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特開2024-27394蒸着マスクのためのマスクフレーム、マスクアセンブリ及び蒸着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027394
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】蒸着マスクのためのマスクフレーム、マスクアセンブリ及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20240222BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240222BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240222BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240222BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/24 G
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130161
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】杉本 重人
(72)【発明者】
【氏名】小松 伸壽
(72)【発明者】
【氏名】田坂 知樹
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG33
3K107GG54
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
(57)【要約】
【課題】特に縦型蒸着方式で用いられる蒸着マスクのためのマスクフレームであって、蒸着マスクへのアライメントのずれの影響が抑制される蒸着マスクのためのマスクフレーム及びそれを備えたマスクアセンブリ並びにそれを用いた蒸着方法を提供する。
【解決手段】蒸着マスクのためのマスクフレームは、蒸着マスクを保持するように構成されたフレーム本体を備える。フレーム本体の少なくとも一部には、凹部が設けられている。凹部には、蒸着マスクが保持される第1の面と平行なフレーム本体の幅方向に延びた第1のリブと、第1のリブから斜め方向に延びた第2のリブとが形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着マスクを保持するように構成されたフレーム本体を備え、
前記フレーム本体の少なくとも一部には凹部が設けられ、
前記凹部には、前記蒸着マスクが保持される第1の面と平行な前記フレーム本体の幅方向に延びた第1のリブと、前記第1のリブから斜め方向に延びた第2のリブとが形成されている、
蒸着マスクのためのマスクフレーム。
【請求項2】
前記凹部は、前記フレーム本体の前記第1の面の側に形成される、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項3】
前記凹部は、前記フレーム本体の前記第1の面と逆側の第2の面の側に形成される、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項4】
前記フレーム本体は、矩形状をしており、
前記フレーム本体の第1の辺と、前記第1の辺と平行な第2の辺と、の前記幅方向の長さが異なる、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項5】
前記フレーム本体は、矩形状をしており、
前記フレーム本体の第1の辺と、前記第1の辺と平行な第2の辺と、の厚さが異なる、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項6】
前記フレーム本体は、複数のサブマスクを保持するように構成され、
前記第1のリブは、複数の前記サブマスクの境界部に対応して形成される、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項7】
