V'/V=((σ1/σ2)n/2H)/(h+(H-h)(σ1/σ2)n/2) (6)
ここに、σ1は緩み領域内の土中応力、σ2は緩み領域外の土中応力を示す。
【0048】
応力比σ1/σ2は、Terzaghiの実験で測定されており、土被り4Dの場合の土中応力比は10%から25%程度となる。また、緩み高さhについては、地盤条件により詳細に求める方法も提案されているが、降下床に作用する土圧が一定のときの緩み領域は概ね1Dとなる。そこで、応力比σ1/σ2をaと置き、これらを式(6)に代入すると、以下の式(7)になる。
V'/V=(an/2H)/(D+(H-D)an/2) (ただし、H<Dの場合はH=D) (7)
ここに、aは土中応力比で0.10から0.25となり、Dは掘削幅を示す。
【0049】
この式(7)について、弾性波速度比V'/Vを降下床実験の実験結果と比較した結果を、
図8に示す。式(7)を用いた算定にあたっては、使用した土試料は珪砂であるためn=0.5とし、aについては最小0.10と最大0.25の結果を示した。一方、降下床実験結果(●のプロット)については、上述したように掘削面が不安定化するとした降下量1mmでの値を示した。この図から、降下床実験結果は、数式化された式(7)のaが0.10から0.25の範囲において、同様の傾向を描いて分布することが明らかになった。
【0050】
以上から、式(7)は掘削面の安定性が確保される弾性波速度比の下限値を表現していると推察され、掘削面の安定性を評価する際の閾値の算定方法として、降下床実験の実験結果が利用できることが分かった。なお、式中の変数nは、三軸圧縮試験から求めることもできるが、簡易的には0.5と設定すれば安全側の値となる。
【0051】
同様に、土中応力比aについても、0.25に設定すれば安全側の値となるので、以下の式が導ける。
V'/V=(0.251/4H)/(h+(H-h)0.251/4) (ただし、H<Dの場合はH=D) (8)
以上を踏まえて、本実施の形態では、式(8)に掘削幅Dと土被りHを入力することで、弾性波速度比の閾値を設定することとした。
【0052】
続いて、実物の角型鋼管を用いて、閾値を使った地盤変動の予測方法の検証実験を行った。
図9は、検証実験の概要を示した説明図である。角型鋼管は、幅1mで高さ1mの正方形断面の鋼管を使用し、土被りは0.5mに設定した。
【0053】
そして、地盤に埋設された角型鋼管の刃口より人力掘削を行い、逐次、角型鋼管と地表面との間の弾性波速度を測定した。
図10は、検証実験における土砂崩落の進展過程を模式的に示した説明図である。
【0054】
すなわち、掘削長が大きくなるに伴い、天端部の土砂崩落が進行していき、最終的には地表面が陥没に至るまでの挙動を再現した。一方、弾性波速度比の閾値を事前に計算したところ、式(8)に本ケースの条件(土被りH=0.5m,掘削幅D=1m)を代入すると、0.71という弾性波速度比V'/Vの閾値が得られた。
【0055】
図11は、検証実験における土砂崩落と地表面沈下と弾性波速度比との関係を示した説明図である。この図を見ると分かるように、掘削前後の弾性波速度比は、高感度レーザー変位計による地表面沈下の計測結果と連動した挙動を示した。また、閾値(0.71)を下回った直後の掘削のサイクルにおいて地盤の崩落が見られ始め、地表面沈下も短時間で大きく増加した。これにより、弾性波をリアルタイムに計測することで、土砂の崩落が発生し始める直前を検知できることが確認できた。
【0056】
図12は、本実施の形態の地盤変動予測システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
まず、ステップS21では、地盤変動予測システムによって地盤変動のリアルタイムの計測、監視及び予測を行うために、上述した降下床実験から求めた土被りに応じた弾性波速度比V'/Vの閾値αを設定する。
【0057】
そして、鋼管1の掘進の施工に伴って、計測部となる検知装置2によって地盤の起振時の計測が行われると、計測された弾性波速度の計測データが、リアルタイムに無線送信されて端末3で受信される(ステップS22)。
【0058】
そこで、ステップS23では、端末3の速度比演算部において、リアルタイムで受信した掘削中である現在の弾性波速度V'と、事前に測定した掘削前の弾性波速度Vとを比較した弾性波速度比V'/Vの計算が行われる。
【0059】
続いてステップS24では、端末3の予測部において、現在である計測時より先の弾性波速度比を予測する。例えば、現在の1掘進長における弾性波速度比に基づいて、さらに掘進長を増加させた場合の弾性波速度比の変化を、
図11で説明したような検証実験の実験結果などを使用して予測する。
【0060】
予測部によって予測された計測時以降の弾性波速度比は、ステップS21で設定された閾値αと比較される(ステップS25)。要するに、端末3の判定部において、予測値となる計測時以降の弾性波速度比と閾値αとを比較して、地盤変動の影響度を判定する。例えば、1掘進長をどの程度の長さまで増加させたときに閾値αを下回るかを確認する。
【0061】
予測部による予測結果や判定部による判定結果は、その都度、端末3の画面に表示される。そして、予測値が閾値αを下回った場合には、端末3の画面に警告が表示されることになる(ステップS26)。
【0062】
以上が本実施の形態の地盤変動予測システムの処理の流れとなるが、この地盤変動予測システムの利用が組み込まれた本実施の形態の地盤変動の予測方法の処理の流れについて、
図1に示したフローチャートを参照しながら説明する。
【0063】