前記フレーム本体は、低膨張Fe-Ni合金又は低膨張高Ni鋳鉄によって形成されている、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項記載のマスクフレームと、
前記マスクフレームに固定され、蒸着パターンに対応する開口を有する蒸着マスクと、
を備える、
マスクアセンブリ。
【請求項9】
請求項8に記載のマスクアセンブリを用いて、被蒸着基板に前記蒸着パターンを形成することを備える、
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、蒸着マスクのためのマスクフレーム及びそれを備えたマスクアセンブリ並びにそれを用いた蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(electro-luminescence)ディスプレイの製造工程の1つである真空蒸着工程では、有機物等の蒸着物質を蒸着させる際に蒸着マスクが使用される。蒸着マスクのずれは、成膜位置のずれにつながる。したがって、通常、蒸着マスクは、マスクフレームによって保持された状態で使用される。ここで、プロセス温度によってはマスクフレーム及び蒸着マスクが熱膨張を起こし、これによってアライメントのずれ及びサイズのずれが生じることがある。したがって、マスクフレームは、熱膨張率の小さい材料によって製造される。また、同時に蒸着マスクの変形防止策として、蒸着マスクを架張してマスクフレームに溶接固定する方法が用いられている。この場合、マスクフレームには、蒸着マスクの架張時の引っ張り力に耐えうる剛性が求められる。このような剛性を得るために、マスクフレームは、幅広、かつ、厚肉となる。したがって、マスクフレームは、通常、高重量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-194062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、有機ELディスプレイに用いられるガラス基板の大型化に伴い、蒸着マスクを縦型に配置して蒸着を行う縦型蒸着方式が用いられるようになってきている。縦型蒸着方式は、横型蒸着方式と異なり、蒸着マスクの自重たわみによるアライメントのずれはキャンセルされる。一方で、蒸着マスクを保持しているマスクフレームの自重たわみによるマスクフレームの変形によって蒸着マスクにおけるアライメントのずれが発生することがある。
【0005】
実施形態は、特に縦型蒸着方式で用いられる蒸着マスクのためのマスクフレームであって、蒸着マスクへのアライメントのずれの影響が抑制される蒸着マスクのためのマスクフレーム及びそれを備えたマスクアセンブリ並びにそれを用いた蒸着方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の蒸着マスクのためのマスクフレームは、蒸着マスクを保持するように構成されたフレーム本体を備える。フレーム本体の少なくとも一部には、凹部が設けられている。凹部には、蒸着マスクが保持される第1の面と平行なフレーム本体の幅方向に延びた第1のリブと、第1のリブから斜め方向に延びた第2のリブとが形成されている。
【発明の効果】
【0007】
実施形態は、特に縦型蒸着方式で用いられる蒸着マスクのためのマスクフレームであって、蒸着マスクへのアライメントのずれの影響が抑制される蒸着マスクのためのマスクフレーム及びそれを備えたマスクアセンブリ並びにそれを用いた蒸着方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るマスクフレームに蒸着マスクが保持された、マスクアセンブリの構成を示す図である。
図2図2は、図1の(A)のフレーム本体の下部の部分であるII-II線断面図である。
図3図3は、実施形態に係るマスクアセンブリを用いた蒸着処理を示す模式図である。
図4A図4Aは、本実施形態に係るマスクフレームの効果を示す模式図である。
図4B図4Bは、本実施形態に係るマスクフレームの効果を示す模式図である。
図5図5は、変形例1の凹部の構成を示す断面図である。
図6図6は、接合面の側と逆側から見た変形例2のマスクアセンブリの構成を示す平面図である。
図7図7は、変形例3の凹部の構成を示す断面図である。
図8図8は、接合面の側と逆側から見た変形例4のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。
図9図9は、変形例4のマスクアセンブリの第2の構成を示す側面図である。
図10図10は、接合面の側から見た変形例5のマスクフレームの正面図である。
図11図11は、接合面の側から見た変形例6のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。
図12図12は、接合面の側から見た変形例6のマスクアセンブリの第2の構成を示す平面図である。
図13図13は、接合面の側から見た変形例7のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。
図14図14は、接合面の側から見た変形例7のマスクアセンブリの第2の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1. 実施形態
実施形態に係るマスクフレームについて説明する。実施形態に係るマスクフレームは、有機ELパネルの製造工程において被蒸着基板に蒸着パターンを形成するために使用される蒸着マスクを保持するためのフレームである。蒸着マスクと接合されることによって、被蒸着基板に対する蒸着マスクの正確な位置決めを行えるようにする。
【0010】
なお、有機ELパネルの表示方式としては、各々が独立に蒸着された赤、青、緑の3原色の有機EL層を個別に発光させて有色表示する方式と、一面に蒸着された白色の有機EL層の白色発光を、カラーフィルタを介して有色表示する方式と、があり得る。実施形態に係るマスクフレームは、上述したいずれの表示方式の有機ELパネルの製造工程においても、適用可能である。一方で、実施形態は、より正確な位置決めが求められる、赤、青、緑等の有機EL層を個別に発光させて有色表示する方式の有機ELパネルの製造工程に用いられるのが、好ましい。
【0011】
1.1 構成
まず、実施形態に係るマスクフレーム及びそれを備えたマスクアセンブリの構成について説明する。マスクアセンブリは、蒸着マスクが接合された状態のマスクフレームである。
【0012】
1.1.2 マスクアセンブリ
図1は、実施形態に係るマスクフレームに蒸着マスクが保持された、マスクアセンブリの構成を示す図である。図1の左部(図1の(A))には、マスクアセンブリの平面図が示される。図1の(A)の平面図は、を蒸着マスクとマスクフレームとの接合面の側からマスクフレームを見た平面図である。また、図1の右部(図1の(B))には、マスクアセンブリの長辺側の側面図が示される。
【0013】
マスクアセンブリ10は、蒸着マスク30がマスクフレーム50に架張された状態で接合されることによって構成される。ここで、蒸着マスク30とマスクフレーム50との接合は、例えば溶接によって行われる。後で説明するようにマスクアセンブリ10は、例えば長辺方向が重力方向と平行になるように縦型に設置される。ここで、以下の説明のためにマスクアセンブリ10の上側となる短辺部をマスクアセンブリ10の上部、下側となる短辺部をマスクアセンブリ10の下部、左右の両側方となる長辺部をマスクアセンブリ10の側面と定義すると、蒸着マスク30とマスクフレーム50とは、例えば上部及び下部において接合される。
【0014】
蒸着は、蒸着マスク30とマスクフレーム50との接合面と逆側の面からマスクアセンブリ10に向けて、すなわち図1の(B)の矢印Vの方向から行われる。前述したように、蒸着マスク30がマスクフレーム50に接合されることによって、蒸着の際の蒸着マスクの30の位置決めが行われ得る。
【0015】
以下、マスクアセンブリ10を構成する蒸着マスク30及びマスクフレーム50についてさらに説明する。
【0016】
1.1.2.1 蒸着マスク
まず、蒸着マスク30の構成について説明する。図1の(A)に示すように、蒸着マスク30は、マスクフレーム50に形成される開口である内部領域を覆うように固定部としての接合スポット32において接合される。蒸着マスク30は、例えば、マスクフレーム50と同じ矩形状であり、2マイクロメートル~50マイクロメートル([μm])程度の厚さを有する。蒸着マスク30のサイズは、例えば被蒸着基板のサイズに応じて適宜に決められてよい。
【0017】