まず、鋼管1を掘進させる推進工法の施工の準備段階で、リアルタイム計測を行うために、ステップS1では、鋼管1の推進方向の線路Rに隣接する地表に、検知装置2を設置する。検知装置2は、平面的に広い範囲に、間隔を置いて複数を設置することができる。
【0064】
ステップS2で行われる検知装置2による弾性波速度の計測は、各掘進サイクルの掘削前と掘削中に、鋼管1の内部から先端11をハンマー等でたたいて起振するごとに実施される(
図4参照)。例えば1掘進サイクルで、3回程度、検知装置2による計測が行われる。
【0065】
検知装置2で計測された計測データは、
図5に示すように、施工管理者が携帯する端末3にリアルタイムで送信される(ステップS3)。リアルタイムで端末3に送信された計測データは、地盤変動の監視及び予測に使用される。
【0066】
端末3の速度比演算部では、リアルタイムに弾性波速度比の計算が行われる(ステップS4)。要するにリアルタイムで送信された掘削中の弾性波速度と、各掘進サイクルの開始前となる掘削前の弾性波速度との比を求める演算が、速度比演算部で行われる。
【0067】
こうしたリアルタイムでの監視は、トンネル掘削の開始(ステップS5)から施工が完了する(ステップS6でYES)まで行われる。そして、ステップS7では、予測された弾性波速度比と、施工開始前に地盤変動予測システムで設定した閾値αとの比較が行われる。
【0068】
ステップS7の判定部による判定で、弾性波速度比が閾値α以上となっている場合は、ステップS8に移行して、現状の掘削を継続したときに、軌道に影響を及ぼすような地盤変動が生じるかの検討を行う。ここで、地盤変動が生じる可能性が低いと判断された場合は、ステップS10に移行してトンネル掘削を継続するという施工管理が行われる。
【0069】
これに対して、ステップS7で弾性波速度比が閾値αを下回った場合、あるいはステップS8で地盤変動が生じると判断された場合には、ステップS9で、地盤変動を抑える対策を検討するために施工条件の見直しが行われる。
【0070】
例えば、1掘進サイクルの掘進長を短くする、改良剤を地盤注入して地盤の補強を行う、などの対策を検討する施工条件の見直しが行われる。要するに、軌道沈下が生じる前段階の予兆を地盤変動(緩み、崩落)を監視することによって捉え、事前に施工法を変更することで軌道沈下の発生を抑止する。
【0071】
ステップS9の施工条件の見直しによって、列車運行に影響を及ぼすような軌道変位が起きないことが確認された後に、トンネル掘削は再開され(ステップS11)、引き続きリアルタイムの監視と予測が、施工が完了するまで繰り返される。
【0072】
次に、本実施の形態の地盤変動の予測方法及び地盤変動予測システムの作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の地盤変動の予測方法は、地盤を掘進させる鋼管1の進行方向の地表に設置された検知装置2によって、鋼管1の先端11を内部から起振した時の弾性波速度を計測する(ステップS2)。
【0073】
そして、地盤の掘削中に計測された弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める(ステップS4)。この弾性波速度比は、計測時以降の地盤変動の予測に使用される。
【0074】
このように地盤の現状を探査するだけでなく、掘削という地盤に負荷を与えた後の地盤変動を弾性波速度比から予測することで、事前に施工条件を見直すなどして、問題となる軌道変位など地表面の変形などの発生を防ぐことができるようになる。
【0075】
従来では、問題となる軌道変位が生じるたびに軌道整備をしていたため、軌道整備要員の待機コストを要し、掘削も中断しなければならなかった。これに対して、本実施の形態の地盤変動の予測方法や地盤変動予測システムによって地盤変動の予兆を検知し、事前に施工条件を見直すことで軌道変位の発生の回避が図れるようになれば、工期短縮と掘削に関わる人員削減(コスト削減)も図れるようになる。
【0076】
また、本実施の形態の地盤変動予測システムは、地盤の起振時の弾性波速度を測定する計測部によって計測された掘削中の弾性波速度を掘削前の弾性波速度と比較した弾性波速度比を求める速度比演算部と、計測時以降の弾性波速度比を予測する予測部と、その予測結果に基づいて地盤変動の影響度を判定する判定部とを備えている。
【0077】
このため、予測結果が所定の閾値αを下回ったときには、判定部によって地盤変動の影響度が大きいと判定することが可能で、地表面の変形などの発生を未然に防ぐ対策を、早期に検討して実行することができるようになる。
【0078】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0079】
例えば前記実施の形態では、断面視略長方形の鋼管1をエレメント管とする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、鋼管以外の材料や長方形以外の断面形状のエレメント管を掘進させる場合にも、本発明を適用することができる。
【0080】
また、前記実施の形態では、地盤に与える負荷として地盤の掘削について主に説明したが、これに限定されるものではなく、地盤に与える負荷が、改良剤を地盤に注入する地盤注入などであってもよい。地盤注入時には、地表面の隆起などが問題となるため、地盤変動の予兆が検知されたときには、注入速度を変更するなどの施工法の修正を行うことになる。
【符号の説明】
【0081】
1 :鋼管(エレメント管)
11 :先端
2 :検知装置