蒸着マスク30には、各々が被蒸着基板に蒸着パターンを与えるための複数の開口31が形成されている。蒸着マスク30は、金属層に開口31が形成されることで構成されたメタルマスクであってよい。または、蒸着マスク30は、金属層と樹脂層が積層され、これらの金属層と樹脂層に開口31が形成されることで構成されたハイブリッドマスクであってもよい。メタルマスク又はハイブリッドマスクの金属層に使用される材料は、特に限定されない。金属層に使用される材料は、ステンレス鋼、鉄ニッケル合金、アルミニウムといった材料であってよい。特に、鉄とニッケルを主とする合金である低膨張Fe-Ni合金、所謂インバー合金は熱膨張率が小さいために熱変形によるアライメントのずれが生じにくく、他の材料より有利となり得る。また、ハイブリッドマスクに使用される樹脂層の材料についても特に限定は無いが、例えば、レーザ加工等によって高精細に開口を形成でき、かつ熱変形に伴う位置ずれを抑制するために小さい熱膨張率及び吸湿率を有する材料が望ましい。このような樹脂層の材料として、例えばポリイミドが用いられる。
【0018】
1.1.2.2 マスクフレーム
次に、マスクフレーム50の構成について説明する。マスクフレーム50は、フレーム本体51を備える。フレーム本体51は、一体に成型された例えば矩形状の枠である。ここで、フレーム本体51の各辺に平行な方向の長さは、例えば適用される蒸着マスク30の寸法+50~500ミリメートル([mm])である。また、フレーム本体51の接合面に平行で各辺に垂直な方向の長さ、すなわち幅も、例えば適用される蒸着マスク30の寸法+50~500ミリメートル([mm])でよい。さらに、フレーム本体51の接合面に垂直な方向の長さ、すなわち厚さは、例えば30~60ミリメートルである。
【0019】
フレーム本体51は、蒸着マスク30に接合されることにより、薄膜の蒸着マスク30の変形を抑制する機能を主に担う。したがって、フレーム本体51の材料には、小さい熱膨張率の材料が用いられることが望ましい。例えば、フレーム本体51の材料には、前述したインバー合金が用いられ得る。また、フレーム本体51の材料には、低膨張高Ni鋳鉄鋳造品、所謂ノビナイト又はニレジストが用いられてもよい。
【0020】
フレーム本体51は、複数の支持用穴52を有する。支持用穴52は、例えば、フレーム本体51の上部及び下部のそれぞれに2つずつ短辺方向に沿って並ぶように設けられる。マスクアセンブリ10は、蒸着処理の際に、支持用穴52を貫通するロッドによって支持される。
【0021】
図1の(B)に示されるように、フレーム本体51には、接合面の側から接合面と逆側の面にかけてマスクフレーム50に形成される開口である内部領域が拡がるように平面状の傾斜面53が設けられている。傾斜面53は、シャドーによる蒸着不良の低減のために設けられている。シャドーは、蒸着処理によって高精細なパターンを形成する場合に、厚さを有するフレーム本体51に対して斜め方向から入射した蒸着物質が遮断されることによって均一な蒸着が阻害される現象のことである。フレーム本体51に傾斜面53が形成されていることにより、フレーム本体51に対して斜め方向から入射した蒸着物質が遮断されることが抑制される。
【0022】
ここで、実施形態においては、フレーム本体51の接合面の側には、少なくとも1つの凹部54が形成されている。凹部54は、少なくともフレーム本体51の上部に形成され、さらに側面及び下部に形成されてもよい。上部、下部、側面に形成される凹部54の数は、例えばフレーム本体51のサイズに応じて適宜に決められてよい。図1の(A)では、上部に8個、下部に8個、右側面に16個、左側面に16個の凹部54が形成されている。フレーム本体51に凹部54が形成されることにより、フレーム本体51が軽量化される。
【0023】
図2は、図1の(A)のフレーム本体51の下部の部分であるII-II線断面図である。図2に示すように、凹部54は、例えばフレーム本体51の接合面の側から形成されたザグリ部である。さらに、凹部54の傾斜面53の裏面に位置する部分は、傾斜面53と平行な平面状の傾斜面54cを有するように加工されている。傾斜面54cを有するように加工されることで、フレーム本体51の凹部54における厚さが均一化される。
【0024】
さらに、実施形態においては、図1の(A)に示すように、凹部54に、第1のリブとしての柱リブ54aと、第2のリブとしての筋交リブ54bとが設けられている。
【0025】
柱リブ54aは、フレーム本体51の幅方向に延びるように例えば凹部54の中央部に形成されたリブである。つまり、柱リブ54aは、フレーム本体51の短辺部、すなわち上部及び下部については、フレーム本体51の上方向から下方向にかけて延びるように形成されている。同様に、柱リブ54aは、フレーム本体51の長辺部、すなわち左部及び右部については、フレーム本体51の左方向から右方向にかけて延びるように形成されている。
【0026】
筋交リブ54bは、柱リブ54aから凹部54の端部に向けて斜め方向に延びるように、すなわち筋交構造となるように形成されたリブである。図1の(A)では、凹部54の中央部に形成された柱リブ54aから2つの筋交リブ54bが形成された例が示されている。
【0027】
柱リブ54aと筋交リブ54bとが組み合わせられた構造により、後で説明するマスクフレーム50の自重たわみによるマスクフレーム50の変形が低減される。これにより、マスクフレーム50に接合される蒸着マスク30のアライメントのずれも抑制される。
【0028】
ここで、柱リブ54a及び筋交リブ54bを含む凹部54の形成方法は、フレーム本体51に使用される材料に応じて適宜に選択されてよい。例えば、フレーム本体51に使用される材料がインバー合金である場合には、柱リブ54a及び筋交リブ54bを含む凹部54は、切削加工によって形成されてよい。また、例えば、フレーム本体51に使用される材料がノビナイト又はニレジストである場合には、柱リブ54a及び筋交リブ54bを含む凹部54は、鋳造加工によって形成されてよい。切削加工による凹部54の形成よりも鋳造加工による凹部54の形成のほうが低コストで実施される。
【0029】
1.2 動作
次に、実施形態に係るマスクアセンブリを用いた動作について説明する。
【0030】
1.2.1 蒸着処理
実施形態に係るマスクアセンブリを用いた蒸着処理について説明する。図3は、実施形態に係るマスクアセンブリを用いた蒸着処理を示す模式図である。図3では、マスクアセンブリ10(蒸着マスク30と、マスクフレーム50)が蒸着室に設置された状態が示されている。図3では示されていないが、蒸着マスク30と対向するように被蒸着基板が設置される。
【0031】
図3に示すように、蒸着室内には、蒸着源70が設けられる。蒸着源70は、内部に収容された蒸着物質を加熱して蒸発させることで、蒸着物質の蒸気71を放出する機能を有する。蒸着源70、マスクフレーム50、蒸着マスク30、及び被蒸着基板は、蒸着物質の蒸気71が蒸着源70から放出される方向に沿って、この順に並ぶ。
【0032】
マスクアセンブリ10は、蒸着マスク30の開口31が、蒸着源70からの蒸着物質の蒸気71の放出範囲の最も強度が強い方向(例えば、蒸着源70に設けられた図示しないノズルの中心軸に沿った方向)に対して垂直となり得るように設置される。具体的には、マスクアセンブリ10の厚さ方向は、蒸着物質の蒸気71の放出方向と一致し得る。これにより、被蒸着基板には、開口31を通過した蒸着物質が蒸着される。
【0033】
前述したように、マスクフレーム50は、4つの支持用穴52を用いて縦型に支持される。この場合、重力は、フレーム本体51の長辺に平行な方向(図3の-Q方向)に沿って働く。
【0034】
蒸着源70は、例えば、図3の矢印Aの方向(すなわち、図3の±Q方向)に沿って平行移動しながら、蒸着物質の蒸気71を被蒸着基板に向かって放出する。これにより、被蒸着基板のサイズが大きい場合であっても、被蒸着基板及びマスクアセンブリ10を動かすことなく、被蒸着基板の全面に対して蒸着物質が蒸着され得る。ここで、凹部は、フレーム本体における蒸着マスク30とマスクフレーム50との接合面の側に形成される。したがって、蒸着物質が凹部に侵入することはない。
【0035】
1.3 本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、マスクフレーム50のフレーム本体51の少なくとも一部には、凹部54が形成される。凹部54が形成されることにより、フレーム本体51が軽量化される。フレーム本体51が軽量化されることにより、フレーム本体51の自重によるたわみが抑制される。さらに、本実施形態によれば、凹部54には、柱リブ54aと、筋交リブ54bとが形成される。柱リブ54a及び筋交リブ54bが組み合わせられた構造により、フレーム本体51の自重によるたわみがさらに抑制される。また、柱リブ54a及び筋交リブ54bが組み合わせられた構造により、フレーム本体51の自重によるたわみだけでなく、蒸着マスク30がマスクフレーム50に架張接合されることによる、蒸着マスク30からの引っ張り応力によるフレーム本体51のたわみも抑制される。フレーム本体51の変形が抑制されることにより、蒸着マスク30のアライメントのずれも抑制される。したがって、蒸着の精度が向上する。
【0036】
図4A及び図4Bは、本実施形態に係るマスクフレームの効果を示す模式図であり、蒸着処理においてマスクフレームに生じるたわみの大きさを模式的に示している。ここで、図4Aは、比較例として柱リブ及び筋交リブを含む凹部が形成されていないマスクフレームに生じる大きさを模式的に示している。一方、図4Bは、凹部が形成されているマスクフレームに生じる大きさを模式的に示している。ここで、図4A及び図4Bに記載された矢印Gは、重力方向を示す。
【0037】
図4A図4Bの比較によって示されるように、凹部が形成されていない場合よりも、凹部が形成されている場合のほうが、フレーム本体の短辺部における凸状のたわみ、及び長辺部における凹状のたわみのいずれも低減される。なお、出願人による有限要素法による応力シミュレーションでは、凹部が形成されていない場合のフレーム本体の最大変形量に対して凹部が形成されている場合のフレーム本体の最大変形量が約55%低減されたことが確認されている。
【0038】
近年、有機ELディスプレイに用いられる被蒸着基板が大型化している。これに伴って蒸着マスク及びマスクフレームも大型化の傾向にある。蒸着マスクの大型化により、従来のマスクアセンブリを横に配置して蒸着を実施する横型蒸着方式では、蒸着マスクの自重たわみによるアライメントのずれが生じてしまう。そこで、近年、大型の有機ELディスプレイの製造には、マスクアセンブリを縦に配置して蒸着を実施する縦型蒸着方式が用いられている。縦型蒸着方式では蒸着マスクの自重たわみの影響はキャンセルされる。一方で、縦型蒸着方式ではマスクフレームの自重たわみによる変形がアライメントのずれに影響する。本実施形態では、凹部の数を増やすこと等によって、マスクフレームが大型化されても過度のマスクフレームの高重量化が抑制される。したがって、本実施形態の技術は、例えばG8.5Half以上といった大型の被蒸着基板を縦型蒸着方式で蒸着する場合に特に有効である。
【0039】
2. 変形例
以下、実施形態の各種の変形例を説明する。
【0040】
2.1 変形例1
前述の実施形態では、図1の(A)に示されるように、凹部54は、フレーム本体51の接合面の側、すなわち蒸着処理の際に蒸着源70と面する側と逆側に形成される。このため、蒸着処理の際に蒸着物質が凹部54に侵入することはない。一方で、図5に示されるように、凹部54は、接合面と逆側、すなわち蒸着処理の際に蒸着源70と面する側に形成されてもよい。この場合、蒸着処理の際に凹部54に蒸着物質が侵入してしまう可能性が生じるので、凹部54は、防汚板54dによって塞がれていてもよい。防汚板54dは、フレーム本体51と同じ材料で形成されてよい。
【0041】
2.2 変形例2
実施形態では、フレーム本体51の変形が抑制されるように、フレーム本体51に柱リブ54a及び筋交リブ54bが組み合わせられた構造を有する凹部54が設けられている。フレーム本体51の変形がさらに抑制されるように、図6に示すようにフレーム本体51に補強部材55が設けられてもよい。図6は、接合面と逆側から見た変形例2のマスクアセンブリの構成を示す平面図である。図6に示すように、補強部材55は、フレーム本体51の内部領域を横切るように、例えば重力方向に沿ってフレーム本体51に取り付けられる。補強部材55は、フレーム本体51と同じ材料で形成されてよい。また、図6では、補強部材55は、フレーム本体51と別体で示されている。補強部材55は、フレーム本体51と一体で形成されてもよい。
【0042】
2.3 変形例3
実施形態では、図2に示したように、凹部54の傾斜面53の裏面に位置する部分は、傾斜面53と平行な平面状の傾斜面54cを有するように加工されているものとされている。これに対し、傾斜面54cは、必ずしも傾斜面53と平行な傾斜面である必要はない。例えば、図7に示すように、傾斜面54cは、傾斜面53に倣う形状の曲面状の傾斜面であってもよい。つまり、凹部54の形状は、特定の形状に限定されない。変形例3では、凹部54の設計の自由度が増す。
【0043】
2.4 変形例4
実施形態では、図1の(A)に示されるように、フレーム本体51の上部、下部、側面の構造が同じであるとされている。しかしながら、フレーム本体51の上部、下部、側面の構造は、必ずしも同じでなくてよい。
【0044】
図8は、接合面と逆側から見た変形例4のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。図8では、マスクアセンブリ10の下部は、予め定められた基準面Bに固定設置されている。この場合、フレーム本体51の下部は、自重たわみによる変形を生じにくい。このような状態では、フレーム本体51の下部の幅を上部の幅よりも短くし得る。フレーム本体51の上部の幅及び下部の幅は、それぞれに生じる自重たわみによる変形量に応じて設定されてよい。
【0045】
また、フレーム本体51の下部が基準面Bに固定設置されている場合には、フレーム本体51の下部には凹部が設けられていなくてもよい。また、蒸着マスク30の架張時の引っ張り力が小さいとみなせる場合には、フレーム本体51の側面の凹部も省略され得る。
【0046】
図9は、変形例4のマスクアセンブリの第2の構成を示す側面図である。図9でも、マスクアセンブリ10の下部は、予め定められた基準面Bに固定設置されている。第1の構成では、フレーム本体51の上部の幅と下部の幅を異ならせる例が示されている。幅を異ならせるのに限らず、図9に示すように、フレーム本体51の上部の厚さと下部の厚さとが異なっていてもよい。さらには、フレーム本体51の側面の厚さも上部の厚さ及び下部の厚さと異なっていてもよい。フレーム本体51の上部の厚さ、下部の厚さ及び側面の厚さは、それぞれに生じる自重たわみによる変形量に応じて設定されてよい。
【0047】
変形例4のように、フレーム本体51の各部分に生じ得る変形量に応じて幅及び/又は厚さを異ならせることにより、フレーム本体51の重量増を抑えつつ、変形も抑制され得る。
【0048】
2.5 変形例5
前述した実施形態では、マスクフレームには、隙間なく凹部が形成されている。しかしながら、凹部は必ずしも隙間なく形成される必要はない。図10は、接合面の側から見た変形例5のマスクフレームの正面図である。図10に示すように、マスクフレーム50のフレーム本体51は、凹部54が形成されない部分56を有していてもよい。凹部54が形成されない部分56の位置は、フレーム本体51の各部分に生じ得る変形量に応じて適宜に設定されてよい。
【0049】
凹部54が形成されない部分56は、凹部54が形成される部分よりも高重量である。一方で、凹部54が形成されない部分56の強度は、凹部54の強度よりも高い。図10に示すように、凹部54が形成される部分と凹部54が形成されない部分56とが設けられることにより、フレーム本体51の軽量化と強度のバランスが図られ得る。
【0050】
2.6 変形例6
前述した実施形態では、マスクフレーム50に接合される蒸着マスク30は1つであるとされている。蒸着マスクとしては、複数のサブマスクに分けられているものもある。実施形態の技術は、蒸着マスクが複数のサブマスクに分けられていても適用され得る。
【0051】
図11は、接合面の側から見た変形例6のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。図11に示されるように、変形例6では、蒸着マスク30は、複数のサブマスク30aによって構成される。サブマスク30aは、それぞれが開口31を有して蒸着マスクを形成している。第1の構成では、サブマスク30aは、それぞれ、重力方向と平行な方向に長辺を有するように接合スポット32においてマスクフレーム50に接合される。
【0052】
ここで、蒸着マスク30が複数のサブマスク30aによって構成される場合、柱リブ54aは、それぞれのサブマスク30aの接合スポット32に対応して形成されることが望ましい。これは、マスクフレーム50がそれぞれのサブマスク30aから受ける引っ張り力は、それぞれのサブマスク30aの接合スポット32において大きくなるためである。柱リブ54aがサブマスク30aのそれぞれの接合スポット32に対応して形成されることにより、マスクフレーム50は、それぞれのサブマスク30aからの引っ張り力に対する抵抗力を効率よく増すことができる。
【0053】
図12は、接合面の側から見た変形例6のマスクアセンブリの第2の構成を示す平面図である。図12に示されるように、変形例6では、蒸着マスク30は、複数のサブマスク30aによって構成される。サブマスク30aは、それぞれが開口31を有して蒸着マスクを形成している。第2の構成では、サブマスク30aは、それぞれ、重力方向と直交する方向に長辺を有するように接合スポット32においてマスクフレーム50に接合される。
【0054】
ここで、第2の構成では、柱リブ54aは、それぞれのサブマスク30aの境界30bに対応して形成されることが望ましい。これは、マスクフレーム50がそれぞれのサブマスク30aから受ける引っ張り力は、それぞれのサブマスク30aの境界30bにおいて大きくなるためである。つまり、サブマスク30aの境界30bでは、サブマスク30aの長辺方向に、フレーム本体の反対側まで材料が連続しているため、架張力がかかりやすい。柱リブ54aがサブマスク30aの境界30bに対応して形成されることにより、マスクフレーム50は、それぞれのサブマスク30aからの引っ張り力に対する抵抗力を効率よく増すことができる。
【0055】
このように変形例6では、蒸着マスク30が複数のサブマスク30aで構成される場合であってもそれぞれのサブマスクからの引っ張り力による変形が生じにくいマスクフレームが提供され得る。
【0056】
2.7 変形例7
前述した実施形態では、凹部54には、柱リブ54aと、筋交リブ54bとが形成されるとされている。凹部54に形成されるリブの構成は適宜に変更され得る。
【0057】
図13は、接合面の側から見た変形例7のマスクアセンブリの第1の構成を示す平面図である。第1の構成では、凹部54には、柱リブ54aと、筋交リブ54bに加えて第3のリブとしての梁リブ54eが形成される。梁リブ54eは、柱リブ54aと直交するように形成されるリブである。梁リブ54eが形成されることによって、マスクフレーム50は、蒸着マスク30からの引っ張り力に対するさらに強い抵抗力を得ることができる。図13では、フレーム本体51の上部にだけ梁リブ54eが形成されている。梁リブ54eは、フレーム本体51の下部、側面に形成されてもよい。
【0058】
図14は、接合面の側から見た変形例7のマスクアセンブリの第2の構成を示す平面図である。第2の構成では、凹部54には、柱リブ54aと、筋交リブ54bに加えて筋交リブ54bと交差する第4のリブとしての筋交リブ54fが形成される。筋交リブ54fが形成されることでも、マスクフレーム50は、蒸着マスク30からの引っ張り力に対するさらに強い抵抗力を得ることができる。図14では、フレーム本体51の上部にだけ筋交リブ54fが形成されている。筋交リブ54fは、フレーム本体51の下部、側面に形成されてもよい。
【0059】
このような変形例7で示されるように、凹部54に形成されるリブの構造は種々の変形が可能である。つまり、リブの構造の自由度は高い。
【0060】
3.その他の変形例
前述した実施形態及び変形例では、フレーム本体51は一体に成型されることが前提となっている。しかしながら、フレーム本体51は、複数のフレーム材を組み合わせることによって形成されてもよい。例えば、フレーム本体51は、フレーム本体51の上部を構成する上部フレーム材と、下部を構成する下部フレーム材と、側面を構成する側面フレーム材とを組み合わせることによって形成されてもよい。この場合、リブ構造を含む凹部は、それぞれのフレーム材に対して個別に形成され得る。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0062】
10…マスクアセンブリ、30…蒸着マスク、30a…サブマスク、31…開口、32…溶接スポット、50…マスクフレーム、51…フレーム本体、52…支持用穴、53…傾斜面、54…凹部、54a…柱リブ、54b…筋交リブ、54d…防汚板、54e…梁リブ、54f…筋交リブ、55…補強部材、70…蒸着源、71…蒸気。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14